湿式触媒を用いた配向CNT製造方法及び配向CNT
【課題】本発明は、表面に反応防止膜が形成された反応防止膜付基板に対し、好適な濡れ性を有し、触媒金属塩の溶媒として使用でき、均一な触媒層を形成し、最終的に製造される配向CNTのサイズを制御することを目的としている。
【解決手段】本発明は、溶媒に触媒金属塩を分散及び/又は溶解した触媒金属塩液を基板の表面に塗布加熱し、熱CVD処理により配向CNTを合成する製造方法において、前記溶媒は、PGEと前記PGEとの相溶性があって非親水性を有する非親水液とが混合した特性溶媒であり、前記非親水液が前記PGEより加水分解反応が少なく、前記基板が基板表面に反応防止膜が形成された反応防止膜付基板であり、前記触媒金属塩液の金属塩濃度と前記配向CNTのサイズとの相関から相関関係を導出し、前記相関関係により前記金属塩濃度を調整して前記サイズを制御する配向CNT製造方法である。
【解決手段】本発明は、溶媒に触媒金属塩を分散及び/又は溶解した触媒金属塩液を基板の表面に塗布加熱し、熱CVD処理により配向CNTを合成する製造方法において、前記溶媒は、PGEと前記PGEとの相溶性があって非親水性を有する非親水液とが混合した特性溶媒であり、前記非親水液が前記PGEより加水分解反応が少なく、前記基板が基板表面に反応防止膜が形成された反応防止膜付基板であり、前記触媒金属塩液の金属塩濃度と前記配向CNTのサイズとの相関から相関関係を導出し、前記相関関係により前記金属塩濃度を調整して前記サイズを制御する配向CNT製造方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶媒に触媒金属塩を分散及び/又は溶解した触媒金属塩液を用いて、略垂直に配向した多数のカーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称する)からなる配向CNT(「ブラシ状CNT」とも称される)を製造する方法及び製造された配向CNTに関し、更に詳細には、前記触媒金属塩液を基板の表面に塗布加熱して触媒層を有する触媒基板を形成し、原料ガスを供給して熱CVD処理により前記触媒基板の上に配向CNTを合成する配向CNT製造方法及びその製造方法により合成された配向CNTに関するものである。
【背景技術】
【0002】
配向CNTの合成には、熱により原料ガスを分解して成長させる化学気相成長法(CVD法)が用いられ、熱CVD処理と称されている。この熱CVD処理では、触媒を利用して配向CNTを合成するため、触媒化学気相成長法(CCVD法)とも称されている。S.Chakrabartiらは、配向CNTの製造方法において、スパッタや電子ビーム蒸着等のような物理蒸着法(PVD)を用いて、鉄触媒層を基板上に成膜し、前記鉄触媒層の厚さをコントロールすることを非特許文献1(S.Chakrabarti,H.Kume,L.Pan,T.Nagasaka,and Y.Nakayama:J.Phys.Chem.C 111(2007)1929-1934)に記載している。更に、前記鉄触媒層の厚さをコントロールすることにより、単層CNT(SWCNT)、2層CNT(DWCNT)、多層CNT(MWCNT)の作り分けができ、同時にCNTの直径を制御し、配向カーボンナノチューブを製造することが可能であることを非特許文献1に記載している。
【0003】
しかしながら、PVDにより鉄触媒からなる触媒金属層を形成するためには、高真空蒸着装置等の高価な装置が必要となると共に、製造のためのランニングコストや装置の維持費も増大する。これらの課題を解決するため、長坂らは、配向CNTを製造するための鉄触媒層の製造方法として、大気圧下で基板上に触媒層を成膜できる湿式担持法を特許文献1(国際公開第WO2009/038172号)に記載している。特許文献1に記載される方法では、硝酸鉄を分散又は溶解させた硝酸鉄溶液をシリコン基板に塗布して鉄触媒前駆層を形成し、これを加熱することにより鉄触媒層をシリコン基板の表面に形成している。この方法を「湿式法」、湿式触媒法で作製された触媒層を単に「湿式触媒」とも称する。
【0004】
特許文献1では、硝酸鉄の溶媒にジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と称する)とエタノールの混合液を使用することにより、PVDにより成膜された触媒層と同様の配向CNTをシリコン基板上に合成できることが記載されている。更に、非特許文献2(T.Nagasaka,M.Yamamura,M.Kondo,Y.Watanabe,K.Akasaka,K.Hirahara,and Y.Nakayama:Jpn.J.Appl.Phys.48 (2009) 06FF06)には、基板表面の原子間力顕微鏡(AFM)観察により湿式触媒を用いた場合において塗布後は触媒粒子が観察されていないが、CVDの加熱過程において触媒が粒子状態となって触媒粒子層を形成し、各触媒粒子にCNTが成長し、基板上に配向CNTが合成されることが記載されている。また、特許文献2には基板表面に触媒層を形成する際、基板表面と触媒層の間に反応防止層を形成し、触媒金属と基板表面の反応を防止することで配向CNTの成長効率が高まることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第WO2009/038172号
【特許文献2】国際公開第WO2008/111653号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S.Chakrabarti,H.Kume,L.Pan,T.Nagasaka,and Y.Nakayama:J.Phys.Chem.C 111(2007)1929-1934
【非特許文献2】T.Nagasaka,M.Yamamura,M.Kondo,Y.Watanabe,K.Akasaka,K.Hirahara,and Y.Nakayama:Jpn.J.Appl.Phys.48 (2009) 06FF06
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、特許文献1には、触媒金属塩である硝酸鉄の溶媒にDMFとエタノールの混合液を用い、硝酸鉄溶液を塗布加熱して鉄触媒層を形成することにより、配向CNTをシリコン基板上に合成できることが記載されていた。しかしながら、基板の種類ないしは表面の状態によって均一に塗布することが困難であり、更に、塗膜の厚さや触媒層の厚さを制御することが難しかった。特に、シリコン基板上に反応防止層としての酸化膜や窒化膜を形成した場合、硝酸鉄溶液を均一に塗布すること、触媒層の厚さを制御することは困難であった。更に、触媒金属塩を分散又は溶解させた触媒金属塩液の安定性にも問題があり、時間の経過とともに触媒金属塩やその誘導体等の水酸化物が沈殿し、触媒金属塩液として使用できない場合があった。
また、特許文献2には、基板表面に反応防止層を形成し、触媒金属と基板表面の反応を防止することが記載されているが、触媒金属塩液を均一に反応防止層表面に塗布できることが明確に示されていなかった。
【0008】
図27は、特許文献1に記載されている従来の湿式である触媒金属塩液における沈殿粒子の粒子径分布の時間変化図である。エタノールとプロピレングリコールモノエチルエーテル(以下、「PGE」と称する)の混合液(混合質量比8:2)に、0.6重量%の硝酸鉄(III)9水和物を加え、触媒金属塩液を作製した。図27に示すように、エタノールとPGEの混合液を溶媒とした場合、6時間経過すると沈殿粒子の粒度分布が変化し、小さな粒子が凝集したり、粒子が成長して大きな粒子を形成し沈殿する。触媒金属塩液を作製して3時間後には、粒子径が大きくなり始めていることが分かる。長時間の保管によりアルコール中に空気中の水分が溶解し、更に金属の水酸化物を形成する問題があった。後述するように、PGEのみを溶媒とした場合であっても触媒金属塩溶液の安定性に問題がある。
【0009】
更に、非特許文献2において、テルピネオールやグリコールエーテルを溶媒とした場合にも安定性に問題があり、3時間〜6時間以上で、溶媒中における触媒金属塩の沈殿物の粒径が大きくなり、この触媒金属塩液を用いても触媒粒子層を形成することができなかった。一方、DMFを溶媒とした場合、触媒金属塩液は沈殿を生成せず比較的安定であるが、DMFは、シリコン酸化膜を有する基板に適しているとは言えず、均一に塗布することが困難であった。配向CNTを大量生産する場合、触媒金属塩液を大量に生産し、前記触媒金属塩液を供給し続ける必要があり、溶媒に触媒金属塩を分散又は溶解させても、長時間に亘って安定性を保持することが求められていた。更に、基板表面に酸化膜を形成することにより、基板表面の安定性が向上し、基板表面と触媒金属が反応することがなく、安定に配向CNTを合成できることから、反応防止層であるシリコン酸化膜や窒化膜付基板に均一に塗布できる触媒金属塩液が求められていた。
【0010】
従って、本発明の目的は、表面に反応防止層である酸化膜や窒化膜が形成された基板に対し、好適な濡れ性を有し、触媒金属塩の溶媒として使用することができ、均一な厚さの触媒層を形成し、最終的に製造される配向CNTのサイズを制御することができることを第1の目的とし、長期間、触媒金属塩液が安定に保存することができ、且つ、所定サイズの配向CNTを工業的に大量生産することができる配向CNT用触媒金属塩溶液を提供し、配向CNTを製造することを第2の目的とする。
尚、本願明細書において、「配向CNTのサイズ」とは、特に断らない限り、「配向CNTを構成するCNTの平均サイズ」を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであって、本発明の第1の形態は、溶媒に触媒金属塩を分散及び/又は溶解して触媒金属塩液を生成し、前記触媒金属塩液を基板の表面に塗布加熱して触媒層を有する触媒基板を形成し、原料ガスを供給して熱CVD処理により前記触媒基板の上に配向カーボンナノチューブ(以下、「配向CNT」と称する)を合成する配向CNT製造方法において、前記基板は、基板表面に酸化膜又は窒化膜が形成された反応防止膜付基板であり、前記触媒金属塩液の金属塩濃度と配向CNTを構成するCNTのサイズとの相関から相関関係を導出し、前記相関関係により前記金属塩濃度を調整して前記サイズを制御する製造方法であり、前記サイズが前記CNTの平均外径、平均内径及び平均層数の1つ以上の値であり、前記相関関係は、前記サイズが前記金属塩濃度に対して線形の比例関係を有すると仮定して導出されたサイズ線形関数である配向CNT製造方法である。
【0012】
本発明の第2の形態は、溶媒に触媒金属塩を分散及び/又は溶解して触媒金属塩液を生成し、前記触媒金属塩液を基板の表面に塗布加熱して触媒層を有する触媒基板を形成し、原料ガスを供給して熱CVD処理により前記触媒基板の上に配向CNTを合成する配向CNT製造方法において、前記溶媒は、PGEと、前記PGEとの相溶性があって非親水性を有する非親水液とが混合した特性溶媒であり、前記非親水液は、前記触媒金属塩液の中で前記PGEより加水分解反応が少なく加水分解抑制作用を有し、前記基板は、基板表面に酸化膜又は窒化膜が形成された反応防止膜付基板であり、前記触媒金属塩液の金属塩濃度と前記配向CNTのサイズとの相関から相関関係を導出し、前記相関関係により前記金属塩濃度を調整して前記サイズを制御する製造方法であり、前記サイズが前記配向CNTの平均外径、平均内径及び平均層数の1つ以上の値である配向CNT製造方法である。
【0013】
本発明の第3の形態は、第2の形態において、前記非親水液は、前記反応防止膜に対して前記PGEと同じ又はより小さな接触角の濡れ性を有する配向CNT製造方法である。
【0014】
本発明の第4の形態は、第2又は第3の形態において、前記相関関係は、前記サイズが前記金属塩濃度に対して線形の比例関係を有すると仮定して導出されたサイズ線形関数である配向CNT製造方法である。
【0015】
本発明の第5の形態は、第2、第3又は第4の形態において、前記触媒層の厚さが前記金属塩濃度に対して略線形の比例関係を有し、線形関数により近似された厚さ線形関数により前記金属塩濃度を調整して前記触媒層の厚さを制御する配向CNT製造方法である。
【0016】
本発明の第6の形態は、第1〜第5のいずれかの形態において、前記金属塩濃度が0.5mass%〜5mass%である配向CNT製造方法である。
【0017】
本発明の第7の形態は、第1〜第6のいずれかの形態において、前記触媒金属塩が硝酸鉄(III)の9水和物である配向CNT製造方法である。
【0018】
本発明の第8の形態は、第1〜第7のいずれかの形態において、前記基板がシリコン基板であり、前記反応防止膜がシリコン酸化膜又はシリコン窒化膜であり、加熱処理により前記シリコン基板に前記シリコン酸化膜又はシリコン窒化膜を形成する配向CNT製造方法である。
【0019】
本発明の第9の形態は、第2〜第8のいずれかの形態において、前記非親水液は、DMF又は乳酸エチルである配向CNT製造方法である。
【0020】
本発明の第10の形態は、第2〜第9のいずれかの形態において、前記非親水液がDMFであり、前記特性溶媒における前記DMFの質量比が5〜40mass%である配向CNT製造方法である。
【0021】
本発明の第11の形態は、第1〜第10のいずれかの形態において、前記熱CVD処理における昇温速度が23℃/分〜80℃/秒である配向CNTの製造方法である。
【0022】
本発明の第12の形態は、第1〜第11のいずれかの形態において、前記熱CVD処理における配向CNTの合成温度が680℃〜740℃である配向CNT製造方法である。
【0023】
本発明の第13の形態は、第1〜第12のいずれかの形態において、前記溶媒は、前記反応防止膜付基板に対する接触角が10°以下の濡れ性を有する配向CNT製造方法である。
【0024】
本発明の第14の形態は、第1〜第13の形態の配向CNT製造方法により製造された配向CNTであり、前記配向CNTの外径分布をガウス分布で近似したとき、前記ガウス分布の半値全幅が8nm以下であることを特徴とする配向CNTである。
【0025】
本発明の第15の形態は、第1〜第13に形態の配向CNT製造方法により製造された配向CNTであり、前記配向CNTの外径分布は、平均内径の−4.5nm〜+4.5nmの範囲に前記外径分布の50%以上が含まれる配向CNT製造方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明の第1の形態によれば、前記基板は、基板表面に酸化膜又は窒化膜が形成された反応防止膜付基板であり、前記触媒金属塩液の金属塩濃度と配向CNTを構成するCNTのサイズとの相関から相関関係を導出し、前記相関関係により前記金属塩濃度を調整して前記サイズを制御する製造方法であり、前記サイズが前記CNTの平均外径、平均内径及び平均層数の1つ以上の値であり、前記相関関係は、前記サイズが前記金属塩濃度に対して線形の比例関係を有すると仮定して導出されたサイズ線形関数であるから、前記金属塩濃度により製造される配向CNTのサイズを制御することができ、工業的に生産される前記配向CNTのサイズを前記金属塩濃度により設計し、前記配向CNTを大量生産することができる。本発明者らは、前記反応防止膜付基板との好適な濡れ性を有する前記触媒金属塩液における前記金属塩濃度を調整することにより、所定の厚さの触媒層を形成することができ、且つ、合成する配向CNTのサイズを制御することができることを発見し、本発明を完成するに到ったものである。前記反応防止膜付基板及び前記サイズ線形関数の詳細については、後述する。
【0027】
本発明の第2の形態によれば、前記溶媒は、PGEと、前記PGEとの相溶性があって非親水性を有する非親水液とが混合した特性溶媒であり、前記非親水液は、前記触媒金属塩液の中で前記PGEより加水分解反応が少なく加水分解抑制作用を有し、前記基板は、基板表面に酸化膜酸化膜又は窒化膜が形成された反応防止膜付基板であるから、前記触媒金属塩液中における加水分解が抑制され、前記触媒金属塩液は数カ月以上に亘って沈殿が起こらず、前記触媒金属塩液として性質を保持し、且つ、前記反応防止膜付基板に対する好適な濡れ性を有し、前記触媒金属塩液の金属塩濃度を調整して所望の厚さの触媒層を形成することができる。更に、前記触媒金属塩液の金属塩濃度と前記配向CNTのサイズとの相関から相関関係を導出し、前記相関関係により前記金属塩濃度を調整して前記サイズを制御する製造方法であり、前記サイズが前記配向CNTの平均外径、平均内径及び平均層数の1つ以上の値であるから、前記金属塩濃度により製造される配向CNTのサイズを制御することができ、工業的に生産される前記配向CNTのサイズを前記金属塩濃度により設計し、前記配向CNTを大量生産することができる。
本発明者らは、反応防止膜付基板に対して好適な濡れ性を有し、前記金属塩濃度を調整することができる溶媒として前記PGEが好ましいことを発見した。しかしながら、前記PGEは、前記触媒金属塩液中における加水分解反応が比較的多く、長期間に亘って保持できないという問題があった。本発明者らは、鋭意研究の結果、前記PGEとの相溶性があって非親水性を有し、前記触媒金属塩液の中で前記PGEより加水分解反応が少なく、更に、反応防止膜付基板に対して濡れ性を有する非親水液を前記PGEに混合した特性溶媒を用いることにより、所望の厚さを有する触媒層を形成できることを発見し、本発明を完成させるに到ったものである。また、前記非親水性液には、前記PGEとの相溶性があって非親水性を有し、前記触媒金属塩液の中で前記PGEより加水分解反応が少ない物質であれば、種々の液体を用いることができ、他のグリコールエーテル類や非プロトン性極性溶媒、または、乳酸エチルやアセチルアセトン等を用いることができる。更に、前記特性溶媒は、前記触媒金属塩液における前記金属塩濃度を調整することにより、所定の厚さの触媒層を形成することができ、且つ、合成する配向CNTのサイズを制御することができる。よって、前記触媒金属塩液の作製段階において、合成する配向CNTのサイズを設定することができ、工業的に安定して配向CNTを製造することができる。
前記サイズとは、前記配向CNTの平均外径、平均内径及び平均層数の1つ以上の値であり、熱CVD処理における昇温速度と合成温度が同じであれば、前記金属塩濃度により、平均外径、平均内径及び平均層数の1つ以上の値を制御することができる。前記金属塩濃度の増加に伴った平均内径の増加量は、比較的少なく平均外径の増加量が多い。即ち、配向CNTを構成するCNTの平均厚さが増加する。この平均厚さの増加は、つまり、配向CNTの平均層数の増加を意味しており、本発明者らは、透過型電子顕微鏡(TEM)像の観察から、前記金属塩濃度の増加に伴った前記平均層数の増加を確認している。CNTを形成する壁面の1層当たりの厚さは、約0.7nm程度であり、TEM像の観察から見積もった前記平均厚さ(平均外径と平均内径の差)と平均層数の関係と良い一致を示している。よって、前記サイズとは、前記配向CNTの平均外径、平均内径及び平均層数等の平均サイズであり、CNT個々のサイズを示すものではない。
前記触媒層は、触媒金属粒子が基板表面に形成された触媒金属粒子層と、比較的低温で加熱され、好適なサイズの触媒金属粒子が形成されていない触媒前駆層との両方を包含している。即ち、前記触媒層が熱CVDにおいて合成温度(「CVD温度」とも称する)に到達することにより、基板表面に好適なサイズの触媒金属粒子が形成され、触媒金属粒子層が形成されても良く、この触媒金属粒子層も触媒層と称している。更に、前記基板は、基板表面に酸化膜が形成された反応防止膜付基板であるから、熱CVD処理において、前記基板と前記触媒層の触媒金属が反応することを抑制することができる。前記反応防止酸化膜を形成する酸化物又は窒化物は、前記触媒金属との親和性が極めて低く、前記熱CVD処理における合成温度で前記基板と前記触媒金属が反応することを防止し、前記反応防止付基板の上に好適な粒子径の触媒金属粒子を形成することができる。前記反応防止膜付基板としては、種々の反応防止膜を基板に形成し用いることができ、Al2O3やSiO2、Si3N4等を基板表面に形成することができる。尚、前記触媒金属粒子とは、金属系触媒粒子を示し、金属又は金属と表面に形成された酸化層を有する金属粒子等を包含し、触媒金属を主成分とし、酸素など他の元素が含まれる触媒金属粒子を意味している。
また、反応防止膜は、上述のように、前記触媒金属と反応しない酸化物や窒化物からなり、例えば、反応防止膜がシリコン酸化膜である場合、加熱酸化による酸化物の形成や、シリコン酸化膜のゾルゲルや微少粒子を塗布して形成した反応防止層であっても良い。
【0028】
本発明の第3の形態によれば、前記非親水液は、前記反応防止膜に対して前記PGEと同じ又はより小さな接触角の濡れ性を有するから、前記特性溶媒は、前記反応防止膜付基板に対して好適な濡れ性を保持することができ、所定の厚さの塗膜を形成することができる。前記特性溶媒に前記触媒金属塩を分散及び/又は溶解させても、前記反応防止膜付基板に対して好適な濡れ性を有さない場合、均一で好適な厚さの塗膜を形成することができなかった。第2の形態によれば、非親水性液が前記反応防止膜に対して前記PGEと同じ又はより小さな接触角を有し、前記反応防止膜に対する前記PGEの好適な濡れ性を低下させることがなく、前記反応防止膜付基板に所望の厚さの塗膜を形成することができる。前記塗膜の形成方法としては、スピンコート法、スプレー法及びディップコート法等を利用することができる。
【0029】
本発明の第4の形態によれば、前記相関関係は、前記サイズが前記金属塩濃度に対して線形の比例関係を有すると仮定して導出されたサイズ線形関数であるから、容易に配向CNTのサイズを制御することができる。従来、前記反応防止膜付基板に所望の厚さの触媒層を形成し、所定サイズの配向CNTを合成することは困難であった。第4の形態によれば、前記サイズは、同じ合成温度の場合、前記金属塩濃度の増加に伴って略線形に増加する傾向を有することから、線形の比例関係を有すると仮定し、前記サイズの実測値からサイズ線形関数を導出し、合成する配向CNTのサイズを前記金属塩濃度によって制御することができる。よって、合成する配向CNTを構成するCNTのサイズを容易に選択することができる。
【0030】
本発明の第5の形態によれば、前記触媒層の厚さが前記金属塩濃度に対して略線形の比例関係を有し、線形関数により近似された厚さ線形関数により前記金属塩濃度を調整して前記触媒層の厚さを制御するから、容易に所定の厚さの触媒層を形成し、前記熱CVD処理により所定サイズの配向CNTを合成することができる。前述のように、前記PGEを主成分とする特性溶媒に前記触媒金属塩を分散及び/又は溶解した触媒金属塩液は、前記反応防止膜付基板に対して好適な濡れ性を有し、所定の厚さの塗膜を形成することができる。よって、前記金属塩濃度に伴って、塗布加熱されて形成された前記触媒層の厚さが略線形に増加する。この結果から、実測値に基づいて導出された厚さ線形関数により前記金属塩濃度を調整して前記触媒層の厚さを制御することができ、合成される配向CNTのサイズを制御することができる。
【0031】
本発明の第6の形態によれば、前記金属塩濃度が0.5mass%〜5mass%であるから、より確実に前記配向CNTのサイズを制御することができる。即ち、本発明者らは、前記金属塩濃度が0.5mass%〜5mass%のとき、より線形関数に近い依存性で、前記金属塩濃度の増加に伴って前記触媒層の厚さ及び/又は前記配向CNTのサイズが増加することを実測している。よって、前記金属塩濃度が0.5mass%〜10mass%、望ましくは1mass%〜5mass%の範囲にあれば、より確実に前記配向CNTのサイズを制御することができる。
【0032】
本発明の第7の形態によれば、前記触媒金属塩が硝酸鉄(III)の9水和物(以下、「硝酸鉄」とも称する)であるから、前記サイズを制御すると共に、より前記サイズが揃った配向CNTを合成することができる。即ち、本発明者らは、鋭意研究の結果、前記硝酸鉄が前記触媒金属塩として好適であると共に、前記特性溶液に溶解し、硝酸鉄濃度に伴って前記配向CNTのサイズを制御できることを明らかにしている。前述のように、鉄系触媒からなる触媒層は、配向CNTを合成する熱CVD処理の優れた触媒である。よって、前記特性溶媒を溶媒とする硝酸鉄溶液を前記反応防止膜付基板に塗布して加熱すれば、好適な触媒層を形成し、前記熱CVD処理において鉄系触媒粒子からなる触媒層により高効率に配向CNTを合成することができる。更に、前記硝酸鉄濃度により前記配向CNTのサイズを容易に制御することができる。
【0033】
本発明の第8の形態によれば、前記基板がシリコン基板であり、前記反応防止膜がシリコン酸化膜又はシリコン窒化膜であり、加熱処理により前記シリコン基板に前記シリコン酸化膜又はシリコン窒化膜を形成するから、容易に前記反応防止膜付基板を形成することができる。前記シリコン基板は、簡単に入手でき、加工が容易で優れた平滑性を有する基板であり、加熱処理により容易に前記シリコン基板の表面に反応防止膜を形成し、前記反応防止膜付基板を得ることができる。前記シリコン酸化膜又はシリコン窒化膜を基板表面に形成することにより、前記触媒金属とシリコン基板が反応することを防止することができる。
【0034】
本発明の第9の形態によれば、前記非親水液は、DMF又は乳酸エチルであるから、より好ましい濡れ性や非親水性を特性溶媒に付与することができる。前述のように、従来のPGEのみからなる溶媒では、溶質や分散した触媒金属塩が加水分解反応を経て、粒子化して沈殿し、長期間保存することは困難であって、大量生産用の触媒金属塩液に適していなかった。特に、DMFは、好適な非親水性を有し、長期間に亘って加水分解反応が殆ど起こらず、数か月に亘って粒子が凝集したり、粒子が成長して沈殿しないことを確かめている。また、乳酸エチルは、前記酸化膜に対してPGEより良い濡れ性を有し、非親水性を有している。よって、前記乳酸エチルを混合すれば、前記反応防止膜付基板に対する好適な濡れ性を付与することができる。
【0035】
本発明の第10の形態によれば、前記非親水液がDMFであり、前記特性溶媒における前記DMFの質量比が5〜40mass%であるから、前記特性溶媒に好適な加水分解抑制作用を付与することができる。前述のように、DMFを溶媒とした場合、長期間に亘って加水分解反応が殆ど起こらず、数か月に亘って粒子が凝集したり、粒子が成長して沈殿しないことを確かめている。よって、前記特性溶媒の5〜40mass%がDMFである場合、前記反応防止膜付基板に対するPGEの好適な濡れ性を保持し、且つ、DMFの安定性を前記特性溶媒に付与することができる。
【0036】
本発明の第11の形態によれば、前記熱CVD処理における昇温速度が23℃/分〜80℃/秒であるから、目的に応じて昇温速度を自在に調節することができる。連続的に触媒基板を供給し、配向CNTを合成する場合、昇温速度が高速であることが要求され、昇温速度を80℃/秒まで増加させ、比較的均一な配向CNTを合成できることを確認している。また、大面積の触媒基板に均一な配向CNTを合成することを目的とする場合、熱容量が大きく、昇温速度を高速にすることは困難であり、比較的低速(23℃/分)の昇温速度で触媒層に触媒金属粒子が形成され、比較的均一な配向CNTを合成できることを確認している。
【0037】
本発明の第12の形態によれば、前記熱CVD処理における配向CNTの合成温度が680℃〜740℃であるから、より確実に前記配向CNTのサイズを制御することができる。本発明者らは、前記合成温度が680℃〜740℃の範囲において、前記金属塩濃度の増加に伴って前記配向CNTのサイズが略確実に増加することを実験的に確かめている。よって、前記温度範囲において、前記金属塩濃度に対して前記配向CNTのサイズが比例して増加すると仮定して、前記金属塩濃度を決定すれば、合成する配向CNTのサイズを決定することができ、工業的に安定して所定サイズの配向CNTを提供することができる。
【0038】
本発明の第13の形態によれば、前記溶媒は、前記反応防止膜付基板に対する接触角が10°以下の濡れ性を有するから、前記溶媒は、前記反応防止膜付基板に対して好適な濡れ性を保持することができ、所定の厚さの塗膜を形成することができる。前述のPGE、DMF、乳酸エチル等は、前記反応防止膜付基板に対する接触角が10°以下の濡れ性を有し、上述の物質を混合し、前記反応防止膜付基板に対して好適な濡れ性を保持する溶媒を得ることができる。
【0039】
本発明の第14の形態によれば、第1〜第13の形態の配向CNT製造方法により製造された配向CNTであり、前記配向CNTの外径分布をガウス分布で近似したとき、前記ガウス分布の半値全幅が8nm以下であるから、サイズの揃った配向CNTであり、用途に応じて、所定サイズの配向CNTを提供することができる。前記特性溶媒を用いた前記触媒金属塩液から触媒層を形成し、熱CVD処理を施して合成された配向CNTは、極めてサイズの揃った配向CNTであることを、本発明者らは、実験的に確かめている。即ち、前記第1〜第10の形態の配向CNT製造方法により製造された配向CNTは、サイズ分布が比較的狭く、それを定量的に示すため、ガウス分布を用いている。目測により、ガウス分布をサイズ分布にフィッティングし、半値全幅を求めている。前記サイズ分布の全てが必ずしもガウス分布と良い一致を示していないが、サイズが揃っていることを示す定量的な指標として利用することができる。特に、配向CNTの外径分布は、極めてサイズが揃っており、最も外径分布が拡がったものでも、適用したガウス分布の半値全幅が約8.2nmであり、小数点以下切り上げで、約9nmとなる。従って、前記配向CNTの外径分布をガウス分布で近似したとき、前記ガウス分布の半値全幅が9nm以下となる。最も前記サイズが揃った配向CNTでは、外径分布にフィッティングしたガウス分布の半値全幅が約4nm程度であった。
【0040】
本発明の第15の形態によれば、第1〜第13に形態の配向カーボンナノチューブ製造方法により製造された配向カーボンナノチューブであり、前記配向カーボンナノチューブの外径分布は、内径の−4.5nm〜+4.5nmの範囲に前記外径分布の50%以上が含まれるから、サイズの揃った配向CNTであり、用途に応じて、所定サイズの配向CNTを提供することができる。前述のように、外径分布に目測でガウス分布をフィッティングしたとき、最大の半値全幅は約9nmであった。よって、第12の形態において、ガウス分布の中心値の−4.5nm〜+4.5nmの範囲に殆どのCNTの外径サイズが含まれることになる。しかしながら、全ての外径分布データでガウス分布に良い一致を示すものではなく、前記半値全幅を基準として、内径分布と比較したところ、平均内径の−4.5nm〜+4.5nmの範囲に少なくとも50%以上の外径分布が含まれることが分かった。これは、極めてサイズが揃った配向CNTであることを示しており、用途に応じて、所定のサイズを有する配向CNTを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は、本発明に係る配向CNT製造方法の実施形態の製造工程を示す工程図である。
【図2】本発明に係る配向CNT製造方法の実施形態の1つを具体的に示した模式図である。
【図3】図3は、本発明に係る熱CVD処理装置の構成概略図とCNTの成長過程概念図である。
【図4】図4は、本発明に係る金属塩濃度に対する触媒層の厚さを示すグラフ図である。
【図5】図5は、本発明に係る配向CNTをTEMにより観察したTEM像の写真図である。
【図6】図6は、図5に示した配向CNTのTEM観察像を30〜50箇所で観察して得られた配向CNTの層数分布である。
【図7】図7は、図5に示した配向CNTのTEM観察像を30〜50箇所で観察して得られた配向CNTの外径分布である。
【図8】図8は、図5に示した配向CNTのTEM観察像を30〜50箇所で観察して得られた配向CNTの内径分布である。
【図9】図9は、本発明に係る配向CNTの合成温度を変化させてTEMにより観察したTEM像の写真図である。
【図10】図10は、図9に示した合成温度の異なる配向CNTのTEM観察像を30〜50箇所で観察して得られた配向CNTの層数分布である。
【図11】図11は、図9に示した合成温度の異なる配向CNTのTEM観察像を30〜50箇所で観察して得られた配向CNTの外径分布である。
【図12】図12は、図9に示した合成温度の異なる配向CNTのTEM観察像を30〜50箇所で観察して得られた配向CNTの内径分布である。
【図13】図13は、表3をグラフ化した各硝酸鉄濃度と各CVD温度(合成温度)における平均層数のグラフ図である。
【図14】図14は、表4をグラフ化した各硝酸鉄濃度と各CVD温度(合成温度)における平均外径のグラフ図である。
【図15】図15は、表5をグラフ化した各硝酸鉄濃度と各CVD温度(合成温度)における平均内径のグラフ図である。
【図16】図16は、本発明に係るPGE、DMFの混合質量比を変化させたときの安定性を示す実験結果図である。
【図17】図17は、本発明に係る特性溶媒の主成分であるPGEの溶媒としての性質を示す比較例図である。
【図18】図18は、本発明に係る配向CNTにおける各合成温度の平均層数を硝酸鉄濃度に対してプロットし、線形関数により近似したグラフ図である。
【図19】図19は、本発明に係る内径分布にガウス分布をフィッティングしたグラフ図である。
【図20】図20は、本発明に係る内径分布にガウス分布をフィッティングしたグラフ図である。
【図21】図21は、本発明に係る内径分布にガウス分布をフィッティングしたグラフ図である。
【図22】図22は、本発明に係る外径分布にガウス分布をフィッティングしたグラフ図である。
【図23】図23は、本発明に係る外径分布にガウス分布をフィッティングしたグラフ図である。
【図24】図24は、本発明に係る配向CNTを高速昇温(80℃/秒)の熱CVD処理により合成して、TEMにより観察したTEM像の写真図である。
【図25】図25は、本発明に係る配向CNTを合成する触媒層の厚さと硝酸鉄濃度の関係と、高速昇温の熱CVD処理により合成したときの配向CNTのサイズである。
【図26】本発明に係る配向CNTを合成したシリコン酸化膜付基板ないしは窒化シリコン膜付基板からCNTを剥離して測定されたESCAの結果を示すグラフ図である。
【図27】従来の触媒金属塩液における粒子径分布の時間変化図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下に、本発明に係る配向CNT製造方法の実施形態を図面に従って詳細に説明する。
図1は、本発明に係る配向CNT製造方法の実施形態の製造工程を示す工程図である。ステップ1(S1)では、PGEと、前記PGEとの相溶性があって非親水性を有する非親水液との混合質量比を調整し、特性溶媒を作製する。前記混合質量比は、「PGE:非親水性液」が95:5〜60:40の範囲で混合される。好ましくは、90:10〜70:30の範囲であり、より好ましくは、90:10〜80:20の範囲である。非親水性液としては、他のグリコールエーテル類や非プロトン性極性溶媒、または、乳酸エチルやアセチルアセトン等が挙げられ、非プロトン性極性溶媒のDMFや乳酸エチルが好ましく、前記DMFがより好ましい。DMFや乳酸エチルの物性については、後述する。
【0043】
図1のステップ2(S2)は、前記特性溶媒に触媒金属塩を分散及び/又は溶解して触媒金属塩液を作製する工程である。触媒金属塩の分散・溶解量により触媒金属塩液の金属塩濃度を調整する。前記金属塩濃度が0.5mass%〜10mass%に範囲あることが好ましく、1mass%〜5mass%の範囲にあることがより好ましい。尚、ステップ1(S1)とステップ2(S2)は、同時に行うこともでき、前記特性溶媒を作製する前に、混合される溶媒のいずれかに前記触媒金属塩を分散・溶解し、残りの溶媒を加えて混合して前記触媒金属塩を作製することができる。本発明では、前記金属塩濃度と合成される配向CNTのサイズが明確な相関を有し、後述のように、前記金属塩濃度の調整により、配向CNTのサイズを制御することが可能である。前記触媒金属塩としては、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩等の有機金属塩、硝酸塩、オキソ酸塩等の無機金属塩を使用できる。
【0044】
図1のステップ3(S3)は、前記触媒金属塩液を反応防止酸化膜付基板に塗布して塗膜を形成する塗布処理である。前記反応防止酸化膜付基板は、酸化アルミニウム膜やシリコン酸化膜、シリコン窒化膜が形成された基板であり、後工程の熱CVD処理において、触媒金属と基板が反応することを防止することができる。基板がシリコン基板の場合、熱処理により比較的簡単にシリコン酸化膜を形成することが可能である。前記塗布処理は、スピンコート法、スプレー法又はディップコート法を用いて行われる。スピンコート法は、方法及び装置が簡単であり、小規模の生産に適している。工業的な規模で行うためには、スプレー法及びディップコート法が好ましく、スプレー法は、凹凸表面に対応でき、また成膜の制御が簡単であることと、スプレー印刷により任意のパターンを短時間で描画することができるので、より好ましい。
【0045】
図1のステップ4(S4)は、塗膜加熱処理であり、前記反応防止膜付基板の表面に触媒層が形成される。前述のように、「触媒層」は、触媒粒子が基板表面に形成された触媒粒子層と、比較的低温で加熱され、好適なサイズの触媒粒子が形成されていない触媒前駆層との両方を包含している。図1に示した工程図の塗膜加熱処理(S4)は、比較的低温で行われ、好適なサイズの触媒粒子が形成されていない触媒前駆層が形成される。後の熱CVD処理において、好適なサイズの触媒粒子からなる触媒粒子層が最終的に触媒層として形成される。塗膜加熱処理(S4)を高温で行い、触媒粒子層からなる触媒層を形成することも可能である。
【0046】
図1のステップ5(S5)は、熱CVD処理による配向CNTの合成工程である。前記触媒層が形成された反応防止膜付基板が触媒基板であり、前述のように、酸化膜によって触媒層の触媒金属との反応が防止される。熱CVD処理では、加熱された反応室の中に前記触媒基板が載置され、炭素を含んだ原料ガスと不活性ガスからなるキャリアガスが供給され、前記触媒基板の上に配向CNTが合成される。原料ガスとしてアセチレンやエチレンが供給され、キャリアガスとしてヘリウム、窒素、アルゴン等が供給される。
【0047】
【表1】
【0048】
表1は、本発明に係るPGEと前記非親水性液として利用可能なDMF、乳酸エチル及び比較例として示したα−テルピネオールの物性値を示している。PGEは、シリコン酸化膜を形成するSiO2基板に対して良好な濡れ性を有している。具体的には、SiO2基板に対して10°以下の接触角を有することが求められる。α−テルピネオールのSiO2基板に対する接触角の値は記載されていないが、目視により濡れ性が比較的悪く、広がりが「やや難」であることが明らかであった。Si基板に対する接触角が18.1°であり、その値からも濡れ性が比較的悪いことが類推できる。よって、前記非親水性液としては、PGEとの相溶性があると共に、シリコン酸化膜に対する良好な濡れ性を有することが求められ、少なくとも10°以下の接触角を有することが好ましい。よって、図1のステップ1(S1)では、PGEとの相溶性があると共に、シリコン酸化膜などの反応防止層に対する良好な濡れ性を有する非親水性液が用いられる。
【0049】
図2は、本発明に係る配向CNT製造方法の実施形態の1つを具体的に示した模式図である。(2A)は、容器6に触媒金属塩液7を作製する模式図であり、PGEと非親水性液であるDMFを混合した特性溶媒に、触媒金属塩として硝酸鉄(硝酸鉄(III)の9水和物)が溶解され、触媒金属塩液7として硝酸鉄溶液が作製されている。(2B)では、反応防止膜付基板として、熱処理によりシリコン酸化膜が表面に形成されたシリコンウェハ(以下、「酸化膜付シリコンウェハ8」と称する)が用いられる。硝酸鉄溶液の塗布液9がスピンコート法によって塗布され、前記酸化膜付シリコンウェハ8の表面に塗膜が形成される。(2C)では、前記塗膜11が表面に形成された酸化膜付シリコンウェハが塗膜加熱用ヒータ12の上に載置され、200℃〜300℃で10分間以上加熱処理を行い、前記触媒層として鉄触媒層を形成している。(2D)は熱CVD処理を示しており、前記触媒層13(鉄触媒層)を成膜した酸化膜付シリコンウェハを所定の大きさに加工して配設し、原料ガスにアセチレンガス、キャリアガスとしてヘリウムガスを供給している。前記反応室1の中は、反応ヒータ3によって加熱され、配向CNT14の合成温度にあり、より正確には、前記触媒層13と原料ガスによって前記酸化膜付シリコンウェハの上に配向CNT14が合成される。
前記硝酸鉄(III)の9水和物以外に、有機金属塩として、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩等、また無機金属塩として、オキソ酸塩等を用いることが可能であり、触媒金属として、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、プラチナ(Pt)等の遷移金属があり、特に、鉄以外では、コバルト、ニッケルが好ましい。
【0050】
【表2】
【0051】
表2は、本発明に係る非親水性液としてDMFを用いた場合のPGEとの混合質量比と形成された触媒層の評価である。評価は、濡れ性と安定性に基づいて行われており、良好なものを「◎」、使用可能なものを「○」、使用にやや難があるものを「△」としている。PGEとDMFの混合質量比PGE:DMFが90:10、80:20のものは、好適な濡れ性を有し、均一な塗膜を形成でき、比較的サイズの揃った配向CNTを合成する触媒層を形成することができた。特性溶媒におけるPGEの質量比が100mass%のものは、安定性に難があり、14日後には沈殿物が多量に生成されることを確認した。混合質量比PGE:DMFが95:5のものは、沈殿物が生成されるが使用可能な程度であることを確認している。更に、混合質量比PGE:DMFが70:30、60:40のものでは、沈殿物の生成量が極めて少なく安定であったが、60:40のものでは、塗膜の形成に対して濡れ性が好適なものではなく、70:30の特性溶媒では、やや良好な濡れ性を有していた。しかしながら、いずれの場合も配向CNTを合成可能な触媒層を作製することができた。特性溶媒におけるPGEの質量比が60mass%未満になると、明らかに濡れ性が塗膜の形成に適していなかったため、触媒層を形成していない。よって、混合質量比PGE:DMFは、95:5〜60:40であれば、配向CNTを合成することが可能な触媒層を作製することができ、90:10〜70:30の範囲であることが好ましく、90:10〜80:20の範囲であることがより好ましい。
【0052】
図3は、本発明に係る熱CVD処理装置の構成概略図とCNTの成長過程概念図である。図2の(2D)では、熱CVD処理について概略を述べたが、ここでより詳細な点について補足する。(3A)には、配向CNTを合成する熱CVD処理装置が記載されており、前述のように、配向CNTを合成する石英製の反応室1を有する。反応室1は両端開放の筒状空間からなり、反応ヒータ3により加熱される熱CVD処理部2を備える。熱CVD処理部2に触媒層5を形成した反応防止膜付基板4が配置される。例えば、反応防止膜付基板4が酸化膜付シリコンウェハである場合、比較的簡単に大きさを加工することが可能であり、1辺約5mm〜1000mmの四角形に分割し、反応室1の中に配置することが可能である。この熱CVD処理装置において、反応室1に炭化水素等の原料ガスを導入して熱CVD処理部2に流通させながら、触媒層5の触媒作用によって、反応防止膜付基板4の上に配向CNTを合成する。反応防止膜付基板4の基板には、合成温度での耐久性を有する石英板、シリコン基板、水晶板、溶融シリカ板、サファイヤ板、ステンレス板等を使用することができ、以下の実施形態では、シリコン基板であるシリコンウェハが用いられている。
反応室1の一端からは、矢印FAに示すように、原料ガス(C2H2)及びキャリアガス(He)が導入され、矢印FBに示すように他方の開放端から排出される。キャリアガスは、原料ガスを反応室1内で円滑に流通、搬送するためのガスであり、原料ガスが反応により消耗されるのに対し、キャリアガスは全く無反応で消耗しない気体が使用され、ヘリウムやアルゴンの他、ヘリウムとアルゴンの混合ガスや、ネオン、窒素、二酸化炭素、クリプトン、キセノンなどの不活性ガス又はその混合ガスが利用される。
原料ガスとしては、炭化水素のみならず硫黄含有有機ガス、リン含有有機ガスなどの有機ガスが広く利用され、特定構造のカーボンナノ構造物の生成に好適な有機ガスが選択される。また、有機ガスの中でも余分な物質を生成しない意味で炭化水素が好適である。炭化水素としては、メタン、エタンなどのアルカン化合物、エチレン、ブタジエンなどのアルケン化合物、アセチレンなどのアルキン化合物、ベンゼン、トルエン、スチレンなどのアリール炭化水素化合物、インデン、ナフタリン、フェナントレンなどの縮合環を有する芳香族炭化水素、シクロプロパン、シクロヘキサンなどのシクロパラフィン化合物、シクロペンテンなどのシクロオレフィン化合物、ステロイドなどの縮合環を有する脂環式炭化水素化合物などが利用できる。また、以上の炭化水素化合物を2種以上混合した混合炭化水素ガスを使用することも可能である。特に、望ましくは炭化水素の中でも低分子、例えば、アセチレン、アリレン、エチレン、ベンゼン、トルエンなどが好適である。以下の実施形態では、原料ガスとしてアセチレン(C2H2)を使用している。また、原料ガスとキャリアガスに微量の酸素や水分を混合しても良く、配向CNTを構成するCNTの成長を促進することが可能である。
【0053】
図3の(3B)は、本発明に係る触媒粒子24から成長するCNT15を模式的に示した概念図である。前記触媒層を構成する触媒粒子24が鉄を主成分とする鉄系触媒粒子であり、酸化鉄成分を含有している場合を例として、以下に成長モデルを説明する。CNT15を形成可能な触媒粒子24は、図に示すように必ずしも球状でなくとも良い。原料ガスとしてアセチレンガスを供給すると、CNT15の合成反応は初期の急速な成長と、アモルファスカーボンを生成しながらの緩慢な成長の2段階の反応による成長がある。原料ガスがアセチレンの場合について説明するが、他の原料ガスについても同様のメカニズムになる。特に初期の急速な反応は、触媒粒子24の表面での下記(式1)及び(式2)を主体とする反応自体を律速とする反応である。
Fe2O3+C2H2 → 2FeC+H2O+CO2 (式1)
Fe3O4+C2H2 → FeO+2FeC+H2O+O2 (式2)
急速な第1段階の成長については、触媒が保持している酸素量が反応によって消費されることで停止し、通常は原料ガスから供給される過剰なアモルファスカーボンにより触媒表面が覆われることで触媒と原料ガスの接触が困難となり、最終的に反応停止に至る。前記触媒粒子24の保持する酸素が同程度の場合、CNT15の長さが、ほぼ同じ長さになることこから、再現性があると同時に、初期触媒の酸素の保持量によってCNT15の長さが決まるものと理解できる。
次に、長さを制御可能なCNT15を製造するのに不可欠な、アモルファスカーボンを生成しながらの緩慢な成長について説明する。緩慢な成長については、下記(式3)及び(式4)を主体とする、炭素の表面拡散を律速とする反応であると理解できる。
FeO+C2H2 → FeC + H2O + C (式3)
Fe+C2H2 → FeC + C + H2 (式4)
(3B)に示すように、アセチレンに接触する触媒粒子24の接触部16では、触媒金属と炭素が結合した炭化物が形成され、この炭化物の表面にCNT15の壁を構成する多層レイヤ17が形成される。触媒粒子24と原料ガスが反応して生成したアモルファスカーボンが多層レイヤ7を押し出すことによりCNT15が形成される。図中の矢印a、bは、カーボンの拡散方向を示す。触媒粒子24と基板18の親和力が強い場合、触媒粒子24は球状とならないため、両サイドの多層レイヤ17は、均等な速度で押し出されず、垂直に配向しない原因となる。従って、基板18として、表面に酸化膜が形成された反応防止膜付基板が用いられる。また、触媒粒子24は、(式3)、(式4)の反応により発生する過剰なアモルファスカーボン分はキャリアガス及び/又は原料ガス中に含まれる酸素、水分による燃焼、酸化反応により除去されることによりCNT15の連続的な生成が可能となる。
【0054】
図4は、本発明に係る金属塩濃度に対する触媒層の厚さを示すグラフ図である。前記触媒金属塩は硝酸鉄(硝酸鉄(III)の9水和物:和光純薬工業(株)製)であり、特性溶媒としてPGE(東京化成工業(株)製)とDMF(キシダ化学(株)製)を混合質量比80:20で混合した溶媒が用いられている。硝酸鉄濃度は、1.0mass%、2.0mass%、3.0mass%、4.0mass%、5.0mass%の5通りとした。前記触媒金属液である硝酸鉄溶液は、スピンコート法により直径6インチの酸化膜付シリコンウェハの上に塗布され、これをホットプレート上に置き、200℃で10分間加熱処理をして鉄触媒層を形成している。鉄触媒層の厚みは、希塩酸に溶かして、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析により鉄の濃度を測定し、酸化膜付シリコンウェハ上の鉄触媒層の厚みが均一であること、鉄触媒層の密度がバルクの値(7.86g/cm3)と同じであることを仮定して測定した。図4に示すように、硝酸鉄濃度と鉄触媒層の厚さが比例関係にあることが分かる。そのため硝酸鉄濃度を調整して酸化膜付シリコンウェハ上に塗布することで、鉄触媒層の厚さを制御することができる。
【0055】
図5は、本発明に係る配向CNTを透過型顕微鏡(TEM)により観察したTEM像の写真図である。図5に示した配向CNTは、図4の説明で述べた方法により、酸化膜付シリコンウェハ上に鉄触媒層を形成し、前記鉄触媒層を成膜した熱酸化膜付シリコンウェハを1辺約10mmの四角片に分割して熱CVD処理を700℃で行ったものである。図3の(3A)に示した熱CVD処理装置が用いられ、原料ガスとしてアセチレンガスが、キャリアガスとしてヘリウムガスが用いられている。配向CNTの合成温度である700℃に到達するまでは、ヘリウムガスが前記熱CVD処理部に供給され、700℃に到達した後、アセチレンガスとヘリウムガスを前記熱CVD処理部に10分間供給し、配向CNTを合成した。配向CNTの観察では、TEM(日立製HF−2000)により30〜50箇所の観察を行い、配向CNTを構成するCNTの層数、外径、内径の分布を調べている。図5に示すように、前記CNTの層数、外径、内径を測定できるTEM観察像が得られている。(5A)は、硝酸鉄濃度が1.0mass%である硝酸鉄溶液から触媒層を形成して合成された配向CNTのTEM観察像の1つであり、各TEM観察像では、前記硝酸鉄濃度が2.0mass%の場合を(5B)に、3.0mass%の場合を(5C)に、4.0mass%の場合を(5D)に、5.0mass%の場合を(5E)に示している。前述のように、合成温度は全て700℃である。(5A)〜(5E)から、前記硝酸鉄濃度の増加に伴って、配向CNTを構成するCNTの層数や外径、内径が増加していることが定性的に観察される。
【0056】
図6は、図5に示した配向CNTのTEM観察像を30〜50箇所で観察して得られた配向CNTの層数分布である。(6A)は、硝酸鉄濃度が1.0mass%である硝酸鉄溶液から触媒層を形成して合成された配向CNTの層数分布であり、各層数分布では、前記硝酸鉄濃度が2.0mass%の場合を(6B)に、3.0mass%の場合を(6C)に、4.0mass%の場合を(6D)に、5.0mass%の場合を(6E)に示している。前述のように、合成温度は全て700℃である。(6A)〜(6E)の層数分布から、前記硝酸鉄濃度の増加に伴って、配向CNTを構成するCNTの平均層数が増加していることを定量的に見積もることができる。更に、前記硝酸鉄濃度の増加に伴って層数分布が拡がっているが、(6E)の5.0mass%の場合を除けば、いずれの層数分布においても分布が比較的狭く、均一であることが分かる。
【0057】
図7は、図6と同様に、図5に示した配向CNTのTEM観察像を30〜50箇所で観察して得られた配向CNTの外径分布である。各外径分布では、同様に、前記硝酸鉄濃度が1.0mass%である場合を(7A)に、2.0mass%の場合を(7B)に、3.0mass%の場合を(7C)に、4.0mass%の場合を(7D)に、5.0mass%の場合を(7E)に示している。同様に、合成温度は全て700℃である。(7A)〜(7E)の外径分布から、前記硝酸鉄濃度の増加に伴って、配向CNTを構成するCNTの平均外径が増加していることを定量的に見積もることができる。更に、同様に、前記硝酸鉄濃度の増加に伴って分布が拡がっているが、(7E)の5.0mass%の場合を除けば、いずれの外径分布においても、分布が比較的狭く、均一であることが分かる。
【0058】
図8は、図6、7と同様に、図5に示した配向CNTのTEM観察像を30〜50箇所で観察して得られた配向CNTの内径分布である。各内径分布では、前記硝酸鉄濃度が1.0mass%の場合を(8A)に、2.0mass%の場合を(8B)に、3.0mass%の場合を(8C)に、4.0mass%の場合を(8D)に、5.0mass%の場合を(8E)に示している。同様に、合成温度は全て700℃である。(8A)〜(8E)の内径分布から、前記硝酸鉄濃度の増加に伴って、配向CNTを構成するCNTの平均内径が増加していることを定量的に見積もることができる。しかしながら、後述するように、前記硝酸鉄濃度の増加に伴う平均内径の増加量は、平均層数や平均外径の増加量に比べて小さく、配向CNTの平均外径と平均内径との差、つまり、厚さが増加しており、平均層数の増加と良い一致をしめす。更に、配向CNTの内径分布では、前記硝酸鉄濃度の増加に伴う分布の拡がりが小さく、(8E)に示した5.0mass%の場合でも、分布が比較的狭く、均一であることが分かる。
図6〜8において、分布の幅が硝酸鉄濃度の増加に伴って増えることは、鉄系触媒粒子の粒径が大きくなり、その粒径分布も拡がることに起因するものと考えている。
【0059】
図9は、本発明に係る配向CNTの合成温度を変化させてTEMにより観察したTEM像の写真図である。図5では、硝酸鉄濃度を変化させ、TEM観察像を得たが、図9では、熱CVD処理における合成温度を変化させ、各配向CNTのTEM観察像を得ている。前記合成温度は、(9A)が680℃、(9B)が700℃、(9C)が720℃、(9D)が740℃である。前記硝酸鉄濃度は全て3.0mass%であり、前記合成温度が700℃のときと同様、他の合成温度で合成された配向CNTの合成条件も、温度以外、図5に示した配向CNTと同一である。合成温度が異なる配向CNTにおいて、TEMにより30〜50箇所の観察を行い、配向CNTを構成するCNTの層数、外径、内径の分布を調べている。(9A)〜(9D)のTEM観察像において、前記合成温度が(9D)の740℃の場合、(9A)の680℃、(9B)の700℃、(9C)の720℃の場合に比べ、層数、外径、内径が比較的大きく増加しているように見える。
【0060】
図10は、図9に示した合成温度の異なる配向CNTのTEM観察像を30〜50箇所で観察して得られた配向CNTの層数分布である。前述のように、前記硝酸鉄濃度は全て3.0mass%である。各合成温度は、(10A)が680℃、(10B)が700℃、(10C)が720℃、(10D)が740℃である。前記合成温度が720℃以下の場合、分布のピーク位置は比較的変化していない。しかしながら、前記合成温度が740℃の場合、分布が大幅に拡がっている。
【0061】
図11は、図10と同様に、図9に示した合成温度の異なる配向CNTのTEM観察像を30〜50箇所で観察して得られた配向CNTの外径分布である。前述のように、前記硝酸鉄濃度は全て3.0mass%である。各合成温度は、(11A)が680℃、(11B)が700℃、(11C)が720℃、(11D)が740℃である。前記合成温度が720℃以下の場合、外径分布のピーク位置は比較的変化していない。しかしながら、前記合成温度が740℃の場合、前記層数分布と同様に、外径分布が大幅に拡がっている。これは、外径が層数に大きく依存していることと一致する。
【0062】
図12は、図10、11と同様に、図9に示した合成温度の異なる配向CNTのTEM観察像を30〜50箇所で観察して得られた配向CNTの内径分布である。前述のように、前記硝酸鉄濃度は全て3.0mass%である。各合成温度は、(12A)が680℃、(12B)が700℃、(12C)が720℃、(12D)が740℃である。内径分布では、前記合成温度が740℃の場合、分布の幅が拡がっているが、層数や外径に比べ、分布の広がりは小さく、比較的内径の変化は小さい。
【0063】
【表3】
【0064】
表3は、本発明に係る硝酸鉄濃度が1.0mass%〜5.0mass%の場合の硝酸鉄溶液から形成された触媒層を用いて、熱CVD処理により680℃〜740℃のCVD温度(合成温度)で合成された配向CNTの平均層数である。即ち、図6や図10に示した配向CNTの層数分布は、1.0mass%、2.0mass%、3.0mass%、4.0mass%、5.0mass%の各硝酸鉄濃度に対し、680℃、700℃、720℃、740℃の各合成温度でTEM観察像から見積もられ、これらの分布から平均層数を導出し、表3にまとめている。
【0065】
図13は、表3をグラフ化した各硝酸鉄濃度と各CVD温度(合成温度)における平均層数のグラフ図である。上述の結果と図13より、前記合成温度の増加は、前記硝酸鉄濃度の増加に比べ、著しく層数分布の幅と平均層数を増大させることが分かる。前記合成温度が740℃になると鉄系触媒粒子の一部が合体し、粒子径が増大すると考えられる。即ち、鉄系触媒粒子の粒子径分布が拡がり、層数分布の幅と平均層数を増大させると考えられる。
【0066】
【表4】
【0067】
表4の平均外径は、表3と同様に、図7や図11に示した配向CNTの外径分布が、1.0mass%、2.0mass%、3.0mass%、4.0mass%、5.0mass%の各硝酸鉄濃度に対し、680℃、700℃、720℃、740℃の各合成温度でTEM観察像から見積もられ、これらの分布から平均外径を導出し、表4にまとめたものである。
図14は、表4をグラフ化した各硝酸鉄濃度と各CVD温度(合成温度)における平均外径のグラフ図である。上述の結果と図14より、前記合成温度の増加は、前記硝酸鉄濃度の増加に比べ、著しく外径分布の幅と平均外径を増大させることが分かる。これは、層数と同様の結果であり、外径が層数に大きく依存することから説明される。後述の各平均内径と表4の各平均外径の差(厚さ)を平均層数で割ると、全て、約0.7nmとなり、1層当たりの厚さが約0.7nmであることと一致する。よって、配向CNTの平均層数と同様に、前記合成温度が740℃になると鉄系触媒粒子の一部が合体し、粒子径が増大することが外径を大きく増大させる要因と考えられる。
【0068】
【表5】
【0069】
表5の平均内径は、表3、4と同様に、図8や図12に示した配向CNTの内径分布が、1.0mass%、2.0mass%、3.0mass%、4.0mass%、5.0mass%の各硝酸鉄濃度に対して、680℃、700℃、720℃、740℃の各合成温度でTEM観察像から見積もられている。これらの分布から平均内径を導出し、表5にまとめている。
図15は、表5をグラフ化した各硝酸鉄濃度と各CVD温度(合成温度)における平均内径のグラフ図である。上述の結果と図15より、前記合成温度の増加は、内径分布の幅と平均内径を増大させ、前記合成温度が740℃の場合ではより顕著になる。熱CVD処理では、合成温度の増加が初期CNT形成時の格子歪みを小さくする方向に働くため、内径が増大するものと考えられる。
上述の結果から、前記合成温度が700℃の場合に、層数、外径、内径の分布幅が最も小さいことから、鉄系触媒粒子の粒子径が揃っており、均一でサイズの揃った配向CNTを形成することができる。また、前記合成温度が680℃〜720℃であれば、十分にサイズの揃った配向CNTを合成することが可能であることが分かった。
【0070】
図16は、本発明に係るPGE、DMFの混合質量比を変化させたときの安定性を示す実験結果図である。本発明者らは、PGEのみを溶媒として用いた場合、前記硝酸鉄濃度が1mass%の希薄溶液であれば、溶液は長期にわたって変化せず安定であることを確かめている。しかしながら、前記硝酸鉄濃度を高くするほど溶液は不安定になり、時間が経つと沈殿が生じる。これは、前記触媒金属塩液中に微量に含まれる水分の影響により、前記触媒金属塩の加水分解反応が進むからである。そこで、加水分解反応を抑制する目的で、DMFの添加を検討した。前記触媒金属塩液の安定性を調べるため、(a)PGEのみ、(b)質量比がPGE:DMF=90:10の混合液、(c)質量比がPGE:DMF=80:20の混合液を作製し、これら3種類の溶媒に、濃度が3mass%になるよう硝酸鉄を溶解させて、経時変化を観察した。比較例の溶液(a)では、5時間後に沈殿が生じ、さらに時間が経つと褐色に変色した。本発明の実施形態に係る触媒金属塩液(b)では、14日後に沈殿が生じた。一方、溶液(c)では、作製してから1ヵ月後においても透明性を保っており、沈殿生成は見られなかった。これらの結果より、PGE:DMF=80:20の混合液が、特性溶媒に用いる溶媒として最適であると判断される。また、PGE:DMF=90:10の混合液でも14日間安定性を保持しており、工業的な大量生産に用いることは可能である。継続的な実験結果(図示せず)からPGE:DMFが95:5〜60:40の範囲にあれば、前記特性溶媒として利用可能であることを確かめている。また、PGE:DMFが90:10〜80:20の範囲にあれば、より好ましい。
【0071】
図17は、本発明に係る特性溶媒の主成分であるPGEの溶媒としての性質を示す比較例図である。前記特性溶媒の主成分として、PGEを選択した理由を示す。溶媒にPGEを用いて硝酸鉄を溶解させた硝酸鉄溶液を触媒金属塩液として用い、CNTの生産量(mg)を測定した。この触媒金属塩液は、比較例であり、PGE100mass%の溶媒が用いられている。但し、表1に示したように、この触媒金属塩液は、スピンコート法により酸化膜付シリコン基板上に極めて均一な塗膜を形成することができ、容易に好適な厚さの触媒層を形成することができる。硝酸鉄濃度は、1〜5mass%であり、図17に示すように、触媒金属塩液から形成される触媒層は、30mg以上のCNT生産量を有している。更に、1〜4.5mass%では、40mg以上のCNT生産量を有している。よって、本発明に係る特性溶媒には、主成分としてPGEが混合され、触媒金属塩の加水分解反応を抑制する非親水性液が混合される。
【0072】
図18は、本発明に係る配向CNTにおける各合成温度の平均層数を硝酸鉄濃度に対してプロットし、線形関数により近似したグラフ図である。データは、表3に記載される平均層数の値を用いている。各合成温度において、平均層数の硝酸鉄濃度依存性は、線形関数に対して比較的良い一致を示し、この相関関係を用いれば、硝酸鉄濃度により合成される配向CNTの平均層数を設計することができる。線形関数は、最小二乗法によりフィッティングされている。
【0073】
図19〜図21は、本発明に係る内径分布にガウス分布をフィッティングしたグラフ図である。図19の(19A)、(19B)、図20の(20A)、(20B)、図21の(21A)、(21B)の分布は、夫々、図8の(8A)、(8B)、(8C)、(8C)、(8D)、(8E)、図12の(12D)の分布であり、目測によりガウス分布をフィッティングしている。図19の(19A)、(19B)、図20の(20A)、(20B)、図21の(21A)は、全て700℃の合成温度で合成された配向CNTの層数分布であり、硝酸鉄濃度が1.0〜5.0mass%の場合である。700℃の合成温度で合成された配向CNTの層数分布は、比較的ガウス分布と良い一致を示している。図19の(19A)、(19B)、図20の(20A)、(20B)、図21の(21A)においけるガウス分布の半値全幅は、約3.1nm、約3.3nm、約3.3nm、約3.5nm、約5.2nmである。即ち、前記硝酸鉄濃度が1.0〜4.0mass%の場合、半値全幅が3nm台の値を有し、極めて分布幅が小さく、サイズの揃った配向CNTが合成されていることが分かる。図21の(21A)に示すように、前記硝酸鉄濃度が5.0mass%の場合でも、半値全幅は約5.2nmであり、サイズが揃った配向CNTが合成されていると云える。
また、図21の(21A)に示す合成温度(CVD温度)が740℃で、硝酸鉄濃度が3.0mass%の場合、ガウス分布と良い一致を示すとは云えなかったが、目測によりガウス分布を目測によりフィッティングした。その場合においても、ガウス分布の半値全幅は、約5.2nmであり、比較的幅の狭い分布を有する配向CNTである。図21の(21A)において、実際の分布と比較しても、半値全幅約5.2nmを目安として、小数点切り上げで分布幅が約6nmとすると、平均層数の−3nm〜+3nmの範囲に分布の50%以上が含まれ、比較的分布幅が狭いといえる。
【0074】
図22及び図23は、図19〜図21と同様に、本発明に係る外径分布にガウス分布をフィッティングしたグラフ図である。図22の(22A)、(22B)、図23の(23A)、(23B)の分布は、夫々、図7の(7B)、(7C)、(7D)、(7E)の分布であり、目測によりガウス分布をフィッティングしている。図22の(22A)、(22B)、図23の(23A)、(23B)は、全て700℃の合成温度で合成された配向CNTの層数分布であり、硝酸鉄濃度が2.0〜5.0mass%の場合である。700℃の合成温度で合成され、硝酸鉄濃度が少ない配向CNTの層数分布は、比較的ガウス分布と良い一致を示している。図22の(22A)、(22B)、図23の(23A)、(23B)においけるガウス分布の半値全幅は、約4.1nm、約4.2nm、約5.6nm、約8.2nmである。即ち、前記硝酸鉄濃度が2.0mass%、3.0mass%の場合、半値全幅が4nm台の値を有し、極めて分布幅が小さく、CNTの外径の揃った配向CNTが合成されていることが分かる。図23の(23A)、(23B)に示すように、前記硝酸鉄濃度が4.0、5.0mass%の場合でも、半値全幅は約5.6nmmass%、約5.2nmであり、CNTの外径が揃った配向CNTが合成されていると云える。実際の分布と比較しても、最大半値全幅約8.2nmを目安として、小数点以下切り上げで分布幅が約9nmとすると、平均層数の約−4.5nm〜+4.5nmの範囲に分布の50%以上が含まれ、配向CNTを構成するCNTの外径分布は、比較的分布幅が狭いといえる。
【0075】
図24は、本発明に係る配向CNTを高速昇温(80℃/秒)の熱CVD処理により合成して、TEMにより観察したTEM像の写真図である。これまで示した配向CNTのTEM観察像は、熱CVD処理において、前記触媒基板を載置して比較的低速(約23℃/分)で昇温したときのものであった。即ち、前記合成温度に到達するまで、前記触媒基板を載置してから、約30分間経過していた。図24は、昇温速度80℃/秒で高速昇温させて、原料ガス供給し、合成された配向CNTのTEM観察像である。各TEM観察像では、同様に、触媒層を形成するための触媒金属塩液の硝酸鉄濃度が異なっており、(24A)は3.0mass%、(24B)は4.0mass%、(24C)は5.0mass%である。
【0076】
図25は、本発明に係る配向CNTを合成する触媒層の厚さと硝酸鉄濃度の関係(25A)と、高速昇温の熱CVD処理により合成したときの配向CNTのサイズ(25B)である。触媒層を形成するための前記特性溶媒は、同様に、PGEとDMFが80:20の混合比で混合され作成されている。硝酸鉄濃度は、3.0mass%、4.0mass%、5.0mass%の場合の3パターンである。(25A)では、図4と同様に、硝酸鉄濃度に対して形成される触媒層の厚さが略線形に増加している。
更に、(25B)に示すように、硝酸鉄濃度が大きくなるほどCNTの層数が増え、外径、内径が大きくなる傾向にあることがわかる。(24B)では、図24に示したCNTのTEM観察像から調べた層数、外径、内径の平均値を、それぞれ三角(▲)、黒丸(●)、白丸(○)で示す。また、標準偏差に相当する値をエラーバーで表した。層数、外径、内径の平均値は、いずれも硝酸鉄濃度の増加に伴い大きくなった。一方、標準偏差の値には硝酸鉄濃度の増加に伴う顕著な変化はみられなかった。これまでに、熱CVD処理の開始前の基板表面を原子間力顕微鏡(AFM)により観察した結果、鉄系触媒微粒子の大きさと成長後のCNT直径との間に相関があると報告されている(非特許文献1)。(25A)に示すように、硝酸鉄濃度と鉄系触媒層の厚さが比例関係にあることから、硝酸鉄濃度の増加により鉄系触媒微粒子が大きくなり、高速昇温(昇温速度80℃/秒)においても、その結果としてCNTの層数や外径、内径が大きくなったと考えられる。また、硝酸鉄濃度の増加に伴う標準偏差の値の変化が小さかったことから、高速昇温(昇温速度80℃/秒)において、鉄系触媒微粒子の粒径分布の拡がりが硝酸鉄濃度にあまり依存せず、その結果、硝酸鉄濃度の増加に対してCNTの層数、外径、内径の分布の拡がりは、大きく変化しないものと考えられる。
以上のことから、高速昇温(昇温速度80℃/秒)においても、触媒金属塩液の調製時に、硝酸鉄濃度を調整することにより、配向CNTを構成するCNTの層数、外径、内径を制御できることがわかった。
【0077】
図26は、本発明に係る配向CNTを合成したシリコン酸化膜付基板又はシリコン窒化膜基板からCNTを剥離した基板のESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)の測定結果を示すグラフ図(26A)、(26C)と比較例のグラフ図(26B)である。ESCAは、アルゴン(Ar)スパッタにより基板のエッチングを行いながら、CNTを剥離した基板表面とその近傍の元素分析を行っている。尚、シリコン酸化膜付基板は、シリコン基板の表面にシリコン酸化膜を形成したものであり、シリコン窒化膜基板は、シリコン基板の表面にシリコン窒化膜を形成したものである。
【0078】
(26A)は、シリコン酸化膜付基板からCNTを剥離して測定されたESCAのグラフ図であり、測定結果から次の特徴(a)〜(c)が観察される。
(a)基板上に残留しているFe触媒層(触媒粒子)の表面は、酸化状態である。
(b)基板表面のArスパッタリングによりFe触媒層内面側の鉄は、Fe(M:Metal)又はFe3Cとなっている。
(c)SiO2基板の表面はSiO2のみが観察され、SiO2基板では熱CVD実施後でもFe−Si、SiCを形成しないことが判明している。
【0079】
(26B)は、比較例として示した酸化膜の無いシリコン基板の表面に配向CNTを合成し、CNTを剥離した後のシリコン基板表面のESCAの結果であり、次の特徴(d)、(e)を有している。
(d)シリコン基板上に残留しているFe触媒層(触媒粒子)は、Fe(M)とFe−Siの状態であり、鉄の酸化物は少ない。熱CVD処理時に鉄とシリコンが反応していることが判明している。
(e)基板表面上では、SiO2が検出されるが、Siが見えるのでSiO2層の厚みはあまり厚くないことがわかる。
即ち、(26B)に示した比較例から、酸化膜の無いシリコン基板の場合、Fe−Siが形成され、触媒として機能していない鉄元素が存在することが分かる。一方、(26A)に示したように、CNTを剥離したシリコン酸化膜付基板の表面とその近傍では、熱CVD処理によりFe−Siが形成されず、Fe触媒は酸化状態で存在し、触媒として高効率に機能したことが分かる。 更に、(26A)では、内面側に酸化せずにFe触媒が残留している。よって、シリコン酸化膜付基板では、熱CVD処理において、前記触媒層を形成する鉄系触媒粒子が高効率にCNTを合成する触媒として機能する。
【0080】
(26C)は、本発明に係る反応防止膜付基板であるSi3N4膜付基板からCNTを剥離して測定されたESCAのグラフ図であり、測定結果から次の特徴(f)〜(h)が観察される。
(f)基板上に残留したFe触媒層(触媒粒子)は酸化物が少ない。
(g)熱CVD後の基板表面においてSi3N4がSiO2に変化している。
即ち、(26C)に示したグラフから、Si3N4膜付基板を用いた熱CVDにおいては、Fe触媒層(触媒粒子)と基板との反応を妨げるのみならず、原料ガスによるFe触媒層(触媒粒子)の還元の過程において、Fe触媒層(触媒粒子)から基板側に酸素原子が移動することでFe触媒層(触媒粒子)の還元が促進され、効率の良い配向CNTの形成を促す働きが見られる。
【0081】
【表6】
【0082】
表6は、高速昇温(80℃/秒)における熱CVD処理により合成された配向CNTを構成するCNTの平均層数、平均外径、平均内径、アモルファス層の平均厚みとそれらの値の標準偏差である。全てのサイズは、同様に、TEM観察像から見積もられている。前記特性溶媒には、PGEとDMFを80:20で混合した溶媒が用いられ、硝酸鉄を異なる濃度(0.5mass%、1.0mass%、2.0mass%)で溶解させて触媒層を形成している。これらの触媒層を用いて高速昇温(昇温速度:80℃/秒)の合成された配向CNTを構成するCNTの平均サイズである。アモルファス層とは、CNTの表面に形成される非晶質の層であり、この層は、CNTの外径には含まれず、層構造からなるCNT本体の外径を見積もっている。比較的濃度が薄い範囲の触媒金属塩液から、触媒層が形成されている。これまでと同様に、触媒金属塩液の硝酸鉄濃度が増加すると平均層数、平均外径が明確に増加している。平均内径の増加は、比較的小さい。
表6では、サイズ分布のばらつきを示すため、標準偏差を求めており、この標準偏差の値が比較的小さいことから、極めてCNTのサイズが揃った配向CNTが合成されていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば、表面に酸化膜や窒化膜が形成された反応防止膜付基板に対し、好適な濡れ性を有し、触媒金属塩の溶媒として使用することができ、均一な厚さの触媒層を形成し、最終的に製造される配向CNTのサイズを制御することができる。更に、長期間、触媒金属塩液が安定に保存することができ、且つ、所定サイズの配向CNTを工業的に大量生産することができる。CNTは、銅線に代わる集積回路の配線、原子間力顕微鏡の探針、大容量電気二重層キャパシタの電極などへの応用が期待されており、サイズの揃ったCNTを工業的に大量生産する方法として本発明に係る配向CNTの製造方法は好適であり、用途に適したサイズの配向CNTを比較的容易に提供することができる。
【符号の説明】
【0084】
1 反応室
2 熱CVD処理部
3 反応ヒータ
4 反応防止膜付基板
5 触媒層
6 容器
7 触媒金属塩液
8 酸化膜付シリコンウェハ
9 塗布液
11 塗膜
12 塗膜加熱用ヒータ
13 触媒層
14 配向CNT
15 CNT
16 金属触媒酸化層
17 CNTレイヤ(層)
18 基板
24 触媒粒子
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶媒に触媒金属塩を分散及び/又は溶解した触媒金属塩液を用いて、略垂直に配向した多数のカーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称する)からなる配向CNT(「ブラシ状CNT」とも称される)を製造する方法及び製造された配向CNTに関し、更に詳細には、前記触媒金属塩液を基板の表面に塗布加熱して触媒層を有する触媒基板を形成し、原料ガスを供給して熱CVD処理により前記触媒基板の上に配向CNTを合成する配向CNT製造方法及びその製造方法により合成された配向CNTに関するものである。
【背景技術】
【0002】
配向CNTの合成には、熱により原料ガスを分解して成長させる化学気相成長法(CVD法)が用いられ、熱CVD処理と称されている。この熱CVD処理では、触媒を利用して配向CNTを合成するため、触媒化学気相成長法(CCVD法)とも称されている。S.Chakrabartiらは、配向CNTの製造方法において、スパッタや電子ビーム蒸着等のような物理蒸着法(PVD)を用いて、鉄触媒層を基板上に成膜し、前記鉄触媒層の厚さをコントロールすることを非特許文献1(S.Chakrabarti,H.Kume,L.Pan,T.Nagasaka,and Y.Nakayama:J.Phys.Chem.C 111(2007)1929-1934)に記載している。更に、前記鉄触媒層の厚さをコントロールすることにより、単層CNT(SWCNT)、2層CNT(DWCNT)、多層CNT(MWCNT)の作り分けができ、同時にCNTの直径を制御し、配向カーボンナノチューブを製造することが可能であることを非特許文献1に記載している。
【0003】
しかしながら、PVDにより鉄触媒からなる触媒金属層を形成するためには、高真空蒸着装置等の高価な装置が必要となると共に、製造のためのランニングコストや装置の維持費も増大する。これらの課題を解決するため、長坂らは、配向CNTを製造するための鉄触媒層の製造方法として、大気圧下で基板上に触媒層を成膜できる湿式担持法を特許文献1(国際公開第WO2009/038172号)に記載している。特許文献1に記載される方法では、硝酸鉄を分散又は溶解させた硝酸鉄溶液をシリコン基板に塗布して鉄触媒前駆層を形成し、これを加熱することにより鉄触媒層をシリコン基板の表面に形成している。この方法を「湿式法」、湿式触媒法で作製された触媒層を単に「湿式触媒」とも称する。
【0004】
特許文献1では、硝酸鉄の溶媒にジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と称する)とエタノールの混合液を使用することにより、PVDにより成膜された触媒層と同様の配向CNTをシリコン基板上に合成できることが記載されている。更に、非特許文献2(T.Nagasaka,M.Yamamura,M.Kondo,Y.Watanabe,K.Akasaka,K.Hirahara,and Y.Nakayama:Jpn.J.Appl.Phys.48 (2009) 06FF06)には、基板表面の原子間力顕微鏡(AFM)観察により湿式触媒を用いた場合において塗布後は触媒粒子が観察されていないが、CVDの加熱過程において触媒が粒子状態となって触媒粒子層を形成し、各触媒粒子にCNTが成長し、基板上に配向CNTが合成されることが記載されている。また、特許文献2には基板表面に触媒層を形成する際、基板表面と触媒層の間に反応防止層を形成し、触媒金属と基板表面の反応を防止することで配向CNTの成長効率が高まることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第WO2009/038172号
【特許文献2】国際公開第WO2008/111653号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S.Chakrabarti,H.Kume,L.Pan,T.Nagasaka,and Y.Nakayama:J.Phys.Chem.C 111(2007)1929-1934
【非特許文献2】T.Nagasaka,M.Yamamura,M.Kondo,Y.Watanabe,K.Akasaka,K.Hirahara,and Y.Nakayama:Jpn.J.Appl.Phys.48 (2009) 06FF06
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、特許文献1には、触媒金属塩である硝酸鉄の溶媒にDMFとエタノールの混合液を用い、硝酸鉄溶液を塗布加熱して鉄触媒層を形成することにより、配向CNTをシリコン基板上に合成できることが記載されていた。しかしながら、基板の種類ないしは表面の状態によって均一に塗布することが困難であり、更に、塗膜の厚さや触媒層の厚さを制御することが難しかった。特に、シリコン基板上に反応防止層としての酸化膜や窒化膜を形成した場合、硝酸鉄溶液を均一に塗布すること、触媒層の厚さを制御することは困難であった。更に、触媒金属塩を分散又は溶解させた触媒金属塩液の安定性にも問題があり、時間の経過とともに触媒金属塩やその誘導体等の水酸化物が沈殿し、触媒金属塩液として使用できない場合があった。
また、特許文献2には、基板表面に反応防止層を形成し、触媒金属と基板表面の反応を防止することが記載されているが、触媒金属塩液を均一に反応防止層表面に塗布できることが明確に示されていなかった。
【0008】
図27は、特許文献1に記載されている従来の湿式である触媒金属塩液における沈殿粒子の粒子径分布の時間変化図である。エタノールとプロピレングリコールモノエチルエーテル(以下、「PGE」と称する)の混合液(混合質量比8:2)に、0.6重量%の硝酸鉄(III)9水和物を加え、触媒金属塩液を作製した。図27に示すように、エタノールとPGEの混合液を溶媒とした場合、6時間経過すると沈殿粒子の粒度分布が変化し、小さな粒子が凝集したり、粒子が成長して大きな粒子を形成し沈殿する。触媒金属塩液を作製して3時間後には、粒子径が大きくなり始めていることが分かる。長時間の保管によりアルコール中に空気中の水分が溶解し、更に金属の水酸化物を形成する問題があった。後述するように、PGEのみを溶媒とした場合であっても触媒金属塩溶液の安定性に問題がある。
【0009】
更に、非特許文献2において、テルピネオールやグリコールエーテルを溶媒とした場合にも安定性に問題があり、3時間〜6時間以上で、溶媒中における触媒金属塩の沈殿物の粒径が大きくなり、この触媒金属塩液を用いても触媒粒子層を形成することができなかった。一方、DMFを溶媒とした場合、触媒金属塩液は沈殿を生成せず比較的安定であるが、DMFは、シリコン酸化膜を有する基板に適しているとは言えず、均一に塗布することが困難であった。配向CNTを大量生産する場合、触媒金属塩液を大量に生産し、前記触媒金属塩液を供給し続ける必要があり、溶媒に触媒金属塩を分散又は溶解させても、長時間に亘って安定性を保持することが求められていた。更に、基板表面に酸化膜を形成することにより、基板表面の安定性が向上し、基板表面と触媒金属が反応することがなく、安定に配向CNTを合成できることから、反応防止層であるシリコン酸化膜や窒化膜付基板に均一に塗布できる触媒金属塩液が求められていた。
【0010】
従って、本発明の目的は、表面に反応防止層である酸化膜や窒化膜が形成された基板に対し、好適な濡れ性を有し、触媒金属塩の溶媒として使用することができ、均一な厚さの触媒層を形成し、最終的に製造される配向CNTのサイズを制御することができることを第1の目的とし、長期間、触媒金属塩液が安定に保存することができ、且つ、所定サイズの配向CNTを工業的に大量生産することができる配向CNT用触媒金属塩溶液を提供し、配向CNTを製造することを第2の目的とする。
尚、本願明細書において、「配向CNTのサイズ」とは、特に断らない限り、「配向CNTを構成するCNTの平均サイズ」を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであって、本発明の第1の形態は、溶媒に触媒金属塩を分散及び/又は溶解して触媒金属塩液を生成し、前記触媒金属塩液を基板の表面に塗布加熱して触媒層を有する触媒基板を形成し、原料ガスを供給して熱CVD処理により前記触媒基板の上に配向カーボンナノチューブ(以下、「配向CNT」と称する)を合成する配向CNT製造方法において、前記基板は、基板表面に酸化膜又は窒化膜が形成された反応防止膜付基板であり、前記触媒金属塩液の金属塩濃度と配向CNTを構成するCNTのサイズとの相関から相関関係を導出し、前記相関関係により前記金属塩濃度を調整して前記サイズを制御する製造方法であり、前記サイズが前記CNTの平均外径、平均内径及び平均層数の1つ以上の値であり、前記相関関係は、前記サイズが前記金属塩濃度に対して線形の比例関係を有すると仮定して導出されたサイズ線形関数である配向CNT製造方法である。
【0012】
本発明の第2の形態は、溶媒に触媒金属塩を分散及び/又は溶解して触媒金属塩液を生成し、前記触媒金属塩液を基板の表面に塗布加熱して触媒層を有する触媒基板を形成し、原料ガスを供給して熱CVD処理により前記触媒基板の上に配向CNTを合成する配向CNT製造方法において、前記溶媒は、PGEと、前記PGEとの相溶性があって非親水性を有する非親水液とが混合した特性溶媒であり、前記非親水液は、前記触媒金属塩液の中で前記PGEより加水分解反応が少なく加水分解抑制作用を有し、前記基板は、基板表面に酸化膜又は窒化膜が形成された反応防止膜付基板であり、前記触媒金属塩液の金属塩濃度と前記配向CNTのサイズとの相関から相関関係を導出し、前記相関関係により前記金属塩濃度を調整して前記サイズを制御する製造方法であり、前記サイズが前記配向CNTの平均外径、平均内径及び平均層数の1つ以上の値である配向CNT製造方法である。
【0013】
本発明の第3の形態は、第2の形態において、前記非親水液は、前記反応防止膜に対して前記PGEと同じ又はより小さな接触角の濡れ性を有する配向CNT製造方法である。
【0014】
本発明の第4の形態は、第2又は第3の形態において、前記相関関係は、前記サイズが前記金属塩濃度に対して線形の比例関係を有すると仮定して導出されたサイズ線形関数である配向CNT製造方法である。
【0015】
本発明の第5の形態は、第2、第3又は第4の形態において、前記触媒層の厚さが前記金属塩濃度に対して略線形の比例関係を有し、線形関数により近似された厚さ線形関数により前記金属塩濃度を調整して前記触媒層の厚さを制御する配向CNT製造方法である。
【0016】
本発明の第6の形態は、第1〜第5のいずれかの形態において、前記金属塩濃度が0.5mass%〜5mass%である配向CNT製造方法である。
【0017】
本発明の第7の形態は、第1〜第6のいずれかの形態において、前記触媒金属塩が硝酸鉄(III)の9水和物である配向CNT製造方法である。
【0018】
本発明の第8の形態は、第1〜第7のいずれかの形態において、前記基板がシリコン基板であり、前記反応防止膜がシリコン酸化膜又はシリコン窒化膜であり、加熱処理により前記シリコン基板に前記シリコン酸化膜又はシリコン窒化膜を形成する配向CNT製造方法である。
【0019】
本発明の第9の形態は、第2〜第8のいずれかの形態において、前記非親水液は、DMF又は乳酸エチルである配向CNT製造方法である。
【0020】
本発明の第10の形態は、第2〜第9のいずれかの形態において、前記非親水液がDMFであり、前記特性溶媒における前記DMFの質量比が5〜40mass%である配向CNT製造方法である。
【0021】
本発明の第11の形態は、第1〜第10のいずれかの形態において、前記熱CVD処理における昇温速度が23℃/分〜80℃/秒である配向CNTの製造方法である。
【0022】
本発明の第12の形態は、第1〜第11のいずれかの形態において、前記熱CVD処理における配向CNTの合成温度が680℃〜740℃である配向CNT製造方法である。
【0023】
本発明の第13の形態は、第1〜第12のいずれかの形態において、前記溶媒は、前記反応防止膜付基板に対する接触角が10°以下の濡れ性を有する配向CNT製造方法である。
【0024】
本発明の第14の形態は、第1〜第13の形態の配向CNT製造方法により製造された配向CNTであり、前記配向CNTの外径分布をガウス分布で近似したとき、前記ガウス分布の半値全幅が8nm以下であることを特徴とする配向CNTである。
【0025】
本発明の第15の形態は、第1〜第13に形態の配向CNT製造方法により製造された配向CNTであり、前記配向CNTの外径分布は、平均内径の−4.5nm〜+4.5nmの範囲に前記外径分布の50%以上が含まれる配向CNT製造方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明の第1の形態によれば、前記基板は、基板表面に酸化膜又は窒化膜が形成された反応防止膜付基板であり、前記触媒金属塩液の金属塩濃度と配向CNTを構成するCNTのサイズとの相関から相関関係を導出し、前記相関関係により前記金属塩濃度を調整して前記サイズを制御する製造方法であり、前記サイズが前記CNTの平均外径、平均内径及び平均層数の1つ以上の値であり、前記相関関係は、前記サイズが前記金属塩濃度に対して線形の比例関係を有すると仮定して導出されたサイズ線形関数であるから、前記金属塩濃度により製造される配向CNTのサイズを制御することができ、工業的に生産される前記配向CNTのサイズを前記金属塩濃度により設計し、前記配向CNTを大量生産することができる。本発明者らは、前記反応防止膜付基板との好適な濡れ性を有する前記触媒金属塩液における前記金属塩濃度を調整することにより、所定の厚さの触媒層を形成することができ、且つ、合成する配向CNTのサイズを制御することができることを発見し、本発明を完成するに到ったものである。前記反応防止膜付基板及び前記サイズ線形関数の詳細については、後述する。
【0027】
本発明の第2の形態によれば、前記溶媒は、PGEと、前記PGEとの相溶性があって非親水性を有する非親水液とが混合した特性溶媒であり、前記非親水液は、前記触媒金属塩液の中で前記PGEより加水分解反応が少なく加水分解抑制作用を有し、前記基板は、基板表面に酸化膜酸化膜又は窒化膜が形成された反応防止膜付基板であるから、前記触媒金属塩液中における加水分解が抑制され、前記触媒金属塩液は数カ月以上に亘って沈殿が起こらず、前記触媒金属塩液として性質を保持し、且つ、前記反応防止膜付基板に対する好適な濡れ性を有し、前記触媒金属塩液の金属塩濃度を調整して所望の厚さの触媒層を形成することができる。更に、前記触媒金属塩液の金属塩濃度と前記配向CNTのサイズとの相関から相関関係を導出し、前記相関関係により前記金属塩濃度を調整して前記サイズを制御する製造方法であり、前記サイズが前記配向CNTの平均外径、平均内径及び平均層数の1つ以上の値であるから、前記金属塩濃度により製造される配向CNTのサイズを制御することができ、工業的に生産される前記配向CNTのサイズを前記金属塩濃度により設計し、前記配向CNTを大量生産することができる。
本発明者らは、反応防止膜付基板に対して好適な濡れ性を有し、前記金属塩濃度を調整することができる溶媒として前記PGEが好ましいことを発見した。しかしながら、前記PGEは、前記触媒金属塩液中における加水分解反応が比較的多く、長期間に亘って保持できないという問題があった。本発明者らは、鋭意研究の結果、前記PGEとの相溶性があって非親水性を有し、前記触媒金属塩液の中で前記PGEより加水分解反応が少なく、更に、反応防止膜付基板に対して濡れ性を有する非親水液を前記PGEに混合した特性溶媒を用いることにより、所望の厚さを有する触媒層を形成できることを発見し、本発明を完成させるに到ったものである。また、前記非親水性液には、前記PGEとの相溶性があって非親水性を有し、前記触媒金属塩液の中で前記PGEより加水分解反応が少ない物質であれば、種々の液体を用いることができ、他のグリコールエーテル類や非プロトン性極性溶媒、または、乳酸エチルやアセチルアセトン等を用いることができる。更に、前記特性溶媒は、前記触媒金属塩液における前記金属塩濃度を調整することにより、所定の厚さの触媒層を形成することができ、且つ、合成する配向CNTのサイズを制御することができる。よって、前記触媒金属塩液の作製段階において、合成する配向CNTのサイズを設定することができ、工業的に安定して配向CNTを製造することができる。
前記サイズとは、前記配向CNTの平均外径、平均内径及び平均層数の1つ以上の値であり、熱CVD処理における昇温速度と合成温度が同じであれば、前記金属塩濃度により、平均外径、平均内径及び平均層数の1つ以上の値を制御することができる。前記金属塩濃度の増加に伴った平均内径の増加量は、比較的少なく平均外径の増加量が多い。即ち、配向CNTを構成するCNTの平均厚さが増加する。この平均厚さの増加は、つまり、配向CNTの平均層数の増加を意味しており、本発明者らは、透過型電子顕微鏡(TEM)像の観察から、前記金属塩濃度の増加に伴った前記平均層数の増加を確認している。CNTを形成する壁面の1層当たりの厚さは、約0.7nm程度であり、TEM像の観察から見積もった前記平均厚さ(平均外径と平均内径の差)と平均層数の関係と良い一致を示している。よって、前記サイズとは、前記配向CNTの平均外径、平均内径及び平均層数等の平均サイズであり、CNT個々のサイズを示すものではない。
前記触媒層は、触媒金属粒子が基板表面に形成された触媒金属粒子層と、比較的低温で加熱され、好適なサイズの触媒金属粒子が形成されていない触媒前駆層との両方を包含している。即ち、前記触媒層が熱CVDにおいて合成温度(「CVD温度」とも称する)に到達することにより、基板表面に好適なサイズの触媒金属粒子が形成され、触媒金属粒子層が形成されても良く、この触媒金属粒子層も触媒層と称している。更に、前記基板は、基板表面に酸化膜が形成された反応防止膜付基板であるから、熱CVD処理において、前記基板と前記触媒層の触媒金属が反応することを抑制することができる。前記反応防止酸化膜を形成する酸化物又は窒化物は、前記触媒金属との親和性が極めて低く、前記熱CVD処理における合成温度で前記基板と前記触媒金属が反応することを防止し、前記反応防止付基板の上に好適な粒子径の触媒金属粒子を形成することができる。前記反応防止膜付基板としては、種々の反応防止膜を基板に形成し用いることができ、Al2O3やSiO2、Si3N4等を基板表面に形成することができる。尚、前記触媒金属粒子とは、金属系触媒粒子を示し、金属又は金属と表面に形成された酸化層を有する金属粒子等を包含し、触媒金属を主成分とし、酸素など他の元素が含まれる触媒金属粒子を意味している。
また、反応防止膜は、上述のように、前記触媒金属と反応しない酸化物や窒化物からなり、例えば、反応防止膜がシリコン酸化膜である場合、加熱酸化による酸化物の形成や、シリコン酸化膜のゾルゲルや微少粒子を塗布して形成した反応防止層であっても良い。
【0028】
本発明の第3の形態によれば、前記非親水液は、前記反応防止膜に対して前記PGEと同じ又はより小さな接触角の濡れ性を有するから、前記特性溶媒は、前記反応防止膜付基板に対して好適な濡れ性を保持することができ、所定の厚さの塗膜を形成することができる。前記特性溶媒に前記触媒金属塩を分散及び/又は溶解させても、前記反応防止膜付基板に対して好適な濡れ性を有さない場合、均一で好適な厚さの塗膜を形成することができなかった。第2の形態によれば、非親水性液が前記反応防止膜に対して前記PGEと同じ又はより小さな接触角を有し、前記反応防止膜に対する前記PGEの好適な濡れ性を低下させることがなく、前記反応防止膜付基板に所望の厚さの塗膜を形成することができる。前記塗膜の形成方法としては、スピンコート法、スプレー法及びディップコート法等を利用することができる。
【0029】
本発明の第4の形態によれば、前記相関関係は、前記サイズが前記金属塩濃度に対して線形の比例関係を有すると仮定して導出されたサイズ線形関数であるから、容易に配向CNTのサイズを制御することができる。従来、前記反応防止膜付基板に所望の厚さの触媒層を形成し、所定サイズの配向CNTを合成することは困難であった。第4の形態によれば、前記サイズは、同じ合成温度の場合、前記金属塩濃度の増加に伴って略線形に増加する傾向を有することから、線形の比例関係を有すると仮定し、前記サイズの実測値からサイズ線形関数を導出し、合成する配向CNTのサイズを前記金属塩濃度によって制御することができる。よって、合成する配向CNTを構成するCNTのサイズを容易に選択することができる。
【0030】
本発明の第5の形態によれば、前記触媒層の厚さが前記金属塩濃度に対して略線形の比例関係を有し、線形関数により近似された厚さ線形関数により前記金属塩濃度を調整して前記触媒層の厚さを制御するから、容易に所定の厚さの触媒層を形成し、前記熱CVD処理により所定サイズの配向CNTを合成することができる。前述のように、前記PGEを主成分とする特性溶媒に前記触媒金属塩を分散及び/又は溶解した触媒金属塩液は、前記反応防止膜付基板に対して好適な濡れ性を有し、所定の厚さの塗膜を形成することができる。よって、前記金属塩濃度に伴って、塗布加熱されて形成された前記触媒層の厚さが略線形に増加する。この結果から、実測値に基づいて導出された厚さ線形関数により前記金属塩濃度を調整して前記触媒層の厚さを制御することができ、合成される配向CNTのサイズを制御することができる。
【0031】
本発明の第6の形態によれば、前記金属塩濃度が0.5mass%〜5mass%であるから、より確実に前記配向CNTのサイズを制御することができる。即ち、本発明者らは、前記金属塩濃度が0.5mass%〜5mass%のとき、より線形関数に近い依存性で、前記金属塩濃度の増加に伴って前記触媒層の厚さ及び/又は前記配向CNTのサイズが増加することを実測している。よって、前記金属塩濃度が0.5mass%〜10mass%、望ましくは1mass%〜5mass%の範囲にあれば、より確実に前記配向CNTのサイズを制御することができる。
【0032】
本発明の第7の形態によれば、前記触媒金属塩が硝酸鉄(III)の9水和物(以下、「硝酸鉄」とも称する)であるから、前記サイズを制御すると共に、より前記サイズが揃った配向CNTを合成することができる。即ち、本発明者らは、鋭意研究の結果、前記硝酸鉄が前記触媒金属塩として好適であると共に、前記特性溶液に溶解し、硝酸鉄濃度に伴って前記配向CNTのサイズを制御できることを明らかにしている。前述のように、鉄系触媒からなる触媒層は、配向CNTを合成する熱CVD処理の優れた触媒である。よって、前記特性溶媒を溶媒とする硝酸鉄溶液を前記反応防止膜付基板に塗布して加熱すれば、好適な触媒層を形成し、前記熱CVD処理において鉄系触媒粒子からなる触媒層により高効率に配向CNTを合成することができる。更に、前記硝酸鉄濃度により前記配向CNTのサイズを容易に制御することができる。
【0033】
本発明の第8の形態によれば、前記基板がシリコン基板であり、前記反応防止膜がシリコン酸化膜又はシリコン窒化膜であり、加熱処理により前記シリコン基板に前記シリコン酸化膜又はシリコン窒化膜を形成するから、容易に前記反応防止膜付基板を形成することができる。前記シリコン基板は、簡単に入手でき、加工が容易で優れた平滑性を有する基板であり、加熱処理により容易に前記シリコン基板の表面に反応防止膜を形成し、前記反応防止膜付基板を得ることができる。前記シリコン酸化膜又はシリコン窒化膜を基板表面に形成することにより、前記触媒金属とシリコン基板が反応することを防止することができる。
【0034】
本発明の第9の形態によれば、前記非親水液は、DMF又は乳酸エチルであるから、より好ましい濡れ性や非親水性を特性溶媒に付与することができる。前述のように、従来のPGEのみからなる溶媒では、溶質や分散した触媒金属塩が加水分解反応を経て、粒子化して沈殿し、長期間保存することは困難であって、大量生産用の触媒金属塩液に適していなかった。特に、DMFは、好適な非親水性を有し、長期間に亘って加水分解反応が殆ど起こらず、数か月に亘って粒子が凝集したり、粒子が成長して沈殿しないことを確かめている。また、乳酸エチルは、前記酸化膜に対してPGEより良い濡れ性を有し、非親水性を有している。よって、前記乳酸エチルを混合すれば、前記反応防止膜付基板に対する好適な濡れ性を付与することができる。
【0035】
本発明の第10の形態によれば、前記非親水液がDMFであり、前記特性溶媒における前記DMFの質量比が5〜40mass%であるから、前記特性溶媒に好適な加水分解抑制作用を付与することができる。前述のように、DMFを溶媒とした場合、長期間に亘って加水分解反応が殆ど起こらず、数か月に亘って粒子が凝集したり、粒子が成長して沈殿しないことを確かめている。よって、前記特性溶媒の5〜40mass%がDMFである場合、前記反応防止膜付基板に対するPGEの好適な濡れ性を保持し、且つ、DMFの安定性を前記特性溶媒に付与することができる。
【0036】
本発明の第11の形態によれば、前記熱CVD処理における昇温速度が23℃/分〜80℃/秒であるから、目的に応じて昇温速度を自在に調節することができる。連続的に触媒基板を供給し、配向CNTを合成する場合、昇温速度が高速であることが要求され、昇温速度を80℃/秒まで増加させ、比較的均一な配向CNTを合成できることを確認している。また、大面積の触媒基板に均一な配向CNTを合成することを目的とする場合、熱容量が大きく、昇温速度を高速にすることは困難であり、比較的低速(23℃/分)の昇温速度で触媒層に触媒金属粒子が形成され、比較的均一な配向CNTを合成できることを確認している。
【0037】
本発明の第12の形態によれば、前記熱CVD処理における配向CNTの合成温度が680℃〜740℃であるから、より確実に前記配向CNTのサイズを制御することができる。本発明者らは、前記合成温度が680℃〜740℃の範囲において、前記金属塩濃度の増加に伴って前記配向CNTのサイズが略確実に増加することを実験的に確かめている。よって、前記温度範囲において、前記金属塩濃度に対して前記配向CNTのサイズが比例して増加すると仮定して、前記金属塩濃度を決定すれば、合成する配向CNTのサイズを決定することができ、工業的に安定して所定サイズの配向CNTを提供することができる。
【0038】
本発明の第13の形態によれば、前記溶媒は、前記反応防止膜付基板に対する接触角が10°以下の濡れ性を有するから、前記溶媒は、前記反応防止膜付基板に対して好適な濡れ性を保持することができ、所定の厚さの塗膜を形成することができる。前述のPGE、DMF、乳酸エチル等は、前記反応防止膜付基板に対する接触角が10°以下の濡れ性を有し、上述の物質を混合し、前記反応防止膜付基板に対して好適な濡れ性を保持する溶媒を得ることができる。
【0039】
本発明の第14の形態によれば、第1〜第13の形態の配向CNT製造方法により製造された配向CNTであり、前記配向CNTの外径分布をガウス分布で近似したとき、前記ガウス分布の半値全幅が8nm以下であるから、サイズの揃った配向CNTであり、用途に応じて、所定サイズの配向CNTを提供することができる。前記特性溶媒を用いた前記触媒金属塩液から触媒層を形成し、熱CVD処理を施して合成された配向CNTは、極めてサイズの揃った配向CNTであることを、本発明者らは、実験的に確かめている。即ち、前記第1〜第10の形態の配向CNT製造方法により製造された配向CNTは、サイズ分布が比較的狭く、それを定量的に示すため、ガウス分布を用いている。目測により、ガウス分布をサイズ分布にフィッティングし、半値全幅を求めている。前記サイズ分布の全てが必ずしもガウス分布と良い一致を示していないが、サイズが揃っていることを示す定量的な指標として利用することができる。特に、配向CNTの外径分布は、極めてサイズが揃っており、最も外径分布が拡がったものでも、適用したガウス分布の半値全幅が約8.2nmであり、小数点以下切り上げで、約9nmとなる。従って、前記配向CNTの外径分布をガウス分布で近似したとき、前記ガウス分布の半値全幅が9nm以下となる。最も前記サイズが揃った配向CNTでは、外径分布にフィッティングしたガウス分布の半値全幅が約4nm程度であった。
【0040】
本発明の第15の形態によれば、第1〜第13に形態の配向カーボンナノチューブ製造方法により製造された配向カーボンナノチューブであり、前記配向カーボンナノチューブの外径分布は、内径の−4.5nm〜+4.5nmの範囲に前記外径分布の50%以上が含まれるから、サイズの揃った配向CNTであり、用途に応じて、所定サイズの配向CNTを提供することができる。前述のように、外径分布に目測でガウス分布をフィッティングしたとき、最大の半値全幅は約9nmであった。よって、第12の形態において、ガウス分布の中心値の−4.5nm〜+4.5nmの範囲に殆どのCNTの外径サイズが含まれることになる。しかしながら、全ての外径分布データでガウス分布に良い一致を示すものではなく、前記半値全幅を基準として、内径分布と比較したところ、平均内径の−4.5nm〜+4.5nmの範囲に少なくとも50%以上の外径分布が含まれることが分かった。これは、極めてサイズが揃った配向CNTであることを示しており、用途に応じて、所定のサイズを有する配向CNTを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は、本発明に係る配向CNT製造方法の実施形態の製造工程を示す工程図である。
【図2】本発明に係る配向CNT製造方法の実施形態の1つを具体的に示した模式図である。
【図3】図3は、本発明に係る熱CVD処理装置の構成概略図とCNTの成長過程概念図である。
【図4】図4は、本発明に係る金属塩濃度に対する触媒層の厚さを示すグラフ図である。
【図5】図5は、本発明に係る配向CNTをTEMにより観察したTEM像の写真図である。
【図6】図6は、図5に示した配向CNTのTEM観察像を30〜50箇所で観察して得られた配向CNTの層数分布である。
【図7】図7は、図5に示した配向CNTのTEM観察像を30〜50箇所で観察して得られた配向CNTの外径分布である。
【図8】図8は、図5に示した配向CNTのTEM観察像を30〜50箇所で観察して得られた配向CNTの内径分布である。
【図9】図9は、本発明に係る配向CNTの合成温度を変化させてTEMにより観察したTEM像の写真図である。
【図10】図10は、図9に示した合成温度の異なる配向CNTのTEM観察像を30〜50箇所で観察して得られた配向CNTの層数分布である。
【図11】図11は、図9に示した合成温度の異なる配向CNTのTEM観察像を30〜50箇所で観察して得られた配向CNTの外径分布である。
【図12】図12は、図9に示した合成温度の異なる配向CNTのTEM観察像を30〜50箇所で観察して得られた配向CNTの内径分布である。
【図13】図13は、表3をグラフ化した各硝酸鉄濃度と各CVD温度(合成温度)における平均層数のグラフ図である。
【図14】図14は、表4をグラフ化した各硝酸鉄濃度と各CVD温度(合成温度)における平均外径のグラフ図である。
【図15】図15は、表5をグラフ化した各硝酸鉄濃度と各CVD温度(合成温度)における平均内径のグラフ図である。
【図16】図16は、本発明に係るPGE、DMFの混合質量比を変化させたときの安定性を示す実験結果図である。
【図17】図17は、本発明に係る特性溶媒の主成分であるPGEの溶媒としての性質を示す比較例図である。
【図18】図18は、本発明に係る配向CNTにおける各合成温度の平均層数を硝酸鉄濃度に対してプロットし、線形関数により近似したグラフ図である。
【図19】図19は、本発明に係る内径分布にガウス分布をフィッティングしたグラフ図である。
【図20】図20は、本発明に係る内径分布にガウス分布をフィッティングしたグラフ図である。
【図21】図21は、本発明に係る内径分布にガウス分布をフィッティングしたグラフ図である。
【図22】図22は、本発明に係る外径分布にガウス分布をフィッティングしたグラフ図である。
【図23】図23は、本発明に係る外径分布にガウス分布をフィッティングしたグラフ図である。
【図24】図24は、本発明に係る配向CNTを高速昇温(80℃/秒)の熱CVD処理により合成して、TEMにより観察したTEM像の写真図である。
【図25】図25は、本発明に係る配向CNTを合成する触媒層の厚さと硝酸鉄濃度の関係と、高速昇温の熱CVD処理により合成したときの配向CNTのサイズである。
【図26】本発明に係る配向CNTを合成したシリコン酸化膜付基板ないしは窒化シリコン膜付基板からCNTを剥離して測定されたESCAの結果を示すグラフ図である。
【図27】従来の触媒金属塩液における粒子径分布の時間変化図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下に、本発明に係る配向CNT製造方法の実施形態を図面に従って詳細に説明する。
図1は、本発明に係る配向CNT製造方法の実施形態の製造工程を示す工程図である。ステップ1(S1)では、PGEと、前記PGEとの相溶性があって非親水性を有する非親水液との混合質量比を調整し、特性溶媒を作製する。前記混合質量比は、「PGE:非親水性液」が95:5〜60:40の範囲で混合される。好ましくは、90:10〜70:30の範囲であり、より好ましくは、90:10〜80:20の範囲である。非親水性液としては、他のグリコールエーテル類や非プロトン性極性溶媒、または、乳酸エチルやアセチルアセトン等が挙げられ、非プロトン性極性溶媒のDMFや乳酸エチルが好ましく、前記DMFがより好ましい。DMFや乳酸エチルの物性については、後述する。
【0043】
図1のステップ2(S2)は、前記特性溶媒に触媒金属塩を分散及び/又は溶解して触媒金属塩液を作製する工程である。触媒金属塩の分散・溶解量により触媒金属塩液の金属塩濃度を調整する。前記金属塩濃度が0.5mass%〜10mass%に範囲あることが好ましく、1mass%〜5mass%の範囲にあることがより好ましい。尚、ステップ1(S1)とステップ2(S2)は、同時に行うこともでき、前記特性溶媒を作製する前に、混合される溶媒のいずれかに前記触媒金属塩を分散・溶解し、残りの溶媒を加えて混合して前記触媒金属塩を作製することができる。本発明では、前記金属塩濃度と合成される配向CNTのサイズが明確な相関を有し、後述のように、前記金属塩濃度の調整により、配向CNTのサイズを制御することが可能である。前記触媒金属塩としては、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩等の有機金属塩、硝酸塩、オキソ酸塩等の無機金属塩を使用できる。
【0044】
図1のステップ3(S3)は、前記触媒金属塩液を反応防止酸化膜付基板に塗布して塗膜を形成する塗布処理である。前記反応防止酸化膜付基板は、酸化アルミニウム膜やシリコン酸化膜、シリコン窒化膜が形成された基板であり、後工程の熱CVD処理において、触媒金属と基板が反応することを防止することができる。基板がシリコン基板の場合、熱処理により比較的簡単にシリコン酸化膜を形成することが可能である。前記塗布処理は、スピンコート法、スプレー法又はディップコート法を用いて行われる。スピンコート法は、方法及び装置が簡単であり、小規模の生産に適している。工業的な規模で行うためには、スプレー法及びディップコート法が好ましく、スプレー法は、凹凸表面に対応でき、また成膜の制御が簡単であることと、スプレー印刷により任意のパターンを短時間で描画することができるので、より好ましい。
【0045】
図1のステップ4(S4)は、塗膜加熱処理であり、前記反応防止膜付基板の表面に触媒層が形成される。前述のように、「触媒層」は、触媒粒子が基板表面に形成された触媒粒子層と、比較的低温で加熱され、好適なサイズの触媒粒子が形成されていない触媒前駆層との両方を包含している。図1に示した工程図の塗膜加熱処理(S4)は、比較的低温で行われ、好適なサイズの触媒粒子が形成されていない触媒前駆層が形成される。後の熱CVD処理において、好適なサイズの触媒粒子からなる触媒粒子層が最終的に触媒層として形成される。塗膜加熱処理(S4)を高温で行い、触媒粒子層からなる触媒層を形成することも可能である。
【0046】
図1のステップ5(S5)は、熱CVD処理による配向CNTの合成工程である。前記触媒層が形成された反応防止膜付基板が触媒基板であり、前述のように、酸化膜によって触媒層の触媒金属との反応が防止される。熱CVD処理では、加熱された反応室の中に前記触媒基板が載置され、炭素を含んだ原料ガスと不活性ガスからなるキャリアガスが供給され、前記触媒基板の上に配向CNTが合成される。原料ガスとしてアセチレンやエチレンが供給され、キャリアガスとしてヘリウム、窒素、アルゴン等が供給される。
【0047】
【表1】
【0048】
表1は、本発明に係るPGEと前記非親水性液として利用可能なDMF、乳酸エチル及び比較例として示したα−テルピネオールの物性値を示している。PGEは、シリコン酸化膜を形成するSiO2基板に対して良好な濡れ性を有している。具体的には、SiO2基板に対して10°以下の接触角を有することが求められる。α−テルピネオールのSiO2基板に対する接触角の値は記載されていないが、目視により濡れ性が比較的悪く、広がりが「やや難」であることが明らかであった。Si基板に対する接触角が18.1°であり、その値からも濡れ性が比較的悪いことが類推できる。よって、前記非親水性液としては、PGEとの相溶性があると共に、シリコン酸化膜に対する良好な濡れ性を有することが求められ、少なくとも10°以下の接触角を有することが好ましい。よって、図1のステップ1(S1)では、PGEとの相溶性があると共に、シリコン酸化膜などの反応防止層に対する良好な濡れ性を有する非親水性液が用いられる。
【0049】
図2は、本発明に係る配向CNT製造方法の実施形態の1つを具体的に示した模式図である。(2A)は、容器6に触媒金属塩液7を作製する模式図であり、PGEと非親水性液であるDMFを混合した特性溶媒に、触媒金属塩として硝酸鉄(硝酸鉄(III)の9水和物)が溶解され、触媒金属塩液7として硝酸鉄溶液が作製されている。(2B)では、反応防止膜付基板として、熱処理によりシリコン酸化膜が表面に形成されたシリコンウェハ(以下、「酸化膜付シリコンウェハ8」と称する)が用いられる。硝酸鉄溶液の塗布液9がスピンコート法によって塗布され、前記酸化膜付シリコンウェハ8の表面に塗膜が形成される。(2C)では、前記塗膜11が表面に形成された酸化膜付シリコンウェハが塗膜加熱用ヒータ12の上に載置され、200℃〜300℃で10分間以上加熱処理を行い、前記触媒層として鉄触媒層を形成している。(2D)は熱CVD処理を示しており、前記触媒層13(鉄触媒層)を成膜した酸化膜付シリコンウェハを所定の大きさに加工して配設し、原料ガスにアセチレンガス、キャリアガスとしてヘリウムガスを供給している。前記反応室1の中は、反応ヒータ3によって加熱され、配向CNT14の合成温度にあり、より正確には、前記触媒層13と原料ガスによって前記酸化膜付シリコンウェハの上に配向CNT14が合成される。
前記硝酸鉄(III)の9水和物以外に、有機金属塩として、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩等、また無機金属塩として、オキソ酸塩等を用いることが可能であり、触媒金属として、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、プラチナ(Pt)等の遷移金属があり、特に、鉄以外では、コバルト、ニッケルが好ましい。
【0050】
【表2】
【0051】
表2は、本発明に係る非親水性液としてDMFを用いた場合のPGEとの混合質量比と形成された触媒層の評価である。評価は、濡れ性と安定性に基づいて行われており、良好なものを「◎」、使用可能なものを「○」、使用にやや難があるものを「△」としている。PGEとDMFの混合質量比PGE:DMFが90:10、80:20のものは、好適な濡れ性を有し、均一な塗膜を形成でき、比較的サイズの揃った配向CNTを合成する触媒層を形成することができた。特性溶媒におけるPGEの質量比が100mass%のものは、安定性に難があり、14日後には沈殿物が多量に生成されることを確認した。混合質量比PGE:DMFが95:5のものは、沈殿物が生成されるが使用可能な程度であることを確認している。更に、混合質量比PGE:DMFが70:30、60:40のものでは、沈殿物の生成量が極めて少なく安定であったが、60:40のものでは、塗膜の形成に対して濡れ性が好適なものではなく、70:30の特性溶媒では、やや良好な濡れ性を有していた。しかしながら、いずれの場合も配向CNTを合成可能な触媒層を作製することができた。特性溶媒におけるPGEの質量比が60mass%未満になると、明らかに濡れ性が塗膜の形成に適していなかったため、触媒層を形成していない。よって、混合質量比PGE:DMFは、95:5〜60:40であれば、配向CNTを合成することが可能な触媒層を作製することができ、90:10〜70:30の範囲であることが好ましく、90:10〜80:20の範囲であることがより好ましい。
【0052】
図3は、本発明に係る熱CVD処理装置の構成概略図とCNTの成長過程概念図である。図2の(2D)では、熱CVD処理について概略を述べたが、ここでより詳細な点について補足する。(3A)には、配向CNTを合成する熱CVD処理装置が記載されており、前述のように、配向CNTを合成する石英製の反応室1を有する。反応室1は両端開放の筒状空間からなり、反応ヒータ3により加熱される熱CVD処理部2を備える。熱CVD処理部2に触媒層5を形成した反応防止膜付基板4が配置される。例えば、反応防止膜付基板4が酸化膜付シリコンウェハである場合、比較的簡単に大きさを加工することが可能であり、1辺約5mm〜1000mmの四角形に分割し、反応室1の中に配置することが可能である。この熱CVD処理装置において、反応室1に炭化水素等の原料ガスを導入して熱CVD処理部2に流通させながら、触媒層5の触媒作用によって、反応防止膜付基板4の上に配向CNTを合成する。反応防止膜付基板4の基板には、合成温度での耐久性を有する石英板、シリコン基板、水晶板、溶融シリカ板、サファイヤ板、ステンレス板等を使用することができ、以下の実施形態では、シリコン基板であるシリコンウェハが用いられている。
反応室1の一端からは、矢印FAに示すように、原料ガス(C2H2)及びキャリアガス(He)が導入され、矢印FBに示すように他方の開放端から排出される。キャリアガスは、原料ガスを反応室1内で円滑に流通、搬送するためのガスであり、原料ガスが反応により消耗されるのに対し、キャリアガスは全く無反応で消耗しない気体が使用され、ヘリウムやアルゴンの他、ヘリウムとアルゴンの混合ガスや、ネオン、窒素、二酸化炭素、クリプトン、キセノンなどの不活性ガス又はその混合ガスが利用される。
原料ガスとしては、炭化水素のみならず硫黄含有有機ガス、リン含有有機ガスなどの有機ガスが広く利用され、特定構造のカーボンナノ構造物の生成に好適な有機ガスが選択される。また、有機ガスの中でも余分な物質を生成しない意味で炭化水素が好適である。炭化水素としては、メタン、エタンなどのアルカン化合物、エチレン、ブタジエンなどのアルケン化合物、アセチレンなどのアルキン化合物、ベンゼン、トルエン、スチレンなどのアリール炭化水素化合物、インデン、ナフタリン、フェナントレンなどの縮合環を有する芳香族炭化水素、シクロプロパン、シクロヘキサンなどのシクロパラフィン化合物、シクロペンテンなどのシクロオレフィン化合物、ステロイドなどの縮合環を有する脂環式炭化水素化合物などが利用できる。また、以上の炭化水素化合物を2種以上混合した混合炭化水素ガスを使用することも可能である。特に、望ましくは炭化水素の中でも低分子、例えば、アセチレン、アリレン、エチレン、ベンゼン、トルエンなどが好適である。以下の実施形態では、原料ガスとしてアセチレン(C2H2)を使用している。また、原料ガスとキャリアガスに微量の酸素や水分を混合しても良く、配向CNTを構成するCNTの成長を促進することが可能である。
【0053】
図3の(3B)は、本発明に係る触媒粒子24から成長するCNT15を模式的に示した概念図である。前記触媒層を構成する触媒粒子24が鉄を主成分とする鉄系触媒粒子であり、酸化鉄成分を含有している場合を例として、以下に成長モデルを説明する。CNT15を形成可能な触媒粒子24は、図に示すように必ずしも球状でなくとも良い。原料ガスとしてアセチレンガスを供給すると、CNT15の合成反応は初期の急速な成長と、アモルファスカーボンを生成しながらの緩慢な成長の2段階の反応による成長がある。原料ガスがアセチレンの場合について説明するが、他の原料ガスについても同様のメカニズムになる。特に初期の急速な反応は、触媒粒子24の表面での下記(式1)及び(式2)を主体とする反応自体を律速とする反応である。
Fe2O3+C2H2 → 2FeC+H2O+CO2 (式1)
Fe3O4+C2H2 → FeO+2FeC+H2O+O2 (式2)
急速な第1段階の成長については、触媒が保持している酸素量が反応によって消費されることで停止し、通常は原料ガスから供給される過剰なアモルファスカーボンにより触媒表面が覆われることで触媒と原料ガスの接触が困難となり、最終的に反応停止に至る。前記触媒粒子24の保持する酸素が同程度の場合、CNT15の長さが、ほぼ同じ長さになることこから、再現性があると同時に、初期触媒の酸素の保持量によってCNT15の長さが決まるものと理解できる。
次に、長さを制御可能なCNT15を製造するのに不可欠な、アモルファスカーボンを生成しながらの緩慢な成長について説明する。緩慢な成長については、下記(式3)及び(式4)を主体とする、炭素の表面拡散を律速とする反応であると理解できる。
FeO+C2H2 → FeC + H2O + C (式3)
Fe+C2H2 → FeC + C + H2 (式4)
(3B)に示すように、アセチレンに接触する触媒粒子24の接触部16では、触媒金属と炭素が結合した炭化物が形成され、この炭化物の表面にCNT15の壁を構成する多層レイヤ17が形成される。触媒粒子24と原料ガスが反応して生成したアモルファスカーボンが多層レイヤ7を押し出すことによりCNT15が形成される。図中の矢印a、bは、カーボンの拡散方向を示す。触媒粒子24と基板18の親和力が強い場合、触媒粒子24は球状とならないため、両サイドの多層レイヤ17は、均等な速度で押し出されず、垂直に配向しない原因となる。従って、基板18として、表面に酸化膜が形成された反応防止膜付基板が用いられる。また、触媒粒子24は、(式3)、(式4)の反応により発生する過剰なアモルファスカーボン分はキャリアガス及び/又は原料ガス中に含まれる酸素、水分による燃焼、酸化反応により除去されることによりCNT15の連続的な生成が可能となる。
【0054】
図4は、本発明に係る金属塩濃度に対する触媒層の厚さを示すグラフ図である。前記触媒金属塩は硝酸鉄(硝酸鉄(III)の9水和物:和光純薬工業(株)製)であり、特性溶媒としてPGE(東京化成工業(株)製)とDMF(キシダ化学(株)製)を混合質量比80:20で混合した溶媒が用いられている。硝酸鉄濃度は、1.0mass%、2.0mass%、3.0mass%、4.0mass%、5.0mass%の5通りとした。前記触媒金属液である硝酸鉄溶液は、スピンコート法により直径6インチの酸化膜付シリコンウェハの上に塗布され、これをホットプレート上に置き、200℃で10分間加熱処理をして鉄触媒層を形成している。鉄触媒層の厚みは、希塩酸に溶かして、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析により鉄の濃度を測定し、酸化膜付シリコンウェハ上の鉄触媒層の厚みが均一であること、鉄触媒層の密度がバルクの値(7.86g/cm3)と同じであることを仮定して測定した。図4に示すように、硝酸鉄濃度と鉄触媒層の厚さが比例関係にあることが分かる。そのため硝酸鉄濃度を調整して酸化膜付シリコンウェハ上に塗布することで、鉄触媒層の厚さを制御することができる。
【0055】
図5は、本発明に係る配向CNTを透過型顕微鏡(TEM)により観察したTEM像の写真図である。図5に示した配向CNTは、図4の説明で述べた方法により、酸化膜付シリコンウェハ上に鉄触媒層を形成し、前記鉄触媒層を成膜した熱酸化膜付シリコンウェハを1辺約10mmの四角片に分割して熱CVD処理を700℃で行ったものである。図3の(3A)に示した熱CVD処理装置が用いられ、原料ガスとしてアセチレンガスが、キャリアガスとしてヘリウムガスが用いられている。配向CNTの合成温度である700℃に到達するまでは、ヘリウムガスが前記熱CVD処理部に供給され、700℃に到達した後、アセチレンガスとヘリウムガスを前記熱CVD処理部に10分間供給し、配向CNTを合成した。配向CNTの観察では、TEM(日立製HF−2000)により30〜50箇所の観察を行い、配向CNTを構成するCNTの層数、外径、内径の分布を調べている。図5に示すように、前記CNTの層数、外径、内径を測定できるTEM観察像が得られている。(5A)は、硝酸鉄濃度が1.0mass%である硝酸鉄溶液から触媒層を形成して合成された配向CNTのTEM観察像の1つであり、各TEM観察像では、前記硝酸鉄濃度が2.0mass%の場合を(5B)に、3.0mass%の場合を(5C)に、4.0mass%の場合を(5D)に、5.0mass%の場合を(5E)に示している。前述のように、合成温度は全て700℃である。(5A)〜(5E)から、前記硝酸鉄濃度の増加に伴って、配向CNTを構成するCNTの層数や外径、内径が増加していることが定性的に観察される。
【0056】
図6は、図5に示した配向CNTのTEM観察像を30〜50箇所で観察して得られた配向CNTの層数分布である。(6A)は、硝酸鉄濃度が1.0mass%である硝酸鉄溶液から触媒層を形成して合成された配向CNTの層数分布であり、各層数分布では、前記硝酸鉄濃度が2.0mass%の場合を(6B)に、3.0mass%の場合を(6C)に、4.0mass%の場合を(6D)に、5.0mass%の場合を(6E)に示している。前述のように、合成温度は全て700℃である。(6A)〜(6E)の層数分布から、前記硝酸鉄濃度の増加に伴って、配向CNTを構成するCNTの平均層数が増加していることを定量的に見積もることができる。更に、前記硝酸鉄濃度の増加に伴って層数分布が拡がっているが、(6E)の5.0mass%の場合を除けば、いずれの層数分布においても分布が比較的狭く、均一であることが分かる。
【0057】
図7は、図6と同様に、図5に示した配向CNTのTEM観察像を30〜50箇所で観察して得られた配向CNTの外径分布である。各外径分布では、同様に、前記硝酸鉄濃度が1.0mass%である場合を(7A)に、2.0mass%の場合を(7B)に、3.0mass%の場合を(7C)に、4.0mass%の場合を(7D)に、5.0mass%の場合を(7E)に示している。同様に、合成温度は全て700℃である。(7A)〜(7E)の外径分布から、前記硝酸鉄濃度の増加に伴って、配向CNTを構成するCNTの平均外径が増加していることを定量的に見積もることができる。更に、同様に、前記硝酸鉄濃度の増加に伴って分布が拡がっているが、(7E)の5.0mass%の場合を除けば、いずれの外径分布においても、分布が比較的狭く、均一であることが分かる。
【0058】
図8は、図6、7と同様に、図5に示した配向CNTのTEM観察像を30〜50箇所で観察して得られた配向CNTの内径分布である。各内径分布では、前記硝酸鉄濃度が1.0mass%の場合を(8A)に、2.0mass%の場合を(8B)に、3.0mass%の場合を(8C)に、4.0mass%の場合を(8D)に、5.0mass%の場合を(8E)に示している。同様に、合成温度は全て700℃である。(8A)〜(8E)の内径分布から、前記硝酸鉄濃度の増加に伴って、配向CNTを構成するCNTの平均内径が増加していることを定量的に見積もることができる。しかしながら、後述するように、前記硝酸鉄濃度の増加に伴う平均内径の増加量は、平均層数や平均外径の増加量に比べて小さく、配向CNTの平均外径と平均内径との差、つまり、厚さが増加しており、平均層数の増加と良い一致をしめす。更に、配向CNTの内径分布では、前記硝酸鉄濃度の増加に伴う分布の拡がりが小さく、(8E)に示した5.0mass%の場合でも、分布が比較的狭く、均一であることが分かる。
図6〜8において、分布の幅が硝酸鉄濃度の増加に伴って増えることは、鉄系触媒粒子の粒径が大きくなり、その粒径分布も拡がることに起因するものと考えている。
【0059】
図9は、本発明に係る配向CNTの合成温度を変化させてTEMにより観察したTEM像の写真図である。図5では、硝酸鉄濃度を変化させ、TEM観察像を得たが、図9では、熱CVD処理における合成温度を変化させ、各配向CNTのTEM観察像を得ている。前記合成温度は、(9A)が680℃、(9B)が700℃、(9C)が720℃、(9D)が740℃である。前記硝酸鉄濃度は全て3.0mass%であり、前記合成温度が700℃のときと同様、他の合成温度で合成された配向CNTの合成条件も、温度以外、図5に示した配向CNTと同一である。合成温度が異なる配向CNTにおいて、TEMにより30〜50箇所の観察を行い、配向CNTを構成するCNTの層数、外径、内径の分布を調べている。(9A)〜(9D)のTEM観察像において、前記合成温度が(9D)の740℃の場合、(9A)の680℃、(9B)の700℃、(9C)の720℃の場合に比べ、層数、外径、内径が比較的大きく増加しているように見える。
【0060】
図10は、図9に示した合成温度の異なる配向CNTのTEM観察像を30〜50箇所で観察して得られた配向CNTの層数分布である。前述のように、前記硝酸鉄濃度は全て3.0mass%である。各合成温度は、(10A)が680℃、(10B)が700℃、(10C)が720℃、(10D)が740℃である。前記合成温度が720℃以下の場合、分布のピーク位置は比較的変化していない。しかしながら、前記合成温度が740℃の場合、分布が大幅に拡がっている。
【0061】
図11は、図10と同様に、図9に示した合成温度の異なる配向CNTのTEM観察像を30〜50箇所で観察して得られた配向CNTの外径分布である。前述のように、前記硝酸鉄濃度は全て3.0mass%である。各合成温度は、(11A)が680℃、(11B)が700℃、(11C)が720℃、(11D)が740℃である。前記合成温度が720℃以下の場合、外径分布のピーク位置は比較的変化していない。しかしながら、前記合成温度が740℃の場合、前記層数分布と同様に、外径分布が大幅に拡がっている。これは、外径が層数に大きく依存していることと一致する。
【0062】
図12は、図10、11と同様に、図9に示した合成温度の異なる配向CNTのTEM観察像を30〜50箇所で観察して得られた配向CNTの内径分布である。前述のように、前記硝酸鉄濃度は全て3.0mass%である。各合成温度は、(12A)が680℃、(12B)が700℃、(12C)が720℃、(12D)が740℃である。内径分布では、前記合成温度が740℃の場合、分布の幅が拡がっているが、層数や外径に比べ、分布の広がりは小さく、比較的内径の変化は小さい。
【0063】
【表3】
【0064】
表3は、本発明に係る硝酸鉄濃度が1.0mass%〜5.0mass%の場合の硝酸鉄溶液から形成された触媒層を用いて、熱CVD処理により680℃〜740℃のCVD温度(合成温度)で合成された配向CNTの平均層数である。即ち、図6や図10に示した配向CNTの層数分布は、1.0mass%、2.0mass%、3.0mass%、4.0mass%、5.0mass%の各硝酸鉄濃度に対し、680℃、700℃、720℃、740℃の各合成温度でTEM観察像から見積もられ、これらの分布から平均層数を導出し、表3にまとめている。
【0065】
図13は、表3をグラフ化した各硝酸鉄濃度と各CVD温度(合成温度)における平均層数のグラフ図である。上述の結果と図13より、前記合成温度の増加は、前記硝酸鉄濃度の増加に比べ、著しく層数分布の幅と平均層数を増大させることが分かる。前記合成温度が740℃になると鉄系触媒粒子の一部が合体し、粒子径が増大すると考えられる。即ち、鉄系触媒粒子の粒子径分布が拡がり、層数分布の幅と平均層数を増大させると考えられる。
【0066】
【表4】
【0067】
表4の平均外径は、表3と同様に、図7や図11に示した配向CNTの外径分布が、1.0mass%、2.0mass%、3.0mass%、4.0mass%、5.0mass%の各硝酸鉄濃度に対し、680℃、700℃、720℃、740℃の各合成温度でTEM観察像から見積もられ、これらの分布から平均外径を導出し、表4にまとめたものである。
図14は、表4をグラフ化した各硝酸鉄濃度と各CVD温度(合成温度)における平均外径のグラフ図である。上述の結果と図14より、前記合成温度の増加は、前記硝酸鉄濃度の増加に比べ、著しく外径分布の幅と平均外径を増大させることが分かる。これは、層数と同様の結果であり、外径が層数に大きく依存することから説明される。後述の各平均内径と表4の各平均外径の差(厚さ)を平均層数で割ると、全て、約0.7nmとなり、1層当たりの厚さが約0.7nmであることと一致する。よって、配向CNTの平均層数と同様に、前記合成温度が740℃になると鉄系触媒粒子の一部が合体し、粒子径が増大することが外径を大きく増大させる要因と考えられる。
【0068】
【表5】
【0069】
表5の平均内径は、表3、4と同様に、図8や図12に示した配向CNTの内径分布が、1.0mass%、2.0mass%、3.0mass%、4.0mass%、5.0mass%の各硝酸鉄濃度に対して、680℃、700℃、720℃、740℃の各合成温度でTEM観察像から見積もられている。これらの分布から平均内径を導出し、表5にまとめている。
図15は、表5をグラフ化した各硝酸鉄濃度と各CVD温度(合成温度)における平均内径のグラフ図である。上述の結果と図15より、前記合成温度の増加は、内径分布の幅と平均内径を増大させ、前記合成温度が740℃の場合ではより顕著になる。熱CVD処理では、合成温度の増加が初期CNT形成時の格子歪みを小さくする方向に働くため、内径が増大するものと考えられる。
上述の結果から、前記合成温度が700℃の場合に、層数、外径、内径の分布幅が最も小さいことから、鉄系触媒粒子の粒子径が揃っており、均一でサイズの揃った配向CNTを形成することができる。また、前記合成温度が680℃〜720℃であれば、十分にサイズの揃った配向CNTを合成することが可能であることが分かった。
【0070】
図16は、本発明に係るPGE、DMFの混合質量比を変化させたときの安定性を示す実験結果図である。本発明者らは、PGEのみを溶媒として用いた場合、前記硝酸鉄濃度が1mass%の希薄溶液であれば、溶液は長期にわたって変化せず安定であることを確かめている。しかしながら、前記硝酸鉄濃度を高くするほど溶液は不安定になり、時間が経つと沈殿が生じる。これは、前記触媒金属塩液中に微量に含まれる水分の影響により、前記触媒金属塩の加水分解反応が進むからである。そこで、加水分解反応を抑制する目的で、DMFの添加を検討した。前記触媒金属塩液の安定性を調べるため、(a)PGEのみ、(b)質量比がPGE:DMF=90:10の混合液、(c)質量比がPGE:DMF=80:20の混合液を作製し、これら3種類の溶媒に、濃度が3mass%になるよう硝酸鉄を溶解させて、経時変化を観察した。比較例の溶液(a)では、5時間後に沈殿が生じ、さらに時間が経つと褐色に変色した。本発明の実施形態に係る触媒金属塩液(b)では、14日後に沈殿が生じた。一方、溶液(c)では、作製してから1ヵ月後においても透明性を保っており、沈殿生成は見られなかった。これらの結果より、PGE:DMF=80:20の混合液が、特性溶媒に用いる溶媒として最適であると判断される。また、PGE:DMF=90:10の混合液でも14日間安定性を保持しており、工業的な大量生産に用いることは可能である。継続的な実験結果(図示せず)からPGE:DMFが95:5〜60:40の範囲にあれば、前記特性溶媒として利用可能であることを確かめている。また、PGE:DMFが90:10〜80:20の範囲にあれば、より好ましい。
【0071】
図17は、本発明に係る特性溶媒の主成分であるPGEの溶媒としての性質を示す比較例図である。前記特性溶媒の主成分として、PGEを選択した理由を示す。溶媒にPGEを用いて硝酸鉄を溶解させた硝酸鉄溶液を触媒金属塩液として用い、CNTの生産量(mg)を測定した。この触媒金属塩液は、比較例であり、PGE100mass%の溶媒が用いられている。但し、表1に示したように、この触媒金属塩液は、スピンコート法により酸化膜付シリコン基板上に極めて均一な塗膜を形成することができ、容易に好適な厚さの触媒層を形成することができる。硝酸鉄濃度は、1〜5mass%であり、図17に示すように、触媒金属塩液から形成される触媒層は、30mg以上のCNT生産量を有している。更に、1〜4.5mass%では、40mg以上のCNT生産量を有している。よって、本発明に係る特性溶媒には、主成分としてPGEが混合され、触媒金属塩の加水分解反応を抑制する非親水性液が混合される。
【0072】
図18は、本発明に係る配向CNTにおける各合成温度の平均層数を硝酸鉄濃度に対してプロットし、線形関数により近似したグラフ図である。データは、表3に記載される平均層数の値を用いている。各合成温度において、平均層数の硝酸鉄濃度依存性は、線形関数に対して比較的良い一致を示し、この相関関係を用いれば、硝酸鉄濃度により合成される配向CNTの平均層数を設計することができる。線形関数は、最小二乗法によりフィッティングされている。
【0073】
図19〜図21は、本発明に係る内径分布にガウス分布をフィッティングしたグラフ図である。図19の(19A)、(19B)、図20の(20A)、(20B)、図21の(21A)、(21B)の分布は、夫々、図8の(8A)、(8B)、(8C)、(8C)、(8D)、(8E)、図12の(12D)の分布であり、目測によりガウス分布をフィッティングしている。図19の(19A)、(19B)、図20の(20A)、(20B)、図21の(21A)は、全て700℃の合成温度で合成された配向CNTの層数分布であり、硝酸鉄濃度が1.0〜5.0mass%の場合である。700℃の合成温度で合成された配向CNTの層数分布は、比較的ガウス分布と良い一致を示している。図19の(19A)、(19B)、図20の(20A)、(20B)、図21の(21A)においけるガウス分布の半値全幅は、約3.1nm、約3.3nm、約3.3nm、約3.5nm、約5.2nmである。即ち、前記硝酸鉄濃度が1.0〜4.0mass%の場合、半値全幅が3nm台の値を有し、極めて分布幅が小さく、サイズの揃った配向CNTが合成されていることが分かる。図21の(21A)に示すように、前記硝酸鉄濃度が5.0mass%の場合でも、半値全幅は約5.2nmであり、サイズが揃った配向CNTが合成されていると云える。
また、図21の(21A)に示す合成温度(CVD温度)が740℃で、硝酸鉄濃度が3.0mass%の場合、ガウス分布と良い一致を示すとは云えなかったが、目測によりガウス分布を目測によりフィッティングした。その場合においても、ガウス分布の半値全幅は、約5.2nmであり、比較的幅の狭い分布を有する配向CNTである。図21の(21A)において、実際の分布と比較しても、半値全幅約5.2nmを目安として、小数点切り上げで分布幅が約6nmとすると、平均層数の−3nm〜+3nmの範囲に分布の50%以上が含まれ、比較的分布幅が狭いといえる。
【0074】
図22及び図23は、図19〜図21と同様に、本発明に係る外径分布にガウス分布をフィッティングしたグラフ図である。図22の(22A)、(22B)、図23の(23A)、(23B)の分布は、夫々、図7の(7B)、(7C)、(7D)、(7E)の分布であり、目測によりガウス分布をフィッティングしている。図22の(22A)、(22B)、図23の(23A)、(23B)は、全て700℃の合成温度で合成された配向CNTの層数分布であり、硝酸鉄濃度が2.0〜5.0mass%の場合である。700℃の合成温度で合成され、硝酸鉄濃度が少ない配向CNTの層数分布は、比較的ガウス分布と良い一致を示している。図22の(22A)、(22B)、図23の(23A)、(23B)においけるガウス分布の半値全幅は、約4.1nm、約4.2nm、約5.6nm、約8.2nmである。即ち、前記硝酸鉄濃度が2.0mass%、3.0mass%の場合、半値全幅が4nm台の値を有し、極めて分布幅が小さく、CNTの外径の揃った配向CNTが合成されていることが分かる。図23の(23A)、(23B)に示すように、前記硝酸鉄濃度が4.0、5.0mass%の場合でも、半値全幅は約5.6nmmass%、約5.2nmであり、CNTの外径が揃った配向CNTが合成されていると云える。実際の分布と比較しても、最大半値全幅約8.2nmを目安として、小数点以下切り上げで分布幅が約9nmとすると、平均層数の約−4.5nm〜+4.5nmの範囲に分布の50%以上が含まれ、配向CNTを構成するCNTの外径分布は、比較的分布幅が狭いといえる。
【0075】
図24は、本発明に係る配向CNTを高速昇温(80℃/秒)の熱CVD処理により合成して、TEMにより観察したTEM像の写真図である。これまで示した配向CNTのTEM観察像は、熱CVD処理において、前記触媒基板を載置して比較的低速(約23℃/分)で昇温したときのものであった。即ち、前記合成温度に到達するまで、前記触媒基板を載置してから、約30分間経過していた。図24は、昇温速度80℃/秒で高速昇温させて、原料ガス供給し、合成された配向CNTのTEM観察像である。各TEM観察像では、同様に、触媒層を形成するための触媒金属塩液の硝酸鉄濃度が異なっており、(24A)は3.0mass%、(24B)は4.0mass%、(24C)は5.0mass%である。
【0076】
図25は、本発明に係る配向CNTを合成する触媒層の厚さと硝酸鉄濃度の関係(25A)と、高速昇温の熱CVD処理により合成したときの配向CNTのサイズ(25B)である。触媒層を形成するための前記特性溶媒は、同様に、PGEとDMFが80:20の混合比で混合され作成されている。硝酸鉄濃度は、3.0mass%、4.0mass%、5.0mass%の場合の3パターンである。(25A)では、図4と同様に、硝酸鉄濃度に対して形成される触媒層の厚さが略線形に増加している。
更に、(25B)に示すように、硝酸鉄濃度が大きくなるほどCNTの層数が増え、外径、内径が大きくなる傾向にあることがわかる。(24B)では、図24に示したCNTのTEM観察像から調べた層数、外径、内径の平均値を、それぞれ三角(▲)、黒丸(●)、白丸(○)で示す。また、標準偏差に相当する値をエラーバーで表した。層数、外径、内径の平均値は、いずれも硝酸鉄濃度の増加に伴い大きくなった。一方、標準偏差の値には硝酸鉄濃度の増加に伴う顕著な変化はみられなかった。これまでに、熱CVD処理の開始前の基板表面を原子間力顕微鏡(AFM)により観察した結果、鉄系触媒微粒子の大きさと成長後のCNT直径との間に相関があると報告されている(非特許文献1)。(25A)に示すように、硝酸鉄濃度と鉄系触媒層の厚さが比例関係にあることから、硝酸鉄濃度の増加により鉄系触媒微粒子が大きくなり、高速昇温(昇温速度80℃/秒)においても、その結果としてCNTの層数や外径、内径が大きくなったと考えられる。また、硝酸鉄濃度の増加に伴う標準偏差の値の変化が小さかったことから、高速昇温(昇温速度80℃/秒)において、鉄系触媒微粒子の粒径分布の拡がりが硝酸鉄濃度にあまり依存せず、その結果、硝酸鉄濃度の増加に対してCNTの層数、外径、内径の分布の拡がりは、大きく変化しないものと考えられる。
以上のことから、高速昇温(昇温速度80℃/秒)においても、触媒金属塩液の調製時に、硝酸鉄濃度を調整することにより、配向CNTを構成するCNTの層数、外径、内径を制御できることがわかった。
【0077】
図26は、本発明に係る配向CNTを合成したシリコン酸化膜付基板又はシリコン窒化膜基板からCNTを剥離した基板のESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)の測定結果を示すグラフ図(26A)、(26C)と比較例のグラフ図(26B)である。ESCAは、アルゴン(Ar)スパッタにより基板のエッチングを行いながら、CNTを剥離した基板表面とその近傍の元素分析を行っている。尚、シリコン酸化膜付基板は、シリコン基板の表面にシリコン酸化膜を形成したものであり、シリコン窒化膜基板は、シリコン基板の表面にシリコン窒化膜を形成したものである。
【0078】
(26A)は、シリコン酸化膜付基板からCNTを剥離して測定されたESCAのグラフ図であり、測定結果から次の特徴(a)〜(c)が観察される。
(a)基板上に残留しているFe触媒層(触媒粒子)の表面は、酸化状態である。
(b)基板表面のArスパッタリングによりFe触媒層内面側の鉄は、Fe(M:Metal)又はFe3Cとなっている。
(c)SiO2基板の表面はSiO2のみが観察され、SiO2基板では熱CVD実施後でもFe−Si、SiCを形成しないことが判明している。
【0079】
(26B)は、比較例として示した酸化膜の無いシリコン基板の表面に配向CNTを合成し、CNTを剥離した後のシリコン基板表面のESCAの結果であり、次の特徴(d)、(e)を有している。
(d)シリコン基板上に残留しているFe触媒層(触媒粒子)は、Fe(M)とFe−Siの状態であり、鉄の酸化物は少ない。熱CVD処理時に鉄とシリコンが反応していることが判明している。
(e)基板表面上では、SiO2が検出されるが、Siが見えるのでSiO2層の厚みはあまり厚くないことがわかる。
即ち、(26B)に示した比較例から、酸化膜の無いシリコン基板の場合、Fe−Siが形成され、触媒として機能していない鉄元素が存在することが分かる。一方、(26A)に示したように、CNTを剥離したシリコン酸化膜付基板の表面とその近傍では、熱CVD処理によりFe−Siが形成されず、Fe触媒は酸化状態で存在し、触媒として高効率に機能したことが分かる。 更に、(26A)では、内面側に酸化せずにFe触媒が残留している。よって、シリコン酸化膜付基板では、熱CVD処理において、前記触媒層を形成する鉄系触媒粒子が高効率にCNTを合成する触媒として機能する。
【0080】
(26C)は、本発明に係る反応防止膜付基板であるSi3N4膜付基板からCNTを剥離して測定されたESCAのグラフ図であり、測定結果から次の特徴(f)〜(h)が観察される。
(f)基板上に残留したFe触媒層(触媒粒子)は酸化物が少ない。
(g)熱CVD後の基板表面においてSi3N4がSiO2に変化している。
即ち、(26C)に示したグラフから、Si3N4膜付基板を用いた熱CVDにおいては、Fe触媒層(触媒粒子)と基板との反応を妨げるのみならず、原料ガスによるFe触媒層(触媒粒子)の還元の過程において、Fe触媒層(触媒粒子)から基板側に酸素原子が移動することでFe触媒層(触媒粒子)の還元が促進され、効率の良い配向CNTの形成を促す働きが見られる。
【0081】
【表6】
【0082】
表6は、高速昇温(80℃/秒)における熱CVD処理により合成された配向CNTを構成するCNTの平均層数、平均外径、平均内径、アモルファス層の平均厚みとそれらの値の標準偏差である。全てのサイズは、同様に、TEM観察像から見積もられている。前記特性溶媒には、PGEとDMFを80:20で混合した溶媒が用いられ、硝酸鉄を異なる濃度(0.5mass%、1.0mass%、2.0mass%)で溶解させて触媒層を形成している。これらの触媒層を用いて高速昇温(昇温速度:80℃/秒)の合成された配向CNTを構成するCNTの平均サイズである。アモルファス層とは、CNTの表面に形成される非晶質の層であり、この層は、CNTの外径には含まれず、層構造からなるCNT本体の外径を見積もっている。比較的濃度が薄い範囲の触媒金属塩液から、触媒層が形成されている。これまでと同様に、触媒金属塩液の硝酸鉄濃度が増加すると平均層数、平均外径が明確に増加している。平均内径の増加は、比較的小さい。
表6では、サイズ分布のばらつきを示すため、標準偏差を求めており、この標準偏差の値が比較的小さいことから、極めてCNTのサイズが揃った配向CNTが合成されていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば、表面に酸化膜や窒化膜が形成された反応防止膜付基板に対し、好適な濡れ性を有し、触媒金属塩の溶媒として使用することができ、均一な厚さの触媒層を形成し、最終的に製造される配向CNTのサイズを制御することができる。更に、長期間、触媒金属塩液が安定に保存することができ、且つ、所定サイズの配向CNTを工業的に大量生産することができる。CNTは、銅線に代わる集積回路の配線、原子間力顕微鏡の探針、大容量電気二重層キャパシタの電極などへの応用が期待されており、サイズの揃ったCNTを工業的に大量生産する方法として本発明に係る配向CNTの製造方法は好適であり、用途に適したサイズの配向CNTを比較的容易に提供することができる。
【符号の説明】
【0084】
1 反応室
2 熱CVD処理部
3 反応ヒータ
4 反応防止膜付基板
5 触媒層
6 容器
7 触媒金属塩液
8 酸化膜付シリコンウェハ
9 塗布液
11 塗膜
12 塗膜加熱用ヒータ
13 触媒層
14 配向CNT
15 CNT
16 金属触媒酸化層
17 CNTレイヤ(層)
18 基板
24 触媒粒子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒に触媒金属塩を分散及び/又は溶解して触媒金属塩液を生成し、前記触媒金属塩液を基板の表面に塗布加熱して触媒層を有する触媒基板を形成し、原料ガスを供給して熱CVD処理により前記触媒基板の上に配向カーボンナノチューブ(以下、「配向CNT」と称する)を合成する配向CNT製造方法において、前記基板は、基板表面に酸化膜又は窒化膜が形成された反応防止膜付基板であり、前記触媒金属塩液の金属塩濃度と配向CNTを構成するCNTのサイズとの相関から相関関係を導出し、前記相関関係により前記金属塩濃度を調整して前記サイズを制御する製造方法であり、前記サイズが前記CNTの平均外径、平均内径及び平均層数の1つ以上の値であり、前記相関関係は、前記サイズが前記金属塩濃度に対して線形の比例関係を有すると仮定して導出されたサイズ線形関数であることを特徴とする配向CNT製造方法。
【請求項2】
溶媒に触媒金属塩を分散及び/又は溶解して触媒金属塩液を生成し、前記触媒金属塩液を基板の表面に塗布加熱して触媒層を有する触媒基板を形成し、原料ガスを供給して熱CVD処理により前記触媒基板の上に配向CNTを合成する配向CNT製造方法において、前記溶媒は、プロピレングリコールモノエチルエーテル(以下、「PGE」と称する)と、前記PGEとの相溶性があって非親水性を有する非親水液とが混合した特性溶媒であり、前記非親水液は、前記触媒金属塩液の中で前記PGEより加水分解反応が少なく加水分解抑制作用を有し、前記基板は、基板表面に酸化膜又は窒化膜が形成された反応防止膜付基板であり、前記触媒金属塩液の金属塩濃度と前記配向CNTを構成するCNTのサイズとの相関から相関関係を導出し、前記相関関係により前記金属塩濃度を調整して前記サイズを制御する製造方法であり、前記サイズが前記CNTの平均外径、平均内径及び平均層数の1つ以上の値であることを特徴とする配向CNT製造方法。
【請求項3】
前記非親水液は、前記反応防止膜に対して前記PGEと同じ又はより小さな接触角の濡れ性を有する請求項2に記載の配向CNT製造方法。
【請求項4】
前記相関関係は、前記サイズが前記金属塩濃度に対して線形の比例関係を有すると仮定して導出されたサイズ線形関数である請求項2又は3に記載の配向CNT製造方法。
【請求項5】
前記触媒層の厚さが前記金属塩濃度に対して略線形の比例関係を有し、線形関数により近似された厚さ線形関数により前記金属塩濃度を調整して前記触媒層の厚さを制御する請求項2、3又は4に記載の配向CNT製造方法。
【請求項6】
前記金属塩濃度が0.5mass%〜5mass%である請求項1〜5に記載の配向CNT製造方法。
【請求項7】
前記触媒金属塩が硝酸鉄(III)の9水和物である請求項1〜6に記載の配向CNT製造方法。
【請求項8】
前記基板がシリコン基板であり、前記反応防止膜がシリコン酸化膜又はシリコン窒化膜であり、加熱処理により前記シリコン基板に前記シリコン酸化膜又はシリコン窒化膜を形成する請求項1〜7に記載の配向CNT製造方法。
【請求項9】
前記非親水液は、ジメチルホルムアルデヒド(以下、「DMF」と称する)又は乳酸エチルである請求項2〜8のいずれかに記載の配向CNT製造方法。
【請求項10】
前記非親水液がDMFであり、前記特性溶媒における前記DMFの質量比が5〜40mass%である請求項2〜9に記載の配向CNT製造方法。
【請求項11】
前記熱CVD処理における昇温速度が23℃/分〜80℃/秒である請求項1〜10に記載の配向CNTの製造方法。
【請求項12】
前記熱CVD処理における配向CNTの合成温度が680℃〜740℃である請求項1〜11に記載の配向CNT製造方法。
【請求項13】
前記溶媒は、前記反応防止膜付基板に対する接触角が10°以下の濡れ性を有する請求項1〜12に記載の配向CNT製造方法。
【請求項14】
請求項1〜13に記載される配向CNT製造方法により製造された配向CNTであり、前記配向CNTの外径分布をガウス分布で近似したとき、前記ガウス分布の半値全幅が8nm以下であることを特徴とする配向CNT。
【請求項15】
請求項1〜13に記載される配向CNT製造方法により製造された配向CNTであり、前記配向CNTの外径分布は、平均外径の−4.5nm〜+4.5nmの範囲に前記内径分布の50%以上が含まれることを特徴とする配向CNT。
【請求項1】
溶媒に触媒金属塩を分散及び/又は溶解して触媒金属塩液を生成し、前記触媒金属塩液を基板の表面に塗布加熱して触媒層を有する触媒基板を形成し、原料ガスを供給して熱CVD処理により前記触媒基板の上に配向カーボンナノチューブ(以下、「配向CNT」と称する)を合成する配向CNT製造方法において、前記基板は、基板表面に酸化膜又は窒化膜が形成された反応防止膜付基板であり、前記触媒金属塩液の金属塩濃度と配向CNTを構成するCNTのサイズとの相関から相関関係を導出し、前記相関関係により前記金属塩濃度を調整して前記サイズを制御する製造方法であり、前記サイズが前記CNTの平均外径、平均内径及び平均層数の1つ以上の値であり、前記相関関係は、前記サイズが前記金属塩濃度に対して線形の比例関係を有すると仮定して導出されたサイズ線形関数であることを特徴とする配向CNT製造方法。
【請求項2】
溶媒に触媒金属塩を分散及び/又は溶解して触媒金属塩液を生成し、前記触媒金属塩液を基板の表面に塗布加熱して触媒層を有する触媒基板を形成し、原料ガスを供給して熱CVD処理により前記触媒基板の上に配向CNTを合成する配向CNT製造方法において、前記溶媒は、プロピレングリコールモノエチルエーテル(以下、「PGE」と称する)と、前記PGEとの相溶性があって非親水性を有する非親水液とが混合した特性溶媒であり、前記非親水液は、前記触媒金属塩液の中で前記PGEより加水分解反応が少なく加水分解抑制作用を有し、前記基板は、基板表面に酸化膜又は窒化膜が形成された反応防止膜付基板であり、前記触媒金属塩液の金属塩濃度と前記配向CNTを構成するCNTのサイズとの相関から相関関係を導出し、前記相関関係により前記金属塩濃度を調整して前記サイズを制御する製造方法であり、前記サイズが前記CNTの平均外径、平均内径及び平均層数の1つ以上の値であることを特徴とする配向CNT製造方法。
【請求項3】
前記非親水液は、前記反応防止膜に対して前記PGEと同じ又はより小さな接触角の濡れ性を有する請求項2に記載の配向CNT製造方法。
【請求項4】
前記相関関係は、前記サイズが前記金属塩濃度に対して線形の比例関係を有すると仮定して導出されたサイズ線形関数である請求項2又は3に記載の配向CNT製造方法。
【請求項5】
前記触媒層の厚さが前記金属塩濃度に対して略線形の比例関係を有し、線形関数により近似された厚さ線形関数により前記金属塩濃度を調整して前記触媒層の厚さを制御する請求項2、3又は4に記載の配向CNT製造方法。
【請求項6】
前記金属塩濃度が0.5mass%〜5mass%である請求項1〜5に記載の配向CNT製造方法。
【請求項7】
前記触媒金属塩が硝酸鉄(III)の9水和物である請求項1〜6に記載の配向CNT製造方法。
【請求項8】
前記基板がシリコン基板であり、前記反応防止膜がシリコン酸化膜又はシリコン窒化膜であり、加熱処理により前記シリコン基板に前記シリコン酸化膜又はシリコン窒化膜を形成する請求項1〜7に記載の配向CNT製造方法。
【請求項9】
前記非親水液は、ジメチルホルムアルデヒド(以下、「DMF」と称する)又は乳酸エチルである請求項2〜8のいずれかに記載の配向CNT製造方法。
【請求項10】
前記非親水液がDMFであり、前記特性溶媒における前記DMFの質量比が5〜40mass%である請求項2〜9に記載の配向CNT製造方法。
【請求項11】
前記熱CVD処理における昇温速度が23℃/分〜80℃/秒である請求項1〜10に記載の配向CNTの製造方法。
【請求項12】
前記熱CVD処理における配向CNTの合成温度が680℃〜740℃である請求項1〜11に記載の配向CNT製造方法。
【請求項13】
前記溶媒は、前記反応防止膜付基板に対する接触角が10°以下の濡れ性を有する請求項1〜12に記載の配向CNT製造方法。
【請求項14】
請求項1〜13に記載される配向CNT製造方法により製造された配向CNTであり、前記配向CNTの外径分布をガウス分布で近似したとき、前記ガウス分布の半値全幅が8nm以下であることを特徴とする配向CNT。
【請求項15】
請求項1〜13に記載される配向CNT製造方法により製造された配向CNTであり、前記配向CNTの外径分布は、平均外径の−4.5nm〜+4.5nmの範囲に前記内径分布の50%以上が含まれることを特徴とする配向CNT。
【図1】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図5】
【図9】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図24】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図5】
【図9】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図24】
【公開番号】特開2013−71876(P2013−71876A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213504(P2011−213504)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、平成22年度、独立行政法人科学技術振興機構、地域大阪府結集型共同研究事業、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【出願人】(512109161)地方独立行政法人大阪府立産業技術総合研究所 (13)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、平成22年度、独立行政法人科学技術振興機構、地域大阪府結集型共同研究事業、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【出願人】(512109161)地方独立行政法人大阪府立産業技術総合研究所 (13)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】
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