説明

測距センサの評価方法

【課題】振動子のインピーダンス特性を測定した上で、共振周波数及び反共振周波数のそれぞれに特徴的な特性を測定することによって、測距センサの良/不良の判定を高精度に実行できる測距センサの性能評価方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る測距センサ10の性能評価方法は、少なくとも、PZT振動子13のインピーダンス特性、共振板14が送信信号を作り出す際のPZT振動子13の尖鋭度特性及びコーン部15で増幅した受信信号が伝達された際のPZT振動子13の電気抵抗分特性の3つの特性を測定することで行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波の送受信によって非接触で対象物までの距離を測定する測距センサの性能評価方法に関し、特に近接距離を確実に測定することのできる測距センサの性能評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から圧電素子であるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)を利用した非接触の測距センサ(超音波センサ)が知られている。このような測距センサは、PZT振動子にパルス信号を加えることでPZT振動子を発振させ、送信信号(発信信号)を空中に放射し、対象物からの受信信号(反射信号)を受信し、送信信号の送信時刻と受信信号の受信時刻との時間差を利用することで、対象物との距離を測定するようになっている。また、このような測距センサは、PZT振動子とPZT振動子に固着して共振させる共振金属板(アルミや鋼板等)の1次共振を利用することを基本としていた。
【0003】
そのようなものとして、PZT振動子を発振させることによって発生する信号を空中に放射する送信部と、空中に放射された信号が対象物で反射した受信信号を受信する受信部とを同じ位置に配置するとともに、反射鏡を用いて送信部から反射面(水面)までの距離を伸ばすことで、反射波が受信部に到達するまでに送信部からの信号波を十分減衰させるようにした技術が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。なお、PZT振動子の共振周波数は40kHz程度であり、超音波領域の周波数を放射(発振)するようになっている。
【0004】
また、測距センサの性能は、定電圧回路法によって評価することができる。この定電圧回路法は、PZT振動子の発振により共振し、受信信号を受信により反共振する共振金属板のインピーダンス特性を測定し、共振金属板の共振周波数及び反共振周波数が所定の範囲内にあるかどうかを測定するものである。そして、共振周波数が所定の範囲内であるかどうかで測距センサの性能を評価するようにするのが一般的である。したがって、インピーダンス特性に基づいて、共振金属板の共振周波数が所定の範囲内にある測距センサであれば合格品として扱われるようになっている。
【0005】
【特許文献1】特開2001−59765号公報(第5ページ、第2図)
【非特許文献1】「超音波噴霧」(第109−110ページ 定電圧回路法)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の測距センサでは、PZT振動子の共振周波数における尖鋭度(Qファクタ)が鋭く、その結果としてPZT振動子の振動の減衰が遅れてしまう。つまり、PZT振動子から発信される送信信号の残留成分がかなり長い間(数十μ〜数百μ秒間)続くため、受信信号が受信部に到達するときにおいても送信信号の残留成分(いわゆる、尾引き)が送信部から放射され、この残留成分がマスクとなってしまい、対象物までの正確な距離の測定が困難になってしまうという問題があった。この問題は、1次共振の振動を強制的に抑制することで解決することができる。
【0007】
このような測距センサは、PZT振動子の反共振周波数のバラツキが大きくなるために、共振周波数が所定の範囲内にあったとしても、反共振周波数が所定の範囲内にあるとは限らないことがある。つまり、定電圧回路法によって合格品と評価された測距センサの中には、正常に動作しない不良品が多く含まれてしまうという可能性が高くなっていたのである。したがって、PZT振動子の共振周波数及び反共振周波数が所定の範囲内にあるかどうかを測定した上で、共振周波数及び反共振周波数のそれぞれに特徴的な特性を測定し、性能を評価することが望ましいのである。
【0008】
本発明は、以上のような問題を解決するためになされたもので、振動子のインピーダンス特性を測定した上で、共振周波数及び反共振周波数のそれぞれに特徴的な特性を測定することによって、測距センサの良/不良の判定を高精度に実行できる測距センサの性能評価方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る測距センサの評価方法は、圧電素子で構成された振動子と、前記振動子に取り付けられ、前記振動子の振動と共振することで共振波である発信信号を対象物に向けて発射する共振板と、前記共振板の前記振動子側とは反対側に取り付けられ、前記対象物で反射された反射信号を受信し、増幅するコーン部と、前記発信信号及び前記反射信号の1次振動モード波を部分的かつ強制的に抑制するダンピング材とを備えた測距センサの評価方法であって、少なくとも、前記振動子のインピーダンス特性、前記共振板が送信信号を作り出す際の前記振動子の尖鋭度特性及び前記コーン部で増幅した受信信号が伝達された際の前記振動子の電気抵抗分特性の3つの特性を測定することで前記測距センサを評価することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る測距センサの性能評価方法は、少なくとも、振動子のインピーダンス特性、共振板が送信信号を作り出す際の振動子の尖鋭度特性及びコーン部で増幅した受信信号が伝達された際の振動子の電気抵抗分特性の3つの特性を測定することで測距センサを評価するので、測距センサの良/不良の判定を高精度に実行できるとともに、測距センサの品質を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る性能評価方法で性能評価する測距センサ10の概略構成を示す概略構成図である。図1に基づいて、測距センサ10の構成について説明する。この測距センサ10は、超音波を1つのデバイスで送受信することによって非接触で対象物までの距離を測定するものである。また、図1(a)が測距センサ10の縦断面図を、図1(b)が測距センサ10の平面図をそれぞれ示している。なお、図1を含め、以下の図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものとは異なる場合がある。
【0012】
図1(a)に示すように、測距センサ10は、支持部11と、台座12と、PZT振動子13と、共振板14と、コーン部15とが順に積層されて構成されている。支持部11は、測距センサ10が収容される設備機器の筐体等に測距センサ10を取り付けるためのものである。この支持部11は、図1(b)に示すように上から見ると円形状となっている。台座12は、支持部11に取り付けられており、PZT振動子13を固定するためのものである。
【0013】
PZT振動子13は、チタン酸ジルコン酸鉛からなる圧電素子であり、正電極端子部17及び負電極端子部18を介してパルス電圧が加えられ、発振するようになっている。つまり、PZT振動子13は、円形状で構成されており、パルス電圧が印加されることによって、所定の周波数範囲(一般的に40kHz前後)の音波(超音波)を発振する機能を有しているのである。また、超音波による振動を電気信号に変換する機能も有している。したがって、PZT振動子13の動作状態を、図4に示すようなPZT振動子13のインピーダンス特性で表すことができる。
【0014】
共振板14は、PZT振動子13に取り付けられており、PZT振動子13の発振(振動)と共振することによって共振波である送信信号(発信信号)を作り出す機能を有している。また、共振板14は、コーン部15で増幅された受信信号によっても共振するようになっている。つまり、共振板14は、送信信号を作り出すときに振動し、受信信号を受信したときにも振動するようになっているのである。
【0015】
また、共振板14には、ダンピング材16が設けられている。このダンピング材16は、共振板14から発信される共振波である送信信号の1次振動モード波を部分的かつ強制的に抑制する機能を有している。すなわち、ダンピング材16を設けることによって、共振板14の振動を吸収し、送信信号の1次振動モード波の振幅を減少させ、送信信号の残留成分を抑制することが可能になっている。
【0016】
コーン部15は、対象物からの受信信号(反射信号)を受信し、増幅する機能を有している。コーン部15が受信信号を増幅した際の振動が共振板14に伝達されるようになっている。このコーン部15の縦断面形状は略等脚台形状となっており、共振板14側が短辺を構成している。また、コーン部15は、ダンピング材16によって支持されるようになっている。こうすることによって、コーン部15の振動もダンピング材16によって吸収することが可能になっている。つまり、ダンピング材16は、コーン部15で受信される受信信号の1次振動モード波も部分的かつ強制的に抑制する機能を有している。
【0017】
更に言えば、ダンピング材16により、共振板14及びコーン部15の双方の振動を吸収し、送信信号及び受信信号の1次振動モード波を部分的かつ強制的に抑制でき、それに伴って1次振動モード波の震幅を減少させ、送信信号及び受信信号の残留成分を抑制することが可能になっている。このダンピング材16は、コーン部15の共振板14側(図下側)の周縁と共振板14との間に形成される空間に配置され、共振板14及びコーン部15に接触し、送信信号及び受信信号の1次振動モード波を抑制するようになっている。
【0018】
この測距センサ10は、ダンピング材16を設けることにより、共振板14及びコーン部15の振動を部分的かつ強制的に抑制するようにしている。すなわち、ダンピング材16によって送信信号及び受信信号双方の残留成分を効果的に抑制し、送信信号と受信信号との区別を容易にし、受信信号の受信及び増幅を確実に実行できるようにしているのである。したがって、測距センサ10は、近接位置にある対象物をより効果的に測定することができる。
【0019】
図1(b)に示すように、ダンピング材16は、円環状で構成されている。こうすることによって、送信信号の主要な1次振動モード波の残留成分(いわゆる尾の部分)の発生を効率的に抑制することができるからである。つまり、ダンピング材16を円環状で構成すれば、1次振動モード波の「中腹部」を抑えるのに最適だからである。また、ダンピング材16を構成する材料を特に限定するものではなく、共振板14及びコーン部15に接触し、双方の振動を抑制できる材料で構成するとよい。たとえば、接着性のあるエポキシ樹脂やシリコンゴム等のような弾性体でダンピング材16を構成するとよい。
【0020】
図2は、測距センサ10の信号処理の概要を説明するための説明図である。図2に基づいて、測距センサ10の信号処理について説明する。まず、送信回路部(パルス発振部)20からパルス電圧を周期的に繰り返し発信させ、正電極端子部17及び負電極端子部18を介してPZT振動子13に加える(図2で示す矢印A)。そうすると、PZT振動子13は、所定の周波数範囲の音波を発振する。PZT振動子13の発振によって共振板14が送信信号を対象物に向けて放射する。
【0021】
送信信号が対象物で反射した受信信号は、コーン部15で受信される。この受信信号は、コーン部15で増幅され、共振板14及びPZT振動子13を経て受信回路部21に入力される(図2で示す矢印B)。この受信回路部21は、受信信号をフィルタをかけてノイズを取り、更に増幅を行った上で、波高値、入射時間を計測する。受信回路部21で計測された値は、演算処理回路部22に送られる(図2で示す矢印C)。そして、演算処理回路部22は、送信時間と入射時間から対象物までの距離を算出する。なお、演算処理回路部22は、送信回路部21に周期的にパルス電圧を発信させるようになっている(図2で示す矢印D)。
【0022】
図3は、送信信号の波形(送信波形)及び受信信号の波形(受信波形)を説明するための説明図である。図3に基づいて、送信波形及び受信波形について図2を参照しながら説明する。なお、図3には、実施の形態1に係る測距センサ10の送信波形及び受信波形(図3(b))の他に、PZT振動子13に加えられるパルスの波形(図3(a))と、ダンピング材16を設けていない場合の送信波形及び受信波形(図3(c))とを併せて示している。また、この図3では、横軸は時間を示している。
【0023】
送信回路部20から発信されたパルス電圧S1がPZT振動子13に加えられると、PZT振動子13が発振して、共振板14から送信信号S2が対象物に向けて放射される。なお、共振板14は、ダンピング材16によって強制的に振動が抑制されており、作り出される送信信号S2も残留成分の抑制されたものとなっている。すなわち、図3に示すように、ダンピング材16を設けていない場合の送信信号S2’の波形は、時間の経過とともに振幅は小さくなるものの尾の部分が残留成分となってしまうが、測距センサ10ではダンピング材16を設けているので、残留成分を効率的に抑制することができるのである。
【0024】
送信信号S2は、対象物で反射し受信信号S3となってT時間経過にコーン部15で受信される。また、コーン部15もダンピング材16によって強制的に振動が抑制されているので、受信信号S3も残留成分の抑制されたものとなっている。また、コーン部15は、ダンピング材16によって、上下方向にのみ振動するようになっており、受信信号S3を確実に増幅できるようになっている。そして、演算処理回路部22は、送信信号S2が放射されてから受信信号S3を受信するまでに要した時間Tにより対象物までの距離を測定する。
【0025】
ここで、実施の形態1の特徴事項である測距センサ10の性能評価方法について説明する。測距センサ10は、PZT振動子13の発信によって共振板14が送信信号を作り、受信信号をコーン部15で受信し、それを共振板14を介してPZT振動子13に伝達することで電気信号に変更される送受を一体的に行なうものである。したがって、PZT振動子13の送受のトータル的なインピーダンス特性を測定した上で、送信側の共振周波数及び受信側の反共振周波数のそれぞれに特徴的な特性を測定することによって、測距センサ10の良/不良の判定を高精度に実行し、測距センサ10の品質を高めるようになっているのである。以下、各特性について説明する。
【0026】
図4は、PZT振動子13のインピーダンス(Z)特性を表すグラフである。図4に基づいて、PZT振動子13の送受におけるトータル的なインピーダンス特性について説明する。この図4では、横軸が周波数(Hz)を、縦軸がインピーダンス(Ω)をそれぞれ示している。また、図4で示すF1がPZT振動子13における共振周波数を、F2がPZT振動子13における反共振周波数をそれぞれ示している。さらに、図4には、インピーダンス特性を測定した5種類の測距センサ10の測定値を示している。
【0027】
測定値C1は、基準となる測距センサ10の測定値を示している。測定値C2は、良判定とされる場合の測距センサ10の測定値を示している。測定値C3〜測定値C5は、不良判定とされる場合の測距センサ10の測定値を示している。この図4に示すように、5つの測距センサ10の測定値(測定値C1〜測定値C5)は、共振周波数域におけるインピーダンスのバラツキが小さいが、反共振周波数域におけるインピーダンスのバラツキが大きいことがわかる。つまり、送信側の共振周波数及びインピーダンスが良判定の範囲内にあったとしても、受信側の反共振周波数及びインピーダンスが良判定の範囲内にないことがあるのである。
【0028】
まず、正常動作する測距センサ10のインピーダンス特性を基準値(モデル値)として測定する(測定値C1)。その後、完成した測距センサ10におけるPZT振動子13のインピーダンス特性を測定し、その測定値(測定値C2〜測定値C5)を測定値C1と比較することで測距センサ10の良/不良を判定する(詳細は図5で説明する)。ここでは、測定値C2のみが良判定とされ、測定値C3〜測定値C5が不良判定とされる場合を例に示している。このとき、測定値C1との不一致度によって原因を予測することが可能となっている。
【0029】
特に、測定値C2〜C5の反共振周波数及びインピーダンスを測定値C1の反共振周波数及びインピーダンスと比較することで、おおよその不良判定の原因が予測できる。それは、反共振周波数及びインピーダンスを比較することで、受信信号を受信するコーン部15に何らかの原因があるものと考えられるからである。たとえば、測定値C3の反共振周波数及びインピーダンスは、測定値C1の反共振周波数及びインピーダンスよりも大きく上回っているためにコーン部15の振動を抑制するダンピング材16の設置不良、つまりコーン部15の振動が抑制できないことが原因であると考えられる。
【0030】
また、測定値C4の反共振周波数は、測定値C1の反共振周波数より右側にずれているためにコーン部15を抑制するダンピング材16の設置場所や設置量に偏りがあり、コーン部15の振動を均等に抑制できていないことが原因であると考えられる。さらに、測定値C5の反共振周波数及びインピーダンスは、測定値C1の反共振周波数及びインピーダンスよりも大きく下回っているためにコーン部15を抑制するダンピング材16の設置量の過多、つまりコーン部15の振動を強固に抑制してしまっていることが原因であると考えられる。
【0031】
以上のように、共振板14の送受のトータル的なインピーダンス特性、特に送信側の共振周波数及びインピーダンスに基づいて測距センサ10の性能を評価したとしても、受信側の反共振周波数及びインピーダンスに大きなバラツキが生じ、結果的に測距センサ10の性能評価の精度が低下してしまう。そこで、この実施の形態1では、以下に説明するように、送受のトータル的なインピーダンス特性の他に、共振周波数及び反共振周波数のそれぞれに特徴的な特性(図6及び図7参照)を測定することによって、測距センサ10の性能評価の精度及び品質の向上を図るようにしているのである。
【0032】
図5は、PZT振動子13のインピーダンス(Z)特性を表すグラフである。図5に基づいて、測距センサ10の性能評価方法の第1の評価である送受のトータル的なインピーダンス特性の測定について説明する。この図5では、横軸が周波数(Hz)を、縦軸がインピーダンス(Ω)をそれぞれ示している。また、図5で示すF1がPZT振動子13における共振周波数を、F2がPZT振動子13における反共振周波数をそれぞれ示している。さらに、図5には、図4と同様にインピーダンス特性を測定した5種類の測距センサ10の測定値を示している。
【0033】
測距センサ10の性能評価方法は、PZT振動子13の送受のトータル的なインピーダンス特性を測定することから開始する。まず、正常動作する測距センサ10におけるPZT振動子13のインピーダンス特性を基準値として測定する(測定値C1)。そして、この測定値C1に基づいて、正常動作が可能な許容範囲を決定する。つまり、測定値C1を良品モデルの測定値として、共振周波数域における許容範囲H1及び送信側インピーダンスにおける許容範囲L1と、反共振周波数域における許容範囲H2及び受信側インピーダンスにおける許容範囲L2とを決定するのである。
【0034】
その後、完成した測距センサ10におけるPZT振動子13のインピーダンス特性を測定し、その測定値(測定値C2〜C5)を測定値C1と比較する。つまり、測定値C2〜C5の共振周波数及び送信側インピーダンスがそれぞれ許容範囲H1及び許容範囲L1内にあるかどうか、及び、測定値C2〜C5の反共振周波数及び受信側インピーダンスがそれぞれ許容範囲H2及び許容範囲L2内にあるかどうかを判定するのである。したがって、許容範囲内にない測定値C3〜C5を示す測距センサ10は、不良品として扱われることになる。そして、たとえば測定値C2を示す測距センサ10のように、各許容範囲内に全てあるものが第2の評価に移行する。
【0035】
図6は、送信側の共振周波数に特徴的な尖鋭度(Q)特性を表すグラフである。図6に基づいて、測距センサ10の性能評価方法の第2の評価である送信側の尖鋭度特性の測定について説明する。この図6では、横軸が周波数(Hz)を、縦軸が尖鋭度(Q)をそれぞれ示している。また、図6には、尖鋭度特性を測定した3種類の測距センサ10の測定値を示している。測定値Q1は、基準となる測距センサ10の測定値を示している。測定値Q2及びQ3は、不良判定とされる場合の測距センサ10のそれぞれの測定値を示している。
【0036】
測距センサ10の性能評価方法の第2の評価は、共振板14が送信信号を作り出す際のPZT振動子13の発振における尖鋭度を測定することである。尖鋭度は、PZT振動子13の発振による共振板14の共振の状態を表す音響特性の傾向を示すものであり、確実な共振現象が発生しているときは、急峻なピークを有する傾向を示すが、共振板14が何らかの影響(たとえば、ダンピング材16の設置位置や設置量の影響)を受け、共振現象が乱れると、緩やかなピークや過度な急峻ピークを有する傾向を示す。
【0037】
たとえば、測定値Q2の尖鋭度のように、過度な急峻ピークを有する傾向を示す場合には、共振板14の振動を抑制するダンピング材16の設置不良、つまり共振板14の振動が抑制できないことが原因であると考えられる。また、測定値Q3の尖鋭度のように、緩やかなピークを有する傾向を示す場合には、共振板14の振動を抑制するダンピング材16の設置量の過多、つまり共振板14の振動を強固に抑制してしまっていることが原因であると考えられる。
【0038】
まず、正常動作する測距センサ10の尖鋭度特性を基準値(モデル値)として測定する(測定値Q1)。そして、この測定値Q1に基づいて、正常動作が可能な許容範囲を決定する。つまり、測定値Q1を良品モデルの測定値として、尖鋭度における許容範囲QLを決定するのである。その後、第1の評価の評価基準を満たした測距センサ10の尖鋭度特性を測定し、その測定値(測定値Q2及びQ3)を測定値Q1と比較することで、測定値Q2及びQ3の尖鋭度が許容範囲QL内にあるかどうかを判定する。したがって、測定値Q2及びQ3を示す測距センサ10は、不良品として扱われることになる。その結果、第2の評価の評価基準を満たしたものが第3の評価に移行する。
【0039】
図7は、受信側の反共振周波数に特徴的な電気抵抗分(R)特性を表すグラフである。図7に基づいて、測距センサ10の性能評価方法の第3の評価である受信側の電気抵抗分特性の測定について説明する。この図7では、横軸が周波数(Hz)を、縦軸が電気抵抗分(Ω)をそれぞれ示している。また、図7には、電気抵抗分特性を測定した5種類の測距センサ10の測定値を示している。測定値R1は、基準となる測距センサ10の測定値を示している。測定値R2は、良判定とされる場合の測距センサ10の測定値を示している。測定値R3〜R5は、不良判定とされる場合の測距センサ10の測定値を示している。
【0040】
測距センサ10の性能評価方法の第3の評価は、コーン部15が受信、増幅した受信信号が伝達された際のPZT振動子13の電気抵抗分を測定することである。まず、正常動作する測距センサ10の電気抵抗分特性を基準値(モデル値)として測定する(測定値R1)。そして、この測定値R1に基づいて、正常動作が可能な許容範囲を決定する。つまり、電気抵抗分における許容範囲RLを決定するのである。その後、第2の評価の評価基準を満たした測距センサ10の電気抵抗分特性を測定し、その測定値(測定値R2〜R5)を測定値R1と比較することで、測定値R2〜R5の電気抵抗分が許容範囲RLにあるかどうかを判定する。したがって、測定値R3〜R5を示す測距センサ10は、不良品として扱われることになる。その結果、測定値R2を示す測距センサ10のみが良品、つまり合格品として扱われることになる。
【0041】
たとえば、測定値R3の電気抵抗分は、測定値R1の電気抵抗分より大きく上回っているためにコーン部15の振動を抑制するダンピング材16の設置不良、つまりコーン部15の振動が抑制できないことが原因であると考えられる。また、測定値R4の電気抵抗分は、許容範囲RL内にあるものの測定値R1の電気抵抗分より左側にずれているためにコーン部15を抑制するダンピング材16の設置場所や設置量に偏りがあり、コーン部15の振動を均等に抑制できていないことが原因であると考えられる。さらに、測定値R5の電気抵抗分は、測定値R1の電気抵抗分より大きく下回っているためにコーン部15を抑制するダンピング材16の設置量の過多、つまりコーン部15の振動を強固に抑制してしまっていることが原因であると考えられる。
【0042】
以上のように、測距センサ10の性能を評価するので、良/不良の判定を高精度に実行することができる。つまり、測距センサ10の性能を3つの評価、PZT振動子13における送受のトータル的なインピーダンス特性(第1の評価)、共振周波数に特徴的な尖鋭度特性(第2の評価)及び反共振周波数に特徴的な電気抵抗分特性(第3の評価)で評価するので、高品質を確保した測距センサ10を提供することが可能となる。また、各許容範囲を狭く設定すれば、更に測距センサ10の品質を高くすることができる。さらに、測距センサ10は、高品質を保有しているので、近接位置にある対象物をより正確に測定することができる。
【0043】
なお、実施の形態1に係る性能評価方法で説明した各許容範囲は、測距センサ10の基準値(測定値C1、Q1及びR1)に基づいて決定すればよく、特に限定するものではない。たとえば、測距センサ10の大きさや使用目的、設置場所、測定対象物等の諸条件に基づいて計測された実測値に基づいて各許容範囲を決定するとよい。また、測距センサ10に円筒状に構成されたホーン部を装着して使用するようにしてもよい(図8参照)。測距センサ10にホーン部を装着すれば、対象物に向けて放射する送信信号の音響レベルを大きくすることができるとともに、対象物で反射された受信信号をコーン部15に確実に導くことができる。
【0044】
実施の形態2.
図8は、測距センサ10が搭載されたショーケース50の全体構成を示す概略構成図である。図8に基づいて、測距センサ10をショーケース50に適用した場合について説明する。このショーケース50は、コンビニエンスストアや、スーパーマーケット等の店舗に設置され、食品や飲料等を載置するものである。この測距センサ10は、実施の形態1に係る性能評価方法によって高い品質を有していることが実証されたものである。
【0045】
図8に示すように、ショーケース50は、熱交換器51と、この熱交換器51から発生するドレン水55を集めて下方に流下するドレン管52と、このドレン管52から流下したドレン水55を貯留するドレンタンク53とで構成されている。そして、測距センサ10は、ホーン部30が装着され、ドレンタンク53の上面の開口部の上方に取り付けられるようになっている。また、測距センサ10は、測距センサ10に装着されたホーン部30の開口部がドレンタンク53内の水面を向くように配置されている。なお、波線は測距センサ10から送信された超音波(送信信号)と水面で反射された反射波(受信信号)を示している。
【0046】
すなわち、測距センサ10は、ドレンタンク53内に貯留されるドレン水55の水位を検出するための水位検出装置として機能しているのである。この場合、対象物がドレンタンク53内に貯留されるドレン水55の水面であり、測距センサ10から水面までの距離、つまり水位を検出するようになっている。測距センサ10は、上述したように近接距離を測定することができるので、このような形態で利用することができるのである。また、測距センサ10は、高品質を保有しているために、確実に対象物までの距離を測定することができる。なお、ショーケース50に1つの測距センサ10を搭載した場合を例に説明したが、これに限定するものではなく、複数個の測距センサ10を搭載してもよい。
【0047】
この実施の形態2では、測距センサ10をショーケース50に搭載した場合を例に説明したが、これに限定するものではなく、空気調和装置等の設備機器に搭載してもよい。つまり、近接距離の検出を目的とする設備機器であれば搭載することができるのである。たとえば、掃除機の本体や吸込口体に測距センサ10を搭載して掃除する室内にある障害物までの距離を検出するようにしたり、自動車のバンパーに測距センサ10を搭載して壁やガードレールまでの距離を検出したりすることも可能である。また、ホーン部30を装着しない状態で測距センサ10のみを搭載してもよい。
【0048】
各実施の形態では、PZT振動子13を例として説明したが、これに限定するものではない。たとえば、セラミック型の圧電素子や高分子型の圧電素子等の圧電素子であってもよい。また、実施の形態2に係るホーン部30が円筒状に構成されている場合を例に説明したが、これに限定するものではない。たとえば、ホーン部30を角柱状に構成し、内部空間である音響通路を円柱状にくり抜くようにしてもよい。また、この場合には、支持部11もホーン部30の形状に応じた形状とするとよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施の形態1に係る性能評価方法で性能評価する測距センサの概略構成を示す概略構成図である。
【図2】測距センサの信号処理の概要を説明するための説明図である。
【図3】送信波形及び受信波形を説明するための説明図である。
【図4】PZT振動子のインピーダンス(Z)特性を表すグラフである。
【図5】PZT振動子のインピーダンス(Z)特性を表すグラフである。
【図6】送信側の共振周波数に特徴的な尖鋭度(Q)特性を表すグラフである。
【図7】受信側の反共振周波数に特徴的な電気抵抗分(R)特性を表すグラフである。
【図8】測距センサが搭載されたショーケースの全体構成を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0050】
10 測距センサ、11 支持部、12 台座、13 PZT振動子、14 共振板、15 コーン部、16 ダンピング材、17 正電極端子部、18 負電極端子部、20 送信回路部、21 受信回路部、22 演算処理回路部、30 ホーン部、50 ショーケース、51 熱交換器、52 ドレン管、53 ドレンタンク、55 ドレン水。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電素子で構成された振動子と、
前記振動子に取り付けられ、前記振動子の振動と共振することで共振波である発信信号を対象物に向けて発射する共振板と、
前記共振板の前記振動子側とは反対側に取り付けられ、前記対象物で反射された反射信号を受信し、増幅するコーン部と、
前記発信信号及び前記反射信号の1次振動モード波を部分的かつ強制的に抑制するダンピング材とを備えた測距センサの評価方法であって、
少なくとも、前記振動子のインピーダンス特性、前記共振板が送信信号を作り出す際の前記振動子の尖鋭度特性及び前記コーン部で増幅した受信信号が伝達された際の前記振動子の電気抵抗分特性の3つの特性を測定することで前記測距センサを評価する
ことを特徴とする測距センサの評価方法。
【請求項2】
前記インピーダンス特性、前記尖鋭度特性及び前記電気抵抗分特性を、予め測定したある基準値と比較することで前記測距センサを評価する
ことを特徴とする請求項1に記載の測距センサの評価方法。
【請求項3】
前記インピーダンス特性を基準値となるインピーダンス特性と比較する第1の評価、前記尖鋭度特性を基準値となる尖鋭度特性と比較する第2の評価、前記電気抵抗分特性を基準値となる電気抵抗分特性と比較する第3の評価の順に測距センサを評価する
ことを特徴とする請求項2に記載の測距センサの評価方法。
【請求項4】
前記基準値に所定の許容範囲を設定しておき、
前記インピーダンス特性、前記尖鋭度特性及び前記電気抵抗分特性が前記基準値の許容範囲内にあるかどうかで前記測距センサを評価する
ことを特徴とする請求項3に記載の測距センサの評価方法。
【請求項5】
前記第1の評価の評価基準を満たしたときに、前記第2の評価に移行し、
前記第2の評価を評価基準を満たしたときに、前記第3の評価に移行することで前記測距センサを評価する
ことを特徴とする請求項4に記載の測距センサの評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−170306(P2008−170306A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−4300(P2007−4300)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000004422)日本建鐵株式会社 (152)