説明

油脂組成物

【課題】構成脂肪酸中のオレイン酸含量が高いモノアシルグリセロールを含有しながらも、室温で液状の油脂組成物を提供する。
【解決手段】室温で液状の油脂組成物であって、構成脂肪酸の60質量%以上がオレイン酸であるモノアシルグリセロールを4〜40質量%、ジアシルグリセロールを3〜96質量%、及びトリアシルグリセロールを0〜90質量%含有し、かつモノアシルグリセロールの含有量Y(質量%)と、ジアシルグリセロールの含有量X(質量%)とが、次式(1)の関係を満たす油脂組成物。Y<X+6(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室温で液状の油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
モノアシルグリセロールは、乳化剤として食品や医薬品、化粧品等に広く用いられている安全性に優れた物質である。
近年、モノアシルグリセロールの構造やモノアシルグリセロールを構成するアシル基の種類に着目した種々の機能を有する油脂が提案され、例えば、部分グリセリド(モノグリセリドおよびジグリセリド)の合計がトリグリセリドより多いグリセリド組成をもつ、高度不飽和脂肪酸を高濃度に含有する油脂自体に乳化性を付与した不飽和脂肪酸含有油脂組成物(特許文献1)が報告されている。また、構成アシル基中のω3系不飽和アシル基含量が15重量%以上であるジグリセリド及び/又はモノグリセリドを5重量%以上含有する油脂(特許文献2)や、構成脂肪酸として炭素数20未満のω3系、ω9系及びω6系の不飽和脂肪酸を特定量含むモノグリセリドと、モノグリセリドに対し一定の割合のジグリセリドを含有する油脂組成物(特許文献3)等が報告されている。
【0003】
一方、油脂を構成する脂肪酸残基におけるオレイン酸は栄養学上好ましい脂肪酸とされ、健康志向への高まりに伴ってオレイン酸比率を高くした食用油脂が消費者に望まれている。
モノアシルグリセロールについても、1−モノオレインが、血清トリグリセリド濃度低下作用、食後のGIP分泌抑制作用を有することが知られている(特許文献4、5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−265795号公報
【特許文献2】特開2001−247457号公報
【特許文献3】特開2002−53892号公報
【特許文献4】特開平5−310567号公報
【特許文献5】特開2007−290989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の構成脂肪酸中のオレイン酸含量が高いモノアシルグリセロールは、室温で固体であるため、使用時に加熱溶解しなければならず、取扱いが容易ではなく、加工法や用途が限定されるという問題があった。また、モノアシルグリセロールを食品の一部として含有させる場合、結晶が析出して不均一となり、所望量を摂取させることが難しくなる上に、食感も悪くなる。
【0006】
従って、本願発明の課題は、構成脂肪酸中のオレイン酸含量が高いモノアシルグリセロールを含有しながらも、室温で液状の油脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、モノアシルグリセロールとジアシルグリセロール及びトリアシルグリセロールをそれぞれ特定量含み、かつモノアシルグリセロールの含有量とジアシルグリセロールの含有量とが一定の関係を満たす油脂組成物であれば、室温下でも結晶化が抑えられ、液状が保たれることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、室温で液状の油脂組成物であって、構成脂肪酸の60質量%以上がオレイン酸であるモノアシルグリセロールを4〜40質量%、ジアシルグリセロールを3〜96質量%及びトリアシルグリセロールを0〜90質量%含有し、かつモノアシルグリセロールの含有量Y(質量%)と、ジアシルグリセロールの含有量X(質量%)とが、次式(1)の関係を満たす油脂組成物を提供するものである。
【0009】
(数1)
Y<X+6 (1)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、構成脂肪酸中のオレイン酸含量が高いモノアシルグリセロールを高濃度に含有するものでありながら、室温で透明性を保ち外観が良好な液状の油脂組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール及びトリアシルグリセロールの含有質量比率の範囲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の油脂組成物は室温で液状である。ここで、室温は23℃とする。液状とは、流動性を有している状態とする。
【0013】
本発明の油脂組成物は、植物性油脂、動物性油脂のいずれを原料とするものでもよい。具体的な原料としては、例えば、大豆油、ナタネ油、サフラワー油、米糠油、コーン油、パーム油、ヒマワリ油、綿実油、オリーブ油、ゴマ油、シソ油等の植物性油脂、更に魚油、ラード、牛脂、バター脂等の動物性油脂、あるいはそれらのエステル交換油、水素添加油、分別油等の油脂類を挙げることができる。これらの油は、それぞれ単独で用いてもよく、あるいは適宜混合して用いてもよい。
【0014】
本発明の油脂組成物は、モノアシルグリセロール及びジアシルグリセロールを含むものである。また、トリアシルグリセロールを含んでいてもよい。
油脂組成物中、モノアシルグリセロールの含有量は4〜40質量%(以下、単に「%」とする)であるが、4〜39%、更に10〜39%、特に15〜38%、殊更20〜35%であるのが生理効果発現の点、低温での保存性、風味の点から好ましい。
【0015】
モノアシルグリセロールを構成する脂肪酸のうち、オレイン酸の含有量は60%以上である。生理効果発現の点、酸化安定性の点から、オレイン酸の含有量は、更に78〜95%、特に80〜85%であることが好ましい。
残余の構成脂肪酸としては、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸のいずれであってもよいが、構成脂肪酸中の80〜100%が不飽和脂肪酸であることが好ましく、より好ましくは82〜95%、さらに83〜90%であるのが外観、油脂の工業的生産性の点で好ましい。不飽和脂肪酸の炭素数は14〜24、さらに16〜22であるのが生理効果の点から好ましい。
【0016】
また、モノアシルグリセロールを構成する脂肪酸のうち、飽和脂肪酸の含有量は0〜20%であることが好ましく、より好ましくは2〜18%、さらに5〜15%であるのが、外観、生理効果、油脂の工業的生産性の点で好ましい。飽和脂肪酸としては、炭素数14〜24、特に16〜22のものが好ましい。
【0017】
また、モノアシルグリセロールを構成する脂肪酸する脂肪酸のうち、トランス不飽和脂肪酸の含有量は、0〜4%、好ましくは0.1〜3.5%、さらに0.2〜3%であるのが風味、生理効果、外観、油脂の工業的生産性の点で好ましい。また、オレイン酸がトランス型となったもの、すなわちエライジン酸の含有量は、生理効果の点から1%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましく、0.3%以下がさらに好ましい。
【0018】
本発明の油脂組成物中、ジアシルグリセロールの含有量は3〜96%である。モノアシルグリセロールの油脂組成物への溶解性を向上させる点から、ジアシルグリセロールの含有量は10〜90%、更に30〜90%、特に40〜80%であるのが好ましい。なお、ジアシルグリセロールの構成脂肪酸は、モノアシルグリセロールと同様であることが、生理効果発現の点から好ましい。
【0019】
本発明の油脂組成物は、モノアシルグリセロールの含有量Y(%)とジアシルグリセロールの含有量X(%)とが、下記(1)式の関係を満たす。
【0020】
(数2)
Y<X+6 (1)
【0021】
すなわち、モノアシルグリセロールの含有量Y(%)が、ジアシルグリセロールの含有量X(%)から式(1)により求められる値よりも小さいとき、室温で結晶化せず、透明で液状の油脂組成物が得られる。
【0022】
さらに、モノアシルグリセロールの含有量Y(%)とジアシルグリセロールの含有量X(%)の関係が、次式(2)の関係を満たすことで、室温以下の温度、好ましくは20℃においても結晶化せず、透明で液状の油脂組成物が得られる。
(数3)
Y<X−2 (2)
【0023】
また、本発明の油脂組成物中、トリアシルグリセロールの含有量は、0〜90%であるが、モノアシルグリセロールの効果を最大限で発揮させる点で、10〜85%、更に10〜70%、特に15〜60%含有するのが好ましい。トリアシルグリセロールの構成脂肪酸は、モノアシルグリセロールと同様であることが、生理効果発現の点から好ましい。
【0024】
また、本発明の油脂組成物は、遊離脂肪酸(塩)を含有してもよく、その含量は、5%以下が好ましく、さらに0〜2%、特に0〜1%であるのが風味、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
【0025】
本発明の油脂組成物におけるモノアシルグリセロール(MAG)、ジアシルグリセロール(DAG)、トリアシルグリセロール(TAG)の含有質量比率の範囲は、図1に示したMAG、DAG、TAG三成分の三角図において、点a(MAG=4、DAG=96、TAG=0)、点b(MAG=40、DAG=60、TAG=0)、点c(MAG=40、DAG=34、TAG=26)、点d(MAG=9、DAG=3、TAG=88)、点e(MAG=7、DAG=3、TAG=90)及び点f(MAG=4、DAG=6、TAG=90)で囲まれる範囲内(但し、点cと点dを結んだ線分上を含まない)である。MAG、DAG、TAG三成分の含有質量比率を、斯かる範囲内とすることで、モノアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のオレイン酸含量が高くても、室温で液状の油脂組成物が得られる。
当該MAG、DAG、TAGの含有質量比率の範囲は、生理効果発現の点、低温での保存性、油脂の工業的生産性の点から、好ましくは点a(MAG=4、DAG=96、TAG=0)、点b(MAG=40、DAG=60、TAG=0)、点h(MAG=40、DAG=42、TAG=18)及び点f(MAG=4、DAG=6、TAG=90)で囲まれる範囲内(但し、点hと点fを結んだ線分上を含まない)であり、更に好ましくは点i(MAG=10、DAG=90、TAG=0)、点b(MAG=40、DAG=60、TAG=0)、点h(MAG=40、DAG=42、TAG=18)、点j(MAG=28、DAG=30、TAG=42)及び点k(MAG=10、DAG=30、TAG=60)で囲まれる範囲内(但し、点hと点jを結んだ線分上を含まない)であり、特に好ましくは点l(MAG=20、DAG=80、TAG=0)、点b(MAG=40、DAG=60、TAG=0)、点h(MAG=40、DAG=42、TAG=18)及び点m(MAG=20、DAG=42、TAG=38)で囲まれる範囲内である。
【0026】
本発明の油脂組成物には、保存性及び風味安定性の向上を目的として、抗酸化剤を添加することができる。抗酸化剤としては、天然抗酸化剤、トコフェロール、アスコルビン酸パルミテート、アスコルビン酸ステアレート、BHT、BHA、リン脂質等が挙げられる。
【0027】
また、本発明の油脂組成物には、調理品の食感又は風味の向上、生理機能付与等の点から乳化剤等を添加することができる。添加剤等としては、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等のポリール脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、植物ステロール、植物ステロールエステル等が挙げられる。
【0028】
本発明の油脂組成物は、室温で液状であり、かつ栄養学上好ましいオレイン酸がモノアシルグリセロールを構成するアシル基として多く存在しているため、取扱性に優れ、また、優れた生理活性を有し、低濃度で作用し、風味良好である。そのため、本発明の油脂組成物は食品、飼料及び医薬品に利用することができる。
【0029】
食品としては、該油脂組成物を一般の食用油脂と同様に食品の一部として含有する油脂含有食品に用いることができる。かかる油脂含有食品としては、例えば、かかる油脂組成物を配合したカプセル剤、錠剤、顆粒剤、粉末剤;パン、ケーキ、クッキー等のベーカリー食品類;スープ類、ソース類、ドレッシング類、マヨネーズ類;クリーム類、チョコレート、キャンデー等の菓子や飲料等が挙げられる。かかる油脂含有食品は、上記油脂組成物の他に、油脂含有食品の種類に応じて一般に用いられる食品原料を添加して製造することができる。本発明の油脂組成物の食品への配合量は、食品の種類によっても異なるが、一般に0.1〜100%、特に1〜80%が好ましい。
【0030】
飼料としては、例えば牛、豚、鶏、羊、馬、山羊等に用いる家畜用飼料、ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、ウナギ、タイ、ハマチ、エビ等に用いる魚介類用飼料、犬、猫、小鳥、リス等に用いるペットフード等が挙げられ、本願発明の油脂組成物の他に一般に用いられる飼料原料とともに混合して製造することができる。本発明の油脂組成物の飼料への配合量は、用途等によっても異なるが、一般に1〜30%、特に1〜20%が好ましい。
【0031】
また、医薬品としては、例えば散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、錠剤等の固形製剤、水剤、懸濁剤、乳剤等の液剤等の経口投与剤が挙げられる。この経口投与剤は、上記油脂組成物の他、経口投与剤の形態に応じて一般に用いられる賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、アルコール類、水、水溶性高分子、甘味料、矯味剤、酸味料等を添加して製造することができる。経口投与用医薬品としては、脳機能改善剤等が挙げられる。本発明の油脂組成物の経口投与用医薬品への配合量は、医薬品の用途及び形態によっても異なるが、一般に0.1〜100%、特に1〜80%が好ましい。また、投与量は、油脂組成物として、1日当たり0.1〜50gを、1〜数回に分けて投与することが好ましい。
【実施例】
【0032】
〔分析方法〕
(i)グリセリド組成
ガラス製サンプル瓶に、油脂サンプル約10mgとトリメチルシリル化剤(「シリル化剤TH」、関東化学製)0.5mLを加え、密栓し、70℃で15分間加熱した。これに水1.0mLとヘキサン1.5mLを加え、振とうした。静置後、上層をガスクロマトグラフィー(GLC)に供して分析した。
【0033】
(ii)構成脂肪酸組成
日本油化学会編「基準油脂分析試験法」中の「脂肪酸メチルエステルの調製法(2.4.1.−1996)」に従って脂肪酸メチルエステルを調製し、得られたサンプルを、American Oil Chemists.Society Official Method Ce 1f−96(GLC法)により測定した。
【0034】
〔原料油脂の調製〕
菜種油を加水分解して得た脂肪酸564gとグリセリン92gとを混合し、固定化1,3位選択リパーゼ(ノボルディスクインダストリー社製)を触媒としてエステル化反応を行った。リパーゼ製剤を濾別した後、反応終了品を分子蒸留し、更に脱色、水洗した後脱臭して、ジアシルグリセロール含有油脂を得た。これを原料油脂Bとして用いた。分析値を表1に示す。
また、原料油脂A、Cとして、表1の組成を持つ油脂を用いた。
【0035】
【表1】

【0036】
原料油脂A〜Cを混合、溶解して油脂組成物をそれぞれ調製した。各油脂組成物のグリセリド組成及びモノアシルグリセロールの脂肪酸組成を表2に示す。
【0037】
〔外観の評価〕
各油脂組成物を調製後、20℃、23℃に1日保存した後の外観を、次の基準により目視にて評価した。結果を表2に示す。
【0038】
外観の評価基準
1:清澄な状態
2:わずかに霞がかかった状態
3:一部結晶が析出、もしくは固化した状態
【0039】
【表2】

【0040】
表2に示された結果から明らかなように、本発明の油脂組成物は、構成脂肪酸中のオレイン酸含量が高いモノアシルグリセロールを含有しながらも、室温23℃で液状であり、透明性を保ち外観が良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
室温で液状の油脂組成物であって、構成脂肪酸の60質量%以上がオレイン酸であるモノアシルグリセロールを4〜40質量%、ジアシルグリセロールを3〜96質量%、及びトリアシルグリセロールを0〜90質量%含有し、かつモノアシルグリセロールの含有量Y(質量%)と、ジアシルグリセロールの含有量X(質量%)とが、次式(1)の関係を満たす油脂組成物。
(数1)
Y<X+6 (1)
【請求項2】
モノアシルグリセロールを構成する脂肪酸の0〜20質量%が飽和脂肪酸である請求項1記載の油脂組成物。

【図1】
image rotate