説明

水素製造・貯蔵装置の防災設備

【課題】 水素ガスの漏洩を迅速に検出することができるとともに、設備のコストを軽減することを可能にした水素製造装置等の防災設備を提供することを目的とする。
【解決手段】 水素製造装置100の設備の周囲に配設され、複数のノズル孔Dが設けられた防護配管P、防護配管と定常的に開となっているバルブV1を介して接続され、ノズルDを介してガスを吸引し、その成分を分析する検知部10と、防護配管Pと定常的に閉となっているバルブV2を介して接続され、ノズルDを介して消火剤を保護対象物に放射させる消火部20と、検知部10及び消火部20をそれぞれ制御する制御装置30とを備える。制御装置30は、検知部10の分析結果により水素が所定濃度以上であると判定するとバルブV1を閉にし、且つバルブV2を開にし、消火部20によりノズルDを介して消火剤を保護対象物に放射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素製造・貯蔵装置の防災設備に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水素ステーション等における防災設備には、例えば火災検知装置、及び水素ステーションの設備に向けて噴射液を噴射する消火装置が設けられ、火災検知装置が水素ガスの火災を検知すると、消火装置が起動して噴射ヘッドから噴射液を放射し、火災熱を奪うことにより消火を行う方式のものが提案されている(例えば特許文献1参照)。また、火災を早期発見するために、質量分析によりサンプリングしたガスを分析して可燃性ガスの漏洩を検知する火災検知装置が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−155824号公報
【特許文献2】特開平5−89387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の水素ステーションにおける防災設備は、半導体式のスポット型センサをガス検知器として使っており、また、水素ステーションの設備周囲に火災に備えて消火ノズルを設けているが、スポット型センサは感度が周囲の気流に左右され、検知精度が低く反応速度も遅いという問題点がある。更に、水素ガスの引火点は非常に低いので、微量な水素ガスをできるだけ早く検知しなければならないが、半導体式のスポット型センサはそのような要求に応えることができず、水素ガスの検知手段として理想な検知装置ではなかった。一方、ガスを吸引してサンプリングする質量分析法は可燃性ガスの漏洩を早期発見することができるが、この場合には、サンプリングのための吸引管と消火用の消火配管とを敷設しなければならず、配管の敷設が二重となり、防災設備が煩雑となりコストが高くなってしまうという問題点がある。
【0005】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、水素ガスの漏洩を迅速に検出することができるとともに、設備のコストを軽減することを可能にした水素製造・貯蔵装置の防災設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る水素製造・貯蔵装置における防災設備は、水素製造・貯蔵装置の設備の周囲に配設され、複数のノズル孔が設けられた防護配管と、定常的に開となっている第1のバルブを介して前記防護配管と接続され、前記ノズルを介してガスを吸引し、その成分を分析する検知部と、定常的に閉となっている第2のバルブを介して前記防護配管と接続され、前記ノズルを介して消火剤を保護対象物に放射させる消火部と、前記検知部及び前記消火部をそれぞれ制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、前記検知部の分析結果により水素が所定濃度以上であると判定すると前記第1のバルブを閉にし、且つ前記第2のバルブを開にし、前記消火部により前記ノズルを介して消火剤を保護対象物に放射させるものである。なお、本発明において、水素製造・貯蔵装置とは、水素製造装置の他に、水素を貯蔵する設備も包含する概念である。
また、本発明に係る水素製造・貯蔵装置における防災設備において、前記検知部は、質量分析法によりガス分析を行うものである。
また、本発明に係る水素製造装置等における防災設備において、前記消火部は、前記消火剤として噴霧水又は不燃性ガスを噴射するものである。
また、本発明に係る水素製造・貯蔵装置における防災設備は、前記防護配管に接続され、定常的に開となっている第3のバルブを備え、前記制御装置は、前記検知部の分析結果により水素が所定濃度以上であると判定すると、前記第3のバルブを閉にし、前記第2のバルブと前記第3のバルブとによって特定される領域に対して消火剤を噴射させる。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、上記の構成を採用したことにより次のような効果が得られる。
(a)検知部は吸引式のガスサンプリング方式を採用しており、検知感度は環境要素、例えば風等の影響を受けず、安定したガスを測定することができる。また、ノズル孔はガス吸引孔と消火剤放射孔とを兼用しており、吸引管と消火用の配管が一本化されることによって、配管等設備の二重配置は不要となり、システム全体のコストは低減できる。
(b)感知部は質量分析法によりガス分を行っており、その高精度、高速応答の特徴を利用して水素ガス漏洩の早期発見ができる。
(c)制御装置の制御により消火剤を放射する消火部は、ガス漏洩を検知する検知部とを連携して異常を早期発見するとともに、消火活動を迅速に行うことができる。すなわち、霧状の水は、水素が製造装置周辺の湿度を高め、設備や壁に溜まっている静電気による水素ガスの燃焼爆発を抑制することができ、また、不燃性ガス(例えば窒素ガス、二酸化炭素ガス)の放射は、空気中の酸素分圧を低下させ、水素ガスが燃焼爆発の発生がしにくくなり、水素ガスの漏洩による災害を最小程度で抑えることができる。
(d)防護配管の途中に第3のバルブを備え、第2のバルブと第3のバルブとによって特定される領域に対して消火剤を噴射するので、消火効果をさらに高めることができるとともに、消火剤の使用量を軽減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施形態1.
図1は本発明の実施形態1に係る水素製造装置の防災設備及びその関連設備の構成を示したブロック図である。水素製造装置100は建物200の室内201に設置されており、建物200には排気ダクト202が設けられており、部屋内部の空気を換気している。水素製造装置100は、原料の天然ガスから水素ガスを生成するまでの製造工程が、一次処理工程101、二次処理工程102及び水素生成処理工程103の三つの工程に分かれており、この製造工程自体は従来から行われているものであるが、その概要を説明する。一次処理工程101においては、天然ガス又はプロパンガスと水蒸気とを混合し、加熱された触媒と反応させ、水素と一酸化炭素に改質する。二次処理工程102においては、改質ガス中の一酸化炭素と水蒸気等をさらに反応させて、二酸化炭素と水素に転換する。水素生成処理工程103においては、生成ガス中の炭酸ガス・水蒸気等の不純物を除去し、水素ガスを取り出す。
【0009】
水素製造装置100に対する防災設備300は、サンプリングしてガスを質量分析する検知部10と、消火剤を放射する消火部20と、検知部10及び消火部20をそれぞれ制御する制御装置30と、水素製造装置100の周囲に配設された防護配管Pとから構成されている。防護配管Pは水素製造装置100の配置形態に沿って水素製造装置100の上側に敷設されおり、ノズルDが所定の間隔に沿って設けられている。水素は軽く上昇が速いので、防護配管Pを室内201の天井面に沿って配設してもよい。また、排気ダクト202内の水素を早期発見するため、排気ダクト202にもノズルDが設置されている。上記ノズルDは、ガスを吸引する吸引孔と、消火剤を放射する放射孔として兼用されるものであり、常時開放状態になっている。このノズルDは消火剤放射時に流量が大きくなるように、逆止弁構造のオリフィスを設けることができる。
【0010】
検知部10は、ガスをサンプリングするための吸引用のポンプ11、質量分析装置12、及びデータ変換装置13を備えている。消火部20は、消火剤を貯蔵する容器21、及び容器21を開放する起動装置22を備えている。制御装置30は、防災設備300全体の動作を制御し、例えば検知部10と消火部20との連動や信号線31を介してバルブV1〜V3の開閉等を制御する。なお、本実施形態1においては、バルブV4は後述の実施形態2の説明に用いられるものであり、本実施形態1においては無視するものとする。
【0011】
図2は防災設備300の処理過程を示したフローチャートである。制御装置30はバルブV1(本発明の第1のバルブ)、V3を開き、バルブV2(本発明の第2のバルブ)を閉じる(S11)。検知部10のポンプ11を駆動させて防護配管PのノズルDから室内201及び排気ダクト202の空気を吸引させる(S12)。質量分析装置12は吸引された空気をサンプリングして分析し、分析結果はデータ変換装置13によりデータ変換されて制御装置30に出力する(S13)。制御装置30はその分析結果に基づいて水素が含まれているかどうかを判定し(S14)、水素が含まれていない場合には、検知部10に上記の処理(S13)を繰り返させる。制御装置30は水素が含まれていたと判定した場合には、それが所定の濃度以上であるかどうかを判定し(S15)、所定の濃度未満であった場合には予備警報を出力し(S16)、検知部10に上記の処理(S13)を繰り返させる。制御装置30は水素が所定の濃度以上であると判定した場合には、ポンプ11の駆動を停止させ、それまで開いていたバルブV1,V3を閉じ、それまで閉じていたバルブV2を開く(S17)。これにより、防護配管Pと検知部10とは遮断され、防護配管Pと消火部20とは連通状態になる。制御装置30は消火部20の起動装置22を駆動し、起動装置22は容器21を開放して消火剤を防護配管Pに送給し、防護配管Pに設けられたノズルDから消火剤が水素製造装置100に向けて噴射し、消火活動を行う(S18)。なお、消火剤の放射や消火活動等では「消火」と表現されているが、必ずしも水素ガスにより火災が発生した後に行う活動ではなく、水素ガス火災の発生を抑制する意味も含まれている。例えば消火剤として霧状の水を噴射した場合には、水素が製造装置周辺の湿度を高め、設備や壁に溜まっている静電気による水素ガスの燃焼爆発を抑制することができる。また、消火剤として不燃性ガス(例えば窒素ガス、二酸化炭素ガス)を放射した場合には、空気中の酸素分圧を低下させ、水素ガスが燃焼爆発の発生がしにくくなり、水素ガスの漏洩による災害を最小程度で抑えることができる。
【0012】
以上のように本実施形態1においては、検知部10は吸引式のガスサンプリング方式を採用したため、検知感度は環境要素、例えば風等の影響を受けず、安定したガスを測定することができる。また、ガス吸引孔と消火剤放射孔とが兼用されており、吸引管と消火用配管とが一本化されることによって、配管等設備の二重配置が不要となり、システム全体のコストは低減できる。また、質量分析装置12を使用したことにより、その高精度、高速応答の特徴を活かして水素ガス漏洩の早期発見が可能になった。また、制御装置30は消火剤を放射する消火部20とガス漏洩を検知する検知部10とを連携し、異常を早期発見するとともに、上記の消火活動を迅速に行うことができる。
【0013】
実施形態2.
水素製造装置100では、水素漏洩の可能性は主に水素生成処理工程103にある。そのため、防護配管Pに仕切用のバルブV4を設けて(図1参照)、その開閉によって消火剤の放射を水素生成処理工程103の周囲に集中させるようにしてもよい。その場合には、図2の処理(S11)においてバルブV1、V3の他にV4を開き、処理(S17)においてバルブV1、V3の他にV4を閉じる、という点が上記の実施形態1と相違するだけであり、その他は同じである。
ところで、この実施形態2においては、水素製造装置100の水素生成処理工程103に着目したものであるから、防護配管Pは水素生成処理工程103に関連する設備の近傍に配置することが好ましい。なお、防護配管PのバルブV4は、1個に限らず、設備の大きさに応じて複数設けても構わない。
【0014】
以上のように本実施形態2においては水素漏洩の可能性がある水素生成処理工程103の領域に消火剤の放射を限定するようにしたので、消火効果をさらに高めるとともに、消火剤の使用量を軽減させることができる。
【0015】
実施形態3.
なお、上記の実施形態1,2は何れも水素製造装置の例であるが、本発明は水素ステーション等の水素を貯蔵する設備においても同様に適用される。また、ここで水素は天然ガスが原料として使われて製造された例について記載したが、これに限らずに、水を電気分解して水素を製造する製造装置にも本発明は同様に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態1に係る水素製造装置の防災設備及びその関連設備の構成を示したブロック図である。
【図2】防災設備の処理過程を示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0017】
10 検知部、11 吸引ポンプ、12 質量分析装置、13 データ変換装置、20 消火部、21 容器、22 起動装置、30 制御装置、31 信号線、100 水素製造装置、200 建物、201 室内、202 排気ダクト、300 防災設備、D ノズル、P 防護配管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素製造・貯蔵装置の設備の周囲に配設され、複数のノズル孔が設けられた防護配管と、
前記防護配管と、定常的に開となっている第1のバルブを介して接続され、前記ノズルを介してガスを吸引し、その成分を分析する検知部と、
前記防護配管と、定常的に閉となっている第2のバルブを介して接続され、前記ノズルを介して消火剤を保護対象物に放射させる消火部と、
前記検知部及び前記消火部をそれぞれ制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記検知部の分析結果により水素が所定濃度以上であると判定すると前記第1のバルブを閉にし、且つ前記第2のバルブを開にし、前記消火部により前記ノズルを介して消火剤を保護対象物に放射することを特徴とする水素製造・貯蔵装置の防災設備。
【請求項2】
前記検知部は、質量分析法によりガス分析を行うことを特徴とする請求項1記載の水素製造・貯蔵装置の防災設備。
【請求項3】
前記消火部は、前記消火剤として水又は不燃性ガスを噴射することを特徴とする請求項1又は2記載の水素製造・貯蔵装置の防災設備。
【請求項4】
前記防護配管に接続され、定常的に開となっている第3のバルブを備え、前記制御装置は、前記検知部の分析結果により水素が所定濃度以上であると判定すると、前記第3のバルブを閉にし、前記第2のバルブと前記第3のバルブとによって特定される領域に対して消火剤を噴射させることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の水素製造・貯蔵装置の防災設備。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−61519(P2007−61519A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−254351(P2005−254351)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(000233826)能美防災株式会社 (918)
【Fターム(参考)】