説明

流体供給孔付き超硬ドリル

【課題】シャンク部材と刃部材とを嵌合して一体的に固設する形式の流体供給孔付き超硬ドリルにおいて、簡便な手法で流体が効率良く流体供給孔内に流入するようにして流体の供給性能を向上させる。
【解決手段】シャンク部材12の貫通孔16の後部側が所定の油溜寸法L2だけ残るように刃部材14が嵌合されて一体的に接合されているため、刃部材14の後端より後方の貫通孔16の空間部分26が油溜として機能し、流体供給孔18を経てドリル先端部へ供給される流体の供給性能が向上する。すなわち、冷却油剤等の流体は、工具後端の比較的大きな流通断面から先ずシャンク部材12の貫通孔16内に流入し、その後その貫通孔16に嵌合された刃部材14の流体供給孔18内に流入するため、流通断面積が段階的に小さくなり、流体の流速も段階的に増大させられることから、流速の急な変化に起因する乱流の発生が抑制されて供給性能が改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体供給孔付き超硬ドリルに係り、特に、流体供給孔が設けられた刃部材と円筒形状のシャンク部材とが嵌合されて一体的に固設されている流体供給孔付き超硬ドリルの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a) 超硬合金にて構成されているとともに軸心上に貫通孔が設けられた円筒形状のシャンク部材と、(b) 所定のリードL1でねじれた複数の流体供給孔が軸方向に縦通するように設けられているとともに、外周面にはその流体供給孔と同じ数だけ同じリードL1でねじれ溝が形成され、そのねじれ溝が軸方向の先端に開口する部分に切れ刃が形成された超硬合金製の刃部材と、を有し、(c) その刃部材の軸方向の後端部が前記シャンク部材の貫通孔内に嵌合されて一体的に固設されている流体供給孔付き超硬ドリルが提案されている。特許文献1に記載のドリルはその一例で、半焼結(予備焼結)の状態のシャンク部材に対して、本焼結された刃部材の後端部を嵌合し、シャンク部材を本焼結することにより、その本焼結に伴う収縮でシャンク部材が刃部材に対して一体的に接合されるようになっている。そして、このような流体供給孔付き超硬ドリルは、例えば刃部材の切れ刃の外径であるドリル径D1が4mm程度以下(特許文献1では1mm未満)の小径ドリルにおいて、シャンク径として6mm程度以上の寸法を確保したい場合等に好適に採用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−277807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような従来の流体供給孔付き超硬ドリルは、刃部材の後端とシャンク部材の後端とが略一致し、両者の後端面が略面一になるように構成されていたため、冷却油剤等の流体は、工具ホルダの保持穴等によって定まる工具後端の比較的大きな流通断面(シャンクと略同じ断面)から一気に小径の流体供給孔内に流入するため、流速の急な変化によって乱流が生じ易く、流体の供給性能(供給量など)が阻害されるという問題があった。特に、流体供給孔の径寸法はドリル径D1に応じて設定され、小径ドリルにおいては流体供給孔の径寸法も小さくなるのに対し、シャンク部材は刃部材と別体に構成されることからドリル径D1に対してシャンク径を比較的大きくできるため、流通断面積の変化が一層大きくなり、流速の変化による供給性能の低下が顕著になる。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、シャンク部材と刃部材とを嵌合して一体的に固設する形式の流体供給孔付き超硬ドリルにおいて、簡便な手法で流体が効率良く流体供給孔内に流入するようにして流体の供給性能を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 超硬合金にて構成されているとともに軸心上に貫通孔が設けられた円筒形状のシャンク部材と、(b) 所定のリードL1でねじれた複数の流体供給孔が軸方向に縦通するように設けられているとともに、外周面にはその流体供給孔と同じ数だけ同じリードL1でねじれ溝が形成され、そのねじれ溝が軸方向の先端に開口する部分に切れ刃が形成された超硬合金製の刃部材と、を有し、(c) その刃部材の軸方向の後端部が前記シャンク部材の貫通孔内に嵌合されて一体的に固設されている流体供給孔付き超硬ドリルにおいて、(d) 前記刃部材は、前記シャンク部材の貫通孔の後部側が所定の油溜寸法L2だけ残るようにその貫通孔内に嵌合されて一体的に固設されていることを特徴とする。
【0007】
第2発明は、第1発明の流体供給孔付き超硬ドリルにおいて、前記油溜寸法L2は、前記円筒形状のシャンク部材の内径D2に対して3×D2または10mmのうち大きい方の寸法以上であることを特徴とする。
【0008】
第3発明は、第1発明または第2発明の流体供給孔付き超硬ドリルにおいて、前記流体供給孔の径寸法は、前記切れ刃の外径であるドリル径D1に対して0.05×D1〜0.2×D1の範囲内であることを特徴とする。
【0009】
第4発明は、第1発明〜第3発明の何れかの流体供給孔付き超硬ドリルにおいて、前記切れ刃の外径であるドリル径D1は4mm以下で、前記リードL1は6.74×D1以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
このような流体供給孔付き超硬ドリルにおいては、シャンク部材の貫通孔の後部側が所定の油溜寸法L2だけ残るようにその貫通孔内に刃部材の後端部が嵌合されて一体的に固設されているため、刃部材の後端より後方の貫通孔の空間部分が油溜として機能し、流体供給孔を経てドリル先端部へ供給される流体の供給性能(供給量など)が向上する。すなわち、冷却油剤等の流体は、主軸等に設けられた工具ホルダの保持穴等によって定まる工具後端の比較的大きな流通断面から先ずシャンク部材の貫通孔内に流入し、その後その貫通孔に嵌合された刃部材の流体供給孔内に流入するため、流通断面積が段階的に小さくなり、流体の流速も段階的に増大させられることから、流速の急な変化に起因する乱流の発生が抑制されて供給性能が改善されるのである。
【0011】
一方、シャンク部材と刃部材とを嵌合して一体的に固設する際に、貫通孔の後部側が油溜寸法L2だけ残るようにするだけで良いため、所定の固設強度が得られる限り格別な設計変更などは不要で、必要に応じてシャンク部材の長さ寸法を長くすれば良く、簡便に且つ安価に実施できる。
【0012】
第2発明では、上記油溜寸法L2がシャンク部材の内径D2に対して3×D2または10mmのうち大きい方の寸法以上であるため、貫通孔内における流体の流通が安定した後に刃部材の流体供給孔内に流入するようになり、流体の供給性能が適切に改善される。
【0013】
第3発明では、流体供給孔の径寸法がドリル径D1に対して0.05×D1〜0.2×D1の範囲内であるため、例えばドリル径D1が4mm程度以下の小径ドリルにおいても、所定の工具強度や剛性を確保しつつその流体供給孔を経て流体がドリル先端部へ適切に供給されるようにすることができる。
【0014】
第4発明は、ドリル径D1が4mm以下の小径ドリルに関するもので、流体供給孔およびねじれ溝のリードL1が6.74×D1以下であるため、次式(1) の関係から、ドリル径D1と同じ径寸法で設けられるねじれ溝のねじれ角αは25°以上になり、流体供給性能の向上と相まって切りくずがねじれ溝に沿って適切に排出されるようになり、切りくず詰まり等による工具折損が抑制される。
L1=tan(90°−α)×D1×π ・・・(1)
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例である流体供給孔付き超硬ドリルを示す図で、(a) は工具軸心Oと直角な方向から見た一部を切り欠いた正面図、(b) は(a) の左側の工具後端側から見て拡大して示す後端面図、(c) は(a) の右側の工具先端側から見て拡大して示す先端面図である。
【図2】図1の流体供給孔付き超硬ドリルの製造工程を説明する図である。
【図3】図1の実施例の工具後端部を工具軸心Oと平行に切断した断面図で、刃部材およびシャンク部材の後端が略面一の従来品と比較して示す図である。
【図4】本発明の他の実施例を説明する図で、図1の(a) に対応する正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の流体供給孔付き超硬ドリルは、例えば前記特許文献1に記載のドリルと同様に、半焼結(予備焼結)の状態のシャンク部材に対して、本焼結された刃部材の後端部を嵌合し、シャンク部材を本焼結することにより、その本焼結に伴う収縮でシャンク部材が刃部材に対して一体的に接合されるが、シャンク部材および刃部材を何れも本焼結した後に、接着剤やろう付け等の固設手段により一体的に固設することも可能である。本焼結による収縮でシャンク部材を刃部材に一体的に接合する場合、所定の接合強度を得る上でシャンク部材の肉厚は、本焼結による収縮後の寸法で1mm以上が望ましい。
【0017】
所定のリードL1でねじれた流体供給孔を有する刃部材は、例えば前記特許文献1と同様に押出プレス成形等によって形成することができる。ねじれ溝については、例えば本焼結後に砥石による研削加工等によって形成することができ、本焼結の前に切削加工等による粗加工で粗ねじれ溝を形成しておくこともできる。流体供給孔およびねじれ溝は、例えば工具軸心Oに対して対称的にそれぞれ一対ずつ設けられるが、工具軸心Oまわりに等角度間隔でそれぞれ3本以上設けることも可能である。流体供給孔によって供給される流体は、潤滑作用や冷却作用などが得られる切削油剤や圧縮空気などである。
【0018】
流体供給孔およびねじれ溝のリードL1は、ドリル径D1に対して6.74×D1以下にすればねじれ溝のねじれ角αが25°以上になって適切な切りくず排出性能が得られ、例えばL1≒5.44×D1とすればねじれ角α≒30°となり、剛性や強度を確保しつつ良好な切りくず排出性能が得られる。但し、第1発明の実施に際しては、リードL1が6.74×D1よりも長く、ねじれ角αが25°に満たない場合であっても良い。小径ドリルにおいて所定の剛性や強度を確保する上で、ねじれ角αが例えば40°程度以下になるように、リードL1を3.74×D1以上とすることが望ましい。
【0019】
シャンク部材の貫通孔の残り寸法である油溜寸法L2は、その貫通孔内における流体の流通が安定するように内径D2に対して3×D2または10mmのうち大きい方の寸法以上であることが望ましく、5×D2以上或いは15mm以上とすることが一層望ましい。但し、3×D2未満或いは10mm未満であっても流速の急な変化を抑制して供給性能を向上させる効果は得られる。
【0020】
流体供給孔の径寸法は、ドリル径D1に対して0.05×D1未満だと流体の供給性能が損なわれ、0.2×D1を超えると小径ドリルの場合強度や剛性が損なわれるため、0.05×D1〜0.2×D1の範囲内が適当で、0.1×D1〜0.2×D1の範囲内が望ましい。但し、第1発明の実施に際しては、0.05×D1未満であったり0.2×D1を超えたりしても良い。
【0021】
本発明は、ドリル径D1が4mm以下の小径ドリルに好適に適用されるが、ドリル径D1が4mmを超えるドリルにも適用され得る。刃部材は、例えばドリル径D1と同じ一定の径寸法のストレート形状であるが、シャンク部材に嵌合される嵌合部(シャンク部材の内径D2)に比較して、シャンク部材から突き出してねじれ溝が形成される溝部の径寸法(ドリル径D1)が小さい段付き形状とすることも可能である。その場合に、押出プレス成形によって得られる流体供給孔を有する素材は一定の径寸法であるため、ねじれ溝が設けられる溝部のみ所定のドリル径D1になるまで切削加工や研削加工などで削り出すようにすれば良い。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例である流体供給孔付き超硬ドリル10(以下、単に超硬ドリル10という)を示す図で、(a) は工具軸心Oと直角な方向から見た一部を切り欠いた正面図、(b) は(a) の左側の工具後端側から見て拡大して示す後端面図、(c) は(a) の右側の工具先端側から見て拡大して示す先端面図である。この超硬ドリル10は、2枚刃のツイストドリルで、何れも超硬合金から成るシャンク部材12および刃部材14によって構成されている。
【0023】
シャンク部材12は、軸心上に貫通孔16が設けられた円筒形状を成しており、軸方向の両端には面取り状のテーパ面が形成されているとともに、刃部材14の後端部は、このシャンク部材12の貫通孔16内に嵌合されて一体的に固設されている。本実施例では、予め予備焼結された半焼結材である円筒形状のシャンク素材50(図2参照)の貫通孔16内に、本焼結された刃部素材52を嵌合した状態で、そのシャンク素材50が本焼結されることにより、その焼結に伴う収縮でシャンク素材50が刃部素材52に一体的に接合され、それ等が接合されたドリル素材54に対して所定の研削加工等が施されることにより本実施例の超硬ドリル10が構成されている。
【0024】
刃部材14は、所定のリードL1でねじれた一対の流体供給孔18が軸方向に縦通するように設けられているとともに、外周面にはその流体供給孔18と同じ数だけ同じリードL1でねじれ溝20が形成され、そのねじれ溝20が軸方向の先端に開口する部分に一対の切れ刃22が設けられている。一対の流体供給孔18およびねじれ溝20は、何れも工具軸心Oに対して対称的に設けられており、流体供給孔18は一対の切れ刃22の逃げ面24にそれぞれ開口している。この刃部材14は、一対の切れ刃22の外径であるドリル径D1と同じ一定の径寸法のストレート形状を成しているとともに、一対のねじれ溝20はシャンク部材12から突き出す部分のみに設けられており、シャンク部材12に嵌合されて一体的に接合される部分は、ねじれ溝20が無い円筒形状の外周面を有している。なお、図1(a) の刃部材14の外周面形状は、ねじれ溝20を含めて概略的に示したものである。
【0025】
上記刃部材14は、シャンク部材12の貫通孔16の後部側が所定の油溜寸法L2だけ残るように、貫通孔16内に嵌合されて一体的に接合されている。油溜寸法L2は、シャンク部材12の内径D2に対して3×D2または10mmのうち大きい方の寸法以上で、本実施例では内径D2≒3.0mmで、油溜寸法L2≒16mmである。シャンク部材12の外径であるシャンク径D3は、肉厚tが1mm以上となるように内径D2に応じて定められ、本実施例ではシャンク径D3≒6.0mmで、肉厚tは約1.5mmである。
【0026】
前記ドリル径D1は内径D2と同じで約3.0mmであり、前記リードL1はねじれ溝20のねじれ角αが25°以上になるように6.74×D1=20.22mm以下で、本実施例ではねじれ角αが約30°となるようにL1≒16.32mmとされている。また、流体供給孔18の径寸法は、0.05×D1〜0.2×D1の範囲内で、本実施例では約0.3mm(≒0.1×D1)とされており、そのピッチ(中心間距離)qは約1.0mmである。なお、図は必ずしも正確な寸法割合で示したものではない。
【0027】
図2は、本実施例の超硬ドリル10の製造工程の一例を説明する図で、(a) は前記シャンク部材12の元となるシャンク素材50であり、超硬合金の原料を円筒形状に成形した後に予備焼結された半焼結材である。このシャンク素材50は、本焼結による収縮を考慮して目的寸法よりも大き目に形成されており、貫通孔16も前記内径D2より大きい。(b) は前記刃部材14の元となる刃部素材52で、超硬合金の原料を押出プレス成形することにより一対のねじれた流体供給孔18を形成しつつ円柱形状に成形した後、予備焼結および本焼結を行うとともに、所定の外径寸法となるように荒研削加工を行ったものである。そして、(c) に示すように円筒形状のシャンク素材50の貫通孔16内に刃部素材52の後端部を所定寸法だけ嵌合した状態で、そのシャンク素材50を本焼結すると、(d) に示すようにシャンク素材50は焼結に伴って例えば20%〜25%程度の収縮率で収縮し、貫通孔16が刃部素材52の外周面に密着させられて一体的に接合される。(d) の一点鎖線は焼結前のシャンク素材50の大きさである。これにより、それ等のシャンク素材50および刃部素材52が一体的に接合されたドリル素材54が製作され、更にシャンク素材50に外周研削加工等が施されるとともに、刃部素材52に前記ねじれ溝20や逃げ面24等が研削加工によって設けられることにより、前記シャンク部材12および刃部材14から成る超硬ドリル10が得られる。
【0028】
このような本実施例の超硬ドリル10においては、シャンク部材12の貫通孔16の後部側が所定の油溜寸法L2だけ残るようにその貫通孔16内に刃部材14の後端部が嵌合されて一体的に接合されているため、刃部材14の後端より後方の貫通孔16の空間部分26が油溜として機能し、流体供給孔18を経てドリル先端部へ供給される流体の供給性能(供給量など)が向上する。すなわち、冷却油剤等の流体は、図3の(a) に示すように主軸等に設けられた工具ホルダ30の保持穴32によって定まる工具後端の比較的大きな流通断面から先ずシャンク部材12の貫通孔16内(上記空間部分26)に流入し、その後その貫通孔16に嵌合された刃部材14の流体供給孔18内に流入するため、流通断面積が段階的に小さくなり、流体の流速も段階的に増大させられることから、流速の急な変化に起因する乱流の発生が抑制されて供給性能が改善されるのである。
【0029】
これに対し、図3の(b) に示す従来品は、刃部材14の後端とシャンク部材12の後端とが略一致し、両者の後端面が略面一になるように構成されているため、冷却油剤等の流体は、工具ホルダ30の保持穴32によって定まる工具後端の比較的大きな流通断面から一気に小径の流体供給孔18内に流入するため、流速の急な変化によって乱流が生じ易く、流体の供給性能が阻害される。特に、流体供給孔18の径寸法はドリル径D1に応じて設定され、小径ドリルにおいては流体供給孔18の径寸法も小さくなるのに対し、シャンク部材12は刃部材14と別体に構成されることからドリル径D1に対してシャンク径D3を比較的大きくできるため、流通断面積の変化が一層大きくなり、流速の変化による供給性能の低下が顕著になる。
【0030】
一方、本実施例の超硬ドリル10は、シャンク部材12と刃部材14とを嵌合して一体的に接合する際に、貫通孔16の後部側が所定の油溜寸法L2だけ残るようにするだけで良いため、所定の接合強度が得られる限り格別な設計変更などは不要で、必要に応じてシャンク部材12の長さ寸法を長くすれば良く、簡便に且つ安価に実施できる。
【0031】
また、本実施例では上記油溜寸法L2がシャンク部材12の内径D2に対して3×D2または10mmのうち大きい方の寸法以上であるため、貫通孔16内における流体の流通が安定した後に刃部材14の流体供給孔18内に流入するようになり、流体の供給性能が適切に改善される。
【0032】
また、本実施例では流体供給孔18の径寸法がドリル径D1に対して0.05×D1〜0.2×D1の範囲内であるため、ドリル径D1≒3.0mmの小径ドリルにおいても、所定の工具強度や剛性を確保しつつその流体供給孔18を経て流体がドリル先端部へ適切に供給される。
【0033】
また、本実施例は、ドリル径D1≒3.0mmの小径ドリルに関するものであるが、流体供給孔18およびねじれ溝20のリードL1が6.74×D1以下、具体的にはL1≒16.32mmで、ドリル径D1と同じ径寸法のねじれ溝20のねじれ角αが約30°になるため、所定の工具強度や剛性を確保しつつ所定の切りくず排出性能が得られ、流体供給性能の向上と相まって切りくずがねじれ溝20に沿って適切に排出されるようになり、切りくず詰まり等による工具折損が適切に抑制される。
【0034】
また、本実施例では、予備焼結された半焼結材であるシャンク素材50の貫通孔16内に、本焼結された刃部素材52を嵌合した状態で、そのシャンク素材50が本焼結されることにより、その焼結に伴う収縮でシャンク素材50が刃部素材52に一体的に接合されてドリル素材54が製作され、そのドリル素材54を元に超硬ドリル10が製造されるため、シャンク部材12および刃部材14から成る超硬ドリル10を簡単且つ安価に製造できる。その場合に、焼結後のシャンク部材12の肉厚tが1.0mm以上で本実施例ではt≒1.5mmであるため、シャンク素材50を本焼結して刃部素材52に一体的に接合する際に十分な接合強度を得ることができる。
【0035】
なお、上記実施例の超硬ドリル10の刃部材14は、ドリル径D1と同じ一定の径寸法のストレート形状を成していたが、図4に示す超硬ドリル40のように、刃部材42を段付き形状とすることも可能である。すなわち、シャンク部材12に嵌合される嵌合部42aに比較して、シャンク部材12から突き出してねじれ溝20が形成される溝部42bの径寸法を、ドリル径D1に応じて小さくするのである。押出プレス成形によって得られる前記刃部素材52は一定の径寸法のストレート形状であるため、ねじれ溝20が設けられる溝部42bのみを研削加工等により削り出して小径にすれば良い。
【0036】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0037】
10、40:流体供給孔付き超硬ドリル 12:シャンク部材 14、42:刃部材 16:貫通孔 18:流体供給孔 20:ねじれ溝 22:切れ刃 O:工具軸心 L1:リード L2:油溜寸法 D1:ドリル径 D2:内径 D3:シャンク径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬合金にて構成されているとともに軸心上に貫通孔が設けられた円筒形状のシャンク部材と、
所定のリードL1でねじれた複数の流体供給孔が軸方向に縦通するように設けられているとともに、外周面には該流体供給孔と同じ数だけ同じリードL1でねじれ溝が形成され、該ねじれ溝が軸方向の先端に開口する部分に切れ刃が形成された超硬合金製の刃部材と、
を有し、該刃部材の軸方向の後端部が前記シャンク部材の貫通孔内に嵌合されて一体的に固設されている流体供給孔付き超硬ドリルにおいて、
前記刃部材は、前記シャンク部材の貫通孔の後部側が所定の油溜寸法L2だけ残るように該貫通孔内に嵌合されて一体的に固設されている
ことを特徴とする流体供給孔付き超硬ドリル。
【請求項2】
前記油溜寸法L2は、前記円筒形状のシャンク部材の内径D2に対して3×D2または10mmのうち大きい方の寸法以上である
ことを特徴とする請求項1に記載の流体供給孔付き超硬ドリル。
【請求項3】
前記流体供給孔の径寸法は、前記切れ刃の外径であるドリル径D1に対して0.05×D1〜0.2×D1の範囲内である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の流体供給孔付き超硬ドリル。
【請求項4】
前記切れ刃の外径であるドリル径D1は4mm以下で、前記リードL1は6.74×D1以下である
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の流体供給孔付き超硬ドリル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−201551(P2010−201551A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−49039(P2009−49039)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(000103367)オーエスジー株式会社 (180)
【Fターム(参考)】