説明

水処理システムおよびその曝気風量制御方法

【課題】下水処理設備に設けられる水処理システムにおいて、好気槽の曝気風量の適正化を図る。
【解決手段】水処理システム(1)は、曝気装置9が設けられた好気槽5を備えて活性汚泥法に基づいて水処理を行う一連の生物反応槽10と、好気槽5の活性汚泥混合液のアンモニア態窒素濃度を計測する第1のアンモニア計(32)と、一連の生物反応槽10において処理された後の処理水のアンモニア態窒素濃度を計測する第2のアンモニア計(33)と、曝気装置9の目標操作量を生成する曝気風量演算部41と、目標操作量に基づいて曝気装置9の曝気風量を制御する曝気風量制御部91とを備える。曝気風量演算部41は、好気槽5の活性汚泥混合液のアンモニア態窒素濃度と、処理水のアンモニア態窒素濃度に対応して補正された好気槽5の活性汚泥混合液のアンモニア態窒素濃度設定値との偏差に基づいて目標操作量信号を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水処理設備等に設けられる、好気槽を含む生物反応槽を備えた水処理システムに関する。特に、上記水処理システムにおいて、好気槽の曝気風量の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生活排水などの下水の水処理システムの一つとして、膜分離活性汚泥法(MBR:Membrane Bio-Reactor)で処理することにより再生水を製造する再生水製造システムが知られている。このような再生水製造システムは、例えば、原水(流入下水)を貯溜する原水槽と、原水と活性汚泥が混合した活性汚泥混合液(以下、単に「混合液」ともいう)中の汚濁物質を生物処理する一連の生物反応槽と、混合液から汚泥を膜分離する膜分離槽と、混合液から分離された処理水が流入する濾過水槽とを備えている。一連の生物反応槽には、嫌気槽、無酸素槽および好気槽などが含まれ、これらの反応槽で、炭素系有機物、窒素含有化合物、リン含有化合物などの原水に含まれる汚濁物質の除去が行われる。
【0003】
上記再生水製造システムにおいて、好気槽には混合液を曝気するための曝気装置が備えられている。混合液を曝気することにより、活性汚泥微生物の活動に必要となる混合液中の溶存酸素濃度を高めたり、混合液を攪拌したりすることができる。曝気装置により好気槽の混合液へ供給される空気量(以下、「曝気風量」という)が不足すれば、処理水の水質が悪化する。そこで、従来、好気槽に溶存酸素濃度計を設け、この溶存酸素濃度計の測定値が設定された溶存酸素濃度目標値となるように、好気槽の曝気風量が制御されている。しかし、溶存酸素濃度という間接的な指標に基づくため、処理水の水質を規制値内に維持するためには高い溶存酸素濃度目標値を設定せねばならず、好気槽の曝気風量は常時過剰となっている。したがって、稼動にエネルギーを要する曝気装置は、再生水製造システムの運転コストの削減と省エネルギー化の妨げとなっていた。
【0004】
そこで、特許文献1では、好気槽の曝気風量を好気槽内のアンモニア態窒素濃度に基づいて制御する曝気風量制御装置が提案されている。これは、有機物の除去およびリンの吸収速度に比べて硝化細菌の硝化速度が遅いことから、硝化に必要な酸素を供給すれば有機物の除去、リンの吸収、および窒素の除去に必要な曝気風量が確保できているという考えに基づいている。この特許文献1に係る曝気風量制御装置は、好気槽内のアンモニア態窒素濃度を計測するアンモニア計と、好気槽の放流水のアンモニア態窒素濃度の目標値を設定する目標設定手段と、計測されたアンモニア態窒素濃度を設定された目標値に近づけるような曝気風量の目標値を演算するコントローラとを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−199116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような再生水製造システムにおいて、季節差や地域差等に伴う環境の変化により、好気槽内の混合液のアンモニア態窒素濃度と濾過水槽内の処理液のアンモニア態窒素濃度の関係が変化することがある。これは、好気槽内のアンモニア態窒素濃度の目標値が、一般に水温の変動に応じて定められていることに起因している。具体的には、好気槽内の水温に応じて好気槽内のアンモニア態窒素濃度の目標値が設定され、この目標値に基づいて好気槽の曝気風量を調整するように曝気装置が制御されている。しかし、好気槽内のアンモニア態窒素濃度の目標値の決定因子が好気槽内の水温のみであると、好気槽の曝気風量の調整は不十分となる。なぜなら、季節差や地域差によって原水の組成が異なることがあり、このような因子によっても活性汚泥微生物の活性度が異なるからである。つまり、好気槽内のアンモニア態窒素濃度を同じ目標値としても、濾過水槽内のアンモニア態窒素濃度が低い場合は、好気槽の曝気風量が過剰であることとなり、過剰な曝気の分だけエネルギー損失に繋がる。逆に、濾過水槽のアンモニア態窒素濃度が高い場合は、曝気風量が不足していることとなり、環境規制値を超過するおそれがある。
【0007】
また、特許文献1に記載の技術では、好気槽内のアンモニア態窒素濃度に基づいて、好気槽の曝気風量を制御しているが、この制御方法では、好気槽の下流側に配置される濾過水槽内のアンモニア態窒素濃度が十分に低い場合であっても好気槽で過剰に曝気が行われることとなる。このような過剰の曝気は、余分なエネルギーを消費することに繋がる。
【0008】
本発明は上記に鑑み、下水処理設備に設けられる水処理システムにおいて、一連の生物反応槽で処理された後の処理水のアンモニア態窒素濃度に応じて好気槽の活性汚泥混合液のアンモニア態窒素濃度目標値を適切に設定することで、好気槽の曝気風量の適正化を図ることを目的とする。ひいては、好気槽への無駄な曝気風量を低減することにより、水処理システムの省エネルギーおよび運転コストの削減を図る。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る水処理システムは、
曝気装置を備えた好気槽と、該好気槽の上流側に設けられた少なくとも1以上の嫌気槽又は無酸素槽とを有し、活性汚泥法に基づいて水処理を行う一連の生物反応槽と、
前記好気槽の活性汚泥混合液のアンモニア態窒素濃度を計測する第1のアンモニア計と、
前記活性汚泥混合液が前記一連の生物反応槽において処理された後の処理水のアンモニア態窒素濃度を計測する第2のアンモニア計と、
前記好気槽の活性汚泥混合液のアンモニア態窒素濃度とその設定値との偏差に基づいて目標操作量信号を生成する第1の操作量演算要素と、前記処理水のアンモニア態窒素濃度に対応して前記設定値を補正する第2の操作量演算要素とを含むフィードバック制御系を有し、前記曝気装置の目標操作量を生成する曝気風量演算装置と、
生成された前記目標操作量に基づいて前記曝気装置の曝気風量を制御する曝気風量制御装置とを備えたものである。
【0010】
上記構成の水処理システムによれば、処理水のアンモニア態窒素濃度に基づいて好気槽の活性汚泥混合液のアンモニア態窒素濃度設定値を補正することによって、設定値環境変化や外乱の影響に対応して好気槽の活性汚泥混合液のアンモニア態窒素濃度設定値が適正化される。よって、一連の生物反応槽において処理された処理水のアンモニア態窒素濃度が環境既定値等の目標となる値と比較して低い場合には、これに応じて好気槽の活性汚泥混合液のアンモニア態窒素濃度の設定値を修正することにより、曝気風量を低減することができる。このように曝気風量が適正化されることにより、水処理システムの省エネルギー化と運転コストの削減を図ることができる。また、一連の生物反応槽において処理された処理水のアンモニア態窒素濃度が環境既定値等の目標となる値と比較して高い場合には、これに応じて好気槽の活性汚泥混合液のアンモニア態窒素濃度の設定値を修正することにより、曝気風量を増加することができる。これにより、処理水のアンモニア態窒素濃度が環境既定値等の目標となる値を超過することを防止できる。
【0011】
前記水処理システムにおいて、
前記一連の生物反応槽に流入する原水のアンモニア態窒素濃度を計測する第3のアンモニア計を更に備え、
前記曝気風量演算装置は、前記原水のアンモニア態窒素濃度に基づいて目標操作量先行信号を生成する第3の操作量演算要素を含むフィードフォワード制御系と、前記目標操作量信号と前記目標操作量先行信号を加算する加算演算要素とを更に有することがよい。
【0012】
上記構成によれば、原水のアンモニア態窒素濃度に基づいて好気槽の曝気風量を事前に変化させることにより、曝気装置はより適正な曝気風量となるように制御される。このように曝気風量が適正化されることにより、水処理システムの省エネルギー化と運転コストの削減を図ることができる。
【0013】
前記水処理システムにおいて、
前記好気槽の活性汚泥混合液の溶存酸素濃度を計測する溶存酸素濃度計を更に備え、
前記曝気風量演算装置の前記フィードフォワード制御系は、前記好気槽の活性汚泥混合液の溶存酸素濃度に対応して前記目標操作量先行信号を補正する第4の操作量演算要素を更に含むことがよい。
【0014】
上記構成によれば、好気槽の活性汚泥混合液の溶存酸素濃度に応じて目標操作量先行信号が上方修正又は下方修正されることにより、曝気風量を適正化することができる。このように曝気風量が適正化されることにより、水処理システムの省エネルギー化と運転コストの削減を図ることができる。
【0015】
本発明は、曝気装置を備えた好気槽と、該好気槽の上流側に設けられた少なくとも1以上の嫌気槽又は無酸素槽とを有し、活性汚泥法に基づいて水処理を行う一連の生物反応槽を備えた水処理システムの曝気風量制御方法であって、
前記好気槽の活性汚泥混合液のアンモニア態窒素濃度を計測する混合液計測工程と、
前記活性汚泥混合液が前記一連の生物反応槽において処理された後の処理水のアンモニア態窒素濃度を計測する処理水計測工程と、
前記好気槽の活性汚泥混合液のアンモニア態窒素濃度の設定値を前記処理水のアンモニア態窒素濃度に対応して補正する補正工程と、
前記好気槽の活性汚泥混合液のアンモニア態窒素濃度と補正された前記設定値との偏差に基づいて目標操作量信号を生成する信号生成工程と、
前記目標操作量信号に基づいて目標操作量を生成する操作量生成工程と、
生成された前記目標操作量に基づいて前記曝気装置の曝気風量を制御する風量制御工程と、を有するものである。
【0016】
上記水処理システムの曝気風量制御方法によれば、処理水のアンモニア態窒素濃度に基づいて好気槽の活性汚泥混合液のアンモニア態窒素濃度設定値を補正することによって、設定値環境変化や外乱の影響に対応して好気槽の活性汚泥混合液のアンモニア態窒素濃度設定値が適正化される。よって、一連の生物反応槽において処理された処理水のアンモニア態窒素濃度が環境既定値等の目標となる値と比較して低い場合には、これに応じて好気槽の活性汚泥混合液のアンモニア態窒素濃度の設定値を修正することにより、曝気風量を低減することができる。このように曝気風量が適正化されることにより、水処理システムの省エネルギー化と運転コストの削減を図ることができる。また、一連の生物反応槽において処理された処理水のアンモニア態窒素濃度が環境既定値等の目標となる値と比較して高い場合には、これに応じて好気槽の活性汚泥混合液のアンモニア態窒素濃度の設定値を修正することにより、曝気風量を増加することができる。これにより、処理水のアンモニア態窒素濃度が環境既定値等の目標となる値を超過することを防止できる。
【0017】
また、本発明は、曝気装置を備えた好気槽と、該好気槽の上流側に設けられた少なくとも1以上の嫌気槽又は無酸素槽とを有し、活性汚泥法に基づいて水処理を行う一連の生物反応槽を備えた水処理システムの曝気風量制御方法であって、
前記一連の生物反応槽に流入する原水のアンモニア態窒素濃度を計測する原水計測工程と、
前記好気槽の活性汚泥混合液のアンモニア態窒素濃度を計測する混合液計測工程と、
前記活性汚泥混合液が前記一連の生物反応槽において処理された後の処理水のアンモニア態窒素濃度を計測する処理水計測工程と、
計測された前記原水のアンモニア態窒素濃度に基づいて目標操作量先行信号を生成する先行信号生成工程と、
前記好気槽の活性汚泥混合液のアンモニア態窒素濃度の設定値を前記処理水のアンモニア態窒素濃度に対応して補正する設定値補正工程と、
前記好気槽の活性汚泥混合液のアンモニア態窒素濃度と補正された前記設定値との偏差に基づいて目標操作量信号を生成する信号生成工程と、
前記目標操作量先行信号と前記目標操作量帰還信号を加算して目標操作量を生成する操作量生成工程と、
生成された前記目標操作量に基づいて前記曝気装置の曝気風量を制御する風量制御工程と、を有するものである。
【0018】
上記水処理システムの曝気風量制御方法によれば、前述の水処理システムの曝気風量制御方法の作用および効果に加えて、原水のアンモニア態窒素濃度に基づいて好気槽の曝気風量を事前に変化させることにより、曝気装置はより適正な曝気風量となるように制御される。このように曝気風量がさらに適正化されることにより、水処理システムの省エネルギー化と運転コストの削減を図ることができる。
【0019】
前記水処理システムの曝気風量制御方法において、前記好気槽の活性汚泥混合液の溶存酸素濃度を計測する溶存酸素計測工程と、前記目標操作量先行信号を、前記好気槽の活性汚泥混合液の溶存酸素濃度に対応して補正する先行信号補正工程と、を有することがよい。
【0020】
上記方法によれば、好気槽の活性汚泥混合液の溶存酸素濃度に応じて目標操作量先行信号が上方修正又は下方修正されることにより、曝気風量を適正化することができる。このように曝気風量がより適正化されることにより、水処理システムの省エネルギー化と運転コストの削減を図ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、好気槽が備える曝気装置の曝気風量の適正化を図ることにより、水処理システムの省エネルギー化と運転コストの削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に係る再生水製造システムの概略構成を示す図である。
【図2】再生水製造システムの制御構成を示すブロック図である。
【図3】曝気風量演算部の信号の流れを示すブロック線図である。
【図4】FF操作量関数の特徴を示す図表である。
【図5】FF操作量補正関数の特徴を示す図表である。
【図6】設定値補正関数の特徴を示す図表である。
【図7】曝気風量と好気槽アンモニア態窒素濃度およびその設定値と処理水アンモニア態窒素濃度の時間推移を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら、詳細に説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0024】
図1は本発明の実施の形態に係る再生水製造システムの概略構成を示す図である。同図に示す再生水製造システム1は、膜分離活性汚泥法(MBR:Membrane Bio-Reactor)を利用して下水を浄化するための水処理システムである。再生水製造システム1は、上流側から順番に、原水槽2と、嫌気槽3、無酸素槽4および好気槽5から成る一連の生物反応槽10と、膜分離槽6と、濾過水槽7とを備えている。
【0025】
原水槽2は、流入した下水を一時的に貯えるバッファタンクとして機能する。原水槽2の流出側は、一連の生物反応槽10の最も上流側に位置する嫌気槽3の流入側と配管52によって接続されている。配管52には、原水槽2に貯えられた原水を嫌気槽3へ圧送する供給ポンプ51が設けられている。原水槽2の流出側には、原水槽2から一連の生物反応槽10(ここでは、最も上流側の嫌気槽3)へ流入する原水のアンモニア態窒素濃度(以下、「原水NH4濃度」という)を計測するための、原水アンモニア計31(第3のアンモニア計)が設けられている。
【0026】
生物反応槽10は、上流側から嫌気槽3、無酸素槽4および好気槽5の順に設けられており、生物反応槽10へ流入した原水は活性汚泥との活性汚泥混合液(以下、単に「混合液」ともいう)として存在している。本実施の形態において、嫌気槽3と無酸素槽4は一つの反応槽を2つに仕切ることにより形成されており、仕切りを介して嫌気槽3と無酸素槽4は連通している。よって、嫌気槽3の混合液は、無酸素槽4へ移動することができる。無酸素槽4の流出側は、好気槽5の流入側と配管53により接続されている。さらに、好気槽5の流出側は、膜分離槽6の流入側と配管54により接続されている。
【0027】
好気槽5には、混合液をエアレーションするための曝気装置9が設けられている。本実施の形態に係る曝気装置9は散気式のものであって、送風機(図示略)から送られた圧縮空気を微細な気泡状にして好気槽5の底部から混合液中に吹き込むように構成されている。好気槽5の混合液中に吹き込まれた空気が気泡となって水面に上昇するときに、混合液の撹絆および混合が行われるとともに、活性汚泥微生物による窒素、リンおよび有機物除去の際に必要となる酸素が混合液中に供給される。曝気装置9によって好気槽5の混合液に供給される空気量(以下、「曝気風量」という)は、後述する制御装置40により制御される。
【0028】
また、好気槽5には、好気槽5の混合液のアンモニア態窒素濃度(以下、「好気槽NH4濃度」という)を計測する好気槽アンモニア計32(第1のアンモニア計)が設けられている。さらに、好気槽5には、好気槽5の混合液の溶存酸素濃度(以下、「好気槽DO濃度」という)を計測する溶存酸素濃度計34が設けられている。なお、好気槽アンモニア計32および溶存酸素濃度計34は、好気槽5から流出しようとする混合液の成分を測定する観点から何れも好気槽5の流出側に設けられることが望ましいが、好気槽5内の混合液は完全混合していると考えられるので、これらの配置は特に限定されない。
【0029】
膜分離槽6には、好気槽5より流入した混合液から汚泥等を分離する分離膜8が設けられている。分離膜8は、膜分離槽6と濾過水槽7とを接続している配管56の入口に設けられている。配管56には、分離膜8にて汚泥等が分離された、すなわち、濾過された処理水を濾過水槽7へ圧送する排出ポンプ55が設けられている。排出ポンプ55は、目標値操作によって間欠駆動されている。そして、排出ポンプ55によって膜分離槽6から流出した処理水量と対応する量の原水が供給ポンプ51により嫌気槽3へ供給され、嫌気槽3から無酸素槽4、無酸素槽4から好気槽5および好気槽5から膜分離槽6へはそれぞれオーバーフロー量の混合液が供給されることで、生物反応槽10全体の保有水量が維持されている。
【0030】
また、膜分離槽6には、分離膜8の表面に付着している汚泥等を除去するためのスクラビング装置36が設けられている。スクラビング装置36は、分離膜8の表面に微小気泡を当接させることにより、分離膜8の表面に付着している汚泥を除去したり汚泥の付着を抑制したりするものである。本実施の形態に係るスクラビング装置36は、膜分離槽6内において分離膜8の下方から空気の微小気泡を吹き出すように構成されている。スクラビング装置36から膜分離槽6内へ吹き出す空気の量は、再生水製造システム1(特に、分離膜8の表面積や形状等)に応じて定められた一定量に保持されている。スクラビング装置36により膜分離槽6へ供給された空気に含まれる酸素によっても、膜分離槽6の混合液の窒素、リンおよび有機物除去が進行する。
【0031】
さらに、膜分離槽6の底部には、循環水取出口6a、返送汚泥取出口6bおよび余剰汚泥取出口6cがそれぞれ開口している。膜分離槽6の循環水取出口6aと無酸素槽4とは、循環ポンプ62を備えた配管61で接続されている。この配管61を介して、膜分離槽6から無酸素槽4へ循環水(硝化の進んだ混合液)が供給される。また、膜分離槽6の返送汚泥取出口6bと嫌気槽3の底部とは、汚泥返送ポンプ64を備えた配管63で接続されている。この配管63を介して、膜分離槽6から嫌気槽3へ汚泥の一部が返送される。さらに、膜分離槽6の余剰汚泥取出口6cに、余剰汚泥ポンプ60を備えた配管59が接続されている。この配管59を通じて、膜分離槽6から余剰汚泥が排出される。
【0032】
濾過水槽7には、濾過水槽7へ流入した処理水のアンモニア態窒素濃度(以下、「処理水NH4濃度」という)を計測する処理水アンモニア計33(第2のアンモニア計)が設けられている。この処理水アンモニア計33は濾過水槽7内の処理水のアンモニア態窒素濃度を計測すべく濾過水槽7に設けられているが、一連の生物反応槽10で汚濁物質が生物処理された混合液から汚泥が分離された後の処理水のアンモニア態窒素濃度を計測できれば、その配置は限定されない。例えば、処理水アンモニア計33を膜分離槽6から濾過水槽7へ処理水を送る配管56に設けることもできる。
【0033】
次に、再生水製造システム1の制御構成を説明する。図2は再生水製造システムの制御構成を示すブロック図である。同図では、特に曝気装置9の制御に関して詳細に示し、余を省略している。
【0034】
図2に示すように、制御装置40は主に、再生水製造システム1全体の制御を司る運転制御部42、曝気装置9の目標操作量(すなわち、好気槽5の曝気風量の目標値)を生成する曝気風量演算部41、目標操作量に基づいて曝気装置9を制御する曝気風量制御部91等の機能部を有している。なお、本実施の形態において、曝気風量制御部91は制御装置40に備えているが、曝気装置9に備えられていてもかまわない。制御装置40は、1又は複数のコンピュータからなり、各コンピュータはCPU(中央処理装置)、CPUが実行するプログラムやプログラムで使用されるデータを書き替え可能に記憶する主記憶装置、CPUがプログラム実行時にデータを一時的に記憶する副記憶装置、CPUと外部機器を接続するためのインターフェース、並びこれらを接続する内部経路等を備えている(何れも不図示)。そして、CPUで所定のプログラムが実行されることにより、図2に示す制御装置40の各機能部が実現される。
【0035】
制御装置40と再生水製造システム1が備える各ポンプ、すなわち、供給ポンプ51、排出ポンプ55、循環ポンプ62、汚泥返送ポンプ64および余剰汚泥ポンプ60の駆動部とは有線又は無線で接続されており、各ポンプ51,55,62,64,60の動作は制御装置40の運転制御部42により制御されている。また、制御装置40と曝気装置9において曝気風量を変化させる送風機(図示略)とは有線又は無線で接続されており、曝気装置9の動作は制御装置40の曝気風量制御部91により制御されている。さらに、制御装置40と各アンモニア計31,32,33および溶存酸素濃度計34は通信可能に接続されており、これらの計器31,32,33,34の計測信号が制御装置40へ送信される。そして、制御装置40は、各計器31,32,33,34の計測信号に基づいて、各ポンプ51,55,62,64,60および曝気装置9を動作させる。これにより、制御装置40は、濾過水槽7の処理水の窒素、リンおよび有機物がそれぞれの規制値を超えないように、原水の流入量、処理水の放流量、循環液の流量、返送汚泥の流量、余剰汚泥の引抜量および曝気風量を適正な値に管理および制御している。
【0036】
上記構成の再生水製造システム1による再生水製造プロセスでは、以下に示すように混合液(原水)に含まれる有機物、窒素およびリン等の除去が行われる。
【0037】
再生水製造プロセスにおいて、混合液に含まれる炭素系の有機物は、活性汚泥中の好気性および通性嫌気性の従属栄養細菌の作用により分解されるか、或いは活性汚泥として系外へ排出される。具体的には、混合液中の有機物は、活性汚泥と接触して活性汚泥の表面に吸着(凝縮)され、活性汚泥に吸着された有機物は、嫌気槽3および無酸素槽4の嫌気条件下で、活性汚泥中の通性嫌気性の従属栄養細菌に摂取され、分解される。また、活性汚泥に吸着された有機物は、好気槽5の好気条件下で、活性汚泥中の好気性および通性嫌気性の従属栄養細菌によって生体の維持や細胞合成等に必要なエネルギーを得るために分解(酸化)される。さらに、この従属栄養細菌は酸化によって得たエネルギーを利用して、有機物を新しい細胞物質に合成(同化)する。このようにして、混合液に含まれる有機物の大部分は、活性汚泥に吸着されたのち、活性汚泥微生物の酸化および同化に利用され、混合液中より除去される。なお、酸化および同化されない有機物は系内に貯留され、活性汚泥微生物の内生呼吸により酸化されない細胞物質とともに最終的に余剰汚泥として系外へ排出される。
【0038】
また、再生水製造プロセスにおいて、混合液に含まれるリンは、活性汚泥中のリン蓄積細菌の作用により活性汚泥に蓄積された状態で系外へ排出される。具体的には、活性汚泥中のリン蓄積細菌は、嫌気槽3の嫌気条件下で、原水槽2から嫌気槽3へ流入した原水に含まれている酢酸などの有機物を体内に取り込み、保持していたリン酸(PO4)を放出する。そして、活性汚泥中のリン蓄積細菌は、好気槽5の好気条件下でリンを過剰摂取し、嫌気槽3で放出された以上のリン酸態のリンを取り込む。このようにして混合液中のリンが活性汚泥に蓄積され、リンが蓄積された活性汚泥は余剰汚泥として系外へ排出される。
【0039】
また、再生水製造プロセスにおいて、窒素は無酸素槽4から系外へ放出される。詳細には、原水槽2から嫌気槽3へ流入した原水には、アンモニア態窒素(NH4+-N)と有機態窒素とが含まれている。混合液に含まれる有機態窒素は、嫌気槽3、無酸素槽4および好気槽5で、アンモニア態窒素に変化する。混合液中のアンモニア態窒素は、好気槽5で硝化細菌の作用により酸化して、亜硝酸態窒素(NO2-N)または硝酸態窒素(NO3-N)となる。したがって、循環ポンプ62により膜分離槽6から無酸素槽4に送り込まれる循環水には、亜硝酸態窒素および/または硝酸態窒素が含まれている。混合液中の亜硝酸態窒素および硝酸態窒素は、無酸素槽4の無酸素条件下で原水中の有機物を栄養源とする脱窒細菌による硝酸性呼吸あるいは亜硝酸性呼吸により窒素ガス(N2)へと還元されて、無酸素槽4から系外へ放出される。
【0040】
ここで、図3を参照しながら、制御装置40の曝気風量演算部41による曝気装置9の目標操作量、すなわち、好気槽5の曝気風量の目標値の生成方法について説明する。曝気風量演算部41で生成された目標操作量に基づいて、曝気風量制御部91は曝気装置9が具備する送風機(図示略)の回転速度の操作量、および、曝気装置9から好気槽5内へ供給される空気の供給経路に設けられた調節用アクチュエータ(図示略)の操作量のうち少なくとも一方を調整する。
【0041】
図3は曝気風量演算部の信号の流れを示すブロック線図である。同図に示すように、曝気風量演算部41は、原水NH4濃度に基づいて目標操作量先行信号であるフィードフォワード操作量(以下、FF操作量という)を生成するフィードフォワード制御系(以下、FF制御系48という)と、好気槽NH4濃度を制御量として目標操作量帰還信号であるフィードバック操作量(以下、FB操作量という)を生成するフィードバック制御系(以下、FB制御系49という)を備えている。FF制御系48とFB制御系49は協動して機能し、FF制御系48で生成されたFF操作量と、FB制御系49で生成されたFB操作量とが加算要素77で加算されて、曝気装置9の目標操作量が生成される。
【0042】
まず、FF制御系48について説明する。FF制御系48は、FF操作量関数F1(x)要素71(第3の操作量演算要素)と、無駄時間要素75と、フィードフォワードゲイン要素76と、FF操作量補正関数F2(u)要素72(第4の操作量演算要素)と、積算要素74とを備えている。FF制御系48の出力信号(FF操作量)は、加算要素77に入力される。
【0043】
FF操作量関数F1(x)は、原水NH4濃度xに基づいて処理水NH4濃度を制御するために、原水NH4濃度xと曝気風量操作量(特に、FF操作量)との静特性の関係を関数化したものである。原水NH4濃度xは、本実施の形態では、原水槽2に設けられた原水アンモニア計31の測定値であるが、嫌気槽3へ流入する原水のアンモニア態窒素濃度であればよいのでその測定位置は限定されない。
【0044】
図4はFF操作量関数F1(x)の特性を示す図表であって、縦軸yはFF操作量(L/min)を示し、横軸xは原水NH4濃度(mg/L)を示している。FF操作量(L/min)は、すなわち、好気槽5の曝気風量を表している。FF操作量yの最低風量Y1は、システム全体を維持するために最低限必要な風量である。システム全体を維持するために最低限必要な風量とは、好気槽5の混合液を攪拌し、且つ、好気槽5の好気的条件下で炭素系有機物を利用して増殖する従属栄養生物、アンモニア態窒素を硝化する硝化細菌などの活性汚泥微生物が生体を維持するために必要な酸素を提供する最低限の曝気風量である。最低風量Y1は、好気槽5の活性汚泥微生物の数や好気槽5の容量に応じて適宜定められる。なお、曝気風量が最低風量Y1であるときに、好気槽5の混合液の溶存酸素濃度は0に近い状態となっている。
【0045】
また、FF操作量yは、原水NH4濃度xが0から第1濃度X1までの範囲において、最低風量Y1で一定である。そして、FF操作量yは、原水NH4濃度xが第1濃度X1以上の範囲において、原水NH4濃度xの増加に伴って増加する。この第1濃度X1は、曝気風量が最低風量Y1であるときに処理水NH4濃度が規定値(目標値)以下となる、最大の原水NH4濃度である。なお、処理水NH4濃度の規定値は、環境規制値などに基づいて適宜定められる。
【0046】
上記FF操作量yに動特性を付加するために、FF操作量関数F1(x)で得られたFF操作量yは無駄時間とフィードフォワードゲインKfにより調整される。無駄時間(シフト時間とも呼ばれる)は、原則として、原水アンモニア計31でアンモニア態窒素濃度が計測された原水が、一連の生物反応槽10に流入して活性汚泥と混合された混合液となって、好気槽5に流入するまでに要する時間である。但し、好気槽5においてアンモニア態窒素を硝化する硝化細菌の増殖速度は、通常の活性汚泥中にいる従属栄養細菌より遅いので、混合液のアンモニア態窒素濃度の不連続面が好気槽5に到達するよりも前に曝気風量を増加させ、その不連続面が好気槽5に到達したときにはアンモニア態窒素濃度の急激な増加に対応しうるように活性汚泥微生物を活性化させておくことが望ましい。つまり、無駄時間は、原水アンモニア計31でアンモニア態窒素濃度が計測された原水が好気槽5に流入するまでに要する時間よりも短い時間に設定されることが望ましい。このような無駄時間は、原水が嫌気槽3へ流入してから無酸素槽4より流出するまでの滞留時間を含めた時間として、実験的又は計算的に求めることができる。一例として、最大処理量が55ton/dayの再生水製造システムにおいて、原水が嫌気槽3へ流入してから無酸素槽4より流出するまでに要する時間は滞留時間を含めて2時間程度である。また、フィードフォワードゲインKfは、入力値である原水NH4濃度xの変化量と出力値であるFF操作量yの変化量の比であり、適宜設定される。
【0047】
好気槽5の曝気風量は、好気槽DO濃度が基準となる溶存酸素濃度と比較して大きければ低減することができ、一方、好気槽DO濃度が基準となる溶存酸素濃度と比較して小さければ増加せねばならない。そこで、上記のように無駄時間とフィードフォワードゲインKfにより調整されたFF操作量yは、好気槽DO濃度uに基づくFF操作量補正係数αにより補正される。詳細には、無駄時間とフィードフォワードゲインKfにより調整されたFF操作量yと、FF操作量補正関数F2(u)で得られたFF操作量補正係数αとが、積算要素74で積算される。
【0048】
FF操作量補正関数F2(u)は、FF操作量補正係数αを好気槽DO濃度uの関数として表したものである。図5は、FF操作量補正関数F2(u)の特性を示す図表であって、縦軸αはFF操作量補正係数αを示し、横軸uは好気槽DO濃度u(mg/L)を示している。同図に示すように、好気槽DO濃度uが0のときに補正係数αは1よりも大きいαである(F(0)=α,α>1)。好気槽DO濃度uが基準濃度U1のときに、補正係数αは1である(F2(U1)=1)。好気槽DO濃度uが最大濃度U2のときに、補正係数αは1よりも小さいα1である(F2(U2)=α1,α1<1)。このように、補正係数αは、好気槽DO濃度uの増加に伴い、好気槽DO濃度uが基準濃度U1のときを1として、1より大きいα2から1より小さいα1まで減少する。補正係数αの好適な一例として、α1=0.5とし、α2=1.5とすることができる。なお、本実施の形態において、FF操作量補正関数F2(u)は一次関数であるが、これに限定されるものではなく、FF操作量補正係数αと好気槽DO濃度uが負の相関であればFF操作量補正関数F2(u)は二次以上の高次関数であってもよい。
【0049】
次に、FB制御系49について説明する。FB制御系49は、好気槽5の混合液のアンモニア態窒素濃度設定値(以下、「好気槽NH4濃度設定値」ともいう)を補正する設定値補正関数F3(v)要素73と、好気槽NH4濃度設定値を補正するために設定値補正係数βと積算する積算要素80と、補正された好気槽NH4濃度設定値と好気槽NH4濃度との偏差を算出する偏差演算要素78と、この偏差からFB操作量を生成するFB操作量演算要素79とを備えている。FB操作量演算要素79(第1の操作量演算要素)は、例えば、PID制御方法、P制御方法又はPI制御方法を用いてFB操作量を算出する演算要素である。FB制御系49の出力信号(FB操作量)は、加算要素77に入力される。
【0050】
好気槽NH4濃度設定値は、処理水NH4濃度の規制値(目標値)に基づいて適宜定められる値である。但し、好気槽NH4濃度設定値は、処理水NH4濃度の規制値に加えて、混合液の水温等の他の因子に基づいて定められてもよい。
【0051】
好気槽NH4濃度と処理液NH4濃度との相関は、混合液の水温や原水の組成等により変動することがある。処理液NH4濃度が規定値よりも十分に小さいときは、好気槽NH4濃度設定値が過小である。過小な好気槽NH4濃度設定値は、過剰な曝気をもたらし、曝気のために余分なエネルギーを消費することとなる。よって、このようなときは好気槽NH4濃度設定値を上方修正して、好気槽5の曝気風量を低減することが望ましい。一方、処理液NH4濃度が規定値を越えるときは、好気槽NH4濃度設定値が過剰である。このようなときは好気槽NH4濃度設定値を下方修正して、好気槽5の曝気風量を増加せねばならない。このように好気槽5の曝気風量を過不足なく適正化した状態とするために、好気槽NH4濃度設定値は、処理水NH4濃度vに基づいて上方又は下方修正される。詳細には、設定値補正係数βを処理水NH4濃度vの関数として表した設定値補正関数F3(v)要素73(第2の操作量演算要素)を用いて設定値補正係数βを求め、好気槽NH4濃度設定値に設定値補正係数βを乗じることにより好気槽NH4濃度設定値が補正される。
【0052】
図6は、設定値補正関数F3(v)の特性を示す図表であって、縦軸βは設定値補正係数を示し、横軸vは処理水NH4濃度v(mg/L)を示している。同図に示すように、処理水NH4濃度vが0のときに補正係数βは1よりも大きいβである(F3(0)=β,β>1)。処理水NH4濃度vが基準濃度V1のときに、補正係数βは1である(F3(V1)=1)。処理水アンモニア態窒素濃度vが最大濃度V2のときに、補正係数βは1よりも小さいβ1である(F3(V2)=β1,β1<1)。このように、補正係数βは、処理水NH4濃度vの増加に伴って、処理水NH4濃度vが基準濃度V1のときを1として、1より大きいβ2から1より小さいβ1まで減少する。補正係数βの好適な一例として、β1=0.5とし、β2=1.5とすることができる。なお、本実施の形態において、設定値補正関数F3(v)は一次関数としているが、これに限定されるものではなく、補正係数βと処理水NH4濃度vが負の相関であれば設定値補正関数F3(v)は二次以上の高次関数であってもよい。
【0053】
以上の通り、FF制御系48で先行信号である原水NH4濃度に基づいてFF操作量が算出され、FB制御系49でFF操作量を補償するかたちでFB操作量が算出され、これらのFF操作量とFB操作量とを加え合わせて曝気装置9の目標操作量が生成される。ここで、処理水NH4濃度が規定値よりも低い場合や、好気槽DO濃度が基準となる値よりも高い場合は、好気槽5の曝気風量を小さくするような目標操作量が生成される。一方、処理水NH4濃度が規定値よりも高い場合や、好気槽DO濃度が基準となる値よりも低い場合は、好気槽5の曝気風量を大きくするような目標操作量が生成される。このように曝気風量演算部41で生成された曝気装置9の目標操作量は、曝気風量制御部91へ出力される。曝気風量制御部91により制御される曝気装置9では、目標操作量に応じて送風機が駆動されて、この結果、目標操作量に応じた曝気風量の空気が好気槽5の混合液へ供給される。
【0054】
図7は、制御装置40により制御された曝気風量、好気槽NH4濃度設定値、好気槽NH4濃度、および処理水NH4濃度の時間推移を示す図表である。同図に矢印(A)で示すように、曝気風量演算部41で生成された目標操作量に基づいて好気槽5の曝気風量が制御されれば、処理液NH4濃度が規定値を十分に下回るときには、好気槽NH4濃度設定値が増加して曝気風量が低減する。この結果、同図に矢印(B)で示すように、処理液NH4濃度は規定値に近づく。このようにして、処理液NH4濃度が規定値の近傍を推移するように好気槽NH4濃度設定値が増減されるので、好気槽5の曝気風量は余剰分が削減され又は不足分が増加されることにより適正化される。好気槽5の曝気風量の余剰分が削減されることにより、曝気に要する再生水製造システム1の運転コストおよびエネルギーを削減することができる。また、好気槽5の曝気風量の不足分が増加されることにより、処理液NH4濃度が環境規制値を超えることを防止できる。
【0055】
以上、本発明の好適な一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて、様々な設計変更を行うことが可能である。
【0056】
例えば、再生水製造システム1の具体的な構造は、上記実施の形態に限定されない。本実施の形態に係る再生水製造システム1は、好気槽5と膜分離槽6を各々独立した槽として備えているが、これらを一体的な槽として備えることもできる。また、本実施の形態に係る再生水製造システム1は、嫌気槽3と無酸素槽4を共に備えているが、嫌気槽3と無酸素槽4とのうち少なくとも一方を備えていてもよい。さらに、本実施の形態に係る曝気装置9は、送風機の回転数の操作量または調節アクチュエータの操作量により曝気風量を調整するように構成されているが、送風機の回転数の操作量および調節アクチュエータの操作量の両方で曝気風量を調整するように構成されていてもよい。
【0057】
また、例えば、本実施の形態においてアンモニア計31,32,33は、それぞれ原水、混合液、処理液のアンモニア態窒素濃度を連続的に計測する濃度計であるが、定期的又は不定期にサンプリングを行って任意の方法でアンモニア態窒素濃度を測定する方法とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、曝気が行われる好気槽を備えた水処理システムにおいて、好気槽の曝気風量を適正化するために有用である。
【符号の説明】
【0059】
1 再生水製造システム(水処理システム)
2 原水槽
3 嫌気槽
4 無酸素槽
5 好気槽
6 膜分離槽
7 濾過水槽
8 分離膜
9 曝気装置
10 生物反応槽
31 原水アンモニア計(第3のアンモニア計)
32 好気槽アンモニア計(第1のアンモニア計)
33 処理水アンモニア計(第2のアンモニア計)
34 溶存酸素濃度計
36 スクラビング装置
40 制御装置
41 曝気風量演算部
48 フィードフォワード制御系
49 フィードバック制御系
71 FF操作量関数要素(第3の操作量演算要素)
72 FF操作量補正関数要素(第4の操作量演算要素)
73 設定値補正関数要素(第1の操作量演算要素)
79 FB操作量演算要素(第2の操作量演算要素)
91 曝気風量制御部
51 供給ポンプ
55 排出ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
曝気装置を備えた好気槽と、該好気槽の上流側に設けられた少なくとも1以上の嫌気槽又は無酸素槽とを有し、活性汚泥法に基づいて水処理を行う一連の生物反応槽と、
前記好気槽の活性汚泥混合液のアンモニア態窒素濃度を計測する第1のアンモニア計と、
前記活性汚泥混合液が前記一連の生物反応槽において処理された後の処理水のアンモニア態窒素濃度を計測する第2のアンモニア計と、
前記好気槽の活性汚泥混合液のアンモニア態窒素濃度とその設定値との偏差に基づいて目標操作量信号を生成する第1の操作量演算要素と、前記処理水のアンモニア態窒素濃度に対応して前記設定値を補正する第2の操作量演算要素とを含むフィードバック制御系を有し、前記曝気装置の目標操作量を生成する曝気風量演算装置と、
生成された前記目標操作量に基づいて前記曝気装置の曝気風量を制御する曝気風量制御装置とを備えた、
水処理システム。
【請求項2】
前記一連の生物反応槽に流入する原水のアンモニア態窒素濃度を計測する第3のアンモニア計を更に備え、
前記曝気風量演算装置は、前記原水のアンモニア態窒素濃度に基づいて目標操作量先行信号を生成する第3の操作量演算要素を含むフィードフォワード制御系と、前記目標操作量信号と前記目標操作量先行信号を加算する加算演算要素とを更に有する、
請求項1に記載の水処理システム。
【請求項3】
前記好気槽の活性汚泥混合液の溶存酸素濃度を計測する溶存酸素濃度計を更に備え、
前記曝気風量演算装置の前記フィードフォワード制御系は、前記好気槽の活性汚泥混合液の溶存酸素濃度に対応して前記目標操作量先行信号を補正する第4の操作量演算要素を更に含む、
請求項2に記載の水処理システム。
【請求項4】
曝気装置を備えた好気槽と、該好気槽の上流側に設けられた少なくとも1以上の嫌気槽又は無酸素槽とを有し、活性汚泥法に基づいて水処理を行う一連の生物反応槽を備えた水処理システムの曝気風量制御方法であって、
前記好気槽の活性汚泥混合液のアンモニア態窒素濃度を計測する混合液計測工程と、
前記活性汚泥混合液が前記一連の生物反応槽において処理された後の処理水のアンモニア態窒素濃度を計測する処理水計測工程と、
前記好気槽の活性汚泥混合液のアンモニア態窒素濃度の設定値を前記処理水のアンモニア態窒素濃度に対応して補正する補正工程と、
前記好気槽の活性汚泥混合液のアンモニア態窒素濃度と補正された前記設定値との偏差に基づいて目標操作量信号を生成する信号生成工程と、
前記目標操作量信号に基づいて目標操作量を生成する操作量生成工程と、
生成された前記目標操作量に基づいて前記曝気装置の曝気風量を制御する風量制御工程と、を有する水処理システムの曝気風量制御方法。
【請求項5】
曝気装置を備えた好気槽と、該好気槽の上流側に設けられた少なくとも1以上の嫌気槽又は無酸素槽とを有し、活性汚泥法に基づいて水処理を行う一連の生物反応槽を備えた水処理システムの曝気風量制御方法であって、
前記一連の生物反応槽に流入する原水のアンモニア態窒素濃度を計測する原水計測工程と、
前記好気槽の活性汚泥混合液のアンモニア態窒素濃度を計測する混合液計測工程と、
前記活性汚泥混合液が前記一連の生物反応槽において処理された後の処理水のアンモニア態窒素濃度を計測する処理水計測工程と、
計測された前記原水のアンモニア態窒素濃度に基づいて目標操作量先行信号を生成する先行信号生成工程と、
前記好気槽の活性汚泥混合液のアンモニア態窒素濃度の設定値を前記処理水のアンモニア態窒素濃度に対応して補正する設定値補正工程と、
前記好気槽の活性汚泥混合液のアンモニア態窒素濃度と補正された前記設定値との偏差に基づいて目標操作量信号を生成する信号生成工程と、
前記目標操作量先行信号と前記目標操作量帰還信号を加算して目標操作量を生成する操作量生成工程と、
生成された前記目標操作量に基づいて前記曝気装置の曝気風量を制御する風量制御工程と、を有する水処理システムの曝気風量制御方法。
【請求項6】
前記好気槽の活性汚泥混合液の溶存酸素濃度を計測する溶存酸素計測工程と、
前記目標操作量先行信号を、前記好気槽の活性汚泥混合液の溶存酸素濃度に対応して補正する先行信号補正工程と、を有する請求項4又は5に記載の水処理システムの曝気風量制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−34966(P2013−34966A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174601(P2011−174601)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】