説明

洗濯耐久性に優れたアミノ酸誘導体徐放性繊維、該繊維を含有する繊維構造物、及びそれらの製造方法

【課題】 アミノ酸誘導体の徐放性及びアミノ酸誘導体の洗濯耐久性の両方を有するスキンケア効果の持続に優れた繊維を提供する。
【解決手段】 酸性基含有重合体からなる繊維にマグネシウム、バリウム、ジルコニウム、銀、亜鉛、アルミニウム及びチタンからなる群から選択される元素及びアミノ酸誘導体が付与されており、前記繊維を人工汗液に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出率αが10%以上であり、20回洗濯後の前記繊維中のアミノ酸誘導体の残存率が10%以上であることを特徴とするアミノ酸誘導体徐放性繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚にアミノ酸誘導体を供給することにより角質層の水分保持機能を補い正常な皮膚を保つ効果(以下、スキンケア効果とも言う)を有し、さらにこのスキンケア効果が洗濯を繰り返しても低下しない繊維に関する。また、本発明は、かかる繊維を含有する繊維構造物並びにそれらの製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸や蛋白質などのアミノ酸誘導体は、本来人間の体に備わっている天然保湿因子であり、スキンケア特性を有するものとして知られており、近年、この特性に注目してアミノ酸や蛋白質を付与した肌に優しい繊維製品の開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、繊維製品に蛋白質であるセリシンを付与したスキンケア性製品が開示されている。該製品はセリシン水溶液に繊維製品を浸漬して乾燥することによって得られるが、セリシンを繊維製品に積極的に固着させる因子がないため、付与されるセリシンの量は少なく、また、付与されたセリシンも脱落しやすいので、スキンケア効果は小さく、満足いくものではないものとなってしまう。
【0004】
一方、特許文献2には、アミノ酸であるアルギニンをバインダーを介して付与した繊維製品が開示されている。該文献の実施例1では、洗濯10回後のアルギニンの保持率が90%を越えることが示されており、バインダーを使用することにより、優れた洗濯耐久性が得られることが示されている。しかし、このことは、裏を返せば、付与されたアルギニンがなかなか放出されないということである。すなわち、バインダーを使用した場合には、皮膚へのアミノ酸誘導体の移行が必然的に乏しくなり、スキンケア効果も小さなものとならざるを得ない。
この不利を解消するために、繊維に対してより多くのアミノ酸誘導体を付与することが考えられる。しかし、そのためには、それに見合ったより多くのバインダーを使用せざるを得ず、バインダーの使用量が多くなるほど、風合いは硬くなってしまう。皮膚に接触するような用途に使用される場合には、風合いの低下は大きな問題となる。加えて、実際には放出されずにスキンケア効果に関与することのないアミノ酸誘導体を多量に付与しなければならず、経済的にも望ましくない。
【0005】
また、特許文献3には、繊維構造物にアミノ酸水溶液を含浸した後、プラズマ処理でアミノ酸を架橋重合させることで固着させる方法が開示されている。該方法においてはバインダーを使用しないが、架橋重合によってアミノ酸が水不溶性の高分子となり、繊維表面に強く固着されるため、該方法で製造された繊維構造物を皮膚に接触させたとしても、上記と同様に皮膚へのアミノ酸の移行はほとんどなく、スキンケア効果はあまり期待できなかった。
【0006】
この点に対し、本発明者らは、特許文献4において、繊維が電解質塩類含有水分と接触したときにアミノ酸誘導体が徐々に放出されるようにするため、アミノ酸誘導体を繊維上に保持させる手段として酸性基含有重合体とのイオン結合を採用することを提案している。
【0007】
しかしながら、特許文献4の方法で製造された繊維は、アミノ酸誘導体の徐放性には優れるものの、洗濯耐久性に劣り、10回程度の洗濯でほぼ全てのアミノ酸誘導体が繊維から脱落してスキンケア効果を発現しなくなるという欠点を有していた。この欠点について、特許文献4では、アミノ酸誘導体が脱落した後の繊維をアミノ酸誘導体溶液で再処理することにより、再びアミノ酸誘導体をイオン結合させ、スキンケア特性を再生させることを提案しているが、繊維の使用者である一般消費者がかかる再生処理を行うことは実際には極めて困難であり、実現性があまり期待できなかった。
【特許文献1】特開平8−60547号公報
【特許文献2】特開2002−13071号公報
【特許文献3】特開平5−295657号公報
【特許文献4】WO 2005/007714号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、アミノ酸誘導体の徐放性及びアミノ酸誘導体の洗濯耐久性の両方を有するスキンケア効果の持続に優れた繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述の目的を達成するために、繊維に付与されたアミノ酸誘導体が汗に対して徐放するが、洗濯時には完全に脱落しないようにする方法について鋭意検討した結果、アミノ酸誘導体を繊維中の酸性基と結合させた後、さらに特定の元素を繊維に付与してアミノ酸誘導体を繊維上に沈着・不溶化させることにより、アミノ酸誘導体の汗に対する徐放性とアミノ酸誘導体の洗濯による脱落に対する耐久性の両方を達成できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
即ち、本発明は以下の(1)〜(14)の手段により達成される。
(1)酸性基含有重合体からなる繊維にマグネシウム、バリウム、ジルコニウム、銀、亜鉛、アルミニウム及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の元素及びアミノ酸誘導体が付与されており、前記繊維を人工汗液に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出率αが10%以上であり、20回洗濯後の前記繊維中のアミノ酸誘導体の残存率が10%以上であることを特徴とするアミノ酸誘導体徐放性繊維。
(2)アミノ酸誘導体が分子内に下記式[I]で示す構造を有することを特徴とする(1)に記載のアミノ酸誘導体徐放性繊維:
【化1】

式中、Rは少なくとも1個以上の塩基性官能基を有する基を表わす。
(3)アミノ酸誘導体が塩基性アミノ酸であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のアミノ酸誘導体徐放性繊維。
(4)アミノ酸誘導体がアルギニン、リジン及びヒスチジンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性繊維。
(5)酸性基含有重合体からなる繊維が20℃×65%RH条件で20重量%以上の飽和吸湿率を有するものであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性繊維。
(6)酸性基含有重合体がカルボキシル基を有することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性繊維。
(7)酸性基含有重合体がアクリル酸系重合体であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性繊維。
(8)酸性基含有重合体が架橋構造を有することを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性繊維。
(9)架橋構造がニトリル基とヒドラジン系化合物の反応によって形成されたものであることを特徴とする(8)に記載のアミノ酸誘導体徐放性繊維。
(10)架橋構造が架橋性ビニル単量体を共重合することによって形成されたものであることを特徴とする(8)に記載のアミノ酸誘導体徐放性繊維。
(11)酸性基含有重合体からなる繊維にアミノ酸誘導体溶液を付与した後、前記繊維を40〜100℃で乾燥し、さらに、前記繊維にマグネシウム、バリウム、ジルコニウム、銀、亜鉛、アルミニウム及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の元素の塩の溶液を付与した後、前記繊維を40〜100℃で乾燥することを含むことを特徴とする(1)〜(10)のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性繊維の製造方法。
(12)(1)〜(10)のいずれか一項に記載のアミノ酸誘導体徐放性繊維を含有する繊維構造物。
(13)繊維構造物が、肌着、腹巻き、サポーター、マスク、手袋、靴下、ストッキング、パジャマ、バスローブ、タオル、マット、寝具の中から選択されるものであることを特徴とする(12)に記載の繊維構造物。
(14)酸性基含有重合体からなる繊維を含有してなる原料繊維構造物にアミノ酸誘導体溶液を付与した後、前記繊維構造物を40〜100℃で乾燥し、さらに、前記繊維構造物にマグネシウム、バリウム、ジルコニウム、銀、亜鉛、アルミニウム及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の元素の塩の溶液を付与した後、前記繊維構造物を40〜100℃で乾燥することを含むことを特徴とする(12)または(13)に記載の繊維構造物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアミノ酸誘導体徐放性繊維は、アミノ酸誘導体が繊維中の酸性基と結合されているので、繊維中のアミノ酸誘導体が汗に対して溶出して徐々に皮膚に移行することができる。さらに、本発明のアミノ酸誘導体徐放性繊維は、特定の元素を繊維に付与してアミノ酸誘導体を繊維に強固に沈着・不溶化させているので、洗濯しても繊維中のアミノ酸誘導体が脱落しにくい。従って、本発明のアミノ酸誘導体徐放性繊維は、スキンケア特性の持続に優れたものであり、肌着や靴下などの繰返し洗濯される製品やその材料などの幅広い用途に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のアミノ酸誘導体徐放性繊維は、繊維に付与されたアミノ酸誘導体が汗に対して選択的に溶出して皮膚に徐々に移行するアミノ酸誘導体の徐放性と、洗濯しても繊維に付与されたアミノ酸誘導体が脱落しにくいというアミノ酸誘導体の洗濯耐久性とを有する。本発明におけるアミノ酸誘導体の徐放性は、繊維の着用中に皮膚から恒常的に発生する少量の汗などの電解質塩類含有水分に対して繊維中のアミノ酸誘導体が溶出することによってアミノ酸誘導体が繊維の着用中に徐々に皮膚に移行してスキンケア効果を与える性質をいう。この性質を直接的に評価することは難しいが、間接的には、繊維を人工汗液に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出率αで規定することができる。繊維を人工汗液に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出率αは、繊維の着用中に皮膚から発される汗などの電解質塩類含有水に対して繊維中のアミノ酸誘導体がどの程度溶出するかの指標であり、αが大きいほど多くのアミノ酸誘導体が溶出する。本発明のアミノ酸誘導体徐放性繊維は、上記溶出率αが10%以上である徐放性を有する。繊維にさらに良好なスキンケア効果を与えるためには、上記溶出率αが30%以上であることが好ましい。上記溶出率αのさらに好ましい範囲は40%以上であり、特に好ましい範囲は50%以上である。なお、本発明のアミノ酸誘導体徐放性繊維がこのような高いアミノ酸誘導体の徐放性を有する理由は、おそらく繊維中の酸性基と結合したアミノ酸誘導体が汗と反応して溶出するためであると考えられる。
【0013】
ここで、念のため付言しておけば、10%以上という上記溶出率αは下記の測定方法の内容から理解されるように、あくまで大量の人工汗液にアミノ酸誘導体徐放性繊維を浸漬した場合の望ましい溶出率であって、実際の使用にあたって溶出する量ではない。すなわち、実際に皮膚に対して本発明のアミノ酸誘導体徐放性繊維を使用する際には、大量の汗中に浸漬されるようなことはなく、はるかに少ない量の汗に接触するのであって、アミノ酸誘導体も大量に放出されることはなく、少量ずつ徐々に皮膚に移行していくことになるのである。なお、現実的には、僅かな量の汗に接触したときのアミノ酸誘導体の溶出量を安定的に測定することは容易ではないので、本発明では上記のような方法で評価することにした。
【0014】
アミノ酸誘導体の洗濯耐久性は、繊維を洗濯しても繊維に付与されたアミノ酸誘導体が脱落しにくいという性質のことをいい、これは、20回洗濯後の繊維中のアミノ酸誘導体の残存率(%)で規定することができる。前記残存率が高いほど、洗濯によるアミノ酸誘導体の繊維からの脱落程度は低くなる。本発明のアミノ酸誘導体徐放性繊維は、10%以上、好ましくは15%以上、さらに好ましくは20%以上、特に好ましくは30%以上、最も好ましくは40%以上の前記残存率を有する。従来のアミノ酸誘導体徐放性繊維は、本発明のアミノ酸誘導体徐放性繊維と同レベルのアミノ酸誘導体の徐放性を有することができるが、繊維を洗濯した場合の前記アミノ酸誘導体の残存率が極めて低く、実質的に10回程度の洗濯でほぼ全てのアミノ酸誘導体が繊維から脱落してしまうため、スキンケア効果の持続の点で実用性に欠ける。これに対し、本発明のアミノ酸誘導体徐放性繊維は20回洗濯しても10%以上の高い残存率を有するため、徐放すべきアミノ酸誘導体が充分に残っており、スキンケア効果を持続できる。なお、本発明のアミノ酸誘導体徐放性繊維が洗濯してもこのような高い残存率を有する理由は、おそらく繊維に予め付与した特定の元素がアミノ酸誘導体を繊維に強固に沈着・不溶化させているため、洗剤での洗濯に対してアミノ酸誘導体を容易に脱落させないようにしているものと考えられる。
以下、本発明で規定する各パラメータの計算方法について説明する。
【0015】
繊維を人工汗液に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出率(α)は、以下に規定する方法で測定した場合の値を用いて、α(%)=繊維を人工汗液に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出量÷初期アミノ酸誘導体結合量×100の計算式により計算される値である。
【0016】
初期アミノ酸誘導体結合量(mg/g)については、洗濯に供していないアミノ酸誘導体徐放性繊維0.5gを0.5N塩酸水溶液25mLに40℃、30分間浸漬して抽出されるアミノ酸誘導体量、及び乾燥減量法(五酸化二リン上で40℃、12時間減圧乾燥)より求めたサンプル水分値から計算によってアミノ酸誘導体徐放性繊維1gあたりの初期アミノ酸誘導体結合量を決定する。
【0017】
人工汗液に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出量(mg/g)については、洗濯に供していないアミノ酸誘導体徐放性繊維0.5gを人工汗液25mL中に25℃、0.5時間浸漬して溶出されるアミノ酸誘導体量、及び乾燥減量法(五酸化二リン上で40℃、12時間減圧乾燥)より求めたサンプル水分値から計算によってアミノ酸誘導体徐放性繊維1gから溶出するアミノ酸誘導体の溶出量を決定する。なお、人工汗液についてはJIS−L−0848を参照して以下のような酸性汗液を作成し使用する。JIS−L−0848には、人工汗液として、酸性汗液、アルカリ汗液が記載されているが、本発明の人工汗液においては酸性汗液をその代表として取り扱うこととする。酸性汗液としてはNaCl 5g/L、リン酸二水素ナトリウム12水和物 2.26gを水に溶解させ、0.5M NaOH水溶液でpH5.5に調整して1Lに容量調整したものを使用する。
【0018】
上述してきた浸漬液中に溶出したアミノ酸誘導体は、それぞれの化合物に適した分析方法を用いて定量分析を行う。アミノ酸誘導体が塩基性アミノ酸の場合には、アミノ酸アナライザーを使用すると信頼性が高く、簡便である。
【0019】
20回洗濯後の繊維中のアミノ酸誘導体の残存率は、JIS−L−0217−103法に記載の方法で、花王株式会社製アタックを洗剤として使用してアミノ酸誘導体徐放性繊維を20回繰返し洗濯処理した後、このアミノ酸誘導体徐放性繊維をサンプルとして上述の初期アミノ酸誘導体結合量の決定方法と同様の手順で20回洗濯後の繊維中のアミノ酸誘導体結合量を決定し、この値の初期アミノ酸誘導体結合量の値に対する百分率(%)を計算することより算出される値である。
【0020】
本発明のアミノ酸誘導体徐放性繊維は、構造的には、酸性基含有重合体からなる繊維に、アミノ酸誘導体が付与され、さらにマグネシウム、バリウム、ジルコニウム、銀、亜鉛、アルミニウム及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の元素が付与されたものである。以下、本発明のアミノ酸誘導体徐放性繊維を構成する各成分について説明する。
【0021】
まず、本発明の繊維に付与されるアミノ酸誘導体について説明する。本発明において、アミノ酸誘導体は、繊維にスキンケア特性を与える役割を有する。なお、本発明においてアミノ酸誘導体とは、アミノ酸やアミノ酸分子中の官能基の一部が修飾されたもののみならず、ポリペプチドや蛋白質、さらには蛋白質加水分解物などのアミノ酸を構造単位とする化合物をも包含する用語として使用する。
【0022】
アミノ酸誘導体としては、酸性基含有重合体中の酸性基とイオン結合するものならば天然物由来であっても、化学合成されたものであっても、本質的には使用できるが、人体への安全性、経済性の面から、天然物由来のものが好ましく、例えば、絹蛋白質であるフィブロイン、セリシン、乳蛋白質であるカゼイン、皮膚や骨の組織蛋白質であるコラーゲン、その熱変性物であるゼラチン、あるいは、アミノ酸であるグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、セリン、トレニオン、アスパラギン、グルタミン、チロシン、システイン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸などを使用することができる。
【0023】
アミノ酸誘導体は分子内に上記式[I]で示される構造を有することが特に好ましい。該構造においては、R中の塩基性官能基と酸性基含有重合体の酸性基との間でより効率的にイオン結合を形成することができる。ここで、R中の塩基性官能基としては、アミノ基、グアニジル基、ヒスチジル基などが挙げられる。また、塩基性官能基は遊離状態であってもよく、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩などの有機酸塩の形であってもよい。このようなアミノ酸誘導体としては、例えば、カゼイン、ケラチン、コラーゲン等の蛋白質やリジン、アルギニン、ヒスチジン等の塩基性アミノ酸を挙げることができる。
【0024】
中でも塩基性アミノ酸は蛋白質などに比べて分子量が小さく、溶液とするのが容易であるため、本発明のアミノ酸誘導体徐放性繊維を製造しやすく、工業的にも好ましい。さらに、塩基性アミノ酸であるアルギニン、リジン、ヒスチジンは人体に存在し、天然保湿因子中に含まれるアミノ酸であり、スキンケア効果という面から見ても好適に使用できるものである。
【0025】
本発明においては、基本的には酸性基含有重合体の酸性基量が多いほど、より多くのアミノ酸誘導体を繊維に結合させることが可能であり、従来のバインダーによる付与などでは実現が難しい数十%という多量のアミノ酸誘導体を結合させることも容易である。このため、繊維に結合されるアミノ酸誘導体の量としては、要求性能や用途などに応じて広い範囲から適宜選択できるが、通常、得られるアミノ酸誘導体徐放性繊維に対して1〜30重量%となるようにすることが好ましく、より好ましくは2〜25重量%、さらに好ましくは3〜15重量%である。結合されるアミノ酸誘導体の量が30重量%を超えるとコスト高になるうえに効果の向上も見られなくなる。また、結合されるアミノ酸誘導体が1重量%に満たない場合にはスキンケア効果を有しなくなることがあるため好ましくない。
【0026】
次に本発明の繊維の構成成分である酸性基含有重合体について説明する。本発明において、酸性基含有重合体は、前述のアミノ酸誘導体及び後述の元素を受容しうる基体としての役割を有する。酸性基含有重合体としては、酸性基を含有していることが必要であるが、そのこと以外には特に制限はなく、ポリエステル系重合体、ポリアミド系重合体、ポリエーテル系重合体、ビニル系重合体あるいはセルロース系重合体などや複数種の重合体を複合させた重合体を使用することができる。
【0027】
これらの酸性基含有重合体からなる繊維は、20℃×65%RH条件で20重量%以上の飽和吸湿率を有することが好ましい。この場合、酸性基含有重合体の有する吸湿性とアミノ酸誘導体の有する角質層の水分保持機能を補い正常な皮膚を保つ効果が相乗的に作用することにより、より優れたスキンケア効果を発揮することが可能となる。なお、20℃×65%RH条件での飽和吸湿率が20重量%未満の場合には相乗効果はあまり期待できなくなる。
【0028】
また、酸性基含有重合体の酸性基としては、アミノ酸誘導体とイオン結合を形成できるものであれば特に制限はなく、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基などが挙げられる。なかでもカルボキシル基は、重合体中に大量に導入することが容易であり、アミノ酸誘導体を大量にイオン結合させることができるので、好ましい。なお、これらの酸性基は、金属塩やアンモニウム塩などの塩を形成させた状態でアミノ酸誘導体の付与処理を行うほうが、イオン交換が起こりやすくなり、酸性基−アミノ酸誘導体のイオン結合を形成しやすくなる。
【0029】
上記のような酸性基は、例えば、酸性基含有重合体がビニル系重合体の場合であれば、酸性基を含有するビニル単量体を共重合することで導入することができる。スルホン酸基を含有するビニル単量体としては、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、4−スルホブチル(メタ)アクリレート、メタリルオキシベンゼンスルホン酸、アリルオキシベンゼンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレートやこれらの単量体の金属塩、また、カルボキシル基を含有するビニル単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ビニルプロピオン酸やこれらの単量体の金属塩などを挙げることができる。
【0030】
また、グラフト重合可能な重合体に対しては、上記のような酸性基を含有するビニル単量体をグラフト重合することによって酸性基を導入することができる。
【0031】
さらに、ニトリル、アミド、エステルなどの加水分解によってカルボキシル基に変性可能な官能基を有する重合体に対しては、加水分解処理することによってカルボキシル基を導入することができる。加水分解によってカルボキシル基に変性可能な官能基を有する重合体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基を有する単量体、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等のエステル誘導体、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミドなどのアミド誘導体、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のカルボキシル基を有する単量体の無水物等を単独重合または共重合して得られるビニル系重合体などを例示することができる。
【0032】
以上のように様々な方法で得られる重合体を本発明の繊維を構成する酸性基含有重合体として使用することができるが、カルボキシル基を多く含有させ、アミノ酸誘導体を多くイオン結合させることができるという点から、酸性基含有重合体としてはアクリル酸系重合体であることが望ましく、後述するような架橋構造を有することが特に望ましい。アクリル酸系重合体からなる繊維の例としては、カネボウ合繊(株)製ベルオアシス(登録商標)、東洋紡績(株)製ランシール(登録商標)などの吸水性繊維あるいは東邦テキスタイル(株)製サンバーナー(登録商標)、東洋紡績(株)製モイスファイン(登録商標)などの吸湿性繊維などを挙げることができる。なお、アクリル酸系重合体とは、その製造方法とは関係なく、ポリアクリル酸に代表されるような、酸性基の大多数が主鎖に直接結合したカルボキシル基である重合体のことを言う。
【0033】
酸性基含有重合体の酸性基量については、その量が多いほど、上述した飽和吸湿率やアミノ酸誘導体の繊維に結合可能な量が高くなるという相関関係があるので、酸性基量を増やすことはスキンケア効果の向上に寄与するが、その一方で酸性基含有重合体の親水性が高まり水膨潤が激しくなるので、繊維の強度が低下し形状が崩れ、場合によっては酸性基含有重合体自体が水に溶出するなどの現象を引き起こすことがある。そして、その効果や現象の程度は酸性基の種類によっても影響されるものである。従って、酸性基含有重合体の酸性基量としては、以上のような事項を考慮した上で決定することが望ましい。カルボキシル基の場合であれば、通常、酸性基含有重合体からなる繊維の重量に対して、好ましくは1〜10mmol/g、より好ましくは3〜8mmol/gである。
【0034】
また、酸性基含有重合体は、架橋構造を有することがより好ましい。架橋構造を有することで、上述した「形状が崩れる」、「重合体自体が水に溶出する」といった現象を抑制しつつ、酸性基量を増やすことができるので、より多くのアミノ酸誘導体を繊維に結合させることが可能となり、より良好なスキンケア効果を発現できるようになる。このような架橋構造としては、特に制限はなく、例えば、反応性官能基を有する単量体を共重合させておき、該反応性官能基と反応する官能基を複数有する化合物(以下、架橋性化合物とも言う)を反応させることによって形成される架橋構造や、複数の重合性官能基を有する単量体を共重合させることによって形成される架橋構造などが挙げられる。
【0035】
前者の架橋構造において、反応性官能基を有する単量体と架橋性化合物の組み合わせとしては、特に制限はないが、ビニル系重合体の場合であれば、アクリロニトリルやメタクリロニトリルなどのニトリル基含有単量体と水加ヒドラジンや硫酸ヒドラジンなどのヒドラジン系化合物との組み合わせ、アクリル酸やメタクリル酸などのカルボキシル基含有単量体とエチレングリコールやプロピレングリコールなどの水酸基を複数含有する化合物との組み合わせ、グリシジルメタアクリレートなどのエポキシ基含有単量体とエチレンジアミンやジエチレントリアミンなどのアミノ基を複数含有する化合物との組み合わせなどが例示できる。
【0036】
後者の架橋構造において、複数の重合性官能基を有する単量体としては、特に制限はなく、ビニル系重合体の場合であればビニル基を2個以上有する単量体(以下、架橋性ビニル単量体とも言う)がこれに該当する。このような架橋性ビニル単量体としては、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングルコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、グリセリンジメタクリレート、2−ヒドロキシー3−アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物ジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、メチレンビスアクリルアミドなどを例示することができる。
【0037】
なお、上述したような加水分解処理によってカルボキシル基を導入する方法を選択する場合には、加水分解処理条件においても架橋が切断されないことが望ましい。このような架橋構造としては、ニトリル基とヒドラジン系化合物との反応によって形成される架橋構造やトリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジビニルベンゼン、メチレンビスアクリルアミドなどを共重合させることによって形成される架橋構造などが挙げられる。
【0038】
また、上述した酸性基導入や架橋構造に関わる単量体以外の酸性基含有重合体を構成する単量体、すなわち共重合成分としては、特に限定はなく、特性等を考慮して、適宜選択すればよい。
【0039】
繊維に酸性基含有重合体を導入する方法としては、酸性基含有重合体を重合した後、溶融紡糸や湿式紡糸などの紡糸工程を経て繊維状とする方法、紡糸原液に該重合体を練りこんで紡糸する方法、基材となる繊維に該重合体を後加工で固着させる方法、あるいは、ニトリル基やエステル基などの酸性基に変換可能な官能基を含有する繊維に架橋処理や加水分解処理を行う方法などを挙げることができる。なお、酸性基含有重合体の重合方法としては、特に限定はなく、通常採用される懸濁重合、乳化重合、沈殿重合、分散重合、塊状重合などの方法を採用することができる。
【0040】
酸性基含有重合体からなる繊維の好適な例としては、アクリロニトリル系繊維にヒドラジン系化合物による架橋導入処理およびアルカリ性金属塩による加水分解処理を施してなるアクリル酸系吸放湿性繊維が挙げられる。該繊維においても20℃×65%RH条件で20重量%以上の飽和吸湿率を有する場合には上述の相乗効果が得られ、優れたスキンケア効果を発揮できるのは勿論であるが、該繊維は吸放湿性に加えて、吸湿発熱性や抗菌性を有しているので、より有用なアミノ酸誘導体徐放性繊維とすることが可能である。
【0041】
次に、本発明の繊維に付与されるマグネシウム、バリウム、ジルコニウム、銀、亜鉛、アルミニウム及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の元素について説明する。本発明において、マグネシウム、バリウム、ジルコニウム、銀、亜鉛、アルミニウム及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の元素は、アミノ酸誘導体を繊維に沈着・不溶化させる役割を有し、これにより繊維を洗濯してもアミノ酸誘導体を容易に脱落させない洗濯耐久性を持たせることができる。上記元素の繊維への付与方法は特に制限されないが、本発明においては、上記元素の塩の溶液で繊維を処理する方法などが好適に採用される。上記元素の塩の溶液としては特に限定はないが、例えば上記元素の硝酸塩又は硫酸塩の水溶液を挙げることができる。
【0042】
次に、本発明のアミノ酸誘導体徐放性繊維の製造方法について説明する。本発明のアミノ酸誘導体徐放性繊維は、上述してきた酸性基含有重合体からなる繊維にアミノ酸誘導体溶液を付与した後、乾燥し、さらに、前記繊維にマグネシウム、バリウム、ジルコニウム、銀、亜鉛、アルミニウム及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の元素の塩の溶液を付与した後、乾燥することによって得ることができる。ここで、付与方法としては特に制限はなく、噴霧、浸漬あるいは塗布などの方法を採用することができる。
【0043】
アミノ酸誘導体溶液については、環境負荷に対する配慮などから水溶液であることが望ましい。アミノ酸誘導体の水に対する溶解性が低い場合でも、当該アミノ酸誘導体の塩酸塩などを使用すれば水溶液を作成することが可能な場合も多い。また、アミノ酸誘導体溶液の濃度については、特に制限はなく、必要量のアミノ酸誘導体がイオン結合されるよう適宜設定すればよいが、通常、0.5〜5.0重量%が好ましい。
【0044】
アミノ酸誘導体溶液を付与するときの温度としては特に限定はないが、好ましくは10〜80℃、より好ましくは10〜50℃、さらに好ましくは20〜35℃である。また、乾燥温度としても特に限定はないが、好ましくは40〜100℃、より好ましくは40〜80℃、さらに好ましくは50〜70℃である。一般にアミノ酸誘導体は熱により変質しやすいので、付与や乾燥を高温で行うことは好ましくない。
【0045】
マグネシウム、バリウム、ジルコニウム、銀、亜鉛、アルミニウム及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の元素の塩の溶液についても、環境負荷に対する配慮などから水溶液であることが望ましい。また、上記溶液の濃度については、特に制限はなく、必要量のアミノ酸誘導体が繊維に対して沈着・水不溶化されるよう適宜設定すればよいが、通常、0.1〜1.0重量%が好ましい。なお、濃度が高すぎる場合には、繊維に付与されたアミノ酸誘導体が溶液中に多量に溶出してしまうことがある。
【0046】
上記溶液を付与するときの温度としては特に限定はないが、好ましくは10〜80℃、より好ましくは10〜50℃、さらに好ましくは20〜35℃である。また、乾燥温度としても特に限定はないが、好ましくは40〜100℃、より好ましくは40〜80℃、さらに好ましくは50〜70℃である。一般にアミノ酸誘導体は熱により変質しやすいので、付与や乾燥を高温で行うことは好ましくない。
【0047】
次に本発明のアミノ酸誘導体徐放性繊維の用途について説明する。本発明のアミノ酸誘導体徐放性繊維は持続的なスキンケア効果が求められるあらゆる用途に利用することが可能であるが、代表的なものとしては繊維構造物を挙げることができる。本発明の繊維構造物は、本発明のアミノ酸誘導体徐放性繊維を構成繊維の少なくとも一部に使用するなどして繊維構造物中に含有させたものである。
【0048】
本発明のアミノ酸誘導体徐放性繊維を含有する繊維構造物において併用しうる他素材としては特に制限はなく、公用されている天然繊維、有機繊維、半合成繊維、合成繊維が用いられ、さらには無機繊維、ガラス繊維等も用途によっては採用し得る。具体的な例としては、綿、麻、絹、羊毛、ナイロン、レーヨン、ポリエステル、アクリル繊維などを挙げることができる。
【0049】
本発明のアミノ酸誘導体徐放性繊維を他の繊維と併用して繊維構造物とする場合、アミノ酸誘導体徐放性繊維の使用量は好ましくは3重量%以上100重量%未満、より好ましくは5重量%〜50重量%である。
【0050】
上述のような本発明のアミノ酸誘導体徐放性繊維を含有する繊維構造物は、スキンケア効果が優れており、良好な風合いを有するものである。特に、該繊維構造物が20℃×65%RH条件で5重量%以上、好ましくは8重量%以上の飽和吸湿率を有する場合には、より優れたスキンケア効果を発揮することができる。しかも、本発明のアミノ酸誘導体徐放性繊維を含有する繊維構造物は、繊維を洗濯しても繊維に付与されたアミノ酸誘導体が脱落しにくいという良好な洗濯耐久性を有する。
【0051】
本発明のアミノ酸誘導体徐放性繊維を含有する繊維構造物としては、糸、ヤーン(ラップヤーンも含む)、フィラメント、織物、編物、不織布、紙状物、シート状物、積層体、綿状体(球状や塊状のものを含む)等が挙げられるが、皮膚に接触する衣料品などに利用されるという点から織物や編物が最も一般的である。具体的な形態としては、肌着、腹巻き、サポーター、マスク、手袋、靴下、ストッキング、パジャマ、バスローブ、タオル、マット、寝具などを挙げることができる。
【0052】
本発明のアミノ酸誘導体徐放性繊維を含有する繊維構造物は、上述のようにして製造された本発明のアミノ酸誘導体徐放性繊維を単独で、又は場合によっては他の素材と混紡して織編物に加工することにより製造することができる。これらの方法のほかに、本発明のアミノ酸誘導体徐放性繊維を含有する繊維構造物は、酸性基含有重合体からなる繊維を含有してなる繊維構造物に対してアミノ酸誘導体溶液を付与した後、乾燥し、さらに、前記繊維構造物にマグネシウム、バリウム、ジルコニウム、銀、亜鉛、アルミニウム及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の元素の塩の溶液を付与した後、乾燥することによっても製造することができる。この場合の付与や乾燥については、上述したアミノ酸誘導体徐放性繊維の製造方法と同様の方法、条件を採用することができる。
【実施例】
【0053】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、これらはあくまでも例示的なものであり、本発明の要旨はこれらにより限定されるものではない。なお、実施例中の部及び百分率は、断りのない限り重量基準で示す。
【0054】
[酸性基含有重合体からなる繊維]
AN90%、酢酸ビニル10%からなるAN系重合体(30℃ジメチルホルムアミド中での極限粘度[η]:1.2)10部を48%のロダンソーダ水溶液90部に溶解した紡糸原液を、常法に従って紡糸、延伸(全延伸倍率:10倍)した後、乾球/湿球=120℃/60℃の雰囲気下で乾燥、湿熱処理して単繊維繊度0.9dtexの原料繊維を得た。原料繊維に、水加ヒドラジンの20%水溶液中で、98℃×5Hr架橋導入処理を行い、水洗した。次に、硝酸の3%水溶液中、90℃×2Hr酸処理を行った。続いて水酸化ナトリウムの3%水溶液中で、90℃×2Hr加水分解処理を行った後、pH12に調整し、純水で洗浄し、酸性基含有重合体からなる繊維を得た。該繊維は酸性基が6.1mmol/g、飽和吸湿率が57%であった。
【0055】
実施例1
アルギニン塩酸塩(東京化成工業(株)製)を水に溶解し、1.0%のアルギニン塩酸塩水溶液を作成した。前記酸性基含有重合体からなる繊維を該水溶液に浴比1/20、温度25℃で30分間浸漬した後、流水で5分間洗浄し、70℃の熱風乾燥機で乾燥し、アミノ酸誘導体が繊維中の酸性基にイオン結合した繊維を得た。
次に、硝酸マグネシウム(林純薬工業(株)製)を水に溶解し、0.5%の硝酸マグネシウム水溶液を作成した。前記繊維を該水溶液に浴比1/20、温度25℃で30分間浸漬した後、流水で5分間洗浄し、70℃の熱風乾燥機で乾燥し、本発明のアミノ酸誘導体徐放性繊維を得た。
【0056】
比較例1
アルギニン塩酸塩(東京化成工業(株)製)を水に溶解し、1.0%のアルギニン塩酸塩水溶液を作成した。前記酸性基含有重合体からなる繊維を該水溶液に浴比1/20、温度25℃で30分間浸漬した後、流水で5分間洗浄し、70℃の熱風乾燥機で乾燥し、アミノ酸誘導体が繊維中の酸性基にイオン結合した繊維を得た。
【0057】
アミノ酸誘導体の徐放性の評価
実施例1および比較例1の繊維について、下記の方法によってアミノ酸誘導体の徐放性を評価した結果を表1に示す。
【0058】
<初期アミノ酸誘導体結合量の測定方法>
アミノ酸誘導体徐放性繊維サンプル0.5gを0.5N塩酸水溶液25mLに40℃、30分間浸漬してアミノ酸誘導体を抽出する。その後、サンプルを絞って取り出すことにより、抽出液を得る。得られた抽出液について、アミノ酸アナライザー(HITACHI製 L−8800)を用いて定量分析を行い抽出されたアミノ酸誘導体量を決定する。五酸化二リンを入れたデシケーター中で40℃、12時間減圧下で乾燥した場合の重量減量変化により求めたサンプル水分値を決定する。抽出されたアミノ酸誘導体量及びサンプル水分値よりアミノ酸誘導体徐放性繊維サンプル1gあたりの初期アミノ酸誘導体結合量を計算によって決定する。
【0059】
<繊維を人工汗液に浸漬したときのアミノ酸誘導体溶出量の測定方法>
アミノ酸誘導体徐放性繊維サンプル0.5gを下記に示す人工汗液25mLに25℃、30分間浸漬して抽出する。その後、サンプルを絞って取り出すことにより、抽出液を得る。得られた抽出液について、アミノ酸アナライザー(HITACHI製 L−8800)を用いて定量分析を行い抽出されたアミノ酸誘導体量を決定する。五酸化二リンを入れたデシケーター中で40℃、12時間減圧下で乾燥した場合の重量減量変化により求めたサンプル水分値を決定する。抽出されたアミノ酸誘導体量及びサンプル水分値よりアミノ酸誘導体徐放性繊維サンプル1gあたりの人工汗液に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出量を計算によって決定する。
【0060】
人工汗液はJIS−L−0848を参照して以下のような酸性汗液を作成し使用する。酸性汗液の液組成としてはNaCl 5g/L、リン酸二水素ナトリウム12水和物 2.26gを水に溶解させ、0.5M NaOH水溶液でpH5.5に調整して1Lに容量調整したものを使用する。
【0061】
繊維を人工汗液に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出率(α)については以下の計算式により計算した。
繊維を人工汗液に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出率(α)
=(繊維を人工汗液に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出量÷初期アミノ酸誘導体結合量)×100%
【0062】

【0063】
表1に示すように、実施例1、比較例1の繊維はともに、人工汗液に対する溶出率が10%以上という顕著なアミノ酸誘導体の徐放性を有することが明らかである。
【0064】
アミノ酸誘導体の洗濯耐久性の評価
実施例1および比較例1の繊維について、下記の方法で、洗濯後の繊維中のアミノ酸誘導体の残存率を評価した。評価結果を表2に示す。
【0065】
<洗濯後の繊維中のアミノ酸誘導体の残存率の測定方法>
アミノ酸誘導体徐放性繊維サンプルをJIS−L−0217−103法に記載の方法で、花王株式会社製アタックを洗剤として使用して1回、5回、10回又は20回繰返し洗濯処理した後、初期アミノ酸誘導体結合量の決定方法と同様の手順で1回、5回、10回又は20回洗濯後の繊維中のアミノ酸誘導体結合量を決定し、この値の初期アミノ酸誘導体結合量の値に対する百分率(%)を計算した。
【0066】

【0067】
表2に示す通り、比較例1の繊維は、洗濯耐久性に劣り、洗濯10回までに繊維中のアミノ酸誘導体のほぼ全てが脱落した。これに対し、実施例1の繊維は、洗濯によるアミノ酸誘導体の脱落を生じたものの、アミノ酸誘導体が完全に脱落することはなく、20回洗濯後も43%のアミノ酸誘導体が繊維に残存していた。従って、本発明の繊維は、アミノ酸誘導体の汗との接触による徐放性を有するだけでなく、このアミノ酸誘導体の残存に対する洗濯耐久性も有しており、スキンケア効果の持続に優れた繊維であることは明らかである。
【0068】
実施例3
実施例1で用いた硝酸マグネシウム水溶液以外の溶液として、どのような溶液がアミノ酸誘導体を沈着・水不溶化させることができるかを調査した。
表3に示す16種類の塩の5%水溶液を作成し、L−アルギニンの5%水溶液中に添加して充分に撹拌し、30分間放置した後、L−アルギニンの沈殿が生じたかどうかを目視観察した結果を表3に示した。表3中、○は沈殿が生じたことを示し、×は沈殿が生じなかったことを示す。
【0069】

【0070】
表3に示すように、硝酸バリウム、硝酸ジルコニウム、硝酸銀、硝酸亜鉛、硝酸アルミニウム、硫酸マグネシウム及び硫酸チタンの水溶液は、実施例1で使用した硝酸マグネシウムの水溶液と同様に、アミノ酸誘導体を沈着・水不溶化させることができることが明らかである。従って、マグネシウム、バリウム、ジルコニウム、銀、亜鉛、アルミニウム及びチタンからなる群から選択される元素の塩の溶液は、アミノ酸誘導体を沈着・水不溶化させるために本発明の方法において用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のアミノ酸誘導体徐放性繊維は、アミノ酸誘導体の徐放性のみならずアミノ酸誘導体の洗濯耐久性も有するため、肌着や靴下などの繰返し洗濯される製品やその材料などのスキンケア特性の持続が要求される幅広い用途に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性基含有重合体からなる繊維にマグネシウム、バリウム、ジルコニウム、銀、亜鉛、アルミニウム及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の元素及びアミノ酸誘導体が付与されており、前記繊維を人工汗液に浸漬したときのアミノ酸誘導体の溶出率αが10%以上であり、20回洗濯後の前記繊維中のアミノ酸誘導体の残存率が10%以上であることを特徴とするアミノ酸誘導体徐放性繊維。
【請求項2】
アミノ酸誘導体が分子内に下記式[I]で示す構造を有することを特徴とする請求項1に記載のアミノ酸誘導体徐放性繊維:
【化1】

式中、Rは少なくとも1個以上の塩基性官能基を有する基を表わす。
【請求項3】
アミノ酸誘導体が塩基性アミノ酸であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアミノ酸誘導体徐放性繊維。
【請求項4】
アミノ酸誘導体がアルギニン、リジン及びヒスチジンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性繊維。
【請求項5】
酸性基含有重合体からなる繊維が20℃×65%RH条件で20重量%以上の飽和吸湿率を有するものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性繊維。
【請求項6】
酸性基含有重合体がカルボキシル基を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性繊維。
【請求項7】
酸性基含有重合体がアクリル酸系重合体であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性繊維。
【請求項8】
酸性基含有重合体が架橋構造を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性繊維。
【請求項9】
架橋構造がニトリル基とヒドラジン系化合物の反応によって形成されたものであることを特徴とする請求項8に記載のアミノ酸誘導体徐放性繊維。
【請求項10】
架橋構造が架橋性ビニル単量体を共重合することによって形成されたものであることを特徴とする請求項8に記載のアミノ酸誘導体徐放性繊維。
【請求項11】
酸性基含有重合体からなる繊維にアミノ酸誘導体溶液を付与した後、前記繊維を40〜100℃で乾燥し、さらに、前記繊維にマグネシウム、バリウム、ジルコニウム、銀、亜鉛、アルミニウム及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の元素の塩の溶液を付与した後、前記繊維を40〜100℃で乾燥することを含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のアミノ酸誘導体徐放性繊維の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のアミノ酸誘導体徐放性繊維を含有する繊維構造物。
【請求項13】
繊維構造物が、肌着、腹巻き、サポーター、マスク、手袋、靴下、ストッキング、パジャマ、バスローブ、タオル、マット、寝具の中から選択されるものであることを特徴とする請求項12に記載の繊維構造物。
【請求項14】
酸性基含有重合体からなる繊維を含有してなる原料繊維構造物にアミノ酸誘導体溶液を付与した後、前記繊維構造物を40〜100℃で乾燥し、さらに、前記繊維構造物にマグネシウム、バリウム、ジルコニウム、銀、亜鉛、アルミニウム及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の元素の塩の溶液を付与した後、前記繊維構造物を40〜100℃で乾燥することを含むことを特徴とする請求項12または13に記載の繊維構造物の製造方法。

【公開番号】特開2007−254936(P2007−254936A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84502(P2006−84502)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000004053)日本エクスラン工業株式会社 (58)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】