説明

波形発生器及びそれを備えた信号発生装置並びに波形発生方法及び信号発生方法

【課題】周波数偏移変調された任意の波形パターンを発生し、発生した波形パターンの先頭と最後尾の位相を連続させることができる波形発生器及びそれを備えた信号発生装置並びに波形発生方法及び信号発生方法を提供する。
【解決手段】波形発生器10は、任意の波形データを生成する波形データ生成部12と、波形データ生成部12から入力した生成波形データをFSK変調方式に基づいてIQ平面にマッピングしてその結果により接続部位相差を求めるシンボルマッピング部14と、接続部位相差をゼロにする分配位相補正値を算出するとともに、周波数補正データを算出する補正値算出部15と、補正値算出部15が算出した分配位相補正値を生成波形データの全シンボルに分配して各シンボルの位相を補正する位相補正部16と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、移動無線通信機で使用される周波数偏移変調(Frequency Shift Keying:FSK)信号の波形を発生する波形発生器及びそれを備えた信号発生装置並びに波形発生方法及び信号発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、業務用の移動無線通信機分野では周波数利用効率の観点から1チャネルあたりの周波数帯域の狭帯域化やデジタル化が進められている。デジタル化に際しては、既存のアナログ方式の無線通信機との共存や既設備の流用、制御の容易さ等からFSK変調方式が採用される場合が多い。
【0003】
FSK変調方式が採用された移動無線通信機等を試験する際には、例えば、FSK信号の波形パターンのデータをメモリ部に記憶し、記憶した波形パターンのFSK信号を繰り返し再生する波形発生器が用いられる。
【0004】
しかしながら、移動無線通信機等を試験するための試験条件において、FSK信号の周期や波形パターンのデータ長等は、規格で定められているので自由に変更することはできない。また、波形パターンのデータを記憶するメモリ部の容量も限られている。そのため、従来の波形発生器では、通常、波形パターンの先頭と最後尾とを接続する接続部で位相が不連続となって位相が滑らかに変化しない現象が発生する。具体的には、メモリ部に記憶された波形パターンのFSK信号を2回繰り返して再生した場合、図7に示すように、1回目の再生の波形パターンと2回目の再生の波形パターンとの接続部で位相が不連続となるのが通常であった。
【0005】
波形パターンの接続部において位相が不連続となると、移動無線通信機等において位相の不連続箇所でスプリアスが発生するほか、同期が外れて本来であればエラーフリーとなるところでエラーが発生するので、受信感度試験等が正確に行えないこととなる。そのため、図8に示すように、波形パターンの接続部において位相が滑らかに変化するよう位相を連続させる必要がある。なお、図7及び図8において、実線の波形はI相成分(同相成分)を示し、破線の波形はQ相成分(直交成分)を示している。
【0006】
前述の事情に鑑み、接続部の位相を連続させた波形パターンのFSK信号を発生する任意波形信号発生装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この任意波形信号発生装置は、PN(Pseudo-Noise)信号を繰り返し出力するデジタルデータ発生器と、デジタルデータ発生器の出力データの各ビットに補正値を分割して加算する補正手段と、を備え、接続部の位相が連続したFSK信号を発生することができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−44170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されたものは、PN系列データのみに基づいてFSK信号を発生させるものであり、PN系列データ以外の波形パターンのFSK信号を発生できないという課題があった。
【0009】
本発明は、従来の課題を解決するためになされたものであり、周波数偏移変調された任意の波形パターンを発生し、発生した波形パターンの先頭と最後尾の位相を連続させることができる波形発生器及びそれを備えた信号発生装置並びに波形発生方法及び信号発生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に係る波形発生器は、予め定められたデータ長を有する任意の波形パターンのデータを生成する波形データ生成手段(12)と、前記波形パターンのデータを周波数偏移変調してシンボルを生成し、前記波形パターンのデータの先頭と最後尾のシンボル間位相差を求めるシンボル間位相差取得手段(14)と、前記シンボル間位相差をゼロにするための位相補正値を求める位相補正値取得手段(15a)と、前記位相補正値取得手段が取得した前記位相補正値をシンボル数分に分割し各シンボルに分配して前記各シンボルの位相を補正する位相補正手段(16)と、前記各シンボルの位相を補正することによって生じる周波数オフセットをゼロにするための周波数補正値を算出する周波数補正値算出手段(15b)と、を備えた構成を有している。
【0011】
この構成により、本発明の請求項1に係る波形発生器は、波形データ生成手段が、任意の波形パターンのデータを生成し、位相補正値取得手段が、シンボル間位相差をゼロにするための位相補正値を求め、位相補正手段が、位相補正値取得手段が求めた位相補正値をシンボル数分に分割し各シンボルに分配して各シンボルの位相を補正する。したがって、本発明の請求項1に係る波形発生器は、周波数偏移変調された任意の波形パターンを発生し、発生した波形パターンの先頭と最後尾の位相を連続させることができる。
【0012】
また、この構成により、本発明の請求項1に係る波形発生器は、周波数補正値算出手段が、各シンボルの位相を補正することによって生じる周波数オフセットをゼロにするための周波数補正値を算出するので、周波数オフセットを発生させることなく、任意の波形パターンの先頭と最後尾の位相を連続させることができる。
【0013】
また、本発明の請求項2に係る波形発生器は、前記シンボル間位相差取得手段が、周波数偏移変調して生成したシンボルを直交座標平面に配置した結果に基づいて前記シンボル間位相差を求めるものである構成を有している。
【0014】
この構成により、本発明の請求項2に係る波形発生器は、シンボル間位相差を正確に求めることができるので、任意の波形パターンの先頭と最後尾の位相を確実に連続させることができる。
【0015】
本発明の請求項3に係る信号発生装置は、請求項1又は2に記載の波形発生器を備えた信号発生装置(30)であって、前記位相補正手段によって位相が補正されたシンボルを含む波形パターンのデータを記憶し、記憶した波形パターンの先頭データから最後尾データまでを繰り返し出力するメモリ部(21)と、前記メモリ部が出力した波形パターンのデータを予め定められた無線周波数の周波数偏移変調信号に周波数変換する周波数変換手段(25)と、前記周波数補正値算出手段が算出した周波数補正値に基づいて前記無線周波数を補正する無線周波数補正手段(23)と、を備えた構成を有している。
【0016】
この構成により、本発明の請求項3に係る信号発生装置は、波形パターンの先頭と最後尾の位相が連続した周波数偏移変調信号を発生することができる。
【0017】
本発明の請求項4に係る波形発生方法は、予め定められたデータ長を有する任意の波形パターンのデータを生成する波形データ生成ステップと、前記波形パターンのデータを周波数偏移変調してシンボルを生成し、前記波形パターンのデータの先頭と最後尾のシンボル間位相差を求めるシンボル間位相差取得ステップと、前記シンボル間位相差をゼロにするための位相補正値を求める位相補正値取得ステップと、前記位相補正値取得ステップにおいて取得した前記位相補正値をシンボル数分に分割し各シンボルに分配して前記各シンボルの位相を補正する位相補正ステップと、前記各シンボルの位相を補正することによって生じる周波数オフセットをゼロにするための周波数補正値を算出する周波数補正値算出ステップと、を含む構成を有している。
【0018】
この構成により、本発明の請求項4に係る波形発生方法は、波形データ生成ステップにおいて、任意の波形パターンのデータを生成し、位相補正値取得ステップにおいて、シンボル間位相差をゼロにするための位相補正値を求め、位相補正ステップにおいて、位相補正値取得ステップで求めた位相補正値をシンボル数分に分割し各シンボルに分配して各シンボルの位相を補正する。したがって、本発明の請求項4に係る波形発生方法は、周波数偏移変調された任意の波形パターンを発生し、発生した波形パターンの先頭と最後尾の位相を連続させることができる。
【0019】
また、この構成により、本発明の請求項4に係る波形発生方法は、周波数補正値算出ステップにおいて、各シンボルの位相を補正することによって生じる周波数オフセットをゼロにするための周波数補正値を算出するので、周波数オフセットを発生させることなく、任意の波形パターンの先頭と最後尾の位相を連続させることができる。
【0020】
また、本発明の請求項5に係る波形発生方法は、前記シンボル間位相差取得ステップにおいて、周波数偏移変調して生成したシンボルを直交座標平面に配置した結果に基づいて前記シンボル間位相差を求める構成を有している。
【0021】
この構成により、本発明の請求項5に係る波形発生方法は、シンボル間位相差を正確に求めることができるので、任意の波形パターンの先頭と最後尾の位相を確実に連続させることができる。
【0022】
本発明の請求項6に係る信号発生方法は、請求項4又は5に記載の波形発生方法における各ステップを含む信号発生方法であって、前記位相補正ステップにおいて位相が補正されたシンボルを含む波形パターンのデータを記憶し、記憶した波形パターンの先頭データから最後尾データまでを繰り返し出力するデータ出力ステップと、前記データ出力ステップにおいて出力した波形パターンのデータを予め定められた無線周波数の周波数偏移変調信号に周波数変換する周波数変換ステップと、前記周波数補正値算出ステップにおいて算出した周波数補正値に基づいて前記無線周波数を補正する無線周波数補正ステップと、を含む構成を有している。
【0023】
この構成により、本発明の請求項6に係る信号発生方法は、波形パターンの先頭と最後尾の位相が連続した周波数偏移変調信号を発生することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、周波数偏移変調された任意の波形パターンを発生し、発生した波形パターンの先頭と最後尾の位相を連続させることができるという効果を有する波形発生器及びそれを備えた信号発生装置並びに波形発生方法及び信号発生方法を提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態における波形発生器の構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態においてシンボルマッピング部がマッピングするデータを示す図である。
【図3】本発明の第1実施形態において位相補正部が行うシンボルの位相補正の説明図である。
【図4】本発明の第1実施形態において、位相補正前後におけるFSK信号のI相成分の波形例を示す図である。
【図5】本発明の第1実施形態において、位相補正前後におけるFSK信号のQ相成分の波形例を示す図である。
【図6】本発明の第2実施形態における信号発生装置の構成図である。
【図7】波形パターンの接続部において位相が不連続となっている例を示す図である。
【図8】波形パターンの接続部において位相が連続している例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
【0027】
(第1実施形態)
まず、本発明の第1実施形態における波形発生器の構成について説明する。
【0028】
図1に示すように、本実施形態における波形発生器10は、操作部11、波形データ生成部12、メモリ部13、シンボルマッピング部14、補正値算出部15、位相補正部16、フィルタ部17、周波数変換部18を備えている。なお、波形発生器10は、図示を省略したが、波形発生器10の全体の動作を制御するCPU及びこのCPUを機能させるためのプログラムを記憶するROM、RAM等で構成された制御回路を備えている。
【0029】
操作部11は、波形データを生成するためのパラメータを設定するため、ユーザが操作するものである。例えば、操作部11は、図示を省略したが、パラメータを設定するための設定画面を表示するディスプレイと、キーボード、ダイヤル又はマウスのような入力デバイスと、これらを制御する制御回路と、を備えている。
【0030】
波形データ生成部12は、ユーザが操作部11を操作して入力したパラメータに基づき、2値化した所定データ長の波形パターンのデータを生成するようになっている。この波形データ生成部12は、本発明に係る波形データ生成手段を構成する。
【0031】
メモリ部13は、例えばRAMで構成され、後述するようにマッピングデータを記憶するようになっている。
【0032】
シンボルマッピング部14は、波形データ生成部12が生成した波形パターンのデータ(以下「生成波形データ」という。)を入力し、入力した生成波形データをFSK変調してシンボルを生成するようになっている。そして、シンボルマッピング部14は、生成したシンボルをIQ平面にマッピング(配置)するようになっている。このマッピングされたデータは、メモリ部13に記憶される。ここで、シンボルマッピング部14は、本発明に係るシンボル間位相差取得手段を構成する。
【0033】
具体的には、本実施形態において、シンボルマッピング部14は、4値FSK変調方式に基づいてシンボルを生成してマッピングするものとする。すなわち、シンボルマッピング部14は、図2(a)に示すように、入力した信号に応じて1シンボルで2ビットの組み合わせ"01"、"00"、"10"、"11"のうちのいずれか1つを表して、図2(b)に示すIQ平面にシンボルをマッピングする。ここで、シンボルレートは2.4ksps(キロシンボル毎秒)とする。また、周波数偏移値は、ビット値"01"(シンボル値+3)では+900Hz、ビット値"00"(シンボル値+1)では+300Hz、ビット値"10"(シンボル値−1)では−300Hz、ビット値"11"(シンボル値−3)では−900Hzである。
【0034】
さらに、シンボルマッピング部14は、シンボルをIQ平面にマッピングした結果に基づき、生成波形データにおける先頭のシンボルと最後尾のシンボルとの間の位相差(以下「接続部位相差」という。)を求め、求めた接続部位相差のデータを補正値算出部15に出力するようになっている。
【0035】
補正値算出部15は、位相補正値取得部15aと、周波数補正値算出部15bと、を備えている。位相補正値取得部15aは、シンボルマッピング部14が求めた接続部位相差を生成波形データの全シンボルに等分に分配して接続部位相差をゼロにする位相補正値(以下「分配位相補正値」という。)を次式(1)により算出するようになっている。ここで、△θは分配位相補正値、θcは接続部位相差、Nは生成波形データを4値FSK変調方式で変調した際のシンボル数を示す。
△θ=−θc/N (1)
【0036】
また、周波数補正値算出部15bは、生成波形データの全シンボルに分配位相補正値△θを分配することによって生じる周波数オフセットを次式(2)により算出するようになっている。ここで、△fは周波数オフセット、Rはシンボルレートを示す。
△f=−θc・R/(2π・N) (2)
【0037】
さらに、補正値算出部15は、分配位相補正値△θのデータを位相補正部16に出力するとともに、周波数オフセット△fのデータを周波数補正データとして、波形発生器10に接続された機器に出力するようになっている。この補正値算出部15の位相補正値取得部15a及び周波数補正値算出部15bは、それぞれ、本発明に係る位相補正値取得手段及び周波数補正値算出手段を構成する。
【0038】
位相補正部16は、生成波形データのマッピングデータをメモリ部13から読み出し、補正値算出部15が算出した分配位相補正値△θを生成波形データの全シンボルに分配し、各シンボルの位相補正を行うようになっている。この位相補正部16は、本発明に係る位相補正手段を構成する。
【0039】
具体的に図3を用いて説明する。図3に示す黒丸点は、生成波形データの全シンボルのうちの1シンボルのマッピングデータを示しており、その位相はI相軸を基準としてθである。ここで、補正値算出部15が算出した分配位相補正値△θが正値である場合、位相補正部16は、このシンボルの位相をθ+△θに補正する。その結果、補正後のシンボル点は白丸点の位置となる。位相が補正されたマッピングデータは、メモリ部13に記憶され、位相補正部16によって読み出される。
【0040】
フィルタ部17は、位相補正部16が位相補正した信号を帯域制限するようになっている。その結果、ノイズ成分が除去され、フィルタ部17の出力信号は各シンボル間が滑らかに変化したものとなる。
【0041】
周波数変換部18は、フィルタ部17の出力信号の各シンボル値をその値に応じた周波数の波形に変換し、変換した波形データを出力するようになっている。
【0042】
次に、本実施形態における波形発生器10の動作について説明する。
【0043】
ユーザが操作部11を操作することにより、波形データを生成するための波形パラメータが設定される。
【0044】
波形データ生成部12は、操作部11から波形パラメータのデータを入力し、2値化した所定データ長の波形データを生成する(波形データ生成ステップ)。
【0045】
シンボルマッピング部14は、波形データ生成部12から生成波形データを入力し、入力した生成波形データをFSK変調してシンボルを生成し、生成したシンボルをIQ平面にマッピングする。そして、シンボルマッピング部14は、シンボルをIQ平面にマッピングした結果により、接続部位相差θcを求める(シンボル間位相差取得ステップ)。以下、生成波形データの1周期分のシンボル数N=511とし、図2(a)に示した条件で接続部位相差θc=−π/4が生じたものとして説明する。この場合、シンボルマッピング部14は、接続部位相差θcをゼロにするための位相補正値(=−θc)として+π/4を取得する(位相補正値取得ステップ)。
【0046】
補正値算出部15は、シンボルマッピング部14から接続部位相差θcをゼロにするための位相補正値のデータを入力し、前述の式(1)に基づいて分配位相補正値△θを算出する(位相補正値取得ステップ)。その結果、分配位相補正値△θ=+π/2044が得られる。また、補正値算出部15は、前述の式(2)に基づいて周波数オフセット△fを算出する。その結果、周波数オフセット△f=+0.587Hzが得られる。補正値算出部15は、分配位相補正値△θのデータを位相補正部16に出力するとともに、周波数オフセット△fのデータを周波数補正データとして、波形発生器10に接続された機器に出力する(周波数補正値算出ステップ)。
【0047】
位相補正部16は、生成波形データのマッピングデータをメモリ部13から読み出し、補正値算出部15が算出した分配位相補正値△θ(=+π/2044)を生成波形データの全シンボルに分配し、各シンボルの位相補正を行う(位相補正ステップ)。
【0048】
フィルタ部17は、位相補正部16が位相補正した信号を帯域制限し、帯域制限した信号を周波数変換部18に出力する。
【0049】
周波数変換部18は、フィルタ部17の出力信号の各シンボル値をその値に応じた周波数の波形に変換し、変換した波形データを出力する。例えば、図2(a)に示した条件において、フィルタ部17がシンボル値+3の信号を出力した場合、周波数変換部18は、周波数編移値+900Hzを示す波形データを1/2400秒間出力する。
【0050】
次に、本実施形態における波形発生器10によって得られる波形パターンについて説明する。図4及び図5は、それぞれ、フィルタ部17から出力される位相補正前後におけるFSK信号のI相成分及びQ相成分の波形図の一例である。図4及び図5では、波形パターンの先頭と最後尾との接続部における位相状態を例示するため、フィルタ部17の出力信号を2回再生したものとして図示している。図4及び図5に示すように、位相補正前(破線)においては接続部で位相が不連続となっているが、位相補正後(実線)においては接続部で位相が連続して滑らかに変化する波形となっている。
【0051】
以上のように、本実施形態における波形発生器10は、ユーザが所望するFSK信号の任意の波形データを生成する波形データ生成部12を備えた構成を有する。また、波形発生器10は、補正値算出部15が、シンボルマッピング部14が求めた接続部位相差から分配位相補正値を算出するとともに、周波数補正データを算出して出力し、位相補正部16が、補正値算出部15が算出した分配位相補正値を生成波形データの全シンボルに分配して各シンボルの位相補正を行う構成を有する。したがって、波形発生器10は、FSK信号の任意の波形パターンを発生し、発生した波形パターンの先頭と最後尾の位相を連続させることができる。
【0052】
また、本実施形態における波形発生器10は、補正値算出部15が、各シンボルの位相を補正することによって生じる周波数オフセットをゼロにするための周波数補正値を算出し、波形発生器10に接続された機器に出力する。したがって、波形発生器10は、各シンボルの位相を補正することによって生じる周波数オフセットを発生させることなく、任意の波形パターンの先頭と最後尾の位相を連続させることができる。
【0053】
なお、前述の実施形態において、シンボルマッピング部14がIQ平面にシンボルをマッピングすることにより接続部位相差を求める構成としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、接続部位相差を演算によって求めることができる場合はIQ平面にマッピングしないで接続部位相差を求める構成としてもよい。
【0054】
(第2実施形態)
まず、本発明の第2実施形態における信号発生装置の構成について説明する。
【0055】
図6に示すように、本実施形態における信号発生装置30は、波形発生器10と、信号発生器20と、を備えている。なお、波形発生器10は、第1実施形態(図1参照)で説明したので、重複する説明は省略する。
【0056】
信号発生器20は、メモリ部21、DAC(Digital Analog Converter)22、局部信号発振器23、操作部24、ミキサ25、アンプ26を備えている。この信号発生器20は、波形発生器10が発生した波形データのFSK信号をベースバンド信号として入力し、これをアップコンバートして被試験装置(例えば移動無線通信機)にRF(無線周波数)信号を出力するものである。
【0057】
また、信号発生器20は、図示を省略したが、信号発生器20の全体の動作を制御するCPU及びこのCPUを機能させるためのプログラムを記憶するROM、RAM等で構成された制御回路を備えている。この制御回路により、メモリ部21のデータが繰り返し再生されて被試験装置に出力され、被試験装置の受信感度試験等が実施されるようになっている。
【0058】
メモリ部21は、周波数変換部18から波形データを入力して記憶するようになっている。本実施形態において、メモリ部21に記憶される波形データのデータ長は、メモリ部21の容量内に収まるデータ長となるよう、波形発生器10の操作部11によって設定されている。
【0059】
DAC22は、メモリ部21に記憶されたデジタル値の波形データをアナログ値の波形データに変換するようになっている。
【0060】
局部信号発振器23は、波形発生器10の補正値算出部15からの周波数補正データと、後述する操作部24によって設定されたパラメータのデータとを入力し、周波数補正した中心周波数を有するRF信号を生成するための局部発振信号を発生してミキサ25に出力するようになっている。ここで、局部信号発振器23は、本発明に係る無線周波数補正手段を構成する。
【0061】
操作部24は、RF信号の中心周波数(又は局部信号発振器23の発振周波数)や、振幅等を定めるためのパラメータを設定するため、ユーザが操作するものである。なお、例えば、波形発生器10が有する操作部11の機能を操作部24に持たせ、ユーザが操作部24を操作して波形データを生成するためのパラメータを入力する構成としてもよい。
【0062】
ミキサ25は、DAC22からの信号と局部信号発振器23からの信号とを乗算して所定周波数のRF信号に周波数変換し、RF信号をアンプ26に出力するようになっている。ここで、ミキサ25は、本発明に係る周波数変換手段を構成する。
【0063】
アンプ26は、ミキサ25が出力するRF信号を所定の増幅率で増幅して被試験装置に出力するようになっている。
【0064】
次に、本実施形態における信号発生装置30の動作について説明する。なお、以下の動作説明では、予めユーザが操作部24を操作して、RF信号の中心周波数(又は局部信号発振器23の局部発振周波数)を設定しているものとする。また、波形発生器10における動作については第1実施形態で説明したので、本実施形態に関する動作についてのみ説明する。
【0065】
波形発生器10において、波形データ生成部12は、信号発生器20のメモリ部21の容量に応じたデータ長の波形データを生成する。また、補正値算出部15は、周波数オフセット△fを算出し、このデータを周波数補正データとして局部信号発振器23に出力する。また、周波数変換部18は、フィルタ部17の出力信号の各シンボル値をその値に応じた周波数の波形データに変換し、変換した波形データをメモリ部21に出力する。
【0066】
信号発生器20において、メモリ部21は、周波数変換部18からの波形データを記憶する。記憶された波形データは、波形パターンの先頭から最後尾までを1周期として、図示省略した制御回路によって繰り返し再生され、DAC22に出力される(データ出力ステップ)。
【0067】
DAC22は、メモリ部21から出力されたデジタル値の波形データをアナログ値の波形データに変換してミキサ25に出力する。
【0068】
ミキサ25は、DAC22からの信号と局部信号発振器23からの信号とを乗算して所定の中心周波数を有するRF信号に周波数変換する(周波数変換ステップ)。ここで、局部信号発振器23は、補正値算出部15から周波数オフセット△fを示す周波数補正データを入力しており、ユーザが操作部24を介して設定したRF信号の中心周波数が得られる局部発振信号をミキサ25に出力している(無線周波数補正ステップ)。例えば、図2(a)に示した条件で、接続部位相差θc=−π/4が生じた場合における周波数オフセットは△f=+0.587Hzとなるので、ユーザが操作部24により設定したRF信号の中心周波数をFとすると、局部信号発振器23は、RF信号の中心周波数=F−0.587Hzとなる局部発振信号をミキサ25に出力する。ここで、RF信号の中心周波数Fの具体例は、F=150MHz、又はF=400MHzである。
【0069】
ミキサ25が出力したRF信号はアンプ26に入力される。そして、アンプ26は、ミキサ25からのRF信号を所定の増幅率で増幅して被試験装置に出力する。
【0070】
以上のように、本実施形態における信号発生装置30によれば、メモリ部21は、周波数変換部18から波形パターンの先頭と最後尾の位相が連続した波形データを入力して記憶した後、波形データをDAC22に繰り返して出力し、ミキサ25は、DAC22からの信号と局部信号発振器23からの信号とを乗算して所定の中心周波数のRF信号に周波数変換する構成としたので、任意の波形パターンの先頭と最後尾の位相が連続したFSK信号を発生することができる。
【0071】
また、本実施形態における信号発生装置30は、局部信号発振器23が、補正値算出部15からの周波数補正データに基づき、操作部24で設定されたRF信号の中間周波数を補正するので、アップコンバート処理において発生する周波数ずれを自動的に補正することができる。
【0072】
なお、前述の実施形態において、局部信号発振器23が、生成波形データの全シンボルに分配位相補正値△θを分配することによって生じる周波数オフセット△fを自動的に補正する構成を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、信号発生器20に周波数オフセット△fの値を表示する表示部を設け、ユーザに手動で局部発振周波数を補正させる構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
以上のように、本発明に係る波形発生器及びそれを備えた信号発生装置並びに波形発生方法及び信号発生方法は、周波数偏移変調された任意の波形パターンを発生し、発生した波形パターンの先頭と最後尾の位相を連続させることができるという効果を有し、移動無線通信機等で使用されるFSK信号の波形を発生する波形発生器及びそれを備えた信号発生装置並びに波形発生方法及び信号発生方法として有用である。
【符号の説明】
【0074】
10 波形発生器
11 操作部
12 波形データ生成部(波形データ生成手段)
13 メモリ部
14 シンボルマッピング部(シンボル間位相差取得手段)
15 補正値算出部
15a 位相補正値取得部(位相補正値取得手段)
15b 周波数補正値算出部(周波数補正値算出手段)
16 位相補正部(位相補正手段)
17 フィルタ部
18 周波数変換部
20 信号発生器
21 メモリ部
22 DAC
23 局部信号発振器(無線周波数補正手段)
24 操作部
25 ミキサ(周波数変換手段)
26 アンプ
30 信号発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め定められたデータ長を有する任意の波形パターンのデータを生成する波形データ生成手段(12)と、
前記波形パターンのデータを周波数偏移変調してシンボルを生成し、前記波形パターンのデータの先頭と最後尾のシンボル間位相差を求めるシンボル間位相差取得手段(14)と、
前記シンボル間位相差をゼロにするための位相補正値を求める位相補正値取得手段(15a)と、
前記位相補正値取得手段が取得した前記位相補正値をシンボル数分に分割し各シンボルに分配して前記各シンボルの位相を補正する位相補正手段(16)と、
前記各シンボルの位相を補正することによって生じる周波数オフセットをゼロにするための周波数補正値を算出する周波数補正値算出手段(15b)と、を備えたことを特徴とする波形発生器。
【請求項2】
前記シンボル間位相差取得手段は、周波数偏移変調して生成したシンボルを直交座標平面に配置した結果に基づいて前記シンボル間位相差を求めるものであることを特徴とする請求項1に記載の波形発生器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の波形発生器を備えた信号発生装置(30)であって、
前記位相補正手段によって位相が補正されたシンボルを含む波形パターンのデータを記憶し、記憶した波形パターンの先頭データから最後尾データまでを繰り返し出力するメモリ部(21)と、
前記メモリ部が出力した波形パターンのデータを予め定められた無線周波数の周波数偏移変調信号に周波数変換する周波数変換手段(25)と、
前記周波数補正値算出手段が算出した周波数補正値に基づいて前記無線周波数を補正する無線周波数補正手段(23)と、を備えたことを特徴とする信号発生装置。
【請求項4】
予め定められたデータ長を有する任意の波形パターンのデータを生成する波形データ生成ステップと、
前記波形パターンのデータを周波数偏移変調してシンボルを生成し、前記波形パターンのデータの先頭と最後尾のシンボル間位相差を求めるシンボル間位相差取得ステップと、
前記シンボル間位相差をゼロにするための位相補正値を求める位相補正値取得ステップと、
前記位相補正値取得ステップにおいて取得した前記位相補正値をシンボル数分に分割し各シンボルに分配して前記各シンボルの位相を補正する位相補正ステップと、
前記各シンボルの位相を補正することによって生じる周波数オフセットをゼロにするための周波数補正値を算出する周波数補正値算出ステップと、を含むことを特徴とする波形発生方法。
【請求項5】
前記シンボル間位相差取得ステップにおいて、周波数偏移変調して生成したシンボルを直交座標平面に配置した結果に基づいて前記シンボル間位相差を求めることを特徴とする請求項4に記載の波形発生方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の波形発生方法の各ステップを含む信号発生方法であって、
前記位相補正ステップにおいて位相が補正されたシンボルを含む波形パターンのデータを記憶し、記憶した波形パターンの先頭データから最後尾データまでを繰り返し出力するデータ出力ステップと、
前記データ出力ステップにおいて出力した波形パターンのデータを予め定められた無線周波数の周波数偏移変調信号に周波数変換する周波数変換ステップと、
前記周波数補正値算出ステップにおいて算出した周波数補正値に基づいて前記無線周波数を補正する無線周波数補正ステップと、を含むことを特徴とする信号発生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−234026(P2011−234026A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101044(P2010−101044)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】