説明

歯車加工装置、カッター、及び波動歯車装置

【課題】スカイビングにより歯車を加工する際に加工に必要なパラメータを変更してもカッターの歯面形状に対する影響を抑制し高精度での加工を実現する。
【解決手段】ワークとピニオン型のカッター3とを食い違い軸芯上に配置し、ワークの回転と同期してカッター3を回転させながらワークの歯すじ方向に送ることによりワークから歯車を作り出すスカイビング加工機構を備えている。カッター3の歯面が、歯丈方向でピッチ円11を含みインボリュート曲線状のインボリュート面10Pが形成されるインボリュート領域12と、このインボリュート領域12から歯先に連なる歯先領域13と、前記インボリュート領域12から歯底に連なる歯元領域14とが前記インボリュート領域12と異なる形状に成形された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車加工装置、カッター、波動歯車装置に関し、加工対象とピニオン型のカッターとを食い違い軸芯上に配置し、夫々を同期して回転させながらカッターを加工対象において歯すじ方向に送ることにより歯車を作り出すスカイビング加工が可能な歯車加工装置に関連する技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のように構成された歯車加工装置として非特許文献1には、スカイビング歯切法により内歯平歯車を加工する技術が示されている。この文献では、スカイビング加工因子としてカッタ諸元のすくい角、切削角、すくい面再切削量、歯数比等の因子を設定することにより歯形が決まる点が示されている。
【0003】
また、非特許文献2にはスカイビング歯切法において、内歯平歯車を加工する際に高い切削効率を得る点が示され、カッタ歯形の修正に関する点も説明されている。
【0004】
内歯歯車を用いた歯車装置として特許文献1には、撓み噛み合い式歯車装置が示されている。この撓み噛み合い式歯車装置は、剛性円形の内歯歯車と、その内側に配置された可撓性の外歯歯車と、この外歯歯車を撓ませて変形させその形状を回転させるウエーブ・ジェネレータとを備えた構成が示されている。
【0005】
この特許文献1に示される歯車装置は波動歯車装置とも称せられるものであり、内歯歯車の歯数より外歯歯車の歯数を少なく設定しておき、カム板が外歯歯車を変形させることで外歯歯車のうちカム板の楕円の長軸の部位に対応する2箇所の歯のみを、内歯歯車の歯に噛合させている。このような構成においてカム板を回転させることで長軸の移動に伴い外歯歯車を弾性変形させながら噛み合い点を移動させ、内歯歯車と外歯歯車との歯数差に起因するズレから大きい減速比を得るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平7‐84896号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】小島昌一,西嶋小巳雄 「内歯平歯車スカイビングに関する研究(第1報,カッタ歯形について)」日本機械学会論文集(C編)39巻 324号 頁2580−2586
【非特許文献2】西嶋小巳雄,小島昌一,山田豊 「内歯平歯車スカイビングに関する研究(第2報,スカイビング加工の問題点)」日本機械学会論文集(C編)40巻 329号 頁260−268
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
波動歯車装置は、特許文献1にも記載されるように、カム板により外歯歯車を撓ませることにより、この外歯歯車の一部を内歯歯車に噛合させ、カム板の回転に伴い撓ませる領域を移動させる構成であるため外歯歯車と内歯歯車とに高い精度が要求される。
【0009】
内歯歯車に注目すると、高い精度で歯車を加工するためにギヤシェーパーを用いることが考えられる。しかしながら、ギヤシェーパーは高精度の加工を実現するものの、加工時間が長く加工コストが波動歯車装置のコスト上昇に繋がり改善の余地があった。
【0010】
そこで、内歯歯車を加工する技術としてスカイビングを用いることが考えられる。このスカイビングは高い切削効率が得られるため内歯歯車を加工時間の短縮を可能にする良好な面を有する。しかしながら、このような良好な面を有する反面、高い加工精度を得難いものであると考えられていた。
【0011】
スカイビングにおいて高い加工精度を得難い理由として、加工時に設定すべきパラメータ(文献では因子)が多く、パラメータのバラツキに伴って加工精度(歯形誤差)の変化が大きく、この歯面誤差が加工精度に敏感に反映されるためと考えられる。非特許文献1あるいは非特許文献2に記載されるように、加工時に設定されるパラメータとして、加工対象(ワーク)の軸芯とカッターの軸芯との交差角や、夫々の軸芯間距離や、カッターの基礎円の半径の値等を含むものである。そして、この複数のパラメータを適切に設定することで高い加工精度を得ることが可能と考えられる。
【0012】
スカイビングでは、通常の生産活動に必要な例えば、カッター製作誤差、加工機械でのセット誤差、カッターの再刃付等により加工されたワーク歯車の歯形が大きく変化してしまうことによる加工精度のバラツキが大きい。この歯形の誤差はカッターの基礎円半径が変化した場合と同様の傾向になることが文献に記載されている。
【0013】
本発明の目的は、スカイビングにより歯車を加工する際に加工精度のバラツキを左右するパラメータとしての基礎円の値を変更してもカッターの歯面形状に対する影響を抑制し高精度での加工を実現する歯車加工装置を合理的に構成する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の特徴は、加工対象のワークとピニオン型のカッターとを食い違い軸芯上に配置し、前記ワークを定位置で回転させ、この回転と同期してカッターを回転させながらこのカッターを前記ワークにおいて歯すじ方向に送ることにより前記ワークから歯車を作り出すスカイビング加工機構を備えると共に、
前記カッターの歯面が、歯丈方向でピッチ円を含みインボリュート曲線状に形成されるインボリュート領域と、このインボリュート領域から歯先に連なる歯先領域と、前記インボリュート領域から歯底に連なる歯元領域とが前記インボリュート領域と異なる形状に成形されている点にある。
【0015】
スカイビングにより歯車を加工する際に、パラメータとしての基礎円の半径の値の変更によりピニオン型のカッターの歯面形状が変化するものは加工精度を高く維持する点において好ましくはない。これに対して、製作する歯車について任意の基礎円の半径の値、任意の圧力角を設定する際に、カッターの歯面形状として基礎円の半径の変化に対する圧力角の変化の小さいインボリュート曲線が存在すれば、加工誤差を招き難いと云える。具体例を挙げると、歯丈のサイズに対して基礎円の半径が極めて大きい値のものでは、ワークに対するカッターの位置仕様を多少変更しても得られるインボリュート歯形は大きく変化することはない。また、歯車同士は、ピッチ円を含む領域において歯車同士が専ら接触する状態で噛み合うものであるため、このピッチ円を含む領域にインボリュート曲線状の歯面を形成することが必要となる。
このような理由から、カッターの歯形形状としてパラメータとしてのカッターの位置が変化してしまっても形成される歯形に変更が少なくなるようインボリュート曲線に従う歯面を、ピッチ円を含む部位にのみインボリュート領域として形成する。そして、このインボリュート領域より歯先側と歯元側との歯面の形状をインボリュート領域と異なる形状に成形することで、高い精度での加工を実現しながら、加工によって作り出された歯車の性能を低下させる不都合を抑制する。
従って、スカイビングにより歯車を加工する際に加工パラメータが変化してもカッターの歯面形状に対する影響を抑制し高精度での加工を実現する歯車加工装置が構成されたのである。
【0016】
本発明は、前記インボリュート領域の平均半径を、基礎円半径で除した値が、「1」より大きく「1.1」より小さく設定されても良い。
【0017】
この要件を満たすカッターであれば、基礎円半径に対して歯丈が充分に小さいものとなる。よって、当該カッターは、あたかもラック型のカッターに近似した形状となっており、カッターの駆動動作に際して、ワークに対するカッターの位置が、ある程度変化した場合でも、形成される歯車の歯形の変化が少なくなる。
【0018】
本発明は、前記インボリュート領域が、歯丈方向で全歯丈の10パーセント以上で、85パーセント未満に設定されても良い。
【0019】
これによると、10パーセントで85パーセント未満と云う比較的狭い領域にインボリュート領域が形成されることになるので加工によって作り出された歯車の噛み合いの性能を低下させる不都合が解消される。
【0020】
本発明の特徴は、請求項1記載の歯車加工装置に用いられる前記カッターであって、
ワーク歯車としてのワーク歯数を(Zw)とし、カッターのカッター歯数を(Zc)とした場合に、カッター歯数(Zc)とワーク歯数(Zw)との比率(Zc/Zw)が、
前記ワーク歯車が内歯では、1/4<Zc/Zw<2/3の範囲に設定され、
前記ワーク歯車が外歯では、1/2<Zc/Zw<3の範囲に設定されている点にある。
【0021】
このように、内歯歯車を加工する場合と外歯歯車を加工する場合とでワーク歯数Zwとカッター歯数Zcとの比率を適切に設定することにより、必要とする加工精度得るものとなる。
【0022】
本発明は、当該カッターのインボリュート領域の平均半径を、基礎円半径で除した値が、「1」より大きく「1.1」より小さく設定された点にある。
【0023】
これによると、基礎円半径に対して歯丈が充分に小さいものとなる。よって、当該カッターは、あたかもラック型のカッターに近似した形状となっており、カッターの駆動動作に際して、ワークに対するカッターの位置が、ある程度変化した場合でも、形成される歯車の歯形の変化が少なくなる。
【0024】
本発明は、当該カッターのインボリュート領域が、歯丈方向で全歯丈の10パーセント以上で、85パーセント未満に設定された点にある。
【0025】
これによると、10パーセントで85パーセント未満と云う比較的狭い領域にインボリュート領域が形成されることになるので加工によって作り出された歯車の噛み合いの性能を低下させる不都合が解消される。
【0026】
本発明の特徴は、請求項1記載の歯車加工装置で製造された内歯歯車と、この内歯歯車の歯数より少ない歯数で可撓性の外歯歯車とを備え、外歯歯車を撓ませることで内歯歯車の一部の歯に対して外歯歯車の一部の歯を噛み合わせ、外歯歯車の撓みを回転させることで両歯車に相対回転を生じさせるように波動歯車装置を構成している点にある。
【0027】
請求項1に記載されるように、スカイビング加工機構を備えた歯車加工装置によって内歯歯車を加工した場合には、その内歯歯車は、歯丈方向でピッチ円を含む領域にインボリュート曲線となるインボリュート領域が形成され、これより歯先側と歯元側とにインボリュート領域と異なる歯面形状の歯先領域と歯元領域とが形成される。
波動歯車装置は単純な回転運動を行うものではなく、内歯歯車に対して外歯歯車が歯丈方向に弾性的に変形しながら両歯車が相対的に変位する運動を行うことで噛合位置を移動させるものである。つまり、内歯歯車の歯と外歯歯車の歯とが噛み合った状態のまま回転力を伝えるものとは伝動形態が異なっている。このような理由から、内歯歯車の歯面形状は外歯歯車と接触する領域にインボリュート面が存在すれば良く、通常の内歯歯車と比較して、歯丈方向でのインボリュート面が存在する領域を小さくすることも可能となる。
また、波動歯車装置に用いられる内歯歯車の歯数は極めて多いため、この内歯歯車を加工するカッターの歯数(z)が増大することになる。このカッターの歯形を考えると、モジュール(m)と圧力角(α)とが一定値であっても、Dg=z・m・cosαの関係式から、基礎円の直径(Dg)は大きい値となり、この基礎円の直径(Dg)を修正した場合にもインボリュート領域のインボリュート曲線の形状の変化に与える影響を小さくできる。これにより、歯車加工装置においてパラメータを変更した場合にもカッターの歯形の修正を行わずとも高い加工精度を現出する。
従って、高精度の内歯歯車を有した波動歯車装置を構成できた。
特に、この構成によると、カッターの1歯あたりの加工負荷を低減してカッターの寿命を向上させ、異なるワーク歯車に対する加工を実現する。また、カッターとワーク歯車との噛み合い率が極めて高いため、加工運動の変動(脈動)が小さくなり、一層、加工精度を向上させ、カッターの寿命を高めることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】歯車加工装置での加工形態を示す斜視図である。
【図2】歯車加工機構の構成を示すブロック図である。
【図3】カッターの歯形を示す図である。
【図4】カッターの歯形の別実施形態を示す図である。
【図5】波動歯車装置の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔歯車加工装置〕
図1及び図2に示すように、本発明の歯車加工装置は、加工対象となるワーク1を支持し縦軸芯Yを中心にして回転自在なテーブル2と、加工軸芯Xを中心にして回転自在に支持されたピニオン型のカッター3と、このカッター3を回転自在に支持しワーク1に形成される歯車の歯すじ方向に移動自在な作動部4とを備えている。このテーブル2とカッター3と作動部4とでスカイビング加工機構が構成され、この歯車加工装置はテーブル2とカッター3とを同期回転させる同期駆動機構5と、作動部4を歯すじ方向に移動させる切削駆動機構6とを備え、この同期駆動機構5に駆動力を伝える電動モータ5Mと切削駆動機構6に駆動力を伝える電動モータ6Mとを制御する制御機構7を備えている。
【0030】
この歯車加工装置では、縦軸芯Yを基準にした加工軸芯Xの角度を傾斜角aとし、カッター3の単位時間あたりの回転量をカッター回転量cとし、カッター3によるワーク1の切削深さ(噛み合い量)を切り込み量xとし、縦軸芯Y方向でのカッター3の移動量をカッター送り量zとし、ワーク1(ワーク歯車)の単位時間あたりの回転量をワーク回転量wとしている。これら傾斜角a、カッター回転量c、切り込み量x、カッター送り量z、ワーク回転量wが歯車加工装置で歯車を加工する際に設定されるパラメータに含まれるものである。
【0031】
同期駆動機構5は、ワーク1のワーク回転量wとカッター3のカッター回転量cとが設定された関係となるように連動して回転させる複数のギヤと伝動軸とを組み合わせ単一の電動モータ5Mで駆動する構成を有している。尚、この同期駆動機構5としてテーブル2とカッター3とを独立して駆動するように同期型の2つの電動モータを備え、この2つの電動モータに対して制御機構7が同期信号を出力するように構成しても良い。
【0032】
作動部4は、カッター3を必要なカッター送り量zだけ移動させるように、ガイド体4Aに沿って移動自在なスライダ4Bを備え、切り込み量xを任意に設定できるようにスライダ4Bに対してジョイント4Cにより角度調節自在に連結するアーム4Dを備えている。カッター3を回転自在に支持するフレーム部3Aに対してアーム4Dの先端が連結しており、切削駆動機構6の駆動力がスライダ4Bに伝えられる。
【0033】
この作動部4は、ガイド体4Aの角度設定と、ジョイント4Cによる加工軸芯Xの角度設定(傾斜角a)を人為的に設定して固定するものを想定しているが、電動モータにより角度調節を行うものであっても良い。この作動部4は図示した構成に限るものではなく、例えば、多関節ロボットアームのように複数の関節によって傾斜角aの角度設定を行うと共に、ロボットアームの作動によりカッター3を歯すじ方向にカッター送り量zだけ移動させるように構成しても良い。
【0034】
制御機構7は、マイクロプロセッサ等の予め設定されたプログラムに従って演算処理や制御処理を行う機能を有するものであり、電動モータ5M、6Mを制御する。
【0035】
この歯車加工装置はスカイビング加工装置とも称せされるものであり、図面にはワーク1をカッター3で切削することにより内歯歯車21(ワーク歯車)を製造する加工形態を示している。この加工形態では縦軸芯Yを鉛直方向にセットし、加工軸芯Xを所定の傾斜姿勢にセットする。そして、同期駆動機構5によって縦軸芯Yを中心としてテーブル2と一体的にワーク1を定位置で回転させ、これと同期して加工軸芯Xを中心にしてカッター3を回転させる。そして、この回転に伴い切削駆動機構6が歯すじ方向にカッター3を移動させることにより、内歯歯車21の加工が行われるのである。この歯車加工装置で加工された内歯歯車21は後述する波動歯車装置(図5を参照)に用いられる。
【0036】
〔カッターの歯形〕
この歯車加工装置では、高い精度で歯車を加工する際には、加工軸芯Xの角度設定だけではなくカッター3の再研削等の修正を必要とするものである。しかしながら、カッター3の修正は容易ではなく、歯の形状が異なる多数のカッター3を準備するのも実現的ではなく、本発明の歯車加工装置では、内歯歯車を加工する際に修正を殆ど必要としないカッター3が用いられている。
【0037】
図3に示すように、カッター3の歯10の歯面形状はピッチ円11を含む部位にインボリュート曲線状となるインボリュート面10Pを有するインボリュート領域12が形成されている。また、このインボリュート領域12より歯先側に任意の曲面となる歯先面10Tを有する歯先領域13を形成し、インボリュート領域12より歯底側に任意の曲面となる歯元面10Bを有する歯元領域14を形成している。この歯先面10Tと歯元面10Bとはインボリュート面10Pに連なるものであるが、インボリュート曲線とは異なる形状に成形されている。
【0038】
歯車加工装置では、カッター3の修正として歯車としての基礎円(パラメータの1つ)の変更を必要とすることもある。その理由として、基礎円の違いが、加工された歯形誤差に大きく影響するためであり、通常のスカイビング加工を行う歯車加工装置では、ワーク歯車の諸元が異なるものへカッター3の共用ができないものである。これに対し、本発明の歯車加工装置では、ワーク歯車の歯数の差が僅かのもの、例えば、歯数が+2、−2程度の差のワーク歯車を加工する際にも同じカッターの共用が可能となり、コストを低減しながら生産性の向上を図ることも可能である。カッター3では基礎円15を元にして歯のインボリュート曲線を算出するため、基礎円15の基礎円半径Rgを変更する毎に異なるインボリュート曲線の歯面の形状を設定することになる。このような不都合に対して、本発明の歯車加工装置では、基礎円の基礎円半径Rgが変更されても歯面のインボリュート面の変化が少なり、カッター3の修正を行わないで済むようにインボリュート領域12の平均半径Rdとの関係を以下の関係式1で表されるように設定している。
【0039】
〔関係式1〕 1 < 平均半径Rd/基礎円半径Rg < 1.1
【0040】
つまり、インボリュート領域12の平均半径Rdを、基礎円半径Rgで除した値が1より大きく1.1より小さく設定されているのである。尚、図3では、インボリュート領域12の1/2の位置にピッチ円11が位置するように設定されているため、ピッチ円11のピッチ円半径Rpと平均半径Rdとが一致する。また、このインボリュート領域12が、歯丈方向で全歯丈10パーセント程度に設定されている。インボリュート領域12はカッター3の歯丈方向で全歯丈の10パーセント以上で、85パーセント未満に設定されることが好ましい。
【0041】
歯車では、モジュールmと、歯数zと、圧力角αと、基礎円直径Dg(=2Rg)との関係が以下の関係式2で表される。
【0042】
〔関係式2〕 2Rg=Dg=z・m・cosα
【0043】
この関係式2から基礎円半径Rgが充分に大きい場合には、カッター3の歯形を修正する場合に基礎円半径Rgの値を単位値だけ変更した場合にもインボリュート曲線の変化量が小さくなることが理解できる。図5に示す波動歯車装置に用いられる内歯歯車21の歯数は極めて多いため、この内歯歯車を加工するカッター3の歯数も増大する。これによりカッター3の歯数zを増大させることが可能である。更に、圧力角αの値を大きくすることにより基礎円半径Rgの値を大きくすることを可能にしている。
【0044】
このような形状のカッター3を用いて内歯歯車を加工することにより、カッター3のインボリュート領域12にインボリュート面10Pが形成されるものとなり、このインボリュート面10Pは、内歯歯車において歯丈方向でピッチ円を含む領域に形成される。
【0045】
また、本発明のカッター3では、ワーク歯数を(Zw)とし、カッターのカッター歯数を(Zc)とした場合に、カッター歯数(Zc)とワーク歯数(Zw)との比率(Zc/Zw)を以下にように設定している。
【0046】
(1)ワーク歯車が内歯では、1/4<Zc/Zw<2/3の範囲に設定する。
(2)ワーク歯車が外歯では、1/2<Zc/Zw<3の範囲に設定する。
【0047】
このように設定することにより、ワーク歯車として内歯歯車21を加工する場合とワーク歯車として外歯歯車22を加工する場合とでワーク歯数Zwとカッター歯数Zcとの比率を適切に設定することにより、必要とする加工精度得るものとなる。
【0048】
このカッター3では、歯先領域13と歯元領域14との歯面の形状がインボリュート面と異なるものに形成されるものであるが、例えば、図4に示すように歯先領域13が半径Rの円弧面13Sに形成され、歯元領域14が半径Rの円弧面14Sに形成されるものであっても良い。このように歯先領域13と歯元領域14とが円弧面13S、14Sに形成されることにより、カッター3の耐久性を向上させることも可能である。
【0049】
〔波動歯車装置〕
図5には、前述した歯車加工装置で加工された内歯歯車21と、この内歯歯車21の歯数より少ない歯数で可撓性の外歯歯車22とを備え、楕円カム23と、この楕円カム23と外歯歯車22との間に挟み込まれる状態で配置される複数のボール24とを備えた波動歯車装置を示している。前述した歯車加工装置では外歯歯車22の加工も可能であり、外歯歯車22を加工した場合にも、内歯歯車と同等の精度を得るものである。従って、この波動歯車装置に用いる外歯歯車22も前述した歯車加工装置で加工したものであっても良い。
【0050】
内歯歯車21の歯数は50以上に設定されるものであり、200を超える値に設定されることが好ましい。
【0051】
この波動歯車装置では、外歯歯車22の複数の歯のうち楕円カム23の長軸の延長上にある2箇所のものを内歯歯車21の歯に噛み合わせており、楕円カム23の中心に連結する駆動軸25を回転させることにより、外歯歯車22の撓みを回転させる状態となり、外歯歯車22の複数の歯のうち楕円カム23の長軸の延長上にあるものを内歯歯車21の歯に噛み合わせ、両歯車に相対回転を生じさせ減速を実現している。尚、外歯歯車22は本発明の歯車加工装置によって加工させるものに限るものではなく、例えば、ホブ盤で加工されたものであっても良い。
【0052】
このような構成の波動歯車装置は、特公平7‐84896号公報や特開2005−36937号公報等に示されている。
【0053】
前述した歯車加工装置で加工された内歯歯車21では、歯丈方向でピッチ円11を含む領域にインボリュート面が形成されるものの、インボリュート面が成形されるインボリュート領域は歯丈方向に短い。従って、この内歯歯車を太陽歯車のリング歯車等に使用した場合には噛み合い性能が良好とは云えないものである。しかしながら、波動歯車装置の内歯歯車21に用いた場合には、内歯歯車21と外歯歯車22とが無理のない噛み合い状態を現出できる。
【0054】
波動歯車装置は単純な回転運動を行うものではなく、内歯歯車21の多数の歯と外歯歯車22の多数の歯とが噛み合った状態で内歯歯車に対して外歯歯車が歯丈方向に弾性的に変形しながら両歯車が相対的に変位する運動を行うことで噛合位置を移動させるものであるため、内歯歯車の歯と外歯歯車の歯とが噛み合った状態のまま回転力を伝えるものとは伝動形態が異なっている。このような理由から、内歯歯車21の歯面形状は外歯歯車22と接触する領域にインボリュート面が存在すれば良く、通常の内歯歯車21と比較して、歯丈方向でのインボリュート面が存在する領域を小さくしても良好な噛み合い状態を現出する。
【0055】
〔実施形態の効果〕
このように本発明の歯車加工装置は、波動歯車装置の内歯歯車21を加工するのに適しており、例えば、内歯歯車21の歯数が200を超えるものに設定されたものに対応してピニオン型のカッター3の歯数zを増大し、このカッター3の圧力角α(現実には11°〜25°程度)の値を大きくすることにより基礎円半径Rgの値を大きくすることが可能となる。このようにカッター3の基礎円半径Rgを大きくすることにより、例えば、カッター3の基礎円半径Rgの値の変更を必要とする場合でも、その変更量に対する基礎円半径Rgの値の変更量が小さくなり、歯形を修正しなくとも精度の高い加工を現出する。
【0056】
特に、内歯歯車21を加工する際には、カッター3のインボリュート面10Pの領域でワーク1を切削することで、内歯歯車21のインボリュート面を作り出すことになるが、カッター3のインボリュート面10Pの領域が歯丈方向で最小10パーセント程度であるため、内歯歯車21の歯においてもインボリュート面の領域は10パーセント程度となる。しかしながら、波動歯車装置は内歯歯車21に対して外歯歯車22が弾性変形することにより歯丈方向に歯車同士が相対的に変位する運動を行いながら噛合位置を移動させるものであるため、夫々の歯のインボリュート面同士が継続的に接触して動力を伝える必要はなく、無理のない噛み合いを現出するのである。尚、波動歯車の内歯歯車21と外歯歯車22とに形成されるインボリュート面に代えて、インボリュートとインボリュートに近い曲線との組み合わせた曲線を採用しても良く、このような曲線を採用することにより性能を向上させることも可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、歯車全般を加工するための歯車加工装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 ワーク・ワーク歯車
3 カッター
11 ピッチ円
12 インボリュート領域
13 歯先領域
14 歯元領域
15 基礎円
21 内歯歯車
22 外歯歯車
Rd 平均半径
Rg 基礎円半径
Zw ワーク歯数
Zc カッター歯数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象のワークとピニオン型のカッターとを食い違い軸芯上に配置し、前記ワークを定位置で回転させ、この回転と同期してカッターを回転させながらこのカッターを前記ワークにおいて歯すじ方向に送ることにより前記ワークから歯車を作り出すスカイビング加工機構を備えると共に、
前記カッターの歯面が、歯丈方向でピッチ円を含みインボリュート曲線状に形成されるインボリュート領域と、このインボリュート領域から歯先に連なる歯先領域と、前記インボリュート領域から歯底に連なる歯元領域とが前記インボリュート領域と異なる形状に成形されている歯車加工装置。
【請求項2】
前記インボリュート領域の平均半径を、基礎円半径で除した値が、「1」より大きく「1.1」より小さく設定されている請求項1記載の歯車加工装置。
【請求項3】
前記インボリュート領域が、歯丈方向で全歯丈の10パーセント以上で、85パーセント未満に設定されている請求項1記載の歯車加工装置。
【請求項4】
請求項1記載の歯車加工装置に用いられる前記カッターであって、
ワーク歯車としてのワーク歯数を(Zw)とし、カッターのカッター歯数を(Zc)とした場合に、カッター歯数(Zc)とワーク歯数(Zw)との比率(Zc/Zw)が、
前記ワーク歯車が内歯では、1/4<Zc/Zw<2/3の範囲に設定され、
前記ワーク歯車が外歯では、1/2<Zc/Zw<3の範囲に設定されているカッター。
【請求項5】
当該カッターのインボリュート領域の平均半径を、基礎円半径で除した値が、「1」より大きく「1.1」より小さく設定されている請求項4記載のカッター。
【請求項6】
当該カッターのインボリュート領域が、歯丈方向で全歯丈の10パーセント以上で、85パーセント未満に設定されている請求項4記載のカッター。
【請求項7】
請求項1記載の歯車加工装置で製造された内歯歯車と、この内歯歯車の歯数より少ない歯数で可撓性の外歯歯車とを備え、外歯歯車を撓ませることで内歯歯車の一部の歯に対して外歯歯車の一部の歯を噛み合わせ、外歯歯車の撓みを回転させることで両歯車に相対回転を生じさせるように構成している波動歯車装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−51049(P2012−51049A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194213(P2010−194213)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】