説明

混合液、樹脂複合材料及び樹脂複合材料の製造方法

【課題】熱可塑性樹脂と、グラフェン構造を有する炭素材料の両方が溶媒中に溶解または分散されている混合液、グラフェン構造を有する炭素材料が熱可塑性樹脂に均一に分散された樹脂複合材料及び樹脂複合材料の製造方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂と、グラフェン構造を有する炭素材料と、ハロゲン化芳香族溶媒とを含む混合液であって、前記熱可塑性樹脂と前記グラフェン構造を有する炭素材料とが、前記ハロゲン化芳香族溶媒中に溶解または分散されている混合液、並びに前記混合液からハロゲン化芳香族溶媒を除去することによって得られる樹脂複合材料、及び熱可塑性樹脂とグラフェン構造を有する炭素材料とを、ハロゲン化芳香族溶媒に溶解または分散させることによって混合液を得る混合工程と、前記混合工程の後に、前記混合液から前記ハロゲン化芳香族溶媒を除去する溶媒除去工程とを備える樹脂複合材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶媒中に熱可塑性樹脂と炭素材料とを含む混合液、炭素材料により補強された樹脂複合材料及び樹脂複合材料の製造方法に関し、より詳細には、炭素材料がグラフェン構造を有する炭素材料である混合液、樹脂複合材料及び樹脂複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンやポリプロピレン等の熱可塑性樹脂は、その軽量性、高い耐薬品性、良好な成形性などの性質を有することから、幅広い分野において利用されている。上記のような熱可塑性樹脂の性能をさらに向上するため、剛性や耐熱性の高い補強材を配合する方法が従来から行われている。上記補強材としては、例えば、グラフェンシート構造を有する炭素材料などが挙げられる。
【0003】
熱可塑性樹脂に補強材を配合する方法として、例えば、溶融混練法や溶媒分散法等が挙げられる。溶融混練法では、熱可塑性樹脂を熱及びせん断によって溶融流動化させた後、粉体状またはスラリー状等にした補強材を導入し、混練押出機などによって混練分散させる。しかしながら、補強材を分散させるために必要な熱可塑性樹脂の粘度が高いため、補強材の分散性が低いという問題がある。熱可塑性樹脂の粘度を低めるには、温度やせん断速度を高める方法があるが、上記温度やせん断速度を高めすぎると、熱可塑性樹脂が劣化する。そのため、補強材の分散性を充分に高めることができなかった。
【0004】
これに対し、溶媒分散法では、熱可塑性樹脂を溶解する溶媒を用いて、溶液となって低粘度化した熱可塑性樹脂中に粉体で供給される補強材を導入する。その場合には、熱可塑性樹脂が分解しない温度でも、熱可塑性樹脂の粘度を極めて低くすることができる。溶媒分散法の例としては、下記の特許文献1には、熱可塑性樹脂とグラフェンシートで形成された粒子を、キシレンにより分散させる方法が提案されている。上記熱可塑性樹脂を溶解することによって、熱可塑性樹脂溶液の粘度が低くなる。従って、上記粒子の分散性が大きく向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−264059号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、キシレンはグラフェンシートで形成された粒子を溶解できず、グラフェンシートで形成された粒子のキシレン中における分散性も低かった。そのため、グラフェンシートで形成された粒子が、上記熱可塑性樹脂に上記粒子を配合している間に再凝集して、上記熱可塑性樹脂における上記粒子の分散性が低下することがあった。従って、得られる複合材料の機械的強度や熱的・電気的性質の向上が充分でないという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、熱可塑性樹脂とグラフェン構造を有する炭素材料との両方が溶媒中に溶解または分散されている混合液、並びにグラフェン構造を有する炭素材料が熱可塑性樹脂に均一に分散された樹脂複合材料及び樹脂複合材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の混合液は、熱可塑性樹脂と、グラフェン構造を有する炭素材料と、ハロゲン化芳香族溶媒とを含む混合液であって、前記熱可塑性樹脂と前記グラフェン構造を有する炭素材料とが、前記ハロゲン化芳香族溶媒中に溶解または分散されている。
【0009】
本発明の混合液のある特定の局面では、前記熱可塑性樹脂と前記グラフェン構造を有する炭素材料とが、前記ハロゲン化芳香族溶媒中に溶解している。その場合には、グラフェン構造を有する炭素材料を、熱可塑性樹脂中により均一に分散させることができる。
【0010】
本発明の混合液の他の特定の局面では、前記ハロゲン化芳香族溶媒がジクロロベンゼンである。その場合には、ジクロロベンゼンが熱可塑性樹脂及びグラフェン構造を有する炭素材料をより良好に溶解することができるため、グラフェン構造を有する炭素材料を熱可塑性樹脂中により均一に分散させることができる。
【0011】
本発明の混合液の別の特定の局面では、前記グラフェン構造を有する炭素材料が、グラフェン、カーボンナノチューブ及び薄片化黒鉛からなる群から選択される少なくとも1種の炭素材料である。その場合には、グラフェン構造を有する炭素材料はナノサイズを有し、かつ比表面積が大きい。そのため、混合液から製造可能な樹脂複合材料の機械的強度をより高めることができる。より好ましくは、前記グラフェン構造を有する炭素材料は、薄片化黒鉛である。その場合には、薄片化黒鉛の積層方向に交差する方向に対する外力に加わる補強効果を効果的に高めることができる。
【0012】
本発明の混合液のさらに他の局面では、前記熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である。その場合には、汎用されているポリオレフィン系樹脂を用いることにより、混合液から製造可能な樹脂複合材料のコストを低減することができる。
【0013】
本発明の樹脂複合材料は、本発明の混合液からハロゲン化芳香族溶媒を除去することにより得られる。
【0014】
本発明の樹脂複合材料の製造方法は、熱可塑性樹脂とグラフェン構造を有する炭素材料とを、ハロゲン化芳香族溶媒に溶解または分散させることによって混合液を得る混合工程と、前記混合工程の後に、前記混合液から前記ハロゲン化芳香族溶媒を除去する溶媒除去工程とを備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明の混合液では、ハロゲン化芳香族溶剤を溶媒として使用しているため、熱可塑性樹脂及びグラフェン構造を有する炭素材料を良好に溶解または均一に分散させることができる。そのため、本発明の混合液から得られる樹脂複合材料の製造時には、グラフェン構造を有する炭素材料が凝集することなく、グラフェン構造を有する炭素材料を熱可塑性樹脂中に均一に分散させることができる。従って、本発明によれば、機械的強度の高い樹脂複合材料の製造に用いられる混合液を提供することができる。
【0016】
上記のように、本発明の樹脂複合材料は、熱可塑性樹脂及びグラフェン構造を有する炭素材料が良好に溶解または均一に分散された本発明の混合物から、溶媒を除去することによって得られるため、グラフェン構造を有する炭素材料が熱可塑性樹脂中に均一に分散されている。従って、本発明によれば、機械的強度の高い樹脂複合材料を提供することができる。
【0017】
また、本発明の樹脂複合材料の製造方法によれば、熱可塑性樹脂とグラフェン構造を有する炭素材料とを、ハロゲン化芳香族溶媒に溶解または分散させた後に、ハロゲン化芳香族溶媒を除去することより樹脂複合材料を製造するため、グラフェン構造を有する炭素材料が熱可塑性樹脂中に均一に分散された樹脂複合材料を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0019】
(混合液)
本発明の混合液は、熱可塑性樹脂とグラフェン構造を有する炭素材料とが、ハロゲン化芳香族溶媒に溶解または分散された溶液または分散液である。すなわち、本発明の混合液では、上記熱可塑性樹脂と上記炭素材料とが溶媒中に溶解または分散されているため、上記混合液から得られる樹脂複合材料の製造時には、上記炭素材料が凝集することなく、上記炭素材料を上記熱可塑性樹脂中に均一に分散させることができる。上記炭素材料を上記熱可塑性樹脂により均一に分散させるためには、上記混合液は溶液であることが好ましい。
【0020】
(ハロゲン化芳香族溶媒)
本発明の混合液では、溶媒としてハロゲン化芳香族溶媒を使用している。ハロゲン化芳香族溶媒は、熱可塑性樹脂とグラフェン構造を有する炭素材料との両方に対する溶解度が高い。そのため、本発明の混合液にハロゲン化芳香族溶媒を用いることにより、熱可塑性樹脂とグラフェン構造を有する炭素材料とを良好に溶解または均一に分散させることができる。
【0021】
上記溶媒は特に限定されないが、熱可塑性樹脂とグラフェン構造を有する炭素材料との両方に対する溶解度の高さから、ジクロロベンゼンが好ましい。その場合には、上記熱可塑性樹脂と上記炭素材料をより良好に溶解またはより均一に分散させることができる。なお、上記ジクロロベンゼンは、オルト、メタ、パラ全ての異性体を含む。
【0022】
(熱可塑性樹脂)
本発明の混合液では、熱可塑性樹脂が上記溶媒に溶解または分散されている。本発明の混合液より得られる樹脂複合材料では、上記熱可塑性樹脂を含んでいるため、加熱下により様々な成形方法を用いて、様々な成形品を容易に得ることができる。上記熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、アクリロニトリルスチレン共重合体、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフロオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、エチレンビニルアルコール共重合体、塩化ビニリデン樹脂、塩素化ポリエチレン、ポリジシクロペンタジエン、メチルペンテン樹脂、ポリブチレン、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ノルボルネン系樹脂、ポリビニルアルコール、ウレタン樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリエトキシエチルメタクリレート、ポリホルムアルデヒド、セルロースジアセテート、ポリビニルブチラール等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は単独で用いてもよく、あるいは複数種を組み合わせて用いてもよい。好ましくは、上記熱可塑性樹脂としては、安価であり、加熱下の成形が容易であるポリオレフィン系樹脂を用いることができる。さらに好ましくは、上記ポリオレフィン系樹脂として、より安価なポリプロピレンを用いることができる。
【0023】
本発明の混合液における上記熱可塑性樹脂の濃度については特に限定されないが、好ましくは上記溶媒100重量部に対し、上記熱可塑性樹脂が0.01〜500重量部であり、さらに好ましくは1〜200重量部である。上記熱可塑性樹脂の濃度が0.01重量部より低いと、上記混合液より得られる樹脂複合材料の回収が困難になり、樹脂複合材料を得る効率が低下することがある。一方、上記熱可塑性樹脂の濃度が500重量部を超えると、溶液粘度が高くなり、グラフェン構造を有する炭素材料の上記熱可塑性樹脂における分散が不十分となることがある。
【0024】
(グラフェン構造を有する炭素材料)
本発明の混合液では、グラフェン構造を有する炭素材料が上記溶媒に溶解または分散されている。本発明の混合液より得られる樹脂複合材料では、上記樹脂複合材料中に均一に分散されている上記炭素材料によって、上記樹脂複合材料の機械的強度が高くなる。さらに場合によっては、上記樹脂複合材料に導電性が与えられる。上記炭素材料としては、グラフェン、カーボンナノチューブ及び薄片化黒鉛からなる群から選択された少なくとも1種を用いることができる。
【0025】
上記炭素材料としては、複数のグラフェンシートの積層体、すなわち薄片化黒鉛が好ましい。本発明において、薄片化黒鉛とは、元の黒鉛を剥離処理して得られるものであり、元の黒鉛よりも薄いグラフェンシート積層体をいう。薄片化黒鉛におけるグラフェンシート積層数は、元の黒鉛より少なければよいが、通常数層〜200層程度である。上記薄片化黒鉛には薄いグラフェンシートが積層されており、上記薄片化黒鉛はアスペクト比が比較的大きい形状を有する。従って、本発明の混合液より得られる樹脂複合材料では、上記樹脂複合材料に上記薄片化黒鉛が均一に分散されているため、上記薄片化黒鉛の積層面に交差する方向に加わる外力に対する補強効果を効果的に高めることができる。
【0026】
なお、アスペクト比とは、薄片化黒鉛の積層面方向における最大寸法の薄片化黒鉛の厚みに対する比をいうものとする。上記薄片化黒鉛のアスペクト比が低すぎると、上記積層面に交差する方向に加わった外力に対する補強効果が充分でないことがある。一方で、上記薄片化黒鉛のアスペクト比が高すぎても、効果が飽和してそれ以上の補強効果を望めないことがある。従って、アスペクト比の好ましい下限は50であり、好ましい上限は5000である。
【0027】
上記炭素材料の濃度については特に限定されないが、上記溶媒100重量部に対し、上記炭素材料が0.001〜10重量部とすることが好ましい。0.001重量部未満では、配合による補強効果が不十分となることがある。10重量部を超えると、上記溶媒中に上記炭素材料が飽和し、上記炭素材料の沈降が見られることがある。
【0028】
(他の成分)
本発明の混合液は、本発明の目的を阻害しない範囲で、様々な添加剤を含んでいてもよい。例えば、上記熱可塑性樹脂がポリプロピレン樹脂やポリエチレン樹脂等の非極性の熱可塑性樹脂である場合には、上記熱可塑性樹脂が極性の高いハロゲン化芳香族溶媒に溶解し易くするために、カルボキシル基等の官能基を備えたオレフィン系分散剤を添加することができる。上記オレフィン系分散剤としては、例えば、マレイン酸変性ポリオレフィン等のカルボキシル基付加オレフィン等が挙げられる。また、上記熱可塑性樹脂のハロゲン化芳香族溶媒中における分散性を改善するために、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛及びステアリン酸マグネシウム等の金属石鹸や、オレイン酸アミド及びエルカ酸アミド等のアミド化合物等を添加することもできる。
【0029】
他の添加剤としては、フェノール系、リン系、アミン系もしくはイオウ系等の酸化防止剤;金属害防止剤;ヘキサブロモビフェニルエーテルもしくはデカブロモジフェニルエーテル等のハロゲン化難燃剤;ポリリン酸アンモニウムもしくはトリメチルフォスフェート等の難燃剤;各種充填剤;帯電防止剤;安定剤;顔料等を挙げることができる。
【0030】
(樹脂複合材料)
本発明の樹脂複合材料は、熱可塑性樹脂とグラフェン構造を有する炭素材料とがハロゲン化芳香族溶媒に溶解または分散された上記混合液から、ハロゲン化芳香族溶媒を除去することによって得られる。なお、本発明において「溶媒を除去する」とは、樹脂複合材料中に含まれる溶媒の割合を0.01重量%以下にすることをいう。
【0031】
上述したように、上記混合液では、上記熱可塑性樹脂と上記炭素材料とが溶媒中に溶解または分散されているため、上記混合液より得られる樹脂複合材料では、上記炭素材料が上記熱可塑性樹脂中に均一に分散されている。そのため、上記樹脂複合材料の機械的強度が高くなる。
【0032】
上記溶媒を除去する方法は特に限定されず、例えば、濾過、凍結乾燥、真空乾燥等の既知の方法を用いることができる。上記除去方法は単独で用いてもよく、複数の種類の除去方法を組み合わせてもよい。
【0033】
(製造方法)
次に、本発明の混合液及び樹脂複合材料の製造方法について説明する。
【0034】
まず、熱可塑性樹脂と、グラフェン構造を有する炭素材料とを、ハロゲン化芳香族溶媒中に加えた後、上記溶媒を攪拌して、上記熱可塑性樹脂及び上記炭素材料を上記溶媒中に溶解または分散させることにより、本発明の混合液を作製する。上記熱可塑性樹脂及び上記炭素材料を上記溶媒中に加える順番やタイミング等は、特に限定されない。例えば、上記熱可塑性樹脂を溶解してから上記炭素材料を加えてもよく、逆順でもよく、同時に加えてもよい。
【0035】
上記溶媒の温度は、上記溶媒の融点以上かつ沸点以下である限り特に限定されないが、30℃〜250℃の範囲の温度が好ましく、80℃〜160℃の範囲の温度がより好ましい。上記溶媒の温度が30℃を下回ると、熱可塑性樹脂の結晶領域が溶解しにくくなることがある。そのため、結晶領域を多く含む熱可塑性樹脂の溶解に長時間を要することがある。一方、上記溶媒の温度が250℃を超えると、ポリオレフィン系樹脂が分解劣化することがある。なお、上記溶媒の温度が上記溶媒の沸点以上だと、大気圧下において溶媒中の分散工程が安定的に継続できないことがある。そのため、上記溶媒の温度は沸点以下が好ましい。
【0036】
上記撹拌の方法は、上記熱可塑性樹脂及び上記炭素材料を上記溶媒中に溶解または分散させる限り特に限定されない。上記撹拌は、例えば、上記溶媒を加熱しながら撹拌できるホットスターラーにより行ってもよい。
【0037】
次に、上記混合液から上記溶媒を除去することにより、本発明の樹脂複合材料を製造する。上記溶媒を除去する方法としては、好ましくは、上記混合液を他の溶媒(以下「溶媒B」と記載する)に滴下することにより上記混合液中の溶媒(以下「溶媒A」と記載する)を除去し、その後溶媒Bを真空乾燥により除去することによって、溶媒A及び溶媒Bの両方を除去することができる。その場合には、溶媒Bとしては、溶媒Aと自由に混合することができ、上記熱可塑性樹脂や上記炭素材料を溶解しない溶媒を選択する。それによって、上記混合液を溶媒B中に滴下すると溶媒Aは溶媒B中に溶解及び希釈され、上記炭素材料を含んだ上記熱可塑性樹脂が析出する。その後、溶媒Bを真空乾燥により除去することによって、樹脂複合材料中に含まれる溶媒を除去することができる。
【0038】
また、上記混合液を濾過することにより溶媒の大部分を除去し、その後真空乾燥により残りの溶媒を除去することによっても、樹脂複合材料中に含まれる溶媒を除去することができる。
【0039】
上記のようにして得られた本発明の樹脂複合材料からは、加熱下により様々な成形方法を用いて、様々な成形品を得ることができる。例えば、本発明の樹脂複合材料を加熱下においてシート状にプレス成形することにより、引張弾性率等の機械的強度の高い樹脂複合材料シートを製造することができる。もっとも、本発明の樹脂複合材料により製造される製品は、特に限定されない。本発明の樹脂複合材料を用いることにより、様々な機械的強度の高い成形品を製造することができる。
【0040】
また、本発明に係る樹脂複合材料は、上記炭素材料を含む。このため、樹脂複合材料は、導電性を発現させることも可能である。
【0041】
以下、本発明の具体的な実施例を挙げることにより、本発明を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0042】
(実施例1)
o−ジクロロベンゼン溶媒200mlを、ホットスターラー上で130℃に加熱した。次に、薄片化黒鉛(XG Science社製、「xGnP−5」、平均粒径5μm、比表面積50m/g)0.3mgを上記o−ジクロロベンゼン溶媒中に投入して、上記混合物を130℃で30分間攪拌した。その際、混合液全体は黒く濁っていた。
【0043】
その後、上記混合物の加熱を停止して自然放冷し、室温下で72時間静置した。静置後の混合物は、黒く濁ったままであった。このことは、上記薄片化黒鉛に対するo−ジクロロベンゼンの溶解力及び分散力が充分に高いことを示している。
【0044】
(比較例1)
溶媒としてパラキシレン200mlを用いたこと以外は実施例1と同様にして、混合物を30分撹拌した。その際、混合液全体は黒く濁っていた。
【0045】
その後、上記混合物の加熱を停止して自然放冷し、室温下で72時間静置した。静置後の混合物は、上記薄片化黒鉛の一部が沈殿し、混合液中に透明な上澄み部分が発生していた。このことは、上記薄片化黒鉛に対するパラキシレン溶解力及び分散力が不十分であることを示している。
【0046】
(実施例2)
o−ジクロロベンゼン溶媒200mlを、ホットスターラー上で130℃に加熱した。次に、ポリプロピレン(プライムポリマー社製、「J−721GR」)10gを上記o−ジクロロベンゼン溶媒中に溶解した。続いて、高純度黒鉛(SECカーボン社製、「SNO−5」、平均粒径5μm、比表面積15m/g)0.3mgを上記o−ジクロロベンゼン溶媒中に投入して、上記混合物を130℃で30分間攪拌した。これにより、混合液を得た。
【0047】
次に、上記混合液を常温イソプロパノール4.0l中にスポイトを用いて滴下することにより、上記混合液の急冷及びo−ジクロロベンゼン溶媒の除去を同時に急速に行った(IPA洗浄法)。これにより、上記高純度黒鉛を微細な状態のままでポリプロピレン中に固定化し、樹脂複合材料を得た。
【0048】
次に、上記樹脂複合材料を濾過及び乾燥することにより、液体を除去した。その後、上記樹脂複合材料を圧縮成形機((株)神藤金属工業所製)により190℃で加熱圧縮してシート状に加工し、樹脂複合材料シートを得た。
【0049】
(比較例2)
溶媒としてパラキシレン200mlを用いたこと以外は実施例2と同様にして、混合液、樹脂複合材料及び樹脂複合材料シートを得た。
【0050】
(実施例3)
黒鉛単結晶粉末0.25gを65重量%の濃硫酸11.5ml中に入れ、得られた混合物を10℃の水浴により冷却しながら攪拌した。次に、黒鉛単結晶粉末と濃硫酸との撹拌によって得られた混合物に過マンガン酸カリウム1.5gを徐々に加えながら混合物を攪拌し、混合物を35℃で30分間反応させた。
【0051】
次に、反応混合物に水23gを徐々に加えて、混合物を98℃で15分間反応させた。その後、反応混合物に水70gと30重量%の過酸化水素水4.5gを加えて反応を停止させた。混合物を14,000rpmの回転速度にて30分間遠心分離した後、得られた酸化黒鉛を0.2mg/mlの量にて水に分散させ、超音波洗浄器にて45kHz、100Wの条件で超音波を60分間照射することにより、酸化黒鉛をその層界面間で剥離断片化して、層面が酸化された薄片化黒鉛を得た。上記層面が酸化された薄片化黒鉛にヒドラジンを添加し、3分間にわたり還元処理を施して、実施例3で用いる薄片化黒鉛を得た。得られた上記薄片化黒鉛の平均粒径は5μm、比表面積は450m/gであった。
【0052】
続いて、上記薄片化黒鉛0.3mgを用いたこと以外は実施例2と同様にして、混合液を得た。
【0053】
続いて、上記混合液を液体窒素で急冷して固化した後、ドライアイスで冷却しつつ真空乾燥を72時間実施することによって、溶媒を除去した(凍結乾燥法)。これにより、樹脂複合材料を得た。
【0054】
その後、上記樹脂複合材料を圧縮成形機((株)神藤金属工業所製)により190℃で加熱圧縮してシート状に加工し、樹脂複合材料シートを得た。
【0055】
(比較例3)
溶媒としてパラキシレン200mlを用いたこと以外は実施例3と同様にして、混合液、樹脂複合材料及び樹脂複合材料シートを得た。
【0056】
(引張弾性率)
実施例2、3及び比較例2、3により得られた樹脂複合材料シートの23℃における引張弾性率をJIS K6767により測定し、その結果を下記の表1に示した。
【0057】
(炭素材料の分散性)
実施例2、3及び比較例2、3により得られた樹脂複合材料シートの表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察することによって、上記樹脂複合材料シートにおける上記炭素材料の分散状態を以下の基準で評価した。結果を下記の表1に示した。
【0058】
○:上記樹脂複合材料シート中に分散している上記炭素材料の平均層厚が500μm以下であること
×:上記樹脂複合材料シート中に分散している上記炭素材料の平均層厚が500μmより大きいこと
【0059】
【表1】

【0060】
なお、表1中のo−DCBはo−ジクロロベンゼンを、IPAはイソプロパノールを示す。
【0061】
表1に示すように、実施例2、3の樹脂複合材料シートは、比較例2、3の樹脂複合材料シートに比べて、引張弾性率が大きく高められている。加えて、SEM観察により、実施例2、3の樹脂複合材料シートは、比較例2、3の樹脂複合材料シートに比べて、上記炭素材料の分散性がより高められているのがわかる。これは、上記混合液の溶媒にパラキシレンでなくo−ジクロロベンゼンを用いたことにより、上記混合液中の上記炭素材料の溶解性及び分散性が高められたことによる。これによって、上記混合液から得られた樹脂複合材料中の上記炭素材料の分散性が高められ、樹脂複合材料の機械的強度が高められたと考えられる。
【0062】
さらに、比表面積のより大きい薄片化黒鉛を用いた実施例3の樹脂複合材料シートでは、実施例2の樹脂複合材料シートよりも、引張弾性率が高められているのがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と、グラフェン構造を有する炭素材料と、ハロゲン化芳香族溶媒とを含む混合液であって、
前記熱可塑性樹脂と前記グラフェン構造を有する炭素材料とが、前記ハロゲン化芳香族溶媒中に溶解または分散されている混合液。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂と前記グラフェン構造を有する炭素材料とが、前記ハロゲン化芳香族溶媒中に溶解している、請求項1に記載の混合液。
【請求項3】
前記ハロゲン化芳香族溶媒がジクロロベンゼンである、請求項1または2に記載の混合液。
【請求項4】
前記グラフェン構造を有する炭素材料が、グラフェン、カーボンナノチューブ及び薄片化黒鉛からなる群から選択される少なくとも1種の炭素材料である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の混合液。
【請求項5】
前記グラフェン構造を有する炭素材料が薄片化黒鉛である、請求項4に記載の混合液。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の混合液。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の混合液から、ハロゲン化芳香族溶媒を除去することによって得られる樹脂複合材料。
【請求項8】
熱可塑性樹脂とグラフェン構造を有する炭素材料とを、ハロゲン化芳香族溶媒に溶解または分散させることによって混合液を得る混合工程と、
前記混合工程の後に、前記混合液から前記ハロゲン化芳香族溶媒を除去する溶媒除去工程と
を備える、樹脂複合材料の製造方法。

【公開番号】特開2012−224810(P2012−224810A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95981(P2011−95981)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】