説明

流体動圧軸受装置およびその組み立て方法

【課題】静粛性に優れ、高精度で、かつ低コストに製造可能であり、特に住宅用の小型換気扇のモータに好適に組み込むことができる流体動圧軸受装置およびその組み立て方法を提供することにある。
【解決手段】外方部材20を構成する少なくとも1つの部材が、板材のプレス加工により成形されたものであって、このプレス加工により前記ラジアル軸受面と少なくとも片側のスラスト軸受面が形成されていると共に、内方部材10の少なくともラジアル軸受面とスラスト軸受面を形成する部分が焼結金属からなる流体動圧軸受装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内方部材と外方部材との間の軸受隙間に生じる潤滑油の動圧作用で、内方部材を回転自在に支持する流体動圧軸受装置およびその組み立て方法に関する。
【背景技術】
【0002】
換気扇等の電気機器に搭載されるモータには軸受が組み込まれており、この軸受によって、回転軸が回転自在に支持されている。この種の用途には、外輪と内輪との間に複数の転動体が介在され、この転動体を保持する保持器とからなる、いわゆる転がり軸受が一般的に使用されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
一方、流体動圧軸受装置として、円筒状の軸受リングとこの両端に嵌合された軸受プレートから構成された外方部材とその内側に配置された内方軸受プレート部材とからなる構造の流体動圧軸受装置がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−249142号公報
【特許文献2】特開2008−275159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、住宅の高気密化が進展している。その一方で、化学物質を発散する建材の使用やエアコンの普及による換気不足などに伴い、いわゆるシックハウス症候群の発症人口の増加が問題視されている。そのため、現在の建築基準法において、住宅には、積極的・強制的に給排気を行うための、いわゆる24時間換気システムの設置が義務付けられている。このシステムは各居室に設置した小型の換気扇を主要部として構築されるため、システムの構築費用を低廉化するには換気扇の低コスト化が有効な対策となる。しかしながら、換気扇用のモータに組み込まれる転がり軸受は、上述のとおり数多くの部品で構成されていることから低コスト化には限度があり、モータ、ひいては換気扇の更なる低価格化を図る上で障害となっている。
【0006】
また、上記システムの換気扇は基本的に連続運転されることから、特に低騒音であることが求められる。しかしながら、転がり軸受では、運転時に保持器のポケットと転動体とが衝突することによって生じるいわゆる保持器音や、内外輪の軌道面上を転動体が転動することによって生じる摩擦音等の発生が避けられないことから、更なる静粛性向上の要請に対応するのが困難である。
【0007】
この問題に関して、流体動圧軸受装置に着目した。その例として、特許文献2に示されている流体動圧軸受装置は、第1の軸受リング(12)と、第1の軸受リング(12)から内径側に突出した一対の第1の軸受プレート(16、20)とで外方部材(第1の軸受部材)を構成すると共に、回転軸に取り付けられる円筒状の第2の軸受リング(14)と、第2の軸受リング(14)の外周面に固定された第2の軸受プレート(18)とで内方部材(第2の軸受部材)を構成している。内方部材が回転すると、第1の軸受リング(12)の内周面と第2の軸受プレート(18)との間にラジアル軸受隙間が形成されると共に、一対の第1の軸受プレート(16、20)と第2の軸受プレート(18)との間にスラスト軸受隙間が形成される。一対の第1の軸受プレート(16、20)と第2の軸受プレート(18)とが軸方向に係合することにより、外方部材の内周から内方部材の抜けが規制され、流体動圧軸受装置を一体化できるため、換気扇等への組みつけがしやすくなる。
【0008】
しかし、上記の流体動圧軸受装置では、外方部材を多くの部品で構成しているので、各部品の加工コストおよびこれらの部品の組み立てコストが嵩み、コスト低減を図ることが難しい。また、高精度な動圧溝の加工が難しい。
【0009】
本発明の課題は、静粛性に優れ、高精度で、かつ低コストに製造可能であり、特に住宅用の小型換気扇のモータに好適に組み込むことができる流体動圧軸受装置およびその組み立て方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の発明者らは、前記課題を種々検討した結果、ラジアル軸受面とスラスト軸受面を備えた外方部材を板材のプレス加工により形成することと、ラジアル軸受面とスラスト軸受面を備えた内方部材を焼結金属製とするという着想に至った。
【0011】
本発明は、ラジアル軸受面とその両端に形成したスラスト軸受面を備えた外側部材と、この外方部材の内側に配置され、前記ラジアル軸受面とスラスト軸受面のそれぞれに対向するラジアル軸受面とスラスト軸受面を備えた内方部材とからなり、前記外方部材と内方部材のラジアル軸受面間にラジアル軸受隙間を形成し、かつスラスト軸受面間にスラスト軸受隙間を形成し、これらの軸受隙間に潤滑油を介在させた流体動圧軸受装置において、前記外方部材を構成する少なくとも1つの部材が、板材のプレス加工により成形されたものであって、このプレス加工により前記ラジアル軸受面と少なくとも片側のスラスト軸受面が形成されていると共に、前記内方部材の少なくともラジアル軸受面とスラスト軸受面を形成する部分が焼結金属からなることを特徴とするものである。
【0012】
上記のように、外方部材を構成する少なくとも1つの部材が、板材のプレス加工により成形されたものであって、このプレス加工により前記ラジアル軸受面と少なくとも片側のスラスト軸受面が形成されていると共に、内方部材の少なくともラジアル軸受面とスラスト軸受面を形成する部分が焼結金属からなるので、部品点数が少なく、高精度で、かつ低コストに製造可能であると共に静粛性に優れる。
【0013】
焼結金属製の内方部材のラジアル軸受面に動圧溝が、あるいはラジアル軸受面およびスラスト軸受面に動圧溝が形成されているので、潤滑油の動圧作用により回転軸を非接触に支持することができ、静粛性に優れる。
【0014】
内方部材が焼結金属で形成されるため、内方部材のラジアル軸受面に動圧溝を転造加工する際の塑性流動を焼結金属の内部気孔で吸収できる。このため、塑性流動による表面の盛り上がりが抑えられ、動圧溝を精度良く形成することができる。また、外方部材のスラスト軸受面の動圧溝がプレス加工により形成されるため、動圧溝が高精度で、かつ低コストに形成することができる。
【0015】
外方部材が第1外方部材と第2外方部材の2つの部材から形成され、第1外方部材の縦断面形状が略L字形状で、その円筒部内周面にラジアル軸受面が形成され、半径方向部の内側面にスラスト軸受面が形成されると共に、第2外方部材が円盤形状で、その半径方向部の内側面にスラスト軸受面が形成されたものであって、円盤形状の第2外方部材の外周面が前記第1外方部材の円筒部内周面に嵌合される構造であるので、部品点数が少なく、高精度で、かつ低コストに製造可能であると共に静粛性に優れた流体動圧軸受装置が実現できる。
【0016】
外方部材が第1外方部材と第2外方部材の2つの部材から形成され、これら2つの部材の縦断面形状がいずれも略L字形状であり、第1外方部材の半径方向部の内側面にスラスト軸受面が形成されると共に、第2外方部材の円筒部内周面にラジアル軸受面が形成され、半径方向部の内側面にスラスト軸受面が形成されたものであって、第1外方部材の円筒部内周面に第2外方部材の円筒部外周面が嵌合されているので、第1外方部材と第2外方部材の嵌合長さを確保でき、精度と結合状態を向上することができる。
【0017】
ヘリングボーン形状等の一方向回転用の動圧溝を形成したものであっても、回転方向を識別するために、第1外方部材と第2外方部材とが異なる色相の表面を有することにより、誤組みを防止することができる。
【0018】
第1外方部材の円筒部端面が第2外方部材の半径方向部の外側面より下がった位置にあるので、接着剤の注入がしやすい。
【0019】
第1外方部材の円筒部内周面と第2外方部材の円筒部外周面のいずれか一方に凸部が設けられているので、第1外方部材と第2外方部材の精度が損なわれず圧入することができる。また、密封性を確保するため、接着剤を連続的に注入して接着するのに好適である。
【0020】
軸受面を形成する部分の焼結金属の材質を銅鉄系とし、銅の配合比率を20〜80%としている。銅の配合比率が20%未満をなると動圧溝の成形性や潤滑性で問題となり、一方、銅の配合比率が80%を超えると耐摩耗性を確保することが難しい。したがって、銅の配合比率が20〜80%が望ましい。なお、軸に嵌合するスリーブ部を別体の部材とし、この部材も焼結金属とした場合には、その材料は、上記の銅鉄系に限られず鉄系でも可能であり、耐摩耗性や軸との組合せ、必要部位の表面開口率の設定容易性などを総合的に勘案し、同種もしくは異種材料の中から組合せを選択することができる。
【0021】
焼結金属のラジアル軸受面の表面開孔率を2〜20%としている。表面開孔率が2%未満では潤滑油の循環が十分でなく、表面開孔率が20%を超えると潤滑油の圧力低下が生じる。したがって、表面開孔率が2〜20%が望ましい。
【0022】
焼結金属製の内方部材が、ラジアル軸受面とスラスト軸受面を形成する突出部と、軸に嵌合するスリーブ部とからなり、当該2つの部分を一体の部材で形成することにより、焼結金属製による成形性のメリットと共にさらに部品点数を削減することができる。
【0023】
焼結金属製の内方部材が、ラジアル軸受面とスラスト軸受面を形成する突出部と、軸に嵌合するスリーブ部とからなり、当該2つの部分を別体の部材で構成することにより、焼結金属製による成形性をより一層高めることができる。
【0024】
流体動圧軸受装置の内部に潤滑油を入れた後、使用温度範囲を超える温度で油量調整が施されているので、使用時に、熱膨張により潤滑油が漏れ出すことを防止することができる。
【0025】
本発明の流体動圧軸受装置を軸方向に離隔して配置し、隣り合う流体動圧軸受装置の間にモータロータを配置して換気扇用モータを構成したので、一体型の流体動圧軸受装置の組み付けが容易に行え、かつ静粛な換気扇用モータを実現することができる。
【0026】
本願の第2の発明は、ラジアル軸受面とその両端に形成したスラスト軸受面を備えた外側部材と、この外方部材の内側に配置され、前記ラジアル軸受面とスラスト軸受面のそれぞれに軸受隙間をもって対向するラジアル軸受面とスラスト軸受面を備えた内方部材とから構成されており、前記外方部材が、第1外方部材と第2外方部材の2つの部材からなり、それぞれの内側面に前記スラスト軸受面が形成された流体動圧軸受装置の組み立て方法であって、前記第1外方部材のスラスト軸受面に内方部材のスラスト軸受面を当接させた後、前記内方部材を第1外方部材から前記スラスト軸受隙間の合計量だけ離隔させ、その状態で、前記内方部材のスラスト軸受面に第2外方部材のスラスト軸受面が当接するまで、第2外方部材を第1外方部材に押し込むことを特徴とするものである。このような流体動圧軸受装置の組み立て方法により、スラスト軸受隙間を高精度に、かつ容易に設定することができる。
【0027】
内方部材が、ラジアル軸受面とスラスト軸受面を形成する突出部と回転軸に嵌合するスリーブ部の2つの部材からなるものに適用する組み立て方法として、前記第1外方部材のスラスト軸受面に内方部材の突出部材のスラスト軸受面を当接させた後、前記スリーブ部材を突出部材に圧入する工程を含んでいる。このような流体動圧軸受装置の組み立て方法により、スリーブ部材を突出部材に圧入する工程とスラスト軸受隙間を設定する工程とを併せて行うことができる。
【0028】
より具体的には、第1外方部材のスラスト軸受面に内方部材の突出部材のスラスト軸受面を当接させる工程は、載置面と底面を備えた第1治具の載置面上に前記第1外方部材を設置し、この第1外方部材のスラスト軸受面に当接するよう内方部材の突出部材を挿入し、その後、スリーブ部材を、その端面が第1治具の底面に当接するまで突出部材に圧入することにより行い、その後、前記第1治具とは異なる載置面と底面を備えた第2治具の載置面上に第1外方部材と内方部材のセットを設置し、前記スリーブ部材の端面が第2治具の底面に当接させることにより、前記内方部材を第1外方部材から前記スラスト軸受隙間の合計量だけ隔離させる組み立て方法である。この組み立て方法によれば、シンプルな第1治具、第2治具を用いて、スラスト軸受隙間を高精度に、かつ容易に設定することができる。
【0029】
内方部材が一体構造のものに適用する組み立て方法として、前記第1外方部材のスラスト軸受面に内方部材のスラスト軸受面を当接させる工程は、固定治具と移動治具を使用し、固定治具の上に前記第1外方部材を設置し、この第1外方部材のスラスト軸受面に当接するよう内方部材を挿入し、その後、移動治具より前記内方部材を第1外方部材から前記スラスト軸受隙間の合計量だけ上方に隔離させる組み立て方法である。この組み立て方法によれば、移動治具の移動距離を調整することにより、スラスト軸受隙間の設定を調整することができる。
【0030】
第2外方部材を第1外方部材に押し込んだ状態で、接着剤を注入する組み立て方法により、密封性を確保して固定するための接着剤の注入を効率よく行うことができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、外方部材を構成する少なくとも1つの部材が、板材のプレス加工により成形されたものであって、このプレス加工により前記ラジアル軸受面と少なくとも片側のスラスト軸受面が形成されていると共に、内方部材のラジアル軸受面とスラスト軸受面を形成する部分が焼結金属からなるので、部品点数が少なく、高精度で、かつ低コストに製造可能であると共に静粛性に優れる。特に、換気扇用モータ用の流体軸受装置として好適である。
【0032】
内方部材が焼結金属で形成されるため、内方部材のラジアル軸受面に動圧溝を転造加工する際の塑性流動を焼結金属の内部気孔で吸収できる。このため、塑性流動による表面の盛り上がりが抑えられ、動圧溝を精度良く形成することができる。また、焼結金属製の内方部材のラジアル軸受面に動圧溝、あるいはラジアル軸受面およびスラスト軸受面に動圧溝が精度良く形成されているので、潤滑油の動圧作用により回転軸を非接触に支持することができ、静粛性に優れる。
【0033】
焼結金属製の内方部材がラジアル軸受面とスラスト軸受面を形成する突出部と、軸に嵌合するスリーブ部とからなり、当該2つの部分を一体の部材で形成することにより、焼結金属製による成形性のメリットと共にさらに部品点数を削減することができる。
【0034】
本願の第2の発明の流体動圧軸受装置の組み立て方法によれば、前記第1外方部材のスラスト軸受面に内方部材のスラスト軸受面を当接させた後、前記内方部材を第1外方部材から前記スラスト軸受隙間の合計量だけ離隔させ、その状態で、第2外方部材を第1外方部材に押し込むものである。このような流体動圧軸受装置の組み立て方法により、スラスト軸受隙間を高精度に、かつ容易に設定することができる。さらに具体的には、この組み立て方法によれば、シンプルな第1治具、第2治具を用いて、スラスト軸受隙間を高精度に、かつ容易に設定することができる。また、別の態様の組み立て方法によれば、移動治具の移動距離を調整することにより、スラスト軸受隙間の設定を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】換気扇モータ用の軸受ユニットの縦断面図である(モータ静止時)。
【図2】本発明の第1の実施形態の流体動圧軸受装置の縦断面図である。
【図3】図2の要部を拡大した縦断面図である。
【図4】内方部材に形成された動圧溝を示す正面図および側面図である。
【図5】換気扇モータ用の軸受ユニットの縦断面図である(モータ回転時)。
【図6】第1実施形態の変形例の流体動圧軸受装置の縦断面図である。
【図7】第1実施形態の別の変形例を示す縦断面図である。
【図8】本発明の第2の実施形態の流体動圧軸受装置の縦断面図である。
【図9】第2実施形態の変形例の流体動圧軸受装置の縦断面図である。
【図10】図8の要部を拡大した縦断面図である。
【図11】本発明の第3の実施形態の流体動圧軸受装置の縦断面図である。
【図12】第2の発明の第1実施形態の組み立て方法を示す縦断面図である。
【図13】第2の発明の第2実施形態の組み立て方法を示す縦断面図である。
【図14】第2の発明の第2実施形態の組み立て方法を示す縦断面図である。
【図15】第2の発明の第2実施形態の組み立て方法を示す縦断面図である。
【図16】本発明の第2の実施形態の流体動圧軸受装置の内方部材と外方部材の嵌合部に接着剤を注入する状態を示す横断面図である。
【図17】本発明の第2の実施形態の流体動圧軸受装置の内方部材と外方部材の嵌合部を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0037】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る流体動圧軸受装置を組み込んだ軸受ユニット1の軸方向断面図である。この軸受ユニット1は、例えば、住宅の居室に設置される24時間換気システム用の小型換気扇モータ(より厳密に言えば、換気扇用インナーロータ型モータ)に組み込まれて使用されるものである。軸受ユニット1は、回転軸2と、回転軸2の外周面に固定されたモータロータ3、回転軸2の端部に設けられたファン6とからなる回転体を回転自在に支持するために、モータロータ3の軸方向両端位置において回転軸2とハウジング5の間に配置された一対の流体動圧軸受装置4、4から構成される。一方(図中右側)の流体動圧軸受装置4とハウジング5との間には、スプリング7が圧縮状態で配置されている。尚、図1は、モータ(回転軸2)が静止した状態を示している。また、ステータは図示を省略した。
【0038】
流体動圧軸受装置4は、図2に示すように、内方部材10と、この内方部材10を回転自在に支持する外方部材20とを備える。図2では、流体動圧軸受装置4は、軸線Aより上側半分が示されている。以降の実施形態においても同様とする。内方部材10は回転軸2に固定され、外方部材20は、ハウジング5の内周面に嵌合し、軸方向に摺動可能な状態で取り付けられる(図1参照)。軸方向および半径方向で互いに対向する内方部材10と外方部材20の各面間(ラジアル軸受隙間Rおよびスラスト軸受隙間T)には潤滑油が介在している(図3参照)。尚、図1中の流体動圧軸受装置4、4は、同一構造である。
【0039】
図2に示すように、内方部材10は、突出部10aとスリーブ部10bとからなり、本実施形態では、いずれも焼結金属で形成される。突出部10aは、外周面11と両側面12、13を有し、外周面11がラジアル軸受面11Rを形成し、両側面12、13がスラスト軸受面12T、13Tを形成する。外周面11は円筒面状をなし、ラジアル軸受隙間Rに満たされた潤滑油に接触している(図3参照)。突出部10aの外周面11には動圧溝11aが形成されている。詳細には、図4(b)に示すように、外周面11の全面に形成され、V字状に屈曲した動圧溝11aと、これを区画する丘部11b(図中クロスハッチングで示す)とを、円周方向に交互に配置したヘリングボーン形状を呈する。動圧溝11aは、例えば転造加工により形成される。本実施形態では、内方部材10の突出部10aが焼結金属で形成されるため、転造加工の圧迫による突出部10aの外周面11の塑性流動を焼結金属の内部気孔で吸収できる。このため、塑性流動による突出部10aの表面の盛り上がりが抑えられ、動圧溝11aと丘部11bを精度良く形成することができる。
【0040】
内方部材10の突出部10aの両側面12、13は、軸線Aに直角な半径方向の平坦面をなし、スラスト軸受隙間Tに満たされた潤滑油に接触している(図3参照)。突出部10aの両側面12、13には動圧溝12a、13aが形成されている。詳細は、図4(a)、(c)に示す。図4(a)は突出部10aの左側の側面12を示し、図4(c)は突出部10aの右側の側面13を示す。図示のように、両側面12、13の全面に形成され、V字状に屈曲した動圧溝12a、13aと、これを区画する丘部12b、13b(図中クロスハッチングで示す)とを、円周方向に交互に配置したヘリングボーン形状を呈する。内方部材10の突出部10aが焼結金属で形成されるため、両側面12、13の動圧溝12a、13aは、プレス加工により精度良く形成することができる。また、突出部10aのサイジングと同時に動圧溝12a、13aを型成形することができる。
【0041】
回転軸2に固定されるスリーブ部10bも焼結金属で形成される。図2に示すように、スリーブ部10bは、突出部10aの両側面12、13間の幅よりも長く形成され、突出部10aに嵌合固定されると、両側面12、13より軸方向に突出している。スリーブ部10bの円筒面状の内周面10cの軸方向両端部に面取り部10dが設けられている。内方部材10は、例えば内周面10cを回転軸2の外周面に圧入(軽圧入)することにより、あるいは、内周面10cと回転軸2の外周面との間に接着剤を介在させることにより、回転軸2に固定される。
【0042】
内方部材10の軸受面を形成する部分である突起部10aの焼結金属の材質は、銅鉄系とし、銅の配合比率を20〜80%としている。銅の配合比率が20%未満をなると動圧溝の成形性や潤滑性で問題となり、一方、銅の配合比率が80%を超えると耐摩耗性を確保することが難しい。また、内方部材10の突出部10aの、少なくともラジアル軸受面を形成する外周面11は、焼結部材の表面開孔率を2〜20%とする。表面開孔率が2%未満では潤滑油の循環が十分でなく、表面開孔率が20%を超えると潤滑油の圧力が低下する。さらに、銅鉄系焼結部材の密度は、潤滑油の連通性や塑性加工性を維持するために、6〜8g/cmとする。回転軸2に嵌合するスリーブ部10bを形成する焼結金属の材料としては、上記の銅鉄系に限られず鉄系でも可能であり、耐摩耗性や軸との組合せ、必要部位の表面開口率の設定容易性などを総合的に勘案し、同種もしくは異種材料の中から組合せを選択することができる。
【0043】
図2に示すように、外方部材20は、第1外方部材20aと第2外方部材20bの2つの部材から形成される。第1外方部材20aは、円筒部20a1と、この円筒部20a1の一端に形成された半径方向部20a2を有し、板材をプレス加工して略L字形状に形成されている。具体的には、板材は、ステンレス鋼板や冷間圧延鋼板等を用い、その板厚は、0.1〜1mm程度である。第2外方部材20bは、円盤状で、板材をプレス加工で打ち抜いて形成されている。第1外方部材20aの円筒部20a1の内周面21がラジアル軸受面21Rを形成し、半径方向部20a2の内側面22がスラスト軸受面22Tを形成する。第2外方部材20bの内側面23がスラスト軸受面23Tを形成する。これらの内周面21、内側面22および内側面23は、平滑な面で形成される。内周面21、内側面22および内側面23は、内方部材10の突出部10aの外周面11、両側面12、13にそれぞれ対向して配置され、ラジアル軸受隙間Rおよびスラスト軸受隙間Tを形成する。
【0044】
第1外方部材20aの半径方向部20a2の内径側端部にある小径内周面24および第2外方部材20bの内径側端部にある小径内周面25は、内方部材10のスリーブ部10bの外周面26と適宜の隙間をもって対向している。小径内周面24、25に撥油剤を塗布すれば、潤滑油の漏れ防止により効果がある。
【0045】
この実施形態では、動圧溝11a、12a、13aはヘリングボーン形状で一方向回転用である。しかし、回転方向を識別するために、第1外方部材20aと第2外方部材20bとが異なる色相の表面を有する。これにより、誤組みを防止することができる。異なる色相の表面を形成するために、異なる色相の材質を用いたり、表面処理を施す。
【0046】
本実施形態の流体動圧軸受装置4は、第1外方部材20aの内部に内輪部材10を挿入した後、第1外方部材20aの内周面21に第2外方部材20bを嵌合させて、組み立てられている(組み立て方法の詳細は後述する)。流体動圧軸受装置4の寸法に特段の制限はないが、ミニアチュアベアリングの代替例として、例えば、内径φ3mm、外径φ8mm、幅4mm程度のものから種々の寸法のものに適用することができる。
【0047】
外方部材20の外周面20cは、図1に示す小型換気扇モータでは、ハウジング5の内周面に嵌合し、軸方向に摺動可能な状態で取り付けられるが、その他に、静止側部材の内周面に圧入や接着等の適宜の手段で固定される。
【0048】
以上の構成からなる流体動圧軸受装置4の内部空間には焼結金属製の内方部材10の内部気孔を含めて、潤滑油が充填される。潤滑油は、図3に拡大して示すように、ラジアル軸受隙間Rの全域およびスラスト軸受隙間Tの内径端付近まで満たされる。潤滑油は、スラスト軸受隙間Tの毛細管力により外径側(ラジアル軸受隙間R側)に引き込まれる。潤滑油の油面は、スラスト軸受隙間Tに保持される。
【0049】
上記の流体動圧軸受装置4を組み込んだ軸受ユニット1は、図1に示すように、スプリング7により図中右側の流体動圧軸受装置4の外方部材20が図中左向きに付勢されている。このため、回転軸2が静止した状態(図1の状態)では、スプリング7により付勢された外方部材20が内方部材10に当接し、内方部材10および回転軸2が図中左向きに付勢されている。これにより、図中左側の流体動圧軸受装置4の内方部材10が図中左向きに付勢され、外方部材と当接して係止される。すなわち、ハウジング5およびスプリング7により、一対の流体動圧軸受装置4、4に互いに接近する方向の予圧が付される。
【0050】
図5に示すように、回転軸2が回転すると、各流体動圧軸受装置4の内方部材10の外周面11と外方部材20の内周面21との間のラジアル軸受隙間Rに油膜が形成される。そして、回転軸2の回転に伴い、ラジアル軸受隙間Rの油膜の圧力が動圧溝11aにより高められ、この油膜の動圧作用により回転軸2および内方部材10が静止側部材に取り付けられた外方部材20に対してラジアル方向に非接触支持される。
【0051】
これと同時に、各流体動圧軸受装置4の内方部材10の両側面12、13と、これらに対向する外方部材20の内側面22、23との間のスラスト軸受隙間Tに油膜が形成される。回転軸2の回転に伴い、スラスト軸受隙間Tの油膜の圧力が動圧溝12a、13aにより高められ、回転軸2および内方部材10が静止側部材に取り付けられた外方部材20に対して、両スラスト方向に非接触支持される(図5参照)。尚、ラジアル軸受隙間Rおよびスラスト軸受隙間Tの大きさを誇張して示している。
【0052】
回転軸2の回転により、スラスト軸受隙間Tの潤滑油に動圧作用が生じると、回転軸2が図中右側に負荷を受ける(図5の白抜き矢印参照)。このとき、図中右側の流体動圧軸受装置4の外方部材20が図中右側にスライドしてスプリング7を圧縮することにより、両流体動圧軸受装置4,4のスラスト軸受隙間Tが確保される。このように、外方部材20をハウジング5に対して軸方向移動可能な状態で嵌合することで、スラスト軸受隙間Tを高精度に設定することができる。これにより、外方部材20に対して内方部材10が確実に非接触支持され、接触摺動による騒音の発生をより確実に防止できる。
【0053】
また、この軸受ユニット1では、スプリング7により流体動圧軸受装置4,4に軸方向の予圧を付与しているため、外方部材20がハウジング5に隙間を介して嵌合した状態であっても、回転軸2の回転に伴って外方部材20が回転する事態を防止できる。一方、スプリング7の弾性力が大きすぎると、内方部材10と外方部材20とが接触摺動する恐れがある。したがって、スプリング7の弾性力は、外方部材20の回転を防ぎ、かつ、外方部材20と内方部材10との接触摺動を防ぐことができるような範囲に設定され、例えば、スラスト軸受隙間Tに発生する動圧作用の負荷容量の20〜80%程度とすることが望ましい。
【0054】
以上の構成からなる流体動圧軸受装置4は、外方部材20の両内側面22、23の軸方向間に内方部材10が設けられるため、外方部材20の両内側面22、23と内方部材10の両側面12、13とが軸方向に係合することにより、外方部材20の内周から内方部材10の抜けが規制される。これにより、内方部材10および外方部材20の分離を防止して流体動圧軸受装置4を一体的に扱うことができるため、回転軸2やハウジング5への取り付けがしやすくなる。
【0055】
また、回転軸2の回転に伴ってスラスト軸受隙間T内の潤滑油に遠心力が作用することにより、潤滑油が外径側(ラジアル軸受隙間R側)に押し込まれる。この遠心力と、スラスト軸受隙間Tによる毛細管力とにより、潤滑油の漏れ出しを防止できるため、流体動圧軸受装置4に特別なシール機構を設ける必要がない。もちろん、流体動圧軸受装置4にシール機構を設けても良く、例えば、図2に示す外方部材20の小径内周面24、25と、内方部材10のスリーブ部10bの外周面26のいずれかをテーパ面状に形成することで、断面楔形のシール空間を設けても良い。
【0056】
本発明の第1の実施形態の変形例を図6に基づいて説明する。前述した第1の実施形態と同様の機能を有する箇所には同一の符号を付して重複説明は省略する。
【0057】
この変形例では、スラスト方向の動圧溝22a、23aが、第1外方部材20aの半径方向部20a2の内側面22と第2外方部材20bの内側面23に、それぞれ形成されている。そして、内方部材10の突出部10aの両側面12、13は、凹凸のない平滑な面で形成されている。スラスト方向の動圧溝22a、23aは、例えば、第1外方部材20aと第2外方部材20bを板材からプレス加工により成形する際に、プレス加工により形成される。したがって、この動圧溝22a、23aにおいても、高精度に形成できる。動圧溝12a、13aの形状は、図4の(a)および(c)に示すものと同様である。また、内方部材10は突出部10aとスリーブ部10bが一体部材となっており、焼結金属製である。その他の部分は、第1の実施形態と同様である。
【0058】
本発明の第1の実施形態の第2の変形例を図7に基づいて説明する。内方部材10の突出部10aの外周面11には、動圧溝が形成されてなく、凹凸のない滑らかな面で形成されている。第1外方部材20aの円筒部20a1の内周面21も凹凸のない滑らかな面であり、対向する内方部材10の突出部10aの外周面11との間で、ラジアル軸受隙間Rの真円軸受を構成する。この場合、内方部材10の突出部10aの両側面12、13に設ける動圧溝12a、13aをポンプアウトタイプのヘリングボーン形状にすると、スラスト軸受隙間に介在する潤滑油が、ラジアル軸受隙間Rにより押し込まれて、ラジアル軸受面の油膜の圧力が高められ、内輪部材10への非接触支持力が高められる。また、第2外方部材20bの板厚は第1の実施形態に比べて薄肉とされている。これにより、ラジアル軸受部の軸方向長さを拡大でき、上記の動圧溝12a、13aのポンプアウトタイプのヘリングボーン形状と相俟って、真円軸受においても負荷容量を確保することができる。その他の部分は、第1の実施形態と同様である。
【0059】
本発明の第2の実施形態を図8に基づいて説明する。この実施形態では、外方部材20の第1外方部材20aと第2外方部材20bが共に、縦断面が略L字形状に形成されている。具体的には、第1外方部材20aは、円筒部20a1と、この円筒部20a1の一端に形成された半径方向部20a2を有する。また、第2外方部材20bは、円筒部20b1と、この円筒部20b1の一端に形成された半径方向部20b2を有する。第1外方部材20aと第2外方部材20bは、円筒部20a1の内周面21と円筒部20b1の外周面27との間で嵌合され、接着剤を介在させて固定されている。第1外方部材20aの円筒部20a1端面が第2外方部材20bの半径方向部20b2の外側面より下がった位置にあり、かつ面取り部28を設けているので、接着剤の注入がしやすい。第1外方部材20aと第2外方部材20bは、共に板材をプレス加工して略L字形状に形成されている。この実施形態では、第2外方部材20bの円筒部20b1の内周面29がラジアル軸受面29Rを形成する。第1外方部材20aの半径方向部20a2の内側面22および第2外方部材20bの半径方向部20b2の内側面23がスラスト軸受面22T、23Tを形成する。内周面29および内側面22、23はいずれも凹凸のない滑らかな面で形成され、動圧溝12a、13aは、内方部材10の突出部10aの両側面12、13に形成されている。第1外方部材20aの半径方向部20a2の内径側端部にある小径内周面24および第2外方部材20bの内径側端部にある小径内周面25は、外側に向かって拡径するテーパ面状に形成されている。この小径内周面24、25と、内方部材10のスリーブ部10bの外周面26との間でシール空間S1、S2を形成し、潤滑油の漏れ出しをより一層防止することができる。この構造では、円筒部20a1の内周面21と円筒部20b1の外周面27との間の嵌合長さが大きいので、安定した組み立てと固定結合を実現することができる。その他の部分は、第1の実施形態と同様である。
【0060】
この実施形態においても、動圧溝11a、12a、13aはヘリングボーン形状で一方向回転用である。しかし、回転方向を識別するために、第1外方部材20aと第2外方部材20bとが異なる色相の表面を有する。これにより、誤組みを防止することができる。異なる色相の表面を形成するために、異なる色相の材質を用いたり、表面処理を施す。
【0061】
本発明の第2の実施形態の変形例を図9に基づいて説明する。この変形例は、第2の実施形態と比べて、内方部材10は突出部10aとスリーブ部10bが別体の部材となっており、焼結金属製である。その他の部分は、第2の実施形態と同様である。
【0062】
第2の実施形態の流体動圧軸受装置4の内部空間には焼結金属製の内方部材10の内部気孔を含めて、潤滑油が充填される。潤滑油は、図10に拡大して示すように、ラジアル軸受隙間Rおよびスラスト軸受隙間Tの全域、さらに、外方部材20のテーパ面状に形成した小径内周面24、25と、内方部材10のスリーブ部10bの外周面26との間の断面楔形のシール空間S1、S2の途中まで満たされる。潤滑油の油面はシール空間S1、S2に保持され、潤滑油の漏れ出しをより一層防止することができる。
【0063】
本発明の第3の実施形態を図11に基づいて説明する。この実施形態では、外方部材20が1枚の板材からプレス加工により一体に形成されている。図11(b)に示すように外方部材20は、円筒部20a1と、この円筒部20a1の両端に形成された半径方向部20a2、20a3を有し、縦断面形状が略コ字状に形成されている。
【0064】
加工の工程は、図11(a)に示すように、まず、外方部材20を、円筒部20a1と、その一端に形成された半径方向部20a2からなる略L字形状にプレス加工し、その内部に内方部材10をセットする。その後、円筒部20a1を所定長さ残して、プレス加工により他端部を直角に曲げ、略コ字状に形成する。この実施形態では、外方部材20が1つの部材となるので、部品点数がさらに減り、外方部材20完成後の組立作業も不要となる。内方部材10の構成は、図9に示す第2の実施形態の変形例と同様である。
【0065】
次に、本願の第2の発明に係る流体動圧軸受装置の組み立て方法について説明する。第2の発明に係る第1の実施形態を図12に基づいて説明する。
【0066】
この実施形態による組み立て方法は、内方部材10の突出部10aとスリーブ部10bとが別体構造のものに適用される。内方部材10の突出部10aとスリーブ部10bとが別体構造のものは、本願の第1の発明に係る第1実施形態の流体動圧軸受装置(図2)、その変形例の流体動圧軸受装置(図7)および第2の実施形態の変形例の流体動圧軸受装置(図9)である。ここでは、第1の発明に係る第1実施形態の流体動圧軸受装置(図2)の組み立てを例として、以下に説明するが、上記の他の形態の流体動圧軸受装置においても、同様に適用することできる。
【0067】
図12(a)に示す治具Bは、第1治具であり、その上面に載置面30と、この載置面30より寸法Dだけ凹んだ底面31を有する。第1治具Bの載置面30上に第1外方部材20aの半径方向部20a2を下向きにし、半径方向部20a2の外側面を載置面30に当接させて設置する。この第1外方部材20a内に内方部材10の突出部10aを挿入し、その側面12を第1外方部材20aの内側面22に当接させる。この状態では、まだ内方部材10の突出部10aとスリーブ部10bは、嵌合されていない。次に、スリーブ部10bを突出部10aの内周面に嵌合させ、スリーブ部10bの下端面が第1治具Bの底面31に当接するまで圧入する。この圧入完了状態を図12(a)は示している。
【0068】
その後、上記の第1外方部材20aと内方部材10のセットを第2治具Cに移動させる。図12(b)に示すように、第2治具Cは、その上面に載置面32と、この載置面32より寸法Eだけ凹んだ底面33を有する。上記の第1外方部材20aと内方部材10のセット(第2外方部材20bは未嵌合)を第2治具Cの載置面32および底面33の上に置く。第1治具Bの寸法Dより第2治具Cの寸法Eは小さく設定されているので、その寸法差Δ(Δ=D−E)だけ内方部材10が第1外方部材20aから離隔される。この寸法差Δが、内方部材10の両側面12、13と、これらに対向する外方部材20の内側面22、23との間のスラスト軸受隙間Tの合計量となる。その後、第2外方部材20bを第1外方部材20aの内周面21に嵌合させ、その内側面23が内方部材10の突出部10aの側面13に当接するまで押し込む。そして、第1外方部材20aと第2外方部材20bの嵌合部分に接着剤を注入し固定する。
【0069】
上記の組み立て方法によれば、シンプルな第1治具B、第2治具Cを用いて、スラスト軸受隙間を高精度に、かつ容易に設定することができる。また、内方部材10の突出部10aにスリーブ部10bを圧入する工程を併せて行うことができる。
【0070】
次に、本願の第2の発明に係る流体動圧軸受装置の組み立て方法の第2の実施形態について説明する。
【0071】
この実施形態による組み立て方法は、内方部材10の突出部10aとスリーブ部10bとが一体構造のものに適用される。内方部材10の突出部10aとスリーブ部10bとが一体構造のものは、本願の第1の発明に係る第1実施形態の変形例の流体動圧軸受装置(図6)および第2の実施形態の流体動圧軸受装置(図8)である。ここでは、第1の発明に係る第2実施形態の流体動圧軸受装置(図8)の組み立てを例として、以下に説明するが、上記の他の形態の流体動圧軸受装置においても、同様に適用することできる。
【0072】
図13に示すように、この組み立て方法に用いられる治具は、固定治具Fとこの固定治具Fの内側に配置され上下方向に移動可能な移動治具Gから構成される。固定治具Fは、載置面30、ガイド面34および移動治具Gと摺動自在に嵌合する内周面35を有する。移動治具Gは、肩面36、ガイド面37および固定治具Fと摺動自在に嵌合する外周面38を有する。図13の状態では、移動治具Gは下方に後退している。まず、固定治具Fのガイド面34に第1外方部材20aの半径方向部20a2を下向きにして挿入し、半径方向部20a2の外側面を載置面30に当接させて設置する。内方部材10のスリーブ部10bの内周面10cを移動治具Gのガイド面37に嵌合させた後、第1外方部材20a内に内方部材10を挿入し、その側面12を第1外方部材20aの内側面22に当接させる。その状態で内方部材10には適宜の下方向の荷重を付与しておく。
【0073】
その後、図14に示すように、移動治具Gを上昇させ、第1外方部材20a内に挿入された内方部材10のスリーブ部10bの下端面に移動治具Gの肩面36に当接させる。この位置を基準位置として、移動治具Gをさらに上昇させて内方部材10を第1外方部材20aから離隔させ、両側のスラスト軸受隙間Tの合計量Δとなる位置で止め、この位置で静止状態を維持する。
【0074】
次に、図15に示すように、第2外方部材20bを第1外方部材20aの内周面21に嵌合させ、その内側面23が内方部材10の突出部10aの側面13に当接するまで押し込む。これにより、第2外方部材20bの内側面22と内方部材10の突出部10aの側面12との間に両側のスラスト軸受隙間Tの合計量Δの隙間設定をすることができる。
【0075】
上記の組み立て方法では、固定治具Fと移動治具Gにより、スラスト軸受隙間を高精度に設定でき、かつ移動治具Gの基準位置と止める位置との移動距離を調整することにより、スラスト軸受隙間Tの設定を調整することができる。
【0076】
以上のようにして、スラスト軸受隙間Tの設定が終わった後、図16に示すように、ノズル40により接着剤を第1外方部材20aと第2外方部材20bの嵌合部に注入する。第1外方部材20aの円筒部20a1端面が第2外方部材20bの半径方向部20b2の外側面より下がった位置にあり、かつ面取り部28を設けているので、接着剤の注入がしやすい。その後、焼成して接着剤を固化する。嫌気性の接着剤ならば、焼成は不要である。
【0077】
図17は、第1外方部材20aと第2外方部材20bを嵌合し仮固定する構造を示す横断面図である。図17(a)に示すように、第1外方部材20aの円筒部20a1の内周面21に複数個の突起部21aを設けている。この突起部21aが第2外方部材20bの円筒部20b1の外周面40に圧入される。これにより、第1外方部材20aと第2外方部材20bの精度が損なわれず圧入することができる。その状態で、密封性を確保するため、エポキシ系や嫌気性の接着剤を連続的に注入し、接着する。図17(b)は、図17(a)とは反対に、複数個の突起部40aを第2外方部材20bの円筒部20b1の外周面40に設けたものである。突起部21a、40aは、第1外方部材20aと第2外方部材20bの精度が損なわない範囲で圧入できるものであればよく、突起部21a、40aの大きさや個数は適宜設定できる。
【0078】
以上のように組み立てられた内方部材10と外方部材20との間に、焼結金属製の内方部材10の内部気孔を含めて、潤滑油が注入される。その後、流体動圧軸受装置4の使用環境で想定される最高温度(上限)を超える設定温度まで加熱し、このときの熱膨張によりスラスト軸受隙間Tの内径側端部から溢れ出した潤滑油を拭き取る。その後、常温まで冷却することにより潤滑油が収縮し、油面が軸受内部側(外径側)に後退してスラスト軸受隙間Tの内径側端部近傍、あるいは、シール空間S1、S2に保持される。これにより、想定される温度範囲内であれば、熱膨張により潤滑油が漏れ出すことはない。以上により、流体動圧軸受装置4が完成する。
【0079】
以上の実施形態では、動圧溝11a、12a、13a、22a、23aをヘリングボーン形状で構成したが、スパイラル形状、ステップ形状、円弧形状など適宜の動圧溝で構成することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 軸受ユニット
2 回転軸
3 モータロータ
4 流体動圧軸受装置
10 内方部材
10a 突出部
10b スリーブ部
11a 動圧溝
11R ラジアル軸受面
12a 動圧溝
12T スラスト軸受面
13a 動圧溝
13T スラスト軸受面
20 外方部材
20a 第1外方部材
20b 第2外方部材
21R ラジアル軸受面
22T スラスト軸受面
23T スラスト軸受面
29R ラジアル軸受面
30 載置面
31 底面
32 載置面
33 底面
40 ノズル
A 軸線
B 第1治具
C 第2治具
D 寸法
E 寸法
F 固定治具
G 移動治具
R ラジアル軸受隙間
T スラスト軸受隙間
Δ スラスト軸受隙間Tの合計量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジアル軸受面とその両端に形成したスラスト軸受面を備えた外方部材と、この外方部材の内側に配置され、前記ラジアル軸受面とスラスト軸受面のそれぞれに対向するラジアル軸受面とスラスト軸受面を備えた内方部材とからなり、前記外方部材と内方部材のラジアル軸受面間にラジアル軸受隙間を形成し、かつスラスト軸受面間にスラスト軸受隙間を形成し、これらの軸受隙間に潤滑油を介在させた流体動圧軸受装置において、
前記外方部材を構成する少なくとも1つの部材が、板材のプレス加工により成形されたものであって、このプレス加工により前記ラジアル軸受面と少なくとも片側のスラスト軸受面が形成されていると共に、前記内方部材の少なくともラジアル軸受面とスラスト軸受面を形成する部分が焼結金属からなることを特徴とする流体動圧軸受装置。
【請求項2】
前記内方部材のラジアル軸受面および前記外方部材のスラスト軸受面に、それぞれ動圧溝が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項3】
前記内方部材のラジアル軸受面およびスラスト軸受面の両方に動圧溝が形成され、前記外方部材の両軸受面は平滑な面であることを特徴とする請求項1に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項4】
前記内方部材のラジアル軸受面の動圧溝が転造加工により形成されていることを特徴とする請求項3に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項5】
前記外方部材のスラスト軸受面の動圧溝がプレス加工により形成されていることを特徴とする請求項2に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項6】
前記外方部材が第1外方部材と第2外方部材の2つの部材から形成され、第1外方部材の縦断面形状が略L字形状で、その円筒部内周面にラジアル軸受面が、半径方向部の内側面にスラスト軸受面が形成されると共に、第2外方部材が円盤形状で、その半径方向部の内側面にスラスト軸受面が形成されたものであって、前記円盤形状の第2外方部材の外周面が前記第1外方部材の円筒部内周面に嵌合されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項7】
前記外方部材が第1外方部材と第2外方部材の2つの部材から形成され、これら2つの部材の縦断面形状がいずれも略L字形状であり、第1外方部材の半径方向部の内側面にスラスト軸受面が形成されると共に、第2外方部材の円筒部内周面にラジアル軸受面が、半径方向部の内側面にスラスト軸受面が形成されたものであって、第1外方部材の円筒部内周面に第2外方部材の円筒部外周面が嵌合されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項8】
前記第1外方部材と第2外方部材が、回転方向を識別するために、異なる色相の表面を有することを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の流体動圧軸受装置
【請求項9】
第1外方部材の円筒部端面が第2外方部材の半径方向部の外側面より下がった位置にあることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項10】
前記第1外方部材の円筒部内周面と第2外方部材の円筒部外周面のいずれか一方に凸部が設けられていることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項11】
前記内方部材がラジアル軸受面とスラスト軸受面を形成する部分と、軸に嵌合する部分とが一体の部材であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項12】
前記内方部材がラジアル軸受面とスラスト軸受面を形成する部分と、軸に嵌合する部分からなり、当該2つの部分が別体の部材で構成され、前記ラジアル軸受面とスラスト軸受面を形成する部材が焼結金属からなることを請求項1〜10のいずれか1項に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項13】
前記内方部材のラジアル軸受面とスラスト軸受面を形成する部分の焼結金属を、銅鉄系とし、銅の配合比率が20〜80%であることを特徴とする請求項11又は請求項12に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項14】
前記内方部材のラジアル軸受面とスラスト軸受面を形成する部分の焼結金属は、少なくともラジアル軸受面の表面開孔率が2〜20%であることを特徴とする請求項11〜13のいずれか1項に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項15】
前記流体動圧軸受装置において、内部に潤滑油を入れた後、使用温度範囲を超える温度で油量調整が施されていることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の流体動圧軸受装置を軸方向に離隔して配置し、隣り合う流体動圧軸受装置の間にモーターロータを配置してなる換気扇用モータ。
【請求項17】
ラジアル軸受面とその両端に形成したスラスト軸受面を備えた外側部材と、この外方部材の内側に配置され、前記ラジアル軸受面とスラスト軸受面のそれぞれに軸受隙間をもって対向するラジアル軸受面とスラスト軸受面を備えた内方部材とから構成されており、前記外方部材が、第1外方部材と第2外方部材の2つの部材からなり、それぞれの内側面に前記スラスト軸受面が形成された流体動圧軸受装置の組み立て方法であって、
前記第1外方部材のスラスト軸受面に内方部材のスラスト軸受面を当接させた後、前記内方部材を第1外方部材から前記スラスト軸受隙間の合計量だけ離隔させ、その状態で、前記内方部材のスラスト軸受面に第2外方部材のスラスト軸受面が当接するまで、第2外方部材を第1外方部材に押し込むことを特徴とする流体動圧軸受装置の組み立て方法。
【請求項18】
前記内方部材が、ラジアル軸受面とスラスト軸受面を形成する突出部と回転軸に嵌合するスリーブ部の2つの部材からなるもので、前記第1外方部材のスラスト軸受面に内方部材の突出部材のスラスト軸受面を当接させた後、前記スリーブ部材を突出部材に圧入する工程を含んでいることを特徴とする請求項17に記載の流体動圧軸受装置の組み立て方法。
【請求項19】
前記第1外方部材のスラスト軸受面に内方部材の突出部材のスラスト軸受面を当接させる工程は、載置面と底面を備えた第1治具の載置面上に前記第1外方部材を設置し、この第1外方部材のスラスト軸受面に当接するよう内方部材の突出部材を挿入し、その後、スリーブ部材を、その端面が第1治具の底面に当接するまで突出部材に圧入することにより行い、その後、前記第1治具とは異なる載置面と底面を備えた第2治具の載置面上に第1外方部材と内方部材のセットを設置し、前記スリーブ部材の端面が第2治具の底面に当接させることにより、前記内方部材を第1外方部材から前記スラスト軸受隙間の合計量だけ隔離させることを特徴とする請求項18に記載の流体動圧軸受装置の組み立て方法。
【請求項20】
前記内方部材が一体構造であり、前記第1外方部材のスラスト軸受面に内方部材のスラスト軸受面を当接させる工程は、固定治具と移動治具を使用し、固定治具の上に前記第1外方部材を設置し、この第1外方部材のスラスト軸受面に当接するよう内方部材を挿入し、その後、移動治具より前記内方部材を第1外方部材から前記スラスト軸受隙間の合計量だけ上方に隔離させることを特徴とする請求項17に記載の流体動圧軸受装置の組み立て方法。
【請求項21】
前記第2外方部材を第1外方部材に押し込んだ状態で、接着剤を注入することを特徴とする請求項17〜20のいずれか1項に記載の流体動圧軸受装置の組み立て方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−231874(P2011−231874A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103394(P2010−103394)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】