説明

水中油型乳化物

【課題】脂肪分が35質量%以下の水中油型乳化物において、加熱調理しても適度な粘度を有する水中油型乳化物を提供する。
【解決手段】15〜35質量%の脂肪分、無脂乳固形分、乳化剤および水を含有する水中油型乳化物であって、加工デンプンを0.1〜2.5質量%含有することを特徴とする水中油型乳化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中油型乳化物に関し、更に詳細には、加熱調理しても適度な粘度を有する水中油型乳化物に関する。
【背景技術】
【0002】
生クリーム等の水中油型乳化物は、カルボナーラ等のソース等の加熱調理に利用されているが、加熱調理をすると粘度が低くなるために、ソースの麺の絡みが悪かったり、食後の皿にソースが多く残ってしまう等の問題があった。
【0003】
生クリーム等の水中油型乳化物うち、脂肪分が40%質量以上のものは風味や作業性の観点から調理にはあまり使用されず、脂肪分が30〜35質量%程度のものが広く使用されている。しかし、脂肪分が30〜35質量%程度の水中油型乳化物は、元々の低温下での粘度が低く、更に加熱や塩分の存在により粘度が低下してしまうため、加熱調理には向いていない等の問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、脂肪分が35質量%以下の水中油型乳化物において、加熱調理しても適度な粘度を有する水中油型乳化物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、15〜35質量%の脂肪分を含有する水中油型乳化物に加工デンプンを特定量で含有させることにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は15〜35質量%の脂肪分、無脂乳固形分、乳化剤および水を含有する水中油型乳化物であって、更に加工デンプンを0.1〜2.5質量%含有することを特徴とする水中油型乳化物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水中油型乳化物は、加熱や塩分の存在により粘度が低下しすぎず適度な粘度を有するため加熱調理に適している。
【0008】
また、本発明の水中油型乳化物は、通常のホイップ用途の水中油型乳化物と比較すると脂肪率が低く、かつ、乳化がより安定しており、ホイップには適さないが、ホイップ用途よりも乳化安定性が要求される加熱調理に適している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の水中油型乳化物は、15〜35質量%(以下、単に「%」という)の脂肪分、無脂乳固形分、乳化剤および水を含有する水中油型乳化物であって、加工デンプンを0.1〜2.5%含有するものである。
【0010】
本発明の水中油型乳化物に用いられる加工デンプンとしては、食品の分野において使用可能なものであれば特に制限なく用いることができ、例えば、ヒドロキシプロピルデンプン、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、酢酸デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、酸化デンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、リン酸架橋デンプン、リン酸化デンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン等の化学的処理による加工デンプン、焙焼デキストリン、酸処理デンプン、アルカリ処理デンプン、漂白デンプン等の物理的処理による加工デンプン、酵素処理デンプン等の酵素的処理による加工デンプンが挙げられる。これらの加工デンプンの中でもヒドロキシプロピルデンプンが、水中油型乳化物に含有させた場合、加熱や塩分の存在により粘度が低下しすぎず飲食に適度な粘度を有するため好ましい。これらの加工デンプンは本発明の水中油型乳化物に0.1〜2.5%、好ましくは0.6〜1.7%含有させる。
【0011】
本発明の水中油型乳化物に用いられる脂肪分は、乳脂肪分および/または植物性脂肪分からなるものであり、好ましくは乳脂肪分または乳脂肪分および植物性脂肪分からなるものである。また、脂肪分における乳脂肪分と植物性脂肪分の割合は特に限定されない。乳脂肪分としては、食品の分野において使用可能なものであれば特に制限なく用いることができ、例えば、クリーム、バター、牛乳等の動物性油脂由来の脂肪分が挙げられる。また、植物性脂肪分としても、食品の分野において使用可能なものであれば特に制限なく用いることができ、例えば、パーム油、パーム分別油、パーム核油、ヤシ油、菜種油、大豆油等の植物性油脂由来の脂肪分が挙げられる。更に、これらの脂肪分は本発明の水中油型乳化物に15〜35%、好ましくは20〜32%含有させる。
【0012】
本発明の水中油型乳化物に用いられる無脂乳固形分としては、食品の分野において従来より使用されているものであれば特に制限なく用いることができ、例えば、牛乳由来の脱脂乳、脱脂粉乳、脱脂濃縮乳等が挙げられる。また、無脂乳固形分は本発明の水中油型乳化物に4〜10%、好ましくは5〜8%含有させる。
【0013】
本発明の水中油型乳化物に用いられる乳化剤は、食品用のものであれば特に限定されないが、例えば、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。これら乳化剤は1種または2種以上を組み合わせても良い。また、これらの乳化剤は本発明の水中油型乳化物に0.1〜1.0%、好ましくは0.15〜0.8%含有させる。
【0014】
本発明の水中油型乳化物において水は、脂肪分および無脂乳固形分の濃度を調整するため、適当量を含有させればよい。
【0015】
更に、本発明の水中油型乳化物には、本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分の他に、香料、着色料、保存料、安定剤等を添加することもできる。
【0016】
本発明の水中油型乳化物は、15〜35%の脂肪分、無脂乳固形分、乳化剤、水および0.1〜2.5%加工デンプンを、常法に従い、容器内やライン内で溶解・混合等させ、更に、乳化や均質化することにより製造することができる。
【0017】
具体的に、乳脂肪分および植物性脂肪分からなる脂肪分15〜35%と無脂乳固形分、乳化剤、水、0.1〜2.5%の加工デンプンを含有する水中油型乳化物は、次のようにして製造することができる。まず、容器に植物性脂肪分以外の全成分を入れ、これを混合した後、55℃〜60℃に加温したものに、植物性脂肪分を添加する。次いで、これを70℃〜75℃に加温し15分〜60分保持する。その後、10〜20Kg/cmの圧力で均質化し、更に115℃〜125℃にて2秒〜4秒間殺菌する。殺菌後、55℃〜75℃まで冷却し、25〜35Kg/cmの圧力で均質化し、更に3℃〜10℃まで冷却することにより上記水中油型乳化物が製造される。
【0018】
また、乳脂肪分からなる脂肪分15〜35%と無脂乳固形分、乳化剤、水、0.1〜2.5%の加工デンプンを含有する水中油型乳化物は、次のようにして製造することができる。まず、容器に全成分を入れ、乳化剤が十分に分散するまで10℃〜20℃で低速で撹拌する。撹拌後、これをラインに流し、65℃〜75℃まで加温し、10〜30Kg/cmの圧力で均質化し、更に115℃〜125℃にて2秒〜4秒間殺菌する。殺菌後、60℃〜80℃まで冷却し、90〜110Kg/cmの圧力で均質化し、更に3℃〜10℃まで冷却することにより上記水中油型乳化物が製造される。
【0019】
斯くして得られる本発明の水中油型乳化物は、加熱調理しても適度な粘性を有する。具体的に、加熱調理しても適度な粘性を有するとは、本発明の水中油型乳化物のB型粘度計で測定される85℃における粘度が40cP〜140cPあることをいい、好ましくは60cP〜120cPあることをいう。また、本発明の水中油型乳化物は0.1〜1.5%、好ましくは0.5〜1.2%の塩分が存在していても上記粘度を維持できる。更に、本発明の水中油型乳化物は起泡性がないため、ホイップ用途には適さないが、乳化安定性に優れるので調理用途には適している。なお、本明細書において起泡性がないとは卓上のホイッパー等で20分程度ホイップしてもホイップクリームとならないことをいう。
【0020】
そのため、本発明の水中油型乳化物は、ホイップ用途以外で従来生クリーム等が用いられてきた各種用途に用いることができる上、加熱した後も適度な粘性を有することが必要な各種料理にも好適に用いることができる。
【0021】
また、本発明の水中油型乳化物は、加熱調理の際に塩分が存在していても適度な粘度を有するため、特に塩分で味を調製したパスタ、グラタン、クリーム煮等の各種ソース等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0023】
実 施 例 1
水中油型乳化物(1):
表1の組成の水中油型乳化物を次のようにして製造した。まず、仕込みタンクにて植物性脂肪分以外の成分を混合し、60℃まで加温した。次いで、これに植物性脂肪分を添加した後、70℃まで加温し15分保持した。その後、均質機で15Kg/cmの圧力で均質化し、更に殺菌プレートで121℃で4秒間殺菌した。殺菌後、プレートで65℃まで冷却し、均質機で30Kg/cmの圧力で均質化し、更にプレートで3℃まで冷却して水中油型乳化物を得た(実施品1)。
【0024】
【表1】

【0025】
比 較 例 1
水中油型乳化物(1):
実施例1において加工デンプン0.7%を微結晶セルロース0.8%にする以外は同様にして比較水中油型乳化物を製造した(比較品1)。
【0026】
試 験 例 1
加熱試験:
実施例1で得られた水中油型乳化物(実施品1)、比較例1で得られた水中油型乳化物(比較品1)、乳脂肪分35%の生クリーム(比較品2)または乳脂肪分32%の加工デンプンを含有しない水中油型乳化物(比較品3)の200gをそれぞれ鍋に取り、加熱して180gになるまで濃縮した。これらの85℃における粘度をB型粘度計(内筒回転型粘度計:東京計器製)を用いて測定した。また、加熱前の10℃の粘度も同様にした測定した。更に、加熱の際に2gの塩を添加したものについても同様に加熱を行い粘度を測定した。これらの結果を表2に示した。
【0027】
【表2】

【0028】
実施品1は、脂肪の含有率が比較品2、3と比較して低いにもかかわらず、加熱時の粘度が最も高かった。比較品1では微結晶セルロースの添加量が実施品1のヒドロキシプロピルデンプンと比較して高いにも関わらず、加熱時の粘度が実施例1よりも低かった。
【0029】
実 施 例 2
水中油型乳化物(2):
表3の組成の水中油型乳化物を次のようにして製造した。まず、仕込みタンクで原材料を加熱せずに全て混合し、乳化剤が分散するまで20℃以下で低速で攪拌した。撹拌後、仕込みタンクではそのまま加熱せずに、ラインに流し、プレートにて70℃まで加温し、均質機にて20Kg/cmの圧力で均質化し、更に殺菌プレートで125℃にて2秒間殺菌した。殺菌後、70℃まで冷却し、均質機で100Kg/cmの圧力で均質化し、更に5℃まで冷却して水中油型乳化物を得た(実施品2)。
【0030】
【表3】

【0031】
試 験 例 2
調理試験:
実施例1で得られた水中油型乳化物(実施品1)、実施例2で得られた水中油型乳化物(実施品2)、乳脂肪分35%の生クリーム(比較品2)または乳脂肪分32%の加工デンプンを含有しない水中油型乳化物(比較品3)を用い、常法に従ってカルボナーラを調理した。このカルボナーラについてソースの麺への絡みおよび食後の皿へのソースの残りをパネラー6名で以下の評価基準により評価した。これらの結果を表4に示した。
【0032】
<ソースの麺への絡み評価基準>
(評価) (内容)
◎ :ソースが麺に良く絡んでいた。
〇 :ソースが麺に絡んでいた。
△ :ソースが麺にあまり絡まない。
× :ソースが麺にほとんど絡まない。
【0033】
<食後の皿へのソース残り評価基準>
(評価) (内容)
◎ :ソースが食後の皿に残っていなかった。
〇 :ソースが食後の皿にほとんど残っていなかった。
△ :ソースが食後の皿に残っていた。
× :ソースが食後の皿に多量に残っていた。
【0034】
【表4】

【0035】
以上の結果より、実施品1および実施品2を用いたカルボナーラはソースの粘度が高いためソースの麺への絡みが良く、食後の皿へのソース残りもなかった。一方、比較品2および比較品3を用いたカルボナーラはソースの粘度が低いため麺への絡みが悪く、食後の皿にソースの大部分が残っていた。
【0036】
試験例1および試験例2の結果より、本発明の水中油型乳化物は、加熱調理しても適度な粘度を有するため、脂肪分が35%の生クリームや乳脂肪分32%の加工デンプンを含有しない水中油型乳化物よりも加熱調理に適していることがわかった。
【0037】
試 験 例 3
起泡試験:
実施品1または実施品2の500gを卓上ホイッパー(HOBART製)で20分程度ホイップしたが、ホイップクリームにはならなかった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の水中油型乳化物は従来生クリーム等が用いられていた各種用途に好適に用いることができる。

以 上

【特許請求の範囲】
【請求項1】
15〜35質量%の脂肪分、無脂乳固形分、乳化剤および水を含有する水中油型乳化物であって、更に加工デンプンを0.1〜2.5質量%含有することを特徴とする水中油型乳化物。
【請求項2】
加工デンプンが、ヒドロキシプロピルデンプンである請求項1記載の水中油型乳化物。
【請求項3】
乳化剤を0.1〜1.0%含有するものである請求項1または2記載の水中油型乳化物
【請求項4】
加熱調理用である請求項1〜3の何れかに記載の水中油型乳化物。
【請求項5】
脂肪分が、乳脂肪分および/または植物性脂肪分からなるものである請求項1〜4の何れかに記載の水中油型乳化物。


【公開番号】特開2012−244935(P2012−244935A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118955(P2011−118955)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(591152584)高梨乳業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】