構造物の建て替え方法
【課題】既存底盤の浮き上がり防止を図った状態での建て替えにおいて、周辺への悪影響が発生し難い状態での施工ができ、且つ、建て替え作業を効率よく経済的に実施できるようにする。
【解決手段】解体ガラGが充填された既存地下躯体A1に対し、その内側に新設地下躯体を構築するに際し、地表から複数箇所にケーシング1を既存底盤2に達するまで挿入・設置し、ケーシング1内の解体ガラGを撤去後、圧縮軸力支持部材3を介してアースアンカー4を設置して軸方向力を導入することによって浮き上がりを防止した後、残余の解体ガラGを全て撤去して新設地下躯体を構築する。
【解決手段】解体ガラGが充填された既存地下躯体A1に対し、その内側に新設地下躯体を構築するに際し、地表から複数箇所にケーシング1を既存底盤2に達するまで挿入・設置し、ケーシング1内の解体ガラGを撤去後、圧縮軸力支持部材3を介してアースアンカー4を設置して軸方向力を導入することによって浮き上がりを防止した後、残余の解体ガラGを全て撤去して新設地下躯体を構築する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解体ガラが充填された既存地下躯体に対し、その内側に新設地下躯体を構築する『構造物の建て替え方法』に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の構造物の建て替えにおいては、図8に示すように、既存地下躯体A1の下方の地盤に被圧帯水層10が位置している場合、前記被圧帯水層10の被圧水圧の影響を考慮する必要があり、既存地下躯体A1に充填された解体ガラGの撤去や、既存建物Aの解体によって既存底盤2にかかる荷重が減少するに伴って、浮き上がりや盤ぶくれ現象が懸念される。このような現象が発生する場合には、当然、それらに対する防止策を講じる必要がある。
従来、この種の構造物の建て替え方法としては、以下のような方法がある。
[1] 図9に示すように、既存建物Aの外方側に前記被圧帯水層10を貫通させて更にそれより深い深度まで新設の山留め遮水壁11を形成し、前記被圧帯水層10における周囲地盤からの水の供給を絶つと共に、既存建物Aの底盤での上下方向の力のバランスをとれるようにした後、既存地下躯体A1を解体する方法。
[2] 図10に示すように、敷地又はその周囲に前記被圧帯水層10の地下水を引き揚げる為の揚水井戸12を設置し、前記被圧帯水層10の水圧を低下させた状態で既存地下躯体A1を解体する方法。
[3] 図11の示すように、既存建物Aの既存底盤2から下方地盤中にアースアンカー4を設置しておき、建物の解体に伴って、前記アースアンカー4に軸方向力を導入して、既存底盤2に下方から加わる上向きの力を受け止めて、新設地下躯体に建て替える方法
(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特許第3457440号公報(図2、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の構造物の建て替え方法の内、前記[1]の方法によれば、前記新設の山留め遮水壁の施工のために充分な敷地が必要となり、市街地に多い構造物(敷地に余裕がない構造物)には適応し難いという問題点がある。また、一般的に、山留め遮水壁の深度が大深度になることが多く、施工工程及び施工コストの増加につながり易い。
また、前記[2]の方法によれば、揚水した地下水を排水するに当たり、その排水を処理できるだけの下水施設がその地域に整っていることが前提となると共に、地下水位の低下による地盤沈下が懸念される等の問題点がある。
また、前記[3]の方法によれば、アースアンカーの施工のために既存底盤を穿孔する必要があり、下方からの被圧水が既存底盤の作業空間に噴出する危険があるから、結果的には、前記[1]や[2]等の方法を併用するか、事前に、既存底盤の下方地盤の広い範囲に止水薬剤等を注入して止水を図った後にアースアンカーの施工を実施する必要があり、施工工程及び施工コストの増加につながり易い。
【0005】
従って、本発明の目的は、上記問題点を解消し、既存底盤の浮き上がり防止を図った状態での建て替えにおいて、周辺への悪影響が発生し難い状態での施工ができ、且つ、建て替え作業を効率よく経済的に実施できる構造物の建て替え方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の特徴構成は、解体ガラが充填された既存地下躯体に対し、その内側に新設地下躯体を構築するに際し、地表から複数箇所にケーシングを既存底盤に達するまで挿入・設置し、前記ケーシング内の解体ガラを撤去後、圧縮軸力支持部材を介してアースアンカーを設置して軸方向力を導入することによって浮き上がりを防止した後、残余の解体ガラを全て撤去して前記新設地下躯体を構築するところにある。
尚、上述の圧縮軸力支持部材とは、アースアンカーに軸方向力を導入する際に、アースアンカー上端部と既存底盤との間に介在し、ジャッキ反力を圧縮軸力として受けることで確保する部材を意味する。
【0007】
本発明の第1の特徴構成によれば、アースアンカーに軸方向力を導入する際の反力を、既存底盤上に立設した前記圧縮軸力支持部材によって確保できるから、地表でアースアンカーに軸方向力を導入するだけで、既存底盤に作用する上向き力にバランスさせて、盤ぶくれや浮き上がり防止を図ることが可能となる。
そして、アースアンカーの施工は、地表から実施することによって、従来のように地下の被圧水が作業空間に噴出するといったことを防止した状態でアースアンカーを設置することができ、周辺への悪影響が発生し難い状態で、しかも、各種の補助工法を実施しなくても、簡単且つ安全に工事を進行させることが可能で、建て替え工事全体としての工期短縮やコストダウンを図ることが可能となる。
【0008】
本発明の第2の特徴構成は、前記圧縮軸力支持部材は、筒部材で構成すると共に、前記アースアンカーは、筒部材の内空部を貫通する状態に設けるところにある。
【0009】
本発明の第2の特徴構成によれば、本発明の第1の特徴構成による上述の作用効果を叶えることができるのに加えて、アースアンカーの軸方向力の作用位置と、その外周で反力を確保する筒部材の芯の位置とをずれ難くでき、より安定した応力状態にアースアンカーを設置することが可能となる。
また、既存底盤のアースアンカー貫通部分から、仮に被圧水が上昇しても、筒部材の内空部に納めることができ、止水処理が実施し易い。
【0010】
本発明の第3の特徴構成は、前記圧縮軸力支持部材には、前記既存底盤への接当端部として、前記既存底盤の表面に沿う板状部を設けておくところにある。
【0011】
本発明の第3の特徴構成によれば、本発明の第1又は2の特徴構成による上述の作用効果を叶えることができるのに加えて、前記圧縮軸力支持部材による既存底盤への作用力を、より広い範囲の板状部で分散して作用させることにより、既存底盤への支圧力を低減することができ、より安定した状態でアースアンカーの反力確保をすることが可能となる。
【0012】
本発明の第4の特徴構成は、前記圧縮軸力支持部材は、前記既存地下躯体の内空部の撤去に伴って設置する水平切梁と連結するところにある。
【0013】
本発明の第4の特徴構成によれば、本発明の第1〜3の何れかの特徴構成による上述の作用効果を叶えることができるのに加えて、前記圧縮軸力支持部材は、水平切梁に対する棚杭の役目を果たすことができながら、水平切梁は、圧縮軸力支持部材に対する座屈防止支持材の役目を果たすことができる。従って、部材の兼用化によって、コストダウンを果たすことができると共に、地下空間に位置する部材をより少なくでき、建て替え工事をより広い空間で実施することで能率化を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。尚、図面において従来例と同一の符号で表示した部分は、同一又は相当の部分を示している。
【0015】
本実施形態は、図1に示すような、既存地下躯体A1を備えた既存建物Aを、図2に示す新設建物Bに建て替える方法の一実施形態を示すものである。
尚、ここに説明する既存建物Aに関しては、図3に示すように、既存一階床部A2aを除く既存地上躯体が事前に取り壊されており、その際に発生した解体ガラGは、既存地下躯体A1の内空部に充填されて、既存地上躯体の解体に伴う自重低減の緩和が図ってある。そして、一旦は、前記既存一階床部A2aの上に仮舗装等のオーバーレイが施された状態で、一次工程が終了しており、それ以後の工程について説明する。
【0016】
本実施形態の構造物の建て替え方法は、図3〜7に示すように、解体ガラGが充填された既存地下躯体A1に対し、その内側に新設地下躯体B1を構築するに際し、地表から複数箇所にケーシング1を既存底盤2に達するまで挿入・設置し、前記ケーシング1内の解体ガラGを撤去後、その内空部に、鋼管(圧縮軸力支持部材の一例)3を介してアースアンカー4を設置して軸方向力を導入することによって、アースアンカー4の引抜抵抗により既存底盤2の浮き上がりを防止した後、残余の解体ガラGを全て撤去して前記新設地下躯体B1を構築するものである。
【0017】
前記既存建物Aは、図3に示すように、既存一階床部A2aと、既存地下躯体A1とから構成されている。
そして、既存地下躯体A1の最下部には、前記既存底盤2が形成してある。
因みに、床部は、スラブや梁によって構成してあり、前記既存底盤2は、基礎スラブや地中梁によって構成してある。
【0018】
また、既存地下躯体A1の下方地盤中には、高被圧帯水層10(図1参照)が位置しており、前記既存建物Aを全体的に取り壊してしまうと、それまで作用していた基礎地盤部分への建物荷重が減少し、前記高被圧帯水層10の上向きの被圧水圧とのバランスが崩れ、基礎地盤部分の浮き上がりや盤ぶくれ現象を生じる危険性が高い状況にある。
【0019】
前記新設建物Bは、図2に示すように、前記既存建物Aの既存地下躯体A1の外殻部分を残しながら、その内側に一体的に新設地下躯体B1を形成すると共に、その上方に新設地上躯体B2を形成することで構成されている。
尚、当該実施形態のように、既存地下躯体A1の内空部の撤去に伴って、新設地下躯体B1の深度が大きいことから側壁部A1aに作用する土圧を仮設材で受け止める必要があるような場合には、既存地下躯体A1の内側に水平切梁5を仮設して側壁部A1aに作用する土圧を一時的に支持するものである(図7参照)。
【0020】
次に、既存の既存建物Aから新設建物Bへの具体的な建て替え手順について説明する。
[1] アースアンカー4を設置する箇所に、地上から、ケーシング1を設置する(図4参照)。
ケーシング1は、前記既存底盤2に達するまで挿入する。
[2] 前記ケーシング1内の解体ガラGを撤去する(図4参照)。
撤去作業は、例えば、テレスコ式クラムシェル等の装置を使用して行うことができる。
[3] 前記ケーシング1内の内空部に、前記鋼管3を挿入し、前記既存底盤2上に載置する(図5参照)。
前記鋼管3の下端部は、図に示すように、径方向外方に延出した鍔状部(板状部の一例)3aが形成してある。従って、既存底盤2の上面に鋼管3を当接させると、この鍔状部3aが既存底盤2の表面に沿い、既存底盤2への支圧力を分散させることが可能となる。
尚、ケーシング1の内空部の底部分に、予め、貧配合のモルタル等を充填しておき、その上から鋼管3を挿入すれば、鋼管3下端部での既存底盤2への密着性が向上する。また、後工程でのアースアンカー設置の際に、下方地盤からの湧水が発生しても、鋼管3内に納めることができる。
[4] 前記鋼管3の内空部を通して、地上から既存底盤2下方の地盤にアースアンカー4を打設する(図6参照)。
アースアンカー4の下端部が定着した後、前記鋼管3の上端部に、前記アースアンカー4の反力を確保する定着金具3bを取り付け、アースアンカー4に対して引抜力を作用させて軸方向力を導入できるようにする。アースアンカー4への軸方向力の導入は、既存底盤2を押し上げる力とのバランスを考慮して行われる。
[5] 前記ケーシング1を撤去すると共に、前記既存地下躯体A1内の残余の解体ガラGを撤去しながら、所定深度において、前記水平切梁5を既存地下躯体A1の側壁部A1aにわたって設置する(図7参照)。
尚、水平切梁5は、前記鋼管3と連結する。両者を連結することで、鋼管3を水平切梁5を支持する棚杭として利用できる一方、水平切梁5を、鋼管3の座屈防止材として利用することができる。即ち、鋼管3は、外周面を覆っていた解体ガラGが取り除かれるに伴って側方支持力が減少して、鋼管3の細長比が大きくなることで座屈し易くなるが、前記水平切梁5と連結することで、細長比を適切な範囲に抑えることができ、最小断面積で、アースアンカー4の軸方向力を確保することが可能となる。
[6] 残余の解体ガラGを全て撤去したら、その内空部に前記新設地下躯体B1を構築すると共に、上方には、新設地上躯体B2を構築する(図2参照)。
【0021】
本実施形態の構造物の建て替え方法によれば、地表からのアースアンカー施工を行う簡単な工程によって、既存底盤の盤ぶくれや浮き上がり防止を図ることが可能となり、周辺への地盤沈下等の悪影響が発生し難い状態で、簡単且つ安全に工事を進行させることが可能で、建て替え工事全体としての工期短縮やコストダウンを図ることが可能となる。
【0022】
〔別実施形態〕
以下に他の実施の形態を説明する。
【0023】
〈1〉 前記既存建物Aや、新設建物Bは、先の実施形態で説明した構成に限るものではなく、例えば、階層の数や柱の配置や構造等、自由に設定することができる。
〈2〉 前記圧縮軸力支持部材3は、先の実施形態で説明した鋼管で構成されたものに限るものではなく、例えば、鋼材で構成する場合には、角筒形状の鋼管や、形鋼等で構成されているものであってもよく、更には、それらの材料の組み合わせや、鋼材以外の材料
(例えば、コンクリート等)や、それら複数の材料の組み合わせによって構成されているものであってもよい。また、圧縮軸力支持部材3の平面配置は、アースアンカー4と同一軸芯上となるように配置することに限らず、双方がずれるような配置であってもよい。そして、一箇所のアースアンカー4の反力確保に、複数本の圧縮軸力支持部材3を使用するものであってもよい。
〈3〉 前記圧縮軸力支持部材3の下端部に形成した板状部は、先の実施形態で説明した鍔状部に限るものではなく、要するに、既存底盤2に対する圧縮軸力支持部材3の接地面積を増加させるものであれば良く、それらを含めて板状部と総称する。
【0024】
尚、上述のように、図面との対照を便利にするために符号を記したが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】既存建物を示す断面図
【図2】新設建物を示す断面図
【図3】構造物の建て替え手順を示す模式図
【図4】構造物の建て替え手順を示す模式図
【図5】構造物の建て替え手順を示す模式図
【図6】構造物の建て替え手順を示す模式図
【図7】構造物の建て替え手順を示す模式図
【図8】被圧帯水層による盤ぶくれ現象を示す概念図
【図9】従来の構造物の建て替え方法を示す模式図
【図10】従来の構造物の建て替え方法を示す模式図
【図11】従来の構造物の建て替え方法を示す模式図
【符号の説明】
【0026】
1 ケーシング
2 既存底盤
3 鋼管(圧縮軸力支持部材の一例)
3a 鍔状部(板状部の一例)
4 アースアンカー
5 水平切梁
A1 既存地下躯体
B1 新設地下躯体
G 解体ガラ
【技術分野】
【0001】
本発明は、解体ガラが充填された既存地下躯体に対し、その内側に新設地下躯体を構築する『構造物の建て替え方法』に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の構造物の建て替えにおいては、図8に示すように、既存地下躯体A1の下方の地盤に被圧帯水層10が位置している場合、前記被圧帯水層10の被圧水圧の影響を考慮する必要があり、既存地下躯体A1に充填された解体ガラGの撤去や、既存建物Aの解体によって既存底盤2にかかる荷重が減少するに伴って、浮き上がりや盤ぶくれ現象が懸念される。このような現象が発生する場合には、当然、それらに対する防止策を講じる必要がある。
従来、この種の構造物の建て替え方法としては、以下のような方法がある。
[1] 図9に示すように、既存建物Aの外方側に前記被圧帯水層10を貫通させて更にそれより深い深度まで新設の山留め遮水壁11を形成し、前記被圧帯水層10における周囲地盤からの水の供給を絶つと共に、既存建物Aの底盤での上下方向の力のバランスをとれるようにした後、既存地下躯体A1を解体する方法。
[2] 図10に示すように、敷地又はその周囲に前記被圧帯水層10の地下水を引き揚げる為の揚水井戸12を設置し、前記被圧帯水層10の水圧を低下させた状態で既存地下躯体A1を解体する方法。
[3] 図11の示すように、既存建物Aの既存底盤2から下方地盤中にアースアンカー4を設置しておき、建物の解体に伴って、前記アースアンカー4に軸方向力を導入して、既存底盤2に下方から加わる上向きの力を受け止めて、新設地下躯体に建て替える方法
(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特許第3457440号公報(図2、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の構造物の建て替え方法の内、前記[1]の方法によれば、前記新設の山留め遮水壁の施工のために充分な敷地が必要となり、市街地に多い構造物(敷地に余裕がない構造物)には適応し難いという問題点がある。また、一般的に、山留め遮水壁の深度が大深度になることが多く、施工工程及び施工コストの増加につながり易い。
また、前記[2]の方法によれば、揚水した地下水を排水するに当たり、その排水を処理できるだけの下水施設がその地域に整っていることが前提となると共に、地下水位の低下による地盤沈下が懸念される等の問題点がある。
また、前記[3]の方法によれば、アースアンカーの施工のために既存底盤を穿孔する必要があり、下方からの被圧水が既存底盤の作業空間に噴出する危険があるから、結果的には、前記[1]や[2]等の方法を併用するか、事前に、既存底盤の下方地盤の広い範囲に止水薬剤等を注入して止水を図った後にアースアンカーの施工を実施する必要があり、施工工程及び施工コストの増加につながり易い。
【0005】
従って、本発明の目的は、上記問題点を解消し、既存底盤の浮き上がり防止を図った状態での建て替えにおいて、周辺への悪影響が発生し難い状態での施工ができ、且つ、建て替え作業を効率よく経済的に実施できる構造物の建て替え方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の特徴構成は、解体ガラが充填された既存地下躯体に対し、その内側に新設地下躯体を構築するに際し、地表から複数箇所にケーシングを既存底盤に達するまで挿入・設置し、前記ケーシング内の解体ガラを撤去後、圧縮軸力支持部材を介してアースアンカーを設置して軸方向力を導入することによって浮き上がりを防止した後、残余の解体ガラを全て撤去して前記新設地下躯体を構築するところにある。
尚、上述の圧縮軸力支持部材とは、アースアンカーに軸方向力を導入する際に、アースアンカー上端部と既存底盤との間に介在し、ジャッキ反力を圧縮軸力として受けることで確保する部材を意味する。
【0007】
本発明の第1の特徴構成によれば、アースアンカーに軸方向力を導入する際の反力を、既存底盤上に立設した前記圧縮軸力支持部材によって確保できるから、地表でアースアンカーに軸方向力を導入するだけで、既存底盤に作用する上向き力にバランスさせて、盤ぶくれや浮き上がり防止を図ることが可能となる。
そして、アースアンカーの施工は、地表から実施することによって、従来のように地下の被圧水が作業空間に噴出するといったことを防止した状態でアースアンカーを設置することができ、周辺への悪影響が発生し難い状態で、しかも、各種の補助工法を実施しなくても、簡単且つ安全に工事を進行させることが可能で、建て替え工事全体としての工期短縮やコストダウンを図ることが可能となる。
【0008】
本発明の第2の特徴構成は、前記圧縮軸力支持部材は、筒部材で構成すると共に、前記アースアンカーは、筒部材の内空部を貫通する状態に設けるところにある。
【0009】
本発明の第2の特徴構成によれば、本発明の第1の特徴構成による上述の作用効果を叶えることができるのに加えて、アースアンカーの軸方向力の作用位置と、その外周で反力を確保する筒部材の芯の位置とをずれ難くでき、より安定した応力状態にアースアンカーを設置することが可能となる。
また、既存底盤のアースアンカー貫通部分から、仮に被圧水が上昇しても、筒部材の内空部に納めることができ、止水処理が実施し易い。
【0010】
本発明の第3の特徴構成は、前記圧縮軸力支持部材には、前記既存底盤への接当端部として、前記既存底盤の表面に沿う板状部を設けておくところにある。
【0011】
本発明の第3の特徴構成によれば、本発明の第1又は2の特徴構成による上述の作用効果を叶えることができるのに加えて、前記圧縮軸力支持部材による既存底盤への作用力を、より広い範囲の板状部で分散して作用させることにより、既存底盤への支圧力を低減することができ、より安定した状態でアースアンカーの反力確保をすることが可能となる。
【0012】
本発明の第4の特徴構成は、前記圧縮軸力支持部材は、前記既存地下躯体の内空部の撤去に伴って設置する水平切梁と連結するところにある。
【0013】
本発明の第4の特徴構成によれば、本発明の第1〜3の何れかの特徴構成による上述の作用効果を叶えることができるのに加えて、前記圧縮軸力支持部材は、水平切梁に対する棚杭の役目を果たすことができながら、水平切梁は、圧縮軸力支持部材に対する座屈防止支持材の役目を果たすことができる。従って、部材の兼用化によって、コストダウンを果たすことができると共に、地下空間に位置する部材をより少なくでき、建て替え工事をより広い空間で実施することで能率化を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。尚、図面において従来例と同一の符号で表示した部分は、同一又は相当の部分を示している。
【0015】
本実施形態は、図1に示すような、既存地下躯体A1を備えた既存建物Aを、図2に示す新設建物Bに建て替える方法の一実施形態を示すものである。
尚、ここに説明する既存建物Aに関しては、図3に示すように、既存一階床部A2aを除く既存地上躯体が事前に取り壊されており、その際に発生した解体ガラGは、既存地下躯体A1の内空部に充填されて、既存地上躯体の解体に伴う自重低減の緩和が図ってある。そして、一旦は、前記既存一階床部A2aの上に仮舗装等のオーバーレイが施された状態で、一次工程が終了しており、それ以後の工程について説明する。
【0016】
本実施形態の構造物の建て替え方法は、図3〜7に示すように、解体ガラGが充填された既存地下躯体A1に対し、その内側に新設地下躯体B1を構築するに際し、地表から複数箇所にケーシング1を既存底盤2に達するまで挿入・設置し、前記ケーシング1内の解体ガラGを撤去後、その内空部に、鋼管(圧縮軸力支持部材の一例)3を介してアースアンカー4を設置して軸方向力を導入することによって、アースアンカー4の引抜抵抗により既存底盤2の浮き上がりを防止した後、残余の解体ガラGを全て撤去して前記新設地下躯体B1を構築するものである。
【0017】
前記既存建物Aは、図3に示すように、既存一階床部A2aと、既存地下躯体A1とから構成されている。
そして、既存地下躯体A1の最下部には、前記既存底盤2が形成してある。
因みに、床部は、スラブや梁によって構成してあり、前記既存底盤2は、基礎スラブや地中梁によって構成してある。
【0018】
また、既存地下躯体A1の下方地盤中には、高被圧帯水層10(図1参照)が位置しており、前記既存建物Aを全体的に取り壊してしまうと、それまで作用していた基礎地盤部分への建物荷重が減少し、前記高被圧帯水層10の上向きの被圧水圧とのバランスが崩れ、基礎地盤部分の浮き上がりや盤ぶくれ現象を生じる危険性が高い状況にある。
【0019】
前記新設建物Bは、図2に示すように、前記既存建物Aの既存地下躯体A1の外殻部分を残しながら、その内側に一体的に新設地下躯体B1を形成すると共に、その上方に新設地上躯体B2を形成することで構成されている。
尚、当該実施形態のように、既存地下躯体A1の内空部の撤去に伴って、新設地下躯体B1の深度が大きいことから側壁部A1aに作用する土圧を仮設材で受け止める必要があるような場合には、既存地下躯体A1の内側に水平切梁5を仮設して側壁部A1aに作用する土圧を一時的に支持するものである(図7参照)。
【0020】
次に、既存の既存建物Aから新設建物Bへの具体的な建て替え手順について説明する。
[1] アースアンカー4を設置する箇所に、地上から、ケーシング1を設置する(図4参照)。
ケーシング1は、前記既存底盤2に達するまで挿入する。
[2] 前記ケーシング1内の解体ガラGを撤去する(図4参照)。
撤去作業は、例えば、テレスコ式クラムシェル等の装置を使用して行うことができる。
[3] 前記ケーシング1内の内空部に、前記鋼管3を挿入し、前記既存底盤2上に載置する(図5参照)。
前記鋼管3の下端部は、図に示すように、径方向外方に延出した鍔状部(板状部の一例)3aが形成してある。従って、既存底盤2の上面に鋼管3を当接させると、この鍔状部3aが既存底盤2の表面に沿い、既存底盤2への支圧力を分散させることが可能となる。
尚、ケーシング1の内空部の底部分に、予め、貧配合のモルタル等を充填しておき、その上から鋼管3を挿入すれば、鋼管3下端部での既存底盤2への密着性が向上する。また、後工程でのアースアンカー設置の際に、下方地盤からの湧水が発生しても、鋼管3内に納めることができる。
[4] 前記鋼管3の内空部を通して、地上から既存底盤2下方の地盤にアースアンカー4を打設する(図6参照)。
アースアンカー4の下端部が定着した後、前記鋼管3の上端部に、前記アースアンカー4の反力を確保する定着金具3bを取り付け、アースアンカー4に対して引抜力を作用させて軸方向力を導入できるようにする。アースアンカー4への軸方向力の導入は、既存底盤2を押し上げる力とのバランスを考慮して行われる。
[5] 前記ケーシング1を撤去すると共に、前記既存地下躯体A1内の残余の解体ガラGを撤去しながら、所定深度において、前記水平切梁5を既存地下躯体A1の側壁部A1aにわたって設置する(図7参照)。
尚、水平切梁5は、前記鋼管3と連結する。両者を連結することで、鋼管3を水平切梁5を支持する棚杭として利用できる一方、水平切梁5を、鋼管3の座屈防止材として利用することができる。即ち、鋼管3は、外周面を覆っていた解体ガラGが取り除かれるに伴って側方支持力が減少して、鋼管3の細長比が大きくなることで座屈し易くなるが、前記水平切梁5と連結することで、細長比を適切な範囲に抑えることができ、最小断面積で、アースアンカー4の軸方向力を確保することが可能となる。
[6] 残余の解体ガラGを全て撤去したら、その内空部に前記新設地下躯体B1を構築すると共に、上方には、新設地上躯体B2を構築する(図2参照)。
【0021】
本実施形態の構造物の建て替え方法によれば、地表からのアースアンカー施工を行う簡単な工程によって、既存底盤の盤ぶくれや浮き上がり防止を図ることが可能となり、周辺への地盤沈下等の悪影響が発生し難い状態で、簡単且つ安全に工事を進行させることが可能で、建て替え工事全体としての工期短縮やコストダウンを図ることが可能となる。
【0022】
〔別実施形態〕
以下に他の実施の形態を説明する。
【0023】
〈1〉 前記既存建物Aや、新設建物Bは、先の実施形態で説明した構成に限るものではなく、例えば、階層の数や柱の配置や構造等、自由に設定することができる。
〈2〉 前記圧縮軸力支持部材3は、先の実施形態で説明した鋼管で構成されたものに限るものではなく、例えば、鋼材で構成する場合には、角筒形状の鋼管や、形鋼等で構成されているものであってもよく、更には、それらの材料の組み合わせや、鋼材以外の材料
(例えば、コンクリート等)や、それら複数の材料の組み合わせによって構成されているものであってもよい。また、圧縮軸力支持部材3の平面配置は、アースアンカー4と同一軸芯上となるように配置することに限らず、双方がずれるような配置であってもよい。そして、一箇所のアースアンカー4の反力確保に、複数本の圧縮軸力支持部材3を使用するものであってもよい。
〈3〉 前記圧縮軸力支持部材3の下端部に形成した板状部は、先の実施形態で説明した鍔状部に限るものではなく、要するに、既存底盤2に対する圧縮軸力支持部材3の接地面積を増加させるものであれば良く、それらを含めて板状部と総称する。
【0024】
尚、上述のように、図面との対照を便利にするために符号を記したが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】既存建物を示す断面図
【図2】新設建物を示す断面図
【図3】構造物の建て替え手順を示す模式図
【図4】構造物の建て替え手順を示す模式図
【図5】構造物の建て替え手順を示す模式図
【図6】構造物の建て替え手順を示す模式図
【図7】構造物の建て替え手順を示す模式図
【図8】被圧帯水層による盤ぶくれ現象を示す概念図
【図9】従来の構造物の建て替え方法を示す模式図
【図10】従来の構造物の建て替え方法を示す模式図
【図11】従来の構造物の建て替え方法を示す模式図
【符号の説明】
【0026】
1 ケーシング
2 既存底盤
3 鋼管(圧縮軸力支持部材の一例)
3a 鍔状部(板状部の一例)
4 アースアンカー
5 水平切梁
A1 既存地下躯体
B1 新設地下躯体
G 解体ガラ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
解体ガラが充填された既存地下躯体に対し、その内側に新設地下躯体を構築するに際し、地表から複数箇所にケーシングを既存底盤に達するまで挿入・設置し、前記ケーシング内の解体ガラを撤去後、圧縮軸力支持部材を介してアースアンカーを設置して軸方向力を導入することによって浮き上がりを防止した後、残余の解体ガラを全て撤去して前記新設地下躯体を構築する構造物の建て替え方法。
【請求項2】
前記圧縮軸力支持部材は、筒部材で構成すると共に、前記アースアンカーは、筒部材の内空部を貫通する状態に設ける請求項1に記載の構造物の建て替え方法。
【請求項3】
前記圧縮軸力支持部材には、前記既存底盤への接当端部として、前記既存底盤の表面に沿う板状部を設けておく請求項1又は2に記載の構造物の建て替え方法。
【請求項4】
前記圧縮軸力支持部材は、前記既存地下躯体の内空部の撤去に伴って設置する水平切梁と連結する請求項1〜3の何れか一項に記載の構造物の建て替え方法。
【請求項1】
解体ガラが充填された既存地下躯体に対し、その内側に新設地下躯体を構築するに際し、地表から複数箇所にケーシングを既存底盤に達するまで挿入・設置し、前記ケーシング内の解体ガラを撤去後、圧縮軸力支持部材を介してアースアンカーを設置して軸方向力を導入することによって浮き上がりを防止した後、残余の解体ガラを全て撤去して前記新設地下躯体を構築する構造物の建て替え方法。
【請求項2】
前記圧縮軸力支持部材は、筒部材で構成すると共に、前記アースアンカーは、筒部材の内空部を貫通する状態に設ける請求項1に記載の構造物の建て替え方法。
【請求項3】
前記圧縮軸力支持部材には、前記既存底盤への接当端部として、前記既存底盤の表面に沿う板状部を設けておく請求項1又は2に記載の構造物の建て替え方法。
【請求項4】
前記圧縮軸力支持部材は、前記既存地下躯体の内空部の撤去に伴って設置する水平切梁と連結する請求項1〜3の何れか一項に記載の構造物の建て替え方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−185464(P2009−185464A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−24108(P2008−24108)
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
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