説明

水路の保護構造

【課題】水路の表面を摩耗から低コストで保護できる保護構造を提案すること。
【解決手段】本発明にかかる水路の保護構造では、水路を構成するコンクリートの表面に、自動車のタイヤを裁断して得たゴム粒を混入した第1合成樹脂層を形成するとともに、前記第1合成樹脂層の表面に、ゴム粒を混入しない第2合成樹脂層を形成した。前記第1合成樹脂層と前記第2合成樹脂層との間に、補強材を配設するとよい。また、前記補強材は、亀甲金網とし、前記第1合成樹脂層と前記第2合成樹脂層の合計層厚は、10mmより大きくするとよい。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水路を構成するコンクリートの表面の磨耗を防止するための保護構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、ダム等の排砂路や導水路等のように砂礫や土石が流れる水路の場合は、水路を構成するコンクリートの表面が磨耗しやすいという問題があった。
そこで、かかる水路のインバート部の磨耗防止工として、高強度コンクリート工、石張り工、ゴム敷設、鉄板敷設などが施工されている。
【0003】
なお、水路の摩耗の種類には、掃流摩耗と衝撃摩耗がある。掃流摩耗は、流水や土砂流等によるすり減り摩耗であり、衝撃摩耗は、土砂および土石の落下による突き砕き摩耗である。
【0004】
また、掃流摩耗の試験方法としては、供試体をドラム内にセットして、ドラム内を水で満たし、摩耗材(砂)を投入して、羽根の回転で掃流摩耗作用を与えて、摩耗の進行を測定する方法である。
【0005】
また、衝撃摩耗の試験方法としては、供試体をドラム内にセットして、摩耗材(鉄片)を投入し、ドラムを回転させて衝撃摩耗作用を与えて、摩耗の進行を測定する方法であり、ロサンゼルス式衝撃摩耗試験機(JIS A 1121、ドラムの内径が710mm)を用いた試験法である。
なお、水路の保護方法としては、水路の表面に溝を設け、樹脂を前記溝の内部まで充填するとともに水路の表面を覆うようにする技術が提案されている。(特許文献1参照)
【0006】
【特許文献1】特開2001−214421号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上述したような従来の摩耗防止工には、以下のような、問題点がある。
(1)高強度コンクリート工、石張り工では、土石が流下することによる衝撃によって、摩耗が極端に進行するという問題点がある。
(2)石張り工、ゴム敷設、鉄板敷設では、イニシャルコストが非常に高価であるという問題点がある。
(3)ゴム敷設、鉄板敷設では、使用されている取り付け金具が摩耗して機能を失うと、敷設されたゴムや鉄板がめくれて流出してしまうという問題点がある。
(4)高強度コンクリート工、石張り工、ゴム敷設、鉄板敷設は、いずれも補修時の材料費が高価になるという問題点がある。
以上の問題に鑑みて、本発明は、水路の表面を低コストで保護できる保護構造を提案することを目的としてなされたものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明にかかる請求項1の水路の保護構造では、水路を構成するコンクリートの表面に、ゴム粒を混入した第1合成樹脂層を形成するとともに、前記第1合成樹脂層の表面に、ゴム粒を混入しない第2合成樹脂層を形成したことを特徴としている。
【0009】
請求項2では、前記第1合成樹脂層と前記第2合成樹脂層との間に、補強材を配設したことを特徴としている。
請求項3では、前記補強材は、亀甲金網としたことを特徴としている。
請求項4では、前記第1合成樹脂層と前記第2合成樹脂層の合計層厚が、10mmより大きいことを特徴としている。
請求項5では、前記第1合成樹脂層に混入するゴム粒は自動車のタイヤを裁断して得た。
【0010】
【作用】
発明者らは、以下のような掃流摩耗の試験を行った。
即ち、前述した掃流摩耗の試験方法によって、ウレアウレタン樹脂を吹き付けて層厚3mmの合成樹脂層が形成された供試体と、ポリウレア樹脂を吹き付けて層厚3mmの合成樹脂層が形成された供試体と、36N/mm2の高強度コンクリートの供試体と、90N/mm2の高強度コンクリートの供試体と、を比較実験した。
その結果、表1に示したように、合成樹脂を吹き付けた供試体の掃流摩耗は、高強度コンクリートと比較するとかなり小さくなることが確認された。従って、水路の掃流摩耗を防止する方法として、合成樹脂の吹き付けが極めて有効であることが判明した。
【表1】



【0011】
次に、以下のような衝撃摩耗の試験を行った。
即ち、前述した衝撃摩耗の試験方法によって、鉄片として55mm×55mm×60mm(重量1.4kg)のものを52個使用し、ドラムの回転数を50rpmとした。
ウレアウレタン樹脂の層厚を3mm、10mm、16mm、20mmとした供試体を用いて、ドラムを5000回回転させて衝撃試験を行い、損耗率(表層が摩耗により損傷した面積の割合)を計測した。
その結果、表2に示したように、層厚3mmの供試体では損耗率10%であったが、層厚10mm以上の場合には損耗率は略0%であって殆ど損耗が発生しなかった。
【表2】



このような実験結果が得られた理由としては、ウレアウレタン樹脂の層厚が10mm以上になると、ウレアウレタン樹脂層が緩衝材となって衝撃を緩和する作用が生じるものと考えられる。ウレアウレタン樹脂層が3mmの場合には、薄すぎて緩衝材として機能しなかったものと思われる。
【0012】
以上の実験結果に基づけば、水路のコンクリートの掃流摩耗及び衝撃摩耗を防止するためには、その表面に10mm以上に厚さの合成樹脂層を設ければよいことになる。
しかし、10mm以上の厚さの合成樹脂層を形成するには合成樹脂の材料費がかさむという問題があるので、表面以外は他の同等の緩衝作用を持つ素材で置き替えることが効果的である。
【0013】
また、ゴム粒等の混入物が混入していない純粋な合成樹脂だけで層厚を20mmとした場合や、第1合成樹脂層を15mmとし第2合成樹脂層を5mmとした場合等のように、合成樹脂層の層厚が大きな供試体においては、層厚が小さい場合には発生していなかった、手のひら大の欠損が発生していた。
これは、土石等の衝突により合成樹脂層が部分的に切断されたものと考えられるので、合成樹脂層を補強する補強材を挟み込むことによって切断抵抗力を向上させることが効果的である。
そこで、補強材の種類を比較するために、図3に示したような動的切断試験機を用いて各種補強材の切断高さを測定比較した。
【0014】
図3の動的切断試験機は、斜めにセットした供試体に70kgの重鎮を落下させ、前記供試体が切断される高さを計測するものである。
補強材を挟み込まない供試体の場合の前記高さは80cmであった。
各補強材を挟み込んだ供試体の場合の結果は表3に示した通りであり、ビニロン(商標)樹脂、亜鉛めっき金網、グラスファイバー、ステンレス金網と比較して、亀甲金網が最も効果的(前記高さ130cm)であることが判明した。
【表3】



亀甲金網が最も効果的である理由としては、一般の金網は2方向に編んでいるのに対して、亀甲金網はより多方向に編んでいるので、合成樹脂層の柔軟性を保持しながら、切断抵抗力を補強しているものと考えられる。
【0015】
以上の試験によって得られた知見に基づけば、本発明の請求項1においては、水路を構成するコンクリートの表面に、ゴム粒を混入した第1合成樹脂層を形成し、前記第1合成樹脂層の表面に、ゴム粒を混入しない第2合成樹脂層を形成したので、第2合成樹脂層によって掃流摩耗を防止し、第1合成樹脂層と第2合成樹脂層とからなる合成樹脂層によって衝撃摩耗を防止し、合成樹脂層の表面以外の部分にはゴム粒を混入したので、高価な合成樹脂の使用料が少なくなる。
因みに、同一体積当たりで比較すると、ゴム粒の単価は、ウレアウレタン樹脂の約3%に過ぎない。従って、ゴム粒を体積比で50%混入する場合では材料費が約50%節減できる。
【0016】
請求項2においては、前記第1合成樹脂層と前記第2合成樹脂層との間に、補強材を配設したので、さらに大きな衝撃に対しても高い緩衝作用が得られる。
【0017】
請求項3においては、前記補強材は、亀甲金網としたので、表3に示したように、さらに大きな衝撃に対しても高い緩衝作用が得られる。
【0018】
請求項4においては、前記第1合成樹脂層と前記第2合成樹脂層の合計層厚が、10mmより大きいので、表2に示したように、ほとんど損耗を受けない。
【0019】
請求項5においては、ゴム粒は自動車のタイヤを裁断して得たので、材料費が安価になるとともに、産業廃棄物の再利用ができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の保護構造を、その保護構造を適用した水路の図面に基づいて詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の水路の保護構造を適用した水路のインバート部の断面図である。この図1R>1において、水路1はダムの放流用の水路であり、コンクリート2で構築されている。この水路1のコンクリート2の表面には、ゴム粒が混入されたウレアウレタン樹脂が吹きつけられて第1合成樹脂層3が形成されている。
この第1合成樹脂層3のウレアウレタン樹脂には、安価な自動車の廃タイヤを数mm角程度の大きさに裁断したゴム粒31が混入されている。ゴム粒31はウレアウレタン樹脂に対する体積比で50%混入されている。また、前記第1合成樹脂層3の層厚は15mmである。
【0022】
前記第1合成樹脂層3の表面には、さらにウレアウレタン樹脂が吹き付けられて第2合成樹脂層4が形成されている。
この第2合成樹脂層4はウレアウレタン樹脂のみで形成されたものであって、ゴム粒は混入されていない。
前記第2合成樹脂層の層厚は5mmである。
【0023】
以上のように構成された水路の保護構造によれば、
当該保護構造の表面にはウレアウレタン樹脂からなる層厚5mmの第2合成樹脂層4が形成されているので、合成樹脂層による掃流摩耗防止効果が得られる。
また、前記保護構造は、層厚15mmの第1合成樹脂層3と層厚5mmの第2合成樹脂層4とが重層して形成されているので、合計した層厚は20mmに達している。
従って、層厚20mmの合成樹脂層によって充分な衝撃緩衝効果が得られる。
そのため、層厚20mmの合成樹脂層による水路の衝撃摩耗防止効果が得られるのである。
前述した実験結果によれば、合計の層厚は10mm以上が好ましい。
なお、前記第1合成樹脂層3は、50%が安価なゴム粒であるので、高価なウレアウレタン樹脂は50%の量でよく、材料費を約50%に低減できるという効果が得られる。
【0024】
なお、前記コンクリート2と第1合成樹脂層3の間には予めプライマー処理を施しておくことが好ましい。
【0025】
図2は、図1における第1合成樹脂層3と第2合成樹脂層4の間に補強材5を挟み込んだ構成とした水路の保護構造の側面断面図である。
図2の水路の保護構造によれば、水流に接する表面がゴム粒等の混入物を含まない純粋なウレアウレタン樹脂層によって覆われているので、掃流摩耗が防止される効果が得られる。
さらに、補強材5が第2合成樹脂層4を覆っているので、大きな衝撃を受けた場合でも、前記補強材5が受け止めて、第2合成樹脂層4への衝撃を小さくするので、前記大きな衝撃による損耗を受けにくいという効果が得られる。
【0026】
なお、ウレアウレタン樹脂に代えてポリウレアウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂を使用することもできる。これらの合成樹脂の主要な物性を表4に示した。
【表4】



また、ゴム粒の物性は、以下の通りである。
硬度(JIS A)    65〜70
引張強度         11.0MPa
これらの樹脂では、吹きつけ後数十秒から数分で硬化して十分な強度が得られるので養生時間がほとんど必要でなく、吹きつけ後短時間で供用可能になる。
また、補強材5としては、亀甲金網が最適であるが、亀甲金網に代えて、ビニロン(商標)樹脂、亜鉛めっき金網、グラスファイバー、ステンレス金網等を用いてもよい。
【0027】
なお、前記コンクリート2と第1合成樹脂層3の間、および前記補強材5と第2合成樹脂層4との間には予めプライマー処理を施しておくことが好ましい。
【0028】
【発明の効果】
本発明の請求項1によれば、第2合成樹脂層によって掃流摩耗を防止し、第1合成樹脂層と第2合成樹脂層とからなる合成樹脂層によって衝撃摩耗を防止しするので、水路のコンクリートが保護される。さらに、合成樹脂層の表面以外の部分にはゴム粒を混入することで、高価な合成樹脂の使用料を少なくしたので、材料代を低く抑えることができる。
従って、低コストで効果的な水路の保護構造を提供することができるという効果が得られるのである。
【0029】
請求項2、3によれば、前記第1合成樹脂層と前記第2合成樹脂層との間に、補強材を配設したので、さらに大きな衝撃に対しても高い緩衝作用が得られる。
【0030】
請求項4によれば、前記第1合成樹脂層と前記第2合成樹脂層の合計層厚が、10mmより大きいので、ほとんど損耗を受けないという効果が得られる。
【0031】
請求項5によれば、ゴム粒は自動車のタイヤを裁断して得たので、材料費が安価になるとともに、産業廃棄物の再利用ができる、環境問題に対する効果もある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる水路の保護構造の一部断面図である。
【図2】本発明にかかる水路の保護構造の別の実施形態の一部断面図である。
【図3】動的切断試験機の正面図と側面図である。
【符号の説明】
1 水路
2 コンクリート
3 第1合成樹脂層
4 第2合成樹脂層
5 補強材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水路を構成するコンクリートの表面に、ゴム粒を混入した第1合成樹脂層を形成するとともに、
前記第1合成樹脂層の表面に、ゴム粒を混入しない第2合成樹脂層を形成したことを特徴とする水路の保護構造。
【請求項2】
前記第1合成樹脂層と前記第2合成樹脂層との間に、補強材を配設したことを特徴とする請求項1に記載の水路の保護構造。
【請求項3】
前記補強材は、亀甲金網としたことを特徴とする請求項2に記載の水路の保護構造。
【請求項4】
前記第1合成樹脂層と前記第2合成樹脂層の合計層厚が、10mmより大きいことを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の水路の保護構造。
【請求項5】
前記第1合成樹脂層に混入するゴム粒は自動車のタイヤを裁断して得たものとしたことを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載の水路の保護構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2004−124386(P2004−124386A)
【公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−285981(P2002−285981)
【出願日】平成14年9月30日(2002.9.30)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【出願人】(000149206)株式会社大阪防水建設社 (44)
【出願人】(000207090)大都産業株式会社 (6)