説明

歩行型芝刈機の動力伝達機構

【課題】従来の歩行型芝刈機においては、エンジンからの動力を分岐してドラム式車輪とリールカッターに伝達するが、ドラム式車輪用の変速装置を備えておらず、作業以外で大径のタイヤに切り換えて移動走行する際に、エンジン回転数の制御だけでは低速に変速しにくく、クラッチ入時に急発進したり、安定走行が困難である、という問題があった。
【解決手段】エンジン5からの動力をドラム式車輪7L・7Rまで伝達する第一動力伝達経路35と、前記エンジン5からの動力をリールカッター12まで伝達する第二動力伝達経路36のいずれにも、各駆動軸であるドラム軸16L・16Rとカッター軸34を変速可能な変速構造として、ギア変速機構30と交換機構134をそれぞれに介設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンからの動力を分岐してドラム式車輪とリールカッターに伝達し芝刈作業を行う歩行型芝刈機に関し、詳しくは、走行速度と刈取ピッチを独立して変更可能な歩行型芝刈機の動力伝達機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ゴルフ場のグリーン等の芝生を刈り取るための歩行型芝刈機においては、エンジンからの動力を分岐してドラム式車輪とリールカッターに伝達する技術が公知となっている(例えば、特許文献1参照)。
更に、前記エンジンからの動力をリールカッターまで伝達する動力伝達経路の途中に、該リールカッターの回転数を変速する変速構造を設けることにより、刈取ピッチを変更可能な技術が公知となっている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】実開昭62−74515号公報
【特許文献2】特開2005−304428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、いずれの技術においても、動力伝達機構は圃場で作業する際の走行(以下、「作業走行」とする。)を主体に構成されているため、次のような問題があった。
すなわち、作業以外で機体を移動する際の走行(以下、「移動走行」とする。)では、ドラム式車輪よりも大径のタイヤ等の移動用車輪を装着して運転するので、作業時に比べて高速で発進・走行することとなるが、エンジン回転数の制御だけでは、前記大径の移動用車輪に適した低速回転に変更して所定速度で発進・走行するのは難しいため、クラッチ入時の急発進を防止できず、安定走行も困難である、という問題があった。特に、圃場間の移動時には機体をブリッジを用いてトラックの荷台に積載する必要があるが、エンジン回転数を落として長時間にわたって低速で積載作業をしようとするとエンストが起こりやすくなるため、高速での積載作業が避けられずに、操作ミス等による作業効率の低下を回避できない、という問題があった。
【0004】
更に、起伏の激しい圃場での作業や、非熟練者が作業する場合には、安定走行のためにエンジン回転数を落として低速で作業走行するが、同時に、エンジン回転数に連動してリールカッターの回転数も落ちるため、芝生の切断面が粗くなったり、芝生がリールカッターによって勢いよく排出されずにそのまま落下したりして、芝生の仕上がりや生育性が悪化する、という問題があった。また、たとえ後者の技術のようにリールカッターの回転数が変速できても、走行速度は依然として変速できないため、刈取ピッチの細かな制御や、所定の刈取ピッチを確保した上での砂の巻き上げ防止が難しく、このため、より細かな芝生管理をするには、走行速度の異なる複数台の歩行型芝刈機が必要となり、芝生管理コストが高くなる、という問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
すなわち、請求項1においては、エンジンからの動力を分岐してドラム式車輪とリールカッターに伝達し芝刈作業を行う歩行型芝刈機において、前記エンジンからの動力をドラム式車輪まで伝達する第一動力伝達経路と、前記エンジンからの動力をリールカッターまで伝達する第二動力伝達経路のいずれにも、各駆動軸を変速可能な変速構造を介設したものである。
【0006】
請求項2においては、前記第一動力伝達経路には、走行用の前記変速構造として選択噛合式のギア変速機構を有し、該ギア変速機構を収容するミッションケースを設けると共に、該ミッションケース内を通過するように前記第二動力伝達経路を設けるものである。
【0007】
請求項3においては、前記ミッションケースには、前記左右のドラム式車輪を回転駆動する各ドラム軸に走行変速動力を差動伝達する差動機構と、前記左右のドラム式車輪を制動する制動機構を収容するものである。
【0008】
請求項4においては、前記ミッションケースは、前記エンジンの左右側方に並設するものである。
【0009】
請求項5においては、前記ミッションケースから、走行変速動力を出力する走行出力軸を機体左右に延出し、該走行出力軸の左右両端より、前記左右のドラム式車輪にそれぞれ動力を伝達する走行伝達装置を垂下し、該左右の走行伝達装置と前記走行出力軸とによって門型フレームを構成するものである。
【0010】
請求項6においては、前記第二動力伝達経路において、前記ミッションケースから、刈取動力を出力する刈取出力軸を機体左右のいずれか一方に延出し、該刈取出力軸の外端より、前記リールカッターに動力を伝達する刈取伝達装置を垂下し、該刈取伝達装置の伝達要素を外部から交換可能とすることにより、リールカッター用の前記変速構造を構成するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、以上のように構成したので、以下に示す効果を奏する。
すなわち、請求項1においては、エンジンからの動力を分岐してドラム式車輪とリールカッターに伝達し芝刈作業を行う歩行型芝刈機において、前記エンジンからの動力をドラム式車輪まで伝達する第一動力伝達経路と、前記エンジンからの動力をリールカッターまで伝達する第二動力伝達経路のいずれにも、各駆動軸を変速可能な変速構造を介設したので、ドラム式車輪を専用の変速構造により確実に低速回転に変更することができ、移動走行の際に大径の移動用車輪を装着しても、安定した低速で発進・走行することができ、クラッチ入時の急発進が防止できると共に、安定走行も容易となる。特に、圃場間移動のため機体をトラックに積載する際に、長時間かかってもエンストせずに低速で積載作業をすることができ、操作ミス等による作業効率の低下を回避することができる。更に、ドラム式車輪とリールカッターとは各々独立して変速することができ、起伏の激しい圃場での作業や、非熟練者が作業する場合であっても、リールカッターの回転数は高速に保持したままで、走行速度のみを落として低速で作業走行することができ、芝生の切断面が均一で滑らかとなり、芝生がそのまま落下することもなく、芝生の仕上がりや生育性が向上する。特に、ドラム式車輪とリールカッターの各々の変速段を適切に組み合わせることで、刈取ピッチや砂の巻き上げ状態等を細かく制御することができ、より細かな芝生管理が一台の歩行型芝刈機で可能となり、芝生管理コストを大きく低減することができる。
【0012】
請求項2においては、前記第一動力伝達経路には、走行用の前記変速構造として選択噛合式のギア変速機構を有し、該ギア変速機構を収容するミッションケースを設けると共に、該ミッションケース内を通過するように前記第二動力伝達経路を設けるので、第一動力伝達経路による走行変速に、油圧式やベルト等の無端帯式による変速機構に比べ動力伝達ロスが小さいギア変速機構を用いることができ、良好な走行変速性能を得ることができる。更に、第二動力伝達経路は、第一動力伝達経路が通るミッションケースを利用して経路の一部を確保することができ、第二動力伝達経路の設置に必要な配置空間を縮小して、動力伝達機構のコンパクト化を図ることができる。
【0013】
請求項3においては、前記ミッションケースには、前記左右のドラム式車輪を回転駆動する各ドラム軸に走行変速動力を差動伝達する差動機構と、前記左右のドラム式車輪を制動する制動機構を収容するので、前記差動機構と制動機構をミッションケース内に集約配置することができ、両機構の配置空間を別途設ける必要がなく、動力伝達機構のコンパクト化を図ることができる。特に、前記差動機構を左右のドラム式車輪駆動用のドラム軸の間に介設する場合に比べ、ドラム式車輪の構造を簡単にすることができ、該ドラム式車輪の低コスト化やメンテナンス性の向上を図ることができる。
【0014】
請求項4においては、前記ミッションケースは、前記エンジンの左右側方に並設するので、エンジン側方の空間を有効利用することができ、該ミッションケースを配置するための空間を別途設ける必要がなく、動力伝達機構のコンパクト化を図ることができる。また、いずれも重いエンジンとミッションケースを機体左右方向に振り分けて配置することができ、機体左右方向の重量バランスが良好となり、直進安定性や操向時のハンドル操作性が向上する。
【0015】
請求項5においては、前記ミッションケースから、走行変速動力を出力する走行出力軸を機体左右に延出し、該走行出力軸の左右両端より、前記左右のドラム式車輪にそれぞれ動力を伝達する走行伝達装置を垂下し、該左右の走行伝達装置と前記走行出力軸とによって門型フレームを構成するので、該門型フレームにより、前記左右のドラム式車輪を両外側から駆動可能に支持することができ、ドラム式車輪を堅固に支持すると共に個別に駆動して、優れた走破性を得ることができる。更に、該門型フレームの下方空間にドラム式車輪を配置することができ、歩行型芝刈機の全体高さを低く抑えて、走行安定性の向上や機体のコンパクト化を図ることができる。
【0016】
請求項6においては、前記第二動力伝達経路において、前記ミッションケースから、刈取動力を出力する刈取出力軸を機体左右のいずれか一方に延出し、該刈取出力軸の外端より、前記リールカッターに動力を伝達する刈取伝達装置を垂下し、該刈取伝達装置の伝達要素を外部から交換可能とすることにより、リールカッター用の前記変速構造を構成するので、リールカッター用に複雑な変速構造を別途設ける必要がなく、装置数を減らして、装置コストの低減やメンテナンス性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明に係わる歩行型芝刈機1の全体構成を示す平面図、図2は同じく左側面図、図3はミッションケースの平面一部断面図、図4はメインクラッチの入切操作のためのリンク構造を示すミッションケースの右側面図、図5は固定カムと可動カムの組立構成を示す斜視図、図6はギア変速機構の変速操作のための操作構造を示すミッションケース前部の平面一部断面図、図7は左側を開放した状態のミッションケースの左側面図、図8は左側を開放した状態の走行伝達装置の左側面図、図9は走行伝達装置からドラム式車輪までの第一動力伝達経路の背面一部断面図、図10は左側を開放した状態の刈取伝達装置の左側面図、図11は刈取伝達装置からリールカッターまでの第二動力伝達経路の背面一部断面図、図12は刈取クラッチの一部断面図、図13は隙間調整装置の左側面図である。
なお、以下の説明において、歩行型芝刈機の進行方向(図1に示す矢印10の方向)を前方、その反対側を後方とし、進行方向に向かって右側を右方(図1に示す矢印11の方向)、その反対側を左方とする。
【0018】
まず、本発明に係わる動力伝達機構を備える歩行型芝刈機1の全体構成について、図1乃至図3により説明する。
該歩行型芝刈機1においては、機体フレーム2の後部から左右のハンドルアーム3L・3Rが後ろ斜め上方に向かって延設され、該ハンドルアーム3L・3Rの後端部間にハンドル4が配設されると共に、該ハンドル4と前記ハンドルアーム3L・3Rとの間には、刈取クラッチ操作レバー20とメインクラッチ操作レバー21が左右に並設されている。
【0019】
更に、前記機体フレーム2の前後方向略中央部には、機体幅内にエンジン5が右側に偏在して搭載され、該エンジン5の左方に、本発明に係わるミッションケース6が配置されている。すなわち、該ミッションケース6は、前記エンジン5の左右側方に並設するので、エンジン5側方の空間を有効利用することができ、該ミッションケース6を配置するための空間を別途設ける必要がなく、動力伝達機構37のコンパクト化を図ることができる。また、いずれも重いエンジン5とミッションケース6を機体左右方向に振り分けて配置することができ、機体左右方向の重量バランスが良好となり、直進安定性や操向時のハンドル4の操作性が向上する。
【0020】
そして、機体フレーム2の後部には、左右のドラム式車輪7L・7Rが装着されると共に、機体フレーム2の前部には、前から順に、前ローラ8とサッチングローラ9が左右方向に横設され、該サッチングローラ9と前記ドラム式車輪7L・7Rとの間に、リールカッター12が配置されている。
【0021】
このうちの前ローラ8は、機体フレーム2に対して昇降可能に取り付けられており、該機体フレーム2に対して前ローラ8を昇降することにより、芝生の刈高が設定される。また、前記リールカッター12は、カッターフレーム13に多数枚のリール刃14が螺旋状に取り付けられて構成されており、ダウンカット状に回転する該リールカッター12のリール刃14と、前記機体フレーム2の下部に設けられた下刃15との間に挟まれるようにして、芝生が刈り取られる。
【0022】
そして、前記サッチングローラ9は、このようにして芝生が刈り取られる直前で、芝生内に入り込んでいる枯芝類を掻き出すように構成されると共に、その駆動力は、機体フレーム2前部の右側面に設けたローラ伝達装置19を介して、回転する前記リールカッター12から伝達されるようにしている。
【0023】
このような構成において、前記エンジン5からの動力で駆動されるドラム式車輪7L・7Rによって作業走行しながら、リールカッター12によって芝生が刈り取られ、この刈り取られた芝生は、図示せぬ搬送案内カバーにより前方に搬送されてから、前記機体フレーム2の前部に固定されたホッパ18内に集草される。
【0024】
なお、この刈取作業時には、図1に示すように、前記左右のドラム式車輪7L・7Rの駆動軸であるドラム軸16L・16Rの両外端部に装着されているタイヤ等の移動用車輪17L・17Rを取り外し、該移動用車輪17L・17Rよりも小径で、かつ軸方向に長く形成された幅広の前記ドラム式車輪7L・7Rを接地させるようにして、圃場の芝生が車輪より受ける接地圧を減少させ、芝生の損傷を軽減できるようにしている。
【0025】
また、前記エンジン5からの動力は、前記メインクラッチ操作レバー21の傾倒操作により断接されるメインクラッチ22を介して、エンジン5のエンジン出力軸23と同軸上に配置されるミッション入力軸24に伝達され、該ミッション入力軸24の動力は、ミッションケース6内において、前記ドラム式車輪7L・7Rを駆動するドラム軸16L・16Rまでの第一動力伝達経路35と、前記リールカッター12を駆動するカッター軸34までの第二動力伝達経路36とに分岐され、該両動力伝達経路35・36と前記メインクラッチ22等によって歩行型芝刈機1の動力伝達機構37が構成されている。
【0026】
次に、前記メインクラッチ22について、図3乃至図5により説明する。
該メインクラッチ22においては、前記エンジン出力軸23の先部に、左方に開いたロート状のクラッチハウジング38がキー結合され、該クラッチハウジング38の内周には、前記ミッション入力軸24の右部に回動可能に外嵌した駆動ディスク39の外周が噛合されており、該駆動ディスク39とクラッチハウジング38は、前記エンジン出力軸23と一体回動可能に結合されている。一方、前記駆動ディスク39の左方には、摩擦板41を挟んで従動ディスク40が対向配置されており、該従動ディスク40は、前記ミッション入力軸24の右部に軸方向摺動可能にキー結合されている。
【0027】
前記ミッションケース6の前部右側面には、複数のボルト44によって固定カム42が締結固定され、該固定カム42を通って前記ミッション入力軸24がミッションケース6から右方に突出され、その突出端部に、前記従動ディスク40が設けられている。そして、該固定カム42の凸部には可動カム43が回動可能かつ軸方向摺動可能に外嵌され、該固定カム42と可動カム43の対向する面42aと面43aには、それぞれ、カム歯45とカム歯46が対向するように複数形成されており、面43aが面42aに対して矢印47の方向に回動すると、カム歯45の斜面45aとカム歯46の斜面46aとが互いに摺動して、対向する面42aと面43aの間隔が増加するように構成されている。
【0028】
更に、前記可動カム43の外周からはクラッチアーム43bが半径方向に突出され、該クラッチアーム43bの先端は、ロッド48を介してクラッチレバー49の途中部に連結され、該クラッチレバー49の先部は、クラッチワイヤ50、緩衝バネ51、クラッチプレート52等を介して、レバー支軸57を中心に前記メインクラッチ操作レバー21と一体回動するクラッチステー53の先端に連動連結されている。
【0029】
前記クラッチレバー49の基部は、ミッションケース6の右側面略中央に固設したレバー支持板54から右方に突設するレバー軸55によって軸支されると共に、該レバー軸55には、一端をクラッチレバー49の一部に掛止し、他端をレバー支持板54に掛止した戻りバネ56が巻回されており、該戻りバネ56の弾性力によって、レバー軸55を中心に回動可能なクラッチレバー49に対して、常に矢印58とは反対方向の付勢力が作用するようにしている。
【0030】
このような構成において、前記メインクラッチ操作レバー21を手前の方向、つまり矢印59の方向に回動すると、レバー支軸57を中心にクラッチステー53も矢印59の方向に回動し、クラッチプレート52、緩衝バネ51、クラッチワイヤ50等が牽引されて、クラッチレバー49が、前記戻りバネ56の弾性力に抗して、矢印58の方向に回動される。すると、ロッド48を介して、クラッチアーム43bが突出した可動カム43の面43aが、固定カム42の面42aに対して矢印47の方向に回動され、前述のように、面42aと面43aの間隔が増加し、可動カム43が、軸受け60を介して、前記従動ディスク40を駆動ディスク39側に押動し、従動ディスク40が摩擦板41を介して駆動ディスク39に押圧されて接続され、エンジン出力軸23とミッション入力軸24との間が連動連結されて、メインクラッチ「入」となる。
【0031】
逆に、その後に前記メインクラッチ操作レバー21を矢印59の反対方向に回動して元の位置に戻すと、クラッチレバー49・クラッチアーム43bともに前述とは反対方向に回動され、可動カム43が固定カム42側に移動して戻り、前記従動ディスク40が駆動ディスク39側から離間されて、エンジン出力軸23とミッション入力軸24との間の連結が切断されて、メインクラッチ「切」となり、このようにして、エンジン5からの動力が前記両動力伝達経路35・36に分岐する前に、該エンジン動力を断接可能なメインクラッチ22が構成されている。
【0032】
なお、前記カム歯45側の斜面45aは、傾斜が非常に緩く形成されているため、クラッチアーム43bを矢印47の方向へ回転するのに必要な操作力が小さくて済み、クラッチ「入」時のクラッチ圧を高く設定することができ、エンジン5の動力の伝達ロスを低減することでエンジン5の小型化を図り、歩行型芝刈機1のコンパクト化や低コスト化を図ることができる。
【0033】
次に、前記第一動力伝達経路35について、図1乃至図3、図6乃至図9により説明する。
図1乃至図3、図9に示すように、該第一動力伝達経路35は、前記ミッション入力軸24から、順に、ミッションケース6内に設けたギア変速機構30・制動機構31・差動機構32、ミッションケース6から延出される走行出力軸26L・26R、該走行出力軸26L・26Rの左右両端より垂下する走行伝達装置28L・28R、及びドラム軸16L・16Rを通るように構成されている。なお、このうちの左右の走行出力軸26L・26Rと走行伝達装置28L・28Rとから門型形状のフレーム構造(以下、「門型フレーム」とする。)133が形成され、該門型フレーム133の下方空間において、前記ドラム式車輪7L・7Rが、それぞれ、前記走行伝達装置28L・28Rによって両外側から駆動可能に支持されている。
【0034】
図3、図6、図7に示すように、このような第一動力伝達経路35において、前記ミッションケース6内では、前記ミッション入力軸24の前斜め下方には平行して、刈取出力軸27が回動可能に軸支され一方、ミッション入力軸24の後斜め下方には平行して、前から順に、中間軸25、前記走行出力軸26L・26Rが回動可能に軸支されている。
【0035】
前記ミッションケース6内におけるミッション入力軸24の左半部には、右から順に大径の高速駆動ギア61aと小径の低速駆動ギア61bを有する二連ギア61が、軸方向摺動可能に設けられると共に、前記中間軸25上には、右から順に小径の高速従動ギア62、大径の低速従動ギア63が固設されている。更に、前記二連ギア61の溝部には、シフトフォーク70の先部が係合され、該シフトフォーク70の基部は、前記ミッションケース6の左壁に左右摺動可能に挿通されたシフトロッド71の右端に連結され、該シフトロッド71の左端にはシフトノブ72が取り付けられている。
【0036】
このような構成において、該シフトノブ72を位置73aに押し込むと、前記シフトロッド71とシフトフォーク70を介して前記二連ギア61が右方に摺動され、該二連ギア61上の高速駆動ギア61aが前記中間軸25上の高速従動ギア62に噛合して「高速段」に設定さ、これにより、ミッション入力軸24の動力が高速に変速されて中間軸25に伝達される。逆に、シフトノブ72を位置73bまで引き出すと、前記シフトロッド71とシフトフォーク70を介して前記二連ギア61が左方に摺動され、該二連ギア61上の低速駆動ギア61bが前記中間軸25上の低速従動ギア63に噛合して「低速段」に設定され、これにより、ミッション入力軸24の動力が低速に変速されて中間軸25に伝達される。
【0037】
更に、シフトノブ72を、前記位置73aと73bの中間の位置73cに移動させると、前記シフトロッド71とシフトフォーク70を介して前記二連ギア61が高速従動ギア62と低速従動ギア63との間に移動し、二連ギア61が高速従動ギア62と低速従動ギア63の何れとも噛合しないで中間軸25には動力が伝達されない「中立」に設定され、これにより、高速段、中立、低速段を選択可能な二段変速式の前記ギア変速機構30が構成されている。
【0038】
また、前記シフトロッド71の外周面には、高速段位置、中立位置、低速段位置の変速位置の位置決めのための環状の溝71a、71c、71bが左から順に形成され、該溝71a、71c、71bには、ミッションケース6の壁部に穿孔し外側からボルト77を螺挿して形成した駐止穴6aが、前記シフトロッド71に直交するように連通されており、該駐止穴6a内には、駐止バネ74と駐止ボール75とが、該駐止ボール75の先端が前記溝71a、71c、71bに臨むように嵌入され、これにより、デテント機構76が構成されている。
【0039】
このように、前記駐止バネ74により、駐止ボール75が溝71a、71c、71bに向かって常時押圧されるので、前記シフトロッド71を左右方向に摺動して所定の変速位置に移動させた際には、駐止ボール75が溝71a(高速段位置)、71c(中立位置)、71b(低速段位置)のいずれかに係止されるため、移動後もずれることなくシフトロッド71を所定変速位置に確実に保持することができる。
【0040】
また、前記中間軸25の左端に固設されたブレーキドラム82内には、前後の連結バネ83・83によって引き合うように連結された上下の図示せぬブレーキシューが内装されており、ミッションケース6の左側面に固定された支持板84に軸支されたブレーキ軸81を回転させることにより、前記ブレーキシューをブレーキドラム82に押圧して中間軸25を制動できるようにして、ドラム式の制動機構31が構成されている。
【0041】
前記ブレーキ軸81にはブレーキアーム78の一端が固設され、該ブレーキアーム78の他端は、ブレーキワイヤ79等を介して、前記ハンドル4に設けたブレーキレバー80に連動連結されており、該ブレーキレバー80を把持して手前に回動することにより、前記ブレーキ軸81を回転させて中間軸25を制動するようにしている。
【0042】
また、前記中間軸25上で高速従動ギア62と低速従動ギア63との間には、前記二連ギア61が摺動中に干渉しない大きさの径から成る出力ギア64が固設され、該出力ギア64は、前記左右の走行出力軸26L・26Rを差動的に結合する前記差動機構32への入力軸である後述のリングギア66に常時噛合されており、中間軸25からの変速動力が差動装置32に伝達されるようにしている。
【0043】
該差動機構32は、前記走行出力軸26L・26Rと同一回転軸心を有するようにミッションケース6の後部内に支持された中空のデフケース65と、該デフケース65に固設され前述の如く出力ギア64と噛合される前記リングギア66と、該デフケース65内において走行出力軸26L・26Rと直交配置されデフケース65と一体的に回転するピニオン軸67と、該ピニオン軸67の両端に回転自在に配置されるベベルギアであるピニオン68・68と、前記走行出力軸26L・26Rの内端側に固定され該ピニオン68・68に噛合されるベベルギアであるデフサイドギア69・69により構成されており、これにより、リングギア66から入力された変速動力が、左右の走行出力軸26L・26Rに差動伝達されるようにしている。
【0044】
すなわち、前記ミッションケース6には、前記左右のドラム式車輪7L・7Rを回転駆動する各ドラム軸16L・16Rに走行変速動力を差動伝達する差動機構32と、前記左右のドラム式車輪7L・7Rを制動する制動機構31を収容するので、前記差動機構32と制動機構31をミッションケース6内に集約配置することができ、両機構31・32の配置空間を別途設ける必要がなく、動力伝達機構37のコンパクト化を図ることができる。特に、前記差動機構32を左右のドラム式車輪7L・7Rの駆動用のドラム軸16L・16Rの間に介設する場合に比べ、ドラム式車輪7L・7Rの構造を簡単にすることができ、該ドラム式車輪7L・7Rの低コスト化やメンテナンス性の向上を図ることができる。
【0045】
図3、図8、図9に示すように、前記走行出力軸26L・26Rの左右外端からは、それぞれ走行伝達装置28L・28Rが垂下されている。
このうちの左側の走行伝達装置28Lにおいては、前記機体フレーム2の後部左側面に形成された凹状のケース受け部2aに走行伝達ケース91Lが覆設され、該走行伝達ケース91L内でケース受け部2aの上部に回動可能に支持された入力軸85に、前記走行出力軸26Lの左端がピン結合されている。そして該入力軸85の下方には、平行して、上から順に、中間軸86、前記ドラム軸16Lが回動可能に軸支されている。
【0046】
前記入力軸85には小径の入力ギア87が固設され、中間軸86には大径の第一中間ギア88と小径の第二中間ギア89が固設され、ドラム軸16Lには大径のファイナルギア90が固設されている。そして、入力ギア87は第一中間ギア88に、第二中間ギア89はファイナルギア90に、それぞれ常時噛合され、該入力ギア87、第一中間ギア88、第二中間ギア89、及びファイナルギア90から成る減速ギア列が構成されており、これにより、走行出力軸26Lからの動力が、二段階で減速され前記ドラム軸16Lに伝達される。一方、右側の走行伝達装置28Rについても同様に、右側の走行出力軸26Rからの動力が、二段階で減速されて前記右側のドラム軸16Rに伝達される。
【0047】
また、前記ドラム軸16L・16Rの両外端部には、スプライン92と係止溝が形成されており、前記移動用車輪17L・17Rを、ドラム軸16L・16Rから一操作で着脱可能としている。これにより、前述した如く、作業走行時には、移動用車輪17L・17Rをドラム軸16L・16Rから取り外し、該移動用車輪17L・17Rよりも小径で幅広の前記ドラム式車輪7L・7Rを接地させることにより低速で走行し、移動走行時には、移動用車輪17L・17Rをドラム軸16L・16Rに取り付け、大径の該移動用車輪17L・17Rを接地させることにより高速で走行することができる。
【0048】
更に、前記ドラム軸16L・16Rの両内端部には、それぞれフランジ16La・16Raが形成され、該フランジ16La・16Raには、それぞれドラム式車輪7L・7Rが複数のボルト93により締結固定されている。そして、このうちの左側のドラム式車輪7Lの内端には、右方に突出する軸部94aを有する支軸94が、ボルト93によって締結固定される一方、右側のドラム式車輪7Rの内端には、左方に突出し前記軸部94aの外周に回動可能に外嵌される軸受部95aを備えた軸受ケース95が、ボルト93によって締結固定されており、左右のドラム式車輪7L・7Rは、互いに空転可能となっている。これにより、両支持された左右のドラム式車輪7L・7Rを、直進時には、一体回転させ、旋回時には、それぞれ個別に駆動して差動回転できようにしている。
【0049】
すなわち、以上のように、前記ミッションケース6から、走行変速動力を出力する走行出力軸26L・26Rを機体左右に延出し、該走行出力軸26L・26Rの左右両端より、前記左右のドラム式車輪7L・7Rにそれぞれ動力を伝達する走行伝達装置28L・28Rを垂下し、該左右の走行伝達装置28L・28Rと前記走行出力軸26L・26Rとによって前記門型フレーム133を構成するので、該門型フレーム133により、前記左右のドラム式車輪7L・7Rを両外側から駆動可能に支持することができ、ドラム式車輪7L・7Rを堅固に支持すると共に個別に駆動して、優れた走破性を得ることができる。更に、該門型フレーム133の下方空間にドラム式車輪7L・7Rを配置することができ、歩行型芝刈機1の全体高さを低く抑えて、走行安定性の向上や機体のコンパクト化を図ることができる。
【0050】
次に、前記第二動力伝達経路36について、図1乃至図3、図7、図10乃至図13により説明する。
図1乃至図3に示すように、該第二動力伝達経路36は、前記ミッション入力軸24から、順に、チェーン伝動機構33、ミッションケース6から延出される刈取出力軸27、該刈取出力軸27の左右一端より垂下する刈取伝達装置29、及びカッター軸34を通るように構成されている。
【0051】
図3、図7に示すように、このような第二動力伝達経路36において、前記ミッションケース6内では、前記ミッション入力軸24の右半部に、小径の小スプロケット97が固設されると共に、前記刈取出力軸27の右端部には大径の大スプロケット98が固設され、該大スプロケット98と前記小スプロケット97との間にはチェーン96が巻回されており、これにより、ミッション入力軸24からの動力を減速して刈取出力軸27に伝達するチェーン伝動機構33が構成されている。
【0052】
図10乃至図12に示すように、このようなチェーン伝動機構33を介してミッションケース6から出力された減速動力は、刈取伝達装置29に入力される。
該刈取伝達装置29においては、前記機体フレーム2の前部左側面に形成された凹状のケース受け部2bに刈取伝達ケース99が覆設され、該刈取伝達ケース99内でケース受け部2bの上部に回動可能に支持された入力軸100に、前記刈取出力軸27の左端がピン結合されている。そして該刈取出力軸27に平行して、前記カッター軸34の左端部がケース受け部2bの下部にカッターメタル114を介して回動可能に軸支されると共に、カッター軸34の右端部も、機体フレーム2の前部右側面にカッターメタル114を介して回動可能に軸支されている。
【0053】
前記入力軸100には、大径の大プーリ101がスプライン嵌合されてボルト117によって着脱可能に締結固定され、前記カッター軸34においても、小径の小プーリ102がスプライン嵌合されて長頭のボルト118によって着脱可能に締結固定され、該小プーリ102と前記大プーリ101との間にはベルト103が巻回されており、大プーリ101、ベルト103、小プーリ102の順に連結されて、リールカッター12の回転数を高速にする「高速刈取段」に設定され、これにより、入力軸100からの動力が高速回転に変速されてカッター軸34に伝達される。
【0054】
リールカッター12の回転数を低速に変速する場合は、刈取伝達ケース99を取り外した後、前記ボルト117・118を着脱することにより、前記大プーリ101と小プーリ102をそれぞれ入力軸100とカッター軸34から脱着させて交換し、入力軸100からの動力が、小プーリ102、ベルト103、大プーリ101の順にカッター軸34に伝達されるように構成することで、リールカッター12の回転数を低速にする「低速刈取段」に設定され、これにより、入力軸100からの動力が低速回転に変速されてカッター軸34に伝達される。このようにして、高速刈取、低速刈取を選択可能な刈取二段変速式の交換機構134が構成されている。
【0055】
すなわち、前記第二動力伝達経路36において、前記ミッションケース6から、刈取動力を出力する刈取出力軸27を機体左右のいずれか一方に延出し、該刈取出力軸27の外端より、前記リールカッター12に動力を伝達する刈取伝達装置29を垂下し、該刈取伝達装置29の伝達要素であるプーリ101・102を外部から交換可能とすることにより、リールカッター12用の前記変速構造である交換機構134を構成するので、リールカッター12用に複雑な変速構造を別途設ける必要がなく、装置数を減らして、装置コストの低減やメンテナンス性の向上を図ることができる。
【0056】
なお、前記大プーリ101の上外周には、該大プーリ101用のベルトガイド104が、ケース受け部2bに固設した前後の挟持部材2c・2cに着脱可能に取り付けられ、小プーリ102の下外周には、該小プーリ102用のベルトガイド105が、ケース受け部2bに固設した前後の挟持部材2d・2dに着脱可能に取り付けられ、これらのベルトガイド104・105は交換可能に構成されている。これにより、前述のようにして高速刈取段と低速刈取段間で変速する際には、大プーリ101と小プーリ102の交換と共に、ベルトガイド104とベルトガイド105も一緒に交換して、ベルト103の軌道を適正化することができ、変速時のベルト103のばたつき、脱着、損傷等を防止することができる。
【0057】
また、前記大プーリ101と小プーリ102との間には、二個のテンションコロ106・106と、該テンションコロ106・106を両端で回動可能に支持する揺動アーム120とが配設され、該揺動アーム120の長手略中央は、テンションアーム107の先端にシーソー式に前後揺動可能に軸支され、該テンションアーム107の基部は、前記機体フレーム2に回動可能に軸支されたレバー軸115の外端に外嵌されピン結合されている。
【0058】
該レバー軸115の途中には、テンションレバー108の一端が連結され、該テンションレバー108の他端は、クラッチワイヤ110、緩衝バネ121、クラッチプレート112等を介して、レバー支軸111を中心に前記刈取クラッチ操作レバー20と一体回動するクラッチステー113の先端に連動連結されている。更に、レバー軸115の内端には、戻しステー116の基端も連結されており、該戻しステー116の外端は、戻しバネ109を介して、機体フレーム2に固設された支持部材122に連結されている。そして、この戻しバネ109の弾性力によって、レバー軸115を中心に回動可能な前記テンションコロ106・106に対して、常にベルト103から離間する方向、すなわち矢印124と反対方向の付勢力が作用するようにしている。
【0059】
このような構成において、前記刈取クラッチ操作レバー20を手前の方向、つまり矢印123の方向に回動すると、レバー支軸111を中心にしてクラッチステー113も矢印123の方向に回動し、クラッチプレート112、緩衝バネ121、クラッチワイヤ110等が牽引されて、テンションレバー108が、前記戻しバネ109の弾性力に抗して、矢印124の方向に回動される。すると、レバー軸115を介してテンションアーム107も、矢印124の方向に回動され、テンションコロ106・106が、弛緩状態にあったベルト103を内側に押動して緊張状態とし、前記大プーリ101と小プーリ102との間がベルト103によって連動連結されて、刈取クラッチ「入」となる。
【0060】
逆に、その後に前記刈取クラッチ操作レバー20を矢印123の反対方向に回動して元の位置に戻すと、テンションレバー108・テンションアーム107ともに前述とは反対方向、すなわち矢印124の反対方向に回動され、テンションコロ106・106が、緊張状態にあるベルト103から離間して該ベルト103が緩んで弛緩状態となり、前記大プーリ101と小プーリ102との間のベルト103による連結が切断されて、刈取クラッチ「切」となり、このようにして、エンジン5からリールカッター12への動力を断接可能な刈取クラッチ119が構成されている。
【0061】
該刈取クラッチ119において、刈取クラッチ「入」時には、前述の如く、揺動アーム120に並設した2個のテンションコロ106・106が、ベルト103に対して両者同時に当接して押動されるようにしているため、ベルト103に対し1個のテンションコロ106が当接して押動される場合に比べ、ベルト103の屈曲角を小さく設定することができ、長時間使用におけるベルト103の磨耗や材質劣化を軽減して、ベルト寿命を向上させることができる。
【0062】
更に、前記刈取クラッチ119のようなベルト式クラッチでは、刈取クラッチ「切」時に動力が確実に伝達されないように、ベルト103にはある程度の遊びを設ける必要がある。このため、本実施例のように、使用するプーリ101・102が小径の場合、刈取クラッチ「入」時には、1個のテンションコロ106ではベルト103が大きく押し込まれて該ベルト103の腹同士が接触したりするが、2個のテンションコロ106・106ではベルト103の押し込まれる深さが浅くなり、このような接触を防止することができ、安定したベルト伝達を図ることができる。
【0063】
図2、図13に示すように、前記リールカッター12においては、前述の如く、カッター軸34はカッターメタル114に回動自在に軸支され、該カッターメタル114の後上部にはボス部114aが形成され、該ボス部114aに、隙間調整ボルト126のネジ部126bが螺挿されている。そして、該ネジ部126bで前記ボス部114aよりも下方位置には、前記下刃15を先端下面に取り付けた下刃台125の基部125aが上下回動可能に枢支され、該下刃台125の前後途中部は、前記カッターメタル114の後下部の支軸129に回動自在に軸支されている。
【0064】
このような構成において、前記ネジ部126bの上端に設けた大径のヘッド部126aを軸回りに回すと、ネジ部126bがボス部114a基準に上下動し、それに伴い前記基部125aも上下動して下刃台125が支軸129を中心にして上下回動し、該下刃台125に取り付けた下刃15の刃先15aも上下回動するため、該刃先15aと、前記リール刃14先端の回転軌跡132との間の隙間130が変更され、これにより、隙間調整装置131が構成されている。
【0065】
該隙間調整装置131を設けることにより、隙間130を、芝生の種類や状態、作業走行の速度等に適した大きさに自在に調整することができ、良好な切断性能を確保することができる。なお、前記隙間調整ボルト126のヘッド部126aの下端とボス部114aの上端との間、及び該ボス部114aの下端と隙間調整ボルト126の下端締結部126cとの間には、それぞれ上緩衝バネ127aと下緩衝バネ127bが介設されている。
【0066】
すなわち、以上のように、エンジン5からの動力を分岐してドラム式車輪7L・7Rとリールカッター12に伝達し芝刈作業を行う歩行型芝刈機1において、前記エンジン5からの動力をドラム式車輪7L・7Rまで伝達する第一動力伝達経路35と、前記エンジン5からの動力をリールカッター12まで伝達する第二動力伝達経路36のいずれにも、各駆動軸であるドラム軸16L・16Rとカッター軸34を変速可能な変速構造であるギア変速機構30と交換機構134を介設したので、ドラム式車輪7L・7Rを専用の変速構造であるギア変速機構30により確実に低速回転に変更することができ、移動走行の際に大径の移動用車輪17L・17Rを装着しても、安定した低速で発進・走行することができ、クラッチ入時の急発進が防止できると共に、安定走行も容易となる。特に、圃場間移動のため機体をトラックに積載する際に、長時間かかってもエンストせずに低速で積載作業をすることができ、操作ミス等による作業効率の低下を回避することができる。更に、ドラム式車輪7L・7Rとリールカッター12とは各々独立して変速することができ、起伏の激しい圃場での作業や、非熟練者が作業する場合であっても、リールカッター12の回転数は高速に保持したままで、走行速度のみを落として低速で作業走行することができ、芝生の切断面が均一で滑らかとなり、芝生がそのまま落下することもなく、芝生の仕上がりや生育性が向上する。特に、ドラム式車輪7L・7Rとリールカッター12の各々の変速段である「高速段・低速段」と「高速刈取段・低速刈取段」を適切に組み合わせることで、刈取ピッチや砂の巻き上げ状態等を細かく制御することができ、より細かな芝生管理が一台の歩行型芝刈機1で可能となり、芝生管理コストを大きく低減することができる。
【0067】
更に、前記第一動力伝達経路35には、走行用の前記変速構造として選択噛合式のギア変速機構30を有し、該ギア変速機構30を収容するミッションケース6を設けると共に、該ミッションケース6内を通過するように前記第二動力伝達経路36を設けるので、第一動力伝達経路35による走行変速に、油圧式やベルト等の無端帯式による変速機構に比べ動力伝達ロスが小さいギア変速機構30を用いることができ、良好な走行変速性能を得ることができる。更に、第二動力伝達経路36は、第一動力伝達経路35が通るミッションケース6を利用して経路の一部を確保することができ、第二動力伝達経路36の設置に必要な配置空間を縮小して、動力伝達機構37のコンパクト化を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、エンジンからの動力をドラム式車輪とリールカッターに分岐して伝達し芝刈作業を行う、全ての歩行型芝刈機の動力伝達機構に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明に係わる歩行型芝刈機1の全体構成を示す平面図である。
【図2】同じく左側面図である。
【図3】ミッションケースの平面一部断面図である。
【図4】メインクラッチの入切操作のためのリンク構造を示すミッションケースの右側面図である。
【図5】固定カムと可動カムの組立構成を示す斜視図である。
【図6】ギア変速機構の変速操作のための操作構造を示すミッションケース前部の平面一部断面図である。
【図7】左側を開放した状態のミッションケースの左側面図である。
【図8】左側を開放した状態の走行伝達装置の左側面図である。
【図9】走行伝達装置からドラム式車輪までの第一動力伝達経路の背面一部断面図である。
【図10】左側を開放した状態の刈取伝達装置の左側面図である。
【図11】刈取伝達装置からリールカッターまでの第二動力伝達経路の背面一部断面図である。
【図12】刈取クラッチの一部断面図である。
【図13】隙間調整装置の左側面図である。
【符号の説明】
【0070】
1 歩行型芝刈機
5 エンジン
6 ミッションケース
7L・7R ドラム式車輪
12 リールカッター
16L・16R ドラム軸(駆動軸)
26L・26R 走行出力軸
27 刈取出力軸27
28L・28R 走行伝達装置
29 刈取伝達装置
30 ギア変速機構(変速構造)
31 制動機構
32 差動機構
34 カッター軸(駆動軸)
35 第一動力伝達経路
36 第二動力伝達経路
101・102 プーリ(伝達要素)
133 門型フレーム
134 交換機構(変速構造)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの動力を分岐してドラム式車輪とリールカッターに伝達し芝刈作業を行う歩行型芝刈機において、前記エンジンからの動力をドラム式車輪まで伝達する第一動力伝達経路と、前記エンジンからの動力をリールカッターまで伝達する第二動力伝達経路のいずれにも、各駆動軸を変速可能な変速構造を介設したことを特徴とする歩行型芝刈機の動力伝達機構。
【請求項2】
前記第一動力伝達経路には、走行用の前記変速構造として選択噛合式のギア変速機構を有し、該ギア変速機構を収容するミッションケースを設けると共に、該ミッションケース内を通過するように前記第二動力伝達経路を設けることを特徴とする請求項1に記載の歩行型芝刈機の動力伝達機構。
【請求項3】
前記ミッションケースには、前記左右のドラム式車輪を回転駆動する各ドラム軸に走行変速動力を差動伝達する差動機構と、前記左右のドラム式車輪を制動する制動機構を収容することを特徴とする請求項2に記載の歩行型芝刈機の動力伝達機構。
【請求項4】
前記ミッションケースは、前記エンジンの左右側方に並設することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の歩行型芝刈機の動力伝達機構。
【請求項5】
前記ミッションケースから、走行変速動力を出力する走行出力軸を機体左右に延出し、該走行出力軸の左右両端より、前記左右のドラム式車輪にそれぞれ動力を伝達する走行伝達装置を垂下し、該左右の走行伝達装置と前記走行出力軸とによって門型フレームを構成することを特徴とする請求項2から請求項4のうちのいずれか一項に記載の歩行型芝刈機の動力伝達機構。
【請求項6】
前記第二動力伝達経路において、前記ミッションケースから、刈取動力を出力する刈取出力軸を機体左右のいずれか一方に延出し、該刈取出力軸の外端より、前記リールカッターに動力を伝達する刈取伝達装置を垂下し、該刈取伝達装置の伝達要素を外部から交換可能とすることにより、リールカッター用の前記変速構造を構成することを特徴とする請求項2から請求項5のうちのいずれか一項に記載の歩行型芝刈機の動力伝達機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−57446(P2010−57446A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228391(P2008−228391)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(000198330)株式会社IHIシバウラ (74)
【Fターム(参考)】