液体収納容器およびその製造方法
【課題】 互いに結合していない繊維の集合体からなる吸収体の形状自由度を生かしつつ、少ない作業工程にて、ケース内に充填された吸収体の形状を良好に維持させる。
【解決手段】 互いに結合していない繊維の集合体からなる吸収体と、前記吸収体を挿入する開口部を有し前記吸収体を格納するケース部材と、前記ケース部材の前記開口部に接合される蓋部材と、前記蓋部材が接合される面とは異なる位置に設けられ、液体を外部に供給する供給口と、を有し、前記蓋部材に対向する前記吸収体の表面には、前記繊維が互いに結合してなる結合層を有する。
【解決手段】 互いに結合していない繊維の集合体からなる吸収体と、前記吸収体を挿入する開口部を有し前記吸収体を格納するケース部材と、前記ケース部材の前記開口部に接合される蓋部材と、前記蓋部材が接合される面とは異なる位置に設けられ、液体を外部に供給する供給口と、を有し、前記蓋部材に対向する前記吸収体の表面には、前記繊維が互いに結合してなる結合層を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する液体吐出装置に搭載される液体収納容器およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体収納容器に充填され、インク等の液体を吸収保持する吸収部材には、多孔質材料が広く用いられている。スポンジやウレタンに代表される多孔質材料は、目的のサイズに切出して利用すれば良く、製造工程において取り扱いやすい。
【0003】
一方、互いに結合していない綿状の繊維の集合体は、製造工程における切出し作業が不要な為、切れ端が生じ難く無駄が少ない。さらに、形状の自由度が大きく、吸収部材としてのリサイクル性も高い。しかし、互いに結合していない繊維の集合体は、多孔質材料と比較すると形状保持性が非常に低く、ある形を保持させようとしても膨らんでしまい取り扱いにくい。そこで、所望の形にした繊維の表面を溶着して固めることで形状保持性を高め、この状態の繊維を液体収納容器へ挿入する製法が従来技術としてあげられる(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−301740号公報
【特許文献2】特開平7−47688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1、2に開示の製造方法では、複雑なケース形状にあわせて綿状の繊維の全面を精密に固めることは難しく、製造工程が複雑になる。さらに、形状保持性を高めた状態の繊維を挿入する手法では、従来の切出した多孔質材料を挿入する吸収体の製造工程と変わりは無く、形状自由度が高い繊維の特性を生かしきれていない。
【0006】
そこで、本発明は、互いに結合していない繊維の集合体からなる吸収体の形状自由度を生かしつつ、少ない作業工程にて、ケース内に充填された吸収体の形状を良好に維持することで、信頼性の高い液体収納容器を作成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の液体収納容器は、互いに結合していない繊維の集合体からなる吸収体と、前記吸収体を挿入する開口部を有し前記吸収体を格納するケース部材と、前記ケース部材の前記開口部に接合される蓋部材と、前記蓋部材が接合される面とは異なる位置に設けられ、液体を外部に供給する供給口と、を有し、前記蓋部材に対向する前記吸収体の表面には、前記繊維が互いに結合してなる結合層を有することを特徴とする。
【0008】
さらに、上述の液体収納容器の製造方法は、液体を外部に供給する供給口が設けられる面とは異なる面に設けられた開口部を有するケース部材に、互いに結合していない繊維の集合体からなる吸収体を前記開口部から挿入する工程と、前記開口部に面する前記吸収体の表面に、前記繊維が互いに結合してなる結合層を形成する工程と、前記吸収体に液体を注入する工程と、前記開口部に蓋部材を接合する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、互いに結合していない繊維の集合体からなる吸収体の形状自由度を生かしつつ、少ない作業工程にて、ケース内に充填された吸収体の形状を良好に維持することで、信頼性の高い液体収納容器を作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施例の液体収納容器の模式断面図
【図2】吸収体がケース部材から溢れている模式図
【図3】実施例1における液体収納容器の製造工程を説明する概略図
【図4】実施例1における液体収納容器の製造工程を説明する概略図
【図5】実施例3における液体収納容器の製造工程を説明する概略図
【図6】実施例3における液体収納容器の製造工程を説明する概略図
【図7】実施例4における液体収納容器の製造工程を説明する概略図
【図8】実施例5における液体収納容器の製造工程を説明する概略図
【図9】実施例2における吸収体の繊維の断面図を示す概略図
【図10】本実施形態の液体収納容器の外観図
【図11】本実施形態の液体収納容器の構成図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の液体収納容器内に格納される吸収体は「互いに結合していない繊維の集合体」である。以後単に「繊維」、「繊維吸収体」と記載する。
【0012】
(1.液体収納容器の構造)
図10(a)は、液体を吐出する液体吐出ヘッドが組み込まれた本実施形態の液体収納容器を液体吐出ヘッド側から見た外観図である。図10(b)は、本実施形態の液体収納容器を、蓋部材側から見た概観図である。図10においては、液体収納容器と液体吐出ヘッドが一体となった形態を示したが、液体収納容器と液体吐出ヘッドとが別構成であっても良い。図11は、図10の液体収納容器を分解した図である。開口部を有するケース部材12に繊維の吸収体13が挿入されている。吸収体の毛細管力によってインクなどの液体が吸収体に保持される。大気と連通する大気連通口15が設けられた蓋部材14はケース部材12に接合され、大気連通口にはラベル17が貼られる。供給口は液体収納容器を液体吐出装置に装着した状態における底面に配置され、繊維吸収体を挿入し蓋部材が接合される開口部は上面に配置される。
【0013】
上述の液体収納容器の製造過程において、綿状の形状保持性が低い繊維を液体収納容器のケース部材の開口部から充填した際に、図2に示すように、繊維が膨らみ開口部から溢れてしまう。液体収納容器としての信頼性を確保する為には、単にケース部材から溢れないように繊維を押さえ込んで蓋をすればよいわけではない。繊維が蓋部材とケース部材との間に挟まった場合、接着不良となる恐れがある。さらに、繊維が蓋部材の大気連通口から出てしまうと、内部の液体が繊維を伝って外部に漏れる恐れがあることがわかった。
【0014】
そこで、本実施例においては、形状自由度の高い繊維の特性を生かした状態で液体収納容器のケース内に繊維を充填し、蓋部材に対向する面においては、繊維が互いに結合してなる結合層を設ける事を最たる特徴とする。図1に示すように、互いに結合していない繊維の集合体からなる吸収体13と、それを格納するケース部材12と、ケース部材12の開口部に接合される蓋部材14と、蓋部材14が接合される面とは異なる位置に設けられ液体を外部に供給する供給口16とを有する。蓋部材14に対向する吸収体の表面には繊維が互いに結合してなる結合層131が形成される。結合層131を設ける事で、蓋部材に対向する吸収体の繊維は毛羽立たない状態になる。更に、ケース内に充填された吸収体の膨張も抑制され、吸収体がケースに充填された状態を良好に維持することができ、信頼性の高い液体収納容器を得ることができる。
【0015】
(結合層の説明)
結合層とは、吸収体を形成する互いに結合していない繊維の一部を結合させた層を示す。結合層の形成方法としては、熱溶融があげられる。結合層の面積は、ケース部材に対する蓋部材の溶着を行う製造工程において、該吸収体がケース部材の蓋部材溶着面にはみ出ること無く、安定した蓋部材の溶着が出来ればよい。結合層の厚さは、蓋部材のリブ(吸収体を抑える役目)に必要以上に反発することなく、安定した蓋部材の溶着が可能であればよい。個々の樹脂材料の特性によって厚さは異なるが、オレフィン系樹脂の吸収体に形成される結合層の厚さは0.1〜0.3mmが好ましい。
【0016】
(吸収体の繊維)
結合層を熱溶着で作成する場合、ケース部材の融点より吸収体の繊維の融点は十分に低いものがよい。つまり、溶融した繊維や加熱手段による輻射熱などによって変形しないケース部材が良い。繊維吸収体の材料は熱可塑性樹脂で、液体の保持力・保存性などを満足するものとして、オレフィン系の樹脂/ポリプロピレン等があげられる。
【0017】
(実施例1)
図3、図4を用いて、実施例1における液体収納容器の製造方法の説明を行う。
本実施例では、吸収体に用いる繊維として、直径が約30ミクロンのポリプロピレンの単芯繊維を使用した。繊維のカット長は一般的な短繊維の範囲(10〜50mm程度)のものを使用する。このように、不定形で繊維間に弾性反発力がある繊維をケース部材に格納すると、図3に示すように繊維がケース部材12の開口面から外部に溢れ、その一部はケース部材12の蓋部材溶着面を覆ってしまう。
【0018】
そこで、溢れ出た繊維吸収体21をケース部材の開口面寸法内に矯正する筒状の矯正ガイド111を用いる。矯正ガイドの表面は、ケース部材内から退避するとき、繊維を外部に引っ張り出さないように、摩擦抵抗が低い材質あるいは表面処理がなされている事が好ましい。(図4(a))。
【0019】
矯正ガイド111をケース部材の開口部からケース部材の内壁に沿って挿入する。これにより、ケース部材から溢れていた繊維吸収体13が、ケース部材の開口面寸法内に押し込まれる(図4(b))。ここで、インクを注入するインク注入針を繊維吸収体に挿入しインクを充填する。インク充填後、インク注入針を退避させる。
【0020】
次に、補正ガイド111の筒内に、熱源を内蔵し一定温度を維持する加熱部材101を配置する。溶融した繊維の癒着を低減させる為に、加熱部材101の加熱面は表面処理を行うか、イジェクター等の機構を設けたものが好ましい。矯正ガイド111がケース部材4に挿入された状態で、加熱部材101が下降し、繊維吸収体を所定量押圧しながら、所定時間繊維吸収体の表層を加熱し、溶融させる。加熱部材を冷却する時間を短くするために、加熱部材101の加熱面の温度は、ポリプロピレンの融点に約5〜20℃を加えた温度(約170℃)とした。結合層の厚さを約0.1mmとする為に、加熱部材101による加熱時間は1秒、加熱部材101の押し込み量は、約1mmとした。(図4(c))
続いて、加熱部材101の加熱を停止し、繊維吸収体が冷えることで、溶融していた繊維が互いに溶着する。これにより吸収体の表面に溶融部である結合層131が形成さされる。この後、加熱部材101と、補正ガイド111は上昇し、ケース部材から外される(図4(d、e))。
【0021】
この後、超音波溶着や振動溶着などの一般的な摩擦溶着手法を用いて、蓋部材をケース部材に接着させる。このように、互いに結合していない繊維の集合体からなる吸収体の特性である、形状自由度が大きい状態の吸収体をケース部材に収納することで、繊維間の弾性反発力を内包した不定形状を利用して供給口付近やタンクの細かな形状に吸収体をフィットさせる。さらに、結合層によってケース内に充填された吸収体の形状を良好に維持し、信頼性の高い液体収納容器を作成することができる。
【0022】
(実施例2)
上述の実施例では、単芯繊維のものをあげたが、本実施例におていは、特開2000−30174に開示されるように、繊維の断面が中心部22と外周部23を有する芯鞘構造の例を示す(図9)。
芯鞘構造の繊維を溶融させると、融点が低い外周部23の材質が溶融して繊維同士が結合し、融点が高い中心部22は溶融させずに吸収体の骨格部材となる。本実施例においては、外周部23の材質がポリエチレンで中心部22の材質がポリプロピレンである。設定する加熱温度は、外周部23の材料の融点に5〜20℃を加えた温度にすれば良く、約140℃とし、加熱時間は約1秒、押し込み量は約1mmとした。繊維の材料以外は実施例1と同様である為説明は省略する。
【0023】
(実施例3)
実施例3においては、図5及び図6(a)に示すように、ケース部材12の開口部を形成する4つの壁面に対応する4方向から矯正ガイド11をあてがい、溢れた繊維をケース部材の開口面寸法内に集める方式を利用した。補正ガイド以外の製法は、実施例1、2と同様である為、説明は省略する。この方式は、ケース部から溢れる繊維の量が多い場合に特に有効である。補正ガイド11は上述したように4部材を4方向から押し当てた形態でも良いし、L字形状の部材を2つ組み合わせたものでも良い。
【0024】
(実施例4)
実施例4では、図7に示すように繊維吸収体の結合層をケース部材の内壁に固着させる。他の実施例と同様の部分は説明を省略する。加熱部材101を、実施例1より長く吸収体に当接することで、吸収体の表層および表層近傍の繊維を溶融させて、結合層となる溶融領域を増やす(図7(d))。
【0025】
本実施例においては、加熱部材の表面温度は220℃、0.5mmの厚さの結合層を作成するために、加熱部材101による加熱時間は5秒、加熱部材101の押し込み量は5mmとした。これにより、溶融した繊維がケース部材4の内壁に当接する(図7(e))。
【0026】
次に、溶融領域を冷却することで、ケース部材12の内壁と結合層131とを固定(癒着)させる(図7(f))。
【0027】
本実施例においては、繊維吸収体の表層がケース部材の側面に固定(癒着・係合)される為、その後の蓋部材の接着工程や搬送時においても吸収体が移動しにくい。さらに、落下などの衝撃を受けた場合においても、液体供給口と吸収体との当接状態を保持することが可能となる。
【0028】
本実施例においては、結合層と内壁との固定力や、液体保持力・保存性などを満足する前提で、繊維に用いる熱可塑性樹脂材料とケース部材材料の組み合わせは考慮する。ケース部材と吸収体の繊維の材料は、双溶性を考慮すると、類似の材料であることが好ましい。例えば、吸収体がオレフィン系樹脂であるときは、ケース部材もオレフィン系樹脂を選択する。加熱温度や加熱時間は、樹脂材料が十分に液状化してケース部材壁面との十分な癒着が可能となること、加えて生産性を満足するタクトを実現できることを考慮する。
【0029】
繊維吸収体表層の吸収体溶融部である結合層131の厚さは、吸収体に求める機能や性能を満足し、繊維吸収体をケース部材内壁に固定することが可能であればよい。本実施例では、実施例1における厚さの5倍である0.5mmとした。
【0030】
(実施例5)
実施例5では、図8に示すようにケース部材12の内壁に溝(切り欠き部)を設けて、溶融させた樹脂繊維を溝に流動させた後に冷却固化させることで、吸収体の溶着部(結合層)がケース部材に対して固定(癒着・係合)される例を示す。上述の実施例と同様の部分の説明は省略する。
【0031】
まず、加熱部材101により、繊維吸収体13の表面が溶融する(図8(a))。溶融が進むにつれ、ケース部材の上部に設けられた溝18の内部に、溶融した繊維が及ぶ(図8(b))。その後、溶融領域を冷却固化させて、結合層となり、結合層は、ケース部材の内壁に固定される(図8(c、d))。
【0032】
液体に対する接液保存性などを満足させ、かつ、繊維とケース部材の組み合わせや、加熱温度や時間を選択する必要がある。吸収体溶融部をケース部材内壁切り欠き部の中に流動させて固定するのに必要とする溶融体積、樹脂の流動特性、冷却固化した後の係合状態となる部分の強度、ケース部材の溝部の強度タクトなどの調整も必要である。
【0033】
本実施例においては、吸収体の融点と加熱部材の設定温度よりも、ケース部材の融点は高いものを選択する。加熱部材の温度は220℃とし、1mmの厚さの結合層を作成するために、加熱部材101による加熱時間は5秒とした。
【0034】
上述の実施例4においてはケース部材と吸収体部材が類似の材料であり、溶融温度も近いため、ケースが変形しない温度条件の選択性を考慮する必要がある。一方、本実施例はケース部材の溶融温度が、吸収体の溶融温度やヒートツール温度よりも高いため、ヒートツール温度や加熱時間などの加工条件のマージンが大きいという利点がある。
【0035】
また、ケース部材の内壁に設ける溝(切り欠き部)の変形例として、シボなどの粗し面を設けることで、樹脂繊維が当接固化した領域の癒着力を向上させても良い。
【0036】
上述の各実施例においては、加熱部材の加熱方式は内部に熱源を有するコンスタントヒーター方式について記載をしたが、電流を流したときのみ加熱部材が発熱する方式でも良い。加熱面温度の冷却応答性がコンスタントヒーター方式よりも優れている為、繊維が固化して加熱部材が退避できるまでの時間を短くすることができ、生産性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0037】
12 ケース部材
13 互いに結合していない繊維の集合体
14 蓋
16 供給口
131 結合層
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する液体吐出装置に搭載される液体収納容器およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体収納容器に充填され、インク等の液体を吸収保持する吸収部材には、多孔質材料が広く用いられている。スポンジやウレタンに代表される多孔質材料は、目的のサイズに切出して利用すれば良く、製造工程において取り扱いやすい。
【0003】
一方、互いに結合していない綿状の繊維の集合体は、製造工程における切出し作業が不要な為、切れ端が生じ難く無駄が少ない。さらに、形状の自由度が大きく、吸収部材としてのリサイクル性も高い。しかし、互いに結合していない繊維の集合体は、多孔質材料と比較すると形状保持性が非常に低く、ある形を保持させようとしても膨らんでしまい取り扱いにくい。そこで、所望の形にした繊維の表面を溶着して固めることで形状保持性を高め、この状態の繊維を液体収納容器へ挿入する製法が従来技術としてあげられる(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−301740号公報
【特許文献2】特開平7−47688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1、2に開示の製造方法では、複雑なケース形状にあわせて綿状の繊維の全面を精密に固めることは難しく、製造工程が複雑になる。さらに、形状保持性を高めた状態の繊維を挿入する手法では、従来の切出した多孔質材料を挿入する吸収体の製造工程と変わりは無く、形状自由度が高い繊維の特性を生かしきれていない。
【0006】
そこで、本発明は、互いに結合していない繊維の集合体からなる吸収体の形状自由度を生かしつつ、少ない作業工程にて、ケース内に充填された吸収体の形状を良好に維持することで、信頼性の高い液体収納容器を作成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の液体収納容器は、互いに結合していない繊維の集合体からなる吸収体と、前記吸収体を挿入する開口部を有し前記吸収体を格納するケース部材と、前記ケース部材の前記開口部に接合される蓋部材と、前記蓋部材が接合される面とは異なる位置に設けられ、液体を外部に供給する供給口と、を有し、前記蓋部材に対向する前記吸収体の表面には、前記繊維が互いに結合してなる結合層を有することを特徴とする。
【0008】
さらに、上述の液体収納容器の製造方法は、液体を外部に供給する供給口が設けられる面とは異なる面に設けられた開口部を有するケース部材に、互いに結合していない繊維の集合体からなる吸収体を前記開口部から挿入する工程と、前記開口部に面する前記吸収体の表面に、前記繊維が互いに結合してなる結合層を形成する工程と、前記吸収体に液体を注入する工程と、前記開口部に蓋部材を接合する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、互いに結合していない繊維の集合体からなる吸収体の形状自由度を生かしつつ、少ない作業工程にて、ケース内に充填された吸収体の形状を良好に維持することで、信頼性の高い液体収納容器を作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施例の液体収納容器の模式断面図
【図2】吸収体がケース部材から溢れている模式図
【図3】実施例1における液体収納容器の製造工程を説明する概略図
【図4】実施例1における液体収納容器の製造工程を説明する概略図
【図5】実施例3における液体収納容器の製造工程を説明する概略図
【図6】実施例3における液体収納容器の製造工程を説明する概略図
【図7】実施例4における液体収納容器の製造工程を説明する概略図
【図8】実施例5における液体収納容器の製造工程を説明する概略図
【図9】実施例2における吸収体の繊維の断面図を示す概略図
【図10】本実施形態の液体収納容器の外観図
【図11】本実施形態の液体収納容器の構成図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の液体収納容器内に格納される吸収体は「互いに結合していない繊維の集合体」である。以後単に「繊維」、「繊維吸収体」と記載する。
【0012】
(1.液体収納容器の構造)
図10(a)は、液体を吐出する液体吐出ヘッドが組み込まれた本実施形態の液体収納容器を液体吐出ヘッド側から見た外観図である。図10(b)は、本実施形態の液体収納容器を、蓋部材側から見た概観図である。図10においては、液体収納容器と液体吐出ヘッドが一体となった形態を示したが、液体収納容器と液体吐出ヘッドとが別構成であっても良い。図11は、図10の液体収納容器を分解した図である。開口部を有するケース部材12に繊維の吸収体13が挿入されている。吸収体の毛細管力によってインクなどの液体が吸収体に保持される。大気と連通する大気連通口15が設けられた蓋部材14はケース部材12に接合され、大気連通口にはラベル17が貼られる。供給口は液体収納容器を液体吐出装置に装着した状態における底面に配置され、繊維吸収体を挿入し蓋部材が接合される開口部は上面に配置される。
【0013】
上述の液体収納容器の製造過程において、綿状の形状保持性が低い繊維を液体収納容器のケース部材の開口部から充填した際に、図2に示すように、繊維が膨らみ開口部から溢れてしまう。液体収納容器としての信頼性を確保する為には、単にケース部材から溢れないように繊維を押さえ込んで蓋をすればよいわけではない。繊維が蓋部材とケース部材との間に挟まった場合、接着不良となる恐れがある。さらに、繊維が蓋部材の大気連通口から出てしまうと、内部の液体が繊維を伝って外部に漏れる恐れがあることがわかった。
【0014】
そこで、本実施例においては、形状自由度の高い繊維の特性を生かした状態で液体収納容器のケース内に繊維を充填し、蓋部材に対向する面においては、繊維が互いに結合してなる結合層を設ける事を最たる特徴とする。図1に示すように、互いに結合していない繊維の集合体からなる吸収体13と、それを格納するケース部材12と、ケース部材12の開口部に接合される蓋部材14と、蓋部材14が接合される面とは異なる位置に設けられ液体を外部に供給する供給口16とを有する。蓋部材14に対向する吸収体の表面には繊維が互いに結合してなる結合層131が形成される。結合層131を設ける事で、蓋部材に対向する吸収体の繊維は毛羽立たない状態になる。更に、ケース内に充填された吸収体の膨張も抑制され、吸収体がケースに充填された状態を良好に維持することができ、信頼性の高い液体収納容器を得ることができる。
【0015】
(結合層の説明)
結合層とは、吸収体を形成する互いに結合していない繊維の一部を結合させた層を示す。結合層の形成方法としては、熱溶融があげられる。結合層の面積は、ケース部材に対する蓋部材の溶着を行う製造工程において、該吸収体がケース部材の蓋部材溶着面にはみ出ること無く、安定した蓋部材の溶着が出来ればよい。結合層の厚さは、蓋部材のリブ(吸収体を抑える役目)に必要以上に反発することなく、安定した蓋部材の溶着が可能であればよい。個々の樹脂材料の特性によって厚さは異なるが、オレフィン系樹脂の吸収体に形成される結合層の厚さは0.1〜0.3mmが好ましい。
【0016】
(吸収体の繊維)
結合層を熱溶着で作成する場合、ケース部材の融点より吸収体の繊維の融点は十分に低いものがよい。つまり、溶融した繊維や加熱手段による輻射熱などによって変形しないケース部材が良い。繊維吸収体の材料は熱可塑性樹脂で、液体の保持力・保存性などを満足するものとして、オレフィン系の樹脂/ポリプロピレン等があげられる。
【0017】
(実施例1)
図3、図4を用いて、実施例1における液体収納容器の製造方法の説明を行う。
本実施例では、吸収体に用いる繊維として、直径が約30ミクロンのポリプロピレンの単芯繊維を使用した。繊維のカット長は一般的な短繊維の範囲(10〜50mm程度)のものを使用する。このように、不定形で繊維間に弾性反発力がある繊維をケース部材に格納すると、図3に示すように繊維がケース部材12の開口面から外部に溢れ、その一部はケース部材12の蓋部材溶着面を覆ってしまう。
【0018】
そこで、溢れ出た繊維吸収体21をケース部材の開口面寸法内に矯正する筒状の矯正ガイド111を用いる。矯正ガイドの表面は、ケース部材内から退避するとき、繊維を外部に引っ張り出さないように、摩擦抵抗が低い材質あるいは表面処理がなされている事が好ましい。(図4(a))。
【0019】
矯正ガイド111をケース部材の開口部からケース部材の内壁に沿って挿入する。これにより、ケース部材から溢れていた繊維吸収体13が、ケース部材の開口面寸法内に押し込まれる(図4(b))。ここで、インクを注入するインク注入針を繊維吸収体に挿入しインクを充填する。インク充填後、インク注入針を退避させる。
【0020】
次に、補正ガイド111の筒内に、熱源を内蔵し一定温度を維持する加熱部材101を配置する。溶融した繊維の癒着を低減させる為に、加熱部材101の加熱面は表面処理を行うか、イジェクター等の機構を設けたものが好ましい。矯正ガイド111がケース部材4に挿入された状態で、加熱部材101が下降し、繊維吸収体を所定量押圧しながら、所定時間繊維吸収体の表層を加熱し、溶融させる。加熱部材を冷却する時間を短くするために、加熱部材101の加熱面の温度は、ポリプロピレンの融点に約5〜20℃を加えた温度(約170℃)とした。結合層の厚さを約0.1mmとする為に、加熱部材101による加熱時間は1秒、加熱部材101の押し込み量は、約1mmとした。(図4(c))
続いて、加熱部材101の加熱を停止し、繊維吸収体が冷えることで、溶融していた繊維が互いに溶着する。これにより吸収体の表面に溶融部である結合層131が形成さされる。この後、加熱部材101と、補正ガイド111は上昇し、ケース部材から外される(図4(d、e))。
【0021】
この後、超音波溶着や振動溶着などの一般的な摩擦溶着手法を用いて、蓋部材をケース部材に接着させる。このように、互いに結合していない繊維の集合体からなる吸収体の特性である、形状自由度が大きい状態の吸収体をケース部材に収納することで、繊維間の弾性反発力を内包した不定形状を利用して供給口付近やタンクの細かな形状に吸収体をフィットさせる。さらに、結合層によってケース内に充填された吸収体の形状を良好に維持し、信頼性の高い液体収納容器を作成することができる。
【0022】
(実施例2)
上述の実施例では、単芯繊維のものをあげたが、本実施例におていは、特開2000−30174に開示されるように、繊維の断面が中心部22と外周部23を有する芯鞘構造の例を示す(図9)。
芯鞘構造の繊維を溶融させると、融点が低い外周部23の材質が溶融して繊維同士が結合し、融点が高い中心部22は溶融させずに吸収体の骨格部材となる。本実施例においては、外周部23の材質がポリエチレンで中心部22の材質がポリプロピレンである。設定する加熱温度は、外周部23の材料の融点に5〜20℃を加えた温度にすれば良く、約140℃とし、加熱時間は約1秒、押し込み量は約1mmとした。繊維の材料以外は実施例1と同様である為説明は省略する。
【0023】
(実施例3)
実施例3においては、図5及び図6(a)に示すように、ケース部材12の開口部を形成する4つの壁面に対応する4方向から矯正ガイド11をあてがい、溢れた繊維をケース部材の開口面寸法内に集める方式を利用した。補正ガイド以外の製法は、実施例1、2と同様である為、説明は省略する。この方式は、ケース部から溢れる繊維の量が多い場合に特に有効である。補正ガイド11は上述したように4部材を4方向から押し当てた形態でも良いし、L字形状の部材を2つ組み合わせたものでも良い。
【0024】
(実施例4)
実施例4では、図7に示すように繊維吸収体の結合層をケース部材の内壁に固着させる。他の実施例と同様の部分は説明を省略する。加熱部材101を、実施例1より長く吸収体に当接することで、吸収体の表層および表層近傍の繊維を溶融させて、結合層となる溶融領域を増やす(図7(d))。
【0025】
本実施例においては、加熱部材の表面温度は220℃、0.5mmの厚さの結合層を作成するために、加熱部材101による加熱時間は5秒、加熱部材101の押し込み量は5mmとした。これにより、溶融した繊維がケース部材4の内壁に当接する(図7(e))。
【0026】
次に、溶融領域を冷却することで、ケース部材12の内壁と結合層131とを固定(癒着)させる(図7(f))。
【0027】
本実施例においては、繊維吸収体の表層がケース部材の側面に固定(癒着・係合)される為、その後の蓋部材の接着工程や搬送時においても吸収体が移動しにくい。さらに、落下などの衝撃を受けた場合においても、液体供給口と吸収体との当接状態を保持することが可能となる。
【0028】
本実施例においては、結合層と内壁との固定力や、液体保持力・保存性などを満足する前提で、繊維に用いる熱可塑性樹脂材料とケース部材材料の組み合わせは考慮する。ケース部材と吸収体の繊維の材料は、双溶性を考慮すると、類似の材料であることが好ましい。例えば、吸収体がオレフィン系樹脂であるときは、ケース部材もオレフィン系樹脂を選択する。加熱温度や加熱時間は、樹脂材料が十分に液状化してケース部材壁面との十分な癒着が可能となること、加えて生産性を満足するタクトを実現できることを考慮する。
【0029】
繊維吸収体表層の吸収体溶融部である結合層131の厚さは、吸収体に求める機能や性能を満足し、繊維吸収体をケース部材内壁に固定することが可能であればよい。本実施例では、実施例1における厚さの5倍である0.5mmとした。
【0030】
(実施例5)
実施例5では、図8に示すようにケース部材12の内壁に溝(切り欠き部)を設けて、溶融させた樹脂繊維を溝に流動させた後に冷却固化させることで、吸収体の溶着部(結合層)がケース部材に対して固定(癒着・係合)される例を示す。上述の実施例と同様の部分の説明は省略する。
【0031】
まず、加熱部材101により、繊維吸収体13の表面が溶融する(図8(a))。溶融が進むにつれ、ケース部材の上部に設けられた溝18の内部に、溶融した繊維が及ぶ(図8(b))。その後、溶融領域を冷却固化させて、結合層となり、結合層は、ケース部材の内壁に固定される(図8(c、d))。
【0032】
液体に対する接液保存性などを満足させ、かつ、繊維とケース部材の組み合わせや、加熱温度や時間を選択する必要がある。吸収体溶融部をケース部材内壁切り欠き部の中に流動させて固定するのに必要とする溶融体積、樹脂の流動特性、冷却固化した後の係合状態となる部分の強度、ケース部材の溝部の強度タクトなどの調整も必要である。
【0033】
本実施例においては、吸収体の融点と加熱部材の設定温度よりも、ケース部材の融点は高いものを選択する。加熱部材の温度は220℃とし、1mmの厚さの結合層を作成するために、加熱部材101による加熱時間は5秒とした。
【0034】
上述の実施例4においてはケース部材と吸収体部材が類似の材料であり、溶融温度も近いため、ケースが変形しない温度条件の選択性を考慮する必要がある。一方、本実施例はケース部材の溶融温度が、吸収体の溶融温度やヒートツール温度よりも高いため、ヒートツール温度や加熱時間などの加工条件のマージンが大きいという利点がある。
【0035】
また、ケース部材の内壁に設ける溝(切り欠き部)の変形例として、シボなどの粗し面を設けることで、樹脂繊維が当接固化した領域の癒着力を向上させても良い。
【0036】
上述の各実施例においては、加熱部材の加熱方式は内部に熱源を有するコンスタントヒーター方式について記載をしたが、電流を流したときのみ加熱部材が発熱する方式でも良い。加熱面温度の冷却応答性がコンスタントヒーター方式よりも優れている為、繊維が固化して加熱部材が退避できるまでの時間を短くすることができ、生産性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0037】
12 ケース部材
13 互いに結合していない繊維の集合体
14 蓋
16 供給口
131 結合層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに結合していない繊維の集合体からなる吸収体と、
前記吸収体を挿入する開口部を有し前記吸収体を格納するケース部材と、
前記ケース部材の前記開口部に接合される蓋部材と、
前記蓋部材が接合される面とは異なる位置に設けられ、液体を外部に供給する供給口と、を有し、
前記蓋部材に対向する前記吸収体の表面には、前記繊維が互いに結合してなる結合層を有することを特徴とする液体収納容器。
【請求項2】
前記結合層は、前記ケース部材の内壁に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の液体収納容器。
【請求項3】
前記吸収体の繊維の断面は、中心部を構成する材料と、外周部を構成する材料と、を有し、
前記中心部の材料の融点は、前記外周部の材料の融点より高いことを特徴とする請求項1または2に記載の液体収納容器。
【請求項4】
液体を外部に供給する供給口が設けられる面とは異なる面に設けられた開口部を有するケース部材に、互いに結合していない繊維の集合体からなる吸収体を前記開口部から挿入する工程と、
前記開口部に面する前記吸収体の表面に、前記繊維が互いに結合してなる結合層を形成する工程と、
前記吸収体に液体を注入する工程と、
前記開口部に蓋部材を接合する工程と、を有することを特徴とする液体収納容器の製造方法。
【請求項5】
前記結合層を形成する工程は、前記繊維の表面を熱溶融させることを特徴とする請求項4に記載の液体収納容器の製造方法。
【請求項1】
互いに結合していない繊維の集合体からなる吸収体と、
前記吸収体を挿入する開口部を有し前記吸収体を格納するケース部材と、
前記ケース部材の前記開口部に接合される蓋部材と、
前記蓋部材が接合される面とは異なる位置に設けられ、液体を外部に供給する供給口と、を有し、
前記蓋部材に対向する前記吸収体の表面には、前記繊維が互いに結合してなる結合層を有することを特徴とする液体収納容器。
【請求項2】
前記結合層は、前記ケース部材の内壁に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の液体収納容器。
【請求項3】
前記吸収体の繊維の断面は、中心部を構成する材料と、外周部を構成する材料と、を有し、
前記中心部の材料の融点は、前記外周部の材料の融点より高いことを特徴とする請求項1または2に記載の液体収納容器。
【請求項4】
液体を外部に供給する供給口が設けられる面とは異なる面に設けられた開口部を有するケース部材に、互いに結合していない繊維の集合体からなる吸収体を前記開口部から挿入する工程と、
前記開口部に面する前記吸収体の表面に、前記繊維が互いに結合してなる結合層を形成する工程と、
前記吸収体に液体を注入する工程と、
前記開口部に蓋部材を接合する工程と、を有することを特徴とする液体収納容器の製造方法。
【請求項5】
前記結合層を形成する工程は、前記繊維の表面を熱溶融させることを特徴とする請求項4に記載の液体収納容器の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−230809(P2011−230809A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104301(P2010−104301)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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