説明

海苔網の支柱の処理装置

【課題】支柱に付着する貝類や支柱の内部に詰まった泥砂を軽作業で簡単に除去することができる海苔網の支柱の処理装置を提供することを目的とする。
【解決手段】船5のヘリ部6に設置される台部11上に油圧モータ18に駆動される水平な回転軸17を設ける。回転軸17の端部に第1の回転体21と第2の回転体22を間隔Tをおいて装着し、第1、第2の回転体21、22と回転軸17に第1のチェーン23と第2のチェーン26を互いに交差して谷部Vを形成するように固着する。貝類Kが付着した支柱1をガイド体31上に載せ、スライドさせて谷部Vに落し込み、支柱1を手回ししながらその長手方向に押し引きすると、貝類Kは第1、第2のチェーン23、26でこすり落され、また支柱1の内部に詰った泥砂Sは支柱1の下端部から流れ出して除去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海苔養殖のために海洋に張設される海苔網の支柱の処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海苔を養殖する海苔網は、海洋に立設された支柱に張設される。図7は、海苔網を張設した支柱の正面図である。支柱1は、一般にFRP(強化プラスチック)により形成された中空パイプであって、その長さは10m若しくはそれ以上であり、表面には保護膜が薄くコーティングされている。支柱1は、その下端部を海底4に突き差して垂直に立設される。海苔網2は、その端部をロープ(太線で示す)3により支柱1に結び付けられて張設される。
【0003】
海面は干満により上下動する。aは満潮海面、bは干潮海面である。支柱1には、リング4が嵌挿されている。リング4は浮きであって海面付近に浮いており、波に揺られて遊動しながら満潮海面aと干潮海面bの間を上下動する。したがってリング4が上下動する範囲Aには貝類(一般にフジツボ)は付着しない。しかしながら、干潮海面b以下の範囲Bは常時海中にあるため、貝類Kが付着する。
【0004】
海苔シーズンは一般に9月乃至3月である。したがって支柱1は9月初旬頃に海洋に立設して海苔の養殖が行われ、4月頃海洋から引き上げられて陸上に保管される。引き上げられた支柱1の上記範囲Bには大量の貝類Kが付着しているので、貝類Kは除去しなければならない。また支柱1は中空パイプであるため、海底4に差し込まれていた範囲Cには泥砂Sが詰まっているので、この泥砂Sは除去しなければならない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、貝類Kは支柱1の表面に強くこびり付いており、また泥砂Sは支柱1の内部にびっしり詰まっているため、これらの除去作業には多大な手間と労力を有するものであった。特に、支柱は上記のように長大であり、しかも相当の重量を有するので、支柱を手軽に取り扱いながら貝類Kや泥砂Sの除去作業を行うことは甚だ重労働であった。
【0006】
そこで本発明は、支柱に付着する貝類や支柱の内部に詰まった泥砂を軽作業で簡単に除去することができる海苔網の支柱の処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の本発明の海苔網の支柱の処理装置は、台部と、この台部上に支持された水平な回転軸と、この回転軸を駆動する駆動部と、この回転軸に間隔をおいて装着された第1の回転体及び第2の回転体と、一端部が前記間隔における前記回転軸に固着され、他端部が前記第1の回転体の外側部に固着された第1のチェーンと、一端部が前記間隔における前記回転軸に固着され、他端部が前記第2の回転体の外側部に固着された第2のチェーンとを有し、前記第1のチェーンと前記第2のチェーンはそれぞれ前記第1の回転体と前記第2の回転体にその回転方向にピッチをおいて交互に複数本張設されることにより互いに交差する谷部を形成しており、且つ作業者が保持する支柱を前記谷部へ向ってスライドさせて案内するためのガイド体を設けた。
【0008】
請求項2記載の本発明の海苔網の支柱の処理装置は、請求項1記載の海苔網の支柱の処理装置において、船のヘリ部上に設置される底台を備え、前記台部はこの底台上に水平回転自在に装着されるようにした。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の発明によれば、台部は例えば船のヘリ部などに設置する。そして作業者は海中から引き上げられた支柱を手に保持し、その先端部側(貝類が付着している側)をガイド体上に載せる。そして支柱の先端部側をガイド体上をスライドさせて第1のチェーンと第2のチェーンが交差する谷部へ落し込み、支柱をその軸心を中心に手回ししながら、支柱をその長手方向に押し引きする。すると支柱に強くこびり付いた貝類は第1、第2のチェーンによりこすり落とされる。また支柱をその先端部側へ向って下り勾配で傾斜させて上記こすり落とし作業をすれば、こすり落とし中には支柱はチェーンが貝類に強く擦過することによる振動によってがたつくので、このがたつきにより支柱の下端部に詰まっていた泥砂は下端部から外部へ流れ出て除去される。この場合、チェーンは貝類の擦過除去力は大きく、貝類を難なく擦過除去できるが、支柱表面への当たりは柔かいので、支柱の表面にコーティングされた保護膜を損傷しにくい。
【0010】
請求項2記載の発明によれば、貝類や泥砂の除去作業を行うときは、第1、第2の回転体を船ヘリ部から海上に突出した位置に位置させる。そしてこの位置において除去作業を行えば、支柱から除去された貝類や泥砂は海中に落下する。
【0011】
海洋での除去作業が終了し、船が船着き場に帰船するときは、底台上の台部を水平回転させ、第1、第2の回転体を含む処理装置が船のヘリ部から海上に突出しないようにヘリ部上に収納する。このように処理装置をヘリ部上に完全に収納すれば、船着き場の岸壁や他船等に処理装置、特に第1の回転体が衝突して破損事故が発生するのを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は海苔網の支柱の処理装置の斜視図、図2は海苔網の支柱の処理装置の平面図、図3は海苔網の支柱の処理装置の正面図、図4はチェーンの平面図、図5は海苔網の支柱の処理装置を使用中の船の平面図、図6は海苔網の支柱の処理装置を船のヘリ部に収納した状態の船の平面図である。
【0013】
図5において、作業者Pは船5に乗船し、支柱1を両手に保持して船5のヘリ部6上に設置された海苔網の支柱の処理装置10により貝類や泥砂の除去作業を行っている様子を示している。船5上の隅部には、処理が終了した支柱1が載せられている。以下、図1〜図3を参照して海苔網の支柱の処理装置10について説明する。
【0014】
図1〜図4において、台部11は板体であって、ヘリ部6上に設置された板状の底台12上に設置されている。台部1の一側部(船外側の側部)には円弧状の長孔13が開孔されており、この長孔13には底台12に立設されたピン14が嵌入している。
【0015】
台部11の他側部中央(船内側)のには支軸部15が立設されている。台部11は底台12上を支軸部15を中心に水平回転自在に底台12上に設置されており、水平回転は長孔13とピン14に案内される。支軸部15上には軸受16が水平な姿勢で支持されている。
【0016】
軸受16には回転軸17が挿入されている。また軸受16の一端部には駆動部としての油圧モータ18が装着されている。軸受16から突出する水平な回転軸17の端部には第1の回転体21が装着されており、第1の回転体21の手前には第1の回転体21と間隔Tをおいて第2の回転体22が装着されている。本実施の形態では、第1、第2の回転体21、22は円板である。
【0017】
23は第1のチェーンであって、その一端部は溶接部などの固着部24により間隔Tにおける第2の回転体22近くの回転軸17の表面に固着されており、他端部は第1の回転体21の外側部、望ましくはその外周面に溶接部などの固着部25により固着されている。26は第2のチェーンであって、その一端部は同様の固着部27により間隔Tにおける第1の回転体21近くの回転軸17の表面に固着されており、他端部は第2の回転体22の外側部、望ましくはその外周面に同様の固着部28により固着されている。
【0018】
第1、第2のチェーン23、26は回転軸17の回転方向にピッチをおいて交互に複数本(本実施の形態では90°のピッチで各4本、両者合計で8本)張設されており、相隣る第1、第2のチェーン23、26は互いに交差して谷部Vを形成している。図4は第1、第2のチェーン23、26の部分拡大図であって、第1、第2のチェーン23、26は市販のものである。図1〜図3では、作図の都合上、第1、第2のチェーン23、26は破線で示している。
【0019】
図1〜図3において、台部11の一側部の両側部には支持柱30が立設されている。支持柱30上にはガイド体31が水平な姿勢で支持されている。ガイド体31は金属棒などの棒状体から成っている。ガイド体31の一端部31aは第2の回転体22の斜上方に位置しており、また他端部は上向きに屈曲されたストッパとしての屈曲部31bとなっている。作業者Pは、支柱1を海中から引き抜いたならば、まず支柱をガイド体31上に載せ、ガイド体31上を上記谷部Vへ向ってスライドさせて谷部Vに落し込む(図1〜図3の矢印N)。屈曲部31bは、支柱1が誤って谷部Vと反対側へスライドしてガイド体31から落下するのを防止するものである。
【0020】
この海苔網の支柱の処理装置は上記のような構成より成り、次にその使用方法を説明する。図5において、海苔網の支柱の処理装置10は、第1、第2の回転体21、22がヘリ部6から海洋上にやや突出する位置に位置している。また油圧モータ18は駆動し、第1、第2の回転体21、22は回転軸17を中心に回転している。作業者Pは海中から引き抜いた支柱1を両手に保持し、上述したように貝類K(図5では省略している)が付着した先端部側をガイド体31上に載せ、谷部Vへ向ってスライドさせて谷部Vに落とし込む(図1〜図3の矢印N)参照。そして図5において、先端部側(貝類が付着した側)がやや下向きとなる傾斜姿勢で支柱1を保持し、支柱1をその軸心を中心に手回ししながら(矢印イ)、支柱1をその長手方向(矢印ロ)に押し引きする。
【0021】
すると支柱1の表面に付着する貝類Kは第1、第2のチェーン23、26にこすり落とされ、海中に落下する。またこのこすり落とし時には、第1、第2のチェーン23、26に貝類Kが強く擦過することによる振動によって支柱1はがたつき、このがたつきにより中空パイプである支柱1の下端部に詰まっていた泥砂S(図7)は下端部から流れ出て除去される(矢印ハ)。以上のようにして貝類Kと泥砂Sの除去が終了した支柱1は、船5の隅部に収納する。
【0022】
海洋に立設された多数本の支柱1の処理が終了したならば、船5は港などの船着き場に帰船する。ここで、図5に示すように、海苔網の支柱の処理装置10の一部、特に第1の回転体21が船外へ突出していると、港などにおいて、他船や岸壁に衝突するなどして危険である。そこで支柱1の処理作業が終了したならば、台部11を底台12上で支軸部15を中心に若干(本実施の形態では約30°)水平回転させることにより、図6に示すように、海苔網の支柱の処理装置10をヘリ部6上に収納する。このように処理装置10をヘリ部6上に収納すれば、上記危険を回避できる。なお、台部11を図5に示す使用位置と図6で示す収納位置にロックして固定するロック手段を設けることが望ましい。ロック手段としては、ボルトやクランパ等の公知のものを適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
請求項1記載の発明によれば、海苔網の支柱の処理装置の台部は例えば船のヘリ部などに設置する。そして作業者は海中から引き上げられた支柱を手に保持し、その先端部側(貝類が付着している側)をガイド体上に載せる。そして支柱の先端部側をガイド体上をスライドさせて第1のチェーンと第2のチェーンが交差する谷部へ落し込み、支柱をその軸心を中心に手回ししながら、支柱をその長手方向に押し引きする。すると支柱に強くこびり付いた貝類は第1、第2のチェーンによりこすり落とされる。また支柱をその先端部側へ向って下り勾配で傾斜させて上記こすり落とし作業をすれば、こすり落とし中には支柱はチェーンが貝類に強く擦過することによる振動によってがたつくので、このがたつきにより支柱の下端部に詰まっていた泥砂は下端部から外部へ流れ出て除去される。この場合、チェーンは貝類の擦過除去力は大きく、貝類を難なく擦過除去できるが、支柱表面への当たりは柔かいので、支柱の表面にコーティングされた保護膜を損傷しにくい。
【0024】
請求項2記載の発明によれば、貝類や泥砂の除去作業を行うときは、第1、第2の回転体を船ヘリ部から海上に突出した位置に位置させる。そしてこの位置において除去作業を行えば、支柱から除去された貝類や泥砂は海中に落下する。
【0025】
海洋での除去作業が終了し、船が船着き場に帰船するときは、底台上の台部を水平回転させ、第1、第2の回転体を含む処理装置が船のヘリ部から海上に突出しないようにヘリ部上に収納する。このように処理装置をヘリ部上に完全に収納すれば、船着き場の岸壁や他船等に処理装置、特に第1の回転体が衝突して破損事故が発生するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】海苔網の支柱の処理装置の斜視図
【図2】海苔網の支柱の処理装置の平面図
【図3】海苔網の支柱の処理装置の正面図
【図4】チェーンの平面図
【図5】海苔網の支柱の処理装置を使用中の船の平面図
【図6】海苔網の支柱の処理装置を船のヘリ部に収納した状態の船の平面図
【図7】海苔網を張設した支柱の正面図
【符号の説明】
【0027】
1 支柱
2 海苔網
5 船
6 ヘリ部
10 海苔網の支柱の処理装置
11 台部
12 底台
13 長孔
14 ピン
15 支軸部
17 回転軸
18 油圧モータ(駆動部)
21 第1の回転体
22 第2の回転体
23 第1のチェーン
26 第2のチェーン
31 ガイド体
T 間隔
V 谷部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
台部と、この台部上に支持された水平な回転軸と、この回転軸を駆動する駆動部と、この回転軸に間隔をおいて装着された第1の回転体及び第2の回転体と、一端部が前記間隔における前記回転軸に固着され、他端部が前記第1の回転体の外側部に固着された第1のチェーンと、一端部が前記間隔における前記回転軸に固着され、他端部が前記第2の回転体の外側部に固着された第2のチェーンとを有し、前記第1のチェーンと前記第2のチェーンはそれぞれ前記第1の回転体と前記第2の回転体にその回転方向にピッチをおいて交互に複数本張設されることにより互いに交差する谷部を形成しており、且つ作業者が保持する支柱を前記谷部へ向ってスライドさせて案内するためのガイド体を設けたことを特徴とする海苔網の支柱の処理装置。
【請求項2】
船のヘリ部上に設置される底台を備え、前記台部はこの底台上に水平回転自在に設置されることを特徴とする請求項1記載の海苔網の支柱の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−86253(P2008−86253A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−270304(P2006−270304)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【特許番号】特許第3884062号(P3884062)
【特許公報発行日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(591072813)
【Fターム(参考)】