説明

止水扉

【課題】特別な保管場所を必要とせず、水位が上昇する異常時に、外部からの動力を必要とせずに自律的に起立展開でき、水流封止能力に優れた止水扉を実現する。
【解決手段】止水板に浮力体を取り付け、止水板が起立状態にある時に下辺となる側に揺動支点を設け、この止水板を止水板側揺動支点と結合する揺動支点を設けた基礎上に置き、止水板両側部および止水板下部の間隙を封止する止水板間隙封止機構を持つ止水扉とする。
また、浮力体を止水板内部に収容する発泡体、あるいは、止水板内部に設ける気室とし、止水板を起立状態に保持する止水板起立保持機構を備え、止水板側方に側方からの水流を遮蔽する側方水流遮蔽壁を設け、基礎上の止水板の前方となる高水位の押し寄せて来る側と止水板下方に水流導入空隙を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水位の上昇を伴う異常時に施設等への浸水を防止する目的で設ける止水扉に関するものである。通常、止水扉は、施設等の出入り口付近や通路上などに置かれるが、止水扉の長尺なものや、止水扉を複数個用いる場合には、壁状となることから可動式止水壁と言われることもある。
【背景技術】
【0002】
我が国は、地震の発生頻度が極めて高い地域にあり、気候的には多雨地帯に属し、また、台風の通過も多いことから、津波や高潮の浸水被害や大雨による浸水被害を受けることが多い。今日、津波の原因となる海域を震源とする大規模地震の発生時期が近づきつつあると懸念され、地球規模の温暖化が進行するなかで、海面の上昇傾向も継続していると考えられている。また、都市部では、地表面の透水率が低下して集中豪雨などによる浸水被害が新たな問題となってきている。
【0003】
こうした状況のなかでも、都市部などでは浸水被害を受けやすい地下部分や臨海部の利用が促進される一方、高度に管理される必要のある電子技術などを応用した機器や社会資産が増加し、むしろ発展に逆らう形で、社会全体が浸水災害に対して脆弱化するという現象が見られる。このため、家屋や、商業施設、工場、地下施設などの様々な施設を浸水被害から守るための有効な手段として高性能な止水扉が求められている。
【0004】
各種の施設において、例えば建物の外壁などは、比較的容易に耐水構造にして突発的な高水位にも耐えられるものとすることができるのであるが、出入り口や通路といった人や物の通行を確保しなければならない個所は、浸水に見舞われる際の弱点となっている。多くの場合このような個所では、水位の異常な上昇が見られる場合に土嚢を積み上げる等して、応急的に浸水対策を講じていた。また、浸水に対する日頃の備えが比較的整っているケースでは、保管している止水板を立てる等して浸水の防止をはかっていた。
【0005】
しかし、津波や高潮、集中豪雨等による高水位は継続時間が長いので、このような方法による浸水対策では、僅かな間隙からでも漏れがちな高水位を効果的に封止することが困難であり、結果的には浸水被害を防止できない場合が多くあった。また、平時に土嚢や止水板を準備していても、必要時にこれらを遅滞なく設置することは、例えば、平常事務職など軽作業に当たっている者にとっては、過重で困難な作業となり、現実には、平時に土嚢や止水板を何時でも使えるように良好な状態に準備して置けるような恵まれた環境も稀である。
【0006】
このため、溝部にパッキングを用い、取り外し可能な止水扉板を用いる止水構造や、円弧方向にガイド溝を設け、ここに格納式の止水扉をスライドさせる格納式止水扉装置などが提案されている。
【0007】
これらの構造や装置は、従来の土嚢や止水板を用いて浸水を阻止する方法に比較して優れたものと言えるが、溝部にパッキングを用い、取り外し可能な止水扉板を用いる採用した止水構造のものは、別の場所に保管している止水扉板を、必要とする個所まで運搬して人力で溝部に挿入しなければならないという不便がある。また、円弧方向にガイド溝を設け、ここに格納式の止水扉をスライドさせる格納式止水扉装置は、構造が複雑で質量の大きい止水扉を人力でスライドさせるのには困難をともない、寸法の大きい止水扉の展開には、浸水時には供給が不安定となりがちな外部からの動力が必要になるという問題がある。
【0008】
施設などに浸水の恐れがある時に、浸水防止のための処置を講じるには、必要な資材とともに、作業に従事できる者が必要であるが、この種の作業には、迅速さとともに的確な判断力や高度な運動能力が求められる。このため、浸水の対策を講じなければならない時に適格者不在の場合、対応が遅れて浸水を阻止することができない場合が多くあった。
【0009】
このような事情から、家屋や、商業施設、工場、地下施設などの様々な施設を浸水被害から守るために、構造が単純であり、保管や展開が容易で封止能力の優れた止水扉が求められ、浸水時に発生しがちな停電や交通の途絶によっても悪影響を受けることなく、たとえ人が介在しなくても自律的に展開できる止水扉が求められている。
【0010】
【特許文献1】平成11年特許願第287222号
【特許文献2】特願2001−343964
【非特許文献1】大矢雅彦ほか著「自然災害を知る・防ぐ」古今書院 1996
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
解決しようとする課題は、特別な保管場所を必要とせず、構造が簡単であり、水位が上昇する異常時に、外部からの動力を必要とせずに自律的に起立展開でき、水流封止能力にも優れた止水扉を実現することであり、夜間などや作業に従事できる人員が不足している時でも、確実に浸水を阻止できる止水扉を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
水位の上昇を伴う異常時に起伏式の止水板を立てる形式の止水扉において、止水板1に浮力体2を取り付け、止水板が起立状態にある時に下辺となる側3に揺動支点4を設け、この止水板を止水板側揺動支点と結合する揺動支点5を設けた基礎6上に置き、止水板両側部7および止水板下部8の間隙9を封止する止水板間隙封止機構10を持つ止水扉とする。
【0013】
また、上記の止水扉止水板に取り付ける浮力体を止水板内部に収容する発泡体、あるいは、止水板内部に設ける気室11とし、止水板を起立状態に保持する止水板起立保持機構12を備え、止水板側方に側方からの水流を遮蔽する側方水流遮蔽壁13を設け、止水板を伏した状態において、基礎上の止水板の前方となる高水位の押し寄せて来る側14と止水板下方15に水流導入空隙16を設けた止水扉とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の止水扉は、水位の上昇を伴う異常時に起伏式の止水板を立てる形式の止水扉であり、止水板に浮力体を取り付け、平時はこれを倒伏平置することで、止水板の高水位を受け止める側の裏面17が、出入り口や通路の床面18と一体となるものである。浮力体を取り付けた止水板が起立状態にある時に下辺となる側に揺動支点を設け、この止水板を止水板側揺動支点と結合する揺動支点を設けた基礎上に置き、止水板両側部および止水板下部の間隙を封止する止水板間隙封止機構を持つ止水扉である。
【0015】
平時は倒伏して格納する止水板の前方より高水位が現れると、止水板に浮力が発生して支点を軸として揺動浮上し、止水扉には、止水板両側部および止水板下部の間隙を封止する止水板間隙封止機構があるので、水流が漏れることなく高水位を効果的に遮断できる。
【0016】
止水扉の止水板に取り付ける浮力体を止水板内部に収容する発泡体にしたり、止水板内部に設ける気室とすれば、平時に倒伏して格納する際の浮力体が、通行の邪魔にならず、長期の格納によっても損傷することがない。また、止水板を起立状態に保持する止水板起立保持機構を備えることで、高水位が解消されて止水板が復帰する際に、止水板下に漂流物等が挟まる事故を回避でき、さらに、止水板側方に側方からの水流を遮蔽する側方水流遮蔽壁を設け、止水板を伏した状態において、基礎上の止水板の前方となる高水位の押し寄せて来る側と止水板下方に水流導入空隙を設けた止水扉とすることで、止水板が一層確実に起立できるようになる。
【0017】
本発明の止水扉は、平時に倒伏格納できることから特別な保管場所を必要とせず、
止水板に揺動支点を設けて基礎上に置くので構造が簡単であり、水位が上昇する異常時に浮力で起立するので、外部からの動力を必要とせずに自律的に起立展開でき、水流封止能力にも優れた止水扉を実現したものである。また、人の介在がなくても確実に浸水を阻止できる止水扉としたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明を実施するための最良の形態を図に基づいて説明する。図1は、ある施設の出入り口付近に置かれた本発明による止水扉の止水板展開時における中央部横断面図で、右側が高水位の押し寄せる側である。図では、水位の上昇を伴う異常時に、浮力体2を止水板内部に取り付けた止水板1が、押し寄せた高水位19による浮力を得て起立している。止水扉には、止水板両側部(図1は断面図なので示されない)、および止水板下部8の間隙9を封止する止水板間隙封止機構10があるので、止水板が起立した際に水流が漏れることなく止水板右側の高水位を効果的に遮断できている。止水板は、止水板内部に収容された浮力体に働く浮力で支点4と5を揺動軸として起立するので、人が介在することなく確実に浸水を阻止できる。浮力体を収容する止水板の有効高さを、想定する最大高水位を上回る寸法としておくことで、津波や高潮、大雨による異常な高水位に対する有効な止水扉として機能する。
【0019】
図2は、本発明による止水扉の止水板倒伏格納時における中央部横断面図で、右側が高水位の押し寄せる側14である。平時には図のように、止水板1を止水板側揺動支点4と結合する揺動支点5を設けた基礎6上に倒伏して置く。この際に、止水扉の止水板に取り付ける浮力体2を止水板内部に収容する発泡体にしたり、止水板内部に設ける気室11とすれば、倒伏格納する際の浮力体が通行の邪魔にならず、長期の格納によっても損傷することがない。
【実施例1】
【0020】
図3は、本発明止水扉の1実施例の斜視図である。本発明の止水扉を施設の出入り口や通路などに設ける場合は、止水板の寸法や個数を止水扉の置かれる状況によって適したものに調整する必要があるが、止水板が複数個になる場合に止水板相互間に生じる間隙を、隣り合う止水板の側縁部を食違わせて延長したり、止水板周辺に生じる間隙に適した形状材質のパッキング20を用いて封止することで施設などに流入しようとする水流をほぼ完全に遮断できる。また、止水板を起立状態に保持する止水板起立保持機構12を備えることで、高水位が解消される際に倒伏復帰しようとする止水板下15に漂流物等が挟まる事故を回避でき、さらに、止水板側方に側方からの水流を遮蔽する側方水流遮蔽壁13を設けることで、止水板後方へ漏れようとする水流を一層少なくできる。また、止水板を伏した状態において、基礎上の止水板の前方21となる高水位の押し寄せて来る側と止水板下方15に水流導入空隙16を設けることで、止水板が一層確実に起立できるようになる。通常、水流導入空隙は、平時に倒伏格納される止水板前方に溝状に形成されることになるので、透水性の溝蓋22を被せて置けば通行の障害とならない。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の止水扉は、家屋や、商業施設、工場、地下街などの様々な施設の出入り口ばかりでなく、地下鉄道の出入り口や道路の立体交差点のアンダーパス出入り口に設置しても効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による止水扉の止水板展開時における中央部横断面図である。
【図2】本発明による止水扉の止水板倒伏格納時における中央部横断面図である。
【図3】本発明止水扉の1実施例の斜視図である。(実施例1)
【符号の説明】
【0023】
1 止水板
2 浮力体
3 起立状態での止水板下辺側
4 止水板側揺動支点
5 基礎側揺動支点
6 基礎
7 止水板両側部
8 止水板下部
9 間隙
10 止水板間隙封止機構
11 止水板内部に収容する発泡体、あるいは止水板内部に設ける気室
12 止水板起立保持機構
13 側方水流遮蔽壁
14 高水位の押し寄せて来る側を示す矢印
15 倒伏状態での止水板下方
16 水流導入空隙
17 止水板の高水位を受け止める側の裏面
18 出入り口や通路の床面
19 高水位
20 パッキング
21 止水板を倒伏した状態における基礎上の止水板前方
22 透水性の溝蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水位の上昇を伴う異常時に起伏式の止水板を立てる形式の止水扉において、止水板に浮力体を取り付け、止水板が起立状態にある時に下辺となる側に揺動支点を設け、この止水板を止水板側の揺動支点と結合する揺動支点を設けた基礎上に置き、止水板両側部および止水板下部の間隙を封止する止水板間隙封止機構を持つ止水扉。
【請求項2】
止水板に取り付ける浮力体が、止水板内部に収容する発泡体である特許請求の範囲請求項1記載の止水扉。
【請求項3】
止水板に取り付ける浮力体が、浮力体が止水板内部に設ける気室である特許請求の範囲請求項1記載の止水扉。
【請求項4】
止水板を起立状態に保持する止水板起立保持機構を備えた特許請求の範囲請求項1ないし3記載の止水扉。
【請求項5】
止水板側方に側方からの水流を遮蔽する側方水流遮蔽壁を設けた特許請求の範囲請求項1ないし4記載の止水扉。
【請求項6】
止水板を伏した状態において、基礎上の止水板の前方となる高水位の押し寄せて来る側と止水板下方に水流導入空隙を設けた特許請求の範囲請求項1ないし5記載の止水扉。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate