説明

溝加工装置および溝加工方法

【課題】シリンダの内周面から内側へ突出する部位を形成しないようにシリンダ溝を形成する技術を提供する。
【解決手段】シリンダ2の内周に、内周面から外周面側へ突出するとともに中心線方向に延びるシリンダ溝2aを加工する溝形成装置100であって、シリンダ2の内周に接触しつつ中心線方向に移動して、シリンダ溝2aにおける周方向の両端部を加工する第1の加工ローラ11と、シリンダ溝2aにおける周方向の中央部を加工する第2の加工ローラ21と、を備え、第1の加工ローラ11および第2の加工ローラ21の最外周部はそれぞれ、シリンダ2の周方向の中央側が突出するように形成された山形状であり、第1の加工ローラ11の最外周部における頂部からの傾斜角度は、第2の加工ローラ21の最外周部における頂部からの傾斜角度よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溝加工装置および溝加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、ユーザがドアを開放するときに必要な力を軽減するために、ドアと車体との間にガスシリンダ装置が設けられている。
ガスシリンダ装置は、エア等のガスが封入されたシリンダ内を摺動するピストンを有している。ピストンは、一方の端部がシリンダから突出するロッドの他方の端部に固定され、シリンダ内を2つのガス室に区分する。ピストンには内側にチェック弁が設けられているとともに外周部にはオイルシールなどのシール部材が装着されている。また、シリンダの内周には、内周面から外周面側に突出するシリンダ溝が軸方向に沿って形成されている。
【0003】
このガスシリンダ装置では、圧縮行程において、ピストンにより圧縮される側のガス室内のガスが、ピストンに設けられたチェック弁およびシリンダに形成されたシリンダ溝を通って他方のガス室へ流れるので、減衰力がほとんど発生せず、圧縮行程が迅速に実施される。他方、伸長行程においては、ピストンのチェック弁が閉弁状態になるので、上記他方のガス室内のガスがシリンダに形成されたシリンダ溝を通って上記一方のガス室に流れる。このときの流動抵抗により伸側減衰力が発生し、ロッドの伸長方向への速度がコントロールされる。
【0004】
このガスシリンダ装置のシリンダにシリンダ溝を形成する装置が種々提案されている。例えば、特許文献1に記載のシリンダ溝加工装置は、以下のように構成されている。すなわち、シリンダ内に収容可能とされ、加工ローラが突出状態で回転自在に配設されるとともに、この加工ローラと同軸状態でガイドローラが配設されたスライド部材と、シリンダ内に収容可能とされ、メイン案内面及び第1〜第4サブ案内面が連設されたガイド部材とを有し、サブ案内面がスライド部材のガイドローラを案内して、加工ローラをシリンダの内面に非当接状態とし、メイン案内面が、スライド部材のガイドローラを案内して、加工ローラをシリンダの内面に当接させてこのシリンダを外方へ膨出可能とし、スライド部材のシリンダ及びガイド部材に対する相対移動により加工ローラにてシリンダ溝を成形する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−229123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シリンダの内周面にシリンダ溝を形成することに起因して、シリンダの内周面から内側に突出する部位が形成されると、ガスシリンダ装置に組みつけられた後、ピストン摺動時にピストンの外周部に装着されたシール部材を傷つけてしまうおそれがある。
本発明は、シリンダの内周面から内側へ突出する部位を形成しないようにシリンダ溝を形成する装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的のもと、本発明は、シリンダの内周に、内周面から外周面側へ突出するとともに中心線方向に延びるシリンダ溝を加工する溝加工装置であって、前記シリンダの内周に接触しつつ前記中心線方向に移動して、前記シリンダ溝における周方向の両端部を加工する第1の溝加工部と、当該シリンダ溝における周方向の中央部を加工する第2の溝加工部と、を備え、前記第1の溝加工部および前記第2の溝加工部の最外周部はそれぞれ、前記シリンダの周方向の中央側が突出するように形成された山形状であり、当該第1の溝加工部の最外周部における頂部からの傾斜角度は、当該第2の溝加工部の最外周部における頂部からの傾斜角度よりも大きいことを特徴とする溝加工装置である。
【0008】
ここで、前記第1の溝加工部を有する第1の部材と、当該第1の部材と前記中心線方向に並んで配置されて前記第2の溝加工部を有する第2の部材と、を備え、前記第1の部材が前記シリンダの内周に接触して前記第1の溝加工部にて外周面側へ突出させた後に、前記第2の部材が当該第1の溝加工部にて突出させられた部位に接触し、前記第2の溝加工部にてさらに外周面側へ突出させるとよい。
あるいは、前記第1の溝加工部と前記第2の溝加工部とを有する溝加工部材を備え、前記溝加工部材が前記シリンダの内周に接触することで前記第1の溝加工部および前記第2の溝加工部にて前記シリンダ溝を加工するとよい。
【0009】
他の観点から捉えると、本発明は、シリンダの内周に、内周面から外周面側へ突出するとともに中心線方向に延びるシリンダ溝を加工する溝加工方法であって、前記シリンダの周方向の中央側が突出するように形成された山形状の第1の溝加工部を、当該シリンダの内周に接触させつつ前記中心線方向に移動させ、前記シリンダの周方向の中央側が突出するように形成された山形状であるとともにその頂部からの傾斜角度が前記第1の溝加工部における頂部からの傾斜角度よりも小さい第2の溝加工部を、当該第1の溝加工部にて突出させられた部位の中央部に接触させつつ前記中心線方向に移動させることを特徴とする溝加工方法である。
【0010】
他の観点から捉えると、本発明は、シリンダの内周に、内周面から外周面側へ突出するとともに中心線方向に延びるシリンダ溝を加工する溝加工方法であって、前記シリンダの周方向の中央側が突出するように形成された山形状の2つの溝加工部であって、一方の溝加工部における頂部からの傾斜角度が他方の溝加工部における頂部からの傾斜角度よりも小さい2つの溝加工部を有する溝加工部材を、当該シリンダの内周に接触させつつ前記中心線方向に移動させることを特徴とする溝加工方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シリンダの内周面から内側へ突出する部位を形成しないようにシリンダ溝を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施の形態に係るガスシリンダ装置の概略構成を示す図である。
【図2】第1の実施形態に係る溝形成装置の概略構成を示す図である。
【図3】(a)は、図2のIIIA−IIIA部の断面図であり、(b)は、(a)のIIIB−IIIB部の断面図である。
【図4】図3(b)のIV−IV部の断面図である。
【図5】図3(b)のV−V部の断面図である。
【図6−1】第1の実施形態に係る溝形成装置がシリンダにシリンダ溝を形成する様子を示す図である。
【図6−2】第1の実施形態に係る溝形成装置がシリンダにシリンダ溝を形成する様子を示す図である。
【図7】シリンダに形成されたシリンダ溝の拡大図である。
【図8】第2の実施形態に係る溝形成装置の概略構成を示す図である。
【図9】(a)は、図8のIXA−IXA部の断面図であり、(b)は、(a)のIXB−IXB部の断面図である。
【図10】(a)は、図9(b)のXA−XA部の断面図である。(b)は、(a)のXB部の拡大図である。
【図11】第2の実施形態に係る溝形成装置がシリンダにシリンダ溝を形成する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、実施の形態に係るガスシリンダ装置1の概略構成を示す図である。
ガスシリンダ装置1は、ユーザが車両のドアを開放するときに必要な力を軽減するために、ドアと車体との間に取り付けられる装置である。
ガスシリンダ装置1は、エア等のガスが封入されるシリンダ2と、シリンダ2内を摺動するピストン4と、を備えている。シリンダ2は、薄肉円筒状の部材であり、円筒の中心線方向(以下、単に「中心線方向」と称す場合がある。)の一方の端部が閉塞され、他方の端部が開口している。このシリンダ2には、内周面から外周面側へ突出するとともに中心線方向に延びるシリンダ溝2aが形成されている。
【0014】
また、ガスシリンダ装置1は、中心線方向の一方の端部にピストン4が取り付けられているとともに、他方の端部側がシリンダ2の外部へ突出するロッド5と、シリンダ2における他方の端部に配置されロッド5の中心線方向への移動をガイドするロッドガイド6と、同じくシリンダ2における他方の端部側であってロッドガイド6よりも一方の端部側に配置されたガスシール7と、を備えている。
【0015】
ピストン4には、内側にチェック弁8が設けられているとともに外周部にはO−リングなどのシール部材9が装着されている。そして、ピストン4およびシール部材9などで、シリンダ2内を2つのガス室に区分する。つまり、シリンダ2内は、ピストン4、シール部材9およびシリンダ2における中心線方向の一方の端部で囲まれた一方のガス室3Aと、ピストン4、シール部材9、シリンダ2およびガスシール7で囲まれた他方のガス室3Bとに区分けされている。
【0016】
このガスシリンダ装置1では、圧縮行程において、一方のガス室3A内のガスが、ピストン4に設けられたチェック弁8およびシリンダ2に形成されたシリンダ溝2aを通って他方のガス室3Bへ流れるので、減衰力がほとんど発生せず、圧縮行程が迅速に行われる。他方、伸長行程においては、ピストン4のチェック弁8が閉弁状態になるので、図1に矢印で示すように、他方のガス室3B内のガスがシリンダ2に形成されたシリンダ溝2aを通って一方のガス室3Aに流れる。このときの流動抵抗により伸側減衰力が発生し、ロッド5の伸長方向への速度がコントロールされる。
【0017】
次に、シリンダ2にシリンダ溝2aを形成する溝形成装置100について説明する。
<第1の実施形態>
図2は、第1の実施形態に係る溝形成装置100の概略構成を示す図である。
溝形成装置100は、シリンダ2内に収容可能であるとともに中心線方向に移動可能な棒状のスライド部40と、シリンダ2内に収容可能でありスライド部40の中心線方向への移動をガイドする棒状のガイド部50と、シリンダ2を支持する支持部材60と、スライド部40を中心線方向に移動させるスライド移動装置70とを備えている。
【0018】
図3(a)は、図2のIIIA−IIIA部の断面図である。図3(b)は、図3(a)のIIIB−IIIB部の断面図である。
スライド部40は、シリンダ2のシリンダ溝2aにおける周方向の両端部を形成する第1の加工部10と、シリンダ溝2aにおける周方向の中央部を形成する第2の加工部20と、先端部側にこれら第1の加工部10と第2の加工部20とを支持する支持部31が設けられた棒状の支持部材30と、を備えている。第1の加工部10と第2の加工部20とは、中心線方向に並んで配置されている。
【0019】
図4は、図3(b)のIV−IV部の断面図である。
第1の加工部10は、シリンダ2の内周面に接触することで、シリンダ2における周方向の一部を、シリンダ2の内周面側から外周面側へ突出するように変形させる第1の部材の一例としての円盤状の第1の加工ローラ11と、第1の加工ローラ11の両端面それぞれに配置された円筒状の一対の第1のガイドローラ12と、を備えている。第1の加工ローラ11と一対の第1のガイドローラ12とは、同軸的に配置され、支持部材30の支持部31に支持された第1の軸13を回転軸として回転する。
【0020】
図5は、図3(b)のV−V部の断面図である。
第2の加工部20は、シリンダ2の内周面に接触することで、シリンダ2における周方向の一部を、シリンダ2の内周面側から外周面側へ突出するように変形させる第2の部材の一例としての円盤状の第2の加工ローラ21と、第2の加工ローラ21の両端面それぞれに配置された円筒状の一対の第2のガイドローラ22と、を備えている。第2の加工ローラ21と一対の第2のガイドローラ22とは、同軸的に配置され、支持部材30の支持部31に支持された第2の軸23を回転軸として回転する。
【0021】
そして、第1の加工ローラ11における最外周部11aは鈍角の山形状であり、第2の加工ローラ21における最外周部21aは鋭角の山形状である。言い換えれば、第1の加工ローラ11の最外周部11aの角度α1は、第2の加工ローラ21の最外周部21aの角度α2よりも大きい。つまり、第1の加工ローラ11における最外周部11aの頂部からの傾斜角度は、第2の加工ローラ21の最外周部21aの頂部からの傾斜角度よりも大きい。また、第1の加工ローラ11における最外周部11aの幅t1は、第2の加工ローラ21における最外周部21aの幅t2よりも大きく、最外周部11aの幅方向の中心と最外周部21aの幅方向の中心とが同一となるように取り付けられている。
【0022】
支持部材30は、一方の端部(先端部)側にこれら第1の加工部10と第2の加工部20とを支持する支持部31が設けられ、支持部31よりも他方の端部側にはロッド32が設けられている。支持部31は、上方から見た場合にコの字状に形成されており(図3(a)参照)、その内側に第1の加工部10および第2の加工部20を収める。そして、支持部31には、第1の軸13の両端部それぞれを支持する支持孔31aと、第2の軸23の両端部それぞれを支持する支持孔31bとが形成されている。支持孔31aおよび支持孔31bそれぞれは、第1の軸13および第2の軸23を、中心線方向および第1の軸13の軸心に直交する方向に移動可能なように長孔に形成されている。
【0023】
ガイド部50は、一部の外面(図2において下側の面)がシリンダ2の内周面に沿う円周面に形成されている。また、このガイド部50には、スライド部40の第1の加工部10および第2の加工部20を収納可能とする加工部収納部51が、中心線方向の全域に渡って設けられている。加工部収納部51は、図4、図5に示すように、第1の加工部10の一対の第1のガイドローラ12および第2の加工部20の一対の第2のガイドローラ22それぞれを転動可能に支持する2つの支持面511を有し、2つの支持面511の間には第1のガイドローラ12および第2のガイドローラ22を収める凹部512が設けられている。
【0024】
支持面511は、図3(b)で見た場合に、シリンダ2の一方の端部側から他方の端部側に向けて順に、シリンダ2の一方の端部側から他方の端部側にかけて上る上り傾斜面511aと、水平な面であるメイン水平面511bと、一方の端部側から他方の端部側にかけて下る下り傾斜面511cと、水平な面であるサブ水平面511dと、から構成されている。
【0025】
上り傾斜面511aは、第1の加工部10の一対の第1のガイドローラ12を転動状態で図2の矢印A方向に案内し、このとき、第1の加工部10の第1の加工ローラ11におけるガイド部50と反対側の最外周部11aを、シリンダ2の内周面に接触しない状態(以下、「非接触状態」と称す。)から徐々に接触する状態(以下、「接触状態」と称す。)とする。同様に、上り傾斜面511aは、第2の加工部20の一対の第2のガイドローラ22を転動状態で図2の矢印A方向に案内し、このとき、第2の加工部20の第2の加工ローラ21におけるガイド部50と反対側の最外周部21aを、シリンダ2の内周面に非接触状態から徐々に接触状態とする。
【0026】
メイン水平面511bは、第1の加工部10の一対の第1のガイドローラ12を転動状態で図2の矢印A方向に案内し、このとき、第1の加工部10の第1の加工ローラ11におけるガイド部50と反対側の最外周部11aを、シリンダ2の内周面に接触状態とする。同様に、メイン水平面511bは、第2の加工部20の一対の第2のガイドローラ22を転動状態で図2の矢印A方向に案内し、このとき、第2の加工部20の第2の加工ローラ21におけるガイド部50と反対側の最外周部21aを、シリンダ2の内周に接触状態とする。
【0027】
下り傾斜面511cは、第1の加工部10の一対の第1のガイドローラ12を転動状態で図2の矢印A方向に案内し、このとき、第1の加工部10の第1の加工ローラ11におけるガイド部50と反対側の最外周部11aを、シリンダ2の内周面に接触状態から徐々に非接触状態とする。同様に、下り傾斜面511cは、第2の加工部20の一対の第2のガイドローラ22を転動状態で図2の矢印A方向に案内し、このとき、第2の加工部20の第2の加工ローラ21におけるガイド部50と反対側の最外周部21aを、シリンダ2の内周面に接触状態から徐々に非接触状態とする。
【0028】
サブ水平面511dは、第1の加工部10の一対の第1のガイドローラ12を転動状態で図2の矢印A方向に案内し、このとき、第1の加工部10の第1の加工ローラ11におけるガイド部50と反対側の最外周部11aを、シリンダ2の内周面に非接触状態とする。同様に、サブ水平面511dは、第2の加工部20の一対の第2のガイドローラ22を転動状態で図2の矢印A方向に案内し、このとき、第2の加工部20の第2の加工ローラ21におけるガイド部50と反対側の最外周部21aを、シリンダ2の内周面に非接触状態とする。
【0029】
支持部材60は、シリンダ溝2aを形成しているときにシリンダ2の移動を抑制するシリンダ抑制部61と、ガイド部50の移動を抑制するガイド部抑制部62と、を有している。
スライド移動装置70は、支持部材30のロッド32の基端部に連結される周知の流体圧シリンダ装置により構成される。
【0030】
次に、以上のように構成された第1の実施形態に係る溝形成装置100の作用について説明する。
図6は、第1の実施形態に係る溝形成装置100(図2参照)がシリンダ2にシリンダ溝2aを形成する様子を示す図である。
スライド部40の支持部材30に、第1の加工部10および第2の加工部20を装着し、第1の加工部10の一対の第1のガイドローラ12を上り傾斜面511aに接触させるように第1の加工部10をガイド部50の加工部収納部51(図3、図4参照)に収納した状態で、これらスライド部40およびガイド部50を、シリンダ溝2aを未だ加工していないシリンダ2内へ挿入する(図6−1(a)参照)。このとき、第1の加工部10の第1の加工ローラ11におけるガイド部50と反対側の最外周部11aおよび第2の加工部20の第2の加工ローラ21におけるガイド部50と反対側の最外周部21aは、シリンダ2の内周面に非接触状態となる。
【0031】
次に、スライド移動装置70にて、スライド部40を、ガイド部50およびシリンダ2に対し、中心線方向に図2の矢印Aの向きに相対移動させる。これにより、第1の加工部10の一対の第1のガイドローラ12は上り傾斜面511aに沿って転動し、第1の加工ローラ11におけるガイド部50と反対側の最外周部11aが、シリンダ2の内周面に非接触状態から徐々に接触状態となる。
【0032】
さらに、スライド移動装置70にて、スライド部40を、ガイド部50およびシリンダ2に対し、中心線方向に図2の矢印Aの向きに、第1の加工部10の一対の第1のガイドローラ12をメイン水平面511bに沿って相対的に転動させる。これにより、第1の加工ローラ11におけるガイド部50と反対側の最外周部11aが、シリンダ2の周方向の一部に接触した状態で中心線方向に移動し、シリンダ2の内周面の周方向における一部が中心線方向に沿って内周面側から外周面側へ突出するように変形させる(図6−1(b)、図6−1(c)参照)。
【0033】
スライド移動装置70がスライド部40を中心線方向に移動させるのに伴い、第2の加工部20の一対の第2のガイドローラ22が上り傾斜面511aに接触し、上り傾斜面511aに沿って転動する(図6−1(b)参照)。これにより、第2の加工ローラ21におけるガイド部50と反対側の最外周部21aが、シリンダ2の内周における、第1の加工ローラ11が変形させた後の部位の一部に、非接触状態から徐々に接触状態となる。そして、スライド移動装置70がスライド部40をさらに中心線方向に移動させるのに伴い、第2の加工部20の一対の第2のガイドローラ22がメイン水平面511bに沿って相対的に転動移動する。これにより、第2の加工ローラ21におけるガイド部50と反対側の最外周部21aが、第1の加工ローラ11が変形させた後の部位の一部を、中心線方向に沿ってさらに内周面側から外周面側へ突出するように変形させる(図6−1(c)参照)。
【0034】
第1のガイドローラ12および第2のガイドローラ22がともにメイン水平面511bに沿って相対的に移動している状態からさらにスライド移動装置70がスライド部40を中心線方向に移動させると、第1のガイドローラ12は、下り傾斜面511cに沿って転動する。これにより、第1の加工ローラ11におけるガイド部50と反対側の最外周部11aは、シリンダ2の内周面に接触状態から徐々に非接触状態となる(図6−2(d)参照)。
【0035】
さらに、スライド移動装置70がスライド部40を中心線方向に移動させ、第1のガイドローラ12を、サブ水平面511dに沿って転動させる(図6−2(e)参照)。それに伴い、第2のガイドローラ22が下り傾斜面511cに沿って転動する(図6−2(e)参照)。これにより、第2の加工ローラ21におけるガイド部50と反対側の最外周部21aが、シリンダ2の内周における第1の加工ローラ11が変形させた後の部位に対して、接触状態から徐々に非接触状態となる。
【0036】
最後に、スライド移動装置70は、第1のガイドローラ12および第2のガイドローラ22がともにサブ水平面511dに沿って転動させ、第1の加工部10および第2の加工部20をシリンダ2から引き出し、シリンダ溝2aの加工作業を終了する(図6−2(f)参照)。
これにより、シリンダ2に、シリンダ溝2aが形成される。
【0037】
図7は、シリンダ2に形成されたシリンダ溝2aの拡大図である。
上述したように、第1の加工ローラ11における最外周部11aは鈍角の山形状であり、第2の加工ローラ21における最外周部21aは鋭角の山形状である。また、第1の加工ローラ11における最外周部11aの幅t1は、第2の加工ローラ21における最外周部21aの幅t2よりも大きく、最外周部11aの幅方向の中心と最外周部21aの幅方向の中心とが同一となるように取り付けられている。そのため、第1の加工ローラ11が、シリンダ溝2aにおける周方向の両端部を形成し、第2の加工ローラ21が、シリンダ溝2aにおける周方向の中央部を形成する。それゆえ、幅が小さく鋭角の第2の加工ローラ21における最外周部21aにて、シリンダ2の内周を内周面側から外周面側へ突出するように変形させるのに起因してシリンダ2の中心側へ突出する部位が形成されたとしても、シリンダ2の内周面から中心側へ突出し難くなる。
【0038】
また、シリンダ2の内周は、先ず、第1の加工ローラ11にて変形させられた後に、第2の加工ローラ21にて、第1の加工ローラ11が変形した後の部位における中央部を、さらに内周面側から外周面側へ突出するように変形させる。この第1の加工ローラ11の最外周部11aの幅方向の中心と、第2の加工ローラ21の最外周部21aの幅方向の中心とが同一となるように取り付けられている。それゆえ、第2の加工ローラ21は、第1の加工ローラ11が変形した後の部位における中央部を変形させ易く、第2の加工ローラ21にて形成される部位が中心線方向に沿ってより精度高く同じ形状となり易くなる。
【0039】
したがって、第1の実施形態に係る溝形成装置100によりシリンダ溝2aが形成されたシリンダ2を用いたガスシリンダ装置1によれば、ピストン4が中心線方向に摺動したとしても、ピストン4の外周部に装着されたシール部材9が傷つけられてしまうことが抑制される。
【0040】
なお、上述した実施形態においては、第1の加工ローラ11における最外周部11aおよび第2の加工ローラ21の最外周部21aの形状として、それぞれ頂部から傾斜する面を有する形状を例示しているが、特にかかる形状に限定されない。例えば、第1の加工ローラ11における最外周部11aまたは第2の加工ローラ21の最外周部21aは、頂部と裾部とが曲面で接続されていてもよい。かかる場合には、第1の加工ローラ11の最外周部11aにおける頂部と裾部とを結ぶ面同士のなす角(α1)が、第2の加工ローラ21の最外周部21aにおける頂部と裾部とを結ぶ面同士のなす角(α2)よりも大きいとよい。
【0041】
<第2の実施形態>
第2の実施形態に係る溝形成装置100は、第1の実施形態に係る溝形成装置100に対してスライド部40が異なる。以下では、第1の実施形態に係る溝形成装置100と異なる点についてのみ説明する。
図8は、第2の実施形態に係る溝形成装置100の概略構成を示す図である。
図9(a)は、図8のIXA−IXA部の断面図である。図9(b)は、図9(a)のIXB−IXB部の断面図である。
【0042】
第2の実施形態に係るスライド部40は、シリンダ2のシリンダ溝2aを形成する加工部110と、先端部側に加工部110を支持する支持部131が設けられた棒状の支持部材130と、を備えている。支持部材130は、支持部131の形状が異なるのみであり、他は第1の実施形態に係る支持部材30と同じである。
【0043】
図10(a)は、図9(b)のXA−XA部の断面図である。図10(b)は、図10(a)のXB部の拡大図である。
加工部110は、シリンダ2の内周面に接触することで、シリンダ2における周方向の一部を、シリンダ2の内周面側から外周面側へ突出するように変形させる溝加工部材の一例としての円盤状の加工ローラ111と、加工ローラ111の両端面それぞれに配置された円筒状の一対のガイドローラ112と、を備えている。加工ローラ111と一対のガイドローラ112とは、同軸的に配置され、支持部材130の支持部131に固定された軸113を回転軸として回転する。
【0044】
そして、加工ローラ111における最外周部111aは、シリンダ溝2aにおける周方向の両端部を加工する第1の溝加工部121と、シリンダ溝2aにおける周方向の中央部を形成する第2の溝加工部122と、を有する。第1の溝加工部121は、両端部それぞれに、第2の溝加工部122の方へ行くに従って外周側に向かうように形成された傾斜面を有しており、それら傾斜面が相互になす角は鈍角である。第2の溝加工部122は鋭角の山形状である。言い換えれば、第1の溝加工部121の両傾斜面がなす角の角度β1は、第2の溝加工部122の角度β2よりも大きい。
【0045】
支持部材130は、一方の端部(先端部)側に加工部110を支持する支持部131が設けられ、支持部131よりも他方の端部側にロッド32が設けられている。支持部131は、上方から見た場合にコの字状に形成されており(図9(a)参照)、その内側に加工部110を収める。そして、支持部131には、軸113の両端部それぞれを支持する支持孔131aが形成されている。支持孔131aは、軸113を、中心線方向および軸113の軸心に直交する方向に移動可能なように長孔に形成されている。
【0046】
次に、以上のように構成された第2の実施形態に係る溝形成装置100の作用について説明する。
図11は、第2の実施形態に係る溝形成装置100がシリンダ2にシリンダ溝2aを形成する様子を示す図である。
スライド部40の支持部材130に、加工部110を装着し、加工部110の一対のガイドローラ112を上り傾斜面511aに接触させるように加工部110をガイド部50の加工部収納部51(図10参照)に収納した状態で、これらスライド部40およびガイド部50を、シリンダ溝2aを未だ加工していないシリンダ2内へ挿入する(図11(a)参照)。このとき、加工部110の加工ローラ111におけるガイド部50と反対側の最外周部111aは、シリンダ2の内周面に非接触状態となる。
【0047】
次に、スライド移動装置70にて、スライド部40を、ガイド部50およびシリンダ2に対し、中心線方向に図8の矢印Aの向きに相対移動させる。これにより、加工部110の一対のガイドローラ112は上り傾斜面511aに沿って転動し、加工ローラ111におけるガイド部50と反対側の最外周部111aが、シリンダ2の内周面に非接触状態から徐々に接触状態となる。
【0048】
さらに、スライド移動装置70にて、スライド部40を、ガイド部50およびシリンダ2に対し、中心線方向に図8の矢印Aの向きに、加工部110の一対のガイドローラ112をメイン水平面511bに沿って相対的に転動させる。これにより、加工ローラ111におけるガイド部50と反対側の最外周部111aが、シリンダ2の周方向の一部に接触した状態で中心線方向に移動し、シリンダ2の内周面の周方向における一部を中心線方向に沿って内周面側から外周面側へ突出するように変形させる(図11(b)参照)。
【0049】
ガイドローラ112がメイン水平面511bに沿って相対的に移動している状態からさらにスライド移動装置70がスライド部40を中心線方向に移動させると、ガイドローラ112は、下り傾斜面511cに沿って転動する(図11(c)参照)。これにより、加工ローラ111におけるガイド部50と反対側の最外周部111aは、シリンダ2の内周面に接触状態から徐々に非接触状態となる。
最後に、スライド移動装置70は、ガイドローラ112をサブ水平面511dに沿って転動させ(図11(d)参照)、加工部110をシリンダ2から引き出し、シリンダ溝2aの加工作業を終了する。
【0050】
これにより、シリンダ2に、図7に示したのと同様な形状のシリンダ溝2aが形成される。すなわち、加工ローラ111における、両端部に設けられた傾斜面が相互になす角が鈍角である第1の溝加工部121にて、シリンダ溝2aにおける周方向の両端部が形成され、鋭角の山形状である第2の溝加工部122にて、シリンダ溝2aにおける周方向の中央部が形成される。それゆえ、幅が小さく鋭角の第2の溝加工部122にて、シリンダ2の内周を内周面側から外周面側へ突出するように変形させるのに起因してシリンダ2の中心側へ突出する部位が形成されたとしても、シリンダ2の内周面から中心側へ突出し難くなる。
また、第1の溝加工部121と第2の溝加工部122とは、1つの部材である加工ローラ111に設けられているので、シリンダ溝2aは、中心線方向の全域に渡って同じ形状となり易いとともに、周方向には対称形状となり易くなる。
【0051】
したがって、第2の実施形態に係る溝形成装置100によりシリンダ溝2aが形成されたシリンダ2を用いたガスシリンダ装置1によれば、ピストン4が中心線方向に摺動したとしても、ピストン4の外周部に装着されたシール部材9が傷つけられてしまうことが抑制される。
【符号の説明】
【0052】
1…ガスシリンダ装置、2…シリンダ、2a…シリンダ溝、4…ピストン、9…シール部材、10…第1の加工部、20…第2の加工部、30…支持部材、40…スライド部、50…ガイド部、70…スライド移動装置、100…溝形成装置、110…加工部、130…支持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダの内周に、内周面から外周面側へ突出するとともに中心線方向に延びるシリンダ溝を加工する溝加工装置であって、
前記シリンダの内周に接触しつつ前記中心線方向に移動して、前記シリンダ溝における周方向の両端部を加工する第1の溝加工部と、当該シリンダ溝における周方向の中央部を加工する第2の溝加工部と、を備え、
前記第1の溝加工部および前記第2の溝加工部の最外周部はそれぞれ、前記シリンダの周方向の中央側が突出するように形成された山形状であり、当該第1の溝加工部の最外周部における頂部からの傾斜角度は、当該第2の溝加工部の最外周部における頂部からの傾斜角度よりも大きいことを特徴とする溝加工装置。
【請求項2】
前記第1の溝加工部を有する第1の部材と、当該第1の部材と前記中心線方向に並んで配置されて前記第2の溝加工部を有する第2の部材と、を備え、
前記第1の部材が前記シリンダの内周に接触して前記第1の溝加工部にて外周面側へ突出させた後に、前記第2の部材が当該第1の溝加工部にて突出させられた部位に接触し、前記第2の溝加工部にてさらに外周面側へ突出させることを特徴とする請求項1に記載の溝加工装置。
【請求項3】
前記第1の溝加工部と前記第2の溝加工部とを有する溝加工部材を備え、
前記溝加工部材が前記シリンダの内周に接触することで前記第1の溝加工部および前記第2の溝加工部にて前記シリンダ溝を加工することを特徴とする請求項1に記載の溝加工装置。
【請求項4】
シリンダの内周に、内周面から外周面側へ突出するとともに中心線方向に延びるシリンダ溝を加工する溝加工方法であって、
前記シリンダの周方向の中央側が突出するように形成された山形状の第1の溝加工部を、当該シリンダの内周に接触させつつ前記中心線方向に移動させ、
前記シリンダの周方向の中央側が突出するように形成された山形状であるとともにその頂部からの傾斜角度が前記第1の溝加工部における頂部からの傾斜角度よりも小さい第2の溝加工部を、当該第1の溝加工部にて突出させられた部位の中央部に接触させつつ前記中心線方向に移動させ
ることを特徴とする溝加工方法。
【請求項5】
シリンダの内周に、内周面から外周面側へ突出するとともに中心線方向に延びるシリンダ溝を加工する溝加工方法であって、
前記シリンダの周方向の中央側が突出するように形成された山形状の2つの溝加工部であって、一方の溝加工部における頂部からの傾斜角度が他方の溝加工部における頂部からの傾斜角度よりも小さい2つの溝加工部を有する溝加工部材を、当該シリンダの内周に接触させつつ前記中心線方向に移動させ
ることを特徴とする溝加工方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6−1】
image rotate

【図6−2】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate