説明

水消去性黒色インク組成物および水消去性書画用墨汁組成物

【課題】特定の天然色素と特定の溶解促進剤を含み、良好な黒色性を呈し、誤って衣服に付着しても、洗濯により容易に消去可能な水消去性黒色インク組成物を提供する。
【解決手段】カカオ色素およびクチナシ青色素を含み、かつカカオ色素45〜65質量%およびクチナシ青色素35〜55質量%の割合で配合される天然色素1〜40質量%;
デンプン糖類、砂糖およびグリコール類からなる群から選ばれる少なくとも1つの溶解促進剤5〜40質量%;および
残部が実質的に水媒体;
の組成を有することを特徴とする水消去性黒色インク組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水消去性黒色インク組成物および水消去性書画用墨汁組成物に関し、詳しくは誤って服などの繊維集合体に付着した場合にも水洗または洗濯により容易に消去することが可能な水消去性黒色インク組成物および水消去性書画用墨汁組成物に係わる。
【背景技術】
【0002】
黒色インク組成物は、一般に赤色染料、青色染料および黄色染料の色の三原色を混合して調製される。染料としては、食用染料のみならず天然染料も用いられている。このような黒色インク組成物は、一旦布や不織布などの繊維集合体に付着した場合、水洗または洗剤を用いた洗濯では簡単に消去することが困難であった。
【0003】
一方、墨汁はカーボンブラックを主体とした膠および/または合成樹脂からなる組成物であるため、一旦布や不織布などの繊維集合体に付着した場合、水洗または洗剤を用いた洗濯では簡単に消去することができない問題があった。
【0004】
また市販品の消去性書道液でも、最も多用されている繊維である木綿に対しては容易に消去することは困難であった。
【0005】
このようなことから特許文献1には、反応性染料または酸性染料のような直染性の低い染料とポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸のような水溶性樹脂を含有する墨汁等の黒色インクを含む消去性着色剤組成物が開示されている。しかしながら、この着色剤組成物は一旦布や不織布などの繊維集合体に付着した場合、水洗または洗剤を用いた洗濯において必ずしも十分満足する消去性を示さず、より高度の水消去性を示す黒色インク組成物が望まれていた。
【特許文献1】特開平9−316379号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、特定の天然色素と特定の溶解促進剤を含み、良好な黒色性を呈し、誤って衣服に付着しても、洗濯により容易に消去可能な水消去性黒色インク組成物を提供する。
【0007】
本発明は、特定の天然色素と食品添加物である特定の溶解促進剤を含み、良好な黒色性を呈し、誤って衣服に付着しても、洗濯により容易に消去可能で、さらに誤って口に入れても安全な水消去性黒色インク組成物を提供する。
【0008】
本発明は、特定の天然色素と特定の溶解促進剤を含み、誤って衣服に付着しても、洗濯により容易に消去でき、半紙に書いた後の色が黒色を維持させることが可能な水消去性書画用墨汁組成物を提供する。
【0009】
本発明は、特定の天然色素と食品添加物である特定の溶解促進剤を含み、誤って衣服に付着しても、洗濯により容易に消去でき、かつ市販の墨汁と遜色のない黒色性、滲み防止性、筆記性等の性能を有し、さらに誤って口に入れても安全な水消去性書画用墨汁組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1態様によると、カカオ色素およびクチナシ青色素を含み、かつカカオ色素45〜65質量%およびクチナシ青色素35〜55質量%の割合で配合される天然色素1〜40質量%;
デンプン糖類、砂糖およびグリコール類からなる群から選ばれる少なくとも1つの溶解促進剤5〜40質量%;および
残部が実質的に水媒体;
の組成を有することを特徴とする水消去性黒色インク組成物が提供される。
【0011】
本発明の第2態様によると、カカオ色素およびクチナシ青色素を含み、かつカカオ色素45〜65質量%およびクチナシ青色素35〜55質量%の割合で配合される天然色素1〜40質量%;
デンプン糖類または砂糖5〜40質量%;および
残部が実質的に水媒体;
の組成を有することを特徴とする水消去性黒色インク組成物が提供される。
【0012】
本発明の第3態様によると、クチナシ赤色素、ラック色素およびコチニール色素からなる群から選ばれる少なくとも1つの天然赤色素31〜77質量%とクチナシ青色素20〜61質量%と紅花黄色素2.5〜8質量%からなる天然色素1〜40質量%;
デンプン糖類、砂糖およびグリコール類からなる群から選ばれる少なくとも1つの溶解促進剤5〜40質量%;および
残部が実質的に水媒体;
の組成を有することを特徴とする水消去性黒色インク組成物が提供される。
【0013】
本発明の第4態様によると、クチナシ赤色素、ラック色素およびコチニール色素からなる群から選ばれる少なくとも1つの天然赤色素31〜77質量%とクチナシ青色素20〜61質量%と紅花黄色素2.5〜8質量%からなる天然色素1〜40質量%;
デンプン糖類または砂糖5〜40質量%;および
残部が実質的に水媒体;
の組成を有することを特徴とする水消去性黒色インク組成物が提供される。
【0014】
本発明の第5態様によると、前記第1態様または第2態様の水消去性黒色インク組成物を含有することを特徴とする水消去性書画用墨汁組成物が提供される。
【0015】
本発明の第6態様によると、前記第3態様または第4態様の水消去性黒色インク組成物を含有することを特徴とする水消去性書画用墨汁組成物が提供される。
【0016】
本発明の第7態様によると、カカオ色素およびクチナシ青色素を含み、かつカカオ色素45〜65質量%およびクチナシ青色素35〜55質量%の割合で配合される天然色素1〜40質量%;
デンプン糖類または砂糖5〜40質量%;
天然ガム類0.01〜1質量%;および
残部が実質的に水媒体;
の組成を有し、粘度が1〜100mPa・s/20℃の範囲であることを特徴とする水消去性書画用墨汁組成物が提供される。
【0017】
本発明の第8態様によると、クチナシ赤色素、ラック色素およびコチニール色素からなる群から選ばれる少なくとも1つの天然赤色素31〜77質量%とクチナシ青色素20〜61質量%と紅花黄色素2.5〜8質量%からなる天然色素1〜40質量%;
デンプン糖類または砂糖5〜40質量%;
天然ガム類0.01〜1質量%;および
残部が実質的に水媒体;
の組成を有し、粘度が1〜100mPa・s/20℃の範囲であることを特徴とする水消去性書画用墨汁組成物が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、誤って衣服に付着しても、洗濯により容易に消去可能な水消去性黒色インク組成物を提供できる。
【0019】
本発明によれば、誤って衣服に付着しても、洗濯により容易に消去可能で、さらに誤って口に入れても安全な水消去性黒色インク組成物を提供できる。
【0020】
本発明によれば、誤って衣服に付着しても、洗濯により容易に消去でき、半紙に書いた後の色が黒色を維持させることが可能な水消去性書画用墨汁組成物を提供することができる。
【0021】
本発明によれば、誤って衣服に付着しても、洗濯により容易に消去でき、かつ市販の墨汁と遜色のない黒色性、滲み防止性、筆記性等の性能を有し、さらに誤って口に入れても安全な水消去性書画用墨汁組成物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態に係る水消去性黒色インク組成物および水消去性書画用墨汁組成物を詳細に説明する。
【0023】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る水消去性黒色インク組成物は、天然色素1〜40質量%、溶解促進剤5〜40質量%および残部が実質的に水媒体を含有する。この天然色素は、カカオ色素およびクチナシ青色素を含み、カカオ色素45〜65質量%およびクチナシ青色素35〜55質量%の割合で配合される。溶解促進剤は、デンプン糖類、砂糖およびグリコール類からなる群から選ばれる少なくとも1つである。グリコールとしては、例えばエチレングリコールまたはプロピレングリコールを用いることができる。プロピレングリコールは、食品添加物として指定された成分であるため、安全性の点でより好ましい。
【0024】
カカオ色素およびクチナシ青色素を前記範囲で配合することによって、良好な黒色性を有する黒色インク組成物を得ることが可能になる。より好ましいカカオ色素およびクチナシ青色素の配合割合は、カカオ色素50〜60質量%およびクチナシ青色素40〜50質量%である。
【0025】
第1実施形態に係る黒色インク組成物中の天然色素の含有量を1質量%未満にすると、十分な黒色性を有する黒色インク組成物を得ることが困難になる。一方、天然色素の含有量が40質量%を超えると、誤って衣服に付着したときの水の消去が困難になる虞がある。より好ましい天然色素の含有量は、10〜30質量%である。
【0026】
第1実施形態に係る黒色インク組成物は、さらにクチナシ赤色素、ラック色素、コチニール色素、紅花黄色素、カラメル色素およびイカスミ色素からなる群から選ばれる少なくとも1つの色調整色素が0.5〜10質量%の割合で含有されることを許容する。色調整色素の含有量が10質量%を超えると、黒色インク組成物の水消去性が損なわれる虞がある。これらの色調整色素の中で特にイカスミ色素は黒色性を高めることができ、さらに天然色素の中で低コストであるために好ましい。
【0027】
前記色調整色素を含む各種天然色素は、良好な水溶性および耐光性を有する。
【0028】
第1実施形態に係る黒色インク組成物中の溶解促進剤は、前記特定の天然色素との相乗効果により黒色インク組成物を誤って布または不織布などの繊維集合体に付着した場合、優れた水消去性を発現できる。溶解促進剤の中で、デンプン糖類、砂糖はより優れた水消去性を示す。溶解促進剤の中で、デンプン糖類が有効であり、例えばマルチトール、ソルビトール、水飴、ブドウ糖、デキストリンを挙げられる。特に、マルチトール、ソルビトール、水飴は前記特定の天然色素との相乗効果により黒色インク組成物を誤って布または不織布などの繊維集合体に付着した場合、一層優れた水消去性を発現できる。
【0029】
第1実施形態に係る黒色インク組成物中の溶解促進剤の含有量を5質量%未満にすると、その配合効果を十分に発揮することが困難になる虞がある。一方、溶解促進剤の含有量が40質量%を超えると、粘度が高くなり過ぎて、取り扱いに支障をきたす虞がある。より好ましい溶解促進剤の含有量は、10〜20質量%である。
【0030】
第1実施形態に係る水消去性黒色インク組成物において、天然ガム類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンから選ばれる少なくとも1つの粘度調整剤をさらに含有することを許容する。
【0031】
粘度調整剤の中で天然ガム類が有効であり、具体的にはキサンタンガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、グアーガム、トラガントガムなどが挙げられる。特に、キサンタンガムは増粘効果が高く、少量添加で黒色インク組成物の粘性を調整することが可能であるために好ましい。
【0032】
粘度調整剤は、その含有量が黒色インク組成物の用途に応じて適宜選択される。
【0033】
第1実施形態に係る水消去性黒色インク組成物において、防腐剤、消泡剤等をさらに含有することを許容する。
【0034】
本発明者らは、天然色素の中で単独で黒色を示すカラメル色素、イカスミ色素について検討したところ、カラメル色素単独では墨汁のような黒色インク組成物としての色調が得られず、イカスミ色素単独では黒色を呈する含有量において水消去性を殆ど示さないことを究明した。
【0035】
このようなことから、本発明者らは天然色素の中で、比較的低コストのカカオ色素とクチナシ青色素を選択し、さらに各天然色素を特定の配合割合で水媒体に含有させることによって、良好な黒色性を呈する黒色インク組成物を得られた。この黒色インク組成物について、後述する実施例の評価方法に従って水消去性(洗濯消去性、洗濯+漂白消去性)を評価したところ、十分に満足する水消去性が発現されなかった。
【0036】
そこで、本発明者らは特定の割合で配合したカカオ色素とクチナシ青色素に加えてデンプン糖類、砂糖およびグリコール類からなる群から選ばれる少なくとも1つの溶解促進剤を特定の割合で含有させることによって、黒色性を呈し、後述する実施例の評価方法に従う水消去性に優れ、誤って衣服に付着しても、洗濯により容易に消去できる水消去性黒色インク組成物を見出した。
【0037】
このような水消去性黒色インク組成物は、例えば後述する水消去性墨汁(書道液)の他に、下書き用マーカー、建築で用いられる墨坪、水消去性サインペン、生地裁断時の目印用チャコ等に適用することができる。
【0038】
第1実施形態に係る水消去性黒色インク組成物において、以下の成分組成を有することが最も好適である。
【0039】
カカオ色素およびクチナシ青色素を含み、かつカカオ色素45〜65質量%およびクチナシ青色素35〜55質量%の割合で配合される天然色素1〜40質量%;
デンプン糖類または砂糖5〜40質量%;および
残部が実質的に水媒体;
の組成を有する水消去性黒色インク組成物。
【0040】
このような水消去性黒色インク組成物によれば、溶解促進剤として食品添加物であるデンプン糖類および砂糖を特定化することによって、誤って衣服に付着しても、洗濯により一層容易に消去できることに加え、誤って口に入れても高い安全性を有する。
【0041】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る水消去性書画用墨汁組成物は、前述した第1実施形態の水消去性黒色インク組成物を含有する。
【0042】
具体的には、この墨汁組成物はカカオ色素およびクチナシ青色素を含み、かつカカオ色素45〜65質量%およびクチナシ青色素35〜55質量%の割合で配合される天然色素1〜40質量%;
デンプン糖類、砂糖およびグリコール類からなる群から選ばれる少なくとも1つの溶解促進剤5〜40質量%;および
残部が実質的に水媒体;
の組成を有する。
【0043】
第2実施形態に係る墨汁組成物は、さらにクチナシ赤色素、ラック色素、コチニール色素、紅花黄色素、カラメル色素およびイカスミ色素からなる群から選ばれる少なくとも1つの色調整色素が第1実施形態で説明した理由から0.5〜10質量%の割合で含有されることを許容する。これらの色調整色素の中で特にイカスミ色素は黒色性を高めることができ、さらに天然色素の中で低コストであるために好ましい。
【0044】
第2実施形態に係る墨汁組成物において、天然ガム類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンから選ばれる少なくとも1つの粘度調整剤をさらに含有することを許容する。
【0045】
粘度調整剤の中で天然ガム類が有効であり、具体的にはキサンタンガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、グアーガム、トラガントガムなどが挙げられる。特に、キサンタンガムは増粘効果が高く、少量添加で墨汁組成物の粘性を調整することが可能であるために好ましい。
【0046】
粘度調整剤は、墨汁組成物中に0.01〜1質量%含まれることが好ましい。粘度調整剤の含有量を0.01質量%未満にすると、その増粘効果を十分に発揮することが困難になる虞がある。一方、粘度調整剤の含有量が1質量%を超えると、筆運びが重くなって墨汁(例えば学童用書道液)としての適切性が損なわれる虞がある。より好ましい粘度調整剤の含有量は、0.01〜0.8質量%である。
【0047】
第2実施形態に係る水消去性書画用墨汁組成物において、防腐剤、消泡剤等をさらに含有することを許容する。
【0048】
第2実施形態によれば、誤って衣服に付着しても、洗濯により容易に消去でき、さらに半紙に書いた後の色が黒色を維持することが可能な水消去性書画用墨汁組成物を提供できる。
【0049】
第2実施形態に係る水消去性書画用墨汁組成物において、以下の成分組成を有することが最も好適である。
【0050】
カカオ色素およびクチナシ青色素を含み、かつカカオ色素45〜65質量%およびクチナシ青色素35〜55質量%の割合で配合される天然色素1〜40質量%;
デンプン糖類または砂糖5〜40質量%;
天然ガム類0.01〜1質量%;および
残部が実質的に水媒体;
の組成を有し、粘度が1〜100mPa・s/20℃の範囲である水消去性書画用墨汁組成物。
【0051】
前記墨汁組成物において、粘度が100mPa・s/20℃を超えると、筆運びが重くなって墨汁(例えば学童用書道液)としての適切性が損なわれる虞がある。より好ましい粘度は、4〜10mPa・s/20℃である。
【0052】
このような水消去性書画用墨汁組成物は、比較的低コストのカカオ色素とクチナシ青色素を特定の割合で配合した天然色素と、溶解促進剤であるデンプン糖類、砂糖と、粘度調整剤である天然ガム類と、水媒体とを有し、さらに各成分を特定の割合で配合し、粘度を特定化しているため、誤って衣服に付着しても、洗濯により容易に消去でき、かつ市販の墨汁と遜色のない黒色性、筆記性等の性能を有し、さらに誤って口に入れても高い安全性を有する。
【0053】
すなわち、前記天然色素と溶解促進剤の組合せによる相乗効果によって、誤って衣服に付着しても水洗または洗剤を用いた洗濯で容易に消去することが可能で、特に木綿製やポリエステル製の衣服に対して優れた水消去性を示す。その結果、子供などが普段着用している綿ポリのシャツ等には高い消去性効果が発揮できる。
【0054】
また、溶解促進剤および粘度調製成分の組合せの特定化と粘度の適正化より通常のカーボンブラックおよび膠または合成樹脂などを主体とした組成物である墨汁と比べても遜色のない文字の黒さ、優れた筆記性を有する水消去性書画用墨汁組成物を得ることができる。
【0055】
さらに、墨汁成分がカカオ色素およびクチナシ青色素のような天然色素、デンプン糖類または砂糖および天然ガム類のように全て食用に供されるものであるため、仮に誤って口に入れても安全である。
【0056】
したがって、誤って衣服に付着しても、洗濯により容易に消去でき、かつ通常のカーボンブラックを主体とした膠組成物である市販の墨汁と遜色のない黒色性、筆記性等の性能を有し、さらに誤って口に入れても安全な商品性、実用性の極めて高い水消去性書画用墨汁組成物を提供できる。
【0057】
(第3実施形態)
第3実施形態に係る水消去性黒色インク組成物は、天然色素1〜40質量%、溶解促進剤5〜40質量%および残部が実質的に水媒体を含有する。天然色素は、クチナシ赤色素、ラック色素およびコチニール色素からなる群から選ばれる少なくとも1つの天然赤色素31〜77質量%とクチナシ青色素20〜61質量%と紅花黄色素2.5〜8質量%からなる。溶解促進剤は、デンプン糖類、砂糖およびグリコール類からなる群から選ばれる少なくとも1つである。グリコールとしては、例えばエチレングリコールまたはプロピレングリコールを用いることができる。プロピレングリコールは、食品添加物として指定された成分であるため、安全性の点でより好ましい。
【0058】
前記三原色の天然色素の配合割合を特定することによって、良好な黒色性を有する黒色インク組成物を得ることが可能になる。より好ましい天然赤色素とクチナシ青色素と紅花黄色素の配合割合は、天然赤色素42〜71質量%、クチナシ青色素25〜52質量%、紅花黄色素3.5〜7質量%である。
【0059】
天然赤色素の中で特にクチナシ赤色素が好ましい。
【0060】
第3実施形態に係る黒色インク組成物中の天然色素の含有量を1質量%未満にすると、十分な黒色性を有する黒色インク組成物を得ることが困難になる。一方、天然色素の含有量が40質量%を超えると、誤って衣服に付着したときの水の消去が困難になる虞がある。より好ましい天然色素の含有量は、5〜35質量%である。
【0061】
第3実施形態に係る黒色インク組成物は、さらにカラメル色素およびイカスミ色素からなる群から選ばれる少なくとも1つの色調整色素が0.5〜10質量%の割合で含有することを許容する。色調整色素の含有量が10質量%を超えると、黒色インク組成物の水消去性が損なわれる虞がある。これらの色調整色素の中で特にイカスミ色素は黒色性を高めることができ、さらに天然色素の中で低コストであるために好ましい。
【0062】
第3実施形態に係る黒色インク組成物中の溶解促進剤は、前記特定の天然色素との相乗効果により黒色インク組成物を誤って布または不織布などの繊維集合体に付着した場合、優れた水消去性を発現できる。溶解促進剤の中で、デンプン糖類、砂糖はより優れた水消去性を示す。溶解促進剤の中で、デンプン糖類が有効であり、例えばマルチトール、ソルビトール、水飴、ブドウ糖、デキストリンを挙げられる。特に、マルチトール、ソルビトール、水飴は前記特定の天然色素との相乗効果により黒色インク組成物を誤って布または不織布などの繊維集合体に付着した場合、一層優れた水消去性を発現できる。
【0063】
第3実施形態に係る黒色インク組成物中の溶解促進剤の含有量を5質量%未満にすると、その配合効果を十分に発揮することが困難になる虞がある。一方、溶解促進剤の含有量が40質量%を超えると、粘度が高くなり過ぎて、取り扱いに支障をきたす虞がある。より好ましい溶解促進剤の含有量は、10〜20質量%である。
【0064】
第3実施形態に係る水消去性黒色インク組成物において、天然ガム類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンから選ばれる少なくとも1つの粘度調整剤をさらに含有することを許容する。
【0065】
粘度調整剤の中で天然ガム類が有効であり、具体的にはキサンタンガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、グアーガム、トラガントガムなどが挙げられる。特に、キサンタンガムは増粘効果が高く、少量添加で黒色インク組成物の粘性を調整することが可能であるために好ましい。粘度調整剤の含有量は、黒色インク組成物の用途に応じて適宜選択される。
【0066】
第3実施形態に係る水消去性黒色インク組成物において、防腐剤、消泡剤等をさらに含有することを許容する。
【0067】
本発明者らは、天然色素の中で単独で黒色を示すカラメル色素、イカスミ色素について検討したところ、カラメル色素単独では墨汁のような黒色インク組成物としての色調が得られず、イカスミ色素単独では黒色を呈する含有量において水消去性を殆ど示さないことを究明した。
【0068】
このようなことから、本発明者らはクチナシ赤色素のような天然赤色素、クチナシ青色素および紅花黄色素(つまり色素の三原色)を選択し、さらに各天然色素を特定の配合割合で水媒体に含有させることによって、良好な黒色性を呈する黒色インク組成物を得られた。この黒色インク組成物について、後述する実施例の評価方法に従って水消去性(洗濯消去性、洗濯+漂白消去性)を評価したところ、十分に満足する水消去性が発現されなかった。
【0069】
そこで、本発明者らは特定の割合で配合した天然赤色素、クチナシ青色素および紅花黄色素に加えてデンプン糖類、砂糖およびグリコール類からなる群から選ばれる少なくとも1つの溶解促進剤を特定の割合で含有させることによって、黒色性を呈し、かつ天然色素と溶解促進剤の相乗効果により誤って衣服に付着しても、洗濯により容易に消去できる水消去性黒色インク組成物を見出した。
【0070】
このような水消去性黒色インク組成物は、例えば後述する水消去性墨汁(書道液)の他に、下書き用マーカー、建築で用いられる墨坪、水消去性サインペン、生地裁断時の目印用チャコ等に適用することができる。
【0071】
第3実施形態に係る水消去性黒色インク組成物において、以下の成分組成を有することが最も好適である。
【0072】
クチナシ赤色素、ラック色素およびコチニール色素からなる群から選ばれる少なくとも1つの天然赤色素31〜77質量%とクチナシ青色素20〜61質量%と紅花黄色素2.5〜8質量%からなる天然色素1〜40質量%;
デンプン糖類または砂糖5〜40質量%;および
残部が実質的に水媒体;
の組成を有する水消去性黒色インク組成物。
【0073】
このような水消去性黒色インク組成物によれば、溶解促進剤として食品添加物であるデンプン糖類および砂糖を特定化することによって、誤って衣服に付着しても、洗濯により一層容易に消去できることに加え、誤って口に入れても高い安全性を有する。
【0074】
(第4実施形態)
第4実施形態に係る水消去性書画用墨汁組成物は、前述した第3実施形態の水消去性黒色インク組成物を含有する。
【0075】
具体的には、この墨汁組成物はクチナシ赤色素、ラック色素およびコチニール色素からなる群から選ばれる少なくとも1つの天然赤色素31〜77質量%とクチナシ青色素20〜61質量%と紅花黄色素2.5〜8質量%からなる天然色素1〜40質量%;
デンプン糖類または砂糖5〜40質量%;および
残部が実質的に水媒体;
の組成を有する。
【0076】
第4実施形態に係る墨汁組成物は、さらにカラメル色素およびイカスミ色素からなる群から選ばれる少なくとも1つの色調整色素を第3実施形態で説明した理由から0.5〜10質量%の割合で含有されることを許容する。これらの色調整色素の中で特にイカスミ色素は黒色性を高めることができ、さらに天然色素の中で低コストであるために好ましい。
【0077】
第4実施形態に係る墨汁組成物において、天然ガム類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンから選ばれる少なくとも1つの粘度調整剤をさらに含有することを許容する。
【0078】
粘度調整剤の中で天然ガム類が有効であり、具体的にはキサンタンガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、グアーガム、トラガントガムなどが挙げられる。特に、キサンタンガムは増粘効果が高く、少量添加で墨汁組成物の粘性を調整することが可能になるために好ましい。
【0079】
粘度調整剤は、墨汁組成物中に0.01〜1質量%含まれることが好ましい。粘度調整剤の含有量を0.01質量%未満にすると、その配合効果を十分に発揮することが困難になる虞がある。一方、粘度調整剤の含有量が1質量%を超えると、筆運びが重くなって墨汁(例えば学童用書道液)としての適切性が損なわれる虞がある。より好ましい粘度調整剤の含有量は、0.01〜0.8質量%である。
【0080】
第4実施形態に係る水消去性書画用墨汁組成物において、防腐剤、消泡剤等をさらに含有することを許容する。
【0081】
第4実施形態によれば、誤って衣服に付着しても、洗濯により容易に消去でき、さらに半紙に書いた後の色が黒色を維持することが可能な水消去性書画用墨汁組成物を提供できる。
【0082】
第4実施形態に係る水消去性書画用墨汁組成物において、以下の成分組成を有することが最も好適である。
【0083】
クチナシ赤色素、ラック色素およびコチニール色素からなる群から選ばれる少なくとも1つの天然赤色素31〜77質量%とクチナシ青色素20〜61質量%と紅花黄色素2.5〜8質量%からなる天然色素1〜40質量%;
デンプン糖類または砂糖5〜40質量%;
天然ガム類0.01〜1質量%;および
残部が実質的に水媒体;
の組成を有し、粘度が1〜100mPa・s/20℃の範囲である水消去性書画用墨汁組成物。
【0084】
前記墨汁組成物において、粘度が100mPa・s/20℃を超えると、筆運びが重くなって墨汁(例えば学童用書道液)としての適切性が損なわれる虞がある。より好ましい粘度は、4〜10mPa・s/20℃である。
【0085】
このような水消去性書画用墨汁組成物は、クチナシ赤色素のような天然赤色素、クチナシ青色素および紅花黄色素(つまり色素の三原色)を特定の割合で配合した天然色素と、溶解促進剤であるデンプン糖類、砂糖と、粘度調整剤である天然ガム類と、水媒体とを有し、さらに各成分を特定の割合で配合し、粘度を特定化しているため、誤って衣服に付着しても、洗濯により容易に消去でき、かつ市販の墨汁と遜色のない黒色性、筆記性等の性能を有し、さらに誤って口に入れても高い安全性を有する。
【0086】
すなわち、前記天然色素と溶解促進剤の組合せによる相乗効果によって、誤って衣服に付着しても水洗または洗剤を用いた洗濯で容易に消去することが可能で、特に木綿製やポリエステル製の衣服に対して優れた水消去性を示す。その結果、子供などが普段着用している綿ポリのシャツ等には高い消去性効果が発揮できる。
【0087】
また、溶解促進剤および粘度調製成分の組合せの特定化と粘度の適正化より通常のカーボンブラックおよび膠または合成樹脂などを主体とした組成物である墨汁と比べても遜色のない文字の黒さ、優れた筆記性を有する水消去性書画用墨汁組成物を得ることができる。
【0088】
さらに、墨汁成分が天然赤色素(例えばクチナシ赤色素)、クチナシ青色素および紅花黄色素のような天然色素、デンプン糖類または砂糖および天然ガム類のように全て食用に供されるものであるため、仮に誤って口に入れても安全である。
【0089】
したがって、誤って衣服に付着しても、洗濯により容易に消去でき、かつ通常のカーボンブラックを主体とした膠組成物である市販の墨汁と遜色のない黒色性、筆記性等の性能を有し、さらに誤って口に入れても安全な商品性、実用性の極めて高い水消去性書画用墨汁組成物を提供できる。
【0090】
以下、実施例および比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の「%」はいずれも質量%を示す。
【0091】
(実施例1)
Black No. 45(保土谷化学工業社製)[質量比でココア色PN(カカオ色素):クロシンブルーG(クチナシ青色素)=55:45]の天然色素を以下に示す配合割合で防腐剤、消泡剤と共に水に溶解して黒色色素水溶液(黒色インク組成物)を調製した。
【0092】
・Black No. 45 5%
・ソルビトール T−70/70 10%
・防腐剤(日本エンバイロケミカル(株)製;スラウト33) 0.2%
・消泡剤(サンノブコ社製;8034L) 0.1%
・水 84.7%
(実施例2〜5)
下記表1に示すようにBlack No. 45の天然色素に加えて溶解促進剤であるソルビトール、マルチトール、水飴、プロピレングリコールまたはエチレングリコール、さらに防腐剤、消泡剤を同表1に示す配合割合で水にそれぞれ溶解して4種の黒色色素水溶液(黒色インク組成物)を調製した。
【0093】
(比較例1,2)
下記表1に示すようにBlack No. 45の天然色素単独、またはBlack No. 45の天然色素に加えて粘度調整剤であるキサンタンガム、さらに防腐剤、消泡剤を同表1に示す配合割合で水にそれぞれ溶解して2種の黒色色素水溶液(黒色インク組成物)を調製した。
【0094】
得られた実施例1〜5および比較例1,2の黒色インク組成物について、以下の方法により洗濯消去性(ΔE1)、漂白消去性(ΔE2)、粘度を調べた。
【0095】
[洗濯消去性の評価方法]
黒色色素水溶液を幅5cm、長さ6cmの寸法を有する木綿(サテン)白布に幅1cmになるようにスポイトで適量滴下し、6時間以上風乾し、水道水に5分間漬け置きした後、軽く水洗した。つづいて、底にスターラーが配置されたビーカ内に洗濯石鹸水溶液(ライオン製固形石鹸0.03質量%水溶液)を収容し、このビーカ内に水洗後の白布を入れ、スターラーを1秒当たり5回転させる条件で10分間回転、撹拌した後、水洗したものを試験片とした。この試験片と黒色色素水溶液を滴下しないブランクである木綿(サテン)白布の色差(ΔE1)を測定した。色差測定は、色差計(Minolta製商品名;CM−2600d)を使用した。
【0096】
なお、色差(ΔE1)が小さいほど色落ち性が良好であることを示す。
【0097】
[漂白消去性の評価方法]
洗濯消去性評価と同様に黒色色素水溶液を滴下し、風乾した木綿(サテン)白布を水道水に5分間漬け置きした後、軽く水洗した。底にスターラーが配置されたビーカ内に洗濯石鹸水溶液(ライオン製固形石鹸水溶液)と花王株式会社製商品名;ハイター(衣料用漂白剤)を混合した石鹸濃度0.03質量%、漂白剤濃度0.24質量%の混合水溶液を収容し、このビーカ内に水洗後の白布を入れ、スターラーを1秒当たり5回転させる条件で10分間回転、撹拌した後、水洗したものを試験片とした。この試験片と黒色色素水溶液を滴下しないブランクである木綿(サテン)白布の色差(ΔE2)を測定した。色差測定は、色差計(Minolta製商品名;CM−2600d)を使用した。
【0098】
なお、色差(ΔE2)が小さいほど色落ち性が良好であることを示す。
【0099】
[消去性の総合評価]
1)一次評価
漂白消去性のΔE2値が、
・5未満の場合を“○”、
・5以上の場合を“×”
と判断して評価した。
【0100】
2)総合評価
洗濯消去性評価のΔE1値および漂白消去性のΔE2値の合計が、
・10未満の場合を“◎”、
・10以上の場合を“△”
と判断して評価した。
【0101】
[粘度測定方法]
黒色試験色素水溶液を20℃±0.5℃の恒温槽に10時間以上静置した後、粘度計(TOKIMEC社製商品名;ViscometerTV−20型)を用いて、M1ローターで粘度(mPa・s/20℃)を測定した。
【0102】
[総合判定]
総合判定は、洗濯消去性試験、漂白消去性試験および粘度の結果から、
・全ての評価項目での評価が○または◎の場合を“◎”、
・全ての評価項目中に“△”が含まれている場合を“○”、
・全ての評価項目中に“×”が含まれている場合を“×”
と判断して評価した。
【0103】
これらの結果を下記表1に示す。なお、下記表1中の黒色インク組成物の成分量は“質量%”を示す。
【表1】

【0104】
前記表1から明らかなようにBlack No. 45の天然色素にソルビトールのような溶解促進剤を配合した組成の実施例1〜5の黒色インク組成物は、溶解促進剤を含まない比較例1,2の黒色インク組成物に比べて優れた洗濯消去性、漂白消去性を示すことがわかる。特に溶解促進剤の中でデンプン糖類を用いた実施例1〜3の黒色インク組成物は同溶解促進剤としてPG,EGを用いた実施例4,5の黒色インク組成物に比べてより優れた洗濯消去性、漂白消去性を示すことがわかる。
【0105】
(実施例6〜8)
クチナシレッドNR(クチナシ赤色素)、コチニールレッド(コチニール色素)およびスチラックレッドL−5(ラック色素)から選ばれるいずれかの天然赤色素とクロシンブルー液(クチナシ青色素)と鮮明紅花液600(紅花黄色素)の三原色の天然色素をソルビトール、さらに防腐剤、消泡剤と共に下記表2に示す配合割合で水にそれぞれ溶解して3種の黒色色素水溶液(黒色インク組成物)を調製した。
【0106】
得られた実施例6〜8の黒色インク組成物について、実施例1と同様な方法により洗濯消去性(ΔE1)、漂白消去性(ΔE2)、粘度を調べた。その結果を下記表2に示す。なお、下記表2中の黒色インク組成物の成分量は“質量%”を示す。
【表2】

【0107】
前記表2から明らかなように特定の三原色の天然色素を組合せ、これに溶解促進剤であるソルビトールを配合した組成の実施例6〜8の黒色インク組成物は、優れた洗濯消去性、漂白消去性を示すことがわかる。
【0108】
(実施例9)
Black No. 45[質量比でココア色PN(カカオ色素):クロシンブルーG(クチナシ青色素)=55:45]の天然色素を以下に示す配合割合で、マルチトール(溶解促進剤)、キサンタンガム(粘度焼成剤)、防腐剤、消泡剤と共に水に溶解して黒色色素水溶液(墨汁組成物)を調製した。
【0109】
・Black No. 45 5.00%
・マルチトール 10.00%
・キサンタンガム 0.05%
・防腐剤(日本エンバイロケミカル(株)製;スラウト33) 0.2%
・消泡剤(サンノブコ社製;8034L) 0.1%
・水 84.65%
(実施例10〜12)
下記表3に示すように溶解促進剤であるマルチトールに代えて水飴、プロピレングリコール、エチレングリコールを用いた以外、実施例9と同様な組成の3種の黒色色素水溶液(墨汁組成物)を調製した。
【0110】
(実施例13〜16)
下記表3に示すように溶解促進剤としてソルビトール、粘度調整剤であるキサンタンガムに代えてアラビアガム、ローカストビーンガム、ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製商品名;PVA−210)およびポリビニルピロリドン(アイエスピー・ジャパン社製商品名;PVP K−90)を用いた以外、実施例9と同様な4種の組成の黒色色素水溶液(墨汁組成物)を調製した。
【0111】
(実施例17〜21)
溶解促進剤としてソルビトール、粘度調整剤としてキサンタンガムを用い、下記表4に示すようにBlack No. 45の含有量、ソルビトールの含有量を変動させて5種の組成の黒色色素水溶液(墨汁組成物)を調製した。
【0112】
(実施例22,23)
Black No. 45、溶解促進剤であるソルビトール、粘度調整剤であるキサンタンガムをそれぞれ下記表4に示すように一定量で含有させ、さらに色調整色素(カラメル色素、イカスミ色素)を同表4に示す量で含有させて2種の組成の黒色色素水溶液(墨汁組成物)を調製した。
【0113】
得られた実施例9〜23の墨汁組成物および学童用書道液(株式会社呉竹;墨滴)[比較例3]について、実施例1と同様な方法により洗濯消去性(ΔE1)、漂白消去性(ΔE2)、粘度を調べ、さらに以下のように書道液の適正を調べた。
【0114】
[書道液適正 目視判定]
5名のパネラーにより黒色試験色素水溶液を筆を用いてパルプ半紙に筆記し、運筆を調べると共に、筆記後の滲み、墨色、乾燥性を目視により調べた。
【0115】
運筆、筆記後の滲み、墨色、乾燥性の判断基準は、以下のとおりである。
【0116】
・運筆:市販学童用書道液と比較し、運筆が重いか否か
・滲み:市販学童用書道液と比べ、大きく滲んで文字が判読困難ではないか、
・墨色:市販学童用書道液と比べ、乾燥後の筆記線を観察して筆の跡が残らないか
・乾燥性:市販学童用書道液と比べ、液の乾燥時間が極端に悪くないか、
このような運筆、筆記後の滲み、墨色、乾燥性を書道液適正とし、5名のパネラー中、4名以上のパネラーが書道液として適正であると判断した場合を“◎”、3名のパネラーが書道液として適正であると判断した場合を“○”、と評価した。
【0117】
[総合判定]
総合判定は、洗濯消去性試験、漂白消去性試験、粘度および書道液適性の結果から、
・全ての評価項目での評価が○または◎の場合を“◎”、
・全ての評価項目中に“△”が含まれている場合を“○”、
・全ての評価項目中に“×”が含まれている場合を“×”
と判断して評価した。
【0118】
これらの結果を下記表3、表4に示す。なお、下記表3、表4中の墨汁組成物の成分量は“質量%”を示す。
【表3】

【0119】
【表4】

【0120】
前記表3、表4から明らかなように実施例9〜23の墨汁組成物は、市販の学童用書道液(比較例3)に比べて洗濯消去性、漂白消去性が格段に優れ、かつ書道液適正も良好であることがわかる。中でも、溶解促進剤としてソルビトールのようなデンプン類を用いた実施例9,10,13〜23の墨汁組成物はより優れた洗濯消去性、漂白消去性を示すことがわかる。
【0121】
また、粘度調整剤としてキサンタンガムを用いた実施例9〜12の墨汁組成物は粘度調整剤としてキサンタンガム以外のアラビアガム等を同量用いた実施例13〜16の墨汁組成物に比べて高い粘度を有することがわかる。換言すると、キサンタンガムを用いた場合には、その含有量を下げても十分な粘度を示し、低コスト化に寄与する。
【0122】
さらに、色調整剤であるカラメル色素、イカスミ色素をさらに含有させた実施例22,23の墨汁組成物は、市販の学童用書道液により近似した黒色性を示した。
【0123】
(実施例24〜26)
クチナシレッドNR(クチナシ赤色素)、コチニールレッド(コチニール色素)およびスチラックレッドL−5(ラック色素)から選ばれるいずれかの天然赤色素とクロシンブルー液(クチナシ青色素)と鮮明紅花液600(紅花黄色素)の三原色の天然色素をソルビトール、キサンタンガム、さらに防腐剤、消泡剤と共に下記表5に示す配合割合で水にそれぞれ溶解して3種の黒色色素水溶液(墨汁組成物)を調製した。
【0124】
得られた実施例24〜26の墨汁組成物について、前述したのと同様な方法により洗濯消去性(ΔE1)、漂白消去性(ΔE2)、粘度および書道液適性を調べた。その結果を下記表5に示す。なお、下記表5中の墨汁組成物の成分量は“質量%”を示す。
【表5】

【0125】
前記表5から明らかなように特定の三原色の天然色素を組合せ、これに溶解促進剤であるソルビトールおよび粘度調整剤でありキサンタンガムを配合した組成の実施例24〜26の墨汁組成物は、表4に示す市販の学童用書道液(比較例3)に比べて洗濯消去性、漂白消去性が格段に優れ、かつ書道液適正も良好であることがわかる。
【0126】
以上の表3〜表5から溶解促進剤としてデンプン糖類を選び、粘度調整剤として天然ガム類を選ぶことが特定の天然色素との組合せで水消去性、墨汁(書道液)の最適化の点で有効であることがわかる。
【0127】
特に、溶解促進剤としてマルチトールまたはソルビトールを選び、粘度調整剤としてキサンタンガムを選ぶと共に、それらを特定の量で配合することによって、特定の天然色素との組合せで顕著に優れた水消去性、墨汁(書道液)の最適化を発揮できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カカオ色素およびクチナシ青色素を含み、かつカカオ色素45〜65質量%およびクチナシ青色素35〜55質量%の割合で配合される天然色素1〜40質量%;
デンプン糖類、砂糖およびグリコール類からなる群から選ばれる少なくとも1つの溶解促進剤5〜40質量%;および
残部が実質的に水媒体;
の組成を有することを特徴とする水消去性黒色インク組成物。
【請求項2】
クチナシ赤色素、ラック色素、コチニール色素、紅花黄色素、カラメル色素およびイカスミ色素からなる群から選ばれる少なくとも1つの色調整色素が、0.5〜10質量%の割合でさらに含有されることを特徴とする請求項1記載の水消去性黒色インク組成物。
【請求項3】
前記デンプン糖類がマルチトール、ソルビトールおよび水飴からなる群から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1記載の水消去性黒色インク組成物。
【請求項4】
天然ガム類、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンからなる群から選ばれる少なくとも1つの粘度調整剤がさらに含有されることを特徴とする請求項1または2記載の水消去性黒色インク組成物。
【請求項5】
前記天然ガム類がキサンタンガム、アラビアガムおよびローカストビーンガムからなる群から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項4記載の水消去性黒色インク組成物。
【請求項6】
カカオ色素およびクチナシ青色素を含み、かつカカオ色素45〜65質量%およびクチナシ青色素35〜55質量%の割合で配合される天然色素1〜40質量%;
デンプン糖類または砂糖5〜40質量%;および
残部が実質的に水媒体;
の組成を有することを特徴とする水消去性黒色インク組成物。
【請求項7】
クチナシ赤色素、ラック色素およびコチニール色素からなる群から選ばれる少なくとも1つの天然赤色素31〜77質量%とクチナシ青色素20〜61質量%と紅花黄色素2.5〜8質量%からなる天然色素1〜40質量%;
デンプン糖類、砂糖およびグリコール類からなる群から選ばれる少なくとも1つの溶解促進剤5〜40質量%;および
残部が実質的に水媒体;
の組成を有することを特徴とする水消去性黒色インク組成物。
【請求項8】
前記デンプン糖類がマルチトール、ソルビトールおよび水飴からなる群から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項7記載の水消去性黒色インク組成物。
【請求項9】
天然ガム類、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンからなる群から選ばれる少なくとも1つの粘度調整剤がさらに含有されることを特徴とする請求項7または8記載の水消去性黒色インク組成物。
【請求項10】
前記天然ガム類がキサンタンガム、アラビアガムおよびローカストビーンガムからなる群から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項9記載の水消去性黒色インク組成物。
【請求項11】
クチナシ赤色素、ラック色素およびコチニール色素からなる群から選ばれる少なくとも1つの天然赤色素31〜77質量%とクチナシ青色素20〜61質量%と紅花黄色素2.5〜8質量%からなる天然色素1〜40質量%;
デンプン糖類または砂糖5〜40質量%;および
残部が実質的に水媒体;
の組成を有することを特徴とする水消去性黒色インク組成物。
【請求項12】
請求項1〜6いずれか記載の水消去性黒色インク組成物を含有することを特徴とする水消去性書画用墨汁組成物。
【請求項13】
請求項7〜11いずれか記載の水消去性黒色インク組成物を含有することを特徴とする水消去性書画用墨汁組成物。
【請求項14】
カカオ色素およびクチナシ青色素を含み、かつカカオ色素45〜65質量%およびクチナシ青色素35〜55質量%の割合で配合される天然色素1〜40質量%;
デンプン糖類または砂糖5〜40質量%;
天然ガム類0.01〜1質量%;および
残部が実質的に水媒体;
の組成を有し、粘度が1〜100mPa・s/20℃の範囲であることを特徴とする水消去性書画用墨汁組成物。
【請求項15】
クチナシ赤色素、ラック色素およびコチニール色素からなる群から選ばれる少なくとも1つの天然赤色素31〜77質量%とクチナシ青色素20〜61質量%と紅花黄色素2.5〜8質量%からなる天然色素1〜40質量%;
デンプン糖類または砂糖5〜40質量%;
天然ガム類0.01〜1質量%;および
残部が実質的に水媒体;
の組成を有し、粘度が1〜100mPa・s/20℃の範囲であることを特徴とする水消去性書画用墨汁組成物。
【請求項16】
添加剤として防腐剤および消泡剤をさらに含有することを特徴とする請求項14または15記載の水消去性書画用墨汁組成物。

【公開番号】特開2008−195871(P2008−195871A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−33979(P2007−33979)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【出願人】(000005315)保土谷化学工業株式会社 (107)
【出願人】(000142920)株式会社呉竹 (24)
【Fターム(参考)】