説明

水処理機器

【課題】コストの増加を招くことなく、マップの付着を抑制することができる水処理機器を提供すること。
【解決手段】撹拌機1のシャフト4の浸漬部41、上段インペラ5、及び下段インペラ6等の接液部にガラスフレーク系塗料を塗布することで、これらの接液部において、汚水W中にイオンとして存在するリン酸、マグネシウム、アンモニウム、カルシウム等のイオン結合を妨げ、リン酸マグネシウムアンモニウムや炭酸カルシウム等のマップが析出して付着することを抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水処理に供される水処理機器において、水中のリン酸マグネシウムアンモニウムや炭酸カルシウム等のいわゆるマップと呼ばれる析出物が、水と接する部分に付着することを抑制する技術が知られている。例えば、以下の特許文献1の造粒脱リン装置は、リン酸マグネシウムアンモニウムを造粒するための造粒塔を備えており、この造粒塔内の下部には、上下に延在する内筒が水没するように設けられ、上部には、上下に延在する筒状の空気捕集カバーが水中及び水面上に亘って設けられている。そして、リン酸マグネシウムが付着しやすい箇所であるこれら内筒及び空気捕集カバーの内壁にフッ素樹脂を被覆することで、リン酸マグネシウムアンモニウムの付着を防止できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−337407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の造粒脱リン装置で用いられているフッ素樹脂は高価であるため、水処理機器の製造コストが増加してしまう。また、固形状のフッ素樹脂を被覆する場合には、被覆のための施工に手間がかかり、製造コストがさらに増加してしまう。また、フッ素樹脂は耐摩耗性が比較的低いため、水中の異物等により早期に摩耗するおそれがあり、このような摩耗が生じるとマップの付着を十分に抑制することができない。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、コストの増加を招くことなく、マップの付着を抑制することができる水処理機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者は、水処理機器において液体と接する部分にガラスフレーク系塗料を塗布することで、ガラスフレーク系塗料中のガラスフレークが、水中にイオンとして存在するリン酸、マグネシウム、アンモニウム、カルシウム等のイオン結合を妨げ、リン酸マグネシウムアンモニウムや炭酸カルシウム等のマップの付着を抑制できることを見出した。
【0007】
そこで、本発明に係る水処理機器は、水処理に供される水処理機器であって、液体と接する接液部を備え、接液部には、マップが付着することを抑制するためのガラスフレーク系塗料が塗布されていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、水処理機器の接液部にガラスフレーク系塗料が塗布されている。このため、ガラスフレーク系塗料が塗布された接液部においては、上述したように、水中にイオンとして存在するリン酸、マグネシウム、アンモニウム、カルシウム等のイオン結合が妨げられ、リン酸マグネシウムアンモニウムや炭酸カルシウム等のマップが析出して付着することが抑制される。また、ガラスフレーク系塗料は硬質で耐摩耗性に優れているため、長期に亘ってマップの付着を抑制することができる。更に、ガラスフレーク系塗料はフッ素樹脂に比して安価であるため、コストの増加を抑制できる。また、ガラスフレーク系塗料は容易に塗布することができるため、施工コストの増加を抑制することができる。従って、コストの増加を招くことなく、マップの付着を抑制することができる。
【0009】
ここで、接液部には、回転により水流を発生させる回転部が含まれると、水中で析出したマップが接液部に完全に付着してしまう前に、回転により発生する水流で当該マップを除去することが可能となり、マップの付着を一層抑制することができる。
【0010】
また、回転部は、インペラ又はポンプの羽根であっても良い。
【0011】
また、接液部には、槽内部のコンクリート壁が含まれても良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、コストの増加を招くことなく、マップの付着を抑制することができる水処理機器を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る水処理機器を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る水処理機器の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る水処理機器を示す概略図である。図1に示すように、水処理機器である撹拌機1は、水処理設備の槽2において水処理に供されるものであり、槽2内の汚水Wの撹拌を行う。汚水Wには、リン酸、マグネシウム、アンモニウム、カルシウム等がイオンとして含まれている。撹拌機1は、駆動部3、シャフト4、上段インペラ(撹拌羽根;回転部)5、及び下段インペラ(撹拌羽根;回転部)6を備えている。
【0016】
駆動部3は、その駆動によりシャフト4を介して上段インペラ5及び下段インペラ6を回転させるものであり、槽2の上壁上に設けられている。この駆動部3は、電動機、減速機、及びベアリング等を含んで構成される。
【0017】
シャフト4は、駆動部3からの回転駆動力を上段インペラ5及び下段インペラ6に伝達するものであり、駆動部3に連結されている。このシャフト4は、槽2の上壁に設けられた貫通孔21を通して、槽2内に向けて鉛直方向下側に延在している。シャフト4の下側約2/3程度の部分は、汚水Wに水没する浸漬部(接液部)41となっている。なお、駆動部3及びシャフト4には、槽2内の気体が駆動部3内に流入するのを防止するための不図示の水封シールが設けられている。
【0018】
上段インペラ5は、槽2内の上部において汚水Wの撹拌を行うものであり、シャフト4の軸線方向略中央部に取り付けられている。この上段インペラ5は、板状をなしてシャフト4の円周方向に沿って等間隔に複数(例えば2つ)設けられており、シャフト4から径方向外側に延在している。上段インペラ5は、運転時には汚水Wに水没するようになっており、汚水Wと接する接液部となっている。下段インペラ6は、槽2内の下部において汚水Wの撹拌を行うものであり、シャフト4の下端部に取り付けられている。この下段インペラ6は、上段インペラ5よりも径方向外側まで延在しているが、それ以外の構成は上段インペラ5と略同様であり、運転時には汚水Wに完全に水没し、汚水Wと接する接液部となっている。そしてシャフト4の回転に伴い、上段インペラ5及び下段インペラ6が回転し、上段インペラ5は汚水W内の上部に水流を発生させて汚水Wを撹拌し、下段インペラ6は汚水W内の下部に水流を発生させて汚水Wを撹拌する。
【0019】
シャフト4の浸漬部41、上段インペラ5、及び下段インペラ6等の接液部には、ガラスフレーク系塗料が塗布されている。このガラスフレーク系塗料は、水中のリン酸マグネシウムアンモニウムや炭酸カルシウム等のいわゆるマップと呼ばれる析出物が付着することを抑制するために塗布されている。なお、シャフト4において、余裕をもって、水面から所定距離dx(例えば200mm程度)上方までガラスフレーク系塗料が塗布されていることが好ましい。
【0020】
ガラスフレーク系塗料としては、例えば、NKMコーティングス株式会社製フレークガードプライマー、NKMコーティングス株式会社製フレークガードNo.3000S、NKMコーティングス株式会社製フレークガードNo.3000W、神東塗料株式会社製ネオゴーセー#20000G、及び、中国塗料株式会社製パーマックスNo.3000S等を用いることが出来る。
【0021】
ガラスフレーク系塗料を塗布する方法としては、例えば、まず、シャフト4の浸漬部41、上段インペラ5、及び下段インペラ6においてガラスフレーク系塗料を塗布する部分に、下地処理としてサンドブラスト処理を施す。次に、下塗りとして、例えばNKMコーティングス株式会社製フレークガードプライマーを、膜厚が20μm程度になるように、エアスプレー又はハケ塗りによる塗装方法により1回で塗布する。次に、上塗りとして、例えばNKMコーティングス株式会社製フレークガードNo.3000S、又は、NKMコーティングス株式会社製フレークガードNo.3000Wを、膜厚が250μm程度になるように、エアスプレー又はハケ塗りによる塗装方法により2回に分けて塗布する。なお、サンドブラスト処理後、直ぐに上塗りを実施する場合は、下塗りを省略することも可能である。
【0022】
このように構成された撹拌機1では、駆動部3により、シャフト4を介して上段インペラ5及び下段インペラ6が回転され、汚水Wの撹拌が行われる。
【0023】
そして、撹拌機1では、シャフト4の浸漬部41、上段インペラ5、及び下段インペラ6等の接液部にガラスフレーク系塗料が塗布されているため、これらの接液部においては、汚水W中にイオンとして存在するリン酸、マグネシウム、アンモニウム、カルシウム等のイオン結合が妨げられ、リン酸マグネシウムアンモニウムや炭酸カルシウム等のマップが析出して付着することが抑制される。また、ガラスフレーク系塗料は硬質で耐摩耗性に優れているため、長期に亘ってマップの付着を抑制することができる。また、ガラスフレーク系塗料はフッ素樹脂に比して安価であるため、コストの増加を抑制できる。また、ガラスフレーク系塗料は容易に塗布することができるため、施工コストの増加を抑制することができる。従って、コストの増加を招くことなく、マップの付着を抑制することができる。
【0024】
ここで、従来の水処理機器においては、防食等を目的として、接液部にエポキシ、タールエポキシ、ウレタン等の比較的安価な樹脂塗料が塗布されている場合がある。このような防食等を目的とした塗料が接液部に塗布されていても、リン酸マグネシウムアンモニウムや炭酸カルシウム等のマップが接液部に析出して付着することを防止することはできない。このため、接液部にマップがある程度付着した時点で、水処理機器の運転を停止し、水処理機器を分解して手作業でマップを除去する必要があった。従って、運転停止や手作業によるマップの除去等に伴うメンテナンスのコストが非常に高かった。
【0025】
これに対し、本実施形態の撹拌機1では、上述のように、長期に亘ってマップの付着を抑制することができるため、手作業によるマップの除去や、これに伴う運転停止が不要になり、メンテナンスのコストを大幅に低減することができる。
【0026】
また、撹拌機1では、接液部には、回転により水流を発生させる上段インペラ5及び下段インペラ6が含まれるため、汚水W中で析出したマップが上段インペラ5及び下段インペラ6に完全に付着してしまう前に、その回転により発生する水流により当該マップを除去することができ、マップの付着を一層抑制することができる。
【0027】
また、撹拌機1に使用されるガラスフレーク系塗料は、マップの付着抑制効果や耐摩耗性に加え、防食性や耐衝撃性にも優れているため、腐食や衝撃による破損を抑制することができる。さらに、撹拌機1に使用されるガラスフレーク系塗料は、SS材、SUS材、及び鋳鉄等の種々の材料に塗布することが可能であるため、接液部の材料を容易に選定することができる。
【0028】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、上記実施形態では、ガラスフレーク系塗料を塗布する水処理機器として撹拌機1について説明したが、水処理機器は脱水機、ポンプ、槽等であってもよい。脱水機の場合、接液部としてケーシングの内面等にガラスフレーク系塗料を塗布できる。また、ポンプの場合、接液部としてケーシングの内面等や回転部として羽根等に、それぞれガラスフレーク系塗料を塗布できる。さらにポンプが水中に設置される水中ポンプである場合、接液部としてケーシングの外面等にもガラスフレーク系塗料を塗布できる。また、槽の場合、接液部として槽内部のコンクリート壁等にガラスフレーク系塗料を塗布できる。
【0029】
また、上記実施形態では、撹拌機1は、上段インペラ5及び下段インペラ6を備える二段式のものであるが、どちらか一方を備える一段式のものであっても勿論よい。
【符号の説明】
【0030】
1…撹拌機、5…上段インペラ(回転部)、6…下段インペラ(回転部)、41…浸漬部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水処理に供される水処理機器であって、
水と接する接液部を備え、
前記接液部には、マップが付着することを抑制するためのガラスフレーク系塗料が塗布されていること、
を特徴とする水処理機器。
【請求項2】
前記接液部には、回転により水流を発生させる回転部が含まれること、
を特徴とする請求項1に記載の水処理機器。
【請求項3】
前記回転部は、インペラ又はポンプの羽根であること、
を特徴とする請求項2に記載の水処理機器。
【請求項4】
前記接液部には、槽内部のコンクリート壁が含まれること、
を特徴とする請求項1に記載の水処理機器。

【図1】
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