説明

混練材料の混練方法

【課題】元材(混練材料)を適正に混練することによって、フィルム等のフィッシュアイを抑制することができるようにする。
【解決手段】粉体状の母材樹脂と膨潤させるオイルとを含む混練材料を混練するに際し、分配混練処理を行った後に分散混練処理を行う。母材樹脂は、高密度ポリエチレンとする。オイルはパラフィンオイルとする。分配混練処理を行うときの温度は母材樹脂の融点以上とする。分配混練処理を行うときの温度は母材樹脂の融点以下にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、混練機などによって混練材料を混練する混練方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、樹脂材料を混練する混練機として、例えば、特許文献1に示すものがある。特許文献1の混練機は、材料供給口と材料排出口を有するチャンバ内に互いに平行な左右一対の混練ロータがその軸方向両端を支持された状態で回転自在に挿通され、この各混練ロータの外周面に、被混練材料を下流側へ搬送するフィード部が形成されているとともに、被混練材料に高剪断力を付与して混練する第一混練部と第二混練部とが前記混練ロータの軸方向に離れて設けられているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−58369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年は混練される材料(混練樹脂材料)の種類が多くなり、混練された材料も最終的には極薄のフィルムなどに様々な形状に成形されることも多い。特に極薄フィルムを製造する場合など、混練材料内における成分の偏りや気泡の巻き込み(フィッシュアイ)が存在することは極力避けなければ状況であり、そのために、混練機には、材料の均一混練などに関し従来よりも高い混練能力が求められている。特許文献1に示した混練機は、係る性能をほぼ満足し、ある程度フィッシュアイを抑制することができる混練材料を製造することが可能である。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された混練機であっても、近年要求されている均一混練の要求に対しては十分ではない場合もあり、フィッシュアイを確実に抑制することができる混練材料の混練方法が望まれている。
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、フィルム等の元材となる混練材料を適切に混練することによって、フィルム等のフィッシュアイを抑制することができる混練材料の混練方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は、次の手段を講じた。
即ち、本発明における課題解決のための技術的手段は、粉体状の母材樹脂とオイルとを含む混練材料を混練するに際し、前記混練材料の母材樹脂の周りにオイルを分配する分配混練処理を行い、前記分配混練処理の後に、混練材料にせん断を加えつつ混練を行う分散混練処理を行う点にある。
【0007】
前記分配混練処理を、混練機に備えられたギアニーディング部で行い、前記分散混練処理を、チップクリアランスが狭い高位チップ部と、前記高位チップよりもチップクリアランスが広い低位チップ部とを備えたフライトを有し、且つ前記ギアニーディング部の下流側に設けられている可変クリアランス混練部で行うことが好ましい。
前記分配混練処理を行うときの温度を、前記母材樹脂の融点以上とし、前記分散混練処理を行うときの温度を、前記母材樹脂の融点以下にすることが好ましい。
【0008】
前記母材樹脂は高密度ポリエチレンとされ、前記オイルはパラフィンオイルであることが好ましい。前記母材樹脂に超高分子量ポリエチレンを混合して混練を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フィルム等の元材となる混練材料を適切に混練することによって、混練材料における成分の偏りや気泡の巻き込み(フィッシュアイ)の存在を確実に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】混練材料の混練方法を行うための混練機を示した図である。
【図2】処理毎の単位体積当たりの異物の面積をまとめた第1グラフである。
【図3】処理毎の単位体積当たりの異物の面積をまとめた第2グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の混練材料の混練方法について図を基に説明する。
[第1実施形態]
図1は、本発明の混練材料の混練方法を行うための混練機を示したものである。まず、混練機について説明する。なお、混練材料の混練方法は、図1に示した混練機に限定されるものではない。
【0012】
図1に示すように、混練機1は、空洞状のバレル2と、このバレル2の内部を軸方向に沿って挿通するように設けられた混練スクリュ4とを備えており、混練スクリュ4を回転させることでバレル2内の混練材料(混練樹脂材料)を混練しつつ下流側に送ることができる構造とされている。
なお、以降の説明において、図1の紙面の左側を混練機1を上流側とし、紙面の右側を下流側とする。また、図1の紙面の左右方向を混練機1を軸方向とする。さらに、軸方向に対して垂直な方向を混練機1を説明する際の軸垂直方向という。
【0013】
バレル2は、軸方向に沿って長い筒状に形成されており、その内部は断面めがね形状の空洞となっている。バレル2の軸方向の上流側にはバレル2内に材料を供給するホッパ5が設けられており、またバレル2の内部には電気ヒーターや加熱した油を用いた加熱装置(図示略)が備えられている。
混練スクリュ4は、バレル2の空洞内部内に左右一対設けられている。各混練スクリュ4、4は、軸方向に沿って形成されたスプライン軸6を内部に備えており、このスプライン軸6により貫通状に複数のセグメントを固定する構成とされている。
【0014】
図1に示されるように、本実施形態の混練スクリュ4においては、上流側から下流側にかけて、供給された材料を溶融しながら下流側に送る送り部10と、送り部10から送られてきた材料を混練する混練部11と、混練部11で混練された材料を下流側に送り出す押出部12とが設けられている。
送り部10は軸方向に配備された複数のスクリュセグメント13で構成されている。スクリュセグメント13は、軸方向に螺旋状に捩れたスクリュフライト(図示略)を備えており、材料を上流側から下流側に送ることができる。
【0015】
押出部12も、送り部10同様に螺旋状に捩れたスクリュフライトを備えたスクリュセグメント13を軸方向に複数有している。押出部12のスクリュセグメント13は、セグメント長が下流に位置するスクリュセグメント13ほど小さくなるように形成されており、下流側に行くほど材料の移動速度を低くして材料を加圧できるようになっている。
混練部11は、上流側に位置するギアニーディング部20と、このニーディング部20の下流側に位置するVCMT混練部21(可変クリアランス混練部)とを備えている。
【0016】
ギアニーディング部20は、外周面に凹凸が形成されていて断面視でギア形状となっているギアニーディングセグメントで構成されている。このギアニーディング部20は、一対のギアニーディング部20間に材料を導くと共に、バレル2の内壁との間にも材料を導く混練を行うことにより、混練する材料に高い分配性を付与することができる。
ギアニーディング部20の下流側に設けられたVCMT混練部21は、ロータセグメントから構成される。
【0017】
このロータセグメントは、チップクリアランス(バレル2の内壁とチップ先端と隙間)が狭い高位チップ部22と、高位チップ部22よりもチップクリアランスが広い低位チップ部23とを軸方向に交互に備えたフライトを有する。即ち、高位チップ部22のチップクリアランスは、低位チップ部23のクリアランスより小さくされており、この小さなチップクリアランスに材料を導いて材料に剪断方向の力を加えながら混練を行うため、混練する材料に高い分配性を付与することができる。
【0018】
一方、低位チップ部23では、チップクリアランスが高位チップ部22より大きくされており、この大きなチップクリアランスに材料を導いて材料に伸長方向の力を加えながら混練を行うため、混練する材料に高い分散性を付与することができる。
以下、本発明の混練材料の混練方法について詳しく説明する。
本発明の混練方法によって混練材料を混練すると、混練後の材料(元材)をフィルムにした場合、フィッシュアイを抑制することができ、例えば、リチウムイオン電池用のセパレータの元材を製造するのに適している。
【0019】
フィッシュアイを抑制することができる製造方法、即ち、混練方法では、まず、少なくとも高密度ポリエチレン(HDPE)からなる粉体状の母材樹脂と、この母材樹脂の周りを取り囲むように浸透するパラフィンオイルとをホッパ5に供給する。供給された混練材料は、送り部10により下流側に送られて、ギアニーディング部20によって分配混練処理が行われる。
【0020】
本実施形態では、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、パラフィンオイルとを、それぞれ6:9:35(質量比)で混合したものを混練材料としている。ここで、混練材料すなわち母材樹脂である高密度ポリエチレンに、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)を混合してもよい。
このように、分配混練処理では、高密度ポリエチレンとパラフィンオイルとを含む混練材料に対して混練処理を行うことによりパラフィンオイルを母材樹脂等に馴染ませることで膨潤して当該混練材料における分配性を高めている。
【0021】
分配混練処理を行った後は、下流側へ送られ、VCMT混練部21によって分配性が高まった混練材料に対して主に剪断を加えて分散性を高める分散混練処理を行う。なお、VCMT混練部21では低位チップ部23によって混練材料を引き延ばして分配性を高める役割もある。そのため、分配混練処理から分散混練処理を見てみると、分配混練処理にて混練材料の分配性を高めた後、当該分散混練処理とにて、さらに分配性と分散性とを高めている。
【0022】
このように、混練材料の母材樹脂の周りにオイルを分配する分配混練処理を行い、分配混練処理の後に、混練材料に剪断を加えつつ混練を行う分散混練処理を行うことにより、混練材料の分配性や分散性が高まり、その結果、材料が均一に混練されると共に、フィッシアイを確実に抑制することができる。
表1は、本発明の方法によって混練した後にフィルムにした場合と、本発明とは異なる方法によって混練した後にフィルムにした場合の異物の個数をまとめたものである。また、図2は、表1における単位体積当たりの異物の面積をまとめたものである。
【0023】
なお、混練するにあたっては、神戸製鋼所製KTX46の混練機1を用いた。また、混練材料のフィード量を75kg/h、混練機1のスクリュ回転数を200rpmにして混練を行った。
【0024】
【表1】

【0025】
表1及び図2に示すように、ギアニーディング部20(GN)にて分配混練処理を行った後に、さらに、ギアニーディング部20(GN)にて分配混練処理を行った場合(比較例1:GN+GN)、即ち、ギア分配混練処理を連続して行った場合、単位体積あたりの異物(例えばフィッシュアイ)の面積は0.012程度であった。
また、VCMT混練部21(VCMT)にて分散混練処理を行った後に、さらに、VCMT混練部21(VCMT)にて分散混練部を行った場合(比較例2:VCMT+VCMT)、即ち、分散混練部を連続して行った場合は、単位体積あたりの異物の面積は0.014程度であった。
【0026】
これに対して、本発明のように、ギアニーディング部20(GN)にて分配混練処理を行った後に、VCMT混練部21(VCMT)にて分散混練処理を行った場合(実施例1:GN+VCMT)、単位体積あたりの異物の面積を0.00089程度にすることができ、他の比較例に比べて非常に小さくすることができた。さらに、実施例1(GN+VCMT)では、単位体積当たりの異物の個数も非常に少なくすることができた。
【0027】
本発明によれば、粉体状の母材樹脂と膨潤させるオイルとを含む混練材料を混練するに際し、分配混練処理を行った後に分散混練処理を行うことにより、フィッシュアイを抑制した異物の少ないものを製造することができる。
[第2実施形態]
第2実施形態では、分配混練処理を行うときと、分散混練処理を行うときの温度を規定したものである。即ち、本発明では、分配混練処理を行うときの温度は、母材樹脂の融点以上としている。例えば、母材樹脂が高密度ポリエチレン(HDPE)であるときは、ギアニーディング部20の温度や処理するときの温度(処理温度)を、加熱装置によって高密度ポリエチレンの融点(130℃程度)よりも高い180℃にしている。これにより、分配混練処理では高密度ポリエチレンが溶けやすくなり、オイルによる芳潤も進むことからさらに分配性をよくすることができる。
【0028】
また、分散混練処理を行うときの温度は、母材樹脂の融点以下としている。例えば、母材樹脂が高密度ポリエチレン(HDPE)であるときは、VCMT混練部21の温度や処理するときの温度(処理温度)を、加熱装置によって高密度ポリエチレンの融点(130℃程度)よりも低い100℃にしている。これにより、分散混練処理では高密度ポリエチレンが剪断し易くなり、さらに分散製をよくすることができる。
【0029】
表2は、本発明の方法によって混練した後にフィルムにした場合と、本発明とは異なる方法によって混練した後にフィルムにした場合の異物の個数をまとめたものである。また、図3は、表2における単位体積当たりの異物の面積をまとめたものである。
なお、混練するにあたっては、混練材料のフィード量を75kg/h、混練機1のスクリュ回転数を300rpmにして混練を行った。
【0030】
【表2】

【0031】
表2及び図3に示すように、分配混練処理での処理温度を180℃として母材樹脂の融点よりも高くし、分散混練処理での処理温度を100℃として母材樹脂の融点よりも低くした場合(実施例3:GN+VCMT)、単位体積あたりの異物の面積を0.00356と小さくでき、他の比較例に比べて、均一混練され且つフィッシアイの発生が少ない混練材料を製造できた。
【0032】
一方、比較例3では、連続して分配混練処理を行っているのに加えて、分配混練処理と分散混練処理との処理温度が同じとしているため、最も異物の面積が大きかった。比較例4では、後処理(2回目の分配混練処理)を行ったときの処理温度を母材樹脂の融点よりも低くしているため、ある程度、異物の面積を小さくできるものの、本発明の実施例3に比べれば非常に大きいものとなった。
【0033】
なお、分配混練処理と分散混練処理との処理温度が同じとした比較例3と実施例2とを比較しても、実施例2では分配混練処理を行った後に分散混練処理を行っているため、比較例3に比べて異物の面積を小さくすることができた。
また、実施例及び比較例に示すように、単位体積当たりの異物の個数を見ても、分配混練処理での処理温度を母材樹脂の融点よりも高くし、分散混練処理での処理温度を母材樹脂の融点よりも低くした実施例3の個数が最も少なかった。
【0034】
本発明によれば、分配混練処理を行った後に分散混練処理を行うことにしたうえで、分配混練処理を行うときの温度を母材樹脂の融点以上とし、分配混練処理を行うときの温度を母材樹脂の融点以下にすることにより、さらに、フィッシュアイを抑制した異物の少ないものを製造することができる。
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0035】
1 混練機
2 バレル
4 混練スクリュ
5 ホッパ
6 スプライン軸
10 送り部
11 混練部
12 押出部
13 スクリュセグメント
20 ギアニーディング部
21 VCMT混練部(可変クリアランス混練部)
22 高位チップ部
23 低位チップ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体状の母材樹脂とオイルとを含む混練材料を混練するに際し、
前記混練材料の母材樹脂の周りにオイルを分配する分配混練処理を行い、
前記分配混練処理の後に、混練材料にせん断を加えつつ混練を行う分散混練処理を行うことを特徴とする混練材料の混練方法。
【請求項2】
前記分配混練処理を、混練機に備えられたギアニーディング部で行い、
前記分散混練処理を、チップクリアランスが狭い高位チップ部と、前記高位チップよりもチップクリアランスが広い低位チップ部とを備えたフライトを有し、且つ前記ギアニーディング部の下流側に設けられている可変クリアランス混練部で行うことを特徴とする請求項1に記載の混練材料の混練方法。
【請求項3】
前記分配混練処理を行うときの温度を、前記母材樹脂の融点以上とし、
前記分散混練処理を行うときの温度を、前記母材樹脂の融点以下にすることを特徴とする請求項1又は2に記載の混練材料の混練方法。
【請求項4】
前記母材樹脂は高密度ポリエチレンとされ、前記オイルはパラフィンオイルであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の混練材料の混練方法。
【請求項5】
前記母材樹脂に超高分子量ポリエチレンを混合して混練を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の混練材料の混練方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−235516(P2011−235516A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108125(P2010−108125)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】