説明

構造物の支持工法

【課題】 基礎の下部に深くて大きい作業空間を掘削することなく、前記基礎を介して中空管上に安定的に構造物を支持可能にし、以って家屋等の構造物の傾きを効率的かつ確実に修正可能にする。
【解決手段】 構造物の基礎18付近の地盤20に削孔15を形成し、多数の貫通孔12が周壁に穿設された中空管杭11、11Aを削孔15内に埋設し、中空管杭11または11Aの上部にブラケット17を固設し、このブラケット17を介して中空管杭11または11A上に構造物の基礎18を支持させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物や擁壁などの構造物の傾きを、この構造物の基礎を昇降可能に支持することで修正する構造物の支持工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、地盤沈下による建物の傾きを修正するために、その建物の基礎直下の地盤を掘り込んで、この基礎直下に所定広さの作業空間となる穴を確保し、この基礎に反力をとってジャッキにより鋼管杭を継ぎ足しながら地盤に貫入させる技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この建物の傾き修正方法では、建物を支持する基礎の直下に作業空間を確保する作業に加えて、この作業空間内において、ジャッキを用いて基礎の直下で鋼管杭を地盤に対して垂直方向に打ち込んでいる。また、鋼管杭の継ぎ足しごとにジャッキを伸縮作動させながら鋼管杭をゆっくり地盤中に浸入させることができる。この場合に、鋼管杭の継ぎ足しは溶接によって行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−029953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の建物の傾き修正方法にあっては、建物の基礎の直下に長尺の鋼管杭を垂直に立てて地盤内に打ち込む作業や、鋼管杭の継ぎ足しのために実施されるジャッキの伸縮作業、さらに継ぎ足しを行なう鋼管杭どうしの溶接作業を実施するために、基礎の直下に鋼管杭の長さに見合った大きい作業空間、つまり深い穴を予め掘り込むことが必要になり、その堀り込み作業が大掛かりで非能率となる。一方、作業空間となる穴の掘り込みを浅くして、短目の鋼管杭を継ぎ足して使用する方法が考えられるものの、鋼管杭の使用個数が必然的に多くなり、これに伴い前記溶接作業工数が増えて煩雑化し、鋼管杭の埋め込みの作業効率が極めて悪くなるという不都合があった。
【0006】
本発明はかかる従来の問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、基礎の下部に深くて大きい作業空間を掘削することなく、前記基礎を介して中空管杭上に安定的に構造物を支持可能にし、以って家屋等の構造物の傾きを効率的かつ確実に修正することができる構造物の支持工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するために、本発明に係る構造物の支持工法は、構造物の基礎付近の地盤に削孔する削孔工程と、多数の貫通孔が周壁に穿設された中空管杭を、前記削孔内に埋設する中空管杭埋設工程と、前記中空管杭の上部にブラケットを固設し、該ブラケットを介して前記中空管杭に前記構造物の基礎を支持させる基礎支持工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
これにより、構造物の基礎をこの基礎付近の地盤に対し地上から埋設した中空管杭上にブラケットを溶接等によって固設し、このブラケットによってその中空管杭から水平方向に離れた前記基礎の下面をその基礎の傾きやレベルを調整しながら支持させるという簡単な作業のみで、構造物の傾きを迅速に修正することができる。
【0009】
また、本発明に係る構造物の支持工法は、前記中空管杭を、先端部が地盤の支持層に達する位置まで前記削孔内に埋設することで、基礎が施される地盤が軟弱地盤であっても中空管杭の沈み込みを防止でき、従って基礎および構造物の傾きを正した後も、その構造物の状態を長期に亘って安定的に維持することがことができる。
【0010】
また、本発明に係る構造物の支持工法は、前記中空管杭の先端部がこれの長手方向に設けられた複数本のスリットによって分岐されていることで、中空管杭の前記地盤への打ち込み時にこの中空管杭の下端に徐々に土砂が押し込まれ、前記スリットによって分岐された分岐片がその中空管杭の外径方向へ拡開するように変形する。これにより、この中空管杭が地盤の支持層に進入した後は、その分岐片がその埋設位置で周辺からの土圧を受け、地盤中では上下方向への移動が規制される。この結果、中空管杭の位置が固定され、引抜坦力および支持坦力が増大すると共に、この固定状態にある中空管杭に支持される基礎の高さ位置も安定化し、構造物の傾きを正しく修正でき、その状態を長期に亘って安定的にできる。
【0011】
また、本発明に係る構造物の支持工法は、前記中空管杭の上部にジャッキを設置し、該ジャッキで前記構造物の基礎を支持し、構造物の傾きを修正した後に、前記中空管杭の上部に固設したブラケットで構造物の基礎を支持することで、地盤中に安定支持された中空管杭上に設置した基礎の傾きの調整が可能になり、構造物の傾きを簡単かつ迅速に正すことができる。
前記ジャッキとして、流体圧を使用した偏平状(薄型)のジャッキを使用すると、小さい隙間でも設置可能となるので好ましい。
【0012】
また、本発明に係る構造物の支持工法は、前記地盤中に埋設された中空管杭内に、この埋設作業の前後いずれかのタイミングにてドレーン部材を装着することにより、軟弱地盤中に含まれる水を、小石などを除きながら、中空管杭内にスムースに導入して、さらに地上に排出することができ、これにより地震発生時における地盤の液状化現象を最小限に抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、基礎付近に埋設した中空管杭上に、この基礎を介して構造物を安定的に支持可能にし、これにより基礎の下部に深くて大きい作業空間を掘削することなく、家屋等の構造物の傾きを効率的かつ確実に修正することができる。
【0014】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための最良の形態を添付の図面を参照して詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明にかかる構造物の支持工法の実施に用いる中空管杭を示す斜視図である。
【図2】本発明にかかる構造物の支持工法を示す説明図である。
【図3】基礎下面にジャッキを設置し、これを水平となる高さに保持する様子を示す説明図である。
【図4】本発明にかかる構造物の支持工法によって埋設される中空管杭と基礎との位置関係を示す説明図である。
【図5】本発明にかかる構造物の支持工法の実施手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態にかかる構造物の支持工法を、図1乃至図4を参照して説明する。
【0017】
本発明の実施形態による構造物の支持工法では、構造物の基礎付近の地盤に多数の貫通孔が周壁に穿設された中空管杭を埋設し、この中空管杭の上部にブラケットを固設し、該ブラケットを介して前記中空管杭上に前記構造物の基礎を支持させる。
【0018】
まず、この実施形態による構造物の支持工法の実施に当り削孔機を用意する。加えて、構造物を支持する基礎付近(できるだけ基礎に近い位置)の地盤20に打ち込む中空管杭11、または11Aの頂部の地表からの高さ(レベル)を、地盤20の支持層21の深さや堅さなどを考慮して予め決定する(ステップS1)。この中空管杭11、11Aには図1乃至図3に示すものを用いる。
【0019】
ここで用意する中空管杭は、最下端に位置する円筒状の中空管杭11Aと、この上方に接続される円筒状の中空管杭11である。この中空管杭11、11Aの周壁には多数の貫通孔12が穿設されている。この中空管杭11、11Aに穿設された貫通孔12は、水の流入流出を抵抗なく許容するものの、所定粒径以上の小石などの中空管杭11、11A内への流入を阻止するサイズ、形状を持つ。中空管杭11、11Aとして、地盤20中の土質に応じた径の貫通孔12を持つものが選択して用いられる。
【0020】
この中空管杭11は地盤20への打ち込み深さに応じて複数本がバンブー継手などを介して中空管杭11A上に連結される。従って、最下端の中空管杭11A以外の中空管杭11はそれぞれ両端が同一の円筒形態を持つ。一方、最下端の中空管杭11Aは一端部(下端または先端)に、この中空管杭11Aの長手方向に複数本の略V字状のスリット13が図1に示すように形成され、これらのスリット13によって複数枚に分岐された分岐片14に分岐されている。なお、図1では、2個のスリット13によって2枚の円弧状の分岐片14を設けたものを示す。分岐片14が下端部に形成された中空管杭11Aの上端には、これに継ぎ足される他の中空管杭11が前記バンブー継手等を介して連結される。
【0021】
次に、中空管杭11、11Aを埋設する削孔を地盤20に掘削する方法を述べる。
まず、前記掘削機を傾いた構造物の基礎18付近(または近傍)に配置し、中空管杭11,11Aの埋設位置を決定する。また、削孔機のドリルヘッドによって中空ロッドオーガを把持して、これを基礎18近傍の地盤20内に回転させながら給進し、この削孔位置でコア抜きを行い、所定深さの削孔を行なう(ステップS2)。次いで、中空ロッドオーガ10の基端からロープに接続されたオーバショット(従来ワイヤラインコアボーリングで使用され、公知である。)を挿入して、ワイヤラインヘッド基端に係合し、ロープを引き揚げて中空ロッドオーガ内壁との係合を解除した上で、ワイヤラインヘッドを地上に引き揚げる。また、これと同時にまたは前後して中空ロッドオーガを削孔15内から地上に引き揚げ、削孔15を得る。
【0022】
また、別の地盤の掘削方法として、中空管内にオーガを同心的にセットし、このオーガの先端部分を中空管の先端より下方へ突出させて、地盤20上に垂直に立てる。そしてオーガと中空管の頂部を施工機(従来公知)に連結し、施工機によってオーガには回転力と推力を付与し、中空管には押し込み力を与えて地盤20を掘削する。これにより回転するスクリュー羽根先端のビットで地盤20の掘削がなされ、その掘削土はスクリュー羽根に沿って中空管内を搬送され、地上に排出される。一方、前記中空管端が地盤20の所定深度に達した場合には、この中空管とともにオーガを周知の方法で地上に引き揚げ、前述同様の削孔15を得る。
【0023】
さらに、削孔管(鋼管)の内部にピストン(ハンマー)を内蔵し、このピストン(ハンマー)で本体ヘッド部を打撃し、この打撃力を削孔管に伝えることにより削孔管の推進を行うダウンザホールドリルやインパクトモールでの削孔が、施工機がコンプレッサーとピストン内蔵の削孔管だけなので、小設備で搬入が容易であるし、建物等の障害物があっても施工できるので好ましい。この削孔工法としては、例えば、ダウンザホールドリル、グルンドラム工法、インパクトモール等を挙げることができる。この工法は、圧縮空気の力により、グルンドラム内部のピストンが本体ヘッド部を打撃し、この打撃力をラムコーンを介し鋼管(削孔管)に伝えることにより推進を行い、削孔するものであり、遠隔操作により衝撃方向を逆にして逆進させることもできるものである。
【0024】
次に、前述のようにして削孔15した後、前述の貫通孔12が穿設された、図1に示すような中空管杭11Aを、地盤20に掘削された前記削孔15内に挿入(埋設)する(ステップS3)。この中空管杭11Aは先端部にスリット13によって分岐形成された分岐片14を有し、この分岐片14を下方に向けて、削孔15内に挿入する。この削孔15内への中空管杭11Aの挿入は、前記分岐片14が地盤20の支持層21に至る深度まで実施される。この削孔15の深度が大きい場合には、この中空管杭11Aの上部に、バンブー継手などの連結具(図示しない)を用いて分岐片14を持たない別の中空管杭11を継ぎ足す。また、こうして削孔15内に挿入された中空管杭11Aまたは11(例えば、頂部)の地上からの深さ(レベル)を確認する。
【0025】
好ましくは、削孔15は支持層21に到達する以前までとし、該削孔15の孔底まで中空管杭11A、11を挿入し、その後に中空管杭11A、11を支持層21に到達するまで打ち込み又は押し込んで施工するのが良い。これにより削孔15の孔底より支持層21に進入するまで打ち込み又は押し込まれる時に、中空管杭11Aの下端に徐々に土砂(地盤土)が入り込み(押し込まれ)、前記スリット13によって分岐形成された分岐片14が、その中空管杭11Aの外径方向に拡開するように変形するから、周辺地盤からの土圧を受けると共に外径の拡径により、上下方向への移動が規制され、引抜坦力、支持坦力が増大するので好ましい。
【0026】
次いで、基礎18に近い地盤20に地上から埋設した中空管杭11Aまたは11の周りを、例えば図2に示すように、中空管杭11または11Aの頂部が露出する所定深さまで掘り込んで、ジャッキ(図示しない)が設置可能な比較的狭い作業空間16を確保する(ステップS4)。さらに、傾いている構造物を正規状態に戻すべく、目標の水平レベルを設定する(ステップS5)。そして、前記地盤20に埋設された前記中空管杭11または11Aにおける例えば頂部(上面)や外周位置のレベルと前記目的の水平レベルとから、これらの間に介在すべきブラケット17の高さを決定し、これを製作または用意する。
【0027】
そして、前記中空管杭11または11Aの頂部や図1に示すように予め決められた高さ位置の外周に、前記ブラケット17を溶接によって固設する(ステップS6)。図1では、ブラケット17として、中空管杭11または11Aの外周面から基礎18の中心部下面を支承する位置まで延出された所定厚みの鋼材を用いている。中空管杭11または11Aの頂部や前記外周へのブラケット17の溶接に当っては、予め中空管杭11または11Aの頂部等に設置した前記ジャッキを用いて基礎18下面の一部を支承しながらこれを昇降させ、構造物が水平となる所定高さ位置に保持する。かかる状態にて、ブラケット17の支承部17aを基礎18の下面に位置させ、この位置を保った状態にて中空管杭11または11Aにこのブラケット17を溶接する。
【0028】
この中空管杭11または11Aに対するブラケット17の溶接後、前記ジャッキを取り外し、基礎18上の構造物が水平になったことを確認する(ステップS7)。仮に、水平調整が不十分であった場合には、溶接されている前記ブラケット17を一旦取り外して、再び前記同様の作業を繰り返す。
【0029】
前記ジャッキを用いて基礎18下面の一部を支承してこれを昇降させ、構造物を水平となる所定高さに保持するジャッキとしては、従来公知のものを採用するが、中でも流体圧を使用する偏平状(薄型)のジャッキを使用すると、小さい隙間でも挿入して使用できるので好ましい。
図3は、基礎下面にジャッキを設置しこれを水平となる高さに保持する様子を示す説明図であり、中空管杭11の頂部に固設したブラケット17上に設置したジャッキ22で基礎18を支承している。この場合のジャッキ22が流体圧を使用した偏平状(薄型)のジャッキ22、例えば、エアジャッキであると、ブラケット17と基礎18下面との隙間が小さくてもジャッキ22を挿入して設置できるので好ましい。本例においては、ブラケット17と基礎18との間に支持体を介在させ、所定高さに保持させて、ジャッキ22を取り外す。図3において、符号23は、ジャッキ22に流体圧を供給するホースを示す。
【0030】
一方、前記のように基礎18上の構造物が水平に調整された場合に、作業空間16内に露出する中空管杭11または11Aの周囲にグラウトを施したり、土砂による埋戻しを行なったりして、作業を終了する。この場合に、構造物の傾きが基礎18の複数箇所の沈下等によって発生している場合には、これらの沈下している全ての基礎18について前記同様の作業を実施する。なお、ジャッキによる基礎18の昇降作業中または作業の前後において大きな負荷を受けてこの基礎18の一部が破損する場合が考えられる。このため、このジャッキによる基礎18の昇降作業の前後においては、図2に示すようにこの基礎18の一部、例えば隅部にコンクリートや補強金具、木材等の補強部材19を連設することが望ましい。
【0031】
ところで、埋立地や盛土造成地などのように人工的に作られた土地、海や河川周辺で地下水位が高い土地では、地盤20中に水を多く含み、軟弱となっている。このため、地震の発生時に地盤20の液状化現象が発生し、その地盤20上の構造物の一部または全部が沈下または傾斜する事故が発生している。
【0032】
本実施の形態では、前述のように地盤20に形成した削孔15に、多数の貫通孔12を周壁に有する中空管杭11、11Aを挿入(埋設)しているため、地盤20中の水はその貫通孔12を通して中空管杭11、11A内に積極的に集水される。この中空管杭11、11A内に集水された水はこの中空管杭11、11A内に滞留するものの、この滞留した水を適時にポンプ等を用いて地上へ排水することで、その構造物周辺の地盤20中に普遍的に存在する水の水抜きを継続的に実施できる。
【0033】
また、地盤20中の水抜きに使用する多孔型の中空管杭11、11A内には、例えば樹脂の線条材を絡み合わせて円筒状に成形したドレーン部材(図示しない)を挿入してもよい。このドレーン部材は内外部に無数の空隙を形成しているので、これらの空隙を介して中空管杭11、11Aの内外が連通するとともに、中空管杭11、11A内および前記貫通孔12を通じて地上と地盤20内が連通する。このドレーン部材は所定粒度以上の土砂を除いた水(泥水)のみを中空管杭11、11A内に導き、さらに中空管杭11、11A内を上昇させて地上にスムースに排出するように機能する。
【0034】
この水(泥水)の地上への排出はポンプを用いて人為的に汲み出すことができるほか、地震発生時にその液状化層に含まれる水をこの中空管杭11、11A内へ逃がすように、集中的に取り込ませ、地上に噴出させることができる。これにより地盤20全体を強化し、前記地震発生時における液状化現象による広域の地盤沈下等の各種被害を最小限に抑制することができる。
【0035】
このドレーン部材は所定長および所定サイズのものを前記中空管杭11、11Aの地盤20への前記挿入後にその中空管杭11、11A内に継ぎ足しながら挿入する。なお、このドレーン部材の外周面には必要に応じて土砂の移動を規制するフィルタ部材を設けることもできる。従って、地震が発生した際に地盤20中に普遍的に存在する水が、このドレーン部材を収納した中空管杭11、11A内に集中的に集められ、その中空管杭11または11Aの上端から地上に吹き上げるようにして排出される。これにより、地盤20中の水抜きをポンプなどを使うことなく、自然にまたは自動的に実施でき、地盤20の強化を図ることができる。
【0036】
また、本実施の形態では、中空管杭11または11Aを、これの下端部が地盤20の支持層21内に達する程度に埋設することによって、前記の軟弱地盤にも拘らず、中空管杭11、11Aを所定レベルに安定支持することができ、結果として、傾きが修正された構造物の水平度を確実かつ安定的に維持することができる。
【0037】
また、中空管杭11Aの先端にスリット13を施して複数の分岐片14を形成したことで、中空管杭11Aの地盤20への打ち込み時にこの中空管杭11Aの下端に徐々に土砂が押し込まれ、スリット13によって分岐された分岐片14がその中空管杭11Aの外径方向へ拡開するように変形する。これにより、この中空管杭11Aが地盤20の所定深さに埋設された後は、その分岐片14がその埋設位置で周辺からの土圧を受け、地盤20中では上下方向への移動が規制される。この結果、中空管杭11Aの位置が固定され、この固定状態にある中空管杭11Aに支持される基礎18の高さ位置も安定化し、構造物の傾きを正しく修正でき、その状態を長期に亘って安定保持できる。
【0038】
なお、前述の地盤20に対するいずれの削孔方法にあっても、削孔の掘削に使用する中空ロッドや中空管を、地盤20中の水抜きに使用する多孔型の中空管杭11、11Aとして用いる場合には、この中空管杭11、11Aを地盤20中に残置させることができる。この中空管杭11、11Aは地盤20中の水をこれの周壁に設けられた多数の貫通孔12を通して管内に集めるので、この管内に集めた水を地上に排出し、地盤20中の水抜きを前述と同様にして行なうことができる。
【0039】
以上のように、本実施形態の構造物の支持工法は、構造物の基礎18付近の地盤20に多数の貫通孔12が周壁に穿設された中空管杭11または11Aを、削孔15内に埋設し、中空管杭11または11Aの上部にブラケット17を固設し、このブラケット17を介して中空管杭11または11Aに構造物の基礎18を支持させる構成としている。これにより、基礎18の真下に従来のように深くて大きい作業空間を掘削する必要がなくなり、家屋等の構造物の傾きを効率的かつ確実に修正するように、前記基礎18を介して中空管11または11A上に安定的に構造物を支持させることができる。
【0040】
この場合において、先端部が地盤20の支持層14に達する位置まで前記削孔15内に中空管杭11Aを埋設することで、基礎18が施される地盤20が軟弱地盤であっても、中空管杭11、11Aの沈み込みはなく、従って構造物の姿勢を正した後も、その構造物の正しい姿勢を長期に亘って安定的に維持することがことができる。
【0041】
さらに、中空管杭11Aが、先端部をこの中空管杭11Aの長手方向に設けられた複数本のスリット13によって分岐することで、中空管杭11Aの前記地盤20への打ち込み時にこの中空管杭11Aの下端に徐々に土砂が侵入する。このため、その分岐片14をその中空管杭11Aの外径方向へ拡開させることができる。このため、この中空管杭11Aが地盤20の所定深さに埋設された後は、その分岐された分岐片14が中空管杭11Aの地盤20中における上下方向への移動を規制し、中空管杭11Aの位置が固定され、この固定状態にある中空管杭11Aに支持される基礎18の高さ位置も安定化し、姿勢が正された構造物の再傾動を回避することができる。また、かかる効果を長期に亘って持続させることができる。
【0042】
また、中空管杭11、11Aの上部へのブラケット17の固設に先立って、中空管杭11、11Aの上部に設置したジャッキにより前記構造物の基礎18を昇降自在に支持することで、地盤20中に安定支持された中空管杭11、11A上に設置したジャッキによる基礎18の高さ調整により、構造物を簡単かつ正確に傾き調整することができる。加えて、地盤20中に埋設された中空管杭11、11A内に、この埋設作業の前後いずれかのタイミングにてドレーン部材を装着することにより、軟弱地盤20中に含まれる水を、小石などを除きながら、中空管杭11、11A内にスムースに導出して、さらに地上に排出することができ、これにより地震発生時における地盤20の液状化現象を最小限に抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明にかかる構造物の支持工法は、基礎の下部に深くて大きい作業空間を掘削することなく、家屋や擁壁等の構造物の傾きを効率的かつ確実に修正できるという効果を有し、建物や擁壁などの構造物の傾きを修正するための構造物の支持工法等に広く利用可能である。
【符号の説明】
【0044】
11、11A 中空管杭
12 貫通孔
13 スリット
14 分岐片
15 削孔
16 作業空間
17 ブラケット
18 基礎
19 補強部材
20 地盤
21 支持層
22 ジャッキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の基礎付近の地盤に削孔する削孔工程と、
多数の貫通孔が周壁に穿設された中空管杭を、前記削孔内に埋設する中空管杭埋設工程と、
前記中空管杭の上部にブラケットを固設し、該ブラケットを介して前記中空管杭に前記構造物の基礎を支持させる基礎支持工程と、
を有することを特徴とする構造物の支持工法。
【請求項2】
前記中空管杭を、先端部が地盤の支持層に達する位置まで前記削孔内に埋設することを特徴とする請求項1に記載の構造物の支持工法。
【請求項3】
前記中空管杭は、先端部がこの中空管杭の長手方向に設けられたスリットにより分岐され、前記地盤への削孔は、支持層に到達する以前で止め、前記中空管杭をスリットにより分岐された先端部から該削孔に挿入し、その後該中空管杭を支持層まで打ち込み又は押し込むことを特徴とする請求項1記載の構造物の支持工法。
【請求項4】
前記中空管杭の上部にジャッキを設置し、該ジャッキで前記構造物の基礎を支持し、構造物の傾きを修正した後に、前記中空管杭の上部に固設したブラケットで構造物の基礎を支持することを特徴とする請求項1または3に記載の構造物の支持工法。
【請求項5】
前記ジャッキは、液体圧を使用した偏平状のジャッキであることを特徴とする請求項4記載の構造物の支持工法。
【請求項6】
前記地盤中に埋設された中空管杭内に、この埋設作業の前後いずれかのタイミングにてドレーン部材が装着されることを特徴とする請求項1、3および4のいずれか1項に記載の構造物の支持工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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