説明

湿式排煙脱硫装置

【課題】設備費や動力を大幅に増大させず、ガスの吹抜けやガス偏流を防止して脱硫性能が高い湿式排煙脱硫装置を提供することである。
【解決手段】排ガス入口13と、上昇する排ガスに吸収液を噴霧するスプレノズル10と、吸収液を貯留するタンク6と、タンク6内の吸収液をスプレノズル10に送る循環配管8と、排ガス出口14とを備えた吸収塔1を設けた湿式排煙脱硫装置において、複数のスプレノズル10を設けたスプレヘッダ9を上下に複数段備え、各段のスプレヘッダ9に接続する各循環配管8を吸収塔1側壁の単一箇所から塔内に貫通する単一管とし、各スプレヘッダ9は略中央部が循環配管8に接続して吸収塔1内壁の周方向に沿って伸びるメインスプレヘッダ11と、メインスプレヘッダ11から分岐して循環配管8の貫通方向に伸びる複数のサブスプレヘッダ12とを備えることで、装置の製作工数が減少し、吸収塔1の内壁近傍のガス吹抜けを抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス中の有害成分である硫黄酸化物を除去する排ガス処理装置に係わり、特に、吸収塔のコストを低く抑えることができると共に、吸収塔内のガス偏流と吸収塔の内壁近傍におけるガスの吹抜けを抑制できる湿式排煙脱硫装置に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所等においては、大気汚染防止のため、化石燃料の燃焼に伴い発生する排ガス中の硫黄酸化物の除去装置として、湿式石灰石−石膏法排煙脱硫装置が広く実用化されている。図8には、従来技術の湿式排煙脱硫装置における吸収塔(側面図)を示し、図9には、図8の吸収塔のスプレヘッダ部分の平面図を示す。
【0003】
この湿式排煙脱硫装置は、主に、吸収塔1と、吸収塔1に排ガスを導入する入口ダクト2と、吸収塔1から排ガスが排出される出口ダクト3と、排ガスの流れ方向に沿って上下に複数段設けられ、入口ダクト2から導入される排ガスに吸収液5を噴霧する多数のスプレノズル10を備えたスプレヘッダ9と、スプレノズル10から噴霧される吸収液を貯留する循環タンク6と、循環タンク6内の吸収液をスプレヘッダ9に循環させるための吸収液循環配管8と、吸収液循環配管8に設けた送液用の吸収液循環ポンプ4と、排ガスの流れに同伴する微小な液滴(ミスト)を除去するためのミストエリミネータ7等から構成される。
【0004】
火力発電所や工場等に設置されるボイラ等の燃焼装置から排出される硫黄酸化物を含む排ガスは、図示していない脱硫ファンにより入口ダクト2からほぼ水平方向(矢印X方向)に吸収塔1に導入された後、上昇し、吸収塔1の塔頂部に設けられた出口ダクト3から矢印Y方向に排出される。この間、吸収液循環ポンプ4から送られる石灰石(炭酸カルシウム)又は石灰を含むスラリなどの吸収剤を含んだ吸収液5がスプレヘッダ9に取り付けられた複数のスプレノズル10から噴霧される。スプレノズル10から微細な液滴として噴霧される吸収剤の液滴と排ガスとを接触させることで、排ガス中のばいじんや塩化水素(HCl)、フッ化水素(HF)等の酸性ガスと共に、排ガス中の硫黄酸化物(SOx)はスプレノズル10の吸収液滴表面で化学的に吸収、除去される。
【0005】
SOxを吸収した吸収液5は、一旦吸収塔1の底部の循環タンク6に溜まり、図示しない酸化用撹拌機によって撹拌されながら、図示しない空気供給管から供給される空気中の酸素により酸化され、硫酸カルシウム(石膏)を生成する。ボイラ等からの排ガスに含まれるSOx量に応じて、図示しない吸収剤スラリ(主に石灰石スラリ)供給ラインから吸収剤が供給される。炭酸カルシウム及び石膏が共存する循環タンク6にあるスラリ状の吸収液5の一部は、吸収液循環ポンプ4により昇圧され、吸収液循環配管8を経由して、吸収塔1内の上部のスプレヘッダ9に供給され、一部は図示しない吸収液抜き出し管より図示しない廃液処理・石膏回収系へと送られる。
【0006】
また、スプレノズル10からの噴射によって微粒化された吸収液5の中で,液滴径の小さいものは排ガスに同伴されるが、出口ダクト3側に設けられたミストエリミネータ7によって捕集される。
【0007】
この従来技術では、図9に示すように吸収塔1の外部で吸収液循環配管8から複数のスプレヘッダ9に分岐して吸収塔1に挿入、貫通する配管構造である。この構造の場合は、吸収塔1の側壁にスプレヘッダ9の数分だけ穴を開けてスプレヘッダ9を貫通させる必要があるため、各段毎に複数個、すなわち複数段の場合は多くの穴を空けることになる。したがって、製作工数が増えて設備コストが高くなりやすいという問題がある。
【0008】
また、吸収塔1のスプレノズル10にはホロコーンノズルが採用される場合が多いが、中空状のホロコーンノズルの特性とスプレノズル10同士のスプレ液滴の重ね合わせとの関係から、ホロコーンノズルのデッドゾーンが生じてガスの吹抜けが起こってしまうという問題がある。
このガス吹抜け現象の問題に関して、下記特許文献1では、上面から見てスプレノズルを千鳥配置にすることで、ホロコーンノズルのデッドゾーンを生じさせないようにしている。
【0009】
一方、吸収塔1の内壁近傍は、中央部に比べて落下液量が少なくなるという問題も生じる。これは、吸収塔1の中央部は、スプレヘッダ9が配置された吸収部のあらゆる方向から吸収液5のスプレ液滴が集まるのに対して、内壁部においては、塔内方向からはスプレ液滴が集まるものの塔外方向からはスプレ液滴が飛散してこないためである。したがって、排ガスは吸収塔1の内壁部に多く流れやすく、ガス吹抜け現象が起こり脱硫性能の低下をもたらす原因となる。
【0010】
そして、このような脱硫性能の低下をカバーするためには、より多くの吸収液5を噴霧する必要があり、吸収液循環ポンプ4の動力が増大するだけでなく、吸収部の圧力損失の増加による、図示しない脱硫ファンの動力増大にも繋がってしまう。
したがって、吸収塔1内壁近傍におけるガスの吹抜けに配慮する必要がある。
【0011】
この吸収塔内壁部のガス吹抜け現象の問題に関しては、その目的と効果は異なるものの、下記特許文献2にリング状のスプレヘッダが示されている。吸収塔の平面図が示されていないため、詳細な構造は不明であるが、このリング状スプレヘッダが吸収塔の内壁近傍に配置されることで、ガスの吹抜けを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭63−151337号公報
【特許文献2】特開平11−239715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
下記特許文献1の構成によれば、ホロコーンノズルのデッドゾーンが生じないように各段のスプレヘッダの配置を工夫しているが、吸収塔1の内壁近傍には液滴が飛散しにくいためデッドゾーンが生じやすく、中央部に比べて落下液量が少なくなる。そして、特許文献1ではスプレヘッダの内部分岐方式を採用しており、吸収塔に対して貫通するスプレヘッダ(メインスプレヘッダ)を1本として、貫通後の吸収塔内部でメインスプレヘッダに直行する方向にサブスプレヘッダ(メインスプレヘッダから枝分かれするヘッダ)を複数設けている。
【0014】
各段のメインスプレヘッダの吸収塔への貫通部は1ヶ所のみであるため、設備コストを抑えることができる。しかし、この内部分岐方式の場合は、分岐する前の太いメインスプレヘッダが吸収塔の中央部に存在するため、中央部のガス流れを阻害してしまいガス偏流を起こしやすい。本来、吸収塔の中央部にはスプレ液滴が多く落下するため、むしろそれに応じて多くのガスを導入する必要があるが、特許文献1の構成では塔中央部に配置されたメインスプレヘッダの存在によって、逆に吸収塔の中心部にガスが流れ難くなっている。
【0015】
また、下記特許文献2の構成によれば、吸収塔の内壁近傍におけるガスの吹抜けを防止することは可能になると推測される。しかし、スプレヘッダをリング状にすると吸収塔中央部には吸収液を噴霧することができないため、逆に塔中心部へのガス偏流を誘発することになる。また、特許文献2ではスプレヘッダは1段しか示されていないが、このリング状のスプレヘッダを複数段にした場合は設置の際に方向性を持たせることはできず(上から見ると、全てのスプレヘッダが重なっている)、どの段でも全く同じ構造となるため、ガスのミキシングに対しては望ましいとは言えない。したがって、一旦高濃度のSOx領域ができてしまうと、高濃度のまま出口まで流れて排出されてしまうことになる。
【0016】
以上のことから、上述の従来技術では、吸収塔の製作工数や吸収塔内のガス偏流、ならびに吸収塔の内壁近傍におけるガスの吹抜けに関して十分考慮されておらず、設備コストが高くなりやすい。また、ガス偏流やガスの吹抜けに伴う脱硫性能の低下を補うために吸収液の循環量を増加させると吸収液循環ポンプ及び脱硫ファンの動力が増大するという問題がある。
【0017】
本発明の課題は、設備費や動力を大幅に増大させることなく、ガスの吹抜けやガス偏流を防止して脱硫性能が高い湿式排煙脱硫装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記本発明の課題は、各段のスプレヘッダに連結される循環配管を単一管として、吸収塔の側壁の単一個所から吸収塔内に貫通させると共に、循環配管を吸収塔の内壁に沿って配置されるメインスプレヘッダの略中央部に接続し、メインスプレヘッダから循環配管と同一方向に伸びる複数のサブスプレヘッダに分岐させることにより達成される。
【0019】
また、循環配管の吸収塔内への貫通方向を各段のスプレヘッダ毎に変えても良い。
更に、ガス流れの最上流側である最下段に位置するメインスプレヘッダに接続する循環配管を排ガス入口部の上部の側壁から吸収塔内部に挿入、貫通させても良い。
また、メインスプレヘッダの底部にスプレノズルを設けても良い。
【0020】
具体的に、上記本発明の課題は、下記の構成を採用することにより達成できる。
請求項1記載の発明は、ボイラを含む燃焼装置から排出される排ガスを略水平方向に導入する入口部と、該入口部の上方で、入口部から導入されて上昇する前記排ガスに、該排ガス中の硫黄酸化物を吸収する吸収液を噴霧するスプレノズルを有する吸収部と、前記スプレノズルから噴霧した吸収液を貯留する貯留部と、前記貯留部内の吸収液を前記吸収部に循環する循環部と、前記吸収部を通過した排ガスを排出する出口部とを備えた吸収塔を設けた湿式排煙脱硫装置において、吸収部には複数のスプレノズルを設けたスプレヘッダを上下方向に複数段備え、循環部には貯留部内の吸収液をスプレヘッダに送る循環配管を各段のスプレヘッダ毎に備え、前記各循環配管は、吸収塔の側壁の単一箇所から吸収塔内に貫通して各段のスプレヘッダに接続する単一管であり、 前記各段のスプレヘッダは、略中央部が前記循環配管に接続して吸収塔の内壁の周方向に沿って伸びるメインスプレヘッダと、メインスプレヘッダから分岐して循環配管の貫通方向と同一方向に伸びる複数のサブスプレヘッダとを備えた湿式排煙脱硫装置である。
【0021】
請求項2記載の発明は、前記各循環配管の吸収塔に対する貫通方向が各段のスプレヘッダ毎に異なる請求項1に記載の湿式排煙脱硫装置である。
請求項3記載の発明は、最下段のスプレヘッダに接続する循環配管は吸収塔の入口部上部の側壁から吸収塔内に貫通している請求項1又は請求項2に記載の湿式排煙脱硫装置である。
請求項4記載の発明は、前記メインスプレヘッダの底部にスプレノズルを設けた請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の湿式排煙脱硫装置である。
【0022】
(作用)
上述の従来技術では、吸収塔の製作工数が増える、吸収塔内のガス偏流及びガスの吹抜けが起こる等の問題があり、また吸収塔内におけるガスのミキシングに関しても十分配慮されていなかった。
【0023】
これらの点に関して、請求項1に記載の発明によれば、まず各段のスプレヘッダは内部分岐方式を採用しており、循環配管の吸収塔側面に対する貫通部を1ヶ所のみとしている。従来は、図9に示すように、各段のスプレヘッダ毎に複数個、複数段の場合は多くの穴を吸収塔の側壁に空ける必要があった。しかし、本発明によれば、吸収塔側面に対する貫通部を各段で1つとすることで、製作工数の低減が可能となる。
【0024】
また、各段のスプレヘッダが吸収塔の内部で分岐する内部分岐方式を採用したことでメインスプレヘッダは吸収塔内部に配置されることになる。この場合に、循環配管がメインスプレヘッダの略中央部に接続していることで、配管構造が、吸収塔の側壁を挟んでメインスプレヘッダに移行した直後にメインスプレヘッダを分岐して、吸収液の流れを二方向とした構造になっているため、両方向に均等に吸収液を送ることができると共にメインスプレヘッダを従来の70%以下の径にすることが可能となる。
【0025】
更に、メインスプレヘッダは吸収塔の内壁の周方向に沿って配置されており、特許文献1のように吸収塔の中心部に太いメインスプレヘッダが配置されていない。本来、吸収塔の中央部にはスプレ液滴が多く落下するため、それに応じて多くのガスを導入する必要がある。本発明では、吸収塔の中央部にメインスプレヘッダが配置されていないため、上昇するガス流れを阻害することはない。
【0026】
また、このようにメインスプレヘッダを吸収塔の内壁近傍に配置していることで、このメインスプレヘッダの存在によって内壁近傍におけるガスの吹抜けが抑制される。
【0027】
この内壁近傍におけるガスの吹抜けは、特許文献2のように、リング状のスプレヘッダの場合でも同様の効果が得られるが、通常、スプレヘッダはガス流れに対して複数段で構成されるため、リング状のスプレヘッダを複数段にした場合は設置の際に方向性を持たせることができず、全ての段で全く同じ構造となり、ガスのミキシングに対しては効果があまり期待できない。
【0028】
しかし、請求項2に記載の発明によれば、上記請求項1に記載の発明の作用に加えて、吸収塔内への循環配管の貫通方向(挿入方向)を各段のスプレヘッダ毎に変えているため、各段のスプレヘッダ毎にガス流れを遮る部分が異なる。すなわち、サブスプレヘッダは各段の循環配管の貫通方向と同一方向に伸びているため、各段でサブスプレヘッダの配置が異なってくる。また、各段の循環配管に接続する各段のメインスプレヘッダの配置も異なってくる。
【0029】
したがって、ガスが迂回しながら吸収塔内を上昇することになり(ガスがジグザグ状に上昇する)、ガスのミキシング効果が得られるようになる。この場合に高濃度のSOx領域ができてしまっても、吸収部を上昇する間に脱硫されて濃度が低くなるため、SOxが高濃度のまま排出されてしまうことが防止される。
【0030】
また、吸収塔の中心部に多く落下する吸収液を避けるように、入口ダクトから導入される排ガスの一部は、吸収塔入口部(開口部)を通過した後、すぐに吸収部に向かって上昇しやすくなる。したがって、ガス流れが最上流側の最下段のスプレノズルでは、入口部側に高流速域が形成されて脱硫性能を低下させる原因となる。
【0031】
これに対して、請求項3に記載の発明によれば、上記請求項1又は請求項2に記載の発明の作用に加えて、循環配管を排ガス入口部の上部の側壁から吸収塔内に挿入し、ガス流れの最上流側、すなわち最下段に位置するスプレヘッダに接続させることで、吸収塔の内壁に沿うように配置されるメインスプレヘッダの存在が入口部近傍の高流速域に対する遮蔽の役割を果たすため、脱硫性能の低下を防止できる。
【0032】
また、請求項4に記載の発明によれば、上記請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の発明の作用に加えて、メインスプレヘッダの底部にもスプレノズルを設置することで、メインスプレヘッダ近傍を流れるガスに対しても吸収液の噴霧が十分できるため、メインスプレヘッダと吸収塔内壁の隙間を流れるガスのすり抜けによる脱硫性能の低下を防止できる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、スプレヘッダが吸収塔の内部で分岐する内部分岐方式の採用によって吸収塔の製作工数の減少が可能になると共に、メインスプレヘッダを吸収塔の内壁近傍に沿うように配置したことで内壁近傍におけるガス吹抜けを抑制することができる。したがって、設備コストの低減、脱硫性能の向上等の効果がある。
【0034】
すなわち、請求項1に記載の発明によれば、吸収塔の製作工数の低減が図れると共に、吸収塔の中央部におけるガス流れを阻害することなく、内壁近傍におけるガスの吹抜けも抑制される。
【0035】
また、請求項2に記載の発明によれば、上記請求項1に記載の発明の効果に加えて、各段のスプレヘッダの配置によって、ガスが迂回しながら吸収塔内を上昇することで、ガスのミキシング効果が得られ、更なる脱硫性能の向上が図れる。
【0036】
そして、請求項3に記載の発明によれば、上記請求項1又は請求項2に記載の発明の効果に加えて、最下段のスプレヘッダが排ガス入口部付近の高流速域に対して遮蔽の役割を果たすため、脱硫性能の低下を防止できる。
【0037】
更に、請求項4に記載の発明によれば、上記請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の発明の効果に加えて、メインスプレヘッダ近傍を流れるガスに対しても吸収液を噴霧することで、メインスプレヘッダと吸収塔内壁の隙間を流れるガスのすり抜けによる脱硫性能の低下を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施例である湿式排煙脱硫装置の吸収塔の側面図である。
【図2】図1のA−A’線矢視図である。
【図3】図1のA−A’〜B−B’間の矢視図である。
【図4】図1のB−B’〜C−C’間の矢視図である。
【図5】図1のC−C’〜D−D’間の矢視図である。
【図6】図1のA−A’〜D−D’間の矢視図である。
【図7】本発明の他の実施例である湿式排煙脱硫装置の吸収塔の側面図である。
【図8】従来技術の湿式排煙脱硫装置の吸収塔の側面図である。
【図9】図8におけるスプレヘッダの構造を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に、本発明の実施の形態を示す。
【実施例1】
【0040】
図1には、本発明の一実施例である湿式排煙脱硫装置の吸収塔1の側面図を示す(内部も示している)。また、図2〜図5には、図1における吸収塔の各段のスプレヘッダ毎の平面矢視図を示す。すなわち、図2には最下段のスプレヘッダ9付近の平面図を示し、図3には下から2段目のスプレヘッダ9付近の平面図を示し、図4には上から2段目のスプレヘッダ9付近の平面図を示し、図5には最上段のスプレヘッダ9付近の平面図を示している。また、図6は全てのスプレヘッダ9の配置関係を示した平面図である。
【0041】
この湿式排煙脱硫装置は、主に、吸収塔1と、吸収塔1に排ガスを導入する入口ダクト2と、排ガスが排出される出口ダクト3と、排ガスの流れ方向に沿って上下に複数段設けられ、入口ダクト2からの排ガスに吸収液5を噴霧する多数のスプレノズル10を備えたスプレヘッダ9と、スプレノズル10から噴霧される吸収液を貯留する循環タンク6と、循環タンク6内の吸収液をスプレヘッダ9に循環させるための吸収液循環配管8と、吸収液循環配管8に設けた送液用の吸収液循環ポンプ4と、排ガスの流れに同伴する微小な液滴を除去するためのミストエリミネータ7等から構成される。
【0042】
火力発電所や工場等に設置されるボイラ等の燃焼装置から排出される硫黄酸化物を含む排ガスは、図示していない脱硫ファンにより入口ダクト2から吸収塔入口13へ矢印X方向(ほぼ水平方向)に流れて吸収塔1に導入された後、上昇し、吸収塔1の塔頂部に設けられた吸収塔出口14を通り、出口ダクト3から矢印Y方向に排出される。この間、吸収液循環ポンプ4から送られる石灰石又は石灰を含むスラリなどの吸収剤を含んだ吸収液5がスプレヘッダ9に取り付けられた複数のスプレノズル10から噴霧される。スプレノズル10から微細な液滴として噴霧される吸収剤の液滴と排ガスとを接触させることで、排ガス中のばいじんやHCl、HF等の酸性ガスと共に、排ガス中のSOxはスプレノズル10の吸収液滴表面で化学的に吸収、除去される。
【0043】
SOxを吸収した吸収液5は、一旦吸収塔1の底部の循環タンク6に溜まり、図示しない酸化用撹拌機によって撹拌されながら、図示しない空気供給管から供給される空気中の酸素により酸化され、石膏を生成する。ボイラ等からの排ガスに含まれるSOx量に応じて、図示しない吸収剤スラリ(主に石灰石スラリ)供給ラインから吸収剤が供給される。炭酸カルシウム及び石膏が共存する循環タンク6にあるスラリ状の吸収液5の一部は、吸収液循環ポンプ4により昇圧され、吸収液循環配管11を経由して、吸収塔1内の上部のスプレヘッダ9に供給され、一部は図示しない吸収液抜き出し管より図示しない廃液処理・石膏回収系へと送られる。
【0044】
また、スプレノズル10からの噴射によって微粒化された吸収液5の中で,液滴径の小さいものは排ガスに同伴されるが、出口ダクト3側に設けられたミストエリミネータ7によって捕集される。
【0045】
図1〜図6に示す実施例において、吸収塔1内の各段のスプレヘッダ9に繋がる吸収液循環配管8は吸収塔1の外部で分岐せずに、1本のまま1ヶ所から吸収塔1内に貫通しており、この吸収液循環配管8は吸収塔1の内壁に沿って配置されるメインスプレヘッダ11の略中央部に接続し、メインスプレヘッダ11からは吸収液循環配管8と同一方向に伸びる複数のサブスプレヘッダ12が分岐した構成である。なお、サブスプレヘッダ12はメインスプレヘッダ11よりも径が小さくなっている。
【0046】
吸収液循環配管8がメインスプレヘッダ11の略中央部に接続していることで、中央部から分岐する二方向に、すなわちメインスプレヘッダ11の両端部に均等に吸収液を送ることができる。また、サブスプレヘッダ12はメインスプレヘッダ11から吸収液循環配管8と同一方向に伸びているため、吸収液循環配管8からの吸収液の流れ方向があまり変化することなくスムーズにサブスプレヘッダ12の端部まで送液されるため、吸収液循環ポンプ4の動力を低減できる。
【0047】
そして、上記のように、本実施例ではスプレヘッダ9の内部分岐方式を採用しており、各段のメインスプレヘッダ11に接続する吸収液循環配管8の吸収塔1側壁に対する貫通部は1ヶ所のみである。これにより、吸収塔の製作工数を低減することが可能となる。
【0048】
また、このように内部分岐方式を採用したことでメインスプレヘッダ11は吸収塔1内部に配置されることになるが、配管構造が、吸収液循環配管8から吸収塔1の側壁を挟んでメインスプレヘッダ11に移行した直後にメインスプレヘッダ11を分岐して、吸収液の流れを二方向とした構造になっているため、メインスプレヘッダ11を従来の70%以下の太さの径にしている。
【0049】
メインスプレヘッダ11の径を小さくすることで、メインスプレヘッダ11の存在がガス流れの阻害要因となることが防止でき、ガス流れに対する影響を軽減できる。更に、サブスプレヘッダ12も先端部にかけて径が細くなるように複数の部材で接合する構造とすれば、メインスプレヘッダ11、サブスプレヘッダ12の順に段階的に径を細くすることが可能となる。
【0050】
そして、特に、吸収塔1の中央部にはスプレノズル10からのスプレ液滴が多く落下するため、それに応じて多くのガスを導入する必要があるが、本実施例ではメインスプレヘッダ11を吸収塔1の内壁近傍に沿わせて配置しているため、塔中央部へのガス流れを阻害することはない。
また、メインスプレヘッダ11を吸収塔1の内壁近傍に沿わせて配置したことで、このメインスプレヘッダ11の存在によって内壁近傍におけるガスの吹抜けが抑制される。
【0051】
そして、通常、スプレヘッダ9はガス流れに対して複数段で構成される。従来の吸収塔のように内壁部全体にリング状のスプレヘッダを設けただけの構成では、スプレヘッダを複数段設置しても上から見た場合に完全に重なり合って、径方向ではどの部分も同じガス流となるため、径方向におけるガスのミキシング効果はほとんどないと言える。しかし、本構成によれば、メインスプレヘッダ11から分岐する複数のサブスプレヘッダ12の存在により、上下方向のみならず径方向におけるガスのミキシング効果も得られる。
【0052】
また、図2〜図6に示すように吸収塔1への吸収液循環配管8の挿入方向を各段毎に変えても良い。このようにすると各段毎にメインスプレヘッダ11並びにサブスプレヘッダ12がガス流れを遮る部分が異なり、ガスのミキシング効果が一層高まる。したがって、高濃度のSOx領域ができてしまっても、吸収塔1内を上昇する間に脱硫されて濃度が低くなるため、SOxが高濃度のまま排出されてしまうことが防止される。
【0053】
なお、図示例ではスプレヘッダ9を上下に4段設置しているが、これより少なくても多くても良い。また、図示例では、平面視において各段の吸収液循環配管8を均等な間隔で設け、各段の吸収液循環配管8の挿入方向も同角度(図示例では90度)ずつ変えているが、必ずしもこの構成に限定されることはない。しかし、各段の吸収液循環配管8をバランス良く配置することで、メインスプレヘッダ11やサブスプレヘッダ12もバランスの取れた配置となるため、吸収塔1内のどの領域を通る排ガスにも偏りなく吸収液が噴霧される。
【0054】
なお、メインスプレヘッダ11からサブスプレヘッダ12に吸収液が流れる際に、配管の曲がり部で直交部分が多いと、圧力損失が発生し、吸収液循環ポンプ4の動力の増大に繋がってしまう。そこで、図2等に示すように、メインスプレヘッダ11からサブスプレヘッダ12への分岐部は丸みを付けて曲面形状にすることで、吸収液の流れがスムーズになり圧力損失の増大を防止できる。また、サブスプレヘッダ12とメインスプレヘッダ11とにより形成される角度が90度ではなく、分岐部上流側のメインスプレヘッダ11とサブスプレヘッダ12とにより形成される角度が鈍角となるように分岐部を形成しても良い。
【0055】
また、吸収塔1の中心部に多く落下する吸収液5を避けるように、入口ダクト2から導入される排ガスの一部は、吸収塔1の入口(開口部)13を通過した後、すぐに複数段のスプレヘッダ9が設置された吸収部に向かって上昇しやすくなる。したがって、排ガス流れ最上流側に位置する最下段のスプレヘッダ9付近では入口13や入口ダクト2側に高流速域が形成されるため、脱硫性能を低下させる原因となる。
【0056】
これに対して、本実施例によれば、最下段のメインスプレヘッダ11及びサブスプレヘッダ12に対して吸収液循環配管8を入口ダクト2側から吸収塔1内に挿入させることで、入口13の上部にメインスプレヘッダ11が位置すると共に吸収塔1の内壁に沿うように配置されるため、このメインスプレヘッダ11の存在が高流速域に対する遮蔽の役割を果たし、脱硫性能の低下を防止できる。したがって、吸収液5の循環量を増加させる必要もないため、吸収液循環ポンプ4及び脱硫ファンなどの動力の低減効果もある。
【実施例2】
【0057】
また、図7には、本発明の他の実施例である湿式排煙脱硫装置の吸収塔1の側面図を示す。
この図では、図1に示す湿式排煙脱硫装置の吸収塔1のメインスプレヘッダ11の底部にもスプレノズル10を設置した例を示している。また、それ以外は実施例1と同様であるため、説明は省略する。なお、図7では、見やすいようにサブスプレヘッダ12のスプレノズル10は図示を省略しているが、実際は図1と同じようにサブスプレヘッダ12にもスプレノズル10を設ける。
【0058】
サブスプレヘッダ12のみならず、メインスプレヘッダ11の底部にもスプレノズル10を設けることで,メインスプレヘッダ11の近傍を流れる排ガスに対しても十分に吸収液5を噴霧することができるため、メインスプレヘッダ11と吸収塔1内壁の隙間を流れるガスのすり抜けによる性能低下を防止できる。
そして、本実施例においても、実施例1と同様の作用効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0059】
湿式排煙脱硫装置に限らず、その他の湿式排煙装置にも利用可能性がある。
【符号の説明】
【0060】
1 吸収塔 2 入口ダクト
3 出口ダクト 4 循環ポンプ
5 吸収液 6 循環タンク
7 ミストエリミネータ 8 循環配管
9 スプレヘッダ 10 スプレノズル
11 メインスプレヘッダ 12 サブスプレヘッダ
13 吸収塔入口 14 吸収塔出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラを含む燃焼装置から排出される排ガスを略水平方向に導入する入口部と、該入口部の上方で、入口部から導入されて上昇する前記排ガスに、該排ガス中の硫黄酸化物を吸収する吸収液を噴霧するスプレノズルを有する吸収部と、前記スプレノズルから噴霧した吸収液を貯留する貯留部と、前記貯留部内の吸収液を前記吸収部に循環する循環部と、前記吸収部を通過した排ガスを排出する出口部とを備えた吸収塔を設けた湿式排煙脱硫装置において、
吸収部には複数のスプレノズルを設けたスプレヘッダを上下方向に複数段備え、
循環部には貯留部内の吸収液をスプレヘッダに送る循環配管を各段のスプレヘッダ毎に備え、
前記各循環配管は、吸収塔の側壁の単一箇所から吸収塔内に貫通して各段のスプレヘッダに接続する単一管であり、
前記各段のスプレヘッダは、略中央部が前記循環配管に接続して吸収塔の内壁の周方向に沿って伸びるメインスプレヘッダと、メインスプレヘッダから分岐して循環配管の貫通方向と同一方向に伸びる複数のサブスプレヘッダとを備えたことを特徴とする湿式排煙脱硫装置。
【請求項2】
前記各循環配管の吸収塔に対する貫通方向が各段のスプレヘッダ毎に異なることを特徴とする請求項1に記載の湿式排煙脱硫装置。
【請求項3】
最下段のスプレヘッダに接続する循環配管は吸収塔の入口部上部の側壁から吸収塔内に貫通していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の湿式排煙脱硫装置。
【請求項4】
前記メインスプレヘッダの底部にスプレノズルを設けたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の湿式排煙脱硫装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−111527(P2013−111527A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259885(P2011−259885)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】