説明

液晶配向剤、液晶配向膜、液晶表示素子、液晶表示素子の製造方法及びポリオルガノシロキサン

【課題】良好な電気特性を示すとともに、基板からの剥離性が良好な液晶配向膜を与えることができる液晶配向剤を提供する。
【解決手段】カルボキシル基、ヒドロキシアルキル基、−NHR(但し、Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基である。)及びメルカプト基よりなる群から選ばれる少なくとも一つの特定基を有するポリオルガノシロキサンである特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)を液晶配向剤中に含有させる。液晶配向剤中には、ポリオルガノシロキサンとして特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)のみを含有していてもよいし、その他のオルガノシロキサン(S2)を更に含有していてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向膜、液晶表示素子、液晶表示素子の製造方法、及び液晶配向剤に好適に用いることができる新規なポリオルガノシロキサンに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子としては、従来、TNモードやIPSモード、FFSモードなどの水平配向型や、VAモードなどの垂直配向型のものが知られている。これら液晶表示素子は、液晶分子を配向させるための液晶配向膜を有する。また、液晶配向膜を構成する材料としては、従来、ポリアミック酸、ポリイミド、ポリエステル、ポリオルガノシロキサンなどが知られている。例えば、特許文献1には、3官能及び4官能の加水分解性シラン化合物の混合物を蓚酸及びアルコールの存在下で反応させて得られたポリオルガノシロキサンを含有する液晶配向剤が開示されている。
【0003】
また近年、プレチルト角特性を発現させるための新たな技術として、光により重合する重合性成分を液晶に混入しておき、液晶に電圧を印加して液晶分子を傾斜配向させた状態にするとともに、その傾斜した状態で光照射することにより重合性成分を重合して液晶の分子配向を制御するPSA(Polymer Sustained Alignment)技術や、シンナモイル基などといった光官能性基を有する高分子薄膜に対し、偏光又は非偏光の放射線を照射することにより膜に異方性を与える光配向技術などが提案されている(例えば、特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−281502号公報
【特許文献2】特開2003−149647号公報
【特許文献3】特開2009−36966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、液晶配向膜の製造工程では、液晶配向剤を用いて基板上に形成された塗膜においてピンホールや塗膜ムラ等の欠陥が生じることがある。この場合、基板から塗膜を剥離して基板を再利用することがあるが、このようなリワークにおいては、基板に対する塗膜の剥離性が良好であることが求められる。また、液晶配向膜を良好なものとするには、塗膜の剥離性を向上させるとともに、例えば電圧保持率や電圧変化に対する応答性といった電気特性についても良好にすることが求められている。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、良好な電気特性を示すとともに、基板からの剥離性が良好な液晶配向膜を与えることができる液晶配向剤、該液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜及び液晶表示素子、液晶表示素子の製造方法、並びに、液晶配向剤に含有させるのに好適な新規なポリオルガノシロキサンを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するべく以下の手段を採用した。
【0008】
本発明の液晶配向剤は、カルボキシル基、ヒドロキシアルキル基、−NHR(但し、Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基である。)及びメルカプト基よりなる群から選ばれる少なくとも一つの特定基を有する特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明の液晶配向剤は、上記の特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)を含むことにより、基板上に塗布した塗膜に欠陥が生じた場合のリワークにおいて、基板から容易に剥離することができる液晶配向膜を形成することができる。また、電圧保持率や電圧変化に対する応答速度等といった電気特性についても良好な液晶配向膜を形成することができる。
【0010】
また、PSA技術や光配向技術により液晶表示素子を形成する場合、液晶配向剤を用いて基板上に形成した塗膜に対して、例えば紫外線などの放射線を照射する工程を含んでいる。そのため、照射した放射線によって、形成された液晶配向膜の電気特性が低下するなどの不都合が生じるおそれがある。特に、PSA技術では、重合性成分の重合のために例えば10,000J/m以上の多量の放射線の照射を行うことがあり、放射線照射による電気特性の低下が生じやすい。その点、本発明の液晶配向剤によれば、このような多量の放射線照射にも耐え得る(放射線耐性に優れた)液晶配向膜を得ることができる。
【0011】
上記特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)としては、上記特定基を、該特定基含有ポリオルガノシロキサンの固形分重量あたり7×10−6〜4×10−4[モル/g]含有するものが好ましい。このような特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)を含有することにより、液晶配向性及び電圧変化に対する応答性を良好なものとしつつ、リワークにおいて基板からの剥離が容易な液晶配向膜を形成することができる。
【0012】
また、上記特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)としては、下記式(S1−1)〜式(S1−4)のいずれかで表される構造を有するものが好ましい。
【化1】

(式(S1−1)〜式(S1−4)中、Zは、単結合、炭素数1〜6のアルカンジイル基、又は−O−、−S−、−COO−、−OCO−若しくは−NR−(但し、Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基である。)よりなる群から選ばれる少なくとも一種を含む炭素数1〜20の2価の有機基である。「*」は、珪素原子との結合手であることを示す。)
【0013】
上記特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)としては、中でも、上記式(S1−4)で表される構造として、下記式(S1−4a)又は式(S1―4b)で表される構造を有するものが好ましく、上記式(S1−1)〜式(S1−3)のいずれかで表される構造として、下記式(S1−1a)〜式(S1−3a)で表される構造を有するものが好ましい。
【化2】

(式(S1−4a)及び式(S1―4b)中、R及びRは、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルカンジイル基であり、Rは、水素原子又は炭素数1〜3のアルカンジイル基であり、Rは、炭素数2〜6のアルカンジイル基である。Zは、硫黄原子又は−NR−(但し、Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基である。)である。「*」は、珪素原子との結合手であることを示す。)
【化3】

(式(S1−1a)〜式(S1−3a)中、Rは、単結合又は炭素数1〜6のアルカンジイル基である。Rは、炭素数1〜3のアルカンジイル基であり、Rは、単結合又は炭素数1〜6のアルカンジイル基であり、Yは、単結合又は酸素原子である。但し、Rが単結合の場合、Yは単結合である。「*」は、珪素原子との結合手であることを示す。)
【0014】
また、本発明における液晶配向剤は、更に、上記特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)以外のその他のポリオルガノシロキサン(S2)を含むものとしてもよい。このようなポリオルガノシロキサンを更に含むことにより、液晶配向剤に含まれるポリオルガノシロキサンの全体に対する上記特定基の含有量の調整や、上記特定基に由来する機能以外の他の機能の付与を比較的容易に行うことができる。
【0015】
本発明における液晶配向剤は、上記その他のポリオルガノシロキサン(S2)として、エポキシ基含有ポリオルガノシロキサン(S2a)を含むことが好ましい。エポキシ基を有するポリオルガノシロキサン(S2a)を含有することにより、形成された液晶配向膜の電気特性、例えば電圧変化に対する応答速度を更に向上させることができる。
【0016】
上記エポキシ基含有ポリオルガノシロキサン(S2a)としては、下記式(X2−1)又は式(X2−2)で表される基を有するものが好ましい。
【化4】

(式(X2−1)中、Aは、酸素原子又は単結合であり、hは、1〜3の整数であり、iは、0〜6の整数である。但し、iが0の場合、Aは単結合である。式(X2−2)中、jは、1〜6の整数である。「*」は珪素原子との結合手であることを示す。)
【0017】
本発明の液晶表示素子は、上記液晶配向剤により形成された液晶配向膜を具備する。したがって、リワークの際に基板から液晶配向膜を容易に剥離できるとともに、電気特性が良好な液晶表示素子とすることができる。
【0018】
本発明の液晶表示素子の製造方法は、導電膜を有する一対の基板の該導電膜上にそれぞれ、上記液晶配向剤を塗布して塗膜を形成し、前記塗膜を形成した一対の基板の前記塗膜が、液晶層を介して相対して対向配置した構成の液晶セルを形成し、前記一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で前記液晶セルに光照射する工程を経ることを特徴とする。
【0019】
本発明の液晶配向剤より形成された液晶配向膜は放射線耐性に優れている。したがって、本発明の方法によって製造された液晶表示素子は、光照射する工程を経た後であっても良好な電気特性を示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】スリット状にパターニングされた透明電極のパターンを示す平面図。
【図2】フィッシュボーン状にパターニングされた透明電極のパターンを示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
《液晶配向剤》
本発明の液晶配向剤は、重合体成分としてポリオルガノシロキサンを含有し、特に、カルボキシル基、ヒドロキシアルキル基、−NHR(但し、Rは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基)及びメルカプト基よりなる群から選ばれる少なくとも一つの特定基を有するポリオルガノシロキサン(特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1))を含んでいる。また、本発明の液晶配向剤に含まれるポリオルガノシロキサンは、上記の特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)の他に、必要に応じて、特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)以外のその他のポリオルガノシロキサン(S2)を含んでいてもよい。以下、本発明の液晶配向剤に含有されるポリオルガノシロキサンについて詳しく説明する。
【0022】
<特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)>
本発明における特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)としては、ポリオルガノシロキサン骨格の側鎖に、カルボキシル基、ヒドロキシアルキル基、−NHR(但し、Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基)及びメルカプト基よりなる群から選ばれる少なくとも一つの特定基が導入されていればよく、その構造は特に限定しない。上記特定基としては、中でもカルボキシル基又はヒドロキシアルキル基が好ましい。
【0023】
特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)中における上記特定基の含有量は、液晶配向性及び電圧変化に対する応答性を良好なものとしつつ、リワークにおける塗膜の剥離性を良好にする観点から、特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)の固形分重量あたり7×10−6〜4×10−4[モル/g]であるのが好ましい。より好ましくは、1×10−5〜3.5×10−4[モル/g]であり、更に好ましくは、3×10−5〜2.5×10−4[モル/g]である。
【0024】
特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)として具体的には、下記式(S1−1)〜式(S1−4)のいずれかで表される構造を側鎖に有することにより、上記特定基を有するものとすることができる。
【化5】

(式(S1−1)〜式(S1−4)中、Zは、単結合、炭素数1〜6のアルカンジイル基、又は−O−、−S−、−COO−、−OCO−若しくは−NR−(但し、Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基である。)よりなる群から選ばれる少なくとも一種を含む炭素数1〜20の2価の有機基である。「*」は、珪素原子との結合手であることを示す。)
【0025】
上記式(S1−1)〜式(S1−4)のZにおける炭素数1〜6のアルカンジイル基としては、直鎖状であっても分岐状であってもよく、例えばメチレン基、エチレン基、プロパン−1,2−ジイル基、プロパン−1,3−ジイル基、ブタン−1,3−ジイル基、ブタン−1,4−ジイル基、ペンタン−1,5−ジイル基、ヘキサン−1,6−ジイル基等が挙げられる。
における炭素数1〜20の2価の有機基としては、−O−、−S−、−COO−、−OCO−又は−NR−(Rは、炭素数1〜6のアルキル基)よりなる群から選ばれる少なくとも一種を1つ以上有していればよく、中でも炭素数1〜10のものが好ましい。また、上記2価の有機基としては、環状構造を含んでいてもよいが、鎖状構造のみを有しているものが好ましい。
【0026】
以下、特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)の詳細について、式(S1−1)〜式(S1−3)で表される構造を有する場合と、式(S1−4)で表される構造を有する場合とに分けて順次説明する。まずは、式(S1−4)で表される構造を有する場合について説明する。
[式(S1−4)で表される構造を有する場合]
上記(S1−4)で表される構造によって、ポリオルガノシロキサン骨格の側鎖に上記特定基が導入されている場合、その製造方法は特に限定されないが、例えば、
(1)(メタ)アクリル基を有するポリオルガノシロキサン(S3)に、メルカプト基又は−NHR(但し、Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。)を有するカルボン酸化合物(1−4A)をマイケル付加させる方法、
(2)メルカプト基又は−NHR(但し、Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。)を有するポリオルガノシロキサン(以下、メルカプト基又はアミノ基を有するポリオルガノシロキサン(S4)という。)に、(メタ)アクリル酸化合物(1−4B)をマイケル付加させる方法、
等によって製造することができる。以下、上記(1)の方法によって製造する場合、上記(2)の方法によって製造する場合に分けて順次説明する。
【0027】
{上記(1)の方法によって製造する場合}
・(メタ)アクリル基を有するポリオルガノシロキサン(S3)について
上記(1)の方法で用いる(メタ)アクリル基を有するポリオルガノシロキサン(S3)は、好ましくは(メタ)アクリル基を有するシラン化合物(sa)、又は(メタ)アクリル基を有するシラン化合物(sa)と他のシラン化合物との混合物を、好ましくは適当な有機溶媒、水及び触媒の存在下において、加水分解又は加水分解・縮合することにより合成することができる。
【0028】
上記(メタ)アクリル基を有するシラン化合物(sa)としては、例えば、珪素原子に結合する1価の基として下記式(sa−1)で表される基を有するものが好ましい。
【化6】

(式中、Rは、炭素数1〜6のアルカンジイル基であり、Rは、水素原子又は炭素数1〜3のアルカンジイル基である。「*」は、珪素原子との結合手であることを示す。)
【0029】
このような(メタ)アクリル基を有するシラン化合物(sa)としては、例えば、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランなどを挙げることができる。なお、(メタ)アクリル基を有するシラン化合物(sa)としては、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
上記他のシラン化合物としては、例えばテトラクロロシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、トリクロロシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリ−n−プロポキシシラン、トリ−i−プロポキシシラン、トリ−n−ブトキシシラン、トリ−sec−ブトキシシラン、フルオロトリクロロシラン、フルオロトリメトキシシラン、フルオロトリエトキシシラン、フルオロトリ−n−プロポキシシラン、フルオロトリ−i−プロポキシシラン、フルオロトリ−n−ブトキシシラン、フルオロトリ−sec−ブトキシシラン、メチルトリクロロシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリ−n−プロポキシシラン、メチルトリ−i−プロポキシシラン、メチルトリ−n−ブトキシシラン、メチルトリ−sec−ブトキシシラン、2−(トリフルオロメチル)エチルトリクロロシシラン、2−(トリフルオロメチル)エチルトリメトキシシラン、2−(トリフルオロメチル)エチルトリエトキシシラン、2−(トリフルオロメチル)エチルトリ−n−プロポキシシラン、2−(トリフルオロメチル)エチルトリ−i−プロポキシシラン、2−(トリフルオロメチル)エチルトリ−n−ブトキシシラン、2−(トリフルオロメチル)エチルトリ−sec−ブトキシシラン、2−(パーフルオロ−n−ヘキシル)エチルトリクロロシラン、2−(パーフルオロ−n−ヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(パーフルオロ−n−ヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2−(パーフルオロ−n−ヘキシル)エチルトリ−n−プロポキシシラン、2−(パーフルオロ−n−ヘキシル)エチルトリ−i−プロポキシシラン、2−(パーフルオロ−n−ヘキシル)エチルトリ−n−ブトキシシラン、2−(パーフルオロ−n−ヘキシル)エチルトリ−sec−ブトキシシラン、2−(パーフルオロ−n−オクチル)エチルトリクロロシラン、2−(パーフルオロ−n−オクチル)エチルトリメトキシシラン、2−(パーフルオロ−n−オクチル)エチルトリエトキシシラン、2−(パーフルオロ−n−オクチル)エチルトリ−n−プロポキシシラン、2−(パーフルオロ−n−オクチル)エチルトリ−i−プロポキシシラン、2−(パーフルオロ−n−オクチル)エチルトリ−n−ブトキシシラン、2−(パーフルオロ−n−オクチル)エチルトリ−sec−ブトキシシラン、
【0031】
ヒドロキシメチルトリクロロシラン、ヒドロキシメチルトリメトキシシラン、ヒドロキシエチルトリメトキシシラン、ヒドロキシメチルトリ−n−プロポキシシラン、ヒドロキシメチルトリ−i−プロポキシシラン、ヒドロキシメチルトリ−n−ブトキシシラン、ヒドロキシメチルトリ−sec−ブトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ−n−プロポキシシラン、ビニルトリ−i−プロポキシシラン、ビニルトリ−n−ブトキシシラン、ビニルトリ−sec−ブトキシシラン、アリルトリクロロシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルトリ−n−プロポキシシラン、アリルトリ−i−プロポキシシラン、アリルトリ−n−ブトキシシラン、アリルトリ−sec−ブトキシシラン、フェニルトリクロロシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリ−n−プロポキシシラン、フェニルトリ−i−プロポキシシラン、フェニルトリ−n−ブトキシシラン、フェニルトリ−sec−ブトキシシラン、メチルジクロロシラン、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、メチルジ−n−プロポキシシラン、メチルジ−i−プロポキシシラン、メチルジ−n−ブトキシシラン、メチルジ−sec−ブトキシシラン、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジ−n−プロポキシシラン、ジメチルジ−i−プロポキシシラン、ジメチルジ−n−ブトキシシラン、ジメチルジ−sec−ブトキシシラン、
【0032】
(メチル)〔2−(パーフルオロ−n−オクチル)エチル〕ジクロロシラン、(メチル)〔2−(パーフルオロ−n−オクチル)エチル〕ジメトキシシラン、(メチル)〔2−(パーフルオロ−n−オクチル)エチル〕ジエメトキシシラン、(メチル)〔2−(パーフルオロ−n−オクチル)エチル〕ジ−n−プロポキシシラン、(メチル)〔2−(パーフルオロ−n−オクチル)エチル〕ジ−i−プロポキシシラン、(メチル)〔2−(パーフルオロ−n−オクチル)エチル〕ジ−n−ブトキシシラン、(メチル)〔2−(パーフルオロ−n−オクチル)エチル〕ジ−sec−ブトキシシラン、(メチル)(3−メルカプトプロピル)ジクロロシラン、(メチル)(3−メルカプトプロピル)ジメトキシシラン、(メチル)(3−メルカプトプロピル)ジエトキシシラン、(メチル)(3−メルカプトプロピル)ジ−n−プロポキシシラン、(メチル)(3−メルカプトプロピル)ジ−i−プロポキシシラン、(メチル)(3−メルカプトプロピル)ジ−n−ブトキシシラン、(メチル)(3−メルカプトプロピル)ジ−sec−ブトキシシラン、(メチル)(ビニル)ジクロロシラン、(メチル)(ビニル)ジメトキシシラン、(メチル)(ビニル)ジエトキシシラン、(メチル)(ビニル)ジ−n−プロポキシシラン、(メチル)(ビニル)ジ−i−プロポキシシラン、(メチル)(ビニル)ジ−n−ブトキシシラン、(メチル)(ビニル)ジ−sec−ブトキシシラン、ジビニルジクロロシラン、ジビニルジメトキシシラン、ジビニルジエトキシシラン、ジビニルジ−n−プロポキシシラン、ジビニルジ−i−プロポキシシラン、ジビニルジ−n−ブトキシシラン、ジビニルジ−sec−ブトキシシラン、ジフェニルジクロロシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジ−n−プロポキシシラン、ジフェニルジ−i−プロポキシシラン、ジフェニルジ−n−ブトキシシラン、ジフェニルジ−sec−ブトキシシラン、クロロジメチルシラン、メトキシジメチルシラン、エトキシジメチルシラン、クロロトリメチルシラン、ブロモトリメチルシラン、ヨードトリメチルシラン、メトキシトリメチルシラン、エトキシトリメチルシラン、n−プロポキシトリメチルシラン、i−プロポキシトリメチルシラン、n−ブトキシトリメチルシラン、sec−ブトキシトリメチルシラン、t−ブトキシトリメチルシラン、(クロロ)(ビニル)ジメチルシラン、(メトキシ)(ビニル)ジメチルシラン、(エトキシ)(ビニル)ジメチルシラン、(クロロ)(メチル)ジフェニルシラン、(メトキシ)(メチル)ジフェニルシラン、(エトキシ)(メチル)ジフェニルシラン、
【0033】
3−グリシジロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルジメチルメトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルジメチルエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシランなどの珪素原子を1個有するシラン化合物のほか、
【0034】
商品名で、例えばKC−89、KC−89S、X−21−3153、X−21−5841、X−21−5842、X−21−5843、X−21−5844、X−21−5845、X−21−5846、X−21−5847、X−21−5848、X−22−160AS、X−22−170B、X−22−170BX、X−22−170D、X−22−170DX、X−22−176B、X−22−176D、X−22−176DX、X−22−176F、X−40−2308、X−40−2651、X−40−2655A、X−40−2671、X−40−2672、X−40−9220、X−40−9225、X−40−9227、X−40−9246、X−40−9247、X−40−9250、X−40−9323、X−41−1053、X−41−1056、X−41−1805、X−41−1810、KF6001、KF6002、KF6003、KR212、KR−213、KR−217、KR220L、KR242A、KR271、KR282、KR300、KR311、KR401N、KR500、KR510、KR5206、KR5230、KR5235、KR9218、KR9706(以上、信越化学工業(株)製);
グラスレジン(昭和電工(株)製);SH804、SH805、SH806A、SH840、SR2400、SR2402、SR2405、SR2406、SR2410、SR2411、SR2416、SR2420(以上、東レ・ダウコーニング(株)製);FZ3711、FZ3722(以上、日本ユニカー(株)製);
DMS−S12、DMS−S15、DMS−S21、DMS−S27、DMS−S31、DMS−S32、DMS−S33、DMS−S35、DMS−S38、DMS−S42、DMS−S45、DMS−S51、DMS−227、PSD−0332、PDS−1615、PDS−9931、XMS−5025(以上、チッソ(株)製);
メチルシリケートMS51、メチルシリケートMS56(以上、三菱化学(株)製);
エチルシリケート28、エチルシリケート40、エチルシリケート48(以上、コルコート(株)製);GR100、GR650、GR908、GR950(以上、昭和電工(株)製)などの部分縮合物を挙げることができる。
【0035】
他のシラン化合物としては、これらの中でも、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルジメチルメトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルジメチルエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシランおよびジメチルジエトキシシランよりなる群から選択される一種以上が好ましい。
【0036】
(メタ)アクリル基を有するシラン化合物(sa)の使用割合は、他のシラン化合物に対して10mol%以上が好ましく、20mol%以上がより好ましく、40mol%以上が更に好ましい。
【0037】
(メタ)アクリル基を有するポリオルガノシロキサン(S3)を合成するにあたって使用することのできる有機溶媒としては、例えば炭化水素、ケトン、エステル、エーテル、アルコールなどを挙げることができる。
これらのうち、上記炭化水素としては、例えばトルエン、キシレンなどを;
上記ケトンとしては、例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルn−アミルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノンなどを;
上記エステルとしては、例えば酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸i−アミル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3−メトキシブチルアセテート、乳酸エチルなどを;
上記エーテルとしては、例えばエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどを;
上記アルコールとしては、例えば1−ヘキサノール、4−メチル−2−ペンタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテルなどを、それぞれ挙げることができる。これらのうち非水溶性の有機溶媒を用いることが好ましい。なお、これらの有機溶媒は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0038】
(メタ)アクリル基を有するポリオルガノシロキサン(S3)を合成する場合の有機溶媒の使用量は、全シラン化合物100重量部に対して、好ましくは10〜10,000重量部、より好ましくは50〜1,000重量部である。
(メタ)アクリル基を有するポリオルガノシロキサン(S3)を製造する際の水の使用量は、使用する全シラン化合物に対して、好ましくは0.5〜100倍モル、より好ましくは1〜30倍モルである。
【0039】
(メタ)アクリル基を有するポリオルガノシロキサン(S3)を合成する際に使用することができる触媒としては、例えば酸、アルカリ金属化合物、有機塩基、チタン化合物、ジルコニウム化合物などを挙げることができる。
上記酸としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸、蟻酸、蓚酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、リン酸、酸性イオン交換樹脂、各種ルイス酸などを挙げることができる。
上記アルカリ金属化合物としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシドなどを挙げることができる。
上記有機塩基としては、例えばエチルアミン、ジエチルアミン、ピペラジン、ピペリジン、ピロリジン、ピロールの如き1〜2級有機アミン;
トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、ジアザビシクロウンデセンの如き3級の有機アミン;
テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの如き4級の有機アミンなどを、それぞれ挙げることができる。これらの有機塩基のうち、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジンの如き3級の有機アミン;テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの如き4級の有機アミンが好ましい。
【0040】
上記触媒としては、これらの中でもアルカリ金属化合物又は有機塩基が好ましい。この場合、(メタ)アクリル基を有するポリオルガノシロキサン(S3)とカルボン酸化合物(1−4A)との反応により得られる上記特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)を含む液晶配向剤の保存安定性を極めて優れたものとすることができ好都合である。その理由は、非特許文献1(Chemical Reviews、95巻、p1409(1995年))に指摘されているように、加水分解、縮合反応において触媒としてアルカリ金属化合物または有機塩基を用いると、ランダム構造、はしご型構造またはかご型構造が形成され、シラノール基の含有割合が少ないポリオルガノシロキサンが得られるためではないかと推察される。シラノール基の含有割合が少ないことによりシラノール基同士の縮合反応が抑えられ、さらに本発明の液晶配向剤が後述の他の重合体を含有するものである場合にはシラノール基と他の重合体との縮合反応が抑えられるため、保存安定性に優れる結果になるものと推察される。
上記触媒としては、特に有機塩基が好ましい。有機塩基の使用量は、有機塩基の種類、温度などの反応条件などにより異なり、適宜に設定されるべきであるが、例えば全シラン化合物に対して好ましくは0.01〜3倍モルであり、より好ましくは0.05〜1倍モルである。
【0041】
(メタ)アクリル基を有するポリオルガノシロキサン(S3)を製造する際の加水分解又は加水分解・縮合反応は、(メタ)アクリル基を有するシラン化合物(sa)と必要に応じて他のシラン化合物とを有機溶媒に溶解し、この溶液を有機塩基及び水と混合して、例えば油浴などにより加熱することにより実施することが好ましい。
加水分解・縮合反応時には、加熱温度を好ましくは130℃以下、より好ましくは40〜100℃として、好ましくは0.5〜12時間、より好ましくは1〜8時間加熱することが望ましい。加熱中は、混合液を撹拌してもよいし、還流下に置いてもよい。
反応終了後、反応液から分取した有機溶媒層を水で洗浄することが好ましい。この洗浄に際しては、少量の塩を含む水、例えば0.2重量%程度の硝酸アンモニウム水溶液などを用いて洗浄することにより、洗浄操作が容易になる点で好ましい。洗浄は洗浄後の水層が中性になるまで行い、その後有機溶媒層を、必要に応じて無水硫酸カルシウム、モレキュラーシーブスなどの乾燥剤で乾燥した後、溶媒を除去することにより、目的とする(メタ)アクリル基を有するポリオルガノシロキサンを得ることができる。
なお、本発明においては、(メタ)アクリル基を有するポリオルガノシロキサン(S3)として、市販されているものを用いてもよい。このような市販品としては、例えばAC−SQ、MAC−SQ(以上、東亞合成(株)製)などを挙げることができる。
【0042】
特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)を合成するのに用いる(メタ)アクリル基を有するポリオルガノシロキサン(S3)としては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量が500〜100,000であることが好ましく、1,000〜10,000であることがより好ましく、更に1,000〜5,000であることが好ましい。
なお、特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)の合成に際しては、(メタ)アクリル基を有するポリオルガノシロキサン(S3)を1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0043】
・カルボン酸化合物(1−4A)について
上記(3)の方法で用いるカルボン酸化合物(1−4A)は、メルカプト基又は−NHR(但し、Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基。)を有するカルボン酸誘導体である。このようなカルボン酸化合物(1−4A)としては、例えば、メルカプト基含有化合物として、チオグリコール酸、メルカプトプロピオン酸、メルカプトブタン酸、4−メルカプト安息香酸、N−アセチルシステインなどを;アミノ基含有化合物として、グリシン、アラニンなどのアミノ酸誘導体、4−アミノ安息香酸、サルコシンなどを;挙げることができる。カルボン酸化合物(1−4A)としては、これらの中でも、下記式(1−4A−1)で表されるものが好ましい。
【化7】

(式中、Rは、炭素数1〜6のアルカンジイル基であり、Zは、硫黄原子又は−NR−(但し、Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基である。)である。)
【0044】
カルボン酸化合物(1−4A)としては、メルカプト基を有するものが好ましく、特にチオグリコール酸又はメルカプトプロピオン酸が好ましい。
【0045】
本発明の特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)は、液晶配向性を付与するための基(液晶配向基)を有していてもよい。特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)に上記液晶配向基を導入するには、例えば(メタ)アクリル基を有するポリオルガノシロキサン(S3)に、液晶配向性を付与するための化合物(配向基含有化合物(7))を反応させることにより行うことができる。
このような配向基含有化合物(7)としては、例えば下記式(7A−1)〜(7A−6)及び式(7B−1)〜(7B−3)等を挙げることができる。これらの中でも、下記式(7A−1)、式(7A−3)又は式(7A−6)で表される化合物が好ましく、それらの中でもaが7〜17のものが特に好ましい。
【化8】

(式中、a及びeは、それぞれ独立に4〜20の整数であり、b、c及びdは、それぞれ独立に2〜10の整数である。)
【0046】
・(メタ)アクリル基を有するポリオルガノシロキサン(S3)とカルボン酸化合物(1−4A)との反応
(メタ)アクリル基を有するポリオルガノシロキサン(S3)とカルボン酸化合物(1−4A)との反応は、使用するカルボン酸化合物(1−4A)の種類に応じて好ましくは適当な触媒の存在下、公知のマイケル付加反応に準じて行うことができる。
【0047】
上記付加反応において、カルボン酸化合物(1−4A)の使用割合は、(メタ)アクリル基を有するポリオルガノシロキサン(S3)における所望の上記特定基の含有割合及び付加反応の反応性に応じて適宜に設定されるべきであるが、例えば(メタ)アクリル基を有するポリオルガノシロキサン(S3)の有する(メタ)アクリル基の1モルに対して、好ましくは0.01〜2.0モルであり、より好ましくは0.1〜1.0モルであり、更に好ましくは0.2〜0.5モルである。また、(メタ)アクリル基を有するポリオルガノシロキサン(S3)の有する珪素原子100モル%に対しては、好ましくは5〜100モル%であり、より好ましくは20〜90モル%であり、更に好ましくは40〜85モル%である。
【0048】
配向基含有化合物(7)の使用割合は、(メタ)アクリル基を有するポリオルガノシロキサン(S3)における所望の液晶配向基の含有割合及び付加反応の反応性に応じて適宜に設定されるべきであるが、例えば(メタ)アクリル基を有するポリオルガノシロキサン(S3)の有する(メタ)アクリル基の1モルに対して、好ましくは1.0モル以下であり、より好ましくは0.5モル以下であり、更に好ましくは0.2モル以下である。また、(メタ)アクリル基を有するポリオルガノシロキサン(S3)の有する珪素原子100モル%に対しては、好ましくは1〜50モル%であり、より好ましくは5〜40モル%であり、更に好ましくは10〜30モル%である。
【0049】
上記付加反応は、必要に応じて有機溶媒の存在下に行うことができる。かかる有機溶媒としては、例えば炭化水素化合物、エーテル化合物、エステル化合物、アミド化合物、ニトリル化合物やジメチルスルホキシドなどを挙げることができる。これらのうち、エーテル化合物、エステル化合物、ニトリル化合物、ジメチルスルホキシドが、原料及び生成物の溶解性の観点から好ましい。より好ましくはアセトニトリル、ジメチルスルホキシドである。
有機溶媒は、固形分濃度(反応溶液中の溶媒以外の成分の合計重量が溶液の全重量に占める割合)が、5〜100重量%となる割合で使用することが好ましい。
上記付加反応において、必要に応じて触媒を加えることができる。かかる触媒としては、例えばトリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、ジアザビシクロウンデセンの如き3級の有機アミンや炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムの如きアルカリ金属化合物を用いることができる。触媒の使用割合は、カルボン酸化合物(1−4A)の1モルに対して、0.001〜1.5モルであることが好ましく、0.1〜1.1モルであることがより好ましい。
反応温度は、好ましくは0〜200℃であり、より好ましくは10〜100℃である。反応時間は、好ましくは0.1〜50時間であり、より好ましくは0.5〜10時間である。
【0050】
上記(メタ)アクリル基を有するシラン化合物(s1)と上記カルボン酸化合物(1−4A)とを反応させることにより、本発明における特定基含有ポリオルガノシロキサンとして上記式(S1−4)で表される構造を有する化合物を得ることができる。上記(1)の方法によって得られる特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)としては、中でも、上記式(sa−1)で表される1価の基が珪素原子に結合した化合物を用いて合成したポリオルガノシロキサンと、上記式(1−4A−1)で表される化合物とを反応させることにより得られる化合物、つまり、下記式(S1−4a)で表される構造を有するポリオルガノシロキサンであることが好ましい。
【化9】

(式(S1―4a)中、R及びRは、炭素数1〜6のアルカンジイル基であり、Rは、水素原子又は炭素数1〜3のアルカンジイル基である。Zは、硫黄原子又は−NR−(但し、Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基である。)である。「*」は、珪素原子との結合手であることを示す。)
【0051】
{上記(2)の方法によって製造する場合}
・メルカプト基又はアミノ基を有するポリオルガノシロキサン(S4)について
上記(2)の方法で用いるメルカプト基又はアミノ基を有するポリオルガノシロキサン(S4)は、好ましくはメルカプト基又はアミノ基を有するシラン化合物(sb)、又はメルカプト基又はアミノ基を有するシラン化合物(sb)と他のシラン化合物との混合物を、好ましくは適当な有機溶媒、水及び触媒の存在下において、加水分解又は加水分解・縮合することにより合成することができる。
【0052】
上記メルカプト基又はアミノ基を有するシラン化合物(sb)としては、例えば、下記式(sb−1)で表される1価の基が珪素原子に結合したものを挙げることができる。
【化10】

(式中、Rは、炭素数1〜6のアルカンジイル基であり、Zは、硫黄原子又は−NR−(但し、Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基である。)である。「*」は、珪素原子との結合手を示す。)
【0053】
このようなメルカプト基又はアミノ基を有するシラン化合物(sb)としては、中でもメルカプト基を有するものが好ましく、例えば3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、3−メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、3−メルカプトプロピルジメチルエトキシシラン、1−メルカプトメチルトリメトキシシラン、1−メルカプトメチルトリエトキシシラン、1−メルカプトメチルメチルジメトキシシラン、1−メルカプトメチルメチルジエトキシシラン、1−メルカプトメチルジメチルメトキシシラン、1−メルカプトメチルジメチルエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルメチルジメトキシシラン、2−メルカプトエチルメチルジエトキシシラン、2−メルカプトエチルジメチルメトキシシラン、2−メルカプトエチルジメチルエトキシシランなどがより好ましい。なお、メルカプト基又はアミノ基を有するシラン化合物(sb)としては、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
メルカプト基又はアミノ基を有するシラン化合物(sb)と組み合わせて用いることができる上記他のシラン化合物としては、例えば、上記(メタ)アクリル基を有するシラン化合物(sa)と組み合わせて用いることができる他のシラン化合物と同様のものを挙げることができる。このとき、メルカプト基又はアミノ基を有するシラン化合物(sb)の使用割合は、他のシラン化合物に対して20mol%以上が好ましく、50mol%以上がより好ましく、80mol%以上が更に好ましい。
【0055】
メルカプト基又はアミノ基を有するポリオルガノシロキサン(S4)を合成するにあたって使用することのできる有機溶媒、触媒及び合成のための条件としては、上記(メタ)アクリル基を有するポリオルガノシロキサン(S3)の説明を適用することができる。
なお、本発明においては、メルカプト基又はアミノ基を有するポリオルガノシロキサン(S4)として、市販されているものを用いてもよい。このような市販品としては、例えばコンポセランHBSQ105−7(荒川化学(株)製)などを挙げることができる。
【0056】
特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)を合成するのに用いるメルカプト基又はアミノ基を有するポリオルガノシロキサン(S4)としては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量が、500〜100,000であることが好ましく、1,000〜10,000であることがより好ましく、1,000〜5,000であることが更に好ましい。
なお、特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)の合成に際しては、メルカプト基又はアミノ基を有するポリオルガノシロキサン(S4)を1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0057】
・(メタ)アクリル酸化合物(1−4B)について
上記(2)の方法で用いる(メタ)アクリル酸化合物(1−4B)としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸等のように下記式(1−4B−1)で表される化合物が好ましい。
【化11】

(式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基である。)
【0058】
メルカプト基又はアミノ基を有するポリオルガノシロキサン(S4)と(メタ)アクリル酸化合物(1−4B)との反応は、好ましくは適当な触媒の存在下、公知のマイケル付加反応に準じて行うことができる。当該付加反応については、上記(1)の方法におけるマイケル付加方法の説明を適用することができる。
【0059】
なお、上記(2)の方法によって合成される特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)についても、液晶配向基を有していてもよい。特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)に液晶配向基を導入するには、例えば、メルカプト基又はアミノ基を有するポリオルガノシロキサン(S4)と、配向基含有化合物(8)とを反応させることにより行うことができる。
このような配向基含有化合物(8)としては、例えば、アクリル酸オクチル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸テトラデシル、アクリル酸ヘキサデシル、アクリル酸オクタデシルなどの長鎖アルキル基を有するアクリル酸エステル;下記式(8−1)〜(8−4)で表されるステロイド骨格を有するアクリル酸エステル等を挙げることができる。化合物(8)としては、一種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【化12】

【0060】
上記メルカプト基又はアミノ基を有するポリオルガノシロキサン(S4)と上記(メタ)アクリル酸化合物(1−4B)とを反応させることにより、本発明における特定基含有ポリオルガノシロキサンとして、上記式(S1−4)で表される構造を有する化合物を得ることができる。上記(2)の方法によって得られる特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)としては、中でも、上記式(sb−1)で表される1価の基が珪素原子に結合した化合物を用いて合成したポリオルガノシロキサンと、上記式(1−4B−1)で表される化合物とを反応させることにより得られる化合物、つまり、下記式(S1−4b)で表される構造を有するポリオルガノシロキサンであることが好ましい。
【化13】

(式(S1―4b)中、Rは、炭素数1〜6のアルカンジイル基であり、Rは、炭素数2〜6のアルカンジイル基である。Zは、硫黄原子又は−NR−(但し、Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基である。)である。「*」は、珪素原子との結合手であることを示す。)
【0061】
[式(S1−1)〜(S1−3)で表される構造を有する場合]
一方、特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)が、上記(S1−1)〜式(S1−3)のいずれかで表される構造を有することにより、ポリオルガノシロキサン骨格の側鎖に上記特定基が導入されている場合、上記(S1−1)〜式(S1−3)で表される構造として具体的には、下記式(S1−1a)〜式(S1−3a)で表されるものが好ましい。
【化14】

(式(S1−1a)〜式(S1−3a)中、Rは、単結合又は炭素数1〜6のアルカンジイル基である。Rは、炭素数1〜3のアルカンジイル基であり、Rは、単結合又は炭素数1〜6のアルカンジイル基であり、Yは、単結合又は酸素原子である。但し、Rが単結合の場合、Yは単結合である。「*」は、珪素原子との結合手であることを示す。)
【0062】
上記式(S1−1a)及び式(S1−3a)において、Rにおける炭素数1〜6のアルカンジイル基としては、直鎖状であっても分岐状であってもよく、具体的には上記Zの説明で例示した基が挙げられる。好ましくは炭素数1〜3である。
上記式(S1−2a)において、Yが単結合の場合、RとRとによって構成されるアルカンジイル基は炭素数1〜6が好ましく、炭素数1〜3がより好ましい。
【0063】
上記(S1−1)〜式(S1−3)のいずれかで表される構造を有するポリオルガノシロキサンを得るには、例えば、
(3)エポキシ基を有するシラン化合物(sc)、又はエポキシ基を有するシラン化合物(sc)と他のシラン化合物との混合物を、好ましくは適当な有機溶媒、水及び触媒の存在下において、加水分解又は加水分解・縮合する方法、
(4)酸無水物基を有するシラン化合物(sd)、又は酸無水物基を有するシラン化合物(sd)と他のシラン化合物との混合物を、好ましくは適当な有機溶媒、水及び触媒の存在下において、加水分解又は加水分解・縮合する方法、
等によって行うことができる。
【0064】
上記エポキシ基を有するシラン化合物(sc)としては、例えば、エポキシプロピルトリメトキシシラン、エポキシプロピルトリエトキシシラン、エポキシプロピルメチルジメトキシシラン、エポキシプロピルメチルジエトキシシラン、エポキシプロピルジメチルメトキシシラン、エポキシプロピルジメチルエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルジメチルメトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルジメチルエトキシシラン等を挙げることができる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
また、上記酸無水物基を有するシラン化合物(sd)としては、例えば、3−(トリメトキシシリル)プロピルコハク酸無水物等を挙げることができる。
【0065】
エポキシ基を有するシラン化合物(sc)と組み合わせて用いることができる上記他のシラン化合物としては、例えば、上記(メタ)アクリル基を有するシラン化合物(sa)と組み合わせて用いることができる他のシラン化合物として例示したもののうち、化合物(sc)及び化合物(sd)以外のシラン化合物等を挙げることができる。
このとき、エポキシ基を有するシラン化合物(sc)の使用割合は、ポリオルガノシロキサンの合成に用いる全シラン化合物に対して1mol%以上が好ましく、5〜80mol%がより好ましく、15〜60mol%が更に好ましい。
【0066】
上記有機溶媒としては、例えば上記(メタ)アクリル基を有するポリオルガノシロキサン(S3)の説明で例示した有機溶媒と同様のものを用いることができる。
上記触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、蟻酸、蓚酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、リン酸、酸性イオン交換樹脂、各種ルイス酸などの酸触媒を用いることができる。
触媒の使用割合は、例えば全シラン化合物に対して好ましくは0.01〜3倍モルであり、より好ましくは0.05〜1倍モルである。
上記(3)、(4)の方法によって特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)を製造する際の加水分解又は加水分解・縮合反応は、例えば、エポキシ基を有するシラン化合物(sc)又は酸無水物基を有するシラン化合物(sd)と、必要に応じて他のシラン化合物とを有機溶媒に溶解した後、水及び触媒と混合して、例えば油浴などにより加熱することにより実施することが好ましい。
加水分解・縮合反応時には、加熱温度を好ましくは130℃以下、より好ましくは40〜100℃として、好ましくは0.5〜12時間、より好ましくは1〜8時間加熱することが望ましい。加熱中は、混合液を撹拌してもよいし、還流下に置いてもよい。
【0067】
本発明の液晶配向剤中における特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)の配合量は、該液晶配向剤に含まれるポリオルガノシロキサンの全量に対して10重量%以上が好ましく、30重量%以上がより好ましく、50重量%以上が更に好ましい。上記範囲とすることにより、形成された塗膜の基板に対する剥離性をより良好にすることができる。
なお、上記特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)は、液晶配向剤中に1種単独で又は2種以上含まれていてもよい。
【0068】
<その他のポリオルガノシロキサン(S2)>
本発明の液晶配向剤は、液晶配向膜における液晶配向性や電気特性を向上させる観点から、上記その他のポリオルガノシロキサン(S2)として、エポキシ基を有するポリオルガノシロキサン(以下、エポキシ基含有ポリオルガノシロキサン(S2a)という。)を更に含んでいるのが好ましい。
【0069】
<エポキシ基含有ポリオルガノシロキサン(S2a)>
【0070】
上記エポキシ基含有ポリオルガノシロキサン(S2a)としては、ポリオルガノシロキサン骨格の側鎖においてエポキシ基を含むものであれば、その構造は特に限定しないが、下記式(X2−1)又は式(X2−2)で表される基を有するものが好ましい。また、上記式(X2−1)又は式(X2−2)で表される基としては、特に3−エポキシプロピル基、3−グリシジロキシプロピル基、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基が好ましい。
【化15】

(式(X2−1)中、Aは、単結合又は酸素原子であり、hは、1〜3の整数であり、iは、0〜6の整数である。但し、iが0の場合、Aは単結合である。式(X2−2)中、jは、1〜6の整数である。「*」は珪素原子との結合手であることを示す。)
【0071】
エポキシ基含有ポリオルガノシロキサン(S2a)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量が500〜100,000であることが好ましく、1,000〜10,000であることがより好ましく、さらに1,000〜5,000であることが好ましい。
【0072】
<エポキシ基含有ポリオルガノシロキサン(S2a)の製造方法>
エポキシ基含有ポリオルガノシロキサン(S2a)は、例えば、エポキシ基を有するシラン化合物(se)、又はエポキシ基を有するシラン化合物(se)と他のシラン化合物の混合物を、好ましくは適当な有機溶媒、水及び触媒の存在下において加水分解又は加水分解・縮合することにより合成することができる。
【0073】
上記エポキシ基を有するシラン化合物(se)としては、例えば3−グリシジロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルジメチルメトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルジメチルエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシランなどを挙げることができる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0074】
エポキシ基を有するシラン化合物(se)と組み合わせて用いることができる上記他のシラン化合物としては、例えば、上記(メタ)アクリル基を有するシラン化合物(sa)と組み合わせて用いることができる他のシラン化合物として例示したもののうち、化合物(se)以外のシラン化合物の他、
3−(メタ)アクリロキシプロピルトリクロロシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリ−n−プロポキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリ−i−プロポキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリ−n−ブトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリ−sec−ブトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリクロロシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリ−n−プロポキシシラン、3−メルカプトプロピルトリ−i−プロポキシシラン、3−メルカプトプロピルトリ−n−ブトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリ−sec−ブトキシシラン、メルカプトメチルトリメトキシシラン、メルカプトメチルトリエトキシシラン、
等を挙げることができる。
【0075】
他のシラン化合物としては、これらのうち、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メルカプトメチルトリメトキシシラン、メルカプトメチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシランおよびジメチルジエトキシシランよりなる群から選択される一種以上が好ましい。
【0076】
上記エポキシ基を有するポリオルガノシロキサン(S2a)は、そのエポキシ当量が100〜10,000g/モルであることが好ましく、150〜1,000g/モルであることがより好ましい。従って、エポキシ基を有するポリオルガノシロキサン(S2a)を合成するにあたっては、エポキシ基を有するシラン化合物(se)と他のシラン化合物との使用割合を、得られるポリオルガノシロキサンのエポキシ当量が上記の範囲となるように調整して設定することが好ましい。
具体的には、エポキシ基を有するシラン化合物(se)は、該エポキシ基含有ポリオルガノシロキサン(S2a)の合成に際して使用されるシラン化合物の全量に対して、1mol%以上が好ましく、5〜80mol%がより好ましく、15〜60mol%が更に好ましい。
なお、エポキシ当量は、JIS C2105の「塩酸−メチルエチルケトン法」に準じて測定することができる。
【0077】
エポキシ基を有するポリオルガノシロキサン(S2a)を製造するにあたって使用することのできる有機溶媒、触媒、及び合成のための条件としては、上記(メタ)アクリル基を有するポリオルガノシロキサン(S3)の説明を適用することができる。
【0078】
上記エポキシ基を有するポリオルガノシロキサン(S2a)は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよいが、当該エポキシ基を有するポリオルガノシロキサン(S2a)が有するエポキシ基のうち、その一部において、液晶配向性を付与するための基(液晶配向基)が開環付加されていることが好ましい。このようなエポキシ基の開環付加を利用する方法によれば、ポリオルガノシロキサン骨格への液晶配向基の導入を簡便に行うことができ、しかも、液晶配向基の導入率を高くすることができる点で極めて好適である。
【0079】
エポキシ基を有するポリオルガノシロキサン(S2a)に液晶配向基を導入するには、例えばエポキシ基を有するポリオルガノシロキサン(S2a)と、1価のカルボン酸(5)とを、好ましくは触媒及び有機溶媒の存在下で反応させることにより行うことができる。
【0080】
上記の1価のカルボン酸(5)としては、例えば、ドデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、ステアリン酸、エイコサン酸などの長鎖アルキルカルボン酸;下記式(5−1)〜(5−7)で表されるモノカルボン酸などを挙げることができる。なお、1価のカルボン酸(5)は、一種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【化16】

(式中、f、g、h、j、k及びmは、それぞれ独立に3〜12の整数である。)
【0081】
なお、エポキシ基を有するポリオルガノシロキサン(S2a)と1価のカルボン酸(5)との反応に際しては、カルボン酸として、液晶配向基を導入するための1価のカルボン酸(5)以外のその他のカルボン酸を混合して使用してもよい。この場合、その他のカルボン酸の使用割合としては、1価のカルボン酸(5)とその他のカルボン酸との合計量に対して50モル%以下であるのが好ましい。
【0082】
エポキシ基を有するポリオルガノシロキサン(S2a)とカルボン酸(1価のカルボン酸(5)、又は1価のカルボン酸(5)とその他のカルボン酸との混合物)との反応において、カルボン酸の使用割合は、エポキシ基を有するポリオルガノシロキサン(S2a)が有する珪素原子100モル%に対して、好ましくは1モル%以上であり、より好ましくは1〜50モル%であり、更に好ましくは5〜40モル%であり、特に好ましくは10〜30モル%である。
【0083】
エポキシ基を有するポリオルガノシロキサン(S2a)と1価のカルボン酸(5)との反応において使用することのできる触媒としては、例えば有機塩基、またはエポキシ化合物と酸無水物との反応を促進するいわゆる硬化促進剤として公知の化合物を用いることができる。
【0084】
上記有機塩基としては、例えばエチルアミン、ジエチルアミン、ピペラジン、ピペリジン、ピロリジン、ピロールの如き1〜2級有機アミン;
トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、ジアザビシクロウンデセンの如き3級の有機アミン;
テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの如き4級の有機アミンなどを挙げることができる。これらの有機塩基のうち、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジンの如き3級の有機アミン;テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの如き4級の有機アミンが好ましい。
上記硬化促進剤としては、例えばベンジルジメチルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、シクロヘキシルジメチルアミン、トリエタノールアミンの如き3級アミン;
【0085】
2−メチルイミダゾール、2−n−ヘプチルイミダゾール、2−n−ウンデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−メチルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−n−ウンデシルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−フェニルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジ(ヒドロキシメチル)イミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−フェニル−4,5−ジ〔(2’−シアノエトキシ)メチル〕イミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−n−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテート、1−(2−シアノエチル)−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテート、1−(2−シアノエチル)−2−エチル−4−メチルイミダゾリウムトリメリテート、2,4−ジアミノ−6−〔2’−メチルイミダゾリル−(1’)〕エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−(2’−n−ウンデシルイミダゾリル)エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−〔2’−エチル−4’−メチルイミダゾリル−(1’)〕エチル−s−トリアジン、2−メチルイミダゾールのイソシアヌル酸付加物、2−フェニルイミダゾールのイソシアヌル酸付加物、2,4−ジアミノ−6−〔2’−メチルイミダゾリル−(1’)〕エチル−s−トリアジンのイソシアヌル酸付加物の如きイミダゾール化合物;
【0086】
ジフェニルフォスフィン、トリフェニルフォスフィン、亜リン酸トリフェニルの如き有機リン化合物;
ベンジルトリフェニルフォスフォニウムクロライド、テトラ−n−ブチルフォスフォニウムブロマイド、メチルトリフェニルフォスフォニウムブロマイド、エチルトリフェニルフォスフォニウムブロマイド、n−ブチルトリフェニルフォスフォニウムブロマイド、テトラフェニルフォスフォニウムブロマイド、エチルトリフェニルフォスフォニウムヨーダイド、エチルトリフェニルフォスフォニウムアセテート、テトラ−n−ブチルフォスフォニウム−o,o−ジエチルフォスフォロジチオネート、テトラ−n−ブチルフォスフォニウムベンゾトリアゾレート、テトラ−n−ブチルフォスフォニウムテトラフルオロボレート、テトラ−n−ブチルフォスフォニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルフォスフォニウムテトラフェニルボレートの如き4級フォスフォニウム塩;
1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7やその有機酸塩の如きジアザビシクロアルケン;
オクチル酸亜鉛、オクチル酸錫、アルミニウムアセチルアセトン錯体の如き有機金属化合物;
テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラ−n−ブチルアンモニウムクロライドの如き4級アンモニウム塩;
三フッ化ホウ素、ホウ酸トリフェニルの如きホウ素化合物;
塩化亜鉛、塩化第二錫の如き金属ハロゲン化合物;
ジシアンジアミドやアミンとエポキシ樹脂との付加物などのアミン付加型促進剤などの高融点分散型潜在性硬化促進剤;
前記イミダゾール化合物、有機リン化合物や4級フォスフォニウム塩などの硬化促進剤の表面をポリマーで被覆したマイクロカプセル型潜在性硬化促進剤;
アミン塩型潜在性硬化促進剤;
ルイス酸塩、ブレンステッド酸塩などの高温解離型の熱カチオン重合型潜在性硬化促進剤などの潜在性硬化促進剤などを挙げることができる。
【0087】
これらのうち、好ましくはテトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラ−n−ブチルアンモニウムクロライドの如き4級アンモニウム塩である。
これらの触媒は、エポキシ基を有するポリオルガノシロキサン(S2a)100重量部に対して、好ましくは100重量部以下、より好ましくは0.01〜100重量部、更に好ましくは0.1〜20重量部の割合で使用される。
【0088】
エポキシ基を有するポリオルガノシロキサン(S2a)と1価のカルボン酸(5)との反応において使用することのできる有機溶媒としては、例えば炭化水素化合物、エーテル化合物、エステル化合物、ケトン化合物、アミド化合物、アルコール化合物などを挙げることができる。これらのうち、エーテル化合物、エステル化合物、ケトン化合物が原料及び生成物の溶解性並びに生成物の精製のしやすさの観点から好ましく、特に好ましい溶媒の具体例として、2−ブタノン、2−ヘキサノン、メチルイソブチルケトン及び酢酸ブチル等を挙げることができる。
有機溶媒は、固形分濃度(反応溶液中の溶媒以外の成分の合計重量が溶液の全重量に占める割合)が、0.1重量%以上となる割合で使用することが好ましく、より好ましくは5〜50重量%となる割合である。
反応温度は、好ましくは0〜200℃であり、より好ましくは50〜150℃である。反応時間は、好ましくは0.1〜50時間であり、より好ましくは0.5〜20時間である。
【0089】
なお、本発明の液晶配向剤は、上記その他のポリオルガノシロキサン(S2)として、特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)及びエポキシ基含有ポリオルガノシロキサン(S2a)以外のポリオルガノシロキサンを含んでいてもよい。この場合、当該ポリオルガノシロキサンを、上記のエポキシ基含有ポリオルガノシロキサン(S2a)とともに含んでいてもよいし、あるいは、上記エポキシ基含有ポリオルガノシロキサン(S2a)を含んでいなくてもよい。このようなポリオルガノシロキサンとしては、例えば、液晶配向基を有するがエポキシ基を有していないポリオルガノシロキサンなどを挙げることができる。
【0090】
<液晶配向剤の調製>
本発明の液晶配向剤は、上述の通り、特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)を含有するものであり、更にエポキシ基含有ポリオルガノシロキサン(S2a)を含むことが好ましい。また、上記成分の他に、必要に応じて他の成分を含有するものであるが、好ましくは各成分が有機溶媒に溶解された溶液状の組成物として調製される。
【0091】
本発明の液晶配向剤を調製するために使用することのできる有機溶媒としては、特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)、エポキシ基含有ポリオルガノシロキサン(S2a)及び任意的に使用される他の成分を溶解し、これらと反応しないものが好ましい。
このような有機溶媒としては、例えば、1−エトキシ−2−プロパノール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコールプロピルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノアミルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコール、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、メチルカルビトール、エチルカルビトール、プロピルカルビトール、ブチルカルビトール、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸n−ペンチル、酢酸sec−ペンチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸メチルペンチル、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸ベンジル、酢酸n−ヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸オクチル、酢酸アミル、酢酸イソアミルなどが挙げられる。
これらの中で好ましくは、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸n−ペンチル、酢酸sec−ペンチル、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミドなどの非プロトン系極性溶媒、エチレングリコール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、プロピレングリコールフェニルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどを挙げることができる。
【0092】
本発明の液晶配向剤の調製に用いられる好ましい溶媒は、他の重合体の使用の有無及びその種類に従い、上記した有機溶媒の一種又は二種以上を組み合わせて使用することができる。また、上記有機溶媒としては、下記の好ましい固形分濃度において、液晶配向剤に含有される各成分が析出せず、且つ液晶配向剤の表面張力が25〜40mN/mの範囲となるものが適宜使用される。
本発明の液晶配向剤の固形分濃度、すなわち液晶配向剤中の溶媒以外の全成分の重量が液晶配向剤の全重量に占める割合は、粘性、揮発性などを考慮して選択されるが、好ましくは1〜10重量%の範囲である。本発明の液晶配向剤は、基板表面に塗布され、液晶配向膜となる塗膜を形成するが、固形分濃度が1重量%未満である場合には、この塗膜の膜厚が過小となって良好な液晶配向膜を得難い場合がある。一方、固形分濃度が10重量%を超える場合には、塗膜の膜厚が過大となって良好な液晶配向膜を得難く、また、液晶配向剤の粘性が増大して塗布特性が不足する場合がある。特に好ましい固形分濃度の範囲は、基板に液晶配向剤を塗布する際に採用する方法によって異なる。例えばスピンナー法による場合には1.5〜4.5重量%の範囲が特に好ましい。印刷法による場合には、固形分濃度を3〜9重量%の範囲とし、それによって溶液粘度を12〜50mPa・sの範囲とすることが特に好ましい。インクジェット法による場合には、固形分濃度を1〜5重量%の範囲とし、それによって溶液粘度を3〜15mPa・sの範囲とすることが特に好ましい。
本発明の液晶配向剤を調製する際の温度は、好ましくは、0℃〜200℃であり、より好ましくは10℃〜60℃である。
【0093】
《液晶配向膜及び液晶表示素子》
本発明の液晶配向膜は、上記液晶配向剤を用いて形成されたものである。また、本発明の液晶表示素子は、上記の如き本発明の液晶配向剤から形成された液晶配向膜を具備する。このような液晶表示素子は、例えば、導電膜を有する一対の基板の該導電膜上にそれぞれ、本発明の液晶配向剤を塗布して塗膜を形成する工程と、該塗膜を形成した一対の基板の塗膜が、液晶層を介して相対して対向配置した構成の液晶セルを形成する工程と、を含む製造方法により得ることができる。
【0094】
具体的には、先ず基板上に本発明の液晶配向剤を塗布し、次いで塗布面を加熱することにより基板上に塗膜を形成する。このとき、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板2枚を一対として、その各透明導電膜形成面上に、本発明の液晶配向剤を、好ましくはロールコーター法、スピンナー法、印刷法、インクジェット法によりそれぞれ塗布する。そして、該塗布面を、予備加熱(プレベーク)し、次いで焼成(ポストベーク)することにより塗膜を形成する。プレベーク条件は、例えば40〜120℃において0.1〜5分であり、ポストベーク条件は、好ましくは120〜300℃、より好ましくは150〜250℃において、好ましくは5〜200分、より好ましくは10〜100分である。ポストベーク後の塗膜の膜厚は、好ましくは0.001〜1μmであり、より好ましくは0.005〜0.5μmである。
上記基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラスなどのガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、脂環式ポリオレフィンなどのプラスチックなどからなる透明基板を用いることができる。
【0095】
基板の一面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム−酸化スズ(In−SnO)からなるITO膜などを用いることができる。パターニングされた透明導電膜を得るには、例えばパターンなし透明導電膜を形成した後フォト・エッチングによりパターンを形成する方法、透明導電膜を形成する際に所望のパターンを有するマスクを用いる方法などによることができる。液晶配向剤の塗布に際しては、基板表面および透明導電膜と塗膜との接着性をさらに良好にするために、基板表面のうち塗膜を形成するべき面に、例えば官能性シラン化合物、官能性チタン化合物などを予め塗布する前処理を施しておいてもよい。
【0096】
このように形成された塗膜は、これをそのまま次工程の液晶セルの製造に供してもよいし、あるいは液晶セルの製造に先んじて必要に応じてラビング処理を行ってもよい。このラビング処理は、塗膜面に対して、例えばナイロン、レーヨン、コットンなどの繊維からなる布を巻き付けたロールで一定方向に擦ることにより行うことができる。このとき、液晶配向膜表面の一部にレジスト膜を形成した上で先のラビング処理と異なる方向にラビング処理を行った後にレジスト膜を除去する処理を行い、液晶配向膜が領域ごとに異なる液晶配向能を持つようにしてもよい。この場合、得られる液晶表示素子の視界特性を改善することが可能である。
【0097】
次いで、上記のようにして液晶配向膜が形成された一対の基板を準備し、この一対の基板間に液晶を配置することにより液晶セルを製造する。液晶セルを製造するには、例えば以下の2つの方法が挙げられる。
第一の方法は、従来から知られている方法である。先ず、それぞれの液晶配向膜が対向するように間隙(セルギャップ)を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤を用いて貼り合わせ、基板表面およびシール剤により区画されたセルギャップ内に液晶を注入充填した後、注入孔を封止することにより、液晶セルを製造することができる。
第二の方法は、ODF(One Drop Fill)方式と呼ばれる手法である。液晶配向膜を形成した2枚の基板のうちの一方の基板上の所定の場所に例えば紫外光硬化性のシール材を塗布し、さらに液晶配向膜面上に液晶を滴下した後、液晶配向膜が対向するように他方の基板を貼り合わせ、次いで基板の全面に紫外光を照射してシール剤を硬化することにより、液晶セルを製造することができる。
いずれの方法による場合でも、次いで、液晶セルを、用いた液晶が等方相をとる温度まで加熱した後、室温まで徐冷することにより、注入時の流動配向を除去することが望ましい。
そして、液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせることにより、本発明の液晶表示素子を得ることができる。
【0098】
上記シール剤としては、例えばスペーサーとしての酸化アルミニウム球及び硬化剤を含有するエポキシ樹脂などを用いることができる。
上記液晶としては、例えばネマチック液晶、スメクチック液晶などを用いることができる。TN型液晶セルまたはSTN型液晶セルを有する液晶表示素子を製造する場合、ネマチック液晶のうち正の誘電異方性を有するもの(ポジ型の液晶)が好ましく、例えばビフェニル系液晶、フェニルシクロヘキサン系液晶、エステル系液晶、ターフェニル系液晶、ビフェニルシクロヘキサン系液晶、ピリミジン系液晶、ジオキサン系液晶、ビシクロオクタン系液晶、キュバン系液晶などが用いられる。これら液晶に、例えばコレスチルクロライド、コレステリルノナエート、コレステリルカーボネートなどのコレステリック液晶;商品名C−15、CB−15(メルク社製)として販売されているようなカイラル剤;p−デシロキシベンジリデン−p−アミノ−2−メチルブチルシンナメートなどの強誘電性液晶などを、さらに添加して使用してもよい。
一方、垂直配向型液晶セルの場合には、ネマチック液晶のうち負の誘電異方性を有するもの(ネガ型の液晶)が好ましく、例えばジシアノベンゼン系液晶、ピリダジン系液晶、シッフベース系液晶、アゾキシ系液晶、ビフェニル系液晶、フェニルシクロヘキサン系液晶などが用いられる。
PSAモードの液晶表示素子については、2枚の基板間に、液晶と光重合性化合物とを配置する。当該光重合性化合物としては、従来公知のものを用いることができる。
【0099】
以上のようにして作成した液晶セルに対しては、一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で放射線を照射する工程(放射線照射工程)を経ることにより、液晶配向膜の少なくとも一部の領域のプレチルト角を変化させる処理を行うこともできる。本発明の液晶配向膜は、紫外線等の放射線に対する耐性に優れており、例えばPSAモードの液晶表示素子を製造する過程において照射されるような放射線照射量(例えば100,000J/m以上)に対しても優れた耐性を示す。したがって、本発明の液晶配向剤を用いた場合、上記のような放射線照射工程を含む製造方法によっても、電圧保持率や電圧変化に対する応答性といった電気特性や液晶配向性が良好な液晶表示素子を得ることができる。
【0100】
上記放射線照射処理に使用される放射線としては、直線偏光もしくは部分偏光された放射線又は無偏光の放射線を使用することができ、例えば150〜800nmの波長の光を含む紫外線又は可視光線を用いることができるが、300〜400nmの波長の光を含む紫外線が好ましい。用いる放射線が直線偏光又は部分偏光している場合には、照射は基板面に垂直の方向から行っても、プレチルト角を付与するために斜め方向から行ってもよく、また、これらを組み合わせて行ってもよい。無偏光の放射線を照射する場合には、照射の方向は斜め方向から行う。
使用する光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマーレーザーなどを使用することができる。前記の好ましい波長領域の紫外線は、前記光源を、例えばフィルター、回折格子などと併用する手段などにより得ることができる。
放射線の照射量としては、好ましくは1J/m以上1,000,000J/m未満であり、より好ましくは1,000〜100,000J/mである。
印加する電圧としては、例えば5〜50Vの直流又は交流とすることができる。
液晶セルの外表面に貼り合わされる偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光膜を酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板を挙げることができる。
【0101】
本発明の液晶表示素子は、垂直配向型の液晶表示素子であることが好ましい。
かくして製造された本発明の液晶表示素子は、基板上に形成された塗膜(液晶配向膜)の剥離性が良好である。また、当該液晶表示素子は耐放射線性に優れ、例えばPSAモードや光配向法などといった、液晶表示素子の製造にあたって、基板上に形成された塗膜に対して放射線を照射する工程を含むモードに採用した場合であっても、電気特性やプレチルト角の経時的安定性に優れるものである。
【0102】
本発明の液晶表示素子は、種々の装置に有効に適用することができ、例えば、時計、携帯型ゲーム、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビなどの表示装置に用いることができる。
【実施例】
【0103】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
以下の実施例において重量平均分子量は、以下の条件におけるゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算値である。
カラム:東ソー(株)製、TSKgelGRCXLII
溶剤:テトラヒドロフラン
温度:40℃
圧力:68kgf/cm
以下の合成例は、必要に応じて下記の合成スケールで繰り返すことにより、以降の合成例および実施例で使用する必要量の生成物を確保した。
【0104】
<特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)の合成>
(合成例S−1−1)
温度計を備えた200mLの三口フラスコに、AC−SQ TA100(3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランの加水分解縮合物、東亞合成(株)製)33.0g、チオグリコール酸9.2g(AC−SQ TA100の珪素原子の50mol%に相当)、アセトニトリル42.3g、トリエチルアミン20.2gを仕込み、50℃で1時間反応させた。反応終了後、減圧下にてアセトニトリルおよびトリエチルアミンを留去することでポリシロキサン(S−1−1)を得た。重量平均分子量は3,200であった。
【0105】
(合成例S−1−2〜合成例S−1−6)
使用する化合物の種類及び量を下記表1に示すとおりとした以外は、上記合成例S−1−1と同様の手法によりポリオルガノシロキサン(S−1−2)〜(S−1−6)を合成した。

【表1】

【0106】
表1中、カルボン酸化合物及び配向基含有化合物の配合量[モル%]は、使用したポリオルガノシロキサンが有する珪素原子の100モル%に対する値を示す。なお、「MAC−SQ」は、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの加水分解縮合物(東亞合成(株)製)を示す。
【0107】
(合成例S−1−7)
温度計を備えた200mLの三口フラスコに、AC−SQ TA100を8.3g、チオグリコール酸2.7g(AC−SQ TA100の珪素原子の50mol%に相当)、上記式(7A−6)で表される化合物(7a−6)4.1g(AC−SQ TA100の珪素原子の20mol%に相当)、ジメチルスルホキシド15.0g、トリエチルアミン7.1gを仕込み、50℃で3時間反応させた。反応終了後、反応液を100mLのメタノールで再沈殿させて、沈殿を回収、乾燥させることでポリシロキサン(S−1−7)を得た。重量平均分子量は6,900であった。
【0108】
(合成例S−1−8)
撹拌機、温度計、滴下漏斗および還流冷却管を備えた反応容器に、ブチルセロソルブ62.64g、テトラエトキシシラン19.14g、3−エポキシプロピルトリメトキシシラン5.41g、メチルトリメトキシシラン1.79gを投入し、撹拌して、アルコキシシランモノマーの混合溶液を調製した。次いで、この溶液を60℃まで加熱した後、ここに水10.94gおよび触媒として蓚酸0.087gを混合した蓚酸溶液を滴下した。滴下終了後、溶液温度90℃で3時間加熱してから室温まで冷却し、ポリオルガノシロキサン(S−1−8)を有する溶液を得た。含有されるポリオルガノシロキサン(S−1−8)の重量平均分子量Mwは11,000であった。
【0109】
(合成例S−1−9)
使用する化合物の種類及び量を下記表2に示すとおりとした以外は、上記合成例S−1−8と同様の手法によりポリオルガノシロキサン(S−1−9)を合成した。
【表2】

【0110】
表2中、シラン化合物の配合量[モル%]は、使用したシラン化合物の合計量100モル%に対する値を示す。また、シラン化合物の略称はそれぞれ以下のとおりである。
TEOS:テトラエトキシシラン
METMS:メチルトリメトキシシラン
EPTS:3−エポキシプロピルトリメトキシシラン
ECETS:2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン
TMSPA:3−(トリメトキシシリル)プロピルコハク酸無水物
【化17】

【0111】
(合成例S−1−10)
撹拌機、温度計、滴下漏斗および還流冷却管を備えた反応容器に、ブチルセロソルブ66.17g、テトラエトキシシラン16.68g、3−(トリメトキシシリル)プロピルコハク酸無水物6.00g、メチルトリメトキシシラン1.56gを投入し、撹拌して、アルコキシシランモノマーの混合溶液を調製した。次いで、この溶液を60℃まで加熱した後、ここに水9.53gおよび触媒として蓚酸0.08gを混合した蓚酸溶液を滴下した。滴下終了後、溶液温度90℃で3時間加熱してから室温まで冷却し、ポリオルガノシロキサン(S−1−10)を有する溶液を得た。含有されるポリオルガノシロキサン(S−1−10)の重量平均分子量Mwは10,000であった。
【0112】
<エポキシ基含有ポリオルガノシロキサン(S2a)の合成>
(合成例E−1)
撹拌機、温度計、滴下漏斗および還流冷却管を備えた反応容器に、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン458.7g、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン162.8、メチルイソブチルケトン3108gおよびトリエチルアミン62.2gを仕込み、室温で混合した。次いで、脱イオン水621.5gを滴下漏斗より30分かけて滴下した後、還流下で混合しつつ、80℃で6時間反応させた。反応終了後、有機層を取り出し、0.2重量%硝酸アンモニウム水溶液により洗浄後の水が中性になるまで洗浄したのち、減圧下で溶媒および水を留去することにより、ポリオルガノシロキサンEPS−1を粘調な透明液体として得た。
このポリオルガノシロキサンEPS−1の重量平均分子量Mwは2,900であった。
【0113】
(合成例E−2〜合成例E−4)
使用するシラン化合物の種類及び量を下記表3に示すとおりとした以外は、上記合成例E−1と同様の手法によりポリオルガノシロキサンEPS−2〜EPS−4を合成した。
【表3】

【0114】
表3中、シラン化合物の配合量[モル%]は、使用したシラン化合物の合計量100モル%に対する値を示す。また、シラン化合物の略称はそれぞれ以下のとおりである。
ECETS:2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン
MTMS:3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
ATMS:3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン
【0115】
(合成例S−2−1)
200mLの三口フラスコに、上記合成例E−1で合成したポリオルガノシロキサンEPS−1の10.0g、メチルイソブチルケトン30.28g、OCTBA3.52g(ポリオルガノシロキサンEPS−1の有する珪素原子に対して25モル%に相当)およびUCAT 18X(商品名、サンアプロ(株)製の、エポキシ化合物の硬化促進剤である。)0.10gを仕込み、90℃で72時間撹拌下に反応を行った。反応終了後、反応混合物にメタノールを加えて沈殿を生成させ、この沈殿物を酢酸エチルに溶解して得た溶液を3回水洗した後、溶剤を留去することにより、ポリオルガノシロキサン(S−2−1)の白色粉末8.2gを得た。ポリオルガノシロキサン(S−2−1)の重量平均分子量は4,500であった。
【0116】
(合成例S−2−2〜合成例S−2−8)
使用する化合物の種類及び量を下記表4に示すとおりとした以外は、上記合成例S−2−1と同様の手法によりポリオルガノシロキサン(S−2−2)〜(S−2−8)を合成した。
【表4】

【0117】
表4中、カルボン酸の配合量[モル%]は、ポリオルガノシロキサンが有する珪素原子100モル%に対する値を示す。また、カルボン酸の略称は、それぞれ以下の化合物を示す。
【化18】

【0118】
(合成例S−2−9)
200mLの三口フラスコに、上記合成例E−1で合成したポリオルガノシロキサンEPS−1の10.0g、メチルイソブチルケトン30.28g、HCSA5.50g(ポリオルガノシロキサンEPS−1の有する珪素原子に対して20モル%に相当)およびテトラブチルアンモニウムブロミド0.10gを仕込み、90℃で36時間撹拌下に反応を行った。反応終了後、反応混合物にメタノールを加えて沈殿を生成させ、この沈殿物を酢酸エチルに溶解して得た溶液を3回水洗した後、溶剤を留去することにより、ポリオルガノシロキサン(S−2−9)の白色粉末10.1gを得た。ポリオルガノシロキサン(S−2−9)の重量平均分子量は5,200であった。
【0119】
(合成例S−2−10〜合成例S−2−12)
使用する化合物の種類及び量を上記表4に示すとおりとした以外は、上記合成例S−2−9と同様の手法によりポリオルガノシロキサン(S−2−10)〜(S−2−12)を合成した。
【0120】
<液晶配向剤の調製>
(実施例1)
合成例S−1−5で得たポリオルガノシロキサン(S−1−5)を、N−メチル−2−ピロリドン及びブチルセロソルブを加えて溶解し、溶媒組成がN−メチル−2−ピロリドン:ブチルセロソルブ=50:50(質量比)、固形分濃度が4.0質量%の溶液とした。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤を調製した。
(実施例2〜27及び比較例1)
使用するポリオルガノシロキサンの種類及び量をそれぞれ下記表5に記載のとおりとしたほかは、実施例1と同様にして液晶配向剤を調製した。なお、下記表5中、ポリオルガノシロキサンの配合量(重量部)は、使用したポリオルガノシロキサンの全量100重量部に対する割合を示す。
【表5】

【0121】
<液晶表示素子の製造と評価>
上記で調製した液晶配向剤を用いて、下記のように透明電極のパターン(2種類)及び紫外線照射量(3水準)を変更して、計6個の液晶表示素子を製造し評価した。
【0122】
[パターンなし透明電極を有する液晶表示素子の製造]
上記で調製した液晶配向剤のそれぞれについて、液晶配向膜印刷機(日本写真印刷(株)製)を用いてITO膜からなる透明電極を有するガラス基板の透明電極面上に塗布し、80℃のホットプレート上で1分間加熱(プレベーク)して溶媒を除去した後、150℃のホットプレート上で10分間加熱(ポストベーク)して、平均膜厚600Åの塗膜を形成した。
この塗膜に対し、レーヨン布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンにより、ロール回転数400rpm、ステージ移動速度3cm/秒、毛足押しこみ長さ0.1mmでラビング処理を行った。その後、超純水中で1分間超音波洗浄を行い、次いで100℃クリーンオーブン中で10分間乾燥することにより、液晶配向膜を有する基板を得た。この操作を繰り返し、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)得た。
【0123】
次に、上記一対の基板の液晶配向膜を有するそれぞれの外縁に、直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤を塗布した後、液晶配向膜面が相対するように重ね合わせて圧着し、接着剤を硬化させた。次いで、液晶注入口より一対の基板間に、ネマチック液晶(メルク社製、MLC−6608)を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止することにより、液晶表示素子を製造した。
上記の操作を繰り返し行い、パターンなし透明電極を有する液晶表示素子を3個製造した。そのうちの1個はそのまま後述のプレチルト角の評価に供した。残りの2個の液晶表示素子については、それぞれ下記の方法により導電膜間に電圧を印加した状態で光照射した後にプレチルト角および電圧保持率の評価に供した。
【0124】
上記で得た液晶表示素子のうちの2個について、それぞれ電極間に周波数60Hzの交流10Vを印加し、液晶が駆動している状態で、光源にメタルハライドランプを使用した紫外腺照射装置を用いて、紫外線を10,000J/mまたは100,000J/mの照射量にて照射した。なお、この照射量は、波長365nm基準で計測される光量計を用いて計測した値である。
【0125】
[配向性の評価]
上記で製造した液晶表示素子につき、電圧無印加状態における光漏れ・配向乱れの有無をバックライト照射下、目視により観察した。評価は、光漏れ・配向乱れのない場合を「良」とし、光漏れ・配向乱れが存在する場合を「不良」として行った。その結果を下記表6に示す。
【0126】
[プレチルト角の評価]
上記で製造した各液晶セルについて、それぞれ非特許文献1(T. J. Scheffer et. al., J. Appl. Phys. vo. 48, p. 1783(1977))および非特許文献2(F. Nakano et. al., JPN. J. Appl. Phys. vo. 19, p. 2013(1980))に記載の方法に準拠して、He−Neレーザー光を用いる結晶回転法により液晶分子の基板面からの傾き角を測定し、その測定値をプレチルト角とした。
光未照射の液晶表示素子、照射量10,000J/mの液晶表示素子および照射量100,000J/mの液晶表示素子のそれぞれのプレチルト角の測定結果を下記表6に示す。
【0127】
[液晶配向膜の剥離性の評価]
厚さ1mmのガラス基板の一面に設けられたITOからなる透明導電膜上に、上記で調製した液晶配向剤をスピナーにより塗布し、ホットプレート上100℃にて90秒間のプレベークを行い、膜厚約0.08μmの塗膜を形成した。この操作を繰り返し、塗膜付きの基板を2枚作成した。次に、得られた2枚の基板を窒素雰囲気下25℃の暗室に保管した。保管開始から12時間後、72時間後にそれぞれ暗室から取り出し、40℃に加温した三洋化成工業社製TS−204(液晶配向膜剥離液)の入ったビーカーに2分間浸漬した。2分後、基板をビーカーから取り出し、超純水で数回洗浄した後、エアブローにて表面の水滴を取り去り、基板を観察し、塗膜が残っていないかを光学顕微鏡によって観察した。72時間経過後に暗室から取り出し、NMP浸漬後に塗膜が残っておらず剥離性が良好なものを「++」、72時間経過後に暗室から取り出した基板は剥離できなかったが12時間後に暗室から取り出した基板については剥離可能であったものを「+」、剥離できなかったものを「−」として評価した。評価結果を下記表6に示す。
【0128】
[電圧保持率の評価]
上記で製造したうちの10,000J/mの液晶表示素子について、23℃において5Vの電圧を60マイクロ秒の印加時間、167ミリ秒のスパンで印加した後、印加解除から167ミリ秒後の電圧保持率を測定した。測定装置としては(株)東陽テクニカ製、VHR−1を使用した。電圧保持率の測定結果を下記表6に示す。
【表6】

【0129】
[パターニングされた透明電極を有する液晶セルの製造(1)]
上記で調製した液晶配向剤を、図1に示したようなスリット状にパターニングされ、複数の領域に区画されたITO電極をそれぞれ有するガラス基板AおよびBの各電極面上に液晶配向膜印刷機(日本写真印刷(株)製)を用いて塗布し、80℃のホットプレート上で1分間加熱(プレベーク)して溶媒を除去した後、150℃のホットプレート上で10分間加熱(ポストベーク)して、平均膜厚600Åの塗膜を形成した。この塗膜につき、超純水中で1分間超音波洗浄を行った後、100℃クリーンオーブン中で10分間乾燥することにより、液晶配向膜を有する基板を得た。この操作を繰り返し、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)得た。
次いで、上記一対の基板の液晶配向膜を有するそれぞれの外縁に、直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤を塗布した後、液晶配向膜面が相対するように重ね合わせて圧着し、接着剤を硬化した。次いで、液晶注入口より一対の基板間に、ネマチック液晶(メルク社製、MLC−6608)を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止することにより、液晶表示素子を製造した。
【0130】
上記の操作を繰り返し行い、パターニングされた透明電極を有する液晶表示素子を3個製造した。そのうちの1個はそのまま後述の応答速度の評価に供した。残りの2個の液晶表示素子については、上記パターンなし透明電極を有する液晶セルの製造の場合と同様の方法により、導電膜間に電圧を印加した状態で10,000J/mまたは100,000J/mの照射量にて光照射した後に応答速度の評価に供した。
なお、ここで用いた電極のパターンは、PSAモードにおける電極パターンと同種のパターンである。
【0131】
[応答速度の評価]
上記で製造した各液晶表示素子につき、先ず電圧を印加せずに可視光ランプを照射して液晶表示素子を透過した光の輝度をフォトマルチメーターにて測定し、この値を相対透過率0%とした。次に液晶表示素子の電極間に交流60Vを5秒間印加したときの透過率を上記と同様にして測定し、この値を相対透過率100%とした。
このとき、各液晶表示素子に対して交流60Vを印加したときに、相対透過率が10%から90%に移行するまでの時間を測定し、この時間を応答速度と定義して評価した。
光未照射の液晶表示素子、照射量10,000J/mの液晶表示素子および照射量100,000J/mの液晶表示素子のそれぞれの応答速度を下記表7に示す。
【0132】
[パターニングされた透明電極を有する液晶セルの製造(2)]
上記で調製した液晶配向剤を用い、図2に示したようなフィッシュボーン状にパターニングされたITO電極をそれぞれ有するガラス基板AおよびBを使用したほかは、上記パターニングされた透明電極を有する液晶セルの製造(1)と同様にして、光未照射の液晶表示素子、照射量10,000J/mの液晶表示素子および照射量100,000J/mの液晶表示素子を製造し、それぞれ上記と同様にして応答速度の評価に供した。評価結果を下記表7に示す。
【0133】
[パターニングされた透明電極を有する液晶セルの製造(3)]
上記で調製した実施例26の液晶配向剤を用い、注入するネマチック液晶(メルク社製、MLC−6608)に光重合性化合物を添加したほかは、上記パターニングされた透明電極を有する液晶セルの製造(1)と同様にして、光未照射の液晶表示素子、照射量10,000J/mの液晶表示素子および照射量100,000J/mの液晶表示素子を製造し、それぞれ上記と同様にして応答速度の評価に供した。評価結果を下記表7に示す。なお、光重合性化合物としては、通常PSA方式の液晶表示素子に使用される公知のものを使用した。
【表7】

【0134】
表6に示すように、実施例1〜26の液晶配向剤を用いて形成された塗膜は、特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)を含まない比較例1と比べて、基板に対する剥離性がいずれも良好であった。中でも、実施例1〜24は、基板に対する剥離性が特に良好であった。また、表6及び表7に示すように、実施例1〜26の液晶配向剤を用いて製造された液晶表示素子は、液晶配向性や電圧保持率、電圧変化に対する応答性、紫外線に対する耐性といった実用面で要求される種々の特性についても良好であった。
【符号の説明】
【0135】
1…ITO電極、2…スリット部、3…遮光膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基、ヒドロキシアルキル基、−NHR(但し、Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基である。)及びメルカプト基よりなる群から選ばれる少なくとも一つの特定基を有する特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)を含むことを特徴とする液晶配向剤。
【請求項2】
前記特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)は、前記特定基を、該特定基含有ポリオルガノシロキサンの固形分重量あたり7×10−6〜4×10−4[モル/g]含有する請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
前記特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)は、下記式(S1−1)〜式(S1−4)のいずれかで表される構造を有することにより前記特定基を有する請求項1又は2に記載の液晶配向剤。
【化1】

(式(S1−1)〜式(S1−4)中、Zは、単結合、炭素数1〜6のアルカンジイル基、又は−O−、−S−、−COO−、−OCO−若しくは−NR−(但し、Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基である。)よりなる群から選ばれる少なくとも一種を含む炭素数1〜20の2価の有機基である。「*」は、珪素原子との結合手であることを示す。)
【請求項4】
前記特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)は、上記式(S1−4)で表される構造として、下記式(S1−4a)又は式(S1―4b)で表される構造を有する請求項3に記載の液晶配向剤。
【化2】

(式(S1−4a)及び式(S1―4b)中、R及びRは、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルカンジイル基であり、Rは、水素原子又は炭素数1〜3のアルカンジイル基であり、Rは、炭素数2〜6のアルカンジイル基である。Zは、硫黄原子又は−NR−(但し、Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基である。)である。「*」は、珪素原子との結合手であることを示す。)
【請求項5】
前記特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)は、上記式(S1−1)〜式(S1−3)のいずれかで表される構造として、下記式(S1−1a)〜式(S1−3a)で表される構造を有する請求項3に記載の液晶配向剤。
【化3】

(式(S1−1a)〜式(S1−3a)中、Rは、単結合又は炭素数1〜6のアルカンジイル基である。Rは、炭素数1〜3のアルカンジイル基であり、Rは、単結合又は炭素数1〜6のアルカンジイル基であり、Yは、単結合又は酸素原子である。但し、Rが単結合の場合、Yは単結合である。「*」は、珪素原子との結合手であることを示す。)
【請求項6】
更に、前記特定基含有ポリオルガノシロキサン(S1)以外のその他のポリオルガノシロキサン(S2)を含む請求項1乃至5のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項7】
前記その他のポリオルガノシロキサン(S2)として、エポキシ基含有ポリオルガノシロキサン(S2a)を含む請求項6に記載の液晶配向剤。
【請求項8】
前記エポキシ基含有ポリオルガノシロキサン(S2a)は、下記式(X2−1)又は式(X2−2)で表される基を有する請求項7に記載の液晶配向剤。
【化4】

(式(X2−1)中、Aは、単結合又は酸素原子であり、hは、1〜3の整数であり、iは、0〜6の整数である。但し、iが0の場合、Aは単結合である。式(X2−2)中、jは、1〜6の整数である。「*」は珪素原子との結合手であることを示す。)
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の液晶配向剤により形成された液晶配向膜。
【請求項10】
請求項9に記載の液晶配向膜を具備する液晶表示素子。
【請求項11】
導電膜を有する一対の基板の該導電膜上にそれぞれ、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の液晶配向剤を塗布して塗膜を形成し、
前記塗膜を形成した一対の基板の前記塗膜が、液晶層を介して相対して対向配置した構成の液晶セルを形成し、
前記一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で前記液晶セルに光照射する工程を経ることを特徴とする液晶表示素子の製造方法。
【請求項12】
下記式(S1−1)〜式(S1−4)のいずれかで表される構造を有するポリオルガノシロキサン。
【化5】

(式(S1−1)〜式(S1−4)中、Zは、単結合、炭素数1〜6のアルカンジイル基、又は−O−、−S−、−COO−、−OCO−若しくは−NR−(但し、Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基である。)よりなる群から選ばれる少なくとも一種を含む炭素数1〜20の2価の有機基である。「*」は、珪素原子との結合手であることを示す。)

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−57815(P2013−57815A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196197(P2011−196197)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】