説明

油分抽出装置及び方法

【課題】微細藻類を死滅させることなく油分抽出に繰り返し利用可能とする。
【解決手段】油分抽出装置の構成として、培養装置から供給される微細藻類を含む培養液を収容する処理容器と、前記処理容器に収容された前記培養液に栄養塩を添加する栄養塩添加手段と、前記培養液に前記栄養塩を添加して得られる処理液から油分を分離する油分分離手段とを備えた構成を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油分抽出装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、バイオ燃料の製造技術の一つとして、微細藻類(植物性プランクトン)から油分を抽出する技術が種々検討されている。従来では、n−ヘキサン等の有機溶剤を用いて微細藻類から油分を抽出する方法や圧搾によって微細藻類から油分を抽出する方法などが一般的に用いられている。
また、下記特許文献1には、炭素数が6以下で且つ少なくとも1つの酸素原子を含有し、水と均一に混ざらない有機溶媒に微細藻類の湿藻体を浸漬することで、微細藻類から油分を抽出する技術が開示されている。
さらに、下記特許文献2には、微細藻類の水性スラリーを加熱して、45°C以上150°C未満の温度に保持した後、n−ヘキサン等の有機溶剤を用いて水性スラリーから油分を抽出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−803号公報
【特許文献2】特開2010−111865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の抽出方法のいずれを採用しても、油分の抽出過程において加熱や粉砕による細胞破壊を伴うため微細藻類が死滅する。すなわち、上記従来技術では油分を抽出した後の微細藻類の繰り返し利用ができないので、実用的なバイオ燃料の製造技術として適用するためには微細藻類の増殖に関するコストが大きな障害となる。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、微細藻類を死滅させることなく油分抽出に繰り返し利用可能な油分抽出装置及び方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、油分抽出装置に係る第1の解決手段として、培養装置から供給される微細藻類を含む培養液を収容する処理容器と、前記処理容器に収容された前記培養液に栄養塩を添加する栄養塩添加手段と、前記培養液に前記栄養塩を添加して得られる処理液から油分を分離する油分分離手段とを備える、という手段を採用する。
【0007】
また、油分抽出装置に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記培養装置から供給される前記培養液を濃縮する培養液濃縮手段をさらに備え、前記処理容器は、前記培養液濃縮手段によって濃縮された培養液を収容する、という手段を採用する。
【0008】
また、油分抽出装置に係る第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、前記油分分離手段は、前記処理液から油分を分離して残った培養液を前記培養装置へ返送する、という手段を採用する。
【0009】
また、油分抽出装置に係る第4の解決手段として、上記第1〜第3のいずれか1つの解決手段において、前記微細藻類は、ボトリオコッカス・ブラウニーである、という手段を採用する。
【0010】
一方、本発明では、油分抽出方法に係る第1の解決手段として、培養装置から供給される微細藻類を含む培養液に栄養塩を添加する栄養塩添加工程と、前記培養液に前記栄養塩を添加して得られる処理液から油分を分離する油分分離工程とを有する、という手段を採用する。
【0011】
また、油分抽出方法に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記培養装置から供給される前記培養液を濃縮する培養液濃縮工程をさらに有し、前記栄養塩添加工程では、前記培養液濃縮工程によって濃縮された培養液に栄養塩を添加する、という手段を採用する。
【0012】
また、油分抽出方法に係る第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、前記油分分離工程では、前記処理液から油分を分離して残った培養液を前記培養装置へ返送する、という手段を採用する。
【0013】
また、油分抽出方法に係る第4の解決手段として、上記第1〜第3のいずれか1つの解決手段において、前記微細藻類は、ボトリオコッカス・ブラウニーである、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、微細藻類を含む培養液に栄養塩を添加することで生じる浸透圧差を利用して微細藻類から油分の抽出を行うため、油分の抽出過程において加熱や粉砕による細胞破壊が発生しない。すなわち、本発明によれば、油分の抽出過程において微細藻類が死滅することがないので、油分抽出後の微細藻類を油分抽出に繰り返し再利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る油分抽出装置A2を備えたバイオ燃料製造システムAのシステム構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る油分抽出方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
本実施形態に係るバイオ燃料製造システムAは、図1に示すように、微細藻類培養装置A1と油分抽出装置A2とから構成されている。本バイオ燃料製造システムAは、微細藻類培養装置A1で培養・増殖させた微細藻類を含む培養液X1を油分抽出装置A2に供給し、該油分抽出装置A2において微細藻類から油分X5を抽出することにより、当該油分X5をバイオ燃料として製造するものである。
【0017】
ここで、微細藻類培養装置A1が培養対象とする微細藻類は、光合成によって体内で油分X5を合成する植物性プランクトンであり、また体内で合成した油分X5を体外に分泌する性質をも兼ね備えたものがより好ましい。このような性質を備えた微細藻類としては、淡水域から汽水域(淡水と海水がまじり合った水域)に生息し、外敵から身を守る等のために重油に似た炭化水素(油分)を合成して体外に分泌するボトリオコッカス・ブラウニー(学名:Botryococcus braunii)が例示できる。ただし、体内で油分X5を合成する植物性プランクトンとしては種々のものが知られているので、微細藻類はボトリオコッカス・ブラウニーに限定されるものではない。
【0018】
微細藻類培養装置A1は、所定の栄養素を含む培養液X1とともに微細藻類を所定容量収容する培養槽を備え、微細藻類に光合成を促す光の照射量をも含めた培養槽内の環境条件を微細藻類の増殖に適した状態とすることにより微細藻類を培養する。微細藻類培養装置A1は、所定期間に亘って十分な培養と油分X5の生成とが完了した微細藻類を培養液X1とともに油分抽出装置A2に供給する。
【0019】
なお、微細藻類培養装置A1は、例えばボトリオコッカス・ブラウニーを培養対象とする場合、ボトリオコッカス・ブラウニーの増殖を促進させる窒素やリン等を栄養素として水に一定量添加したものを培養液X1とし、ボトリオコッカス・ブラウニーの増殖に適した環境条件の下でボトリオコッカス・ブラウニーを培養する。
【0020】
油分抽出装置A2は、図示するように、培養液濃縮装置1、処理容器2、栄養塩添加装置3及び油分分離装置4から構成されている。この油分抽出装置A2は、上述した微細藻類培養装置A1から供給される微細藻類を含む培養液X1をバッチ処理して油分X5を抽出するものである。
【0021】
培養液濃縮装置1は、微細藻類培養装置A1から供給される微細藻類を含む培養液X1を濃縮し、濃縮後の培養液(以下、濃縮培養液X2と称す)を処理容器2へ送出する。例えば、微細藻類培養装置A1から供給される培養液X1の微細藻類濃度が3g/lだとすると、培養液濃縮装置1は、微細藻類濃度が10倍程度、つまり30g/lになるまで培養液X1を濃縮する。このような培養液濃縮装置1としては、遠心分離機やベルトプレス装置等を利用することができる。
【0022】
処理容器2は、培養液濃縮装置1から送出される濃縮培養液X2を受け入れて収容する処理槽である。また、この処理容器2は、栄養塩添加装置3から添加(供給)される栄養塩X3と濃縮培養液X2とを良好に混合させるために、内容物を撹拌する撹拌装置(図示省略)を備えている。ここで、栄養塩X3の添加量は、濃縮培養液X2の塩濃度が10倍程度高くなるように設定されている。これにより、微細藻類の体内外で浸透圧差が生じ、微細藻類の体内に蓄積されている油分X5が体外へ溶出する。つまり、濃縮培養液X2に栄養塩X3を添加することで、油分X5を含んだ濃縮培養液(以下、処理液X4と称す)が得られる。
【0023】
栄養塩添加装置3は、処理容器2に収容された濃縮培養液X2に所定量(濃縮培養液X2の塩濃度が10倍程度高くなる量)の栄養塩X3を添加(供給)するものである。なお、この栄養塩添加装置3は、栄養塩X3として微細藻類の体内外で浸透圧差が生じ易い塩、例えば硝酸塩あるいは燐酸塩等を濃縮培養液X2に添加する。油分分離装置4は、処理容器2から排出された処理液X4から油分X5を分離すると共に、処理液X4から油分X5を分離して残った濃縮培養液(以下、残留濃縮培養液X6と称す)を微細藻類培養装置A1の培養槽へ返送するものである。
【0024】
次に、上記のように構成されたバイオ燃料製造システムAの動作、特に油分抽出装置A2における油分抽出処理の各工程について、図2の工程図に沿って説明する。
【0025】
本バイオ燃料製造システムAでは、最初に微細藻類培養装置A1の培養槽において、培養液X1中にて微細藻類が培養され、所定期間に亘って十分な培養と油分X5の生成とが完了した微細藻類が培養液X1とともに微細藻類培養装置A1から培養液濃縮装置1へ供給される(ステップS1)。培養液濃縮装置1に供給された培養液X1は、微細藻類濃度が10倍程度になるまで濃縮される(ステップS2:培養液濃縮工程)。
【0026】
そして、培養液濃縮装置1にて濃縮された培養液X1は、濃縮培養液X2として処理容器2へ送出され、濃縮培養液X2が処理容器2に収容される(ステップS3)。このように処理容器2に濃縮培養液X2が収容されると、栄養塩添加装置3から濃縮培養液X2の塩濃度が10倍程度高くなる量の栄養塩X3が濃縮培養液X2に添加される(ステップS4:栄養塩添加工程)。この時、処理容器2の内容物は撹拌装置によって撹拌されており、濃縮培養液X2と栄養塩X3は処理容器2内で良好に混合される。
【0027】
このように、処理容器2内で濃縮培養液X2と栄養塩X3が混合されると、微細藻類の体内外で浸透圧差が生じ、微細藻類の体内に蓄積されている油分X5が体外へ溶出する。つまり、濃縮培養液X2に栄養塩X3を添加・混合することで、油分X5を含んだ濃縮培養液(処理液X4)が得られる。この時、微細藻類は体内外の浸透圧差によって縮むだけであるので死滅することはない。処理容器2は、所定期間に亘る内容物の撹拌によって、十分な量の油分X5を含む処理液X4が得られると、この処理液X4を油分分離装置4へ排出する。
【0028】
油分分離装置4へ排出された処理液X4は油分X5と残留濃縮培養液X6とに分離され(ステップS5:油分分離工程)、油分X4はバイオ燃料として回収される一方、残留濃縮培養液X6は微細藻類培養装置A1の培養槽へ返送される(ステップS6)。処理液X4から油分X5と残留濃縮培養液X6を分離する方法は種々考えられるが、例えば以下のような手法を採用できる。
【0029】
例えば、油分分離装置4に処理液X4を貯留する水槽を設け、この水槽内で処理液X4を静置状態とすることにより処理液X4の相分離を促進させる。これにより、水槽内で処理液X4は、油分X5からなる油相(上層)と、微細藻類を含む濃縮培養液(残留濃縮培養液X6)からなる水相(下層)とに相分離する。このように処理液X4が十分に相分離したタイミングで処理液X4を水槽底部から排出すると、先に水相、つまり残留濃縮培養液X6が排出されるので、この残留濃縮培養液X6を微細藻類培養装置A1へ返送し、次に排出される油相、つまり油分X5をバイオ燃料として回収する。
この他、処理液X5にn−ヘキサン等の有機溶剤を混入して、該有機溶剤に油分X5を溶出させて有機溶剤ごと油分X5を分離する手法を採用しても良い。
【0030】
以上説明したように、本バイオ燃料製造システムAによれば、微細藻類培養装置A1で培養した微細藻類が油分抽出装置A2における油分X5の抽出処理の過程で死滅することがないので、油分X5の抽出処理後の微細藻類を微細藻類培養装置A1に戻して油分抽出に繰り返し再利用することが可能である。すなわち、本バイオ燃料製造システムAによれば、微細藻類を死滅させてしまう従来技術に比べて、バイオ燃料の製造における微細藻類の増殖量を低減することが可能であり、よって微細藻類の増殖コストを低減することが可能なので、バイオ燃料の製造コストを従来よりも低減することが可能である。
【0031】
なお、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。例えば、上記実施形態では、微細藻類を含む培養液X1を濃縮した後に、該濃縮によって得られる濃縮培養液X2を処理容器2に収容させる場合を例示したが、必ずしも培養液X1を濃縮する必要はない。また、処理容器2の前段で培養液X1の濃縮を実施しない場合、処理液X4から油分X5を分離して残った培養液を微細藻類培養装置A1へ返送する際に濃縮するようにしても良い。
【符号の説明】
【0032】
A…バイオ燃料製造システム、A1…微細藻類培養装置、A2…油分抽出装置、1…培養液濃縮装置、2…処理容器、3…栄養塩添加装置、4…油分分離装置、X1…培養液、X2…濃縮培養液、X3…栄養塩、X4…処理液、X5…油分、X6…残留濃縮培養液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養装置から供給される微細藻類を含む培養液を収容する処理容器と、
前記処理容器に収容された前記培養液に栄養塩を添加する栄養塩添加手段と、
前記培養液に前記栄養塩を添加して得られる処理液から油分を分離する油分分離手段と、
を備える油分抽出装置。
【請求項2】
前記培養装置から供給される前記培養液を濃縮する培養液濃縮手段をさらに備え、
前記処理容器は、前記培養液濃縮手段によって濃縮された培養液を収容することを特徴とする請求項1に記載の油分抽出装置。
【請求項3】
前記油分分離手段は、前記処理液から油分を分離して残った培養液を前記培養装置へ返送することを特徴とする請求項1または2に記載の油分抽出装置。
【請求項4】
前記微細藻類は、ボトリオコッカス・ブラウニーであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の油分抽出装置
【請求項5】
培養装置から供給される微細藻類を含む培養液に栄養塩を添加する栄養塩添加工程と、
前記培養液に前記栄養塩を添加して得られる処理液から油分を分離する油分分離工程と、
を有する油分抽出方法。
【請求項6】
前記培養装置から供給される前記培養液を濃縮する培養液濃縮工程をさらに有し、
前記栄養塩添加工程では、前記培養液濃縮工程によって濃縮された培養液に栄養塩を添加することを特徴とする請求項5に記載の油分抽出方法。
【請求項7】
前記油分分離工程では、前記処理液から油分を分離して残った培養液を前記培養装置へ返送することを特徴とする請求項5または6に記載の油分抽出方法。
【請求項8】
前記微細藻類は、ボトリオコッカス・ブラウニーであることを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の油分抽出方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−85540(P2012−85540A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232601(P2010−232601)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】