説明

水素製造装置の起動方法及び水素製造装置

【課題】起動期間が短く、装置構成や制御システムが簡素な水素製造装置の起動方法及び水素製造装置を提供する。
【解決手段】改質反応器22とシフト反応器32と選択酸化反応器42とボイラー5とを備えた水素製造装置1の起動時に、これら各反応器22〜42、ボイラー5に設けられたバーナー21、31、41、51の燃料供給口に燃料を供給し、一のバーナー41の助燃性ガス供給口から直列に他のバーナー41、51、31の助燃性ガス供給口に順次助燃性ガスを供給し、前段のバーナー41、21、51が設けられた反応器42、22またはボイラー5を加熱した後の排ガスを後段のバーナー21、51、31の助燃性ガスとして用い、各反応器22〜42内及びボイラー5内の温度が、予め定められた温度に達するまでの起動期間中、前記各バーナー21、31、41、51にて燃料を燃焼させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素を含む水素原料流体より水素を製造する技術に関し、特に水素の製造を開始するまでの起動期間を短縮する技術に係る。
【背景技術】
【0002】
図9は、例えば自動車に搭載されたり、水素ステーション等に設置されたりする等により、燃料電池等に水素を供給するための水素製造装置100の構成例を示している。当該水素製造装置100は、水蒸気を用いてジメチルエーテル(以下、DMEという)を改質し、水素を主成分とする改質ガスを生成するための改質反応器22と、この改質ガスから燃料電池の触媒毒となる一酸化炭素を除去するためのシフト反応器32、選択酸化反応器42とから構成されており、更に改質反応器22に水蒸気を供給するためのボイラー5を備えている。
【0003】
図9に示した水素製造装置100においては、原料供給部6にて気化したDMEをボイラー5からの水蒸気と混合した状態で改質反応器22に供給し、触媒の存在下で例えば約300℃〜450℃程度に加熱して、以下の(1)式に示す水蒸気改質反応を進行させ水素や二酸化炭素を含む改質ガスを得る。また、改質反応器22では、(2)式に示す逆シフト反応も進行し一酸化炭素も生成する。
【化1】

【0004】
既述のように、この改質ガスには燃料電池の触媒毒となる一酸化炭素が例えば約2体積%〜5体積%程度含まれているため、触媒の充填されたシフト反応器32にこの改質ガスを供給し、既述の(2)式に示した反応を右辺側から左辺側へと進行させることにより、改質ガス中の一酸化炭素濃度を例えば1体積%程度にまで低減している。このようにして一酸化炭素を低減した改質ガスを触媒の充填された選択酸化反応器42内に供給し、以下の(3)、(4)式に示す選択酸化反応を進行させて、一酸化炭素濃度が例えば10体積ppm以下にまで低減された改質ガス(水素)を得ている。
【化2】

【0005】
既述のように改質反応器22内の反応は例えば約300℃〜450℃程度の高温雰囲気で進行し、また改質反応器22内で進む反応は総括的には吸熱反応であるため、改質反応器22には内部の反応雰囲気を加熱するためのバーナー21が設けられている。このバーナー21は、例えば空気を助燃性ガスとして、水素原料流体であるDMEの一部を燃焼させ、その排ガスを改質反応器22と接触させて当該改質反応器22を加熱する役割を果たしている。また当該バーナー21は、改質反応器22を加熱した後の排ガスをボイラー5に供給することにより、(1)式に示した反応を進行させるのに必要な水蒸気を発生させる役割も果たしている。これに対して図9に示した水素製造装置100において、シフト反応器32や選択酸化反応器は、夫々の反応器32、42の内部を加熱する独自の加熱機構を備えていない。
【0006】
以上のように構成された水素製造装置100を起動するにあたっては、改質反応器22やボイラー5だけでなく、冷機状態となっているシフト反応器32や選択酸化反応器42の容器本体や触媒の温度を、各反応が進行する温度、シフト反応器32の温度で例えば約200℃〜300℃程度、選択酸化反応器42の出口温度で例えば約100℃〜160℃程度まで昇温する操作が必要となる。そこで図9に示した水素製造装置100においては、水蒸気発生に利用したバーナー21からの排ガスを、更にシフト反応器32、選択酸化反応器42と接触させることにより、これらの機器を昇温するように構成されている。
【0007】
しかしながら上述した従来タイプの水素製造装置100では、バーナー21の排ガスが持つ熱エネルギーを、改質反応器22→ボイラー5→シフト反応器32→選択酸化反応器42と順次利用して暖気操作を行っているため、シフト反応器32や選択酸化反応器42に供給される排ガスの温度が低く、昇温操作を終了するまでの時間が例えば30分以上と長くなってしまう。特に自動車等に搭載される水素製造装置においては、起動期間の短縮が大きな課題となっている。
【0008】
ここで特許文献1には、シフト反応器や選択酸化反応器に電気ヒーターを設け、停止期間中もこれらの反応器を加熱する技術が記載されているが、消費電力が大きくなってしまいエネルギー効率が悪い。また特許文献2には、改質反応器用バーナーにて燃焼させた燃料の未燃分を触媒燃焼させる触媒燃焼部を設け、この触媒燃焼部をシフト反応器や選択酸化反応器の近傍に配置することにより、触媒燃焼部をシフト反応器の昇温速度を早める技術が記載されているが、改質反応器用バーナー、触媒燃焼部夫々の熱量をコントロールするために、燃料の供給量制御や燃料に対する助燃性ガス(空気)の供給比制御を行う構成となっており、制御系が複雑となって装置コストが高騰する。
【0009】
この他、特許文献3にはバーナーからの排ガスを水素原料流体の供給ラインに導入して、水素原料流体の温度を上昇させる内部加熱方式の改質反応器用バーナーを備えた水素製造装置において、改質反応器にて発生した改質ガスの一部を燃焼させる、内部加熱方式のバーナーをシフト反応器の手前に設けて、改質ガスを昇温する技術が記載されている。しかしながらシフト反応器の手前に設けられたバーナーは、改質反応器より改質ガスが発生した後でなければシフト反応器の加熱を開始できないので、起動期間を根本的に短縮することはできない。
【0010】
【特許文献1】特開平9−245825号公報:第0010段落〜第0011段落、図1
【特許文献2】特開2004−168630号公報:第0032段落、第0044段落、第0047段落〜第0055段落、図1、図3
【特許文献3】特開2005−170742号公報:第0012段落、第0014段落、第0018段落〜第0022段落、図1、図2
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような事情の下になされたものであり、その目的は、起動期間が短く、装置構成や制御システムが簡素な水素製造装置の起動方法及び水素製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る水素製造装置の起動方法は、炭化水素を含む水素原料流体を、ボイラーより供給された水蒸気を用いた水蒸気改質反応により改質して水素を含む改質ガスを得るための改質反応器と、当該改質ガス中に含まれる一酸化炭素を、シフト反応により低減するためのシフト反応器と、このシフト反応器を通過した改質ガス中に残存している一酸化炭素を、選択酸化反応により更に低減するための選択酸化反応器と、を備えた水素製造装置の起動方法において、
前記各反応器及びボイラーを加熱するために、これらの各反応器及びボイラーに夫々設けられたバーナーの燃料供給口に燃料を供給する工程と、
前記各反応器及びボイラーに夫々設けられたバーナーのうち一のバーナーの助燃性ガス供給口から直列に他のバーナーの助燃性ガス供給口に順次助燃性ガスを供給し、前段のバーナーが設けられた反応器またはボイラーを加熱した後の排ガスを後段のバーナーの助燃性ガスとして用いる工程と、
前記各反応器内及びボイラー内の温度が、予め定められた温度に達するまでの起動期間中は、前記各バーナーにて燃料を燃焼させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
当該起動方法においては、前記一のバーナーは、選択酸化反応器を加熱するためのバーナーであり、前記助燃性ガスは、選択酸化反応器、改質反応器、ボイラー、シフト反応器の順に、これらの助燃性ガス供給口に直列に供給されることが好適である。また、前段のバーナーが設けられた反応器またはボイラーを加熱した後の排ガスの温度上昇に伴って、当該排ガスが助燃性ガスとして供給される後段のバーナーへの燃料の供給量を低減することが好ましい。前記燃料には、例えばジメチルエーテルやメタノール等の水素原料流体を用いるとよく、前記助燃性ガスには空気が好適である。
【0014】
更に、前段のバーナーが設けられた反応器またはボイラーを加熱した後の排ガスが助燃性ガスとして供給される後段のバーナーは、当該排ガス中に含まれている酸素の濃度が10体積%以上、20体積%以下の範囲で燃料を燃焼可能であることが好ましい。
【0015】
また他の発明に係る水素製造装置は、炭化水素を含む水素原料流体を改質して、水素を含む改質ガスを得るための改質反応器と、当該改質ガス中に含まれる一酸化炭素を、シフト反応により低減するためのシフト反応器と、このシフト反応器を通過した改質ガス中に残存している一酸化炭素を、選択酸化反応により更に低減するための選択酸化反応器と、を備えた水素製造装置において、
前記各反応器及びボイラーを夫々加熱するために設けられ、燃料供給口及び助燃性ガス供給口を備えたバーナーと、
前記各バーナーの燃料供給口に燃料を供給するための燃料供給部と、
前記各バーナーのうち、一のバーナーの助燃性ガス供給口に助燃性ガスを供給するための助燃性ガス供給部と、
前記一のバーナーの助燃性ガス供給口から直列に他のバーナーの助燃性ガス供給口に順次助燃性ガスを供給し、前段のバーナーが設けられた反応器またはボイラーを加熱した後の排ガスを後段のバーナーの助燃性ガスとして用いるように、各反応器またはボイラーを加熱した後の排ガスの出口と、後段のバーナーの助燃性ガス供給口とを接続する排ガス流路と、
前記各反応器内の温度が予め定められた温度に達するまでの起動期間中は、前記各バーナーに設けられた燃料供給口に燃料を供給すると共に、前記一のバーナーに設けられた助燃性ガス供給口に助燃性ガスを供給することにより、前記各バーナーにて燃料を燃焼させるように、前記燃料供給部及び助燃性ガス供給部を制御する制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
当該水素製造装置においては、前記一のバーナーは、選択酸化反応器を加熱するためのバーナーであり、前記排ガス流路は、選択酸化反応器、改質反応器、ボイラー、シフト反応器の順に、前記助燃性ガスが助燃性ガス供給口に直列に供給されるように、前段の各反応器またはボイラーからの排ガスの出口と、後段のバーナーの助燃性ガス供給口とを接続することが好ましい。また、前記制御部は、前段のバーナーが設けられた反応器またはボイラーを加熱した後の排ガスの温度上昇に伴って、当該排ガスが助燃性ガスとして供給される後段のバーナーへの燃料の供給量を低減するように前記燃料供給部を制御するとよい。更に、前段のバーナーが設けられた反応器またはボイラーを加熱した後の排ガスが助燃性ガスとして供給される後段のバーナーは、当該排ガス中に含まれている酸素の濃度が10体積%以上、18体積%以下の範囲で燃料を燃焼可能であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る水素製造装置の起動方法においては、通常運転時に利用するバーナーを備えている改質反応器に加えて、シフト反応器、選択酸化反応器やボイラーにも起動用のバーナーを備えているので、当該装置の起動時には、これらのバーナーを利用して各反応器を短時間で昇温し、水素の製造を開始するまでの起動期間を短縮できる。また当該起動方法においては、前段のバーナーで燃焼した後の排ガスを後段のバーナーの助燃性ガスとして再度利用するように、各バーナーの助燃性ガス供給口に助燃性ガスを順次、直列に供給している。このため、夫々のバーナーにて燃料供給量、助燃性ガス供給量を制御する場合に比べて制御対象が少なく、装置構成及び制御内容を簡素にすることが可能となり、装置コストの低減及び装置の小型化に貢献できる。
【0018】
更には、各起動用バーナー夫々に助燃性ガスを独立に供給する場合と比較して助燃性ガス中の酸素をより有効に利用しているので、例えば空気を供給するコンプレッサー等の助燃性ガスを供給する機器を小型化することが可能となり、装置コストの低減につながる。また、高温の排ガスを助燃性ガスとして利用することにより、温度の低い助燃性ガスを利用する場合に比べて燃料ガスの消費量が少なくてすむ。このため、例えば改質反応器のみに備わっているバーナーを利用する従来型の水素製造装置の起動方法と比較しても、バーナー数が増えることによる燃料消費量の増加が抑えられ、従来の起動方法とほとんど変わらない燃料消費量で短時間に装置を起動することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本実施の形態に係る水素製造装置の起動方法が適用される水素製造装置1の構成について図1〜図6を参照しながら説明する。図1に示した本実施の形態に係る水素製造装置1は、改質反応部2、シフト反応部3、選択酸化反応部4及びボイラー5を備えており、水素原料流体であるガス状のDMEから水素を主成分とする改質ガスを生成し、更に当該改質ガスに含まれる一酸化炭素の除去を行うことができる。
【0020】
改質反応部2は、改質反応器22を加熱するためのバーナー21と、排熱回収用の熱交換器20とを夫々改質反応器22の前後に接続した構成となっている。バーナー21は、水素の原料であるDMEを一部転用した燃料ガスと助燃性ガスとを混合して燃料ガスを燃焼させ、水素製造装置1の起動時には、冷機状態となっている改質反応器22を所定の温度まで昇温し、運転中にはDMEの改質反応を進行させるのに必要な反応熱を供給する役割を果たす。ここで、後述するように本実施の形態に係るバーナー21は、水素製造装置1の起動時においては、選択酸化反応部4に設けられたバーナー41の排ガスを助燃性ガスとして利用することができるように、酸素濃度の低い助燃性ガスによっても燃料ガスを燃焼することができる特別な構成を備えているが、その詳細な構成については後述する。
【0021】
改質反応器22の内部は、図2に概略構造を示すように例えばステンレススチールからなる扁平な直方形の筐体221内を、板材にて高さ方向に仕切ることにより、例えば2層の反応空間23と、3層の排ガス通流空間24とからなる合計5層のプレート状の空間23、24を備え、これらの空間23、24が排ガス通流空間24を最上段として交互に積層された構造となっている。なお、改質反応器22内に積層される反応空間23や排ガス通流空間24の数は、上述の5層構造に限定されるものではなく、ガスの通流量等に応じて増減してもよいことは勿論である。以下、図3を参照しながら改質反応器22の詳細な構造について説明する。
【0022】
反応空間23は、排ガス通流空間24と比較して高さ寸法が大きく構成され、各反応空間23は上下方向から排ガス通流空間24によって挟まれた状態で改質反応器22内に配置されている。図3において、手前及び奥側を夫々前方側及び後方側とすると、改質反応器22の側壁部の前方側には、上下の反応空間23毎にDME及び水蒸気(以下、これらをまとめて反応ガスという)を導入するための矩形状の開口部からなる反応ガス供給口230aが設けられ、また改質反応器22の側壁部の後方側には反応空間23から改質ガスを抜き出すための改質ガス抜出口230bが夫々の反応空間23に設けられている。これら反応ガス供給口230a及び改質ガス抜出口230bから見た改質反応器22の内部には、筐体221内に供給された反応ガスや、筐体221から抜き出される改質ガスを通流させるためのガス通流空間233が形成されている。一方、各反応空間23の先端面及び後端面は塞がれており、排ガス通流空間24に供給される後述のバーナー21からの排ガスが反応空間23内に流れ込まないようになっている。
【0023】
各反応空間23を形成する天井面と床面との間には、例えばステンレススチールにより構成された波板状のコルゲートフィン232が設置されている。コルゲートフィン232は、天井面と床面との間に、手前側から奥側へ向かって、細長いほぼ三角柱状(厳密にはコルゲートフィン232の曲折部分は曲面になっている)の流路を多数形成し、この流路内には、例えばアルミナ、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、ゼオライト、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム等から選択された担体上に、銅、亜鉛、ニッケル、クロム、モリブデン等から選択された卑金属系の化合物、または白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム等から選択された貴金属系の化合物を担持した粒状の触媒が充填されている。なお、上述のコルゲートフィン232によって形成される流路の形状は、既述の三角柱状に限定されるものではなく、反応空間23内の流路を複雑にして熱伝達性能を向上させるものであれば例えばコの字型等、どのような流路形状であってもよい。
【0024】
一方、上述の各反応空間23を上下から挟む排ガス通流空間24は、反応空間23と比較して厚みが小さく形成された薄いプレート状の空間となっており、各排ガス通流空間24の先端面及び後端面が開口している。この先端側の当該開口部はバーナー21からの排ガスが流入する排ガス流入部240を構成し、図示しない後端側の開口部は、排ガス通流空間24内を通過した排ガスが流出する排ガス流出部(排ガス出口)を構成している。各排ガス通流空間24を構成する天井面と床面との間には、既述の各反応空間23と同様に、波板状のコルゲートフィン241が設置されており、各排ガス通流空間24の先端部から後端部へ向かって、例えば細長い三角柱状の流路が多数形成されている。なお、上述のコルゲートフィン241によって形成される流路の形状が既述の三角柱状に限定されるものでないことは、反応空間232の場合と同様である。
【0025】
以上に説明した構成を備えていることにより、反応ガス供給口230aから供給された反応ガスは、各反応空間23内にて触媒231と接触する一方で、バーナー21から供給された高温の排ガスが排ガス通流空間24内を通流することにより反応空間23へ反応熱を供給し、これらの作用によりDMEを改質して水素を主成分とする改質ガスが生成されるようになっている。
【0026】
このように反応空間23を上下から挟むように設けられた排ガス通流空間24は、改質反応器22内を加熱する役割を果たしている。そして、反応空間23、排ガス通流空間24の夫々にコルゲートフィン232、241を設置して伝熱面積を大きくすることにより、排ガス通流空間24内を流れる排ガスから反応空間23内を流れるガスへの熱伝達効率を向上させている。
【0027】
またこの改質反応器22の後段に接続された熱交換器20は、例えば周知のシェルアンドチューブ式の熱交換器として構成されており、シェル側に排ガス通流空間24を通過した排ガスを流し、チューブ側にバーナー21へと供給される前の空気を流して空気を予熱することにより、バーナー21での燃料ガスの消費量を低減する役割を果たしている。なお、熱交換器21の形状はシェルアンドチューブ式に限定されるものではなく、例えば改質反応器22の様なプレート式であってもよい。
【0028】
シフト反応部3、選択酸化反応部4は、改質反応部2にて生成した改質ガスに含まれる一酸化炭素を低減する反応を進行させる反応器32、42を備えているが、これら反応器32、42の構造は、図3に示した改質反応部2の反応器22の構造とほぼ同様に、反応空間とこの反応空間を加熱する排ガス通流空間とを一体化した構造であるので、改めての図示は省略する。シフト反応部3の反応器32内に形成された反応空間には、例えばアルミナ、珪酸アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム等から選択された担体上に銅、亜鉛、ニッケル、コバルト、鉄、鉛、スズ、マンガン、クロム等から選択された卑金属系の化合物、または白金、銀、レニウム等から選択された貴金属系の化合物を担持した粒状の触媒が充填されており、また選択酸化反応器42の反応空間内には、例えばアルミナ、シリカ、ゼオライト、炭素等から選択される担体上に、白金、ルテニウム、ロジウム等から選択される貴金属系化合物を担持した粒状の触媒が充填されている。
【0029】
ボイラー5は、ボイラー給水部50から給水されたボイラー給水(以下、BFW;Boiler Feed Waterという)を例えば約100℃〜300℃程度の温度条件下で蒸発させて水蒸気を生成し、改質反応部2へ供給するための例えばシェルアンドチューブ式の熱交換型ボイラーとして構成されている。
【0030】
また水素製造装置1は、原料供給部6からのDMEの供給量やボイラー給水部50からのBFWの供給量等を制御する制御部9を備えている。制御部9は例えば図示しないCPUとプログラムとを備えたコンピュータからなり、このプログラムには当該水素製造装置1によって水素を製造するのに必要な動作の制御についてのステップ(命令)群が組まれている。このプログラムは、例えばハードディスク、コンパクトディスク、マグネットオプティカルディスク、メモリカード等の記憶媒体に格納され、そこからコンピュータにインストールされる。ここで当該制御部9は、更にバーナー21等の各種バーナーや後述するエアコンプレッサー8、制御部9と接続されており、これらのバーナーの起動や停止、燃料ガスの供給量等の制御等を行う機能を備えているが、これらの機能の詳細な作用については後述する。
【0031】
このように本実施の形態に係る水素製造装置1が改質反応部2、シフト反応部3、選択酸化反応部4を備えていることにより、通常運転時、原料供給部6にて気化されたDMEは、ボイラー5からの水蒸気と混合されて図3に示した改質反応器22の反応ガス供給口230aに供給され、改質反応器22内で例えば約300℃〜450℃程度の温度で反応ガスが触媒と接触することにより、既述の(1)式、(2)式に示した各反応によって改質ガスとなってシフト反応部3のシフト反応器32へと送られる。シフト反応器32では、例えば約200℃〜300℃程度の温度で改質ガスが触媒と接触することにより、既述の(2)式の右辺から左辺へと反応が進行して、改質反応部2の出口で約2体積%〜5体積%程度含まれている改質ガス中の一酸化炭素濃度が例えば1体積%程度となった状態で選択酸化反応部4の反応器42に送られる。
【0032】
そして選択酸化反応器42では、例えば約100℃〜160℃程度の温度で改質ガスが触媒と接触することにより、既述の(3)式、(4)式に示した選択酸化反応によって改質ガス中の一酸化炭素濃度が例えば10体積ppm以下にまで低減され、製品の水素ガスとして燃料電池等へ送られる。なお図1に示した熱交換器12は、選択酸化反応部4を出た製品の水素ガスより、ボイラー5へ給水されるBFWへの熱回収を行う役割を果たしている。
【0033】
通常運転において上述のように動作する水素製造装置1は、背景技術にて説明した従来型の水素製造装置100と比較して、運転開始直後の冷機状態から通常運転に至るまでに必要な起動期間を短縮するための構成を備えている。以下、その内容について詳細に説明する。
【0034】
水素製造装置1の起動期間を短縮することを目的として、本実施の形態に係るシフト反応部3、選択酸化反応部4及びボイラー5は、冷機状態となっている反応器32、42やこの内部に充填されている触媒、またボイラー5内のBFWを加熱するための起動用のバーナー31、41、51を夫々備えている。シフト反応部3及び選択酸化反応部4に設けられたバーナー31、41は、燃焼後の排ガスが、各反応部3、4の反応器32、42内に形成された排ガス通流空間を通流するように、これら反応器32、42と接続されている。一方、ボイラー5に設けられたバーナー51は、例えば通常運転時において改質反応部2の排ガス通流空間24からの排ガスが流れる流路の途中に設置されており、シェル側に当該バーナー51の排ガスを流すことにより、チューブ側のBFWを昇温できるようになっている。
【0035】
また本実施の形態に係る水素製造装置1は、起動時の空気消費量の低減や制御機構を簡素化することを目的として、選択酸化反応部4に設けられたバーナー41にのみ空気を助燃性ガスとして供給し、残る改質反応部2、シフト反応部3、ボイラー5のバーナー21、31、51には、選択酸化反応部4のバーナー41を通過した排ガスを助燃性ガスとして供給するように構成されている。更に当該助燃性ガス供給システムは、4つのバーナー21、31、41、51を使用する起動時と、改質反応部2のバーナー21のみを使用する通常運転時とでは、助燃性ガスの供給経路を切り替えることができるようになっている。以下、図1、図4〜図6を参照しながら各バーナー21、31、41、51に助燃性ガスを供給するシステムや燃料ガスの供給システムの詳細について説明する。
【0036】
先ず、通常運転時における助燃性ガスの供給システムについて説明すると、図1に示すように水素製造装置1には、助燃性ガス供給部をなす例えば小型のエアコンプレッサー8が設けられており、このエアコンプレッサー8はガス流路801、804を介して改質反応部2のバーナー21に空気を助燃性ガスとして供給するようになっている。改質反応部2出口部の熱交換器20(排気口)は、ガス流路805を介してボイラー5と接続されており、既述のように、改質反応部2のバーナー21にて燃料ガスを燃焼させて得られた排ガスを水蒸気発生用の熱源として利用している。ボイラー5の排気口はガス流路806、809に接続されていて、前記排気口からの排ガスは熱交換器11にて、改質反応部2に送られる空気熱交換して排熱が回収された後、外部へと排出されるようになっている。
【0037】
このような通常運転時の助燃性ガス供給システムに対し、水素製造装置1の起動時においては、既述のようにシフト反応部3、選択酸化反応部4、ボイラー5が夫々起動用に備えているバーナー31、41、51にも助燃性ガスを供給する必要がある。そこで、本実施の形態に係る水素製造装置1は、既述の通常運転時における改質反応部2のバーナー21への助燃性ガス供給システムを切り替えて、起動時用の助燃性ガス供給システムを構成できるようになっている。
【0038】
起動時用の助燃性ガス供給システムとして、エアコンプレッサー8と改質反応部2のバーナー21とを接続するガス流路801、804の間には、切替弁800aが介設されており、エアコンプレッサー8からの空気をガス流路801、802を介して選択酸化反応部4のバーナー41(実施の形態に係る水素製造装置1の起動方法の「一のバーナー」に相当する)へと供給できる。このバーナー41は反応器42と接続されていて、燃焼ガスを反応器42の昇温に利用した後、この燃焼ガスを反応器42の排気口に接続されたガス流路803より、ガス流路804へと送り出すようになっている。
【0039】
この結果、起動時において改質反応部2のバーナー21及び、当該改質反応部2からの排ガス流路の途中に設置されたボイラー5のバーナー51は、選択酸化反応部4の反応器42の加熱に利用した後の排ガスを助燃性ガスとして順次、直列に供給されることになる。更にボイラー5出口のガス流路806、809の間には、切替弁800bが介設されていて、ボイラー5からの排ガスをシフト反応部3のバーナー31へと直列に供給し、助燃性ガスとして更に利用した後、外部へと排気する構成となっている。これら改質反応部2のバーナー21、ボイラー5のバーナー51、シフト反応部3のバーナー31は、実施の形態に係る水素製造装置1の起動方法の「他のバーナー」に相当する。
【0040】
図4(a)に起動時における助燃性ガスの供給システムの構成をまとめると、選択酸化反応部4のバーナー41にはエアコンプレッサー8からの空気が供給される一方で、改質反応部2、ボイラー5、シフト反応部3の各バーナー21、51、31では、前段のバーナー41、21、51にて燃料ガスを燃焼した後の排ガスを後段の各バーナー21、51、31の助燃性ガスとして順次利用するように、各反応部4、2及びボイラー5の排気口と各バーナー21、51、31とがガス流路803〜807(排ガス流路)によって直列に接続されている。
【0041】
エアコンプレッサー8の出口には流量調節バルブ等により構成される流量制御部81が設けられ、既述の制御部9からの制御により、選択酸化反応部4のバーナー41への空気の供給量を調節することによって、残るバーナー21、51、31への排ガスの供給量も調節することができる。また、燃料ガスの供給システムとして、水素の原料を一部転用し、各バーナー41、21、51、31へ燃料ガスを供給するための燃料供給部7が設けられており、各バーナー41、21、51、31に独立して燃料ガスを供給することができる。更にまた、この燃料供給部7から各バーナー41、21、51、31へ燃料ガスを供給する燃料ガス供給路701にも、流量調節バルブ等により構成される流量制御部71が設けられており、制御部9からの制御によって、各バーナー41、21、51、31への燃料ガス供給量を調節できる。
【0042】
このように当該助燃性ガス供給システムは、選択酸化反応部4のバーナー41を最上流に位置させ、このバーナー41にのみ空気を供給する構成となっている。選択酸化反応部4を最上流に位置させている理由として、起動時に選択酸化反応器を昇温させる温度が、例えば約100℃〜160℃程度であり、他の反応器22、32やボイラー5(改質反応器22は例えば約300℃〜450℃程度、シフト反応器32は例えば約200〜300℃程度、ボイラー5は例えば約100〜300℃程度)の温度と比較して選択酸化反応器42を昇温させる温度が低く、バーナー41での酸素消費量が少ない。そこで、酸素消費量の少ない選択酸化反応部4のバーナー41を先頭にすることにより、比較的多くの酸素が残存する排ガスを後段の改質反応部2へ供給することが可能となる。このように助燃性ガスの供給順序は、助燃性ガス中の酸素消費バランスや、バーナー21、31、41、51による反応器2、3、4、ボイラー5の熱バランス等を考慮して決定されている。
【0043】
改質反応部2、ボイラー5、シフト反応部3の各バーナー21、51、31は、上流側のバーナー41、21、51からの排ガスを助燃性ガスとして利用しているので、助燃性ガス中の酸素濃度は、改質反応部2のバーナー21では例えば19〜20体積%程度、ボイラー5のバーナー51では例えば15〜16体積%程度、またシフト反応部3のバーナー31では例えば12〜13体積%程度の低酸素状態となっている。そこでこれらのバーナー21、51、31には、助燃性ガスが低酸素状態であっても安定して燃料を燃焼できる低酸素バーナーを採用している。以下、当該バーナー21、51、31の構成について説明する。
【0044】
ここで改質反応部2、ボイラー5、シフト反応部3に設置されているバーナー21、51、31はほぼ同様の構成を備えているので、以下、改質反応部2のバーナー21を例に挙げて説明を行う。図5はバーナー21を側面から見た縦断面図であり、図6は、図5に一点鎖線で示した(a)の位置においてバーナー21をカットした状態を排ガスの出口側(図5に向かって左手側)から見たバーナー21の縦断面図である。また、図5においては向かって左側を手前側として説明を行う。
【0045】
バーナー21は、図5に向かって右側の基端部が縮管された内部円筒202と、この内部円筒202を同心円状に覆う外部円筒201とから構成されており、外部円筒201、内部円筒202の基端面は壁部201aによって塞がれている。一方、バーナー21の先端面においては、外部円筒201と外部円筒201との間の環状の領域のみが壁部201bによって塞がれていて、内部円筒202の先端面は開放されている。そして、この開放された先端面は、図3に示した改質反応器22の排ガス流入部240が設けられた側面へと、接続部208によって接続されている。
【0046】
バーナー21の基端面をなす壁部201aには、燃料ガスであるDMEを内部円筒202内に供給するための燃料ガス供給ノズル204が挿入されている。燃料ガス供給ノズル204は、円管状のノズルの先端に円錐状の突起を取り付けた構造となっていて、これら円管と円錐状突起との接合部には、多数の燃料ガス供給孔205(燃料供給口)が設けられている。これらの燃料ガス供給孔205は、例えば燃料ガス供給ノズル204の先端側から見て、燃料ガスが反時計回りに旋回しながら内部円筒202内に供給されるように、燃料ガス供給孔205の形成されている方向が調節されている。例えば図5の燃料ガス供給ノズル204の先端部に示した破線の矢印は、図面に向かって奥の方向に燃料ガスが噴射されていることを示し、実線の矢印は燃料ガスの噴射方向が図面に向かって手前の方向であることを示している。なお、既述の円錐状突起の先端には、失火を防止するための円板状の保炎板206が固定されており、また例えば放電によりバーナー21の点火をするための図示しない点火機が設けられている。
【0047】
一方、外部円筒201の基端側の側壁面には助燃性ガス供給管203が接続されていて、この助燃性ガス供給管203は外部円筒201と内部円筒202との間の環状空間209内に、選択酸化反応部4からの排ガス(助燃性ガス)を導入する助燃性ガス供給口としての役割を果たす。また内部円筒202には、基端側の縮管部202aに上述の環状空間209から内部円筒202内に助燃性ガスを供給するためのガス孔207が設けられている。
【0048】
このガス孔207は、燃料ガス供給孔205からの燃料ガスに助燃性ガスを供給して、これを燃焼させる役割を果たす。ここで図6に示したようにガス孔207は、反時計回りの旋回流を形成させながら助燃性ガスを内部円筒202内へと供給できるように、向きを調節された状態で穿設されている。そして縮管部202aの側壁面には、このような状態で穿設された多数のガス孔207が円環状に並べられている。各ガス供給孔207、環状空間209内と、内部円筒202内との圧力差等によって適切な流量の助燃性ガスを内部円筒202へと供給できるように、孔径や孔の数が調整されている。このように環状空間209を利用し、各ガス供給孔207の大きさや数を変えて内部円筒202内に供給する助燃性ガスの量を調節することにより、各ガス供給孔207に個別の助燃性ガス供給ラインや供給量の制御機構を設ける場合に比べて、装置構成を簡素化することができる。
【0049】
また、このバーナー21は燃料ガス供給ノズル204から供給される燃料ガス及び、各ガス供給孔207〜210から供給される助燃性ガスを旋回させながら供給して内部円筒202内にて混合しているので、これらのガスを乱流混合によって強制的に混合させることができる。このような強制的な混合の結果、燃料ガス中のDME分子と酸素との接触効率が向上し、助燃性ガス中の酸素が低濃度であっても燃料ガスを燃焼させることが可能となる。
また、ボイラー5やシフト反応部3についても、図5、図6に示したものとほぼ同様の構成のバーナー51、31を備えており、酸素濃度の低い助燃性ガスを利用して燃料ガスを燃焼させることができる。
【0050】
このように改質反応部2、ボイラー5、シフト反応部3が低酸素バーナー21、51、31を備えていることにより、水素製造装置1は起動時における各バーナー21、51、31への助燃性ガスの供給経路を直列に接続することが可能となる。なお、エアコンプレッサー8からの空気を助燃性ガスとして供給される選択酸化反応部4のバーナー41については、通常のバーナーを採用すればよい。
【0051】
以上に説明した起動時における燃料ガス、助燃性ガスの供給システムに対し、通常運転時には燃料ガス、助燃性ガスの供給経路が図4(b)に示した経路となるように切替弁800a、800bを切り替えることによって、燃料ガスやエアコンプレッサー8からの空気は改質反応部2のバーナー21にのみ供給され、他のバーナー41、51、31は使用せずに水素製造装置1を稼動させるシステムとなる。
【0052】
図1に示した水素製造装置1の全体システムに戻って、燃料ガス供給システム、助燃性ガス供給システム及び各バーナー21、31、41、51の起動時における作用について説明する。今、例えば水素製造装置1が停止して冷機状態となっているとき、水素製造装置1燃料ガス供給路701や助燃性ガスのガス流路801〜809は、切替弁800a、800bによって図4(a)に示す状態となっている。
【0053】
そして水素製造装置1の起動を開始すると、燃料供給部7から各バーナー21、31、41、51への燃料ガスの供給を開始すると共に、エアコンプレッサー8より選択酸化反応部4のバーナー41に対して空気の供給を開始し、その後各バーナー21、31、41、51を点火する。このとき、例えば図7(a)に示すように選択酸化反応部4のバーナー41には、エアコンプレッサー8からほとんど温度変化のない助燃性ガス(空気)が供給されると共に、燃料の供給量もほぼ一定の条件下で燃焼が行われる。そして当該バーナー41からの排ガス温度は単調に上昇し、やがて一定温度となる。
【0054】
一方、後段の改質反応部2のバーナー21には、上記選択酸化反応部4の選択酸化反応器42の昇温に利用した後の排ガスを当該バーナー21の助燃性ガスとして供給しているので、図7(b)に示すように当該助燃性ガス(排ガス)の温度も時間の経過と共に上昇していく。このような助燃性ガスの温度上昇に伴って、当該排ガス自体を所定温度まで昇温するエネルギーが小さくなるので、バーナー21の燃焼排ガス温度を一定温度に維持するのに必要な燃料ガスの量は少なくなる。そこで本実施の形態に係る水素製造装置1においては、バーナー21における燃焼排ガス温度を一定とするため、助燃性ガス(選択酸化反応部4からの排ガス)の温度が上昇するに従って、改質反応部2のバーナー21への燃料ガスの供給量を少なくする制御を行っている。
【0055】
このような燃料ガスの供給量の制御は、例えば水素製造装置1の設計段階における実験やシミュレーションなどによって選択酸化反応部4からの排ガスの温度上昇プロファイルを予め把握しておくことにより、改質反応部2のバーナー21の燃焼排ガス温度を一定にすることができる燃料ガスの供給量プロファイルを把握し、この燃料ガス供給プロファイルが再現されるように、起動時における燃料ガスの供給量を設定する場合等が考えられる。このような制御法によれば、例えばバーナー21の燃焼排ガスの温度をフィードバックして燃料ガスの供給量を減少させる手法と比較して、排ガス温度を制御する温度調節器等が不要となり、制御系の構成を簡素にすることができる。なお、バーナー21からの排ガスの温度を計測して燃料ガスの供給量にフィードバックさせる制御を行ってもよいことは勿論である。
【0056】
以上の動作と並行して、ボイラー5のバーナー51には、上記改質反応部2からの排ガスが助燃性ガスとして供給され、更にシフト反応部3のバーナー31にはこのボイラー5からの排ガスが助燃性ガスとして供給される。このため、図7(c)及び図7(d)に夫々示すように、これらのバーナー51、31に供給される助燃性ガスの温度も上昇することになるため、既述の選択酸化反応部4のバーナー41と同様に、助燃性ガスの温度上昇に合わせて、バーナー51、31に供給する燃料ガスの供給量を減少させ、燃焼排ガス温度を一定に保つ制御が行われる。
【0057】
以上に説明したように、起動期間中、4つのバーナー21、31、41、51を燃焼させ、その排ガスによって各反応器22、32、42及びボイラー5の温度を予め定めた温度まで上昇させたら、切替弁800a、800bを切り替える。これにより改質反応部2のバーナー21においては空気を助燃性ガスとする燃焼を継続する一方、起動時用の3つのバーナー31、41、51については燃焼を停止する。そして改質反応器22へのDME等の反応ガスの供給を開始し、製造した水素を燃料電池へと供給する通常運転に移行する。
【0058】
以上に説明した本実施の形態に係る水素製造装置1によれば、以下の効果がある。通常運転時に利用するバーナー21を備えている改質反応部2に加えて、シフト反応部3、選択酸化反応部4やボイラー5にも起動用のバーナーを備えているので、当該装置の起動時には、これらのバーナー31、41、51を利用して改質反応器22以外の各反応器32、42およびボイラー5も短時間で昇温することができ、水素の製造を開始するまでの時間を短縮できる。
【0059】
また当該起動方法においては、前段のバーナー41、21、51で燃焼した後の排ガスを後段のバーナー21、51、31の助燃性ガスとして再利用するように、各バーナーの助燃性ガス供給口(例えば図5に示した助燃性ガス供給管203)に助燃性ガスを順次、直列に供給している。このため、夫々のバーナー21、31、41、51にて燃料供給量、助燃性ガス供給量を制御する場合に比べて制御対象が少なく、装置構成及び制御内容を簡素にすることが可能となり、装置コストの低減及び装置の小型化に貢献できる。更には、各バーナー21、31、41、51に助燃性ガスを独立に供給する場合と比較して助燃性ガス中の酸素をより有効に利用しているので、例えば空気を供給するコンプレッサー8等の機器を小型化することが可能となり、装置コストの低減につながる。
【0060】
なお、各反応器に起動用のバーナー21、31、41、51を設ける本発明を適用可能な水素製造装置は、上述の実施の形態に示したタイプの水素製造装置1に限定されるものではない。例えば改質反応部2に通常運転時用のバーナーを備えていないタイプの水素製造装置、具体例としては改質反応器22内における反応に、部分酸化反応を併用して、改質反応に必要な熱を反応熱によって供給する内部加熱型の水素製造装置についても、起動用のバーナーを備えている場合が多い。このような水素製造装置にも本発明は適用することができる。
【0061】
また、空気を助燃性ガスとして供給するバーナーや、その下流のバーナーの配列も実施の形態中に示したものには限定されず、例えば改質反応部2のバーナー21をエアコンプレッサー8に接続し、ボイラー5→シフト反応部3→選択酸化反応部4の順にこれらのバーナー51、31、41に順次上流側のバーナー21、51、31の排ガスを助燃性ガスとして供給するように構成してもよい。また、上流側のバーナー41に供給される助燃性ガスは空気に限られず、例えば液体酸素等を気化して用いてもよい。更には水素原料流体についても実施の形態中に示したDMEに限られるものではなく、例えばメタノール、液化石油ガス、天然ガス、灯油、軽油等を水素原料流体として水素を製造してもよい。例えばメタノールを用いる場合には、改質反応器22の温度は例えば約200℃程度となる等、改質反応器22、シフト反応器32、選択酸化反応器42等の温度には、各水素原料流体に適した温度が適用される。
【0062】
また、ボイラー5に備えているバーナー51は起動用に限定されず、通常運転時の蒸気発生用の熱源としてもよい。更には、反応器4、2、ボイラー5からの排ガスを助燃性ガスとして利用する各バーナー21、51、31における燃料ガスの供給量制御は、図7(b)〜図7(d)に示したように連続的に調整する場合に限定されず、例えば所定時間の経過毎に燃料ガスの供給量をステップ的に変化させるようにしてもよい。
【0063】
更にまた本実施の形態に係る水素製造装置1は、図4(a)、図4(b)に例示したように、起動時と通常運転時とで助燃性ガスの供給経路を切り替えるように構成されているが、このような切り替えを行わなくてもよい。例えば助燃性ガスの供給経路については、通常運転時においても図4(a)に示した状態のままとし、選択酸化反応部4、ボイラー5、シフト反応部3の各バーナー41、51、31の燃焼を停止してから改質反応部2のバーナー21には選択酸化反応部4を介して助燃性ガスを供給し、また、改質反応部2からの排ガスはボイラー5、シフト反応部3を通流させた後に排気するようにしてもよい。
【実施例】
【0064】
(実験1)
図1及び図9にて説明した構成を備える水素製造装置1、100を製作し、各反応器22、32、42、ボイラー5が通常運転を開始可能になるまでに要する時間を計測した。
【0065】
A.実験条件
冷機状態(約20℃)から、改質反応器22の温度がT1=350℃、ボイラー5温度がT2=300℃、シフト反応器32の温度がT3=200℃、選択酸化反応器42の温度がT4=120℃に到達し、通常運転が可能となるまでの時間を計測した。
(実施例)
図1等を用いて説明した、各反応器22、32、42、ボイラー5に起動用のバーナー21、31、41、51を備え、これらのバーナー21、31、41、51の助燃性ガス供給経路を直列に接続した水素製造装置1を製作し、各機器2〜5が上記所定の温度に到達するまでの時間を計測した。
(比較例)
図9を用いて説明した改質反応器22のみに通常運転用のバーナー21を備えた水素製造装置100を製作し、各機器2〜5が上記所定の温度に到達するまでの時間を計測した。
【0066】
B.実験結果
実施例、比較例の実験結果を図8(a)、図8(b)に示す。これらのグラフは、横軸がバーナー21、31、41、51の燃焼を開始してからの経過時間、縦軸が各反応器22、32、42及びボイラー5の温度を示している。実施例の結果によれば、各反応器22、32、42及びボイラー5がT1〜T4の温度に到達するまでの時間t1、およそ5分であったのに対し、比較例においては同様の時間t2が約30分であった。
【0067】
また、図8(b)に示すように改質反応部2のバーナー21排ガスのみを各反応器等32、42、5の熱源とする比較例の水素製造装置100においては、シフト反応器32、選択酸化反応器42の温度を所定のT3、T4まで昇温するため、改質反応器22及びボイラー5の温度を、通常運転の開始に必要な温度T1、T2よりも高い温度にまで昇温しなければならず温度制御性が悪い。これに比べて各反応器2〜4、ボイラー5にバーナー21、31、41、51を備える実施の形態に係る水素製造装置1は、夫々の反応器2〜4、ボイラー5について設定どおりの温度に調節することができており、温度制御性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施の形態に係る水素製造装置の構成例を示す説明図である。
【図2】上記水素製造装置に搭載される改質反応器の概略構造を示す斜視断面図である。
【図3】上記改質反応器の詳細構造を示す斜視図である。
【図4】上記水素製造装置の燃料供給システム及び助燃性ガス供給システムの構成例を示す説明図である。
【図5】上記水素製造装置に搭載される低酸素バーナーの構造を示す第1の縦断面図である。
【図6】上記低酸素バーナーの構造を示す第2の縦断面図である。
【図7】上記水素製造装置の起動時における、各バーナーの燃焼排ガス温度、助燃性ガス温度及び燃料供給量の変化を示す説明図である。
【図8】実施例及び比較例に係る水素製造装置の起動時における各反応器、ボイラーの昇温特性等を示す特性図である。
【図9】従来の水素製造装置の構成例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0069】
1、100
水素製造装置
2 改質反応部
3 シフト反応部
4 選択酸化反応部
5 ボイラー
6 原料供給部
7 燃料供給部
8 エアコンプレッサー
9 制御部
21 バーナー
22 改質反応器
23 反応空間
24 排ガス通流空間
31 バーナー
32 シフト反応器
41 バーナー
42 選択酸化反応器
50 ボイラー給水部
51 バーナー
71 流量制御部
81 流量制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素を含む水素原料流体を、ボイラーより供給された水蒸気を用いた水蒸気改質反応により改質して水素を含む改質ガスを得るための改質反応器と、当該改質ガス中に含まれる一酸化炭素を、シフト反応により低減するためのシフト反応器と、このシフト反応器を通過した改質ガス中に残存している一酸化炭素を、選択酸化反応により更に低減するための選択酸化反応器と、を備えた水素製造装置の起動方法において、
前記各反応器及びボイラーを加熱するために、これらの各反応器及びボイラーに夫々設けられたバーナーの燃料供給口に燃料を供給する工程と、
前記各反応器及びボイラーに夫々設けられたバーナーのうち一のバーナーの助燃性ガス供給口から直列に他のバーナーの助燃性ガス供給口に順次助燃性ガスを供給し、前段のバーナーが設けられた反応器またはボイラーを加熱した後の排ガスを後段のバーナーの助燃性ガスとして用いる工程と、
前記各反応器内及びボイラー内の温度が、予め定められた温度に達するまでの起動期間中は、前記各バーナーにて燃料を燃焼させる工程と、を含むことを特徴とする水素製造装置の起動方法。
【請求項2】
前記一のバーナーは、選択酸化反応器を加熱するためのバーナーであり、前記助燃性ガスは、選択酸化反応器、改質反応器、ボイラー、シフト反応器の順に、これらの助燃性ガス供給口に直列に供給されることを特徴とする請求項1に記載の水素製造装置の起動方法。
【請求項3】
前段のバーナーが設けられた反応器またはボイラーを加熱した後の排ガスの温度上昇に伴って、当該排ガスが助燃性ガスとして供給される後段のバーナーへの燃料の供給量を低減することを特徴とする請求項1または2に記載の水素製造装置の起動方法。
【請求項4】
前記燃料は、水素原料流体であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の水素製造装置の起動方法。
【請求項5】
前記水素原料流体は、ジメチルエーテルまたはメタノールであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一つに記載の水素製造装置の起動方法。
【請求項6】
前記助燃性ガスは空気であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一つに記載の水素製造装置の起動方法。
【請求項7】
前段のバーナーが設けられた反応器またはボイラーを加熱した後の排ガスが助燃性ガスとして供給される後段のバーナーは、当該排ガス中に含まれている酸素の濃度が10体積%以上、20体積%以下の範囲で燃料を燃焼可能であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一つに記載の水素製造装置の起動方法。
【請求項8】
炭化水素を含む水素原料流体を改質して、水素を含む改質ガスを得るための改質反応器と、当該改質ガス中に含まれる一酸化炭素を、シフト反応により低減するためのシフト反応器と、このシフト反応器を通過した改質ガス中に残存している一酸化炭素を、選択酸化反応により更に低減するための選択酸化反応器と、を備えた水素製造装置において、
前記各反応器及びボイラーを夫々加熱するために設けられ、燃料供給口及び助燃性ガス供給口を備えたバーナーと、
前記各バーナーの燃料供給口に燃料を供給するための燃料供給部と、
前記各バーナーのうち、一のバーナーの助燃性ガス供給口に助燃性ガスを供給するための助燃性ガス供給部と、
前記一のバーナーの助燃性ガス供給口から直列に他のバーナーの助燃性ガス供給口に順次助燃性ガスを供給し、前段のバーナーが設けられた反応器またはボイラーを加熱した後の排ガスを後段のバーナーの助燃性ガスとして用いるように、各反応器またはボイラーからの排ガスの出口と、後段のバーナーの助燃性ガス供給口とを接続する排ガス流路と、
前記各反応器内の温度が予め定められた温度に達するまでの起動期間中は、前記各バーナーに設けられた燃料供給口に燃料を供給すると共に、前記一のバーナーに設けられた助燃性ガス供給口に助燃性ガスを供給することにより、前記各バーナーにて燃料を燃焼させるように、前記燃料供給部及び助燃性ガス供給部を制御する制御部と、を備えたことを特徴とする水素製造装置。
【請求項9】
前記一のバーナーは、選択酸化反応器を加熱するためのバーナーであり、前記排ガス流路は、選択酸化反応器、改質反応器、ボイラー、シフト反応器の順に、前記助燃性ガスが助燃性ガス供給口に直列に供給されるように、前段の各反応器またはボイラーからの排ガスの出口と、後段のバーナーの助燃性ガス供給口とを接続したことを特徴とする請求項8に記載の水素製造装置。
【請求項10】
前記制御部は、前段のバーナーが設けられた反応器またはボイラーを加熱した後の排ガスの温度上昇に伴って、当該排ガスが助燃性ガスとして供給される後段のバーナーへの燃料の供給量を低減するように前記燃料供給部を制御することを特徴とする請求項8または9に記載の水素製造装置。
【請求項11】
前段のバーナーが設けられた反応器またはボイラーを加熱した後の排ガスが助燃性ガスとして供給される後段のバーナーは、当該排ガス中に含まれている酸素の濃度が10体積%以上、20体積%以下の範囲で燃料を燃焼可能であることを特徴とする請求項8ないし10のいずれか一つに記載の水素製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−114042(P2009−114042A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−291370(P2007−291370)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(000004411)日揮株式会社 (94)
【Fターム(参考)】