説明

極端紫外光源装置

【課題】チャンバ内を移動するデブリがEUV集光ミラー等の光学素子の反射率又は透過率を低下させることを防止して、長期間安定に極端紫外光を発生することができる極端紫外光源装置を提供する。
【解決手段】この極端紫外光源装置は、チャンバ内のプラズマ発光点に供給されたターゲットにレーザ光を照射して第1のプラズマを生成するドライバレーザと、チャンバ内にガスを供給するガス供給装置と、プラズマ発光点が中心となるように配置されたRFアンテナを含み、ガス及び電気的に中性のターゲット物質を励起して、電気的に中性のデブリを帯電させる第2のプラズマを生成する高周波励起装置と、帯電したデブリの移動方向を制限する磁場を発生する磁場発生装置と、チャンバ内を排気することにより、第1のプラズマから放出され第2のプラズマにおいてガス化されたデブリをチャンバ外に排出する排気装置とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露光装置の光源として用いられる極端紫外(EUV:extreme ultra violet)光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体プロセスの微細化に伴って光リソグラフィにおける微細化が急速に進展しており、次世代においては、100nm〜70nmの微細加工、更には50nm以下の微細加工が要求されるようになる。そのため、例えば、50nm以下の微細加工の要求に応えるべく、波長13nm程度のEUV光源と縮小投影反射光学系(reduced projection reflective optics)とを組み合わせた露光装置の開発が期待されている。
【0003】
EUV光源としては、ターゲットにレーザ光を照射することによって生成されるプラズマを用いたLPP(laser produced plasma:レーザ励起プラズマ)光源(以下において、「LPP式EUV光源装置」ともいう)と、放電によって生成されるプラズマを用いたDPP(discharge produced plasma)光源と、軌道放射光を用いたSR(synchrotron radiation)光源との3種類がある。これらの内でも、LPP光源は、プラズマ密度をかなり大きくできるので黒体輻射に近い極めて高い輝度が得られ、ターゲット物質を選択することにより必要な波長帯のみの発光が可能であり、ほぼ等方的な角度分布を持つ点光源であるので光源の周囲に電極等の構造材がなく、2πsteradianという極めて大きな捕集立体角の確保が可能であること等の利点から、数十ワット以上のパワーが要求されるEUVリソグラフィ用の光源として有力であると考えられている。
【0004】
ここで、LPP方式によるEUV光の生成原理について説明する。真空チャンバ内に供給されるターゲット物質に対してレーザ光を照射することにより、ターゲット物質が励起してプラズマ化する。このプラズマから、EUV光を含む様々な波長成分が放射される。そこで、所望の波長成分(例えば、13.5nmの波長を有する成分)を選択的に反射する集光ミラーを用いてEUV光が反射集光され、露光機に出力される。
【0005】
図5は、そのような従来のEUV光源装置の一例を示す。図5に示されるように、EUV光源装置61は、EUV光の生成が行われる真空チャンバ62と、真空チャンバ62内の所定の位置にターゲット63を供給するターゲット供給装置64と、ターゲット63に照射される励起用レーザ光65を生成するドライバレーザ66と、ドライバレーザ66によって生成される励起用レーザ光65を集光するレーザ集光光学系67と、ターゲット63に励起用レーザ光65が照射されることによって発生するプラズマ68から放出されるEUV光69を集光して射出するEUV集光ミラー70と、プラズマ68から発生するデブリの内でイオン化したデブリを閉じ込める磁場を発生する磁場コイル77を含む磁場発生装置と、真空チャンバ62を真空に排気する真空排気ポンプ80とを備えている。
【0006】
LPP式EUV光源装置においては、プラズマ68から放出されるデブリが、真空チャンバ62内のEUV集光ミラー70、レーザ集光光学系67、レーザ光入射ウインドウ74、SPF(spectral purity filter)(図示せず)、光学式センサの入射窓(図示せず)等の光学素子の表面に付着し、EUV光の反射率及び透過率を低下させ、それによりEUV光の出力及び/又はセンサの感度を低下させるという問題が生じる。この問題を解決するために、プラズマから発生するイオン化されたデブリを磁場によって閉じ込めて真空チャンバ外に排出する技術が知られている(特許文献1)。なお、デブリ(debris)とは、中性粒子やイオンを含むプラズマからの飛散物やターゲット物質の残骸のことを言う。
【0007】
例えば、励起用レーザ光65によって錫の金属ターゲット63が励起されると、錫の多くは、多価の正イオンと電子とにより構成されるプラズマ68となる。磁場コイル77により、このプラズマ68を含む領域に磁場が印加されると、錫の正イオンは、磁場に拘束されて磁力線に沿った方向に移動する。これにより、錫の正イオンがEUV集光ミラー70、レーザ集光光学系67、レーザ光入射ウインドウ74、SPF(図示せず)、光学式センサの入射窓(図示せず)等の光学素子に付着する量が低減され、錫の正イオンは、真空排気ポンプ80により効率的に真空チャンバ62の外に排出される。
【0008】
特許文献1には、EUV光源装置の真空チャンバ内において、プラズマから発生したデブリの内でイオン化したデブリを磁場によってトラップすることにより、EUV集光ミラーを保護することが開示されている。また、特許文献2には、水素化錫(SnH)を冷却及び加圧することによって液滴又は液体ジェットの水素化錫をノズル部から放出し、この水素化錫をレーザ光によってプラズマ化することによりEUV光を生成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−197456号公報
【特許文献2】特開2006−210157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上説明したように、従来のLPP方式EUV光源装置において、イオン化したデブリは、磁場に拘束されて磁力線方向に移動し、真空排気ポンプにより効率的に排出されるので、イオン化したデブリがチャンバ内の光学素子に付着することによりEUV光源装置の性能を劣化させることを防止することが可能となっている。
【0011】
しかしながら、発生した正イオンの一部は、電子と再結合して中性の粒子となり、磁場の拘束を受けることなく移動して、チャンバ内の光学素子に付着してEUV光の反射率及び透過率を低減させ、EUV光源装置の性能を低下させていた。特に、錫等の多価の正イオンは電子と再結合し易く、EUV光源装置の性能を低下させていた。
【0012】
また、励起用レーザによって全てのターゲット物質をイオン化させることは困難であり、ターゲット物質の一部が中性のデブリとなり、磁場の拘束を受けることなく移動して、チャンバ内の光学素子に付着してEUV光の反射率又は透過率を低減させ、EUV光源装置の性能を低下させていた。
【0013】
本発明は、上記のような事情を考慮してなされたものであり、チャンバ内を移動するデブリがEUV集光ミラー等の光学素子の反射率又は透過率を低下させることを防止して、長期間安定に極端紫外光を発生することができる極端紫外光源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明の1つの観点に係る極端紫外光源装置は、ターゲットにレーザ光を照射することによりプラズマを生成して極端紫外光を発生する極端紫外光源装置であって、極端紫外光の生成が行われるチャンバと、チャンバ内のプラズマ発光点にターゲットを供給するターゲット供給装置と、ターゲット供給装置によって供給されるターゲットにレーザ光を照射して、プラズマ発光点において第1のプラズマを生成するドライバレーザと、チャンバ内に設置され、第1のプラズマから放射される極端紫外光を集光する集光ミラーと、チャンバ内にガスを供給するガス供給装置と、プラズマ発光点が中心となるように配置されたRF(高周波)アンテナを含み、ガス供給装置によって供給されるガス及び電気的に中性のターゲット物質を励起して、第1のプラズマが生成される領域の周囲に、第1のプラズマから放出されるデブリの内で電気的に中性のデブリを帯電させる第2のプラズマを生成する高周波励起装置と、第2のプラズマによって帯電したデブリの移動方向を制限する磁場を発生する磁場発生装置と、チャンバ内を排気することにより、第1のプラズマから放出され第2のプラズマにおいてガス化されたデブリをチャンバ外に排出する排気装置とを具備する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の1つの観点によれば、極端紫外光源装置のチャンバ内にガスを供給して励起することにより、第1のプラズマが生成される領域の周囲に第2のプラズマを生成し、第2のプラズマによって帯電したデブリの移動方向を制限すると共に、デブリをガス化してチャンバから外部へ排出するので、チャンバ内の光学素子にデブリが付着することが防止される。これにより、チャンバ内を移動するデブリがEUV集光ミラー等の光学素子の反射率又は透過率を低下させることを防止して、長期間安定に極端紫外光を発生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るEUV光源装置の内部構造を示す図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係るEUV光源装置の内部構造を示す図である。
【図3】本発明の第3の実施形態に係るEUV光源装置の内部構造を示す図である。
【図4】本発明の第4の実施形態に係るEUV光源装置の内部構造を示す図である。
【図5】従来のEUV光源装置の内部構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係るEUV光源装置ついて、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、説明を省略する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る極端紫外(EUV)光源装置を示す模式図である。このEUV光源装置は、LPP(レーザ励起プラズマ)方式を採用しており、露光装置の光源として用いられる。
【0018】
図1に示すように、EUV光源装置1は、EUV光の生成が行われる真空チャンバ2と、真空チャンバ2内の所定の位置にターゲット3を供給するターゲット供給装置4と、ターゲット3に照射される励起用レーザ光5を生成するドライバレーザ6と、ドライバレーザ6によって生成される励起用レーザ光5を集光するレーザ集光光学系7と、ターゲット3に励起用レーザ光5が照射されることによって発生するプラズマ(以下においては、「ターゲットプラズマ」ともいう)8から放出されるEUV光9を集光して射出するEUV集光ミラー10と、ターゲットプラズマ8から発生するデブリの内でイオン化したデブリを閉じ込める磁場を発生する磁場コイル17を含む磁場発生装置と、真空チャンバ2を真空に排気する真空排気ポンプ20とを備えている。
【0019】
また、EUV光源装置1は、プラズマ8から発生するデブリの内で電気的に中性なデブリをイオン化するプラズマ(以下においては、「2次反応プラズマ」ともいう)21を生成するために、2次反応プラズマ用ガスを供給するガス供給装置23と、2次反応プラズマ用ガスを励起して2次反応プラズマ21を生成する高周波(RF)励起装置としてのRFアンテナ25とを備えている。本実施形態においては、2次反応プラズマ用ガスとして塩化水素(HCl)ガスが用いられ、RFアンテナ25としてコイルが用いられる。
【0020】
本実施形態においては、ターゲット供給装置4が、固体の錫(Sn)を加熱溶解して、固体又は液体のドロップレットとして錫のターゲット3を真空チャンバ2内に供給する。ドライバレーザ6としては、比較的波長の長い光を生成することができる炭酸ガス(CO)パルスレーザが用いられる。例えば、この炭酸ガスパルスレーザの出力は20kWであり、パルス繰り返し周波数は100kHzであり、パルス幅は20nsである。しかしながら、本発明において、ターゲット材料及びレーザ光源の種類はこれらに限定されることがなく、様々な種類のターゲット材料及びレーザ光源を用いることができる。
【0021】
励起用レーザ光5は、真空チャンバ2に設けられた入射ウインドウ14を通して、真空チャンバ2内に導入される。レーザ集光光学系7は、少なくとも1つのレンズ及び/又は少なくとも1つのミラーで構成される。レーザ集光光学系7は、図1に示すように、真空チャンバ2の内側に配置しても良く、あるいは、真空チャンバ2の外側に配置しても良い。
【0022】
EUV集光ミラー10は、ターゲットプラズマ8から放射される様々な波長成分の内から、所定の波長成分(例えば、13.5nm付近のEUV光)を選択的に反射することにより集光する集光光学系である。EUV集光ミラー10は、凹状の反射面を有しており、この反射面には、例えば、波長が13.5nm付近のEUV光を選択的に反射するためのモリブデン(Mo)及びシリコン(Si)の多層膜が形成され、EUV光の反射率として約60%が得られている。
【0023】
ターゲットプラズマ8から放射されるEUV光9は、EUV集光ミラー10で反射された後に中間集光点(IF)を通して露光機に導出される。中間集光点(IF)の前後に、SPF(spectral purity filter)が設けられても良い。SPFは、ターゲットプラズマ8から放射される光の内で不要な光(EUV光より波長が長い光、例えば、紫外線、可視光線、赤外線等)を除去して、所望の光、例えば、波長13.5nmのEUV光のみを透過させる。また、露光機とEUV光源装置1とを分離するゲートバルブ19を設けて、メインテナンスに対応できるようにしても良い。図1において、ターゲットプラズマ8から発生したEUV光は、EUV集光ミラー10によって左方向に反射され、EUV中間集光点(IF)に集光された後に、露光機に出力される。
【0024】
ターゲット供給装置4から供給される錫のターゲット3は、励起用レーザ光5に励起されて、その一部がターゲットプラズマ8となる。ターゲットプラズマ8は、電子、多価の錫の正イオン(Sn)、及び、錫のラジカル(Sn)を含む。それらの内で、錫の正イオン(Sn)は、磁場を設けられることによりローレンツ力(F=qv×B)を受け、磁力線に巻きつきながら磁力線の方向に移動する。ここで、qは帯電粒子の電荷であり、vは帯電粒子の速度であり、Bは磁束密度である。
【0025】
これにより、磁力線の方向と直交する方向へのイオンの移動は制限されて、イオンは磁場により閉じ込められることになる。錫の正イオン(Sn)が磁場により閉じ込められるので、EUV集光ミラー10、入射ウインドウ14、SPF(図示せず)、光学式センサの入射窓(図示せず)等の光学素子が磁力線と直交する方向に配置されることにより、錫の正イオン(Sn)が光学素子の表面に付着する量を低減することが可能である。
【0026】
しかしながら、発生した錫の正イオン(Sn)は、電子と再結合し易いので、錫の正イオン(Sn)の一部は、電子と再結合して中性化し、磁場の拘束を受けることなく、中性の錫デブリ(Sn)として光学素子に付着することがある。また、ターゲット励起用レーザによって全てのターゲット物質をイオン化させることは難しく、ターゲット物質の一部は、中性の粒子として磁場の拘束を受けることなく光学素子に付着することがある。さらに、プラズマから発生する錫のラジカル(Sn)も中性なので、磁場の拘束を受けることなく光学素子に付着することがある。
【0027】
そこで、本実施形態においては、ガス供給装置23によって塩化水素(HCl)ガスを真空チャンバ2内のターゲット付近に供給し、RFアンテナ25によって高周波(例えば、13.56MHz)の電界を塩化水素ガスに印加し、錫ターゲット物質のプラズマ(ターゲットプラズマ8)が生成される領域の周囲において、中性の錫(Sn)、錫のラジカル(Sn)、及び、塩化水素(HCl)ガスを励起することによって、2次反応プラズマ(RFプラズマ)21が生成される。
【0028】
この2次反応プラズマ21中においては、励起用レーザ光5によってイオン化するまで励起されなかった中性の錫(Sn)及び/又は錫のラジカル(Sn)がイオン化され、あるいは、励起用レーザ光5によって錫の正イオン(Sn)となるまで励起された後に電子と再結合して中性化した錫(Sn)がイオン化される。2次反応プラズマ21中においてイオン化された錫の正イオン(Sn)は、磁場により拘束されて、磁力線の延長線上に設けられた真空排気ポンプ20によって排出される。
【0029】
また、2次反応プラズマ21中においては、化学反応により、水素化錫(SnH)、塩化錫(SnCl)等のガス生成物が生成され、それらのガス生成物も真空排気ポンプ20によって排出される。これにより、従来の磁場閉じ込め方式のみによっては防ぐことが不可能であった中性の錫(Sn)等のデブリの光学素子への付着が有効に低減される。また、高周波電界と磁界とによってヘリコン波プラズマを励起することにより、2次反応プラズマ21を生成し、同様の効果が得られるようにしても良い。
【0030】
錫(Sn)等のデブリの光学素子への付着を防止するためには、磁場に拘束されたイオンを効率的に真空排気ポンプ20に引き寄せて、真空排気ポンプ20により効率的に排出することが有効である。そのために、真空排気ポンプ20の吸入口付近に導電性のメッシュ27を配置して、このメッシュ27にRF電源29を用いてバイアスを印加し、ブロッキングコンデンサ28によって電流を遮断すると、メッシュ27の表面に陰極降下(シース)を生じる。これにより、メッシュ27が負に帯電するので、錫の正イオン(Sn)等の正イオンが、メッシュ27を通して真空排気ポンプ20に引き寄せられ、真空排気ポンプ20によって効率的に排出される。あるいは、真空排気ポンプ20側の磁束密度が小さくなるように磁場コイル17を構成して配置することにより、ローレンツ力により拘束されたイオンが、真空排気ポンプ20側に徐々に移動し、真空排気ポンプ20によって効率的に排出される。
【0031】
2次反応プラズマ21の生成に使用されるガスとしては、アルゴンガス(Ar)、窒素ガス(N)、水素ガス(H)、ハロゲンガス(F、Cl、Br、I)、ハロゲン化水素ガス(HF、HCl、HBr、HI)、又は、それらの内の少なくとも1つを含む混合ガスが好ましい。特に、水素ガス(H)、塩素ガス(Cl)、臭素ガス(Br)、塩化水素ガス(HCl)、臭化水素ガス(HBr)は、2次反応プラズマ21中で錫(Sn)と反応して、水素化錫(SnH)、塩化錫(SnCl)、臭化錫(SnBr)等の蒸気圧が低い反応生成物を生じ、それらの反応生成物は、真空チャンバ2中でガス化する。ガス化したそれらの反応生成物は、真空排気ポンプ20により真空チャンバ2から容易に排出される。
【0032】
ここで、EUV集光ミラー10の表面に、ルテニウム(Ru)、シリコンカーバイト(SiC)、炭素(C)、二酸化シリコン(SiO)、又は、酸化ルテニウム(RuO)を保護膜12としてコーティングすることにより、EUV光の反射率を大きく低下させることなく、2次反応プラズマ21の生成に使用されるガス、特に、ハロゲンガス又はハロゲン化水素ガスによるEUV集光ミラー10の表面侵食が防止される。その場合には、2次反応プラズマの生成に使用されるガスが、EUV集光ミラー10の周辺に供給されても、EUV集光ミラー10の表面が、それらのガスによって侵食されることはない。
【0033】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
図2は、本発明の第2の実施形態に係るEUV光源装置の内部構造を示す図である。図2に示すように、EUV光源装置31は、第1の実施形態に係るEUV光源装置と同様の構成を備えているが、高周波電界の替わりに、磁場とマイクロ波とを用いて2次反応プラズマ32を励起する。磁場は、例えば、磁場コイル17によって生成され、マイクロ波は、マイクロ波を発生してガスを励起するマイクロ波発生装置(励起装置)35によって生成される。
【0034】
ここでは、2次反応プラズマ32を生成するガスとして、臭化水素ガス(HBr)を使用する場合を例として説明する。磁場とマイクロ波との作用により、臭化水素ガス分子中の電子が、サイクロトロン共鳴によって加速され、加速された電子がガスに衝突することによってガスが励起され、電子サイクロトロン共鳴(ECR:Electron Cyclotron Resonance)プラズマが生成される。例えば、磁場の強さが0.5Tの場合に、14GHz程度のマイクロ波でECRプラズマが効率良く生成される。本発明の第2の実施形態に係るEUV光源装置においても、本発明の第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0035】
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
図3は、本発明の第3の実施形態に係るEUV光源装置の内部構造を示す図である。図3に示すように、EUV光源装置41は、例えば、特許文献2に記載されるように、水素化錫(SnH)又はハロゲン化錫(SnCl、SnBr)を液体化又は氷結固体化して供給することが可能なターゲット供給装置44を備えている。また、図3に示すEUV光源装置は、補充ガス供給装置46を備えていても良い。
【0036】
以下においては、ターゲット供給装置44が液体化又は氷結固体化された塩化錫(SnCl)をターゲットとして供給する場合を例として説明する。ターゲット供給装置44から供給される液体化又は氷結固体化された塩化錫(SnCl)を励起用レーザ光5によって励起することにより、EUV光を発生するターゲットプラズマ8と2次反応プラズマ21とが同時に生成される。
【0037】
しかしながら、実際には、励起用レーザ光5による励起のみによっては、2次反応プラズマ21を継続して励起するために必要なエネルギーが不足するので、2次反応プラズマ21を継続して発生させることが困難である。そこで、第1の実施形態において使用された高周波(RF)励起装置、又は、第2の実施形態において使用されたマイクロ波発生装置を併せて設置することにより、2次反応プラズマ21を継続して安定に発生することが可能となる。
【0038】
この2次反応プラズマ21においては、励起用レーザ光5によってイオン化するまで励起されなかった中性の錫(Sn)及び/又は錫のラジカル(Sn)がイオン化され、あるいは、一旦錫の正イオン(Sn)まで励起された後に電子と再結合して中性化した錫(Sn)がイオン化される。2次反応プラズマ21においてイオン化された錫の正イオン(Sn)は、磁場によって拘束されて、磁力線の延長線上に設けられた真空排気ポンプ20によって排出される。また、2次反応プラズマ21中においては、化学反応により塩化錫(SnCl)等のガス生成物が生成され、それらのガス生成物も真空排気ポンプ20によって排出される。これにより、従来の磁場閉じ込め方式のみによっては防ぐことが不可能であった中性の錫(Sn)のデブリの光学素子への付着が有効に低減される。
【0039】
さらに、2次反応プラズマ21を継続して発生させるために、EUV光源装置41が、補充ガス供給装置46を備えるようにして、補充ガス供給装置46が、塩素ガス(Cl)、塩化水素ガス(HCl)、及び/又は、水素ガス(H)を2次反応プラズマ用補充ガスとして真空チャンバ2内に供給しても良い。
【0040】
また、EUV光源装置41において、真空排気ポンプ20の吸入口の付近に、導電性のメッシュ27が配置されても良い。この導電性のメッシュ27に、例えば、直流高電圧源48により直流高電圧をバイアスとして印加することにより、導電性のメッシュ27が負に帯電されて、磁場に拘束された錫の正イオン(Sn)等の正イオンが真空排気ポンプ20の入り口に引き寄せられ、真空排気ポンプ20から効率的に排気される。
【0041】
本発明の第1〜第3の実施形態に係るEUV光源装置においては、磁場によるイオン閉じ込め効果と、2次反応プラズマによるイオン化を促進する効果及びガス状反応生成物の生成を促進する効果とを併せて活用する場合について説明した。しかしながら、本発明の第1〜第3の実施形態に係るEUV光源装置において、磁場発生装置を設けなくても、2次反応プラズマのみによって、例えば、水素化錫(SnH)、塩化錫(SnCl)、臭化錫(SnBr)等のように、蒸気圧が低く真空チャンバ中でガス化する反応生成物を生成することが可能であり、それらのガス化した反応生成物が、真空チャンバ2内の光学素子に付着することなく、真空チャンバ2の外部に排出されるという効果が得られる。
【0042】
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。
図4は、本発明の第4の実施形態に係るEUV光源装置の内部構造を示す図である。図4に示すように、EUV光源装置51は、デブリに含まれている帯電粒子を閉じ込める磁場の磁力線に沿って、帯電粒子流52をカーテン状に流す帯電粒子流発生装置53を備えている。
【0043】
例えば、帯電粒子流発生装置53は、ガスを高周波電界で励起することにより高周波励起プラズマを生成し、あるいは、ガスをマイクロ波で励起することによりマイクロ波励起プラズマを生成し、あるいは、ガスに高周波電界及び磁場を印加することによりヘリコン波励起プラズマを生成する。帯電粒子流発生装置53は、このプラズマからイオンを取り出して、磁力線に沿ってイオン流を発生する。
【0044】
帯電粒子流発生装置53において使用されるガスとしては、アルゴンガス(Ar)、窒素ガス(N)、水素ガス(H)、ハロゲンガス(F、Cl、Br、I)、ハロゲン化水素ガス(HF、HCl、HBr、HI)、又は、それらの内の少なくとも1つを含む混合ガスが好ましい。
【0045】
以下においては、帯電粒子流発生装置53として、塩素(Cl)イオンを発生するイオン源装置(イオンガン)を使用する場合について説明する。帯電粒子流発生装置53によって発生された塩素イオンのカーテン流は、帯電粒子流52として、ターゲットプラズマ8とEUV集光ミラー10との間を流れる。励起されたターゲットプラズマ8から放出される中性の錫のデブリは、このイオンカーテン流によってトラップされる。
【0046】
このイオンカーテン流において、中性の錫(Sn)及び/又は錫のラジカル(Sn)が、塩素イオンとの電荷交換によりイオン化され、あるいは、錫の正イオン(Sn)まで励起された後に電子と再結合して中性化した錫(Sn)が、塩素イオンとの電荷交換によりイオン化される。そのようにしてイオン化された錫の正イオン(Sn)は、磁場により拘束されて、磁力線の延長線上に設けられた真空排気ポンプ20によって排出される。また、イオンカーテン流においては、励起されたターゲットプラズマ8から放出される中性の錫のデブリと塩素イオンとの化学反応物質として塩化錫(SnCl)等のガス生成物が生成され、それらのガス生成物も真空排気ポンプ20によって排出される。
【0047】
あるいは、帯電粒子流発生装置53としてプラズマガンを使用して、プラズマ流を生成し、生成されたプラズマ流が、帯電粒子流52として真空チャンバ2内に導入されるようにしても良い。また、真空チャンバ2内において帯電粒子流52が再結合することによって生成された粒子を、高周波又はマイクロ波を印加することにより再度電離しても良い。さらに、補充ガス供給装置46によって、2次反応プラズマ生成用の補充ガスを真空チャンバ2内に導入し、高周波又はマイクロ波を印加することにより2次反応プラズマを生成して、帯電粒子流発生装置53により生成された帯電粒子流52の効果と、高周波又はマイクロ波により生成された2次反応プラズマの効果とを併用するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、露光装置の光源として用いられる極端紫外光源装置において利用することが可能である。
【符号の説明】
【0049】
1、31、41、51…EUV光源装置、2…真空チャンバ、3…ターゲット、4、44…ターゲット供給装置、6…ドライバレーザ、7…レーザ集光光学系、8…ターゲットプラズマ、10…EUV集光ミラー、12…保護膜、14…入射ウインドウ、17…磁場コイル、19…ゲートバルブ、20…真空排気ポンプ、21…2次反応プラズマ、23…ガス供給装置、24…ゲートバルブ、27…導電性メッシュ、28…ブロッキングコンデンサ、29…RF電源、35…マイクロ波発生装置、46…補充ガス供給装置、52…帯電粒子流、53…帯電粒子流発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットにレーザ光を照射することによりプラズマを生成して極端紫外光を発生する極端紫外光源装置であって、
極端紫外光の生成が行われるチャンバと、
前記チャンバ内のプラズマ発光点にターゲットを供給するターゲット供給装置と、
前記ターゲット供給装置によって供給されるターゲットにレーザ光を照射して、前記プラズマ発光点において第1のプラズマを生成するドライバレーザと、
前記チャンバ内に設置され、第1のプラズマから放射される極端紫外光を集光する集光ミラーと、
前記チャンバ内にガスを供給するガス供給装置と、
前記プラズマ発光点が中心となるように配置されたRF(高周波)アンテナを含み、前記ガス供給装置によって供給されるガス及び電気的に中性のターゲット物質を励起して、第1のプラズマが生成される領域の周囲に、第1のプラズマから放出されるデブリの内で電気的に中性のデブリを帯電させる第2のプラズマを生成する高周波励起装置と、
第2のプラズマによって帯電したデブリの移動方向を制限する磁場を発生する磁場発生装置と、
前記チャンバ内を排気することにより、第1のプラズマから放出され第2のプラズマにおいてガス化されたデブリを前記チャンバ外に排出する排気装置と、
を具備する極端紫外光源装置。
【請求項2】
前記ガス供給装置が、前記集光ミラーの反射面側において対向する複数の開口部を有する、請求項1記載の極端紫外光源装置。
【請求項3】
前記ガス供給装置が、アルゴンガス(Ar)、窒素ガス(N)、水素ガス(H)、フッ素ガス(F)、塩素ガス(Cl)、臭素ガス(Br)、ヨウ素ガス(I)、フッ化水素ガス(HF)、塩化水素ガス(HCl)、臭化水素ガス(HBr)、ヨウ化水素ガス(HI)、又は、それらの内の少なくとも1つを含む混合ガスを供給する、請求項1又は2記載の極端紫外光源装置。
【請求項4】
前記排気装置の吸入口付近に配置され、前記磁場発生装置によって発生される磁場によって移動方向が制限されたデブリを前記排気装置に引き寄せる帯電した導電性メッシュをさらに具備する請求項3記載の極端紫外光源装置。
【請求項5】
前記集光ミラーの表面に、ルテニウム(Ru)、シリコンカーバイト(SiC)、炭素(C)、二酸化シリコン(SiO)、又は、酸化ルテニウム(RuO)を含む保護膜がコーティングされている、請求項1〜4のいずれか1項記載の極端紫外光源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−84993(P2013−84993A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−16309(P2013−16309)
【出願日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【分割の表示】特願2008−99406(P2008−99406)の分割
【原出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「極端紫外線(EUV)露光システムの基盤開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(300073919)ギガフォトン株式会社 (227)
【Fターム(参考)】