説明

温度特性校正方法

【課題】複数個のワークの温度特性の校正作業全体に要する時間を短縮する。
【解決手段】固有の温度特性を有する複数個のワーク(WG〜WG)を同一の恒温槽H内に収容し、温度調整手段Aによってワーク温度を所定温度に安定させた状態で温度特性の校正を行う温度特性校正方法である。ワーク温度が所定温度に安定した状態になるまでの時間である安定化時間がワーク毎に異なるように各ワークを恒温槽H内に設置するワーク設置工程と、各ワークの安定化時間が経過した時点で温度特性の校正を順次行う校正工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度特性校正方法に関する。特に、所定の検査温度に設定される恒温槽内に収容され、この検査温度下における複数個のワーク(例えば圧力センサ)の出力に関わる温度特性を校正する温度特性校正方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、圧力に応じた電気信号を出力するための圧力センサが種々提案され、実用化されている。例えば、半導体基板を加工して形成されるダイアフラムにピエゾ抵抗を拡散形成し、印加される圧力によるダイアフラムの歪みをピエゾ抵抗の抵抗値の変化として検出する所謂ピエゾ抵抗拡散式の圧力センサ(半導体圧力センサ)がよく知られている。
【0003】
このような圧力センサは、同じ圧力下にあっても温度によって出力が変化する温度特性を有し、製品出荷前に個々の圧力センサの温度特性を校正する必要がある。圧力センサの温度特性の校正は、供試品の圧力センサを所定の検査温度に設定される周知の恒温槽(あるいは恒温恒湿槽)内に入れ、校正のために決められた複数の所定温度下において、所定の圧力を印加したときの出力を測定することで行われている。
【0004】
従来においては、効率良く温度校正を行うために複数個(例えば100個)の圧力センサを同一の恒温槽に入れ、恒温槽に付属する加熱器・冷却器を用いて、恒温槽内の全ての圧力センサの温度を所定温度(温度校正を行うために定められた温度)に安定させた時点で、1個ずつ順番に校正作業を行うようにしていた。近年においては、このような校正作業を行う際に使用される温度特性検査装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10―2825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、恒温槽内といっても全ての圧力センサの温度が同時に所定温度に安定するわけではなく、個々の圧力センサの設置位置によって安定するまでの時間が異なり、恒温槽に付属する加熱器・冷却器からの距離が近ければ早く安定し、遠ければ安定するまでに時間がかかる。また、恒温槽に付属する加熱器・冷却器と自身との間に多くの他の圧力センサが設置されている圧力センサは、温度が安定するまでに長い時間を要することとなる。
【0007】
従来は、温度が安定するまでに最も時間がかかる圧力センサが安定するのを待ってから圧力センサの校正作業を行うようにしていたため、校正作業の開始が遅く、全ての圧力センサの校正が完了するのに長い時間を要してしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、かかる状況に鑑みてなされたものであり、複数個のワークの温度特性の校正作業全体に要する時間を短縮することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る方法は、固有の温度特性を有する複数個のワークを同一の恒温槽内に収容し、温度調整手段によってワーク温度を所定温度に安定させた状態で温度特性の校正を行う温度特性校正方法であって、ワーク温度が所定温度に安定した状態になるまでの時間である安定化時間がワーク毎に異なるように各ワークを前記恒温槽内に設置するワーク設置工程と、所定の時点から各ワークの安定化時間が経過した時点で温度特性の校正を順次行う校正工程と、を備えるものである。
【0010】
かかる方法を採用すると、安定化時間(ワーク温度が所定温度に安定した状態になるまでの時間)が最も短いワークについて、所定の時点から安定化時間が経過した時点で温度特性の校正を開始することができるので、校正作業の開始時期を早めることができる。そして、安定化時間が最も短いワークの校正作業中に他のワークの安定化時間が経過すれば、ファーストワークの校正作業が終了した直後に次のワークの校正作業に取り掛かることができるので、無駄時間が発生しない。この結果、複数個のワークの温度特性の校正作業全体に要する時間を短縮することができる。
【0011】
本発明に係る温度特性校正方法のワーク設置工程において、温度調整手段から各ワークまでの距離が異なるように各ワークを恒温槽内に設置することができる。
【0012】
かかる方法を採用すると、温度調整手段から各ワークまでの距離を異ならせることにより、ワーク毎の安定化時間を異ならせることができる。従って、ワーク毎の安定化時間を異ならせるために特殊な恒温槽や特殊な温度調節手段を使用する必要がない。
【0013】
また、本発明に係る温度特性校正方法において、温度検出素子を有する圧力センサをワークとして採用することができる。かかる場合には、校正工程において、各圧力センサの温度検出素子の検出値に基づいて各圧力センサの安定化時間が経過したか否かを判定することができる。
【0014】
圧力の出力信号を補正するための温度検出素子を有する圧力センサをワークとして採用した場合には、この温度検出素子の検出値に基づいて、各圧力センサの安定化時間が経過したか否かを判定して、順次校正作業を行うことができる。すなわち、ワーク校正のタイミングを、そのワーク自身に設けられた温度検出素子を利用して判定することができるので、別途温度検出素子を設置する必要がなく、かつ、適切なタイミングで校正を行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複数個のワークの温度特性の校正作業全体に要する時間を短縮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(A)は本発明の実施形態に係る温度特性校正方法の適用対象となる圧力センサ(ワーク)の外観図であり、(B)は(A)に示す圧力センサの出力の温度特性を表すグラフである。
【図2】本発明の実施形態に係る温度特性校正方法で使用されるワーク設置台と、このワーク設置台に設置された複数個の圧力センサと、を示す構成図である。
【図3】本発明の実施形態に係る温度特性校正方法で使用される恒温槽の内部校正を説明するための説明図である。
【図4】本発明の実施形態に係る温度特性校正方法を採用した場合における圧力センサの温度変化の時間履歴を示すグラフである。
【図5】従来の温度特性校正方法を採用した場合における圧力センサの温度変化の時間履歴を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
最初に、図1を用いて、本実施形態に係る温度特性校正方法の適用対象となる圧力センサ(ワーク)について説明する。本実施形態においては、図1(A)に示すような圧力センサWをワークとして採用する。圧力センサWは、所謂ピエゾ抵抗拡散式の圧力センサ(半導体圧力センサ)であり、圧力(差圧)の出力信号を補正するための温度検出素子を内部に搭載している。
【0019】
圧力センサWは、同じ圧力下にあっても温度によって出力が変化する固有の温度特性を有している。具体的には、図1(B)に示すように、圧力センサWの温度が常温(例えば25℃程度)の場合には、実際の圧力と出力との関係は曲線CA(破線)のようになる。これに対し、圧力センサWの温度が高温(例えば65℃程度)の場合には、実際の圧力と出力との関係は曲線CH(一点鎖線)のようになり、低温(例えば−15℃程度)の場合には曲線CL(二点鎖線)のようになる。このため、圧力センサWの出力を温度に応じて補正する必要がある。そして、かかる補正を行うためには、圧力センサWの出力の温度特性(図1(B)に示す曲線形状)を知るための校正作業が必要となる。本実施形態に係る温度特性校正方法は、複数個の圧力センサWの温度特性校正作業全体に要する時間を短縮するものである。
【0020】
次に、図2及び図3を用いて、本実施形態に係る温度特性校正方法で使用される装置について説明する。
【0021】
本実施形態に係る温度特性校正方法は、複数個の圧力センサWを図2に示すようなワーク設置台Sに設置した状態で、図3に示すような単一の恒温槽Hの内部に収容し、温度調整手段Aによって圧力センサWの温度を所定温度に安定させた状態で温度特性の校正を行うものである。
【0022】
ワーク設置台Sには、図2に示すように、水平方向にm個の圧力センサWを水平方向に1列に並べて設置することを可能とするワーク設置棚が、鉛直方向に沿ってn段設けられている。このような構成を有するワーク設置台Sには、計m×n個の圧力センサWが設置されることとなる。以下、説明の便宜上、ワーク設置台Sの最上部のワーク設置棚に設置されたm個の圧力センサWを「第1ワーク群WG1」、上から2番目のワーク設置棚に設置されたm個の圧力センサWを「第2ワーク群WG2」、……、最下部のワーク設置棚に設置されたm個の圧力センサWを「第nワーク群WGn」と呼ぶこととする。
【0023】
恒温槽Hの内部には、図3に示すように、温度調整手段Aを構成する加熱器A1、冷却器A2及び送風機A3が設けられており、加熱器A1から発生する高温の空気や冷却器A2から発生する低温の空気は、送風機A3によって水平方向に送られる(流れF1)。また、恒温槽Hの内部には、送風機A3から送られてきた空気を鉛直方向下方へと誘導するための所定断面積を有する流路Pが形成されている。送風機A3から水平方向に送られてきた空気(流れF1)は、流路Pへの流入により高速になった状態で鉛直方向下方へと誘導される(流れF2)。
【0024】
続いて、本実施形態に係る温度特性校正方法について説明する。
【0025】
まず、作業者は、図2に示すようにワーク設置台Sに設置されたm×n個の圧力センサWを恒温槽Hの内部に収容する。この際、恒温槽Hの流路Pの内部にワーク設置台Sを立てて設置することにより、図3に示すように、第1ワーク群WG1を恒温槽Hの最上部に、第nワーク群WGnを恒温槽Hの最下部に、各々位置させるようにする(ワーク設置工程)。このような設置態様は、温度調整手段Aから各ワーク群までの距離を異ならせるものであり、ひいては、各ワーク群の温度が所定温度に安定した状態になるまでの時間(安定化時間)をワーク群毎に異ならせるものである。
【0026】
次いで、作業者は、恒温槽Hの内部に設置した温度調整手段Aを作動させて、各ワーク群の温度を複数の設定温度に安定させた状態で、各ワーク群のセンサ出力を計測することにより、温度特性の校正を順次行う(校正工程)。ここで、校正工程について具体的に説明する。
【0027】
本実施形態においては、例えば冷却器A2及び送風機A3を作動させることにより、図4に示すように初期温度t(℃)の各ワーク群を設定温度t−20(℃)に変更して安定させるものとする。図4に示す複数の曲線C1〜C3は、第1ワーク群WG1〜第3ワーク群WG3の温度の時間履歴を示すものである(n=3の場合)。
【0028】
恒温槽Hの最上部に位置する第1ワーク群WG1は、温度調整手段Aから最も近い位置に配置されているため、第1ワーク群WG1の温度は、他のワーク群よりも早く設定温度(t−20)に到達して安定する。作業者は、温度調整手段Aを作動させた時点(図4に示す「T0」)から、第1ワーク群WG1に含まれる何れか一つの圧力センサWの温度検出素子の検出値をモニタリングする。そして、作業者は、この検出値が設定温度に到達して安定した時点で、第1ワーク群WG1の安定化時間(図4に示す「T1」)が経過したものと判定し、第1ワーク群WG1の温度特性の校正を行う。
【0029】
次いで、作業者は、第1ワーク群WG1の温度特性の校正を行っている間に、第2ワーク群WG2に含まれる何れか一つの圧力センサWの温度検出素子の検出値をモニタリングする。そして、作業者は、この検出値が設定温度に到達して安定した時点で、第2ワーク群WG2の安定化時間(図4に示す「T2」)が経過したものと判定し、第2ワーク群WG2の温度特性の校正を行う。同様に、第3ワーク群WG3の安定化時間(T3)が経過した時点で第3ワーク群WG3の温度特性の校正を行う。以上の工程群を経て、全てのワークの温度特性の校正作業を終了する。
【0030】
従来の温度特性校正方法を採用した場合(各ワーク群の安定化時間に差を設けない場合)には、図5に示すように、全てのワーク群の温度が設定温度に到達して安定した時点(全ワーク安定化時間「TA」が経過した時点)まで、各ワーク群の温度特性の校正を行うことができなかった。また、全てのワーク群の温度が設定温度に安定した時点から各ワーク群の温度特性の校正を順次行う必要があった。このため、全てのワーク群の温度特性の校正作業が終了するまでに長い時間(図4及び図5に示す「TAF」)を要することとなる。これに対し、本実施形態に係る温度特性校正方法を採用した場合には、全てのワークの温度特性の校正が完了する時点までに要する時間(図4に示す「TF」)を大幅に短縮することができる(TF<TAF)。
【0031】
以上説明した実施形態に係る温度特性校正方法においては、安定化時間(ワーク温度が所定温度に安定した状態になるまでの時間)が最も短い第1ワーク群WG1について、安定化時間T1が経過した時点で温度特性の校正を開始することができるので、校正作業の開始時期を早めることができる。そして、安定化時間が最も短い第1ワーク群WG1の校正作業中に第2ワーク群WG2の安定化時間T2が経過すれば、第1ワーク群WG1の校正作業が終了した直後に第2ワーク群WG2の校正作業に取り掛かることができるので、無駄時間が発生しない。この結果、複数個の圧力センサW(ワーク)の温度特性の校正作業全体に要する時間を短縮することができる。
【0032】
また、以上説明した実施形態に係る温度特性校正方法においては、温度調整手段Aから各ワーク群までの距離を異ならせることにより、ワーク毎の安定化時間を異ならせることができる。従って、ワーク毎の安定化時間を異ならせるために特殊な恒温槽や特殊な温度調節手段を使用する必要がない。
【0033】
また、以上説明した実施形態に係る温度特性校正方法においては、圧力の出力信号を補正するための温度検出素子を有する圧力センサWをワークとして採用しているため、この温度検出素子の検出値に基づいて、各ワーク(圧力センサW)の安定化時間が経過したか否かを判定して、順次校正作業を行うことができる。すなわち、ワーク校正のタイミングを、そのワーク自身に設けられた温度検出素子を利用して判定することができるので、別途温度検出素子を設置する必要がなく、かつ、適切なタイミングで校正を行うことができる。
【0034】
なお、以上の実施形態においては、ワークとして、ピエゾ抵抗拡散式の圧力センサを採用した例を示したが、ワークの種類はこれに限られるものではなく、例えば、静電容量式の圧力センサを採用することもできる。また、本発明に係る温度特性校正方法は、圧力センサの校正のみに適用されるものではなく、固有の温度特性を有する各種センサ(流量計や温度センサ)の校正にも同様に適用することができる。
【0035】
本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、この実施形態に当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。すなわち、前記実施形態が備える各要素(ワーク設置台S、恒温槽H、温度調整手段A、流路P等)及びその配置、材料、条件、形状、サイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前記実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0036】
A…温度調整手段
1…加熱器
2…冷却器
3…送風機
H…恒温槽
P…流路
S…ワーク設置台
W…圧力センサ(ワーク)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固有の温度特性を有する複数個のワークを同一の恒温槽内に収容し、温度調整手段によってワーク温度を所定温度に安定させた状態で温度特性の校正を行う温度特性校正方法であって、
ワーク温度が所定温度に安定した状態になるまでの時間である安定化時間がワーク毎に異なるように各ワークを前記恒温槽内に設置するワーク設置工程と、
所定の時点から各ワークの前記安定化時間が経過した時点で温度特性の校正を順次行う校正工程と、
を備える、
温度特性校正方法。
【請求項2】
前記ワーク設置工程において、前記温度調整手段から各ワークまでの距離が異なるように各ワークを前記恒温槽内に設置する、
請求項1に記載の温度特性校正方法。
【請求項3】
前記ワークは、温度検出素子を有する圧力センサであり、
前記校正工程において、各圧力センサの温度検出素子の検出値に基づいて各圧力センサの前記安定化時間が経過したか否かを判定する、
請求項1又は2に記載の温度特性校正方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate