説明

歯車およびこれを備える変速機、ならびに歯車製造方法

【課題】軸長を短縮させることができ、また、組み付け後に良好にショットビーニング加工で歯元強度を向上させることのできる歯車を提供する。
【解決手段】回転軸の回転数を所定のギヤ比をもって増速または減速するためのギヤ部10と、このギヤ部10から軸方向に所定距離Sを隔てた位置にギヤ部10と一体形成された位置決め用の突起部11を有するギヤ本体75aと、少なくとも一部がギヤ部10と位置決め突起部11との間の空間Sと軸方向にオーバーラップするように突起部11で位置決めされて、ギヤ本体75aに組付固定されるクラッチギヤ95で構成される歯車。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車およびこれを備える変速機、ならびに歯車製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の歯車としては、シンクロ機構のカップリングスリーブの内スプラインと嵌合可能なクラッチギヤを備えるものが提案されている。この歯車では、クラッチギヤを変速ギヤの側面に形成した位置決め部に当接させて軸方向の位置決めを行なった後、溶接等により取り付け固定するものとしている。
【特許文献1】特開2002−174261号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、近年、変速機の多段化や高速化に伴い変速ギヤが小型化されており、変速ギヤの側面に位置決め部を形成することができずに、クラッチギヤを変速ギヤの歯側面に当接して位置決めせざるを得ない場合が生ずる。この場合、変速ギヤがハス歯として形成されていると、変速ギヤとクラッチギヤとの当接部が楔状となり、歯元強度向上のために投射するショット粒がこの当接部近傍では当たりにくく目標強度が確保できなかったり、この当接部にショット粒が噛み込んでしまう場合が生ずる。なお、治具等によりクラッチギヤを変速ギヤから軸方向に離れた位置で位置決めして固定するものとしたり、クラッチギヤを変速ギヤに一体形成するものとすれば良いが、前者では製造性が悪化してしまい、後者では装置自体が軸方向に大型化してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は上記従来の問題点に鑑み案出したものであって、歯車および歯車製造方法は、軸長短縮を目的の一つする。また、本発明の歯車および歯車製造方法は、歯車の強度を確保することを目的の一つとする。さらに、本発明の歯車および歯車製造方法は、歯元強度向上のためにうつショット粒の噛み込みを防止することを目的の一つとする。
また、本発明の変速機は、小型化を目的の一つとする。さらに、本発明の変速機は、異物噛み込みによる不具合を低減することを目的の一つとし、その請求項1は、回転軸の回転数を所定のギヤ比をもって増速または減速するためのギヤ部と該ギヤ部から軸方向に所定距離隔てた位置に該ギヤ部と一体形成された位置決め部とを有するギヤ本体と、少なくとも一部が前記ギヤ部と前記位置決め部との間の空間と軸方向にオーバーラップするよう該位置決め部で位置決めされて該ギヤ本体に取り付け固定されるクラッチギヤと、を備える歯車である。
【0005】
また、請求項2は、前記位置決め部は、前記ギヤ部から軸方向に所定距離隔てた位置において径方向外方に突出形成された突起部であり、前記クラッチギヤの一部を該突起部に軸方向に当接させることで該クラッチギヤの位置決めを行なう請求項1記載の歯車である。
【0006】
また、請求項3は、請求項1または2記載の歯車を備える変速機であって、前記歯車は、最も大きい減速比を構成する変速用歯車機構の駆動歯車および/または最も小さい減速比を構成する変速用歯車機構の被駆動歯車である変速機である。
【0007】
また、請求項4は、(a)回転軸の回転数を所定のギヤ比をもって増速または減速するためのギヤ部と該ギヤ部から軸方向に所定距離隔てた位置に該ギヤ部と一体形成された位置決め部とを有するギヤ本体における前記ギヤ部の歯切り加工を行い、(b)少なくとも一部が前記ギヤ部と前記位置決め部との間の空間と軸方向にオーバーラップするようクラッチギヤを前記位置決め部で位置決めし、(c)前記クラッチギヤを前記位置決め部で位置決めした状態で前記ギヤ本体に取り付け固定する歯車製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、回転軸の回転数を所定のギヤ比をもって増速または減速するためのギヤ部と該ギヤ部から軸方向に所定距離隔てた位置に該ギヤ部と一体形成された位置決め部とを有するギヤ本体と、少なくとも一部が前記ギヤ部と前記位置決め部との間の空間と軸方向にオーバーラップするよう該位置決め部で位置決めされて該ギヤ本体に取り付け固定されるクラッチギヤと、を備える歯車であることにより、本発明の歯車では、クラッチギヤの少なくとも一部がギヤ部と位置決め部との間の空間と軸方向にオーバーラップするように位置決めされてギヤ本体に取り付け固定されるから、軸長の短縮を図ることができる。
また、オーバーラップ量をギヤ部のクラッチギヤに対向する端面とクラッチギヤとの間にクリアランスをもつような量に設定することで、ギヤ部全面にショット粒を当てることができる。この結果、歯車の強度を確保することができる。さらに、上述したクリアランスをショット粒の径より大きくなるようオーバーラップ量を設定することで、ショット粒の噛み込みを防止することができる。
もとより、位置決め部は、ギヤ部に対して軸方向に所定距離隔てて一体形成されるから、この所定距離をギヤ部の歯切りに必要な距離に設定しておくことで、位置決め部によってギヤ部の歯切りが妨げられることはない。
【0009】
また、前記位置決め部は、前記ギヤ部から軸方向に所定距離隔てた位置において径方向外方に突出形成された突起部であり、前記クラッチギヤの一部を該突起部に軸方向に当接させることで該クラッチギヤの位置決めを行なう請求項1記載の歯車であることにより、こうすれば、径方向外方に突出する突起部を形成するだけだから、クラッチギヤの位置決め構造を簡易に確保できる。
【0010】
また、請求項1または2記載の歯車を備える変速機であって、前記歯車は、最も大きい減速比を構成する変速用歯車機構の駆動歯車および/または最も小さい減速比を構成する変速用歯車機構の被駆動歯車である変速機であることにより、本発明の変速機では、上述した何れかの態様の本発明の歯車を備えるから、本発明の歯車が奏する効果、例えば、軸長を短縮することができる効果や歯元強度向上のためにうつショット粒の噛み込みを防止することができる効果などを奏することができる。この結果、変速機自体の小型化を図ることができるとともに、異物噛み込みによる不具合を低減することができる。
【0011】
また、(a)回転軸の回転数を所定のギヤ比をもって増速または減速するためのギヤ部と該ギヤ部から軸方向に所定距離隔てた位置に該ギヤ部と一体形成された位置決め部とを有するギヤ本体における前記ギヤ部の歯切り加工を行い、(b)少なくとも一部が前記ギヤ部と前記位置決め部との間の空間と軸方向にオーバーラップするようクラッチギヤを前記位置決め部で位置決めし、(c)前記クラッチギヤを前記位置決め部で位置決めした状態で前記ギヤ本体に取付け固定する歯車製造方法であることにより、本発明の歯車製造方法では、クラッチギヤの少なくとも一部がギヤ部と位置決め部との間の空間と軸方向にオーバーラップするように位置決めされてギヤ本体に取り付け固定されるから、軸長の短縮を図ることができる。また、オーバーラップ量をギヤ部のクラッチギヤに対向する端面とクラッチギヤとの間にクリアランスをもつような量に設定することで、ギヤ部全面にショット粒を当てることができる。この結果、歯車の強度を確保することができる。さらに、上述したクリアランスをショット粒の径より大きくなるようオーバーラップ量を設定することで、ショット粒の噛み込みを防止することができる。
もとより、位置決め部は、ギヤ部に対して軸方向に所定距離隔てて一体形成されるから、この所定距離をギヤ部の歯切りに必要な距離に設定しておくことで、位置決め部によってギヤ部の歯切りが妨げられることはない。
【実施例1】
【0012】
以下、本発明の第1実施例を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態としての歯車を搭載する変速機1の構成の概略を示す構成図である。
実施例の変速機1は、第1クラッチを介して図示しないエンジンのクランク軸に接続された第1入力軸3と、第2クラッチを介して図示しないエンジンのクランク軸に接続されるとともに、第1入力軸3に同軸状に外嵌された第2入力軸4と、第1入力軸3および第2入力軸4に変速機構TMを介して接続された出力軸6とを備える。
【0013】
変速機構TMは、第1入力軸3および第2入力軸4に固定状に配置された駆動歯車Gと、この駆動歯車Gと噛合するとともに出力軸6上に遊転配置された被駆動歯車G’と、被駆動歯車G’を出力軸6に選択的に固定可能な同期装置80とから構成されており、この同期装置80によって出力軸6と被駆動歯車G’との回転数を同期させながら被駆動歯車G’を出力軸6に固定する。
【0014】
駆動歯車Gのうち奇数変速段を構成する1速用駆動歯車51,3速用駆動歯車53および5速用駆動歯車55が第1入力軸3に図1中左側からこの順に一体的に形成されており、偶数変速段を構成する2速用駆動歯車52および4速用駆動歯車54が第2入力軸4に図1中右側からこの順に一体的に形成されたものとなっている。
また、被駆動歯車G’として、1速用駆動歯車51,2速用駆動歯車52,3速用駆動歯車53,4速用駆動歯車54および5速用駆動歯車55と噛合する1速用被駆動歯車71,2速用被駆動歯車72,3速用被駆動歯車73,4速用被駆動歯車74および5速用被駆動歯車75が出力軸6上に遊転歯車として配置されている。
【0015】
同期装置80は、遊転歯車として構成された被駆動歯車71と被駆動歯車73との間に配置された同期装置81と、被駆動歯車73と被駆動歯車75との間に配置された同期装置82と、被駆動歯車72と被駆動歯車74との間に配置された同期装置83とから構成されており、1速用被駆動歯車71の同期装置81側の側面に設けたクラッチギヤ91や2速用被駆動歯車72の同期装置83側の側面に設けたクラッチギヤ92,3速用被駆動歯車73の同期装置82側の側面に設けたクラッチギヤ93,4速用被駆動歯車74の同期装置83側の側面に設けたクラッチギヤ94,5速用被駆動歯車75の同期装置82側の側面に設けたクラッチギヤ95に、各同期装置81,82,83のシンクロリング(図示せず)を摺接することにより同期作用を行なう。以下、5速用被駆動歯車75の構造について詳細に説明する。
【0016】
5速用被駆動歯車75は、最も小さい減速比を構成する歯車であり、歯車径が小さい歯車であるため、5速用被駆動歯車75にクラッチギヤ95を当接させて軸方向の位置決めを行うためのリムを設けることが困難となるが、本例においては、図2の分解図で、また図3の組付状態図で示す構造が採用されて、クラッチギヤ95が5速用被駆動歯車75のギヤ本体75aに組付固定されている。
【0017】
図において、5速用被駆動歯車75を構成するギヤ本体75aには、出力軸6を遊挿させる軸孔75bが形成されており、外周側にはギヤ部10が形成されている。
このギヤ部10の図示左端側のギヤ部端面10aから、空間Sを介し軸方向に所定距離を隔てて突起部11が径方向外側に突出形成されており、この突起部11で位置決め部が構成され、突起部11の左端面が当接面11aとなっており、この当接面11aの左外周は嵌合面12となっている。
前記空間Sは、環状溝状に形成したものであり、この空間Sの軸方向距離は、前記ギヤ部10を歯切り工具で歯切り加工する際に、突起部11によってギヤ部10の歯切りが妨げられることのない距離に設定されたものである。
【0018】
このように、歯切り工具でギヤ部10が歯切りされてギヤ本体75aが形成されており、このギヤ本体75aに組付固定されるクラッチギヤ95は、図示右端側外周にギヤ部95aが形成され、図示左端側に向かって傾斜状にコーン部95bが外周に形成されており、内周には係合孔13が形成され、この係合孔13の軸方向ほぼ中央部に、内側へ突出して内側突起14が突出形成されて、この内側突起14の図示右端面が当接面14aとなっており、内側突起14の内周面が嵌合面14bとなっている。
【0019】
このように形成されたクラッチギヤ95を、矢印で示すように、左側からギヤ本体75aに嵌め込むと、図3に示すように、ギヤ本体75aの突起部11の当接面11aにクラッチギヤ95の内側突起14の当接面14aが当接して位置決めされ、この状態で、ギヤ本体75aの嵌合面12にクラッチギヤ95の嵌合面14bが嵌合された状態となり、この組付状態で、クラッチギヤ95の図中右端面95cは、ギヤ本体75aの空間Sと軸方向にオーバーラップする位置に配置され、クラッチギヤ91の右端面91cとギヤ本体75のギヤ部端面10aとの間に所定のクリアランスCが形成されるように設定されている。
このクリアランスCが、ギヤ部10の強度を向上させるショットピーニング加工を施す際に、ショット粒が噛み込むことのないようにショット粒の径よりも大きな寸法となるように設定されている。
【0020】
この図3のように、ギヤ本体75aに位置決めしてクラッチギヤ95を取り付け、溶接で両者を固定した後に、ショット粒が投射されてギヤ部10の強度を向上させるのであるが、この際に、投射されるショット粒を良好にギヤ部10の全面に当てることができ、ギヤ部10の強度を確保することができるものとなり、また、クリアランスCはショット粒の径よりも大寸法に設定されているため、ショット粒の噛み込みが防がれるものとなる。なお、ショット粒は、クラッチギヤ95のギヤ部95aにも投射されるから、ギヤ部95aの強度確保とともにギヤ部95aのバリ取りも行うことができる。
【0021】
なお、ギヤ本体75aのギヤ部10と突起部11間の空間Sと軸方向にオーバーラップするように位置決めされてクラッチギヤ95が位置決め固定されるものであるため、全体の軸長の短縮を図ることができ、全体をコンパクト化させることができるものとなる。
このように、最も小さいサイズの5速用被駆動歯車75に良好にクラッチギヤ95を位置決めさせて固定することができるものであり、この5速用被駆動歯車75よりも大なる4速用被駆動歯車74,3速用被駆動歯車73,2速用被駆動歯車72においても同様な構造を採用して、軸長を短縮してクラッチギヤ94,93,92を組付固定させることができるものである。
【0022】
なお、本例の変速機1では、最も小さいサイズの1速用駆動歯車51は、第1入力軸3に一体形成されたものであるため、上記のような構造を採用する必要はないが、1速用駆動歯車51が第1入力軸3に遊転可能に設けられて、同期装置により選択的に第1入力軸3に固定される構造の変速機においては、この最も小さいサイズの1速用駆動歯車51に、このような構造を採用して、クラッチギヤを軸長を短縮させて組付固定させることができ、変速機1全体を小型化させることができるものである。
また、こうした1速用駆動歯車51を第2入力軸4に遊転可能に設けるような場合には、更に本発明の歯車構造が有効なものとなる。即ち、第2入力軸4は中空軸として形成されているために軸径を比較的大きく形成しなければならず、最も歯車径が小さい1速用駆動歯車51をこうした第2入力軸4に遊転可能に設けようとすると、1速用駆動歯車51にクラッチギヤ91を当接させて軸方向の位置決めを行うためのリムを設けることがより困難となるからである。
【実施例2】
【0023】
次に、図4の分解図で、また図5の組付図で示すものは第2実施例であり、この第2実施例においても、図1の変速機1における最も小型の歯車である5速用被駆動歯車75のギヤ本体75aにクラッチギヤ95を良好に位置決めして、軸長を短縮させて組付固定する構造が採用されている。
第2実施例では、ギヤ本体75aのギヤ部10の図示左側には空間Sが形成されており、空間Sの図示左側からギヤ本体75aの左端面75cまでの幅長で径方向外側へ突出して突起部11が一体形成されており、このギヤ本体75aでは、突起部11の右端の垂直面がクラッチギヤ95の当接する当接面11aとなっており、また突起部11の外周面が嵌合面12となっている。このギヤ本体75aにおいても、空間Sの軸方向寸法は、ギヤ部10を歯切り工具で歯切りする際に、歯切り工具が突起部11に邪魔されることなく歯切りできる寸法に設定されている。
【0024】
一方、外周にギヤ部95aが形成されたクラッチギヤ95の図示右端面95c側に、内径方向に突出して内側突起14が一体形成されており、この内側突起14の内径寸法は、ギヤ本体75aのギヤ部10の外径寸法よりも僅かに大径に設定されており、また内側突起14の内径寸法は、ギヤ本体75aの突起部11の外径寸法よりも小さく設定されている。この内側突起14の図示左端面が当接面14aとなっており、この当接面14aよりも左側の係合孔13の内周面が嵌合面14bに設定されている。
【0025】
このようなクラッチギヤ95を図示右側からギヤ本体75aに位置決めして組み付けることができ、この時に、ギヤ本体75aの突起部11の当接面11aにクラッチギヤ95の内側突起14の当接面14aが当接して良好に位置決めされ、この状態で、クラッチギヤ95の嵌合面14bとギヤ本体75aの嵌合面12が嵌合された状態となり、この部分を溶接で固定することができ、この組付状態では、ショット粒の径よりも大なるクリアランスCが、クラッチギヤ95の端面95cとギヤ本体75aのギヤ部端面10a間に形成されるように設定されており、組付固定後にショット粒を投射してギヤ部10の歯元強度を向上させる加工を良好に行うことができ、この時にショット粒が噛み込むことを良好に防ぐことができるものである。なお、ショット粒は、クラッチギヤ95のギヤ部95aにも投射されるから、ギヤ部95aの強度確保とともにギヤ部95aのバリ取りも行うことができる。
【実施例3】
【0026】
次に、図6の分解図で、また図7の組付図では第3実施例を示す。
第3実施例のギヤ本体75aは、第2実施例のギヤ本体75aと同様な形状をなしており、外周のギヤ部10のギヤ端面10aの図示左側に空間Sが形成され、空間Sの図示左側に左端面75cまで延びて、径方向外方に突出する突起部11が形成されており、この突起部11の外周が嵌合面12となっており、この突起部11の左端面、即ちギヤ本体75aの左端面75cが、本例ではギヤ本体75a側の当接面11aに設定されている。
一方、クラッチギヤ95は外周に形成されているコーン部95bの内周側に内径方向に突出して内側突起14が一体形成されており、この内側突起14の図示右端面が当接面14aとなっており、この当接面14aの右側の係合孔13の内周が嵌合面14bに設定されている。
【0027】
なお、クラッチギヤ95の係合孔13の内径は、ギヤ本体75aのギヤ部10の外径寸法よりも僅かに大径をなし、ギヤ本体75aの突起部11の外径寸法と整合されており、左側からクラッチギヤ95をギヤ本体75a差し込んで組み付ける際に、ギヤ本体75aの突起部11の外周の嵌合面12がクラッチギヤ95の係合孔13の内周の嵌合面14bに嵌合されて、クラッチギヤ95の内側突起14の当接面14aがギヤ本体75aの突起部11の左端面で構成される当接面11aに当接されて位置決めされるものであり、この位置決めされた組付状態で、ギヤ本体75aのギヤ部端面10aとクラッチギヤ95の右端面95c間にはクリアランスCが形成され、このクリアランスCの寸法はショット粒の径よりも大なる寸法に設定されている。
【0028】
このように本例においても、クラッチギヤ95の少なくとも一部がギヤ本体75aの空間Sと軸方向にオーバーラップするように位置決めされて、ギヤ本体75aに取り付け固定されるものであるため、軸長の短縮を図ることができ、小型化できるものとなり、空間Sが形成されているため、組み付け前にギヤ本体75aには良好に歯切り工具でギヤ部10を歯切り加工しておくことができ、クラッチギヤ95を組み付けた後に、ショットビーニングでショットの粒を投射させてギヤ部10の歯元強度を良好に向上させることができるものとなる。なお、ショット粒は、クラッチギヤ95のギヤ部95aにも投射されるから、ギヤ部95aの強度確保とともにギヤ部95aのバリ取りも行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】自動車に搭載される変速機の内部構造図である。
【図2】変速機内の最も小型な5速用被駆動歯車を構成するギヤ本体とクラッチギヤの分解断面構成図である。
【図3】図2のギヤ本体にクラッチギヤを組付固定させた断面構成図である。
【図4】第2実施例のギヤ本体とクラッチギヤの分解断面構成図である。
【図5】図4のギヤ本体にクラッチギヤを組み付けた状態の断面構成図である。
【図6】第3実施例のギヤ本体とクラッチギヤの分解断面構成図である。
【図7】図6のギヤ本体とクラッチギヤを組み付けた状態の断面構成図である。
【符号の説明】
【0030】
1 変速機
3 第1入力軸
4 第2入力軸
6 出力軸
10 ギヤ部
10a ギヤ部端面
11 突起部
11a 当接面
12 嵌合面
14 内側突起
14a 当接面
14b 嵌合面
51,52,53,54,55 駆動歯車
71,72,73,74,75 被駆動歯車
75a ギヤ本体
75b 軸孔
75c 左端面
81,82,83 同期装置
95 クラッチギヤ
95a ギヤ部
95b コーン部
95c 右端面
C クリアランス
S 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の回転数を所定のギヤ比をもって増速または減速するためのギヤ部と該ギヤ部から軸方向に所定距離隔てた位置に該ギヤ部と一体形成された位置決め部とを有するギヤ本体と、
少なくとも一部が前記ギヤ部と前記位置決め部との間の空間と軸方向にオーバーラップするよう該位置決め部で位置決めされて該ギヤ本体に取り付け固定されるクラッチギヤと、
を備える歯車。
【請求項2】
前記位置決め部は、前記ギヤ部から軸方向に所定距離隔てた位置において径方向外方に突出形成された突起部であり、前記クラッチギヤの一部を該突起部に軸方向に当接させることで該クラッチギヤの位置決めを行なう請求項1記載の歯車。
【請求項3】
請求項1または2記載の歯車を備える変速機であって、
前記歯車は、最も大きい減速比を構成する変速用歯車機構の駆動歯車および/または最も小さい減速比を構成する変速用歯車機構の被駆動歯車である変速機。
【請求項4】
(a)回転軸の回転数を所定のギヤ比をもって増速または減速するためのギヤ部と該ギヤ部から軸方向に所定距離隔てた位置に該ギヤ部と一体形成された位置決め部とを有するギヤ本体における前記ギヤ部の歯切り加工を行い、
(b)少なくとも一部が前記ギヤ部と前記位置決め部との間の空間と軸方向にオーバーラップするようクラッチギヤを前記位置決め部で位置決めし、
(c)前記クラッチギヤを前記位置決め部で位置決めした状態で前記ギヤ本体に取り付け固定する歯車製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−69894(P2008−69894A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−250144(P2006−250144)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(390009896)愛知機械工業株式会社 (190)
【Fターム(参考)】