説明

残留農薬測定方法

【課題】残留基準値が0.01ppmと非常に厳しい農薬メタミドホスであっても測定感度を向上させて、残留基準値の濃度を測定することを可能にする。
【解決手段】あらかじめ試料を粉砕した後、溶媒で溶出するとともに、減圧濃縮を行って抽出液を作成する前処理工程と、前記抽出液と複数の酵素を含む酵素溶液とを、液量比1:0.04〜1:0.1で所定時間接触させて試料中に含まれる農薬を酵素阻害反応させる酵素接触工程と、該酵素接触工程で得られた酵素接触液に測定に妨害を与えない希釈液を加えて液量比1:4〜1:19で希釈する一方、測定開始の基質を添加する濃度調製工程と、該濃度調製工程で得られた溶液をアンペロメトリックセンサを用いて酵素活性による過酸化水素の生成速度を電流値として検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、残留農薬測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数農薬が混在する検体を測定妨害の少ない電気化学デバイスであるアンペロメトリックセンサを利用して各農薬濃度を測定する方法は公知である。例えば、特許文献1は農薬の酵素阻害による信号を過酸化水素として検出する方法である。
【0003】
この農薬濃度を測定する方法を詳細に説明すると、まず、コリンエステラーゼと農薬を含む検体とを接触させ、これをコリンオキシターゼ、コリンエステラーゼ基質(アセチルコリン及びベンゾイルコリン等)を含む電解液に滴下し、一定時間、過酸化水素を生成する反応を行った後、反応を停止させる。その後、過酸化水素に対して高感度、高選択的な応答性を示すセンサ(電極、参照電極及び対極から構成される)を電解セル内に挿入し、定法に従ったアンペロメトリック測定を行い、この時得られる定常状態還元電流値を農薬による阻害の程度を示す信号として記録し、農薬を含まない検体についても同様に測定を行い、これによって得られる信号を記録し、そして、農薬による酵素阻害の程度を、農薬非共存下での活性に対する共存下での活性の比として表すと、逆数が農薬濃度に対し直線的に応答することから、農薬濃度を知ることができるのである。
【0004】
上記構成により、判定すべき全ての農薬とそれぞれの残留基準値とを比較し、残留基準値をオーバーしているか否かにより残留農薬汚染による危険性を評価できるものとなる。
【0005】
しかし、上記測定方法は、残留農薬基準値とコリンエステラーゼ農薬感度の関係で、残留農薬基準値以下の感度をもつ農薬については好ましい測定方法ではあるが、例えば、日本では毒性が高いと判断されて登録されていない農薬メタミドホスにあっては、残留基準値が1億分の1オーダーである0.01ppmと非常に厳しく、これに対し現状の上記測定手法でのコリンエステラーゼの感度は0.5ppm程度であり、50倍程度感度が不足するという問題があった。
【0006】
農薬メタミドホスは有機リン系化合物の農薬の一種であって、殺虫効果のある生物種が多く、ヒトへの有毒性も強い農薬である。中国では1990年代から使用対象が制限されていたがこれを守らないで乱用されており、検疫段階で許容量を超えた残留が発見されることが多々ある。日本では2008年9月、一部の米穀業者等が工業用(非食用)として農薬メタミドホスの混入した事故米を、非食用であることを隠して転売していた事件があり、この事件をきっかけに米に含まれる農薬メタミドホスが簡易的に、しかも精度よく測定することのできる手法の確立が望まれるようになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3473022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記問題点にかんがみ、残留基準値が0.01ppmと非常に厳しい農薬メタミドホスであっても測定感度を向上させて、残留基準値の濃度を測定することを可能にし、さらに感度が同様に不足していたその他についても測定可能とし、農薬の測定成分を増加させることができる残留農薬測定方法を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため請求項1記載の発明は、試料中の残留農薬濃度をアンペロメトリックセンサを用いて検出する残留農薬測定方法において、あらかじめ試料を粉砕した後、溶媒で溶出するとともに、減圧濃縮を行って抽出液を作成する前処理工程と、前記抽出液と複数の酵素を含む酵素溶液とを、液量比1:0.04〜1:0.1で所定時間接触させて試料中に含まれる農薬を酵素阻害反応させる酵素接触工程と、該酵素接触工程で得られた酵素接触液に希釈液を加えて液量比1:4〜1:19で希釈する一方、測定開始の基質を添加する濃度調製工程と、該濃度調製工程で得られた溶液をアンペロメトリックセンサを用いて酵素活性による過酸化水素の生成速度を電流値として検出する測定工程とを有し、該過酸化水素の生成速度に基づいて前記農薬濃度を求める、という技術的手段を講じた。
【0010】
また、請求項2記載の発明は、前記酵素阻害工程で使用される複数の酵素が、アセチルコリンエステラーゼ及びコリンオキシダーゼであることを特徴とする。
【0011】
さらに、請求項3記載の発明は、前記濃度調製工程で使用される基質が、アセチルコリンエステラーゼの基質となり得るアセチルコリンまたはアセチルチオコリンであることを特徴とする。
【0012】
そして、請求項4記載の発明は、前記測定工程が、過酸化水素の生成速度に基づき0.01ppm以下のオーダーの農薬濃度の検出を可能とすることを特徴とする。
【0013】
請求項5記載の発明は、前記測定工程が、試料中の残留農薬としてメタミドホス、イプロジオン、オメトエート、オキシデメトンメチル、アルドキシカルブ、EPTC及び塩酸ホルメタネートのうち、少なくとも1種の検出を可能とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の発明によれば、農薬の測定感度を向上させるため、前処理工程においては、あらかじめ試料を粉砕した後、検体量を増やすべく、溶媒で溶出するとともに、減圧濃縮を行って抽出液を作成し、酵素接触工程においては、前記抽出液と複数の酵素を含む酵素溶液とを、液量比1:0.04〜1:0.1で所定時間接触させて試料中に含まれる農薬を酵素阻害反応させ、濃度調製工程においては、前記酵素接触液と希釈液とを液量比1:4〜1:19で希釈し、同時に基質を添加して酵素反応を開始し、測定工程においては、濃度調製工程で得られた溶液をアンペロメトリックセンサを用いて酵素活性による過酸化水素の生成速度を電流値として検出し、農薬濃度を求めるものである。
【0015】
すなわち、本発明者らは、(1).農薬の酵素阻害の感度は酵素接触時の抽出液の濃度で決まり、測定直前に抽出液を希釈したとしても酵素阻害の感度が低下するといった悪影響を受けにくいこと、(2).測定時の妨害要因(酵素への妨害、センサへの妨害影響)が酵素接触時の濃度ではなく、測定時の希釈された濃度で決定すること、特に、希釈率が高いほど測定時の妨害要因を軽減できること、を見出したのである。そして、この2手法を組み合わせることにより、残留基準値が1億分の1オーダーである0.01ppm以下の農薬濃度を検出することを可能とした。
【0016】
また、これまで感度不足で判定不可能であった、農薬メタミドホス、イプロジオン、オメトエート、オキシデメトンメチル、アルドキシカルブ、EPTC及び塩酸ホルメタネートを検出することを可能にした。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の残留農薬測定方法を実施するためのフローチャートである。
【図2】本発明の酵素接触工程及び濃度調製工程における抽出液、酵素溶液、基質溶液及び希釈液の液量比を模式的に表した図である。
【図3】本発明の実施例における抽出液、酵素溶液、基質溶液及び希釈液の液量比を模式的に表した図である。
【図4】希釈に伴う農薬感度の影響の結果を示すグラフである。
【図5】希釈に伴う過酸化水素の生成速度を電流値として検出する際の測定時の酵素妨害の影響の結果を示すグラフである。
【図6】農薬メタミドホスが検出可能か否かを検証したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0019】
図1は、本発明の残留農薬測定方法を実施するためのフローチャートである。まず、試料を粉砕した後、溶媒で溶出するとともに、減圧濃縮を行って抽出液を作成する前処理工程について説明する。米(玄米)、野菜又は果物からなる被検試料(ステップ1)を、計量カップなどに採取してサンプルミキサーで粉砕を行う(ステップ2)。そして、粉砕した被検試料を電子はかりにより120g秤量(ステップ3)し、三角フラスコにアセトニトリル100mlとともに投入して、水分の多い野菜、果物などの場合は硫酸ナトリウムや硫酸マグネシウムなどの脱水剤も同時に加え、振とう機で15〜20分間振とうを行う。(ステップ4)。次に、この溶液の吸引ろ過を行う(ステップ5)。吸引ろ過には、アセトニトリル25mlをはかりとり、これを漏斗上のろ紙に3〜4滴滴下してろ紙と目皿とを密着させ、ろ過吸引機を作動させながらステップ4で得られた溶液をろ紙上に順次注いでろ過を行う。25mlのはかりとった残りのアセトニトリルは振とうに使った三角フラスコに入れ、軽く振った後、ろ紙上に注いで三角フラスコ内の残留物のろ過を行う。漏斗からろ液が滴下しなくなったら、ろ過工程が終了する。
【0020】
次に、液々分配(ステップ6)を行う。液々分液には、上部投入口に栓を持ち、漏斗の足の付け根に二方コックを持った分液漏斗が使用される。この分液漏斗にステップ5で得られたろ液と、ヘキサン100mとを、投入して栓をした後、振とうする。そして、しばらく放置すると、上層がアセトニトリル層に、下層が水層にそれぞれ分離するので、下層の水層を廃棄し、上層のアセトニトリル層のみをナスフラスコに回収する。
【0021】
液々分配で得られた上層のアセトニトリル層には、農薬が含まれているので、これを減圧乾固(ステップ7)する。減圧乾固には、ウォーターバス及びロータリーエバポレータを使用するが、アセトニトリル層の農薬が昇華、蒸発などにより留去する虞(おそれ)があるため、キーパー溶液(5(W/V)%-ジエチレングリコールを含むエタノール溶液)0.1mlをナスフラスコに添加しておく。そして、溶媒が十分に揮発したら、減圧乾固を終了する。
【0022】
減圧乾固の終了後、ナスフラスコに酢酸エチル5mlを添加して乾固物の残渣を溶解させ、この溶液を精製カラム(PSA(陰イオン交換樹脂)0.5gカラム)に滴下し、精製を行う(ステップ8)。精製カラムからの流出液は洗浄済みナスフラスコに回収する。そして、再度、減圧乾固終了後のナスフラスコに酢酸エチル20mlを入れ、軽く振って、減圧乾固終了後のナスラスコ内の残渣を溶解させ、この溶液を精製カラムに滴下する。
【0023】
次に、精製カラムからの流出液について減圧濃縮を行う(ステップ9)。この減圧濃縮は、流出液中に含まれる酢酸エチルが次工程の酵素接触反応の際に悪影響を及ぼすため、溶媒である酢酸エチルを十分に揮発させることを目的とする。すなわち、流出液が入っているナスフラスコにヘキサン20mlと待機液(0.1M塩化カリウムを含む0.1Mリン酸緩衝液(pH7.6))1mlを入れ、ウォーターバス30℃、圧力150hPaのもと、有機溶媒のみを留去させる。そして、ナスフラスコの内側に曇りが付着すれば、減圧濃縮処理が終了する。残った待機液を遠沈管などの容器に移し替えておく。この溶液を抽出液という。
【0024】
次に本発明の要部となる酵素接触工程(ステップ10)、濃度調製工程及び測定工程(ステップ11)について詳細に説明する。
【0025】
回転子を入れた5ml容器に抽出液0.5mlを入れる。そして、同じ5ml容器に酵素F溶液(2.5U/mL アセチルコリンエステラーゼ及び1%牛血清アルブミンを含む0.01Mリン酸緩衝液(pH7.6))と、酵素B溶液(90U/mL コリンオキシダーゼを含む0.01Mリン酸緩衝液(pH7.6))とを、20μLずつ入れる。次いで、被検試料と比較するための基準液も同時に作成する。すなわち、基準液は、待機液(0.1M塩化カリウムを含む0.1Mリン酸緩衝液(pH7.6))0.5mLに前記酵素F溶液と、酵素B溶液とを、20μLずつ入れたものである。そして、前記抽出液に酵素F溶液及び酵素B溶液を入れたものと、待機液に酵素F溶液及び酵素B溶液を入れたものとを、それぞれ45分から4時間の間、酵素接触を行う(ステップ10)。
【0026】
測定の際には、基質溶液(0.11mMヨウ化アセチルコリン及び0.1M塩化カリウムを含む0.1Mリン酸緩衝液(pH7.6))4.5mLを測定する溶液に注入して濃度調製を行い、その後、酵素活性による過酸化水素の生成速度を電流値として検出する(ステップ11)。
【0027】
ステップ10の酵素接触工程において、特に、抽出液と酵素溶液との液量比が限定されることはない。すなわち、ステップ11の測定時の活性(酵素濃度)により酵素量を決定するとよい。しかしながら、測定直前に出来る限り希釈して濃度調製を行ってから測定することで、抽出液中の測定妨害(酵素への妨害、センサへの妨害影響)を軽減させる作用を行わせるために、抽出液と酵素を含む酵素溶液とを、液量比1:0.04〜1:0.1程度に設定することが好ましい。
【0028】
ステップ11の測定工程の濃度調製工程において、特に、抽出液と希釈液との液量比が限定されることはないが、本発明者らは、以下を鑑みて液量比を決定した。すなわち、(1).測定時の基質の終濃度が0.1mM程度になるように希釈液は調整する。(2).測定時の抽出液と希釈液との液量比は、大きければ大きい程その比に応じ測定妨害の影響が小さくなる(10倍希釈して、測定妨害信号は等倍時の1割)。(3).農薬の阻害については、測定時の抽出液と希釈液との液量比が大きくなれば若干の阻害低下はみられるが、測定妨害の影響軽減のように比がそのまま阻害信号に現れるほどの低下ではなかった(10倍希釈しても、農薬阻害信号は等倍時の9割)。(4).ピペットの精度、測定容器の容量(5mL)、測定時に希釈液を注入する分注シリンジの都合により抽出液と希釈液との液量比は1:9とした。(5).より好ましい条件としては、抽出液と希釈液との液量比は1:4〜1:19程度がよい。
【0029】
以上から、残留基準値が1億分の1オーダーである0.01ppm以下の農薬濃度を検出することを可能とし、また、これまで感度不足で判定不可能であった、農薬メタミドホス、イプロジオン、オメトエート、オキシデメトンメチル、アルドキシカルブ、EPTC及び塩酸ホルメタネートを検出することを可能にした。
【実施例1】
【0030】
次に、図2を参照しながら、本発明の実施例を詳細に説明する。図2は、本発明の酵素接触工程及び測定直前の濃度調製工程における抽出液、酵素溶液、基質溶液及び希釈液の液量比を模式的に表した図である。本発明の酵素接触工程では、前処理工程において作成した被検体(例えば、玄米)の抽出液を、サンプル容器に0.5mlを入れ、続いて酵素A及び酵素Bをそれぞれ0.02mlずつ添加し、抽出液と複数の酵素を含む酵素溶液との液量比を1:0.08とし、45分から4時間の酵素接触を行う(実施例1)。比較例として、サンプル容器に前記抽出液を5ml(実施例1の10倍量)入れる。続いて、実施例1と同量の酵素A及び酵素Bをそれぞれ0.02mlずつ添加し、抽出液と複数の酵素を含む酵素溶液との液量比を1:0.008として、45分から4時間酵素接触を行う(比較例1)。
【0031】
測定直前の濃度調製工程では、実施例1の酵素接触後の溶液に、基質溶液0.05ml及び希釈液4.5ml(前記抽出液0.5mlの10倍希釈、抽出液と希釈液との液量比1:9)を添加する一方、比較例1の酵素接触後の溶液には、基質溶液0.05mlのみを添加した(希釈なし、等倍)。
【実施例2】
【0032】
図3に示すように、抽出液をサンプル容器に1mlを入れ、続いて酵素A及び酵素Bをそれぞれ0.02mlずつ添加し、抽出液と複数の酵素を含む酵素溶液との液量比を1:0.04とし、45分から4時間の酵素接触を行う。次いで、基質溶液0.05ml及び希釈液4ml(前記抽出液1mlの5倍希釈、抽出液と希釈液との液量比1:4)を添加したものを、実施例2とした。同様に、酵素接触後に2倍希釈したものを比較例2とし、酵素接触後に4倍希釈したものを比較例3とした。
【0033】
実施例1、実施例2、比較例1、比較例2及び比較例3の希釈に伴う農薬感度の影響の結果を図4に示す。図4は横軸に酵素接触工程と濃度調製工程との液量比を示し、縦軸に希釈なしのときの農薬感度を100とした場合の感度比を示す。図3によれば、比較例1の希釈なしと、実施例1の10倍希釈とを比較すれば、感度の低下は10%以内であり、測定直前に希釈すれば酵素阻害が低下しないことが分かった。希釈倍率を2倍とした比較例2、希釈倍率を4倍とした比較例3及び希釈倍率を5倍とした実施例2においても、感度の極端な低下は見られなかった。
【0034】
上記希釈に伴う過酸化水素の生成速度を電流値として検出する測定時の酵素妨害の影響の結果を図5に示す。図5は横軸に酵素接触工程と濃度調製工程との液量比を示し、縦軸に酵素への影響を相対活性値RAの逆数で表している。図5によれば、比較例1の希釈なしと、実施例1の10倍希釈とを比較すれば、実施例1ほど酵素妨害の影響が緩和されることが分かる。特に、希釈倍率を2倍とした比較例2、希釈倍率を4倍とした比較例3及び希釈倍率を5倍とした実施例2を参照すれば、測定直前に希釈するとともに、希釈倍率が大きいほど酵素妨害が緩和されることが分かる。
【0035】
次に、残留基準値が1億分の1オーダーである0.01ppmと非常に厳しい農薬メタミドホスが検出可能か否かを検証する。前述の図4から分かることは、農薬の酵素阻害の感度は酵素接触時の抽出液の濃度で決まり、測定時に抽出液を希釈したとしても酵素阻害の感度の影響を受けにくいことであり、前述の図5から分かることは、測定妨害(酵素への妨害、センサへの影響)が酵素接触時の濃度でなく、測定時の希釈された濃度で決まることである。すなわち、農薬の阻害の感度を維持しつつ、測定妨害を排除するためには、測定直前に抽出液を5〜10倍程度希釈すればよいのである。図6は横軸に濃度ppmを示し、縦軸に酵素への影響を相対活性値RAの逆数で表しているが、残留基準値が1億分の1オーダーである0.01ppm以下の農薬濃度を検出することが可能であり、農薬メタミドホスであっても農薬濃度を検出することが可能となることが分かった。また、この検出精度の向上に伴い、農薬メタミドホスのほかに、これまで感度不足で判定不可能であった、6成分の農薬イプロジオン、オメトエート、オキシデメトンメチル、アルドキシカルブ、EPTC及び塩酸ホルメタネートの検出が可能となることが分かった。
【0036】
なお、上記実施の形態では、希釈測定であるために、抽出液の必要量が従来の10分の1で済み、これにより、前処理工程における抽出処理時間の削減及び被検試料、抽出溶媒の削減によるランニングコストの低減に寄与することができる。また、被検試料の濃縮が容易になるために、さらなる測定可能成分数の増加を期待することができる。測定可能成分としては、ピラゾホス、ジオキサチオン、テメホス、ニコチン、シアノホスなどが期待される。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の残留農薬測定方法は、市場への出荷を待つ農産物(例えば、米(玄米、精白米)、野菜又は果物)に含有される農薬について、スクリーニングを行おうとする場合に有用性があり、特に、残留基準値が0.01ppmと非常に厳しい農薬メタミドホスであっても迅速かつ高感度で測定することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の残留農薬濃度をアンペロメトリックセンサを用いて検出する残留農薬測定方法において、
あらかじめ試料を粉砕した後、溶媒で溶出するとともに、減圧濃縮を行って抽出液を作成する前処理工程と、
前記抽出液と複数の酵素を含む酵素溶液とを、液量比1:0.04〜1:0.1で所定時間接触させて試料中に含まれる農薬を酵素阻害反応させる酵素接触工程と、
該酵素接触工程で得られた酵素接触液に希釈液を加えて液量比1:4〜1:19で希釈する一方、測定開始の基質を添加する濃度調製工程と、
該濃度調製工程で得られた溶液をアンペロメトリックセンサを用いて酵素活性による過酸化水素の生成速度を電流値として検出する測定工程とを有し、
該過酸化水素の生成速度に基づいて前記農薬濃度を求めることを特徴とする残留農薬測定方法。
【請求項2】
前記酵素阻害工程で使用される複数の酵素が、アセチルコリンエステラーゼ及びコリンオキシダーゼである請求項1記載の残留農薬測定方法。
【請求項3】
前記濃度調製工程で使用される基質が、アセチルコリンエステラーゼの基質となり得るアセチルコリンまたはアセチルチオコリンである請求項1又は2記載の残留農薬測定方法。
【請求項4】
前記測定工程は、過酸化水素の生成速度に基づき0.01ppm以下のオーダーの農薬濃度の検出を可能とする請求項1から3のいずれかに記載の残留農薬測定方法。
【請求項5】
前記測定工程は、試料中の残留農薬としてメタミドホス、イプロジオン、オメトエート、オキシデメトンメチル、アルドキシカルブ、EPTC及び塩酸ホルメタネートのうち、少なくとも1種の検出を可能とする請求項1から4のいずれかに記載の残留農薬測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−45313(P2011−45313A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197661(P2009−197661)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000001812)株式会社サタケ (223)
【Fターム(参考)】