説明

水性ボールペン

【課題】初期筆記感の劣化(書き出しの筆記感がガリつく状態)を抑制すると共に、経時安定性、経時筆記性に優れた水性ボールペンを提供する。
【解決手段】インク全量に対して、アセチレンアルコール類から選ばれる少なくとも1種0.05〜2質量%を含有する水性インクを充填し、直径が0.4mm以下のボールを備えたことを特徴とする水性ボールペン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性ボールペンに関し、更に詳しくは、ボール径が0.4mm以下のボールを備えた水性ボールペンにおける初期筆記感の劣化を抑制した水性ボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ボール径が0.4mm以下の水性ボールペンは、幅広い消費者に支持されている。とりわけ学生は、ノートへの筆記やテスト答案の直し、教科書やプリントなど印刷されている紙面の隙間部分への書込みなど、また、ビジネスマン等では手帳への書き込みや行間など細かいスペースへの書き込みにも最適であり、さまざまな用途で利用されている。
【0003】
このボール径が0.4mm以下の水性ボールペンは、受け座摩耗が発生しやすいなどの特有の課題を有している(例えば、本願出願人による特許文献1の背景技術等参照)。
上記課題の一つに、長期未筆記状態後の筆記感の劣化が挙げられる。具体的には、筆記を行わない状態を数ヶ月続けた後に筆記を行うと、書き出しの筆記感がガリつく状態のことを示す。
通常、ボールペンは、製造からユーザーが使用するまで数ヶ月未筆記状態となるため、筆記感の劣化を抑制することが求められてきている。
【0004】
上記特許文献1では、少なくとも水、色剤、水溶性溶剤を含むインキ組成物に、粒子径0.1μm未満のアルミナ、酸化チタン、シリカ、炭化ケイ素および炭化タングステンの超微粒子の一種もしくは二種以上が配合され、その配合量がインキ組成物中に0.002〜2重量%であることを特徴とする細字ボールペン用水性インキ組成物及び細字ボールペンが開示されている。
この細字ボールペンは、細字ボールペンの受け座摩耗を抑制し、インク流出性などに優れたものであり、長期未筆記状態後における書き出しの筆記感の更なる向上が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007−518838号公報(特許請求の範囲、背景技術、実施例等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の現状等に鑑み、これを解消しようとするものであり、長期未筆記状態後における書き出しの筆記感を更に向上させる水性ボールペンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記従来の課題等に鑑み、鋭意研究を行った結果、直径が0.4mm以下のボールを備えたこと水性ボールペンにおいて、充填される水性インク中に特定の化合物を特定の範囲で含有することにより、上記目的の水性ボールペンが得られることを見い出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(3)に存する。
(1) インク全量に対して、アセチレンアルコール類から選ばれる少なくとも1種を0.05〜2質量%含有する水性インクを充填し、直径が0.4mm以下のボールを備えたことを特徴とする水性ボールペン。
(2) 前記水性インク中の塩素イオン濃度が1g/L以上であることを特徴とする水性ボールペン。
(3) 前記水性インク中に、塩基性染料で染色した樹脂粒子を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の水性ボールペン。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、長期未筆記状態後における書き出しの筆記感に優れた水性ボールペンが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。
本発明の水性ボールペンは、インク全量に対して、アセチレンアルコール類から選ばれる少なくとも1種を0.05〜2質量%含有する水性インクを充填し、直径が0.4mm以下のボールを備えたことを特徴とするものである。
【0011】
本発明の水性ボールペンに用いるアセチレンアルコール類は、分子構造中にアセチレン基(−C≡C−)とヒドロキシル基(−OH)を有するものであり、本発明の効果である書き出しの筆記感がガリつく状態を抑制して初期筆記感を向上させるために含有するものであり、下記一般式(I)〜(III)で表されるものから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【化1】

〔上記式(I)中、R、R、Rは、水素原子、直鎖又は分岐鎖を有する炭素数0〜10の炭素鎖を表し、該炭素鎖には不飽和結合を含んでもいてもよい。〕
【化2】

〔上記式(II)中、Rは、水素原子、直鎖又は分岐鎖を有する炭素数0〜10の炭素鎖を表し、該炭素鎖には不飽和結合を含んでもいてもよく、Rは、炭素数2〜5のアルキレン基を表す。〕
【化3】

〔上記式(III)中、R、R、Rは、水素原子、直鎖又は分岐鎖を有する炭素数0〜5の炭素鎖を表し、該炭素鎖には不飽和結合を含んでもいてもよく、Rは、炭素数1〜5のアルキレン基を表す。〕
【0012】
上記一般式(I)〜(III)中のR、R、R、R、R、R、及びRとしては、それぞれ、水素原子、直鎖又は分岐を有するアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。ここで、上記アルキル基及びアルケニル基は、直鎖状、枝分かれ状、環状のいずれであってもよく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ビニル基、プロぺニル基、アリル基、ヘキセニル基、オクテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。また、上記アリール基は、芳香環上に低級アルキル基等の置換基を有していてもよく、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等が挙げられる。更に、上記アラルキル基は、芳香環上に低級アルキル基等の置換基を有していてもよく、例えば、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
【0013】
また、上記一般式(II)中のRは、炭素数2〜5のアルキレン基を表し、該アルキレン基は、直鎖状、枝分かれ状、環状のいずれであってもよいが、特に直鎖状のものが好適である。該直鎖状アルキレン基としては、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基等が挙げられる。
更に、上記一般式(III)中のR7は、炭素数1〜5のアルキレン基を表し、該アルキレン基としては、メチレン基(炭素数1)であり、炭素数2以上では、上記一般式(II)中のRと同様である。
【0014】
上記一般式(I)のアセチレンアルコール類又はこれらの誘導体として、具体的には、2−ブチン−1−オール、3−ブチン−2−オール、2−デシン−1−オール、3,6−ジメチル−1−ヘプチン−3−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、3,4−ジメチル−1−ペンチン−3−オール、1,1−ジフェニル−2−プロピン−1−オール、3−エチル−1−ヘプチン−3−オール、4−エチル−1−オクチン−3−オール、3−エチル−1−ペンチン−3−オール、1−エチニル−1−シクロヘキサノール、9−エチニル−9−フルオレノール、1−ヘプチン−3−オール、2−ヘプチン−1−オール、1−ヘキシン−3−オール、2−ヘキシン−1−オール、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3−メチル−1−ペンテン−4−イン−3−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オール、2−メチル−4−フェニル−3−ブチン−2−オール、1−オクチン−3−オール、1−ペンチン−3−オール、2−ペンチン−1−オール、1−フェニル−2−プロピン−1−オール、3−フェニル−2−プロピン−1−オール、2−プロピン−1−オール、1,1,3−トリフェニル−2−プロピン−1−オールなどの少なくとも1種が挙げられる。
【0015】
上記一般式(II)のアセチレンアルコール類又はこれらの誘導体として、具体的には、3−ブチン−1−オール、3−デシン−1−オール、9−デシン−1−オール、3−ヘプチン−1−オール、3−ヘキシン−1−オール、5−ヘキシン−1−オール、3−ノニン−1−オール、3−オクチン−1−オール、3−ペンチン−1−オール、4−ペンチン−1−オール、5−フェニル−4−ペンチン−1−オール、10−ウンデシン−1−オールなどの少なくとも1種が挙げられる。
【0016】
上記一般式(III)のアセチレンアルコール類又はこれらの誘導体として、具体的には、例えば、4−ヘプチン−2−オール、5−ヘプチン−3−オール、5−ヘキシン−3−オール、4−ペンチン−2−オールなどの少なくとも1種が挙げられる。
上記一般式(I)〜(III)で具体的に挙げた中で、使用性、コスト、安全性、本発明の効果を更に発揮せしめる点から、好ましくは、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オールの使用が望ましい。
なお、上記一般式(I)〜(III)に挙げた各化合物の合成法は、既知であり、種々の製法により得ることができ、また、市販のものを使用してもよい。
【0017】
これらのアセチレンアルコール類及び誘導体の含有量は、充填する水性インク全量中、0.05〜2質量%、好ましくは、0.5〜2質量%とすることが望ましい。
この含有量が0.05質量%未満では、十分な効果が期待できず、一方、2質量%を超えると、インクの経時安定性が損なわれる場合があり、好ましくない。
【0018】
本発明の水性ボールペンに用いる水性インクには、上記アセチレンアルコール類から選ばれる少なくとも1種の他、少なくとも着色剤、水溶性溶剤が含有される。
用いることができる着色剤としては、顔料及び/又は水溶性染料が挙げられる。顔料の種類については特に制限はなく、従来水性ボールペン用に慣用されている無機系及び有機系顔料の中から任意のものを使用することができる。
【0019】
無機系顔料としては、例えば、カーボンブラックや、金属粉等が挙げられる。
また、有機系顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、染料レーキ、ニトロ顔料、ニトロソ顔料などが挙げられる。具体的には、フタロシアニンブルー(C.I.74160)、フタロシアニングリーン(C.I.74260)、ハンザイエロー3G(C.I.11670)、ジスアゾイエローGR(C.I.21100)、パーマネントレッド4R(C.I.12335)、ブリリアントカーミン6B(C.I.15850)、キナクリドンレッド(C.I.46500)などが使用できる。
また、スチレンやアクリル樹脂の粒子から構成されているプラスチックピグメントも使用できる。さらに、粒子内部に空隙のある中空樹脂粒子は白色顔料として、または、発色性、分散性に優れる後述する塩基性染料で染色した樹脂粒子(擬似顔料)等も使用できる。
【0020】
水溶性染料としては、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料のいずれも用いることができる。
直接染料としては、例えば、C.I.ダイレクトブラック17、同19、同22、同32、同38、同51、同71、C.I.ダイレクトエロー4、同26、同44、同50、C.I.ダイレクトレッド1、同4、同23、同31、同37、同39、同75、同80、同81、同83、同225、同226、同227、C.I.ダイレクトブルー1、同15、同71、同86、同106、同119などが挙げられる。
酸性染料としては、例えば、C.I.アシッドブラック1、同2、同24、同26、同31、同52、同107、同109、同110、同119、同154、C.I.アシッドエロー7、同17、同19、同23、同25、同29、同38、同42、同49、同61、同72、同78、同110、同127、同135、同141、同142、C.I.アシッドレッド8、同9、同14、同18、同26、同27、同35、同37、同51、同52、同57、同82、同87、同92、同94、同115、同129、同131、同186、同249、同254、同265、同276、C.I.アシッドバイオレット18、同17、C.I.アシッドブルー1、同7、同9、同22、同23、同25、同40、同41、同43、同62、同78、同83、同90、同93、同103、同112、同113、同158、C.I.アシッドグリーン3、同9、同16、同25、同27などが挙げられる。
食用染料としては、その大部分が直接染料又は酸性染料に含まれるが、含まれないものの一例としては、C.I.フードエロー3が挙げられる。
塩基性染料としては、例えば、C.I.ベーシックエロー1、同2、同21、C.I.ベーシックオレンジ2、同14、同32、C.I.ベーシックレッド1、同2、同9、同14、C.I.ベーシックブラウン12、ベーシックブラック2、同8などが挙げられる。
また、塩基性染料で染色した樹脂粒子としては、アクリロニトリル系共重合体の樹脂粒子を塩基性蛍光染料で染色した蛍光顔料などが挙げられる。具体的な商品名として、シンロイヒカラーSFシリーズ(シンロイヒ株式会社)、NKW及びNKPシリーズ(日本蛍光化学株式会社)などが挙げられる。
【0021】
これらの着色剤は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせてもよく、水性インク全量中の含有量は、通常、0.5〜30質量%、好ましくは、1〜15質量%の範囲である。
この着色剤の含有量が、0.5質量%未満では、着色が弱くなったり、筆跡の色相がわからなくなってしまうことがあり、一方、30質量%を超えて長期保存した場合、顔料が凝集してしまったり、染料が析出したりして、ペン先に詰まり、筆記不良を生じることがあるので好ましくない。
【0022】
用いることができる水溶性溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、3−ブチレングリコール、チオジエチレングリコール、グリセリン等のグリコール類や、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、単独或いは混合して使用することができる。この水溶性溶剤の含有量は、水性インク全量中、5〜40質量%とすることが望ましい。
【0023】
本発明の水性ボールペンに用いる水性インクには、上記着色剤、水溶性溶剤の他、残部として溶媒である水(水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水等)の他、本発明の効果を損なわない範囲で、増粘剤、分散剤、潤滑剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤もしくは防菌剤などを適宜含有することができる。
【0024】
用いることができる増粘剤としては、例えば、合成高分子、セルロースおよび多糖類からなる群から選ばれた少なくとも一種が望ましい。具体的には、アラビアガム、トラガカントガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、カラギーナン、ゼラチン、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、ダイユータンガム、デキストラン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプングリコール酸及びその塩、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸及びその塩、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレシオキサイド、酢酸ビニルとポリビニルピロリドンの共重合体、架橋型アクリル酸重合体及びその塩、非架橋型アクリル酸重合体及びその塩、スチレンアクリル酸共重合体及びその塩などが挙げられる。
【0025】
着色剤として顔料を用いた場合には、分散剤を使用することが好ましい。この分散剤は、顔料表面に吸着して、水との親和性を向上させ、水中に顔料を安定に分散させる作用をするものであり、ノニオン、アニオン界面活性剤や水溶性樹脂が用いられる。好ましくは水溶性高分子が用いられる。
潤滑剤としては、顔料の表面処理剤にも用いられる多価アルコールの脂肪酸エステル、糖の高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、アルキル燐酸エステルなどのノニオン系や、高級脂肪酸アミドのアルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩などのアニオン系、ポリアルキレングリコールの誘導体やフッ素系界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられる。
【0026】
pH調整剤としては、アンモニア、尿素、モノエタノーアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンや、トリポリリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなとの炭酸やリン酸のアルカリ金属塩、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水和物などが挙げられる。
また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライト、サポニン類など、防腐剤もしくは防菌剤としては、フェノール、ナトリウムオマジン、安息香酸ナトリウム、ベンズイミダゾール系化合物などが挙げられる。
【0027】
水性ボールペンにおいて、長期未筆記状態後における筆記感の劣化の原因の一つとして、水性インク中の塩素イオンの影響が挙げられる。具体的には、塩素イオン濃度が1g/L以上であると長期未筆記状態後における筆記感の劣化が進行しやすい傾向が認められる。
また、上記以外にも長期未筆記状態後における筆記感の劣化を促進する要因として、塩基性染料で染色した樹脂粒子の使用が挙げられる。このような樹脂粒子を使用すると、水性インク中の塩素イオン濃度が高くなるが、その濃度以上に筆記感の劣化が促進される傾向が認められる。
本発明では、後述する実施例等でサポートされるように、水性インク中の塩素イオン濃度が1g/L以上となっても、長期未筆記状態後における筆記感の劣化がなく、目的の効果を奏するものとなる。
【0028】
本発明の水性ボールペンは、上記着色剤、水溶性溶剤、アセチレンアルコール類から選ばれる少なくとも1種、その他の各成分をホモミキサー、もしくはディスパー等の攪拌機により攪拌混合することにより、更に必要に応じて、ろ過や遠心分離によってインク組成物中の粗大粒子を除去すること等によって水性インクを調製し、該水性インクを直径が0.4mm以下のボールを備えた水性ボールペン体に充填することにより作製することができる。
用いる水性ボールペン体として、直径が0.4mm以下のボールを備えたものであれば、特に限定されず、特に、上記水性インクをポリプロピレンチューブのインク収容管に充填し、先端のステンレスチップ(ボールは超鋼合金)を有するリフィールの水性ボールペンに仕上げたものが望ましい。
【0029】
このように構成される本発明の水性ボールペンでは、ボール径が0.4mm以下の細字であっても、充填される水性インクに、アセチレンアルコール類から選ばれる少なくとも1種を0.05〜2質量%含有することにより、初めて、長期未筆記状態後における書き出しの筆記感がガリつく状態がない水性ボールペンが得られることとなる。
【実施例】
【0030】
次に、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。
【0031】
〔実施例1〜12及び比較例1〜5〕
下記成分1〜10を下記表1及び表2に示すように適宜組み合わせた配合量(全量100質量%)にて攪拌機を用いて均一溶液として実施例1〜12、比較例1〜5に相当する水性インクを調製した。
得られた各水性インク中の塩素イオン濃度を下記方法で測定した。
1−a:カーボンブラック MCF88(三菱化学社製)
1−b:塩基性蛍光染料で染色した蛍光桃色顔料 SF−5017(シンロイヒ社製)
1−c:赤色顔料 FUJI RED 2510(冨士色素社製)
2−a:3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール
2−b:3−メチル−1−ブチン−3−オール
2−c:3−メチル−1−ペンチン−3−オール
2−d:3−ヘキシン−1−オール
2−e:4−ペンチン−2−オール
3:プロピレングリコール
4:KELAN S(三晶社製)
5:RD−510Y(東邦化学工業社製)
6:ベンゾトリアゾール
7:バイオデン421(大和化学工業社製)
8:トリエタノールアミン
9:JONCRYL 61J(BASF JAPAN)
【0032】
(インク中の塩素イオン濃度の測定法)
東亜DKK株式会社製のマルチ水質計(MM60R)に塩化物イオン電極(CL−2021)を取り付けて、25℃にてインク中の塩素イオン濃度を測定した。
【0033】
(水性ボールペンの作製)
三菱鉛筆製のUM−151に搭載するチューブ(内径3.4mmのPP製チューブ)及びPBT製継手部材に下記表1及び2に示す各ボール径(超鋼合金:0.18mm、0.28mm、0.38mm)のボールペンチップを搭載し、上記で調製した水性インク及びインク追従体を充填し、遠心処理(500G、5分)にて脱泡した後にボールペンに組立後、下記に示す筆記感の評価試験を行った。これらの結果を下記表1及び2に示す。
【0034】
筆記試験は下記のとおりであり、全て5本のボールペンについて評価試験を行った。
(初期筆記感の評価方法)
上記水性ボールペンの作製した後使用するまで25℃で1ヶ月保管した後、筆記感を丸書きにより下記評価基準にて官能評価した。
評価基準:
◎:ガリつき感もなく、非常に滑らか。
○:僅かにガリつき感があるが、滑らか。
△:ガリつき感あり。
×:ガリつき感が強い。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
上記表1と表2の評価結果から明らかなように、本発明をサポートする実施例1〜12の水性ボールペンでは、長期未筆記状態後における書き出しの筆記感に優れているがわかる。一方、本発明の条件を満足しない比較例1〜5の水性ボールペンでは、本発明の課題を解決することはできないことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
ボール径0.4mm以下の極細字の水性ボールペンに好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク全量に対して、アセチレンアルコール類から選ばれる少なくとも1種を0.05〜2質量%を含有する水性インクを充填し、直径が0.4mm以下のボールを備えたことを特徴とする水性ボールペン。
【請求項2】
前記水性インク中の塩素イオン濃度が1g/L以上であることを特徴とする水性ボールペン。
【請求項3】
前記水性インク中に、塩基性染料で染色した樹脂粒子を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の水性ボールペン。

【公開番号】特開2012−240403(P2012−240403A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116040(P2011−116040)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【Fターム(参考)】