説明

水洗石膏の品質管理方法

【課題】廃石膏ボードを水洗浄して再利用する際、当該廃石膏ボードの品質管理を簡便に行う方法を提供すること。
【解決手段】水洗浄した廃石膏ボード粉末を、水を溶媒として粉砕抽出し、得られた抽出液のWilhelmy法による表面張力を測定し、当該表面張力値を、予め表面張力を測定した石膏粉末を用いて製造したセメントのモルタル空気量の関係と比較することにより、当該水洗石膏を用いてモルタルを製造した場合のモルタル空気量を推定することを特徴とする水洗石膏の品質管理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃石膏ボードを水洗浄して再利用する際に有用な、水洗石膏の品質管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、廃石膏ボードは、表面の紙類を除去した後、粉砕して土壌改良剤などに使用されている。また、廃石膏ボードをセメントの石膏成分として使用することが検討されている。しかして、廃石膏ボードには、起泡剤として界面活性剤が含有されており、これをセメントに配合すると、強度発現に悪影響を及ぼすことが知られている。このため、セメントへの再利用の際に、水洗浄して界面活性剤を除去する方法が提案されている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、廃石膏ボードに含有されている界面活性剤量は、廃ボードにより異なるため、界面活性剤を除去するために必要な洗浄回数や、水固体比等の洗浄方法を定めることは困難である。このため、洗浄後の石膏を用いてセメントを試製し、モルタルの空気量を測定することにより強度発現に影響がないことを確認し、セメントへの使用の可否を判断する必要がある。しかしながら、このような方法で水洗石膏の品質を管理するには、膨大な労力と時間を要するという問題があった。
【特許文献1】特開2002−255598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、廃石膏ボードを水洗浄して再利用する際、当該廃石膏ボードの洗浄が確実に行われているかを簡便に判断することができる品質管理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、斯かる実情に鑑み、鋭意検討した結果、予め石膏を水で粉砕抽出して得た抽出液の表面張力を測定するとともに、当該石膏を用いて調製したモルタルの空気量を測定して、表面張力と空気量の関係を求めておき、この関係を用いれば、水洗石膏の表面張力を測定するのみで、モルタルの空気量を推定することができ、簡便に水洗石膏の品質管理ができることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、水洗浄した廃石膏ボード粉末を、水を溶媒として粉砕抽出し、得られた抽出液のWilhelmy法による表面張力を測定し、当該表面張力値を、予め表面張力を測定した石膏粉末を用いて製造したセメントのモルタル空気量の関係と比較することにより、当該水洗石膏を用いてモルタルを製造した場合のモルタル空気量を推定することを特徴とする水洗石膏の品質管理方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、廃石膏ボードを水洗浄して再利用する際、水で粉砕抽出した抽出液の表面張力を測定するのみで、当該廃石膏ボードの洗浄が確実に行われているかを判断することができ、水洗石膏の品質管理を簡便に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において、廃石膏ボードとは、建築物等に使用後の石膏ボードはもちろん、石膏ボードの製造工程において発生する端切れボード等、製品として使用されていない新しい石膏ボードをも含むものである。
【0009】
廃石膏ボードは5mm以下に粗粉砕して洗浄するのが好ましい。粉砕方法は特に制限されず、例えば、ロールクラッシャー、ジョークラッシャー等を用いることができる。この後、1〜2mmのふるいでふるい、そのふるい下を廃石膏ボード粉末とし、ふるい上をボールミル等の一般の粉砕機で粉砕する。
【0010】
このような廃石膏ボード粉末を水洗浄する方法としては、特に制限されず、例えば、反応槽に仕込んだ水中で廃石膏ボード粉末を攪拌しながら洗浄するバッチ式洗浄方法;フィルタープレスに廃石膏ボード粉末を充填し、該充填層に一定方向により洗浄水を連続的又は断続的に通過せしめる機内洗浄を行う連続式洗浄方法などのいずれでも良い。
【0011】
水洗浄した廃石膏ボード粉末は、水を溶媒として粉砕抽出する。
廃石膏ボード粉末と水の質量割合は、1:5〜1:20、特に1:10であるのが好ましい。また、水の温度は、5〜60℃であるのが好ましい。
【0012】
粉砕抽出の方法としては、例えば、乳鉢を使用して、手で湿式粉砕する方法、ボールミルを使用する方法などが挙げられる。セラミックスボールを使用したボールミル粉砕が、簡便であり好ましい。粉砕しないで抽出すると、抽出不足になるため、正確な測定ができない。
ボールミル粉砕に用いる容器の形状、大きさ、材質等は特に制限されないが、通常、円筒形のものが好ましい。また、用いるボールは、セラミックス、ジルコニア等のもので、直径5〜15mm程度のものが好ましい。
ボールミルによる粉砕抽出の場合、粉砕時間は1〜30時間、特に1〜4時間であるのが好ましい。他の方法の場合には、粉砕抽出液の表面張力が最も低くなる最短の時間や速度などの条件を適宜選択するのが好ましい。
【0013】
本発明においては、このようにして得られた抽出液の表面張力を測定する。表面張力は、Wilhelmy法(プレート法)により、20℃において、静的表面張力を測定する。抽出液の一部を採取し、表面張力測定器を用いて、測定すれば良い。
【0014】
一方、表面張力を測定した石膏を用い、モルタルを作製し、空気量を測定する。石膏は粉砕し、クリンカー、粉砕助剤等と混合される。具体的には、JIS R 1128、JIS A 1171の方法に従って、モルタルを作製し、空気量を測定すれば良い。
【0015】
複数種の石膏について、測定した表面張力と空気量から、予めこれらの関係関数を導いておく。
この関数関係を用いれば、新たな水洗石膏について、同様の条件で粉砕抽出及び表面張力を測定し、この表面張力値を前記の関係と比較することにより、当該水洗石膏を用いてモルタルを作製した際の空気量を推定することができる。
【0016】
このような方法により、モルタル空気量が大きくならないことが推定され、十分な洗浄が行われたことが確認された水洗石膏は、そのまま又は乾燥して、セメントに配合し、セメントの石膏成分として使用することができる。
【実施例】
【0017】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
【0018】
実施例1
(1)廃石膏ボード粉末の調製:
廃石膏ボードをロール式粉砕機にかけ、1.5mmのふるいを通ったものを試料とした。
【0019】
(2)廃石膏ボード粉末の水洗浄:
試料200gを2Lの蒸留水中で30分間攪拌し、吸引ろ過を行った(1回洗浄)。1回洗浄石膏を再度同様の方法で洗浄した(2回洗浄)。ろ過した石膏を50℃で乾燥し、この操作をくり返すことにより、1、2、3回洗浄石膏を得た。また、蒸留水をエタノールに代え、同様に3回洗浄石膏を得た。
【0020】
(3)洗浄石膏を用いたセメントの作製:
細粒のクリンカー4830g、洗浄した石膏170g(SO3含有量2.5質量%)、粉砕助剤(ジエチレングリコール)200ppmを、鉄球が入ったミルで粉砕し、ブレーン比表面積3300cm2/gに調整して、セメント試料とした。
【0021】
(4)モルタルの空気量:
JIS R 1128、JIS A 1171に従って、モルタルを作製し、モルタル空気量を測定した。
【0022】
(5)水粉砕抽出液の作製:
直径10mmのジルコニアボール400g、石膏15g、水150gを、250mLのポリエチレン製広口瓶に入れ、2時間粉砕抽出した。これを吸引ろ過して、抽出液を得た。
【0023】
(6)抽出液の表面張力の測定:
Wilhelmy法による静的表面張力計(協和界面科学社製)を用い、20℃において、抽出液の表面張力を測定した。モルタル空気量及び表面張力を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表1の表面張力及びモルタル空気量の関係を図1に示す。この関係関数は三次式であり、以下のように示すことができる。
y=−0.0236x3−0.0249x2+3.2691x+58.092
ここで、yは表面張力(mN/N)を示し、xはモルタル空気量(%)を示す。
【0026】
新たな水洗石膏について、同様の条件で粉砕抽出及び表面張力を測定することにより、この式を利用して、モルタル空気量を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例1において、表面張力とモルタル空気量の関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水洗浄した廃石膏ボード粉末を、水を溶媒として粉砕抽出し、得られた抽出液のWilhelmy法による表面張力を測定し、当該表面張力値を、予め表面張力を測定した石膏粉末を用いて製造したセメントのモルタル空気量の関係と比較することにより、当該水洗石膏を用いてモルタルを製造した場合のモルタル空気量を推定することを特徴とする水洗石膏の品質管理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−92392(P2009−92392A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−260475(P2007−260475)
【出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】