説明

流体機械用羽根車及び流体機械用ガイド並びに流体機械

【課題】コストの増加を抑えながら、耐磨耗寿命の延長化を図ることが可能な流体機械用羽根車及び流体機械用ガイド並びに流体機械を提供する。
【解決手段】硬質ダストを含む排気ガスを送る送風機1を構成し、回転軸部11と、回転軸部11に設けられた羽根板15とを備える羽根車10あって、羽根板15の前面16に、排気ガスによる磨耗を防止する耐磨耗層20を備え、耐磨耗層20は、回転中心側よりも外側が厚い。また、送風機1を構成し、羽根車10の軸方向側に配置され、排気ガスをガイドする円形状のガイドリング40であって、羽根車10側の表面に、排気ガスによる磨耗を防止する耐磨耗層50を備え、耐磨耗層50は、回転中心側よりも外側が厚い。そして、耐磨耗層20及び耐磨耗層50は、傾斜溶射により形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磨耗性流体とエネルギを授受する流体機械、その流体機械用羽根車及び流体機械用ガイドに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナは、水酸化アルミニウム等のアルミナ原料を、ロータリーキルン等の焼成装置において、1000℃以上の高温で焼成することにより得られる(特許文献1参照)。ここで、ロータリーキルンでは焼成に伴って排気ガスが生成し、この排気ガスは送風機(流体機械)に吸引された後、外部に圧送(排出)される。
【0003】
ところが、前記排気ガスは、ロータリーキルンで生成した硬質のダストを含んでおり、送風機の羽根車は前記ダストを巻き込み、徐々に磨耗していた。よって、送風機の寿命は一般に短く、羽根車を適宜に交換する等のメンテナンスが必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−249383号公報
【特許文献2】特開平6−88201号公報
【特許文献3】特開平8−193568号公報
【特許文献4】特開2003−321761号公報
【特許文献5】特開2004−10974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、特許文献2〜5に記載されるような、耐摩耗性を考慮した溶射処理を羽根車に施して、羽根車の表面に耐磨耗層を均一厚さで形成する方法が考えられる。
ところが、溶射されるタングステンカーバイド(WC)等のサーメットは高価であり、耐磨耗寿命を延長するために耐磨耗層を厚くすると、溶射処理が高コストになってしまう。一方、耐磨耗層を薄くすると、溶射処理は低コストで行えるが、耐摩耗寿命が短縮されてしまい、羽根車の交換頻度が増加する。
【0006】
ここで、溶射としては、例えば、ガス溶粉溶射、アーク溶射、ガスプラズマ溶射、高速フレーム溶射等がある。そして、サーメットとしては、例えば、炭化物系セラミックスの代表として、WC、TiC、Cr、ZrC等、酸化物系セラミックスの代表として、Al、ZrO等、窒化物系セラミックスの代表として、TiN、ZrN、Si等が挙げられる。
【0007】
そこで、本発明は、コストの増加を抑えながら、耐磨耗寿命の延長化を図ることが可能な流体機械用羽根車及び流体機械用ガイド並びに流体機械を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段として、本発明に係る流体機械用羽根車は、磨耗性流体との間でエネルギを授受する流体機械を構成し、回転軸部と、前記回転軸部に設けられた羽根部とを備える流体機械用羽根車であって、前記羽根部の表面に、磨耗性流体による磨耗を防止する耐磨耗層を備え、前記耐磨耗層は、回転中心側よりも外側が厚いことを特徴とする。
【0009】
ここで、「磨耗性流体との間でエネルギを授受する流体機械」には、磨耗性流体にエネルギを授ける流体機械と、磨耗性流体からエネルギを受ける流体機械と、が含まれる。「磨耗性流体にエネルギを授ける流体機械」としては、例えば、送風機、ファン、ブロワ、圧縮機、ポンプ等が挙げられる。「磨耗性流体からエネルギを受ける流体機械」としては、例えば、水車、タービン等が挙げられる。
【0010】
また、「磨耗性流体」とは、これとエネルギを授受する流体機械の流体機械用羽根車等の流体機械用部品(流体機械用羽根車、流体機械用ガイド等)と接触、衝突等することで、流体機械用部品を磨耗させる流体を意味し、後記する実施形態で例示する硬質のダストを含む排気ガス(気体)だけでなく、例えば泥水スラリー(液体)も含む。
【0011】
さらに、「耐磨耗層は、回転中心側よりも外側が厚い」とは、例えば、耐磨耗層の厚さが回転中心から外側に向かうにつれて漸増し、その表面が傾斜している態様だけでなく、小さな階段状である態様も含む。
【0012】
そして、回転する流体機械用羽根車と磨耗性流体との相対速度は、回転中心から径方向外側に向かうにつれて大きくなるので、流体機械用羽根車は、その径方向外側に向かうにつれて磨耗しやすくなるところ、本発明に係る流体機械用羽根車によれば、羽根部の表面に磨耗性流体による磨耗を防止する耐磨耗層を備え、また、この耐磨耗層は回転中心側よりも外側が厚いので、流体機械用羽根車の耐磨耗寿命は延長される。これにより、流体機械用羽根車の交換等に要するコストが抑えられる。
すなわち、径方向外側の耐磨耗層は、回転中心側に対して、大きい磨耗量で磨耗するものの、径方向外側の耐磨耗層は回転中心側のものよりも厚いので、径方向外側の耐磨耗層が回転中心側の耐磨耗層よりも先に消失するようなことはない。
【0013】
ここで、耐磨耗層の回転中心から外側に向かって厚くなる程度は、磨耗性流体の種類、流体機械用羽根車の回転速度、流体機械の作動頻度等を考慮して適宜設定すればよいが、望ましくは、回転中心から径方向外側に亘る耐磨耗層の厚さが同時に0となる、つまり、同時に消失するように設定されることが好ましい。
【0014】
また、前記流体機械用羽根車において、前記耐磨耗層は、溶射により形成されていることが好ましい。
【0015】
このような流体機械用羽根車は、傾斜溶射等の溶射によって耐磨耗層の厚さを適切に制御できる。
【0016】
また、溶射によれば、耐磨耗層が短時間で形成されるので、耐磨耗層の表面に急冷組織を有する皮膜が形成されやすくなり、この皮膜により耐磨耗性は高くなる。
さらに、溶射は、一般に、サーメットを噴射する溶射ガンを使用して施工されるので、羽根部(基材)の形状・寸法等に制限されず、現場施工も容易となる。また、溶射ガンを使用する場合、羽根部(基材)の必要な箇所への部分的な施工、例えば、耐磨耗層の厚さの制御もさらに容易となる。
【0017】
前記課題を解決するための手段として、本発明に係る流体機械用ガイドは、磨耗性流体との間でエネルギを授受する流体機械を構成し、前記流体機械の流体機械用羽根車の軸方向側に配置され、磨耗性流体をガイドする流体機械用ガイドであって、前記流体機械用羽根車側の表層に、磨耗性流体による磨耗を防止する耐磨耗層を備え、前記耐磨耗層は、回転中心側よりも外側が厚いことを特徴とする。
【0018】
ここで、流体機械用ガイドと、磨耗性流体との相対速度は、回転中心から径方向外側に向かうにつれて大きくなる。
【0019】
すなわち、磨耗性流体が流体機械用ガイドに衝突する衝突速度は、回転中心から径方向外側に向かうにつれて大きくなり、流体機械用ガイドは、その径方向外側に向かうにつれて磨耗しやすくなるところ、本発明に係る流体機械用ガイドによれば、流体機械用羽根車側の表層に、磨耗性流体による磨耗を防止する耐磨耗層を備え、また、この耐磨耗層は、回転中心側よりも外側が厚いので、流体機械用ガイドの耐磨耗性は良好となって、長寿命となり、交換等に要するコストが抑えられる。
すなわち、径方向外側の耐磨耗層は、回転中心側に対して、大きい磨耗量で磨耗するものの、径方向外側の耐磨耗層は回転中心側のものよりも厚いので、径方向外側の耐磨耗層が回転中心側の耐磨耗層よりも先に消失するようなことはない。
【0020】
ここで、耐磨耗層の回転中心から外側に向かって厚くなる程度は、圧送する磨耗性流体の種類、流体機械用羽根車の回転速度、流体機械の作動頻度等を考慮して適宜設定すればよいが、望ましくは、回転中心から径方向外側に亘る耐磨耗層の厚さが同時に0となる、つまり、同時に消失するように設定されることが好ましい。
【0021】
また、前記流体機械用ガイドにおいて、前記耐磨耗層は、溶射により形成されていることが好ましい。
【0022】
このような流体機械用ガイドは、傾斜溶射等の溶射によって耐磨耗層の厚さを適切に制御できる。
また、溶射によれば、前記したように、耐磨耗層の表面に急冷組織を有する皮膜が形成されやすくなり、この皮膜により耐磨耗性は高まる。
さらに、溶射ガンを使用して溶射すれば、基材となるガイド本体の形状・寸法等に制限されず、現場施工も容易となり、部分的な溶射、例えば、耐磨耗層の厚さの制御もさらに容易となる。
【0023】
また、前記課題を解決するための手段として、本発明に係る流体機械は、前記流体機械用羽根車と、前記流体機械用ガイドと、を備えることを特徴とする。
このような流体機械の耐磨耗性は良好となり、長寿命となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、コストの増加を抑えながら、長寿命化を図ることが可能な流体機械用羽根車及び流体機械用ガイド並びに流体機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施形態に係るアルミナ焼成システムの構成を示す図である。
【図2】本実施形態に係る送風機の輪切り方向における断面図である。
【図3】図2のA部分の拡大図である。
【図4】図2のX1−X1線断面図である。
【図5】図4のB部分の拡大図である。
【図6】(a)径方向位置と磨耗量T6との関係を示すグラフであり、(b)は本実施形態に係る送風機の一効果を示すグラフであり、(c)は比較例に係るグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態について、図1〜図6を参照して説明する。
【0027】
≪アルミナ焼成システムの構成≫
図1に示すように、本実施形態に係るアルミナ焼成システム100は、ロータリーキルン110と、送風機1(流体機械)と、を備えている。
【0028】
ロータリーキルン110は、アルミナ原料(水酸化アルミニウム等)を高温の焼成温度(1000℃以上)で焼成し、アルミナを生成する焼成装置である。すなわち、ロータリーキルン110は、アルミナ原料を焼成温度に加熱するバーナ等の加熱装置(図示しない)を内蔵している。そして、ロータリーキルン110が作動すると、排気ガスが生成し、排気ガスは、配管110aを介して、送風機1に吸引されるようになっている。
【0029】
ここで、送風機1に吸引される排気ガスは、アルミナ原料の焼成に伴って生成した硬質のダスト(アルミナダスト)を含んでいる。そして、この硬質ダストを含む排気ガスは、送風機1の後記する羽根車10や、ガイドリング40を磨耗させる磨耗性流体である。なお、硬質ダストの濃度は例えば70〜100(g/Nm)程度である。
【0030】
≪送風機の構成≫
次に、送風機1の具体的構成について、図2〜図5を参照して説明する。
送風機1は、両吸込パドル型の送風機であって、図示しない駆動装置によって回転する羽根車10(流体機械用羽根車)と、羽根車10を囲むケーシング30と、ケーシング30に固定された2つのガイドリング40(流体機械用ガイド)と、を備えている。
ここで、送風機1は、駆動装置の動力(エネルギ)を、排気ガスに授ける流体機械である。なお、羽根車10等の回転体を備える流体機械は、回転機械とも称される。
【0031】
また、本実施形態において、羽根車10は、図2において左回りで回転する。よって、羽根車10の軸方向は、図4の左右方向となる。また、排気ガスは、図2の紙面手前及び奥(図4の左右)から吸気され、羽根車10によって径方向外向き且つ左回りで流れた後、右上部分から外部に排気されるようになっている。
【0032】
<羽根車>
羽根車10(インペラとも称される)は、回転軸部11と、回転軸部11に設けられた6枚の羽根板15(羽根部)と、各羽根板15に設けられた耐磨耗層20と、を備えている。なお、羽根板15及び耐磨耗層20の数は適宜変更自由である。
【0033】
<羽根車−回転軸部>
回転軸部11は、回転軸線P上にシャフト12を有している。シャフト12は、軸受(図示しない)を介して、ケーシング30に回転自在に取り付けられている。また、シャフト12は、クラッチおよび軸継手、増速または減速機構(いずれも図示しない)を介して、駆動装置(図示しない)に接続されている。そして、駆動装置が作動すると、シャフト12(羽根車10)が回転するようになっている。
【0034】
<羽根車−羽根板>
6枚の羽根板15は、板状の部品であり、回転軸部11に放射状で固定されており、軸方向における羽根板15の幅は、径方向外側に向かうにつれて狭くなっている(図4参照)。また、各羽根板15の前面16は、羽根車10の接線方向と垂直となっている。なお、前面16とは、左回転方向において、羽根板15の前側の面である。
ここで、羽根板15と排気ガスの相対速度は、回転中心から径方向外側に向かうにつれて大きくなるので、羽根板15は、径方向外側に向かうにつれて磨耗しやすくなる。ただし、本実施形態では、前面16に耐磨耗層20が形成されており、羽根板15の磨耗防止が図られている。
【0035】
<羽根車−耐磨耗層>
耐磨耗層20は、硬質ダストを含む排気ガスによる羽根車10(羽根板15)の磨耗を防止するための層であり、羽根板15の前面16(表面)全体に設けられている。
【0036】
耐磨耗層20は、例えば、WC、TiC、Cr、ZrC等の炭化物系セラミックス、Al、ZrO等の酸化物系セラミックス、TiN、ZrN、Si等の窒化物系セラミックスから形成されている。なお、このような炭化物系セラミックス、酸化物系セラミックス、窒化物系セラミックスは、サーメットと称され、高価である。
【0037】
耐磨耗層20の厚さT1は、回転中心から径方向外側に向かうにつれて、徐々に厚くなっている(図3参照)。つまり、耐磨耗層20の厚さT1は、徐々に厚くなるように傾斜している。なぜなら、前記したように、径方向外側に向かうにつれて相対速度が大きくなり、磨耗しやすいからである。厚さT1の設計方法は後で説明する。
ただし、耐磨耗層20が厚くなる程度は、線形的に徐々に厚くなる構成に限定されず、階段状で段階的に厚くなる構成でもよい。
【0038】
<ケーシング>
ケーシング30は、その内部に羽根車10を回転自在に収容している。図4において、ケーシング30の左側及び右側には、排気ガスの吸引口(図示しない)が形成されている。また、図1において、ケーシング30の右上側には、排気ガスの吐出口31が形成されている。
【0039】
<ガイドリング>
2つのガイドリング40は、羽根車10によって径方向外向きに送られる排気ガスが羽根車10の両側に漏れないように、排気ガスをガイドする部品である。2つのガイドリング40は、羽根車10の軸方向(図4の左右方向)において羽根車10の両側に配置されると共に、つまり、羽根車10を挟むように軸方向に隙間Sをあけて配置されると共に、ケーシング30に適宜な方法で固定されている。
すなわち、本実施形態に係る送風機1は、パドル型の流体機械である。
【0040】
各ガイドリング40は、リング本体41と、リング本体41の羽根車10側の表面42に形成された耐磨耗層50と、を備えている。つまり、各ガイドリング40は、羽根車10側の表層に、耐磨耗層50を備えている。
なお、送風機1の使用前、つまり、耐磨耗層20及び耐磨耗層50の磨耗前において、ガイドリング40と羽根車10との間には、隙間Sが形成されている。そして、隙間Sは径方向外側に向かうにつれて徐々に小さくなっている。
【0041】
各耐磨耗層50は、硬質ダストを含む排気ガスによるリング本体41の磨耗を防止するための層である。このような耐磨耗層50は、前記した耐磨耗層20と同様に、例えば、WC、TiC、Cr、ZrC等の炭化物系セラミックス、Al、ZrO等の酸化物系セラミックス、TiN、ZrN、Si等の窒化物系セラミックスから形成されている。
【0042】
耐磨耗層50の厚さT2は、回転軸線P(回転中心)から径方向外側に向かうにつれて、徐々に厚くなっている(図5参照)。なぜなら、前記したように、径方向外側に向かうにつれて相対速度が大きくなり、磨耗しやすいからである。ただし、耐磨耗層50が厚くなる程度は、線形的な徐々に厚くなる構成に限定されず、階段状で段階的に厚くなる構成でもよい。なお、厚さT2の設計方法は次に説明する。
【0043】
<羽根車の耐磨耗層、ガイドリングの耐磨耗層>
ここで、羽根車10の耐磨耗層20の厚さT1、ガイドリング40の耐磨耗層50の厚さT2について説明する。
耐磨耗層20の厚さT1及び耐磨耗層50の厚さT2が、回転中心から径方向外側に向かうにつれて増加する程度は、排気ガスに含まれる硬質ダストの種類(硬度)・粒径・濃度、羽根車10の回転速度・半径、送風機1の作動頻度等、に基づいて適宜に設計される。
【0044】
すなわち、硬質ダストが硬く、大きく、濃度が高くなるにつれて、磨耗しやすくなるので、耐磨耗層20、50は厚く設計される。また、羽根車10の回転速度が高く、その半径が大きくなるにつれて、相対速度が大きくなり、磨耗しやすくなるので、耐磨耗層20、50は厚く設計される。さらに、送風機1の作動頻度が多くなるにつれて磨耗しやすくなるので、耐磨耗層20、50は厚く設計される。
【0045】
さらに具体的には、耐磨耗層20は、送風機1の総作動時間が長くなるにつれて磨耗により徐々に薄くなるところ、回転中心から径方向外側に亘る耐磨耗層20の厚さT1が同時に0となる、つまり、耐磨耗層20が同時に消失するように設定されることが好ましい。耐磨耗層50についても同様である。
【0046】
<羽根車の耐磨耗層の第1設計方法>
次に、耐磨耗層20の厚さT1の第1設計方法を説明する。なお、耐磨耗層50の厚さT2についても同様であるので説明を省略する。
【0047】
羽根板15の前面16に均一の厚さT5で、耐磨耗層20を形成する。厚さT5は予備試験中に耐磨耗層20が消失しない程度にやや厚めに設定する。
厚さT5の耐磨耗層20が形成された羽根車10で送風機1を構成した後、送風機1を作動し、耐磨耗層20を磨耗させる。この場合において、送風機1の作動条件は、例えば、使用頻度の高い定常回転速度、羽根車10の予定寿命時間(日数)とする。
【0048】
予定寿命時間の経過後、羽根車10を取り出し、径方向の複数点において、残存する耐磨耗層20の厚さを測定し、耐磨耗層20の磨耗量T6を算出する(図6(a)参照)。
この場合において、回転軸線Pから径方向外側に向かうにつれて磨耗しやすいから、磨耗量T6は回転中心から径方向外側に向かうにつれて徐々に大きくなる。つまり、耐磨耗層20の回転中心側はほとんど磨耗しない。
【0049】
このように算出した耐磨耗層20の磨耗量T6に基づいて、予定寿命時間の経過後(図6(b)の使用後)、残存する耐磨耗層20の厚さT1が略0となるように、使用前における耐磨耗層20の厚さT1を設定する。
すなわち、使用前における耐磨耗層20の厚さT1は、回転中心から径方向外側に向かうにつれて徐々に大きくなる。そして、使用前における耐磨耗層20の最大厚さT1は、径方向の最外側における最大の磨耗量T6となる。
【0050】
<羽根車の耐磨耗層の第2設計方法>
次に、耐磨耗層20の厚さT1の第2設計方法を説明する。
例えば、公知の論文(杉山憲一等、セラミックス含有溶射皮膜のスラリー磨耗特性に及ぼす各種因子の影響、ターボ機械、ターボ機械協会、平成17年11月30日原稿受付、第34巻第6号、第29頁〜第36頁)にて発表されているように、硬質ダスト等を含む磨耗性流体を送る羽根車において、硬質ダスト等と耐磨耗層20との衝突角度を仮に60°とした場合、耐磨耗層20の厚さ方向における磨耗進行速度M(v)は、式(1)で与えられる。
【0051】
【数1】

【0052】
なお、式(1)において、HVは耐磨耗層20の硬さであり、vは磨耗進行速度Mを算出する径方向位置における耐磨耗層20の周速(m/s)である。cは硬質ダストの濃度(質量%)であり、dは硬質ダストの平均粒子径(mm)である。
【0053】
また、例えば、前記論文によれば、磨耗進行速度M(v)は、硬さHVの略「−3.2」乗に比例し(m≒−3.2)、硬質ダストの濃度cの略「0.8」乗に比例し(o≒0.8)、硬質ダストの平均粒子径dの略「1.3」乗に比例するから(p≒1.3)、式(1)は式(2)に書き換えられる。
【0054】
【数2】

【0055】
ところが、実際には、硬質ダストの形状や境界層などの影響で径方向位置により羽根表面における硬質ダストと耐磨耗層との衝突角度が変化する等の影響を受けて、磨耗進行速度Mが変動するので、式(2)にこれらを包含する影響係数Yeを乗算し、式(3)を導いた。
【0056】
【数3】

【0057】
一方、径方向の任意位置における耐磨耗層20の周速v(m/s)は、式(4)で与えられる。
【0058】
【数4】

【0059】
なお、式(4)において、rは前記任意位置を通る円の半径(m)であり、Dは前記任意位置を通る円の直径(m)である。Nは羽根車10の回転数(rev/sec)である。
【0060】
そして、式(4)を式(3)に代入すると式(5)を得る。
【0061】
【数5】

【0062】
そして、径方向の任意位置において、予定寿命日数(使用日数)の経過後における磨耗量T6は、式(6)で与えられ、これに式(5)を代入すると、式(7)に変形される。
【0063】
【数6】

【数7】

【0064】
そして、式(7)と、前記した第1設計方法における実際の磨耗量T6とを比較検討したところ、Ye≒5×10、n≒1.95、とすると適切であることを見出した。よって、式(7)は式(8)に変形される。
【0065】
【数8】

【0066】
式(8)において、耐磨耗層20の硬さHV、硬質ダストの濃度c及び平均粒子径dは、他の試験等により得られる。したがって、式(8)において、予定寿命日数を適宜に設定し、回転数Nを例えば定常回転数にした後、直径Dを適宜に設定すれば、直径Dの位置における磨耗量T6を算出できる。つまり、直径Dを適宜にスキャニングすれば、径方向全体に亘る磨耗量T6を算出できる。
【0067】
そして、このようにして算出した磨耗量T6に基づいて、第1設計方法と同様に、予定寿命時間の経過後(図6(b)の使用後)、残存する耐磨耗層20の厚さT1が略0となるように、使用前における耐磨耗層20の厚さT1を設定する。
【0068】
なお、このような磨耗進行速度M、磨耗量T6の予測は、一例であって、本発明を、高効率の3次元曲線を利用した羽根車10やガイドリング40を備える送風機1(流体機械)に適用する場合、例えば、飛来する粒子の速度や角度、キャビテーション等の摩耗進行速度に影響を与える因子を、CFD(Computational Fluid Dynamics)やモデル試験などにより数値化、視化することで、羽根車10又はガイドリング40における摩耗進行速度分布を算定し、その分布に応じて耐磨耗層20等の厚さを設定することもできる。
【0069】
<羽根車の耐磨耗層の一形成方法>
次に、耐磨耗層20の一形成方法を説明する。なお、耐磨耗層50についても同様であるので説明を省略する。
本実施形態では、サーメットを噴射する溶射ガンを使用する傾斜溶射によって、耐磨耗層20を形成する。すなわち、前記した使用前の厚さT1となるように、羽根板15に対して溶射ガンを移動させながら、サーメットを噴射し、耐磨耗層20を形成する。
【0070】
このような傾斜溶射によれば、耐磨耗層20が短時間で形成されるので、耐磨耗層20の表面に急冷組織を有する皮膜が形成されやすくなり、この皮膜により耐磨耗性は高くなる。
また、溶射ガンを使用するので、羽根板15(基材)の形状・寸法等に制限されることもなく、現場施工も容易となり、耐磨耗層20の厚さT1の制御も容易となる。
【0071】
≪送風機の作用効果≫
このような送風機1によれば、次の作用効果を得る。
耐磨耗層20等が、回転中心から径方向外側に向かうにつれて徐々に厚く形成され、そして、予定寿命日数の経過後、つまり、送風機1の点検・修理時に、径方向における耐磨耗層20の厚さT1等が略0となるように設計されているので(図6(b)参照)、耐磨耗層20等を再度形成するため、残存する耐磨耗層20等の除去量を少なくできる。つまり、予定寿命日数の経過後において、残存する耐磨耗層20等が少ないので、容易に除去できる。
【0072】
すなわち、送風機1の予定寿命日数経過中における耐磨耗層20等の磨耗量T5に対応して、耐磨耗層20の厚さT1等を設定するので、無駄なく低コストで耐磨耗層20等を形成できる。つまり、耐磨耗層20等の形成に要するサーメット量を少なくできる。
【0073】
これに対して、径方向における磨耗量の差異を考慮せず、最大の磨耗量T5に基づいて、耐磨耗層20を均一の厚さで形成すると(図6(c)参照)、高価なサーメットを多量に溶射するので、耐磨耗層20の形成が高コストになる。そのうえ、予定寿命日数の経過後、回転中心側に残存する耐磨耗層20を除去するために手間を要し、残存する耐磨耗層20が無駄になってしまう。
【0074】
≪変形例≫
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば次のように変更できる。
【0075】
前記した実施形態では、磨耗性流体として硬質ダストを含む排気ガス(気体)を例示したが、磨耗性流体の種類はこれに限定されない。例えば、磨耗性流体は泥水スラリー(液体)でもよい。
【0076】
前記した実施形態では、磨耗性流体との間でエネルギを授受する流体機械として、駆動装置(図示しない)の駆動エネルギを排気ガスに授ける送風機1を例示したが、流体機械の種類はこれに限定されず、その他の流体機械に本発明を適用可能である。
なお、磨耗性流体にエネルギを授ける流体機械としては、例えば、ファン、ブロワ、圧縮機、ポンプ等が挙げられる。また、磨耗性流体からエネルギを受ける流体機械としては、例えば、水車、タービン等が挙げられる。
【0077】
前記した実施形態では、流体機械として、ガイドリング40を備えるパドル型の送風機1を例示したが、流体機械の種類はこれに限定されない。すなわち、オープンインペラのラジアルターボ型やクローズドインペラ型、軸流型の流体機械に本発明を適用してもよい。つまり、ガイドリング40を備えないクローズドインペラ型や軸流型の流体機械を構成する羽根車や動翼に、回転中心から径方向外側に向かうにつれて厚くなる耐磨耗層20を形成してもよい。
【0078】
前記した実施形態では、耐磨耗層20及び耐磨耗層50をWC等のサーメットを傾斜溶射することで形成したが、形成方法はこれに限定されない。例えば、耐磨耗層20に対応した形状を有するWC製の耐磨耗層構成部品を、羽根板15の前面に接着・締結等によって固定し、この耐磨耗層構成部品によって耐磨耗層20を構成してもよい。
【符号の説明】
【0079】
1 送風機(流体機械)
10 羽根車(流体機械用羽根車)
11 回転軸部
15 羽根板(羽根部)
16 前面(表面)
20 耐磨耗層
40 ガイドリング(流体機械用ガイド)
50 耐磨耗層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磨耗性流体との間でエネルギを授受する流体機械を構成し、回転軸部と、前記回転軸部に設けられた羽根部とを備える流体機械用羽根車であって、
前記羽根部の表面に、磨耗性流体による磨耗を防止する耐磨耗層を備え、
前記耐磨耗層は、回転中心側よりも外側が厚い
ことを特徴とする流体機械用羽根車。
【請求項2】
前記耐磨耗層は、溶射により形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の流体機械用羽根車。
【請求項3】
磨耗性流体との間でエネルギを授受する流体機械を構成し、前記流体機械の流体機械用羽根車の軸方向側に配置され、磨耗性流体をガイドする流体機械用ガイドであって、
前記流体機械用羽根車側の表層に、磨耗性流体による磨耗を防止する耐磨耗層を備え、
前記耐磨耗層は、回転中心側よりも外側が厚い
ことを特徴とする流体機械用ガイド。
【請求項4】
前記耐磨耗層は、溶射により形成されている
ことを特徴とする請求項3に記載の流体機械用ガイド。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の流体機械用羽根車と、
請求項3又は請求項4に記載の流体機械用ガイドと、
を備える
ことを特徴とする流体機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−220257(P2011−220257A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91264(P2010−91264)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】