説明

水田の節水型漏水防止構造

【課題】水田の漏水を抑制して農業用水の無駄遣いを削減すると共に、水田の貯留水に含まれている肥料成分や農薬が下流側に流れることに伴う環境汚染や生態系破壊の問題を軽減させ得る水田の節水型漏水防止構造を提供する。
【解決手段】第1の畦と第2の畦とで仕切られた単位水田11に給水制御装置を設ける。単位水田11の前の畦部6に設けた排水部16より排出された水が排水路14で下流側に排出される。単位水田11の前の畦部6に、単位水田11の水が漏水するのを防止する止水面部8が、その下端側の部分を鋤床層20の内部に埋設して設けられる。排水路14は、堰上げ板が所要間隔で設けられ、排水路内の水が、その水面43が鋤床層20の下端45よりも上方に存するように堰上げされる。排水路14は、その水路底面23aで地盤26に開放状態とされ、単位水田11と排水路14は透水層102を介して通水状態とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水田の貯留水が漏水するのを抑制できると共に水田への水の供給を一定に制御できるように構成された水田の節水型漏水防止構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水田では、代掻きや田植えの時期に施肥や農薬散布が行われるため、水田の貯留水は肥料や農薬を含んだ濁水状態にある。又、田植えから秋の収穫までの間にも施肥や農薬散布が適宜行われている。かかることから、水田の貯留水中には豊富なチッソやリン等の肥料成分、農薬が存在した状態となっている。
【0003】
そして、水田を囲む畦は土構造物であることから、畦に沿って設けられている排水路には、水田の貯留水が該畦を通じて漏水しやすかった。又、このような土構造の畦は、モグラやザリガニ等の小動物によって孔部が明けられるケースも多く、この孔部から排水路等に漏水する問題もあった。更に、該排水路は降雨時以外はほとんど水位もない状態であるため、水田の貯留水が水田の底部分を通じて排水路等に漏水することもあった。
【0004】
このような漏水が生ずると、該貯留水に含まれているチッソやリン等の肥料成分や農薬が排水路に流入して下流側に流れることになるため、排水路末端の湖沼等における水質汚染の問題が深刻化していた。又、このように水田の貯留水が畦や水田の底部分を通じて排水路等に漏水することは、農業用水の無駄遣いになるばかりでなく、かかる無駄な漏水分を補うために用水ポンプを不必要に稼動させなければならず、用水ポンプの稼働に要する電力消費量が増大して経済的負担が上昇する問題もあった。
【0005】
かかることから、排水路の下流側への汚濁物質の流出を抑制して水田による環境汚染や生態系の破壊を防止するために、又、農業用水の無駄遣いを削減すると共に用水ポンプの稼働に伴う電力消費量を低減させるために、効果的な漏水防止手段が望まれていた。
【0006】
そこで、かかる水田の漏水防止を図るための手段として、例えば、実用新案登録第3006539号公報が開示する水漏れ防止枠板を用いた漏水防止構造が提案されている。該漏水防止構造は、図23に示すように、畦aの内側部を覆うように水漏れ防止枠板bを固定することによって水田の貯留水が漏水するのを防止せんとするものであった。この種の漏水防止構造によるときは、モグラやザリガニ等の小動物が明けた孔部から漏水する等の畦部分cを通じての漏水を該水漏れ防止枠板bの止水作用によって防止することはできても、水田の底部分dを浸透しての漏水を防止することはでき難いものであった。
【0007】
【特許文献1】実用新案登録第3006539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来の問題点に鑑みて開発されたものであり、水田の畦を通じての漏水を防止できるだけでなく、水田の底部分を通じての漏水も抑制でき、水田の貯留水に含まれているチッソやリン等の肥料成分や農薬が下流側に排水されることに伴う湖沼等の環境汚染や生態系破壊の問題を軽減させ得ると共に、農業用水の無駄遣いを削減して水資源の有効活用を達成させる水田の節水型漏水防止構造の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は以下の手段を採用する。
即ち本発明に係る水田の節水型漏水防止構造は、左右に延長する第1の畦と前後方向に延長する第2の畦とによって仕切られた水田の漏水防止構造であって、該水田は、前後に所要間隔を置いて配設された前記第1の畦間を、左右方向所要間隔毎に前記第2の畦で仕切ることによって、前後左右の縁が畦部で仕切られた単位水田が左右方向に並設されてなる。各単位水田は、その後部に、該単位水田に所定水位に水を供給する給水制御装置が設けられている。又、前に位置する前記第1の畦の外側部に沿って排水路が設けられており、該単位水田の水が、前の畦部に設けた排水部より該排水路に排出されるようになされている。又、該単位水田における前の畦部の内側部に、その全長に亘る如く、前記単位水田の作土層の下側に存する鋤床層に下端側の部分が埋設状態となる止水面部が、該前の畦部の上端側から該鋤床層の内部に亘って設けられると共に、前記排水路には堰上げ板が所要間隔を置いて設けられており、該排水路内の水が、該堰上げ板によって、その水面が前記鋤床層の下端よりも上方に存し且つ前記所定水位にある貯留水の水面よりも下方に存するように堰上げされるようになされている。又、該排水路は、該堰上げされた水の水面より下側部分で地盤に開放状態とされ、前記単位水田と前記排水路とは、前記鋤床層の下端の下側部分をなす透水層を介して通水状態とされていることを特徴とするものである。
【0010】
前記水田の節水型漏水防止構造において、前記止水面部は、下端側の部分が前記鋤床層に埋設状態となるように打ち込むことのできる板状の止水パネルを以て構成するのがよい。
【0011】
又、前記水田の節水型漏水防止構造において、前記給水制御装置は、前記水田に水を供給する農業用水パイプラインに接続されており、供給水量を積算し得る供給水量積算装置を具備すると共に、前記単位水田への必要な供給水量を手動で入力してセットした後にバルブを開放すると該セットした水量を供給でき、その後に該バルブが自動閉止する半自動給水栓バルブを具備したものとして構成するのがよい。該半自動給水栓バルブは、農業用水パイプラインの水圧が低くても機能するように構成される。
【0012】
又、前記水田の節水型漏水防止構造において、前記排水路に設ける堰上げ板の越流部の高さを、下流側の水面に対して魚類が遡上可能な高さに設定し、又、前記排水部に堰板を設け、該堰板の越流部の高さを、下流側の水面に対して魚類を遡上可能とする高さに設定するのがよい。
【発明の効果】
【0013】
(1) 本発明に係る水田の節水型漏水防止構造は、前記止水面部が、前の畦部の上端側から鋤床層の内部に亘って配設されており、又、水田の第1の畦の外側部に沿って設けられた排水路内の水が、堰上げ板によって、その水面が前記鋤床層の下端よりも上方に存するように堰上げされており、該排水路は、該堰上げされた水の水面より下側部分で地盤に開放状態とされ、又、単位水田と排水路とは、前記鋤床層の下端の下側部分をなす透水層を介して通水状態とされている。
【0014】
従って本発明によるときは、前記止水面部によって、単位水田内の貯留水が前の畦部を透水して漏水するのを防止でき、小動物が畦部に明けた孔部から排水路等に漏水するのを防止できると共に、前記前の畦部と単位水田の境界部分を透水して排水路等に漏水するのを防止できるのはもとより、前記排水路における隣り合う堰上げ板間の貯水の圧力ヘッドによって、単位水田内の貯留水が前記鋤床層を透水して該排水路等に漏水するのを抑制できる。本発明によるときは、これらの漏水防止作用が相俟って、水田の貯留水の漏水を抑制できることになり、農業用水の無駄遣いを防止できると共に、用水ポンプの稼働に伴う電力消費量を減じて稲作のコスト低減を期し得ることとなる。
【0015】
加えて、このように水田の貯留水の漏水を抑制できることから、該漏水に伴い排水路に流入するチッソやリン等の肥料成分や農薬の量を減少させることができる。しかも、排水路には前記のように所要間隔で堰上げ板が設けられているため、排水路に流入した肥料成分や農薬等の多くの部分を堰上げ板間の底部に沈殿させることができる。従ってこの沈殿物を定期的に除去することにより、これらの含有量の少ない上水を下流側に流すことができ、排水路の下流側における湖沼等の水質汚染等の環境問題を軽減させ得ることとなる。
【0016】
(2) 又、単位水田に所定水位に水を供給する給水制御装置を設けるため、水田への無駄な給水を防止した経済的な稲作を行なうことができる。特に、前記給水制御装置として、供給水量積算装置と半自動給水栓バルブを具備する装置を採用したときは、単位水田への必要な給水量を手動で入力(手動でダイヤルを回して目盛りセットしたり、手動でデジタル入力するする等)してセットした後にバルブを開放すると、該セットした水量を供給後に該バルブを自動閉止させることができると共に、稲作シーズンの始めからの総供給水量を積算して確認できるため、水田への給水制御をより効率的にしかも的確に行ない得ることとなる。
【0017】
(3) 前記止水面部を、下端側の部分を鋤床層に打ち込むことのできる板状の止水パネルを用いて構成するときは、可撓性のシートや樹脂板等を用いて該止水面部を構成する場合に比し、該止水パネルの打ち込みによって止水面部を能率的に施工できる利点がある。
【0018】
(4) 特に、前の畦部に設ける排水部と、前記排水路とに、前記のように魚道機能を付加するときは、魚類を河川や湖沼等から排水路を遡上させて排水部が存する場所に至らせることができ、更に、該排水部を遡上させて単位水田に至らせることができる。これにより、該単位水田を、魚類の産卵、繁殖、育成の場として活用できることともなり、生態系に配慮した稲作を展開できることになる。
【実施例1】
【0019】
図1〜2において本発明に係る水田の節水型漏水防止構造1は、左右に延長する第1の畦2と、前後方向に延長する第2の畦3とによって区画された水田5における節水型の漏水防止構造であって、該水田5は、前後に所要間隔を置いて配設された前記第1の畦2,2間を、左右方向所要間隔毎に前記第2の畦3で仕切ることによって、前後左右の縁が畦部6,7,9,10で仕切られた単位水田11が左右方向に並設されている。そして、各単位水田11の後部、即ち後の畦部7に、図2に示すように、該単位水田11に所定水位に水を供給する給水制御装置12が設けられている。又図3〜9に示すように、前の畦部6の内側部4に、その全長に亘る如く止水面部8が設けられると共に、前記第1の畦2a(図1)の外側部13に沿って排水路14が設けられており、該単位水田11内の貯留水15が、前の畦部6に設けた排水部16より該排水路14に排水されるようになされている。以下、これをより具体的に説明する。
【0020】
本実施例において前記水田5は、前後に配設された前記第1の畦部6,7間の間隔が100mに設定されると共に左右に配設された前記第2の畦部9,10間の間隔が30mに設定されており、従って前記単位水田11は、その前後の畦部6,7間の間隔が100mであり、左右の畦部9,10間の間隔が30mである。前記水田5の底部分17は、図5〜6、図8〜9に示すように、稲を生育させるための作土層19の下側に、透水しにくい粘土層からなる鋤床層20が設けられている。そしてその下層は地山18であり、透水性の高い地層であることが多い。
【0021】
又、各単位水田11の後部、本実施例においては前記後の畦部7の左右方向の中央部位に、図1〜2に示すように前記給水制御装置12が設けられている。該給水制御装置12は、本実施例においては、水田に給水するために水田の後の第1の畦2bの後側においてその長さ方向に埋設状態に配設された農業用水パイプライン21の分岐管21aに接続された節水型の半自動給水栓バルブを具えている。該半自動給水栓バルブは、単位水田11への必要な供給水量を、手動でダイヤルを回して目盛りセットしたり、手動でデジタル入力する等してセットした後にバルブを開放すると給水が開始されるようになされ、セットした水量を給水後に該バルブが自動閉止するようになされている。そして該バルブは、農業用水パイプラインの水圧が低くても機能できるように構成されている。又、稲作シーズンの始めからの総供給水量を積算し得る供給水量積算装置を具備しており、これによって、水田への無駄な給水を防止でき、水田への給水制御をより効率的にしかも的確に行ない得ることとなる。
【0022】
前記排水路14は、図1、図3、図5、図8に示すように、前に位置する前記第1の畦2aの外側部13に沿って設けられており、該排水路14の水路底部23は地盤26に開放状態とされている。本実施例においては、該水路底部23の一種である水路底面23aが、前記単位水田11の前記鋤床層20の上端24よりも90cm程度下方に位置されており、該水路底面23aは該地盤26に開放状態とされている。
【0023】
該排水路14は、本実施例においては図5に示すように、下側のコンクリート水路14aと、その上側に位置し且つその水路幅が上方に向けて拡大する土水路14bとを組み合わせて構成しているが、全体を土水路にすると、排水路の底部分が崩れて水路断面を保持できなくなるので、下側をコンクリート水路14aとしているのである。そして、該コンクリート水路14aの深さを60cm程度とし、該土水路14bの深さは65cm程度とし、従って、排水路14の深さ(前の畦部6の上面24と前記コンクリート水路14aの水路底面23との間の距離)は125cm程度としている。該排水路14の水路断面の大きさは、施工時における降雨状態を考慮して設計されており、該排水路14の水は、通常は前記コンクリート水路14aを流れ、大雨時には前記土水路14bにも流れるようにように設計されている。
【0024】
該コンクリート水路14aは、本実施例においては、湖沼等の魚類を前記水田5に遡上可能とする魚道25を兼ねて構成されている。該コンクリート水路14aの具体的構成を説明すれば、図8、図10に示すように、掘削部27の底面29に、水路幅方向に長い角棒状に形成された底板部材30の両端で立上がり片31,31を立設してなるコ字状支持枠32を所要間隔(例えば1m程度の間隔)を置いて並設すると共に、排水路14の長さ方向で隣り合う立上がり片31,31間で側板33を複数段に、例えば2段に支持させて構成されており、複数段に支持された該側板33によって水路壁35が形成されている。かかる排水路14にあっては、その水路底面23aが、隣り合う底板部材30,30間で地盤26に開放している。本実施例においては、前記コ字状支持枠32の前記底板部材30の水平長さは70cmに形成されると共に、前記立上がり片31の上下長さは60cmに形成されており、該底板部材30の両端部分は該立上がり片31の外方に稍突出しており、該突出部分37,37の上面39,39で、前記側板33が下方から支持されるようになされている。又、前記土水路14bの上端幅(図8で一点鎖線で示す上端幅)は270cm程度に設定されている。
【0025】
そして前記コンクリート水路14aには、図11〜12に示すように、排水路14の長さ方向に所要間隔を置いて堰上げ板41が取り付けられており、隣り合う堰上げ板41,41間の貯水42の水面43が、図5、図8に示すように、前記鋤床層20の下端45よりも上方に存するように該堰上げ板41で堰上げされる。そして、該堰上げ板41の上縁をなす越流部46(図11〜12)で水が下流側に越流するようになされ、該越流部46が、下流側の水位に対して魚類が遡上可能な高さ(例えば50〜150mm)に設定されている。本実施例において該堰上げ板41は、図11〜12に示すように、その両側の縁部分47,47が、該コンクリート水路14aを構成する前記コ字状支持枠32の上流側の側面49に当接状態に固定されることによりに配設されている。
【0026】
又前記排水部16は、収穫前の中干しに際して単位水田11内の貯留水15を排水路14に排出する必要から設けられるのであるが、本実施例においては、前記排水路14から単位水田11に魚類を遡上可能とする魚道50を兼ねて構成されている。
【0027】
該魚道50は図3、図5〜7に示すように、前記単位水田11と前記排水路14との間をなす前の畦部6を傾斜状態に掘削すると共に該掘削部に、水路上流端52が単位水田11に連通すると共に水路下流端53がコンクリート水路14aに連通するU字状の水路部材55を傾斜状態に敷設すると共に、該水路部材55の水路56に、水路水を嵩上げする堰板57の複数枚(本実施例においては6枚)を上下所要間隔で着脱可能に装着した構成を有している。該水路下流端53は、前記コンクリート水路14aの前記水路壁35を切欠して形成した接続開口59に連設されており、最下段の堰板57aは、該水路下流端部分に装着されており、該堰板57aの上縁をなす越流部60(図5、図7)は、前記コンクリート水路14aの水路壁35の上端61の稍下側に位置されている。又、最上段の堰板57bは、該水路上流端部分に装着されており、該堰板57bの上縁をなす越流部60(図5、図6)は、前記単位水田11の最大水深にある前記貯留水15の水面63の高さに設定されている。
【0028】
そのために、図3に示すように、該水路部材55の対向した側壁部65,65の内面66,66に対向状態に設けられた上端開放の嵌入溝67,67の組を該水路56の長さ方向に30cm程度の間隔で6組設けてなる。そして図3(B)に示すように、該対向する嵌入溝67,67の夫々に、堰板57の両端縁部分69,69が嵌め入れられて前記魚道50が構成されている。そして、最上段の堰板57bの上縁をなす越流部60と、最下段の堰板57aの上縁をなす越流部60は水平に形成されている。又、2段目の堰板57c、3段目の堰板57d、4段目の堰板57eは、上縁一端54から上縁他端71に向けて下向きに傾斜する越流部60が設けられてなり、各堰板57の越流部60が、下流側の水面73a,73b,73c,73d,73e,73f(図5)に対して魚類が遡上可能な高さに設定されている。
【0029】
図3は、降雨時に、単位水田11の貯留水15が、前記越流部60を蛇行状態に流下している状態を示すものであり、魚類は、該越流部60を排水路14から水田5に向けて遡上できる。
【0030】
収穫前に単位水田11の貯留水15を排出して中干しする際は、水田の貯留水を、前記排水部16としての水路部材55を通して排水路14に排水させることができるように、上段側に存する1枚乃至2枚の堰板57を前記水路部材55から取り外す。
【0031】
又前記止水面部8は、図9に示すように、前記単位水田11における前記前の畦部6の内側部4に、その全長に亘る如く、下端側の部分75が該単位水田11の前記鋤床層20に例えば5cm程度埋設状態となるように、前の畦部6の上端側76から鋤床層20の内部に亘って略垂直状態に設けられると共に、該止水面部8の上側部分77は、前記前の畦部6の内面79を覆っている。本実施例においては、該上端側76を、前の畦部6の上端80の稍下側の部分(例えば5cm程度、下側の部分)に設定している。該止水面部8の上端81は、前の畦部6の上端80に合致させてもよいのであるが、本実施例においては、畦部6の上面部分を草刈機で除草する際に、止水面部8の上部分が草刈りカッターで損傷されないようにするため、該上端81を、前の畦部6の上端80の稍下側部位に位置させているのである。該上側部分77は、少なくとも、前記貯留水15の最大水深の水面63よりも上の部分を覆うように設けられる。
【0032】
該止水面部8は、本実施例においては、図4、図13に示すような、板状の止水パネル82と杭部材83とを用い、該止水パネル82を該杭部材83を介して連結することにより構成されている。該止水パネル82と杭部材83は、例えば高強度で高耐久性のセメント系繊維補強モルタル製である。該止水パネル82は横長矩形板状をなし、その下端部分85は、水田側が切欠されることによってくさび状に形成されている。該止水パネル82の各部の寸法を例示すれば、水平方向の長さが100cmで上下高さが35cm、厚さが1cmである。かかる構成を有する止水パネル82を連結する前記杭部材83は、上下に長く形成され且つ両側面に、該止水パネル82の左右の端縁部分86,86を嵌め入れる嵌入溝部87,87が設けられており、その全長は45cmに設定されている。
【0033】
然して、該杭部材83と該止水パネル82とを用いて前記止水面部8を構成するに際しては、例えば図14に示すように、前記前の畦部6の垂直な内面79の下端89の畦際部分(田面部分)の土を、前記作土層19をなす約15cm程度の深さで除去し、畦際部分に作業用の窪み部90を形成する。その後、該杭部材83の下端側部分91の例えば15cm程度の長さ部分88を、図14に示すように、前記垂直な内面79の下端側で前記鋤床層20に打ち込む。このとき、杭上端92は前の畦部6の上端80の稍下側の部分に位置される。例えば、該上端80の5cm程度、下側の部分に位置させる。このようにしたとき、該杭上端92は、例えば図6に示すように、単位水田11の最大水深にある前記貯留水15の水面63よりも5cm程度上に位置される。
【0034】
このようにして所要間隔を置いて立設された杭部材83,83の左右対向する嵌入溝部87,87(図13、図14)の上端に前記止水パネル82の下端部分の左右の端部分93,93を挿入した状態で該止水パネル82を落とし込む。その後、該止水パネル82の上端95を叩く等して該止水パネル82の下端側の部分75の5〜10cm程度の長さ部分(本実施例においては5cm程度の長さ部分)を、図15に示すように、前記垂直な内面79の下端で前記鋤床層20に打ち込む。前記のように、止水パネル82の下端部分85がくさび状に形成されているため、打ち込みの容易化が図られる。これによって、図4に示すように、該止水パネル82は前記杭部材83に安定状態で支持される。同様の要領によって、前記杭部材83を所要間隔を隔てて順次打ち込みながら、左右対向する嵌入溝部87,87間に前記止水パネル82を取り付けていく。その後、前記窪み部90に、前記除去した土を埋め戻す。これにより、図9に示すような、下端側の部分75の5cm程度が鋤床層20に埋設状態となった、止水性に優れる前記止水面部8が構成されることになる。なお該止水面部8は、図4に示すように、前記排水部16を形成するように途切れ状態に設けられるが、そのために、図4に示すように、該排水部16の上端の両側で前記杭部材83,83を打ち込む。
【0035】
このような構成を有する水田の節水型漏水防止構造1によるときは、前記のように、前記止水面部8が、前記前の畦部6の上端80の稍下側の部分から、透水しにくい前記鋤床層20内に亘って配設されているため、単位水田11内の貯留水15が前記前の畦部6を透水して排水路14等に漏水するのを防止できる。又、モグラやザリガニ等の小動物が前の畦部6に明けた孔部から排水路14等に漏水するのを効果的に防止できる。又、該止水面部8の下端側の部分75が前記鋤床層20に埋設されているため、前の畦部6と田面97(前記作土層19の上面)との境界部分98(図9)から排水路14に漏水するのを防止できる。これに対して前記鋤床層20は、透水しにくいものではあるが、貯留水15が該鋤床層20を透水して前記排水路14やその周辺に漏水することは避けられない。
【0036】
そこで本発明においては、図5に示すように、前の畦部6の外側部13に沿って設けた排水路14の貯水42の水面43が、前記堰上げ板41(図11〜12)によって、前記鋤床層20の下端(例えば、鋤床層20の上端24から30〜35cm程度下方の端)45よりも上方に存するように堰上げしている。該水面43と該下端45の高低差を図7においてLで示している。単位水田11の前記所定水位(最大水位)にある前記貯留水15の水面63と、排水路14の貯水42の水面43との間の距離が小さいほど前記鋤床層20における透水による漏水をより良好に抑制できる。但し大雨時にも、排水路14から単位水田11に水が逆流することなく排水路14で排水できる余裕がなければならない。そのため、該水面43の高さは、単位水田11の前記水面63よりも下に存するように設定される。
【0037】
図5においては、前記鋤床層20の下端45の稍上方部位に設定しているが、前記単位水田11の前記鋤床層20の上端24の高さ程度に設定すると、より好ましい。そして、該排水路14の水路底面23aは地盤26に開放され、単位水田11と前記排水路14とが、前記鋤床層20の下端45の下側部分をなす透水層102を介して通水状態にあるため、該排水路14における、隣り合う堰上げ板41,41間の貯水42の圧力ヘッドによって、単位水田11内の貯留水15が前記鋤床層20を透水して排水路14等に漏水するのが抑制されることとなる。
【0038】
この漏水抑制作用について付言すれば、前記のように、透水しにくい粘土層からなる前記鋤床層20の下は地山18(図5)であり透水性の高い地層である場合が多い。そして、水田の水が漏水する場合は、該鋤床層20内を水平に透水して排水路14等に漏水することは少なく、下方に浸透して地山へ漏水しやすい。かかることから、少なくとも、地山18より高い位置まで排水路14に貯水42が確保されていれば、貯留水15が、地山18に透水して排水路14等に漏水するのを抑制できると言うことである。
【0039】
このような、排水路14における圧力ヘッドによる漏水防止作用と、前記止水面部8による、前記前の畦部6を通じての漏水防止作用と、前記前の畦部6と単位水田11の田面97との境界部分98を通じての漏水防止作用とが相俟って、水田5の貯留水15の漏水が抑制されることになるのである。
【0040】
このようにして水田5の貯留水の漏水が抑制されるのであるが、前記貯留水15の一部は、前記鋤床層20を透水して排水路14内に流入するのは避けられない。その結果、前記貯水42に、該流入した漏水に含まれているチッソやリン等の肥料成分や農薬が混入することになるが、これらの多くの部分を、前記堰上げ板41,41間の排水路区画部分103の底部105(図12)に沈殿させることができる。
【0041】
若しも排水路14に堰上げ板41が取り付けられていないとすれば、該排水路14内に流入した漏水に含まれていたチッソやリン等の肥料成分や農薬が、排水路14の流水によって下流に運ばれ、その下流側の湖沼等において水質汚染等の環境汚染を引き起こすことになる。本発明においては、このようにチッソやリン等の肥料成分や農薬を排水路区画部分103の底部105に沈殿させることができるため、この沈殿物を定期的に除去することにより、これらの含有量の少ない上水を下流に流すことができ、かかる環境汚染の問題を低減させ得ることとなるのである。
【0042】
又、このように貯留水の漏水を抑制できることから、前記給水制御装置12による各単位水田11への補給水量を減少させて水資源の有効活用が図られることともなる。なお図4に示すように、前記止水面部8の内側の面106に、貯留水の水深目盛107を付しておくときは、単位水田11の前記所定水深と貯留水15の水深との差を読み取ることにより、必要な補給水量が簡易に分かるため、前記半自動給水栓バルブに付設されているダイヤルを回す等して、必要な補給水量のセットを簡易且つ確実に行い得ることとなる。なお図4においては、単位水田11の所定水深を10cmに設定することとし、2cm刻みで水深8cm、水深6cm、水深4cmの水深目刻107を付している。
【0043】
ところで、前記堰上げ板41の配置間隔は、前記前の畦部6の長さ方向で見た前記水田5の勾配に合わせて所要に設定されるものであり、少なくとも単位水田11に関しては、隣り合う堰上げ板41,41間の貯水42の水面43が、該単位水田11の鋤床層20の下端45よりも上方に存するように設定している。そのため、前記勾配が比較的大きい場合は、図16に示すように、前記前の畦部6の長さ方向の両端側に堰上げ板41,41が配設されることもあるが、前記勾配が比較的小さい場合は、図1に示すように、前の第1の畦部2aに沿って並置された複数の単位水田11の、該第1の畦2aの延長方向で見た両端側に堰上げ板41,41が配設されることもある。又、前記勾配の大きさの程度によっては、図17に示すように、前の畦部6の長さ方向の中間部位で堰上げ板41が配設されることもある。
【0044】
そして本実施例においては、該排水路14と前記排水部16に、魚道としての機能を付加しているため、鮒や鯉、鯰等の魚類を河川や湖沼等から該排水路14に進入させ、前記堰上げ板41の前記越流部46を順に遡上させて前記排水部16が存する場所に至らせることができ、その後、前記堰板57の前記越流部60を順に遡上させて単位水田11に至らせることができる。かかることから、該単位水田11を、魚類の産卵、繁殖育成の場としても活用できることともなり、自然と共生した稲作を展開できることになる。
【実施例2】
【0045】
本発明は、前記実施例で示したもの限定されるものでは決してなく、「特許請求の範囲」の記載内で種々の設計変更が可能であることはいうまでもない。その一例を挙げれば次のようである。
【0046】
(1) 前記止水面部8は、前記単位水田11における前の畦部6の内側部4に、その全長に亘る如く、該単位水田11の作土層19の下側に存する鋤床層20に下端側の部分が埋設状態となるように設けられればよいのであり、例えば、樹脂板や樹脂シートを用いて構成することもできる。又、前に位置する第1の畦2が図18に示すようにコンクリート製とされたときは、該止水面部8は、前の畦部6の内面109として構成されることもある。又該止水面部8は、図19〜20に示すように、前の畦部6の上面部110と内側部111とを覆うように構成された畦カバー112の該内側部111を覆う面部113として構成されることもある。
【0047】
(2) 本発明において、排水路14の水路底部23が地盤26に開放状態とされるとは、前記のように、該排水路14の水路底面23aが地盤26に開放状態とされることの他、図21に示すように、該排水路14の水路壁35の下側部分に設けた開口115で地盤に開放状態とされることもある。又、該排水路14が、全体がポーラスコンクリート製とされたときは、その底面部や側面部で地盤に開放状態とされることになる。要は、該排水路14が、その貯水42の水面43より下側部分で地盤に開放状態とされればよい。
【0048】
(3) 前記給水制御装置12は、前記した半自動に構成されることの他、完全手動でバルブの開閉を行なうように構成されることもあり、水位センサーで単位水田の水位を検知し、その検知信号でバルブの開閉を自動で行なうように構成されることもある。
【0049】
(4) 図22は、前記コンクリート水路14aに堰上げ板41を設けることに加えて、前記土水路14bにも堰上げ板41aを着脱可能に設けた場合を示すものである。そのために同図においては、前記コンクリート水路14aに付設した前記堰上げ板41の上面116に上の堰上げ板41aが載置された状態となるように、該上の堰上げ板41aの両側部分117,117を嵌め入れるためのガイド溝119,119が上下方向で設けられてなるガイド支柱部120,120を、土水路14bの内面カバーコンクリート部121で、立設状態に設けている。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る水田の節水型漏水防止構造を説明する平面図である。
【図2】水田に設けられた給水制御装置を説明する説明図である。
【図3】魚道機能を有する排水路と排水部の構成を説明する斜視図である。
【図4】前の畦部の内側部に設けられた止水面部と排水部の、上端側の構成を説明する斜視図である。
【図5】魚道機能を有する排水路と排水部の構成を説明する断面図である。
【図6】排水部の水路上流端側部分の構成を拡大して示す断面図である。
【図7】排水部の水路下流端側部分の構成を拡大して示す断面図である。
【図8】水田の鋤床層の下端と排水路の水面との位置関係を説明する断面図である。
【図9】止水面部の構成とその作用を説明する断面図である。
【図10】排水路の構成を説明する一部欠切斜視図である。
【図11】堰上げ板によって堰上げされた排水路の水の流れ状態を説明する斜視図である。
【図12】その断面図である。
【図13】止水面部を構成する止水パネルと杭部材を示す斜視図である。
【図14】止水パネルと杭部材とを用いて止水面部を形成する作業工程を説明する断面図である。
【図15】止水パネルを打ち込んだ状態を示す断面図である。
【図16】排水路における堰上げ板の配置状態の他の態様を示す平面図である。
【図17】排水路における堰上げ板のその他の配置状態を示す平面図である。
【図18】コンクリート製の第1の畦によって形成された止水面部を示す断面図である。
【図19】畦カバーを用いて形成された止水面部を示す断面図である。
【図20】畦カバーを用いて形成された止水面部の他の態様を示す断面図である。
【図21】排水路の他の態様を示す断面図である。
【図22】土水路にも堰上げ板を設ける実施例を説明する斜視図である。
【図23】従来における水田の漏水防止構造を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 水田の節水型漏水防止構造
2 第1の畦
3 第2の畦
6 前の畦部
7 後の畦部
9 左の畦部
10 右の畦部
11 単位水田
12 給水制御装置
14 排水路
15 貯留水
16 排水部
17 水田の底部分
19 作土層
20 鋤床層
21 農業用水パイプライン
23 排水路の水路底部
25 魚道
26 地盤
35 水路壁
41 堰上げ板
42 貯水
43 貯水の水面
45 鋤床層の下端
46 越流部
50 魚道
57 堰板
60 越流部
63 貯留水の水面
82 止水パネル
83 杭部材
107 水深目盛り

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右に延長する第1の畦と前後方向に延長する第2の畦とによって仕切られた水田の節水型漏水防止構造であって、
該水田は、前後に所要間隔を置いて配設された前記第1の畦間を、左右方向所要間隔毎に前記第2の畦で仕切ることによって、前後左右の縁が畦部で仕切られた単位水田が左右方向に並設されてなり、
各単位水田は、その後部に、該単位水田に所定水位に水を供給する給水制御装置が設けられ、又、前に位置する前記第1の畦の外側部に沿って排水路が設けられており、該単位水田の水が、前の畦部に設けた排水部より該排水路に排出されるようになされており、
又、該単位水田における前の畦部の内側部に、その全長に亘る如く、前記単位水田の作土層の下側に存する鋤床層に下端側の部分が埋設状態となる止水面部が、該前の畦部の上端側から該鋤床層の内部に亘って設けられると共に、前記排水路には堰上げ板が所要間隔を置いて設けられており、該排水路内の水が、該堰上げ板によって、その水面が前記鋤床層の下端よりも上方に存し且つ前記所定水位にある貯留水の水面よりも下方に存するように堰上げされており、又、該排水路は、該堰上げされた水の水面より下側部分で地盤に開放状態とされ、前記単位水田と前記排水路とは、前記鋤床層の下端の下側部分をなす透水層を介して通水状態とされていることを特徴とする水田の節水型漏水防止構造。
【請求項2】
前記止水面部は、下端側の部分が前記鋤床層に埋設状態となるように打ち込むことのできる板状の止水パネルとして形成されていることを特徴とする請求項1記載の水田の節水型漏水防止構造。
【請求項3】
前記給水制御装置は、前記水田に水を供給する農業用水パイプラインに接続されており、供給水量を積算し得る供給水量積算装置を具備すると共に、前記単位水田への必要な供給水量を手動で入力してセットした後にバルブを開放すると該セットした水量を供給でき、その後に該バルブが自動閉止する半自動給水栓バルブを具備することを特徴とする請求項1記載の水田の節水型漏水防止構造。
【請求項4】
前記排水路に設ける堰上げ板の越流部の高さが、下流側の水面に対して魚類が遡上可能な高さに設定されており、又、前記排水部に堰板が設けられており、該堰板の越流部の高さが、下流側の水面に対して魚類を遡上可能とする高さに設定されていることを特徴とする請求項1記載の水田の節水型漏水防止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2009−138344(P2009−138344A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−312961(P2007−312961)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(507398224)キタイ設計株式会社 (1)
【出願人】(000137074)株式会社ホクコン (40)
【出願人】(593043347)共立金属工業株式会社 (4)