水中測位システムおよび水中測位方法
【課題】SBL方式の双曲線航法で測位対象物の測位を精度良く行う。
【解決手段】測位対象物に設けられたピンガ5から発せられた音響信号を含む音響信号をハイドロフォン1〜4で受信してAD変換器10でデジタル信号に変換(入力信号)する。入力信号は直交検波、デシメーション、帯域制限の各処理が施される。信号検出部20は、各処理の施された入力信号にピンガ5から発信された音響信号に対応するデジタル信号が含まれるか否かを検出する。これが検出された場合に、到達時間差算出部24が、相異なる入力信号間でラグ値ごとに相関関数演算を行い、この演算結果のピーク値を与えたラグ値から、相異なる2個のハイドロフォンによって受信したピンガ5からの音響信号の到達時間差を求める。この到達時間差を用いてピンガの位置が特定される。
【解決手段】測位対象物に設けられたピンガ5から発せられた音響信号を含む音響信号をハイドロフォン1〜4で受信してAD変換器10でデジタル信号に変換(入力信号)する。入力信号は直交検波、デシメーション、帯域制限の各処理が施される。信号検出部20は、各処理の施された入力信号にピンガ5から発信された音響信号に対応するデジタル信号が含まれるか否かを検出する。これが検出された場合に、到達時間差算出部24が、相異なる入力信号間でラグ値ごとに相関関数演算を行い、この演算結果のピーク値を与えたラグ値から、相異なる2個のハイドロフォンによって受信したピンガ5からの音響信号の到達時間差を求める。この到達時間差を用いてピンガの位置が特定される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に存在する物体の位置を知る測位システムおよび水中測位方法に関する。より詳しくは、双曲線航法による測位システムおよび水中測位方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、漁業分野や海洋調査などで漁具や海洋調査機器の水中における三次元位置をリアルタイムで測定するシステムが要求され始めている。これまでは、例えば漁具類の海中での状態は、模型網などを水槽で展開しその動きを解析して、実際の海中での状態を推定していた。しかし、実海域での操漁における漁具類の状態は、天候や海流などに大きく影響され、水槽実験における状態とは異なった状態となっていることが指摘されている。また、例えば魚類や無人探査機(Remotely Operated Vehicle)の行動把握においても、一般的に行動範囲が広く、追尾可能にその位置把握をすることが求められる。
【0003】
このような水中に存在する物体の位置の把握には、淡水、海水、汽水などの水質に関係なく、音響信号を利用した測位システムが一般的に採用されている。
ここで『水中に存在する物体』とは、静止物体に限らず移動体を含み、移動体はそれ自体が例えば魚類などのように自律的に移動可能な物体に限定されず、例えば漁具などのように水流に任せて移動するような物体などをも含む。また、それ自体は静止している静止物体であっても、これを測位する者が移動しているような場合は、この静止物体も相対的に移動体と看做せることに留意しなければならない。さらに『水中』とは、海、川、湖沼を問わずその水中を指す。本明細書では、『水中に存在する物体』を上記のような物体として理解し、以下、『測位対象物』ということにする。
【0004】
このような測位システムでは、測位対象物にピンガと呼ばれる音響信号発信機を装着し、その発信音を3箇所以上に設けた受信器で受信することで、測位対象物の位置を求めることが行われる(例えば特許文献1参照。)。
【0005】
あるいは、トランスポンダと呼ばれる音響信号装置を例えば海底に複数配置し、測位対象物にはレスポンダと呼ばれる音響信号装置を装着する測位システムもある(例えば特許文献2参照。)。この測位システムでは、トランスポンダから発信された応答要求音響信号を受信したレスポンダが応答音響信号を発信し、この応答音響信号をトランスポンダで受信し、各トランスポンダの敷設位置と、応答要求音響信号を発信してから応答音響信号を受信するまでの時間とから、レスポンダの位置、つまり測位対象物の位置を求める。また、例えば無人探査機などの測位対象物自体でその現在位置を求めたい場合には、測位対象物にトランスポンダを備え、海底に複数のレスポンダを敷設した測位システムを構成することが行われている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−245779号公報
【特許文献2】特開2002−122656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
トランスポンダやレスポンダを用いた従来の測位システムでは、一般的にトランスポンダやレスポンダが海底などに固定して敷設されており、トランスポンダやレスポンダが敷設された海域が測位可能な範囲となっていた。従って、測位可能な海域外に測位対象物が移動した場合などでは、測位対象物の位置を求めることが困難であった。また、より広範囲の測位可能な海域を設定しようとすれば、多大な費用がかかるなどの問題もあった。さらに、トランスポンダやレスポンダは、一般的に、音響信号の発信手段のみならずその受信手段や例えば各トランスポンダ間でお互いの時計を同期するための時刻同期手段などを含むため、相当程度の大きさを有し、測位対象物が小型の場合や魚類などの場合には、トランスポンダやレスポンダを装着することが困難であった。
【0008】
また、ピンガを用いた従来の測位システムでは、ピンガに例えば音響信号の発信時刻情報を発生するための時計回路やピンガの深度を計測するための深度計測手段などを搭載した場合には、上記同様、測位対象物が小型の場合や魚類などにピンガを装着することが困難であった。
【0009】
一方、ピンガに時計回路や深度計測手段などを搭載しない場合には、それぞれ異なる受信器によって受信したピンガからの音響信号の到達時間差からピンガの位置を求める。このため、有意な到達時間差を検出できるように、各受信器を、それぞれの間隔を相当程度に離して設置するのが一般的である。つまり、いわゆるLBL(Long Base Line)方式の双曲線航法でピンガの位置を求める。このような測位システムの場合、各受信器が例えば別々の船体やブイ(buoy)に設けられることになり、各受信器の位置の特定が別途必要になる上、測位対象物の移動に合わせた追尾の機動性が失われる。
【0010】
以上の諸問題からすると、SBL(Short Base Line)方式の双曲線航法でピンガの位置を求めることが望まれる。SBL(Short Base Line)方式の双曲線航法であれば、受信器とピンガとの間で時刻同期の必要が無く、さらに例えば1つの船体で複数の受信器を備える構成とすることが可能であり測位対象物の追尾にも優れ、あるいは測位対象物の追尾が不要の場合でも大規模な範囲で受信器を設置する必要が無いからシステム構築にかかる費用を低減できる。
【0011】
しかしながら、SBL方式では、受信器間の基線長が例えば数メートル程度と短いため、有意の到達時間差を得ることが難しく、LBL方式の場合と同程度の測位精度を得ることが難しい。
【0012】
そこで本発明は、SBL(Short Base Line)方式の双曲線航法で測位対象物の測位を行う測位精度の良い水中測位システムおよび水中測位方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明では、水中に存在する物体(測位対象物)に設けられた、音響信号を水中に発する発信手段と、少なくとも3個の、上記発信手段から発せられた音響信号を含む音響信号を受信可能な受信手段と、相異なる2個の上記受信手段によって受信した上記発信手段からの音響信号の到達時間差を算出するとともに、上記受信手段の組み合わせを異にした相異なる2個の上記受信手段間で得られた複数の上記到達時間差を用いて、上記測位対象物の位置を特定する位置特定手段とを備えた水中測位システムであって、上記各受信手段によって受信された音響信号をデジタル信号である入力信号に変換するAD変換器を備えており、上記位置特定手段は、上記各受信手段によって受信された音響信号それぞれに対応する上記各入力信号に、上記発信手段から発信された音響信号に対応するデジタル信号が含まれるか否かを検出する信号検出手段と、上記発信手段から発信された音響信号に対応するデジタル信号が上記信号検出手段によって検出された場合に、上記各受信手段によって受信された音響信号それぞれに対応する相異なる上記入力信号間でラグ値ごとに相関関数演算を行い、この演算結果のピーク値を与えたラグ値から、相異なる2個の上記受信手段によって受信した上記発信手段からの音響信号の到達時間差を求める到達時間差算出手段とを含む水中測位システムとされる。
【0014】
このように、デジタル信号処理を行うとし、さらに、発信手段から発信された音響信号に対応するデジタル信号が信号検出手段によって検出された場合に、各受信手段によって受信された音響信号それぞれに対応する各入力信号間でラグ値ごとに相関関数演算を行うことで、AD変換器のサンプリングレートに準じた分解能を実現できるものとなっている。
【0015】
また、位置特定手段は、上記AD変換器のサンプリングレートよりも低いサンプリングレートで、上記各入力信号のデシメーションを行うデシメーション手段を含むとして、さらに上記信号検出手段が、上記各受信手段によって受信された音響信号それぞれに対応する、上記デシメーション手段によってデシメーションされた上記各入力信号に、上記発信手段から発信された音響信号に対応するデジタル信号が含まれるか否かを検出するものとしてもよい。
これは、発信手段から発信された音響信号に対応するデジタル信号が含まれるか否かの信号検出に先立ち、デシメーションを行うことで信号検出精度を良くする。この場合、相関関数演算に用いる入力信号のサンプリングレートは、信号検出に用いるデシメーションされた入力信号のサンプリングレートよりも大であるから、精度の良い到達時間差算出が担保される。
【0016】
また、本発明の水中測位方法は、水中に存在する物体(測位対象物)に設けられた発信手段によって、音響信号を水中に発する発信ステップと、上記発信手段から発せられた音響信号を含む音響信号を受信可能な、少なくとも3個の、受信手段によって、音響信号を受信する受信ステップと、相異なる2個の上記受信手段によって受信した上記発信手段からの音響信号の到達時間差を算出するとともに、上記受信手段の組み合わせを異にした相異なる2個の上記受信手段間で得られた複数の上記到達時間差を用いて、上記測位対象物の位置を特定する位置特定ステップとを有する水中測位方法であって、上記受信ステップにおいて受信された音響信号をAD変換器によってデジタル信号である入力信号に変換するAD変換ステップを有し、上記位置特定ステップは、上記各受信手段によって受信された音響信号それぞれに対応する上記各入力信号に、上記発信手段から発信された音響信号に対応するデジタル信号が含まれるか否かを検出する信号検出ステップと、上記発信手段から発信された音響信号に対応するデジタル信号が上記信号検出ステップにおいて検出された場合に、上記各受信手段によって受信された音響信号それぞれに対応する相異なる上記入力信号間でラグ値ごとに相関関数演算を行い、この演算結果のピーク値を与えたラグ値から、相異なる2個の上記受信手段によって受信した上記発信手段からの音響信号の到達時間差を求める到達時間差算出ステップとを含む方法とされる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、受信手段で受信した音響信号に対してデジタル信号処理を行うとし、さらに、発信手段から発信された音響信号に対応するデジタル信号が信号検出手段によって検出された場合に、各受信手段によって受信された音響信号それぞれに対応する各入力信号間でラグ値ごとに相関関数演算を行うことで、AD変換器のサンプリングレートに準じた分解能を実現できるものとなっているから、各受信手段間の基線長が短いSBL方式の双曲線航法であっても、精度の良い測位が実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
まず、本発明の水中測位システムは、SBL方式の双曲線航法で測位対象物の位置を求めるものである。SBL方式では、複数の受信手段(例えばハイドロフォン〔超音波受波器〕とする。)が、異なる2つハイドロフォン間の基線長がそれぞれ数メートル程度になるように配置される。ハイドロフォンの個数は、既知の情報の種類・数や必要とする情報の種類・数などによって変わりえる。例えば、ピンガ側とハイドロフォン側とで時刻が精確に同期していない場合であってピンガの3次元位置を知りたい場合には、最低4個のハイドロフォンが用いられる。また、ピンガ側とハイドロフォン側とで時刻が精確に同期していない場合であってピンガの2次元位置を知りたい場合は、最低3個のハイドロフォンが用いられる。以下の説明では、3次元位置を測定する場合を例に4個のハイドロフォンを用いた測位システム・方法を説明する。3個のハイドロフォンを用いて2次元位置を測位する場合は、下記説明のハイドロフォン(4)およびインデックスi、jにおいて4を除外して理解すればよい。
【0019】
図1は、発信手段であるピンガ(5)および4個の受信手段であるハイドロフォン(1)〜(4)の位置関係を示したものである。4個のハイドロフォン(1)〜(4)は必ずしも同一平面上に在る必要はない。ピンガ(5)から発せられた音響信号(この実施形態では超音波パルスとする。)は、各ハイドロフォン(1)〜(4)で受信される。そして、SBL方式では、例えばハイドロフォン(1)およびハイドロフォン(2)によって受信したピンガ(5)からの超音波パルスの到達時間差、ハイドロフォン(1)およびハイドロフォン(3)によって受信したピンガ(5)からの超音波パルスの到達時間差、ハイドロフォン(1)およびハイドロフォン(4)によって受信したピンガ(5)からの超音波パルスの到達時間差、の3つの到達時間差を用いて、これら到達時間差に相当する距離差から得られる3つの双曲面の交点が求めるピンガ(5)の位置となる〔双曲線航法〕。
【0020】
4個のハイドロフォン(1)〜(4)の位置座標をそれぞれ(xi,yi,zi)〔i=1,2,3,4〕、ピンガ(5)の位置座標を(x,y,z)とすると、ピンガ(5)から発せられた超音波パルスがi番目のハイドロフォン(i)に到達する時間tiは、式(1)で与えられる。cは、水中の音速である。
【数1】
【0021】
ハイドロフォン(1)およびハイドロフォン(j)によって受信したピンガ(5)からの超音波パルスの到達時間差Δtj1〔j=2,3,4〕は、式(2)で与えられる。
【数2】
【0022】
到達時間差Δtj1は、実際の計測値として得られる。そこで、計測した到達時間差からピンガ(5)の位置を求めるため、例えば逐次近似法によって、任意の初期位置を与えて繰り返し計算を行うことによってピンガ(5)の位置(x,y,z)を求めればよい。
【0023】
ここで、ピンガ(5)および各ハイドロフォン(1)〜(4)の位置座標は、各ハイドロフォン(1)〜(4)を例えば船体に設置した場合、船体座標を基準座標系として表すことができる。例えば、船首方向をx軸、右舷方向をy軸、垂直方向をz軸とする。なお、各ハイドロフォンをブイなどに設置する構成でもよく、要するに同一の物体に設置する構成であればよい。もちろん、短い基線長となる配置であれば良いから、各ハイドロフォンを別々の物体に設置する構成も可能である。しかしながら、測位対象物に対する追尾を考えれば機動的な構成とするのが好ましい上、同一物体上に全てのハイドロフォンを設置すれば基線長が不変となるから、基線長を計測する機器類の増設が不要となる観点から、同一の物体に全てのハイドロフォンを設置する構成が好ましいといえる。
【0024】
船体座標から地球座標への転換は、例えばGNSS(Global Navigation Satellite System)コンパスを用いて行うことができる。GNSSコンパスでは、船首方位だけでなく、船体の動揺(ローリング及びピッチング)も計測することができる。
【0025】
船体座標系において船首方向をx軸、右舷方向をy軸、垂直方向をz軸とし、船首方位をθc、船体のローリング角をθr、船体のピッチング角をθpとする。また、地球座標系において北方向をX軸、経度方向をY軸、鉛直方向をZ軸とする。
このとき、船首方位による船体座標系から地球座標系への座標変換は、式(3)および式(4)で与えられる。
【数3】
【0026】
また、船体のローリング角θr、船体のピッチング角θpは、それぞれ船体座標で計測されているので、地球座標系でのピッチング角θ′pは、式(5)で与えられる。
【数4】
【0027】
従って、ピッチングによる船体座標系から地球座標系への座標変換は、式(5)を用いて式(6)および式(7)で与えられる。式(6)で得られるXが地球座標系における測位対象物のX座標である。
【数5】
【0028】
また、ローリングによる船体座標系から地球座標系への座標変換は、式(8)および式(9)で与えられる。式(8)で得られるYが地球座標系における測位対象物のY座標であり、式(9)で得られるZが地球座標系における測位対象物のZ座標である。
【数6】
【0029】
SBL方式では、LBL方式に比べ、ピンガ(5)と各ハイドロフォン(1)〜(4)との距離(実線R1,R2,R3,R4)よりも基線長(破線B1,B2,B3,B4,B5,B6)は短い。従って、既述したとおり、測位対象物が各ハイドロフォンから遠方にある場合を考えれば明らかなように、例えば上記3つの到達時間差の間に有意な差異を認め難いことが多い。従って、従来のLBL方式の測位システムにおける時間差測定のような簡易な時間差の測定では、十分な測位精度を得ることができない。具体的には、従来では、ハイドロフォンで受信した超音波パルスをアナログアンプで増幅し、アナログフィルタでSN比を大きくし、信号受信時刻の差を到達時間差としていた。
【0030】
これに対して本発明では、受信手段である受信器(ハイドロフォン)で受信した音響信号に対してデジタル処理を行う。高速、実時間性が要求される測位システムでは、アナログ回路で到達時間差を計測していたが、近時、デジタル処理能力(CPUなどの演算処理装置の演算処理能力、バスの伝送性能、メモリの読み書き速度など)が飛躍的に向上しており、デジタル処理を行うことでも遜色の無い実時間性を確保できる。加えて、デジタル処理において実現するデジタルフィルタでは、アナログフィルタに比べ、急峻な遮断特性を容易に実現することができ、近接した周波数の異なるピンガを選択する自由度の増大およびSN比の改善効果によって、計測性能を向上できる。
【0031】
本実施形態の水中測位システムは、測位対象物に設けられた、音響信号を水中に発するピンガ(発信手段)と、ピンガから発せられた音響信号を含む音響信号を受信可能な4個のハイドロフォン(受信手段)と、相異なる2個のハイドロフォンによって受信したピンガからの音響信号の到達時間差を用いて、ピンガを装着された測位対象物の位置を特定する位置特定手段(50)とを備えた水中測位システムとされる〔図1、図2参照〕。
そして、測位対象物の位置特定を行う側においては、各ハイドロフォンによって受信された音響信号をデジタル信号である入力信号に変換するAD変換器を備えていて、上記の位置特定手段(50)は、各ハイドロフォンによって受信された音響信号それぞれに対応する各入力信号に、ピンガから発信された音響信号に対応するデジタル信号が含まれるか否かを検出する信号検出部(信号検出手段)と、ピンガから発信された音響信号に対応するデジタル信号が信号検出部によって検出された場合に、各ハイドロフォンによって受信された音響信号それぞれに対応する各入力信号間でラグ値ごとに相関関数演算を行い、この演算結果のピーク値を与えたラグ値から、相異なる2個の上記ハイドロフォンによって受信したピンガからの音響信号の到達時間差を求める到達時間差算出部(到達時間差算出手段)とを含むものとして構成される。
なお、より詳細には、本実施形態では、デジタル処理の構成要素として、直交検波を行う周波数ミキサ、デシメーションを行うデシメータ、デジタルフィルタであるローパスフィルタが明示的に位置特定手段(50)の構成要素となっている。
【0032】
以下、図2および図3を参照して、測位対象物の測位方法を説明する。
まず、ピンガ(5)が、例えば1秒間に1回程度に約10ms(ミリ秒)間、位置特定手段(50)とは非同期に、水中に音響信号を発信する(ステップS1)。そして、4個のハイドロフォン(1)〜(4)によって音響信号を受信する(ステップS2)。なお、ピンガは発信/非発信を交互に繰り返すから、各ハイドロフォンが受信する音響信号には、ピンガからの超音波パルスが含まれる場合もあれば含まれない場合もあることに留意しなければならない。
【0033】
次に、ハイドロフォンで受信された音響信号をAD変換する(ステップS3)。
AD変換を行うAD変換器(10)は、周知技術のものとして構成される。AD変換におけるサンプリング周波数(以下、サンプリングレートとも云う。)も任意に設定でき、例えば1MHzでサンプリングを行う。ハイドロフォンで受信された音響信号は、AD変換器(10)によってサンプリングされてデジタル信号としての入力信号si〔i=1,2,3,4であり、添え字iはハイドロフォンを示す符号に対応している。〕に変換される。
【0034】
次に、周波数ミキサ(12)(13)が、入力信号siに対して直交検波を行う(ステップS4)。
周波数ミキサ(12)(13)は、周知技術のものとして構成される。直交検波に用いる基準信号は、基準信号発生部(11)で発生されて、その周波数はピンガ(5)の周波数(市場において入手可能な一般的なピンガの周波数は、25kHz〜85kHz程度である。)と同じとされる。周波数ミキサ(12)からは基準周波数と同相成分であるI成分、周波数ミキサ(13)からは基準周波数と90°位相がずれた直交成分であるQ成分が出力される。なお、上記入力信号siは、メモリなどの記憶手段(図示せず。)に記憶保存される。
【0035】
次に、デシメータ(15)(16)が、周波数ミキサ(12)から出力されたI成分および周波数ミキサ(13)から出力されたQ成分のそれぞれに対してデシメーションを行う(ステップS5)。
デシメータ(15)(16)は、周知技術のものとして構成される。デシメータ(15)は、I成分に対して、デシメータ(16)はQ成分に対してデシメーションを行うが、このデシメーションでは、アンチエイリアシングを考慮したローパスフィルタによる帯域制限とダウンサンプリングが行われる。ダウンサンプリングの間引き率は任意に設定できる。
【0036】
続いて、デシメータ(15)から出力されたI成分およびデシメータ(16)から出力されたQ成分のそれぞれに対してローパスフィルタ(18)(19)による帯域制限を行う(ステップS6)。
ローパスフィルタ(18)(19)による帯域制限によってノイズや倍周波信号を除去される。以上の処理によって、ベースバンド信号のI成分およびQ成分を取り出す。
【0037】
以上のようにして、ハイドロフォンで受信された音響信号は、デジタル直交検波された上、ベースバンド信号のI成分およびQ成分として取り出され、I成分を実数部、Q成分を虚数部とする複素数に見立てて、振幅情報および位相情報のペアでこれらがメモリなどの記憶手段(図示せず。)に記憶保存される。I成分をI、Q成分をQとして代表すれば、振幅情報aはa=√(I2+Q2)で得られ、位相情報θはθ=tan−1(Q/I)で得られる。
【0038】
なお、以上では、アナログ直交検波の一般的な回路構成をデジタル直交検波にも適用した例で説明したが、例えば、ヒルベルト変換フィルタを用いて回路構成することもできる。記憶手段の記憶容量の節約の観点から、定期的に上記ステップS2〜S6の各処理を行い、記憶手段に記憶される振幅情報および位相情報を更新して、常に最新の振幅情報および位相情報が記憶保存されるようにしてもよい。この場合、記憶保存される振幅情報および位相情報の時間長は、少なくとも、ピンガ(5)の超音波パルスの発信時間よりも長くするのがよい。例えば、ピンガ(5)の超音波パルスの発信時間が10msであれば、記憶手段に記憶される振幅情報および位相情報は10msよりも長い20ms分になるようにする。
【0039】
また、上記ステップS1〜S6の各処理は、各ハイドロフォン(1)〜(4)で受信された音響信号についてそれぞれ同時に行われる(図2参照)。
【0040】
ここでは、本発明におけるデジタル処理の要点を説明したが、例えば上記ステップS2と上記ステップS3の各処理の間に信号の利得調整を行う処理を介入させてもよいし、AD変換における量子化など、上記説明の各処理に係る一般的なデジタル信号処理技術を測位システムの設計事項に応じて適用することも可能である。
【0041】
上記ステップS3の処理に続いて、信号検出部(20)が、記憶手段に記憶保存された所定時間長(上記の例では20ms分)の、ハイドロフォン(1)で受信された音響信号から得た振幅情報a1、ハイドロフォン(2)で受信された音響信号から得た振幅情報a2、ハイドロフォン(3)で受信された音響信号から得た振幅情報a3、ハイドロフォン(4)で受信された音響信号から得た振幅情報a4を用いて、これらにピンガ(5)から発信された超音波パルスに対応するデジタル信号が含まれるか否かを検出する(ステップS7)。
ステップS7の処理に先立ち、ステップS5およびステップS6の処理が行われているから、誤判定が生じにくい信号検出が可能となっている。
具体例として、信号検出部(20)は、いずれかの振幅情報が予め設定された閾値であるトリガレベルを超えた場合に、ピンガ(5)から発信された超音波パルスに対応するデジタル信号のトリガを検出する。あるいは、信号検出部(20)は、最大レベルを有する振幅情報の累積分布を求め、累積値の急峻な変化によって上記トリガを検出する。信号検出部(20)のトリガ検出結果は、制御部(22)に通知される。
【0042】
制御部(22)は、トリガが検出されたというトリガ検出結果の場合、到達時間差算出部(24)による到達時間差算出処理が行われるように制御を行い、トリガが検出されなかったというトリガ検出結果の場合、上記ステップS1以降の処理が行われるように制御を行う(ステップS8)。
【0043】
トリガが検出されると、到達時間差算出部(24)は、各ハイドロフォンで受信された音響信号がデジタルデータに変換された入力信号siを記憶手段から読み込み(図2では、丸囲み記号A、B、C、Dで示す。)、それらの間で相関関数を演算して到達時間差を算出する(ステップS9)。
ここで具体例を説明する。最大レベルを有する振幅情報を与えた入力信号を基準となる入力信号として、例えばこれをハイドロフォン(1)で受信した音響信号に対応する入力信号s1であるとする。到達時間差算出部(24)は、入力信号s1と入力信号s2、入力信号s1と入力信号s3、入力信号s1と入力信号s4とで式(10)の相互相関関数Rj1(m)を演算する。但し、j=2,3,4である。また、Nは入力信号のサンプリング点数である。さらに、相互相関関数R21(m)のピークポイントを与えるラグ値mをm2とし、相互相関関数R31(m)のピークポイントを与えるラグ値mをm3とし、相互相関関数R41(m)のピークポイントを与えるラグ値mをm4として、到達時間差算出部(24)は、式(11)を計算して到達時間差Δtj1を出力する。ここでfsは、入力信号のサンプリングレートである。
【数7】
【0044】
このように、本発明では、ピンガから発信された音響信号の信号検出をダウンサンプリングしたサンプリングレートで行なうことに対して、相関関数演算を入力信号siのサンプリングレートで行うことで到達時間差の算出精度をAD変換のサンプリングレートと同等程度としており、AD変換器のサンプリングレートに準じた分解能を実現できる。このためより良い精度でピンガの位置測定を行うことができるものとなっている。
具体例としては、AD変換のサンプリングレートを100kHzとした場合、10μsの分解能であり、水中の音響信号速度を1500m/sとすれば、距離1.5cmの分解能に相当する。一方、信号検出に伴うデシメーションを1/100で間引きした場合のサンプリングレートは1kHzとなり、これは1msの分解能であり、上記と同じ音響信号速度の場合、距離1.5mの分解能に相当する。
このように理論上は、位置特定誤差を数cm程度に抑えることができる。但し、双曲線航法による位置特定であるから、ピンガとハイドロフォンとの位置関係によって実際の測位精度とは異なることに留意しなければならない。
【0045】
位置決定部(26)は、上記到達時間差Δtj1を入力とし、上記式(1)および式(2)を用いて船体座標系におけるピンガ(5)の位置を求める(ステップS10)。地球座標系におけるピンガ(5)の位置決定を行う場合には、GPSアンテナ(28)で得たGPS情報からGNSSコンパス(27)で船首方位・船体の動揺(ローリング及びピッチング)を求め、これらの情報も位置決定部(26)の入力として、上記式(3)〜式(9)によってピンガ(5)の位置を求める。ピンガ(5)の位置座標は、液晶ディスプレイなどの表示手段によって表示される。
【0046】
ここでは、1つのピンガ(5)の位置を求める例で説明したが、複数のピンガの位置を求める場合は、例えばピンガごとに発信周波数を変えればよい。この場合、上記直交検波の基準信号周波数を位置特定したいピンガの周波数に合わせて切り替えることでもよい。あるいは、特定のピンガの位置特定を行う上記測位システムをピンガごとに用意しておけば、同時に複数のピンガの位置特定を行うことができる。
【0047】
位置特定処理をデジタル処理として行う上記の位置特定手段(50)は、例えば一般的なコンピュータで実現できる。このようなコンピュータのハードウェア構成例は次のとおりである〔図4参照〕。
位置特定手段(50)は、キーボードなどの入力装置が接続可能な入力部(51)、液晶ディスプレイなどの表示装置が接続可能な出力部(52)、AD変換器を接続可能であって、AD変換器によって得られた入力信号の入力を受ける信号入力部(53)、CPU(Central Processing Unit;54)〔キャッシュメモリなどを備えていてもよい。〕、メモリであるRAM(Random Access Memory)(55)、ROM(Read Only Memory)(56)やハードディスクである外部記憶装置(57)、並びにこれらの入力部(51)、出力部(52)、CPU(54)、RAM(55)、ROM(56)、外部記憶装置(57)間のデータのやり取りが可能なように接続するバス(58)などを備えている。また必要に応じて、位置特定手段に、CD−ROMなどの記憶媒体を読み書きできる装置(ドライブ)などを設けるとしてもよい。
位置特定手段(50)の外部記憶装置(57)には、上記ステップS4〜S10の各処理を可能にするためのプログラムおよびこのプログラムの処理において必要となるデータなどが保存記憶されている。また、これらのプログラムの処理によって得られるデータなどは、RAM(55)などに適宜に保存記憶される。
【実施例】
【0048】
東京海洋大学の実習艇“ひよどり”(排水量19トン)を用いて、本発明の水中測位システムによる測位対象物の測位実験を行った。この実験は、東京湾北部の水深約20mの海域で行った。実験時の天候は晴れ、水温は18.9℃で、実験時の音速は約1518m/sと計算された。
【0049】
図5に、本実験におけるハイドロフォンの配置とピンガとの位置関係を示す。便宜的に釣竿に取り付けたピンガからの超音波パルスを、“ひよどり”の舷側から垂下した4個のハイドロフォンで受波するとした。ハイドロフォンは、“ひよどり”の船型と測位精度を考慮して、1個のハイドロフォンを他の3個のハイドロフォンよりも水深を下げた位置に配置した。ピンガは、1秒間に1回程度に約10ms(ミリ秒)間、水中に音響信号を発信する
【0050】
4個のハイドロフォンで受信した音響信号のAD変換結果(入力信号)の一例を図6に示す。図6では、各ハイドロフォンに対応した4つの入力信号をグラフ縦軸の上下に並べて表示するために、各入力信号にバイアスをかけて表示している。なお、後掲の図7および図8は、図6に対応して表示している。図6に示す入力信号を直交検波し、振幅情報(受信レベル)を絶対値表示したものを図7に示す。さらに、トリガ検出用に、デシメーション処理および帯域制限処理を行って、受信レベルの絶対値を示したものを図8に示す。図8に示される4個のデシメーション済みの入力信号のうち、最大レベルを有するチャンネル1(ハイドロフォン(1)で受信した音響信号に相当する。)について累積分布を求めて信号検出を行った。これを図9に示す。
【0051】
信号検出に成功し、各ハイドロフォンで受信した音響信号に相当する入力信号について20ms間分をメモリから読み込む。これらの入力信号(デジタルデータ)を示したものが図10である。図10に示すように、チャンネル1について信号検出時刻とほぼ同じタイミングで各ハイドロフォン(2)(3)(4)がピンガからの超音波パルスを受信していることがわかる。アナログ処理ではこれらの到達時間差を精度良く求めることは難しかったが、デジタル処理を行うことでこの点の問題は解消される。また、到達時間差の算出をAD変換されたときのサンプリングレートの入力信号を用いて行うから精度良く到達時間差を求めることができる。ここでは、チャンネル1を基準として他のチャンネル(各ハイドロフォン(2)(3)(4)で受信した音響信号に相当する。)との相互相関演算を行った。この相互相関演算結果を図11に示す。
3個のピーク値を与えたラグ値が、チャンネル1と他のチャンネルとの到達時間差に対応している。図11では、チャンネル1のサンプル点数が2000であるところ、チャンネル2のピーク値はデータポイントが2188のとき、チャンネル3のピーク値はデータポイントが2310のとき、チャンネル4のピーク値はデータポイントが2319のときに与えられるから、チャンネル2のピーク値はラグ値が188のとき、チャンネル3のピーク値はラグ値が310のとき、チャンネル4のピーク値はラグ値が319のときに与えられることがわかる。このとき、具体的な到達時間差は式(11)で得られる。また、ピンガの位置、つまり測位対象物の位置は、式(1)(2)あるいは式(3)〜(9)による逐次近時の繰り返し計算で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】ピンガとハイドロフォンとの位置関係を示す図。
【図2】本発明の水中測位システムの処理機能を例示する機能ブロック図。
【図3】本発明の水中測位方法における処理の流れを示すフローチャート。
【図4】本発明の水中測位システムを構成する位置特定手段をコンピュータで実現した場合のハードウェア構成例を示す図。
【図5】実施例の実験におけるハイドロフォンの配置とピンガとの位置関係を示す図。
【図6】4個のハイドロフォンで受信した音響信号のAD変換結果(入力信号)の一例を示すグラフ。
【図7】図6に示す入力信号を直交検波し、振幅情報(受信レベル)を絶対値表示したグラフ。
【図8】図7に示す入力信号にデシメーション処理および帯域制限処理を行って、受信レベルの絶対値を示したグラフ。
【図9】図8に示される4個のデシメーション済みの入力信号のうち、最大レベルを有するチャンネル1の累積分布。
【図10】信号検出に成功したときの、各ハイドロフォンで受信した音響信号に相当する各入力信号を示したグラフ。
【図11】チャンネル1を基準として他のチャンネルとの相互相関演算を行った相関演算結果を示すグラフ。
【符号の説明】
【0053】
1、2、3、4 ハイドロフォン
5 ピンガ
10 AD変換器
12、13 周波数ミキサ
15、16 デシメータ
18、19 ローパスフィルタ
20 信号検出部
24 相関関数演算部
26 位置決定部
27 GNSSコンパス
28 GPSアンテナ
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に存在する物体の位置を知る測位システムおよび水中測位方法に関する。より詳しくは、双曲線航法による測位システムおよび水中測位方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、漁業分野や海洋調査などで漁具や海洋調査機器の水中における三次元位置をリアルタイムで測定するシステムが要求され始めている。これまでは、例えば漁具類の海中での状態は、模型網などを水槽で展開しその動きを解析して、実際の海中での状態を推定していた。しかし、実海域での操漁における漁具類の状態は、天候や海流などに大きく影響され、水槽実験における状態とは異なった状態となっていることが指摘されている。また、例えば魚類や無人探査機(Remotely Operated Vehicle)の行動把握においても、一般的に行動範囲が広く、追尾可能にその位置把握をすることが求められる。
【0003】
このような水中に存在する物体の位置の把握には、淡水、海水、汽水などの水質に関係なく、音響信号を利用した測位システムが一般的に採用されている。
ここで『水中に存在する物体』とは、静止物体に限らず移動体を含み、移動体はそれ自体が例えば魚類などのように自律的に移動可能な物体に限定されず、例えば漁具などのように水流に任せて移動するような物体などをも含む。また、それ自体は静止している静止物体であっても、これを測位する者が移動しているような場合は、この静止物体も相対的に移動体と看做せることに留意しなければならない。さらに『水中』とは、海、川、湖沼を問わずその水中を指す。本明細書では、『水中に存在する物体』を上記のような物体として理解し、以下、『測位対象物』ということにする。
【0004】
このような測位システムでは、測位対象物にピンガと呼ばれる音響信号発信機を装着し、その発信音を3箇所以上に設けた受信器で受信することで、測位対象物の位置を求めることが行われる(例えば特許文献1参照。)。
【0005】
あるいは、トランスポンダと呼ばれる音響信号装置を例えば海底に複数配置し、測位対象物にはレスポンダと呼ばれる音響信号装置を装着する測位システムもある(例えば特許文献2参照。)。この測位システムでは、トランスポンダから発信された応答要求音響信号を受信したレスポンダが応答音響信号を発信し、この応答音響信号をトランスポンダで受信し、各トランスポンダの敷設位置と、応答要求音響信号を発信してから応答音響信号を受信するまでの時間とから、レスポンダの位置、つまり測位対象物の位置を求める。また、例えば無人探査機などの測位対象物自体でその現在位置を求めたい場合には、測位対象物にトランスポンダを備え、海底に複数のレスポンダを敷設した測位システムを構成することが行われている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−245779号公報
【特許文献2】特開2002−122656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
トランスポンダやレスポンダを用いた従来の測位システムでは、一般的にトランスポンダやレスポンダが海底などに固定して敷設されており、トランスポンダやレスポンダが敷設された海域が測位可能な範囲となっていた。従って、測位可能な海域外に測位対象物が移動した場合などでは、測位対象物の位置を求めることが困難であった。また、より広範囲の測位可能な海域を設定しようとすれば、多大な費用がかかるなどの問題もあった。さらに、トランスポンダやレスポンダは、一般的に、音響信号の発信手段のみならずその受信手段や例えば各トランスポンダ間でお互いの時計を同期するための時刻同期手段などを含むため、相当程度の大きさを有し、測位対象物が小型の場合や魚類などの場合には、トランスポンダやレスポンダを装着することが困難であった。
【0008】
また、ピンガを用いた従来の測位システムでは、ピンガに例えば音響信号の発信時刻情報を発生するための時計回路やピンガの深度を計測するための深度計測手段などを搭載した場合には、上記同様、測位対象物が小型の場合や魚類などにピンガを装着することが困難であった。
【0009】
一方、ピンガに時計回路や深度計測手段などを搭載しない場合には、それぞれ異なる受信器によって受信したピンガからの音響信号の到達時間差からピンガの位置を求める。このため、有意な到達時間差を検出できるように、各受信器を、それぞれの間隔を相当程度に離して設置するのが一般的である。つまり、いわゆるLBL(Long Base Line)方式の双曲線航法でピンガの位置を求める。このような測位システムの場合、各受信器が例えば別々の船体やブイ(buoy)に設けられることになり、各受信器の位置の特定が別途必要になる上、測位対象物の移動に合わせた追尾の機動性が失われる。
【0010】
以上の諸問題からすると、SBL(Short Base Line)方式の双曲線航法でピンガの位置を求めることが望まれる。SBL(Short Base Line)方式の双曲線航法であれば、受信器とピンガとの間で時刻同期の必要が無く、さらに例えば1つの船体で複数の受信器を備える構成とすることが可能であり測位対象物の追尾にも優れ、あるいは測位対象物の追尾が不要の場合でも大規模な範囲で受信器を設置する必要が無いからシステム構築にかかる費用を低減できる。
【0011】
しかしながら、SBL方式では、受信器間の基線長が例えば数メートル程度と短いため、有意の到達時間差を得ることが難しく、LBL方式の場合と同程度の測位精度を得ることが難しい。
【0012】
そこで本発明は、SBL(Short Base Line)方式の双曲線航法で測位対象物の測位を行う測位精度の良い水中測位システムおよび水中測位方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明では、水中に存在する物体(測位対象物)に設けられた、音響信号を水中に発する発信手段と、少なくとも3個の、上記発信手段から発せられた音響信号を含む音響信号を受信可能な受信手段と、相異なる2個の上記受信手段によって受信した上記発信手段からの音響信号の到達時間差を算出するとともに、上記受信手段の組み合わせを異にした相異なる2個の上記受信手段間で得られた複数の上記到達時間差を用いて、上記測位対象物の位置を特定する位置特定手段とを備えた水中測位システムであって、上記各受信手段によって受信された音響信号をデジタル信号である入力信号に変換するAD変換器を備えており、上記位置特定手段は、上記各受信手段によって受信された音響信号それぞれに対応する上記各入力信号に、上記発信手段から発信された音響信号に対応するデジタル信号が含まれるか否かを検出する信号検出手段と、上記発信手段から発信された音響信号に対応するデジタル信号が上記信号検出手段によって検出された場合に、上記各受信手段によって受信された音響信号それぞれに対応する相異なる上記入力信号間でラグ値ごとに相関関数演算を行い、この演算結果のピーク値を与えたラグ値から、相異なる2個の上記受信手段によって受信した上記発信手段からの音響信号の到達時間差を求める到達時間差算出手段とを含む水中測位システムとされる。
【0014】
このように、デジタル信号処理を行うとし、さらに、発信手段から発信された音響信号に対応するデジタル信号が信号検出手段によって検出された場合に、各受信手段によって受信された音響信号それぞれに対応する各入力信号間でラグ値ごとに相関関数演算を行うことで、AD変換器のサンプリングレートに準じた分解能を実現できるものとなっている。
【0015】
また、位置特定手段は、上記AD変換器のサンプリングレートよりも低いサンプリングレートで、上記各入力信号のデシメーションを行うデシメーション手段を含むとして、さらに上記信号検出手段が、上記各受信手段によって受信された音響信号それぞれに対応する、上記デシメーション手段によってデシメーションされた上記各入力信号に、上記発信手段から発信された音響信号に対応するデジタル信号が含まれるか否かを検出するものとしてもよい。
これは、発信手段から発信された音響信号に対応するデジタル信号が含まれるか否かの信号検出に先立ち、デシメーションを行うことで信号検出精度を良くする。この場合、相関関数演算に用いる入力信号のサンプリングレートは、信号検出に用いるデシメーションされた入力信号のサンプリングレートよりも大であるから、精度の良い到達時間差算出が担保される。
【0016】
また、本発明の水中測位方法は、水中に存在する物体(測位対象物)に設けられた発信手段によって、音響信号を水中に発する発信ステップと、上記発信手段から発せられた音響信号を含む音響信号を受信可能な、少なくとも3個の、受信手段によって、音響信号を受信する受信ステップと、相異なる2個の上記受信手段によって受信した上記発信手段からの音響信号の到達時間差を算出するとともに、上記受信手段の組み合わせを異にした相異なる2個の上記受信手段間で得られた複数の上記到達時間差を用いて、上記測位対象物の位置を特定する位置特定ステップとを有する水中測位方法であって、上記受信ステップにおいて受信された音響信号をAD変換器によってデジタル信号である入力信号に変換するAD変換ステップを有し、上記位置特定ステップは、上記各受信手段によって受信された音響信号それぞれに対応する上記各入力信号に、上記発信手段から発信された音響信号に対応するデジタル信号が含まれるか否かを検出する信号検出ステップと、上記発信手段から発信された音響信号に対応するデジタル信号が上記信号検出ステップにおいて検出された場合に、上記各受信手段によって受信された音響信号それぞれに対応する相異なる上記入力信号間でラグ値ごとに相関関数演算を行い、この演算結果のピーク値を与えたラグ値から、相異なる2個の上記受信手段によって受信した上記発信手段からの音響信号の到達時間差を求める到達時間差算出ステップとを含む方法とされる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、受信手段で受信した音響信号に対してデジタル信号処理を行うとし、さらに、発信手段から発信された音響信号に対応するデジタル信号が信号検出手段によって検出された場合に、各受信手段によって受信された音響信号それぞれに対応する各入力信号間でラグ値ごとに相関関数演算を行うことで、AD変換器のサンプリングレートに準じた分解能を実現できるものとなっているから、各受信手段間の基線長が短いSBL方式の双曲線航法であっても、精度の良い測位が実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
まず、本発明の水中測位システムは、SBL方式の双曲線航法で測位対象物の位置を求めるものである。SBL方式では、複数の受信手段(例えばハイドロフォン〔超音波受波器〕とする。)が、異なる2つハイドロフォン間の基線長がそれぞれ数メートル程度になるように配置される。ハイドロフォンの個数は、既知の情報の種類・数や必要とする情報の種類・数などによって変わりえる。例えば、ピンガ側とハイドロフォン側とで時刻が精確に同期していない場合であってピンガの3次元位置を知りたい場合には、最低4個のハイドロフォンが用いられる。また、ピンガ側とハイドロフォン側とで時刻が精確に同期していない場合であってピンガの2次元位置を知りたい場合は、最低3個のハイドロフォンが用いられる。以下の説明では、3次元位置を測定する場合を例に4個のハイドロフォンを用いた測位システム・方法を説明する。3個のハイドロフォンを用いて2次元位置を測位する場合は、下記説明のハイドロフォン(4)およびインデックスi、jにおいて4を除外して理解すればよい。
【0019】
図1は、発信手段であるピンガ(5)および4個の受信手段であるハイドロフォン(1)〜(4)の位置関係を示したものである。4個のハイドロフォン(1)〜(4)は必ずしも同一平面上に在る必要はない。ピンガ(5)から発せられた音響信号(この実施形態では超音波パルスとする。)は、各ハイドロフォン(1)〜(4)で受信される。そして、SBL方式では、例えばハイドロフォン(1)およびハイドロフォン(2)によって受信したピンガ(5)からの超音波パルスの到達時間差、ハイドロフォン(1)およびハイドロフォン(3)によって受信したピンガ(5)からの超音波パルスの到達時間差、ハイドロフォン(1)およびハイドロフォン(4)によって受信したピンガ(5)からの超音波パルスの到達時間差、の3つの到達時間差を用いて、これら到達時間差に相当する距離差から得られる3つの双曲面の交点が求めるピンガ(5)の位置となる〔双曲線航法〕。
【0020】
4個のハイドロフォン(1)〜(4)の位置座標をそれぞれ(xi,yi,zi)〔i=1,2,3,4〕、ピンガ(5)の位置座標を(x,y,z)とすると、ピンガ(5)から発せられた超音波パルスがi番目のハイドロフォン(i)に到達する時間tiは、式(1)で与えられる。cは、水中の音速である。
【数1】
【0021】
ハイドロフォン(1)およびハイドロフォン(j)によって受信したピンガ(5)からの超音波パルスの到達時間差Δtj1〔j=2,3,4〕は、式(2)で与えられる。
【数2】
【0022】
到達時間差Δtj1は、実際の計測値として得られる。そこで、計測した到達時間差からピンガ(5)の位置を求めるため、例えば逐次近似法によって、任意の初期位置を与えて繰り返し計算を行うことによってピンガ(5)の位置(x,y,z)を求めればよい。
【0023】
ここで、ピンガ(5)および各ハイドロフォン(1)〜(4)の位置座標は、各ハイドロフォン(1)〜(4)を例えば船体に設置した場合、船体座標を基準座標系として表すことができる。例えば、船首方向をx軸、右舷方向をy軸、垂直方向をz軸とする。なお、各ハイドロフォンをブイなどに設置する構成でもよく、要するに同一の物体に設置する構成であればよい。もちろん、短い基線長となる配置であれば良いから、各ハイドロフォンを別々の物体に設置する構成も可能である。しかしながら、測位対象物に対する追尾を考えれば機動的な構成とするのが好ましい上、同一物体上に全てのハイドロフォンを設置すれば基線長が不変となるから、基線長を計測する機器類の増設が不要となる観点から、同一の物体に全てのハイドロフォンを設置する構成が好ましいといえる。
【0024】
船体座標から地球座標への転換は、例えばGNSS(Global Navigation Satellite System)コンパスを用いて行うことができる。GNSSコンパスでは、船首方位だけでなく、船体の動揺(ローリング及びピッチング)も計測することができる。
【0025】
船体座標系において船首方向をx軸、右舷方向をy軸、垂直方向をz軸とし、船首方位をθc、船体のローリング角をθr、船体のピッチング角をθpとする。また、地球座標系において北方向をX軸、経度方向をY軸、鉛直方向をZ軸とする。
このとき、船首方位による船体座標系から地球座標系への座標変換は、式(3)および式(4)で与えられる。
【数3】
【0026】
また、船体のローリング角θr、船体のピッチング角θpは、それぞれ船体座標で計測されているので、地球座標系でのピッチング角θ′pは、式(5)で与えられる。
【数4】
【0027】
従って、ピッチングによる船体座標系から地球座標系への座標変換は、式(5)を用いて式(6)および式(7)で与えられる。式(6)で得られるXが地球座標系における測位対象物のX座標である。
【数5】
【0028】
また、ローリングによる船体座標系から地球座標系への座標変換は、式(8)および式(9)で与えられる。式(8)で得られるYが地球座標系における測位対象物のY座標であり、式(9)で得られるZが地球座標系における測位対象物のZ座標である。
【数6】
【0029】
SBL方式では、LBL方式に比べ、ピンガ(5)と各ハイドロフォン(1)〜(4)との距離(実線R1,R2,R3,R4)よりも基線長(破線B1,B2,B3,B4,B5,B6)は短い。従って、既述したとおり、測位対象物が各ハイドロフォンから遠方にある場合を考えれば明らかなように、例えば上記3つの到達時間差の間に有意な差異を認め難いことが多い。従って、従来のLBL方式の測位システムにおける時間差測定のような簡易な時間差の測定では、十分な測位精度を得ることができない。具体的には、従来では、ハイドロフォンで受信した超音波パルスをアナログアンプで増幅し、アナログフィルタでSN比を大きくし、信号受信時刻の差を到達時間差としていた。
【0030】
これに対して本発明では、受信手段である受信器(ハイドロフォン)で受信した音響信号に対してデジタル処理を行う。高速、実時間性が要求される測位システムでは、アナログ回路で到達時間差を計測していたが、近時、デジタル処理能力(CPUなどの演算処理装置の演算処理能力、バスの伝送性能、メモリの読み書き速度など)が飛躍的に向上しており、デジタル処理を行うことでも遜色の無い実時間性を確保できる。加えて、デジタル処理において実現するデジタルフィルタでは、アナログフィルタに比べ、急峻な遮断特性を容易に実現することができ、近接した周波数の異なるピンガを選択する自由度の増大およびSN比の改善効果によって、計測性能を向上できる。
【0031】
本実施形態の水中測位システムは、測位対象物に設けられた、音響信号を水中に発するピンガ(発信手段)と、ピンガから発せられた音響信号を含む音響信号を受信可能な4個のハイドロフォン(受信手段)と、相異なる2個のハイドロフォンによって受信したピンガからの音響信号の到達時間差を用いて、ピンガを装着された測位対象物の位置を特定する位置特定手段(50)とを備えた水中測位システムとされる〔図1、図2参照〕。
そして、測位対象物の位置特定を行う側においては、各ハイドロフォンによって受信された音響信号をデジタル信号である入力信号に変換するAD変換器を備えていて、上記の位置特定手段(50)は、各ハイドロフォンによって受信された音響信号それぞれに対応する各入力信号に、ピンガから発信された音響信号に対応するデジタル信号が含まれるか否かを検出する信号検出部(信号検出手段)と、ピンガから発信された音響信号に対応するデジタル信号が信号検出部によって検出された場合に、各ハイドロフォンによって受信された音響信号それぞれに対応する各入力信号間でラグ値ごとに相関関数演算を行い、この演算結果のピーク値を与えたラグ値から、相異なる2個の上記ハイドロフォンによって受信したピンガからの音響信号の到達時間差を求める到達時間差算出部(到達時間差算出手段)とを含むものとして構成される。
なお、より詳細には、本実施形態では、デジタル処理の構成要素として、直交検波を行う周波数ミキサ、デシメーションを行うデシメータ、デジタルフィルタであるローパスフィルタが明示的に位置特定手段(50)の構成要素となっている。
【0032】
以下、図2および図3を参照して、測位対象物の測位方法を説明する。
まず、ピンガ(5)が、例えば1秒間に1回程度に約10ms(ミリ秒)間、位置特定手段(50)とは非同期に、水中に音響信号を発信する(ステップS1)。そして、4個のハイドロフォン(1)〜(4)によって音響信号を受信する(ステップS2)。なお、ピンガは発信/非発信を交互に繰り返すから、各ハイドロフォンが受信する音響信号には、ピンガからの超音波パルスが含まれる場合もあれば含まれない場合もあることに留意しなければならない。
【0033】
次に、ハイドロフォンで受信された音響信号をAD変換する(ステップS3)。
AD変換を行うAD変換器(10)は、周知技術のものとして構成される。AD変換におけるサンプリング周波数(以下、サンプリングレートとも云う。)も任意に設定でき、例えば1MHzでサンプリングを行う。ハイドロフォンで受信された音響信号は、AD変換器(10)によってサンプリングされてデジタル信号としての入力信号si〔i=1,2,3,4であり、添え字iはハイドロフォンを示す符号に対応している。〕に変換される。
【0034】
次に、周波数ミキサ(12)(13)が、入力信号siに対して直交検波を行う(ステップS4)。
周波数ミキサ(12)(13)は、周知技術のものとして構成される。直交検波に用いる基準信号は、基準信号発生部(11)で発生されて、その周波数はピンガ(5)の周波数(市場において入手可能な一般的なピンガの周波数は、25kHz〜85kHz程度である。)と同じとされる。周波数ミキサ(12)からは基準周波数と同相成分であるI成分、周波数ミキサ(13)からは基準周波数と90°位相がずれた直交成分であるQ成分が出力される。なお、上記入力信号siは、メモリなどの記憶手段(図示せず。)に記憶保存される。
【0035】
次に、デシメータ(15)(16)が、周波数ミキサ(12)から出力されたI成分および周波数ミキサ(13)から出力されたQ成分のそれぞれに対してデシメーションを行う(ステップS5)。
デシメータ(15)(16)は、周知技術のものとして構成される。デシメータ(15)は、I成分に対して、デシメータ(16)はQ成分に対してデシメーションを行うが、このデシメーションでは、アンチエイリアシングを考慮したローパスフィルタによる帯域制限とダウンサンプリングが行われる。ダウンサンプリングの間引き率は任意に設定できる。
【0036】
続いて、デシメータ(15)から出力されたI成分およびデシメータ(16)から出力されたQ成分のそれぞれに対してローパスフィルタ(18)(19)による帯域制限を行う(ステップS6)。
ローパスフィルタ(18)(19)による帯域制限によってノイズや倍周波信号を除去される。以上の処理によって、ベースバンド信号のI成分およびQ成分を取り出す。
【0037】
以上のようにして、ハイドロフォンで受信された音響信号は、デジタル直交検波された上、ベースバンド信号のI成分およびQ成分として取り出され、I成分を実数部、Q成分を虚数部とする複素数に見立てて、振幅情報および位相情報のペアでこれらがメモリなどの記憶手段(図示せず。)に記憶保存される。I成分をI、Q成分をQとして代表すれば、振幅情報aはa=√(I2+Q2)で得られ、位相情報θはθ=tan−1(Q/I)で得られる。
【0038】
なお、以上では、アナログ直交検波の一般的な回路構成をデジタル直交検波にも適用した例で説明したが、例えば、ヒルベルト変換フィルタを用いて回路構成することもできる。記憶手段の記憶容量の節約の観点から、定期的に上記ステップS2〜S6の各処理を行い、記憶手段に記憶される振幅情報および位相情報を更新して、常に最新の振幅情報および位相情報が記憶保存されるようにしてもよい。この場合、記憶保存される振幅情報および位相情報の時間長は、少なくとも、ピンガ(5)の超音波パルスの発信時間よりも長くするのがよい。例えば、ピンガ(5)の超音波パルスの発信時間が10msであれば、記憶手段に記憶される振幅情報および位相情報は10msよりも長い20ms分になるようにする。
【0039】
また、上記ステップS1〜S6の各処理は、各ハイドロフォン(1)〜(4)で受信された音響信号についてそれぞれ同時に行われる(図2参照)。
【0040】
ここでは、本発明におけるデジタル処理の要点を説明したが、例えば上記ステップS2と上記ステップS3の各処理の間に信号の利得調整を行う処理を介入させてもよいし、AD変換における量子化など、上記説明の各処理に係る一般的なデジタル信号処理技術を測位システムの設計事項に応じて適用することも可能である。
【0041】
上記ステップS3の処理に続いて、信号検出部(20)が、記憶手段に記憶保存された所定時間長(上記の例では20ms分)の、ハイドロフォン(1)で受信された音響信号から得た振幅情報a1、ハイドロフォン(2)で受信された音響信号から得た振幅情報a2、ハイドロフォン(3)で受信された音響信号から得た振幅情報a3、ハイドロフォン(4)で受信された音響信号から得た振幅情報a4を用いて、これらにピンガ(5)から発信された超音波パルスに対応するデジタル信号が含まれるか否かを検出する(ステップS7)。
ステップS7の処理に先立ち、ステップS5およびステップS6の処理が行われているから、誤判定が生じにくい信号検出が可能となっている。
具体例として、信号検出部(20)は、いずれかの振幅情報が予め設定された閾値であるトリガレベルを超えた場合に、ピンガ(5)から発信された超音波パルスに対応するデジタル信号のトリガを検出する。あるいは、信号検出部(20)は、最大レベルを有する振幅情報の累積分布を求め、累積値の急峻な変化によって上記トリガを検出する。信号検出部(20)のトリガ検出結果は、制御部(22)に通知される。
【0042】
制御部(22)は、トリガが検出されたというトリガ検出結果の場合、到達時間差算出部(24)による到達時間差算出処理が行われるように制御を行い、トリガが検出されなかったというトリガ検出結果の場合、上記ステップS1以降の処理が行われるように制御を行う(ステップS8)。
【0043】
トリガが検出されると、到達時間差算出部(24)は、各ハイドロフォンで受信された音響信号がデジタルデータに変換された入力信号siを記憶手段から読み込み(図2では、丸囲み記号A、B、C、Dで示す。)、それらの間で相関関数を演算して到達時間差を算出する(ステップS9)。
ここで具体例を説明する。最大レベルを有する振幅情報を与えた入力信号を基準となる入力信号として、例えばこれをハイドロフォン(1)で受信した音響信号に対応する入力信号s1であるとする。到達時間差算出部(24)は、入力信号s1と入力信号s2、入力信号s1と入力信号s3、入力信号s1と入力信号s4とで式(10)の相互相関関数Rj1(m)を演算する。但し、j=2,3,4である。また、Nは入力信号のサンプリング点数である。さらに、相互相関関数R21(m)のピークポイントを与えるラグ値mをm2とし、相互相関関数R31(m)のピークポイントを与えるラグ値mをm3とし、相互相関関数R41(m)のピークポイントを与えるラグ値mをm4として、到達時間差算出部(24)は、式(11)を計算して到達時間差Δtj1を出力する。ここでfsは、入力信号のサンプリングレートである。
【数7】
【0044】
このように、本発明では、ピンガから発信された音響信号の信号検出をダウンサンプリングしたサンプリングレートで行なうことに対して、相関関数演算を入力信号siのサンプリングレートで行うことで到達時間差の算出精度をAD変換のサンプリングレートと同等程度としており、AD変換器のサンプリングレートに準じた分解能を実現できる。このためより良い精度でピンガの位置測定を行うことができるものとなっている。
具体例としては、AD変換のサンプリングレートを100kHzとした場合、10μsの分解能であり、水中の音響信号速度を1500m/sとすれば、距離1.5cmの分解能に相当する。一方、信号検出に伴うデシメーションを1/100で間引きした場合のサンプリングレートは1kHzとなり、これは1msの分解能であり、上記と同じ音響信号速度の場合、距離1.5mの分解能に相当する。
このように理論上は、位置特定誤差を数cm程度に抑えることができる。但し、双曲線航法による位置特定であるから、ピンガとハイドロフォンとの位置関係によって実際の測位精度とは異なることに留意しなければならない。
【0045】
位置決定部(26)は、上記到達時間差Δtj1を入力とし、上記式(1)および式(2)を用いて船体座標系におけるピンガ(5)の位置を求める(ステップS10)。地球座標系におけるピンガ(5)の位置決定を行う場合には、GPSアンテナ(28)で得たGPS情報からGNSSコンパス(27)で船首方位・船体の動揺(ローリング及びピッチング)を求め、これらの情報も位置決定部(26)の入力として、上記式(3)〜式(9)によってピンガ(5)の位置を求める。ピンガ(5)の位置座標は、液晶ディスプレイなどの表示手段によって表示される。
【0046】
ここでは、1つのピンガ(5)の位置を求める例で説明したが、複数のピンガの位置を求める場合は、例えばピンガごとに発信周波数を変えればよい。この場合、上記直交検波の基準信号周波数を位置特定したいピンガの周波数に合わせて切り替えることでもよい。あるいは、特定のピンガの位置特定を行う上記測位システムをピンガごとに用意しておけば、同時に複数のピンガの位置特定を行うことができる。
【0047】
位置特定処理をデジタル処理として行う上記の位置特定手段(50)は、例えば一般的なコンピュータで実現できる。このようなコンピュータのハードウェア構成例は次のとおりである〔図4参照〕。
位置特定手段(50)は、キーボードなどの入力装置が接続可能な入力部(51)、液晶ディスプレイなどの表示装置が接続可能な出力部(52)、AD変換器を接続可能であって、AD変換器によって得られた入力信号の入力を受ける信号入力部(53)、CPU(Central Processing Unit;54)〔キャッシュメモリなどを備えていてもよい。〕、メモリであるRAM(Random Access Memory)(55)、ROM(Read Only Memory)(56)やハードディスクである外部記憶装置(57)、並びにこれらの入力部(51)、出力部(52)、CPU(54)、RAM(55)、ROM(56)、外部記憶装置(57)間のデータのやり取りが可能なように接続するバス(58)などを備えている。また必要に応じて、位置特定手段に、CD−ROMなどの記憶媒体を読み書きできる装置(ドライブ)などを設けるとしてもよい。
位置特定手段(50)の外部記憶装置(57)には、上記ステップS4〜S10の各処理を可能にするためのプログラムおよびこのプログラムの処理において必要となるデータなどが保存記憶されている。また、これらのプログラムの処理によって得られるデータなどは、RAM(55)などに適宜に保存記憶される。
【実施例】
【0048】
東京海洋大学の実習艇“ひよどり”(排水量19トン)を用いて、本発明の水中測位システムによる測位対象物の測位実験を行った。この実験は、東京湾北部の水深約20mの海域で行った。実験時の天候は晴れ、水温は18.9℃で、実験時の音速は約1518m/sと計算された。
【0049】
図5に、本実験におけるハイドロフォンの配置とピンガとの位置関係を示す。便宜的に釣竿に取り付けたピンガからの超音波パルスを、“ひよどり”の舷側から垂下した4個のハイドロフォンで受波するとした。ハイドロフォンは、“ひよどり”の船型と測位精度を考慮して、1個のハイドロフォンを他の3個のハイドロフォンよりも水深を下げた位置に配置した。ピンガは、1秒間に1回程度に約10ms(ミリ秒)間、水中に音響信号を発信する
【0050】
4個のハイドロフォンで受信した音響信号のAD変換結果(入力信号)の一例を図6に示す。図6では、各ハイドロフォンに対応した4つの入力信号をグラフ縦軸の上下に並べて表示するために、各入力信号にバイアスをかけて表示している。なお、後掲の図7および図8は、図6に対応して表示している。図6に示す入力信号を直交検波し、振幅情報(受信レベル)を絶対値表示したものを図7に示す。さらに、トリガ検出用に、デシメーション処理および帯域制限処理を行って、受信レベルの絶対値を示したものを図8に示す。図8に示される4個のデシメーション済みの入力信号のうち、最大レベルを有するチャンネル1(ハイドロフォン(1)で受信した音響信号に相当する。)について累積分布を求めて信号検出を行った。これを図9に示す。
【0051】
信号検出に成功し、各ハイドロフォンで受信した音響信号に相当する入力信号について20ms間分をメモリから読み込む。これらの入力信号(デジタルデータ)を示したものが図10である。図10に示すように、チャンネル1について信号検出時刻とほぼ同じタイミングで各ハイドロフォン(2)(3)(4)がピンガからの超音波パルスを受信していることがわかる。アナログ処理ではこれらの到達時間差を精度良く求めることは難しかったが、デジタル処理を行うことでこの点の問題は解消される。また、到達時間差の算出をAD変換されたときのサンプリングレートの入力信号を用いて行うから精度良く到達時間差を求めることができる。ここでは、チャンネル1を基準として他のチャンネル(各ハイドロフォン(2)(3)(4)で受信した音響信号に相当する。)との相互相関演算を行った。この相互相関演算結果を図11に示す。
3個のピーク値を与えたラグ値が、チャンネル1と他のチャンネルとの到達時間差に対応している。図11では、チャンネル1のサンプル点数が2000であるところ、チャンネル2のピーク値はデータポイントが2188のとき、チャンネル3のピーク値はデータポイントが2310のとき、チャンネル4のピーク値はデータポイントが2319のときに与えられるから、チャンネル2のピーク値はラグ値が188のとき、チャンネル3のピーク値はラグ値が310のとき、チャンネル4のピーク値はラグ値が319のときに与えられることがわかる。このとき、具体的な到達時間差は式(11)で得られる。また、ピンガの位置、つまり測位対象物の位置は、式(1)(2)あるいは式(3)〜(9)による逐次近時の繰り返し計算で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】ピンガとハイドロフォンとの位置関係を示す図。
【図2】本発明の水中測位システムの処理機能を例示する機能ブロック図。
【図3】本発明の水中測位方法における処理の流れを示すフローチャート。
【図4】本発明の水中測位システムを構成する位置特定手段をコンピュータで実現した場合のハードウェア構成例を示す図。
【図5】実施例の実験におけるハイドロフォンの配置とピンガとの位置関係を示す図。
【図6】4個のハイドロフォンで受信した音響信号のAD変換結果(入力信号)の一例を示すグラフ。
【図7】図6に示す入力信号を直交検波し、振幅情報(受信レベル)を絶対値表示したグラフ。
【図8】図7に示す入力信号にデシメーション処理および帯域制限処理を行って、受信レベルの絶対値を示したグラフ。
【図9】図8に示される4個のデシメーション済みの入力信号のうち、最大レベルを有するチャンネル1の累積分布。
【図10】信号検出に成功したときの、各ハイドロフォンで受信した音響信号に相当する各入力信号を示したグラフ。
【図11】チャンネル1を基準として他のチャンネルとの相互相関演算を行った相関演算結果を示すグラフ。
【符号の説明】
【0053】
1、2、3、4 ハイドロフォン
5 ピンガ
10 AD変換器
12、13 周波数ミキサ
15、16 デシメータ
18、19 ローパスフィルタ
20 信号検出部
24 相関関数演算部
26 位置決定部
27 GNSSコンパス
28 GPSアンテナ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に存在する物体(測位対象物)に設けられた、音響信号を水中に発する発信手段と、
少なくとも3個の、上記発信手段から発せられた音響信号を含む音響信号を受信可能な受信手段と、
相異なる2個の上記受信手段によって受信した上記発信手段からの音響信号の到達時間差を算出するとともに、上記受信手段の組み合わせを異にした相異なる2個の上記受信手段間で得られた複数の上記到達時間差を用いて、上記測位対象物の位置を特定する位置特定手段とを備えた水中測位システムであって、
上記各受信手段によって受信された音響信号をデジタル信号である入力信号に変換するAD変換器を備え、
上記位置特定手段は、
上記各受信手段によって受信された音響信号それぞれに対応する上記各入力信号に、上記発信手段から発信された音響信号に対応するデジタル信号が含まれるか否かを検出する信号検出手段と、
上記発信手段から発信された音響信号に対応するデジタル信号が上記信号検出手段によって検出された場合に、上記各受信手段によって受信された音響信号それぞれに対応する相異なる上記入力信号間でラグ値ごとに相関関数演算を行い、この演算結果のピーク値を与えたラグ値から、相異なる2個の上記受信手段によって受信した上記発信手段からの音響信号の到達時間差を求める到達時間差算出手段とを含む
ことを特徴とする水中測位システム。
【請求項2】
上記位置特定手段は、
上記AD変換器のサンプリングレートよりも低いサンプリングレートで、上記各入力信号のデシメーションを行うデシメーション手段を含み、
上記信号検出手段は、
上記各受信手段によって受信された音響信号それぞれに対応する、上記デシメーション手段によってデシメーションされた上記各入力信号に、上記発信手段から発信された音響信号に対応するデジタル信号が含まれるか否かを検出するものである
ことを特徴とする請求項1に記載の水中測位システム。
【請求項3】
水中に存在する物体(測位対象物)に設けられた発信手段によって、音響信号を水中に発する発信ステップと、
上記発信手段から発せられた音響信号を含む音響信号を受信可能な、少なくとも3個の、受信手段によって、音響信号を受信する受信ステップと、
相異なる2個の上記受信手段によって受信した上記発信手段からの音響信号の到達時間差を算出するとともに、上記受信手段の組み合わせを異にした相異なる2個の上記受信手段間で得られた複数の上記到達時間差を用いて、上記測位対象物の位置を特定する位置特定ステップとを有する水中測位方法であって、
上記受信ステップにおいて受信された音響信号をAD変換器によってデジタル信号である入力信号に変換するAD変換ステップを有し、
上記位置特定ステップは、
上記各受信手段によって受信された音響信号それぞれに対応する上記各入力信号に、上記発信手段から発信された音響信号に対応するデジタル信号が含まれるか否かを検出する信号検出ステップと、
上記発信手段から発信された音響信号に対応するデジタル信号が上記信号検出ステップにおいて検出された場合に、上記各受信手段によって受信された音響信号それぞれに対応する相異なる上記入力信号間でラグ値ごとに相関関数演算を行い、この演算結果のピーク値を与えたラグ値から、相異なる2個の上記受信手段によって受信した上記発信手段からの音響信号の到達時間差を求める到達時間差算出ステップとを含む
ことを特徴とする水中測位方法。
【請求項4】
上記位置特定ステップは、
上記AD変換器のサンプリングレートよりも低いサンプリングレートで、上記各入力信号のデシメーションを行うデシメーションステップを含み、
上記信号検出ステップは、
上記各受信手段によって受信された音響信号それぞれに対応する、上記デシメーションステップにおいてデシメーションされた上記各入力信号に、上記発信手段から発信された音響信号に対応するデジタル信号が含まれるか否かを検出するものである
ことを特徴とする請求項3に記載の水中測位方法。
【請求項1】
水中に存在する物体(測位対象物)に設けられた、音響信号を水中に発する発信手段と、
少なくとも3個の、上記発信手段から発せられた音響信号を含む音響信号を受信可能な受信手段と、
相異なる2個の上記受信手段によって受信した上記発信手段からの音響信号の到達時間差を算出するとともに、上記受信手段の組み合わせを異にした相異なる2個の上記受信手段間で得られた複数の上記到達時間差を用いて、上記測位対象物の位置を特定する位置特定手段とを備えた水中測位システムであって、
上記各受信手段によって受信された音響信号をデジタル信号である入力信号に変換するAD変換器を備え、
上記位置特定手段は、
上記各受信手段によって受信された音響信号それぞれに対応する上記各入力信号に、上記発信手段から発信された音響信号に対応するデジタル信号が含まれるか否かを検出する信号検出手段と、
上記発信手段から発信された音響信号に対応するデジタル信号が上記信号検出手段によって検出された場合に、上記各受信手段によって受信された音響信号それぞれに対応する相異なる上記入力信号間でラグ値ごとに相関関数演算を行い、この演算結果のピーク値を与えたラグ値から、相異なる2個の上記受信手段によって受信した上記発信手段からの音響信号の到達時間差を求める到達時間差算出手段とを含む
ことを特徴とする水中測位システム。
【請求項2】
上記位置特定手段は、
上記AD変換器のサンプリングレートよりも低いサンプリングレートで、上記各入力信号のデシメーションを行うデシメーション手段を含み、
上記信号検出手段は、
上記各受信手段によって受信された音響信号それぞれに対応する、上記デシメーション手段によってデシメーションされた上記各入力信号に、上記発信手段から発信された音響信号に対応するデジタル信号が含まれるか否かを検出するものである
ことを特徴とする請求項1に記載の水中測位システム。
【請求項3】
水中に存在する物体(測位対象物)に設けられた発信手段によって、音響信号を水中に発する発信ステップと、
上記発信手段から発せられた音響信号を含む音響信号を受信可能な、少なくとも3個の、受信手段によって、音響信号を受信する受信ステップと、
相異なる2個の上記受信手段によって受信した上記発信手段からの音響信号の到達時間差を算出するとともに、上記受信手段の組み合わせを異にした相異なる2個の上記受信手段間で得られた複数の上記到達時間差を用いて、上記測位対象物の位置を特定する位置特定ステップとを有する水中測位方法であって、
上記受信ステップにおいて受信された音響信号をAD変換器によってデジタル信号である入力信号に変換するAD変換ステップを有し、
上記位置特定ステップは、
上記各受信手段によって受信された音響信号それぞれに対応する上記各入力信号に、上記発信手段から発信された音響信号に対応するデジタル信号が含まれるか否かを検出する信号検出ステップと、
上記発信手段から発信された音響信号に対応するデジタル信号が上記信号検出ステップにおいて検出された場合に、上記各受信手段によって受信された音響信号それぞれに対応する相異なる上記入力信号間でラグ値ごとに相関関数演算を行い、この演算結果のピーク値を与えたラグ値から、相異なる2個の上記受信手段によって受信した上記発信手段からの音響信号の到達時間差を求める到達時間差算出ステップとを含む
ことを特徴とする水中測位方法。
【請求項4】
上記位置特定ステップは、
上記AD変換器のサンプリングレートよりも低いサンプリングレートで、上記各入力信号のデシメーションを行うデシメーションステップを含み、
上記信号検出ステップは、
上記各受信手段によって受信された音響信号それぞれに対応する、上記デシメーションステップにおいてデシメーションされた上記各入力信号に、上記発信手段から発信された音響信号に対応するデジタル信号が含まれるか否かを検出するものである
ことを特徴とする請求項3に記載の水中測位方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−128968(P2008−128968A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317405(P2006−317405)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(504196300)国立大学法人東京海洋大学 (83)
【出願人】(000001177)株式会社光電製作所 (32)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(504196300)国立大学法人東京海洋大学 (83)
【出願人】(000001177)株式会社光電製作所 (32)
【Fターム(参考)】
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