機能性フィルムを移送するための負圧吸着ヘッドとそれを用いた細胞培養容器の製造方法
【課題】機能性フィルムを負圧吸着ヘッドを用いて細胞培養容器へ移送するときに、機能性フィルムと細胞培養容器の底面との間に気泡が存在しない状態で、機能性フィルムを細胞培養容器の底面の適正な位置に落下させることのできる負圧吸着ヘッドを提供する。
【解決手段】機能性フィルムを複数の負圧吸着孔を備えた吸着面に負圧吸着して細胞培養容器へ移送した後、負圧を開放して機能性フィルムを細胞培養容器へ落下させるのに用いる負圧吸着ヘッド40であって、前記複数の負圧吸着孔44a〜44kのそれぞれに接続された複数の通気路37a〜37kと、前記複数の通気路を流れる気体の流量を調整するために各通気路に設けられた流量調整弁38a〜38kと、前記流量調整弁の開度を制御する制御部と、を備えることを特徴とする負圧吸着ヘッド。
【解決手段】機能性フィルムを複数の負圧吸着孔を備えた吸着面に負圧吸着して細胞培養容器へ移送した後、負圧を開放して機能性フィルムを細胞培養容器へ落下させるのに用いる負圧吸着ヘッド40であって、前記複数の負圧吸着孔44a〜44kのそれぞれに接続された複数の通気路37a〜37kと、前記複数の通気路を流れる気体の流量を調整するために各通気路に設けられた流量調整弁38a〜38kと、前記流量調整弁の開度を制御する制御部と、を備えることを特徴とする負圧吸着ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性フィルムを細胞培養容器へ移送するための負圧吸着ヘッドとそれを用いた細胞培養容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表面に細胞培養される親水性ポリマー(温度応答性ポリマー)の層を被覆した細胞培養支持体(シャーレなどの細胞培養容器)が特許文献1に記載されている。この細胞培養支持体を用いることにより、温度を変化させるだけで培養・増殖後の細胞を破壊することなく細胞支持体から容易に剥離して回収することができる。しかし、特許文献1に記載のように、シャーレなどの細胞培養容器に、別個にバッチ処理により表面処理をして機能性化合物層を設けることは、多くの手間を必要としており、作業性の観点からはなお改善する余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−211865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そのための改善された手法として、機能性化合物層の多数個を帯状の剥離フィルム上に配列した原反を予め作っておき、ラベリングの手法を使って、原反から機能性化合物層を連続的に剥離させるとともに、各剥離した機能性化合物層を、従来からシート材などの搬送手段として用いられている負圧吸着ヘッドを用いて、細胞培養容器まで移送した後、負圧の開放と負圧吸着ヘッドからの排気を行い、機能性化合物層を細胞培養容器の底部に配置する手法が考えられる。
【0005】
細胞培養容器の底面に機能性フィルムを配置して細胞の培養・増殖を行う場合、細胞培養容器の底面と機能性フィルムの裏面との間に気泡が存在しない状態で、両者が密着していることが求められる。本発明者らは従来から用いられている負圧吸着ヘッドを用い、負圧吸着ヘッドの吸着面に機能性フィルムを吸着した状態で細胞培養容器の上まで移送し、そこで負圧の開放と排気を行って機能性フィルムを細胞培養容器の底面に落下させる処理を多く行っているが、多くの場合、落下した機能性フィルムと細胞培養容器の底面との間に気泡が存在してしまうのを避けることができなかった。気泡が存在する場合、高温高圧水蒸気によるオートクレーブ処理を行って気泡を除去することが必要であり、余分な作業が必要となることに加え、機能性フィルムの種類によっては、特に親水性ポリマーを備えた機能性フィルムの場合には、オートクレーブ処理により機能性フィルムが損傷する恐れもある。
【0006】
また、原反から剥離した機能性化合物層は負圧吸着ヘッドの吸着面に対して適切な位置からずれて送出される場合があるが、従来から用いられている負圧吸着ヘッドを用いて原反から剥離した機能性化合物層を負圧吸着ヘッドの吸着面に負圧吸着させる場合、その位置ずれの修正を行うことができず、機能性化合物層が負圧吸着ヘッドの吸着面の適正な位置に配置されない可能性がある。このように機能性化合物層が負圧吸着ヘッドの吸着面の適正な位置に配置されないと、負圧吸着ヘッドの負圧の開放と負圧吸着ヘッドからの排気を行い、機能性化合物層を細胞培養容器の底部に配置する際、機能性化合物層を細胞培養容器の底部の適正な位置に配置することができず、細胞の培養や増殖を精緻に行うことができない恐れもある。
【0007】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、機能性フィルムを負圧吸着ヘッドを用いて初期位置から細胞培養容器へ移送するときに、機能性フィルムと細胞培養容器の底面との間に気泡が存在しない状態で、機能性フィルムを細胞培養容器の底面に落下させることを可能とするとともに、機能性フィルムを細胞培養容器の底面の適正な位置に落下させることを可能とした負圧吸着ヘッドを提供することを第1の課題とする。また、その負圧吸着ヘッドを用いて機能性フィルムを細胞培養容器の底面に移送し、機能性フィルムを細胞培養容器に配置する細胞培養容器の製造方法を提供することを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく多くの実験を行うことにより、従来知られた負圧吸着ヘッドでは、図11(a)に示すように、その吸着面1には同じ孔径である複数の負圧吸着孔2が等しい密度で分布しており、負圧の解除後にそこから排気したときに、機能性フィルムの全面にわたって各負圧吸着孔2からほぼ等しい排気圧および等しい量の空気が作用することとなり、結果として、機能性フィルム3は、図11(b)に示すように、細胞培養容器4の底面5とほぼ平行な姿勢を保った状態で容器4の底面5に向けて落下することとなり、空気の逃げ道が制限されることから、図11(c)に示すように、両者の間に気泡6が残ってしまうことを知見した。
【0009】
本発明は、上記の知見に基づくものであり、本発明による負圧吸着ヘッドは、機能性フィルムを複数の負圧吸着孔を備えた吸着面に負圧吸着して細胞培養容器へ移送した後、負圧を開放して機能性フィルムを細胞培養容器へ落下させるのに用いる負圧吸着ヘッドであって、前記複数の負圧吸着孔のそれぞれに接続された複数の通気路と、前記複数の通気路を流れる気体の流量を調整するために各通気路に設けられた流量調整弁と、前記流量調整弁の開度を制御する制御部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明による負圧吸着ヘッドを用いて前記初期位置で機能性フィルムを吸着する際には、複数の負圧吸着孔のそれぞれに接続された複数の通気路と、複数の通気路を流れる気体の流量を調整するために各通気路に設けられた流量調整弁とを備え、制御部にて各流量調整弁の開度を制御して各通気路を流れる気体の流量を調整することで、機能性フィルムが吸着面に対してずれた位置に送出される場合であっても、吸着面の各負圧吸着孔における吸着力を調整することができ、吸着面に対する機能性フィルムの位置ずれを修正して該機能性フィルムを吸着面の適正な位置に配置することができる。
【0011】
また、本発明による負圧吸着ヘッドを用いて機能性フィルムを初期位置から細胞培養容器へ移送し、細胞培養容器上で機能性フィルムを負圧吸着ヘッドから分離する際には、負圧を開放するが、それと同時に負圧吸着ヘッドの各負圧吸着孔から排気を行うことが好ましい。このとき、制御部にて各流量調整弁の開度を制御して各通気路を流れる気体の流量を調整し、各負圧吸着孔から排気される気体の排気量や排気圧を調整することで、気体の排気量や排気圧が吸着面全面で等しくなくなり、たとえば一部の領域でより多くの気体が排気されることとなる。そして、より多くの気体が排気される領域では、機能性フィルムが他の部分と比較してより早くかつより速い落下速度で、吸着面から細胞培養容器へ向けて落下する。
【0012】
結果として、機能性フィルムは下に凸の曲面を形成した状態で細胞培養容器の底面に向けて落下することとなり、機能性フィルムの全体は時間差をもって細胞培養容器の底面に次第に着地していく。その過程で、機能性フィルムの裏面と細胞培養容器の底面との間に存在する空気は、順次連続して外側に向けて排出されるので、間に気泡がない状態で機能性フィルムの全体が細胞培養容器の底面に配置されるようになる。
【0013】
なお、機能性フィルムを負圧吸着ヘッドから分離する際に、通気路を通って各負圧吸着孔から排気される気体としては、例えば空気や窒素を用いることができる。
【0014】
本発明による負圧吸着ヘッドにおいて、制御部は流量調整弁の開度をそれぞれ別個に制御してもよい。好ましい形態では、前記吸着面は、前記負圧吸着孔から排気される気体の排気量が異なる複数の領域を有しており、前記制御部は、前記領域毎に前記流量調整弁の開度を制御する。このように気体の排気量が異なる領域毎に流量調整弁の開度を制御することにより、制御部による流量調整弁の制御を簡素化することができる。
【0015】
また、本発明による負圧吸着ヘッドの好ましい形態では、前記複数の通気路は前記領域毎に集合路に接続されており、前記流量調整弁は前記集合路に設けられている。このように領域毎の通気路を束ねて集合路とし、その集合路に流量調整弁を配設し、制御部にてその流量調整弁の開度を制御して領域毎に通気路を流れる気体の流量を調整することで、流量調整弁の基数を抑制することができ、負圧吸着ヘッドの構成を簡素化して製造コストの高騰を抑制することができる。
【0016】
本発明において、負圧吸着ヘッドの吸着面の平面視での形状は、特に限定されないが、好ましくは、移送する機能性フィルムを収容する細胞培養容器の底面形状と一致した形状である。また、他の領域と比較して多くの気体が排気される領域を吸着面のどの位置に形成するかも特に制限はなく、実際の機能性フィルムが持つ物理的な物性値と細胞培養容器の底面形状とを考慮して実験的に最適位置を設定すればよい。一般的には、吸着面の中央部か一端部である。
【0017】
本発明は、さらに、上記したいずれかの負圧吸着ヘッドを用いた細胞培養容器の製造方法であって、機能性フィルムを前記負圧吸着ヘッドの吸着面に負圧吸着し、該機能性フィルムを細胞培養容器上へ移送した後、負圧を開放して該機能性フィルムを前記細胞培養容器へ落下させ、該機能性フィルムを該細胞培養容器に配置することを特徴とする細胞培養容器の製造方法を開示している。
【発明の効果】
【0018】
本発明による負圧吸着ヘッドを用いることにより、機能性フィルムの裏面と細胞培養容器の底面との間に気泡の発生を抑えた状態で、機能性フィルムを細胞培養容器の底面の適正な位置に配置することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による負圧吸着ヘッドによって移送される機能性フィルムの一例を説明する模式図。
【図2】多数個の機能性フィルムを帯状の剥離フィルムに仮接着した原反を説明する模式図。
【図3】本発明による負圧吸着ヘッドを備えた細胞培養容器の製造装置の一例を説明する模式図。
【図4】本発明による負圧吸着ヘッドの一例を説明する図であって、(a)はその縦断面図、(b)はその下面図。
【図5】本発明による負圧吸着ヘッドの他例を説明する図であって、(a)はその縦断面図、(b)はその下面図。
【図6】本発明による負圧吸着ヘッドを用いた場合での機能性フィルムの落下状態を説明する図。
【図7】機能性フィルムを配置した細胞培養容器の例であるフラスコ型細胞培養容器を示す図。
【図8】図7に示すフラスコ型細胞培養容器の製造手順を示す図。
【図9】図7に示すフラスコ型細胞培養容器の他の製造手順を示す図。
【図10】本発明による負圧吸着ヘッドを用いた場合での機能性フィルムの落下状態を説明する他の図。
【図11】従来の負圧吸着ヘッドを用いた場合での培養シートの落下状態を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施の形態に基づき説明する。図1は、本発明による負圧吸着ヘッドによって移送される機能性フィルムの一例を説明する模式的に示す断面図である。なお、本発明において、対象となる機能性フィルムは、可撓性を有しており、かつ表面に細胞培養に適した所望の機能が付与された、粘着剤層を備えたフィルムであれば特に限定されない。好ましい実施形態では、図1に示す機能性フィルム10のように、フィルム基材層11の一方の面に機能性化合物層12が積層され、他方の面に粘着剤層13が積層されている。なお、図1において、14は後記する帯状をなす剥離フィルムである。
【0021】
<フィルム基材層11>
限定されないが、フィルム基材層11は、一方の表面に前記機能性化合物層12を形成することが可能な材料を含むものであればよく、材料の種類は特に限定されない。典型的には、フィルム基材層11の材料として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリイミド(PI)、ナイロン(Ny)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルフォン、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、アクリル等が挙げられる。
【0022】
フィルム基材層11の、機能性化合物層12が形成される側の表面は、易接着処理された表面であることができる。「易接着処理」とは、例えば、ポリエステル、アクリル酸エステル、ポリウレタン、ポリエチレンイミン、シランカップリング剤、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)等の易接着剤による処理を指す。
【0023】
フィルム基材層11の厚さ(フィルム基材層11が基材の層に加えて易接着層を備える場合は、易接着層を含むフィルム基材層の全体の厚さを指す)は、特に制限は無いが可撓性を付与する厚さであることが好ましく、例えば5μm〜400μm、好ましくは50μm〜250μmである。
【0024】
<機能性化合物層12>
機能性化合物層12を構成する機能性化合物としては、有機化合物または無機化合物が挙げられ、より好ましくは、所定の刺激によって細胞接着性から細胞非接着性へと変化することが可能な表面を有する刺激応答性ポリマーや、1つ以上のエチレングリコール単位(CH2−CH2−O)からなるエチレングリコール鎖等の親水性化合物が挙げられる。
【0025】
機能性化合物層の膜厚は、例えば、0.5nm〜300nmの範囲内とするのがよく、なかでも1nm〜100nmの範囲内であることが好ましい。
【0026】
以下「刺激応答性ポリマー層」および「親水性化合物層」の好適な実施形態について説明する。
【0027】
<刺激応答性ポリマー層>
機能性有機化合物層は、刺激応答性ポリマー層であることが特に好ましい。刺激応答性ポリマー層とは、所定の刺激によって表面の細胞の接着度合いが変化するポリマーを含む層である。刺激応答性ポリマーとしては、温度応答性ポリマー、pH応答性ポリマー、イオン応答性ポリマー、光応答性ポリマーなどを挙げることができる。なかでも温度応答性ポリマーが、刺激の付与が容易であることから好ましい。
【0028】
温度応答性ポリマーとして、例えば、細胞を培養する温度では細胞接着性を示し、作製した細胞シートの剥離する時の温度では細胞非接着性を示すものを用いるとよい。例えば、温度応答性ポリマーは、臨界溶解温度未満の温度では周囲の水に対する親和性が向上し、ポリマーが水を取り込んで膨潤して表面に細胞を接着し難くする性質(細胞非接着性)を示し、同温度以上の温度ではポリマーから水が脱離することでポリマーが収縮して表面に細胞を接着しやすくする性質(細胞接着性)を示すものを用いるとよい。このような臨界溶解温度は、下限臨界溶解温度Tと呼ばれる。下限臨界溶解温度Tが0℃〜80℃、さらに好ましくは0℃〜50℃である温度応答性ポリマーを用いるとよい。下限臨界溶解温度Tが0℃〜80℃であると、細胞を安定的に培養できるからである。
【0029】
好適な温度応答性ポリマーとしては、アクリル系ポリマーまたはメタクリル系ポリマーが挙げられる。具体的に好適な温度応答性ポリマーとしては、例えばポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(T=32℃)、ポリ−N−n−プロピルアクリルアミド(T=21℃)、ポリ−N−n−プロピルメタクリルアミド(T=32℃)、ポリ−N−エトキシエチルアクリルアミド(T=約35℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(T=約28℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(T=約35℃)、およびポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド(T=32℃)等が挙げられる。
【0030】
pH応答性ポリマーおよびイオン応答性ポリマーは作製しようとする細胞シートに適したものを適宜選択することができる。
【0031】
刺激応答性ポリマー層は、重合して目的の刺激応答性ポリマーを形成するモノマーと、該モノマーを溶解しうる有機溶媒とを含む塗布用組成物を調製し、これを慣用の塗布方法に従って、フィルム基材の表面に塗布して塗膜を形成し、次に、該塗膜に放射線照射等の適当な手段により塗膜中のモノマーを重合してポリマーを形成するとともに、フィルム基材の表面とポリマーとの間にグラフト化反応を生じさせることにより形成することができる。
【0032】
<親水性化合物層>
機能性有機化合物層の他の実施形態として、1つ以上のエチレングリコール単位からなるエチレングリコール鎖(複数のエチレングリコール単位からなるエチレングリコール鎖は、「ポリエチレングリコール鎖」ということができる)等の親水性化合物の層が挙げられる。
【0033】
エチレングリコール鎖の末端は水酸基により封鎖された形態であってもよいし、エチレングリコール鎖の末端に生体関連物質等の他の物質が共有結合により連結された形態であってもよい。
【0034】
末端が水酸基により封鎖されたエチレングリコール鎖を含む層は、細胞が接着し難い親水性の表面を提供することができる。
【0035】
エチレングリコール鎖の末端に共有結合されうる生体関連物質としては、抗原、抗体、DNA、RNA、ペプチド、ホルモン、酵素、サイトカイン、糖鎖、脂質、補酵素、酵素阻害剤、細胞、その他の機能を有するタンパク質が含まれる。更に、このような生体関連物質と親和性を有する低分子化合物、および高分子化合物も生体関連物質の範囲に含まれる。
【0036】
エチレングリコール鎖等の親水性化合物の層を、樹脂製のフィルム基材層の表面に固定化するためには、予め、フィルム基材層の表面に、物理的に吸着可能であって、エチレングリコール鎖の末端の水酸基と反応して共有結合を形成可能な官能基を側鎖に含むポリシロキサンを含むプライマー層を設ける。ポリシロキサンの側鎖上の官能基としては、グリシジル基またはエポキシ基が好ましい。プライマー層は、フィルム基材層の表面に、所望の側鎖を有するシラノール化合物を適用し、該表面上で縮合重合してポリシロキサンに変換することにより形成することができる。
【0037】
次いで、プライマー層の官能基と、エチレングリコールまたはエチレングリコール単位が2以上繰り返されたポリエチレングリコールの水酸基とを反応させて共有結合を形成し、エチレングリコール鎖を固定化する。このとき、触媒量の濃硫酸を含むエチレングリコールまたはポリエチレングリコールをプライマー層に接触させる。
【0038】
末端が水酸基により封鎖されたエチレングリコール鎖を含む層はこのようにして形成される。
【0039】
更に、必要に応じて、エチレングリコール鎖の一端に、他の物質との共有結合を形成することが可能な、少なくとも1つの官能基を直接的または間接的に連結させる。官能基の導入方法は特に限定されない。
【0040】
<粘着剤層13>
粘着剤層13を構成する粘着剤としてはポリエステル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレンイミン樹脂、シランカップリング剤、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)等を挙げることができ、なかでもアクリル酸エステル樹脂、ポリウレタン樹脂等を好ましく用いることができる。
【0041】
粘着剤層の厚さは特に限定されないが、10μm〜300μmであることが好ましく、20μm〜200μmであることがより好ましい。
【0042】
図1に示す層構造の機能性フィルム10は、任意の方法で作ることができるが、本実施の形態では、次のようにして作られる。すなわち、帯状をなす剥離フィルム14の全面に前記粘着剤層13を塗布し、その上に、同じ幅であるやはり帯状のフィルム基材層11と機能性化合物層12を積層する。それにより、図示するように、剥離フィルム14と粘着剤層13とフィルム基材層11と機能性化合物層12の層の4層構造からなる、長尺物20(図2参照)が形成される。なお、剥離フィルム14には、必要な強度や柔軟性を有する限り特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂からなるフィルムまたはそれらの発泡フィルムに、シリコーン系剥離剤等の剥離剤で剥離処理したものを挙げることができる。
【0043】
長尺物20の前記剥離フィルム14とは反対の面から、得ようとする機能性フィルム10の外郭形状を持つ型枠(不図示)を、剥離フィルム14の表面にまで達するように押下する。それにより、機能性化合物層12とフィルム基材層11と粘着剤層13には、機能性フィルム10の外郭形状をなす切り込み線21が形成される。その型押し作業を所定の間隔をおいて連続的に長尺物20に対して行うことにより、図2に示すような、複数個の切り込み線21の入った長尺物20が得られる。
【0044】
機能性フィルム10の平面視での形状には制限はなく任意の形状を取ることができ、それに応じた型枠が用いられる。図2に示した例では、図7に示すような先狭まり状とされた細胞培養容器50Aの底面51Aに配置することを予定する機能性フィルム10を得ようとするものであり、切り込み線21は、細胞培養容器50Aの底面51Aの内周輪郭の形状とほぼ同じ形状とされている。
【0045】
前記長尺物20は、機能性フィルム10側が内側となるようにしてロール状に巻き込まれて原反22(図3参照)とされ、保管される。
【0046】
図3は、前記原反22から機能性フィルム10を分離し、分離後の機能性フィルム10を細胞培養容器50の底面51に移し替える装置の一例を示している。図示の移し替え装置30は、従来知られた3次元ロボットアーム(不図示)に取り付けられたエアーシリンダ31を備え、該エアーシリンダ31の下方先端に、図4に一例を示すような本発明による負圧吸着ヘッド40が着脱自在に装着されている。エアーシリンダ31は、3次元ロボットアームの制御装置(不図示)により、吸着面41の面方向であるX−Y軸方向および垂直方向であるZ軸方向に移動自在とされている。
【0047】
図3に示すように、エアーシリンダ31の近傍には、水平方向またはわずかに下方に傾斜した方向に延在する案内台32が位置しており、前記原反22から巻き出される長尺物20は、ガイドロール33・・によって案内されることで、前記案内台32の上面に沿って移動し、案内台32の先端でUターンした後、巻き取りロール34によって巻き取られる。長尺物20が案内台32の先端でUターンするときに、前記切り込み線21によって区画された内側の領域は剥離フィルム14から剥離し、案内台32の上面の延長線方向に送り出される。すなわち、機能性化合物層12とフィルム基材層11と粘着剤層13の3層構造からなる機能性フィルム10が、粘着剤層13側を下面側とした姿勢で連続的に剥離フィルム14から剥離し、水平方向またはわずかに下方に傾斜した方向に送り出される。
【0048】
移し替え装置30は、さらに、細胞培養容器50を水平姿勢に載置した状態で間欠的に移動と停止を繰り返すことのできる搬送コンベア35を備えている。また、好ましくは、前記案内台32の先端近傍であって送り出される機能性フィルム10の下方位置には、機能性フィルム10の横幅にほぼ等しい横幅を持つエアノズル45が空気噴出方向を斜め上方に向けた姿勢で取り付けられる。エアノズル45からの空気噴出を下方から受けることにより、剥離フィルム14から剥離して送り出される機能性フィルム10は、その後もほぼ水平な姿勢を維持することができる。なお、機能性フィルム10に噴出する気体としては、空気の他、例えば窒素などの不活性ガスを適用することもできる。
【0049】
前記負圧吸着ヘッド40は、図4(a)の縦断面図に示すように、実質的に平坦面である吸着面41と該吸着面41の反対側の空気室42とを有し、前記空気室42は前記エアーシリンダ31の空気路36と接続している。そして、前記空気路36は適宜の図示しない空気吸引および排気手段に接続している。また、前記吸着面41には多数の負圧吸着孔44が形成されており、複数の負圧吸着孔44のそれぞれに空気路(通気路)37が接続され、各空気路37に電磁弁(流量調整弁)38が設けられている。また、各電磁弁38はそれぞれ制御線39aを介して制御部39(図3参照)と接続されており、制御部39の制御信号に基づいて電磁弁38の開度を制御して各空気路37を流れる空気の流量を調整できるようになっている。
【0050】
また、図4(b)に示すように、この例において、前記吸着面41の形状は平面視で円形である。すなわち、この移し替え装置30で用いる前記原反22には、図2で示したものと異なり、前記吸着面41とほぼ同じ大きさである円形の切り込み線21が一定間隔で形成されており、円形の機能性フィルム10が、前記したように、粘着剤層13側を下面側とした姿勢で連続的に剥離フィルム14から剥離して水平方向またはわずかに下方に傾斜した方向に送り出される。
【0051】
不図示のロボットアームの制御装置は、送り出されてくる機能性フィルム10を負圧吸着ヘッド40によって負圧吸着することのできる位置に、前記エアーシリンダ31を位置させる。そして、吸引手段によって空気室42内の空気を吸引することで、吸着面41に負圧を発生させ、それにより、機能性フィルム10は吸着面41に負圧吸引される。その際、送り出されてくる機能性フィルム10の吸着面41に対する位置を適宜の手段によって検知し、機能性フィルム10が吸着面41に対してずれた位置で送り出されている場合には、電磁弁38の開度を制御して各空気路37を流れる空気の流量を調整し、吸着面41の負圧吸着孔44における吸着力を調整して、機能性フィルム10を吸着面41の適切な位置へ誘導する。例えば、原反22から剥離した機能性フィルム10が吸着面41に対して送出方向(図中、左方向)へずれた位置で送り出される場合には、吸着面41の負圧吸着孔44のうち負圧吸着孔44e、44fに接続された空気路37e、37fの電磁弁38e、38fを閉弁し、負圧吸着孔44j、44kに接続された空気路37j、37kの電磁弁38j、38kの開度を大きくし、機能性フィルム10を送出方向と逆方向(図中、右方向)へ誘導して、機能性フィルム10を吸着面41の適切な位置へ配置する。
【0052】
なお、送り出されてくる機能性フィルム10の吸着面41に対する位置を検知する手段としては、例えば赤外線センサや画像処理装置などを挙げることができる。例えば、負圧吸着ヘッド40の下端部もしくは下端部近傍に赤外線センサを配置して送り出されてくる機能性フィルム10の位置を検知し、その検知信号を制御部39に送信して吸引時の電磁弁38の開度を制御することができる。また、送り出されてくる機能性フィルム10の位置や吸着面41に負圧吸着された機能性フィルム10の位置を画像処理装置によって検知し、その検知信号を制御部39に送信して吸引時の電磁弁38の開度を制御してもよい。
【0053】
そして、機能性フィルム10が吸着面41に負圧吸引された状態で、制御装置はロボットアームを操作して、エアーシリンダ31を前記搬送コンベア35で搬送されてくる細胞培養容器50の直上位置に移動させる。移動後、細胞培養容器50の底面と機能性フィルム10との距離が0.1mm〜10mm程度となるまでエアーシリンダ31を下降させ、下降位置で、負圧を開放すると同時に、排気手段を操作して空気室42内に所定圧の空気を送り込む。この空気は吸着面41に形成した各負圧吸着孔44から吐出(排気)され、自重に加えて空気の吐出圧によって、機能性フィルム10は細胞培養容器50の底面に向けて落下する。
【0054】
その際、本実施形態では、上記するように、吸着面41の多数の負圧吸着孔44のそれぞれに空気路37が接続され、各空気路37に電磁弁38が設けられており、制御部39の制御信号に基づいて各電磁弁38の開度を制御して各空気路37を流れる空気の流量を調整できるようになっている。これにより、負圧吸着ヘッド40の吸着面41は、たとえば一部の領域でより多くの空気が排気されるようになり、より多くの空気が排気される領域では、機能性フィルム10が他の部分と比較してより早くかつより速い落下速度で、吸着面41から細胞培養容器50へ向けて落下することとなる。
【0055】
以下、それを具体的に説明すると、図4に示す例では、吸着面41に形成された負圧吸着孔44の孔径は略均一であるが、図4(b)に示すような、円形の吸着面41の直径をなす弦L1に沿った負圧吸着孔44aに接続された空気路37aの電磁弁38aの開度が大きくなっており、そこから左右対称に、所定距離だけ離れた前記弦L1に平行な弦L2、L7に沿った負圧吸着孔44b、44gに接続された空気路37b、37gの電磁弁38b、38gの開度が相対的に小さくなっている。さらに、前記弦L2、L7から所定距離だけ離れた弦L2、L7に平行な弦L3、L8に沿った負圧吸着孔44c、44hに接続された空気路37c、37hの電磁弁38c、38hの開度がさらに小さくなっている。さらに、前記弦L3、L8に平行でありそれぞれ所定距離だけ離れて位置する弦L4、L5、L6、L9、L10、L11に沿った負圧吸着孔44d、44e、44f、44i、44j、44kに接続された空気路37d、37e、37f、37i、37j、37kの電磁弁38d、38e、38f、38i、38j、38kの開度は、前記弦L1から左右方向へ離れるに従ってさらに小さくなっている。
【0056】
上記のような電磁弁38の開度を有する負圧吸着ヘッド40では、空気室42から空気が所定圧で排気されると、吸着面41における空気の排気量は面方向で均一とならずに、排気量に大小の分布が生じる。すなわち、電磁弁38の開度の最も大きな空気路37に接続された負圧吸着孔44aを備えた前記弦L1の領域では、他の領域と比較して空気の排出量は最も大きくなり、負圧吸着孔44b、44gを備えた前記弦L2、L7の領域では、前記弦L1の領域と比較して空気の排出量はより小さいものとなり、負圧吸着孔44c、44hを備えた前記弦L3、L8の領域では、前記弦L2、L7の領域と比較して空気の排出量はより小さいものとなり、さらに、前記弦L1から左右方向へ離れるに従って、その領域での空気の排気量は次第に小さいものとなる。
【0057】
そのために、負圧吸着ヘッド40から機能性フィルム10が離脱するときに、機能性フィルム10の全面が同時に離脱することはなく、わずかな時間差をもって離脱し、さらに離脱後の落下速度も部分的に異なってくる。図4に示す例では、弦L1の領域に対向する領域で最も早く離脱し、次に弦L2、L7に対向する領域、次に弦L3、L8に対向する領域・・・といった順に離脱する。また離脱後の落下速度も、弦L1の領域に対向するが最も速く、次に弦L2、L7に対向する領域、次に弦L3、L8に対向する領域といった順・・・といった順となる。
【0058】
そのために、図6(a)に示すように、落下するときの機能性フィルム10の姿勢は、幅方向の中央部10aが最も下位に位置する下に凸の湾曲した姿勢となる。その姿勢を維持した状態でさらに落下していき、図6(b)に示すように、機能性フィルム10の最も下位に位置する中央部10aが最初に細胞培養容器50の底面51に接触する。その後で、左右の領域が中央部10aから側縁領域に向かうようにして、順次、細胞培養容器50の底面51に接触していく。そのために、細胞培養容器50の底面51と機能性フィルム10の裏面の間に存在している空気は、機能性フィルム10の前記挙動にしたがって順次外側に排気されていき、結果として、空気溜まりが生じるのを効果的に回避される。図6(c)は機能性フィルム10の裏面、すなわち粘着剤層13側の全面が細胞培養容器50の底面51に接触した状態を示しており、気泡が存在しない状態で、機能性フィルム10は粘着剤層13を介して細胞培養容器50の底面51に固定される。
【0059】
なお、機能性フィルム10を負圧吸着ヘッド40の吸着面41から分離する際に、空気路36や空気室42、空気路(通気路)37を通って各負圧吸着孔44から排気される気体としては、空気の他、例えば窒素などの不活性ガスを用いることもできる。
【0060】
図5は、本発明による負圧吸着ヘッド40の他例を示している。ここでは、負圧吸着孔44b、44cに接続された空気路37b、37c、負圧吸着孔44d、44e、44fに接続された空気路37d、37e、37f、負圧吸着孔44g、44hに接続された空気路37g、37h、負圧吸着孔44i、44j、44kに接続された空気路37i、37j、37kがそれぞれ集合路37Ab、37Ad、37Ag、37Aiに接続されており、それぞれの前記集合路37Ab、37Ad、37Ag、37Aiに電磁弁38Ab、38Ad、38Ag、38Aiが設けられている。なお、負圧吸着孔44aに接続された空気路37aには、図4に示す例と同様に電磁弁38aが設けられている。このように複数の空気路37を集合路37Aに接続し、電磁弁38Ab、38Ad、38Ag、38Aiの開度を弦L1(図5(b)参照)から左右方向へ離れるに従って小さくして、空気室42から空気を所定圧で排気すると、電磁弁38の開度の最も大きな空気路37に接続された負圧吸着孔44aを備えた前記弦L1の領域では、他の領域と比較して空気の排出量は最も大きくなり、負圧吸着孔44b、44c、44g、44hを備えた前記弦L2、L3、L7、L8の領域では、前記弦L1の領域と比較して空気の排出量はより小さいものとなり、負圧吸着孔44d〜44f、44i〜44kを備えた弦L4〜L6、L9〜L11の領域では、前記弦L2、L3、L7、L8の領域と比較して空気の排出量はより小さいものとなる。
【0061】
したがって、図4で示す例と同様、落下時の機能性フィルム10に前記した下に凸の曲面の形状を形成するとともに、電磁弁38の基数を抑制し、制御部39による電磁弁38の制御を簡素化することができる。
【0062】
なお、負圧吸着孔44の孔径や基数、その形状は適宜選択することができる。図示しないが、例えば吸着面41の中央付近の領域の孔径を大きくしたり、孔の基数を多く設けることができ、さらに他の例として、負圧吸着孔44を平行な複数個のスリットによって形成することもできる。
【0063】
また、図5で示す例では、機能性フィルム10の送出方向において空気路を束ねて形成する形態としたが、機能性フィルム10の送出方向と直交する方向において空気路を束ねて形成することもできる。
【0064】
前記したように、負圧吸着ヘッド40における吸着面41の形状は、上記した円形に限らず、吸着した機能性フィルム10を移送する細胞培養容器50の底面51の形状に依存して定められる。細胞培養容器50は、図6に示したような、上方が開放した皿状または碗状の形状の容器に加えて、図7に示すようなフラスコ型の容器50Aも例として挙げられる。
【0065】
フラスコ型細胞培養容器50Aは、図7(a)に示すように、容器部100と蓋110を備える。容器部100は、底面51Aと、底面51Aの周縁に立設された側壁部102と、側壁部102の上端部に接合された、底面51Aに対向配置される天面部103とを少なくとも備える。底面51Aは矩形状の平板の一方端側が狭くなった形状であり、該狭くされた先端に対応する前記側壁部102の部分には通孔104が穿設されている。そして、通孔104の周縁から容器部100の外側に延びる首部105を備え、そこに蓋110が着脱可能に装着される。容器部100と蓋110とを組み合わせることによりフラスコ型の細胞培養容器50Aが形成される。
【0066】
図7(b)は、図7(a)のb−b線に沿う断面を示し、図7(c)はc−c線に沿う断面を示す。容器部100の、底面51A、側壁部102および天面部103に包囲される内部空間には、細胞および培地を収容するための内室130が形成されている。内室130に面する底面51Aの一部分には、前記した機能性フィルム10が固定されている。
【0067】
フラスコ型細胞培養容器50Aのように、機能性フィルム10が固定される面が開放されておらず閉鎖された容器内に位置している場合には、機能性フィルム10を固定することが可能な形状の部材に機能性フィルム10を固定し、フィルム固定後の部材を他の部材と組み合わせて目的とする細胞培養容器を完成させればよい。
【0068】
例えば、図8に示すように、底面51Aと側壁部102を備え、底面51Aの機能性フィルム10の固定面と反対の側が開放された第1部材201と、該開放した面に前記天面部103に対応する第2部材202を接合することにより容器部100を形成する。このとき、第2部材202を接合の前に、第1部材201の底面51Aの内側面に、前記した手法により機能性フィルム10が固定される。第1部材201と第2部材202の接合は、細胞培養の目的に応じて、必要な場合は培養液が漏出しないように、適宜の手法により液密に接合される。
【0069】
図9に示す実施形態では、底面51Aに対応する第1部材301と、首部105を備えた側壁部102に対応する第2部材302と、天面部103に対応する第3部材303とを接合することにより容器部100を形成する。この態様では、前記第1部材301の、底面51Aの内側面に対応する部分に、前記した手法により機能性フィルム10が固定される。
【0070】
なお、図7〜図9に示した底面51Aの形状を持つフラスコ型の細胞培養容器50Aに対して、機能性フィルム10を移送する場合には、図2に示したような、一方端側が狭くなった形状をなす切り込み線21の入った長尺物20を用いるとともに、負圧吸着ヘッド40における吸着面41の形状もそれに応じた形状とされる。
【0071】
このような形状の場合に、底面50Aの一方端側、図7〜図9に示す細胞培養容器50Aの場合には、底面51Aの前記首部105とは反対側の端部側の領域54に、落下する機能性フィルム10の一端側が最も速く接触できるようになる位置に、前記空気の排気量が多い領域を形成することが望ましい場合がある。図示しないが、図2に示した切り込み線21の形状に沿った吸着面41の形状を持つ負圧吸着ヘッド40の場合には、図2に斜線で示した領域15に空気の排気量が多い領域が形成されるように、制御部39によって電磁弁38の開度を設定することとなる。
【0072】
それにより、図10(a)に示すように、機能性フィルム10は細胞培養容器50Aの底面51Aの一端側から、順次、容器底面に接触していくようになり、気泡が入り込むのを確実に回避することが可能となる。また、図10(b)に示すように、細胞培養容器50Aの底面51Aが、水平部55と上方への傾斜部56を持つような場合にも、水平部55の傾斜部56とは反対側の端部領域に、落下する機能性フィルム10の一端側が最も速く接触できるようになる位置に空気の排気量が多い領域を形成することにより、気泡のない状態での機能性フィルム10の配置が可能となる。
【0073】
本発明において、各細胞培養容器を構成する材料は特に限定されず、細胞培養において一般的に用いられる材料を用いることができる。例えば、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂等の樹脂材料、表面親水化処理を施した上記の少なくとも1種を含む樹脂材料、およびガラスや石英等の無機材料であることができるが、好ましくは樹脂材料である。樹脂材料としては、ポリスチレン樹脂又はポリエチレンテレフタレート樹脂であることが好ましい。
【符号の説明】
【0074】
10…機能性フィルム、
11…フィルム基材層、
12…機能性化合物層、
13…粘着剤層、
14…帯状をなす剥離フィルム、
20…4層構造からなる長尺物、
21…機能性フィルムの外郭形状をなす切り込み線、
22…ロール状の原反、
30…移し替え装置、
31…エアーシリンダ、
32…案内台、
33…ガイドロール、
34…巻き取りロール、
35…細胞培養容器の搬送コンベア、
36…エアーシリンダの空気路、
37(37a〜37k)…負圧吸着ヘッドの空気路(通気路)、
37A…集合路、
38(38a〜38k)…電磁弁(流量調整弁)、
39…制御部、
39a…制御線、
40…負圧吸着ヘッド、
41…吸着面、
42…空気室、
44(44a〜44k)…負圧吸着孔、
45…エアノズル、
50、50A…細胞培養容器、
51、51A…細胞培養容器の底面、
L1〜L11…円形の吸着面での弦。
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性フィルムを細胞培養容器へ移送するための負圧吸着ヘッドとそれを用いた細胞培養容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表面に細胞培養される親水性ポリマー(温度応答性ポリマー)の層を被覆した細胞培養支持体(シャーレなどの細胞培養容器)が特許文献1に記載されている。この細胞培養支持体を用いることにより、温度を変化させるだけで培養・増殖後の細胞を破壊することなく細胞支持体から容易に剥離して回収することができる。しかし、特許文献1に記載のように、シャーレなどの細胞培養容器に、別個にバッチ処理により表面処理をして機能性化合物層を設けることは、多くの手間を必要としており、作業性の観点からはなお改善する余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−211865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そのための改善された手法として、機能性化合物層の多数個を帯状の剥離フィルム上に配列した原反を予め作っておき、ラベリングの手法を使って、原反から機能性化合物層を連続的に剥離させるとともに、各剥離した機能性化合物層を、従来からシート材などの搬送手段として用いられている負圧吸着ヘッドを用いて、細胞培養容器まで移送した後、負圧の開放と負圧吸着ヘッドからの排気を行い、機能性化合物層を細胞培養容器の底部に配置する手法が考えられる。
【0005】
細胞培養容器の底面に機能性フィルムを配置して細胞の培養・増殖を行う場合、細胞培養容器の底面と機能性フィルムの裏面との間に気泡が存在しない状態で、両者が密着していることが求められる。本発明者らは従来から用いられている負圧吸着ヘッドを用い、負圧吸着ヘッドの吸着面に機能性フィルムを吸着した状態で細胞培養容器の上まで移送し、そこで負圧の開放と排気を行って機能性フィルムを細胞培養容器の底面に落下させる処理を多く行っているが、多くの場合、落下した機能性フィルムと細胞培養容器の底面との間に気泡が存在してしまうのを避けることができなかった。気泡が存在する場合、高温高圧水蒸気によるオートクレーブ処理を行って気泡を除去することが必要であり、余分な作業が必要となることに加え、機能性フィルムの種類によっては、特に親水性ポリマーを備えた機能性フィルムの場合には、オートクレーブ処理により機能性フィルムが損傷する恐れもある。
【0006】
また、原反から剥離した機能性化合物層は負圧吸着ヘッドの吸着面に対して適切な位置からずれて送出される場合があるが、従来から用いられている負圧吸着ヘッドを用いて原反から剥離した機能性化合物層を負圧吸着ヘッドの吸着面に負圧吸着させる場合、その位置ずれの修正を行うことができず、機能性化合物層が負圧吸着ヘッドの吸着面の適正な位置に配置されない可能性がある。このように機能性化合物層が負圧吸着ヘッドの吸着面の適正な位置に配置されないと、負圧吸着ヘッドの負圧の開放と負圧吸着ヘッドからの排気を行い、機能性化合物層を細胞培養容器の底部に配置する際、機能性化合物層を細胞培養容器の底部の適正な位置に配置することができず、細胞の培養や増殖を精緻に行うことができない恐れもある。
【0007】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、機能性フィルムを負圧吸着ヘッドを用いて初期位置から細胞培養容器へ移送するときに、機能性フィルムと細胞培養容器の底面との間に気泡が存在しない状態で、機能性フィルムを細胞培養容器の底面に落下させることを可能とするとともに、機能性フィルムを細胞培養容器の底面の適正な位置に落下させることを可能とした負圧吸着ヘッドを提供することを第1の課題とする。また、その負圧吸着ヘッドを用いて機能性フィルムを細胞培養容器の底面に移送し、機能性フィルムを細胞培養容器に配置する細胞培養容器の製造方法を提供することを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく多くの実験を行うことにより、従来知られた負圧吸着ヘッドでは、図11(a)に示すように、その吸着面1には同じ孔径である複数の負圧吸着孔2が等しい密度で分布しており、負圧の解除後にそこから排気したときに、機能性フィルムの全面にわたって各負圧吸着孔2からほぼ等しい排気圧および等しい量の空気が作用することとなり、結果として、機能性フィルム3は、図11(b)に示すように、細胞培養容器4の底面5とほぼ平行な姿勢を保った状態で容器4の底面5に向けて落下することとなり、空気の逃げ道が制限されることから、図11(c)に示すように、両者の間に気泡6が残ってしまうことを知見した。
【0009】
本発明は、上記の知見に基づくものであり、本発明による負圧吸着ヘッドは、機能性フィルムを複数の負圧吸着孔を備えた吸着面に負圧吸着して細胞培養容器へ移送した後、負圧を開放して機能性フィルムを細胞培養容器へ落下させるのに用いる負圧吸着ヘッドであって、前記複数の負圧吸着孔のそれぞれに接続された複数の通気路と、前記複数の通気路を流れる気体の流量を調整するために各通気路に設けられた流量調整弁と、前記流量調整弁の開度を制御する制御部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明による負圧吸着ヘッドを用いて前記初期位置で機能性フィルムを吸着する際には、複数の負圧吸着孔のそれぞれに接続された複数の通気路と、複数の通気路を流れる気体の流量を調整するために各通気路に設けられた流量調整弁とを備え、制御部にて各流量調整弁の開度を制御して各通気路を流れる気体の流量を調整することで、機能性フィルムが吸着面に対してずれた位置に送出される場合であっても、吸着面の各負圧吸着孔における吸着力を調整することができ、吸着面に対する機能性フィルムの位置ずれを修正して該機能性フィルムを吸着面の適正な位置に配置することができる。
【0011】
また、本発明による負圧吸着ヘッドを用いて機能性フィルムを初期位置から細胞培養容器へ移送し、細胞培養容器上で機能性フィルムを負圧吸着ヘッドから分離する際には、負圧を開放するが、それと同時に負圧吸着ヘッドの各負圧吸着孔から排気を行うことが好ましい。このとき、制御部にて各流量調整弁の開度を制御して各通気路を流れる気体の流量を調整し、各負圧吸着孔から排気される気体の排気量や排気圧を調整することで、気体の排気量や排気圧が吸着面全面で等しくなくなり、たとえば一部の領域でより多くの気体が排気されることとなる。そして、より多くの気体が排気される領域では、機能性フィルムが他の部分と比較してより早くかつより速い落下速度で、吸着面から細胞培養容器へ向けて落下する。
【0012】
結果として、機能性フィルムは下に凸の曲面を形成した状態で細胞培養容器の底面に向けて落下することとなり、機能性フィルムの全体は時間差をもって細胞培養容器の底面に次第に着地していく。その過程で、機能性フィルムの裏面と細胞培養容器の底面との間に存在する空気は、順次連続して外側に向けて排出されるので、間に気泡がない状態で機能性フィルムの全体が細胞培養容器の底面に配置されるようになる。
【0013】
なお、機能性フィルムを負圧吸着ヘッドから分離する際に、通気路を通って各負圧吸着孔から排気される気体としては、例えば空気や窒素を用いることができる。
【0014】
本発明による負圧吸着ヘッドにおいて、制御部は流量調整弁の開度をそれぞれ別個に制御してもよい。好ましい形態では、前記吸着面は、前記負圧吸着孔から排気される気体の排気量が異なる複数の領域を有しており、前記制御部は、前記領域毎に前記流量調整弁の開度を制御する。このように気体の排気量が異なる領域毎に流量調整弁の開度を制御することにより、制御部による流量調整弁の制御を簡素化することができる。
【0015】
また、本発明による負圧吸着ヘッドの好ましい形態では、前記複数の通気路は前記領域毎に集合路に接続されており、前記流量調整弁は前記集合路に設けられている。このように領域毎の通気路を束ねて集合路とし、その集合路に流量調整弁を配設し、制御部にてその流量調整弁の開度を制御して領域毎に通気路を流れる気体の流量を調整することで、流量調整弁の基数を抑制することができ、負圧吸着ヘッドの構成を簡素化して製造コストの高騰を抑制することができる。
【0016】
本発明において、負圧吸着ヘッドの吸着面の平面視での形状は、特に限定されないが、好ましくは、移送する機能性フィルムを収容する細胞培養容器の底面形状と一致した形状である。また、他の領域と比較して多くの気体が排気される領域を吸着面のどの位置に形成するかも特に制限はなく、実際の機能性フィルムが持つ物理的な物性値と細胞培養容器の底面形状とを考慮して実験的に最適位置を設定すればよい。一般的には、吸着面の中央部か一端部である。
【0017】
本発明は、さらに、上記したいずれかの負圧吸着ヘッドを用いた細胞培養容器の製造方法であって、機能性フィルムを前記負圧吸着ヘッドの吸着面に負圧吸着し、該機能性フィルムを細胞培養容器上へ移送した後、負圧を開放して該機能性フィルムを前記細胞培養容器へ落下させ、該機能性フィルムを該細胞培養容器に配置することを特徴とする細胞培養容器の製造方法を開示している。
【発明の効果】
【0018】
本発明による負圧吸着ヘッドを用いることにより、機能性フィルムの裏面と細胞培養容器の底面との間に気泡の発生を抑えた状態で、機能性フィルムを細胞培養容器の底面の適正な位置に配置することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による負圧吸着ヘッドによって移送される機能性フィルムの一例を説明する模式図。
【図2】多数個の機能性フィルムを帯状の剥離フィルムに仮接着した原反を説明する模式図。
【図3】本発明による負圧吸着ヘッドを備えた細胞培養容器の製造装置の一例を説明する模式図。
【図4】本発明による負圧吸着ヘッドの一例を説明する図であって、(a)はその縦断面図、(b)はその下面図。
【図5】本発明による負圧吸着ヘッドの他例を説明する図であって、(a)はその縦断面図、(b)はその下面図。
【図6】本発明による負圧吸着ヘッドを用いた場合での機能性フィルムの落下状態を説明する図。
【図7】機能性フィルムを配置した細胞培養容器の例であるフラスコ型細胞培養容器を示す図。
【図8】図7に示すフラスコ型細胞培養容器の製造手順を示す図。
【図9】図7に示すフラスコ型細胞培養容器の他の製造手順を示す図。
【図10】本発明による負圧吸着ヘッドを用いた場合での機能性フィルムの落下状態を説明する他の図。
【図11】従来の負圧吸着ヘッドを用いた場合での培養シートの落下状態を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施の形態に基づき説明する。図1は、本発明による負圧吸着ヘッドによって移送される機能性フィルムの一例を説明する模式的に示す断面図である。なお、本発明において、対象となる機能性フィルムは、可撓性を有しており、かつ表面に細胞培養に適した所望の機能が付与された、粘着剤層を備えたフィルムであれば特に限定されない。好ましい実施形態では、図1に示す機能性フィルム10のように、フィルム基材層11の一方の面に機能性化合物層12が積層され、他方の面に粘着剤層13が積層されている。なお、図1において、14は後記する帯状をなす剥離フィルムである。
【0021】
<フィルム基材層11>
限定されないが、フィルム基材層11は、一方の表面に前記機能性化合物層12を形成することが可能な材料を含むものであればよく、材料の種類は特に限定されない。典型的には、フィルム基材層11の材料として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリイミド(PI)、ナイロン(Ny)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルフォン、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、アクリル等が挙げられる。
【0022】
フィルム基材層11の、機能性化合物層12が形成される側の表面は、易接着処理された表面であることができる。「易接着処理」とは、例えば、ポリエステル、アクリル酸エステル、ポリウレタン、ポリエチレンイミン、シランカップリング剤、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)等の易接着剤による処理を指す。
【0023】
フィルム基材層11の厚さ(フィルム基材層11が基材の層に加えて易接着層を備える場合は、易接着層を含むフィルム基材層の全体の厚さを指す)は、特に制限は無いが可撓性を付与する厚さであることが好ましく、例えば5μm〜400μm、好ましくは50μm〜250μmである。
【0024】
<機能性化合物層12>
機能性化合物層12を構成する機能性化合物としては、有機化合物または無機化合物が挙げられ、より好ましくは、所定の刺激によって細胞接着性から細胞非接着性へと変化することが可能な表面を有する刺激応答性ポリマーや、1つ以上のエチレングリコール単位(CH2−CH2−O)からなるエチレングリコール鎖等の親水性化合物が挙げられる。
【0025】
機能性化合物層の膜厚は、例えば、0.5nm〜300nmの範囲内とするのがよく、なかでも1nm〜100nmの範囲内であることが好ましい。
【0026】
以下「刺激応答性ポリマー層」および「親水性化合物層」の好適な実施形態について説明する。
【0027】
<刺激応答性ポリマー層>
機能性有機化合物層は、刺激応答性ポリマー層であることが特に好ましい。刺激応答性ポリマー層とは、所定の刺激によって表面の細胞の接着度合いが変化するポリマーを含む層である。刺激応答性ポリマーとしては、温度応答性ポリマー、pH応答性ポリマー、イオン応答性ポリマー、光応答性ポリマーなどを挙げることができる。なかでも温度応答性ポリマーが、刺激の付与が容易であることから好ましい。
【0028】
温度応答性ポリマーとして、例えば、細胞を培養する温度では細胞接着性を示し、作製した細胞シートの剥離する時の温度では細胞非接着性を示すものを用いるとよい。例えば、温度応答性ポリマーは、臨界溶解温度未満の温度では周囲の水に対する親和性が向上し、ポリマーが水を取り込んで膨潤して表面に細胞を接着し難くする性質(細胞非接着性)を示し、同温度以上の温度ではポリマーから水が脱離することでポリマーが収縮して表面に細胞を接着しやすくする性質(細胞接着性)を示すものを用いるとよい。このような臨界溶解温度は、下限臨界溶解温度Tと呼ばれる。下限臨界溶解温度Tが0℃〜80℃、さらに好ましくは0℃〜50℃である温度応答性ポリマーを用いるとよい。下限臨界溶解温度Tが0℃〜80℃であると、細胞を安定的に培養できるからである。
【0029】
好適な温度応答性ポリマーとしては、アクリル系ポリマーまたはメタクリル系ポリマーが挙げられる。具体的に好適な温度応答性ポリマーとしては、例えばポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(T=32℃)、ポリ−N−n−プロピルアクリルアミド(T=21℃)、ポリ−N−n−プロピルメタクリルアミド(T=32℃)、ポリ−N−エトキシエチルアクリルアミド(T=約35℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(T=約28℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(T=約35℃)、およびポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド(T=32℃)等が挙げられる。
【0030】
pH応答性ポリマーおよびイオン応答性ポリマーは作製しようとする細胞シートに適したものを適宜選択することができる。
【0031】
刺激応答性ポリマー層は、重合して目的の刺激応答性ポリマーを形成するモノマーと、該モノマーを溶解しうる有機溶媒とを含む塗布用組成物を調製し、これを慣用の塗布方法に従って、フィルム基材の表面に塗布して塗膜を形成し、次に、該塗膜に放射線照射等の適当な手段により塗膜中のモノマーを重合してポリマーを形成するとともに、フィルム基材の表面とポリマーとの間にグラフト化反応を生じさせることにより形成することができる。
【0032】
<親水性化合物層>
機能性有機化合物層の他の実施形態として、1つ以上のエチレングリコール単位からなるエチレングリコール鎖(複数のエチレングリコール単位からなるエチレングリコール鎖は、「ポリエチレングリコール鎖」ということができる)等の親水性化合物の層が挙げられる。
【0033】
エチレングリコール鎖の末端は水酸基により封鎖された形態であってもよいし、エチレングリコール鎖の末端に生体関連物質等の他の物質が共有結合により連結された形態であってもよい。
【0034】
末端が水酸基により封鎖されたエチレングリコール鎖を含む層は、細胞が接着し難い親水性の表面を提供することができる。
【0035】
エチレングリコール鎖の末端に共有結合されうる生体関連物質としては、抗原、抗体、DNA、RNA、ペプチド、ホルモン、酵素、サイトカイン、糖鎖、脂質、補酵素、酵素阻害剤、細胞、その他の機能を有するタンパク質が含まれる。更に、このような生体関連物質と親和性を有する低分子化合物、および高分子化合物も生体関連物質の範囲に含まれる。
【0036】
エチレングリコール鎖等の親水性化合物の層を、樹脂製のフィルム基材層の表面に固定化するためには、予め、フィルム基材層の表面に、物理的に吸着可能であって、エチレングリコール鎖の末端の水酸基と反応して共有結合を形成可能な官能基を側鎖に含むポリシロキサンを含むプライマー層を設ける。ポリシロキサンの側鎖上の官能基としては、グリシジル基またはエポキシ基が好ましい。プライマー層は、フィルム基材層の表面に、所望の側鎖を有するシラノール化合物を適用し、該表面上で縮合重合してポリシロキサンに変換することにより形成することができる。
【0037】
次いで、プライマー層の官能基と、エチレングリコールまたはエチレングリコール単位が2以上繰り返されたポリエチレングリコールの水酸基とを反応させて共有結合を形成し、エチレングリコール鎖を固定化する。このとき、触媒量の濃硫酸を含むエチレングリコールまたはポリエチレングリコールをプライマー層に接触させる。
【0038】
末端が水酸基により封鎖されたエチレングリコール鎖を含む層はこのようにして形成される。
【0039】
更に、必要に応じて、エチレングリコール鎖の一端に、他の物質との共有結合を形成することが可能な、少なくとも1つの官能基を直接的または間接的に連結させる。官能基の導入方法は特に限定されない。
【0040】
<粘着剤層13>
粘着剤層13を構成する粘着剤としてはポリエステル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレンイミン樹脂、シランカップリング剤、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)等を挙げることができ、なかでもアクリル酸エステル樹脂、ポリウレタン樹脂等を好ましく用いることができる。
【0041】
粘着剤層の厚さは特に限定されないが、10μm〜300μmであることが好ましく、20μm〜200μmであることがより好ましい。
【0042】
図1に示す層構造の機能性フィルム10は、任意の方法で作ることができるが、本実施の形態では、次のようにして作られる。すなわち、帯状をなす剥離フィルム14の全面に前記粘着剤層13を塗布し、その上に、同じ幅であるやはり帯状のフィルム基材層11と機能性化合物層12を積層する。それにより、図示するように、剥離フィルム14と粘着剤層13とフィルム基材層11と機能性化合物層12の層の4層構造からなる、長尺物20(図2参照)が形成される。なお、剥離フィルム14には、必要な強度や柔軟性を有する限り特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂からなるフィルムまたはそれらの発泡フィルムに、シリコーン系剥離剤等の剥離剤で剥離処理したものを挙げることができる。
【0043】
長尺物20の前記剥離フィルム14とは反対の面から、得ようとする機能性フィルム10の外郭形状を持つ型枠(不図示)を、剥離フィルム14の表面にまで達するように押下する。それにより、機能性化合物層12とフィルム基材層11と粘着剤層13には、機能性フィルム10の外郭形状をなす切り込み線21が形成される。その型押し作業を所定の間隔をおいて連続的に長尺物20に対して行うことにより、図2に示すような、複数個の切り込み線21の入った長尺物20が得られる。
【0044】
機能性フィルム10の平面視での形状には制限はなく任意の形状を取ることができ、それに応じた型枠が用いられる。図2に示した例では、図7に示すような先狭まり状とされた細胞培養容器50Aの底面51Aに配置することを予定する機能性フィルム10を得ようとするものであり、切り込み線21は、細胞培養容器50Aの底面51Aの内周輪郭の形状とほぼ同じ形状とされている。
【0045】
前記長尺物20は、機能性フィルム10側が内側となるようにしてロール状に巻き込まれて原反22(図3参照)とされ、保管される。
【0046】
図3は、前記原反22から機能性フィルム10を分離し、分離後の機能性フィルム10を細胞培養容器50の底面51に移し替える装置の一例を示している。図示の移し替え装置30は、従来知られた3次元ロボットアーム(不図示)に取り付けられたエアーシリンダ31を備え、該エアーシリンダ31の下方先端に、図4に一例を示すような本発明による負圧吸着ヘッド40が着脱自在に装着されている。エアーシリンダ31は、3次元ロボットアームの制御装置(不図示)により、吸着面41の面方向であるX−Y軸方向および垂直方向であるZ軸方向に移動自在とされている。
【0047】
図3に示すように、エアーシリンダ31の近傍には、水平方向またはわずかに下方に傾斜した方向に延在する案内台32が位置しており、前記原反22から巻き出される長尺物20は、ガイドロール33・・によって案内されることで、前記案内台32の上面に沿って移動し、案内台32の先端でUターンした後、巻き取りロール34によって巻き取られる。長尺物20が案内台32の先端でUターンするときに、前記切り込み線21によって区画された内側の領域は剥離フィルム14から剥離し、案内台32の上面の延長線方向に送り出される。すなわち、機能性化合物層12とフィルム基材層11と粘着剤層13の3層構造からなる機能性フィルム10が、粘着剤層13側を下面側とした姿勢で連続的に剥離フィルム14から剥離し、水平方向またはわずかに下方に傾斜した方向に送り出される。
【0048】
移し替え装置30は、さらに、細胞培養容器50を水平姿勢に載置した状態で間欠的に移動と停止を繰り返すことのできる搬送コンベア35を備えている。また、好ましくは、前記案内台32の先端近傍であって送り出される機能性フィルム10の下方位置には、機能性フィルム10の横幅にほぼ等しい横幅を持つエアノズル45が空気噴出方向を斜め上方に向けた姿勢で取り付けられる。エアノズル45からの空気噴出を下方から受けることにより、剥離フィルム14から剥離して送り出される機能性フィルム10は、その後もほぼ水平な姿勢を維持することができる。なお、機能性フィルム10に噴出する気体としては、空気の他、例えば窒素などの不活性ガスを適用することもできる。
【0049】
前記負圧吸着ヘッド40は、図4(a)の縦断面図に示すように、実質的に平坦面である吸着面41と該吸着面41の反対側の空気室42とを有し、前記空気室42は前記エアーシリンダ31の空気路36と接続している。そして、前記空気路36は適宜の図示しない空気吸引および排気手段に接続している。また、前記吸着面41には多数の負圧吸着孔44が形成されており、複数の負圧吸着孔44のそれぞれに空気路(通気路)37が接続され、各空気路37に電磁弁(流量調整弁)38が設けられている。また、各電磁弁38はそれぞれ制御線39aを介して制御部39(図3参照)と接続されており、制御部39の制御信号に基づいて電磁弁38の開度を制御して各空気路37を流れる空気の流量を調整できるようになっている。
【0050】
また、図4(b)に示すように、この例において、前記吸着面41の形状は平面視で円形である。すなわち、この移し替え装置30で用いる前記原反22には、図2で示したものと異なり、前記吸着面41とほぼ同じ大きさである円形の切り込み線21が一定間隔で形成されており、円形の機能性フィルム10が、前記したように、粘着剤層13側を下面側とした姿勢で連続的に剥離フィルム14から剥離して水平方向またはわずかに下方に傾斜した方向に送り出される。
【0051】
不図示のロボットアームの制御装置は、送り出されてくる機能性フィルム10を負圧吸着ヘッド40によって負圧吸着することのできる位置に、前記エアーシリンダ31を位置させる。そして、吸引手段によって空気室42内の空気を吸引することで、吸着面41に負圧を発生させ、それにより、機能性フィルム10は吸着面41に負圧吸引される。その際、送り出されてくる機能性フィルム10の吸着面41に対する位置を適宜の手段によって検知し、機能性フィルム10が吸着面41に対してずれた位置で送り出されている場合には、電磁弁38の開度を制御して各空気路37を流れる空気の流量を調整し、吸着面41の負圧吸着孔44における吸着力を調整して、機能性フィルム10を吸着面41の適切な位置へ誘導する。例えば、原反22から剥離した機能性フィルム10が吸着面41に対して送出方向(図中、左方向)へずれた位置で送り出される場合には、吸着面41の負圧吸着孔44のうち負圧吸着孔44e、44fに接続された空気路37e、37fの電磁弁38e、38fを閉弁し、負圧吸着孔44j、44kに接続された空気路37j、37kの電磁弁38j、38kの開度を大きくし、機能性フィルム10を送出方向と逆方向(図中、右方向)へ誘導して、機能性フィルム10を吸着面41の適切な位置へ配置する。
【0052】
なお、送り出されてくる機能性フィルム10の吸着面41に対する位置を検知する手段としては、例えば赤外線センサや画像処理装置などを挙げることができる。例えば、負圧吸着ヘッド40の下端部もしくは下端部近傍に赤外線センサを配置して送り出されてくる機能性フィルム10の位置を検知し、その検知信号を制御部39に送信して吸引時の電磁弁38の開度を制御することができる。また、送り出されてくる機能性フィルム10の位置や吸着面41に負圧吸着された機能性フィルム10の位置を画像処理装置によって検知し、その検知信号を制御部39に送信して吸引時の電磁弁38の開度を制御してもよい。
【0053】
そして、機能性フィルム10が吸着面41に負圧吸引された状態で、制御装置はロボットアームを操作して、エアーシリンダ31を前記搬送コンベア35で搬送されてくる細胞培養容器50の直上位置に移動させる。移動後、細胞培養容器50の底面と機能性フィルム10との距離が0.1mm〜10mm程度となるまでエアーシリンダ31を下降させ、下降位置で、負圧を開放すると同時に、排気手段を操作して空気室42内に所定圧の空気を送り込む。この空気は吸着面41に形成した各負圧吸着孔44から吐出(排気)され、自重に加えて空気の吐出圧によって、機能性フィルム10は細胞培養容器50の底面に向けて落下する。
【0054】
その際、本実施形態では、上記するように、吸着面41の多数の負圧吸着孔44のそれぞれに空気路37が接続され、各空気路37に電磁弁38が設けられており、制御部39の制御信号に基づいて各電磁弁38の開度を制御して各空気路37を流れる空気の流量を調整できるようになっている。これにより、負圧吸着ヘッド40の吸着面41は、たとえば一部の領域でより多くの空気が排気されるようになり、より多くの空気が排気される領域では、機能性フィルム10が他の部分と比較してより早くかつより速い落下速度で、吸着面41から細胞培養容器50へ向けて落下することとなる。
【0055】
以下、それを具体的に説明すると、図4に示す例では、吸着面41に形成された負圧吸着孔44の孔径は略均一であるが、図4(b)に示すような、円形の吸着面41の直径をなす弦L1に沿った負圧吸着孔44aに接続された空気路37aの電磁弁38aの開度が大きくなっており、そこから左右対称に、所定距離だけ離れた前記弦L1に平行な弦L2、L7に沿った負圧吸着孔44b、44gに接続された空気路37b、37gの電磁弁38b、38gの開度が相対的に小さくなっている。さらに、前記弦L2、L7から所定距離だけ離れた弦L2、L7に平行な弦L3、L8に沿った負圧吸着孔44c、44hに接続された空気路37c、37hの電磁弁38c、38hの開度がさらに小さくなっている。さらに、前記弦L3、L8に平行でありそれぞれ所定距離だけ離れて位置する弦L4、L5、L6、L9、L10、L11に沿った負圧吸着孔44d、44e、44f、44i、44j、44kに接続された空気路37d、37e、37f、37i、37j、37kの電磁弁38d、38e、38f、38i、38j、38kの開度は、前記弦L1から左右方向へ離れるに従ってさらに小さくなっている。
【0056】
上記のような電磁弁38の開度を有する負圧吸着ヘッド40では、空気室42から空気が所定圧で排気されると、吸着面41における空気の排気量は面方向で均一とならずに、排気量に大小の分布が生じる。すなわち、電磁弁38の開度の最も大きな空気路37に接続された負圧吸着孔44aを備えた前記弦L1の領域では、他の領域と比較して空気の排出量は最も大きくなり、負圧吸着孔44b、44gを備えた前記弦L2、L7の領域では、前記弦L1の領域と比較して空気の排出量はより小さいものとなり、負圧吸着孔44c、44hを備えた前記弦L3、L8の領域では、前記弦L2、L7の領域と比較して空気の排出量はより小さいものとなり、さらに、前記弦L1から左右方向へ離れるに従って、その領域での空気の排気量は次第に小さいものとなる。
【0057】
そのために、負圧吸着ヘッド40から機能性フィルム10が離脱するときに、機能性フィルム10の全面が同時に離脱することはなく、わずかな時間差をもって離脱し、さらに離脱後の落下速度も部分的に異なってくる。図4に示す例では、弦L1の領域に対向する領域で最も早く離脱し、次に弦L2、L7に対向する領域、次に弦L3、L8に対向する領域・・・といった順に離脱する。また離脱後の落下速度も、弦L1の領域に対向するが最も速く、次に弦L2、L7に対向する領域、次に弦L3、L8に対向する領域といった順・・・といった順となる。
【0058】
そのために、図6(a)に示すように、落下するときの機能性フィルム10の姿勢は、幅方向の中央部10aが最も下位に位置する下に凸の湾曲した姿勢となる。その姿勢を維持した状態でさらに落下していき、図6(b)に示すように、機能性フィルム10の最も下位に位置する中央部10aが最初に細胞培養容器50の底面51に接触する。その後で、左右の領域が中央部10aから側縁領域に向かうようにして、順次、細胞培養容器50の底面51に接触していく。そのために、細胞培養容器50の底面51と機能性フィルム10の裏面の間に存在している空気は、機能性フィルム10の前記挙動にしたがって順次外側に排気されていき、結果として、空気溜まりが生じるのを効果的に回避される。図6(c)は機能性フィルム10の裏面、すなわち粘着剤層13側の全面が細胞培養容器50の底面51に接触した状態を示しており、気泡が存在しない状態で、機能性フィルム10は粘着剤層13を介して細胞培養容器50の底面51に固定される。
【0059】
なお、機能性フィルム10を負圧吸着ヘッド40の吸着面41から分離する際に、空気路36や空気室42、空気路(通気路)37を通って各負圧吸着孔44から排気される気体としては、空気の他、例えば窒素などの不活性ガスを用いることもできる。
【0060】
図5は、本発明による負圧吸着ヘッド40の他例を示している。ここでは、負圧吸着孔44b、44cに接続された空気路37b、37c、負圧吸着孔44d、44e、44fに接続された空気路37d、37e、37f、負圧吸着孔44g、44hに接続された空気路37g、37h、負圧吸着孔44i、44j、44kに接続された空気路37i、37j、37kがそれぞれ集合路37Ab、37Ad、37Ag、37Aiに接続されており、それぞれの前記集合路37Ab、37Ad、37Ag、37Aiに電磁弁38Ab、38Ad、38Ag、38Aiが設けられている。なお、負圧吸着孔44aに接続された空気路37aには、図4に示す例と同様に電磁弁38aが設けられている。このように複数の空気路37を集合路37Aに接続し、電磁弁38Ab、38Ad、38Ag、38Aiの開度を弦L1(図5(b)参照)から左右方向へ離れるに従って小さくして、空気室42から空気を所定圧で排気すると、電磁弁38の開度の最も大きな空気路37に接続された負圧吸着孔44aを備えた前記弦L1の領域では、他の領域と比較して空気の排出量は最も大きくなり、負圧吸着孔44b、44c、44g、44hを備えた前記弦L2、L3、L7、L8の領域では、前記弦L1の領域と比較して空気の排出量はより小さいものとなり、負圧吸着孔44d〜44f、44i〜44kを備えた弦L4〜L6、L9〜L11の領域では、前記弦L2、L3、L7、L8の領域と比較して空気の排出量はより小さいものとなる。
【0061】
したがって、図4で示す例と同様、落下時の機能性フィルム10に前記した下に凸の曲面の形状を形成するとともに、電磁弁38の基数を抑制し、制御部39による電磁弁38の制御を簡素化することができる。
【0062】
なお、負圧吸着孔44の孔径や基数、その形状は適宜選択することができる。図示しないが、例えば吸着面41の中央付近の領域の孔径を大きくしたり、孔の基数を多く設けることができ、さらに他の例として、負圧吸着孔44を平行な複数個のスリットによって形成することもできる。
【0063】
また、図5で示す例では、機能性フィルム10の送出方向において空気路を束ねて形成する形態としたが、機能性フィルム10の送出方向と直交する方向において空気路を束ねて形成することもできる。
【0064】
前記したように、負圧吸着ヘッド40における吸着面41の形状は、上記した円形に限らず、吸着した機能性フィルム10を移送する細胞培養容器50の底面51の形状に依存して定められる。細胞培養容器50は、図6に示したような、上方が開放した皿状または碗状の形状の容器に加えて、図7に示すようなフラスコ型の容器50Aも例として挙げられる。
【0065】
フラスコ型細胞培養容器50Aは、図7(a)に示すように、容器部100と蓋110を備える。容器部100は、底面51Aと、底面51Aの周縁に立設された側壁部102と、側壁部102の上端部に接合された、底面51Aに対向配置される天面部103とを少なくとも備える。底面51Aは矩形状の平板の一方端側が狭くなった形状であり、該狭くされた先端に対応する前記側壁部102の部分には通孔104が穿設されている。そして、通孔104の周縁から容器部100の外側に延びる首部105を備え、そこに蓋110が着脱可能に装着される。容器部100と蓋110とを組み合わせることによりフラスコ型の細胞培養容器50Aが形成される。
【0066】
図7(b)は、図7(a)のb−b線に沿う断面を示し、図7(c)はc−c線に沿う断面を示す。容器部100の、底面51A、側壁部102および天面部103に包囲される内部空間には、細胞および培地を収容するための内室130が形成されている。内室130に面する底面51Aの一部分には、前記した機能性フィルム10が固定されている。
【0067】
フラスコ型細胞培養容器50Aのように、機能性フィルム10が固定される面が開放されておらず閉鎖された容器内に位置している場合には、機能性フィルム10を固定することが可能な形状の部材に機能性フィルム10を固定し、フィルム固定後の部材を他の部材と組み合わせて目的とする細胞培養容器を完成させればよい。
【0068】
例えば、図8に示すように、底面51Aと側壁部102を備え、底面51Aの機能性フィルム10の固定面と反対の側が開放された第1部材201と、該開放した面に前記天面部103に対応する第2部材202を接合することにより容器部100を形成する。このとき、第2部材202を接合の前に、第1部材201の底面51Aの内側面に、前記した手法により機能性フィルム10が固定される。第1部材201と第2部材202の接合は、細胞培養の目的に応じて、必要な場合は培養液が漏出しないように、適宜の手法により液密に接合される。
【0069】
図9に示す実施形態では、底面51Aに対応する第1部材301と、首部105を備えた側壁部102に対応する第2部材302と、天面部103に対応する第3部材303とを接合することにより容器部100を形成する。この態様では、前記第1部材301の、底面51Aの内側面に対応する部分に、前記した手法により機能性フィルム10が固定される。
【0070】
なお、図7〜図9に示した底面51Aの形状を持つフラスコ型の細胞培養容器50Aに対して、機能性フィルム10を移送する場合には、図2に示したような、一方端側が狭くなった形状をなす切り込み線21の入った長尺物20を用いるとともに、負圧吸着ヘッド40における吸着面41の形状もそれに応じた形状とされる。
【0071】
このような形状の場合に、底面50Aの一方端側、図7〜図9に示す細胞培養容器50Aの場合には、底面51Aの前記首部105とは反対側の端部側の領域54に、落下する機能性フィルム10の一端側が最も速く接触できるようになる位置に、前記空気の排気量が多い領域を形成することが望ましい場合がある。図示しないが、図2に示した切り込み線21の形状に沿った吸着面41の形状を持つ負圧吸着ヘッド40の場合には、図2に斜線で示した領域15に空気の排気量が多い領域が形成されるように、制御部39によって電磁弁38の開度を設定することとなる。
【0072】
それにより、図10(a)に示すように、機能性フィルム10は細胞培養容器50Aの底面51Aの一端側から、順次、容器底面に接触していくようになり、気泡が入り込むのを確実に回避することが可能となる。また、図10(b)に示すように、細胞培養容器50Aの底面51Aが、水平部55と上方への傾斜部56を持つような場合にも、水平部55の傾斜部56とは反対側の端部領域に、落下する機能性フィルム10の一端側が最も速く接触できるようになる位置に空気の排気量が多い領域を形成することにより、気泡のない状態での機能性フィルム10の配置が可能となる。
【0073】
本発明において、各細胞培養容器を構成する材料は特に限定されず、細胞培養において一般的に用いられる材料を用いることができる。例えば、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂等の樹脂材料、表面親水化処理を施した上記の少なくとも1種を含む樹脂材料、およびガラスや石英等の無機材料であることができるが、好ましくは樹脂材料である。樹脂材料としては、ポリスチレン樹脂又はポリエチレンテレフタレート樹脂であることが好ましい。
【符号の説明】
【0074】
10…機能性フィルム、
11…フィルム基材層、
12…機能性化合物層、
13…粘着剤層、
14…帯状をなす剥離フィルム、
20…4層構造からなる長尺物、
21…機能性フィルムの外郭形状をなす切り込み線、
22…ロール状の原反、
30…移し替え装置、
31…エアーシリンダ、
32…案内台、
33…ガイドロール、
34…巻き取りロール、
35…細胞培養容器の搬送コンベア、
36…エアーシリンダの空気路、
37(37a〜37k)…負圧吸着ヘッドの空気路(通気路)、
37A…集合路、
38(38a〜38k)…電磁弁(流量調整弁)、
39…制御部、
39a…制御線、
40…負圧吸着ヘッド、
41…吸着面、
42…空気室、
44(44a〜44k)…負圧吸着孔、
45…エアノズル、
50、50A…細胞培養容器、
51、51A…細胞培養容器の底面、
L1〜L11…円形の吸着面での弦。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性フィルムを複数の負圧吸着孔を備えた吸着面に負圧吸着して細胞培養容器へ移送した後、負圧を開放して機能性フィルムを細胞培養容器へ落下させるのに用いる負圧吸着ヘッドであって、
前記複数の負圧吸着孔のそれぞれに接続された複数の通気路と、
前記複数の通気路を流れる気体の流量を調整するために各通気路に設けられた流量調整弁と、
前記流量調整弁の開度を制御する制御部と、を備えることを特徴とする負圧吸着ヘッド。
【請求項2】
前記吸着面は、前記負圧吸着孔から排気される気体の排気量が異なる複数の領域を有しており、前記制御部は、前記領域毎に前記流量調整弁の開度を制御することを特徴とする請求項1に記載の負圧吸着ヘッド。
【請求項3】
前記複数の通気路は前記領域毎に集合路に接続されており、前記流量調整弁は前記集合路に設けられていることを特徴とする請求項2に記載の負圧吸着ヘッド。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の負圧吸着ヘッドを用いた細胞培養容器の製造方法であって、機能性フィルムを前記負圧吸着ヘッドの吸着面に負圧吸着し、該機能性フィルムを細胞培養容器上へ移送した後、負圧を開放して該機能性フィルムを前記細胞培養容器へ落下させ、該機能性フィルムを該細胞培養容器に配置することを特徴とする細胞培養容器の製造方法。
【請求項1】
機能性フィルムを複数の負圧吸着孔を備えた吸着面に負圧吸着して細胞培養容器へ移送した後、負圧を開放して機能性フィルムを細胞培養容器へ落下させるのに用いる負圧吸着ヘッドであって、
前記複数の負圧吸着孔のそれぞれに接続された複数の通気路と、
前記複数の通気路を流れる気体の流量を調整するために各通気路に設けられた流量調整弁と、
前記流量調整弁の開度を制御する制御部と、を備えることを特徴とする負圧吸着ヘッド。
【請求項2】
前記吸着面は、前記負圧吸着孔から排気される気体の排気量が異なる複数の領域を有しており、前記制御部は、前記領域毎に前記流量調整弁の開度を制御することを特徴とする請求項1に記載の負圧吸着ヘッド。
【請求項3】
前記複数の通気路は前記領域毎に集合路に接続されており、前記流量調整弁は前記集合路に設けられていることを特徴とする請求項2に記載の負圧吸着ヘッド。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の負圧吸着ヘッドを用いた細胞培養容器の製造方法であって、機能性フィルムを前記負圧吸着ヘッドの吸着面に負圧吸着し、該機能性フィルムを細胞培養容器上へ移送した後、負圧を開放して該機能性フィルムを前記細胞培養容器へ落下させ、該機能性フィルムを該細胞培養容器に配置することを特徴とする細胞培養容器の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−106530(P2013−106530A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251946(P2011−251946)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
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