説明

歯車加工装置

【課題】油膜形成能力を向上させ動力損失が抑制されるよう歯車の歯面を加工することができる歯車加工装置を提供する。
【解決手段】被加工歯車2を加工用歯車3と噛合した状態で回転させることで被加工歯車2の歯面2aを加工する歯車加工装置1において、被加工歯車2と加工用歯車3とが噛み合う歯面2a,3aの間に微細粒子5を供給する供給ノズル4を備える。これにより、歯車の回転による遠心力が微細粒子5に作用して、歯先から歯元まで噛み合う歯面2a,3aの隙間にまんべんなく均一に微細粒子5が流れ込み、被加工歯車2の歯面2a全体にわたり均一に配置された微細粒子5が押し込まれ、被加工歯車2の歯面2a上に均一に微小凹部が形成され、この結果、被加工歯車2の歯面2a全体にわたり油膜形成能力が向上すると共に、金属接触が減って摩擦も減少して、動力損失が低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
互いに噛み合う歯車において、歯車が回転し噛合が進行するのに伴って、接触する歯面の間に滑り摩擦が発生する。この滑り摩擦は動力損失を引き起こす。このような動力損失を低減するためには、歯車の歯面表面に微小な凹部を複数設けて、これら微小凹部を潤滑用オイルなどのためのオイル溜まりとして作用させ、歯車の噛み合い位置において歯面の表面に充分な油膜が形成されるよう構成するのが好ましい。これにより、油膜形成能力が向上し、歯車同士の直接的な接触が抑制される。
【0003】
例えば、特許文献1には、ショットピーニングにより歯車の歯面に向けて硬質の球状粒子を投射して、歯面上に微小凹部を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−115752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されるショットピーニングなどの歯車歯面上に微小凹部を形成する従来技術では、球状粒子を歯面に向けて投射して微小凹部を直接形成する構成のため、歯車のような複雑な形状に対しては、例えば投射された球状粒子が空気抵抗等の影響を受けたり、ショットピーニングにより球状粒子を投射する装置が一つである場合、隣接する歯の影になる等、歯元周辺には到達しにくいなどの状況が起こり、歯車の歯面全体に均一に球状粒子を投射するのが難しい。このため、歯面全体にわたり均一に微小凹部を形成することができない虞がある。この場合、充分な油膜形成能力が得られず、歯車同士の直接的な接触を抑制することができず、動力損失を抑制することができない。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、歯車の歯面において油膜形成能力を向上させ動力損失が抑制されるよう歯車の歯面を加工することができる歯車加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、被加工歯車を加工工具と噛合した状態で回転させることで前記被加工歯車の歯面を加工する歯車加工装置において、前記被加工歯車と前記加工工具とが噛み合う歯面の間に微細粒子を供給する粒子供給部を備えることを特徴とする。
【0008】
前記粒子供給部により供給される微細粒子を付着させる粒子付着部を前記被加工歯車または前記加工工具の歯面上に備えることが好ましい。
【0009】
前記粒子付着部は、前記歯面上に塗布された接着剤であることが好ましい。
【0010】
同様に、前記粒子付着部を備える前記被加工歯車または前記加工工具の歯面と、前記微細粒子とを帯電させる帯電手段を備え、前記粒子付着部は、歯面上の除電領域であることが好ましい。
【0011】
ここで、前記粒子付着部は、アースにより除電されることが好ましい。または、前記粒子付着部は、レーザ照射により除電されることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る歯車加工装置は、被加工歯車と加工工具との噛み合う歯面の間に微細粒子が供給され、歯車の回転による遠心力が微細粒子に作用して、歯先から歯元まで噛み合う歯面の隙間に万遍なく均一に微細粒子が流れ込み、被加工歯車の歯面全体にわたり均一に配置された微細粒子が押し込まれ、被加工歯車の歯面上に均一に微小凹部が形成される。これにより、被加工歯車の歯面全体にわたり油膜形成能力が向上すると共に、金属接触が減って摩擦も減少して、動力損失が低減する。この結果、歯車の歯面において油膜形成能力を向上させ動力損失が抑制されるよう歯車の歯面を加工することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の第一実施形態に係る歯車加工装置の概略構成を示す図である。
【図2】図2は、図1に示す被加工歯車と加工用歯車との接触部を拡大視した図である。
【図3】図3は、本発明の第二実施形態に係る歯車加工装置における被加工歯車及び加工用歯車の歯面の概略構成を示す図である。
【図4】図4は、本発明の第三実施形態に係る歯車加工装置における被加工歯車及び加工用歯車の歯面の概略構成を示す図である。
【図5】図5は、本発明の第四実施形態に係る歯車加工装置における被加工歯車及び加工用歯車の歯面の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る歯車加工装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0015】
〔第一実施形態〕
まず、図1〜2を参照して、本発明の第一実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る歯車加工装置1の概略構成を示す図であり、図2は、図1に示す被加工歯車2と加工用歯車3との接触部を拡大視した図である。
【0016】
図1に示すように、歯車加工装置1は、被加工歯車2を加工用歯車(加工工具)3と噛合した状態で回転させることで被加工歯車2の歯面を加工するものである。被加工歯車2は、例えば自動車の動力伝達装置などに用いられるはすば歯車や平歯車である。加工用歯車3は、被加工歯車2と噛合可能な歯車であり、その歯面の硬度が被加工歯車2より硬いことが好ましい。
【0017】
歯車加工装置1は、被加工歯車2と加工用歯車3とが噛み合う歯面の間に微細粒子5を供給するための供給ノズル(供給手段)4を備えている。供給ノズル4は、微細粒子5を被加工歯車2及び加工用歯車3の接触部近傍に向けて射出して、被加工歯車2及び加工用歯車3の歯面上に微細粒子5を付着させる。なお、供給ノズル4から射出される微細粒子5は、被加工歯車2の硬度より硬いことが好ましく、加工用歯車3の硬度より柔らかいか、または同等であることが好ましい。
【0018】
次に歯車加工装置1の動作を説明する。図1に示すように、加工用歯車3が被加工歯車2と噛合した状態で、図示しない駆動源により加工用歯車3の軸に駆動力が与えられると、加工用歯車3と被加工歯車2とが連動して回転する。このように連動回転している被加工歯車2及び加工用歯車3の接合部近傍に向けて供給ノズル4から微細粒子5が射出され、互いに噛み合う被加工歯車2及び加工用歯車3のそれぞれの歯面上に微細粒子5が付着される。
【0019】
このとき、被加工歯車2及び加工用歯車3の歯面上に付着した微細粒子5は、歯車の回転に伴い発生した遠心力によって歯先方向へその多くが移動し、歯先周辺に偏って付着した状態となる。この状態で被加工歯車2と加工用歯車3とが回転して噛合が進行すると、被加工歯車2の歯面にのった微細粒子5は、被加工歯車2の歯先周辺を中心として両歯車の歯面間に挟み込まれ、また、加工用歯車3の歯面にのった微細粒子5は、被加工歯車2の歯元周辺を中心として両歯車の歯面間に挟み込まれる。このため、被加工歯車2の歯先から歯元まで噛み合う歯面の隙間に万遍なく均一に微細粒子5が流れ込む。
【0020】
そして、図2に示すように、微細粒子5がより硬度の高い加工用歯車3の歯面3aによって被加工歯車2の歯面2aに押し付けられ、個々の微細粒子5はその一部分または全体を被加工歯車2の歯面2a上から内部へ埋没される。その後、歯面2a,3a間の噛合が開放されると、微細粒子5が被加工歯車2の歯面2aから除去され、微細粒子5が埋没していた跡が微小凹部6となる。このようにして、被加工歯車2の歯面2a上に均一に微小凹部6が形成される。
【0021】
なお、微小凹部6の大きさは微細粒子5の大きさにより画定される。微細粒子5の大きさは、形成したい微小凹部6の大きさと同等としてもよいし、または弾性変形分を考慮し、形成したい微小凹部6より大きくしてもよい。
【0022】
このように、本実施形態に係る歯車加工装置1によれば、被加工歯車2の歯面2a上に均一に微小凹部6が形成されるため、被加工歯車2の歯面2aの全体にわたり油膜形成能力が向上すると共に、金属接触が減って摩擦も減少して、動力損失が低減する。この結果、油膜形成能力を向上させ動力損失が抑制されるよう被加工歯車2の歯面2aを加工することができる。
【0023】
〔第二実施形態〕
次に、図3を参照して、本発明の第二実施形態について説明する。図3は、本実施形態に係る歯車加工装置11における被加工歯車2及び加工用歯車3の歯面2a,3aの概略構成を示す図である。
【0024】
図3に示すように、本実施形態は、被加工歯車2及び加工用歯車3の歯面2a,3a上に、接着剤が塗布された粒子付着領域(粒子付着部)7を備える点において、上述の第一実施形態と異なるものである。粒子付着領域7は、塗布された接着剤の接着力によって、供給ノズル4から射出供給される微細粒子5を付着させることができる。
【0025】
なお、ここで用いる「付着」なる表現は、強固に固定されず一時的に保持された状態を意味するものである。粒子付着領域7に付着された微細粒子5は、歯面2a,3aの噛合が開始するまでは位置が固定され、歯面2a,3aが噛み合い滑り摩擦などの外力が加わると容易に移動可能である。
【0026】
粒子付着領域7は、被加工歯車2及び加工用歯車3の歯面2a,3a上の任意の位置及び形状で設定することができる。例えば、図3に示すように歯先部と歯元部を除いた歯面中央部分のみとしてもよいし、歯面全体としてもよい。また、歯面2a,3a上に1または複数の円形や多角形などの形状としてもよいし、歯車の噛合方向に対して平行または垂直な溝部を形成できるような直線形状としてもよい(図5を参照)。
【0027】
粒子付着領域7は、歯車2,3の噛み合い後(加工終了後)に接着剤を溶剤等で溶かし、微細粒子を除去回収するよう構成してもよい。
【0028】
本実施形態の歯車加工装置11は、図1に示す供給ノズル4を、被加工歯車2及び加工用歯車3のそれぞれへ個別に微細粒子を供給する2つのノズルを備える構成としてもよい。また、粒子付着領域7は、被加工歯車2または加工用歯車3の一方のみに備える構成としてもよい。
【0029】
このような粒子付着領域7を被加工歯車2または加工用歯車3に設けることで、本実施形態の歯車加工装置11は、粒子付着領域7の位置や形状の設定内容に応じて、被加工歯車2及び加工用歯車3の歯面2a,3a上への微細粒子の配置を制御することができる。このため、被加工歯車2の歯面2a上に微小凹部6を均一に形成できるだけでなく、歯車の用途に応じて、歯面2a上の微小凹部6の疎密分布を調整したり、溝形状など任意の形状の凹部を歯面2aに形成することが可能となり、この結果、被加工歯車2に多様な油膜形成能力を実現させることができる。
【0030】
〔第三実施形態〕
次に、図4を参照して、本発明の第三実施形態について説明する。図4は、本実施形態に係る歯車加工装置21における被加工歯車2及び加工用歯車3の歯面2a,3aの概略構成を示す図である。
【0031】
図4に示すように、本実施形態は、被加工歯車2及び加工用歯車3の歯面2a,3aと、供給ノズル4から射出される微細粒子5とを帯電させる帯電装置(帯電手段)8を備える点、及び被加工歯車2及び加工用歯車3の歯面2a,3a上に、帯電した微細粒子5を付着させる粒子付着領域(粒子付着部)9を備える点において、上述の第一、第二実施形態と異なるものである。
【0032】
粒子付着領域9は、帯電装置8により帯電された歯面2a,3aにおいて、帯電領域10と区分されアース12により除電された除電領域であり、帯電装置8により帯電された微細粒子5を静電気により付着させることができる。
【0033】
粒子付着領域9は、第二実施形態と同様に、被加工歯車2及び加工用歯車3の歯面2a,3a上に任意の形状で設定することができる。また、粒子付着領域9は、歯車2,3の噛み合い後(加工終了後)に帯電装置8により除電領域を帯電させて、微細粒子5を除去回収するよう構成してもよい。
【0034】
本実施形態の歯車加工装置21は、このような粒子付着領域9を備える装置を別途設け、被加工歯車2及び加工用歯車3の歯面2a,3aに微細粒子5を転写する装置を備える構成としてもよい。
【0035】
第二実施形態と同様に、粒子付着領域9は、被加工歯車2または加工用歯車3の一方のみに備える構成としてもよい。また、本実施形態の歯車加工装置21は、供給ノズル4を、被加工歯車2及び加工用歯車3のそれぞれへ個別に微細粒子を供給する2つのノズルを備える構成としてもよい。
【0036】
このような粒子付着領域9を被加工歯車2または加工用歯車3に設けることで、本実施形態の歯車加工装置21は、粒子付着領域9の位置や形状の設定に応じて、被加工歯車2及び加工用歯車3の歯面2a,3a上への微細粒子の配置を制御することができる。このため、被加工歯車2の歯面2a上に微小凹部6を均一に形成できるだけでなく、歯車の用途に応じて、歯面2a上の微小凹部6の疎密分布を調整したり、溝形状など任意の形状の凹部を歯面2aに形成することが可能となり、この結果、被加工歯車2に多様な油膜形成能力を実現させることができる。
【0037】
〔第四実施形態〕
次に、図5を参照して、本発明の第四実施形態について説明する。図5は、本実施形態に係る歯車加工装置31における被加工歯車2及び加工用歯車3の歯面2a,3aの概略構成を示す図である。
【0038】
図5に示すように、本実施形態は、粒子付着領域13が、帯電装置8により帯電された歯面2a,3aにおいて、レーザ照射により除電された除電領域である点において、上述の第三実施形態と異なるものである。
【0039】
粒子付着領域13は、第二、第三実施形態と同様に、被加工歯車2及び加工用歯車3の歯面2a,3a上に任意の位置及び形状で設定することができる。図5には、直線形状に形成された粒子付着領域を例示している。特に本実施形態では、除電領域の形成にレーザ照射を用いるので、粒子付着領域13の設定や変更を簡易に行うことができる。
【0040】
粒子付着領域13は、歯車2,3の噛み合い後(加工終了後)に、帯電装置8により再度歯面2a,3a全体を帯電させて、微細粒子5を除去回収するよう構成してもよい。
【0041】
このような粒子付着領域13を被加工歯車2または加工用歯車3に設けることで、本実施形態の歯車加工装置31は、粒子付着領域13の位置や形状の設定に応じて、被加工歯車2及び加工用歯車3の歯面2a,3a上への微細粒子の配置を制御することができる。このため、被加工歯車2の歯面2a上に微小凹部6を均一に形成できるだけでなく、歯車の用途に応じて、歯面2a上の微小凹部6の疎密分布を調整したり、溝形状など任意の形状の凹部を歯面2aに形成することが可能となり、この結果、被加工歯車2に多様な油膜形成能力を実現させることができる。
【0042】
以上、本発明について好適な実施形態を示して説明したが、本発明はこれらの実施形態により限定されるものではない。上記実施形態における加工用歯車3(加工工具)は、被加工歯車2に対して相対的に「加工」するものとして示したにすぎず、加工用歯車3自体も微細粒子により加工される被加工歯車であってもよい。また、加工用歯車3は、被加工歯車2と噛合する歯面を有するものであればよく、はすば歯車や平歯車以外の形状でもよい。
【符号の説明】
【0043】
1,11,21,31…歯車加工装置、2…被加工歯車、2a…被加工歯車の歯面、
3…加工用歯車(加工工具)、3a…加工用歯車の歯面、4…供給ノズル(供給手段)、5…微細粒子、6…微小凹部、7,9,13…粒子付着領域(粒子付着部)、8…帯電装置(帯電手段)、12…アース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工歯車を加工工具と噛合した状態で回転させることで前記被加工歯車の歯面を加工する歯車加工装置において、
前記被加工歯車と前記加工工具とが噛み合う歯面の間に微細粒子を供給する粒子供給部を備えることを特徴とする歯車加工装置。
【請求項2】
前記粒子供給部により供給される微細粒子を付着させる粒子付着部を前記被加工歯車または前記加工工具の歯面上に備えることを特徴とする、請求項1に記載の歯車加工装置。
【請求項3】
前記粒子付着部は、前記歯面上に塗布された接着剤であることを特徴とする、請求項2に記載の歯車加工装置。
【請求項4】
前記粒子付着部を備える前記被加工歯車または前記加工工具の歯面と、前記微細粒子とを帯電させる帯電手段を備え、
前記粒子付着部は、歯面上の除電領域である、
ことを特徴とする、請求項2に記載の歯車加工装置。
【請求項5】
前記粒子付着部は、アースにより除電されることを特徴とする、請求項4に記載の歯車加工装置。
【請求項6】
前記粒子付着部は、レーザ照射により除電されることを特徴とする、請求項4に記載の歯車加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−152846(P2012−152846A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13279(P2011−13279)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】