植物由来のエラスチン結合タンパク質リガンドおよびその使用方法
【課題】新規な植物由来のエラスチン様ペプチドおよびそのペプチド模倣薬の提供。
【解決手段】合成結合型セキスタペプチドはエラスチン受容体の機能的リガンドとして作用し、弾性線維形成を刺激することが可能である。この新規な植物由来のペプチドは、ペプチドを含むGXXPGの代替になる。新規な植物由来のペプチドまたはそのペプチド模倣薬を含む治療用組成物についても説明し、この治療用組成物は、弾性線維形成および毛細血管拡張を刺激する上で有用である。新規な植物由来のペプチドまたはそのペプチド模倣薬を含有する。この治療用組成物は、他の治療薬と組み合わせることができる。
【解決手段】合成結合型セキスタペプチドはエラスチン受容体の機能的リガンドとして作用し、弾性線維形成を刺激することが可能である。この新規な植物由来のペプチドは、ペプチドを含むGXXPGの代替になる。新規な植物由来のペプチドまたはそのペプチド模倣薬を含む治療用組成物についても説明し、この治療用組成物は、弾性線維形成および毛細血管拡張を刺激する上で有用である。新規な植物由来のペプチドまたはそのペプチド模倣薬を含有する。この治療用組成物は、他の治療薬と組み合わせることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2005年4月15日付け出願済み米国仮特許出願第60/671,557号および2005年11月17日付け出願済み米国仮特許出願第60/737,586号(双方ともこの参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする)に基づく利益を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
エラスチンは、動脈、血管、皮膚、腱、弾性靱帯、腹壁、及び肺といった組織の弾性線維に存在する非結晶タンパク質である。コラーゲンなど他の線維性組織と異なり、エラスチンは元の長さと比べ150パーセント以上も伸張でき、またすばやく元のサイズおよび形状に戻れる点で独特である。このエラスチンの特性は、例えば血流、呼吸、曲げにより伸張した後、元の形態に戻れる能力を組織にもたらす。コラーゲンタンパク質と同様、エラスチンは、約30%のグリシンアミノ酸残基を含み、プロリンを多く含む。エラスチンは、ヒドロキシプロリンやヒドロキシリジンをほとんど含まない点でコラーゲンと異なる。エラスチンは、アラニンを非常に高い含有量で有し、2つの独特なアミノ酸であるイソデスモシンおよびデスモシンも含む。これらのアミノ酸は、エラスチンが伸張後、元の形状に戻る能力をもたらしていると考えられている。
【0003】
エラスチンの欠乏、または皮膚内の弾性線維に影響する遺伝的異常は、コステロ症候群、皮膚弛緩症、及び弾性線維性仮性黄色腫などで立証されているように早期老化につながり、これらの疾患から来る小児(十代初期まで)の皮膚の皺(しわ)や襞(ひだ)として最も顕著に現れる。これらの疾患が皮膚の弾性線維だけに影響を及ぼすと考えると、老化した皮膚におけるしわの形成は、皮膚内の弾性線維の損傷または損失による可能性が高い。残念なことに、真皮線維芽細胞は、思春期の終わりまでには(弾性線維の主成分である)エラスチン生成能力を失ってしまう。したがって、それ以降、成人の真皮線維芽細胞は皮膚内の損傷した弾性線維を修復または交換することができず、本質的にしわの形成は免れない。
【0004】
タンパク質モチーフVGVAPG(配列ID番号1)は、これまで、細胞表面のエラスチン受容体との相互作用を通じ、単球、真皮線維芽細胞、および平滑筋細胞の増殖/遊走を刺激することが示されている。BA4抗体により認識される他のGXXPG(配列ID番号2)配列も、エラスチン受容体のリガンドとして知られている。より近年には、ウシ項靱帯のタンパク質分解で解放され、且つエラスチン受容体リガンド配列(GXXPG)(配列ID番号2)を含むエラスチンペプチドが、このエラスチン受容体と相互作用して真皮線維芽細胞における弾性線維形成を誘発することも示されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
ウシ由来の組織に伴う懸念を考慮すると、真皮線維芽細胞で弾性線維形成を誘発する可能性のあるペプチドを含んだGXXPG(配列ID番号2)の代替源は有用である。本発明の実施形態は、植物由来のエラスチン様タンパク質と、それらの配列と類似した合成ペプチドとの分解生成物に関連するものであり、前記植物由来のエラスチン様タンパク質は、植物に見出され、エラスチン受容体と相互作用し、弾性線維形成を刺激すると見られる。一部の実施形態において、この植物由来のエラスチン様タンパク質は、米ぬかから得られる。
【0006】
本発明は、エラスチンの沈着を促進し、または弾性線維形成を刺激すると見られるペプチドも有する。一実施形態において、本発明のペプチドは弾性線維形成を刺激する。一実施形態において、このペプチドは合成セキスタペプチド(sextapeptide)である。別の実施形態において、このペプチドは合成結合型セキスタペプチドである。
【0007】
本発明の一実施形態において、前記セキスタペプチドは配列X1−X2−X3−X4−X5−X6(配列ID番号3)を有し、ここでX1はVまたはI、X2はG、X3はAまたはL、X4はMまたはS、X5はP、そしてX6はGである。本発明の別の一実施形態において、結合型セキスタペプチドは、1若しくはそれ以上の結合アミノ酸残基を有する態様で提供され、その結合残基が2つのセキスタペプチド化合物を結合し、各セキスタペプチドが配列X1−X2−X3−X4−X5−X6(配列ID番号3)を有し、ここでX1はVまたはIで、X2はGで、X3はAまたはLで、X4はMまたはSで、X5はPで、X6はGである。一実施形態において、本発明のセキスタペプチドはVGAMPG(配列ID番号4)、VGLSPG(配列ID番号5)、IGAMPG(配列ID番号6)、またはIGLSPG(配列ID番号7)を有する。一実施形態において、本発明の結合型セキスタペプチド(またはセキスタペプチド二量体)は、VGAMPGAAAAAVGAMPG(配列ID番号8)、VGLSPGAAAAAVGLSPG(配列ID番号9)、VGVAPGAAAAAVGVAPG(配列ID番号10)、IGAMPGAAAAAIGAMPG(配列ID番号11)、またはIGLSPGAAAAAIGLSPG(配列ID番号12)を有する。
【0008】
別の実施形態において、セキスタペプチドは、配列IGVAPG(配列ID番号13)を有する態様で提供される。一実施形態において、結合型セキスタペプチドは、配列IGVAPGAAAAAIGVAPG(配列ID番号14)を有する態様で提供される。本発明の別の結合型セキスタペプチドは、配列IGVAPG(配列ID番号13)を有しリンカーで結合された2つのセキスタペプチドの配列を有する。
【0009】
本発明のさらに別の実施形態において、前記結合部分は、エラスチン受容体と相互作用して弾性線維形成を誘発する能力をセキスタペプチド化合物が保持する限り、前記セキスタペプチドの結合に適すものとして当業者に知られたいかなる部分であってもよい。前記結合部分は、例えば(これに限定されるものではないが)少なくとも1つのアラニンまたは他の任意のアミノ酸、二硫化結合、カルボニル部分、炭化水素部分を有するものであってよく、これらは任意選択で1若しくはそれ以上の利用可能な炭素原子において低級アルキル置換基と置換される。この結合部分は、リジン残基またはリジンアミド、すなわちカルボキシル基がアミド部分−CONHに変換されたリジン残基であれば最適である。
【0010】
本発明は、上述した任意の合成ペプチドの非ペプチド模倣薬または部分的なペプチド模倣薬も提供する。
【0011】
また、化学的に分解された植物の製剤または抽出物を含有する組成物も提供する。一実施形態において、この化学的に分解された植物抽出物はデスモシンを含んだエラスチン様ペプチドを含有する。デスモシンはエラスチンに特徴的な架橋結合アミノ酸であり、植物由来のタンパク質においては報告例が皆無である。一部の実施形態において、前記化学的に分解された植物抽出物は、化学的に分解された米ぬか抽出物である。別の実施形態では、前記化学的に分解された植物抽出物は、弾性線維形成を誘発または刺激する。さらに別の実施形態において、本発明は、米ぬかから得られるエラスチン様タンパク質など植物由来のエラスチン様タンパク質を含有する製剤を有する。
【0012】
本発明は、前記セキスタペプチドと、結合型セキスタペプチドと、それらのペプチド模倣薬と、本発明の化学的に分解された植物抽出物とを含有する薬学的組成物をさらに提供する。この薬学的組成物は、治療有効量で提供される。一部の実施形態において、前記治療有効量は、弾性線維形成を刺激する量である。さらに別の実施形態において、この治療有効量は、真皮線維芽細胞の増殖と、皮膚または組織の領域への真皮線維芽細胞の遊走とを刺激する量である。他の実施形態によれば、この治療有効量は、組織内で弾性線維形成が増加した外観をもたらす上で十分な量である。
【0013】
本発明では、本発明の組成物を使用する方法も提供する。一実施形態によれば、本発明の組成物を使用すると、組織内で弾性線維形成が増加した外観をもたらすことができる。別の実施形態によれば、本発明の組成物を使用すると、弾性線維形成を刺激することができる。
【0014】
本発明は、弾性線維形成を刺激する方法を有し、当該方法は本発明の組成物を治療有効量投与する工程を有する。本発明の組成物を使用すると、例えば顔面のしわや老化した皮膚の皮膚線条を取り除くため、皮膚の外観を改善することができる。一実施形態によれば、本発明は、皮膚の外観を改善する方法を有し、当該方法は、真皮線維芽細胞の増殖および遊走と、弾性線維形成とを刺激する上で十分な量の本発明の薬学的組成物を皮膚に適用する工程を有し、これにより当該皮膚内でエラスチン沈着が促進されて皮膚の弾性および色調が改善される。さらに、本発明の組成物は、顔面その他腕部、脚部、胸部、および頚部を含む身体部分の緩み弛んだ肌を引き締め、しわが減少した外観を与える。本発明の化合物の他の使用方法としては、新生内膜肥厚および歯の弛緩(歯肉炎)を治療するため、それぞれ平滑筋細胞および歯肉線維芽細胞を刺激して、それぞれエラスチンおよびフィブリリン(オキシタラン線維)を生成させるものなどがある。
【0015】
さらに、本組成物を使用すると、創傷治癒を促進して、皮膚肥厚性瘢痕を防止および治療することができる。これを受け、本発明の別の実施形態には、創傷治癒を促進し瘢痕化を軽減する方法が含まれ、この方法は、傷害部位でエラスチン沈着を刺激する上で十分な量の本発明の薬学的組成物を創傷に適用する工程を有し、その場合、前記エラスチンが損傷組織をつなぎ合わせて組織の弾性および色調を改善し瘢痕化を軽減する。
【0016】
本発明の組成物は、化粧目的であっても治療目的であってもよい。例えば、本発明の組成物は、心筋梗塞後の瘢痕を治療する別の実施形態に従って使用することができる。この実施形態によれば、本発明は心筋梗塞後の瘢痕を治療する方法を含み、この方法は、当該心筋梗塞後の瘢痕においてエラスチン沈着を刺激する上で十分な量の本発明の薬学的組成物を心筋梗塞後の瘢痕に適用する工程を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、44歳の女性から得られたヒト真皮線維芽細胞を、可溶性または不溶性の米ぬか(<3,000ダルトン)の存在下または不在下で7日間維持した一次培養物である。細胞は、抗トロポエラスチン抗体およびフルオレセイン結合二次抗体(GAR−FITC)で固定および免疫染色した。パネルA:対照。パネルB:米抽出物の可溶性分画。パネルC:米抽出物の不溶性分画。
【図2】図2は、38歳および44歳の女性から得られたヒト真皮線維芽細胞を、VGVAPG(配列ID番号1)(5μg/mL)、EBPL−1(5μg/mL)、EBPL−2(5μg/mL)、およびEBPL−3(5μg/mL)の存在下または不在下で7日間維持した一次培養物である。細胞は、抗トロポエラスチン抗体およびフルオレセイン結合二次抗体(GAR−FITC)で固定および免疫染色した。各条件について、代表的な顕微鏡写真を2枚ずつ示している。
【図3】図3は、真皮線維芽細胞の培養物中で新たに沈着した不溶性エラスチンに[3H]−バリンを加えた場合の定量的評価を示したもので、この培養物は、GXXPG(配列ID番号2)を含んだペプチド単独で、また銅、マンガン、および鉄の塩と組み合わせて、6日間維持した。
【図4】図4は、化学的に分解された米ぬか(chemically digested rice bran:CDRB)の存在下および不在下における、7日齢の真皮線維芽細胞の培養物でのエラスチン沈着である。各条件について、代表的な顕微鏡写真を2枚ずつ示している。
【図5】図5は、特異的なトロポエラスチンプローブを使ったRT−PCRの結果であり、血清を含まない培地および10%のウシ胎仔血清(fetal bovine serum:FBS)を添加した培地で維持した成人の真皮線維芽細胞において、EBPL−2およびVGVAPG(配列ID番号1)がエラスチン遺伝子の転写を刺激したことを示している。
【図6】(A)図6Aは、7日齢の培養物を抗エラスチン抗体で免疫染色したものに形態計測解析を行った結果であり、EBPL−2およびVGVAPG(配列ID番号1)で処理した成人の真皮線維芽細胞が、免疫検出可能なトロポエラスチンの定量的形態計測解析による評価において、対照培養物より最大710%および457%多い弾性線維をそれぞれ生成したことを示している。EBPL−2で処理した線維芽細胞は、ProK−60で誘発された最大レベルより最大141%多いトロポエラスチンを生成した。(B)図6Bは、ProK−60(25μg/mL)、EBPL−2(25μg/mL)、およびVGVAPG(配列ID番号1)(10μg/mL)の存在下および不在下で、通常の真皮線維芽細胞(55歳の男性から得られた)を7日間維持した培養物に含まれる免疫検出可能な弾性線維(緑色)を示す代表的な顕微鏡写真である。
【図7】図7は、独立した3つの実験の結果を示したものであり、通常のヒト皮膚から得られたヒト線維芽細胞の密集した培養物を[3H]−バリンで3日間代謝的に標識したのち、新たに沈着した(放射性)NaOH不溶性エラスチンの含有量を評価した。統計分析によると、EBPL−2(10μg/mL)およびアセチル化したEBPL−2(Ace−EBPL−2、10μg/mL)で刺激した成人の真皮線維芽細胞では、未処理の線維芽細胞と比べ、放射活性物質で標識した不溶性エラスチンがそれぞれ36%および51%多く沈着したことが示された。アミド化したEBPL−2は、不溶性エラスチンの沈着を促進しなかった。
【図8】図8は、独立した3つの実験の結果を示したものであり、通常のヒト皮膚から得られたヒト線維芽細胞の密集した培養物を[3H]−バリンで3日間代謝的に標識したのち、新たに沈着した(放射性)NaOH不溶性エラスチンの含有量を評価した。統計分析によると、VGVAPG(配列ID番号1)およびEBPL−2の双方が、用量に依存する態様で、正味の不溶性エラスチン沈着を促進したことが示され、またEBPL−2(対照値より最大175%増)の効果が、VGVAPG(配列ID番号1)(対照値より最大109%増)で誘発された効果を有意に超えたことも示された。
【図9】図9は、通常のヒト皮膚線維芽細胞の7日齢の培養物に沈着した弾性線維を免疫染色(緑色)したものを示す代表的な顕微鏡写真である。シュウ酸(D)で順次分解された米ぬか抽出物は、対照培養物(A)と比べ、成人真皮線維芽細胞の7日齢培養物における不溶性(B)および可溶性(C)の米ぬかの結果を合わせたものより多くのトロポエラスチン生成を誘発した。
【図10】図10は、アミラーゼで分解した可溶性および不溶性の米ぬか製剤が、どちらもヒトトロポエラスチン用に構築された抗体に反応したタンパク質を含んでいることを示す図である。また、前記可溶性米ぬか製剤は、トロポエラスチンに検出される独特のAKAAAKAAAKA(配列ID番号15)ドメインを伴うペプチドも含んでいる。
【図11】図11は、CNBrによる米ぬか製剤の分解生成物の試料が、ヒト70−kDaトロポエラスチンおよびその分解生成物に類似した免疫反応性のあるタンパク質を含むことを実証している、抗トロポエラスチン抗体によるウェスタンブロッティングである。1:可溶性米ぬかの臭化シアンによる分解生成物。2:不溶性米ぬかの臭化シアンによる分解生成物。3:エラスチンを生成するヒト線維芽細胞の培養物からの抽出物。
【図12】図12は、10日齢のヒト(44歳女性)皮膚外植体の器官培養物をモバットペンタクローム(Movat pentachrome)染色したものの代表的な顕微鏡写真である。EBPL−2で処理した培養物は、多能性幹細胞を含む表皮基底層から遊走してきた細胞(上方パネル)と、より深部の真皮領域に局在する筋線維芽細胞(下方パネル)とにより生成された弾性線維をより多く含有していた(黒い染色部)。
【図13】図13は、EBPL−2での処理により、既存の真皮毛細血管の拡張が誘発され、それら毛細血管の外層に位置する細胞である周皮細胞により新しい弾性線維の生成が刺激されたことを実証している複数の顕微鏡写真である。
【図14】図14は、ヒト心臓の間質細胞の7日齢培養物の代表的な顕微鏡写真である。これらの顕微鏡写真は、合成EBPLペプチドが、ヒトの心臓から単離された間質細胞による弾性線維の生成を著しく増加させたことを実証している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本組成物および本方法を説明する前に、本明細書で説明する特定の分子、組成、方法論、またはプロトコールは、場合により異なりうるため、これらに本発明が限定されるものではないことを理解すべきである。また言うまでもなく、本説明で使用する用語は特定の変形例または実施形態のみを説明することを目的としており、添付の請求項だけに唯一限定される本発明の範囲を限定することを意図したものではない。
【0019】
また、本明細書および添付の請求項において単数形扱いしている名称は、文脈により別段の断わりを明示しない限り、複数形も包含する。したがって、例えば「細胞」と言及した場合は、当業者に知られている1若しくはそれ以上の細胞およびそれと同等のものなどを指す。別段の定義がない限り、本明細書で使用するすべての科学技術用語は、当業者に一般に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書で説明する方法および材料と同様または同等のものは、すべて本発明の実施形態の実施または試験に使用できるが、以下では好適な方法、装置、および材料について説明する。この明細書で言及するすべての出版物は、参照により本明細書に組み込まれるものとする。本明細書のいかなる内容も、先行発明によれば本発明がこのような開示に先行する資格がないと認めるものであると解釈されるべきではない。
【0020】
本明細書における用語「約」は、扱われている数値の±10%を意味する。したがって、「約」50%とは45%〜55%の範囲を意味する。
【0021】
本明細書における用語「化粧品」とは、外観的な肉体美を維持し、回復し、もたらし、または強化し、あるいは美しさまたは若々しさ(具体的には皮膚組織の外観に関する)を強化すると見られる美化物質または製剤をいう。
【0022】
用語「改善(する)」は、本発明を提供、適用、または投与する組織の外観、形態、特徴、および/または物理属性を、本発明が変化させることを伝えるため使用される。この形態の変化は、皮膚の外観がより美しくなる、皮膚の軟らかさが増す、皮膚の張りが増す、皮膚の質感が向上する、皮膚の弾性が増す、しわの形成が軽減される、皮膚における内因性エラスチン生成が増す、皮膚が引き締まり弾力が増す、のうちのいずれか1つまたは組み合わせにより示されることが可能である。
【0023】
用語「模倣薬」および「ペプチド模倣薬」は本明細書において同義的に使われ、全般的に、選択された天然ペプチドまたは天然タンパク質の機能ドメイン(結合モチーフや活性部位)の三次結合構造または活性を模倣するペプチド、部分ペプチド、または非ペプチド分子をいう。これらのペプチド模倣薬としては、以下にさらに説明するように、組み換え技術によりまたは化学的に修飾したペプチドや、小分子薬剤の模倣薬といった非ペプチド性薬剤などがある。
【0024】
ペプチド「二量体」などで使われる用語「二量体」とは、ペプチド鎖が2本結合している化合物をいい、一般に(そうでない場合もあるが)これら2本のペプチド鎖は同一のもので、各鎖の末端に共有結合した結合部分(linking moiety)を介して結合している。
【0025】
本明細書における用語「薬学的に許容される」、「生理学的に耐容される」、およびこれらの文法的変形形態は、組成物、基剤、希釈剤、および試薬を差していう場合、同義的に使われ、吐き気、めまい、発疹、胃の不快感など望ましくない生理学的効果を生じることなく、当該物質を哺乳類に投与できることを表す。好適な実施形態において、治療用の組成物は、治療目的でヒト患者に投与した場合に免疫原性がない。
【0026】
「提供する」とは、治療薬と関連して使用する場合、治療薬を標的組織の内部または表面に直接投与すること、または治療薬を投与することにより当該治療薬に標的組織へ望ましい影響を与えさせることを意味する。このため、本明細書における用語「提供する」は、1若しくはそれ以上のマンガン塩を含有する組成物と関連して使用する場合、(これに限定されるものではないが、)1若しくはそれ以上の2価マンガン系化合物(manganese based compound)、3価鉄系化合物(iron based compound)、またはこれらの塩を含有する組成物を標的組織に提供すること、静脈注射などにより組成物を患者に全身的に提供することにより治療薬を標的組織に到達させること、また組成物をそのコード配列の形態で(いわゆる遺伝子治療技術により)標的組織に提供すること、を包含することができる。
【0027】
別段の断りがない限り、用語「皮膚」は身体の外皮または被膜を意味し、真皮および表皮から成り、皮下組織上にある。
【0028】
本明細書における用語「治療薬」とは、望ましくない患者の状態または疾患を治療、改善、防止し、またはそれに対抗するため利用される薬剤を意味する。本発明の実施形態は、哺乳類組織の機能、外観、弾性、および/またはエラスチン含有量の改善も一部対象としている。皮膚に適用した場合、その改善度は弾性、張り、色調、外観、しわの度合い、および若々しさにより測定される。平滑筋細胞または血管に適用した場合、この改善度は弾性の向上(エラスチン/弾性線維の合成および沈着)および新生内膜肥厚の軽減(平滑筋細胞の増殖)により測定される。本明細書で使用される方法は、予防的使用と、既存疾患の治療における治癒的使用とを意図したものである。
【0029】
本明細書における用語「治療有効量」または「有効量」は、同義的に使われ、1若しくはそれ以上の植物由来のペプチドを含有するものなどの、本発明の治療薬組成物の実施形態の量をいう。例えば、植物由来のペプチドを含有する組成物の治療有効量は、前記組成物を投与する個体(個人)において望ましい効果をもたらすよう、すなわちエラスチン生成、コラーゲン生成、細胞増殖、または外観の改善、または組織の弾性改善を効果的に促進するよう計算された所定の量である。そのような治療措置を必要とするのは、しわ、日焼けにより損傷した組織、または瘢痕組織のある組織である。
【0030】
用語「組織」とは、同様に特化した細胞の任意の集合体であって、特定機能を達成するため一体化しているものをいう。本明細書における「組織」とは、別段の断りがない限り、必要な構造および/または機能の一部としてエラスチンを含む組織をいう。例えば、コラーゲン細線維やエラスチン細線維などからなる結合組織は、本明細書における「組織」の定義を満たす。また、エラスチンは、血管、静脈、および動脈の特有の粘弾性に関し、これらの適切な機能に関与すると見られている。このため「組織」には、(これに限定されるものではないが、)皮膚線維芽細胞や、ヒト大動脈の平滑筋細胞などの平滑筋細胞が含まれる。
【0031】
用語「単位用量」は、本発明の治療薬組成物に関して使用する場合、対象用の単一用量として適した物理的に不連続な単位をいい、各単位は、望ましい治療効果をもたらすよう計算された、必要な希釈剤すなわち賦形剤または基剤を伴う所定量の活性物質を含む。
【0032】
簡潔化および例示的目的のため、本発明の原理については、その実施形態を主に参照して説明する。また、以下の説明では、本発明が完全に理解されるよう具体的な詳細事項を多数記載する。ただし当然のことながら、当業者であれば、本発明がこれら具体的な詳細事項を制限することなく実施可能であることは理解されるであろう。それ以外の場合、不要に本発明の要点を不明確化しないよう、周知の方法および構造については詳しく説明しない。
【0033】
一実施形態によれば、本発明の組成物は、本明細書で説明するようにセキスタペプチドを含有する。別の一実施形態によれば、本発明の組成物は、本明細書で説明するように結合型セキスタペプチドを含有する。あるいは、本発明の組成物は、本発明のセキスタペプチドまたは結合型セキスタペプチドのペプチド模倣薬を含有する。本発明の他の実施形態は、本明細書で説明するように、化学的に分解された植物抽出物を含有する。
【0034】
本発明の組成物は、線維芽細胞と基質(マトリックス)を支持する他の細胞とによる1若しくはそれ以上の細胞外マトリックス成分の合成を刺激する。例えば、本発明の組成物は、(これに限定されるものではないが、)エラスチンの主要な足場要素であるフィブリリンI、コラーゲンタイプI、II、およびIII、フィブロネクチン、コンドロイチン硫酸を含んだグリコサミノグリカン、エラスチン、およびリシルオキシダーゼなどの細胞外マトリックス成分の合成を刺激することができる。また、本発明の組成物は、細胞増殖と、平滑筋細胞におけるエラスチン生成とを刺激することもできる。
【0035】
本明細書でさらに説明するように、本発明の組成物は、組織内で弾性線維形成が増加した外観をもたらすことができる。本発明の一実施形態には、皮膚の外観の改善または向上に有用な、上述の合成セキスタペプチドまたはそのペプチド模倣薬、あるいは化学的に分解された植物抽出物を含有する治療薬組成物および化粧品製剤が含まれる。さらに本発明の組成物は、例えば皮膚で新しい結合組織の合成を誘発することにより、顔面のしわを改善する。これらの組成物は、別の実施形態によれば、皮膚の結合組織タンパク質を回復する上で使用される。
【0036】
本発明の一実施形態において、組成物は、皮膚における新しい弾性線維生成を促進するスキンケア化粧品または化粧品製剤として配合される。他の適切な製剤には、顔面のしわを改善する線維芽細胞の注射剤などが含まれる。患者の真皮線維芽細胞は生体外(インビトロ)で培養され、しわが見られる部位へ注射により再導入される。
【0037】
本発明には、本発明の組成物を使用する方法が含まれる。一実施形態において、真皮線維芽細胞の増殖および遊走と、弾性線維形成とを刺激する方法が提供され、この方法は、弾性線維形成の増した外観をもたらす上で十分な量の本発明の組成物を投与する工程を有する。別の実施形態では、弾性線維形成を刺激する上で十分な量の本発明の組成物を投与する方法が提供される。
【0038】
さらに別の実施形態は、本発明の組成物を治療有効量投与することにより、皮膚のしわやひだなどの早期老化を治療する方法を含む。さらに別の実施形態には、本発明の組成物を治療有効量投与することにより、(これに限定されるものではないが、)コステロ症候群、皮膚弛緩症、弾性線維性仮性黄色腫など皮膚内の弾性線維に影響を及ぼすエラスチン異常または遺伝的異常を治療する方法が含まれる。
【0039】
本明細書で説明するように、発明者らは、本発明の組成物が、ヒトの心臓から単離された間質細胞の培養において弾性線維形成を刺激することを示した。したがって、本発明はさらに心臓血管障害の治療において当該組成物を使用する方法を含み、これは弾性線維形成の刺激からもたらされる。例えば、本発明は、心筋梗塞後に形成された瘢痕で弾性線維の形成を刺激するため本発明の組成物を使用する方法を有する。心筋梗塞後の瘢痕がある患者の大半では、固く弾性のないコラーゲン線維が大部分を占める瘢痕が形成される。心筋梗塞後の心臓で間質細胞を局所的に刺激して弾性線維が生成されるようにすると、コラーゲン線維形成の危険性が軽減され、より強靭で耐久性のある瘢痕が形成されて、収縮性のある心筋に適合できる可能性が高まる。本発明の組成物は、低酸素の心臓組織に注入しても、局所的な酸素レベルには影響しない。そのため、本発明は、何百万もの同種異系細胞(エラスチン遺伝子を導入したCHO細胞など)が注入され、それらが生き残った心臓細胞と酸素を奪い合うことにより全体的に心筋梗塞後の心臓治癒が遅れてしまう他の実験プロトコールに対し、有利である。
【0040】
エラスチン
エラスチンは、結合組織の線維細胞から細胞間ネットワークへと分泌される。真皮の結合組織において、エラスチン線維は細くしなやかである。真皮に含まれるエラスチンは、乾燥重量で5%である。エラスチンは大きな繊維性タンパク質で、バネに似たらせん状フィラメントから形成される。これらのらせん状フィラメントは、伸張可能なペプチド鎖から成る。これらのペプチド鎖は、非常に特異的なアミノ酸、すなわちデスモシンおよびイソデスモシンがペプチド鎖間に結合することで互いに連結しあい、分子に網状の態様をもたらす。この架橋結合のおかげでこれらの分子は伸張してもまた元の形状に戻り、これが分子の弾性には不可欠である。
【0041】
エラスチンの生合成は胎児期に始まり成人期に終わる。その後、新しいエラスチンは生成されない。すると、弾性線維は老化に伴って次第に変質し、個々の断片に分離していく。皮膚は次第に弾性を失い、その結果しわが生じていく。弾性組織へのこの損傷は避けられないもので、自然に起こる(生理学的)老化過程の一部である。この過程は比較的早期に始まるが、40歳以降は著しく加速される。
【0042】
創傷治癒は複雑な生体過程であり、多種の細胞、多種のサイトカイン、細胞外マトリックス(extracellular matrix:ECM)、そして数多くの相互作用が関与する。大半の創傷は、1〜2週間ですばやく効率的に治癒するが、その結果は美的にも機能的にも完璧とはいえない。創傷治癒における創傷の収縮および瘢痕の形成は、現在避けることのできない結末である。瘢痕組織は通常の皮膚と比べ柔軟性がなく美的に外観を損ない、また創傷の収縮は関節障害につながる。瘢痕にはエラスチンが欠乏しており、不完全に再構成されたコラーゲンマトリックスから成り、その構造は無傷の真皮内に見られる機械的に効率のよいバスケット織り式の網構造ではなく、並行した束構造になっている。
【0043】
創傷の治癒時には、創傷の縁部から内側へ向かって新しい層状の表皮が再構築される。マトリックスの形成および再構築は、上皮の再形成と同時に始まる。以後数か月にわたり変化し続けるマトリックスにおいては、フィブロネクチンが徐々に排除され、残る瘢痕に引張強度を付与するコラーゲンが蓄積していく。組織に弾性をもたらすエラスチン線維は、ヒトの瘢痕では、傷害の数年後まで検出されない。
【0044】
これまで、創傷治癒を促進し瘢痕化を抑えるため、多数の方法が提案および試験されてきているが、依然として方法および組成物の改善が必要とされている。本発明の組成物で治療可能な創傷には、(これに限定されるものではないが、)皮膚創傷、角膜創傷、上皮層で内面を覆われた中空器官の損傷、および心筋梗塞後の心臓が含まれる。治療に適した創傷としては、熱傷、擦過傷、切り傷、褥瘡(床擦れ)、治癒しない静脈瘤性潰瘍および糖尿病性潰瘍、さらに切開や皮膚移植などの外科的処置で生じた創傷などの外傷が含まれる。一実施形態によれば、本発明の組成物、例えば化学的に分解された植物抽出物は、感染した創傷および潰瘍を治療する上で使用でき、その際、死にゆく細胞および細菌から放出されるタンパク質分解酵素が製剤内で更なるペプチド開裂を促進し、EBPL様ドメインを含んだより小さい弾性線維形成ペプチドを放出できるようになる。
【0045】
本発明の組成物によって傷害部位でエラスチン沈着を刺激すると、創傷治癒の促進に役立ち、同時に瘢痕化が抑えられる。初期、エラスチンの沈着が刺激されて損傷した組織がつなぎ合わされる。一部の実施形態によれば、エラスチン合成を刺激する本発明の組成物は、さらに、損傷組織の治癒を促進する線維芽細胞、内皮細胞、および炎症細胞の走化性誘引物質として作用する。瘢痕組織ではエラスチンが欠乏しており、エラスチンは無傷の皮膚にとって重要な成分であるため、傷害部位でエラスチンが合成されると瘢痕化も抑えられる。エラスチンがより多く合成されてマトリックス内に分泌されると、一般に、治癒過程に関与する細胞にとっても好適な環境がもたらされ、創傷治癒過程がさらに促進される。
【0046】
一実施形態によれば、本発明の組成物は、治療領域への線維芽細胞の遊走を刺激する。別の実施形態によれば、本発明の組成物は、線維芽細胞上のエラスチン受容体と相互作用してエラスチンの分泌(すなわち弾性線維形成)を刺激する。一実施形態において、本発明の組成物は創傷に適用され、長期、すなわち治癒過程の全期にわたり、または少なくとも新しい組織により創傷が閉じるまで、創傷と接触を保たれる。
【0047】
エラスチンは、ゴムに例えられる細形構造を特徴とする。エラスチンは、皮膚に極めて重要な弾性および張りをもたらすタンパク質である。これが減少すると皮膚はたるみ始め、小じわ、ひだ、しわが現れ、また増えていく。本発明は、弾性線維形成の刺激剤として、セキスタペプチド化合物、結合型セキスタペプチド、これらのうち一方のペプチド模倣薬、または化学的に分解された米ぬかを有する組成物を提供する。一部の実施形態によれば、この弾性線維形成の刺激は、本発明の組成物がエラスチン受容体と相互作用して真皮線維芽細胞および他の支持細胞の増殖を刺激し、それらが弾性線維形成特性を必要とする皮膚領域に遊走するよう促進することにより起こる。そのような皮膚領域としては、(これに限定されるものではないが、)創傷、たるみ、および/またはしわのある皮膚、伸張された皮膚、UVその他放射線または環境による損傷を受けた皮膚などがある。本発明の組成物は、真皮線維芽細胞における弾性線維形成を誘発し、エラスチン受容体との相互作用により、細胞から細胞外マトリックスへの不溶性エラスチン線維分泌を増加させる。このように、本発明は、真皮内で弾性成分の損失を補う組成物および方法を提供する。
【0048】
皮膚の老化は、それが環境による損傷(放射線や汚染など)により加速されたものであろうとなかろうと、真皮層の劣化、すなわち線維芽細胞の減少、コラーゲンの減少、エラスチンの減少、および循環支援の低下を招く。その結果、通常範囲の皮膚の伸張および収縮でも容易に修復できない真皮損傷につながり、しわ及び/又はたるみが生じてしまう。本発明は、真皮線維芽細胞の増殖を刺激し、弾性線維形成特性を必要とする領域への、その真皮線維芽細胞の遊走を刺激する方法および組成物を提供する。一部の実施形態によれば、本発明の組成物は、線維芽細胞上のエラスチン受容体と相互作用してエラスチンの分泌を刺激する。促進されたエラスチン沈着により皮膚の弾性および色調が改善されて、放射線(例えば、これに限定されるものではないが紫外線照射)又はその他の環境による損傷の効果が軽減される。
【0049】
弾性線維形成ペプチドまたはそのペプチド模倣薬
本発明の一実施形態によれば、植物に見られるタンパク質配列に由来する、またはそれに基づいた新規なペプチドが提供される。一実施形態によれば、本発明の組成物は、弾性線維形成が増加した外観をもたらす。他の実施形態において、当該組成物は、弾性線維の形成および真皮線維芽細胞の遊走を刺激する。一実施形態において、このような刺激は、本発明の組成物とエラスチン受容体との相互作用の結果もたらされるものである。一実施形態では、合成セキスタペプチドが提供され、これがエラスチン受容体と結合して弾性線維形成を刺激する。本発明のペプチドは、本明細書では「エラスチン結合タンパク質リガンド」または「EBPL」(elastin binding protein ligand)とも呼ばれる。
【0050】
本発明の一実施形態において、前記セキスタペプチドは配列X1−X2−X3−X4−X5−X6(配列ID番号3)を有し、ここでX1はVまたはIで、X2はGで、X3はAまたはLで、X4はMまたはSで、X5はPで、X6はGである。一実施形態において、本発明のセキスタペプチドはVGAMPG(配列ID番号4)、VGLSPG(配列ID番号5)、IGAMPG(配列ID番号6)、またはIGLSPG(配列ID番号7)を有する。
【0051】
さらに別の実施形態では、結合型セキスタペプチド(またはセキスタペプチド二量体)が提供され、ここで、本発明の2つのセキスタペプチドが1若しくはそれ以上の付加的な結合アミノ酸残基(「結合部分」)と結合する。一実施形態によれば、前記合成結合型セキスタペプチドは配列X1−X2−X3−X4−X5−X6,−X7−X1−X2−X3−X4−X5−X6(配列ID番号16)を有し、ここでX7は結合部分で、X1はVおよびIから独立に選択され、X2はGで、X3はAおよびLから独立に選択され、X4はMおよびSから独立に選択され、X5はPで、X6はGである。結合型セキスタペプチドの前記結合部分は、セキスタペプチド化合物がエラスチン受容体と相互作用し弾性線維形成を誘発する能力を維持し続ける限り、セキスタペプチドの結合に適すものとして当業者に知られたいかなる部分であってもよい。前記結合部分は、例えば(これに限定されるものではないが)少なくとも1つのアラニンまたは他の任意のアミノ酸、二硫化結合、カルボニル部分、炭化水素部分から成るものであってよく、これらは任意選択で1若しくはそれ以上の利用可能な炭素原子において低級アルキル置換基と置換される。この結合部分は、リジン残基またはリジンアミド、すなわちカルボキシル基がアミド部分−CONHに変換されたリジン残基であれば最適である。
【0052】
本発明の組成物は、リンカーで結合された2つのセキスタペプチドが異なるセキスタペプチドである結合型セキスタペプチドも含有することができる。
【0053】
一実施形態において、本発明の結合型セキスタペプチドは、VGAMPGAAAAAVGAMPG(配列ID番号8)、VGLSPGAAAAAVGLSPG(配列ID番号9)、VGVAPGAAAAAVGVAPG(配列ID番号10)、IGAMPGAAAAAIGAMPG(配列ID番号11)、またはIGLSPGAAAAAIGLSPG(配列ID番号12)を有する。本発明は、配列IGVAPGAAAAAIGVAPG(配列ID番号14)を有する結合型セキスタペプチドも提供する。本発明の別の結合型セキスタペプチドは、配列IGVAPG(配列ID番号13)を有し上記のようにリンカーで結合された2つのセキスタペプチドの配列を有する。
【0054】
本発明は、上述した任意の合成ペプチドの非ペプチド模倣薬または部分的なペプチド模倣薬も提供する。本発明の別の態様によれば、エラスチン受容体に結合し、真皮線維芽細胞の遊走を刺激し、また線維芽細胞の弾性線維形成を刺激する化合物が提供される。この化合物は化学式X1−X2−X3−X4−X5−X6(配列ID番号17)を有し、ここでX1はVまたはIあるいはVまたはIの模倣薬、X2はGまたはGの模倣薬、X3はAまたはLあるいはAまたはLの模倣薬、X4はMまたはSあるいはMまたはSの模倣薬、X5はPまたはPの模倣薬、そしてX6はGまたはGの模倣薬である。別の実施形態において、この化合物は化学式X1−X2−X3−X4−X5−X6−X7(配列ID番号18)を有し、ここでX7はアラニンを有する1若しくはそれ以上の結合アミノ酸残基であり、その結合アミノ酸残基は2つのセキスタペプチド化合物を互いに結合し、各セキスタペプチドはX1−X2−X3−X4−X5−X6(配列ID番号17)を有し、X1はVまたはIあるいはVまたはIの模倣薬、X2はGまたはGの模倣薬、X3はAまたはLあるいはAまたはLの模倣薬、X4はMまたはSあるいはMまたはSの模倣薬、X5はPまたはPの模倣薬、そしてX6はGまたはGの模倣薬である。
【0055】
本発明のさらに別の実施形態は、GXXPGペプチドのペプチド模倣薬に関する。一実施形態において、本発明のペプチドはペプチド模倣薬を生成するよう修飾され、この修飾は遺伝的にコードされた20のアミノ酸(またはDアミノ酸)を伴う1若しくはそれ以上の天然側鎖を他の側鎖、例えばアルキル、低級アルキル、4員か5員か6員か7員かの環状アルキル、アミド、アミド低級アルキル、アミドジ(低級アルキル)、低級アルコキシ、ヒドロキシ(水酸基)、カルボキシ、およびこれらの低級エステル誘導体、さらに4員か5員か6員か7員かの複素環といった基で置換することにより行われる。例えば、プロリン残基の環サイズを5員から4員、6員、または7員に変更したプロリン類縁体を生成することができる。環状基は飽和または不飽和であってよく、不飽和の場合、芳香族または非芳香族であってよい。複素環基は、1若しくはそれ以上の窒素、酸素、および/または硫黄のヘテロ原子を含んでよい。そのような基の例としては、フラザニル、フリル、イミダゾリジニル、イミダゾリル、イミダゾリニル、イソチアゾリル、イソオキサゾリル、モルホリニル(モルホリノなど)、オキサゾリル、ピペラジニル(1−ピペラジニルなど)、ピペリジル(1−ピペリジル、ピペリジノなど)、ピラニル、ピラジニル、ピラゾリジニル、ピラゾリニル、ピラゾリル、ピリダジニル、ピリジル、ピリミジニル、ピロリジニル(1−ピロリジニルなど)、ピロリニル、ピロリル、チアジアゾリル、チアゾリル、チエニル、チオモルホリニル(チオモルホリノなど)、トリアゾリルなどがある。これらの複素環基は、置換されていることも置換されていないこともある。基が置換されている場合、その置換基はアルキル、アルコキシ、ハロゲン、酸素、置換フェニル、または非置換フェニルであってよい。ペプチド模倣薬は、リン酸化、スルホン化、ビオチン化、または他の部分の追加若しくは除去により化学修飾したアミノ酸残基を有してもよい。
【0056】
ペプチド模倣薬であって、対応する天然ペプチドと同じまたは同様な望ましい生物活性を伴うが、加水分解またはタンパク質分解に対する溶解性、安定性、および/または感受性については前記天然ペプチドより好適な活性を備えたペプチド模倣薬を構築する際は、種々の技術を利用できる。例えば、Morgan&Gainor、Ann.Rep.Med.Chem.24:243−252(1989)を参照。ある種のペプチド模倣薬化合物は、本発明のペプチドのアミノ酸配列に基づいたものである。ペプチド模倣薬化合物は、選択されたペプチドの3次元構造に基づく3次元構造(「ペプチドモチーフ」)を有した合成化合物であることが多い。このペプチドモチーフは、望ましい生物活性を備えた、すなわちPIF受容体に結合するペプチド模倣薬化合物を提供し、その場合その模倣薬化合物の結合活性は実質的に低下せず、当該模倣薬のモデルとなった天然ペプチドの活性と同じであるかそれより大きいことが多い。ペプチド模倣薬化合物は、細胞透過性の増加、親和性(アフィニティ)および/または結合力(アビディティ)の増加、生物学的半減期の延長など治療用途を広げる追加特性を有することができる。
【0057】
ペプチド模倣薬の設計戦略は、本技術で容易に利用可能である。例えば、Ripka&Rich、Curr.Op.Chem.Biol.2:441−452(1998);Hruby et al.,Curr.Op.Chem.Biol.1:114−119(1997);Hruby&Balse、Curr.Med.Chem.9:945−970(2000)を参照。ペプチド模倣薬の1分類は、一部または完全に非ペプチドでありながらペプチド骨格を原子ごとに模倣し、天然アミノ酸残基の側基の機能性を同様に模倣する側基を有する骨格である。いくつかのタイプの化学結合、例えばエステル結合、チオエステル結合、チオアミド結合、カルボニル還元結合、ジメチレン結合、ケトメチレン結合は、一般に耐プロテアーゼ性ペプチド模倣薬の構築でペプチド結合に代用できるものとして有用なことが当該技術分野で知られている。別の分類のペプチド模倣薬は、別のペプチドまたはタンパク質に結合するが必ずしも天然ペプチドの構造的模倣薬ではない小さな非ペプチド分子を有するものである。さらに別分類のペプチド模倣薬は、コンビナトリアルケミストリーおよび大規模な化学ライブラリの構築から生成されたものである。これらは一般に新規なテンプレートを有し、それらのテンプレートは構造的に天然ペプチドと無関係ではあるが、元のペプチドの「地形的」模倣薬として作用するよう非ペプチドの足場上に必要な官能基が配置されている(Ripka&Rich、1998、上記参照)。
【0058】
化学的に分解された米ぬか抽出物
一実施形態によれば、組織での弾性線維形成を刺激し、または刺激すると見られる化学的に分解された植物抽出物が提供される。一実施形態では、そのような植物抽出物は米ぬかから取得される。本明細書で説明する化学的に分解された米ぬか抽出物は、ヒトのトロポエラスチン用に構築された抗体パネルに免疫反応性があることがわかった。さらに、可溶性米ぬかおよび不溶性米ぬか双方の化学分解生成物には、独特の架橋結合アミノ酸であるデスモシンが含まれていた(それぞれ1742/mgのタンパク質および1638/mgのタンパク質)。これらの特性から、米ぬかに1若しくはそれ以上のエラスチン様ペプチドが存在すると示唆される。したがって、本発明は、薬学的組成物と、化粧品製剤と、化学的に分解された米ぬか製剤とを含むこのようなエラスチン様ペプチド製剤を有し、さらに本明細書で説明する疾患を治療するためこのような製剤を有する組成物を使用する方法を有する。
【0059】
薬学的組成物
本発明の実施形態において、本発明の組成物は薬学的組成物へと製剤される。例えば、一実施形態では、皮膚への刺激が少なく、かつ皮膚への活性成分(有効成分)送達に適した局所基剤が使用される。さらに、適切な局所基剤は、活性成分の抗酸化剤活性を抑制せず、ひいては例えば突発的および日常的な紫外線照射により起こるフリーラジカルの損傷から皮膚を保護する上で、組成物の効率を損なわないものでなければならない。さらに、このような基剤は、皮膚への長期の局所投与に適すよう純度が十分高く毒性が十分低くなければならず、細菌が混入していてはならない。
【0060】
本明細書で説明する本発明の組成物は、ヒトの皮膚への局所投与に適した薬学的に許容される適切な任意の基剤に導入することができる。したがって、この薬学的に許容される基剤は、ヒトへの投与に適すよう純度が十分で毒性が十分低くなければならず、この基剤の含有量は一般に最高99.99%まで可能で、通常は少なくとも組成物全体の約80%とされる。このように、用語「薬学的に許容される」は、ヒトに投与した際、分子的実体および組成物がアレルギーまたはそれと同様な有害反応を生成しないことをいう。本組成物に使用される薬学的に許容される基剤および添加剤は、本発明の組成物に適合したものである。
【0061】
本明細書で使用する一般的な組成物は、多種多様な物理形態で提供される。その例としては、(これに限定されるものではないが)液剤、ローション剤、クリーム剤、オイル剤、ゲル剤、スティック剤、スプレー剤、軟膏剤、バーム剤、パッチ剤、パスタ剤などがある。一般に、このような基剤システムは、液剤、クリーム剤、乳剤、ゲル剤、固形剤、およびエアロゾル剤として説明できる。
【0062】
一般に、適切な局所組成物の調製には溶剤が使用される。そのような溶剤は水溶性または有機ベースであってよく、いずれの場合でも、上記の活性成分を分散または溶解させた状態で含有していなければならず、また利用者に対し刺激性のものであってはならない。一般的な水溶液は水であるが、適切な有機溶剤としては、プロピレングリコール、バタリオングリコール(battalion glycol)、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセロール、1,2,4−ブタントリオール、ソルビトールエステル、1,2,6−ヘキサントリオール、エタノール、イソプロパノール、ブタンジオール、およびこれらの混合物などがある。溶剤は、0.1%〜99%範囲の量で組成物全体に含めることができ、この範囲は2.0%〜75%であることが好ましい。本発明の組成物は、皮膚軟化剤(エモリエント剤)の形態で生成できることに注意すべきである。適切な皮膚軟化剤として知られているものは多種多様あり、本明細書での使用が可能である。これに関連して米国特許第5,296,500号を参照する(この開示はこの参照により本明細書に組み込むものとする)。
【0063】
あるいは、本組成物は、本発明のペプチド組成物、例えば本発明のセキスタペプチド、本発明の結合型セキスタペプチド、または本発明のセキスタペプチド若しくは結合型セキスタペプチドのペプチド模倣薬を約0.0002重量%〜約10重量%含むローション剤として製剤されることができる。あるいは、本明細書で説明する方法のいずれかなどで調製された米ぬか抽出物を約1〜10mg/mL含むローション剤を製剤することもできる。ローション剤およびクリーム剤は、乳剤および液剤として製剤できる。さらに、液剤基剤システムからクリーム剤として生成物を製剤することもできる。本発明の組成物を有するクリーム剤は、約0.1%〜15%、好ましくは1%〜5%の活性成分を含有することが好ましい。最終生成物には、最高10重量%、好ましくは0.001〜5重量%の活性成分を含めることができるが、これより濃縮または希釈された液剤を、量を増減させて使用できることは言うまでもない。例えば、眼用クリーム剤には約0.0012%(w/w)、顔用クリーム剤には約0.0003%(w/w)のセキスタペプチド化合物、結合型セキスタペプチド化合物、またはこれらのペプチド模倣薬を、賦形剤に含めることができる。
【0064】
本発明のペプチド組成物(0.0004%〜0.002%)および本発明の植物抽出物(約1〜10mg)を適切なクリーム剤、ローション剤、または軟膏剤の基剤に含めたものを局所的に適用すると、老化し、日焼けにより損傷し、または損傷した皮膚で弾性線維の回復に役立てることができる。
【0065】
本発明のペプチド組成物(0.0004%〜0.002%)および本発明の植物抽出物(約1〜10mg)を適切なクリーム剤、ローション剤、または軟膏剤の基剤に含めたものを局所的に適用すると、皮膚に血液を供給する小血管の収縮に起因した褥瘡または糖尿病性潰瘍を治癒させる目的で、皮膚内の既存の小血管を拡張させることができる。
【0066】
本発明のペプチド(10〜20μg/mL)または本発明の植物抽出物(1〜10mg/ml)は、新しい弾性線維形成を刺激してヒト心臓の心筋梗塞後の瘢痕に強度および弾性を付与する手段として、バルーン血管形成術中、冠動脈に注射し、または開心術中、心筋梗塞後の心筋瘢痕組織に直接注射することができる。
【0067】
植物抽出物は、粗薬としても化学精製した製剤としても、皮膚に血液を供給する小血管の収縮に起因する褥瘡または糖尿病性潰瘍を治癒させるための局所適用に使用できる。シュウ酸またはトリプシンで米ぬかを連続分解すると米ぬか製剤に含まれるペプチドの分子量が低下するため、発明者らは、死んだ細胞および(潰瘍化したむき出しの皮膚に常時混入してくる)細菌から放出される酵素により、大型の不溶性エラスチン様タンパク質でさえ最終的には一部分解されて、収縮した毛細血管の弛緩および拡張を刺激し新しいエラスチンを多く含んだ新しい細胞外マトリックスの生成を刺激する望ましいペプチドを送達するという仮説を立てた。
【0068】
マンガン塩(MnCl2、MnSO4、およびMnaPCA)および3価鉄(クエン酸第二鉄アンモニウム(Ferric Ammonium Citrate:FAC))は、それぞれ新しいトロポエラスチンの生成および新しい弾性線維の構築を刺激することが示されている。本発明の組成物は、マンガン構成要素および/または3価鉄構成要素をさらに含むよう製剤することができる。また、ナトリウムを含有する化合物は本発明の治療用組成物に適した添加剤である。ナトリウムは、弾性線維形成の刺激に関係すると見られている。銅は、リシルオキシダーゼ(トロポエラスチン分子を不溶性高分子であるエラスチンに架橋結合する酵素)の活性化因子であり、本発明の治療用組成物での使用に適したもう1つの添加剤である。
【0069】
本発明の組成物には、任意選択でマンガン成分を加えてもよい。このマンガン成分は任意のマンガン化合物またはその薬学的に許容される塩であってよいが、MnCl2、MnSO4、および/またはMnPCAであることが好ましく、その場合そのマンガン成分は通常約0.5〜10重量%、好ましくは約1〜8重量%、最も好ましくは約5〜7重量%の量で存在し、マンガンは複合体の約5〜20重量%の量で存在する。
【0070】
任意選択で、3価鉄成分(これに限定されるものではないが、塩化第二鉄アンモニウム(Ferric Ammonium Chloride:FAC)など)を本薬学的組成物に含めてもよい。この3価鉄成分は、新しい弾性線維形成を刺激し、弾性組織欠損の治療を助ける。この3価鉄は、当該組成物に含める場合、一般に約5〜20重量%の量で存在する。一実施形態において、この3価鉄成分は、当該組成物に対し、一般に約0.01〜5重量%、好ましくは約0.02〜3重量%、より好ましくは約0.03〜2重量%の量で存在する。
【0071】
任意選択で、ナトリウム成分またはその薬学的に許容される塩を本発明の薬学的組成物に含めることもできる。このナトリウム成分は、一般に当該複合体の約5〜20%の量で存在する。このナトリウム成分は、当該組成物に対し、一般に約1〜10重量%、または約5〜7重量%の量で存在する。
【0072】
当該薬学的組成物には銅成分も含めることができ、この銅成分は、任意の銅化合物またはその薬学的に許容される塩であってよい。この銅成分は、エラスターゼを抑制し、弾性組織欠損の治療を助ける。その銅化合物は、セバシン酸銅の形態であってよい。組成物に含める場合、この銅成分は、一般に前記銅化合物の約5〜20重量%の量で存在する。この銅成分は、当該組成物に対し、一般に約0.01〜5重量%、または約0.03〜2重量%の量で存在する。
【0073】
一実施形態としては、上述した活性成分をローション剤またはクリーム剤の水中油型乳剤または油中水型乳剤(化粧品分野ではどちらのタイプも非常によく知られている)として使うことが意図される。油中水型などの多相乳剤は、米国特許第4,254,105号で開示されている(この開示はこの参照により本明細書に組み込むものとする)。
【0074】
本発明の活性成分は、液剤の基剤システムから軟膏剤として製剤することがさらに意図される。軟膏剤は、動物油または植物油あるいは半固形炭化水素(脂肪性基剤)の単純な基剤を含有できる。軟膏剤は、水を吸収して乳剤を形成する吸水軟膏基剤を含有してもよい。軟膏基剤は水溶性であってもよい。軟膏剤は、1%〜99%の皮膚軟化剤に加え、約0.1%〜99%の増粘剤を含有することができる。ここでも、本明細書で使用する種々の軟膏剤、クリーム剤、およびローション剤の製剤をより完全に開示している米国特許第5,296,500号およびそれに含まれる引用文献を再び参照する。
【0075】
本組成物には、セキスタペプチド化合物またはそのペプチド模倣薬に対するエラスチン受容体の結合特性を妨げないものである限り、これに限定されるものではないが、抗炎症剤、日焼け止め剤(サンスクリーン/サンブロック)、タンパク質合成の刺激剤、細胞膜安定剤(カルニチン)、保湿剤、着色剤、乳白剤など、種々の任意選択の成分を1若しくはそれ以上含めることができる。
【0076】
この治療用組成物の付加的な成分としては、従来、化粧品その他のスキンケア組成物に使われてきた任意の適切な添加剤などを含めることができる。その例としては、これらに限定されるものではないが、アロエ、抗酸化剤、アズレン、蜜ろう、安息香酸、ベータカロチン、ステアリン酸ブチル、ショウノウ、ヒマシ油、カモミール、ケイ皮酸エステル、粘土、カカオ脂、ココナッツ油、キュウリ、ジヒドロキシアセトン(dihydroxyacetone、略称DHA)、エストロゲン、朝鮮人参、グルタミン酸、グリセリン、グリコール酸、保湿剤、ヒドロキノン、ラノリン、レモン、リポソーム、鉱油、モノベンゾン、核酸、オートミール、PABA、パンテノール、ワセリン、プロペリングリコール、ローヤルゼリー、海藻、シリカ、ラウリル硫酸硫黄ナトリウム、マンサク、亜鉛、酸化亜鉛、銅、ヒアルロン酸、シアバターなどがある。
【0077】
前記合成セキスタペプチド、合成結合型セキスタペプチド、それらのペプチド模倣薬、または化学的に分解された植物抽出物を含有する組成物は、レチノイン酸、賦形剤、または他の添加剤をさらに有する。例えば、レチノイン酸は、コラーゲン生成を刺激する作用があり、本発明の組成物への添加剤として有用である。
【0078】
トレチノイン、ビタミンE、銅イオンおよび/またはマグネシウムイオンの源、レチノール、銅ペプチド、および20種類のアミノ酸のいずれか1つなど、エラスチンを含む組織の弾性を改善する上で役立つ添加剤を、本発明の組成物に加えることもできる。このような組成物には、ミクロフィブリル(微小繊維)の足場へのトロポエラスチン沈着を誘発する添加剤と、形質転換成長因子ベータ1や銅(上記参照)などリシルオキシダーゼ活性を誘発する化合物とを加えることもできる。本発明の組成物には、治療にも生物学的にも適合した賦形剤を含めることができる。
【0079】
本製剤には、抗生物質、鎮痛剤、抗アレルギー性物質など他の活性成分も含めることができる。本製剤は、一般に、身体組織の望ましい領域に塗布するローション剤またはクリーム剤として皮膚に適用される。有効性を最適化するには、日光その他の照射を受けた後、または皮膚が傷害(創傷など)を受けた後で、本方法に従った治療をできるだけ早期に開始する必要がある。本製剤は、一般に、1日に1回または2回皮膚に適用される。本明細書の別項で説明するように、本組成物を使用すると、皮膚の加齢効果および/または光線による損傷を抑制および/または最小化するだけでなく、瘢痕(皮膚の肥厚性瘢痕など)を防止および/または治療することもできる。
【0080】
投与
製剤された時点で、液剤は、用量製剤に適合した態様で、治療効果がある量で投与される。これらの製剤は、直接的な局所投与(局所塗布)や、経皮パッチ(経皮貼布)による適用など種々の剤形で容易に投与できる。
【0081】
例えば、水溶液で局所投与する場合、患者に有毒作用を生じることなく、本発明の組成物を皮膚に直接使用することができる。あるいは、本発明の組成物は、混合前、必要に応じて適切な緩衝液に溶解または再懸濁することができる。
【0082】
一般に、各組成物および各投与プロトコールの最適な治療効果については、通常の実験で具体的な範囲を決定することができ、特定個人への投与は、その個人の疾患状態と初期投与への反応性とに応じて有効で安全な範囲内に調製される。
【0083】
治療対象の個人の疾患状態に応じ、若干の用量変更が必要になる。当該個人に対する適切な用量は、いかなる場合においても投与責任者が決定する。さらにヒトに投与する場合、製剤は、滅菌、発熱性、一般的な安全性および純度の基準をFDAの要求に応じて満たさなければならない。
【0084】
以下、本発明の種々の実施形態の考案および使用について詳述するが、本発明は、多種多様な特定の文脈で具体化できる応用可能な多数の発明概念を提供することを理解すべきである。本明細書に説明する具体的な実施形態は、本発明を考案および使用するため具体的な方法を単に例示したものであって、本発明の範囲を画定するものではない。当業者であれば、本明細書の説明を参照することにより、例示した実施形態および本発明の他の実施形態の種々の修正(変更)形態および組み合わせが明確に理解されるであろう。
【0085】
本発明の組成物は、エラスチンの合成および沈着を誘発し、通常のヒト真皮線維芽細胞において細胞増殖を誘発する。培養組成物における以下の効果は、以下の実施例を参照することでより理解される。
【0086】
実施例1
試薬。CGS Group,Inc.から可溶性および不溶性の米ぬかを入手した。VGVAPGは、Sigma(米国ミズーリ州St.Louis)から入手した。EBPL−1(VGVAPGAAAAAVGVAPG)(配列ID番号10)、EBPL−2(IGVAPG)(配列ID番号13)、およびEBPL−3(IGVAPGAAAAAIGVAPG)(配列ID番号14)は、EZBIOLAB,Inc.による発明者らの設計に基づき有機的に合成した。ペプチドはすべて95%の純度で合成した。
【0087】
化学的に分解された可溶性米ぬかの調製。1グラムの可溶性米ぬか(Nutri Select Soluble−Nutri Rice CDG Group Inc.)を、80%エタノールで希釈した40mlの1M NaOHに懸濁し、1時間培養した。次に、この製剤を4000rpmで10分間遠心分離し、ペレットを20mlの蒸留水で再懸濁し、蒸留水で一晩透析(MWCO 2000)したのち、凍結乾燥した。次に、その生成物を5mlの0.25Mシュウ酸で再懸濁し、1時間沸騰させた。4000rpmで10分間遠心分離した後、その上清NO.1を回収し、残りのペレットを5mlの0.25Mシュウ酸で再懸濁し、沸騰させた。この手順を、物質全体が溶解するまで3回繰り返した。その結果得られたすべての上清を上清NO.1と合わせ、蒸留水を5回替えて透析したのち、凍結乾燥した。その結果得られた130mgの水溶性白色粉末(化学的に分解された米ぬか(chemically digested rice bran:CDRB))は、純粋なタンパク質を5mg含有していた。代替方法として、米ぬか試料はアミラーゼで分解したのち(デンプンを除去するため)、非架橋結合したタンパク質を可溶化するため臭化シアン(Cyanogen Bromide:CNBr)で処理した。
【0088】
ウェスタンブロット。可溶性および不溶性の米ぬか双方を3,000Daろ過膜でろ過し、それぞれの試料20μgをSDS−PAGE電気泳動で分離し、ニトロセルロースに移した。このニトロセルロースに、抗エラスチン抗体と、抗VGVAPG(BA4)抗体と、AKAAAKAAAKA(配列ID番号15)用に構築された抗体(4つのリジンからのデスモシンで架橋結合を形成し結合するトロポエラスチン上のドメイン)とでウェスタンブロッティングを行った。Starcher,B.、Conrad,N.、Hinek,A.、およびHill,C.H.によるConnect.Tissue Res.1999;40:273−82(1999)を参照。
【0089】
細胞培養。可溶性米ぬか、不溶性米ぬか、VGVAPG、EBPL−1、EBPL−2、およびEBPL−3の生物学的効果を、年齢の異なる複数の健常な白人女性から得られた皮膚線維芽細胞の培養で試験した。化学的に分解された米ぬか(CDRB)の生物学的効果を、37歳の白人女性の健常な皮膚をパンチ生検して得られた皮膚線維芽細胞の培養で試験した。まず、すべての線維芽細胞を皮膚外植体外に遊走させて単離したのち、トリプシン処理により継代させ、α−MEM(アルファ最小必須培地、alpha−minimum essential medium)培地に20mMのHEPES、1%の抗生物質および抗かび物質、1%のL−グルタミン酸塩、および2%のウシ胎仔血清(fetal bovine serum:FBS)を補ったもので維持した。全実験では、CDBRを使ったものを除き、第3〜7代の連続継代細胞を試験した。細胞は、VGVAPG(配列ID番号1)(5μg/mL)、EBPL−2(5μg/mL)、およびEBPL−3(10μg/mL)の存在下および不在下で培養した。CDRBの第3継代細胞を使った実験では、細胞をプレートに密集させて(50×106細胞/皿)迅速に密集度を高めたのち、25μg/mlのCDRBの存在下(1日目および3日目に加えた)および不在下で7日間培養した。
【0090】
弾性線維沈着の評価。ECMを豊富に生成する、7日目の線維芽細胞の密集培養を使用した。すべての培養物を、−20℃に冷却した100%メタノールで30分間固定し、1%の正常ヤギ血清(normal goat serum:NGS)でブロックしたのち、2μg/mlのトロポエラスチン用ポリクローナル抗体で1時間培養した。次いですべての培養物を適切なフルオレセイン結合二次抗体(GAR−FITC)でさらに1時間培養した。核をヨウ化プロピジウムで対比染色した。上記のとおり、細胞外マトリックス成分を認識する抗体で免疫染色した培養物を、コンピュータ制御のビデオ解析システム(Image−Pro Plus 3.0ソフトウェア、Media Cybernetics(米国メリーランド州Silver Spring))を使って形態計測解析した。平均および標準偏差が計算され、ANOVA統計解析が実行された。
【0091】
結果および考察。トロポエラスチン用ポリクローナル抗体と、エラスチンのVGVAPG(配列ID番号1)配列および立体的に類似した別のGXXPG(配列ID番号2)疎水性ドメインを認識するモノクローナル抗体BA4とでウェスタンブロットを行ったところ、可溶性米ぬかおよび不溶性米ぬかの双方にトロポエラスチン様のエピトープおよび他のGXXPG(配列ID番号2)配列が含まれていることが示された。AKAAAKAAAKA用に構築された抗体で付加的に行ったイムノブロッティングでも、このドメインはトロポエラスチンに特有で、化学的に分解された米ぬか製剤にも存在することが示された(図10)。上記の結果等に基づくと、本発明の米ぬか製剤は、エラスチン様のペプチドを含むと見られる。
【0092】
ろ過した(<3,000Da)可溶性および不溶性の米ぬかを真皮線維芽細胞とともに培養したところ、これら双方の製剤が、インビトロで弾性線維の沈着を誘発できることが明らかになった(図1)。図1は、44歳の女性から得られたヒト真皮線維芽細胞を、可溶性または不溶性の米ぬか(<3,000Da)の存在下または不在下で7日間維持した一次培養物を示したものである。細胞は、抗トロポエラスチン抗体およびフルオレセイン結合二次抗体(GAR−FITC)で固定および免疫染色した。
【0093】
上記でエラスチン受容体(エラスチン結合タンパク質)リガンドがProK−60(ウシ項靱帯タンパク質分解生成物)に存在し、弾性線維形成を刺激することができると示したことから、VGVAPG(配列ID番号1)に類似し、また細胞表面エラスチン受容体の主要成分であるエラスチン結合タンパク質のリガンドとして作用する可能性のある、短い略同一の配列をBLASTで検索した。この検索により、コメ(Oryza sativa)から得られるタンパク質内のEBPL配列VGAMPG(配列ID番号4)、VGLSPG(配列ID番号5)、IGAMPG(配列ID番号6)、IGLSPG(配列ID番号7)、およびIGVAPG(配列ID番号1)が見出された。IGVAPG(配列ID番号13)(EBPL−2)と、そのデュプレックスポリマーIGVAPGAAAAAIGVAPG(配列ID番号14)(EBPL−3)との双方を有機的に合成したのち、真皮線維芽細胞の一次培養物で試験した。研究者らは、これらの合成ペプチドがどちらも細胞表面のエラスチン受容体と相互作用でき、それによりVGVAPG(配列ID番号1)のように弾性線維形成を刺激できる3次元の折り畳み構造に自発的に変化するという仮説を立てた。理論に制約されることは不本意であるが、上記の実験から、すべての合成EBPLは、細胞表面エラスチン受容体との相互作用(EBP=elastin binding protein(エラスチン結合タンパク質))を通じて、用量に依存した態様で弾性線維形成を刺激したと見られる。
【0094】
試験済み試薬の存在下で培養した真皮線維芽細胞の7日齢の一次培養物を抗エラスチン抗体で免疫染色したところ、新しい合成ペプチドEBPL−2およびEBPL−3はVGVAPG(配列ID番号1)またはダブレットVGVAPGAAAAAVGVAPG(配列ID番号10)(EBPL−1)を含んだ合成ペプチドで処理した培養物において得られたレベルを超えて、弾性線維形成を誘発できることが示された(図2)。図2は、38歳および44歳の女性から得られたヒト真皮線維芽細胞を、VGVAPG(配列ID番号1)(5μg/mL)、EBPL−2(5μg/mL)、およびEBPL−3(10μg/mL)の存在下または不在下で7日間維持した一次培養物を示したものである。細胞は、抗トロポエラスチン抗体およびフルオレセイン結合二次抗体(GAR−FITC)で固定および免疫染色した。興味深いことに、VGVAPG(配列ID番号1)およびEBPL−1で刺激された線維芽細胞は、対照レベルより高レベルで非常に細い細胞外弾性線維を示した一方、EBPL−2およびEBPL−3で処理した培養物は、太い細胞外弾性線維の沈着を示した。これらの結果は、コメ由来の配列を反映した合成ペプチドが弾性線維形成を強力に刺激し、米ぬかから抽出した粗タンパク質に暴露した培養物において得られた上記の効果を正当化することを示している。
【0095】
これらの予備的データから、(エラスチン様の米ぬかから得られたタンパク質で検出されたエラスチン受容体結合ドメインを模倣するIGVAPG(配列ID番号13)配列を含む)EBPL−2およびEBPL−3の双方が、細胞表面エラスチン受容体との相互作用を通じて、真皮線維芽細胞での弾性線維形成を誘発することが示唆される。完全長のトロポエラスチンまたはトロポエラスチンのエクソンを反映した高分子構造と対照的に、低分子量の合成ペプチドEBPL−2およびEBPL−3(表皮経由でより容易に侵入できる)は、弾性線維の回復を目的とした局所化粧用の適切な老化防止クリーム剤/ローション剤として製剤することが可能な新規性のある生物活性成分を構成することができると発明者らは提案する。
【0096】
実施例2
培養した線維芽細胞から生成された代謝標識トロポエラスチンにより、またそれが結果的に、弾性線維の主成分である不溶性エラスチンに組み込まれたことにより、新しい弾性線維の生成も観察された。線維芽細胞はプレートに密集させ(50×105/皿)、10cmの細胞培養皿で4皿ずつ(4皿一組で)密集するまで成長させた。各皿に、20μCiの[3H]−バリンとともに新鮮な培地を加えた。次に培養物を72時間培養し、各培養物で別個に不溶性エラスチンを評価した。培地を取り除いた後、細胞の層および沈着した細胞外マトリックスを0.1NのNaOH内でこすり取り、遠心分離により沈殿させ、0.5mLの0.1N NaOHで45分間沸騰させて、エラスチン以外の全マトリックス成分を可溶化させた。その結果得られた不溶性エラスチンを含むペレットを、200μLの5.7N HClで1時間沸騰させて可溶化させ、その一定分量をシンチレーション液と混合して計数した。
【0097】
図3は、真皮線維芽細胞の培養物中で新たに沈着した不溶性エラスチンに[3H]−バリンを加えた場合の定量的評価を示したものである。線維芽細胞の培養物を、GXXPGを含むペプチド単独で、また銅、マンガン、および鉄の塩と組み合わせて、6日間、毎日刺激した。これらの結果では、インビトロでは、金属塩を加えると、ペプチドに誘発される不溶性弾性線維の沈着が促進されることが示されている。
【0098】
図4は、CDRBの存在下および不在下における、7日齢の真皮線維芽細胞の培養物でのエラスチン沈着を示したものである。CDRB処理した培養物は、対照培養物と比べ、より多くのトロポエラスチン(細胞内で検出される)を合成し、より多くの細胞外弾性線維を沈着させる。
【0099】
実施例3
7日齢の線維芽細胞培養物および抗トロポエラスチン抗体の免疫細胞化学的相互作用により、皮膚線条のある女性患者から得られた真皮線維芽細胞は、前記化学的に分解された米ぬか(CDRB)で処理した場合、有意により多くの弾性線維を生成することが示された。また、CDRB処理した線維芽細胞は、細胞内ゴルジ画分(ゴルジ区画)において、未処理の対照線維芽細胞より多く免疫検出可能なトロポエラスチンを生じることも示した。
【0100】
CDRBの予備的な免疫特徴付け(immunocharacterization)ではポリクローナルエラスチン抗体との免疫反応性が示され、これによりCDRBが、哺乳類エラスチンに見られるものに類似した二次構造を含む可能性が示唆される。
【0101】
データは、コメを基にしたペプチドが、ProK−60より効力のある(>500%)弾性線維形成誘導剤であることを実証している。これは、間接的な免疫蛍光測定により確認された。結果は、不溶性エラスチンのノーザンブロットおよび代謝標識で確認された(データは図示せず)。
【0102】
実施例4
エラスチンおよびラミニンに見られる一般的なEBP結合GXXPG(配列ID番号2)モチーフを反映するものでもある日本米の転写因子を求めるため、BLAST検索(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)を使ってアミノ酸配列中のIGVAPG(配列ID番号13)ドメインを特定した。RT−PCRを使い、本発明のペプチドによるエラスチン遺伝子の転写を測定した。図5は、合成ヘキサペプチドIGVAPG(配列ID番号13)(コード名:EBPL−2(登録商標))が、成人の真皮線維芽細胞を培養したものに含まれるVGVAPG(配列ID番号1)のように、エラスチン遺伝子の転写を増加させたことを示している。EBPL−2およびVGVAPG(配列ID番号1)の双方が、血清を含まない培地に維持した成人の真皮線維芽細胞の転写を刺激したという事実は、どちらのペプチドも弾性線維形成の一次刺激剤であったことを示している。また、観測されたより高レベルのエラスチンmRNAが、実際に、より高レベルのトロポエラスチンタンパク質(エラスチンの単量体前駆体)に翻訳されることも発見された。
【0103】
実施例5
EBPL−2およびVGVAPG(配列ID番号1)の存在下で成人の真皮線維芽細胞を7日間培養することにより、より増強されたレベルの細胞内および細胞外トロポエラスチンが得られ、これが抗トロポエラスチン抗体での免疫細胞化学的染色により確認された(図6)。(A)図6(A)に示したように、EBPL−2およびVGVAPG(配列ID番号1)で処理した成人の真皮線維芽細胞は、免疫検出可能なトロポエラスチンの定量的形態計測解析による評価において、対照培養物より最大710%および457%多いトロポエラスチンをそれぞれ生成した。EBPL−2で処理した線維芽細胞は、ProK−60で誘発された最大レベルより最大141%多いトロポエラスチンを生成した。(B)対照物質ProK−60(25μg/mL)、EBPL−2(25μg/mL)、およびVGVAPG(配列ID番号1)(10μg/mL)で処理した成人の真皮線維芽細胞の代表的なトロポエラスチン免疫染色。興味深いことに、EBPL−2で刺激された線維芽細胞は、VGVAPG(配列ID番号1)で培養された対照物質より高い正味のトロポエラスチン沈着を示した。
【0104】
EBPL−2が効率的にトロポエラスチン生成を刺激したことから、次にこの単量体前駆体が弾性線維の主成分である架橋結合した不溶性エラスチンに効率的に導入可能かどうかを試験した。培養した真皮線維芽細胞を[3H]−バリンで代謝標識したのち、NaOH不溶性エラスチン(DNA含有量で正規化)のアッセイを行った結果、EBPL−2またはそのアセチル化バージョンの存在下で7日間維持した線維芽細胞は、エラスチンをより多く生成することが示された(図7)。EBPL−2のN末端をアセチル化すると、EBPL−2の生物活性が促進されるように見られたが、統計的には、EBPL−2をアセチル化しなかった場合と異ならなかった。他方、EBPL−2のC末端をアミド化したところ、EBPL−2の生物活性は皆無になったため、EBPへの結合および弾性線維形成の誘発を可能にするEBPL−2の二次構造全体に、C末端のグリシンが不可欠であることが示された。新たに沈着した不溶性エラスチン(培養皿ごとに得られた結果を表現したもの)を付加的に定量化したところ、代謝標識した不溶性エラスチンにおいてさらに多くの驚くべき正味増加が実証された(図8)。
【0105】
この計算の結果は培養物あたりの不溶性エラスチンの正味沈着に対するEBPL−2のより意義深い効果を示しており、EBPL−2がVGVAPG(配列ID番号1)と同様に細胞増殖を刺激するという仮説につながる。この仮定は、細胞増殖の直接的な定量化においてEBPL−2およびVGVAPG(配列ID番号1)で処理した真皮線維芽細胞で[3H]−チミジンを導入した対照実験よりも高い数値が示されたことにより、後日確認された。
【0106】
実施例6
別個の一連の実験において、米ぬかのタンパク質抽出物から、真皮線維芽細胞の培養物において弾性線維形成を誘発することのできるGXXPG様の活性配列が見出されるかどうかも試験した。まず、ウェスタンブロッティングにより、米ぬかの不溶性分画および可溶性分画が、抗トロポエラスチン抗体および抗VGVAPG抗体に対し免疫反応性のあるGXXPG(配列ID番号2)エピトープを含有することを実証した。さらに、エラスチン様のNaOH不溶性タンパク質を多く含む米ぬかの化学分解生成物も、同様な結果を示すことがわかった。最後の実験では、培養した成人の真皮線維芽細胞により、米ぬか由来のすべての製剤がトロポエラスチン沈着を促進することが明らかになった(図9)。
【0107】
実施例7
以下の手順は、本発明の範囲を限定するよう意図されたものではないが、化学的に分解された米ぬかの抽出物を調製するため使用された。
【0108】
プロトコールA
−50グラムの可溶性米ぬか(Nutri Rice CDC Group Inc.)
−160mlの80%エタノール+40mlのアセトンに溶解
−37℃で30分間培養し、上清を破棄してペレットを保存
−蒸留水で希釈した100mlの1M NaOHに、前記ペレットを溶解
−60分間沸騰
−4000rpmで10分間遠心分離し、上清を破棄
−蒸留水で4回前記ペレットを洗浄
−前記ペレットを100mlの0.25Mシュウ酸に溶解
−60分間沸騰
−4000rpmで10分間遠心分離。 上清1を回収
−前記ペレットを100mlの0.25Mシュウ酸に溶解
−60分間沸騰
−4000rpmで10分間遠心分離。 上清2を回収
−残りの前記ペレットを50mlの0.25Mシュウ酸に溶解
−60分間沸騰
−4000rpmで10分間遠心分離。 上清3を回収
−回収した上清1、2、3を合わせる
−蒸留水を5回替えて透析
−凍結乾燥
−最終粉末:230mg、純粋なタンパク質の濃度:0.342μg/mg
【0109】
プロトコールB
−50グラムの不溶性米ぬか(Nutri Rice CDC Group Inc)
−160mlの80%エタノール+40mlのアセトンに溶解
−37℃で30分間培養し、上清を破棄してペレットを保存
−蒸留水で希釈した400mlの1M NaOHに、前記ペレットを溶解
−60分間沸騰
−蒸留水で希釈した100mlの1M NaOHを加える
−60分間沸騰
−4000rpmで10分間遠心分離し、上清を破棄
−蒸留水で4回前記ペレットを洗浄
−前記ペレットを300mlの0.25Mシュウ酸に溶解
−60分間沸騰
−4000rpmで10分間遠心分離。 上清1を回収
−前記ペレットを200mlの0.25Mシュウ酸に溶解
−60分間沸騰
−4000rpmで10分間遠心分離。 上清2を回収
−残りの前記ペレットを150mlの0.25Mシュウ酸に溶解
−60分間沸騰
−4000rpmで10分間遠心分離。 上清3を回収
−回収した上清1、2、3を合わせる
−蒸留水を5回替えて透析
−凍結乾燥(96時間)
−最終粉末:201mg、純粋なタンパク質の濃度:8.89μg/mg
【0110】
プロトコールC
−100mgの抽出済み可溶性米ぬかペレット
−5mlのアミラーゼに溶解(1000U/ml)
−37℃で72時間培養し、振盪
−1500rpmで10分間遠心分離
−上清を回収
−蒸留水を3回替えて透析
−凍結乾燥
−最終粉末を200μlの蒸留水に溶解、純粋なタンパク質の濃度1.42μg/μl
【0111】
プロトコールD
−100mgの抽出済み不溶性米ぬかペレット
−10mlのアミラーゼに溶解(1000U/ml)
−37℃で72時間培養し、振盪
−1500rpmで10分間遠心分離
−上清を回収
−蒸留水を3回替えて透析
−凍結乾燥
−最終粉末を200μlの蒸留水に溶解、純粋なタンパク質の濃度0.16μg/μl
【0112】
プロトコールE
−10グラムの可溶性米ぬか(Nutri Rice CDC Group Inc.)
−10グラムの不溶性米ぬか(Nutri Rice CDC Group Inc.)
−40mlのアミラーゼに溶解(1000U/ml)
−37℃で5日間培養し、振盪
−蒸留水を3回替えて透析
−40mlの80%エタノール+10mlのアセトンを加える
−37℃で30分間培養
−4000rpmで10分間遠心分離し、ペレットを保存
−蒸留水で希釈した40mlの1M NaOHに、前記ペレットを溶解
−60分間沸騰
−4000rpmで10分間遠心分離し、上清を破棄
−蒸留水で4回前記ペレットを洗浄
−前記ペレットを40mlの0.25Mシュウ酸に溶解
−60分間沸騰
−4000rpmで10分間遠心分離。 上清1を回収
−前記ペレットを40mlの0.25Mシュウ酸に溶解
−60分間沸騰
−4000rpmで10分間遠心分離。 上清2を回収
−残りの前記ペレットを20mlの0.25Mシュウ酸に溶解
−60分間沸騰
−4000rpmで10分間遠心分離。 上清3を回収
−回収した上清1、2、3を合わせる
−蒸留水を5回替えて透析
−凍結乾燥(96時間)
−最終粉末のうち5mgを100μlの蒸留水に溶解
タンパク質の濃度:可溶性米:3.44μg/μl
不溶性米:0.217μg/μl
【0113】
プロトコールF
−3グラムの可溶性米ぬか(Nutri Rice CDC Group Inc.)
−3グラムの不溶性米ぬか(Nutri Rice CDC Group Inc.)
−70%のギ酸を用意し、それに窒素の気泡を通過させて、酸素を除去(CNBrは酸素の存在下で作用しないため)
−ドラフト内で、使い捨てチューブを使って2グラムの臭化シアン(CNBr)を秤量し、ギ酸に溶解して40mlの溶液を調整(50mg/ml)
−20mlの溶液を、3グラムの可溶性米ぬかおよび3グラムの不溶性米ぬかにそれぞれ加える
−ふたを閉じ、ドラフト内に放置して一晩分解
−翌日、沸騰水を使って、ドラフト内で分解生成物を5回洗浄
−ドラフト内において、3300rpmで10分間遠心分離
−ペレットを保存
−ペレットの半分を凍結乾燥
−残りの半分を20mlの1M NaOHに溶解し、60分間沸騰
−可溶性米ペレット:30mlの蒸留水を加え、蒸留水を3回替えて透析
−凍結乾燥
−不溶性米ペレット:
−蒸留水で3回洗浄
−蒸留水を3回替えて透析
−凍結乾燥
−各最終粉末を2mgずつ、100μlの蒸留水に溶解
タンパク質の濃度:
1,CNBrで分解された可溶性米:3.7μg/μl
2,CNBrで分解された不溶性米:範囲外
3,CNBr+NaOH可溶性米:範囲外
4,CNBr+NaOH不溶性米:7.03μg/μl
【0114】
プロトコールG
−出発物質:1グラムの可溶性米ぬか(Nutri Select Soluble−Nutri Rice CDG Group Inc.)
−80%エタノールで希釈した40mlの1M NaOHに溶解
−4000rpmで10分間遠心分離し、ペレットを保存
−20mlの蒸留水にペレットを溶解
−蒸留水で一晩透析(MWCO 2000)
−凍結乾燥(48時間)
−凍結乾燥した粉末を5mlの0.25Mシュウ酸に溶解
−1時間沸騰
−4000rpmで10分間遠心分離
上清1を回収
−前記ペレットを5mlの0.25Mシュウ酸に溶解
−1時間沸騰
−4000rpmで10分間遠心分離
上清2を回収
−残りの前記ペレットを5mlの0.25Mシュウ酸に溶解
−1時間沸騰
−4000rpmで10分間遠心分離
上清3を回収
−回収した上清1、2、3を合わせる
−水を5回替えて透析
−凍結乾燥(48時間)
【0115】
アミラーゼで分解した可溶性および不溶性の米ぬか製剤は、どちらもヒトトロポエラスチン用に構築された抗体に反応するタンパク質を含んでいる(図10)。また、前記可溶性米ぬか製剤は、トロポエラスチンに検出される独特のAKAAAKAAAKA(配列ID番号15)ドメインを伴うペプチドも含んでいる。
【0116】
抗トロポエラスチン抗体によるウェスタンブロッティングでは、CNBrによる米ぬか製剤の分解生成物の試料が、ヒト70−kDaトロポエラスチンおよびその分解生成物に類似した免疫反応性のあるタンパク質を含むことが実証された(図11)。1:可溶性米ぬかの臭化シアンによる分解生成物。2:不溶性米ぬかの臭化シアンによる分解生成物。3:エラスチンを生成するヒト線維芽細胞の培養物からの抽出物。
【0117】
実施例8
図12は、10日齢のヒト(44歳女性)皮膚外植体の器官培養物をモバットペンタクローム(Movat pentachrome)染色したものの代表的な顕微鏡写真である。EBPL−2で処理した培養物は、表皮基底層から遊走してきた細胞(上方パネル)およびより深部の真皮領域に局在する筋線維芽細胞(下方パネル)により生成された弾性線維をより多く含有していた(黒い染色部)。
【0118】
実施例9
EBPL−2は、ヒト皮膚生検の器官培養物において既存の毛細血管を刺激し拡張させる。図13は、EBPL−2での治療により、毛細血管(その周皮細胞で弾性線維が生成される)の拡張が誘発されることを実証する複数の顕微鏡写真を示したものである。
【0119】
EBPLペプチドはヒト心臓の間質細胞において弾性線維形成を刺激する。図14の顕微鏡写真は、合成EBPLペプチドが、ヒトの心臓から単離された間質細胞による弾性線維の生成を著しく増加させることを実証している。
【0120】
以上、特定の好適な実施形態を参照して本発明を詳しく説明したが、他の変形例も可能である。したがって、添付の請求項の要旨は以上の説明および本明細書内の好適な変形例に限定されるものではない。
【技術分野】
【0001】
本願は、2005年4月15日付け出願済み米国仮特許出願第60/671,557号および2005年11月17日付け出願済み米国仮特許出願第60/737,586号(双方ともこの参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする)に基づく利益を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
エラスチンは、動脈、血管、皮膚、腱、弾性靱帯、腹壁、及び肺といった組織の弾性線維に存在する非結晶タンパク質である。コラーゲンなど他の線維性組織と異なり、エラスチンは元の長さと比べ150パーセント以上も伸張でき、またすばやく元のサイズおよび形状に戻れる点で独特である。このエラスチンの特性は、例えば血流、呼吸、曲げにより伸張した後、元の形態に戻れる能力を組織にもたらす。コラーゲンタンパク質と同様、エラスチンは、約30%のグリシンアミノ酸残基を含み、プロリンを多く含む。エラスチンは、ヒドロキシプロリンやヒドロキシリジンをほとんど含まない点でコラーゲンと異なる。エラスチンは、アラニンを非常に高い含有量で有し、2つの独特なアミノ酸であるイソデスモシンおよびデスモシンも含む。これらのアミノ酸は、エラスチンが伸張後、元の形状に戻る能力をもたらしていると考えられている。
【0003】
エラスチンの欠乏、または皮膚内の弾性線維に影響する遺伝的異常は、コステロ症候群、皮膚弛緩症、及び弾性線維性仮性黄色腫などで立証されているように早期老化につながり、これらの疾患から来る小児(十代初期まで)の皮膚の皺(しわ)や襞(ひだ)として最も顕著に現れる。これらの疾患が皮膚の弾性線維だけに影響を及ぼすと考えると、老化した皮膚におけるしわの形成は、皮膚内の弾性線維の損傷または損失による可能性が高い。残念なことに、真皮線維芽細胞は、思春期の終わりまでには(弾性線維の主成分である)エラスチン生成能力を失ってしまう。したがって、それ以降、成人の真皮線維芽細胞は皮膚内の損傷した弾性線維を修復または交換することができず、本質的にしわの形成は免れない。
【0004】
タンパク質モチーフVGVAPG(配列ID番号1)は、これまで、細胞表面のエラスチン受容体との相互作用を通じ、単球、真皮線維芽細胞、および平滑筋細胞の増殖/遊走を刺激することが示されている。BA4抗体により認識される他のGXXPG(配列ID番号2)配列も、エラスチン受容体のリガンドとして知られている。より近年には、ウシ項靱帯のタンパク質分解で解放され、且つエラスチン受容体リガンド配列(GXXPG)(配列ID番号2)を含むエラスチンペプチドが、このエラスチン受容体と相互作用して真皮線維芽細胞における弾性線維形成を誘発することも示されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
ウシ由来の組織に伴う懸念を考慮すると、真皮線維芽細胞で弾性線維形成を誘発する可能性のあるペプチドを含んだGXXPG(配列ID番号2)の代替源は有用である。本発明の実施形態は、植物由来のエラスチン様タンパク質と、それらの配列と類似した合成ペプチドとの分解生成物に関連するものであり、前記植物由来のエラスチン様タンパク質は、植物に見出され、エラスチン受容体と相互作用し、弾性線維形成を刺激すると見られる。一部の実施形態において、この植物由来のエラスチン様タンパク質は、米ぬかから得られる。
【0006】
本発明は、エラスチンの沈着を促進し、または弾性線維形成を刺激すると見られるペプチドも有する。一実施形態において、本発明のペプチドは弾性線維形成を刺激する。一実施形態において、このペプチドは合成セキスタペプチド(sextapeptide)である。別の実施形態において、このペプチドは合成結合型セキスタペプチドである。
【0007】
本発明の一実施形態において、前記セキスタペプチドは配列X1−X2−X3−X4−X5−X6(配列ID番号3)を有し、ここでX1はVまたはI、X2はG、X3はAまたはL、X4はMまたはS、X5はP、そしてX6はGである。本発明の別の一実施形態において、結合型セキスタペプチドは、1若しくはそれ以上の結合アミノ酸残基を有する態様で提供され、その結合残基が2つのセキスタペプチド化合物を結合し、各セキスタペプチドが配列X1−X2−X3−X4−X5−X6(配列ID番号3)を有し、ここでX1はVまたはIで、X2はGで、X3はAまたはLで、X4はMまたはSで、X5はPで、X6はGである。一実施形態において、本発明のセキスタペプチドはVGAMPG(配列ID番号4)、VGLSPG(配列ID番号5)、IGAMPG(配列ID番号6)、またはIGLSPG(配列ID番号7)を有する。一実施形態において、本発明の結合型セキスタペプチド(またはセキスタペプチド二量体)は、VGAMPGAAAAAVGAMPG(配列ID番号8)、VGLSPGAAAAAVGLSPG(配列ID番号9)、VGVAPGAAAAAVGVAPG(配列ID番号10)、IGAMPGAAAAAIGAMPG(配列ID番号11)、またはIGLSPGAAAAAIGLSPG(配列ID番号12)を有する。
【0008】
別の実施形態において、セキスタペプチドは、配列IGVAPG(配列ID番号13)を有する態様で提供される。一実施形態において、結合型セキスタペプチドは、配列IGVAPGAAAAAIGVAPG(配列ID番号14)を有する態様で提供される。本発明の別の結合型セキスタペプチドは、配列IGVAPG(配列ID番号13)を有しリンカーで結合された2つのセキスタペプチドの配列を有する。
【0009】
本発明のさらに別の実施形態において、前記結合部分は、エラスチン受容体と相互作用して弾性線維形成を誘発する能力をセキスタペプチド化合物が保持する限り、前記セキスタペプチドの結合に適すものとして当業者に知られたいかなる部分であってもよい。前記結合部分は、例えば(これに限定されるものではないが)少なくとも1つのアラニンまたは他の任意のアミノ酸、二硫化結合、カルボニル部分、炭化水素部分を有するものであってよく、これらは任意選択で1若しくはそれ以上の利用可能な炭素原子において低級アルキル置換基と置換される。この結合部分は、リジン残基またはリジンアミド、すなわちカルボキシル基がアミド部分−CONHに変換されたリジン残基であれば最適である。
【0010】
本発明は、上述した任意の合成ペプチドの非ペプチド模倣薬または部分的なペプチド模倣薬も提供する。
【0011】
また、化学的に分解された植物の製剤または抽出物を含有する組成物も提供する。一実施形態において、この化学的に分解された植物抽出物はデスモシンを含んだエラスチン様ペプチドを含有する。デスモシンはエラスチンに特徴的な架橋結合アミノ酸であり、植物由来のタンパク質においては報告例が皆無である。一部の実施形態において、前記化学的に分解された植物抽出物は、化学的に分解された米ぬか抽出物である。別の実施形態では、前記化学的に分解された植物抽出物は、弾性線維形成を誘発または刺激する。さらに別の実施形態において、本発明は、米ぬかから得られるエラスチン様タンパク質など植物由来のエラスチン様タンパク質を含有する製剤を有する。
【0012】
本発明は、前記セキスタペプチドと、結合型セキスタペプチドと、それらのペプチド模倣薬と、本発明の化学的に分解された植物抽出物とを含有する薬学的組成物をさらに提供する。この薬学的組成物は、治療有効量で提供される。一部の実施形態において、前記治療有効量は、弾性線維形成を刺激する量である。さらに別の実施形態において、この治療有効量は、真皮線維芽細胞の増殖と、皮膚または組織の領域への真皮線維芽細胞の遊走とを刺激する量である。他の実施形態によれば、この治療有効量は、組織内で弾性線維形成が増加した外観をもたらす上で十分な量である。
【0013】
本発明では、本発明の組成物を使用する方法も提供する。一実施形態によれば、本発明の組成物を使用すると、組織内で弾性線維形成が増加した外観をもたらすことができる。別の実施形態によれば、本発明の組成物を使用すると、弾性線維形成を刺激することができる。
【0014】
本発明は、弾性線維形成を刺激する方法を有し、当該方法は本発明の組成物を治療有効量投与する工程を有する。本発明の組成物を使用すると、例えば顔面のしわや老化した皮膚の皮膚線条を取り除くため、皮膚の外観を改善することができる。一実施形態によれば、本発明は、皮膚の外観を改善する方法を有し、当該方法は、真皮線維芽細胞の増殖および遊走と、弾性線維形成とを刺激する上で十分な量の本発明の薬学的組成物を皮膚に適用する工程を有し、これにより当該皮膚内でエラスチン沈着が促進されて皮膚の弾性および色調が改善される。さらに、本発明の組成物は、顔面その他腕部、脚部、胸部、および頚部を含む身体部分の緩み弛んだ肌を引き締め、しわが減少した外観を与える。本発明の化合物の他の使用方法としては、新生内膜肥厚および歯の弛緩(歯肉炎)を治療するため、それぞれ平滑筋細胞および歯肉線維芽細胞を刺激して、それぞれエラスチンおよびフィブリリン(オキシタラン線維)を生成させるものなどがある。
【0015】
さらに、本組成物を使用すると、創傷治癒を促進して、皮膚肥厚性瘢痕を防止および治療することができる。これを受け、本発明の別の実施形態には、創傷治癒を促進し瘢痕化を軽減する方法が含まれ、この方法は、傷害部位でエラスチン沈着を刺激する上で十分な量の本発明の薬学的組成物を創傷に適用する工程を有し、その場合、前記エラスチンが損傷組織をつなぎ合わせて組織の弾性および色調を改善し瘢痕化を軽減する。
【0016】
本発明の組成物は、化粧目的であっても治療目的であってもよい。例えば、本発明の組成物は、心筋梗塞後の瘢痕を治療する別の実施形態に従って使用することができる。この実施形態によれば、本発明は心筋梗塞後の瘢痕を治療する方法を含み、この方法は、当該心筋梗塞後の瘢痕においてエラスチン沈着を刺激する上で十分な量の本発明の薬学的組成物を心筋梗塞後の瘢痕に適用する工程を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、44歳の女性から得られたヒト真皮線維芽細胞を、可溶性または不溶性の米ぬか(<3,000ダルトン)の存在下または不在下で7日間維持した一次培養物である。細胞は、抗トロポエラスチン抗体およびフルオレセイン結合二次抗体(GAR−FITC)で固定および免疫染色した。パネルA:対照。パネルB:米抽出物の可溶性分画。パネルC:米抽出物の不溶性分画。
【図2】図2は、38歳および44歳の女性から得られたヒト真皮線維芽細胞を、VGVAPG(配列ID番号1)(5μg/mL)、EBPL−1(5μg/mL)、EBPL−2(5μg/mL)、およびEBPL−3(5μg/mL)の存在下または不在下で7日間維持した一次培養物である。細胞は、抗トロポエラスチン抗体およびフルオレセイン結合二次抗体(GAR−FITC)で固定および免疫染色した。各条件について、代表的な顕微鏡写真を2枚ずつ示している。
【図3】図3は、真皮線維芽細胞の培養物中で新たに沈着した不溶性エラスチンに[3H]−バリンを加えた場合の定量的評価を示したもので、この培養物は、GXXPG(配列ID番号2)を含んだペプチド単独で、また銅、マンガン、および鉄の塩と組み合わせて、6日間維持した。
【図4】図4は、化学的に分解された米ぬか(chemically digested rice bran:CDRB)の存在下および不在下における、7日齢の真皮線維芽細胞の培養物でのエラスチン沈着である。各条件について、代表的な顕微鏡写真を2枚ずつ示している。
【図5】図5は、特異的なトロポエラスチンプローブを使ったRT−PCRの結果であり、血清を含まない培地および10%のウシ胎仔血清(fetal bovine serum:FBS)を添加した培地で維持した成人の真皮線維芽細胞において、EBPL−2およびVGVAPG(配列ID番号1)がエラスチン遺伝子の転写を刺激したことを示している。
【図6】(A)図6Aは、7日齢の培養物を抗エラスチン抗体で免疫染色したものに形態計測解析を行った結果であり、EBPL−2およびVGVAPG(配列ID番号1)で処理した成人の真皮線維芽細胞が、免疫検出可能なトロポエラスチンの定量的形態計測解析による評価において、対照培養物より最大710%および457%多い弾性線維をそれぞれ生成したことを示している。EBPL−2で処理した線維芽細胞は、ProK−60で誘発された最大レベルより最大141%多いトロポエラスチンを生成した。(B)図6Bは、ProK−60(25μg/mL)、EBPL−2(25μg/mL)、およびVGVAPG(配列ID番号1)(10μg/mL)の存在下および不在下で、通常の真皮線維芽細胞(55歳の男性から得られた)を7日間維持した培養物に含まれる免疫検出可能な弾性線維(緑色)を示す代表的な顕微鏡写真である。
【図7】図7は、独立した3つの実験の結果を示したものであり、通常のヒト皮膚から得られたヒト線維芽細胞の密集した培養物を[3H]−バリンで3日間代謝的に標識したのち、新たに沈着した(放射性)NaOH不溶性エラスチンの含有量を評価した。統計分析によると、EBPL−2(10μg/mL)およびアセチル化したEBPL−2(Ace−EBPL−2、10μg/mL)で刺激した成人の真皮線維芽細胞では、未処理の線維芽細胞と比べ、放射活性物質で標識した不溶性エラスチンがそれぞれ36%および51%多く沈着したことが示された。アミド化したEBPL−2は、不溶性エラスチンの沈着を促進しなかった。
【図8】図8は、独立した3つの実験の結果を示したものであり、通常のヒト皮膚から得られたヒト線維芽細胞の密集した培養物を[3H]−バリンで3日間代謝的に標識したのち、新たに沈着した(放射性)NaOH不溶性エラスチンの含有量を評価した。統計分析によると、VGVAPG(配列ID番号1)およびEBPL−2の双方が、用量に依存する態様で、正味の不溶性エラスチン沈着を促進したことが示され、またEBPL−2(対照値より最大175%増)の効果が、VGVAPG(配列ID番号1)(対照値より最大109%増)で誘発された効果を有意に超えたことも示された。
【図9】図9は、通常のヒト皮膚線維芽細胞の7日齢の培養物に沈着した弾性線維を免疫染色(緑色)したものを示す代表的な顕微鏡写真である。シュウ酸(D)で順次分解された米ぬか抽出物は、対照培養物(A)と比べ、成人真皮線維芽細胞の7日齢培養物における不溶性(B)および可溶性(C)の米ぬかの結果を合わせたものより多くのトロポエラスチン生成を誘発した。
【図10】図10は、アミラーゼで分解した可溶性および不溶性の米ぬか製剤が、どちらもヒトトロポエラスチン用に構築された抗体に反応したタンパク質を含んでいることを示す図である。また、前記可溶性米ぬか製剤は、トロポエラスチンに検出される独特のAKAAAKAAAKA(配列ID番号15)ドメインを伴うペプチドも含んでいる。
【図11】図11は、CNBrによる米ぬか製剤の分解生成物の試料が、ヒト70−kDaトロポエラスチンおよびその分解生成物に類似した免疫反応性のあるタンパク質を含むことを実証している、抗トロポエラスチン抗体によるウェスタンブロッティングである。1:可溶性米ぬかの臭化シアンによる分解生成物。2:不溶性米ぬかの臭化シアンによる分解生成物。3:エラスチンを生成するヒト線維芽細胞の培養物からの抽出物。
【図12】図12は、10日齢のヒト(44歳女性)皮膚外植体の器官培養物をモバットペンタクローム(Movat pentachrome)染色したものの代表的な顕微鏡写真である。EBPL−2で処理した培養物は、多能性幹細胞を含む表皮基底層から遊走してきた細胞(上方パネル)と、より深部の真皮領域に局在する筋線維芽細胞(下方パネル)とにより生成された弾性線維をより多く含有していた(黒い染色部)。
【図13】図13は、EBPL−2での処理により、既存の真皮毛細血管の拡張が誘発され、それら毛細血管の外層に位置する細胞である周皮細胞により新しい弾性線維の生成が刺激されたことを実証している複数の顕微鏡写真である。
【図14】図14は、ヒト心臓の間質細胞の7日齢培養物の代表的な顕微鏡写真である。これらの顕微鏡写真は、合成EBPLペプチドが、ヒトの心臓から単離された間質細胞による弾性線維の生成を著しく増加させたことを実証している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本組成物および本方法を説明する前に、本明細書で説明する特定の分子、組成、方法論、またはプロトコールは、場合により異なりうるため、これらに本発明が限定されるものではないことを理解すべきである。また言うまでもなく、本説明で使用する用語は特定の変形例または実施形態のみを説明することを目的としており、添付の請求項だけに唯一限定される本発明の範囲を限定することを意図したものではない。
【0019】
また、本明細書および添付の請求項において単数形扱いしている名称は、文脈により別段の断わりを明示しない限り、複数形も包含する。したがって、例えば「細胞」と言及した場合は、当業者に知られている1若しくはそれ以上の細胞およびそれと同等のものなどを指す。別段の定義がない限り、本明細書で使用するすべての科学技術用語は、当業者に一般に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書で説明する方法および材料と同様または同等のものは、すべて本発明の実施形態の実施または試験に使用できるが、以下では好適な方法、装置、および材料について説明する。この明細書で言及するすべての出版物は、参照により本明細書に組み込まれるものとする。本明細書のいかなる内容も、先行発明によれば本発明がこのような開示に先行する資格がないと認めるものであると解釈されるべきではない。
【0020】
本明細書における用語「約」は、扱われている数値の±10%を意味する。したがって、「約」50%とは45%〜55%の範囲を意味する。
【0021】
本明細書における用語「化粧品」とは、外観的な肉体美を維持し、回復し、もたらし、または強化し、あるいは美しさまたは若々しさ(具体的には皮膚組織の外観に関する)を強化すると見られる美化物質または製剤をいう。
【0022】
用語「改善(する)」は、本発明を提供、適用、または投与する組織の外観、形態、特徴、および/または物理属性を、本発明が変化させることを伝えるため使用される。この形態の変化は、皮膚の外観がより美しくなる、皮膚の軟らかさが増す、皮膚の張りが増す、皮膚の質感が向上する、皮膚の弾性が増す、しわの形成が軽減される、皮膚における内因性エラスチン生成が増す、皮膚が引き締まり弾力が増す、のうちのいずれか1つまたは組み合わせにより示されることが可能である。
【0023】
用語「模倣薬」および「ペプチド模倣薬」は本明細書において同義的に使われ、全般的に、選択された天然ペプチドまたは天然タンパク質の機能ドメイン(結合モチーフや活性部位)の三次結合構造または活性を模倣するペプチド、部分ペプチド、または非ペプチド分子をいう。これらのペプチド模倣薬としては、以下にさらに説明するように、組み換え技術によりまたは化学的に修飾したペプチドや、小分子薬剤の模倣薬といった非ペプチド性薬剤などがある。
【0024】
ペプチド「二量体」などで使われる用語「二量体」とは、ペプチド鎖が2本結合している化合物をいい、一般に(そうでない場合もあるが)これら2本のペプチド鎖は同一のもので、各鎖の末端に共有結合した結合部分(linking moiety)を介して結合している。
【0025】
本明細書における用語「薬学的に許容される」、「生理学的に耐容される」、およびこれらの文法的変形形態は、組成物、基剤、希釈剤、および試薬を差していう場合、同義的に使われ、吐き気、めまい、発疹、胃の不快感など望ましくない生理学的効果を生じることなく、当該物質を哺乳類に投与できることを表す。好適な実施形態において、治療用の組成物は、治療目的でヒト患者に投与した場合に免疫原性がない。
【0026】
「提供する」とは、治療薬と関連して使用する場合、治療薬を標的組織の内部または表面に直接投与すること、または治療薬を投与することにより当該治療薬に標的組織へ望ましい影響を与えさせることを意味する。このため、本明細書における用語「提供する」は、1若しくはそれ以上のマンガン塩を含有する組成物と関連して使用する場合、(これに限定されるものではないが、)1若しくはそれ以上の2価マンガン系化合物(manganese based compound)、3価鉄系化合物(iron based compound)、またはこれらの塩を含有する組成物を標的組織に提供すること、静脈注射などにより組成物を患者に全身的に提供することにより治療薬を標的組織に到達させること、また組成物をそのコード配列の形態で(いわゆる遺伝子治療技術により)標的組織に提供すること、を包含することができる。
【0027】
別段の断りがない限り、用語「皮膚」は身体の外皮または被膜を意味し、真皮および表皮から成り、皮下組織上にある。
【0028】
本明細書における用語「治療薬」とは、望ましくない患者の状態または疾患を治療、改善、防止し、またはそれに対抗するため利用される薬剤を意味する。本発明の実施形態は、哺乳類組織の機能、外観、弾性、および/またはエラスチン含有量の改善も一部対象としている。皮膚に適用した場合、その改善度は弾性、張り、色調、外観、しわの度合い、および若々しさにより測定される。平滑筋細胞または血管に適用した場合、この改善度は弾性の向上(エラスチン/弾性線維の合成および沈着)および新生内膜肥厚の軽減(平滑筋細胞の増殖)により測定される。本明細書で使用される方法は、予防的使用と、既存疾患の治療における治癒的使用とを意図したものである。
【0029】
本明細書における用語「治療有効量」または「有効量」は、同義的に使われ、1若しくはそれ以上の植物由来のペプチドを含有するものなどの、本発明の治療薬組成物の実施形態の量をいう。例えば、植物由来のペプチドを含有する組成物の治療有効量は、前記組成物を投与する個体(個人)において望ましい効果をもたらすよう、すなわちエラスチン生成、コラーゲン生成、細胞増殖、または外観の改善、または組織の弾性改善を効果的に促進するよう計算された所定の量である。そのような治療措置を必要とするのは、しわ、日焼けにより損傷した組織、または瘢痕組織のある組織である。
【0030】
用語「組織」とは、同様に特化した細胞の任意の集合体であって、特定機能を達成するため一体化しているものをいう。本明細書における「組織」とは、別段の断りがない限り、必要な構造および/または機能の一部としてエラスチンを含む組織をいう。例えば、コラーゲン細線維やエラスチン細線維などからなる結合組織は、本明細書における「組織」の定義を満たす。また、エラスチンは、血管、静脈、および動脈の特有の粘弾性に関し、これらの適切な機能に関与すると見られている。このため「組織」には、(これに限定されるものではないが、)皮膚線維芽細胞や、ヒト大動脈の平滑筋細胞などの平滑筋細胞が含まれる。
【0031】
用語「単位用量」は、本発明の治療薬組成物に関して使用する場合、対象用の単一用量として適した物理的に不連続な単位をいい、各単位は、望ましい治療効果をもたらすよう計算された、必要な希釈剤すなわち賦形剤または基剤を伴う所定量の活性物質を含む。
【0032】
簡潔化および例示的目的のため、本発明の原理については、その実施形態を主に参照して説明する。また、以下の説明では、本発明が完全に理解されるよう具体的な詳細事項を多数記載する。ただし当然のことながら、当業者であれば、本発明がこれら具体的な詳細事項を制限することなく実施可能であることは理解されるであろう。それ以外の場合、不要に本発明の要点を不明確化しないよう、周知の方法および構造については詳しく説明しない。
【0033】
一実施形態によれば、本発明の組成物は、本明細書で説明するようにセキスタペプチドを含有する。別の一実施形態によれば、本発明の組成物は、本明細書で説明するように結合型セキスタペプチドを含有する。あるいは、本発明の組成物は、本発明のセキスタペプチドまたは結合型セキスタペプチドのペプチド模倣薬を含有する。本発明の他の実施形態は、本明細書で説明するように、化学的に分解された植物抽出物を含有する。
【0034】
本発明の組成物は、線維芽細胞と基質(マトリックス)を支持する他の細胞とによる1若しくはそれ以上の細胞外マトリックス成分の合成を刺激する。例えば、本発明の組成物は、(これに限定されるものではないが、)エラスチンの主要な足場要素であるフィブリリンI、コラーゲンタイプI、II、およびIII、フィブロネクチン、コンドロイチン硫酸を含んだグリコサミノグリカン、エラスチン、およびリシルオキシダーゼなどの細胞外マトリックス成分の合成を刺激することができる。また、本発明の組成物は、細胞増殖と、平滑筋細胞におけるエラスチン生成とを刺激することもできる。
【0035】
本明細書でさらに説明するように、本発明の組成物は、組織内で弾性線維形成が増加した外観をもたらすことができる。本発明の一実施形態には、皮膚の外観の改善または向上に有用な、上述の合成セキスタペプチドまたはそのペプチド模倣薬、あるいは化学的に分解された植物抽出物を含有する治療薬組成物および化粧品製剤が含まれる。さらに本発明の組成物は、例えば皮膚で新しい結合組織の合成を誘発することにより、顔面のしわを改善する。これらの組成物は、別の実施形態によれば、皮膚の結合組織タンパク質を回復する上で使用される。
【0036】
本発明の一実施形態において、組成物は、皮膚における新しい弾性線維生成を促進するスキンケア化粧品または化粧品製剤として配合される。他の適切な製剤には、顔面のしわを改善する線維芽細胞の注射剤などが含まれる。患者の真皮線維芽細胞は生体外(インビトロ)で培養され、しわが見られる部位へ注射により再導入される。
【0037】
本発明には、本発明の組成物を使用する方法が含まれる。一実施形態において、真皮線維芽細胞の増殖および遊走と、弾性線維形成とを刺激する方法が提供され、この方法は、弾性線維形成の増した外観をもたらす上で十分な量の本発明の組成物を投与する工程を有する。別の実施形態では、弾性線維形成を刺激する上で十分な量の本発明の組成物を投与する方法が提供される。
【0038】
さらに別の実施形態は、本発明の組成物を治療有効量投与することにより、皮膚のしわやひだなどの早期老化を治療する方法を含む。さらに別の実施形態には、本発明の組成物を治療有効量投与することにより、(これに限定されるものではないが、)コステロ症候群、皮膚弛緩症、弾性線維性仮性黄色腫など皮膚内の弾性線維に影響を及ぼすエラスチン異常または遺伝的異常を治療する方法が含まれる。
【0039】
本明細書で説明するように、発明者らは、本発明の組成物が、ヒトの心臓から単離された間質細胞の培養において弾性線維形成を刺激することを示した。したがって、本発明はさらに心臓血管障害の治療において当該組成物を使用する方法を含み、これは弾性線維形成の刺激からもたらされる。例えば、本発明は、心筋梗塞後に形成された瘢痕で弾性線維の形成を刺激するため本発明の組成物を使用する方法を有する。心筋梗塞後の瘢痕がある患者の大半では、固く弾性のないコラーゲン線維が大部分を占める瘢痕が形成される。心筋梗塞後の心臓で間質細胞を局所的に刺激して弾性線維が生成されるようにすると、コラーゲン線維形成の危険性が軽減され、より強靭で耐久性のある瘢痕が形成されて、収縮性のある心筋に適合できる可能性が高まる。本発明の組成物は、低酸素の心臓組織に注入しても、局所的な酸素レベルには影響しない。そのため、本発明は、何百万もの同種異系細胞(エラスチン遺伝子を導入したCHO細胞など)が注入され、それらが生き残った心臓細胞と酸素を奪い合うことにより全体的に心筋梗塞後の心臓治癒が遅れてしまう他の実験プロトコールに対し、有利である。
【0040】
エラスチン
エラスチンは、結合組織の線維細胞から細胞間ネットワークへと分泌される。真皮の結合組織において、エラスチン線維は細くしなやかである。真皮に含まれるエラスチンは、乾燥重量で5%である。エラスチンは大きな繊維性タンパク質で、バネに似たらせん状フィラメントから形成される。これらのらせん状フィラメントは、伸張可能なペプチド鎖から成る。これらのペプチド鎖は、非常に特異的なアミノ酸、すなわちデスモシンおよびイソデスモシンがペプチド鎖間に結合することで互いに連結しあい、分子に網状の態様をもたらす。この架橋結合のおかげでこれらの分子は伸張してもまた元の形状に戻り、これが分子の弾性には不可欠である。
【0041】
エラスチンの生合成は胎児期に始まり成人期に終わる。その後、新しいエラスチンは生成されない。すると、弾性線維は老化に伴って次第に変質し、個々の断片に分離していく。皮膚は次第に弾性を失い、その結果しわが生じていく。弾性組織へのこの損傷は避けられないもので、自然に起こる(生理学的)老化過程の一部である。この過程は比較的早期に始まるが、40歳以降は著しく加速される。
【0042】
創傷治癒は複雑な生体過程であり、多種の細胞、多種のサイトカイン、細胞外マトリックス(extracellular matrix:ECM)、そして数多くの相互作用が関与する。大半の創傷は、1〜2週間ですばやく効率的に治癒するが、その結果は美的にも機能的にも完璧とはいえない。創傷治癒における創傷の収縮および瘢痕の形成は、現在避けることのできない結末である。瘢痕組織は通常の皮膚と比べ柔軟性がなく美的に外観を損ない、また創傷の収縮は関節障害につながる。瘢痕にはエラスチンが欠乏しており、不完全に再構成されたコラーゲンマトリックスから成り、その構造は無傷の真皮内に見られる機械的に効率のよいバスケット織り式の網構造ではなく、並行した束構造になっている。
【0043】
創傷の治癒時には、創傷の縁部から内側へ向かって新しい層状の表皮が再構築される。マトリックスの形成および再構築は、上皮の再形成と同時に始まる。以後数か月にわたり変化し続けるマトリックスにおいては、フィブロネクチンが徐々に排除され、残る瘢痕に引張強度を付与するコラーゲンが蓄積していく。組織に弾性をもたらすエラスチン線維は、ヒトの瘢痕では、傷害の数年後まで検出されない。
【0044】
これまで、創傷治癒を促進し瘢痕化を抑えるため、多数の方法が提案および試験されてきているが、依然として方法および組成物の改善が必要とされている。本発明の組成物で治療可能な創傷には、(これに限定されるものではないが、)皮膚創傷、角膜創傷、上皮層で内面を覆われた中空器官の損傷、および心筋梗塞後の心臓が含まれる。治療に適した創傷としては、熱傷、擦過傷、切り傷、褥瘡(床擦れ)、治癒しない静脈瘤性潰瘍および糖尿病性潰瘍、さらに切開や皮膚移植などの外科的処置で生じた創傷などの外傷が含まれる。一実施形態によれば、本発明の組成物、例えば化学的に分解された植物抽出物は、感染した創傷および潰瘍を治療する上で使用でき、その際、死にゆく細胞および細菌から放出されるタンパク質分解酵素が製剤内で更なるペプチド開裂を促進し、EBPL様ドメインを含んだより小さい弾性線維形成ペプチドを放出できるようになる。
【0045】
本発明の組成物によって傷害部位でエラスチン沈着を刺激すると、創傷治癒の促進に役立ち、同時に瘢痕化が抑えられる。初期、エラスチンの沈着が刺激されて損傷した組織がつなぎ合わされる。一部の実施形態によれば、エラスチン合成を刺激する本発明の組成物は、さらに、損傷組織の治癒を促進する線維芽細胞、内皮細胞、および炎症細胞の走化性誘引物質として作用する。瘢痕組織ではエラスチンが欠乏しており、エラスチンは無傷の皮膚にとって重要な成分であるため、傷害部位でエラスチンが合成されると瘢痕化も抑えられる。エラスチンがより多く合成されてマトリックス内に分泌されると、一般に、治癒過程に関与する細胞にとっても好適な環境がもたらされ、創傷治癒過程がさらに促進される。
【0046】
一実施形態によれば、本発明の組成物は、治療領域への線維芽細胞の遊走を刺激する。別の実施形態によれば、本発明の組成物は、線維芽細胞上のエラスチン受容体と相互作用してエラスチンの分泌(すなわち弾性線維形成)を刺激する。一実施形態において、本発明の組成物は創傷に適用され、長期、すなわち治癒過程の全期にわたり、または少なくとも新しい組織により創傷が閉じるまで、創傷と接触を保たれる。
【0047】
エラスチンは、ゴムに例えられる細形構造を特徴とする。エラスチンは、皮膚に極めて重要な弾性および張りをもたらすタンパク質である。これが減少すると皮膚はたるみ始め、小じわ、ひだ、しわが現れ、また増えていく。本発明は、弾性線維形成の刺激剤として、セキスタペプチド化合物、結合型セキスタペプチド、これらのうち一方のペプチド模倣薬、または化学的に分解された米ぬかを有する組成物を提供する。一部の実施形態によれば、この弾性線維形成の刺激は、本発明の組成物がエラスチン受容体と相互作用して真皮線維芽細胞および他の支持細胞の増殖を刺激し、それらが弾性線維形成特性を必要とする皮膚領域に遊走するよう促進することにより起こる。そのような皮膚領域としては、(これに限定されるものではないが、)創傷、たるみ、および/またはしわのある皮膚、伸張された皮膚、UVその他放射線または環境による損傷を受けた皮膚などがある。本発明の組成物は、真皮線維芽細胞における弾性線維形成を誘発し、エラスチン受容体との相互作用により、細胞から細胞外マトリックスへの不溶性エラスチン線維分泌を増加させる。このように、本発明は、真皮内で弾性成分の損失を補う組成物および方法を提供する。
【0048】
皮膚の老化は、それが環境による損傷(放射線や汚染など)により加速されたものであろうとなかろうと、真皮層の劣化、すなわち線維芽細胞の減少、コラーゲンの減少、エラスチンの減少、および循環支援の低下を招く。その結果、通常範囲の皮膚の伸張および収縮でも容易に修復できない真皮損傷につながり、しわ及び/又はたるみが生じてしまう。本発明は、真皮線維芽細胞の増殖を刺激し、弾性線維形成特性を必要とする領域への、その真皮線維芽細胞の遊走を刺激する方法および組成物を提供する。一部の実施形態によれば、本発明の組成物は、線維芽細胞上のエラスチン受容体と相互作用してエラスチンの分泌を刺激する。促進されたエラスチン沈着により皮膚の弾性および色調が改善されて、放射線(例えば、これに限定されるものではないが紫外線照射)又はその他の環境による損傷の効果が軽減される。
【0049】
弾性線維形成ペプチドまたはそのペプチド模倣薬
本発明の一実施形態によれば、植物に見られるタンパク質配列に由来する、またはそれに基づいた新規なペプチドが提供される。一実施形態によれば、本発明の組成物は、弾性線維形成が増加した外観をもたらす。他の実施形態において、当該組成物は、弾性線維の形成および真皮線維芽細胞の遊走を刺激する。一実施形態において、このような刺激は、本発明の組成物とエラスチン受容体との相互作用の結果もたらされるものである。一実施形態では、合成セキスタペプチドが提供され、これがエラスチン受容体と結合して弾性線維形成を刺激する。本発明のペプチドは、本明細書では「エラスチン結合タンパク質リガンド」または「EBPL」(elastin binding protein ligand)とも呼ばれる。
【0050】
本発明の一実施形態において、前記セキスタペプチドは配列X1−X2−X3−X4−X5−X6(配列ID番号3)を有し、ここでX1はVまたはIで、X2はGで、X3はAまたはLで、X4はMまたはSで、X5はPで、X6はGである。一実施形態において、本発明のセキスタペプチドはVGAMPG(配列ID番号4)、VGLSPG(配列ID番号5)、IGAMPG(配列ID番号6)、またはIGLSPG(配列ID番号7)を有する。
【0051】
さらに別の実施形態では、結合型セキスタペプチド(またはセキスタペプチド二量体)が提供され、ここで、本発明の2つのセキスタペプチドが1若しくはそれ以上の付加的な結合アミノ酸残基(「結合部分」)と結合する。一実施形態によれば、前記合成結合型セキスタペプチドは配列X1−X2−X3−X4−X5−X6,−X7−X1−X2−X3−X4−X5−X6(配列ID番号16)を有し、ここでX7は結合部分で、X1はVおよびIから独立に選択され、X2はGで、X3はAおよびLから独立に選択され、X4はMおよびSから独立に選択され、X5はPで、X6はGである。結合型セキスタペプチドの前記結合部分は、セキスタペプチド化合物がエラスチン受容体と相互作用し弾性線維形成を誘発する能力を維持し続ける限り、セキスタペプチドの結合に適すものとして当業者に知られたいかなる部分であってもよい。前記結合部分は、例えば(これに限定されるものではないが)少なくとも1つのアラニンまたは他の任意のアミノ酸、二硫化結合、カルボニル部分、炭化水素部分から成るものであってよく、これらは任意選択で1若しくはそれ以上の利用可能な炭素原子において低級アルキル置換基と置換される。この結合部分は、リジン残基またはリジンアミド、すなわちカルボキシル基がアミド部分−CONHに変換されたリジン残基であれば最適である。
【0052】
本発明の組成物は、リンカーで結合された2つのセキスタペプチドが異なるセキスタペプチドである結合型セキスタペプチドも含有することができる。
【0053】
一実施形態において、本発明の結合型セキスタペプチドは、VGAMPGAAAAAVGAMPG(配列ID番号8)、VGLSPGAAAAAVGLSPG(配列ID番号9)、VGVAPGAAAAAVGVAPG(配列ID番号10)、IGAMPGAAAAAIGAMPG(配列ID番号11)、またはIGLSPGAAAAAIGLSPG(配列ID番号12)を有する。本発明は、配列IGVAPGAAAAAIGVAPG(配列ID番号14)を有する結合型セキスタペプチドも提供する。本発明の別の結合型セキスタペプチドは、配列IGVAPG(配列ID番号13)を有し上記のようにリンカーで結合された2つのセキスタペプチドの配列を有する。
【0054】
本発明は、上述した任意の合成ペプチドの非ペプチド模倣薬または部分的なペプチド模倣薬も提供する。本発明の別の態様によれば、エラスチン受容体に結合し、真皮線維芽細胞の遊走を刺激し、また線維芽細胞の弾性線維形成を刺激する化合物が提供される。この化合物は化学式X1−X2−X3−X4−X5−X6(配列ID番号17)を有し、ここでX1はVまたはIあるいはVまたはIの模倣薬、X2はGまたはGの模倣薬、X3はAまたはLあるいはAまたはLの模倣薬、X4はMまたはSあるいはMまたはSの模倣薬、X5はPまたはPの模倣薬、そしてX6はGまたはGの模倣薬である。別の実施形態において、この化合物は化学式X1−X2−X3−X4−X5−X6−X7(配列ID番号18)を有し、ここでX7はアラニンを有する1若しくはそれ以上の結合アミノ酸残基であり、その結合アミノ酸残基は2つのセキスタペプチド化合物を互いに結合し、各セキスタペプチドはX1−X2−X3−X4−X5−X6(配列ID番号17)を有し、X1はVまたはIあるいはVまたはIの模倣薬、X2はGまたはGの模倣薬、X3はAまたはLあるいはAまたはLの模倣薬、X4はMまたはSあるいはMまたはSの模倣薬、X5はPまたはPの模倣薬、そしてX6はGまたはGの模倣薬である。
【0055】
本発明のさらに別の実施形態は、GXXPGペプチドのペプチド模倣薬に関する。一実施形態において、本発明のペプチドはペプチド模倣薬を生成するよう修飾され、この修飾は遺伝的にコードされた20のアミノ酸(またはDアミノ酸)を伴う1若しくはそれ以上の天然側鎖を他の側鎖、例えばアルキル、低級アルキル、4員か5員か6員か7員かの環状アルキル、アミド、アミド低級アルキル、アミドジ(低級アルキル)、低級アルコキシ、ヒドロキシ(水酸基)、カルボキシ、およびこれらの低級エステル誘導体、さらに4員か5員か6員か7員かの複素環といった基で置換することにより行われる。例えば、プロリン残基の環サイズを5員から4員、6員、または7員に変更したプロリン類縁体を生成することができる。環状基は飽和または不飽和であってよく、不飽和の場合、芳香族または非芳香族であってよい。複素環基は、1若しくはそれ以上の窒素、酸素、および/または硫黄のヘテロ原子を含んでよい。そのような基の例としては、フラザニル、フリル、イミダゾリジニル、イミダゾリル、イミダゾリニル、イソチアゾリル、イソオキサゾリル、モルホリニル(モルホリノなど)、オキサゾリル、ピペラジニル(1−ピペラジニルなど)、ピペリジル(1−ピペリジル、ピペリジノなど)、ピラニル、ピラジニル、ピラゾリジニル、ピラゾリニル、ピラゾリル、ピリダジニル、ピリジル、ピリミジニル、ピロリジニル(1−ピロリジニルなど)、ピロリニル、ピロリル、チアジアゾリル、チアゾリル、チエニル、チオモルホリニル(チオモルホリノなど)、トリアゾリルなどがある。これらの複素環基は、置換されていることも置換されていないこともある。基が置換されている場合、その置換基はアルキル、アルコキシ、ハロゲン、酸素、置換フェニル、または非置換フェニルであってよい。ペプチド模倣薬は、リン酸化、スルホン化、ビオチン化、または他の部分の追加若しくは除去により化学修飾したアミノ酸残基を有してもよい。
【0056】
ペプチド模倣薬であって、対応する天然ペプチドと同じまたは同様な望ましい生物活性を伴うが、加水分解またはタンパク質分解に対する溶解性、安定性、および/または感受性については前記天然ペプチドより好適な活性を備えたペプチド模倣薬を構築する際は、種々の技術を利用できる。例えば、Morgan&Gainor、Ann.Rep.Med.Chem.24:243−252(1989)を参照。ある種のペプチド模倣薬化合物は、本発明のペプチドのアミノ酸配列に基づいたものである。ペプチド模倣薬化合物は、選択されたペプチドの3次元構造に基づく3次元構造(「ペプチドモチーフ」)を有した合成化合物であることが多い。このペプチドモチーフは、望ましい生物活性を備えた、すなわちPIF受容体に結合するペプチド模倣薬化合物を提供し、その場合その模倣薬化合物の結合活性は実質的に低下せず、当該模倣薬のモデルとなった天然ペプチドの活性と同じであるかそれより大きいことが多い。ペプチド模倣薬化合物は、細胞透過性の増加、親和性(アフィニティ)および/または結合力(アビディティ)の増加、生物学的半減期の延長など治療用途を広げる追加特性を有することができる。
【0057】
ペプチド模倣薬の設計戦略は、本技術で容易に利用可能である。例えば、Ripka&Rich、Curr.Op.Chem.Biol.2:441−452(1998);Hruby et al.,Curr.Op.Chem.Biol.1:114−119(1997);Hruby&Balse、Curr.Med.Chem.9:945−970(2000)を参照。ペプチド模倣薬の1分類は、一部または完全に非ペプチドでありながらペプチド骨格を原子ごとに模倣し、天然アミノ酸残基の側基の機能性を同様に模倣する側基を有する骨格である。いくつかのタイプの化学結合、例えばエステル結合、チオエステル結合、チオアミド結合、カルボニル還元結合、ジメチレン結合、ケトメチレン結合は、一般に耐プロテアーゼ性ペプチド模倣薬の構築でペプチド結合に代用できるものとして有用なことが当該技術分野で知られている。別の分類のペプチド模倣薬は、別のペプチドまたはタンパク質に結合するが必ずしも天然ペプチドの構造的模倣薬ではない小さな非ペプチド分子を有するものである。さらに別分類のペプチド模倣薬は、コンビナトリアルケミストリーおよび大規模な化学ライブラリの構築から生成されたものである。これらは一般に新規なテンプレートを有し、それらのテンプレートは構造的に天然ペプチドと無関係ではあるが、元のペプチドの「地形的」模倣薬として作用するよう非ペプチドの足場上に必要な官能基が配置されている(Ripka&Rich、1998、上記参照)。
【0058】
化学的に分解された米ぬか抽出物
一実施形態によれば、組織での弾性線維形成を刺激し、または刺激すると見られる化学的に分解された植物抽出物が提供される。一実施形態では、そのような植物抽出物は米ぬかから取得される。本明細書で説明する化学的に分解された米ぬか抽出物は、ヒトのトロポエラスチン用に構築された抗体パネルに免疫反応性があることがわかった。さらに、可溶性米ぬかおよび不溶性米ぬか双方の化学分解生成物には、独特の架橋結合アミノ酸であるデスモシンが含まれていた(それぞれ1742/mgのタンパク質および1638/mgのタンパク質)。これらの特性から、米ぬかに1若しくはそれ以上のエラスチン様ペプチドが存在すると示唆される。したがって、本発明は、薬学的組成物と、化粧品製剤と、化学的に分解された米ぬか製剤とを含むこのようなエラスチン様ペプチド製剤を有し、さらに本明細書で説明する疾患を治療するためこのような製剤を有する組成物を使用する方法を有する。
【0059】
薬学的組成物
本発明の実施形態において、本発明の組成物は薬学的組成物へと製剤される。例えば、一実施形態では、皮膚への刺激が少なく、かつ皮膚への活性成分(有効成分)送達に適した局所基剤が使用される。さらに、適切な局所基剤は、活性成分の抗酸化剤活性を抑制せず、ひいては例えば突発的および日常的な紫外線照射により起こるフリーラジカルの損傷から皮膚を保護する上で、組成物の効率を損なわないものでなければならない。さらに、このような基剤は、皮膚への長期の局所投与に適すよう純度が十分高く毒性が十分低くなければならず、細菌が混入していてはならない。
【0060】
本明細書で説明する本発明の組成物は、ヒトの皮膚への局所投与に適した薬学的に許容される適切な任意の基剤に導入することができる。したがって、この薬学的に許容される基剤は、ヒトへの投与に適すよう純度が十分で毒性が十分低くなければならず、この基剤の含有量は一般に最高99.99%まで可能で、通常は少なくとも組成物全体の約80%とされる。このように、用語「薬学的に許容される」は、ヒトに投与した際、分子的実体および組成物がアレルギーまたはそれと同様な有害反応を生成しないことをいう。本組成物に使用される薬学的に許容される基剤および添加剤は、本発明の組成物に適合したものである。
【0061】
本明細書で使用する一般的な組成物は、多種多様な物理形態で提供される。その例としては、(これに限定されるものではないが)液剤、ローション剤、クリーム剤、オイル剤、ゲル剤、スティック剤、スプレー剤、軟膏剤、バーム剤、パッチ剤、パスタ剤などがある。一般に、このような基剤システムは、液剤、クリーム剤、乳剤、ゲル剤、固形剤、およびエアロゾル剤として説明できる。
【0062】
一般に、適切な局所組成物の調製には溶剤が使用される。そのような溶剤は水溶性または有機ベースであってよく、いずれの場合でも、上記の活性成分を分散または溶解させた状態で含有していなければならず、また利用者に対し刺激性のものであってはならない。一般的な水溶液は水であるが、適切な有機溶剤としては、プロピレングリコール、バタリオングリコール(battalion glycol)、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセロール、1,2,4−ブタントリオール、ソルビトールエステル、1,2,6−ヘキサントリオール、エタノール、イソプロパノール、ブタンジオール、およびこれらの混合物などがある。溶剤は、0.1%〜99%範囲の量で組成物全体に含めることができ、この範囲は2.0%〜75%であることが好ましい。本発明の組成物は、皮膚軟化剤(エモリエント剤)の形態で生成できることに注意すべきである。適切な皮膚軟化剤として知られているものは多種多様あり、本明細書での使用が可能である。これに関連して米国特許第5,296,500号を参照する(この開示はこの参照により本明細書に組み込むものとする)。
【0063】
あるいは、本組成物は、本発明のペプチド組成物、例えば本発明のセキスタペプチド、本発明の結合型セキスタペプチド、または本発明のセキスタペプチド若しくは結合型セキスタペプチドのペプチド模倣薬を約0.0002重量%〜約10重量%含むローション剤として製剤されることができる。あるいは、本明細書で説明する方法のいずれかなどで調製された米ぬか抽出物を約1〜10mg/mL含むローション剤を製剤することもできる。ローション剤およびクリーム剤は、乳剤および液剤として製剤できる。さらに、液剤基剤システムからクリーム剤として生成物を製剤することもできる。本発明の組成物を有するクリーム剤は、約0.1%〜15%、好ましくは1%〜5%の活性成分を含有することが好ましい。最終生成物には、最高10重量%、好ましくは0.001〜5重量%の活性成分を含めることができるが、これより濃縮または希釈された液剤を、量を増減させて使用できることは言うまでもない。例えば、眼用クリーム剤には約0.0012%(w/w)、顔用クリーム剤には約0.0003%(w/w)のセキスタペプチド化合物、結合型セキスタペプチド化合物、またはこれらのペプチド模倣薬を、賦形剤に含めることができる。
【0064】
本発明のペプチド組成物(0.0004%〜0.002%)および本発明の植物抽出物(約1〜10mg)を適切なクリーム剤、ローション剤、または軟膏剤の基剤に含めたものを局所的に適用すると、老化し、日焼けにより損傷し、または損傷した皮膚で弾性線維の回復に役立てることができる。
【0065】
本発明のペプチド組成物(0.0004%〜0.002%)および本発明の植物抽出物(約1〜10mg)を適切なクリーム剤、ローション剤、または軟膏剤の基剤に含めたものを局所的に適用すると、皮膚に血液を供給する小血管の収縮に起因した褥瘡または糖尿病性潰瘍を治癒させる目的で、皮膚内の既存の小血管を拡張させることができる。
【0066】
本発明のペプチド(10〜20μg/mL)または本発明の植物抽出物(1〜10mg/ml)は、新しい弾性線維形成を刺激してヒト心臓の心筋梗塞後の瘢痕に強度および弾性を付与する手段として、バルーン血管形成術中、冠動脈に注射し、または開心術中、心筋梗塞後の心筋瘢痕組織に直接注射することができる。
【0067】
植物抽出物は、粗薬としても化学精製した製剤としても、皮膚に血液を供給する小血管の収縮に起因する褥瘡または糖尿病性潰瘍を治癒させるための局所適用に使用できる。シュウ酸またはトリプシンで米ぬかを連続分解すると米ぬか製剤に含まれるペプチドの分子量が低下するため、発明者らは、死んだ細胞および(潰瘍化したむき出しの皮膚に常時混入してくる)細菌から放出される酵素により、大型の不溶性エラスチン様タンパク質でさえ最終的には一部分解されて、収縮した毛細血管の弛緩および拡張を刺激し新しいエラスチンを多く含んだ新しい細胞外マトリックスの生成を刺激する望ましいペプチドを送達するという仮説を立てた。
【0068】
マンガン塩(MnCl2、MnSO4、およびMnaPCA)および3価鉄(クエン酸第二鉄アンモニウム(Ferric Ammonium Citrate:FAC))は、それぞれ新しいトロポエラスチンの生成および新しい弾性線維の構築を刺激することが示されている。本発明の組成物は、マンガン構成要素および/または3価鉄構成要素をさらに含むよう製剤することができる。また、ナトリウムを含有する化合物は本発明の治療用組成物に適した添加剤である。ナトリウムは、弾性線維形成の刺激に関係すると見られている。銅は、リシルオキシダーゼ(トロポエラスチン分子を不溶性高分子であるエラスチンに架橋結合する酵素)の活性化因子であり、本発明の治療用組成物での使用に適したもう1つの添加剤である。
【0069】
本発明の組成物には、任意選択でマンガン成分を加えてもよい。このマンガン成分は任意のマンガン化合物またはその薬学的に許容される塩であってよいが、MnCl2、MnSO4、および/またはMnPCAであることが好ましく、その場合そのマンガン成分は通常約0.5〜10重量%、好ましくは約1〜8重量%、最も好ましくは約5〜7重量%の量で存在し、マンガンは複合体の約5〜20重量%の量で存在する。
【0070】
任意選択で、3価鉄成分(これに限定されるものではないが、塩化第二鉄アンモニウム(Ferric Ammonium Chloride:FAC)など)を本薬学的組成物に含めてもよい。この3価鉄成分は、新しい弾性線維形成を刺激し、弾性組織欠損の治療を助ける。この3価鉄は、当該組成物に含める場合、一般に約5〜20重量%の量で存在する。一実施形態において、この3価鉄成分は、当該組成物に対し、一般に約0.01〜5重量%、好ましくは約0.02〜3重量%、より好ましくは約0.03〜2重量%の量で存在する。
【0071】
任意選択で、ナトリウム成分またはその薬学的に許容される塩を本発明の薬学的組成物に含めることもできる。このナトリウム成分は、一般に当該複合体の約5〜20%の量で存在する。このナトリウム成分は、当該組成物に対し、一般に約1〜10重量%、または約5〜7重量%の量で存在する。
【0072】
当該薬学的組成物には銅成分も含めることができ、この銅成分は、任意の銅化合物またはその薬学的に許容される塩であってよい。この銅成分は、エラスターゼを抑制し、弾性組織欠損の治療を助ける。その銅化合物は、セバシン酸銅の形態であってよい。組成物に含める場合、この銅成分は、一般に前記銅化合物の約5〜20重量%の量で存在する。この銅成分は、当該組成物に対し、一般に約0.01〜5重量%、または約0.03〜2重量%の量で存在する。
【0073】
一実施形態としては、上述した活性成分をローション剤またはクリーム剤の水中油型乳剤または油中水型乳剤(化粧品分野ではどちらのタイプも非常によく知られている)として使うことが意図される。油中水型などの多相乳剤は、米国特許第4,254,105号で開示されている(この開示はこの参照により本明細書に組み込むものとする)。
【0074】
本発明の活性成分は、液剤の基剤システムから軟膏剤として製剤することがさらに意図される。軟膏剤は、動物油または植物油あるいは半固形炭化水素(脂肪性基剤)の単純な基剤を含有できる。軟膏剤は、水を吸収して乳剤を形成する吸水軟膏基剤を含有してもよい。軟膏基剤は水溶性であってもよい。軟膏剤は、1%〜99%の皮膚軟化剤に加え、約0.1%〜99%の増粘剤を含有することができる。ここでも、本明細書で使用する種々の軟膏剤、クリーム剤、およびローション剤の製剤をより完全に開示している米国特許第5,296,500号およびそれに含まれる引用文献を再び参照する。
【0075】
本組成物には、セキスタペプチド化合物またはそのペプチド模倣薬に対するエラスチン受容体の結合特性を妨げないものである限り、これに限定されるものではないが、抗炎症剤、日焼け止め剤(サンスクリーン/サンブロック)、タンパク質合成の刺激剤、細胞膜安定剤(カルニチン)、保湿剤、着色剤、乳白剤など、種々の任意選択の成分を1若しくはそれ以上含めることができる。
【0076】
この治療用組成物の付加的な成分としては、従来、化粧品その他のスキンケア組成物に使われてきた任意の適切な添加剤などを含めることができる。その例としては、これらに限定されるものではないが、アロエ、抗酸化剤、アズレン、蜜ろう、安息香酸、ベータカロチン、ステアリン酸ブチル、ショウノウ、ヒマシ油、カモミール、ケイ皮酸エステル、粘土、カカオ脂、ココナッツ油、キュウリ、ジヒドロキシアセトン(dihydroxyacetone、略称DHA)、エストロゲン、朝鮮人参、グルタミン酸、グリセリン、グリコール酸、保湿剤、ヒドロキノン、ラノリン、レモン、リポソーム、鉱油、モノベンゾン、核酸、オートミール、PABA、パンテノール、ワセリン、プロペリングリコール、ローヤルゼリー、海藻、シリカ、ラウリル硫酸硫黄ナトリウム、マンサク、亜鉛、酸化亜鉛、銅、ヒアルロン酸、シアバターなどがある。
【0077】
前記合成セキスタペプチド、合成結合型セキスタペプチド、それらのペプチド模倣薬、または化学的に分解された植物抽出物を含有する組成物は、レチノイン酸、賦形剤、または他の添加剤をさらに有する。例えば、レチノイン酸は、コラーゲン生成を刺激する作用があり、本発明の組成物への添加剤として有用である。
【0078】
トレチノイン、ビタミンE、銅イオンおよび/またはマグネシウムイオンの源、レチノール、銅ペプチド、および20種類のアミノ酸のいずれか1つなど、エラスチンを含む組織の弾性を改善する上で役立つ添加剤を、本発明の組成物に加えることもできる。このような組成物には、ミクロフィブリル(微小繊維)の足場へのトロポエラスチン沈着を誘発する添加剤と、形質転換成長因子ベータ1や銅(上記参照)などリシルオキシダーゼ活性を誘発する化合物とを加えることもできる。本発明の組成物には、治療にも生物学的にも適合した賦形剤を含めることができる。
【0079】
本製剤には、抗生物質、鎮痛剤、抗アレルギー性物質など他の活性成分も含めることができる。本製剤は、一般に、身体組織の望ましい領域に塗布するローション剤またはクリーム剤として皮膚に適用される。有効性を最適化するには、日光その他の照射を受けた後、または皮膚が傷害(創傷など)を受けた後で、本方法に従った治療をできるだけ早期に開始する必要がある。本製剤は、一般に、1日に1回または2回皮膚に適用される。本明細書の別項で説明するように、本組成物を使用すると、皮膚の加齢効果および/または光線による損傷を抑制および/または最小化するだけでなく、瘢痕(皮膚の肥厚性瘢痕など)を防止および/または治療することもできる。
【0080】
投与
製剤された時点で、液剤は、用量製剤に適合した態様で、治療効果がある量で投与される。これらの製剤は、直接的な局所投与(局所塗布)や、経皮パッチ(経皮貼布)による適用など種々の剤形で容易に投与できる。
【0081】
例えば、水溶液で局所投与する場合、患者に有毒作用を生じることなく、本発明の組成物を皮膚に直接使用することができる。あるいは、本発明の組成物は、混合前、必要に応じて適切な緩衝液に溶解または再懸濁することができる。
【0082】
一般に、各組成物および各投与プロトコールの最適な治療効果については、通常の実験で具体的な範囲を決定することができ、特定個人への投与は、その個人の疾患状態と初期投与への反応性とに応じて有効で安全な範囲内に調製される。
【0083】
治療対象の個人の疾患状態に応じ、若干の用量変更が必要になる。当該個人に対する適切な用量は、いかなる場合においても投与責任者が決定する。さらにヒトに投与する場合、製剤は、滅菌、発熱性、一般的な安全性および純度の基準をFDAの要求に応じて満たさなければならない。
【0084】
以下、本発明の種々の実施形態の考案および使用について詳述するが、本発明は、多種多様な特定の文脈で具体化できる応用可能な多数の発明概念を提供することを理解すべきである。本明細書に説明する具体的な実施形態は、本発明を考案および使用するため具体的な方法を単に例示したものであって、本発明の範囲を画定するものではない。当業者であれば、本明細書の説明を参照することにより、例示した実施形態および本発明の他の実施形態の種々の修正(変更)形態および組み合わせが明確に理解されるであろう。
【0085】
本発明の組成物は、エラスチンの合成および沈着を誘発し、通常のヒト真皮線維芽細胞において細胞増殖を誘発する。培養組成物における以下の効果は、以下の実施例を参照することでより理解される。
【0086】
実施例1
試薬。CGS Group,Inc.から可溶性および不溶性の米ぬかを入手した。VGVAPGは、Sigma(米国ミズーリ州St.Louis)から入手した。EBPL−1(VGVAPGAAAAAVGVAPG)(配列ID番号10)、EBPL−2(IGVAPG)(配列ID番号13)、およびEBPL−3(IGVAPGAAAAAIGVAPG)(配列ID番号14)は、EZBIOLAB,Inc.による発明者らの設計に基づき有機的に合成した。ペプチドはすべて95%の純度で合成した。
【0087】
化学的に分解された可溶性米ぬかの調製。1グラムの可溶性米ぬか(Nutri Select Soluble−Nutri Rice CDG Group Inc.)を、80%エタノールで希釈した40mlの1M NaOHに懸濁し、1時間培養した。次に、この製剤を4000rpmで10分間遠心分離し、ペレットを20mlの蒸留水で再懸濁し、蒸留水で一晩透析(MWCO 2000)したのち、凍結乾燥した。次に、その生成物を5mlの0.25Mシュウ酸で再懸濁し、1時間沸騰させた。4000rpmで10分間遠心分離した後、その上清NO.1を回収し、残りのペレットを5mlの0.25Mシュウ酸で再懸濁し、沸騰させた。この手順を、物質全体が溶解するまで3回繰り返した。その結果得られたすべての上清を上清NO.1と合わせ、蒸留水を5回替えて透析したのち、凍結乾燥した。その結果得られた130mgの水溶性白色粉末(化学的に分解された米ぬか(chemically digested rice bran:CDRB))は、純粋なタンパク質を5mg含有していた。代替方法として、米ぬか試料はアミラーゼで分解したのち(デンプンを除去するため)、非架橋結合したタンパク質を可溶化するため臭化シアン(Cyanogen Bromide:CNBr)で処理した。
【0088】
ウェスタンブロット。可溶性および不溶性の米ぬか双方を3,000Daろ過膜でろ過し、それぞれの試料20μgをSDS−PAGE電気泳動で分離し、ニトロセルロースに移した。このニトロセルロースに、抗エラスチン抗体と、抗VGVAPG(BA4)抗体と、AKAAAKAAAKA(配列ID番号15)用に構築された抗体(4つのリジンからのデスモシンで架橋結合を形成し結合するトロポエラスチン上のドメイン)とでウェスタンブロッティングを行った。Starcher,B.、Conrad,N.、Hinek,A.、およびHill,C.H.によるConnect.Tissue Res.1999;40:273−82(1999)を参照。
【0089】
細胞培養。可溶性米ぬか、不溶性米ぬか、VGVAPG、EBPL−1、EBPL−2、およびEBPL−3の生物学的効果を、年齢の異なる複数の健常な白人女性から得られた皮膚線維芽細胞の培養で試験した。化学的に分解された米ぬか(CDRB)の生物学的効果を、37歳の白人女性の健常な皮膚をパンチ生検して得られた皮膚線維芽細胞の培養で試験した。まず、すべての線維芽細胞を皮膚外植体外に遊走させて単離したのち、トリプシン処理により継代させ、α−MEM(アルファ最小必須培地、alpha−minimum essential medium)培地に20mMのHEPES、1%の抗生物質および抗かび物質、1%のL−グルタミン酸塩、および2%のウシ胎仔血清(fetal bovine serum:FBS)を補ったもので維持した。全実験では、CDBRを使ったものを除き、第3〜7代の連続継代細胞を試験した。細胞は、VGVAPG(配列ID番号1)(5μg/mL)、EBPL−2(5μg/mL)、およびEBPL−3(10μg/mL)の存在下および不在下で培養した。CDRBの第3継代細胞を使った実験では、細胞をプレートに密集させて(50×106細胞/皿)迅速に密集度を高めたのち、25μg/mlのCDRBの存在下(1日目および3日目に加えた)および不在下で7日間培養した。
【0090】
弾性線維沈着の評価。ECMを豊富に生成する、7日目の線維芽細胞の密集培養を使用した。すべての培養物を、−20℃に冷却した100%メタノールで30分間固定し、1%の正常ヤギ血清(normal goat serum:NGS)でブロックしたのち、2μg/mlのトロポエラスチン用ポリクローナル抗体で1時間培養した。次いですべての培養物を適切なフルオレセイン結合二次抗体(GAR−FITC)でさらに1時間培養した。核をヨウ化プロピジウムで対比染色した。上記のとおり、細胞外マトリックス成分を認識する抗体で免疫染色した培養物を、コンピュータ制御のビデオ解析システム(Image−Pro Plus 3.0ソフトウェア、Media Cybernetics(米国メリーランド州Silver Spring))を使って形態計測解析した。平均および標準偏差が計算され、ANOVA統計解析が実行された。
【0091】
結果および考察。トロポエラスチン用ポリクローナル抗体と、エラスチンのVGVAPG(配列ID番号1)配列および立体的に類似した別のGXXPG(配列ID番号2)疎水性ドメインを認識するモノクローナル抗体BA4とでウェスタンブロットを行ったところ、可溶性米ぬかおよび不溶性米ぬかの双方にトロポエラスチン様のエピトープおよび他のGXXPG(配列ID番号2)配列が含まれていることが示された。AKAAAKAAAKA用に構築された抗体で付加的に行ったイムノブロッティングでも、このドメインはトロポエラスチンに特有で、化学的に分解された米ぬか製剤にも存在することが示された(図10)。上記の結果等に基づくと、本発明の米ぬか製剤は、エラスチン様のペプチドを含むと見られる。
【0092】
ろ過した(<3,000Da)可溶性および不溶性の米ぬかを真皮線維芽細胞とともに培養したところ、これら双方の製剤が、インビトロで弾性線維の沈着を誘発できることが明らかになった(図1)。図1は、44歳の女性から得られたヒト真皮線維芽細胞を、可溶性または不溶性の米ぬか(<3,000Da)の存在下または不在下で7日間維持した一次培養物を示したものである。細胞は、抗トロポエラスチン抗体およびフルオレセイン結合二次抗体(GAR−FITC)で固定および免疫染色した。
【0093】
上記でエラスチン受容体(エラスチン結合タンパク質)リガンドがProK−60(ウシ項靱帯タンパク質分解生成物)に存在し、弾性線維形成を刺激することができると示したことから、VGVAPG(配列ID番号1)に類似し、また細胞表面エラスチン受容体の主要成分であるエラスチン結合タンパク質のリガンドとして作用する可能性のある、短い略同一の配列をBLASTで検索した。この検索により、コメ(Oryza sativa)から得られるタンパク質内のEBPL配列VGAMPG(配列ID番号4)、VGLSPG(配列ID番号5)、IGAMPG(配列ID番号6)、IGLSPG(配列ID番号7)、およびIGVAPG(配列ID番号1)が見出された。IGVAPG(配列ID番号13)(EBPL−2)と、そのデュプレックスポリマーIGVAPGAAAAAIGVAPG(配列ID番号14)(EBPL−3)との双方を有機的に合成したのち、真皮線維芽細胞の一次培養物で試験した。研究者らは、これらの合成ペプチドがどちらも細胞表面のエラスチン受容体と相互作用でき、それによりVGVAPG(配列ID番号1)のように弾性線維形成を刺激できる3次元の折り畳み構造に自発的に変化するという仮説を立てた。理論に制約されることは不本意であるが、上記の実験から、すべての合成EBPLは、細胞表面エラスチン受容体との相互作用(EBP=elastin binding protein(エラスチン結合タンパク質))を通じて、用量に依存した態様で弾性線維形成を刺激したと見られる。
【0094】
試験済み試薬の存在下で培養した真皮線維芽細胞の7日齢の一次培養物を抗エラスチン抗体で免疫染色したところ、新しい合成ペプチドEBPL−2およびEBPL−3はVGVAPG(配列ID番号1)またはダブレットVGVAPGAAAAAVGVAPG(配列ID番号10)(EBPL−1)を含んだ合成ペプチドで処理した培養物において得られたレベルを超えて、弾性線維形成を誘発できることが示された(図2)。図2は、38歳および44歳の女性から得られたヒト真皮線維芽細胞を、VGVAPG(配列ID番号1)(5μg/mL)、EBPL−2(5μg/mL)、およびEBPL−3(10μg/mL)の存在下または不在下で7日間維持した一次培養物を示したものである。細胞は、抗トロポエラスチン抗体およびフルオレセイン結合二次抗体(GAR−FITC)で固定および免疫染色した。興味深いことに、VGVAPG(配列ID番号1)およびEBPL−1で刺激された線維芽細胞は、対照レベルより高レベルで非常に細い細胞外弾性線維を示した一方、EBPL−2およびEBPL−3で処理した培養物は、太い細胞外弾性線維の沈着を示した。これらの結果は、コメ由来の配列を反映した合成ペプチドが弾性線維形成を強力に刺激し、米ぬかから抽出した粗タンパク質に暴露した培養物において得られた上記の効果を正当化することを示している。
【0095】
これらの予備的データから、(エラスチン様の米ぬかから得られたタンパク質で検出されたエラスチン受容体結合ドメインを模倣するIGVAPG(配列ID番号13)配列を含む)EBPL−2およびEBPL−3の双方が、細胞表面エラスチン受容体との相互作用を通じて、真皮線維芽細胞での弾性線維形成を誘発することが示唆される。完全長のトロポエラスチンまたはトロポエラスチンのエクソンを反映した高分子構造と対照的に、低分子量の合成ペプチドEBPL−2およびEBPL−3(表皮経由でより容易に侵入できる)は、弾性線維の回復を目的とした局所化粧用の適切な老化防止クリーム剤/ローション剤として製剤することが可能な新規性のある生物活性成分を構成することができると発明者らは提案する。
【0096】
実施例2
培養した線維芽細胞から生成された代謝標識トロポエラスチンにより、またそれが結果的に、弾性線維の主成分である不溶性エラスチンに組み込まれたことにより、新しい弾性線維の生成も観察された。線維芽細胞はプレートに密集させ(50×105/皿)、10cmの細胞培養皿で4皿ずつ(4皿一組で)密集するまで成長させた。各皿に、20μCiの[3H]−バリンとともに新鮮な培地を加えた。次に培養物を72時間培養し、各培養物で別個に不溶性エラスチンを評価した。培地を取り除いた後、細胞の層および沈着した細胞外マトリックスを0.1NのNaOH内でこすり取り、遠心分離により沈殿させ、0.5mLの0.1N NaOHで45分間沸騰させて、エラスチン以外の全マトリックス成分を可溶化させた。その結果得られた不溶性エラスチンを含むペレットを、200μLの5.7N HClで1時間沸騰させて可溶化させ、その一定分量をシンチレーション液と混合して計数した。
【0097】
図3は、真皮線維芽細胞の培養物中で新たに沈着した不溶性エラスチンに[3H]−バリンを加えた場合の定量的評価を示したものである。線維芽細胞の培養物を、GXXPGを含むペプチド単独で、また銅、マンガン、および鉄の塩と組み合わせて、6日間、毎日刺激した。これらの結果では、インビトロでは、金属塩を加えると、ペプチドに誘発される不溶性弾性線維の沈着が促進されることが示されている。
【0098】
図4は、CDRBの存在下および不在下における、7日齢の真皮線維芽細胞の培養物でのエラスチン沈着を示したものである。CDRB処理した培養物は、対照培養物と比べ、より多くのトロポエラスチン(細胞内で検出される)を合成し、より多くの細胞外弾性線維を沈着させる。
【0099】
実施例3
7日齢の線維芽細胞培養物および抗トロポエラスチン抗体の免疫細胞化学的相互作用により、皮膚線条のある女性患者から得られた真皮線維芽細胞は、前記化学的に分解された米ぬか(CDRB)で処理した場合、有意により多くの弾性線維を生成することが示された。また、CDRB処理した線維芽細胞は、細胞内ゴルジ画分(ゴルジ区画)において、未処理の対照線維芽細胞より多く免疫検出可能なトロポエラスチンを生じることも示した。
【0100】
CDRBの予備的な免疫特徴付け(immunocharacterization)ではポリクローナルエラスチン抗体との免疫反応性が示され、これによりCDRBが、哺乳類エラスチンに見られるものに類似した二次構造を含む可能性が示唆される。
【0101】
データは、コメを基にしたペプチドが、ProK−60より効力のある(>500%)弾性線維形成誘導剤であることを実証している。これは、間接的な免疫蛍光測定により確認された。結果は、不溶性エラスチンのノーザンブロットおよび代謝標識で確認された(データは図示せず)。
【0102】
実施例4
エラスチンおよびラミニンに見られる一般的なEBP結合GXXPG(配列ID番号2)モチーフを反映するものでもある日本米の転写因子を求めるため、BLAST検索(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)を使ってアミノ酸配列中のIGVAPG(配列ID番号13)ドメインを特定した。RT−PCRを使い、本発明のペプチドによるエラスチン遺伝子の転写を測定した。図5は、合成ヘキサペプチドIGVAPG(配列ID番号13)(コード名:EBPL−2(登録商標))が、成人の真皮線維芽細胞を培養したものに含まれるVGVAPG(配列ID番号1)のように、エラスチン遺伝子の転写を増加させたことを示している。EBPL−2およびVGVAPG(配列ID番号1)の双方が、血清を含まない培地に維持した成人の真皮線維芽細胞の転写を刺激したという事実は、どちらのペプチドも弾性線維形成の一次刺激剤であったことを示している。また、観測されたより高レベルのエラスチンmRNAが、実際に、より高レベルのトロポエラスチンタンパク質(エラスチンの単量体前駆体)に翻訳されることも発見された。
【0103】
実施例5
EBPL−2およびVGVAPG(配列ID番号1)の存在下で成人の真皮線維芽細胞を7日間培養することにより、より増強されたレベルの細胞内および細胞外トロポエラスチンが得られ、これが抗トロポエラスチン抗体での免疫細胞化学的染色により確認された(図6)。(A)図6(A)に示したように、EBPL−2およびVGVAPG(配列ID番号1)で処理した成人の真皮線維芽細胞は、免疫検出可能なトロポエラスチンの定量的形態計測解析による評価において、対照培養物より最大710%および457%多いトロポエラスチンをそれぞれ生成した。EBPL−2で処理した線維芽細胞は、ProK−60で誘発された最大レベルより最大141%多いトロポエラスチンを生成した。(B)対照物質ProK−60(25μg/mL)、EBPL−2(25μg/mL)、およびVGVAPG(配列ID番号1)(10μg/mL)で処理した成人の真皮線維芽細胞の代表的なトロポエラスチン免疫染色。興味深いことに、EBPL−2で刺激された線維芽細胞は、VGVAPG(配列ID番号1)で培養された対照物質より高い正味のトロポエラスチン沈着を示した。
【0104】
EBPL−2が効率的にトロポエラスチン生成を刺激したことから、次にこの単量体前駆体が弾性線維の主成分である架橋結合した不溶性エラスチンに効率的に導入可能かどうかを試験した。培養した真皮線維芽細胞を[3H]−バリンで代謝標識したのち、NaOH不溶性エラスチン(DNA含有量で正規化)のアッセイを行った結果、EBPL−2またはそのアセチル化バージョンの存在下で7日間維持した線維芽細胞は、エラスチンをより多く生成することが示された(図7)。EBPL−2のN末端をアセチル化すると、EBPL−2の生物活性が促進されるように見られたが、統計的には、EBPL−2をアセチル化しなかった場合と異ならなかった。他方、EBPL−2のC末端をアミド化したところ、EBPL−2の生物活性は皆無になったため、EBPへの結合および弾性線維形成の誘発を可能にするEBPL−2の二次構造全体に、C末端のグリシンが不可欠であることが示された。新たに沈着した不溶性エラスチン(培養皿ごとに得られた結果を表現したもの)を付加的に定量化したところ、代謝標識した不溶性エラスチンにおいてさらに多くの驚くべき正味増加が実証された(図8)。
【0105】
この計算の結果は培養物あたりの不溶性エラスチンの正味沈着に対するEBPL−2のより意義深い効果を示しており、EBPL−2がVGVAPG(配列ID番号1)と同様に細胞増殖を刺激するという仮説につながる。この仮定は、細胞増殖の直接的な定量化においてEBPL−2およびVGVAPG(配列ID番号1)で処理した真皮線維芽細胞で[3H]−チミジンを導入した対照実験よりも高い数値が示されたことにより、後日確認された。
【0106】
実施例6
別個の一連の実験において、米ぬかのタンパク質抽出物から、真皮線維芽細胞の培養物において弾性線維形成を誘発することのできるGXXPG様の活性配列が見出されるかどうかも試験した。まず、ウェスタンブロッティングにより、米ぬかの不溶性分画および可溶性分画が、抗トロポエラスチン抗体および抗VGVAPG抗体に対し免疫反応性のあるGXXPG(配列ID番号2)エピトープを含有することを実証した。さらに、エラスチン様のNaOH不溶性タンパク質を多く含む米ぬかの化学分解生成物も、同様な結果を示すことがわかった。最後の実験では、培養した成人の真皮線維芽細胞により、米ぬか由来のすべての製剤がトロポエラスチン沈着を促進することが明らかになった(図9)。
【0107】
実施例7
以下の手順は、本発明の範囲を限定するよう意図されたものではないが、化学的に分解された米ぬかの抽出物を調製するため使用された。
【0108】
プロトコールA
−50グラムの可溶性米ぬか(Nutri Rice CDC Group Inc.)
−160mlの80%エタノール+40mlのアセトンに溶解
−37℃で30分間培養し、上清を破棄してペレットを保存
−蒸留水で希釈した100mlの1M NaOHに、前記ペレットを溶解
−60分間沸騰
−4000rpmで10分間遠心分離し、上清を破棄
−蒸留水で4回前記ペレットを洗浄
−前記ペレットを100mlの0.25Mシュウ酸に溶解
−60分間沸騰
−4000rpmで10分間遠心分離。 上清1を回収
−前記ペレットを100mlの0.25Mシュウ酸に溶解
−60分間沸騰
−4000rpmで10分間遠心分離。 上清2を回収
−残りの前記ペレットを50mlの0.25Mシュウ酸に溶解
−60分間沸騰
−4000rpmで10分間遠心分離。 上清3を回収
−回収した上清1、2、3を合わせる
−蒸留水を5回替えて透析
−凍結乾燥
−最終粉末:230mg、純粋なタンパク質の濃度:0.342μg/mg
【0109】
プロトコールB
−50グラムの不溶性米ぬか(Nutri Rice CDC Group Inc)
−160mlの80%エタノール+40mlのアセトンに溶解
−37℃で30分間培養し、上清を破棄してペレットを保存
−蒸留水で希釈した400mlの1M NaOHに、前記ペレットを溶解
−60分間沸騰
−蒸留水で希釈した100mlの1M NaOHを加える
−60分間沸騰
−4000rpmで10分間遠心分離し、上清を破棄
−蒸留水で4回前記ペレットを洗浄
−前記ペレットを300mlの0.25Mシュウ酸に溶解
−60分間沸騰
−4000rpmで10分間遠心分離。 上清1を回収
−前記ペレットを200mlの0.25Mシュウ酸に溶解
−60分間沸騰
−4000rpmで10分間遠心分離。 上清2を回収
−残りの前記ペレットを150mlの0.25Mシュウ酸に溶解
−60分間沸騰
−4000rpmで10分間遠心分離。 上清3を回収
−回収した上清1、2、3を合わせる
−蒸留水を5回替えて透析
−凍結乾燥(96時間)
−最終粉末:201mg、純粋なタンパク質の濃度:8.89μg/mg
【0110】
プロトコールC
−100mgの抽出済み可溶性米ぬかペレット
−5mlのアミラーゼに溶解(1000U/ml)
−37℃で72時間培養し、振盪
−1500rpmで10分間遠心分離
−上清を回収
−蒸留水を3回替えて透析
−凍結乾燥
−最終粉末を200μlの蒸留水に溶解、純粋なタンパク質の濃度1.42μg/μl
【0111】
プロトコールD
−100mgの抽出済み不溶性米ぬかペレット
−10mlのアミラーゼに溶解(1000U/ml)
−37℃で72時間培養し、振盪
−1500rpmで10分間遠心分離
−上清を回収
−蒸留水を3回替えて透析
−凍結乾燥
−最終粉末を200μlの蒸留水に溶解、純粋なタンパク質の濃度0.16μg/μl
【0112】
プロトコールE
−10グラムの可溶性米ぬか(Nutri Rice CDC Group Inc.)
−10グラムの不溶性米ぬか(Nutri Rice CDC Group Inc.)
−40mlのアミラーゼに溶解(1000U/ml)
−37℃で5日間培養し、振盪
−蒸留水を3回替えて透析
−40mlの80%エタノール+10mlのアセトンを加える
−37℃で30分間培養
−4000rpmで10分間遠心分離し、ペレットを保存
−蒸留水で希釈した40mlの1M NaOHに、前記ペレットを溶解
−60分間沸騰
−4000rpmで10分間遠心分離し、上清を破棄
−蒸留水で4回前記ペレットを洗浄
−前記ペレットを40mlの0.25Mシュウ酸に溶解
−60分間沸騰
−4000rpmで10分間遠心分離。 上清1を回収
−前記ペレットを40mlの0.25Mシュウ酸に溶解
−60分間沸騰
−4000rpmで10分間遠心分離。 上清2を回収
−残りの前記ペレットを20mlの0.25Mシュウ酸に溶解
−60分間沸騰
−4000rpmで10分間遠心分離。 上清3を回収
−回収した上清1、2、3を合わせる
−蒸留水を5回替えて透析
−凍結乾燥(96時間)
−最終粉末のうち5mgを100μlの蒸留水に溶解
タンパク質の濃度:可溶性米:3.44μg/μl
不溶性米:0.217μg/μl
【0113】
プロトコールF
−3グラムの可溶性米ぬか(Nutri Rice CDC Group Inc.)
−3グラムの不溶性米ぬか(Nutri Rice CDC Group Inc.)
−70%のギ酸を用意し、それに窒素の気泡を通過させて、酸素を除去(CNBrは酸素の存在下で作用しないため)
−ドラフト内で、使い捨てチューブを使って2グラムの臭化シアン(CNBr)を秤量し、ギ酸に溶解して40mlの溶液を調整(50mg/ml)
−20mlの溶液を、3グラムの可溶性米ぬかおよび3グラムの不溶性米ぬかにそれぞれ加える
−ふたを閉じ、ドラフト内に放置して一晩分解
−翌日、沸騰水を使って、ドラフト内で分解生成物を5回洗浄
−ドラフト内において、3300rpmで10分間遠心分離
−ペレットを保存
−ペレットの半分を凍結乾燥
−残りの半分を20mlの1M NaOHに溶解し、60分間沸騰
−可溶性米ペレット:30mlの蒸留水を加え、蒸留水を3回替えて透析
−凍結乾燥
−不溶性米ペレット:
−蒸留水で3回洗浄
−蒸留水を3回替えて透析
−凍結乾燥
−各最終粉末を2mgずつ、100μlの蒸留水に溶解
タンパク質の濃度:
1,CNBrで分解された可溶性米:3.7μg/μl
2,CNBrで分解された不溶性米:範囲外
3,CNBr+NaOH可溶性米:範囲外
4,CNBr+NaOH不溶性米:7.03μg/μl
【0114】
プロトコールG
−出発物質:1グラムの可溶性米ぬか(Nutri Select Soluble−Nutri Rice CDG Group Inc.)
−80%エタノールで希釈した40mlの1M NaOHに溶解
−4000rpmで10分間遠心分離し、ペレットを保存
−20mlの蒸留水にペレットを溶解
−蒸留水で一晩透析(MWCO 2000)
−凍結乾燥(48時間)
−凍結乾燥した粉末を5mlの0.25Mシュウ酸に溶解
−1時間沸騰
−4000rpmで10分間遠心分離
上清1を回収
−前記ペレットを5mlの0.25Mシュウ酸に溶解
−1時間沸騰
−4000rpmで10分間遠心分離
上清2を回収
−残りの前記ペレットを5mlの0.25Mシュウ酸に溶解
−1時間沸騰
−4000rpmで10分間遠心分離
上清3を回収
−回収した上清1、2、3を合わせる
−水を5回替えて透析
−凍結乾燥(48時間)
【0115】
アミラーゼで分解した可溶性および不溶性の米ぬか製剤は、どちらもヒトトロポエラスチン用に構築された抗体に反応するタンパク質を含んでいる(図10)。また、前記可溶性米ぬか製剤は、トロポエラスチンに検出される独特のAKAAAKAAAKA(配列ID番号15)ドメインを伴うペプチドも含んでいる。
【0116】
抗トロポエラスチン抗体によるウェスタンブロッティングでは、CNBrによる米ぬか製剤の分解生成物の試料が、ヒト70−kDaトロポエラスチンおよびその分解生成物に類似した免疫反応性のあるタンパク質を含むことが実証された(図11)。1:可溶性米ぬかの臭化シアンによる分解生成物。2:不溶性米ぬかの臭化シアンによる分解生成物。3:エラスチンを生成するヒト線維芽細胞の培養物からの抽出物。
【0117】
実施例8
図12は、10日齢のヒト(44歳女性)皮膚外植体の器官培養物をモバットペンタクローム(Movat pentachrome)染色したものの代表的な顕微鏡写真である。EBPL−2で処理した培養物は、表皮基底層から遊走してきた細胞(上方パネル)およびより深部の真皮領域に局在する筋線維芽細胞(下方パネル)により生成された弾性線維をより多く含有していた(黒い染色部)。
【0118】
実施例9
EBPL−2は、ヒト皮膚生検の器官培養物において既存の毛細血管を刺激し拡張させる。図13は、EBPL−2での治療により、毛細血管(その周皮細胞で弾性線維が生成される)の拡張が誘発されることを実証する複数の顕微鏡写真を示したものである。
【0119】
EBPLペプチドはヒト心臓の間質細胞において弾性線維形成を刺激する。図14の顕微鏡写真は、合成EBPLペプチドが、ヒトの心臓から単離された間質細胞による弾性線維の生成を著しく増加させることを実証している。
【0120】
以上、特定の好適な実施形態を参照して本発明を詳しく説明したが、他の変形例も可能である。したがって、添付の請求項の要旨は以上の説明および本明細書内の好適な変形例に限定されるものではない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列X1−X2−X3−X4−X5−X6(配列ID番号3)を有する合成セキスタペプチド(sextapeptide)であって、
X1はVまたはIであり、
X2はGであり、
X3はAまたはLであり、
X4はMまたはSであり、
X5はPであり、
X6はG
である合成セキスタペプチド。
【請求項2】
請求項1記載の合成セキスタペプチドにおいて、この合成セキスタペプチドは、VGAMPG(配列ID番号4)と、VGLSPG(配列ID番号5)と、IGAMPG(配列ID番号6)と、IGLSPG(配列ID番号7)とからなる群から選択されるものである、合成セキスタペプチド。
【請求項3】
請求項1記載の合成セキスタペプチドにおいて、当該合成セキスタペプチドは、組織内において弾性線維形成が増加した外観を提供するものである、合成セキスタペプチド。
【請求項4】
請求項1記載の合成セキスタペプチドにおいて、このセキスタペプチドは、弾性線維形成を刺激するものである、合成セキスタペプチド。
【請求項5】
配列X1−X2−X3−X4−X5−X6,−X7−X1−X2−X3−X4−X5−X6(配列ID番号16)を有する合成結合型セキスタペプチドであって、
X7は結合部分であり、
X1はVおよびIから独立に選択されるものであり、
X2はGであり、
X3はAおよびLから独立に選択されるものであり、
X4はMおよびSから独立に選択されるものであり、
X5はPであり、
X6はG
である合成結合型セキスタペプチド。
【請求項6】
請求項5記載の合成結合型セキスタペプチドにおいて、この合成結合型セキスタペプチドは、VGAMPGAAAAAVGAMPG(配列ID番号8)と、VGLSPGAAAAAVGLSPG(配列ID番号9)と、IGAMPGAAAAAIGAMPG(配列ID番号11)と、IGLSPGAAAAAIGLSPG(配列ID番号12)とからなる群から選択されるものである、合成セキスタペプチド。
【請求項7】
請求項5記載の合成結合型セキスタペプチドにおいて、当該結合型セキスタペプチドは、組織内において弾性線維形成が増加した外観を提供するものである、合成セキスタペプチド。
【請求項8】
請求項5記載の合成結合型セキスタペプチドにおいて、この結合型セキスタペプチドは、弾性線維形成を刺激するものである、合成セキスタペプチド。
【請求項9】
配列X1−X2−X3−X4−X5−X6(配列ID番号3)を有する合成セキスタペプチドを含有する組成物を治療有効量投与する工程を有する、弾性線維形成を刺激する方法であって、
X1はVまたはIであり、
X2はGであり、
X3はAまたはLであり、
X4はMまたはSであり、
X5はPであり、
X6はG
である弾性線維形成を刺激する方法。
【請求項10】
治療有効量の請求項1記載の合成セキスタペプチドを含有する薬学的組成物であって、
当該治療有効量の当該合成セキスタペプチドは、弾性線維形成を刺激するものである、薬学的組成物。
【請求項11】
治療有効量の請求項5記載の結合型セキスタペプチドを含有する薬学的組成物であって、
当該治療有効量の当該合成結合型セキスタペプチドは、弾性線維形成を刺激するものである、薬学的組成物。
【請求項12】
請求項10記載の薬学的組成物において、この治療用組成物は、真皮線維芽細胞の増殖と、その真皮線維芽細胞の皮膚領域への遊走とを刺激するものである、薬学的組成物。
【請求項13】
請求項11記載の薬学的組成物において、この治療用組成物は、真皮線維芽細胞の増殖と、その真皮線維芽細胞の皮膚領域への遊走とを刺激するものである、薬学的組成物。
【請求項14】
請求項10記載の薬学的組成物において、前記セキスタペプチドは、VGAMPG(配列ID番号4)と、VGLSPG(配列ID番号5)と、IGAMPG(配列ID番号6)と、IGLSPG(配列ID番号7)とからなる群から選択されるものである、薬学的組成物。
【請求項15】
請求項11記載の薬学的組成物において、前記結合型セキスタペプチドは、VGAMPGAAAAAVGAMPG(配列ID番号8)と、VGLSPGAAAAAVGLSPG(配列ID番号9)と、IGAMPGAAAAAIGAMPG(配列ID番号11)と、IGLSPGAAAAAIGLSPG(配列ID番号12)とからなる群から選択されるものである、薬学的組成物。
【請求項16】
配列IGVAPG(配列ID番号13)を有する合成セキスタペプチドを含有する組成物。
【請求項17】
請求項16記載の合成セキスタペプチドにおいて、当該セキスタペプチドは、弾性線維形成を刺激するものである、合成セキスタペプチド。
【請求項18】
VGVAPGAAAAAVGVAPG(配列ID番号10)およびIGVAPGAAAAAIGVAPG(配列ID番号14)からなる群から選択される合成結合型セキスタペプチドを含有する組成物。
【請求項19】
請求項18記載の合成結合型セキスタペプチドにおいて、当該結合型セキスタペプチドは、弾性線維形成を刺激するものである、合成結合型セキスタペプチド。
【請求項20】
植物から得られる抽出物を含有する化粧品製剤であって、
前記抽出物はエラスチン様のペプチドを含み、当該エラスチン様のペプチドはデスモシンを含有するものである、化粧品製剤。
【請求項21】
請求項20記載の化粧品製剤において、前記エラスチン様のペプチドは、ヒトのトロポエラスチン抗体に対して免疫反応性を示すものである、化粧品製剤。
【請求項22】
請求項20記載の化粧品製剤において、前記植物は米ぬかである、化粧品製剤。
【請求項1】
配列X1−X2−X3−X4−X5−X6(配列ID番号3)を有する合成セキスタペプチド(sextapeptide)であって、
X1はVまたはIであり、
X2はGであり、
X3はAまたはLであり、
X4はMまたはSであり、
X5はPであり、
X6はG
である合成セキスタペプチド。
【請求項2】
請求項1記載の合成セキスタペプチドにおいて、この合成セキスタペプチドは、VGAMPG(配列ID番号4)と、VGLSPG(配列ID番号5)と、IGAMPG(配列ID番号6)と、IGLSPG(配列ID番号7)とからなる群から選択されるものである、合成セキスタペプチド。
【請求項3】
請求項1記載の合成セキスタペプチドにおいて、当該合成セキスタペプチドは、組織内において弾性線維形成が増加した外観を提供するものである、合成セキスタペプチド。
【請求項4】
請求項1記載の合成セキスタペプチドにおいて、このセキスタペプチドは、弾性線維形成を刺激するものである、合成セキスタペプチド。
【請求項5】
配列X1−X2−X3−X4−X5−X6,−X7−X1−X2−X3−X4−X5−X6(配列ID番号16)を有する合成結合型セキスタペプチドであって、
X7は結合部分であり、
X1はVおよびIから独立に選択されるものであり、
X2はGであり、
X3はAおよびLから独立に選択されるものであり、
X4はMおよびSから独立に選択されるものであり、
X5はPであり、
X6はG
である合成結合型セキスタペプチド。
【請求項6】
請求項5記載の合成結合型セキスタペプチドにおいて、この合成結合型セキスタペプチドは、VGAMPGAAAAAVGAMPG(配列ID番号8)と、VGLSPGAAAAAVGLSPG(配列ID番号9)と、IGAMPGAAAAAIGAMPG(配列ID番号11)と、IGLSPGAAAAAIGLSPG(配列ID番号12)とからなる群から選択されるものである、合成セキスタペプチド。
【請求項7】
請求項5記載の合成結合型セキスタペプチドにおいて、当該結合型セキスタペプチドは、組織内において弾性線維形成が増加した外観を提供するものである、合成セキスタペプチド。
【請求項8】
請求項5記載の合成結合型セキスタペプチドにおいて、この結合型セキスタペプチドは、弾性線維形成を刺激するものである、合成セキスタペプチド。
【請求項9】
配列X1−X2−X3−X4−X5−X6(配列ID番号3)を有する合成セキスタペプチドを含有する組成物を治療有効量投与する工程を有する、弾性線維形成を刺激する方法であって、
X1はVまたはIであり、
X2はGであり、
X3はAまたはLであり、
X4はMまたはSであり、
X5はPであり、
X6はG
である弾性線維形成を刺激する方法。
【請求項10】
治療有効量の請求項1記載の合成セキスタペプチドを含有する薬学的組成物であって、
当該治療有効量の当該合成セキスタペプチドは、弾性線維形成を刺激するものである、薬学的組成物。
【請求項11】
治療有効量の請求項5記載の結合型セキスタペプチドを含有する薬学的組成物であって、
当該治療有効量の当該合成結合型セキスタペプチドは、弾性線維形成を刺激するものである、薬学的組成物。
【請求項12】
請求項10記載の薬学的組成物において、この治療用組成物は、真皮線維芽細胞の増殖と、その真皮線維芽細胞の皮膚領域への遊走とを刺激するものである、薬学的組成物。
【請求項13】
請求項11記載の薬学的組成物において、この治療用組成物は、真皮線維芽細胞の増殖と、その真皮線維芽細胞の皮膚領域への遊走とを刺激するものである、薬学的組成物。
【請求項14】
請求項10記載の薬学的組成物において、前記セキスタペプチドは、VGAMPG(配列ID番号4)と、VGLSPG(配列ID番号5)と、IGAMPG(配列ID番号6)と、IGLSPG(配列ID番号7)とからなる群から選択されるものである、薬学的組成物。
【請求項15】
請求項11記載の薬学的組成物において、前記結合型セキスタペプチドは、VGAMPGAAAAAVGAMPG(配列ID番号8)と、VGLSPGAAAAAVGLSPG(配列ID番号9)と、IGAMPGAAAAAIGAMPG(配列ID番号11)と、IGLSPGAAAAAIGLSPG(配列ID番号12)とからなる群から選択されるものである、薬学的組成物。
【請求項16】
配列IGVAPG(配列ID番号13)を有する合成セキスタペプチドを含有する組成物。
【請求項17】
請求項16記載の合成セキスタペプチドにおいて、当該セキスタペプチドは、弾性線維形成を刺激するものである、合成セキスタペプチド。
【請求項18】
VGVAPGAAAAAVGVAPG(配列ID番号10)およびIGVAPGAAAAAIGVAPG(配列ID番号14)からなる群から選択される合成結合型セキスタペプチドを含有する組成物。
【請求項19】
請求項18記載の合成結合型セキスタペプチドにおいて、当該結合型セキスタペプチドは、弾性線維形成を刺激するものである、合成結合型セキスタペプチド。
【請求項20】
植物から得られる抽出物を含有する化粧品製剤であって、
前記抽出物はエラスチン様のペプチドを含み、当該エラスチン様のペプチドはデスモシンを含有するものである、化粧品製剤。
【請求項21】
請求項20記載の化粧品製剤において、前記エラスチン様のペプチドは、ヒトのトロポエラスチン抗体に対して免疫反応性を示すものである、化粧品製剤。
【請求項22】
請求項20記載の化粧品製剤において、前記植物は米ぬかである、化粧品製剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−184239(P2012−184239A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−103188(P2012−103188)
【出願日】平成24年4月27日(2012.4.27)
【分割の表示】特願2008−506820(P2008−506820)の分割
【原出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【出願人】(507341161)ヒューマン マトリックス サイエンシーズ、エルエルシー (2)
【出願人】(501181075)
【氏名又は名称原語表記】THE HOSPITAL FOR SICK CHILDREN
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−103188(P2012−103188)
【出願日】平成24年4月27日(2012.4.27)
【分割の表示】特願2008−506820(P2008−506820)の分割
【原出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【出願人】(507341161)ヒューマン マトリックス サイエンシーズ、エルエルシー (2)
【出願人】(501181075)
【氏名又は名称原語表記】THE HOSPITAL FOR SICK CHILDREN
【Fターム(参考)】
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