説明

油圧式作業機及び出力増加方法

【課題】油圧式の作業機械を駆動する出力が一時的に不足した場合に、容易に出力を増加させることができる油圧式作業機及び出力増加方法を提供する。
【解決手段】油圧式作業機の油圧回路20は、油圧ポンプ21と油圧制御部22との間から分岐した供給配管接続回路33と、供給配管接続回路の分岐点と油圧制御部との間に設けられた供給流路切替弁34と、タンクと油圧ポンプとの間から分岐した戻り配管接続回路36と、供給配管接続回路及び戻り配管接続回路にそれぞれ設けられて各接続回路の作動油の流れを規制するセルフシールカップリング17とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧式作業機及び出力増加方法に関し、詳しくは、油圧ポンプから供給される作動油により作動する作業機械を備えた油圧式作業機及び該油圧式作業機の出力増加方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、地盤改良作業は、事前調査した地盤の状況に対応した能力を有する地盤改良機や杭打機を使用するようにしている。地盤改良機は、掘削刃及び撹拌翼を有する掘削ヘッドを中空ロッドの先端に装着し、中空ロッドを回転駆動する回転駆動装置を降下させるとともに、中空ロッドを通して掘削ヘッドにセメントミルクなどの地盤改良剤を供給し、掘削刃で掘削した土砂と地盤改良剤とを撹拌翼で撹拌混合することによって地盤改良を行うようにしている。このような地盤改良機として、軟弱地盤と硬質地盤とで掘削ヘッドを使い分けることが行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−277983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された地盤改良機は、軟弱地盤及び硬質地盤のいずれでも土砂と地盤改良剤とを十分に撹拌混合して良好な地盤改良を行うことはできるが、事前の地盤調査とは大きく異なる固い地盤、例えば予期せぬ転石などが存在する地盤の場合は、回転駆動装置の出力不足によって掘削ヘッドを回転させることができなくなることがあり、所定の深さまで地盤改良を行うためには、使用していた地盤改良機を高出力の地盤改良機と入れ替える必要があった。
【0005】
しかし、地盤改良機の入れ替えは、多大な手間と費用とを要するものであり、コスト割れを引き起こすことがある。また、最初から高出力の地盤改良機を使用することも、地盤改良機の輸送費や運転コストの上昇を招く。さらに、狭隘地や高さ制限のある場所では、高出力の大型地盤改良機を使用できないことがある。また、杭打機で鋼管を埋設する作業などを行う際にも、予期せぬ固い地盤が存在すると、前記同様に作業を継続することができなくなり、使用中の杭打機を大型で高出力の杭打機に入れ替えなければならなかった。
【0006】
そこで本発明は、油圧式の作業機械を駆動する出力が一時的に不足した場合に、容易に出力を増加させることができる油圧式作業機及び出力増加方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の油圧式作業機は、エンジンにより駆動される油圧ポンプから油圧制御部を有する油圧回路を介して供給される作動油により作動する油圧式の作業機械を備えた油圧式作業機において、前記油圧回路は、前記油圧ポンプと前記油圧制御部との間の配管から分岐した供給配管接続回路と、該供給配管接続回路の分岐点と前記油圧制御部との間の配管に設けられた供給流路切替弁と、タンクと前記油圧ポンプとの間の配管から分岐した戻り配管接続回路と、前記供給配管接続回路及び戻り配管接続回路にそれぞれ設けられて各接続回路の作動油の流れを規制する手段とを備えていることを特徴としている。
【0008】
また、本発明の油圧式作業機における出力増加方法は、前記油圧作業機を2台使用して一方の油圧作業機の出力を増加させる方法であって、一方の油圧作業機の供給配管接続回路と他方の油圧作業機の供給配管接続回路とを油圧ホースを介して接続し、各接続回路の作動油の流れを規制する手段による流れの規制を解除するとともに、他方の油圧作業機の供給流路切替弁を操作して油圧ポンプから吐出された作動油の流れ方向を油圧制御部方向から供給配管接続回路に切り替え、一方の油圧作業機の油圧ポンプから吐出された作動油と、他方の油圧作業機の油圧ポンプから吐出されて該他方の油圧作業機の供給配管接続回路から前記油圧ホースを介して一方の油圧作業機の供給配管接続回路に供給された作動油とを合流させ、合流した作動油を一方の油圧作業機の油圧制御部から該一方の油圧作業機の作業機械に供給して該作業機械の出力を増加させることを特徴とし、特に、前記油圧作業機が地盤改良機であり、出力を増加させる作業機械が回転掘削装置を駆動する油圧モータであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、作業機械を駆動する出力が一時的に不足して作業が継続できなくなった場合に、作業中の油圧作業機の油圧回路に、他の油圧作業機の油圧回路から作動油を供給して合流させることにより、作業機械に供給する作動油を増量することができ、作業中の油圧作業機の出力を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の油圧式作業機の一形態例を示す油圧回路図である。
【図2】2台の油圧式作業機を油圧ホースを介して接続した状態を示す説明図である。
【図3】他方の油圧式作業機で一方の油圧式作業機の出力を増加させる際の回路構成の一例を示す油圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の対象となる油圧式作業機は、例えば図2に示すような杭打機(地盤改良機)11である。なお、図2における符号に付した「A」「B」は、後述の出力増加の説明のために付したものであって、共通の説明では「A」「B」を省略する。
【0012】
本形態例に示す杭打機11は、クローラ12を備えた下部走行体13と、該下部走行体13上に旋回可能に設けられた上部旋回体14と、該上部旋回体14の前部に設けられた油圧式の杭打作業機械15とを備えている。上部旋回体14の内部には、エンジン、油圧ポンプ、油圧回路、燃料タンクなどが収容されており、上部旋回体14には運転台16が設けられている。また、上部旋回体14の後部には、セルフシールカップリング17を介して油圧ホース18を接続するためのホース接続部19が設けられている。
【0013】
前記杭打機11の油圧回路20は、図1に示すように、図示しないエンジンによって駆動される複数の油圧ポンプ21と、クローラ12や杭打作業機械15などに設けられている油圧モータや油圧シリンダなどの各種油圧機器に供給する作動油をそれぞれ制御するためのコントロールバルブや電磁弁を備えた複数の油圧制御部22と、各油圧制御部22からの戻り油を貯留するタンク23と、オイルクーラ24及び循環ポンプ25と、これらを接続する配管とを備えており、運転台16に設けられた操作レバーなどを操作して各油圧制御部22を操作することにより、杭打機11の走行、上部旋回体14の旋回、杭打作業機械15による杭打ち作業などを行えるように形成されている。
【0014】
前記油圧回路20において、本形態例では、前記杭打作業機械15の回転駆動装置31に設けられている油圧モータ32に作動油を供給する油圧ポンプ21(P1)の吐出側配管26と、タンク23から各油圧ポンプ21が作動油を吸引する吸入側配管27とには、油圧モータ32の出力を増加させるために使用する回路が設けられている。この出力増加用の回路は、前記吐出側配管26から分岐した供給配管接続回路33と、該供給配管接続回路33の分岐点33aと前記油圧制御部22との間の配管26aに設けられた供給流路切替弁34と、前記吸入側配管27から分岐した戻り配管接続回路36とを備えており、供給配管接続回路33及び戻り配管接続回路36の先端には、各接続回路の作動油の流れを規制する手段である前記セルフシールカップリング17を介して前記ホース接続部19が設けられている。
【0015】
前記供給流路切替弁34は、図1に示す開弁状態が定常位置となっており、ホース接続部19に油圧ホース18を接続していない状態では、セルフシールカップリング17が閉じ状態となっていることから、供給流路切替弁34が定常位置のときには、油圧ポンプ21(P1)から吐出側配管26に吐出された作動油は、吐出側配管26及び供給流路切替弁34を通って油圧制御部22に供給され、該油圧制御部22から油圧モータ32に供給され、地中に圧入する鋼管などを回転駆動する。油圧モータ32からの戻り油は、油圧制御部22から戻り配管28を経てタンク23に戻り、タンク23から前記吸入側配管27を介して各油圧ポンプ21に吸入されて循環する。このとき、一部の作動油は、循環ポンプ25によってオイルクーラ24を循環して冷却される。
【0016】
このように形成した杭打機11は、同じような出力増加用の回路を備えた油圧式作業機、例えば同じ形式の杭打機を2台以上用意しておくことにより、作業中の杭打機の油圧機器、本形態例では油圧モータ32に出力不足が生じた場合に、他の杭打機を応援用に使用して作業中の杭打機の出力を増加させることができる。以下、作業中に出力不足が発生した杭打機の油圧回路は各符号に「A」を付し、応援用に使用する杭打機の油圧回路は各符号に「B」を付して説明する。
【0017】
すなわち、図2及び図3に示すように、作業中の杭打機11Aに油圧モータ32Aの出力不足が発生した場合は、他の杭打機11Bを応援用として使用し、両杭打機11A,11Bの供給用及び戻り用の各ホース接続部19A,19B同士を油圧ホース18にてそれぞれ接続し、セルフシールカップリング17を開放して両杭打機11A,11Bの供給配管接続回路33A,33B同士及び戻り配管接続回路36A,36B同士を連通させた状態とし、応援用の杭打機11Bの油圧回路20Bにおける供給流路切替弁34Bを閉弁状態に切り替える。
【0018】
この状態で両杭打機11A,杭打機11Bの油圧回路20A,20Bをそれぞれ作動させると、油圧ポンプ21B(PT1)から吐出された作動油は、供給流路切替弁34Bが閉じてセルフシールカップリング17が開いていることから、油圧制御部22Bから杭打機11Bの油圧モータ32Bに供給されることなく、供給配管接続回路33Bから油圧ホース18を通って出力不足が発生した杭打機11Aの油圧回路20Aにおける供給配管接続回路33Aに供給される。これにより、杭打機11Aの油圧ポンプ21A(PT1)から吐出された作動油と、杭打機11Bの油圧ポンプ21B(PT1)から吐出された作動油とが合流して杭打機11Aの油圧モータ32Aに供給される状態となる。
【0019】
これにより、油圧モータ32Aには、油圧ポンプ21A(PT1)及び油圧ポンプ21B(PT1)からそれぞれ吐出された作動油が合流し、例えば2倍量の作動油が供給されることになるので、油圧モータ32Aの回転数を高速回転とすることができる。特に、本形態例に示すように、油圧ポンプ21A(PT1)及び油圧ポンプ21B(PT1)が可変容量ポンプで、馬力制御があるポンプの場合、高圧時に吐出流量が低下することから、2台の油圧ポンプ21A(PT1)及び油圧ポンプ21B(PT1)から吐出された作動油を合流させて供給することにより、高圧時の吐出流量の低下を抑えて油圧モータ32Aに高圧、高流量の作動油を供給できるので、油圧モータ32Aによって鋼管や掘削ヘッドを高トルク、高回転で回転駆動することができる。したがって、予期せぬ固い地盤が存在した場合でも、作業中の杭打機11Aをそのままの作業状態とし、他の杭打機11Bを応援用として使用することにより、杭打機11Aによる作業を継続することができるので、大型で高出力の杭打機に入れ替える必要がなくなり、杭打機を入れ替える場合に比べて作業時間の大幅な短縮やコストの削減を図ることができる。
【0020】
一方、油圧モータ32Aを駆動した後に戻り配管28Aを通って油圧回路20Aのタンク23Aに戻った戻り油は、その一部が油圧ポンプ21B(PT1)の吸引力により、吸入側配管27Aから戻り配管接続回路36Aに分流し、油圧ホース18を経て油圧回路20Bの戻り配管接続回路36Bから吸入側配管27Bを経て油圧ポンプ21B(PT1)に吸引される。このとき、油圧ポンプ21B(PT1)が油圧回路20Bのタンク23Bから作動油を吸引してタンク23Bの油量が減少することがあるので、図3に示すように、タンク23Aとタンク23Bとの間に、返送ポンプ37を備えた返送配管38を設け、タンク23A内の作動油の一部をタンク23Bに返送することが好ましい。さらに、タンク23A内やタンク23B内の油量を検出するセンサを設けておき、該センサによって検出したタンク23A内の油量が設定量より多くなったとき、あるいは、タンク23B内の油量が設定量より少なくなったときに、前記返送ポンプ37を作動させるように形成することもできる。
【0021】
さらに、応援用として使用する他の杭打機11Bは、応援用として使用するとき以外は、ホース接続部19Bに油圧ホース18を接続しない状態で供給流路切替弁34Bを開弁状態にしておくことにより、通常の杭打機として使用することができるので、2台の杭打機で杭打ち作業や地盤改良作業を並行して行うことができ、施工効率を向上させて工期の短縮を図ることができる。特に、同じ杭打機を2台以上使用して施工することにより、どの杭打機が出力不足になったときでも速やかに対応することができる。また、あらかじめ2台の小型杭打機を使用し、一方を作業機、他方を応援用として使用することにより、大型高出力の杭打機が入れない狭隘地や高さ制限のある場所での作業も可能となる。
【0022】
なお、通常の油圧回路には、油圧モータを保護するためのリリーフ弁があらかじめ高圧側に設けられているので、高圧の作動油を油圧モータに供給しても、リリーフ弁によって油圧モータを保護することができるとともに、油圧制御部として流量制御可能なコントロールバルブを使用することにより、油圧モータが過回転状態になることを防止することができるので、油圧モータの性能を最大限引き出すことが可能となる。
【0023】
また、前記形態例では、2台の油圧式作業機として同一形式の杭打機を例示したが、2台の油圧式作業機は同一のものである必要はなく、エンジン、油圧ポンプ、油圧回路及び燃料タンクを備えた本体部と走行装置とを備えているものであれば、前記杭打機のほか、クローラクレーンや油圧ショベルなどを適宜組み合わせることもできる。また、ポンプの台数や油圧制御部の数は任意であり、チェック弁やセルフシールカップリングを通常の開閉弁にすることもでき、各切替弁は手動弁でも電磁弁でもよい。さらに、他の油圧モータや油圧シリンダの出力を増加させることも可能である。
【符号の説明】
【0024】
11…杭打機、12…クローラ、13…下部走行体、14…上部旋回体、15…杭打作業機械、16…運転台、17…セルフシールカップリング、18…油圧ホース、19…ホース接続部、20…油圧回路、21…油圧ポンプ、22…油圧制御部、23…タンク、24…オイルクーラ、25…循環ポンプ、26…吐出側配管、26a…配管、27…吸入側配管、28…戻り配管、31…回転駆動装置、32…油圧モータ、33…供給配管接続回路、33a…分岐点、34…供給流路切替弁、36…戻り配管接続回路、37…返送ポンプ、38…返送配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより駆動される油圧ポンプから油圧制御部を有する油圧回路を介して供給される作動油により作動する油圧式の作業機械を備えた油圧式作業機において、前記油圧回路は、前記油圧ポンプと前記油圧制御部との間の配管から分岐した供給配管接続回路と、該供給配管接続回路の分岐点と前記油圧制御部との間の配管に設けられた供給流路切替弁と、タンクと前記油圧ポンプとの間の配管から分岐した戻り配管接続回路と、前記供給配管接続回路及び戻り配管接続回路にそれぞれ設けられて各接続回路の作動油の流れを規制する手段とを備えていることを特徴とする油圧式作業機。
【請求項2】
請求項1記載の油圧作業機を2台使用して一方の油圧作業機の出力を増加させる方法であって、一方の油圧作業機の供給配管接続回路と他方の油圧作業機の供給配管接続回路とを油圧ホースを介して接続し、各接続回路の作動油の流れを規制する手段による流れの規制を解除するとともに、他方の油圧作業機の供給流路切替弁を操作して油圧ポンプから吐出された作動油の流れ方向を油圧制御部方向から供給配管接続回路に切り替え、一方の油圧作業機の油圧ポンプから吐出された作動油と、他方の油圧作業機の油圧ポンプから吐出されて該他方の油圧作業機の供給配管接続回路から前記油圧ホースを介して一方の油圧作業機の供給配管接続回路に供給された作動油とを合流させ、合流した作動油を一方の油圧作業機の油圧制御部から該一方の油圧作業機の作業機械に供給して該作業機械の出力を増加させることを特徴とする油圧式作業機の出力増加方法。
【請求項3】
前記油圧作業機が地盤改良機であり、出力を増加させる作業機械が回転掘削装置を駆動する油圧モータであることを特徴とする請求項2記載の油圧式作業機の出力増加方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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