説明

永久磁石形回転電機の回転子

【課題】ロータコアの外周面上に配列した永久磁石を定位置に安定よく位置決め保持して信頼性向上,組立性の改善を図った永久磁石形回転電機の回転子組立構造を提供する。
【解決手段】ロータコア3の外周面に、その周方向に沿って所定極数の永久磁石5を等間隔に配列して固着したインナーロータ型の永久磁石形回転電機において、永久磁石5の配列ピッチに合わせてロータコア3の周面には、その軸方向に沿って延在する金属突条片になる磁石回り止め部材6を溶接接合した上で、その相互間に永久磁石5を嵌装してコアに接着剤で貼り付けた組立構造を基本として、各極の永久磁石5を囲繞してその周面にバインドテープ7を巻き付けて緊結し、さらにシャフト一体形のロータコア3を挟んでシャフト2にはコアの両端から外周に張り出して永久磁石5を軸方向に拘束保持する鍔状の磁石抜け止め段部8を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SPMモータ(Surface Permanent Magnet Motor)を対象としたインナーロータ型永久磁石形回転電機の回転子の組立構造に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、SPMモータの回転子は、電磁鋼板の積層コア,あるいはシャフト一体型のロータコアの外周面に、その周方向に沿って所定極数に対応する永久磁石(方形状のブロック)を等間隔に配列して接着剤で貼り付けた構造を基本としており、接着不良などが原因で回転電機の運転中に永久磁石が剥離してロータコアから飛散するのを防止するために、従来ではロータコアの周面に貼り付けた永久磁石を囲繞して回転子の外周面にガラステープなどのバインドテープを巻き付けて緊結する方法のほか、永久磁石に対して、例えば次記のような飛散防止手段を設けた回転子の組立構造が知られている(特許文献1,特許文献2参照)。
【0003】
ここで、特許文献1に開示されている組立構造では、コアプレート(電磁鋼板)の積層体で構成したロータコアに対して、永久磁石の軸方向両端に位置するコアプレートの外周縁に、永久磁石の配列ピッチに合わせて隣接する永久磁石の間に突き出すT字状の係止片を一体に設け、この係止片に永久磁石の両端を把持させて磁石の飛散を防止するようにしている。
【0004】
また、特許文献2では、永久磁石の配列ピッチに合わせてロータヨークの外周面には軸方向に沿って蟻溝状のスリット溝を形成した上で、このスリット溝に嵌挿した磁石飛散防止留め具(非磁性材)を介して永久磁石を遠心力方向,トルク方向に係止固定するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−153913号公報
【特許文献2】特開2005−176572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、先記の特許文献1,2に開示されている従来の磁石飛散防止手段は、回転子の作製,組立時における部品の加工,作業性で次記のような難点がある。
すなわち、特許文献1の組立構造では、コアプレートの積層体になるロータコアに対し、永久磁石の配列ピッチに合わせてコアプレートの周縁にT字状の係止片を形成しておくために、コアプレートの複雑な抜き型,大掛かりなプレス加工設備、および手間のかかる組立作業,工数を要して製作費がコスト高となる。
【0007】
また、特許文献2の組立構造においても、ロータヨークの周面に飛散防止留め具を嵌挿して係止する蟻溝状のスリット溝を形成するために、切削工作設備,および手間と時間がかかる蟻溝の切削作業を要するほか、ロータヨークに永久磁石を装着する際の組立工程でも手間のかかる作業を要する。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みなされたものであり、その目的は前記課題を解決し、従来構造に比べて組立作業性を改善しつつ、ロータコアの周面上に配列した永久磁石を定位置に安定よく位置決め保持して信頼性の向上,製作コストの低減化を図った永久磁石形回転電機の回転子組立構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明によれば、ロータコアの外周面に、その周方向に沿って所定極数の永久磁石を等間隔に並置配列して固着したインナーロータ型の永久磁石形回転電機において、
前記永久磁石の配列ピッチに合わせてロータコアの周面には、その軸方向に沿って延在する金属突条片になる磁石回り止め部材を溶接接合した上で、該磁石回り止め部材の相互間に永久磁石を嵌装してロータコアに接着剤で貼り付けた組立構造(請求項1)を基本として、具体的には回転子を次記のような態様で組立て構成するものとする。
【0010】
(1)前記の磁石回り止め部材は、その長手方向に沿った側縁の複数箇所に凹溝を形成した上で、該凹溝部をロータコアの周面に溶接接合する(請求項2)。
(2)前項(1)において、凹溝を磁石回り止め部材の左右両側縁に振り分けて形成する(請求項3)。
(3)前記の磁石回り止め部材を非磁性金属材の突条片で構成する(請求項4)。
(4)ロータコアに周面に配列固着した永久磁石を囲繞してその周面にバインドテープを巻き付けて緊結する(請求項5)。
(5)前記のロータコアがシャフト一体形であり、該シャフトにはロータコアの前後両端から外周に張り出してコア周面に装着した永久磁石を軸方向に拘束保持する鍔状の磁石抜け止め段部を設ける(請求項6)。
(6)前記磁石回り止め部材,および磁石抜け止め段部の高さを、永久磁石の最大厚みの1/2以下に設定する(請求項7)。
【発明の効果】
【0011】
上記した回転子の組立構造によれば、次記効果を奏することができる。
(1)永久磁石の配列ピッチに合わせてロータコアの周面に金属突条片になる磁石回り止め部材を溶接して設けたことにより、この磁石回り止め部材が永久磁石相互間の間隔スペーサとして機能し、これによりコア周面に装着する永久磁石の位置決めと併せて、永久磁石がトルク方向に変位するのを確実に防ぐことができる。
【0012】
また、永久磁石の装着時には、接着剤を塗布した磁石をコアの外周側から隣接する磁石回り止め部材の間に敷き詰めるだけでよく、従来構造の回転子(特許文献1,2)と比べて、永久磁石を軸方向からT字状係止片,飛散防止留め具に摺嵌する方法に比べて組立作業が簡単,かつ能率よく行えるほか、コアプレートにT字状係止片(特許文献1)を成形するプレス設備,抜き型や、ロータコアの周面に飛散防止留め具を嵌挿する蟻溝状のスリット溝(特許文献2)を切削加工する手間のかかる作業工程,加工設備も不要で製作コストの低減化,生産性の向上が図れる。
【0013】
(2)前記の磁石回り止め部材に加えて、ロータコアの周面に接着剤で貼り付けた各極の永久磁石を囲繞してその周面にバインドテープを巻き付けて緊結することにより、接着強度の不足が原因で永久磁石が運転中に不測に飛散するのを防止できる。さらに、シャフト一体形のロータコアを前後から挟んでシャフトの外周に鍔状の磁石抜け止め段部を設けたことにより、コア周面に装着した永久磁石の軸方向への抜け出しを阻止し、これにより永久磁石をロータコアの周面上に安定保持して高信頼性を確保できる。
【0014】
(3)ここで、前記の磁石回り止め部材は、その長手方向に沿った側縁の複数箇所に凹溝を形成した上で、該凹溝部をロータコアの周面に溶接接合することにより、溶接フィレットが凹溝からはみ出して永久磁石の装着,位置決めを阻害することが防げ、さらにこの凹溝を磁石回り止め部材の左右両側縁に振り分けて形成することで、溶接に伴う突条片の反り,変形を防止して永久磁石の高い位置決め精度を確保できる。
【0015】
(4)また、前記磁石回り止め部材,および磁石抜け止め段部は、その張り出し高さを永久磁石の最大厚みの1/2以下に設定することで、磁石回り止め部材(鋼材),磁石抜け止め段部を磁路とする永久磁石相互間の漏れ磁束を低減できる。加えて、磁石回り止め部材を非磁性材製とすることで、漏れ磁束をより一層効果的に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例による永久磁石形回転電機の回転子の組立構造を表す図であって、(a)は一部断面の側面図、(b)は(a)における矢視X−X断面図である。
【図2】図1におけるシャフト一体形ロータコアの構造図であって、(a)は側面図、(b)は(a)における矢視X−X断面図である。
【図3】図2における磁石回り止め部材の拡大図であって、(a)は平面図、(b)は端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図1〜図3に示す実施例に基づいて説明する。
図示実施例の回転子1は、シャフト2とロータコア3とが一体になるシャフト一体形構造の回転子であり、シャフト3は軸受4に軸支され、円柱状のロータコア3の周面には周方向の断面が円弧状台形になる方形ブロックの永久磁石5が周方向に6個、軸方向に11列配列して接着剤により貼り付けられている(磁極数:6極)。
【0018】
ここで、ロータコア3の周面には、周方向の磁石配列ピッチに合わせて軸方向に延在する金属製突条片になる磁石回り止め部材6が溶接されており、この磁石回り止め部材6を周方向の間隔スペーサとして隣接する磁石回り止め部材6の間に接着剤を塗布した永久磁石5を嵌装してロータコア3の表面に貼り付けている。
【0019】
これにより、各極の永久磁石5が所定の配列位置に正しく位置決め保持される。また、接着不良などにより永久磁石5の接着強度が低下した場合でも、永久磁石5は磁石回り止め部材6により周方向に拘束保持されているので、運転時に加わるトルク方向の力で永久磁石5が変位空転することがない。
【0020】
また、図示実施例では、接着剤の接着強度低下などによりロータコア3に貼り付けた永久磁石5が運転中に遠心力を受けて飛散するのを防ぐバックアップ手段として、各極の永久磁石5を囲繞してロータの周面にバインドテープ7(例えば、ガラスバインドテープ)を巻き付けて緊結するようにしている。
【0021】
さらに、ロータコア3に貼り付けた永久磁石5が軸方向に抜け出すのを防ぐ防護手段として、図示実施例のシャフト2にはロータコア3の両端から外周側に張り出して永久磁石5の軸方端面に対峙する鍔状の磁石抜け止め段部8が一体に形成されている。なお、この磁石抜け止め段部8はシャフト2に一体形成するほか、例えばC形回り止め輪などの別部品に代えて実施することも可能である。
【0022】
次に、前記の磁石回り止め部材6について、その詳細構造を図3で説明する。すなわち、磁石回り止め部材6は鋼材,あるいはアルミなどの非磁性材で作られたストリップ状の突条片(高さ(板厚):a≒3mm,幅:b≒5mm)になり、その長手方向に沿って左右側縁には複数箇所に分けて溝深さ:c≒2mm,長さ:d≒10mmの凹溝6aが分散して切欠き形成されている。
【0023】
そして、この磁石回り止め部材6をロータコア3の周面に位置決めして溶接接合する際には、例えばTIG溶接法で前記凹溝6aをロータコア3に溶接する。これにより、凹溝6aを目印として溶接箇所を正しく位置決めできるほか、溶接フィレットが凹溝6aから外側にはみ出して永久磁石6の位置決め,貼り付けを阻害するのを防ぐことができる。また、凹溝6aを突条片の左右側縁に沿って交互に分散形成しておくことで、溶接に伴う磁石回り止め部材の反り,変形の発生を効果的に防止できる。
【0024】
また、この磁石回り止め部材6の突条高さa(図3(b)参照)については、この磁石回り止め部材(鋼材)6を挟んで周方向に側面同士が対峙する永久磁石6の相互間の漏れ磁束を低減するために、ロータコア3の周面に貼り付けた永久磁石5(図1(b)参照)の最大厚みをD(図示例ではD=18mm)として、その半分以下(a<1/2・D)の3mm程度に設定している。なお、磁石回り止め部材6の材質をアルミなどの非磁性材とすることで漏れ磁束をより一層効果的に低減できる。
【0025】
さらに、前記と同様な理由でロータコアの軸方両端に形成した磁石抜け止め段部8についても、図示実施例ではシャフト2に形成した鍔状段部8の張り出し高さh(図2(a)参照)を永久磁石6の最大厚みDの1/2以下の5mm程度に設定して隣接する永久磁石相互間の漏れ磁束を小さく抑えるようにしている。
【0026】
なお、図示実施例の回転子では、磁石回り止め部材6をシャフト一体形のロータコア3の周面に溶接接合しているが、コアプレート(電磁鋼板)の積層体になるロータコアに対しても、その周面に突条片になる磁石回り止め部材を溶接接合して実施することかできる。また、磁石回り止め部材6を軸方向に分割した上でその相互間に周方向のスキュー角を設定し、軸方向に配列した永久磁石6の相互間に段スキューを施して回転電機のコギングトルクの低減化を図ることができる。
【符号の説明】
【0027】
1 回転子
2 シャフト
3 ロータコアコア
4 軸受
5 永久磁石
6 磁石回り止め部材
6a 凹溝
7 バインドテープ
8 磁石抜け止め段部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータコアの外周面に、その周方向に沿って所定極数の永久磁石を等間隔に並置配列して固着したインナーロータ型の永久磁石形回転電機において、
前記永久磁石の配列ピッチに合わせてロータコアの周面には、その軸方向に沿って延在する金属突条片になる磁石回り止め部材を溶接接合した上で、該磁石回り止め部材の相互間に永久磁石を嵌装してロータコアに接着剤で貼り付けたことを特徴とする永久磁石形回転電機の回転子。
【請求項2】
請求項1に記載の回転子において、磁石回り止め部材は、その長手方向に沿った側縁の複数箇所に凹溝を形成した上で、該凹溝部をロータコアの周面に溶接接合したことを特徴とする永久磁石形回転電機の回転子。
【請求項3】
請求項2記載の回転子において、凹溝を磁石回り止め部材の左右両側縁に振り分けて形成したことを特徴とする永久磁石形回転電機の回転子。
【請求項4】
請求項1ないし3項のいずれかに記載の回転子において、磁石回り止め部材が非磁性金属材の突条片であることを特徴とする永久磁石形回転電機の回転子。
【請求項5】
請求項1に記載の回転子において、ロータコアに周面に配列固着した永久磁石を囲繞してその周面にバインドテープを巻き付けて緊結したことを特徴とする永久磁石形回転電機の回転子。
【請求項6】
請求項1に記載の回転子において、ロータコアがシャフト一体形であり、該シャフトにはロータコアの前後端から外周側に張り出して永久磁石を軸方向に拘束保持する鍔状の磁石抜け止め段部を設けたことを特徴とする永久磁石形回転電機の回転子。
【請求項7】
請求項1,6に記載の回転子において、磁石回り止め部材,および磁石抜け止め段部の高さを、永久磁石の最大厚みの1/2以下に設定したことを特徴とする永久磁石形回転電機の回転子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−90433(P2013−90433A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228547(P2011−228547)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】