説明

水中用照明とこれを用いた養殖装置

【課題】水中に設置可能な高耐圧で長寿命なLED固体照明、及び、これを用いた養殖装置を提供すること。
【解決手段】回路パターン12が形成されたガラス基板11に、青色LED13aと赤色LED13bをそれぞれフリップチップ実装し、これらと密着して一体に封止する熱融着ガラスからなるガラス封止部14を形成し、クロロフィルを有する藻類の光合成を促す水中用照明1とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に設置可能なLED固体照明、及び、LED固体照明により水草・海草などの光合成を促進させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、植物にLED光のような単色光を照射し、成長を促進させ養殖する技術が注目されている。
植物は、二酸化炭素を炭素源とし、光をエネルギー源とする光合成を利用して成長する。このため光合成を行う光合成色素(クロロフィル、カルテノイド、フィコビリンなど)に対し、より取り込みやすく、吸収しやすい光を効率的に供給できれば、植物の成長を促進させることができる。
【0003】
図1にクロロフィルa、bの光吸収スペクトルを示す。クロロフィルは400〜480nmの青色光と、600〜700nmの赤色光の波長領域で、強い光吸収が生じる。このため光供給源として青色LEDと赤色LEDとを用いることで、植物の成長を促進させることができる(特許文献1)。
また特許文献2には、800nm以上の近赤外光により、水中の光合成細菌を増殖させ、水を浄化させる技術も提案されている。
【0004】
これら原理を適用し、水中の植物に対してLED光を照射することで光合成や植物の成長を促進させ、養殖させようとする技術がある。
水草や海草などの水中に生息する植物では、太陽光などの外光が水により吸収・散乱されてしまうため、特に水深の深いエリアでは光合成を行うことが困難である。
【0005】
上記問題を鑑み、水中に光を効果的に供給するための手段として、水中に照明を沈め、植物のより近くから光照射することが考えられる。このような照明として特許文献3には、LEDを線状に配列しケース体に収め防水構造としたLED固体照明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−103167
【特許文献2】実用新案登録3073908
【特許文献3】特開2009−022197
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3に記載のLED固体照明では、LEDを透明樹脂で封止した構成のため、透明樹脂がLED光により劣化(濁色化)してしまい、長時間の使用には適さない。さらに線状のLED光源部を、アクリル蓋材とケース体とで気密封止した防水構造としているため、光源部とアクリル蓋材との間に空気(不活性ガスなどの気体、または真空状態)が存在し、これによりLEDから発せられた光が、各界面においてその屈折率差により反射してしまい、効果的に光を放出できない。またこの空気によりケース体の内外で断熱された構造となるため、ケース体内に熱がこもり、LEDの発光効率が低下する。
【0008】
以上のような照明内部に不活性ガスなどの気体を充填した照明、または真空雰囲気とする照明では、水圧や外部からの衝撃に耐えるため、耐圧ガラスなどの高強度で大型の非常に高価なケースを用いる必要があり、コストが増大してしまう。
また気体封入や真空形成を行わないような、例えば特許文献3に記載された光源部分のみ、即ち、単にLEDをエポキシやシリコーンなどの透明樹脂で封止したのみ、の照明を水中灯として適用した場合、封止樹脂が水圧により収縮・圧縮され、樹脂内部のLED、ワイヤなどの配線部に負荷がかかり、封止樹脂の剥離や断線などの問題が生じてしまう。また海水中では封止樹脂が塩分により劣化してしまうなどの問題も発生する。
【0009】
本発明は上記した問題を鑑み、水中に設置可能な高耐圧で長寿命なLED固体照明、及び、これを用いた養殖装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、ガラス基板上に青色LED、及び赤色LEDを複数配列し、熱融着ガラスで一体に封止しガラス封止部を形成した水中用照明、とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱融着ガラスで封止された水中用照明そのものが防水機能を有することとなり、構造が大幅に簡略化され、低コストで小型の水中用照明を得ることができる。
またガラス封止部を用いたことで光や熱による劣化を抑制できる他、水中に含まれる塩素など不純物の、内部への浸透等による水中用照明の破損、破壊を、大型の防水ケースなど用いることなく防止することができる。
さらにガラス封止部とLED、およびガラス封止部と基板、との間に空気が入り込まないよう密着させ一体に封止することで、内部に熱がこもることに伴う発光効率の低下や、光が界面で全反射することによる光のロスを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】クロロフィルの光吸収スペクトルを示す。
【図2】本発明の水中用照明により養殖装置を構成した模式説明図である。
【図3】本発明の水中用照明の拡大斜視図である。
【図4】本発明の水中用照明の内部構造を示した図面である。
【図5】本発明の水中用照明の製造方法を説明する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図2から図5は本発明の実施形態を示したものである。
図2に示すよう、本発明の水中用照明1は、水中に沈め海水中の植物2の近傍に配置することで、光を植物のより近くから供給して光合成を促進させる。水中に沈めて配置された水中用照明1には、供給電力を制御し供給する外部電源4が、ケーブル3を介して接続されている。外部電源4にまで防水機能を持たせることは、コスト状あまり好ましいことでないため、海水に触れないよう外部に配置されている。しかしこのような構成とすることで、複数の端子(ポート)を備える外部電源4に多数の水中用照明1を接続し、単一の外部電源4により養殖装置全体の照明を一括で制御することも可能となる。
以上のような構成により、本発明の養殖装置が構成される。
【0014】
次に図3から図5を用い、本発明の水中用照明1について説明する。
この水中用照明1の基本構成は、ガラス基板11、回路パターン12、LED13、ガラス封止部14からなる。
(LED13)
【0015】
LED13は、青色光を発光する青色LED13aと、赤色光を発光する赤色LED13bと、で構成される。青色LED13a、および赤色LED13bにより、植物の光合成および成長を促進させることができる。この他に紫外光を発光する紫外LEDを加えても良い。植物2にとって有害な水中の細菌を紫外光により殺菌し、植物の育成を補助することができるためである。
【0016】
青色LED13a、及び前述の紫外LEDは、サファイア(Al2O3)からなる成長基板の表面に、InGaAlN系のIII族窒化物系半導体をエピタキシャル成長させることにより、バッファ層と、n型層と、MQW層と、p型層とがこの順で形成されている。青色LED13aは、700℃以上で成長し、その耐熱温度は600℃以上であり、後述する低融点のガラス封止部14を用いた封止加工における加工温度に対し安定である。青色LED13aは、回路パターン12の形成されたガラス基板11に対し、Auバンプを介してフリップチップ実装される。
【0017】
赤色LED13bは、GaAs系などのIII−V族半導体で構成される。このため成長温度が青色LED13aに比べ低く、後述の熱融着ガラスを用いた封止加工の加工温度に耐えられない場合が生じうる。
このため加工温度に対する安定性を重視するのであれば、青色LED13aと同様のIII族窒化物系半導体で構成することが好ましいが、現状での発光効率はGaAs系に比べて低い。よってIII族窒化物系半導体とGaAs系を、発光効率や生産性の観点で、所望に応じ使い分けることが好ましい。
【0018】
また赤色LED13bは一般に、垂直型(または縦型、上下型など)と呼ばれる、チップ上下面にそれぞれ電極を形成するものが多い。この場合、一方の電極をワイヤ接続することとなるため、後述の熱融着ガラスによる封止加工の際、ワイヤがつぶれ破断してしまう。このため青色LED13aと同様に、赤色LED13bについても一面にn電極およびp電極が形成されたチップを用い、フリップチップ実装することが好ましい。
(ガラス基板11、回路パターン12)
【0019】
ガラス基板11はZnO−SiO2−R2O系ガラスで構成されている。その表面には回路パターン12が、LED13の電極形状にあわせて形成されている。
ガラス基板11としては、ゾルゲルガラスやセラミックスなどの多結晶焼結材料を用いることもできる。しかし焼結材料は多孔質体からなり、無数の孔を有している。このため水中用照明としては防水機能が低下するため、長時間の使用には好ましくない。このため単位面積(体積)あたりの孔数の少ない、後述のガラス封止部14と同様の熱融着ガラスを用いることが好ましい。熱融着ガラスを用いることで防水性が高まる他、透明性を有するため、ガラス基板11側からもLED13の光が放出され、周囲の植物2をより少ない数で照明し養殖できるためである。
【0020】
本実施例において回路パターン12は、3つの直列接続されたLED13が3列に並列接続された構造となっている。一般にLEDの駆動電圧はその組成により決まり、本願のInGaAlN系の青色LED13aは3.0〜3.5V、GaAs系の赤色LED13bは2.5〜3.0Vである。このため単純にこれらLED13を並列接続すると各LED13を流れる電流値が所望の値から大きく異なり、輝度の違いとなってあらわれたり故障の原因となる。
このため図示しない抵抗素子をいれて電流値を調整したり、青色LED13aと赤色LED13bの実装個数を変更し、各LED13に印加される電圧、電流値を所望の範囲内とすることが考えられる。または本実施例においては2端子型の水中用照明1としているが、4端子型として青色LED13aと赤色LED13bとを別に駆動、制御するなどの構成としても良い。
(ガラス封止部14)
【0021】
ガラス封止部14は、熱融着ガラスを加熱し軟化させ、LED13がAuバンプを介し回路パターン12にフリップチップ実装されたガラス基板11に接触させ押圧する、ホットプレス加工により形成される。熱融着ガラスはZnO−B2O3−SiO2−Nb2O5−Li2O系のガラスである。尚、ガラスの組成はこれに限定されるものではなく、例えばLi2Oを含有しなくてもよいし、任意成分としてZrO2、TiO2等を含んでいても良い。
この熱融着ガラスは、ガラス転位温度Tgが490℃、屈伏点Atが520℃、軟化点が545℃であり、青色LED13aのエピタキシャル成長温度よりも、ガラス転移温度Tgが200℃以上低くなっている。
また熱融着ガラスの100℃〜300℃における熱膨張率αは6×10−6/℃である。熱膨張率αはガラス転移温度Tgを超えると、より大きな値となる。これにより熱融着ガラスは約550℃でガラス基板11と接着し、ホットプレス加工が可能となっている。
【0022】
熱融着ガラスからなるガラス封止部14が軟化、溶解してガラス基板11に密着するため、界面に隙間が形成されない。このため防水性に優れた水中用照明1を得ることが可能となる。また、ガラス基板11にも熱融着ガラスを用いることで、ホットプレス加工時にガラス基板11の表面も軟化し、ガラス封止部14とより強固に隙間なく封止加工することができる。このような構成により、さらに防水性を高めることが出来る。
【0023】
ガラス転移温度Tgが比較的低く、熱膨張率が比較的小さいガラスとしては、例えば、ZnO−SiO2−R2O系(RはLi、Na、K等のI族の元素から選ばれる少なくとも1種)のガラス、リン酸系のガラス及び鉛ガラスが挙げられる。これらのガラスでは、ZnO−SiO2−R2O系のガラスが、リン酸系のガラスに比して耐湿性が良好で、鉛ガラスのように環境的な問題が生じることがないので好適である。またガラス転移温度が低いことで、前述の赤色LED13bにおける封止加工の生産性が向上し、選択の幅が広がるためより好ましい。
【0024】
ここで、熱融着ガラスとは加熱により軟化状態として成形したガラスであり、ゾルゲル法により成形されるガラスと異なる。ゾルゲルガラスでは成形時の体積変化が大きいのでクラックが生じやすくガラスによる厚膜を形成することが困難であるところ、熱融着ガラスはこの問題点を回避することができる。また、ゾルゲルガラスでは細孔を生じるので気密性を損なうことがあるが、熱融着ガラスはこの問題点を生じることもなく、LED13の封止を的確に行うことができる。このため防水性に優れた水中用照明1を得ることができる。
【0025】
以上で構成される水中用照明1は、従来の樹脂封止された照明装置と比べ、構造が簡素化されつつも防水性を容易に確保できる。
また水中用照明1全体が熱融着ガラスや金属パターンで形成される回路からなり、内部に有機物を含まずに構成できるため、光、及び熱に対して、非常に安定な光源とすることが出来る。
さらに、ガラス基板11、LED13、とガラス封止部14の間が、ホットプレス加工により密着し、内部に気体などが含まれないよう形成することで、耐水圧性も付与される。
【0026】
本実施例においては、クロロフィルの2つの光吸収帯に光照射するため、青色LED13a及び赤色LED13bを用いたLED13を示した。
しかしクロロフィル以外の光合成色素である、カルテノイド、フィコビリンに対して光照射する場合は、それぞれの光吸収帯の波長域で発光するLED13を用いなければならない。カルテノイドは緑色〜青色領域に光吸収帯を有し、また、フィコビリンは緑色領域の光を強く吸収する。このためカルテノイドを含有する植物に対しては青色LED及び/または緑色LEDを、フィコビリンを多く含有する藻類などの植物に対しては緑色LEDを、夫々用いることでより効果的に光合成、養殖を促進させることができる。
【0027】
なお、上述した形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の範囲内で適宜変形、応用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の水中用照明は、海藻類の養殖装置として適用できるほか、水中に沈めて使用する照明やイルミネーションなどの用途にも適用できる。
【符号の説明】
【0029】
1 水中用照明
2 植物
3 ケーブル
4 外部電源
11 ガラス基板
12 回路パターン
13 LED
14 ガラス封止部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中または海水中に沈めて配置され、その放出光によりクロロフィルを有する藻類の光合成を促す水中用照明において、
回路パターンが形成されたガラス基板と、
前記ガラス基板上に複数配列され、前記回路パターンに導電接続される、青色LEDおよび赤色LEDと、
前記青色LEDと前記赤色LEDと、これらが実装された前記ガラス基板の表面側と、に密着し一体に封止する熱融着ガラスからなるガラス封止部と、
を備える水中用照明。
【請求項2】
前記赤色LEDは、前記回路パターンに対しフリップチップ実装される、ことを特徴とする請求項1に記載の水中用照明。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水中用照明を用いた海水中植物の養殖装置であって、
前記海水中に沈めて配置される前記水中用照明と、
前記海水の外部に配置され、前記水中用照明に供給する電力を制御する外部電源と、
前記水中用照明および前記外部電源とを互いに接続するケーブルと、
を有することを特徴とする養殖装置。
【請求項4】
前記ガラス封止部は、前記ガラス基板上に配置される紫外LEDを更に一体に封止し、
前記紫外LEDの放出光により前記前記海水中の細菌を殺菌する
ことを特徴とする請求項3に記載の養殖装置。
【請求項5】
海水中に沈めて配置され、フィコビリンを有する藻類の光合成を促す海水中用照明において、
回路パターンが形成されたガラス基板と、
前記ガラス基板上に複数配列され、前記回路パターンに導電接続される緑色LEDと、
前記緑色LEDと、これらが実装された前記ガラス基板の表面側と、に密着し一体に封止する熱融着ガラスからなるガラス封止部と、
を備える海水中用照明。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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