説明

気相成長装置

【課題】 基板を加熱するためのヒータ、及び該ヒータに通電する電流導入端子を備えた気相成長装置であって、電流導入端子から気相成長装置外部への熱拡散を効果的に抑制できる気相成長装置を提供する。
【解決手段】 電流導入端子の内部に冷媒の流路が設けられ、導電性の電流導入端子本体に該冷媒が接触可能となるように構成されてなる気相成長装置とする。好ましくは前記の冷媒の流路のほか、側壁部と電流導入端子の間及び/または電流導入端子と電流導入端子の間に、冷媒が流通する冷却容器を備えた気相成長装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は気相成長装置に関し、より詳細には、基板加熱用のヒータに通電するために設けられた電流導入端子から外部への熱拡散を効果的に防止できる気相成長装置に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶膜を基板上に成長する方法には、化学的気相成長(CVD)法等があり、基板加熱を伴うCVD法には熱CVD法等が知られている。近年、高温条件(例えば1000℃以上)で基板を加熱して行う気相成長工程が増加しており、青色若しくは紫外LED又は青色若しくは紫外レーザーダイオードを製作するためのIII族窒化物半導体の気相成長工程もその一つである。例えば、III族窒化物半導体結晶膜の成長は、トリメチルガリウム、トリメチルインジウム、又はトリメチルアルミニウム等の有機金属ガスをIII族金属源として、アンモニアを窒素源として用い、1000℃以上の高温に加熱されたシリコン(Si)、サファイア(Al)又は窒化ガリウム(GaN)等の基板上に結晶膜を気相成長する熱CVD法により行われることがある。このような気相成長工程においては基板が高温で加熱されるため、加熱を要しない部分まで熱伝達により加熱されることがある。そのため、例えば特許文献1に記載のように、気相成長装置の少なくとも一部を冷媒により冷却することがある。
【0003】
基板はヒータを用いて結晶膜の成長に必要な温度に加熱され、このような基板を保持するサセプタ及びサセプタの対面から形成される反応炉に原料ガスを流通することにより気相成長反応が行われる。通常、反応炉は反応容器の中に収められ、外部から遮断されて密閉されている。基板を加熱するヒータは反応容器の内部に設置されることが多く、反応容器の内部に設置されたヒータに通電するためには、反応容器の外部から供給される電流を反応容器の内部に導かなければならず、例えば、反応容器の壁面を貫通して挿着された電流導入端子等によりヒータに電流が供給される。この場合、反応容器の内部には反応性又は腐食性の原料ガスが流通されるため、ヒータの電流導入端子は、反応容器の密閉性を損なわずに電気絶縁されなければならない。
【0004】
【特許文献1】特許3198956号公報
【特許文献2】特許4540830号公報
【特許文献3】特許3049927号公報
【特許文献4】特許3000080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような電流導入端子は、反応容器の密閉性を損なわずに、周囲の環境から電気絶縁されるが、電流導入端子を介して熱が外部に拡散し、外部の器具や装置に悪影響を及ぼす虞がある。特に、外部からの電流をヒータに導く電流導入端子本体は金属又は合金等の導電性の材質で構成されるが、このような材質は高い熱伝導性を有することが多いため、電流導入端子本体を介した熱伝達により、外部の器具や装置に悪影響を及ぼす虞は特に大きい。
【0006】
そのため、電流導入端子は冷却されることが好ましく、例えば特許文献2及び3には、電流導入端子を冷却可能な構造が示されている。しかし、このような構造は、冷媒の流路と導電性の電流導入端子本体の間に隔壁、絶縁材等の介在物や間隙が存在し、電流導入端子本体の効率的な冷却の妨げになっていた。また、冷媒の流路と導電性の電流導入端子本体の間に間隙がない例としては、特許文献4に記載の水冷電極が挙げられるが、電流導入端子と冷媒の流路の間には水冷管及び電気絶縁物のような介在物が設けられていた。
【0007】
このように、特許文献2〜4に記載のような従来の技術では、電流導入端子、特に導電性の電流導入端子本体を効率的に冷却できないという問題があった。特に、このような従来の技術では、III族窒化物半導体の気相成長のように、例えば1000℃以上の高温で気相成長が行われる際に、冷却が不十分となることが多かった。従って、本発明が解決しようとする課題は、電流導入端子本体を十分に冷却することができ、特にIII族窒化物半導体の気相成長が行われる際に電流導入端子を十分に冷却することができ、電流導入端子を介して外部へ熱が拡散することによる外部の器具や装置への悪影響を防止できる気相成長装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは、このような課題を解決すべく鋭意検討した結果、基板を加熱するためのヒータ、及び該ヒータに通電する電流導入端子を備えた気相成長装置において、該電流導入端子の内部に冷媒の流路を設け、導電性の電流導入端子本体に該冷媒が接触可能となるように構成することにより、前述の課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明は、基板を加熱するためのヒータ、及び該ヒータに通電する電流導入端子を備えた気相成長装置であって、該電流導入端子の内部に冷媒の流路が設けられ、導電性の電流導入端子本体に該冷媒が接触可能となるように構成されてなることを特徴とする気相成長装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の気相成長装置は、電流導入端子の内部に冷媒の流路が設けられ、導電性の電流導入端子本体に該冷媒が接触可能となるように構成されているため、電流導入端子本体を十分に冷却することができ、特にIII族窒化物半導体の気相成長のように、例えば1000℃以上の高温で気相成長が行われる際に、電流導入端子を十分に冷却することができる。そのため、電流導入端子を介して外部へ熱が拡散し、外部の器具や装置に悪影響を及ぼすことを防止できる。また、本発明の気相成長装置においては水を冷媒として用いることもでき、そのときの電流導入端子の絶縁抵抗を0.2MΩ以上にすることができる。
また、本発明の気相成長装置は、電流導入端子の内部に設けた冷媒の流路のほか、側壁部と電流導入端子の間及び/または電流導入端子と電流導入端子の間に、冷媒が流通する冷却容器を設けることにより、電流導入端子周辺も効率的に冷却されるため、ヒータからの熱伝達も抑制され、電流導入端子をさらに効率よく冷却することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、基板を加熱するためのヒータ、及び該ヒータに通電する電流導入端子を備えた気相成長装置に適用される。以下、本発明の気相成長装置を、図1〜図10に基づいて詳細に説明するが、本発明がこれらにより限定されることはない。
尚、図1は、本発明の気相成長装置の一例を示す垂直断面構成図であり、図2は、本発明の気相成長装置の図1と別の一例を示す垂直断面構成図であり、図3は、図1に示すA部の部分拡大図であって電流導入端子及びその周辺の態様を示し、図4は、図1に示すA部の部分拡大図であって電流導入端子及びその周辺の図3と別の態様を示し、図5は、図1のB−B水平断面構成図、図6は、図1、図2のC−C水平断面構成図、図7は、図1、図2のD−D水平断面構成図であり、図8は、図2のB’−B’水平断面構成図である。また、図9は、図3のE−E水平断面構成図、図10は、図3のF−F水平断面構成図である。
【0011】
本発明の気相成長装置は、図1、図2に示すように、基板5を加熱するためのヒータ11、及びヒータ11に通電する電流導入端子12が備えられ、図3、図4に示すように、電流導入端子12の内部に冷媒の流路21が設けられ、ヒータ11に通電する導電性の電流導入端子本体12aに該冷媒が接触可能となるように構成されている。
【0012】
次に、電流導入端子12及びその周辺を図3により詳細に説明する。図3のような電流導入端子12は、外部の電源(図示しない)からの電流を受電する受電部12d、受電部12d及びヒータ11に接続されヒータ11に電流を導く導電性の電流導入端子本体12a、電流導入端子本体12aに設けられた凹形の空間部12b、凹形の空間部12bに挿入される管部12cを有する。電流導入端子本体12aは、棒状であることが好ましく、電流導入端子本体12aの長さ方向に垂直な断面は、円形、三角形、四角形又は多角形であることが好ましく、円形であることがより好ましいが、このような形状に限定されることはない。電流導入端子本体12aは、長さ方向に垂直な断面が直径5〜50mmであり、長さが30〜300mmであることが特に好ましいが、このような大きさ及び形状に限定されることはない。また、受電部12dは、電流導入端子本体12aに接続されており、電源(図示しない)からの電流を、受電部12dに接続された給電線26を介して電流導入端子本体12aに導く。さらに電流導入端子本体12aにはヒータ11が接続されており、電源(図示しない)からの電流は受電部12d及び電流導入端子本体12aを介してヒータ11に供給される。
【0013】
凹形の空間部12bは電流導入端子本体12aの長さ方向に貫通しない孔を設けることにより形成され、凹形の空間部12bに挿入される管部12cとともに二重管構造を形成している。電流導入端子本体12aを均一に冷却するために、電流導入端子本体12aの断面形状と管部12cの断面形状は同心円となるように設けられることが好ましいが、このような形状及び配置に限定されることはない。凹形の空間部12bは、長さ方向に垂直な断面が直径3〜48mmの円形であり、長さが20〜299mmであることが好ましいが、このような大きさ及び形状に限定されることはない。管部12cは、長さ方向に垂直な断面が外径2〜47mm、肉厚0.5〜5mmの円環状であることが好ましいが、このような形状及び大きさに限定されることはない。管部12cは、凹形の空間部12bの側面と管部12cの間に間隙が生じ、管部12cのヒータ11側の一端と凹形の空間部12bの底面の間に間隙が生じるように設けられ、間隙の大きさは0.5〜10mmであることが好ましいが、このような大きさに限定されることはない。凹形の空間部12bの開口部を冷媒の流路21の冷媒入口12fとして用いることができ、管部12cの別の一端を冷媒の流路21の冷媒出口12gとして用いることができるが、管部12cの別の一端を冷媒入口12fとして、凹形の空間部12bの開口部を冷媒出口12gとして用いることもできる。このような構造の冷媒の流路21により、電流導入端子本体12aの内部全体を通して冷媒を流通できるので、電流導入端子本体12aをより効率的に冷却することができる。
【0014】
一方、本発明の気相成長装置の全体的な構成に限定はなく、その一例を図1、図2に示す。図1、図2の気相成長装置において、結晶膜を生成するための気相成長反応は反応容器3の内部で行われる。天井部1及び/又は側壁部2は、反応容器3の一部により構成されることが好ましいが、そのような構成に限定されることはない。尚、天井部1は、気相成長装置の上部を覆い、内部の部品を保護することができれば特に設置位置等に制限されることはない。反応容器3の内部には、結晶膜を気相成長させるための基板5、基板5を加熱するためのヒータ11、基板5を保持するリング状の基板ホルダー6、基板ホルダー6を保持する円盤状のサセプタ8、ベアリング15によりサセプタ8を回転自在に保持するリング状の架台20が備えられており、これらの部材は外形が円盤状の反応容器3の中に収められている。サセプタ8は、サセプタの対面9とともに反応炉10を形成し、気相成長反応は反応炉10において行われる。基板5は結晶膜の成長が行われる成長面を下向きにして配置されているが、本発明は下向きの配置に限定されることはなく、例えば、基板5は上向き又は横向きに配置されてもよい。また、本発明は、反応炉10の中央部から原料ガスを供給し、周辺部から外部に排出する気相成長装置に限定されることはなく、例えば反応炉10の一端から原料ガスを供給し、反応後のガスを他の一端から外部に排出する気相成長装置に適用することもできる。
【0015】
次に、電流導入端子12の天井部1への設置状態を図3、図4により詳細に説明する。図3の態様において、電流導入端子12は各ヒータ11に対して2個1組ずつ接続されている。電流導入端子12は、電流導入端子本体12aの外側側面に設けられた絶縁材12eを有し、天井部1に設けられた貫通孔に絶縁材12eを介して挿着されるため、電流導入端子12は天井部1から電気絶縁されている。電流導入端子12は、電流導入端子本体12aの外側側面に絶縁材12eを介してフランジ部12hを有してもよい。フランジ部12h及び天井部1の間にはシール材28が設けられ、固定ネジ(図示しない)等を用いてフランジ部12hを天井部1に固定することにより、天井部1の密閉性を損なわずに電流導入端子12を取り付けることができる。電流導入端子12が挿着される貫通孔は、天井部1の外側表面に設けられた突出部1aに設けられることが好ましく、突出部1aの突出方向に設けられることが好ましい。突出部1aは、天井部1の壁の肉厚を部分的に厚くすることにより形成することができる。貫通孔に電流導入端子12を挿着する際には、電流導入端子本体12aと貫通孔の側面の間に絶縁材12e及び/又は間隙を設けることにより電流導入端子を天井部1から電気絶縁することもでき、絶縁材12eを設ける場合には1〜10mmの肉厚の絶縁材、間隙を設ける場合には1〜10mmの間隙であることが好ましいが、そのような構成に限定されることはない。突出部1aの突出方向に垂直な断面は、円形、三角形、四角形又は多角形であることが好ましく、円形であることがより好ましいが、このような形状に限定されることはない。突出部1aは、天井部1の表面から20〜200mm突出していることが好ましいが、このような大きさに限定されることはない。尚、前記の内容は、基板の結晶成長面を下向きに配置する気相成長装置(フェイスダウン型)に適用されるが、「天井部」を「底部」と替えることにより、基板の結晶成長面を上向きに配置する気相成長装置(フェイスアップ型)に適用することができる。
【0016】
図4は、電流導入端子及びその周辺の図3とは別の態様を示す図であるが、図3の態様と異なる点として、電流導入端子12は、電流導入端子本体12aの外側側面に直接設けられたフランジ部12hを有し、フランジ部12hと天井部1の間に絶縁材12eを有し、フランジ部12h及び絶縁材12eの間、及び絶縁材12e及び天井部1の間には、それぞれシール材28が設けられている。図3、図4の態様において示されるように、電流導入端子12は天井部1に着脱可能に挿着されている。図3、図4のように、電流導入端子12をフランジ部12hにより天井部1に着脱可能に挿着することができるが、挿着方法に限定はなく、電流導入端子12(例えば絶縁材12e)の外側側面と天井部1に設けた貫通孔の側面にそれぞれ螺旋を設け、電流導入端子12を貫通孔にねじ込むことにより挿着することもできる。
【0017】
また、冷媒の流路21の冷媒入口12f及び冷媒出口12gには、それぞれに冷媒流通管23が接続継手24を用いて接続され、冷媒の供給及び排出が行われる。電流導入端子12の冷媒出口12gに接続された冷媒流通管23を、別の電流導入端子12の冷媒入口12fに接続することにより、複数の電流導入端子12の冷媒の流路21を直列することも可能である。尚、冷媒流通管23の少なくとも一部に電気絶縁性の材質を用いることにより、電流導入端子12を、別の電流導入端子12、又は冷媒供給源等の外部の機器(図示しない)から電気絶縁することができる。冷媒流通管23の電気絶縁部は、例えば冷媒が水あるいは水溶液の場合、その内径が小さく、長さが大きいことが、冷媒から外部への電気絶縁の点で好ましい。具体的には、冷媒流通管23の電気絶縁部の内径は、通常は10mm以下、好ましくは5mm以下であり、長さは通常は0.5m以上、好ましくは1m以上である。
【0018】
電流導入端子12に設けられた冷媒の流路21に流通される冷媒としては、水道水等の水を用いることができ、イオン交換水又は純水を用いることが好ましいが、これらに限定されることはない。また、電流導入端子12の絶縁抵抗は、冷媒として水を用いた場合に0.2MΩ以上であり、好ましくは0.5MΩ以上である。尚、絶縁抵抗は、例えば、電流導入端子本体12aと、気相成長装置の接地極(図示しない)又は冷媒流通管23に接続された接地配管の接地極(図示しない)の間で測定される。
【0019】
次に、冷却容器4について詳細に説明する。本発明の気相成長装置においては、側壁部と電流導入端子の間及び/または電流導入端子と電流導入端子の間に、冷媒が流通する冷却容器を備えることができる。図1、図2に示す気相成長装置において、内部に冷媒が流通される冷却容器4が、天井部1に隣接し、電流導入端子12に近接して設けられており、より詳細には、天井部1の突出部1aの突出方向に設けられた貫通孔に電流導入端子12が挿着され、突出部1aの外側側面に隣接して冷却容器4が設けられている。天井部1を冷却する冷却容器4には、反応炉10の周縁から中心に向けて冷媒が流れるように冷媒の出入口(30、31)が設けられているが、周縁から中心に向けて冷媒が流れる構成に限定されることはない。冷却が均一に行われるために、流路の途中に仕切板を設けて冷媒の流れを均一にすることもできる。
【0020】
例えば、図1、図2の冷却容器4には、冷却容器4の内部を開口できる開口蓋22’が設けられており、開口蓋22’はシール材28を介して冷却容器4に取り付けられている。開口蓋22’は複数個設けられることが好ましく、複数個に限定されることはないが、開口蓋22’を複数個設けることにより、すべての開口蓋22’を開口しなくても冷却容器4内部の各所を開放して点検、清掃、メンテナンス等の作業をすることができる。少なくとも気相成長中は、開口蓋22’がすべて閉じられて冷却容器4が密閉され、冷媒が流通される。尚、図1、図2に示すように、電流導入端子12に近接して設けられる冷却容器4だけでなく、サセプタの対面9を冷却するために反応容器3の下部に別の冷却容器4’を設けることができる。
【0021】
また、図2に示すように、本発明の気相成長装置は、複数の電流導入端子及び/または複数の冷却容器を装着した複数の開口蓋を備えることができる。図1の気相成長装置においては冷却容器4が側壁部2と一体として製作されているが、図2の気相成長装置においては、天井部1に設けた開口蓋22と冷却容器4を一体として製作されている。図2の気相成長装置においては、天井部1(反応容器3)に開口蓋22が設けられ、反応容器3の内部を開口することができる。開口蓋22には、電流導入端子12及び/又は冷却容器4が装着されているので、開口蓋22を取り外したときに冷却容器4及び/又は電流導入端子12も同時に取り外され、反応容器3内部の点検、清掃、メンテナンス等の作業を容易にすることができる。好ましくは、開口蓋22に複数の電流導入端子12及び/又は複数の冷却容器4を装着することにより、開口蓋22の取り外したときに複数の電流導入端子12及び/又は複数の冷却容器4を同時に取り外せるようにすることができ、このような開口蓋22を複数設けることにより、すべての開口蓋22を開口しなくても反応容器3内部の各所を開放でき、点検、清掃、メンテナンス等の作業をより容易にすることができるが、このような構成に限定されることはない。
【0022】
次に、結晶膜を生成するための気相成長反応が行われる反応容器3及びその内部を図1、図2により詳細に説明する。基板5は成長面を下向きにした状態で基板ホルダー6により保持されているが、上向きに保持される構造でもよく、成長面の向きは特に限定されない。基板ホルダー6は、直径が2インチ、3インチ、4インチ又は6インチの基板を1枚保持できるが、特にこれらの大きさの基板に限定されない。回転自在に保持されたサセプタ8を回転駆動器17から伝達される回転駆動力により回転させることができる。サセプタ8を回転させる場合には、回転駆動器17からの回転駆動力は、磁性流体シール等の手段により反応容器3の密封性を損なわないように回転自在にシールされた回転駆動軸18を介して、回転駆動軸18のサセプタ8側先端に固定された回転板19に伝達される。サセプタ8の周縁部及び回転板19の周縁部にはそれぞれ歯車が設けられており、それらが互いに噛み合わさることにより回転駆動器17からの回転駆動力はサセプタ8に伝達されて、サセプタ8は回転する。このようにしてサセプタ8を回転させることにより均一な膜質及び膜厚の結晶膜を得ることができる。
【0023】
サセプタ8は、サセプタの対面9とともに反応炉10を形成し、反応炉10は、反応容器3に収められ密封され、反応炉10には原料ガス導入部13が設けられている。気相成長反応は、電流導入端子12から導入される電流により発熱するヒータ11で基板5を加熱しながら、原料ガス導入部13から原料ガスを供給することにより行われ、基板5の成長面には結晶膜が形成される。気相成長反応に用いられた原料ガスは、そのまま反応ガスとして反応ガス排出部14から排出される。例えば、図1において、反応炉10の中心部に設けられた原料ガス導入部13からの原料ガスは、原料ガス導入部13から放射状に吹き出し、基板5の成長面に対して水平に供給されるが、このような形態に限定されることはない。基板ホルダー6には、ヒータ11からの熱を基板5に均一に熱を伝達するために均熱板7を設けてもよい。気相成長反応中、サセプタ8を常時回転させることが好ましく、サセプタ8の回転方向及び回転速度は、回転駆動器17の回転方向及び回転速度を変化させることにより、任意に設定することができる。各基板間において均一な膜厚及び膜質を得るためには、各基板ホルダー6を反応炉10の中心に対して同一円周上に配置して、原料ガス導入部13からの距離を等しくすることが好ましいが、特に限定されない。
【0024】
天井部1(反応容器3)及び冷却容器4を構成する材質には、金属又は合金が挙げられるが、これらの材質に限定されることはない。天井部1(反応容器3)は、反応容器3内部が高温になり、内部に反応性又は腐食性の原料ガスが流通され、反応炉10を外気から遮断し、気相成長反応を制御するために反応炉10の圧力を減圧、常圧または加圧に変化させる場合があるので、その材質は耐熱性、耐食性及び強度を備えた金属又は合金であることが好ましいが、これらの材質に限定されることはない。冷却容器4は、冷却容器4の内部に流通される冷媒が高温になることが想定されるので、その材質は耐熱性、耐食性及び強度を備えた金属又は合金であることが好ましいが、これらの材質に限定されることはない。基板ホルダー6、サセプタ8、サセプタの対面9及び回転板19は、カーボン系材料又はカーボン系材料をセラミック材料でコーティングしたものが好ましいが、特に限定されない。回転駆動軸18は、金属、合金、金属酸化物、カーボン系材料、セラミック系材料、カーボン系材料をセラミック材料でコーティングしたもの、又はこれらの組み合わせが好ましいが、特に限定されない。ヒータ11はカーボンヒータ又はセラミックヒータが好ましいが、これらのヒータに限定されることはない。電流導入端子本体12a及び受電部12dは導電性を有する金属又は合金であることが好ましく、管部12c及びフランジ部12hは金属又は合金であることが好ましく、絶縁材12eは電気絶縁性を有する樹脂又はセラミック材料であることが好ましいが、これらの材質に限定されることはない。ベアリング15は、セラミック材料であることが好ましいが、セラミック材料に限定されることはない。冷媒流通管23は、電気絶縁性を有する樹脂であることが好ましいが、電気絶縁性を有する樹脂に限定されることはない。シール材28は、金属、合金又は樹脂であることが好ましいがこのような材質に限定されることはない。
【0025】
ここで、樹脂の例には、ガラスエポキシ又はフッ素樹脂等があるが、これらに限定されることはない。フッ素樹脂の例には、テフロン(登録商標)又はバイトン(登録商標)等があるが、これらに限定されることはない。金属の例には、アルミニウム、ニッケル又は銅等があるが、これらに限定されることはない。合金の例には、ステンレス又はインコネル等があるが、これらに限定されることはない。カーボン系材料の例には、カーボン、パイオロリティックグラファイト(PG)、グラッシカーボン(GC)等があるが、これらに限定されることはない。セラミックス系材料の例には、アルミナ、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si)、窒化ホウ素(BN)等があるが、これらに限定されることはない。
【0026】
天井部1(反応容器3)及び冷却容器4を構成する材質はステンレスが特に好ましい。電流導入端子本体12aは、ステンレス製、銅製又はニッケル製が特に好ましく、ニッケル製が最も好ましい。管部12c及びフランジ部12hはステンレス製、受電部12dは銅製、絶縁材12eはガラスエポキシ製又はアルミナ製であることが特に好ましい。基板ホルダー6、サセプタ8、サセプタの対面9及び回転板19は、SiCコートカーボン、ヒータ11はカーボンヒータ、ベアリング15はアルミナ、回転駆動軸18はステンレス、冷媒流通管23はテフロン(登録商標)、シール材28は銅又はバイトン(登録商標)であることが特に好ましい。
【実施例】
【0027】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明がこれらにより限定されるものではない。
【0028】
[実施例1]
(気相成長装置の製作)
図1、3、5〜7、9、10に示すような気相成長装置を製作した。サセプタ8(SiCコートカーボン製、直径720mm、厚さ11mm、6インチの基板を6枚保持可能)を製作し、直径6インチのサファイア基板を1枚保持可能である基板ホルダー6(SiCコートカーボン製)6個を上記のサセプタ8により保持した。
【0029】
電流導入端子本体12aは、長さ方向に垂直な断面が直径13mmの円形であり、長さ182mmのニッケル棒である。このような電流導入端子本体12aの上記断面と同心円状に凹形の空間部12b(長さ方向に垂直な断面が直径8mmの円形、長さ160mm)を設け、さらに、管部12c(長さ方向に垂直な断面が外径4mm、肉厚1mmの円環状であるステンレス製の管)、受電部12d(銅製)、絶縁材12e(外径26mm、肉厚6.5mm、長さ38mmの円筒形、アルミナ製)、フランジ部12h(直径70mm、厚さ13mm、ステンレス製)を設けて電流導入端子12を製作した。凹形の空間部12bの側面と管部12cの間、及び管部12cのヒータ11側の一端と凹形の空間部12bの底面の間には、2mmの間隙が生じた。凹形の空間部12bの開口部を冷媒の流路21の冷媒入口12fとし、管部12cの別の一端を冷媒出口12gとした。
【0030】
天井部1に、その表面から64mm突出した突出部1aを設け、突出部1aの突出方向に直径26mmの貫通孔を設けた。前述のようにして製作した電流導入端子12をこの貫通孔に挿着し、固定ネジ(図示しない)を用いてフランジ部12hを銅製のシール材28を介して天井部1に固定した。電流導入端子12の絶縁材12eが貫通孔の側面に接し、電流導入端子本体12aと突出部1aの側面の間に6.5mmの間隙が生じ、電流導入端子12が天井部1から電気絶縁された。電流導入端子12の受電部12dには、外部の電源(図示しない)からの電流を供給する給電線26を給電線固定ボルト25で固定した。さらに電流導入端子本体12aにはヒータ固定ネジ27によりカーボンヒータ11を接続した。
【0031】
(絶縁抵抗測定)
このような気相成長装置を用いて、電流導入端子12の絶縁抵抗測定を行った。まず、1個のヒータ11に接続された2個の電流導入端子12を1組とし、任意の1組の電流導入端子12を選択した。この1組の電流導入端子12を、冷媒流通管23(テフロン(登録商標)製、外径6mm、内径4mm、長さ0.5m)で直列し、残った冷媒入口(12f)及び冷媒出口(12g)それぞれに冷媒流通管23(テフロン(登録商標)製、外径6mm、内径4mm、長さ1.2m)を接続し、それぞれの冷媒流通管23にステンレス製の接地配管(図示しない)を接続した。このようにして直列された1組の電流導入端子12の任意の一方を選択し、電流導入端子本体12aと気相成長装置の接地極(図示しない)の間に絶縁抵抗測定器を接続し、電流導入端子本体12aと接地配管の接地極(図示しない)の間に別の絶縁抵抗測定器を接続した。
【0032】
次に、室温の水道水を冷媒として用い、これを各電流導入端子12に1L/min、冷却容器4に19L/minの流量で流通させ、測定が終了するまで水の流通を継続し、反応容器3内を大気圧に保った。このとき、電流導入端子本体12a、及び気相成長装置の接地極に接続した絶縁抵抗測定器の示す絶縁抵抗値は1MΩ以上(レンジオーバー)であり、電流導入端子本体12a、及び接地配管の接地極に接続した絶縁抵抗測定器の示す絶縁抵抗値は5MΩであった。
そして、原料ガス導入部13から水素を流しながらヒータ11の温度を1180℃まで昇温させ、60分間保持した。保持後、電流導入端子12の温度は27℃で安定し、電流導入端子12の冷媒出口12gにおける冷媒温度は28℃で安定した。また、電流導入端子本体12a、及び気相成長装置の接地極に接続した絶縁抵抗測定器の示す絶縁抵抗値は0.6MΩで安定し、電流導入端子本体12a、及び接地配管の接地極に接続した絶縁抵抗測定器の示す絶縁抵抗値は1MΩで安定した。
【0033】
(気相成長実験)
このような気相成長装置を用いて、基板5の表面に窒化ガリウム(GaN)を成長させた。まず、室温の水道水を冷媒として用い、これを各電流導入端子12に1L/min、冷却容器4に19L/minの流量で流通させ、測定が終了するまで水の流通を継続し、反応容器3内を大気圧に保った。
【0034】
次に、原料ガス導入部13から水素を流しながらヒータ11の温度を1050℃まで昇温させ、基板5のクリーニングを行った。続いて、ヒータ11の温度を510℃まで下げて、原料ガスとしてトリメチルガリウム(TMG)とアンモニア、キャリアガスとして水素を用いて、基板上にGaNからなる膜厚20μmのバッファー層の成長を行い、バッファー層成長後に、TMGのみ供給を停止し、ヒータ11の温度を1050℃まで上昇させた。その後、原料ガス導入部13から、TMGとアンモニアの他に、キャリアガスとして水素と窒素を供給して、アンドープGaNの成長を1時間行った。アンドープGaN成長終了直前、電流導入端子12の温度は27℃であり、電流導入端子12の冷媒出口12gにおける冷媒温度は28℃であり、冷却容器4の冷媒出口31における冷媒温度は38℃であった。アンドープGaNの成長が終了した後、基板5を室温付近まで放冷させ、反応容器3から取り出した。
【0035】
以上のようなGaNの気相成長を10回繰り返したが、すべての成長において気相成長装置は正常に作動し、ヒータ11に接続された電源及び電流制御装置等の外部の機器に異常はなく、漏電等の異常もなかった。次に、電流導入端子12を気相成長装置から取り外して点検したが、変色、腐食等の異常も確認されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、熱CVD法等のための気相成長装置として好適であり、特に、青色又は紫外の発光ダイオード又はレーザーダイオード等の製造に用いられるIII族窒化物半導体の気相成長装置として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の気相成長装置の一例を示す垂直断面構成図である。
【図2】本発明の気相成長装置の図1と別の一例を示す垂直断面構成図である。
【図3】図1に示すA部の部分拡大図であって電流導入端子及びその周辺の態様を示す図である。
【図4】図1に示すA部の部分拡大図であって電流導入端子及びその周辺の図3と別の態様を示す図である。
【図5】図1のB−B水平断面構成図である。
【図6】図1、図2のC−C水平断面構成図である。
【図7】図1、図2のD−D水平断面構成図である。
【図8】図2のB’−B’水平断面構成図である。
【図9】図3のE−E水平電面構成図である。
【図10】図3のF−F水平電面構成図である。
【符号の説明】
【0038】
1 天井部
1a 突出部
2 側壁部
3 反応容器
4、4’ 冷却容器
5 基板
6 基板ホルダー
7 均熱板
8 サセプタ
9 サセプタの対面
10 反応炉
11 ヒータ
12 電流導入端子
12a 電流導入端子本体
12b 凹形の空間部
12c 管部
12d 受電部
12e 絶縁材
12f 冷媒入口
12g 冷媒出口
12h フランジ部
13 原料ガス導入部
14 反応ガス排出部
15 ベアリング
16 ベアリング溝
17 回転駆動器
18 回転駆動軸
19 回転板
20 架台
21 冷媒の流路
22、22’ 開口蓋
23 冷媒流通管
24 接続継手
25 給電線固定ボルト
26 給電線
27 ヒータ固定ネジ
28 シール材
29 冷媒の流れ
30 冷媒入口
31 冷媒出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を加熱するためのヒータ、及び該ヒータに通電する電流導入端子を備えた気相成長装置であって、該電流導入端子の内部に冷媒の流路が設けられ、導電性の電流導入端子本体に該冷媒が接触可能となるように構成されてなることを特徴とする気相成長装置。
【請求項2】
電流導入端子が、天井部に設けられた貫通孔に挿着されている請求項1に記載の気相成長装置。
【請求項3】
電流導入端子が、天井部に着脱可能に挿着されている請求項2に記載の気相成長装置。
【請求項4】
側壁部と電流導入端子の間及び/または電流導入端子と電流導入端子の間に、冷媒が流通する冷却容器を備えた請求項1に記載の気相成長装置。
【請求項5】
天井部が、複数の電流導入端子及び/または複数の冷却容器を装着した複数の開口蓋を備えた請求項4に記載の気相成長装置。
【請求項6】
冷媒が水である請求項1に記載の気相成長装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−115281(P2013−115281A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261141(P2011−261141)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000229601)日本パイオニクス株式会社 (96)
【Fターム(参考)】