説明

溶融金属出湯口用閉塞材

【課題】本発明の目的は、有害物質の少ないバインダーを使用することで作業環境を改善することができ、且つ従来のバインダーを使用した閉塞材よりも優れた耐用性を有する溶融金属出湯口用閉塞材を提供することにある。
【解決手段】本発明の溶融金属出湯口用閉塞材は、ロー石、アルミナ、炭化珪素、窒化珪素、コークス及び粘土質原料からなる群から選択される2種または3種以上の耐火性原料100質量部に対して、ベンゾ[a]ピレン含有量が0.05質量%以下で、且つフリーフェノール含有量が0.5質量%以下である成分調整コールタールをバインダーとして外掛で10〜20質量%配合してなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属出湯口用閉塞材に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融金属出湯口用閉塞材の特に重要な特性として、出銑孔用の閉塞材を例にすると(1)マッドガンによる高炉出銑口への充填を容易に行うことができる押出性を有し、かつ出銑口開孔時の被掘削性が良好なこと;(2)充填後の閉塞材が短時間で硬化し、出銑時の溶銑及びスラグの摩耗損傷に耐え得ること;(3)使用時の溶銑及びスラグによる化学的侵食に耐え、出銑口径の拡大が小さく、安定した出銑が長時間維持できる耐食性を有すること、が挙げられる。
【0003】
これらの特性を満たすものとしてバインダーにコールタールを用いた閉塞材が挙げられる。例えば特許文献1には、粒度調整したZrOとC粉末とを、それぞれ15〜90重量部(質量部)と10〜35重量部(質量部)との割合で含有せしめ、更に金属粉末を添加してなる高炉出銑口充填材(請求項1)が開示されており、更に、特許文献1の[0020]段落においては、タールの配合量が外掛で20〜20.5重量部(質量部)の比較例及び実施例が例示されている。
【0004】
また、特許文献2には、ロー石、カイアナイト、アルミナ、コークス、炭化珪素、窒化珪素鉄及び粘土を主原料とした配合物に結合剤としてタールを用いた高炉出銑口マッドにおいて、前記ロー石の一部又は全部を粒径45μm以下の微細粒とし、その配合量を5〜15重量%(質量%)としたことを特徴とする高炉出銑口のマッド(請求項1);及びロー石、カイアナイト、アルミナ、コークス、炭化珪素、窒化珪素鉄及び粘土を主原料とした配合物に結合剤としてタールを用いた高炉出銑口マッドにおいて、カイアナイトが5〜15重量%(質量%)、粘土が5重量%(質量%)以下、前記ロー石が粒径45μm以下の微細粒5〜15重量%(質量%)と粒径45μm超の粗粒3〜10重量%(質量%)としたことを特徴とする高炉出銑口のマッド(請求項2)が開示されている。また、特許文献2の[0004]段落には、タールを外掛で17〜22重量%(質量%)添加することが好ましい旨の記載もある。
【0005】
しかし、結合剤として使用されているコールタール(タール)は、有害物質と言われているベンゾ[a]ピレンが約1%程度含まれており、作業環境に問題を生ずることがある。海外では、その使用が禁止されている国も存在している。コールタールに替わるバインダーとしてはフェノール樹脂のようなレジンバインダーあるいは石油系タール等が考えられるが、コールタールを使用した閉塞材と比較すると明らかに耐用が劣っており、更に、価格面でも数倍のコストアップとなっている。
【0006】
例えば、特許文献3には、慣用のマッド材用耐火物骨材に、焼結材として機能性微粒子状フェノール樹脂を1〜8重量%(質量%)及びAl−Si系合金粉末を1〜12重量%(質量%)または金属Al粉末及び金属Si粉末を合計量で1〜12重量%(質量%)、及び焼結用バインダーとしてノボラック型フェノール樹脂8〜20重量%(質量%)添加、配合することを特徴とするマッド材が開示されている。
【0007】
また、特許文献4には、アルミナ、ボーキサイト、スピネル、ロー石、シャモット、炭化珪素、黒鉛、粘土等の耐火性組成物100重量部(質量部)に対し、結合材としてアントラセンオイル5〜15重量部(質量部)とホウ酸1〜7重量部(質量部)を添加混練したことを特徴とする出銑孔充填材が開示されている。
【0008】
更に、特許文献5には、アルミナ、ロウ石、シャモット、炭化珪素等の耐火物骨材と、コークス、黒鉛等の炭素質原料と、カオリン、ベントナイト等の耐火粘土と、バインダーとを配合した出銑口用マッド材において、このバインダーが、石炭粒子とコールタール中の沸点100℃〜450℃の成分との混合物であることを特徴とする出銑口用マッド材(請求項1);コールタール中の沸点100℃〜450℃の成分がナフタリン吸収油、タール吸収油、アントラセン油、脱晶アントラセン油、ベンゼン、トルエン、キシレン、フェノール類のうちの1種以上である請求項1記載の出銑口用マッド材(請求項2)を開示している。
【0009】
【特許文献1】特開平5−170560号公報 特許請求の範囲 [0020]
【特許文献2】特開平7−82046号公報 特許請求の範囲 [0009]
【特許文献3】特開平6−298572号公報 特許請求の範囲
【特許文献4】特開平7−118717号公報 特許請求の範囲
【特許文献5】特開平11−1373号公報 特許請求の範囲
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載されたマッド材(閉塞材)は、発煙、悪臭の軽減、早期強度の発現と焼成時間の短縮が図られ、出銑口の充填作業の環境改善と作業時間の短縮等の改善がなされたものであるが、ノボラック型フェノール樹脂を使用した閉塞材は、コールタールを用いた閉塞材に比べて、発煙、悪臭の軽減等の作業環境の改善には効果的であるものの、出銑時間が劣るという問題点がある。また、価格面では、コールタールの3〜5倍程度のものが一般的であり、コールタールと同等の価格のものは開発されていないのが現状である。
【0011】
また、特許文献4に記載された出銑孔充填材(閉塞材)は、有害物質と言われているベンゾ[a]ピレン含有量の少ないアントラセンオイルをバインダーとして使用した閉塞材であるが、アントラセンオイルは粘性が低いために、閉塞材に求められる特性としての粘りが不足し、マッドガンによる安定した閉塞が困難になるという問題点がある。
【0012】
更に、特許文献5に記載された出銑口用マッド材(閉塞材)は、バインダーとして石炭粒子とコールタール中の沸点100℃〜450℃の成分との混合物を使用するものであり、この閉塞材は、早強性及び耐食性(高温強度)に優れ、しかも焼き付きを起こすことなく、安価で熱的安定性の良好な閉塞材を提供できるものであるが、有害物質成分や環境問題については考慮されていない。
【0013】
従って、本発明の目的は、有害物質の少ないバインダーを使用することで作業環境を改善することができ、且つ従来のバインダーを使用した閉塞材よりも優れた耐用性を有する溶融金属出湯口用閉塞材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
即ち、本発明の溶融金属出湯口用閉塞材は、ロー石、アルミナ、炭化珪素、窒化珪素、コークス及び粘土質原料からなる群から選択される2種または3種以上の耐火性原料100質量部に対して、ベンゾ[a]ピレン含有量が0.05質量%以下で、且つフリーフェノール含有量が0.5質量%以下である成分調整コールタールをバインダーとして外掛で10〜20質量%配合してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の溶融金属出湯口用閉塞材によれば、バインダーとしてベンゾ[a]ピレン含有量が0.05質量%以下で、且つフリーフェノール含有量が0.5質量%以下である成分調整コールタールを使用することにより、従来のコールタールをバインダーとする閉塞材よりも優れた耐用性を提供できると共に、コールタールに起因する環境問題を解決することができるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
溶融金属出湯口用閉塞材は、一般にコールタールをバインダーとして耐火骨材に外掛で20重量%程度添加、配合されているが、通常のコールタールには、有害物質と言われているベンゾ[a]ピレンが約1質量%程度含まれており、作業環境に影響を及ぼす恐れがあることは前述の通りである。また、コールタール代替のバインダーでは、充分な耐用性を得ることはできない。そこで、コールタールを起源としてベンゾ[a]ピレンの含有量を削減したバインダーを使用し、その他の特性を保持させることが有効であると考えられる。
【0017】
そこで、本発明の溶融金属出湯口用閉塞材では、ベンゾ[a]ピレン含有量が0.05質量%以下と通常のコールタールの5/100以下であり、且つフリーフェノール含有量が0.5質量%以下である成分調整コールタールをバインダーとして使用するものである。なお、ベンゾ[a]ピレンは上述の通り有害物質と言われている成分であり、その含有量は少なければ少ない程好ましい。
【0018】
なお、レジンバインダーとして使用されるノボラック型フェノール樹脂には、通常約1質量%程度のフリーフェノールが含まれているが、このフリーフェノールも有害物質と言われている成分であり、その含有量は少ない程好ましく、本発明に使用する成分調整コールタールでは、フリーフェノールの含有量は0.5質量%以下であることが好ましい。
【0019】
上述のようなベンゾ[a]ピレン含有量が0.05質量%以下で、且つフリーフェノール含有量が0.5質量%以下の成分調整コールタールとしては、例えばRUTGERS社製CARBORES T60、CARBORES T170等を使用することができる。成分調整コールタールの添加量は、後述の耐火性原料100質量部に対して外掛で10〜20質量%、好ましくは10〜15質量%の範囲内である。成分調整コールタールの添加量が10質量%未満であると、バインダーとしての結合性及び充填時のスベリ性を維持することが困難となるために好ましくない。また、成分調整コールタールの添加量が20質量%を超えると、揮発成分が増大し、加熱後の気孔率が高く、耐用性の低下を招くために好ましくない。なお、成分調整コールタールといえどもベンゾ[a]ピレンやフリーフェノールを全く含まないものではなく、例えばベンゾ[a]ピレンを0.05質量%以下程度、フリーフェノールを0.5質量%以下程度の量で含有するために、ベンゾ[a]ピレン並びにフリーフェノールの量を極力抑えるためにも、成分調整コールタールの添加量は、上記範囲内で必要最低限とすることが好ましい。
【0020】
本発明の溶融金属出湯口用閉塞材に使用される耐火性原料は、特に限定されるものではなく、慣用、公知の材質を使用することができ、例えばロー石、アルミナ、炭化珪素、窒化珪素、コークス、粘土質原料等を例示することができる。これらの耐火性原料は、2種または3種以上を併用することができる。
【実施例】
【0021】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明の溶融金属出湯口用閉塞材を更に説明する。
表1に示す配合割合で耐火性原料の配合物を作成し、得られた配合物を約5分間混練し、60℃に保温したバインダーを添加して約1時間混練した。バインダーの添加量は、押し出し抵抗測定(マーシャル試験)による総荷重が約350kgfとなるように調整した。
この押し出し抵抗圧力は、図1に示す形状のステンレン製試料ホルダー(L1=9cm、L2=6cm、L3=26cm、L4=12cm、L5=2cm)に、60℃で保温した練り土を充填し、図2に示す試料押し出し用面板(A)、試料ホルダー(B)、台座(C)及びシリンダーヘッド(D)から構成される測定装置を用いて、シリンダーヘッド(D)の押し出し速度を10mm/秒とした時の押し出し抵抗を試料押し出し用面板(A)に掛かる総荷重として測定したものである。
また、保形性は、JIS K2524に規定されている針入度試験機を使用し、図3に記載する形状及び寸法を有する針が5秒間に侵入する長さを測定したものである。保形性は稠度測定により70(1/10mm)以下となるように調整した。
そして、約5MPaの成形圧で40×40×160mmに成形し、1350℃で3時間にわたり還元加熱後の供試体について曲げ強さ及び見掛気孔率の測定を行った。
【0022】
【表1】

【0023】
表1において、成分調整コールタールは、ベンゾ[a]ピレン含有量0.03質量%及びフリーフェノール含有量0.1質量%品である。また、無水コールタールは、ベンゾ[a]ピレン含有量1質量%及びフリーフェノール含有量0.1質量%品である。更に、ノボラック型フェノール樹脂は、フリーフェノール含有量6質量%品である。
【0024】
また、表1において、曲げ強さは、成形圧5MPaで40×40×160mmに成形し、800℃で3時間または1500℃で3時間還元焼成することによって得た供試体について測定した値である。
更に、耐食性試験は、回転アーク炉侵食試験法により、銑鉄と高炉スラグを侵食剤として使用し、還元雰囲気、1550℃で10時間にわたり試験を行った後、供試体を切断し、侵食寸法を測定し、比較品1の侵食寸法を100とした時の侵食寸法を指数化して溶損指数としたものである。溶損指数は小さい程、耐食性が良いことを示す。
【0025】
バインダーの添加量は、本発明品と比較品1ではほぼ同じ量を必要とした。また、本発明品は比較品1と比較して曲げ強さで800℃加熱後で同等、1500℃加熱後では高い結果を得た。また、見掛気孔率は、本発明品では比較品1よりも低い値を示した。更に、耐食性試験における溶損指数も本発明品は比較品1より小さい値を示しており、成分調整コールタールは、無水コールタールと比較して耐用性に優れていることが判る。
比較品2、比較品3は、本発明品及び比較品1に比べ曲げ強さが極めて低く、見掛気孔率も高い値を示した。このことにより、石油系タールあるいはノボラック型フェノール樹脂のようなバインダーは、ベンゾ[a]ピレンのような有害物質と言われている成分は含まれないものの成分調整コールタールや無水コールタールと同等の耐用性を得ることはできなかった。
上記結果から、成分調整コールタールは、無水コールタールのような従来使用されているバインダーよりも有効であることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の溶融金属出湯口用閉塞材は、出銑口等の閉塞材として好適に使用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例において、押し出し抵抗圧力を測定するために使用したステンレス製試料ホルダーの形状を説明するための図である。
【図2】押し出し抵抗圧力を測定するために使用した測定装置の概略図である。
【図3】針入度試験機で使用される針の形状並びに寸法を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
A 試料押し出し用面板
B 試料ホルダー
C 台座
D シリンダーヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロー石、アルミナ、炭化珪素、窒化珪素、コークス及び粘土質原料からなる群から選択される2種または3種以上の耐火性原料100質量部に対して、ベンゾ[a]ピレン含有量が0.05質量%以下で、且つフリーフェノール含有量が0.5質量%以下である成分調整コールタールをバインダーとして外掛で10〜20質量%配合してなることを特徴とする溶融金属出湯口用閉塞材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−151718(P2006−151718A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−342640(P2004−342640)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(000001971)品川白煉瓦株式会社 (112)
【Fターム(参考)】