説明

水際工事用仮設足場

【課題】例えば、川幅を大きく占有することなく、構築が簡単で移動も良好となる水際工事用仮設足場を実現する。
【解決手段】本発明の水際工事用仮設足場2は、水上構造物1又は20近傍の水面上に浮遊状態に配置された台船3と、水上構造物1又は20に沿って移動可能に配置された移動体4と、一端が台船3に設けられた支持体5に連結支持されるとともに、他端が移動体2に連結支持されている作業ステージ8とを備え、作業ステージ8上に重機や設備などを設置した状態で、台船3と移動体4並びに作業ステージ8を水上構造物1又は20に沿って一体ものとして移動可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、河川や海辺に構築された水上構造物近傍における水側で各種作業を行うための移動式の水際工事用仮設足場に関するものである。なお、本明細書において、「水上構造物」とは締切り工や橋梁などを総称するものである。「締切り工」とは、鋼矢板や鋼管矢板などの仮設締切り工のほか、本設の防波堤や堤防なども含む。
【背景技術】
【0002】
河川改修工事や臨海の埋立工事などにおいては、鋼矢板等の締切り工を基礎地盤まで建て込んで水辺と陸地間を締切ったり水路間を仕切るようにしている。締切った後は、例えば、締切り工近傍の水底や海底地盤の地盤改良や浚渫作業などを行う。そのような場合は、水深が浅かったり水路が狭いと、大形の専用重機船を投入することが不可能となる。そこで、従来では、図7に例示したように、鋼矢板1に隣接して水底に建て込まれ、かつブレース100により補強された複数の仮設柱101の上部に仮設足場102となる作業ステージを構築し、この作業ステージ上に施工用重機103、ボーリングマシン104などを設置し、水底下に向けてそれぞれ目的の施工を行うようにしている。なお、この関連技術として、特許文献1にはメインフレームと鋼杭を交互に組付けて沖合に延ばす仮設桟橋の施工方法が開示されている。
【0003】
また、従来の他の仮設足場として、図8に示すように、係留式のフロート105(浮体)を水面上に浮かせ、その一端側をロープなどを介して鋼矢板1側に係留し、他端側を水底にアンカーを介して係留させるようにしたものもある。このフロート10上には、前述のごとき重機や設備などを設置し、それらで水底に向けて施工を行うものもある。このフロート式仮設足場では、アンカーを引き上げた後、陸上側からロープ牽引により隣工区に移動できる。なお、この関連技術として、特許文献2に示す桟橋構造物を対象とした作業用装置がある。この装置要部は、浮体上部に昇降可能なステージを設けるとともに、桟橋の支持杭にグリッパを介して連結したものである。
【0004】
【特許文献1】特開2005−83179号公報
【特許文献2】特開平10−325126号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図7に示される仮設足場102では、組み立てられた区域内での施工を完了した後、隣工区に移る際の手順として、重機や設備の撤去、足場の解体撤去、及び再構築、再搬入等の作業が必要となり、作業能率が悪いものとなる。なお、特許文献1に示される施工方法を応用すれば、仮設足場を隣工区に構築しつつ連続施工を行うことが可能であるが、その場合にもやはり撤去作業などに時間と手間がかかる。
【0006】
図8に示される仮設足場では、浮力を得るために大きな面積が必要であり、例えば、河川に浮べた場合には川幅がフロート7に占有されてしまうため河川を航行する他の船舶の航路障害要因となり、またフロート上を重機などが移動すると荷重の偏在により傾斜しやすいという問題などがある。なお、特許文献2に示される装置は、仮設桟橋の下側での作業用に特化したもので、本発明対象である河川や海辺に構築された水上構造物付近の仮設足場に応用できない。
【0007】
本発明の目的は、以上の課題を解決するもので、例えば、川幅を大きく占有することなく、構築が簡単で移動も良好となる水際工事用仮設足場を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため本発明の水際工事用仮設足場は、水上構造物近傍の水面上に浮遊状態に配置された台船と、前記水上構造物に沿って移動可能に配置された移動体と、一端が前記台船に設けられた支持体に連結支持されるとともに、他端が前記移動体に連結支持されている作業ステージとを備え、前記作業ステージ上に機器類などを設置した状態で、前記台船と移動体並びに作業ステージを前記水上構造物に沿って一体ものとして移動可能にしたことを特徴としている。
【0009】
以上の水際工事用足場は、例えば、水上構造物が鋼矢板や鋼管矢板などの締切り工の場合、該締切り工付近の水底または海底地盤の土質調査、地盤改良、浚渫作業等を締切り工に沿って連続して行うときに有効となる。
【0010】
以上の本発明にあっては次のように具体化されることが好ましい。
(ア)前記作業ステージは、一端が前記支持体(図1の例だと上支持体6であるが、上支持体に相当する部分を作業ステージに形成しているような態様だと、下支持体5になる)に対し昇降可能に連結され、他端が前記移動体に対しヒンジ部を介して揺動可能に連結されていること(請求項2)。
(イ)前記支持体に対し前記作業ステージの一端を昇降調整する油圧シリンダと、前記作業ステージに配置された傾斜センサとを少なくとも有し、前記傾斜センサの計測値が常時ほぼ水平を指示すように前記油圧シリンダが伸縮制御されること(請求項3)。
(ウ)前記水上構造物は鋼矢板又は堤防である(請求項4)。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明では、例えば、台船を選択することで浅瀬などにも対応しやすく、河川などの場合に川幅を大きく占有しなくてもよくなり、作業ステージごと移動できるため工区の移動を効率よく行え、移動作業に伴う施工用重機や設備などの機器類の解体や再組立などの手間を省力化することができる。これにより、本発明の水際工事用仮設足場は、例えば、水上構造物が鋼矢板や鋼管矢板などの締切り工の場合、締切り工付近の水底または海底地盤の土質調査、地盤改良、浚渫作業などを連続して効率よく施工できるようにする。また、水上構造物が橋梁などの場合、前記作業ステージを利用して、橋の強度検査や補修工事、或いは塗装工等を連続的に効率よく施工できるようにする。
【0012】
請求項2と3の発明では、請求項1の作用・効果に加え、例えば、干満差や波浪などに起因する作業ステージの傾斜や動揺を未然に防止可能にして、作業ステージを常に最適な水平状態に維持できるようにする。請求項4の発明は、水上構造物の代表的なものを挙げて明瞭化したことに意義がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(第1形態)図1〜図4は本発明の第1形態を示すもので、図1はボーリングマシンにより地盤調査している状態を模式的に示す一部拡大図を含む斜視図、図2は地盤査結果に基づき地盤改良している状態を模式的に示す断面図、図3は図2のA矢視方向における模式側面図、図4(a),(b)は干満差による作業ステージの水平調整を行っている状態を示す模式断面図である。
【0014】
図1〜図4において、符号1は連続壁である鋼矢板、符号2は本発明を適用した水際工事用仮設足場である。鋼矢板1は、陸上部と河川との境界部に沿って、地盤基礎側まで多数建て込まれて一列に配列されている。仮設足場2は、河川側にあって、鋼矢板1の配列方向に沿って移動可能に設けられている。
【0015】
すなわち、仮設足場2は、鋼矢板1に沿って河川の水面上に浮遊状態に配置された台船3と、鋼矢板1上に跨設した状態で支持されるとともに、鋼矢板1の配列方向つまり水平方向に沿って移動可能な移動体4と、台船3の略中央部に突設された下支持体5及び該下支持体5に昇降可能に嵌合された上支持体6と、上下支持体5,6の内部にあって、両者間に介在された昇降用の油圧シリンダ7と、上支持体6と移動体4との間に連結支持されている作業ステージ8とを備えている。
【0016】
このうち、台船3は、大型トラックなどにより施工現場まで搬送可能な縦横寸法であり、前記河川の水深に応じた浅喫水の曳航式台船が用いられる。これに対し、移動体4は、例えば、技研製作所製の商品名サイレントパイラーと類似した構造の走式矢板圧入装置である。この装置特徴は、鋼矢板1の上縁に跨設した状態で支持されるサドル部10と、サドル部10の下両側に突設されて、図2のごとく鋼矢板1の両側部を挟持してサドル部10を鋼矢板1上に強固に拘束する複数の固定用クランプ11と、サドル部10の前方両側に出没可能に配置されて鋼矢板1の両側を挟持する不図示の前後進用クランプとを備えている。そして、この装置(移動体4)は、サドル部10の一側部がヒンジ部9を介して作業ステージ8の他端に揺動可能に連結支持された状態で、台船3の移動に連動させて、固定用クランプ11を両側部から離間するとともに、前後進用クランプを駆動制御することで(鋼矢板1に反力を取って)尺取虫状に移動される。なお、この例では、鋼矢板1の片側が陸上部になっている。その陸上部側には、例えば、この移動体4とともに移動可能な油圧装置12が配置され、油圧ホース13などを介して移動体4に駆動動力を供給している。
【0017】
作業ステージ8は、上支持体6に対し一端が連結支持され、かつ他端が移動体4に対しヒンジ部9を介して揺動可能に連結支持されている。また、作業ステージ8は、上側適宜位置に配設された不図示の傾斜センサと、該傾斜センサの出力信号を受信して当該傾斜センサの値が常に水平(所定範囲の水平度)を指示するように前記油圧シリンダ7を伸縮制御するための不図示のフィードバック制御手段とを有している。そして、以上の足場構造では、例えば、図4(a)に示したように、前記制御手段により、満潮時(HWL)には油圧シリンダ7は縮小し、図4(b)に示したように、干潮時(LWL)には油圧シリンダ7は伸張し、その結果、作業ステージ8が常にほぼ水平に保たれて上支持体6と移動体4との間に支持され、これによって干満の潮位差Hによる作業ステージ8の不用意な傾斜が防止可能となる。
【0018】
なお、以上のような機能は、干満のようなゆっくりとした潮位差だけでなく、海沿いで使用した場合に受ける波浪や、台船3の付近を他の船舶や舟艇が航行することによる敷浪によっても台船3は上下に揺動するが、それら一時的な揺動に対しても油圧シリンダ7の伸縮制御により作業ステージ8がほぼ水平に維持されるようにする。
【0019】
(作動)以上の仮設足場2において、図1では、作業ステージ8上にボーリングマシン14が配置され、水底地盤に向けて採取用パイプ15を貫入してボーリング調査を行っている状態を示している。このボーリングマシン14は、作業ステージ8の長手方向に沿って移動可能であって、鋼矢板1の近傍から、作業ステージ8上の最も離れた位置までの間の数カ所でサンプル採取を行えるようになっている。
【0020】
この採取結果に基づき鋼矢板1の近傍の地層特性が把握され、改良すべき地層の状態や、その状態に基づく改良すべき深度分布などが設計可能となる。以上の採取動作に引続き、図2〜図4に示すごとく、例えば、仮設足場2に後続して移動する同一の仮設足場2の作業ステージ8上に設置された地盤改良用重機16を用いた地盤改良作業がなされる。
【0021】
この重機16は、例えば、作業ステージ8の長手方向に沿って移動可能なベースマシン17と、ベースマシン17の先端部にあって作業ステージ8の側縁に鉛直に立設されたガイドポスト18と、ガイドポスト18に対して回転かつ昇降可能に配置された掘削用ケーシング19と、ケーシング19の先端に設けられてケーシング内を通じて供給される改良剤などとともに地盤下の所定深度まで混合攪拌するためのオーガ部20とを備えている。
【0022】
なお、ケーシング19には、供給管が内設されており、該供給管に対しスイベルジョイント21及びグラウトポンプ22などを介して製造プラント23で製造された改良剤が供給される。実施工では、このように改良剤を供給し注入しつつ、地盤内を所定深度まで攪拌混合することにより、地盤内にはソイルセメント柱などが造成される。このようにして一回の地盤改良作業が終了したら、重機を移動して次の改良範囲の上部に位置して同一作業を行うことにより、矢板1の近傍からステージ8上の最も離れた位置の数カ所で連続したソイルセメント柱列などが造成されることになる。
【0023】
また、図2と図4では、説明の便宜上、同一の作業ステージ8に重機16と製造プラント23を共存させた状態に設置した。但し、構造的には、製造プラント23を台船1上に設置しても良いし、台船1の浮力などの関係で製造プラント21を当該仮設足場2から分離し、特に図3に例示したように、後続して当該台船3に曳航される同形又は類似の台船3上に設置し、ホース24などを介して重機16側に接続することが望ましい。
【0024】
従って、以上の形態例では、例えば、鋼矢板1の建て込み開始後に、これに後続して仮設足場2の搬入と組立及び、これに後続する改良剤用の製造用台船などを投入すれば、鋼矢板1の建て込み作業に後続して連続的に矢板近辺の水面下の地質調査と、該調査結果に基づいた地盤改良作業を連続的に行うことができ、最終の作業終点位置でのみ、それぞれの解体撤去を行うだけよく作業効率を飛躍的に向上できる。
【0025】
(第2形態)図5は、前記鋼矢板1によって、例えば、河川を左右二つの水路に仕切るような場合の一例を示している。なお、この説明では、第1形態と同一又は類似の部材や箇所には同一符号を付して、重複した説明を極力省く。図5において、鋼矢板1を挟む左右の水路には、台船3がそれぞれ配置されるとともに、仮設足場2が各台船3と移動体4とを利用して鋼矢板1の両側に設けられている。各仮設足場2は、鋼矢板1上に跨設された移動体4を共通の移動及び片側支持手段として活用しており、各作業ステージ8が移動体4の両側部に対応する他端をヒンジ9を介してそれぞれ揺動可能に連結支持されている。
【0026】
図5では、各作業ステージ8上にボーリングマシン14を搭載し、その採取用パイプ15を水底地盤に貫入して地盤調査を行っている状態を示しているが、同一の仮設足場2を後続させ、各作業ステージ8に搭載された重機を用いて地盤改良を行うことができることは勿論である。また、図示しないが、移動体4に駆動動力を与えるための油圧装置などはいずれか一方の作業ステージ8上に設置すればよい。以上の第2形態では、例えば、鋼矢板1によって2つに仕切られた水路内の鋼矢板1近傍における水底地盤の土質調査、地盤改良などを同時かつ連続して行うことができる。
【0027】
(第3形態)図6は、堤防近辺の地盤改良に適用した構成例を示している。なお、この説明でも、第1形態と同一又は類似の部材や箇所には同一符号を付して、重複した説明を極力省くことにする。図6において、堤防30の提頂(上壁)における海側縁部には、仮設軌条31がその提長方向に沿って敷設され、この軌条31上に強固に拘束支持されつつ、その長手方向に沿って移動可能な移動体32が配置され、この移動体32の海側側部はヒンジ部9を介して作業ステージ8の他端に連結している。
【0028】
なお、図6では、作業ステージ8上に重機16を搭載して堤防30の近辺の海底地盤の地盤改良を行っているが、これに先立ち、必要に応じボーリングが実施される。また、各形態例では、鋼矢板1あるいは堤防30近辺の水底地盤の地盤改良工法に適用した場合を示したが、これら締切り工近辺の水際における浚渫工事などにも適用でき、特にダムの提体近傍の浚渫作業用仮設足場として好適なものとなる。さらに本発明の仮設足場は、橋梁などの補修工事や塗装工などのにも適用展開できることも勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】第1形態の仮設足場を示す一部拡大部を含む模式斜視図である。
【図2】第1形態の仮設足場を断面した模式縦断面図である。
【図3】図2のA矢視における模式側面図である。
【図4】(a),(b)は干満差による作業ステージの水平調整を示す断面図である。
【図5】第2形態の仮設足場を示す模式斜視図である。
【図6】第3形態の仮設足場を示す模式断面図である。
【図7】従来の組立て式仮設足場を示す模式斜視図である。
【図8】従来のフロート式仮設足場を示す模式斜視図である。
【符号の説明】
【0030】
1…鋼矢板(水上構造物)
2…仮設足場
3…台船
4,32…移動体
5,6…支持体(5は下支持体、6は上支持体)
7…油圧シリンダ
8…作業ステージ
9…ヒンジ部
11…固定用クランプ
14…ボーリングマシン
15…採取用パイプ
16…地盤改良用重機
30…堤防(水上構造物)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水上構造物近傍の水面上に浮遊状態に配置された台船と、前記水上構造物に沿って移動可能に配置された移動体と、一端が前記台船に設けられた支持体に連結支持されるとともに、他端が前記移動体に連結支持されている作業ステージとを備え、
前記作業ステージ上に機器類などを設置した状態で、前記台船と移動体並びに作業ステージを前記水上構造物に沿って一体ものとして移動可能にしたことを特徴とする水際工事用仮設足場。
【請求項2】
前記作業ステージは、一端が前記支持体に対し昇降可能に連結され、他端が前記移動体に対しヒンジ部を介して揺動可能に連結されている請求項1に記載の水際工事用仮設足場。
【請求項3】
前記支持体に対し前記作業ステージの一端を昇降調整する油圧シリンダと、前記作業ステージに配置された傾斜センサとを少なくとも有し、前記傾斜センサの計測値が常時ほぼ水平を指示すように前記油圧シリンダが伸縮制御される請求項1又は2に記載の水際工事用仮設足場。
【請求項4】
前記水上構造物は鋼矢板又は堤防である請求項1から3の何れかに記載の水際工事用仮設足場。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−247359(P2007−247359A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−76075(P2006−76075)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000236610)株式会社不動テトラ (136)
【Fターム(参考)】