説明

永久磁石モータ、モータ制御システム、及び、洗濯機

【課題】全ての低保磁力永久磁石の磁化状態の調整を1回の通電によって行う。
【解決手段】永久磁石モータ1は、各相の固定子巻線5に対応したティース部4bを備えた固定子2と、軟磁性体からなる回転子コア8を有し、固定子2に対して回転可能に設けられた回転子3と、回転子コア8内部に複数の磁極を形成する永久磁石9とを備え、永久磁石9は、保磁力が異なる2種類の永久磁石9a,9bから構成され、これら2種類の永久磁石9a,9bが1磁極あたり1種類で周期的に且つほぼ環状に配置されているとともに、回転子3における同種類の永久磁石9b(9a)と、固定子2における同相の固定子巻線5u(5v,5w)に対応したティース部4bとが対向する位置関係が全て同じとなるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転子コア内部に複数の永久磁石を備えた永久磁石モータ、当該永久磁石モータを備えたモータ制御システム、及び、当該モータ制御システムを備えた洗濯機に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の永久磁石モータでは、当該永久磁石モータによって駆動する負荷(例えばドラム式洗濯乾燥機のドラム)に応じて、固定子巻線に鎖交する永久磁石の磁束量(鎖交磁束量)を適正に調整することが望まれている。
ところが、永久磁石モータに備えられる永久磁石は1種類で構成されることが一般的であり、従って、永久磁石の磁束量が常に一定となる。この場合、例えば、保磁力が大きい永久磁石(高保磁力永久磁石)のみで構成すると、高速回転時の永久磁石による誘導電圧が極めて高くなり電子部品の絶縁破壊などを招くおそれがある。一方、保磁力が小さい永久磁石(低保磁力永久磁石)のみで構成すると、低速回転時の出力が低下してしまう。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1に記載の永久磁石モータでは、回転子コアに保磁力が異なる2種類の永久磁石を配設し、そのうち、保磁力が小さい低保磁力永久磁石の磁化状態を、電機子反作用による外部磁界(固定子巻線に流れる電流によって発生する磁界)によって減磁または増磁させ、これにより、永久磁石の磁束量を調整するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−280195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した特許文献1に記載の永久磁石モータでは、回転子コア内部において1磁極を構成する部分に、高保磁力永久磁石と低保磁力永久磁石の双方が配設されている。つまり、1磁極を複数種類の永久磁石によって形成する構成となっていることから、永久磁石が多数となり且つそれぞれの永久磁石の体積を小さくする必要があり、構造が複雑となる。そこで、近年では、保磁力が異なる2種類の永久磁石を1磁極あたり1種類で周期的(交互)に配置し、構造を簡素化した構成の永久磁石モータが考えられている。
【0006】
しかしながら、図6に示すように、例えば4極/3スロット構成を基本単位とする永久磁石モータ101において、保磁力が異なる2種類の永久磁石(図6にて、白抜きで示す高保磁力永久磁石Ma,黒塗りで示す低保磁力永久磁石Mb)を1磁極あたり1種類で周期的(交互)に配置した構成とすると、固定子102における1組のU相コイルu,V相コイルv,W相コイルwの組み合わせに対して、回転子103における2組の高保磁力永久磁石Ma,低保磁力永久磁石Mbの組み合わせが対応する状態となる。そのため、着磁磁束量が最大となる固定子巻線(例えばU相コイルu)が任意の低保磁力永久磁石Mb(A)に対向しているとき、その低保磁力永久磁石Mb(A)の2極隣に位置する低保磁力永久磁石Mb(B)は、着磁磁束量が最大ではない固定子巻線(この場合、V相コイルv,W相コイルw)の間に対向する。
【0007】
従って、このとき磁化状態を調整(増磁,減磁)できる低保磁力永久磁石Mbは、永久磁石モータ101に備えられた全ての低保磁力永久磁石Mbの1/2であり、残りの1/2の低保磁力永久磁石Mbの磁化状態を調整するためには、異なるタイミング(回転子103の回転に伴い、残りの1/2の低保磁力永久磁石Mbが着磁磁束量が最大となる固定子巻線に対向するタイミング)にて、もう一度、固定子巻線に着磁電流を通電しなければならない。
【0008】
即ち、上記のような永久磁石モータ101では、全ての低保磁力永久磁石Mbに対向する固定子巻線の通電状態を同時に同じ位相(電気角)にすることできない。そのため、全ての低保磁力永久磁石Mbの磁化状態を調整するには、固定子巻線の通電が2回(場合によっては2回以上)必要になる。また、このような構成では、1回目の通電によって調整した低保磁力永久磁石Mbの磁化状態が2回目の通電によって変動してしまう場合がある。
【0009】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、駆動する負荷に応じた永久磁石の磁束量の調整を、保磁力が異なる複数種類の永久磁石を1磁極あたり1種類で周期的に配置した簡素な構成にて実現するものにおいて、全ての低保磁力永久磁石の磁化状態の調整を1回の通電によって行うことができる永久磁石モータ、当該永久磁石モータを備えたモータ制御システム、及び、当該モータ制御システムを備えた洗濯機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の永久磁石モータは、各相の巻線に対応した磁極歯を備えた固定子と、軟磁性体からなる回転子コアを有し、前記固定子に対して回転可能に設けられた回転子と、前記回転子コア内部に複数の磁極を形成する永久磁石とを備え、前記永久磁石は、保磁力が異なる複数種類の永久磁石から構成され、これら複数種類の永久磁石が1磁極あたり1種類で周期的に且つほぼ環状に配置されているとともに、前記回転子における同種類の永久磁石と、前記固定子における同相の巻線に対応した前記磁極歯とが対向する位置関係が全て同じとなるように構成されていることに特徴を有している。
【0011】
本発明のモータ制御システムは、請求項1または請求項2に記載の永久磁石モータと、この永久磁石モータの駆動を制御する制御部とを備え、前記制御部によって、保磁力が小さい前記永久磁石の磁化状態を切り換えるように構成したことに特徴を有している。
【0012】
本発明の洗濯機は、請求項3記載のモータ制御システムを備え、前記モータ制御システムの前記制御部によって、保磁力が小さい前記永久磁石の磁化状態を運転行程ごとに切り換えるように構成したことに特徴を有している。
【発明の効果】
【0013】
本発明の永久磁石モータによれば、保磁力が異なる複数種類の永久磁石を1磁極あたり1種類で周期的に配置した構成において、全ての低保磁力永久磁石(保磁力が小さい永久磁石)に対向する巻線の通電状態が同時に同じ位相(電気角)となる。これにより、全ての低保磁力永久磁石の磁化状態の調整を1回の通電によって行うことができる。
【0014】
本発明のモータ制御システムによれば、永久磁石の磁束量を効率良く調整することができる。
本発明の洗濯機によれば、永久磁石の磁束量を運転行程ごとに効率良く調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態を示すものであり、永久磁石モータの全体構成を概略的に示す斜視図
【図2】固定子の構成を概略的に示す斜視図
【図3】回転子の構成を概略的に示す斜視図
【図4】ドラム式洗濯乾燥機の内部構成を概略的に示す縦断側面図
【図5】ドラム式洗濯乾燥機の電気的構成を概略的に示すブロック図
【図6】従来構成を示す図1相当図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について図1ないし図5を参照しながら説明する。図1は、永久磁石モータ1(アウタロータ型ブラシレスモータ)の全体構成を概略的に示す斜視図である。永久磁石モータ1は、固定子2と、これの外周において当該固定子2に対して回転可能に設けた回転子3とから構成されている。
【0017】
固定子2は、図2にも示すように、固定子コア4と固定子巻線5とから構成されている。固定子コア4は、打ち抜き形成した軟磁性体であるケイ素鋼板を多数枚積層し且つかしめることによって構成したもので、環状のヨーク部4aと、当該ヨーク部4aの外周部から放射状に突出する多数のティース部4b(磁極歯に相当)とを有している。固定子コア4の表面は、回転子3の内周面との間に空隙を形成する外周面4c(各ティース部4bの先端面)を除き、PET樹脂(モールド樹脂)によって覆われている。また、PET樹脂から成る複数の取付部6が、固定子2の内周部に一体的に成形されている。これら取付部6には複数のねじ穴6aが設けられており、これら取付部6をねじ止めすることで、固定子2が、この場合、ドラム式洗濯乾燥機21の水槽25(図4参照)の背面に固着されるようになっている。この場合、固定子巻線5は三相からなり、各ティース部4bに巻装されている。
【0018】
回転子3は、図3にも示すように、フレーム7と回転子コア8と複数の永久磁石9とを図示しないモールド樹脂によって一体化した構成となっている。フレーム7は、磁性体である例えば鉄板をプレス加工することによって扁平な有底円筒状に形成したもので、円形の主板部7aと、この主板部7aの外周部から段部7bを経て起立する環状の周側壁7cとを有する。主板部7aの中心部には、回転軸26(図4参照)を取り付けるための軸取付部10が設けられており、この軸取付部10と段部7bとの間には、複数の通風孔11及びリブ12が軸取付部10を中心に放射状に形成されている。
【0019】
回転子コア8は、全体としてほぼ環状に構成されており、打ち抜き形成した軟磁性体であるケイ素鋼板を多数枚積層し且つかしめることによって構成したものである。この回転子コア8は、フレーム7の周側壁7cの内周部に配置されている。この回転子コア8の内周面(固定子2の外周面(固定子コア4の外周面4c)と対向し当該固定子2との間に空隙を形成する面)は、内方に向けて円弧状に突出する複数の凸部8aを有した凹凸状に形成されている。これら凸部8aは、当該凸部8aにそれぞれ1つずつ配置される永久磁石9によって磁極が形成される部分である。
【0020】
これら複数の凸部8aの内部には、回転子コア8を軸方向(ケイ素鋼板の積層方向)に貫通する複数(この場合24個)の矩形状に開口した挿入孔13が形成されており、これら複数の挿入孔13が回転子コア8において環状に配置された構成となっている。これら挿入孔13は、回転子コア8の周方向に沿って配列されている。
【0021】
永久磁石9は、上記した複数の挿入孔13内にそれぞれ挿入され、その周側部のほぼ全域が軟磁性体の回転子コア8(挿入孔13部分)によって囲まれ保持された状態となっている。これら永久磁石9は、この場合、保磁力が大きい高保磁力永久磁石である矩形平板状のネオジム磁石9aと、保磁力が小さい低保磁力永久磁石である矩形平板状のサマコバ磁石9b(サマリウム・コバルト磁石)とから構成されている。即ち、永久磁石9a,9bは、各々希土類磁石であるネオジム磁石,サマコバ磁石で構成されている。なお、図1及び図3にて、白抜きで示す永久磁石がネオジム磁石9aであり、黒塗りで示す永久磁石がサマコバ磁石9bである。
【0022】
この場合、ネオジム磁石9aの保磁力は約900kA/m、サマコバ磁石9bの保磁力は約200〜500kA/mであり、保磁力が1.8〜4.5倍程度異なっている。即ち、永久磁石9は保磁力が異なる2種類の永久磁石9a,9bから構成されている。これら永久磁石9a,9bは、回転子コア8内部において、ほぼ環状に、周方向に沿って周期的(交互)に、且つ、1つの凸部8a(挿入孔13部分)に対して1種類ずつ配置されている。
【0023】
なお、ネオジム磁石9aが高保磁力であり、サマコバ磁石9bが低保磁力であるというのは、固定子2(固定子巻線5)から電機子反作用による外部磁界(固定子巻線5を流れる電流によって発生する磁界)を作用させた場合に、サマコバ磁石9bの着磁量を変化させることができる程度の電流ではネオジム磁石9aの着磁量が変化しないという基準において、前者を高保磁力,後者を低保磁力と称している。
【0024】
また、これら2種類の永久磁石9a,9bは、それぞれ1種類の永久磁石で1磁極を形成しており、その磁化方向が永久磁石モータ1の径方向(永久磁石モータ1の外周部から固定子2と回転子3間の空隙に向かう方向)に沿うように配設されている。このように2種類の永久磁石9a,9bを周期的(交互)に、且つ、その磁化方向が径方向に沿うように配置することによって、隣どうしに配置された永久磁石9a,9bが互いに反対方向に磁極を有する状態(一方のN極が内側、他方のN極が外側となる状態)となり、これらネオジム磁石9aとサマコバ磁石9bとの間に例えば矢印B(図3参照)で示す方向に磁気経路(磁束)が生ずる。なお、図3にて破線で示す矢印は、回転子コア8を経由する磁束である。このような構成により、高保磁力永久磁石であるネオジム磁石9aと低保磁力永久磁石であるサマコバ磁石9bの双方を通過する磁気経路が形成されるようになっている。
【0025】
永久磁石モータ1は、この場合、24極/36スロット構成(24個の永久磁石9に対して36個のティース部4bが設けられた構成)となっており、3スロットあたりでは2極が対応する(2極/3スロット構成)。即ち、2種類の永久磁石9a,9bによって形成される磁極数(この場合24極)と、固定子2のティース部4bの数(この場合36個)との構成比率は、2対3の倍数(12倍)である24対36となっている。そして、固定子2における1組のU相コイル5u,V相コイル5v,W相コイル5wの組み合わせに対して、回転子3における1組のネオジム磁石9a,サマコバ磁石9bの組み合わせが対応する構成となっている。
【0026】
このような構成では、回転子3における同種類の永久磁石9(例えば、サマコバ磁石9b)と、固定子2における同相の固定子巻線5(例えば、U相コイル5u)に対応したティース部4bとが対向する位置関係が、永久磁石モータ1の全集にわたって全て同じとなる。即ち、回転子3に備えられた全てのサマコバ磁石9bは、固定子2に備えられた全てのU相コイル5uに同時に対向するようになっている。
【0027】
また、回転子3において隣り合う同種類の永久磁石9が配置される間隔(例えば図3に示す、ネオジム磁石9aを介して隣り合うサマコバ磁石9b間の間隔D1)がその円周上(この場合、回転子コア8の円周上)で示す比率と、固定子2において隣り合う同相の固定子巻線5に対応したティース部4bが配置される間隔(例えば図2に示す、V相コイル5v,W相コイル5wを介して隣り合うU相コイル5uに対応したティース部4b間の間隔D2)がその円周上(この場合、固定子2の外周上)で示す比率が等しくなるようになっている。
【0028】
そして、このような構成の永久磁石モータ1において、図1に示すように、着磁磁束量が最大となる固定子巻線5(例えばU相コイル5u)が任意のサマコバ磁石9b(A)に対向しているとき、そのサマコバ磁石9b(A)から1極置き(ネオジム磁石9aを介して2極ごと)に配置されているサマコバ磁石9b(B,・・・,H,・・・)にも、着磁磁束量が最大となる固定子巻線5(U相コイル5u)が対向する。即ち、永久磁石モータ1に備えられた全てのサマコバ磁石9bに、着磁磁束量が最大となる固定子巻線5(U相コイル5u)が同時に対向する状態となる。
【0029】
従って、固定子巻線5(U相コイル5u)からの電機子反作用による外部磁界によって、永久磁石モータ1に備えられた全てのサマコバ磁石9bの磁化状態を同時に調整(増磁,減磁)することができる。即ち、永久磁石モータ1に備えられた全てのサマコバ磁石9bに対向する固定子巻線5(この場合、U相コイル5u)の通電状態が、同時に同じ位相(電気角)となることから、全てのサマコバ磁石9bの磁化状態を調整するための固定子巻線5(U相コイル5u)の通電回数は1回でよい。
なお、ここでは、固定子巻線5の各相のうち特にU相を例示して説明したが、V相,W相についても上述と同様の作用・効果を得ることができる。
【0030】
次に、上記のように構成された永久磁石モータ1を備えたドラム式洗濯乾燥機21の構成について説明する。図4は、ドラム式洗濯乾燥機21の内部構成を概略的に示す縦断側面図である。
ドラム式洗濯乾燥機21の外殻を形成する外箱22は、前面に円形状に開口する洗濯物出入口23を有しており、この洗濯物出入口23は、ドア24によって開閉されるようになっている。外箱22の内部には、背面が閉塞された有底円筒状の水槽25が配置されており、この水槽25の背面中央部には上述の永久磁石モータ1(固定子2)がねじ止めによって固着されている。この永久磁石モータ1の回転軸26は、後端部(図4では右側の端部)が永久磁石モータ1(回転子3)の軸取付部10に固定されており、前端部(図4では左側の端部)が水槽25内に突出している。回転軸26の前端部には、背面が閉塞された有底円筒状のドラム27が水槽25に対して同軸状となるように固定されており、このドラム27は、永久磁石モータ1の駆動によって回転子3及び回転軸26と一体的に回転する。なお、ドラム27には、空気及び水を流通可能な複数の流通孔28と、ドラム27内の洗濯物の掻き上げやほぐしを行うための複数のバッフル29が設けられている。
【0031】
水槽25には給水弁30が接続されており、当該給水弁30が開放されると、水槽25内に給水されるようになっている。また、水槽25には排水弁31を有する排水ホース32が接続されており、当該排水弁31が開放されると、水槽25内の水が排出されるようになっている。
【0032】
水槽25の下方には、前後方向へ延びる通風ダクト33が設けられている。この通風ダクト33の前端部は前部ダクト34を介して水槽25内に接続されており、後端部は後部ダクト35を介して水槽25内に接続されている。通風ダクト33の後端部には、送風ファン36が設けられており、この送風ファン36の送風作用によって、水槽25内の空気が、矢印で示すように、前部ダクト34から通風ダクト33内に送られ、後部ダクト35を通して水槽25内に戻されるようになっている。
【0033】
通風ダクト33内部の前側には蒸発器37が配置されており、後側には凝縮器38が配置されている。これら蒸発器37及び凝縮器38は、圧縮機39及び絞り弁(図示せず)とともにヒートポンプ40を構成しており、通風ダクト33内を流れる空気が、蒸発器37によって除湿され凝縮器38によって加熱されて、水槽25内に循環されるようになっている。
【0034】
外箱22の前面にはドア24の上方に位置して操作パネル41が設けられており、この操作パネル41には運転コースなどを設定するための複数の操作スイッチ(図示せず)が設けられている。操作パネル41は、マイクロコンピュータを主体として構成されドラム式洗濯乾燥機21の運転全般を制御する制御回路部42(制御部に相当)に接続されており、当該制御回路部42は、操作パネル41を介して設定された内容や制御プログラムに従って、永久磁石モータ1、給水弁30、排水弁31、圧縮機39、絞り弁などの駆動を制御しながら各種の運転コースを実行する。
【0035】
また、永久磁石モータ1において永久磁石9に対向する部分には、当該永久磁石9の磁気を検出する磁気センサ43(図5参照)が配置されている。この磁気センサ43は、固定子2側に取り付けられた回路基板(図示せず)に実装されている。図5に示すように、制御回路部42は、この磁気センサ43からの検出信号に基づいて回転子3の回転位置を演算する。そして、この演算結果に応じたゲート駆動信号Gによって、6個のIGBT44a(図5では2個のみ図示)を三相ブリッジ接続してなるインバータ回路44を駆動し、これにより、固定子巻線5の通電を制御しながら回転子3を回転させるようになっている。この制御回路部42は、永久磁石モータ1とともに本発明のモータ制御システム45を構成する。
【0036】
次に、上記のように永久磁石モータ1を備えたドラム式洗濯乾燥機21の作用について説明する。
モータ制御システム45の制御回路部42がインバータ回路44を介して固定子巻線5に通電すると、電機子反作用による外部磁界(固定子巻線5を流れる電流によって発生する磁界)が、回転子3の永久磁石9a,9bに作用するようになる。そして、これら永久磁石9a,9bのうち、低保磁力永久磁石であるサマコバ磁石9bの磁化状態が、この電機子反作用による外部磁界によって減磁または増磁され、これにより、固定子巻線5に鎖交する磁束量(鎖交磁束量)を増減することができる。そこで、本実施形態では、モータ制御システム45は、制御回路部42による固定子巻線5の通電を制御することによって、サマコバ磁石9bの磁化状態を運転行程(例えば、洗濯行程、脱水行程、乾燥行程)ごとに切り換えて実行するようになっている。ここで、各運転行程における動作内容について順に説明する。
【0037】
まず、洗濯行程では、制御回路部42は、給水弁30を開放して水槽25内に給水を行い、続いてドラム27を回転させて洗濯を行う。この洗濯行程においては、水を含んだ洗濯物を掻き上げるためにドラム27を高トルクで回転させる必要があるが、回転速度は低速でよい。そこで、モータ制御システム45は、サマコバ磁石9bの磁化状態が増磁されるように、制御回路部42を介してインバータ回路44による固定子巻線5の通電を制御する。これにより、固定子巻線5に作用する磁束量が多く(磁力が強く)なることから、ドラム27を高トルク低速度で回転させることができる。
【0038】
次に、脱水行程では、制御回路部42は、排水弁31を開放して水槽25内の水を排出し、続いてドラム27を高速回転させることによって洗濯物に含まれる水分を脱水する。この脱水行程においては、脱水効率を向上するためにドラム27を高速で回転させる必要があるが、トルクは小さくてもよい。そこで、モータ制御システム45は、サマコバ磁石9bの磁化状態が減磁されるように、制御回路部42を介してインバータ回路44による固定子巻線5の通電を制御する。これにより、固定子巻線5に作用する磁束量が少なく(磁力が弱く)なることから、ドラム27を低トルク高速度で回転させることができる。
【0039】
最後に、乾燥行程では、制御回路部42は、送風ファン36及びヒートポンプ40を駆動させるとともにドラム27を回転させることによって洗濯物の乾燥を行う。この乾燥行程においては、モータ制御システム45は、次回の洗濯行程に備えて、サマコバ磁石9bの磁化状態が増磁されるように、制御回路部42を介してインバータ回路44による固定子巻線5の通電を制御する。これにより、固定子巻線5に作用する磁束量を多くした状態とすることができ、次回の洗濯行程において、ドラム27を高トルク低速度で回転させ易くすることができる。
【0040】
以上に説明したように本実施形態によれば、保磁力が異なる2種類の永久磁石9a,9bを1磁極あたり1種類で周期的(交互)に配置した永久磁石モータ1において、当該永久磁石モータ1に備えられた全てのサマコバ磁石9bに対向する固定子巻線5の通電状態が、同時に同じ位相(電気角)となる。これにより、全てのサマコバ磁石9bの磁化状態の調整を1回の通電によって行うことができる。
【0041】
また、サマコバ磁石9bの磁化状態を調整するための通電回数を1回に抑えることによって、複数回の通電を要していた従来の構成に比べ、永久磁石9の磁束量の調整のための消費電力を削減することができる。また、複数回の通電を不要としたことによって、最初の通電によって調整したサマコバ磁石9bの磁化状態(増磁した状態、或いは、減磁した状態)が、それ以降の通電によって変動してしまうことを回避することができる。
【0042】
また、保磁力が異なる2種類の永久磁石9a,9bのうち低保磁力永久磁石であるサマコバ磁石9bの磁化状態を、電機子反作用による外部磁界により減磁または増磁することで、駆動する負荷(本実施形態ではドラム式洗濯乾燥機21のドラム27)に応じた永久磁石9の磁束量の調整が可能となる。これにより、永久磁石9の磁束量が常に一定となることがなく、高速回転時の絶縁破壊や低速回転時の出力低下などを防止できる。
【0043】
しかも、保磁力が異なる2種類の永久磁石9a,9bを1磁極あたり1種類で周方向に沿って周期的(交互)に且つほぼ環状となるように配置した構成は簡素であり、このような簡素な構成にて、駆動する負荷(ドラム27)に応じた永久磁石9の磁束量の調整を実現することができる。
【0044】
また、2種類の永久磁石9a,9bにより形成される磁気経路は、何れも、高保磁力永久磁石であるネオジム磁石9aと低保磁力永久磁石であるサマコバ磁石9bの双方を通過する。これにより、全ての磁気経路の磁束量をほぼ同じにでき、安定した磁束量によりドラム27を駆動することができる。
【0045】
また、本実施形態のモータ制御システム45によれば、永久磁石9の磁束量を効率良く調整することができる。
また、本実施形態のドラム式洗濯乾燥機21によれば、運転行程に応じて永久磁石9の磁束量を効率よく調整することができる。
【0046】
なお、本発明は、上述の一実施形態にのみ限定されるものではなく、次のように変形または拡張できる。
保磁力が小さい低保磁力永久磁石として使用可能な磁石は、上記したサマコバ磁石9bに限られるものではなく、電機子反作用による外部磁界によって着磁量を変化可能な程度に保磁力が低い永久磁石であれば材料は問わない。このような保磁力が小さい永久磁石としては、例えば、アルニコ磁石(アルミニウム・ニッケル・コバルト磁石)やフェライト磁石、或いは、相対的に保磁力が小さいネオジム磁石などがある。また、保磁力が大きい高保磁力永久磁石もネオジム磁石9aに限られるものではない。
【0047】
従って、保磁力が異なる2種類の永久磁石9の組み合わせとしては、ネオジム磁石9aとサマコバ磁石9bの組み合わせに限られるものではなく、例えば、ネオジム磁石9aとアルニコ磁石の組み合わせなど、その他の種類の永久磁石の組み合わせを用いることができる。なお、これら2種類の永久磁石9は、保磁力が概ね2倍以上異なることが好ましい。
【0048】
永久磁石9の磁束量を調整する手段としては、インバータ回路44によって固定子巻線5の通電を制御する構成に限られるものではなく、例えば、固定子巻線5とは別の巻線を設け、この巻線の通電を制御する構成としてもよい。
【0049】
本発明は、24極/36スロット構成のモータに限らず、固定子2における1組のU相コイル5u,V相コイル5v,W相コイル5wの組み合わせに対して、回転子3における1組のネオジム磁石9a,サマコバ磁石9bの組み合わせが対応する2極/3スロット構成を基本単位とするモータであれば適用可能である。
【0050】
また、回転子3における同種類の永久磁石9と固定子2における同相のティース部4bとが対向する位置関係が全て同じとなる構成であれば、永久磁石9は2種類に限られるものではなく、例えば保磁力が大、中、小の3種類の永久磁石で構成してもよいし、4種類や5種類など複数種類の永久磁石で構成してもよい。そして、永久磁石の種類数に応じてティース部4bの数を適宜変更すればよい。即ち、本発明は、2極/3スロット構成を基本単位とするモータのみならず、その他の構成を基本単位とするモータにも適用可能である。この場合、モータ制御システム45は、制御回路部42によって、これら永久磁石のうち相対的に保磁力が小さい永久磁石の磁化状態を運転行程ごとに切り換えるようにするとよい。
【0051】
本発明の永久磁石モータ1は、上述のドラム式洗濯乾燥機21のみならず、例えば、乾燥機能を有しない洗濯機や回転槽の軸方向が縦向きである縦軸型の洗濯機にも適用することができる。また、本発明は、上述のようなアウタロータ型の永久磁石モータ1のみならず、固定子の内周に回転子を回転可能に設けたインナーロータ型モータにも適用することができる。さらに、本発明は、エアコンなどに搭載される圧縮機駆動用のモータなど種々のモータに適用することができる。
【符号の説明】
【0052】
図面中、1は永久磁石モータ、2は固定子、3は回転子、4bはティース部(磁極歯)、5は固定子巻線、8は回転子コア、9は永久磁石、9aはネオジム磁石、9bはサマコバ磁石、21はドラム式洗濯乾燥機(洗濯機)、42は制御回路部(制御部)、45はモータ制御システムを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各相の巻線に対応した磁極歯を備えた固定子と、
軟磁性体からなる回転子コアを有し、前記固定子に対して回転可能に設けられた回転子と、
前記回転子コア内部に複数の磁極を形成する永久磁石とを備え、
前記永久磁石は、保磁力が異なる複数種類の永久磁石から構成され、これら複数種類の永久磁石が1磁極あたり1種類で周期的に且つほぼ環状に配置されているとともに、前記回転子における同種類の永久磁石と、前記固定子における同相の巻線に対応した前記磁極歯とが対向する位置関係が全て同じとなるように構成されていることを特徴とする永久磁石モータ。
【請求項2】
前記永久磁石によって形成される磁極数と前記固定子の前記磁極歯の数との構成比は2対3であることを特徴とする請求項1記載の永久磁石モータ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の永久磁石モータと、
この永久磁石モータの駆動を制御する制御部とを備え、
前記制御部によって、保磁力が小さい前記永久磁石の磁化状態を切り換えるように構成したことを特徴とするモータ制御システム。
【請求項4】
請求項3記載のモータ制御システムを備え、
前記モータ制御システムの前記制御部によって、保磁力が小さい前記永久磁石の磁化状態を運転行程ごとに切り換えるように構成したことを特徴とする洗濯機。
【請求項5】
前記運転行程は、洗濯、脱水または乾燥の何れかであることを特徴とする請求項4記載の洗濯機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−226913(P2010−226913A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73653(P2009−73653)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】