説明

浮遊物回収設備の施工方法及び浮遊物回収方法

【課題】水路の流れが速い場合であっても浮遊物を確実に回収することのできる浮遊物回収方法を提供する。
【解決手段】水路100の上層流を堰き止めて下層流を通過させる構造の底開き堰10を設置する底開き堰設置工程と、底開き堰10よりも上流側の水路を幅方向に仕切るための第一仕切壁20を設置する第一仕切壁設置工程と、水路100における一方の岸壁102と第一仕切壁20との間に位置する浮遊物導入水域に水路100の上流側から水103が流れ込まないようにするための第二仕切壁30を設置する第二仕切壁設置工程とを経ることにより、浮遊物回収設備を施工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川などの流れのある水路において、該水路を流れてくる浮遊油などの浮遊物を回収するための浮遊物回収設備の施工方法と、該浮遊物回収設備を用いた浮遊物回収方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
汚染の原因となる浮遊物が河川などの水路に流出すると、浮遊物が川下や海に流れてしまい、広い範囲の水域が汚染される。汚染の原因となる浮遊物としては、油やベンゼンやトルエンなど、水よりも軽く疎水性を有する液体や、塵などの固体が例示される。このことを防止するために、できるだけ早い段階で浮遊物の拡散を防止することが重要である。
【0003】
流れのある水路に設置することを目的とした浮遊物回収具として、本発明者らは、水路に浮かべるための浮力マットと、浮力マットの左縁における所定箇所と右縁における所定箇所からそれぞれ左右に延びる展張紐とを備え、該展張紐を左右に引っ張ることにより水路を横断する方向に展張し、浮力マットで浮遊物を吸着することができるようにした吸着材を既に提案している(特許文献1)。
【0004】
特許文献1の吸着材は、水の流れを受けた際に、浮力マットの上流側部分が下流側へ折り返されることにより、浮力マットの上流側部分の見掛けの厚さが増大して浮力が増大する構造となっている。このため、特許文献1の吸着材は、流れの速い水路に設置しても、水面下に沈み込むことなく浮遊物を吸着することができるようになっている。
【0005】
しかし、多量の浮遊物が速い流れに乗って水路を流れてくる場合、特許文献1の吸着材のみでは吸着が追いつかなくなるおそれがあった。また、水路の流れが想定以上の速さ(例えば60cm/s以上)である場合、特許文献1の吸着材でも水面下に沈み込んでしまい、その結果、浮遊物を吸着できなくなるおそれもあった。
【0006】
ところで、特許文献2には、水路の一対の岸壁に沿って一対の支持枠を設け、水路を横断する補強枠によって前記一対の支持枠を連結するとともに、前記一対の支持枠で挟まれた部分で浮遊物を水路中央部に誘導するための誘導壁を設け、該誘導壁によって浮遊物が集まってくる部分に浮遊物が乗り越え可能な高さの捕集壁を設けて吸引部を形成し、浮遊物が下側に潜り込むのを防ぐための底板を誘導壁の下部に設けた浮遊物分離器が記載されている。
【0007】
特許文献2の浮遊物分離器は、岸壁に対して完全に固定されるため、水路の流れが速い場合であっても、水面下に沈み込むことなく、水路を流れてくる浮遊物を誘導壁で吸引部まで確実に誘導することが可能である。ところが、この浮遊物分離器は、水路の水位が変化すると、水位の変化に合わせて底板や誘導壁や捕集壁の高さも変化させる必要があった。このため、この浮遊物分離器は、水位に変化があることが想定される河川などの水路では使用が困難なものであった。また、この浮遊物分離器は、支持枠や補強枠や誘導壁や底板を有するものであったため、幅のある大規模な水路への設置が困難なものであった。
【0008】
また、特許文献3には、水路を斜めに横切って網を設置することにより、水路を流れてくる浮遊物を河川敷に設けられた浮遊物処理設備に導き入れるようにした浮遊物回収装置が記載されている。しかし、この浮遊物回収装置は、網を使用するものであったため、油などの液体や塵などの小さな固体が浮遊物である場合には、浮遊物の回収が困難なものであった。加えて、網の目がゴミなどで詰まるおそれもあり、頻繁にメンテナンスする必要があるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2009−235875号公報
【特許文献2】実開昭48−059269号公報
【特許文献3】実登第2603019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、水路の流れが速い場合であっても浮遊物を確実に回収することのできる浮遊物回収方法を提供するものである。また、水路の水位が変化しても浮遊物を好適に回収することのできる浮遊物回収方法を提供することも本発明の目的である。さらに、幅のある水路においても好適に実施することのできる浮遊物回収方法を提供することも本発明の目的である。さらにまた、使用する浮遊物回収設備のメンテナンスが容易な浮遊物回収方法を提供することも本発明の目的である。そして、これらの浮遊物回収方法を行う浮遊物回収設備の施工方法を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、
水路を流れてくる浮遊物を回収するための浮遊物回収設備の施工方法であって、
[A]水路の上層流を堰き止めて下層流を通過させる構造の底開き堰を水路の幅方向に設置する底開き堰設置工程と、
[B]底開き堰よりも上流側の水路を幅方向に仕切るための第一仕切壁を、第一仕切壁の下流側の端部と底開き堰における上流側を向く縦壁面との間に隙間が形成されるように、水路の流れ方向に沿って設置する第一仕切壁設置工程と、
[C]水路における一方の岸壁と第一仕切壁との間に位置する浮遊物導入水域に水路の上流側から水が流れ込まないようにするための第二仕切壁を、第一仕切壁の上流側の端部と前記一方の岸壁との間に亘って設置する第二仕切壁設置工程と、
で構成され、
浮遊物回収設備の施工後に、水路における前記一方の岸壁とは反対側の岸壁と第一仕切壁との間に位置する本流水域を流れてくる浮遊物を前記隙間から浮遊物導入水域へ導き入れ、浮遊物導入水域に導き入れられた浮遊物を回収できるようにすることを特徴とする浮遊物回収設備の施工方法
を提供することによって解決される。
【0012】
ここで、上記の浮遊物回収設備の施工方法の技術的範囲は、[A]底開き堰設置工程と、[B]第一仕切壁設置工程と、[C]第二仕切壁設置工程とを行う順番がこの記載順に限定されるものではない。すなわち、これら3つの工程を並べ替えてできる6通りの全ての施工方法が、上記の浮遊物回収設備の技術的範囲に含まれる。ただし、施工作業の容易化の観点から、通常、[A]底開き堰設置工程が最初に行われる。これにより、底開き堰よりも上流側の水位が一定となるように予め調整してから、[B]第一仕切壁設置工程や、[C]第二仕切壁設置工程を行うことが可能になる。したがって、第一仕切壁や第二仕切壁の上縁の高さも容易に決定することができるし、後述する第一仕切壁の通水口の大きさなども容易に決定することが可能になる。また、後述する[D]浮遊物回収手段設置工程を設ける場合には、[D]浮遊物回収手段設置工程は、通常、[C]第二仕切壁設置工程よりも後とされ、好ましくは、一番最後とされる。
【0013】
上記の施工方法により施工された浮遊物回収設備では、本流水域を流れる浮遊物を浮遊物導入水域へ導入してから(自然流入させてから)回収するようになるので、水路の流れが速い場合であっても、浮遊物を確実に回収することが可能である。浮遊物導入水域は、本流水域と比較して、水の流れが非常に緩やかである。本流水域では、上流側から下流側へと水が流れるが、浮遊物導入水域では、下流側から上流側へと水が流れる。
【0014】
また、上記の施工方法により施工された浮遊物回収設備では、底開き堰や第一仕切壁や第二仕切壁を余裕のある寸法に設計しておくことにより、水路の水位が変化した場合であっても、浮遊物を好適に回収することができる。さらに、上記の施工方法により施工された浮遊物回収設備では、幅の広い水路に対しても好適に施工することができる。さらにまた、網などを使用しないため、メンテナンスも容易である。
【0015】
上記の浮遊物回収設備の施工方法において、第一仕切壁の下流側の端部と底開き堰における上流側を向く縦壁面との間に形成する隙間の幅(底開き堰における上流側を向く縦壁面から第一仕切壁の下流側の端部までの水路の流れに沿った距離。以下同じ。)を具体的にどの程度とするかは、特に限定されない。この隙間は、僅かでも存在すれば、本流水域から浮遊物導入水域へと浮遊物を自然流入させることが可能である。しかし、この隙間の幅は、通常、1cm以上とされる。この隙間の幅は、10cm以上であると好ましく、15cm以上であるとより好ましい。
【0016】
一方、第一仕切壁の下流側の端部と底開き堰における上流側を向く縦壁面との間に形成する隙間の幅を広くしすぎると、本流水域から浮遊物導入水域へと導入された浮遊物が円を描きながら再び本流水域へと出て行ってしまい、回収できなくなるおそれがある。このため、前記隙間の幅は、通常、60cm以下とされる。前記隙間の幅は、50cm以下であると好ましく、40cm以下であるとより好ましく、30cm以下であるとさらに好ましい。前記隙間の幅は、20〜25cmの範囲であると最適である。
【0017】
上記の浮遊物回収設備の施工方法において、第一仕切壁における水面下となる部分には通水口を設け、該通水口を通じて浮遊物導入水域から本流水域へと水路の下層流が移動できるようにすると好ましい。既に述べた通り、浮遊物導入水域の水の流れは、本流水域の水の流れよりも緩やかであるため、浮遊物導入水域の水圧は、本流水域の水圧よりも高くなり、浮遊物導入水域の下層流が通水口を通じて本流水域へと自然に流れ出る。この現象は、ベルヌーイの定理により説明される。浮遊物導入水域に入ってきた下層流は、次々に本流水域へと流れ出ていく。出て行った下層流を補うように浮遊物導入水域に入ってきた上層流は、その下側にある下層流の流出により次々に下層流へと変化していく。上層流の表面にあった浮き油や浮き塵などの浮遊物は、突き詰められた状態で浮遊物導入水域の一番奥側へと溜まっていく。浮遊物導入水域の一番奥側では、水が静止状態となる。
【0018】
第一仕切壁には、通常、水路の流れ方向に沿って所定間隔で上記の通水口を複数個形成する。この第一仕切壁は、本流水域の水と浮遊物導入水域の水とを仕切る遮蔽壁としての機能を有している一方で、それに形成した通水口は、流れ出る水の通路としての機能を有している。複数の通水口は、一定間隔で規則正しく配列した方が、上述したベルヌーイの定理による現象が乱れることなく確実に発現する。したがって、第一仕切壁を長く確保して、より多くの通水口を規則正しく配列した方が上記現象を乱れなく確実に発現させることができる。
【0019】
というのも、本流水域における水の流速v、流量q及び圧力pと、浮遊物導入水域における水の流速v、流量q及び圧力pとの関係は、ベルヌーイの定理によって下記式1で表わすことができる。
【数1】

【0020】
本流水域の流速vは、浮遊物導入水域の流速vよりも大きいため、浮遊物導入水域の圧力pは、本流水域の圧力pよりも高くなる。この圧力差によって、浮遊物導入水域から本流水域へと前記通水口を通じて水が流れるようになる。
【0021】
第一仕切壁は、その上縁から水がオーバーフローしない高さであることが必要である。また、第一仕切壁における遮蔽壁として機能する部分の表面は、水中の水流が横向きに振れないように滑らかに形成しておくと好ましい。
【0022】
また、上記課題は、上記の浮遊物回収設備の施工方法によって施工された浮遊物回収設備を用いて浮遊物の回収を行う浮遊物回収方法を提供することによっても解決される。本発明の浮遊物回収方法は、水の流れのある各種の水路で採用することができる。本発明の浮遊物回収方法は、河川のように大規模な水路から、工場敷地内の水路や側溝のように小規模な水路まで、様々な水路で採用することができる。本発明の浮遊物回収方法で回収できる浮遊物の種類も特に限定されず、水に浮遊する各種液体や各種固体を回収することができる。具体的には、油やベンゼンやトルエンなどの液体や、塵などの固体が例示される。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明によって、水路の流れが速い場合であっても浮遊物を確実に回収することのできる浮遊物回収方法を提供することが可能になる。すなわち、従来は、速い流れに乗って流れるがために周辺水域等に拡散していた浮遊物を、静かな水域で一箇所に集め、容易に回収することが可能になる。また、水路の水位が変化しても浮遊物を好適に回収することのできる浮遊物回収方法を提供することも可能になる。さらに、幅のある水路においても好適に実施することのできる浮遊物回収方法を提供することも可能になる。さらにまた、使用する浮遊物回収設備のメンテナンスが容易な浮遊物回収方法を提供することも可能になる。そして、これらの浮遊物回収方法を行う浮遊物回収設備の施工方法を提供することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の施工方法で水路に施工された浮遊物回収設備を示した斜視図である。
【図2】本発明の浮遊物回収方法で使用する浮遊物回収手段の好適な実施態様を示した概念図である。
【図3】図2の浮遊物吸引手段の駆動時における吸引口の周辺を拡大した状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
1.浮遊物回収設備の施工方法の概要
本発明の浮遊物回収設備の施工方法の好適な実施態様について、図面を用いてより具体的に説明する。図1は、本発明の施工方法で水路100に施工された浮遊物回収設備を示した斜視図である。図1においては、紙面左下が水路100の上流側となっており、紙面右上が水路100の下流側となっており、水103は、矢印α、矢印α、矢印αの向きで流れる。水路100は、左岸102(水路100の下流に向かって左側の岸)と右岸(水路100の下流に向かって右側の岸)とを有しているが、図1では、図示の便宜上、右岸となる部分を破断して示してある。
【0026】
本実施態様の施工方法では、水路100を流れてくる浮遊物を回収するための浮遊物回収設備を施工する。具体的には、図1に示すように、[A]底開き堰10を設置する底開き堰設置工程と、[B]第一仕切壁20を設置する第一仕切壁設置工程と、[C]第二仕切壁30を設置する第二仕切壁設置工程と、[D]浮遊物回収手段を設置する浮遊物回収手段設置工程と、を経ることにより、浮遊物回収設備(底開き堰10、第一仕切壁20、第二仕切壁30及び浮遊物回収手段)を施工する。既に述べた通り、[A]底開き堰設置工程と、[B]第一仕切壁設置工程と、[C]第二仕切壁設置工程と、[D]浮遊物回収手段設置工程を行う順序は限定されないが、通常、[A]底開き堰設置工程を一番最初に行い、次に、[B]第一仕切壁設置工程か[C]第二仕切壁設置工程を行い、最後に[D]浮遊物回収手段設置工程を行う。
【0027】
1.2 底開き堰設置工程
底開き設置工程は、図1に示すように、水路100の上層流を堰き止めて下層流を通過させる構造の底開き堰10を水路100の幅方向に設置する工程である。底開き堰10は、その上縁から下側に向かって所定高さまでが連続する閉塞面によって形成された閉塞部11とされ、閉塞部11よりも下側には、水100の流れを遮断しない開放部12が設けられたものとなっている。底開き堰10の施工は、水路100の水面が閉塞部11の高さに位置する(水路100の水面が開放部12の高さとならない)ように行う。水路100の水位が変化する場合があるので、水路100の最高水位と最低水位を想定し、最高水位から最低水位までの全ての水位において、水路100の水面が閉塞部11の高さに位置するように、閉塞部11及び開放部12の高さを決定する。特に、閉塞部11の上縁(底開き堰10の上縁)は、余裕を持たせてできるだけ高い位置となるようにしておく。底開き堰10は、水路100における一方の岸壁(左岸102)から他方の岸壁(右岸)までの全区間に亘って連続的に施工している。
【0028】
底開き堰10を水路100における前記全区間に亘って施工する場合であっても、水路100の水103は、その下層流が開放部12を通じて下流へと流れ出るため、水路100の流れが阻害されることはない。開放部12の寸法(高さや幅、設ける間隔など)は、底開き堰10の上流側の水位が一定に保たれるように設定する。開放部12にスライド可能(通常、開放部12の上側から上下スライド可能)な可動板を取り付けて、該可動板で開放部12を覆う面積を調節することができるようにすることにより、開放部12の通水可能な面積を調節できるようにしておくことも好ましい。このように、底開き堰10に水門機能を持たせることにより、水路100の水位や流速が変化した場合であっても、対応することが可能になる。
【0029】
ところで、本実施態様の施工方法においては、図1に示すように、底開き堰10を水路100の幅方向に対して平行となるように施工しているが、この態様に限定されない。すなわち、底開き堰10は、水路100の幅方向に対して傾斜させて施工してもよい。しかし、底開き堰10を水路100の幅方向に対して傾斜させすぎると、浮遊物導入水域に浮遊物が導入されにくくなる。このため、水路100の幅方向に対する底開き堰10の傾斜角度は、30°以下となるようにすべきである。当該傾斜角度は、10°以下であると好ましく、5°以下であるとより好ましい。当該傾斜角度は、0°であるとき(底開き堰10が水路100の幅方向に対して平行であるとき)が最も浮遊物が浮遊物導入水域へと流入しやすいことが確認できた。加えて、底開き堰10は、その全区間を水路100の幅方向に対して平行となるように施工した場合が最も短くなり、施工コストを抑えることができる。このため、底開き堰10は、水路100の幅方向と平行になるように施工すると最適である。
【0030】
1.3 第一仕切壁設置工程
第一仕切壁設置工程は、図1に示すように、底開き堰10よりも上流側の水路100を幅方向(左岸102側の水域と右岸側の水域)に仕切るための第一仕切壁20を、水路100の流れ方向に沿って設置する工程である。第一仕切壁20の下流側の端部(図1における点R,R,Rが存在する側の端部)と底開き堰10における上流側を向く縦壁面との間には、隙間を形成し、本流水域から浮遊物導入水域へと浮遊物が導入されるようにする(図1における矢印α)。本実施態様の施工方法において、当該隙間の幅は、20〜25cmに設定している。第一仕切壁20は、その表面が凹凸を有さない滑らかな形態のものであると好ましい。これにより、上述したベルヌーイの定理に基づく現象が乱れないようにすることができる。第一仕切壁20の上縁は、水路100の水面よりも上側に位置するように配している。
【0031】
水路100の全幅(Wとする。)に対する、水路100の一方の岸壁(左岸102)から第一仕切壁20の下流側の端部までの水路100の幅方向に沿った距離(Lとする。)の比(L/Wのこと。)は、特に限定されない。本実施態様の施工方法においては、比L/Wが0.5となる位置(水路100の幅方向中間部)に第一仕切壁20の下流側の端部が位置するようにしている。比L/Wによって、本流水域から浮遊物導入水域へと浮遊物が導入される効率が変化するが、一般的な条件下では、比L/Wを0.5前後とした場合が比較的効率的に浮遊物が導入されることを確認した。
【0032】
本実施態様の施工方法において、第一仕切壁20には、その水面下となる部分に複数個の通水口21が水路100の流れ方向に沿って所定間隔で設けられたものを使用している。このため、通水口21を通じて浮遊物導入水域から本流水域へと水路100の下層流が移動できるようになっている(図1における矢印α)。この現象は、上述したベルヌーイの定理により説明できる。通水口21の個数は、第一仕切板20の寸法などによって適宜決定される。それぞれの通水口21の形状も、特に限定されない。しかし、ベルヌーイの定理による上述した現象を乱さずに確実に発現させることや、設計のしやすさや加工のしやすさなどを考慮すると、長方形や正方形などの四角形が好ましい。それぞれの通水口21は、常に水面下となる位置(最も低いときの水位より低くなる位置)に設けている。通水口21の幅(水流方向に沿った長さ)は、22cm以下とした場合に、ベルヌーイの定理による上述した現象が乱れずに発現し、30cm以上とした場合に、本流水域から浮遊物導入水域へと水が入り込んできて当該現象が乱れることを確認した。また、隣り合う通水口21の間隔は、5cm以上とすると、当該現象に乱れが生じないことも確認した。
【0033】
ところで、本実施態様の施工方法においては、図1に示すように、第一仕切壁20を水路100の流れ方向に対して平行となるように施工しているが、この態様に限定されない。すなわち、第一仕切壁20は、水路100の流れ方向に対して傾斜させて施工してもよい。例えば、第一仕切壁20の上流側の端部(図1における点Q,Q,Qが存在する側の端部)が、第一仕切壁20の下流側の端部よりも右岸側となるように、第一仕切壁20を傾斜させることができる。この場合には、上述したベルヌーイの定理による現象がより顕著に発現されるようになって、浮遊物導入水域から本流水域へと下層流が流れ出やすくなり、浮遊物導入水域へとより効率的に浮遊物を導入できるようになる。これとは逆に、第一仕切壁20の下流側の端部が第一仕切壁20の上流側の端部よりも右岸に近づくように傾斜させると、上述したベルヌーイの定理による現象が発現しにくくなるために、好ましくない。
【0034】
1.4 第二仕切壁設置工程
第二仕切壁設置工程は、図1に示すように、水路100における浮遊物導入水域に水路100の上流側から水103が流れ込まないようにするための第二仕切壁30を、第一仕切壁20の上流側の端部と一方の岸壁(左岸102)との間に亘って設置する工程である。第二仕切壁30の上縁は、水路100の水面よりも上側に位置するように配している。第二仕切壁30は、第一仕切壁20と同様、その表面が凹凸を有さない滑らかな形態のものであると好ましい。
【0035】
第二仕切壁30における岸壁側の端部(図1における点P,P,Pが存在する側の端部)は、他方の端部(図1における点Q,Q,Qが存在する側の端部)よりも上流側に位置させている。水路100の流れ方向に対する第二仕切壁30の傾斜角度(図1における∠Aに一致)をどの程度とするかは、特に限定されない。しかし、この傾斜角度を小さくしすぎると、第二仕切板30を長く確保する必要があり、施工コストが増大するおそれがある。このため、第二仕切壁30の前記傾斜角度は、通常、10°以上とされる。一方、第二仕切壁30の前記傾斜角度は60°以下であると、本流水域が、撹乱の少ない滑らかな流れとなる。第二仕切壁30の前記傾斜角度は、30°程度であると、水面の浮遊物が第二仕切壁30との摩擦による淀みを生じずに滑らかに下流へと流れていく。その上、水流の水圧による第二仕切壁30の破損を防ぐこともできる。
【0036】
1.5 浮遊物回収手段設置工程
浮遊物回収手段設置工程は、浮遊物を回収するための浮遊物回収手段を、浮遊物導入水域に設置する工程である。本実施態様の施工方法において、浮遊物回収手段には、図2に示すように、(1)水面付近に配することにより水面上の浮遊物103aを吸引するための下向きの吸引口を有する浮遊物吸引手段110と、(2)前記吸引口の下側に配され、水面付近にない水103が前記吸引口に吸引されないように水面付近の水103とその下側の水103とを分け隔てるための仕切板120と、(3)仕切板120が水面下で略水平になるように仕切板120に作用する浮力を調整するための浮力調整手段130と、(4)浮遊物吸引手段110が浮遊物103aとともに吸引した水103を濾過して浮遊物103aを除去するための濾過手段140を備えたものとなっている。図2は、浮遊物回収手段の好適な実施態様を示した概念図である。図3は、図2の浮遊物吸引手段110の駆動時における吸引口111の周辺を拡大した状態を示した図である。
【0037】
本実施態様の施工方法において、浮遊物吸引手段110には、株式会社鶴見製作所製の排水用ポンプ、型式「LSC1.4S−61」を用いている。浮遊物吸引手段110は、その吸引方向が仕切板20の上面に対して垂直となるように仕切板120の上面に設置してもよいが、図3に示すように、その吸引方向を仕切板120の上面の法線に対して傾斜させると好ましい。これにより、水面上の浮遊物103aをより確実に吸引することができる。仕切板120の上面の法線に対する吸引方向の傾斜角度θは特に限定されないが、通常、0.5°以上とされ、好ましくは、1°以上とされ、より好ましくは、1.5°以上とされる。一方、傾斜角度θは、通常、10°以下とされ、好ましくは、7°以下とされ、より好ましくは、5°以下とされる。傾斜角度θは約2〜3°に設定すると最適である。本実施態様の施工方法においては、浮遊物吸引手段110の底部に3本のボルトを設けており、それぞれのボルトの突出量を変化させることにより、傾斜角度θや、後述する水深Dを調節することができるようにしている。
【0038】
本実施態様の施工方法において、仕切板120は、略水平に配しており、傾斜角度θを、鉛直軸に対する浮遊物吸引手段110の吸引方向の傾斜角度θ(図3)に略一致させている。浮遊物吸引手段110の吸引方向を水面に対してこの程度傾けておくと、啜り音を発生させながら、水面上の浮遊物103aを水面付近の水103や空気とともに吸引させることが可能になる。浮遊物吸引手段110を設置する箇所(仕切板120の上面の中心)の仕切板120の水深D(図3)は、特に限定されないが、通常、5mm(浮遊物吸引手段110の停止時の値。以下同じ。)以上とされ、好ましくは、8mm以上とされ、より好ましくは、10mm以上とされる。一方、水深Dは、通常、20mm以下とされ、好ましくは、19mm以下とされ、より好ましくは、18mm以下とされる。
【0039】
本実施態様の施工方法においては、木製の板材に撥水加工を施したものを仕切板120として用いている。仕切板120の面積は、特に限定されないが、通常、0.5m以上とされる。当該面積は、1m以上とすると好ましく、1.5m以上とするとより好ましい。一方、当該面積は、通常、10m以下とされ、好ましくは、7m以下とされ、より好ましくは、5m以下とされる。また、本実施態様の施工方法においては、仕切板120の周縁部を薄く(厚さ20mmに)形成し、その中央部を厚く(厚さ30mmに)形成するとともに、仕切板120の上面が仕切板20の端部から中央部に向かって昇り傾斜となるように形成している。このため、浮遊物103aを、仕切板120の上側へ円滑に案内することができるようになっている。
【0040】
本実施態様の施工方法において、浮力調整手段130は、図2に示すように、浮材131と錘材132とで構成している。錘材132は、内部に水を入れたタンク型容器132Aとボトル型容器132Bとで構成しており、浮材131は、木製の突片に防水加工を施したものを使用している。濾過手段140は、移送管150を介して浮遊物吸引手段110と連結されている。濾過手段140は、通水性を有する架台160の上に載置された、上面と底面が開放された略筒状のタンクの内部に吸着剤などを収容した構造のものとなっている。本実施態様の施工方法においては、谷口商会株式会社製の吸着剤「スミレイ(登録商標)」を前記吸着剤として使用している。移送管150から導入された浮遊物103aを含有する水103は、前記タンクを通過し、油分などが取り除かれた後、前記タンクの底部から流下して元の場所(図1の水路100)へと戻される。
【0041】
浮遊物回収手段における浮遊物吸引手段110を配する場所は、水路100における浮遊物導入水域内であれば特に限定されないが、当該水域内におけるできるだけ上流側に配すると好ましい。上述したように、浮遊物導入水域内において、水103の流れは本流水域とは逆になり、浮遊物導入水域に導入された浮遊物は、上流側に溜まってくるからである。本実施態様の施工方法においては、図1に示す網掛けハッチング部分βに浮遊物回収手段における浮遊物吸引手段110を配するようにしている。
【0042】
2.浮遊物回収方法
続いて、本発明の浮遊物回収方法について説明する。図1に示すように、水路100を矢印αの向きに流れてきた水103は、本流水域を通り(矢印α)、底開き堰10に到達する。底開き堰10の下部には開放部12が設けられているため、下層流は、開放部12から底開き堰10の下流へと流れ出る(矢印α)。底開き堰10の上流では、底開き堰10の下流よりも水位が高くなっている。この水位差(段差)によって、底開き堰10の上流から下流へ水が流れる。一方、底開き堰10の閉塞部11にぶつかった上層流は、第一仕切板20と底開き堰10の隙間から、浮遊物導入水域へと流れ込む(矢印α)。浮遊物導入水域に導入された浮遊物は、該水域内を上流側へと逆流し、浮遊物導入水域の一番奥側(図1における点P)へ向かって集まっていく。浮遊物導入水域に溜まった浮遊物は、本流水域を流れていたときよりも厚い膜状となる。この浮遊物を浮遊物導入水域におけるできるだけ奥側(点Pにできるだけ近い場所)で常時回収すれば、底開き堰10と第一仕切壁20との隙間から浮遊物が溢れることはない。浮遊物の回収方法は、上述した浮遊物吸引手段110を使用する方法に限定されず、各種方法を採用することができる。浮遊物導入水域へ導入された水103のうち、水路100の底面101に近い下層流は、上述したベルヌーイの定理による現象により、第一仕切壁20の下部に設けられた通水口21から本流水域へと流れ出る(矢印α)。通水口21から浮遊物導入水域の下層流が次々と流れ出ることで、該水域の上層にある水が次々と下側に移動して下層流となり、本流水域へ流れ出るため、浮遊物を保持した表面水だけが浮遊物導入水域へ残ることになり、該水域の奥側に近づくほど水の動きはなくなる。以下、これが繰り返されることにより、水路100を流れてくる浮遊物を連続的に回収しやすい場所へ収束させることができる。水路100における底開き堰10よりも下流には、浮遊物が取り除かれた綺麗な水103が流れ出る。
【符号の説明】
【0043】
10 底開き堰
11 閉塞部
12 開放部
20 第一仕切壁
21 通水口
30 第二仕切壁
100 水路
101 水路の底面
102 左岸(一方の岸壁)
103 水
103a 浮遊物
110 浮遊物吸引手段
120 仕切板
130 浮力調整手段
131 浮材
132 錘材
132A タンク型容器(容器)
132B ボトル型容器(容器)
140 濾過手段
150 移送管
160 架台


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水路を流れてくる浮遊物を回収するための浮遊物回収設備の施工方法であって、
[A]水路の上層流を堰き止めて下層流を通過させる構造の底開き堰を水路の幅方向に設置する底開き堰設置工程と、
[B]底開き堰よりも上流側の水路を幅方向に仕切るための第一仕切壁を、第一仕切壁の下流側の端部と底開き堰における上流側を向く縦壁面との間に隙間が形成されるように、水路の流れ方向に沿って設置する第一仕切壁設置工程と、
[C]水路における一方の岸壁と第一仕切壁との間に位置する浮遊物導入水域に水路の上流側から水が流れ込まないようにするための第二仕切壁を、第一仕切壁の上流側の端部と前記一方の岸壁との間に亘って設置する第二仕切壁設置工程と、
で構成され、
浮遊物回収設備の施工後に、水路における前記一方の岸壁とは反対側の岸壁と第一仕切壁との間に位置する本流水域を流れてくる浮遊物を前記隙間から浮遊物導入水域へ導き入れ、浮遊物導入水域に導き入れられた浮遊物を回収できるようにすることを特徴とする浮遊物回収設備の施工方法。
【請求項2】
第一仕切壁の下流側の端部を底開き堰における前記縦壁面から上流側に向かって10〜100cm登った箇所に位置させる請求項1記載の浮遊物回収設備の施工方法。
【請求項3】
第一仕切壁における水面下となる部分に通水口を設け、該通水口を通じて浮遊物導入水域から本流水域へと水路の下層流が移動できるようにする請求項1又は2記載の浮遊物回収設備の施工方法。
【請求項4】
前記通水口が、水路の流れ方向に沿って所定間隔で複数個形成された請求項3記載の浮遊物回収設備の施工方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載の浮遊物回収設備の施工方法によって施工された浮遊物回収設備を用いて浮遊物の回収を行う浮遊物回収方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−19099(P2013−19099A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150712(P2011−150712)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【特許番号】特許第5074614号(P5074614)
【特許公報発行日】平成24年11月14日(2012.11.14)
【出願人】(596098254)谷口商会株式会社 (3)
【Fターム(参考)】