液滴吐出装置及び液滴吐出方法
【課題】コンタミネーション(細菌感染や汚濁)の可能性を低減すること。
【解決手段】ディッシュ11に保持された培養液中の試料細胞に向けて、当該試料細胞に作用する物質を含む液体を吐出する液滴吐出装置10を、上記試料細胞に作用する物質を含む液体を保持するとともに、当該液体を吐出する吐出口を有する吐出ヘッド12と、印加される電圧に応じて、上記吐出ヘッド12の吐出口から当該液体を吐出させる圧電素子34と、上記吐出ヘッド12の吐出口が上記培養液に非接触の位置にあるときに、上記圧電素子34に所定の電圧を印加する制御用・画像表示用PC17と、から構成する。
【解決手段】ディッシュ11に保持された培養液中の試料細胞に向けて、当該試料細胞に作用する物質を含む液体を吐出する液滴吐出装置10を、上記試料細胞に作用する物質を含む液体を保持するとともに、当該液体を吐出する吐出口を有する吐出ヘッド12と、印加される電圧に応じて、上記吐出ヘッド12の吐出口から当該液体を吐出させる圧電素子34と、上記吐出ヘッド12の吐出口が上記培養液に非接触の位置にあるときに、上記圧電素子34に所定の電圧を印加する制御用・画像表示用PC17と、から構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微少量の試薬、薬液などの液体を吐出する液滴吐出装置及び液滴吐出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、試料細胞を保護する培養液中に試薬や遺伝子などを含む液体を保持する管状部材の先端を浸漬し、当該試料細胞に対して試薬などを導入する試みが提案されている。
【特許文献1】特開2004−321115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に開示されているような導入方法では、試薬などを保持する管状部材が培養液に直接的に触れるため、複数の培養容器中の試料細胞を処理すると、培養容器間での細菌感染など危険性が増加したり、異なる培養液のもちこしなどのコンタミネーション(細菌感染や汚濁)が増加する。
【0004】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、コンタミネーションの可能性を低減できる液滴吐出装置及び液滴吐出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の液滴吐出装置の一態様は、容器に保持された培養液中の試料細胞に向けて、当該試料細胞に作用する物質を含む液体を吐出する液滴吐出装置であって、
上記試料細胞に作用する物質を含む液体を保持するとともに、当該液体を吐出する吐出口を有する液体保持部材と、
印加される電圧に応じて、上記液体保持部材の吐出口から当該液体を吐出させる駆動手段と、
上記液体保持部材の吐出口が上記培養液に非接触の位置にあるときに、上記駆動手段に所定の電圧を印加する制御手段と、
を具備することを特徴とする。
【0006】
また、本発明の液滴吐出方法の一態様は、容器に保持された培養液中の試料細胞に向けて、当該試料細胞に作用する物質を含む液体を吐出する液滴吐出装置であって、上記試料細胞に作用する物質を含む液体を保持するとともに、当該液体を吐出する吐出口を有する液体保持部材と、印加される電圧に応じて、上記液体保持部材の吐出口から当該液体を吐出させる駆動手段と、を備える液滴吐出装置の吐出方法であって、
上記液体保持部材を上記培養液に非接触の位置に配置する工程と、
上記位置に上記液体保持部材が存在するときに、上記駆動手段によって上記液体保持部材から液体を吐出させる工程と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、培養液に非接触で、試料細胞に作用すべき物質を含む液体を吐出させることで、コンタミネーションの可能性を低減できる液滴吐出装置及び液滴吐出方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照して説明する。
【0009】
図1は、本発明の一実施形態に係る液滴吐出装置の機械的な構成を示す図である。この液滴吐出装置10は、培養液中の試料細胞の任意の細胞に、選択的に薬剤刺激、遺伝子の導入、蛍光標識の付加(染色)などに利用されるものであって、刺激用薬剤(試薬)、遺伝子または蛍光標識などを含有する液体を、吐出ヘッドから対象物である所望の試料細胞に向けて吐出させるものである。
【0010】
本実施形態に係る該液滴吐出装置10は、ディッシュ(シャーレ)11、複数(図1では3本)の吐出ヘッド12、圧電素子(図1では不図示)、XYステージ13、Zステージ14、倒立型顕微鏡15、撮像部(デジタルカメラ)16、制御用・画像表示用パーソナルコンピュータ(PC)17から構成されている。
【0011】
ここで、上記ディッシュ11は、培養液中に存在する試料細胞の容器である。上記複数の吐出ヘッド12は、異なるまたは同じ吐出液体が予め保持された液体保持部材であり、ディッシュ11より鉛直方向上方に配置される。なお、当該液体は試料細胞に作用する薬剤または物質を含んでいる。圧電素子は、上記吐出ヘッド12をヘッドの吐出方向に高速に進退させることにより、吐出ヘッド12に保持される液体に慣性力を作用させ、それによって当該液体を吐出ヘッド12から吐出させる駆動手段である。
【0012】
上記XYステージ13は、それに載置されたディッシュ11を水平面内で移動させ、水平方向における吐出ヘッド12とディッシュ11(試料)との相対位置を設定するものである。また、上記Zステージは、Zレール18に沿って移動することで、上記吐出ヘッド12を鉛直方向に移動させ、鉛直方向における吐出位置を設定する。
【0013】
上記倒立型顕微鏡15は、例えば特開2002−174772号公報に開示されているように、光源19からの光を利用して試料の顕微鏡像を取得するものである。この倒立型顕微鏡15においては、択一的に光路中に配置される複数の対物レンズ20、光源19から光束を上記対物レンズ20の方向へ偏向するハーフミラー21、上記対物レンズ20と共に試料の拡大像を形成する結像レンズ22、及び該結像レンズ22からの射出光束を水平方向に偏向させる2枚のミラー23、24によって、試料の1次像I1を形成している。そして、このような1次像I1は、リレー光学系25によってリレーされ、一体的に光路中に挿脱可能な2枚のミラー26、27によって鉛直上方への反射光と前方への透過光の2つの光束に選択的に導かれる。このうち、鉛直上方へ反射された光束は、2次像I2として結像し、さらに第2のリレー光学系28によってリレーされた後に鏡筒29に取り付けられた接眼レンズ30に入射して、観察者の目に到達し観察される。一方、前方への透過光は、撮影レンズ31を介して上記撮像部16に導かれる。このように、該撮像部16は、試料細胞の顕微鏡画像を撮影する撮像手段である。
【0014】
上記制御用・画像表示用PCは、上記倒立型顕微鏡15及び撮像部16とそれぞれケーブル32、33によって接続され、そのケーブル32、33を介して上記XYステージ13、Zステージ14、吐出ヘッド12、圧電素子及び撮像部16を制御すると共に、試料の顕微鏡画像を表示するディスプレイ及び操作入力手段としてのキーボードやマウスなどを有する制御手段である。
【0015】
なお、上記吐出ヘッド12内部に、吐出されるべき試料を充填させる方法としては、予め充填された吐出ヘッド12を装置上にセットするものとする。勿論、特開2001−235400に開示されているような、吐出ヘッド12にテフロン(登録商標)配管、吸引排出用のシリンジピストンポンプ(他に、ベリスタポンプ)を接続し、吐出すべき試料を、吐出口から内部に吸引し、吐出動作完了後、吐出口から排出する等の液体供給ユニットを装置内に組み、制御用・画像表示用PC17にてコントロールするようしても良い。また、試料はサンプルカップ等から吸引することが多く、サンプルカップを装置上に構成しても、人手により吐出口にサンプルカップ内の試料に浸積して吸引しても良い。
【0016】
ところで、上記吐出ヘッド12は、例えば後述する図3Bを参照して説明するような慣性を利用して液体を吐出するヘッドである。具体的には、薬剤などを含む液体を保持する流路(液体保持部材)を瞬時的にわずかに進退移動させることにより、当該流路中の液体に慣性力が作用し、その結果、吐出ヘッド12内に保持されている液体の一部が液滴として外部に吐出されるものである。この進退移動は、吐出ヘッド12(流路)に機械的に固定された上記圧電素子によって行われる。
【0017】
図2は、一実施形態に係る液滴吐出装置10の機能的な構成を示すブロック図である。上記制御用・画像表示用PC17は、該液滴吐出装置10の全体を制御する制御部(PC本体)171と、吐出位置、吐出領域、液体種の設定などの入力を行う入力部(操作部)172と、顕微鏡画像、吐出領域などの設定情報の入力要求及び設定結果の表示を行う表示部173と、設定された吐出位置、吐出領域、液体種等の情報を記憶する記憶部174とを備える。また、この記憶部174は、制御部171で実行される制御プログラムを記憶している。
【0018】
係る構成において、制御部171は、撮像部16を制御して、XYステージ13上に載置されたディッシュ11内の試料を倒立型顕微鏡15の顕微鏡光学系を介して撮像させ、その撮像によって得られた顕微鏡画像を表示部173に表示させる。そして、表示部173に、吐出領域などの設定情報の入力要求を表示させ、入力部172のユーザ操作による吐出位置、吐出領域、液体種の設定などの入力を受け付けて、その情報を表示部173に表示させると共に、記憶部174に記憶させる。その後、その記憶部174に記憶された情報に従って、XYステージ13及びZステージ14を制御して、吐出ヘッド12とディッシュ11(試料)との相対位置を設定した上で、上記吐出ヘッド12に機械的に固定された上記圧電素子34に所定の電圧を印加して上記吐出ヘッド12をヘッドの吐出方向に高速に進退させることにより、吐出ヘッド12に保持される液体に慣性力を作用させ、それによって吐出ヘッド12からディッシュ11内の試料に対して当該液体を吐出させる。
【0019】
ここで、上記吐出ヘッド12の概要を図3A及び図3Bを参照して説明する。
【0020】
図3Aは、吐出ヘッド12と圧電素子34を含む液滴吐出部の外観を示す斜視図である。同図に示すように、液滴吐出部は、加速度印加要素として積層型の圧電素子34を用いる。この圧電素子34の一端は、上記架台としてのZステージ14に固定されており、他端は吐出ヘッド12に固定されている。吐出ヘッド12は、流路35とノズル36から構成されている。流路35は、ストレート部35Aとテーパ部35Bからなる。圧電素子34と流路35の間は剛体として形成されているため、圧電素子34の変位により流路35の容積が変化することはなく、また圧電素子34の一端はZステージ14に固定されているため、圧電素子34の変位に伴って吐出ヘッド12全体が図中上下方向に変位するようになっている。圧電素子34には、上述したように、制御部171から所望の波形の電圧を印加するようになっている。
【0021】
次に、吐出動作について、図3Bを参照して説明する。ここで、図3Bは、吐出ヘッド12を断面として時間的な変化を示す図である。
【0022】
制御部171から圧電素子34に印加する電圧が初期電圧E0の間は、状態(a)に示すように、液滴吐出部は静止している。このときのノズル36の位置を同図中のAとする。
【0023】
制御部171から圧電素子34に印加する電圧を緩やかに上昇させると、その電圧の緩やかな上昇に伴い、液滴吐出部は、状態(b)に示すように、図中下方向にゆっくりと変位する。そして、制御部171から圧電素子34に印加する電圧を最大供給電圧E1まで上昇させると、状態(c)に示すように、ノズル36はBの位置まで降下する。この最大供給電圧E1は、吐出量つまり液滴の径に依存する値である。
【0024】
ここで、制御部171から圧電素子34に印加する電圧を、上記最大供給電圧E1から瞬時に上記初期電圧E0まで減少させると、状態(d)に示すように、液滴吐出部もその電圧減少に伴い急激に図中上方向に変位する。このとき、流路35内の薬剤などを含む液体には図中下方向の慣性力が作用し、流路35内に相対的な流れが発生する。流路35内に発生した流れはテーパ部35Bで速度を増しながら、ノズル36より吐出される。
【0025】
この後、状態(e)に示すように、液滴吐出部は初期の位置に戻る。
【0026】
なお、上記吐出ヘッド12は、以下のような特徴を有する。
【0027】
ノズル36の吐出口直径は概ねφ5μm〜φ500μmである。ただし、吐出する液の分子サイズより十分大きいものが使用される。
【0028】
また、液滴の径は、φ5μm〜φ500μmの範囲である。細胞の大きさにより、例えば、圧電素子34への最大供給電圧E1を調整し、細胞1個の大きさから、複数の細胞の大きさまで、吐出される液滴の直径を可変できる。
【0029】
上記液滴の大きさは、吐出ヘッド12の流路35中に存在する液量または吐出ヘッド12の駆動条件(進退速度、電圧印加時間、加速度等)を調整することで制御することができる。
【0030】
次に、上記構成の一実施形態に係る液滴吐出装置10の動作を説明する。
【0031】
図4(A)は、該液滴吐出装置10の制御用・画像表示用PC17の制御部171により実行される制御プログラムのフローチャートを示す図である。
【0032】
同図に示すように、該液滴吐出装置10は、まず、画像取得工程を実施する(ステップS1)。これは、周知の手順によって撮像部16によりディッシュ11内の試料細胞の顕微鏡画像を取得し、それを記憶部174に記憶するステップである。
【0033】
次に、吐出位置・液体設定工程を実施する(ステップS2)。即ち、上記取得された画像を表示部173に表示させながら、吐出位置、吐出領域の大きさ(径)及び吐出する液体の種類などの入力要求を表示する。そして、それに応じて入力部172から入力された吐出位置などの吐出情報を記憶部174に記憶させる。即ち、上記3個の吐出ヘッド12は、それぞれ異なる種類の液体を吐出できるので、どの液体をどこにどれだけの大きさで吐出するかをユーザに設定させるものである。
【0034】
そして、実際の吐出工程を実施する(ステップS3)。これは、吐出情報を記憶部174から読み出し、それに基づいて吐出ヘッド12の選択、位置設定、及び吐出を行うステップである。
【0035】
複数種の液体の吐出が行われる場合は、上記フローチャートの動作が繰り返し行われる。
【0036】
ここで、上記ステップS2における吐出位置・液体設定工程の詳細を、図4(B)及び図5(A)を参照して説明する。なお、図4(B)は該吐出位置・液体設定工程の詳細フローチャートを示す図であり、図5(A)は吐出位置・液体設定画面を示す図である。
【0037】
即ち、図4(B)に示すように、該吐出位置・液体設定工程においては、まず、画像表示工程を実施する(ステップS21)。これは、吐出位置を決定するための判断用画像として、上記のステップS1にて取得された試料の顕微鏡画像を表示部173に表示させるステップである。
【0038】
次に、入力要求工程を実施する(ステップS22)。これは、吐出位置設定の情報の入力を要求する表示を表示部173に表示するステップである。
【0039】
その後、入力受付工程を実施する(ステップS23)。即ち、吐出位置、吐出領域の大きさ、吐出する液体種などの情報がキーボードなどの入力部172から入力されたとき、その入力された情報を受け付ける。これは、表示された顕微鏡画像上において、液体を吐出する中心座標、径、液体種の指定を受け付けるステップである。具体的な吐出領域などの指定手段としては、GUIを利用し、キーボードに限らず、マウスやタッチパネルなどの種々の入力デバイスを利用することが好ましい。
【0040】
そして、吐出位置表示工程を実施する(ステップS24)。これは、図5(A)に示すように、上記ステップS23で受け付けた情報を、上記ステップS21で表示した顕微鏡画像に重畳させて、表示部173に表示するステップである。これにより、操作者は吐出位置の適否を確認することができる。なお、図5(A)においては、簡略化のため、顕微鏡画像は省略して示しており、ある試薬(液体)、例えば試薬A(液体A)は実線で、他の試薬(液体)、例えば試薬B(液体B)は破線でそれぞれ表している。
【0041】
上記試薬(液体)のと吐出位置及び吐出領域の大きさは、図5(A)中の右半分に示されるように、試薬A(液体A)と試薬B(液体B)を分離させるように設定しても良いし、同図中の左半分に示されるように、試薬AとBの吐出領域に交わりを作り、一部重ね合わさるように設定しても良い。
【0042】
そして最後に、吐出位置記憶工程を実施する(ステップS25)。即ち、上記設定された吐出位置などの情報を記憶部174に記憶させる。
【0043】
ところで、上記ステップS24で説明したように、吐出領域を設定する際には、一部交わりを作るように、隣接する吐出領域を設定することができる。このように、交わりの部分においては吐出された液体に含まれる試薬や物質の濃度が高くなり、それ以外においては低くなる、という濃度分布を形成させることができる。即ち、ひとつのディッシュ11内の極めて狭い範囲において、吐出される液体(試料細胞に対して作用する試薬または物質が含む)の濃度差が異なる領域を設定することが可能となり、同じ環境下の試料に対して当該吐出液体に含まれる試薬や物質が濃度の違いでどのように作用するかを観測することができる。
【0044】
次に、上記ステップS3における吐出工程の詳細を、図4(C)、図6、及び図7を参照して説明する。なお、図4(C)は該吐出工程の詳細フローチャートを示す図であり、図6は液滴吐出方式を説明するための図であり、図7は圧電素子34への印加電圧と吐出ヘッド12の進退移動との関係を示す図である。
【0045】
即ち、図4(C)に示すように、該吐出工程においては、まず、吐出位置・吐出液体設定の読み出し工程を実施する(ステップS31)。これは、上記ステップS25で記憶部174に格納された吐出位置、大きさなどの必要な情報を記憶部174から読み出すステップである。
【0046】
次に、吐出ヘッド選択工程を実施する(ステップS32)。即ち、上記ステップS31にて読み出された情報(吐出する液体種)に基づいて、適合する吐出ヘッド12を選択する。
【0047】
続けて、吐出ヘッド移動工程を実施する(ステップS33)。これは、上記ステップS32にて選択された吐出ヘッド12を、上記ステップS31にて読み出された情報(吐出位置)に基づいた位置に移動させるステップである。この際に、XY座標についてはXYステージ13を、Z座標についてはZステージ14を適当な距離移動させて、選択された吐出ヘッド12とディッシュ11(試料)との相対位置を確保する。
【0048】
そして、駆動電圧印加工程を実施する(ステップS34)。即ち、吐出ヘッド12の駆動手段である圧電素子34に、図7に示すような電圧を印加することで、これに伴い吐出ヘッド12が進退することにより、吐出ヘッド12内部の液体が吐出される。なおこの際、吐出位置は、図6に示されるように、ディッシュ11内の培養液37外の空気中に設定され、吐出ヘッド12はディッシュ11中の培養液37とは接触しないようにしている。そして、その位置から吐出が行われる。また、本実施形態においては、ここで圧電素子34に印加される電圧は、後で詳述するような波形を有するものである。
【0049】
その後、残りのヘッド有無を判別する工程を実施する(ステップS35)。即ち、上記ステップS34における吐出が完了した後、上記ステップS32で選択された吐出ヘッド12のうち、未だ吐出を行っていない残りの有無を確認する。そして、未だ吐出を行っていない吐出ヘッド12が存在すれば、上記ステップS32に戻り、全ての吐出が完了するまで、上記ステップS32乃至ステップS35の工程を繰り返する。そして、全ての選択された吐出ヘッド12の吐出が実行された後、この吐出工程が終了される。
【0050】
次に、上記ステップS34の駆動電圧印加工程において、吐出ヘッド12の駆動手段としての圧電素子34に印加される電圧の波形について説明する。
【0051】
上記印加される電圧波形としては、例えば、図8Aに示すようなローレンツ波形とすることができる。このローレンツ波形は、同図に示すように、
【数1】
【0052】
によって定義される。なおここで、aは振幅、bはピークのX軸位置、cはFWHM(半値全幅)である。
【0053】
或いは、上記印加される電圧波形としては、図8Bに示すようなガウシャン波形とすることができる。このガウシャン波形は、同図に示すように、
【数2】
【0054】
によって定義される。
【0055】
更には、上記印加される電圧波形として、図8Cに示すようなローレンツ波形とガウシャン波形との合成波形とすることができる。この合成波形は、同図に示すように、
【数3】
【0056】
によって定義される。なおここで、dはガウシャン波形の補正値である。このdは、0≦d≦1の値を取るもので、d=0の場合はこの合成波形は上記ローレンツ波形と同じ波形となり、d=1の場合は上記ガウシャン波形と同じ波形となる。
【0057】
何れの波形も急峻な傾きを有しているが、不連続な部分がないため、不要な高周波振動は発生せず、十分な吐出ヘッド12に保持された液体に対して作用する吐出力(慣性力)を得ることができる。
【0058】
なお、上記数1乃至数3に示した各式において、cの値は、1.0μs〜5msの範囲であり、圧電素子34の共振周波数を超えない値である。また、aの値は、圧電素子34に加える最大供給電圧E1であり、bの値は、圧電素子34を動作させる全ステップ数の半分である。
【0059】
上記圧電素子34は高電圧を加えると伸びるものであり、圧電素子34の伸縮幅は1μm〜100μmとする。圧電素子34のa値を小さくすることで、共振周波数以上のc値が設定できる。但し、圧電素子34は共振が無いことが必須である。
【0060】
なお、圧電素子34の駆動電圧としてサイン波形を利用しても、不連続な部分がないため共振は発生しないが、そのようなサイン波形では、上記ガウシャン波形またはローレンツ波形よりも傾きが緩やかであるため、液体の吐出量の確保や対応できる液体の粘度の範囲がガウシャン波形またはローレンツ波形を利用したときより減少してしまう。しかしながら、使用する液体によっては、サイン波形の利用も勿論可能である。
【0061】
以上詳述したように、本発明の一実施形態に係る液滴吐出装置10によれば、吐出ヘッド12内に保持された液体に対して十分な慣性力(加速度)が作用し確実な吐出が期待されるとともに、圧電素子34の駆動電圧として、不連続に印加電圧が変化しない波形、好ましくはガウシャン波形またはローレンツ波形、もしくは、それらの合成波形を用いることで、圧電素子34によって進退駆動される吐出ヘッド12において不要な高周波振動が発生しない。このように高周波振動が発生しないことにより、サテライト液滴が吐出されないため、正確に適正な量の液滴が吐出される。これにより、試料上の所望の領域のみに当該液滴が1個だけ到達可能となる。即ち、上記一実施形態に係る液滴吐出装置10は、所望の領域の試料に、選択的かつ正確に液滴を到達させることができる。
【0062】
また、異なる液体が吐出される領域を設定させる際に、各吐出領域に交わりを持たせることも可能となる。このため、数種の液滴が混在する領域とそうではない領域、即ち試料に対して何らかの作用を及ぼす複数種の薬剤または物質が存在する領域とそうではない領域を選択的に設定することができるため、これら薬剤または物質の試料に対する相互作用の観測が可能となる。
【0063】
更に、上記一実施形態に係る液滴吐出装置10は、液滴の吐出を試料の周囲に存在する液体(培養液37)に吐出ヘッド12の先端を触れさせず、吐出ヘッド12の吐出口が空気中に存在するときに液滴を吐出させる。従って、吐出ヘッド12はディッシュ11中の培養液37に触れないため、複数のディッシュ11を扱う場合においても、吐出ヘッド12を介したディッシュ11から他のディッシュ11への汚染の虞を劇的に低下させることができる。
【0064】
以上実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形や応用が可能なことは勿論である。
【0065】
例えば、上記一実施形態では、3個の吐出ヘッド12を備える液滴吐出装置10を説明したが、吐出ヘッド12の数はそれに限定されるものではなく、1個しか備えていなくても良いし、何個備えていても構わない。
【0066】
また、図5(A)では、2種類の試薬(液体)をそれぞれ2つの吐出領域に吐出する場合を例に示したが、複数領域に限らず単数領域でも良いことは勿論である。或いは、複数領域設定で、重なり無しでも良い。
【0067】
また、吐出される液体が複数種に限らず、同じものでも良い。その場合、図5(B)に示すように、吐出領域の交わり(重なり)を発生させることにより、吐出領域中のそれ以外の部分との濃度差を生じさせることができる。図5(B)においては、理想的であれば、中央部分の濃度が一番高いことになる。このような濃度差を生じさせることにより、極めて近い領域において薬剤または物質の濃度高低による影響を観測することもできる。なお、このように1種類の液体を使用する場合は、吐出は1回以上であれば良く、条件は限定されない。
【0068】
また、図5(C)に示すように、異なる液体(薬剤または物質)の交わりを多数設けるように吐出してもかまわない。図5(C)の例においては、理想的であれば、中央部分には4種類の液体が重なることになる。このように異なる液体の交わりを多数設けることで、極めて近い領域において、薬剤または物質の相互作用による影響を観測することができる。なお、このように複数種類の液体を使用する場合は、吐出は各液体1回以上であれば良く、条件は限定されない。
【0069】
(付記)
前記の具体的実施形態から、以下のような構成の発明を抽出することができる。
【0070】
(1) 容器に保持された培養液中の試料細胞に向けて、当該試料細胞に作用する物質を含む液体を吐出する液滴吐出装置であって、
上記試料細胞に作用する物質を含む液体を保持するとともに、当該液体を吐出する吐出口を有する液体保持部材と、
印加される電圧に応じて、上記液体保持部材の吐出口から当該液体を吐出させる駆動手段と、
上記液体保持部材の吐出口が上記培養液に非接触の位置にあるときに、上記駆動手段に所定の電圧を印加する制御手段と、
を具備することを特徴とする液滴吐出装置。
【0071】
(実施形態との対応)
この(1)に記載の液滴吐出装置は、図1、図2、図6に対応するものである。また、一実施形態における液滴吐出装置10が上記液滴吐出装置に、ディッシュ11が上記容器に、培養液37が上記培養液に、吐出ヘッド12が上記液体保持部材に、圧電素子34が上記駆動手段に、制御用・画像表示用PC17の制御部171が上記制御手段に、それぞれ対応する。
【0072】
(作用効果)
この(1)に記載の液滴吐出装置によれば、培養液中の試料細胞に向けて液体を吐出させる液滴吐出装置において、上記液体を吐出する液体保持部材の吐出口を培養液に浸漬させずに吐出させるので、試料細胞へのコンタミネーションの可能性を低減することができる。
【0073】
(2) 上記制御手段は、上記液体保持部材の吐出口が空気中に存在するときに上記駆動手段に電圧を印加し、上記液体の吐出を行うことを特徴とする(1)に記載の液滴吐出装置。
【0074】
(実施形態との対応)
この(2)に記載の液滴吐出装置は、図6に対応するものである。
【0075】
(作用効果)
この(2)に記載の液滴吐出装置によれば、液滴の吐出を試料細胞の周囲に存在する培養液に吐出口を触れさせず、吐出口が空気中に存在するときに液滴を吐出させるので、複数の培養液を扱う場合においても、吐出口を介した培養液から他の培養液への汚染の虞を劇的に低下させることができる。
【0076】
(3) 上記駆動手段は、上記液体保持部材に保持された上記液体に慣性力を作用させ上記吐出口から当該液体を吐出させるために、上記印加される電圧に応じて上記液体保持部材を上記液体の吐出方向と略平行な方向に進退させることを特徴とする(1)に記載の液滴吐出装置。
【0077】
(実施形態との対応)
この(3)に記載の液滴吐出装置は、図7に対応するものである。
【0078】
(作用効果)
この(3)に記載の液滴吐出装置によれば、吐出口の径が小さくても目詰まりを心配することなく吐出できる。
【0079】
(4) 上記制御手段は、上記液体保持部材を進退させる電圧として、ガウシャン波形の電圧、ローレンツ波形の電圧、及び上記ガウシャン波形とローレンツ波形の合成された波形の電圧の何れかを上記駆動手段に印加することを特徴とする(3)に記載の液滴吐出装置。
【0080】
(実施形態との対応)
この(4)に記載の液滴吐出装置は、図8A、図8B、図8Cに対応するものである。
【0081】
(作用効果)
この(4)に記載の液滴吐出装置によれば、駆動手段に印加する電圧を、急峻な傾きを有するが不連続な部分がないガウシャン波形又はローレンツ波形もしくはそれらの合成波形の電圧とすることで、液体保持部材に不要な高周波振動は発生せず、十分な吐出力(慣性力)を得ることができるので、対象物上に吐出される液滴が所望の液滴のみになり、サテライトの発生を抑制できる。
【0082】
(5) 上記吐出される液体は、試料細胞に刺激を与える薬剤、当該試料細胞に作用される遺伝子または当該試料細胞を染める色素であることを特徴とする(1)に記載の液滴吐出装置。
【0083】
(作用効果)
この(5)に記載の液滴吐出装置によれば、ノズル目詰まりを心配することなく、試料細胞に刺激を与える薬剤、当該試料細胞に作用される遺伝子、または、当該試料細胞を染める色素を吐出できるので、遺伝子検査機や生化学分析機などに適用可能である。
【0084】
(6) 容器に保持された培養液中の試料細胞に向けて、当該試料細胞に作用する物質を含む液体を吐出する液滴吐出装置であって、上記試料細胞に作用する物質を含む液体を保持するとともに、当該液体を吐出する吐出口を有する液体保持部材と、印加される電圧に応じて、上記液体保持部材の吐出口から当該液体を吐出させる駆動手段と、を備える液滴吐出装置の吐出方法であって、
上記液体保持部材を上記培養液に非接触の位置に配置する工程と、
上記位置に上記液体保持部材が存在するときに、上記駆動手段によって上記液体保持部材から液体を吐出させる工程と、
を有することを特徴とする液滴吐出方法。
【0085】
(実施形態との対応)
この(6)に記載の液滴吐出方法は、図1、図2、図4、図6に対応するものである。また、一実施形態における液滴吐出装置10が上記液滴吐出装置に、ディッシュ11が上記容器に、培養液37が上記培養液に、吐出ヘッド12が上記液体保持部材に、圧電素子34が上記駆動手段に、ステップS34が上記配置する工程及び上記印加する工程に、それぞれ対応する。
【0086】
(作用効果)
この(6)に記載の液滴吐出方法によれば、培養液中の試料細胞に向けて液体を吐出させる液滴吐出装置において、上記液体を吐出する液体保持部材の吐出口を培養液に浸漬させずに吐出させるので、試料細胞へのコンタミネーションの可能性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る液滴吐出装置の機械的な構成を示す図である。
【図2】図2は、一実施形態に係る液滴吐出装置の機能的な構成を示すブロック図である。
【図3A】図3Aは、吐出ヘッドと圧電素子を含む液滴吐出部の外観を示す斜視図である。
【図3B】図3Bは、吐出ヘッドを断面として時間的な変化を示す図である。
【図4】図4(A)は、一実施形態に係る液滴吐出装置の制御用・画像表示用PCの制御部により実行される制御プログラムのフローチャートを示す図であり、図4(B)は、図4(A)中の吐出位置・液体設定工程の詳細フローチャートを示す図であり、図4(C)は、図4(A)中の吐出工程の詳細フローチャートを示す図である。
【図5】図5(A)は、吐出位置・液体設定画面を示す図であり、図5(B)は、単一試薬の複数重ね合わせを説明するための図であり、図5(C)は、複数試薬の重ね合わせを説明するための図である。
【図6】図6は、液滴吐出方式を説明するための図である。
【図7】図7は、圧電素子への印加電圧と吐出ヘッドの進退移動との関係を示す図である。
【図8A】図8Aは、ローレンツ波形とそれを定義する式とを示す図である。
【図8B】図8Bは、ガウシャン波形とそれを定義する式とを示す図である。
【図8C】図8Cは、ローレンツ波形とガウシャン波形との合成波形とそれを定義する式とを示す図である。
【符号の説明】
【0088】
10…液滴吐出装置、 11…ディッシュ(シャーレ)、 12…吐出ヘッド、 13…XYステージ、 14…Zステージ、 15…倒立型顕微鏡、 16…撮像部(デジタルカメラ)、 17…制御用・画像表示用パーソナルコンピュータ(PC)、 18…Zレール、 19…光源、 20…対物レンズ、 21…ハーフミラー、 22…結像レンズ、 23,24,26,27…ミラー、 25…リレー光学系、 28…第2のリレー光学系、 29…鏡筒、 30…接眼レンズ、 31…撮影レンズ、 32,33…ケーブル、 34…圧電素子、 35…流路、 35A…ストレート部、 35B…テーパ部、 36…ノズル、 37…培養液、 171…制御部(PC本体)、 172…入力部(操作部)、 173…表示部、 174…記憶部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、微少量の試薬、薬液などの液体を吐出する液滴吐出装置及び液滴吐出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、試料細胞を保護する培養液中に試薬や遺伝子などを含む液体を保持する管状部材の先端を浸漬し、当該試料細胞に対して試薬などを導入する試みが提案されている。
【特許文献1】特開2004−321115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に開示されているような導入方法では、試薬などを保持する管状部材が培養液に直接的に触れるため、複数の培養容器中の試料細胞を処理すると、培養容器間での細菌感染など危険性が増加したり、異なる培養液のもちこしなどのコンタミネーション(細菌感染や汚濁)が増加する。
【0004】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、コンタミネーションの可能性を低減できる液滴吐出装置及び液滴吐出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の液滴吐出装置の一態様は、容器に保持された培養液中の試料細胞に向けて、当該試料細胞に作用する物質を含む液体を吐出する液滴吐出装置であって、
上記試料細胞に作用する物質を含む液体を保持するとともに、当該液体を吐出する吐出口を有する液体保持部材と、
印加される電圧に応じて、上記液体保持部材の吐出口から当該液体を吐出させる駆動手段と、
上記液体保持部材の吐出口が上記培養液に非接触の位置にあるときに、上記駆動手段に所定の電圧を印加する制御手段と、
を具備することを特徴とする。
【0006】
また、本発明の液滴吐出方法の一態様は、容器に保持された培養液中の試料細胞に向けて、当該試料細胞に作用する物質を含む液体を吐出する液滴吐出装置であって、上記試料細胞に作用する物質を含む液体を保持するとともに、当該液体を吐出する吐出口を有する液体保持部材と、印加される電圧に応じて、上記液体保持部材の吐出口から当該液体を吐出させる駆動手段と、を備える液滴吐出装置の吐出方法であって、
上記液体保持部材を上記培養液に非接触の位置に配置する工程と、
上記位置に上記液体保持部材が存在するときに、上記駆動手段によって上記液体保持部材から液体を吐出させる工程と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、培養液に非接触で、試料細胞に作用すべき物質を含む液体を吐出させることで、コンタミネーションの可能性を低減できる液滴吐出装置及び液滴吐出方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照して説明する。
【0009】
図1は、本発明の一実施形態に係る液滴吐出装置の機械的な構成を示す図である。この液滴吐出装置10は、培養液中の試料細胞の任意の細胞に、選択的に薬剤刺激、遺伝子の導入、蛍光標識の付加(染色)などに利用されるものであって、刺激用薬剤(試薬)、遺伝子または蛍光標識などを含有する液体を、吐出ヘッドから対象物である所望の試料細胞に向けて吐出させるものである。
【0010】
本実施形態に係る該液滴吐出装置10は、ディッシュ(シャーレ)11、複数(図1では3本)の吐出ヘッド12、圧電素子(図1では不図示)、XYステージ13、Zステージ14、倒立型顕微鏡15、撮像部(デジタルカメラ)16、制御用・画像表示用パーソナルコンピュータ(PC)17から構成されている。
【0011】
ここで、上記ディッシュ11は、培養液中に存在する試料細胞の容器である。上記複数の吐出ヘッド12は、異なるまたは同じ吐出液体が予め保持された液体保持部材であり、ディッシュ11より鉛直方向上方に配置される。なお、当該液体は試料細胞に作用する薬剤または物質を含んでいる。圧電素子は、上記吐出ヘッド12をヘッドの吐出方向に高速に進退させることにより、吐出ヘッド12に保持される液体に慣性力を作用させ、それによって当該液体を吐出ヘッド12から吐出させる駆動手段である。
【0012】
上記XYステージ13は、それに載置されたディッシュ11を水平面内で移動させ、水平方向における吐出ヘッド12とディッシュ11(試料)との相対位置を設定するものである。また、上記Zステージは、Zレール18に沿って移動することで、上記吐出ヘッド12を鉛直方向に移動させ、鉛直方向における吐出位置を設定する。
【0013】
上記倒立型顕微鏡15は、例えば特開2002−174772号公報に開示されているように、光源19からの光を利用して試料の顕微鏡像を取得するものである。この倒立型顕微鏡15においては、択一的に光路中に配置される複数の対物レンズ20、光源19から光束を上記対物レンズ20の方向へ偏向するハーフミラー21、上記対物レンズ20と共に試料の拡大像を形成する結像レンズ22、及び該結像レンズ22からの射出光束を水平方向に偏向させる2枚のミラー23、24によって、試料の1次像I1を形成している。そして、このような1次像I1は、リレー光学系25によってリレーされ、一体的に光路中に挿脱可能な2枚のミラー26、27によって鉛直上方への反射光と前方への透過光の2つの光束に選択的に導かれる。このうち、鉛直上方へ反射された光束は、2次像I2として結像し、さらに第2のリレー光学系28によってリレーされた後に鏡筒29に取り付けられた接眼レンズ30に入射して、観察者の目に到達し観察される。一方、前方への透過光は、撮影レンズ31を介して上記撮像部16に導かれる。このように、該撮像部16は、試料細胞の顕微鏡画像を撮影する撮像手段である。
【0014】
上記制御用・画像表示用PCは、上記倒立型顕微鏡15及び撮像部16とそれぞれケーブル32、33によって接続され、そのケーブル32、33を介して上記XYステージ13、Zステージ14、吐出ヘッド12、圧電素子及び撮像部16を制御すると共に、試料の顕微鏡画像を表示するディスプレイ及び操作入力手段としてのキーボードやマウスなどを有する制御手段である。
【0015】
なお、上記吐出ヘッド12内部に、吐出されるべき試料を充填させる方法としては、予め充填された吐出ヘッド12を装置上にセットするものとする。勿論、特開2001−235400に開示されているような、吐出ヘッド12にテフロン(登録商標)配管、吸引排出用のシリンジピストンポンプ(他に、ベリスタポンプ)を接続し、吐出すべき試料を、吐出口から内部に吸引し、吐出動作完了後、吐出口から排出する等の液体供給ユニットを装置内に組み、制御用・画像表示用PC17にてコントロールするようしても良い。また、試料はサンプルカップ等から吸引することが多く、サンプルカップを装置上に構成しても、人手により吐出口にサンプルカップ内の試料に浸積して吸引しても良い。
【0016】
ところで、上記吐出ヘッド12は、例えば後述する図3Bを参照して説明するような慣性を利用して液体を吐出するヘッドである。具体的には、薬剤などを含む液体を保持する流路(液体保持部材)を瞬時的にわずかに進退移動させることにより、当該流路中の液体に慣性力が作用し、その結果、吐出ヘッド12内に保持されている液体の一部が液滴として外部に吐出されるものである。この進退移動は、吐出ヘッド12(流路)に機械的に固定された上記圧電素子によって行われる。
【0017】
図2は、一実施形態に係る液滴吐出装置10の機能的な構成を示すブロック図である。上記制御用・画像表示用PC17は、該液滴吐出装置10の全体を制御する制御部(PC本体)171と、吐出位置、吐出領域、液体種の設定などの入力を行う入力部(操作部)172と、顕微鏡画像、吐出領域などの設定情報の入力要求及び設定結果の表示を行う表示部173と、設定された吐出位置、吐出領域、液体種等の情報を記憶する記憶部174とを備える。また、この記憶部174は、制御部171で実行される制御プログラムを記憶している。
【0018】
係る構成において、制御部171は、撮像部16を制御して、XYステージ13上に載置されたディッシュ11内の試料を倒立型顕微鏡15の顕微鏡光学系を介して撮像させ、その撮像によって得られた顕微鏡画像を表示部173に表示させる。そして、表示部173に、吐出領域などの設定情報の入力要求を表示させ、入力部172のユーザ操作による吐出位置、吐出領域、液体種の設定などの入力を受け付けて、その情報を表示部173に表示させると共に、記憶部174に記憶させる。その後、その記憶部174に記憶された情報に従って、XYステージ13及びZステージ14を制御して、吐出ヘッド12とディッシュ11(試料)との相対位置を設定した上で、上記吐出ヘッド12に機械的に固定された上記圧電素子34に所定の電圧を印加して上記吐出ヘッド12をヘッドの吐出方向に高速に進退させることにより、吐出ヘッド12に保持される液体に慣性力を作用させ、それによって吐出ヘッド12からディッシュ11内の試料に対して当該液体を吐出させる。
【0019】
ここで、上記吐出ヘッド12の概要を図3A及び図3Bを参照して説明する。
【0020】
図3Aは、吐出ヘッド12と圧電素子34を含む液滴吐出部の外観を示す斜視図である。同図に示すように、液滴吐出部は、加速度印加要素として積層型の圧電素子34を用いる。この圧電素子34の一端は、上記架台としてのZステージ14に固定されており、他端は吐出ヘッド12に固定されている。吐出ヘッド12は、流路35とノズル36から構成されている。流路35は、ストレート部35Aとテーパ部35Bからなる。圧電素子34と流路35の間は剛体として形成されているため、圧電素子34の変位により流路35の容積が変化することはなく、また圧電素子34の一端はZステージ14に固定されているため、圧電素子34の変位に伴って吐出ヘッド12全体が図中上下方向に変位するようになっている。圧電素子34には、上述したように、制御部171から所望の波形の電圧を印加するようになっている。
【0021】
次に、吐出動作について、図3Bを参照して説明する。ここで、図3Bは、吐出ヘッド12を断面として時間的な変化を示す図である。
【0022】
制御部171から圧電素子34に印加する電圧が初期電圧E0の間は、状態(a)に示すように、液滴吐出部は静止している。このときのノズル36の位置を同図中のAとする。
【0023】
制御部171から圧電素子34に印加する電圧を緩やかに上昇させると、その電圧の緩やかな上昇に伴い、液滴吐出部は、状態(b)に示すように、図中下方向にゆっくりと変位する。そして、制御部171から圧電素子34に印加する電圧を最大供給電圧E1まで上昇させると、状態(c)に示すように、ノズル36はBの位置まで降下する。この最大供給電圧E1は、吐出量つまり液滴の径に依存する値である。
【0024】
ここで、制御部171から圧電素子34に印加する電圧を、上記最大供給電圧E1から瞬時に上記初期電圧E0まで減少させると、状態(d)に示すように、液滴吐出部もその電圧減少に伴い急激に図中上方向に変位する。このとき、流路35内の薬剤などを含む液体には図中下方向の慣性力が作用し、流路35内に相対的な流れが発生する。流路35内に発生した流れはテーパ部35Bで速度を増しながら、ノズル36より吐出される。
【0025】
この後、状態(e)に示すように、液滴吐出部は初期の位置に戻る。
【0026】
なお、上記吐出ヘッド12は、以下のような特徴を有する。
【0027】
ノズル36の吐出口直径は概ねφ5μm〜φ500μmである。ただし、吐出する液の分子サイズより十分大きいものが使用される。
【0028】
また、液滴の径は、φ5μm〜φ500μmの範囲である。細胞の大きさにより、例えば、圧電素子34への最大供給電圧E1を調整し、細胞1個の大きさから、複数の細胞の大きさまで、吐出される液滴の直径を可変できる。
【0029】
上記液滴の大きさは、吐出ヘッド12の流路35中に存在する液量または吐出ヘッド12の駆動条件(進退速度、電圧印加時間、加速度等)を調整することで制御することができる。
【0030】
次に、上記構成の一実施形態に係る液滴吐出装置10の動作を説明する。
【0031】
図4(A)は、該液滴吐出装置10の制御用・画像表示用PC17の制御部171により実行される制御プログラムのフローチャートを示す図である。
【0032】
同図に示すように、該液滴吐出装置10は、まず、画像取得工程を実施する(ステップS1)。これは、周知の手順によって撮像部16によりディッシュ11内の試料細胞の顕微鏡画像を取得し、それを記憶部174に記憶するステップである。
【0033】
次に、吐出位置・液体設定工程を実施する(ステップS2)。即ち、上記取得された画像を表示部173に表示させながら、吐出位置、吐出領域の大きさ(径)及び吐出する液体の種類などの入力要求を表示する。そして、それに応じて入力部172から入力された吐出位置などの吐出情報を記憶部174に記憶させる。即ち、上記3個の吐出ヘッド12は、それぞれ異なる種類の液体を吐出できるので、どの液体をどこにどれだけの大きさで吐出するかをユーザに設定させるものである。
【0034】
そして、実際の吐出工程を実施する(ステップS3)。これは、吐出情報を記憶部174から読み出し、それに基づいて吐出ヘッド12の選択、位置設定、及び吐出を行うステップである。
【0035】
複数種の液体の吐出が行われる場合は、上記フローチャートの動作が繰り返し行われる。
【0036】
ここで、上記ステップS2における吐出位置・液体設定工程の詳細を、図4(B)及び図5(A)を参照して説明する。なお、図4(B)は該吐出位置・液体設定工程の詳細フローチャートを示す図であり、図5(A)は吐出位置・液体設定画面を示す図である。
【0037】
即ち、図4(B)に示すように、該吐出位置・液体設定工程においては、まず、画像表示工程を実施する(ステップS21)。これは、吐出位置を決定するための判断用画像として、上記のステップS1にて取得された試料の顕微鏡画像を表示部173に表示させるステップである。
【0038】
次に、入力要求工程を実施する(ステップS22)。これは、吐出位置設定の情報の入力を要求する表示を表示部173に表示するステップである。
【0039】
その後、入力受付工程を実施する(ステップS23)。即ち、吐出位置、吐出領域の大きさ、吐出する液体種などの情報がキーボードなどの入力部172から入力されたとき、その入力された情報を受け付ける。これは、表示された顕微鏡画像上において、液体を吐出する中心座標、径、液体種の指定を受け付けるステップである。具体的な吐出領域などの指定手段としては、GUIを利用し、キーボードに限らず、マウスやタッチパネルなどの種々の入力デバイスを利用することが好ましい。
【0040】
そして、吐出位置表示工程を実施する(ステップS24)。これは、図5(A)に示すように、上記ステップS23で受け付けた情報を、上記ステップS21で表示した顕微鏡画像に重畳させて、表示部173に表示するステップである。これにより、操作者は吐出位置の適否を確認することができる。なお、図5(A)においては、簡略化のため、顕微鏡画像は省略して示しており、ある試薬(液体)、例えば試薬A(液体A)は実線で、他の試薬(液体)、例えば試薬B(液体B)は破線でそれぞれ表している。
【0041】
上記試薬(液体)のと吐出位置及び吐出領域の大きさは、図5(A)中の右半分に示されるように、試薬A(液体A)と試薬B(液体B)を分離させるように設定しても良いし、同図中の左半分に示されるように、試薬AとBの吐出領域に交わりを作り、一部重ね合わさるように設定しても良い。
【0042】
そして最後に、吐出位置記憶工程を実施する(ステップS25)。即ち、上記設定された吐出位置などの情報を記憶部174に記憶させる。
【0043】
ところで、上記ステップS24で説明したように、吐出領域を設定する際には、一部交わりを作るように、隣接する吐出領域を設定することができる。このように、交わりの部分においては吐出された液体に含まれる試薬や物質の濃度が高くなり、それ以外においては低くなる、という濃度分布を形成させることができる。即ち、ひとつのディッシュ11内の極めて狭い範囲において、吐出される液体(試料細胞に対して作用する試薬または物質が含む)の濃度差が異なる領域を設定することが可能となり、同じ環境下の試料に対して当該吐出液体に含まれる試薬や物質が濃度の違いでどのように作用するかを観測することができる。
【0044】
次に、上記ステップS3における吐出工程の詳細を、図4(C)、図6、及び図7を参照して説明する。なお、図4(C)は該吐出工程の詳細フローチャートを示す図であり、図6は液滴吐出方式を説明するための図であり、図7は圧電素子34への印加電圧と吐出ヘッド12の進退移動との関係を示す図である。
【0045】
即ち、図4(C)に示すように、該吐出工程においては、まず、吐出位置・吐出液体設定の読み出し工程を実施する(ステップS31)。これは、上記ステップS25で記憶部174に格納された吐出位置、大きさなどの必要な情報を記憶部174から読み出すステップである。
【0046】
次に、吐出ヘッド選択工程を実施する(ステップS32)。即ち、上記ステップS31にて読み出された情報(吐出する液体種)に基づいて、適合する吐出ヘッド12を選択する。
【0047】
続けて、吐出ヘッド移動工程を実施する(ステップS33)。これは、上記ステップS32にて選択された吐出ヘッド12を、上記ステップS31にて読み出された情報(吐出位置)に基づいた位置に移動させるステップである。この際に、XY座標についてはXYステージ13を、Z座標についてはZステージ14を適当な距離移動させて、選択された吐出ヘッド12とディッシュ11(試料)との相対位置を確保する。
【0048】
そして、駆動電圧印加工程を実施する(ステップS34)。即ち、吐出ヘッド12の駆動手段である圧電素子34に、図7に示すような電圧を印加することで、これに伴い吐出ヘッド12が進退することにより、吐出ヘッド12内部の液体が吐出される。なおこの際、吐出位置は、図6に示されるように、ディッシュ11内の培養液37外の空気中に設定され、吐出ヘッド12はディッシュ11中の培養液37とは接触しないようにしている。そして、その位置から吐出が行われる。また、本実施形態においては、ここで圧電素子34に印加される電圧は、後で詳述するような波形を有するものである。
【0049】
その後、残りのヘッド有無を判別する工程を実施する(ステップS35)。即ち、上記ステップS34における吐出が完了した後、上記ステップS32で選択された吐出ヘッド12のうち、未だ吐出を行っていない残りの有無を確認する。そして、未だ吐出を行っていない吐出ヘッド12が存在すれば、上記ステップS32に戻り、全ての吐出が完了するまで、上記ステップS32乃至ステップS35の工程を繰り返する。そして、全ての選択された吐出ヘッド12の吐出が実行された後、この吐出工程が終了される。
【0050】
次に、上記ステップS34の駆動電圧印加工程において、吐出ヘッド12の駆動手段としての圧電素子34に印加される電圧の波形について説明する。
【0051】
上記印加される電圧波形としては、例えば、図8Aに示すようなローレンツ波形とすることができる。このローレンツ波形は、同図に示すように、
【数1】
【0052】
によって定義される。なおここで、aは振幅、bはピークのX軸位置、cはFWHM(半値全幅)である。
【0053】
或いは、上記印加される電圧波形としては、図8Bに示すようなガウシャン波形とすることができる。このガウシャン波形は、同図に示すように、
【数2】
【0054】
によって定義される。
【0055】
更には、上記印加される電圧波形として、図8Cに示すようなローレンツ波形とガウシャン波形との合成波形とすることができる。この合成波形は、同図に示すように、
【数3】
【0056】
によって定義される。なおここで、dはガウシャン波形の補正値である。このdは、0≦d≦1の値を取るもので、d=0の場合はこの合成波形は上記ローレンツ波形と同じ波形となり、d=1の場合は上記ガウシャン波形と同じ波形となる。
【0057】
何れの波形も急峻な傾きを有しているが、不連続な部分がないため、不要な高周波振動は発生せず、十分な吐出ヘッド12に保持された液体に対して作用する吐出力(慣性力)を得ることができる。
【0058】
なお、上記数1乃至数3に示した各式において、cの値は、1.0μs〜5msの範囲であり、圧電素子34の共振周波数を超えない値である。また、aの値は、圧電素子34に加える最大供給電圧E1であり、bの値は、圧電素子34を動作させる全ステップ数の半分である。
【0059】
上記圧電素子34は高電圧を加えると伸びるものであり、圧電素子34の伸縮幅は1μm〜100μmとする。圧電素子34のa値を小さくすることで、共振周波数以上のc値が設定できる。但し、圧電素子34は共振が無いことが必須である。
【0060】
なお、圧電素子34の駆動電圧としてサイン波形を利用しても、不連続な部分がないため共振は発生しないが、そのようなサイン波形では、上記ガウシャン波形またはローレンツ波形よりも傾きが緩やかであるため、液体の吐出量の確保や対応できる液体の粘度の範囲がガウシャン波形またはローレンツ波形を利用したときより減少してしまう。しかしながら、使用する液体によっては、サイン波形の利用も勿論可能である。
【0061】
以上詳述したように、本発明の一実施形態に係る液滴吐出装置10によれば、吐出ヘッド12内に保持された液体に対して十分な慣性力(加速度)が作用し確実な吐出が期待されるとともに、圧電素子34の駆動電圧として、不連続に印加電圧が変化しない波形、好ましくはガウシャン波形またはローレンツ波形、もしくは、それらの合成波形を用いることで、圧電素子34によって進退駆動される吐出ヘッド12において不要な高周波振動が発生しない。このように高周波振動が発生しないことにより、サテライト液滴が吐出されないため、正確に適正な量の液滴が吐出される。これにより、試料上の所望の領域のみに当該液滴が1個だけ到達可能となる。即ち、上記一実施形態に係る液滴吐出装置10は、所望の領域の試料に、選択的かつ正確に液滴を到達させることができる。
【0062】
また、異なる液体が吐出される領域を設定させる際に、各吐出領域に交わりを持たせることも可能となる。このため、数種の液滴が混在する領域とそうではない領域、即ち試料に対して何らかの作用を及ぼす複数種の薬剤または物質が存在する領域とそうではない領域を選択的に設定することができるため、これら薬剤または物質の試料に対する相互作用の観測が可能となる。
【0063】
更に、上記一実施形態に係る液滴吐出装置10は、液滴の吐出を試料の周囲に存在する液体(培養液37)に吐出ヘッド12の先端を触れさせず、吐出ヘッド12の吐出口が空気中に存在するときに液滴を吐出させる。従って、吐出ヘッド12はディッシュ11中の培養液37に触れないため、複数のディッシュ11を扱う場合においても、吐出ヘッド12を介したディッシュ11から他のディッシュ11への汚染の虞を劇的に低下させることができる。
【0064】
以上実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形や応用が可能なことは勿論である。
【0065】
例えば、上記一実施形態では、3個の吐出ヘッド12を備える液滴吐出装置10を説明したが、吐出ヘッド12の数はそれに限定されるものではなく、1個しか備えていなくても良いし、何個備えていても構わない。
【0066】
また、図5(A)では、2種類の試薬(液体)をそれぞれ2つの吐出領域に吐出する場合を例に示したが、複数領域に限らず単数領域でも良いことは勿論である。或いは、複数領域設定で、重なり無しでも良い。
【0067】
また、吐出される液体が複数種に限らず、同じものでも良い。その場合、図5(B)に示すように、吐出領域の交わり(重なり)を発生させることにより、吐出領域中のそれ以外の部分との濃度差を生じさせることができる。図5(B)においては、理想的であれば、中央部分の濃度が一番高いことになる。このような濃度差を生じさせることにより、極めて近い領域において薬剤または物質の濃度高低による影響を観測することもできる。なお、このように1種類の液体を使用する場合は、吐出は1回以上であれば良く、条件は限定されない。
【0068】
また、図5(C)に示すように、異なる液体(薬剤または物質)の交わりを多数設けるように吐出してもかまわない。図5(C)の例においては、理想的であれば、中央部分には4種類の液体が重なることになる。このように異なる液体の交わりを多数設けることで、極めて近い領域において、薬剤または物質の相互作用による影響を観測することができる。なお、このように複数種類の液体を使用する場合は、吐出は各液体1回以上であれば良く、条件は限定されない。
【0069】
(付記)
前記の具体的実施形態から、以下のような構成の発明を抽出することができる。
【0070】
(1) 容器に保持された培養液中の試料細胞に向けて、当該試料細胞に作用する物質を含む液体を吐出する液滴吐出装置であって、
上記試料細胞に作用する物質を含む液体を保持するとともに、当該液体を吐出する吐出口を有する液体保持部材と、
印加される電圧に応じて、上記液体保持部材の吐出口から当該液体を吐出させる駆動手段と、
上記液体保持部材の吐出口が上記培養液に非接触の位置にあるときに、上記駆動手段に所定の電圧を印加する制御手段と、
を具備することを特徴とする液滴吐出装置。
【0071】
(実施形態との対応)
この(1)に記載の液滴吐出装置は、図1、図2、図6に対応するものである。また、一実施形態における液滴吐出装置10が上記液滴吐出装置に、ディッシュ11が上記容器に、培養液37が上記培養液に、吐出ヘッド12が上記液体保持部材に、圧電素子34が上記駆動手段に、制御用・画像表示用PC17の制御部171が上記制御手段に、それぞれ対応する。
【0072】
(作用効果)
この(1)に記載の液滴吐出装置によれば、培養液中の試料細胞に向けて液体を吐出させる液滴吐出装置において、上記液体を吐出する液体保持部材の吐出口を培養液に浸漬させずに吐出させるので、試料細胞へのコンタミネーションの可能性を低減することができる。
【0073】
(2) 上記制御手段は、上記液体保持部材の吐出口が空気中に存在するときに上記駆動手段に電圧を印加し、上記液体の吐出を行うことを特徴とする(1)に記載の液滴吐出装置。
【0074】
(実施形態との対応)
この(2)に記載の液滴吐出装置は、図6に対応するものである。
【0075】
(作用効果)
この(2)に記載の液滴吐出装置によれば、液滴の吐出を試料細胞の周囲に存在する培養液に吐出口を触れさせず、吐出口が空気中に存在するときに液滴を吐出させるので、複数の培養液を扱う場合においても、吐出口を介した培養液から他の培養液への汚染の虞を劇的に低下させることができる。
【0076】
(3) 上記駆動手段は、上記液体保持部材に保持された上記液体に慣性力を作用させ上記吐出口から当該液体を吐出させるために、上記印加される電圧に応じて上記液体保持部材を上記液体の吐出方向と略平行な方向に進退させることを特徴とする(1)に記載の液滴吐出装置。
【0077】
(実施形態との対応)
この(3)に記載の液滴吐出装置は、図7に対応するものである。
【0078】
(作用効果)
この(3)に記載の液滴吐出装置によれば、吐出口の径が小さくても目詰まりを心配することなく吐出できる。
【0079】
(4) 上記制御手段は、上記液体保持部材を進退させる電圧として、ガウシャン波形の電圧、ローレンツ波形の電圧、及び上記ガウシャン波形とローレンツ波形の合成された波形の電圧の何れかを上記駆動手段に印加することを特徴とする(3)に記載の液滴吐出装置。
【0080】
(実施形態との対応)
この(4)に記載の液滴吐出装置は、図8A、図8B、図8Cに対応するものである。
【0081】
(作用効果)
この(4)に記載の液滴吐出装置によれば、駆動手段に印加する電圧を、急峻な傾きを有するが不連続な部分がないガウシャン波形又はローレンツ波形もしくはそれらの合成波形の電圧とすることで、液体保持部材に不要な高周波振動は発生せず、十分な吐出力(慣性力)を得ることができるので、対象物上に吐出される液滴が所望の液滴のみになり、サテライトの発生を抑制できる。
【0082】
(5) 上記吐出される液体は、試料細胞に刺激を与える薬剤、当該試料細胞に作用される遺伝子または当該試料細胞を染める色素であることを特徴とする(1)に記載の液滴吐出装置。
【0083】
(作用効果)
この(5)に記載の液滴吐出装置によれば、ノズル目詰まりを心配することなく、試料細胞に刺激を与える薬剤、当該試料細胞に作用される遺伝子、または、当該試料細胞を染める色素を吐出できるので、遺伝子検査機や生化学分析機などに適用可能である。
【0084】
(6) 容器に保持された培養液中の試料細胞に向けて、当該試料細胞に作用する物質を含む液体を吐出する液滴吐出装置であって、上記試料細胞に作用する物質を含む液体を保持するとともに、当該液体を吐出する吐出口を有する液体保持部材と、印加される電圧に応じて、上記液体保持部材の吐出口から当該液体を吐出させる駆動手段と、を備える液滴吐出装置の吐出方法であって、
上記液体保持部材を上記培養液に非接触の位置に配置する工程と、
上記位置に上記液体保持部材が存在するときに、上記駆動手段によって上記液体保持部材から液体を吐出させる工程と、
を有することを特徴とする液滴吐出方法。
【0085】
(実施形態との対応)
この(6)に記載の液滴吐出方法は、図1、図2、図4、図6に対応するものである。また、一実施形態における液滴吐出装置10が上記液滴吐出装置に、ディッシュ11が上記容器に、培養液37が上記培養液に、吐出ヘッド12が上記液体保持部材に、圧電素子34が上記駆動手段に、ステップS34が上記配置する工程及び上記印加する工程に、それぞれ対応する。
【0086】
(作用効果)
この(6)に記載の液滴吐出方法によれば、培養液中の試料細胞に向けて液体を吐出させる液滴吐出装置において、上記液体を吐出する液体保持部材の吐出口を培養液に浸漬させずに吐出させるので、試料細胞へのコンタミネーションの可能性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る液滴吐出装置の機械的な構成を示す図である。
【図2】図2は、一実施形態に係る液滴吐出装置の機能的な構成を示すブロック図である。
【図3A】図3Aは、吐出ヘッドと圧電素子を含む液滴吐出部の外観を示す斜視図である。
【図3B】図3Bは、吐出ヘッドを断面として時間的な変化を示す図である。
【図4】図4(A)は、一実施形態に係る液滴吐出装置の制御用・画像表示用PCの制御部により実行される制御プログラムのフローチャートを示す図であり、図4(B)は、図4(A)中の吐出位置・液体設定工程の詳細フローチャートを示す図であり、図4(C)は、図4(A)中の吐出工程の詳細フローチャートを示す図である。
【図5】図5(A)は、吐出位置・液体設定画面を示す図であり、図5(B)は、単一試薬の複数重ね合わせを説明するための図であり、図5(C)は、複数試薬の重ね合わせを説明するための図である。
【図6】図6は、液滴吐出方式を説明するための図である。
【図7】図7は、圧電素子への印加電圧と吐出ヘッドの進退移動との関係を示す図である。
【図8A】図8Aは、ローレンツ波形とそれを定義する式とを示す図である。
【図8B】図8Bは、ガウシャン波形とそれを定義する式とを示す図である。
【図8C】図8Cは、ローレンツ波形とガウシャン波形との合成波形とそれを定義する式とを示す図である。
【符号の説明】
【0088】
10…液滴吐出装置、 11…ディッシュ(シャーレ)、 12…吐出ヘッド、 13…XYステージ、 14…Zステージ、 15…倒立型顕微鏡、 16…撮像部(デジタルカメラ)、 17…制御用・画像表示用パーソナルコンピュータ(PC)、 18…Zレール、 19…光源、 20…対物レンズ、 21…ハーフミラー、 22…結像レンズ、 23,24,26,27…ミラー、 25…リレー光学系、 28…第2のリレー光学系、 29…鏡筒、 30…接眼レンズ、 31…撮影レンズ、 32,33…ケーブル、 34…圧電素子、 35…流路、 35A…ストレート部、 35B…テーパ部、 36…ノズル、 37…培養液、 171…制御部(PC本体)、 172…入力部(操作部)、 173…表示部、 174…記憶部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器に保持された培養液中の試料細胞に向けて、当該試料細胞に作用する物質を含む液体を吐出する液滴吐出装置であって、
上記試料細胞に作用する物質を含む液体を保持するとともに、当該液体を吐出する吐出口を有する液体保持部材と、
印加される電圧に応じて、上記液体保持部材の吐出口から当該液体を吐出させる駆動手段と、
上記液体保持部材の吐出口が上記培養液に非接触の位置にあるときに、上記駆動手段に所定の電圧を印加する制御手段と、
を具備することを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項2】
上記制御手段は、上記液体保持部材の吐出口が空気中に存在するときに上記駆動手段に電圧を印加し、上記液体の吐出を行うことを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
上記駆動手段は、上記液体保持部材に保持された上記液体に慣性力を作用させ上記吐出口から当該液体を吐出させるために、上記印加される電圧に応じて上記液体保持部材を上記液体の吐出方向と略平行な方向に進退させることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
上記制御手段は、上記液体保持部材を進退させる電圧として、ガウシャン波形の電圧、ローレンツ波形の電圧、及び上記ガウシャン波形とローレンツ波形の合成された波形の電圧の何れかを上記駆動手段に印加することを特徴とする請求項3に記載の液滴吐出装置。
【請求項5】
上記吐出される液体は、試料細胞に刺激を与える薬剤、当該試料細胞に作用される遺伝子または当該試料細胞を染める色素であることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項6】
容器に保持された培養液中の試料細胞に向けて、当該試料細胞に作用する物質を含む液体を吐出する液滴吐出装置であって、上記試料細胞に作用する物質を含む液体を保持するとともに、当該液体を吐出する吐出口を有する液体保持部材と、印加される電圧に応じて、上記液体保持部材の吐出口から当該液体を吐出させる駆動手段と、を備える液滴吐出装置の吐出方法であって、
上記液体保持部材を上記培養液に非接触の位置に配置する工程と、
上記位置に上記液体保持部材が存在するときに、上記駆動手段によって上記液体保持部材から液体を吐出させる工程と、
を有することを特徴とする液滴吐出方法。
【請求項1】
容器に保持された培養液中の試料細胞に向けて、当該試料細胞に作用する物質を含む液体を吐出する液滴吐出装置であって、
上記試料細胞に作用する物質を含む液体を保持するとともに、当該液体を吐出する吐出口を有する液体保持部材と、
印加される電圧に応じて、上記液体保持部材の吐出口から当該液体を吐出させる駆動手段と、
上記液体保持部材の吐出口が上記培養液に非接触の位置にあるときに、上記駆動手段に所定の電圧を印加する制御手段と、
を具備することを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項2】
上記制御手段は、上記液体保持部材の吐出口が空気中に存在するときに上記駆動手段に電圧を印加し、上記液体の吐出を行うことを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
上記駆動手段は、上記液体保持部材に保持された上記液体に慣性力を作用させ上記吐出口から当該液体を吐出させるために、上記印加される電圧に応じて上記液体保持部材を上記液体の吐出方向と略平行な方向に進退させることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
上記制御手段は、上記液体保持部材を進退させる電圧として、ガウシャン波形の電圧、ローレンツ波形の電圧、及び上記ガウシャン波形とローレンツ波形の合成された波形の電圧の何れかを上記駆動手段に印加することを特徴とする請求項3に記載の液滴吐出装置。
【請求項5】
上記吐出される液体は、試料細胞に刺激を与える薬剤、当該試料細胞に作用される遺伝子または当該試料細胞を染める色素であることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項6】
容器に保持された培養液中の試料細胞に向けて、当該試料細胞に作用する物質を含む液体を吐出する液滴吐出装置であって、上記試料細胞に作用する物質を含む液体を保持するとともに、当該液体を吐出する吐出口を有する液体保持部材と、印加される電圧に応じて、上記液体保持部材の吐出口から当該液体を吐出させる駆動手段と、を備える液滴吐出装置の吐出方法であって、
上記液体保持部材を上記培養液に非接触の位置に配置する工程と、
上記位置に上記液体保持部材が存在するときに、上記駆動手段によって上記液体保持部材から液体を吐出させる工程と、
を有することを特徴とする液滴吐出方法。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【公開番号】特開2008−35841(P2008−35841A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−218505(P2006−218505)
【出願日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]