説明

海水の浸透取水におけるろ過層の洗浄装置

【課題】砂ろ過層の表層に捕捉された目詰まり物質を取り除くのに適した洗浄装置を提供する。
【解決手段】砂ろ過層の表面を移動するための移動手段として駆動車輪12を備えた洗浄装置11である。砂ろ過層の表層部を所要の深さだけ攪拌し、目詰まり物質を濁水吸水ピット20内の海水中にろ過砂と共に巻き上げる攪拌手段として、ポンプ13及びジェットノズル14を備える。攪拌手段により濁水吸水ピット20内の海水中に巻き上げられた濁水を吸引し、濁水吸水ピット20の外部に排出する吸引排出手段として、懸濁水吸水用有孔管15、ポンプ16、エジェクター17、希釈懸濁水排出管18を備える。
【効果】砂ろ過層を適時洗浄することにより目詰まりを防止し、海水浸透速度を高速に維持できる。濁水吸水ピット内に巻き上げられた目詰まり物質を含む濁水を吸引し、系外に排出するので、周辺環境への影響も小さくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底の砂ろ過層内を浸透してくる海水を取水する浸透取水法を継続的に実施するために、前記砂ろ過層の表層部に堆積又は取り込まれた目詰まりの原因となる物質を取り除いて目詰まりを防止する洗浄装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海水取水を行う代表的なプラントである海水淡水化プラントにおいて、近年、蒸発型造水法に代わり、逆浸透膜による逆浸透法が主流になってきている。この逆浸透法の場合、不純物による逆浸透膜のファウリング(目詰まり)による性能劣化を抑制するために、淡水化の前処理として、不純物のより少ない清浄な海水が求められる。
【0003】
海水を取水する方法として、現在は、図7に示すように、例えば海底に設けた取水口1から導水管2を介して海水を取水する直接取水法が多く採用されている。なお、図7中の3は海水を取水するためのポンプ、4は逆浸透膜装置である。
【0004】
しかしながら、直接取水法は、海水と同時にごみ、懸濁物、生物等を全て取水するので、クラゲや赤潮の異常発生時、油の流出事故時、高波による濁度の増大時には、取水を停止しなければならない場合がある。また、取水口や導水管へのフジツボ、イガイ等の海洋生物の付着が激しいので、定期的な清掃、例えば塩素等の付着防止の薬品の添加、全管路における生物付着代を考慮した管径の増大等が必要である。また、海洋生物の付着防止のために海水中に塩素を投入した場合は、環境汚染や塩素を遠因とした逆浸透膜でのバイオファウリング発生の問題がある。さらに、取水した海水を逆浸透膜で処理する場合には、凝集剤を添加した海水をろ過する砂ろ過施設が必要となるので、砂ろ過施設に溜まった汚泥を処理する施設が必要になる。
【0005】
そこで、近年、取水する海水の前処理として、凝集剤等の薬品を使用しないで、図8に示すように、海底の砂ろ過層5内を浸透してくる海水を取水する間接取水法が注目されている。
【0006】
この間接取水法は、汀線より数百m、水深十数mの沖合にて海底を掘削し、当該掘削部に、図9に示すように、支持砂利層5a及び5b、ろ過砂5cで構成された砂ろ過層5を形成しながら、再び同じ海底面まで埋め戻すことで、支持砂利層5a中に設置した取水配管6から、ろ過浸透して浄化された海水を取水する方法である。この間接取水法は、直接取水法の問題は一切発生しないが、イニシャルコストが高いことと、砂ろ過層の表層に目詰まり物質(シルトなど)が捕捉されることで目詰まりが発生して取水量が低下する問題により、普及拡大が遅れている。
【0007】
具体的には、間接取水法の一例として、海底の砂ろ過層内に発現される海水浸透流速を1〜8m/日とし、前記砂ろ過層の水深は、当該砂ろ過層の表層部分の砂が50cm以上移動する完全移動限界水深よりも深く、かつ1cm以上移動する表層移動限界水深よりも浅くする浸透取水法が提案されている(特許文献1)。しかし、この特許文献1で提案された浸透取水法は、海水の浸透取水速度が1〜8m/日という非常に緩速なろ過速度であるため、短期間で大量の海水を取水するには広大な面積を必要とし、工事規模が大きくなり、イニシャルコストが高くなる。
【0008】
加えて、特許文献1で提案された浸透取水法は、砂ろ過層の表面に堆積した目詰まり物質(シルトなど)を自然の波や流れを利用して取り除くものであるため、浸透取水設備の設置場所が、潮流や波浪による海水の流動が活発な海域に限られていた。
【0009】
そこで、出願人は、まず前者の課題を解決するために、海水浸透速度を400m/日以下のできるだけ大きい速度に高速化することで、短期間での取水量が大量になり、従来に比べて取水面積を大幅に削減し、工事規模を格段に減少させることが可能な海水の浸透ろ過方法を提案した。
【0010】
また、後者の課題については、波浪や潮流による海水流動が少ない海域に砂ろ過層を設置する場合、砂ろ過層の表層に捕捉された目詰まり物質(シルトなど)は人為的に取り除いて洗浄する必要がある。この人為的な洗浄装置に関し、従来、河川においては、図10に示すように、河川7aの河床下に砂利層7c及び集水管8と砂層7bを埋め戻して構成される集水埋渠の目詰まりを防止するために、砂利層7c中にエアーを噴出可能な孔9aを有した洗浄用配管9を埋設する場合がある。
【0011】
しかし、波浪や潮流による海水流動が少ない海域の砂ろ過層に、図10に示すようなエアー方式の洗浄用配管を適用した場合、砂ろ過層の上方の海中に巻き上げた目詰まり物質(シルトなど)及びろ過砂を含む濃度の高い濁水がそのまま砂ろ過層の周辺に漂い、環境上問題となる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3899788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする問題点は、従来は、海水の浸透取水を行う砂ろ過層の目詰まりを防止するのに適した洗浄装置がなかったため、砂ろ過層の設置場所が波浪や潮流による海水流動が活発な場所に限られていた点である。また、従来、河川の集水埋渠で利用されている洗浄装置は、洗浄用配管からエアーを噴出させる方式であるため、これを波浪や潮流による海水流動が少ない海域に適用した場合、砂ろ過層の上方の海中に巻き上げた目詰まり物質(シルトなど)及びろ過砂を含む濃度の高い濁水が砂ろ過層の周辺に漂い、環境上問題となる場合があった点である。
【0014】
特に、出願人が提案した浸透取水法のように、例えば海水浸透速度を400m/日以下のできるだけ大きい速度にまで高速化する場合は、目詰まりが砂ろ過層の内部にも進行しやすく、発生頻度も高くなる。よって、この高速浸透性を維持するためには、砂ろ過層の目詰まりの原因となる目詰まり物質(シルトなど)を適時適正に除去する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記の課題を解決し、砂ろ過層を波浪や潮流による海水流動が少ない海域にも設置可能とし、砂ろ過層の周辺の環境を汚染するおそれも低減できる砂ろ過層の洗浄装置を提供することを目的としてなされたものである。また、砂ろ過層の浸透面に対し、適時、目詰まりの状況に応じた適切な洗浄を行うことで、海水の浸透取水法における高速浸透性を維持できる洗浄装置を提供することを目的とするものである。
【0016】
本発明の洗浄装置は、
海水の浸透取水を行う砂ろ過層の表層部に堆積又は取り込まれた目詰まり物質を取り除いて目詰まりを防止する洗浄装置であって、
前記砂ろ過層の表面を移動するための移動手段と、
前記表層部を所要の深さだけ攪拌し、前記目詰まり物質を濁水吸水ピット内の海水中に前記表層部のろ過砂と共に巻き上げる攪拌手段と、
前記攪拌手段により前記濁水吸水ピット内の海水中に巻き上げられた濁水を吸引し、前記濁水吸水ピットの外部に排出する吸引排出手段と、
を備えたことを最も主要な特徴としている。
【0017】
上記の本発明によれば、撹拌手段によって砂ろ過層の表層部を所要の深さだけ撹拌することにより、表層部に堆積又は取り込まれた目詰まり物質(シルトなど)はろ過砂と共に濁水吸水ピット内の海水中に巻き上げられる。このとき、目詰まり物質(シルトなど)とろ過砂が混合した状態の濁水は、濁水吸水ピット内に巻き上げられるので、濃度の高い濁水が砂ろ過層の周辺に漂うことはない。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、砂ろ過層の表層に捕捉された目詰まり物質を、濁水吸水ピット内で実行される撹拌手段と吸引排出手段によって吸引し、系外に排出するので、周辺環境への影響を小さくすることができる。また、目詰まり物質を適時適正に取り除いて目詰まりを防止できるので、砂ろ過層を海水流動が少ない海域にも設置できるようになる。よって、海水浸透速度を400m/日以下のできるだけ大きい速度にまで高速化する場合でも、その浸透速度を維持できるので、従来よりも取水面積を大幅に削減した浸透取水法を安定的に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の砂ろ過層の洗浄装置の外観を示した概略図である。
【図2】本発明の砂ろ過層の洗浄装置の内部構造の説明図であり、移動手段やモーター等の動力部は省略し、洗浄機能に関係する機構のみを示した図である。
【図3】海水中における沈降速度を粒径別に比較したグラフである。
【図4】本発明の第2実施例の洗浄装置の構成を説明する図である。
【図5】本発明の第3実施例の洗浄装置の構成を説明する図である。
【図6】本発明の洗浄装置の外観形状の他の例を示す図である。
【図7】従来の直接取水法の概略説明図である。
【図8】従来の間接取水法の概略説明図である。
【図9】海底浸透部の概略構成図である。
【図10】河川において利用されている洗浄用配管の説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明において、吸引排出手段によって濁水吸水ピットの外部に排出する目詰まり物質(シルトなど)を含む濁水は、砂ろ過層の周囲の環境に悪影響を及ぼすことがないように、系外に回収することが理想的である。
【0021】
もっとも、自然環境内での物質収支の観点からは、目詰まり物質を含む濁水とはいえ、元々の自然環境へ戻すとの意味合いで、吸水した濁水を直接的に周辺海域に放流するべきとの考え方もある。
【0022】
一方で、目詰まり物質を含む濁水の放流については、近隣への視的配慮と環境上の配慮が強く求められる場合も多い。したがって、吸引排出手段によって排出する濁水を系外に回収せずに放流する場合は、希釈化及び複数地点への拡散放流をすることが望ましい。
【0023】
すなわち、吸引排出手段は、濁水吸水ピット内の海水中に巻き上げられた目詰まり物質とろ過砂が混合した状態の濁水から、目詰まり物質とろ過砂の沈降速度差を利用して、目詰まり物質を選択的に吸引する構成とする。このようにすれば、ろ過性能を維持するために必要なろ過砂はできるだけ吸引しないようにして砂ろ過層の表面にそのまま残すと共に、目詰まりの原因となる目詰まり物質のみを選択的に吸引し、外部に放流することができるので、周辺環境への影響が小さくなる。
【0024】
また、前記吸引排出手段は、目詰まり物質を選択的に吸引した状態の濁水をさらに希釈し、複数箇所に分散して、濁水吸水ピットの外部に排出する構成とする。このようにすれば、放流する排水は希釈・分散化されたものとなるので、周辺環境への影響はさらに小さくなる上、視覚上も目立たない。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態を、図1〜図6を用いて詳細に説明する。
図1は第1実施例の砂ろ過層の洗浄装置11の外観を示した概略図である。
【0026】
第1実施例の洗浄装置11は、砂ろ過層の表面を移動するための移動手段として、履帯を備えた駆動車輪12を用いている。洗浄装置11は、砂ろ過層の表面を予め設定された走行プログラムに従い、設定時刻になると特定の砂ろ過層の表面を所定のスピードで水平方向に移動しながら、通過する装置下の浸透面を所定の条件で洗浄する自動自走式の洗浄装置である。
【0027】
洗浄のタイミングや時間は、砂ろ過層が設置される海域の水質、水温、季節などの条件に応じて、目詰まり物質による目詰まりが発生しない最適な設定としている。また、基本的には設定されたプログラムに従って一定期間毎に一定時間の洗浄が繰り返し行われるが、タイミングや時間は随時変更することができる。
【0028】
21は、外部から装置内に海水を取り込むための海水流入口を、18は、洗浄装置11の進行方向と交差する方向に延設された希釈懸濁水排出管を、33は、希釈懸濁水排出管18の排出口18aから夫々放流される排水を示している。希釈懸濁水排出管18には、図1に示すように排出口18aが複数設けられているため、希釈された排水は分散されて更に目立たないものとなり、環境への影響も小さくなる。
【0029】
図2は、洗浄装置11の内部構造の説明図であり、駆動車輪12やモーター等の動力部は省略し、洗浄機能に関係する機構のみを示している。なお、図2において、矢印Aは洗浄装置11の進行方向を示している。
【0030】
41はろ過砂層を、42は取水配管43が埋設された支持砂利層を示している。このろ過砂層41と支持砂利層42によって、海水浸透速度を400m/日以下のできるだけ大きい速度に高速化したろ過層を形成している。
【0031】
第1実施例の洗浄装置11は、砂ろ過層の表層部を所要の深さだけ攪拌し、目詰まり物質を濁水吸水ピット20内の海水中に前記表層部のろ過砂と共に巻き上げる攪拌手段として、ポンプ13及びジェットノズル14を用いている。
【0032】
すなわち、海水は、ポンプ13によって海水流入口21から洗浄装置11の内部に取り込まれ、ポンプ13の作用によって圧力を伴った水は、接続管13aを介してジェットノズル14から高水圧のジェット水流31として噴出される。
【0033】
ジェットノズル14の噴出角度は、ジェット水流31が、ろ過砂層41の表面41aへ概ね直角方向に当たるように設定している。また、このジェット水流31の水圧は、ろ過砂層41全体の深さDのうち、目詰まり物質が取り込まれている可能性がある深さdだけろ過砂を撹拌できるように、その水圧を設定している。このように水圧を調整することで、ジェットノズル14から噴出される水による洗浄深度は、必要最小限のろ過砂が撹拌される深度とすることができる。
【0034】
高水圧のジェット水流31を当てることにより、ろ過砂層41の表層部に堆積又は取り込まれた目詰まり物質は、ろ過砂と共にジェット水流31により攪拌される。そして、ジェット水流31によって撹拌されたろ過砂及びこのろ過砂に捕捉されていた目詰まり物質は、濁水吸水ピット20内の海水中に巻き上がる。
【0035】
図1に示すとおり、本発明では、目詰まり物質及びろ過砂が混合した状態の濁質混合水32が巻き上がるのは、濁水吸水ピット20の内部にとどまる。よって、本発明では、撹拌手段を実行した段階で濃度の高い濁水が砂ろ過層の周囲に漂流することはない。
【0036】
第1実施例の洗浄装置11では、攪拌手段により濁水吸水ピット20内の海水中に巻き上げられた濁水を吸引し、濁水吸水ピット20の外部に排出する吸引排出手段として、懸濁水吸水用有孔管15、ポンプ16、エジェクター17、希釈懸濁水排出管18を用いている。
【0037】
濁水吸水ピット20内に巻き上げられた濁質混合水32の中には、目詰まりの原因となる目詰まり物質が含まれているほか、目詰まりの原因とはならず、むしろ、海水のろ過性能を維持するのに必要なろ過砂も含まれている。
【0038】
そこで、第1実施例の吸引排出手段は、濁水吸水ピット20内の海水中に巻き上げられた目詰まり物質とろ過砂が混合した状態の濁水から、目詰まり物質とろ過砂の沈降速度差を利用して、目詰まり物質を選択的に吸引するように構成した。
【0039】
具体的には、図3のグラフに示すように、ろ過砂は、粒径が例えば0.4〜0.6mmの範囲であって沈降速度が速いため、例えば15秒後には60cm以上沈降しているが、目詰まり物質は、粒径が例えば0.04mm以下であって沈降速度が遅いため、例えば15秒後においても浮遊状態にある。したがって、多数の孔が列設された懸濁水吸水用有孔管15を設ける高さ位置と、ポンプ16を駆動させて濁質混合水32を吸引するタイミングを調整することにより、目詰まり物質が海水中に多く存在する位置及びタイミングで吸引排出手段を実行すれば、目詰まり物質のみを選択的に吸引し、ろ過砂はできるだけ吸引せずにろ過砂層41の表面41aに残すことが可能となる。
【0040】
濁質混合水32は、上記のとおり、目詰まり物質が選択的に吸引されるタイミングで濁水吸水用有孔管15を介してポンプ16によって吸引される。そして、ポンプ16の作用によって圧力を伴った懸濁水は、接続管16aを介してエジェクター17に送水される。
【0041】
エジェクター17に送られた懸濁水は、エジェクター17の作用により流入口17aから吸引された自然海水と混合され、これにより懸濁水はさらに希釈される。そして、希釈された懸濁水は、図1に示したような形状の希釈懸濁水排出管18に送出され、複数の排出口18aから分散して放出される。33は、希釈されると共に分散して放出された排水を示している。海洋の環境保全を考慮した場合、排出口18aはできる限り多数設けると共に間隔を置くことが望ましい。
【0042】
なお、図2において、19は、砂ろ過層に面した下端側が開口し、洗浄装置11の外郭を形成する筐体を、22は、筐体19の下端外周に取り付けられた隔壁を示している。本発明では、ジェット水流31によって攪拌された際に巻き上がる濁質混合水32に含まれる砂分と目詰まり物質の沈降及び分離処理は、すべて濁水吸水ピット20内の密閉された空間内で行う。隔壁22は、濁水吸水ピット20の密閉性を確保するために、筐体19の下端外周と砂ろ過層の表面との間の隙間をシールするための部材であり、例えばゴムや樹脂等の柔軟性を有する素材で構成される。
【0043】
このように、本発明の濁水吸水ピット20は、海水中に巻き上げられた目詰まり物質とろ過砂が混合した状態の濁度の高い濁水が、近傍に直接的に拡散し汚染することを格段に抑制し、周辺環境に配慮した構造のものである。また、第1実施例の吸引排出手段は、海洋環境の保全を目的に、攪拌直後に発生する濁質分(濁水)は可能な限り濁水吸水ピット20内にて処理するので、周囲への拡散を抑制できる。また、目詰まり物質を直接的に付近への放流を行う場合は、エジェクター17により自然海水と混合して希釈の上、懸濁水排出管18により複数の箇所に分散放流するので、周辺環境への影響を小さくすることができる。
【0044】
次に、図4を参照して、本発明の第2実施例の洗浄装置11の構成を、第1実施例とは異なる点を中心に説明する。
【0045】
第1実施例は、駆動車輪12を回転させるモーターを駆動するためのバッテリー等の電源を洗浄装置自体に備えていた。これに対し、図4に示す第2実施例の洗浄装置11は、ソーラーパネル24aと蓄電池24bとフロート24cを備えた海上の浮体24からケーブル25を介して電源を確保することにより、広範囲かつ長時間の洗浄にも対応できるものである。
【0046】
ここで、発電機としては、ソーラーパネル24aのような太陽光発電だけでなく、浮体上に搭載可能な風力発電機、波力発電機、海洋温度差発電機、潮流発電機など、再生可能な自然エネルギーを用いることができる。
【0047】
また、第1実施例では、ジェットノズル14から噴出させる水流のみによって目詰まり物質を含むろ過砂層41を撹拌洗浄していた。これに対し、第2実施例の洗浄装置11は、洗浄深度をさらに深くするために、空気混流式ノズルによるジェット水流を用いている。この場合、混流する空気は、例えば図4に示すように、フロート26bの作用によって先端の吸気口26aが海上に浮かんでいるエアー流入管26を介して、洗浄装置11内の空気混流式ノズルに供給する。
【0048】
さらに、第1実施例では、希釈懸濁水排出管18に送出された濁水は、希釈後に排出口18aから分散して放出していた。これに対し、第2実施例の洗浄装置11では、希釈懸濁水排出管18の排出口18aは排水管23と接続されており、希釈後の排水は海上の浮体24に回収している。この場合、浮体24には、吸引ポンプを設ける。
【0049】
また、24dは、GPSのデータを受信する受信機を示している。GPSのデータから現在位置を特定することにより、洗浄装置11が正しいエリアを走行しているかを判断できる。なお、浮体24と洗浄装置11間の信号の送受信は、ケーブル25を介して行うことができる。
【0050】
このように、本発明は、洗浄装置自体が洗浄機構と移動機構を共に具備している必要はなく、例えばエンジン、モーター、バッテリー、ポンプ、ソーラーパネル等の発電機、GPSなどの機器は、第2実施例のように台船上に設置し、必要最低限の洗浄用機構のみを備えた洗浄装置を海底で移動させる構成であっても良い。
【0051】
第2実施例では、海洋環境の保全を目的に、攪拌直後に発生する濁質分(濁水)は可能な限り濁水吸水ピット20内にて処理するので、周囲への拡散を抑制できる。また、排水は浮体24に一旦回収の上、他の専用排水処理設備へ送水できるので、周辺環境に影響を及ぼすおそれもない。
【0052】
次に、図5を参照して、本発明の第3実施例の洗浄装置11の構成を説明する。
第1実施例では、ジェットノズル14から噴出させる水流によって目詰まり物質を含むろ過砂を濁水吸水ピット20内で撹拌洗浄していたのに対し、図5に示す第3実施例の洗浄装置11は、浮体27上に濾材洗浄機27aを設け、この濾材洗浄機27で洗浄するものである。
【0053】
すなわち、第3実施例の洗浄装置11では、目詰まり物質が捕捉されたろ過砂を、ろ過砂ごと吸引管28を介して濾材洗浄機27aまで吸引する。そのため、吸引管28の吸引口28aは、濁水吸水ピット20内のろ過砂層41の表面41a付近に位置させている。また、濾材洗浄機27a内で目詰まり物質を取り除いて洗浄したろ過砂は、送出管29を介して洗浄装置11まで送出し、砂ろ過層41に埋め戻すものである。そのため、送出管29の送出口29aは、ろ過砂層41の表面41a付近に位置させている。
【0054】
このように、第3実施例の洗浄装置11は、浮体27と共に矢印Aの方向に移動しながら、ろ過砂の吸引と埋め戻しを繰り返すものである。
【0055】
このような構成により、ろ過砂自体の洗浄を行う場合においても、ろ過砂の吸引と埋め戻しは濁水吸水ピット20内で行われるので、ろ過砂の吸引と埋め戻しに伴い発生する濁水32によって砂ろ過層の周辺が汚染されることはない。また、排水は浮体27上の濾材洗浄機27aで回収の上、他の専用排水処理設備へ送水できるので、周辺環境に影響を及ぼすおそれもない。
【0056】
以上の本発明の洗浄装置を利用することにより、砂ろ過層の表層に堆積又は取り込まれた目詰まり物質を取り除くことにより目詰まりを確実に防止できるので、海水浸透速度を例えば400m/日以下のできるだけ大きい速度にまで高速化する場合でも、その浸透速度を維持することができる。
【0057】
例えば10万t/日の取水量が求められる設備の場合、浸透速度が5m/日の従来の浸透取水法であれば、必要な取水エリアの面積は20,000m2 となるが、出願人が提案した浸透取水法と本発明の洗浄装置を組み合わせることにより浸透速度が100m/日の浸透取水を維持できれば、必要な取水エリアの面積は1/20の1,000m2 にまで格段に削減できる。よって、設置時の工事も小規模化が可能になって、工事時の周囲環境への影響も各段に緩和できる。
【0058】
本発明は、前記の例に限るものではなく、各請求項に記載の技術的思想の範疇であれば適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0059】
例えば、第1実施例では、図1に示すような形状の洗浄装置を開示したが、外観形状はこれに限らない。例えば、図6に示すように、駆動車輪12を備えた駆動機構部よりも、濁水吸水ピット20を含む洗浄機構部を幅広にして、効率的に洗浄できるように構成しても良い。
【0060】
また、第1実施例では、ジェットノズル14から噴出するジェット水流31は砂ろ過層の浸透面に対し概ね直角方向に当てる例を開示したが、ジェット水流31の噴出方向は、巻き上げたろ過砂を含む濁質混合水32が濁水吸水ピット20の方向にスムーズに流れるように、洗浄装置11の進行方向とは逆向きに若干角度を持たせても良い。
【0061】
また、第1実施例では、自走式の洗浄装置11を開示したが、本発明の洗浄装置は海上を移動する台船に牽引されて移動する構成でも良い。
【0062】
また、第1実施例では、撹拌手段としてポンプ13とジェットノズル14による水流撹拌を用いる場合の例を開示したが、本発明はこれに限らない。撹拌手段としては、回転翼やスパイラル翼などを備えた機械的な耕運式の撹拌によることも可能である。
【符号の説明】
【0063】
11 洗浄装置
12 駆動車輪
13 ポンプ
14 ジェットノズル
15 懸濁水吸水用有孔管
16 ポンプ
17 エジェクター
17a 流入口
18 希釈懸濁水排出管
18a 排出口
19 筐体
20 濁水吸水ピット
21 海水流入口
22 隔壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水の浸透取水を行う砂ろ過層の表層部に堆積又は取り込まれた目詰まり物質を取り除いて目詰まりを防止する洗浄装置であって、
前記砂ろ過層の表面を移動するための移動手段と、
前記表層部を所要の深さだけ攪拌し、前記目詰まり物質を濁水吸水ピット内の海水中に前記表層部のろ過砂と共に巻き上げる攪拌手段と、
前記攪拌手段により前記濁水吸水ピット内の海水中に巻き上げられた濁水を吸引し、前記濁水吸水ピットの外部に排出する吸引排出手段と、
を備えたことを特徴とする洗浄装置。
【請求項2】
前記吸引排出手段は、前記濁水吸水ピット内の海水中に巻き上げられた目詰まり物質とろ過砂が混合した状態の濁水から、目詰まり物質とろ過砂の沈降速度差を利用して、目詰まり物質を選択的に吸引することを特徴とする請求項1に記載の洗浄装置。
【請求項3】
前記濁水吸水ピットは、海水中に巻き上げられた目詰まり物質とろ過砂が混合した状態の濁度の高い濁水が、砂ろ過層の近傍に直接的に拡散することを抑制する構造であることを特徴とする請求項1に記載の洗浄装置。
【請求項4】
前記吸引排出手段は、目詰まり物質を選択的に吸引した状態の濁水をさらに希釈し、複数箇所に分散して、前記濁水吸水ピットの外部に排出することを特徴とする請求項2に記載の洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−86058(P2013−86058A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230916(P2011−230916)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【出願人】(305011053)株式会社ナガオカ (8)
【Fターム(参考)】