漏洩電流検出装置及び漏洩電流検出方法
【課題】 電力供給システムに於ける漏洩電流検出装置及び漏洩電流検出方法に関し、ZCTにより得られた信号のみを用いて、抵抗性漏洩電流を迅速且つ精度良く検出する。
【解決手段】 接地線に流れる電流を検出するZCT1〜ZCTmを含むZCT部1からの信号をを入力し、この信号の周波数情報を抽出して漏電システムの同定に必要な基本パラメータを基本パラメータ抽出手段(基本パラメータ抽出部2)により抽出し、この基本パラメータと出力パラメータとの誤差分を誤差抽出手段(誤差抽出部4)により抽出し、抽出した誤差分を零に近づけるように、出力パラメータを補正処理して漏電経路を含む漏電システムを同定し、抵抗性漏洩電流をシステム同定回路手段(システム同定回路部3)により検出し、検出した抵抗性漏洩電流のレベル及び継続時間を基に、漏電発生の注意又は警報を出力する。
【解決手段】 接地線に流れる電流を検出するZCT1〜ZCTmを含むZCT部1からの信号をを入力し、この信号の周波数情報を抽出して漏電システムの同定に必要な基本パラメータを基本パラメータ抽出手段(基本パラメータ抽出部2)により抽出し、この基本パラメータと出力パラメータとの誤差分を誤差抽出手段(誤差抽出部4)により抽出し、抽出した誤差分を零に近づけるように、出力パラメータを補正処理して漏電経路を含む漏電システムを同定し、抵抗性漏洩電流をシステム同定回路手段(システム同定回路部3)により検出し、検出した抵抗性漏洩電流のレベル及び継続時間を基に、漏電発生の注意又は警報を出力する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気設備管理分野又は電気工事分野に於ける抵抗性漏洩電流を検出する漏洩電流検出装置及び漏洩電流検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種の電力供給設備に於ける3相トランスの一次側と二次側との巻線の接続構成としては、例えば、図24示すΔΔ結線があり、VAB,VBC,VCAは一次側のA相、B相、C相の線間電圧、IA,IB,ICは各相の電流、EU,EV,EWは各相の相電圧、Eu,Ev,Ewは二次側の各相の相電圧、Ia,Ib,Icは各相の電流、Vab,Vbc,Vcaは各相の線間電圧を示す。この場合、(VAB,VBC,VCA)=(EU,EV,EW)、(Vab,Vbc,Vca)=(Eu,Ev,Ew)の関係となる。又一次側の相間電圧VAB,VBC,VCAは、例えば、6.6kV、二次側の相間電圧Vab,Vbc,Vcaは、例えば、200V或いは100Vとした構成が一般的である。
【0003】
又図25は、トランスの一次側と二次側との巻線の接続構成をYY結線の場合を示し、図24と同一符号は同一名称部分を示す。この場合、各相の線間電圧と相電圧とは相違する。又図26は、YY結線の構成に於ける二次側の中性点引き出しによる3相4線式の場合を示し、図24及び図25と同一符号は同一名称部分を示し、Vag,Vbg,Vcgは二次側の各相と中性点との間の電圧を示す。この場合、中性点と各相との間の電圧を単相として供給する構成とすることもできる。
【0004】
又図27は、トランスの一次側をY接続、二次側をΔ接続としたYΔ結線の構成を示し、図24及び図25と同一符号は同一名称部分を示す。又図28は、図27と反対に、トランスの一次側をΔ接続、二次側をY接続とした場合を示す。又図29は、トランスの一次側と二次側とをV接続したVV結線の構成を示す。又二次側の接続構成として、単相3線式の構成があり、相間200Vと100Vとして給電することができる。
【0005】
又トランスの結線構成としては、前述の構成以外に、千鳥結線、スコット結線、ウッドブリッジ結線、変形ウッドブリッジ結線等がある。又トランスの二次側の給電構成としては、3相3線式以外に、単相2線式、単相3線式等があり、何れの結線方式に於いても漏電が発生した場合に、その漏電を迅速に検出することが要望されている。その為の漏電検出手段としては、非活線状態で絶縁抵抗測定を行う方式は、必ずしも活線状態の絶縁状態を反映するものではないので、活線状態に於ける漏洩電流検出方式が適している。活線状態に於ける漏洩電流としては、対地容量を介して流れる容量性漏洩電流と、絶縁劣化等による漏洩抵抗を介して流れる抵抗性漏洩電流とを含むものである。
【0006】
活線状態に於ける漏洩電流検出方式としては、主に、I0(零相電流)方式と、Igr(抵抗性漏洩電流)方式1及びIgr方式2の計3種類が知られている。第一のI0方式は、ZCTと称されるカレントトランスを用いて漏洩電流を検出する方式であり、又第二のIgr方式1は、抵抗性漏洩電流検出方式であるが、特別な発振器を用意して、この発振器からの信号を活線に対して信号注入トランスを介して注入し、その信号を検出する方式である。又Igr方式2は、基準電圧位相を用意することにより、抵抗性漏洩電流を検出する方式である(例えば、特許文献1〜特許文献16参照)。
【特許文献1】実公平6−105276号公報
【特許文献2】特開平6−43196号公報
【特許文献3】特開2001−242205号公報
【特許文献4】特開平5−180885号公報
【特許文献5】実開平6−57037号公報
【特許文献6】特開2000−74979号公報
【特許文献7】特開2002−131362号公報
【特許文献8】特開2001−215247号公報
【特許文献9】特開2001−165971号公報
【特許文献10】特開平8−182179号公報
【特許文献11】特開平8−182180号公報
【特許文献12】特開平10−10184号公報
【特許文献13】特開平10−78462号公報
【特許文献14】特開平10−339757号公報
【特許文献15】実開平7−29477号公報
【特許文献16】特開2002−125313号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電力供給システムに於いては、絶縁不良や地絡等による漏洩電流を迅速に検出して、その漏洩電流による火災事故等を回避することが要望されている。その為の漏洩電流検出には、次のような点を解決することが必要である。
【0008】
先ず、第一の課題は、インバータ機器等による高調波電流が多くなったことによる容量性漏洩電流の増大により、正確な抵抗性漏洩電流が検出できなくなって来ていることである。前述の従来方式の一つであるI0方式では、ZCTからの漏洩電流のトータルを見ている。具体的には、容量性漏洩電流と抵抗性漏洩電流の合成値を見ている。従って、このI0方式では、容量性漏洩電流が増大すると、正確な抵抗性漏洩電流を測定できなくなって来る。背景としては、前述のように、省エネルギー化の進展によるインバータ機器の増大がある。インバータ機器はその装置の特質から、かなりの高周波雑音を発生する。これらの高周波雑音は、対外への放射の最小化の為(VCCI;Voluntary Control Council for Infomationの規制対策の為)、装置と大地間に雑音防止コンデンサを付加することが多い。この為、従来では、電源線の配線ケーブルと大地間とのわずかな静電容量が支配的であった容量性漏洩電流も、インバータ機器等の増大により、著しく増大する傾向となった。結果として、従来のI0方式では、抵抗性漏洩電流の正確な検出が困難な状況となっている。
【0009】
第二の課題は、漏洩電流検出器設置時に停電を伴うことである。従来のI0方式を改善したものとして、Igr方式1がある。このIgr方式1は、専用の発振器を設け、この信号をトランスと大地との間に信号注入する。抵抗性漏洩電流の場合には、同相の漏洩電流が検出されることをポイントとして、正確な抵抗性漏洩電流を検出するものである。しかしながら、この検出器は発振周波数が数10ヘルツ以下の低周波であるため、信号注入用トランスが大きくなる欠点があるばかりでなく、トランスと大地間の接地線に信号を注入しなければならない為、設置時に停電させて工事を行う必要がある。最近では、24時間稼働の設備が多く、停電工事は極めて避けたい項目の一つである。
【0010】
第三の課題は、機器設置時の感電事故防止である。機器設置時に停電工事を避ける方式として、Igr方式2がある。このIgr方式2は、Igr方式1のように信号注入は不要であるが、逆に外部より基準電圧の取り込みが必要である。そして、Igr方式2は、抵抗性漏洩電流検出を行う電源設備から基準電圧の取り込みを行うことにより、基準電圧と同相の成分を抽出して、高精度の抵抗性漏洩電流の検出を可能としている。しかしながら、この基準電圧を外部から装置に取り込む必要がある為、機器設置時に、停電工事を行わない場合は、感電事故を起こす可能性がある。従って、感電事故防止の観点からも、このような外部からの基準電圧の取り込み作業はできれば避けたいものである。
【0011】
第四の課題は、検出器の小型化、簡便性の確保である。抵抗性漏洩電流が発生した時に、各箇所で切り分けを行い、実際の漏電箇所を切り分けていくときに、できれば、手軽な電源線とも接続不要なハンディタイプの小型の検出器が望まれる。従って、例えば、単純にZCTを接続するだけで、或いは、ZCTを該当個所にタッチするだけで、検出を可能としたいものである。即ち、検出器は電池等の動作電源で動作するものが望ましい。
【0012】
第五の課題は、ZCTに接続される対象電路が、図24〜図29に示すように、合計6種、単相2線及び単相3線を加えると計8種類、その他の千鳥結線/スコット結線/ウッドブリッジ結線/変形ウッドブリッジ結線等を加えると、計12種類以上存在することである。このような各種の構成に対しても適用可能であることが望まれる。
【0013】
第六の課題は、処理時間の高速化である。漏電を検出する場合、一般的に検出時限という時間的ガードを設けている。不用意に監視センタ等に不要な漏電発生を通報しないようにする為、並びに必要な情報を確実に通報できるようにする為のものである。これらの時間的ガードは、顧客システムによって異なるから、検出装置としては、設定を設けて最適化している。具体的な検出時限設定値としては、例えば、10秒/30秒/1分/3分/5分/10分等がある。例えば、検出時限を10秒に設定した場合には、連続して10秒間、漏洩電流がある一定値を超えないと通報しないようにしている。又、これらの検出時限精度は±10%程度となっている。この為、検出に必要な処理時間としては、例えば、検出時限設定が10秒の場合には、±1秒程度(幅で2秒以内)の高速な漏洩電流検出処理が必要となる。例えば、1個のMPU(マイクロプロセッサ)で3個のZCTからの信号を処理する場合には、ZCT1個当り、2(秒)/3(個)=0.66(秒)程度の高速且つ高精度の検出が必要となる。一般的に、対象の電路システムを拡大し、更に、高精度を追求すると、処理時間は増大する傾向にあり、これらの処理時間の高速化が解決する課題の一つとなる。
【0014】
本発明は、前述のような電力供給システムに於ける漏洩電流検出に於ける問題点を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の漏洩電流検出装置は、ZCTからの信号を処理して抵抗性漏洩電流を検出する漏洩電流検出装置に於いて、接地線に流れる電流を検出するZCTからの信号を入力し、該信号の周波数情報を抽出して漏電システムの同定に必要な基本パラメータを抽出する基本パラメータ抽出手段と、前記基本パラメータと出力パラメータとの誤差分を抽出する誤差抽出手段と、該誤差抽出手段により抽出した誤差分を零に近づけるように前記出力パラメータを補正処理して漏電経路を含む漏電システムを同定し、抵抗性漏洩電流を推定検出するシステム同定回路手段とを備えている。
【0016】
又基本パラメータ抽出手段は、前記ZCTからの信号の周波数情報を抽出し、該周波数情報に従って前記ZCTからの信号を復調してベースバンドのn次高調波ベクトル信号を生成し、該n次高調波ベクトル信号を位相正規化する手段と、該手段により位相正規化された前記n次高調波ベクトル信号を含む基本パターンを抽出して、前記システム同定手段に入力する構成を有するものである。
【0017】
又基本パラメータ抽出手段の前記位相正規化手段は、前記n次高調波ベクトル信号の位相正規化と、該n次高調波ベクトル信号の合成パワーを所定値になるように制御処理する手段とを含む構成を有するものである。合成パワーに関しては、基本波を含んだ合成パワーを1.0にする場合と、基本波を含まない成分で合成パワーを1.0に正規化する方法があるが、n次高調波成分のエネルギーが、高調波の歪みの度合いによって決定される為、基本波を除く形でn次高調波の合成パワーを計算し、この値を1.0に正規化すると、後段の計算処理が容易となる。
【0018】
又システム同定手段は、n次高調波信号を出力する基準電圧発生部と、該基準電圧発生部からの基準電圧を入力して、前記漏電システムの同定による出力パラメータを前記誤差抽出手段に入力し、前記基本パラメータとの誤差分が最小となるように前記出力パラメータの補正処理を行う漏電同定部とを有するものである。
【0019】
又システム同定手段は、複数の漏電パターンを示すパラメータを保持した辞書参照部と、該辞書参照部からの前記漏電パターンを示すパラメータと前記基本パラメータ抽出手段からの基本パラメータとの誤差が最小となる前記漏電パターンを示すパラメータを、前記漏電同定部からの前記出力パラメータの初期パラメータとして設定する構成を有するものである。この辞書参照のパラメータであるが、基本波を含む場合と含まない場合とが考えられる。基本波を含む場合には、基本波を含む合成パワーが1.0に正規化されたものを用いると良い。又基本波を含まない場合であるが、基本波を含まない合成パワーが1.0になるように正規化されたものを用いると良い。又は、例えば、五次のパワーを1.0に正規化した信号を入力する場合も考えられる。何れにせよ、重要なのは、できるだけ、本質的なパラメータに集約して辞書の大きさを必要最小限にすることである。
【0020】
又辞書参照部は、予め格納した前記漏電パターンを示すパラメータと共に、前記漏電同定部により同定収束したパラメータを格納する構成を有するものである。
【0021】
又システム同定手段の前記漏電同定部は、前記誤差抽出手段による誤差分を前記n次高調波対応に補正処理する補正手段と、該補正手段により補正された前記誤差分と前記基準電圧発生部からのn次高調波信号とを入力する漏電模擬回路と、該漏電模擬回路からの信号を正規化した出力パターンを前記誤差抽出部に入力する漏電模擬回路正規化部とを含む構成を有するものである。
【0022】
又システム同定手段の前記漏電同定部は、抵抗性漏電係数にn次高調波信号の次数に従って減少する係数を乗算し、容量性漏電係数に定数1を乗算する構成を含むものである。
【0023】
又システム同定手段の前記漏電同定部は、前記誤差抽出手段による誤差分のn次高調波成分をランダム的に選択して、又は漏電パターンに最適な固定的なパターンで選択して、相関性を最小とする補正手段を有するものである。
【0024】
又本発明の漏洩電流検出方法は、ZCTからの信号を処理して抵抗性漏洩電流を検出する漏洩電流検出方法に於いて、接地線に流れる電流を検出するZCTからの信号を入力し、該信号の周波数情報を抽出し、該周波数情報を基に漏電システムの同定に必要な基本パラメータを抽出し、該基本パラメータと出力パラメータとの誤差分が最小となるように前記出力パラメータの補正処理を行って漏電経路を含む漏電システムの同定を行い、該漏電システムの同定収束により、抵抗性漏洩電流を検出する過程を含むものである。
【0025】
又ZCTからの信号を基準周波数により復調して複素共役演算によりベクトル信号とし、該ベクトル信号を変換処理して前記ZCTからの信号の周波数情報を求め、該周波数情報に従って前記ZCTからの信号を復調してn次高調波信号成分を求め、該n次高調波信号成分を正規化して前記基本パラメータとする過程を含むものである。
【0026】
又基準電圧発生部からのn次高調波信号に係数を乗算し、且つ補正処理を行った前記出力パラメータと、前記基本パラメータとの誤差分を抽出し、該誤差分が最小となるように前記出力パラメータの前記補正処理を行って、前記漏電システムの同定を行う過程を含むものである。
【0027】
又辞書参照部からの複数の漏電パターンを示すパラメータを、前記基準電圧発生部からのn次高調波信号に乗算する係数の初期値として、前記漏電システムの同定を行う過程を含むものである。
【0028】
又基本パラメータと前記出力パラメータとの誤差分のn次高調波成分について、ランダム的に選択して合成して相関性を最小とする補正処理を行う過程を含むものである。
【発明の効果】
【0029】
ZCTからの信号を入力して、その信号の周波数情報を求め、その信号に含まれるn次高調波信号による基本パターンを求め、この基本パターンとの誤差分が最小となる出力パターンが得られうるように、漏電経路を含む漏電システム同定を行って、抵抗性漏洩電流を検出するものであり、従って、第一に、容量性漏洩電流が大きい電力供給システムに於いても、正確に抵抗性漏洩電流を検出することができる。第二に、漏洩電流検出の為に、停電工事が不要である。第三に、電力供給システムからの基準電圧の取り込みが不要であるから、設置工事を行う時の感電事故が生じない。第四に、マイクロプロセッサ等の演算処理機能により実現可能であるから、電池を動作電源として動作可能であり、小型化により携帯も容易となる。第五に、電力供給システムの周波数を自動的に認識し、3相3線式は勿論のこと、3相4線式や単相3線式、単相2線式等の総ての電力供給システムの抵抗性漏洩電流検出に適用可能である。第六に、漏電システム同定の高速な収束が可能であるから、抵抗性漏洩電流の高速検出が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の漏洩電流検出装置は、図1を参照すると、ZCT1〜ZCTmを含むZCT部1からの信号を処理して抵抗性漏洩電流を検出する漏洩電流検出装置に於いて、接地線に流れる電流を検出するZCTからの信号を入力し、この信号の周波数情報を抽出して漏電システムの同定に必要な基本パラメータを抽出する基本パラメータ抽出手段(基本パラメータ抽出部2)と、この基本パラメータ抽出手段からの基本パラメータと出力パラメータとの誤差分を抽出する誤差抽出手段(誤差抽出部4)と、この誤差抽出手段により抽出した誤差分を零に近づけるように、出力パラメータを補正処理して漏電経路を含む漏電システムを同定し、抵抗性漏洩電流を推定検出するシステム同定回路手段(システム同定回路部3)とを備えている。
【0031】
又本発明の漏洩電流検出方法は、ZCTからの信号を処理して抵抗性漏洩電流を検出する漏洩電流検出方法に於いて、接地線に流れる電流を検出するZCT(ZCT部1)からの信号を入力し、この信号の周波数情報を抽出し、この周波数情報を基に漏電システムの同定に必要な基本パラメータを、基本パラメータ抽出手段(基本パラメータ抽出部2)により抽出し、この基本パラメータと出力パラメータとを誤差抽出手段(誤差抽出部4)により比較して、その比較結果の誤差分が最小となるように、システム同定手段(システム同定回路部3)により、出力パラメータの補正処理を行って漏電経路を含む漏電システムの同定を行い、この漏電システムの同定収束により、抵抗性漏洩電流を検出する過程を含むものである。
【実施例1】
【0032】
図1は、本発明の原理説明図であり、m個のカレントトランス構成の零相電流検出トランス(以下ZCTと称する)ZCT1〜ZCTmを含むZCT部1の出力信号を入力する基本パラメータ抽出手段としての基本パラメータ抽出部2と、この基本パラメータ抽出部2により抽出した基本パラメータを入力するシステム同定手段としてのシステム同定回路部3と、誤差抽出手段としての誤差抽出部4と、各種設定/表示制御部5とを有し、電力供給システムに於ける複数のトランスの二次巻線と接地との間の接地線にそれぞれZCT1〜ZCTmを設けて、接地線に流れる電流を検出するZCT1〜ZCTm対応に、抵抗性漏洩電流を推定検出する構成を示す。なお、ZCTは1個の場合も含むもので、図示のように、複数のZCTにより得られた信号を入力する場合は、時分割的な処理により抵抗性漏洩電流を推定検出する処理を行うものである。
【0033】
ZCT部1のm個のZCT1〜ZCTmからの出力信号は、基本パラメータ抽出部2に入力され、ZCT部1の出力信号内に含まれているn(=1〜n)次高調波の振幅/位相/周波数情報から、漏電経路を含む漏電システム同定に必要なn次高調波対応のパワーを含む基本パラメータを抽出する。一方、システム同定回路部3は、実際の漏電システムを模擬するものであり、抽出された基本パラメータとシステム同定回路部3に於いて推定した漏電システムによるn次高調波対応のパワーを含む出力パラメータとが一致(誤差抽出手段の出力がゼロ)するように、誤差抽出部4からシステム同定回路部3にフィードバックして係数を補正し、漏電システム同定を行う。この同定した時の係数を用いて、実際にZCTが接続されたシステムで発生している抵抗性漏洩電流を推定検出する。なお、検出出力の検出閾値や検出時限に関しては、各種設定/表示制御部5による各種設定に従って動作させる。以上により、最終的なIgr出力注意/警戒情報を得ることができる。
【0034】
従って、本発明に於いては、基本パラメータ抽出手段(基本パラメータ抽出部2)、システム同定回路手段(システム同定回路部3)、誤差抽出手段(誤差抽出部4)を設けて、ZCTから入力された信号を基に、基本パラメータ抽出手段(基本パラメータ抽出部2)により抽出したn次高調波パワーを含む基本パラメータと、システム同定手段(システム同定回路部3)により同定した出力パラメータとが一致するように、漏電システム同定を行い、この漏電システム同定収束時の係数を基に、抵抗性漏洩電流Igrを検出するものである。又各手段の機能は、演算処理機能を有するマイクロプロセッサ等により実現することができる。従って、前述の第一の課題である正確な抵抗性漏洩電流の測定が可能となるばかりでなく、第二の課題である設置工事時の停電が不要、更に、第三の課題である基準電圧位相の取り込みも不要、即ち、感電事故発生を回避可能、更に、第四の課題であるハンディタイプの携帯可能な構成も実現可能、第五の課題である12種以上の各種接続形式の電力供給システムに対しても柔軟に適用可能、第六の課題である処理時間の高速化も可能となる。
【0035】
図2は、本発明を適用することができる警報システムの説明図であり、工場、オフィスビル、学校、病院等の電力需用家13の受電設備(キュービクル)11に警報検出伝送装置12を設け、この警報検出伝送装置12に於いて、異常検出として漏電検出を行った場合に、この検出信号を、例えば、100Vの電灯線(電力線搬送)又は通信線経由で警備室又は事務所15の警報受信通報装置14に伝送し、自動的或いは警備員により、電話網等を介して監視センタ16に漏電発生通知を送出する。警備員による場合は、ファクシミリ装置FAX又は電話等により監視センタ16に漏電発生通知を送出することもできる。監視センタ16に於いては、緊急出動車17等により保守要員等を急行させて、異常発生箇所の修復を図ることができる。
【0036】
図3は,ZCT接続説明図であり、例えば、ΔΔ結線のトランスの二次側のa,b,c相の中のb相を接地し、その接地線に流れる電流を検出する為のZCTを接続した場合を示す。又ra,rb,rcは、対地間等価抵抗、ca,cb,ccは、対地間等価容量を示す。正常時は、対地間等価抵抗ra,rb,rcは大きい値を示し、従って、抵抗性漏洩電流は無視できる程度の小さい値となる。又対地間等価容量ca,cb,ccは、図示を省略している力率改善用コンデンサ等を含むもので、更に、インバータ機器等による高調波成分が多いことにより、容量性漏洩電流は比較的大きい値を示すことになる。そして、各相の抵抗性漏洩電流のベクトル合成した電流と、各相の容量性漏洩電流のベクトル合成した電流とのベクトル和の電流が接地線に流れるので、これをZCTにより検出することになる。このZCTにより検出して、漏洩電流検出装置に入力することにより、漏電経路の状態を含む漏電システム同定を行って、高精度且つ迅速に、抵抗性漏洩電流を推定検出する。
【0037】
図4は、図1に示す本発明の構成を、図3に示す構成に適用した漏電検出システムを示し、例として、a,b,c相の中のb相を接地線により接地し、その接地線にZCTを接続し、c相に地絡障害が発生した場合を示す。従って、c相は、抵抗性漏洩電流Igrが流れる対地間等価抵抗と、容量性漏洩電流Igcが流れる対地間等価容量とが接続され、a相は、対地間等価抵抗は無視できる大きさであるから、図示を省略し、容量性漏洩電流Igcが流れる対地間等価容量のみを図示している。又接地線に流れる電流を検出するZCTからの信号を入力する漏洩電流検出装置は、図1に於ける要部について示すように、ZCTに接続された基本パラメータ抽出部2と、システム同定回路部3と、誤差抽出部4とを含む構成を有し、システム同定回路部3は、漏洩経路を含む漏電システム同定を行うことにより、抵抗性漏洩電流Igrを検出する。
【0038】
又単一のZCTを漏洩電流検出装置に接続した場合を示すが、図1に示すように、複数の電力供給システム対応のZCTを接続することも可能である。又ZCTに近い位置に漏洩電流検出装置を配置した場合を示すが、この漏洩電流検出装置を遠隔地に配置し、ZCTとは各種の伝送方式で知られているネットワークを介して接続することも可能である。又有線ネットワークのみでなく、無線ネットワークを介して接続することも可能である。それぞれのネットワークを介してZCTからの信号を伝送する場合、ZCT対応のアドレス付け等により、伝送方式に従ったフォーマットに従って漏洩電流検出装置に伝送し、漏洩電流検出装置は、それぞれのZCTを識別して、ZCT対応の電力供給システムの抵抗性漏洩電流を検出することもできる。
【0039】
図5は、単相の場合の抵抗性漏洩電流が2、容量性漏洩電流が2の比率の場合の漏洩電流波形をシミュレーションにより求めた波形を示し、50Hzの3サイクル分であるが、高調波成分が多く、基本周波数の正弦波からは大きく歪んだ波形となる。
【0040】
図6は、漏洩電流スペクトラムの説明図であり、横軸は周波数[Hz]、縦軸はパワー[dBm]を示し、50Hzの配電地域に於ける0〜500Hzについてのスペクトラムを示す。即ち、50Hzの整数倍の高調波成分が含まれていることが判る。
【0041】
図7は、一次、三次、五次、七次の高調波成分のスペクトラムについて、地絡パターンの種別対応の一例を示すもので、(a)(‘0200)は、単相で容量性漏洩電流のみの場合、(b)(’1200)は、単相で容量性漏洩電流に抵抗性漏洩電流が加わった場合、(c)(‘0202)は、3相3線式で容量性漏洩電流のみの場合、(d)(’1202)は、3相3線式のa相で抵抗性漏洩電流が加わった場合、(e)(‘0212)は、3相3線式で容量性漏洩電流がa相、c相で発生し、且つc相で抵抗性漏洩電流が発生した場合をそれぞれ示している。又縦軸は、合成パワーを1.0に正規化した一次/三次/五次/七次の高調波のパワーを示している。即ち、各種漏電パターンにより漏洩電流波形が微妙に異なり、且つ、スペクトラムが微妙に異なった形となっている。従って、ZCTからの信号に含まれるn次高調波成分のパワーのパターンにより、抵抗性漏洩電流が含まれているか否かを判定することもできる。
【0042】
図8は、図1の各部の内部構成を示す本発明の実施例の説明図であり、図1と同一符号は同一部分を示す。図8に於いて、21はフィルタ部、22はデータ取込み部、23は基準値抽出部、24は周波数情報抽出部、25はI0検出部、31は辞書参照部、32は基準電圧発生部、33は漏電同定部、34はIgr判定/タイマ監視部を示す。ZCT部1は、m個のZCT1〜ZCTmからなる場合を示し、それぞれの出力信号はフィルタ部21により不要な成分が除去される。そして、データ取込み部22により必要なデータが取り込まれる。これらのデータは周波数が50Hz/60Hzと地域により異なる為、周波数情報抽出部24により、電源周波数が何Hzなのかを自動的に且つ正確に抽出する。基準値抽出部23は、周波数情報抽出部24により抽出した電源周波数を基本周波数としたn次高調波の周波数を生成して、ZCT部1からの信号に含まれるn次高調波対応のパワーを求めて、これを基本パターンとする。この基本パターンとしてのn次高調波パワーを正規化したLPF正規化出力をシステム同定回路部3と誤差抽出部4とに入力し、又n次高調波パワーを示す逆LPF正規化出力又は一次(基本波)のパワー値をシステム同定回路部3のIgr判定/タイマ監視部34に入力する。
【0043】
I0検出部25は、周波数情報抽出部24内の信号を用いて、I0(容量性と抵抗性と漏洩電流の合成波形の零相電流;なお、零相電流は、3相中性点に流れる電流として知られているが、電源線と接地との間に流れる電流を示す)を検出する回路であり、検出出力信号I0DECをIgr判定/タイマ監視部34に入力し、この検出出力信号I0DECが、I0(零相電流)所定値以下を示す場合には、その後のIgr判定を停止させて、抵抗性漏洩電流検出処理の誤動作を防止する。又基準値抽出部23は、漏電システムを同定する為に必要な基本パラメータを抽出し、LPF正規化出力及びLPF逆正規化出力として示すように出力する。これらの基本パラメータのみを用いて、漏電経路を含む漏洩システム同定を行うこともできるが、同定収束を迅速化する為に、辞書参照部31を用いて、この辞書参照部31で保持している各種漏電パターンのどれに最も近いかを判断し、最も近い漏電パターンの情報を初期値の係数として、漏電同定部33の同定パラメータの初期化を行う。又は過去に漏電システム同定を行った時の同定パラメータを記憶しておいて、その同定パラメータを初期値とすることもできる。
【0044】
又システム同定回路部3では、実際の漏電システムを仮想的に模擬して構築する為、システム同定回路3内にn次高調波を含む基準電圧を発生させる基準電圧発生部32を設けている。この基準電圧発生部32及び漏電同定部33により、実際の漏電システムを同定する。具体的には、この漏電同定部33で同定したパラメータと基準値抽出部23で抽出した基本パラメータとの誤差(誤差抽出部4で抽出)が、零に近づくように漏電同定部33の同定を行う。最終的にシステム同定した時の係数を基に、Igr成分を算出し、Igr判定/タイマ監視部34に於いて所定の閾値で判定した後、設定した時間継続するか否かの時間監視を行って、Igr出力を漏電検出信号として送出する。
【0045】
図9は、本発明の実施例の詳細なブロック図を示し、図8と同一符号は同一部分を示す。基本パラメータ抽出部2のフィルタ部21は、終端回路1〜終端回路mと、選択回路SEL1と、ゲイン切替部GSWと、ローパスフィルタLPFとを有し、ZCT部1の各ZCT1〜ZCTmは、終端回路1〜終端回路mにより所定のインピーダンスで終端され、電圧値として選択回路SEL1に入力する。選択回路SEL1は、漏洩電流検出対象のZCTを選択するもので、例えば、3個のZCTの選択を行う場合に、0.6秒単位で順次選択することができる。又1個のZCTの場合には、選択回路SEL1は省略或いは固定的な選択状態とすることができる。
【0046】
又ゲイン切替部GSWは、選択回路SEL1により選択されたZCTの出力信号に対する増幅ゲインを切替える可変利得増幅器に相当する。ZCTの出力信号は、例えば、50mA〜800mA程度の広い範囲に相当するもので、所定のダイナミックレンジを確保する為に、選択回路SEL1により順次選択されたZCTの出力信号に対する増幅ゲインを切替える。選択回路SEL1とゲイン切替部GSWとは、データ取込み部22のアナログ制御部により制御される。
【0047】
このデータ取込み部22は、AD変換器A/Dと、オフセット除去回路Offsetと、バッファBUFFと、アナログ制御部とを含む構成を有し、又周波数情報抽出部24は、キャリア発生部CRR0と、復調部DEMOと、ローパスフィルタLPF0と、複素共役回路と、周波数変換部と、キャリア発生部CRRnとを含む構成を有する。又I0検出部25は、パワー算出部PWRと判定部とを含む構成を有し、基準値抽出部23は、復調部DEM1〜DEMnと、ローパスフィルタLPF1〜LPFnと、LPF正規化部とを含む構成を有する。
【0048】
データ取込み部22のオフセット除去回路Offsetは、AD変換器A/Dにより変換されたZCT1〜ZCTm対応のディジタル信号に、それぞれ直流オフセット成分が含まれているから、この直流オフセット成分を算出し、直流オフセット成分が零となるように処理して、バッファBUFFに一旦蓄積する。それにより、ディジタル演算処理による抵抗性漏洩電流検出精度を一層向上することができる。そして、バッファBUFFから読出して、アナログ制御部と、基準値抽出部23の復調部DEM1〜DEMnと、周波数情報抽出部25の復調部DEM0とに入力する。
【0049】
アナログ制御部は、選択回路SEL1により選択したZCTからの信号レベルに対して、バッファBUFFに入力された信号レベルが所定範囲の下限値より低い時、ゲイン切替部GSWのゲインを上昇させ、反対に、所定範囲の上限を超える時、ゲイン切替部GSWのゲインを低下させるように、ゲインの切替えの制御を行う。なお、バッファBUFFに入力される信号レベルが常に所定の範囲内の場合には、ゲイン切替部GSWのゲインを予め設定した値として、自動ゲイン切替えの制御構成を省略することも可能である。又AD変換器A/Dのダイナミックレンジが広い場合も同様である。
【0050】
図10は、キャリア発生部CRR0及び復調部DEM0〜DEMnの説明図であり、周波数情報抽出部24のキャリア発生部CRR0は、ZCTからの信号の基本波の周波数が未知であるが、電力供給システムに於ける基本周波数は、一般的には、50Hz又は60Hzであるから、例えば、その中間の55Hzの周波数のキャリア発生を行う為のデータをROMに格納した構成とすることができる。この場合のROM格納データは、半径1の55Hzでベクトル回転することを示す(cos(2π55(Hz)t)−jsin(2π55(Hz)t))とすることができる。
【0051】
又周波数情報抽出部24及び基準値抽出部23の復調部DEM0〜DEMnは、入力信号に、高調波の次数をnとして、cos(nω)を乗算してリアルパートの復調出力(DEM出力)を得る乗算器と、−sin(nω)を乗算して、イマジナリパートの復調出力(DEM出力)を得る乗算器とを含み、周波数情報抽出部24に於いては、バッファBUFFからの信号が復調部DEM0に対するDEM入力となり、キャリア発生部CRR0からのキャリアcos(2π55(Hz)t)−jsin(2π55(Hz)t)のcos(2π55(Hz)t)と、sin(2π55(Hz)t)とを、点線矢印で示す経路により、それぞれの乗算器に入力し、復調出力信号を、ローパスフィルタLPF0を介して、複素共役回路と、I0検出部25のパワー算出部PWRとに入力する。
【0052】
又基準値抽出部23の復調部DEM1〜DEMnにつては、バッファBUFFからの信号がそれぞれのDEM入力となり、周波数情報抽出部24のキャリア発生部CRRnからの次数対応のキャリア(後述のように、抽出した電源周波数に同期したn次高調波信号;cos(nω)、−sin(nω))を復調用として乗算器に入力する。それにより、n次高調波信号対応の復調出力信号は、同期検波と同様に、ZCTからの信号に含まれているn次高調波成分を示し、それぞれローパスフィルタLPF1〜LPFnを介してLPF正規化部に入力する。
【0053】
図11は、前述のローパスフィルタLPF0〜LPFnの構成の一例を示すもので、単位時間の遅延回路Tと、入力信号及び遅延回路Tを介した信号に係数ω0〜ωkをそれぞれ乗算する乗算器と、加算器Σとを含み、トランスバーサル型のFIRフィルタの構成を示すものである。例えば、周波数情報抽出部24のローパスフィルタLPF0は、55Hz近辺以外の不要な成分は除去したい為、帯域幅として55Hz±25Hz程度とすることになる。他のローパスフィルタLPF1〜LPFnも同様にn次高調波対応の帯域として、カットオフ周波数をn次高調波周波数に対して±25Hz程度に設定し、不要な高調波信号は除去する。周波数情報抽出部24に於けるキャリア発生部CRR0と、復調部DEM0と、ローパスフィルタLPF0とにより、30Hz〜80Hz間の周波数の抽出を可能とすることができる。従って、50Hz/60Hzの周波数同期が確立する前でも、漏電信号の抽出を可能としている。
【0054】
図12は、I0検出回路25の説明図であり、パワー算出部PWRと判定回路とを含み、ローパスフィルタLPF0を介した復調信号を入力し、パワー算出部PWRにより、その復調信号を二乗してパワーを求め、判定回路の演算部により、パワーと、予め設定した値REFとの差を求め、極性判定部に於いて、極性が負であれば、漏電電流有り(I0DEC=1.0)を示し、極性が正であれば、漏電電流無し(I0DEC=0.0)を示す検出信号I0DECを出力し、Igr判定/タイマ監視部34のIgr算出LPF逆正規化部(図9参照)に入力する。この場合、漏電電流無しの検出信号I0DECの場合は、誤動作を防止する為に、Igr判定/タイマ監視部34以降の抵抗性漏洩電流検出処理は行わない。
【0055】
図13は、周波数情報抽出部24に於ける複素共役回路と周波数変換部との説明図であり、ローパスフィルタLPF0の出力信号を複素共役入力として、乗算器と遅延回路とに入力する。この場合、AD変換器A/Dにより変換されたサンプリング間隔の信号を、バッファBUFFを介して、更に、復調部DEM0、ローパスフィルタLPF0を介して複素共役回路に、複素共役入力して示すように入力する。この時間差を有する信号を、それぞれ、LPF01,LPF02とすると、複素共役出力Yは、
Y=LPF02×(LPF01)* ・・・(1)
と表すことができる。なお、*印は複素共役演算を示す。
【0056】
この複素共役出力Yは、AD変換器A/Dに入力された信号の周波数が55Hzより高い場合、反時計方向にシフトするベクトルとなり、反対に、55Hzより低い場合、時計方向にシフトするベクトルとなる。このベクトル信号を点線矢印で示すように、周波数情報抽出入力として、周波数変換部に入力する。
【0057】
具体的には、取り込んだ漏洩電流を任意の時間間隔をもって、任意の復調周波数fDEMで検波し、2つの位相ベクトルを抽出する。更に、前処理で得られた2つの位相ベクトルから、任意の時間間隔の位相差を抽出することにより、復調周波数と取り込み電流の周波数との差を抽出する。
【0058】
取り込んだ漏洩電流の周波数をfAC、任意の復調周波数をfDEM、取り込んだ漏洩電流の周波数と任意の復調周波数の偏差をΔfとすると、
fAC=fDEM+Δf ・・・(2)
となる。
【0059】
任意に定めた復調周波数fDEMと前処理で求めたΔfとの2つの周波数情報により、複数の復調の為の周波数を生成する。一次の周波数fDEM1、三次の周波数fDEM3、五次の周波数fDEM5、七次の周波数fDEM7とした時、次式により求められる。
fDEM1=fDEM+Δf
fDEM3=3×(fDEM+Δf)
fDEM5=5×(fDEM+Δf)
fDEM7=7×(fDEM+Δf)
従って、n次高調波の周波数についての一般式は、
fDEMn=n×(fDEM+Δf) ・・・(3)
と表すことができる。
【0060】
複素共役出力を周波数情報抽出入力とする周波数情報抽出回路は、ベクトル情報→Δθ変換回路と、Δθ+55Hz加算MOD回路からなる周波数情報抽出回路と、キャリア発生部CRRnとを含み、複素共役回路からの複素ベクトル情報(X+jY)を、ベクトル情報→Δθ変換回路に入力して、tan−1関数を用いて、角度情報Δθ(Δfの周波数情報に比例)に変換する。そして、キャリア発生部CRR0で発生させた55Hzの角度情報に加算(周波数加算)し、毎サンプル毎の回転角度情報を求め(±180度mod加算)、キャリア発生部CRRnからのキャリアにより、所望の周波数情報抽出出力(CRRnの回転ベクトル信号=(cos(nωt)−jsin(nωt)))を得ることができる。
【0061】
尚、周波数情報抽出回路は、他の構成とすることも可能であり、例えば、複素共役信号(X+jY)をアドレス変換(上位X+下位Y)し、予めアドレスと周波数との関係を格納したROM等のメモリをアクセスして所望の周波数情報(例えば、51.1Hz,60.3Hz等)を得る構成とすることもできる。又は、この周波数情報変換は、複素共役回路の出力を半径1.0のベクトル情報に変換して、そのイマジナリ成分のみを用い、ROMで所望の周波数情報に変換する構成とすることもできる。更に、PLL回路を用いて、いきなり周波数算出を行ってもよい。
【0062】
図14は、基準値抽出部23のLPF正規化部の説明図であり、101はパワー合成部、102は逆変換部、103は二乗部、104は除算部、105は平方根部、106〜109は乗算器を示す。ローパスフィルタLPF1〜LPFnの出力信号をパワー合成部101に入力して、二乗した後、加算(Σ)して、全体のパワーaを求め、これをSYNLPFPとして出力すると共に、逆変換部102に於いて、1/√aの処理により、パワーを求める前のレベルとして、ローパスフィルタLPF1〜LPFnの出力信号に乗算器106に於いて乗算し、正規化する。なお、乗算器106に入力するLPF(n)は、簡略化の為に、代表として示しており、図示の構成をローパスフィルタLPF1〜LPFn対応に備えている。
【0063】
次に、位相の正規化を行う為に、二乗部103により二乗してR2とし、これをLPFA(n)として出力すると共に、除算部104に於いて1/R2=bとし、これを乗算器109に入力して制御力αを乗算してLPFAI(n)として出力する。又平方根部105に於いて、√b=1/R=LPFAIS(n)として乗算器107に入力し、この乗算出力を乗算器108に入力して複素共役演算を行って、そのリアルパートReを、レベルと位相とを正規化した信号LPFN(n)(図8に於けるLPF正規化出力)として、誤差抽出部4と、辞書参照部31と、漏電同定部33とに入力する。
【0064】
漏電信号同定で重要な基本パラメータとは何かについて説明する。漏電波形は図5に示すように極めて複雑な波形を示しているが、電源周波数での繰り返し波形であることは明確である。抵抗性漏洩電流検出には、基準の電圧位相が極めて重要であるが、AD変換器A/Dに入力された漏電電流の波形は、前述のように、複雑で、基準位相の特定は不可能である。なお、基準位相を特定できたと仮定した場合の漏電システム同定は極めて容易であるが、実際的でない。この為、漏電システム同定では、基準位相に依存しないアルゴリズムの創出が不可欠である。従って、AD変換器A/Dに取り込まれた信号から漏電システム同定に基本となるパラメータは何か、基準位相に振り回されないパラメータは何か、との問題に対しての一つの回答が自己相関系列である。
【0065】
入力信号をf(t)とした場合の自己相関系列A(τ)は、A(τ)=Σ(f(t)×(f(t+τ))*)(*は複素共役演算を示す)となり、例えば、複合性漏電(抵抗性漏電と容量性漏電との複合)、容量性漏電、抵抗性漏電(抵抗性漏電と容量性漏電発生時)の自己相関系列は、図15(A),(B),(C)に示すようになり、それぞれ漏電条件毎に異なった自己相関系列となるが、抽出信号f(t)の切り出し位相によらず一定の値となる。従って、自己相関系列を使用してシステム同定を行えば、基準位相によらないシステム同定が可能である。
【0066】
問題は波形の自己相関演算の積分期間であるが、電源周波数の1周期であることが望ましい。AD変換器A/Dにより変換した波形では、1周期分の切り出しはサンプリングの量子化からも困難であるが、入力された信号に同期をとって、復調部DEM1〜DEMnで復調し、ローパスフィルタLPF1〜LPFnにより不要帯域を除去したベースバンド信号であれば、1周期分の積分は極めて容易であり正確に実現可能である。
【0067】
又AD変換器A/Dに入力される信号のレベルは多種多様であり、これらを基に安定にシステム同定することは困難である。そこで、前述の図14に示すように、合成パワーで漏洩電流のパワーの正規化を実行する。又後述の図30に示すように、基本波を除く漏電システムを同定するのに影響の大なる主要な高調波のパワーを合成することで求めても良い。
【0068】
又自己相関系列演算は、極めて演算量が多く、このような演算処理を導入すると、処理量が飛躍的に増大し、処理時間が長くなる。一方、自己相関系列は入力波形のパワースペクトラムを代表していることはよく知られている。実際問題、パワースペクトラムの場合には、位相の変化の影響を受けないものである。現にローパスフィルタLPF1〜LPFnの出力のベクトル信号に、任意の位相回転を施しても位相回転を施す前の自己相関系列と、位相回転を施した後での自己相関系列は一致している。これは、自己相関演算そのものが、複素共役ベクトルを演算しており、位相成分が消えることによる。従って、ローパスフィルタLPF1〜LPFnの出力信号のパワーをみれば、自己相関演算を行わなくてもよいことを示している。
【0069】
即ち、ローパスフィルタLPF1〜LPFnの出力に各n次の高調波ベクトル信号に半径1.0の複素共役ベクトルを乗算して、位相に無関係な信号とし、これを漏電システム同定用の基準信号とする。同時に、漏電同定部33内の漏洩電流模擬回路EQLの出力にも同様な位相正規化回路を導入して、位相に依存しない出力を得ることにより、これを漏電同定回路の出力(出力パラメータ)とし、誤差抽出部4により基準値(基本パラメータ)との誤差を求め、この誤差が最小となるように漏電システムの同定を実施していく。このような処理を実行することにより、演算量の飛躍的減少が可能となる。
【0070】
図16は、辞書参照部31の説明図であり、誤差算出部111と、パワー算出部112と、パワー値積分部113と、セレクタ114,120(SEL)と、最小値判定部115と、EQL(漏洩電流模擬回路)係数部116と、漏電パターン格納部117と、初期化係数格納部118と、制御係数格納部119とを含む構成を有し、図9に於いては、誤差算出、PWR値積分最小値判定、初期化/制御、SEL2、EQL係数、各種漏電パターン辞書として示す機能を、具体的な構成として示している。
【0071】
漏電パラメータには、例えば、3相3線式の場合でみても、a相漏電、b相漏電、c相漏電、更に容量性漏洩電流、抵抗性漏洩電流、高調波も一次高調波、二次高調波、三次高調波等の多種類となり、このような多数のパラメータで短時間にシステム同定を行うことは極めて困難である。この為、各種の漏電パターンを、辞書としての漏電パターン格納部117に格納し、順次読出した漏電パターンを、セレクタ114を介して誤差算出部111に入力し、基準値抽出部23からのLPF正規化出力、即ち、基準値LPFN(n)との誤差分を求め、パワー算出部112により誤差分のパワーを算出し、パワー値積分部113により積分し、最小値判定部115により誤差分が最小となる漏電パターンを選択する。この場合の誤差算出部であるが、基本波を含む総ての高調波を使用することなく、漏電システムの同定に効果的なn次高調波のみを使用した方が良い。但し、使用する場合には、辞書パターンの最小化を目的に、使用する範囲の高調波群のパワーを、1.0等に正規化して誤差算出すると良い。又基本波を除くn次高調波の合成パワーが1.0となるように、最小値を求める構成とすることもできる。
【0072】
この最小値判定部115は、複数の辞書参照結果から積分誤差が最小となる漏電パターンを選定する為のものである。又セレクタ114(SEL)は固定の複数の辞書パターンと過去に求めた漏電パターン(図示を省略したメモリに格納した漏電パターン)との選択回路であり、EQL係数部116からの係数と、漏電パターン格納部117からの係数とを切替えて、誤差算出部111に入力し、セレクタ120(SEL)は、EQL係数部116からの係数と、初期化係数制御部118からの係数とを切替えて、係数EQLRa,EQLCa,EQLRb,EQLCb,EQLRc,EQLCcを漏電同定部33に入力する。更に、漏洩電流模擬回路EQLの制御力については、例えば、3相3線式では、a相の抵抗性漏電パスと容量性漏電パス、更にc相の抵抗性漏電パスと容量性漏電パスがある為、それぞれ漏電パターンに合致した制御力を持たせ、収束の高速化を図っている。
【0073】
図17は、基準電圧発生部32(図9参照)の説明図であり、3相の一次〜n次の基準電圧VGa(1),VGb(1),VGc(1)〜VGa(n),VGb(n),VGc(n)を発生させる為のROMにより実現した場合を示す。一次のa相を基準電圧位相0度とすると、一次の電圧位相は、(4)〜(6)式に示すものとなり、n次の電圧位相は(7)〜(9)式に示すものとなる。
【数1】
本発明では、基準電圧の振幅の大きさは1.0としてある。これは、一般的に波形が歪むと高調波を発生するが、この高調波は次数に応じてレベルが1/nに減少することが知られている(数学的にも証明可能)。一方、後述するEQL部では、容量性漏洩電流は、周波数に比例(次数に比例)して増大していくが、抵抗性漏洩電流は、次数に反比例して減少していく。これらを考慮し、基準電圧発生部32では、半径1.0のベクトル電圧を基準電圧として出力する。一般に、n次高調波は、時間軸波形がどの程度歪みを受けているかで決定され、最悪状態の歪みでは、基本波を基準として1/nに低下することになるが、最悪でない場合には、数10dB減衰した形で順次低下する現象となる。この場合、高調波は1/nよりゆっくりした減衰カーブで、基本波を除いた形で現れる。従って、より正確な漏電検出をしようとした場合、基本波を除く高調波のパワーが、基本波のパワーと比較してどの程度減少しているかを算出し、この算出度合いに応じて、図17の基準電圧発生部からのn次高調波の基準電圧VGa(1),VGb(1),VGc(1)〜VGa(n),VGb(n),VGc(n)に、周波数特性上の補正を行うこともできる。但し、この差は微々たるものなので、通常は省略しても問題はない。
【0074】
図18は、漏電同定部33(図9参照)のEQL(漏洩電流模擬回路)部の説明図であり、前述の基準電圧発生部32からの一次〜n次の基準電圧VGa(1),VGb(1),VGc(1)〜VGa(n),VGb(n),VGc(n)を入力し、電流パラメータEQLRa(1),EQLRb(1),EQLRc(1)〜EQLCa(n),EQLCb(n),EQLCc(n)を複素乗算し、加算(Σ)して、最終的な所望のEQL(1)〜EQL(n)出力を得る。但し、ここで、n次高調波の次数が増大すると、容量性漏電に関しては、周波数に比例して増大する。一方、抵抗性漏電に関しては、周波数による変化はなく一定、更に、一般に高調波信号は次数に応じて1/nに低減していくため、EQLRa(n)に関しては、係数に1/nを乗算して出力計算を行う。容量性漏洩電流に関しては、特に何もしない。こうすることで、より実際的な漏電システム同定が可能となる。
【0075】
n次高調波の電圧源をV、各相と対地間に存在する負荷のインピーダンスをZ、ZCTに流れる電流をIとすると、I=V/Zとなる。一方、負荷インピーダンスZは、各相と対地間に存在している容量性負荷と、抵抗性負荷との並列接続であるが、周波数をω、容量をC、抵抗をrとすると、容量性負荷に流れる電流Icは、
Ic=V/(1/jωC)=jωCV ・・・(10)
又抵抗性負荷に流れる電流Irは、
Ir=V/r ・・・(11)
となる。従って、最終的にZCTに流れる電流Iは、
I=V(1/r+jωC) ・・・(12)
となる。実際には、電圧源Vがn次高調波基準電圧源である為、又各相(a/b/c相)が存在する為、これら全ての合成ベクトルとなる。
【0076】
抽出目標である抵抗性漏洩電流を得る為には、取り込んだ零相電流成分から、抵抗性漏洩電流成分と容量性漏洩電流成分とに分離して、抵抗性漏洩電流成分を測定する必要がある。又、容量性漏洩電流は、抵抗性漏洩電流の90度進んだ位相である。
【0077】
実際に漏電システムの中で構築される容量性負荷及び抵抗性負荷は、システム同定の容易さの観点から、インピーダンスではなく、アドミッタンスで定義する。アドミッタンスのベクトルと基準となるn次高調波基準電圧源との乗算を行い、合成することで、ZCTから入力された零相電流を推定する。
【0078】
然しながら、上記で推定した零相電流は、あくまでも基準電圧発生部32からのn次高調波基準電圧を基にしている。一方、実際にZCTに接続された漏電システムの基準電圧位相及び振幅は、上記の基準位相及び振幅とは異なるものであり、この振幅差/位相差を補正する必要がある。この為、漏電システム内に位相正規化回路/振幅補正回路を設け、最終的なシステム同定を行う。
【0079】
図19は、漏電同定部33のEQL(漏洩電流模擬回路)正規化部131及びAMP(n)部132の説明図であり、133〜134は乗算器、136は二乗回路、137は除算回路及び平方根回路、138,139は加算器、140は乗算器、141は遅延回路(T)、142,143はリミッタ(LM)、144は除算回路を示す。EQL正規化部131は、LPFnの正規化同様、EQLnの複素共役演算により、半径1.0のベクトルに正規化した信号を求め、EQLn出力に乗算することで、EQLN(n)を出力する。
【0080】
又AMP(n)部132は、各EQLNnの出力が基準値であるLPFAnと一致するように補正を行う。これは、基準電圧発生源から半径1.0で回転するベクトル値として出力しており、EQL部でn次高調波の次数nが大きくなるほど1/nに低下すべく高調波のパワー減衰を考慮しているが、実際問題、このパワー減衰が想定パワー減衰よりも小となった場合に、この補正を行うものである。この為、通常のAGC回路と同様の補正回路となっている。なお、乗算器133に除算回路144の出力Aを入力して、EQL(n)に乗算する構成を、複数段設けて、粗調整と微調整とを行う構成とすることも可能である。又は、n次高調波の歪み度合いに応じて、基本波と基本波以外のパワー比が大きく異なってくること、並びに、基本波以外のパワー値は、一括制御しても特に問題はないこと等から、AMP(1)を独立させ、AMP(2)〜AMP(n)を一括して共通制御することも可能である。
【0081】
図20は、誤差抽出部4(図9参照)の説明図であり、基準値抽出部23のLPF正規化部(図14参照)からのLPF正規化出力(n)(基本パターン)と、AMP(n)部132(図19参照)からの出力AMP(n)(出力パターン)との差分を求めて、漏電同定部33のEQL補正1(図9参照)に入力する。この誤差抽出部4からの誤差抽出出力(n)が最小となるように、システム同定を行う。この場合の基本アルゴリズムとして、最小二乗法を適用することができる。なお、(n)は、一次〜n次の1〜nを示す。
【0082】
図21は、漏電同定部33(図9参照)のEQL補正1,SEL3/PN発生,EQL補正2として示す補正手段の説明図であり、EQL(漏洩電流模擬回路)補正部151と選択部152とEQL(漏洩電流模擬回路)補正部153とのそれぞれ要部を示す。なお、3相のa相、b相、c相対応の構成を有するものであり、a相対応の構成のみを示し、EQL補正部153から、EQLRa,EQLCaを出力しているが、b相及びc相対応のEQLRb,EQLCb,EQLRc,EQLCcを出力するものである。又a相対応にCNTRa,CNTCaを入力しているが、b相及びc相対応にCNTRb,CNTCb,CNTRc,CNTCcを入力する構成を有するものである。又154は複素共役演算部、155,156は乗算器、157は選択部、158は選択パターン発生部、159は加算器(Σ)、160は乗算器、161は加算器、162はリミッタ(LM)、163は遅延回路(T)を示す。
【0083】
LPFn出力(n次高調波信号)は、線スペクトラムであり、抽出後は固定パターンとなる。一般に、システム同定は、基準値と、推定値との誤差が最小となるように、具体的には、エラーの相関がなくなるように、システム同定を行うのが一般的である。然し、LPFn信号(n次高調波信号)を用いる場合には、固定パターンとなる為、極めて、基準信号そのものに相関性が高い。従って、システム同定を行う場合には、これらの信号を無相関にしてやる必要がある。具体的には、各次数のエラーの内、n次のエラーをランダムに選択可能な選択回路を設ける。これにより、基準となるLPFn(n次高調波信号)のスペクトラムはランダムとなり、無相関となる。従って、安定したシステム同定が可能となる。その為に、選択回路157と選択パターン発生部158とを設けて、各相のn次高調波対応の誤差分をランダム的に選択する構成とする。
【0084】
即ち、選択部157は、選択パターン発生部158からのランダム的な選択信号に従ってn次高調波対応に誤差分を選択出力して、EQL補正部153の加算器159に入力する。或いは、総てのスイッチを固定パターン的に選択して、EQL補正部153の加算器159に入力して加算することもできる。それにより、基準信号に対して、無相関な信号とすることができる。従って、選択パターン発生部158は、ランダム的なパターンの選択信号を出力する構成或いは所定の固定的なパターンの選択信号を出力する構成とするものである。
【0085】
又前述のEQL部に、基準電圧発生部32の出力信号が入力され、システム同定した容量性漏洩電流ベクトルと抵抗性抵抗漏洩電流ベクトルとがそれぞれ乗算され、合成の推定n次高調波信号EQL(1)〜EQL(n)が出力される。EQLの等化係数パラメータとして、各相(PH=a,b,c)毎に、
EQL(PH)=EQLR(PH)+jEQLC(PH) ・・・(13)
と表すことができる。
【0086】
又前述のEQL補正の手段は、モデム等に適用されている自動等化技術を応用することができる。即ち、基準値と推定値のエラー信号を位相正規化信号の複素共役で演算し、更に振幅補正の逆数を乗算し、或る一定の制御力を乗算した後、抵抗性成分に関しては、過去の抵抗性成分に、エラーと基準電圧の複素共役を乗算(基準電圧とエラーの相関をなくすように作用)し、抵抗性成分について、最小二乗法を用いてシステム同定補正していくものである。
【0087】
又容量性成分については、
【数2】
に示すものとなる。又抵抗性成分については、基準電圧発生部32からの基準電圧の次数に応じて1/nに低下する為,EQL部(図18参照)に示すように、係数のEQLRa,EQLRb,EQLRcを、1/nの定数を乗算して対応する。容量性成分については、次数の増加に伴う振幅の低下に対して、インピーダンスの低下により相殺されるので、そのままとする。
【0088】
EQLの詳細補正アルゴリズムを次の(15)〜(17)式を基に説明する。
【数3】
【0089】
EQL出力は位相正規化、AMPn回路による振幅補正を行った後、誤差抽出回路に最終出力している為、補正回路ではこの逆を実施する。即ち、誤差抽出部4からのエラー信号に、EQL補正部151の乗算器155により、AMPI(n)(AMP(n)の逆数値)を乗算し、次に、乗算器156により、CJE(n)(CJEの*の*)を乗算し、複素共役逆回転させ、エラーを合成し制御力を乗算してタップ係数補正を実施する。又CNTRa,CNTCaは各種漏電パターンのタップ係数補正の制御力である。
【0090】
タップ係数を補正する際に、例えば、3相3線式ではEQLRa,EQLCa,EQLRc,EQLCcが最終的なタップ係数となる。補正の次数も例えば、一次,三次,五次,七次のみとすれば、これら全ての相関エラーを合成してタップ係数を補正するか、それとも個々の細かい単位で補正を行うことが考えられるが、収束精度の確保と収束時間の確保との相反する要求ポイントとなっている。この為、このエラー合成を最適化することにより、収束速度の改善や精度改善を行うことが可能となる。
【0091】
又選択回路157の選択制御を行う選択パターン発生部158は、前述のように、PNパターン発生又は固定パターン発生の機能を有し、PNパターン発生は、例えば、15ビットを1周期とした擬似ランダム信号によるランダムパターンとすることができる。このランダムパターンはM系列等で発生が容易である。その場合、1をスイッチon,0をスイッチoffとすると、1111(例えば、一次,三次,五次,七次の順)は、全てのスイッチをonとして、エラーを合成してタップ更新を行うものであり、1000(例えば、一次,三次,五次,七次の順)であれば、一次のエラーパスのみ使用してタップ補正を行うものである。漏電同定システムでは相間の相関が高いため、エラー補正の制御力に関しても相関性が大なる制御力となる。これらの制御力の最適値はシミュレーションで求め、先に説明した辞書参照部31の辞書(ROM)に格納しておくことができる。
【0092】
前述のように、ZCTから出力される漏電波形は単一トーン波形の集合体であり、極めて相関性が大なる信号である。このような信号のシステム同定を行う場合には、どこかでランダマイズする回路が必要であり、スペクトラムをフラットにする為にも必要である。このように、スペクトラムをフラットにすることで、システム同定の安定性も高まり高速な収束が可能となる。又、最初の引き込み時には平均的な高速引き込みが可能となるように、固定パターン補正(例えば全n次エラー合成)でもよい。
【0093】
図22は、EQL係数収束特性説明図であり、(A),(B)の縦軸はEQL係数,横軸は補正回数を示し、又(A)は、a相とc相とに容量性漏電があり、且つc相に抵抗性漏電がある場合、(B)は、単相で抵抗性と容量性の両方に漏電ある場合を示している。何れの場合も、約6回程度の補正回数で収束していることが判る。なお、辞書参照部31に保持されている漏電パターンを利用したことにより、EQL係数は、図22の(A)に於いては、Ra及びCaは、0からではなく、約1から出発し、又図22の(B)に於いては、Rcは、約0.5から出発して収束の高速化が可能であることを示している。
【0094】
図23は,Igr判定/タイマ監視部34(図9参照)の説明図であり、171はIGR算出部、172はIGR判定部、173はタイマ監視部、174は設定部、181,182,188,189は乗算器、184は加算器、185,186は二乗回路、187は加算器、190,191は加算器、192,193は連続時間監視部を示す。なお、設定部174は、図9に於ける各種設定/表示制御部5の機能の一部を示す。
【0095】
I0検出部25からの漏電電流の有無を示す検出信号I0DECが無しを示す0の場合、乗算器189の出力信号は0となり、IGR判定部172に於ける判定は行われないことになる。即ち、前述のように、誤動作を防止することができる。又検出信号I0DECが1で,漏電電流有りを示す場合、漏電同定部33のEQL補正部153からの補正された係数EQLRa,EQLRb,EQLRcがIGR算出部171に入力され、それらの位相が異なることから、それらをベクトル合成し、二乗回路185,186によりパワーとして、加算器187により加算してIgr成分を求める。又LPFn正規化回路に於いて合成パワーを正規化しているので、これを元に戻す為に、LPF正規化部(図14参照)からのSYNLPFPを乗算器188に於いて乗算して、元のレベルに戻し、乗算器189を介してIGR判定部172に入力する。
【0096】
IGR判定部172は、設定部174からの注意閾値を加算器190に、警戒閾値を加算器191に入力し、IGR算出部171の出力信号のレベル判定を行う。閾値を超えている場合、タイマ監視部173の連続時間監視部192,193により連続時間の監視を行う。設定部174から設定する時限としては、例えば、10秒とし、連続時間がこの設定した時間を超えると、注意信号又は警戒信号を送出する。この場合の設定時限としては、電力供給システムの構成等に従って、更に長い時限とすることも可能である。
【0097】
図34に、n次高調波成分の合成波形説明図であり、n次高調波成分が大なる場合と小なる場合との漏電波形例を示している。3相3線式で、容量性漏洩電流がa相,c相の両方で発生し、且つ抵抗性漏洩電流もa相,c相の両方で発生しており、一方は、n次高調波成分が極めて大で、大きく波形が歪んでいる場合を示し、他方は、n次高調波成分が比較的小さく、波形はあまり歪んでいない場合を示している。この一方の波形と他方の波形とを比較すると、両者は大きく相違する波形となっているが、抵抗性漏洩電流については同じ値の場合を示している。又前述の図6は、実フィールドでの実測波形であるが、n次高調波のレベルは、基本波からすると、約18dB程度低下した波形となっている。
【0098】
図32は、五次高調波を正規化した時の三次及び七次高調波の振幅分布説明図であり、例えば、五次の高調波のレベルを1.0に正規化した場合に於いて、三次と七次とのパワー値を二次元グラフで示すもので、想定される各種の漏電パターンをプロットしたものであるが、漏電パターンにより、三次と七次との振幅座標位置が特定できることを示している。前述の図34に示す一方と他方との波形についてのシミュレーションも同一の結果が得られた。n次高調波のパワーであるが、漏電の量が同じでも、合成パワー値は、漏電システム毎で大きく異なっている。然しながら、パワーを正規化した切り口で見ると、同一の劣化パターンとなっている。従って、安定した漏電検出を行う為には、何らかの正規化手段が有効であることが判る。
【0099】
図33は、三次、五次、七次高調波パワーを正規化した振幅分布説明図であり、基本波を除くn次高調波の合成パワーが1.0になるように正規化し、三次、五次、七次のパワーのパターンを示し、図7と同レベルで各種漏電パターンのパワー値を示す。このようなパターンを、基本パラメータとして辞書に格納することもできる。
【0100】
図30は、基本波と基本波以外のパワー値が大きく変動していることに着目して、基本波を除くパワー値を参照し、このパワー値が1.0となるように、LPF(n)を正規化して、LPFN(n)を得る構成を示す。漏電同定部では、LPF正規化部と同一の処理を必要としているので、図31に示す構成による処理が行われる。
【0101】
図30に於いて,LPF(1)に関して、複素共役演算処理を施して、位相を正規化した後、そのままLPFN(1)として出力し、又Igrの正確なレベル判定を実施する為に、LPF(1)のパワー値を代表するSYNLPFPを出力し、図23に示すIgr判定/タイマ監視部のIGR検出部171に入力する。又基本波以外のLPF(n)は、LPF(1)と同様に位相を正規化するが、同時にパワーを基本波以外のn次高調波のパワーの合成値が1.0となるようにして正規化する。即ち、合成PWRに於ける基本波LPL(1)を除く高調波LPF(k)〜LPF(n)の二乗値を合成部Σで合成した値aを、1/√aとして、基本波以外のLPF(n)の位相正規化出力に乗算して、パワーの正規化を行ってLPFN(n)として出力する。漏電同定部では、このLPFN(n)を用いて同定を行う。
【0102】
図31は、EQL正規化部及びAMPn部の説明図であり、図30と同様な処理を実施しており、EQL(n)は、位相に無関係となるように、位相が正規化された後、基本波を除く合成パワー値が1.0となるように振幅補正されて出力される。又同時に、振幅逆補正の為の補正信号AMPI(n)(ループゲインの一定化を目的)を出力する。EQL(1)は、位相正規化され、そのリアルパートReをEQLN(1)として出力する。同時にそのパワー値を求め、逆数演算して、SYNEQLPの出力信号を得る。EQL出力は合成パワー値が1.0として誤差抽出部4に入力され、個々で、誤差がゼロとなるように係数が補正され、漏電システム同定を行う。この同定した結果で、基本波(一次高調波)の出力を計算し、所望の抵抗性漏洩電流Igrを得ることができる。具体的には、図23に示す構成により求める。
【0103】
又ZCTに相当するものとして、単相2線又は3相3線を同一方向に束ねて、コモンモード電流を検出し、その検出したコモンモード電流を、前述の漏洩電流検出手段により、前述の実施例と同様の処理により、抵抗性漏洩電流を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の原理説明図である。
【図2】警報システムの説明図である。
【図3】ZCTの接続説明図である。
【図4】漏電検出システムの説明図である。
【図5】単相の漏洩電流のシミュレーション波形説明図である。
【図6】漏洩電流スペクトラムの説明図である。
【図7】スペクトラムのパターン説明図である。
【図8】本発明の実施例の説明図である。
【図9】本発明の実施例の詳細なブロック図である。
【図10】キャリア発生部及び復調部の説明図である。
【図11】ローパスフィルタの説明図である。
【図12】I0検出回路の説明図である。
【図13】複素共役回路と周波数変換部との説明図である。
【図14】LPF正規化部の説明図である。
【図15】自己相関演算結果の説明図である。
【図16】辞書参照部の説明図である。
【図17】基準電圧発生部の説明図である。
【図18】EQL部の説明図である。
【図19】EQL正規化部及びAMP(n)部の説明図である。
【図20】誤差抽出部の説明図である。
【図21】補正手段の説明図である。
【図22】EQL係数収束特性説明図である。
【図23】Igr判定/タイマ監視部の説明図である。
【図24】ΔΔ結線の説明図である。
【図25】YY結線の説明図である。
【図26】YY結線(中性点引き出し)の説明図である。
【図27】YΔ結線の説明図である。
【図28】ΔY結線の説明図である。
【図29】VV結線の説明図である。
【図30】LPF正規化部の説明図である。
【図31】EQL正規化部及びAMPn部の説明図である。
【図32】五次高調波を正規化した時の三次及び七次高調波の振幅分布説明図である。
【図33】三次、五次、七次高調波パワーを正規化した振幅分布説明図である。
【図34】n次高調波成分の合成波形説明図である。
【符号の説明】
【0105】
1 ZCT部
2 基本パラメータ抽出部
3 システム同定回路部
4 誤差抽出部
5 各種設定/表示制御部
21 フィルタ部
22 データ取込み部
23 基準値抽出部
24 周波数情報抽出部
25 I0検出部
31 辞書参照部
32 基準電圧発生部
33 漏電同定部
34 Igr判定/タイマ監視部
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気設備管理分野又は電気工事分野に於ける抵抗性漏洩電流を検出する漏洩電流検出装置及び漏洩電流検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種の電力供給設備に於ける3相トランスの一次側と二次側との巻線の接続構成としては、例えば、図24示すΔΔ結線があり、VAB,VBC,VCAは一次側のA相、B相、C相の線間電圧、IA,IB,ICは各相の電流、EU,EV,EWは各相の相電圧、Eu,Ev,Ewは二次側の各相の相電圧、Ia,Ib,Icは各相の電流、Vab,Vbc,Vcaは各相の線間電圧を示す。この場合、(VAB,VBC,VCA)=(EU,EV,EW)、(Vab,Vbc,Vca)=(Eu,Ev,Ew)の関係となる。又一次側の相間電圧VAB,VBC,VCAは、例えば、6.6kV、二次側の相間電圧Vab,Vbc,Vcaは、例えば、200V或いは100Vとした構成が一般的である。
【0003】
又図25は、トランスの一次側と二次側との巻線の接続構成をYY結線の場合を示し、図24と同一符号は同一名称部分を示す。この場合、各相の線間電圧と相電圧とは相違する。又図26は、YY結線の構成に於ける二次側の中性点引き出しによる3相4線式の場合を示し、図24及び図25と同一符号は同一名称部分を示し、Vag,Vbg,Vcgは二次側の各相と中性点との間の電圧を示す。この場合、中性点と各相との間の電圧を単相として供給する構成とすることもできる。
【0004】
又図27は、トランスの一次側をY接続、二次側をΔ接続としたYΔ結線の構成を示し、図24及び図25と同一符号は同一名称部分を示す。又図28は、図27と反対に、トランスの一次側をΔ接続、二次側をY接続とした場合を示す。又図29は、トランスの一次側と二次側とをV接続したVV結線の構成を示す。又二次側の接続構成として、単相3線式の構成があり、相間200Vと100Vとして給電することができる。
【0005】
又トランスの結線構成としては、前述の構成以外に、千鳥結線、スコット結線、ウッドブリッジ結線、変形ウッドブリッジ結線等がある。又トランスの二次側の給電構成としては、3相3線式以外に、単相2線式、単相3線式等があり、何れの結線方式に於いても漏電が発生した場合に、その漏電を迅速に検出することが要望されている。その為の漏電検出手段としては、非活線状態で絶縁抵抗測定を行う方式は、必ずしも活線状態の絶縁状態を反映するものではないので、活線状態に於ける漏洩電流検出方式が適している。活線状態に於ける漏洩電流としては、対地容量を介して流れる容量性漏洩電流と、絶縁劣化等による漏洩抵抗を介して流れる抵抗性漏洩電流とを含むものである。
【0006】
活線状態に於ける漏洩電流検出方式としては、主に、I0(零相電流)方式と、Igr(抵抗性漏洩電流)方式1及びIgr方式2の計3種類が知られている。第一のI0方式は、ZCTと称されるカレントトランスを用いて漏洩電流を検出する方式であり、又第二のIgr方式1は、抵抗性漏洩電流検出方式であるが、特別な発振器を用意して、この発振器からの信号を活線に対して信号注入トランスを介して注入し、その信号を検出する方式である。又Igr方式2は、基準電圧位相を用意することにより、抵抗性漏洩電流を検出する方式である(例えば、特許文献1〜特許文献16参照)。
【特許文献1】実公平6−105276号公報
【特許文献2】特開平6−43196号公報
【特許文献3】特開2001−242205号公報
【特許文献4】特開平5−180885号公報
【特許文献5】実開平6−57037号公報
【特許文献6】特開2000−74979号公報
【特許文献7】特開2002−131362号公報
【特許文献8】特開2001−215247号公報
【特許文献9】特開2001−165971号公報
【特許文献10】特開平8−182179号公報
【特許文献11】特開平8−182180号公報
【特許文献12】特開平10−10184号公報
【特許文献13】特開平10−78462号公報
【特許文献14】特開平10−339757号公報
【特許文献15】実開平7−29477号公報
【特許文献16】特開2002−125313号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電力供給システムに於いては、絶縁不良や地絡等による漏洩電流を迅速に検出して、その漏洩電流による火災事故等を回避することが要望されている。その為の漏洩電流検出には、次のような点を解決することが必要である。
【0008】
先ず、第一の課題は、インバータ機器等による高調波電流が多くなったことによる容量性漏洩電流の増大により、正確な抵抗性漏洩電流が検出できなくなって来ていることである。前述の従来方式の一つであるI0方式では、ZCTからの漏洩電流のトータルを見ている。具体的には、容量性漏洩電流と抵抗性漏洩電流の合成値を見ている。従って、このI0方式では、容量性漏洩電流が増大すると、正確な抵抗性漏洩電流を測定できなくなって来る。背景としては、前述のように、省エネルギー化の進展によるインバータ機器の増大がある。インバータ機器はその装置の特質から、かなりの高周波雑音を発生する。これらの高周波雑音は、対外への放射の最小化の為(VCCI;Voluntary Control Council for Infomationの規制対策の為)、装置と大地間に雑音防止コンデンサを付加することが多い。この為、従来では、電源線の配線ケーブルと大地間とのわずかな静電容量が支配的であった容量性漏洩電流も、インバータ機器等の増大により、著しく増大する傾向となった。結果として、従来のI0方式では、抵抗性漏洩電流の正確な検出が困難な状況となっている。
【0009】
第二の課題は、漏洩電流検出器設置時に停電を伴うことである。従来のI0方式を改善したものとして、Igr方式1がある。このIgr方式1は、専用の発振器を設け、この信号をトランスと大地との間に信号注入する。抵抗性漏洩電流の場合には、同相の漏洩電流が検出されることをポイントとして、正確な抵抗性漏洩電流を検出するものである。しかしながら、この検出器は発振周波数が数10ヘルツ以下の低周波であるため、信号注入用トランスが大きくなる欠点があるばかりでなく、トランスと大地間の接地線に信号を注入しなければならない為、設置時に停電させて工事を行う必要がある。最近では、24時間稼働の設備が多く、停電工事は極めて避けたい項目の一つである。
【0010】
第三の課題は、機器設置時の感電事故防止である。機器設置時に停電工事を避ける方式として、Igr方式2がある。このIgr方式2は、Igr方式1のように信号注入は不要であるが、逆に外部より基準電圧の取り込みが必要である。そして、Igr方式2は、抵抗性漏洩電流検出を行う電源設備から基準電圧の取り込みを行うことにより、基準電圧と同相の成分を抽出して、高精度の抵抗性漏洩電流の検出を可能としている。しかしながら、この基準電圧を外部から装置に取り込む必要がある為、機器設置時に、停電工事を行わない場合は、感電事故を起こす可能性がある。従って、感電事故防止の観点からも、このような外部からの基準電圧の取り込み作業はできれば避けたいものである。
【0011】
第四の課題は、検出器の小型化、簡便性の確保である。抵抗性漏洩電流が発生した時に、各箇所で切り分けを行い、実際の漏電箇所を切り分けていくときに、できれば、手軽な電源線とも接続不要なハンディタイプの小型の検出器が望まれる。従って、例えば、単純にZCTを接続するだけで、或いは、ZCTを該当個所にタッチするだけで、検出を可能としたいものである。即ち、検出器は電池等の動作電源で動作するものが望ましい。
【0012】
第五の課題は、ZCTに接続される対象電路が、図24〜図29に示すように、合計6種、単相2線及び単相3線を加えると計8種類、その他の千鳥結線/スコット結線/ウッドブリッジ結線/変形ウッドブリッジ結線等を加えると、計12種類以上存在することである。このような各種の構成に対しても適用可能であることが望まれる。
【0013】
第六の課題は、処理時間の高速化である。漏電を検出する場合、一般的に検出時限という時間的ガードを設けている。不用意に監視センタ等に不要な漏電発生を通報しないようにする為、並びに必要な情報を確実に通報できるようにする為のものである。これらの時間的ガードは、顧客システムによって異なるから、検出装置としては、設定を設けて最適化している。具体的な検出時限設定値としては、例えば、10秒/30秒/1分/3分/5分/10分等がある。例えば、検出時限を10秒に設定した場合には、連続して10秒間、漏洩電流がある一定値を超えないと通報しないようにしている。又、これらの検出時限精度は±10%程度となっている。この為、検出に必要な処理時間としては、例えば、検出時限設定が10秒の場合には、±1秒程度(幅で2秒以内)の高速な漏洩電流検出処理が必要となる。例えば、1個のMPU(マイクロプロセッサ)で3個のZCTからの信号を処理する場合には、ZCT1個当り、2(秒)/3(個)=0.66(秒)程度の高速且つ高精度の検出が必要となる。一般的に、対象の電路システムを拡大し、更に、高精度を追求すると、処理時間は増大する傾向にあり、これらの処理時間の高速化が解決する課題の一つとなる。
【0014】
本発明は、前述のような電力供給システムに於ける漏洩電流検出に於ける問題点を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の漏洩電流検出装置は、ZCTからの信号を処理して抵抗性漏洩電流を検出する漏洩電流検出装置に於いて、接地線に流れる電流を検出するZCTからの信号を入力し、該信号の周波数情報を抽出して漏電システムの同定に必要な基本パラメータを抽出する基本パラメータ抽出手段と、前記基本パラメータと出力パラメータとの誤差分を抽出する誤差抽出手段と、該誤差抽出手段により抽出した誤差分を零に近づけるように前記出力パラメータを補正処理して漏電経路を含む漏電システムを同定し、抵抗性漏洩電流を推定検出するシステム同定回路手段とを備えている。
【0016】
又基本パラメータ抽出手段は、前記ZCTからの信号の周波数情報を抽出し、該周波数情報に従って前記ZCTからの信号を復調してベースバンドのn次高調波ベクトル信号を生成し、該n次高調波ベクトル信号を位相正規化する手段と、該手段により位相正規化された前記n次高調波ベクトル信号を含む基本パターンを抽出して、前記システム同定手段に入力する構成を有するものである。
【0017】
又基本パラメータ抽出手段の前記位相正規化手段は、前記n次高調波ベクトル信号の位相正規化と、該n次高調波ベクトル信号の合成パワーを所定値になるように制御処理する手段とを含む構成を有するものである。合成パワーに関しては、基本波を含んだ合成パワーを1.0にする場合と、基本波を含まない成分で合成パワーを1.0に正規化する方法があるが、n次高調波成分のエネルギーが、高調波の歪みの度合いによって決定される為、基本波を除く形でn次高調波の合成パワーを計算し、この値を1.0に正規化すると、後段の計算処理が容易となる。
【0018】
又システム同定手段は、n次高調波信号を出力する基準電圧発生部と、該基準電圧発生部からの基準電圧を入力して、前記漏電システムの同定による出力パラメータを前記誤差抽出手段に入力し、前記基本パラメータとの誤差分が最小となるように前記出力パラメータの補正処理を行う漏電同定部とを有するものである。
【0019】
又システム同定手段は、複数の漏電パターンを示すパラメータを保持した辞書参照部と、該辞書参照部からの前記漏電パターンを示すパラメータと前記基本パラメータ抽出手段からの基本パラメータとの誤差が最小となる前記漏電パターンを示すパラメータを、前記漏電同定部からの前記出力パラメータの初期パラメータとして設定する構成を有するものである。この辞書参照のパラメータであるが、基本波を含む場合と含まない場合とが考えられる。基本波を含む場合には、基本波を含む合成パワーが1.0に正規化されたものを用いると良い。又基本波を含まない場合であるが、基本波を含まない合成パワーが1.0になるように正規化されたものを用いると良い。又は、例えば、五次のパワーを1.0に正規化した信号を入力する場合も考えられる。何れにせよ、重要なのは、できるだけ、本質的なパラメータに集約して辞書の大きさを必要最小限にすることである。
【0020】
又辞書参照部は、予め格納した前記漏電パターンを示すパラメータと共に、前記漏電同定部により同定収束したパラメータを格納する構成を有するものである。
【0021】
又システム同定手段の前記漏電同定部は、前記誤差抽出手段による誤差分を前記n次高調波対応に補正処理する補正手段と、該補正手段により補正された前記誤差分と前記基準電圧発生部からのn次高調波信号とを入力する漏電模擬回路と、該漏電模擬回路からの信号を正規化した出力パターンを前記誤差抽出部に入力する漏電模擬回路正規化部とを含む構成を有するものである。
【0022】
又システム同定手段の前記漏電同定部は、抵抗性漏電係数にn次高調波信号の次数に従って減少する係数を乗算し、容量性漏電係数に定数1を乗算する構成を含むものである。
【0023】
又システム同定手段の前記漏電同定部は、前記誤差抽出手段による誤差分のn次高調波成分をランダム的に選択して、又は漏電パターンに最適な固定的なパターンで選択して、相関性を最小とする補正手段を有するものである。
【0024】
又本発明の漏洩電流検出方法は、ZCTからの信号を処理して抵抗性漏洩電流を検出する漏洩電流検出方法に於いて、接地線に流れる電流を検出するZCTからの信号を入力し、該信号の周波数情報を抽出し、該周波数情報を基に漏電システムの同定に必要な基本パラメータを抽出し、該基本パラメータと出力パラメータとの誤差分が最小となるように前記出力パラメータの補正処理を行って漏電経路を含む漏電システムの同定を行い、該漏電システムの同定収束により、抵抗性漏洩電流を検出する過程を含むものである。
【0025】
又ZCTからの信号を基準周波数により復調して複素共役演算によりベクトル信号とし、該ベクトル信号を変換処理して前記ZCTからの信号の周波数情報を求め、該周波数情報に従って前記ZCTからの信号を復調してn次高調波信号成分を求め、該n次高調波信号成分を正規化して前記基本パラメータとする過程を含むものである。
【0026】
又基準電圧発生部からのn次高調波信号に係数を乗算し、且つ補正処理を行った前記出力パラメータと、前記基本パラメータとの誤差分を抽出し、該誤差分が最小となるように前記出力パラメータの前記補正処理を行って、前記漏電システムの同定を行う過程を含むものである。
【0027】
又辞書参照部からの複数の漏電パターンを示すパラメータを、前記基準電圧発生部からのn次高調波信号に乗算する係数の初期値として、前記漏電システムの同定を行う過程を含むものである。
【0028】
又基本パラメータと前記出力パラメータとの誤差分のn次高調波成分について、ランダム的に選択して合成して相関性を最小とする補正処理を行う過程を含むものである。
【発明の効果】
【0029】
ZCTからの信号を入力して、その信号の周波数情報を求め、その信号に含まれるn次高調波信号による基本パターンを求め、この基本パターンとの誤差分が最小となる出力パターンが得られうるように、漏電経路を含む漏電システム同定を行って、抵抗性漏洩電流を検出するものであり、従って、第一に、容量性漏洩電流が大きい電力供給システムに於いても、正確に抵抗性漏洩電流を検出することができる。第二に、漏洩電流検出の為に、停電工事が不要である。第三に、電力供給システムからの基準電圧の取り込みが不要であるから、設置工事を行う時の感電事故が生じない。第四に、マイクロプロセッサ等の演算処理機能により実現可能であるから、電池を動作電源として動作可能であり、小型化により携帯も容易となる。第五に、電力供給システムの周波数を自動的に認識し、3相3線式は勿論のこと、3相4線式や単相3線式、単相2線式等の総ての電力供給システムの抵抗性漏洩電流検出に適用可能である。第六に、漏電システム同定の高速な収束が可能であるから、抵抗性漏洩電流の高速検出が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の漏洩電流検出装置は、図1を参照すると、ZCT1〜ZCTmを含むZCT部1からの信号を処理して抵抗性漏洩電流を検出する漏洩電流検出装置に於いて、接地線に流れる電流を検出するZCTからの信号を入力し、この信号の周波数情報を抽出して漏電システムの同定に必要な基本パラメータを抽出する基本パラメータ抽出手段(基本パラメータ抽出部2)と、この基本パラメータ抽出手段からの基本パラメータと出力パラメータとの誤差分を抽出する誤差抽出手段(誤差抽出部4)と、この誤差抽出手段により抽出した誤差分を零に近づけるように、出力パラメータを補正処理して漏電経路を含む漏電システムを同定し、抵抗性漏洩電流を推定検出するシステム同定回路手段(システム同定回路部3)とを備えている。
【0031】
又本発明の漏洩電流検出方法は、ZCTからの信号を処理して抵抗性漏洩電流を検出する漏洩電流検出方法に於いて、接地線に流れる電流を検出するZCT(ZCT部1)からの信号を入力し、この信号の周波数情報を抽出し、この周波数情報を基に漏電システムの同定に必要な基本パラメータを、基本パラメータ抽出手段(基本パラメータ抽出部2)により抽出し、この基本パラメータと出力パラメータとを誤差抽出手段(誤差抽出部4)により比較して、その比較結果の誤差分が最小となるように、システム同定手段(システム同定回路部3)により、出力パラメータの補正処理を行って漏電経路を含む漏電システムの同定を行い、この漏電システムの同定収束により、抵抗性漏洩電流を検出する過程を含むものである。
【実施例1】
【0032】
図1は、本発明の原理説明図であり、m個のカレントトランス構成の零相電流検出トランス(以下ZCTと称する)ZCT1〜ZCTmを含むZCT部1の出力信号を入力する基本パラメータ抽出手段としての基本パラメータ抽出部2と、この基本パラメータ抽出部2により抽出した基本パラメータを入力するシステム同定手段としてのシステム同定回路部3と、誤差抽出手段としての誤差抽出部4と、各種設定/表示制御部5とを有し、電力供給システムに於ける複数のトランスの二次巻線と接地との間の接地線にそれぞれZCT1〜ZCTmを設けて、接地線に流れる電流を検出するZCT1〜ZCTm対応に、抵抗性漏洩電流を推定検出する構成を示す。なお、ZCTは1個の場合も含むもので、図示のように、複数のZCTにより得られた信号を入力する場合は、時分割的な処理により抵抗性漏洩電流を推定検出する処理を行うものである。
【0033】
ZCT部1のm個のZCT1〜ZCTmからの出力信号は、基本パラメータ抽出部2に入力され、ZCT部1の出力信号内に含まれているn(=1〜n)次高調波の振幅/位相/周波数情報から、漏電経路を含む漏電システム同定に必要なn次高調波対応のパワーを含む基本パラメータを抽出する。一方、システム同定回路部3は、実際の漏電システムを模擬するものであり、抽出された基本パラメータとシステム同定回路部3に於いて推定した漏電システムによるn次高調波対応のパワーを含む出力パラメータとが一致(誤差抽出手段の出力がゼロ)するように、誤差抽出部4からシステム同定回路部3にフィードバックして係数を補正し、漏電システム同定を行う。この同定した時の係数を用いて、実際にZCTが接続されたシステムで発生している抵抗性漏洩電流を推定検出する。なお、検出出力の検出閾値や検出時限に関しては、各種設定/表示制御部5による各種設定に従って動作させる。以上により、最終的なIgr出力注意/警戒情報を得ることができる。
【0034】
従って、本発明に於いては、基本パラメータ抽出手段(基本パラメータ抽出部2)、システム同定回路手段(システム同定回路部3)、誤差抽出手段(誤差抽出部4)を設けて、ZCTから入力された信号を基に、基本パラメータ抽出手段(基本パラメータ抽出部2)により抽出したn次高調波パワーを含む基本パラメータと、システム同定手段(システム同定回路部3)により同定した出力パラメータとが一致するように、漏電システム同定を行い、この漏電システム同定収束時の係数を基に、抵抗性漏洩電流Igrを検出するものである。又各手段の機能は、演算処理機能を有するマイクロプロセッサ等により実現することができる。従って、前述の第一の課題である正確な抵抗性漏洩電流の測定が可能となるばかりでなく、第二の課題である設置工事時の停電が不要、更に、第三の課題である基準電圧位相の取り込みも不要、即ち、感電事故発生を回避可能、更に、第四の課題であるハンディタイプの携帯可能な構成も実現可能、第五の課題である12種以上の各種接続形式の電力供給システムに対しても柔軟に適用可能、第六の課題である処理時間の高速化も可能となる。
【0035】
図2は、本発明を適用することができる警報システムの説明図であり、工場、オフィスビル、学校、病院等の電力需用家13の受電設備(キュービクル)11に警報検出伝送装置12を設け、この警報検出伝送装置12に於いて、異常検出として漏電検出を行った場合に、この検出信号を、例えば、100Vの電灯線(電力線搬送)又は通信線経由で警備室又は事務所15の警報受信通報装置14に伝送し、自動的或いは警備員により、電話網等を介して監視センタ16に漏電発生通知を送出する。警備員による場合は、ファクシミリ装置FAX又は電話等により監視センタ16に漏電発生通知を送出することもできる。監視センタ16に於いては、緊急出動車17等により保守要員等を急行させて、異常発生箇所の修復を図ることができる。
【0036】
図3は,ZCT接続説明図であり、例えば、ΔΔ結線のトランスの二次側のa,b,c相の中のb相を接地し、その接地線に流れる電流を検出する為のZCTを接続した場合を示す。又ra,rb,rcは、対地間等価抵抗、ca,cb,ccは、対地間等価容量を示す。正常時は、対地間等価抵抗ra,rb,rcは大きい値を示し、従って、抵抗性漏洩電流は無視できる程度の小さい値となる。又対地間等価容量ca,cb,ccは、図示を省略している力率改善用コンデンサ等を含むもので、更に、インバータ機器等による高調波成分が多いことにより、容量性漏洩電流は比較的大きい値を示すことになる。そして、各相の抵抗性漏洩電流のベクトル合成した電流と、各相の容量性漏洩電流のベクトル合成した電流とのベクトル和の電流が接地線に流れるので、これをZCTにより検出することになる。このZCTにより検出して、漏洩電流検出装置に入力することにより、漏電経路の状態を含む漏電システム同定を行って、高精度且つ迅速に、抵抗性漏洩電流を推定検出する。
【0037】
図4は、図1に示す本発明の構成を、図3に示す構成に適用した漏電検出システムを示し、例として、a,b,c相の中のb相を接地線により接地し、その接地線にZCTを接続し、c相に地絡障害が発生した場合を示す。従って、c相は、抵抗性漏洩電流Igrが流れる対地間等価抵抗と、容量性漏洩電流Igcが流れる対地間等価容量とが接続され、a相は、対地間等価抵抗は無視できる大きさであるから、図示を省略し、容量性漏洩電流Igcが流れる対地間等価容量のみを図示している。又接地線に流れる電流を検出するZCTからの信号を入力する漏洩電流検出装置は、図1に於ける要部について示すように、ZCTに接続された基本パラメータ抽出部2と、システム同定回路部3と、誤差抽出部4とを含む構成を有し、システム同定回路部3は、漏洩経路を含む漏電システム同定を行うことにより、抵抗性漏洩電流Igrを検出する。
【0038】
又単一のZCTを漏洩電流検出装置に接続した場合を示すが、図1に示すように、複数の電力供給システム対応のZCTを接続することも可能である。又ZCTに近い位置に漏洩電流検出装置を配置した場合を示すが、この漏洩電流検出装置を遠隔地に配置し、ZCTとは各種の伝送方式で知られているネットワークを介して接続することも可能である。又有線ネットワークのみでなく、無線ネットワークを介して接続することも可能である。それぞれのネットワークを介してZCTからの信号を伝送する場合、ZCT対応のアドレス付け等により、伝送方式に従ったフォーマットに従って漏洩電流検出装置に伝送し、漏洩電流検出装置は、それぞれのZCTを識別して、ZCT対応の電力供給システムの抵抗性漏洩電流を検出することもできる。
【0039】
図5は、単相の場合の抵抗性漏洩電流が2、容量性漏洩電流が2の比率の場合の漏洩電流波形をシミュレーションにより求めた波形を示し、50Hzの3サイクル分であるが、高調波成分が多く、基本周波数の正弦波からは大きく歪んだ波形となる。
【0040】
図6は、漏洩電流スペクトラムの説明図であり、横軸は周波数[Hz]、縦軸はパワー[dBm]を示し、50Hzの配電地域に於ける0〜500Hzについてのスペクトラムを示す。即ち、50Hzの整数倍の高調波成分が含まれていることが判る。
【0041】
図7は、一次、三次、五次、七次の高調波成分のスペクトラムについて、地絡パターンの種別対応の一例を示すもので、(a)(‘0200)は、単相で容量性漏洩電流のみの場合、(b)(’1200)は、単相で容量性漏洩電流に抵抗性漏洩電流が加わった場合、(c)(‘0202)は、3相3線式で容量性漏洩電流のみの場合、(d)(’1202)は、3相3線式のa相で抵抗性漏洩電流が加わった場合、(e)(‘0212)は、3相3線式で容量性漏洩電流がa相、c相で発生し、且つc相で抵抗性漏洩電流が発生した場合をそれぞれ示している。又縦軸は、合成パワーを1.0に正規化した一次/三次/五次/七次の高調波のパワーを示している。即ち、各種漏電パターンにより漏洩電流波形が微妙に異なり、且つ、スペクトラムが微妙に異なった形となっている。従って、ZCTからの信号に含まれるn次高調波成分のパワーのパターンにより、抵抗性漏洩電流が含まれているか否かを判定することもできる。
【0042】
図8は、図1の各部の内部構成を示す本発明の実施例の説明図であり、図1と同一符号は同一部分を示す。図8に於いて、21はフィルタ部、22はデータ取込み部、23は基準値抽出部、24は周波数情報抽出部、25はI0検出部、31は辞書参照部、32は基準電圧発生部、33は漏電同定部、34はIgr判定/タイマ監視部を示す。ZCT部1は、m個のZCT1〜ZCTmからなる場合を示し、それぞれの出力信号はフィルタ部21により不要な成分が除去される。そして、データ取込み部22により必要なデータが取り込まれる。これらのデータは周波数が50Hz/60Hzと地域により異なる為、周波数情報抽出部24により、電源周波数が何Hzなのかを自動的に且つ正確に抽出する。基準値抽出部23は、周波数情報抽出部24により抽出した電源周波数を基本周波数としたn次高調波の周波数を生成して、ZCT部1からの信号に含まれるn次高調波対応のパワーを求めて、これを基本パターンとする。この基本パターンとしてのn次高調波パワーを正規化したLPF正規化出力をシステム同定回路部3と誤差抽出部4とに入力し、又n次高調波パワーを示す逆LPF正規化出力又は一次(基本波)のパワー値をシステム同定回路部3のIgr判定/タイマ監視部34に入力する。
【0043】
I0検出部25は、周波数情報抽出部24内の信号を用いて、I0(容量性と抵抗性と漏洩電流の合成波形の零相電流;なお、零相電流は、3相中性点に流れる電流として知られているが、電源線と接地との間に流れる電流を示す)を検出する回路であり、検出出力信号I0DECをIgr判定/タイマ監視部34に入力し、この検出出力信号I0DECが、I0(零相電流)所定値以下を示す場合には、その後のIgr判定を停止させて、抵抗性漏洩電流検出処理の誤動作を防止する。又基準値抽出部23は、漏電システムを同定する為に必要な基本パラメータを抽出し、LPF正規化出力及びLPF逆正規化出力として示すように出力する。これらの基本パラメータのみを用いて、漏電経路を含む漏洩システム同定を行うこともできるが、同定収束を迅速化する為に、辞書参照部31を用いて、この辞書参照部31で保持している各種漏電パターンのどれに最も近いかを判断し、最も近い漏電パターンの情報を初期値の係数として、漏電同定部33の同定パラメータの初期化を行う。又は過去に漏電システム同定を行った時の同定パラメータを記憶しておいて、その同定パラメータを初期値とすることもできる。
【0044】
又システム同定回路部3では、実際の漏電システムを仮想的に模擬して構築する為、システム同定回路3内にn次高調波を含む基準電圧を発生させる基準電圧発生部32を設けている。この基準電圧発生部32及び漏電同定部33により、実際の漏電システムを同定する。具体的には、この漏電同定部33で同定したパラメータと基準値抽出部23で抽出した基本パラメータとの誤差(誤差抽出部4で抽出)が、零に近づくように漏電同定部33の同定を行う。最終的にシステム同定した時の係数を基に、Igr成分を算出し、Igr判定/タイマ監視部34に於いて所定の閾値で判定した後、設定した時間継続するか否かの時間監視を行って、Igr出力を漏電検出信号として送出する。
【0045】
図9は、本発明の実施例の詳細なブロック図を示し、図8と同一符号は同一部分を示す。基本パラメータ抽出部2のフィルタ部21は、終端回路1〜終端回路mと、選択回路SEL1と、ゲイン切替部GSWと、ローパスフィルタLPFとを有し、ZCT部1の各ZCT1〜ZCTmは、終端回路1〜終端回路mにより所定のインピーダンスで終端され、電圧値として選択回路SEL1に入力する。選択回路SEL1は、漏洩電流検出対象のZCTを選択するもので、例えば、3個のZCTの選択を行う場合に、0.6秒単位で順次選択することができる。又1個のZCTの場合には、選択回路SEL1は省略或いは固定的な選択状態とすることができる。
【0046】
又ゲイン切替部GSWは、選択回路SEL1により選択されたZCTの出力信号に対する増幅ゲインを切替える可変利得増幅器に相当する。ZCTの出力信号は、例えば、50mA〜800mA程度の広い範囲に相当するもので、所定のダイナミックレンジを確保する為に、選択回路SEL1により順次選択されたZCTの出力信号に対する増幅ゲインを切替える。選択回路SEL1とゲイン切替部GSWとは、データ取込み部22のアナログ制御部により制御される。
【0047】
このデータ取込み部22は、AD変換器A/Dと、オフセット除去回路Offsetと、バッファBUFFと、アナログ制御部とを含む構成を有し、又周波数情報抽出部24は、キャリア発生部CRR0と、復調部DEMOと、ローパスフィルタLPF0と、複素共役回路と、周波数変換部と、キャリア発生部CRRnとを含む構成を有する。又I0検出部25は、パワー算出部PWRと判定部とを含む構成を有し、基準値抽出部23は、復調部DEM1〜DEMnと、ローパスフィルタLPF1〜LPFnと、LPF正規化部とを含む構成を有する。
【0048】
データ取込み部22のオフセット除去回路Offsetは、AD変換器A/Dにより変換されたZCT1〜ZCTm対応のディジタル信号に、それぞれ直流オフセット成分が含まれているから、この直流オフセット成分を算出し、直流オフセット成分が零となるように処理して、バッファBUFFに一旦蓄積する。それにより、ディジタル演算処理による抵抗性漏洩電流検出精度を一層向上することができる。そして、バッファBUFFから読出して、アナログ制御部と、基準値抽出部23の復調部DEM1〜DEMnと、周波数情報抽出部25の復調部DEM0とに入力する。
【0049】
アナログ制御部は、選択回路SEL1により選択したZCTからの信号レベルに対して、バッファBUFFに入力された信号レベルが所定範囲の下限値より低い時、ゲイン切替部GSWのゲインを上昇させ、反対に、所定範囲の上限を超える時、ゲイン切替部GSWのゲインを低下させるように、ゲインの切替えの制御を行う。なお、バッファBUFFに入力される信号レベルが常に所定の範囲内の場合には、ゲイン切替部GSWのゲインを予め設定した値として、自動ゲイン切替えの制御構成を省略することも可能である。又AD変換器A/Dのダイナミックレンジが広い場合も同様である。
【0050】
図10は、キャリア発生部CRR0及び復調部DEM0〜DEMnの説明図であり、周波数情報抽出部24のキャリア発生部CRR0は、ZCTからの信号の基本波の周波数が未知であるが、電力供給システムに於ける基本周波数は、一般的には、50Hz又は60Hzであるから、例えば、その中間の55Hzの周波数のキャリア発生を行う為のデータをROMに格納した構成とすることができる。この場合のROM格納データは、半径1の55Hzでベクトル回転することを示す(cos(2π55(Hz)t)−jsin(2π55(Hz)t))とすることができる。
【0051】
又周波数情報抽出部24及び基準値抽出部23の復調部DEM0〜DEMnは、入力信号に、高調波の次数をnとして、cos(nω)を乗算してリアルパートの復調出力(DEM出力)を得る乗算器と、−sin(nω)を乗算して、イマジナリパートの復調出力(DEM出力)を得る乗算器とを含み、周波数情報抽出部24に於いては、バッファBUFFからの信号が復調部DEM0に対するDEM入力となり、キャリア発生部CRR0からのキャリアcos(2π55(Hz)t)−jsin(2π55(Hz)t)のcos(2π55(Hz)t)と、sin(2π55(Hz)t)とを、点線矢印で示す経路により、それぞれの乗算器に入力し、復調出力信号を、ローパスフィルタLPF0を介して、複素共役回路と、I0検出部25のパワー算出部PWRとに入力する。
【0052】
又基準値抽出部23の復調部DEM1〜DEMnにつては、バッファBUFFからの信号がそれぞれのDEM入力となり、周波数情報抽出部24のキャリア発生部CRRnからの次数対応のキャリア(後述のように、抽出した電源周波数に同期したn次高調波信号;cos(nω)、−sin(nω))を復調用として乗算器に入力する。それにより、n次高調波信号対応の復調出力信号は、同期検波と同様に、ZCTからの信号に含まれているn次高調波成分を示し、それぞれローパスフィルタLPF1〜LPFnを介してLPF正規化部に入力する。
【0053】
図11は、前述のローパスフィルタLPF0〜LPFnの構成の一例を示すもので、単位時間の遅延回路Tと、入力信号及び遅延回路Tを介した信号に係数ω0〜ωkをそれぞれ乗算する乗算器と、加算器Σとを含み、トランスバーサル型のFIRフィルタの構成を示すものである。例えば、周波数情報抽出部24のローパスフィルタLPF0は、55Hz近辺以外の不要な成分は除去したい為、帯域幅として55Hz±25Hz程度とすることになる。他のローパスフィルタLPF1〜LPFnも同様にn次高調波対応の帯域として、カットオフ周波数をn次高調波周波数に対して±25Hz程度に設定し、不要な高調波信号は除去する。周波数情報抽出部24に於けるキャリア発生部CRR0と、復調部DEM0と、ローパスフィルタLPF0とにより、30Hz〜80Hz間の周波数の抽出を可能とすることができる。従って、50Hz/60Hzの周波数同期が確立する前でも、漏電信号の抽出を可能としている。
【0054】
図12は、I0検出回路25の説明図であり、パワー算出部PWRと判定回路とを含み、ローパスフィルタLPF0を介した復調信号を入力し、パワー算出部PWRにより、その復調信号を二乗してパワーを求め、判定回路の演算部により、パワーと、予め設定した値REFとの差を求め、極性判定部に於いて、極性が負であれば、漏電電流有り(I0DEC=1.0)を示し、極性が正であれば、漏電電流無し(I0DEC=0.0)を示す検出信号I0DECを出力し、Igr判定/タイマ監視部34のIgr算出LPF逆正規化部(図9参照)に入力する。この場合、漏電電流無しの検出信号I0DECの場合は、誤動作を防止する為に、Igr判定/タイマ監視部34以降の抵抗性漏洩電流検出処理は行わない。
【0055】
図13は、周波数情報抽出部24に於ける複素共役回路と周波数変換部との説明図であり、ローパスフィルタLPF0の出力信号を複素共役入力として、乗算器と遅延回路とに入力する。この場合、AD変換器A/Dにより変換されたサンプリング間隔の信号を、バッファBUFFを介して、更に、復調部DEM0、ローパスフィルタLPF0を介して複素共役回路に、複素共役入力して示すように入力する。この時間差を有する信号を、それぞれ、LPF01,LPF02とすると、複素共役出力Yは、
Y=LPF02×(LPF01)* ・・・(1)
と表すことができる。なお、*印は複素共役演算を示す。
【0056】
この複素共役出力Yは、AD変換器A/Dに入力された信号の周波数が55Hzより高い場合、反時計方向にシフトするベクトルとなり、反対に、55Hzより低い場合、時計方向にシフトするベクトルとなる。このベクトル信号を点線矢印で示すように、周波数情報抽出入力として、周波数変換部に入力する。
【0057】
具体的には、取り込んだ漏洩電流を任意の時間間隔をもって、任意の復調周波数fDEMで検波し、2つの位相ベクトルを抽出する。更に、前処理で得られた2つの位相ベクトルから、任意の時間間隔の位相差を抽出することにより、復調周波数と取り込み電流の周波数との差を抽出する。
【0058】
取り込んだ漏洩電流の周波数をfAC、任意の復調周波数をfDEM、取り込んだ漏洩電流の周波数と任意の復調周波数の偏差をΔfとすると、
fAC=fDEM+Δf ・・・(2)
となる。
【0059】
任意に定めた復調周波数fDEMと前処理で求めたΔfとの2つの周波数情報により、複数の復調の為の周波数を生成する。一次の周波数fDEM1、三次の周波数fDEM3、五次の周波数fDEM5、七次の周波数fDEM7とした時、次式により求められる。
fDEM1=fDEM+Δf
fDEM3=3×(fDEM+Δf)
fDEM5=5×(fDEM+Δf)
fDEM7=7×(fDEM+Δf)
従って、n次高調波の周波数についての一般式は、
fDEMn=n×(fDEM+Δf) ・・・(3)
と表すことができる。
【0060】
複素共役出力を周波数情報抽出入力とする周波数情報抽出回路は、ベクトル情報→Δθ変換回路と、Δθ+55Hz加算MOD回路からなる周波数情報抽出回路と、キャリア発生部CRRnとを含み、複素共役回路からの複素ベクトル情報(X+jY)を、ベクトル情報→Δθ変換回路に入力して、tan−1関数を用いて、角度情報Δθ(Δfの周波数情報に比例)に変換する。そして、キャリア発生部CRR0で発生させた55Hzの角度情報に加算(周波数加算)し、毎サンプル毎の回転角度情報を求め(±180度mod加算)、キャリア発生部CRRnからのキャリアにより、所望の周波数情報抽出出力(CRRnの回転ベクトル信号=(cos(nωt)−jsin(nωt)))を得ることができる。
【0061】
尚、周波数情報抽出回路は、他の構成とすることも可能であり、例えば、複素共役信号(X+jY)をアドレス変換(上位X+下位Y)し、予めアドレスと周波数との関係を格納したROM等のメモリをアクセスして所望の周波数情報(例えば、51.1Hz,60.3Hz等)を得る構成とすることもできる。又は、この周波数情報変換は、複素共役回路の出力を半径1.0のベクトル情報に変換して、そのイマジナリ成分のみを用い、ROMで所望の周波数情報に変換する構成とすることもできる。更に、PLL回路を用いて、いきなり周波数算出を行ってもよい。
【0062】
図14は、基準値抽出部23のLPF正規化部の説明図であり、101はパワー合成部、102は逆変換部、103は二乗部、104は除算部、105は平方根部、106〜109は乗算器を示す。ローパスフィルタLPF1〜LPFnの出力信号をパワー合成部101に入力して、二乗した後、加算(Σ)して、全体のパワーaを求め、これをSYNLPFPとして出力すると共に、逆変換部102に於いて、1/√aの処理により、パワーを求める前のレベルとして、ローパスフィルタLPF1〜LPFnの出力信号に乗算器106に於いて乗算し、正規化する。なお、乗算器106に入力するLPF(n)は、簡略化の為に、代表として示しており、図示の構成をローパスフィルタLPF1〜LPFn対応に備えている。
【0063】
次に、位相の正規化を行う為に、二乗部103により二乗してR2とし、これをLPFA(n)として出力すると共に、除算部104に於いて1/R2=bとし、これを乗算器109に入力して制御力αを乗算してLPFAI(n)として出力する。又平方根部105に於いて、√b=1/R=LPFAIS(n)として乗算器107に入力し、この乗算出力を乗算器108に入力して複素共役演算を行って、そのリアルパートReを、レベルと位相とを正規化した信号LPFN(n)(図8に於けるLPF正規化出力)として、誤差抽出部4と、辞書参照部31と、漏電同定部33とに入力する。
【0064】
漏電信号同定で重要な基本パラメータとは何かについて説明する。漏電波形は図5に示すように極めて複雑な波形を示しているが、電源周波数での繰り返し波形であることは明確である。抵抗性漏洩電流検出には、基準の電圧位相が極めて重要であるが、AD変換器A/Dに入力された漏電電流の波形は、前述のように、複雑で、基準位相の特定は不可能である。なお、基準位相を特定できたと仮定した場合の漏電システム同定は極めて容易であるが、実際的でない。この為、漏電システム同定では、基準位相に依存しないアルゴリズムの創出が不可欠である。従って、AD変換器A/Dに取り込まれた信号から漏電システム同定に基本となるパラメータは何か、基準位相に振り回されないパラメータは何か、との問題に対しての一つの回答が自己相関系列である。
【0065】
入力信号をf(t)とした場合の自己相関系列A(τ)は、A(τ)=Σ(f(t)×(f(t+τ))*)(*は複素共役演算を示す)となり、例えば、複合性漏電(抵抗性漏電と容量性漏電との複合)、容量性漏電、抵抗性漏電(抵抗性漏電と容量性漏電発生時)の自己相関系列は、図15(A),(B),(C)に示すようになり、それぞれ漏電条件毎に異なった自己相関系列となるが、抽出信号f(t)の切り出し位相によらず一定の値となる。従って、自己相関系列を使用してシステム同定を行えば、基準位相によらないシステム同定が可能である。
【0066】
問題は波形の自己相関演算の積分期間であるが、電源周波数の1周期であることが望ましい。AD変換器A/Dにより変換した波形では、1周期分の切り出しはサンプリングの量子化からも困難であるが、入力された信号に同期をとって、復調部DEM1〜DEMnで復調し、ローパスフィルタLPF1〜LPFnにより不要帯域を除去したベースバンド信号であれば、1周期分の積分は極めて容易であり正確に実現可能である。
【0067】
又AD変換器A/Dに入力される信号のレベルは多種多様であり、これらを基に安定にシステム同定することは困難である。そこで、前述の図14に示すように、合成パワーで漏洩電流のパワーの正規化を実行する。又後述の図30に示すように、基本波を除く漏電システムを同定するのに影響の大なる主要な高調波のパワーを合成することで求めても良い。
【0068】
又自己相関系列演算は、極めて演算量が多く、このような演算処理を導入すると、処理量が飛躍的に増大し、処理時間が長くなる。一方、自己相関系列は入力波形のパワースペクトラムを代表していることはよく知られている。実際問題、パワースペクトラムの場合には、位相の変化の影響を受けないものである。現にローパスフィルタLPF1〜LPFnの出力のベクトル信号に、任意の位相回転を施しても位相回転を施す前の自己相関系列と、位相回転を施した後での自己相関系列は一致している。これは、自己相関演算そのものが、複素共役ベクトルを演算しており、位相成分が消えることによる。従って、ローパスフィルタLPF1〜LPFnの出力信号のパワーをみれば、自己相関演算を行わなくてもよいことを示している。
【0069】
即ち、ローパスフィルタLPF1〜LPFnの出力に各n次の高調波ベクトル信号に半径1.0の複素共役ベクトルを乗算して、位相に無関係な信号とし、これを漏電システム同定用の基準信号とする。同時に、漏電同定部33内の漏洩電流模擬回路EQLの出力にも同様な位相正規化回路を導入して、位相に依存しない出力を得ることにより、これを漏電同定回路の出力(出力パラメータ)とし、誤差抽出部4により基準値(基本パラメータ)との誤差を求め、この誤差が最小となるように漏電システムの同定を実施していく。このような処理を実行することにより、演算量の飛躍的減少が可能となる。
【0070】
図16は、辞書参照部31の説明図であり、誤差算出部111と、パワー算出部112と、パワー値積分部113と、セレクタ114,120(SEL)と、最小値判定部115と、EQL(漏洩電流模擬回路)係数部116と、漏電パターン格納部117と、初期化係数格納部118と、制御係数格納部119とを含む構成を有し、図9に於いては、誤差算出、PWR値積分最小値判定、初期化/制御、SEL2、EQL係数、各種漏電パターン辞書として示す機能を、具体的な構成として示している。
【0071】
漏電パラメータには、例えば、3相3線式の場合でみても、a相漏電、b相漏電、c相漏電、更に容量性漏洩電流、抵抗性漏洩電流、高調波も一次高調波、二次高調波、三次高調波等の多種類となり、このような多数のパラメータで短時間にシステム同定を行うことは極めて困難である。この為、各種の漏電パターンを、辞書としての漏電パターン格納部117に格納し、順次読出した漏電パターンを、セレクタ114を介して誤差算出部111に入力し、基準値抽出部23からのLPF正規化出力、即ち、基準値LPFN(n)との誤差分を求め、パワー算出部112により誤差分のパワーを算出し、パワー値積分部113により積分し、最小値判定部115により誤差分が最小となる漏電パターンを選択する。この場合の誤差算出部であるが、基本波を含む総ての高調波を使用することなく、漏電システムの同定に効果的なn次高調波のみを使用した方が良い。但し、使用する場合には、辞書パターンの最小化を目的に、使用する範囲の高調波群のパワーを、1.0等に正規化して誤差算出すると良い。又基本波を除くn次高調波の合成パワーが1.0となるように、最小値を求める構成とすることもできる。
【0072】
この最小値判定部115は、複数の辞書参照結果から積分誤差が最小となる漏電パターンを選定する為のものである。又セレクタ114(SEL)は固定の複数の辞書パターンと過去に求めた漏電パターン(図示を省略したメモリに格納した漏電パターン)との選択回路であり、EQL係数部116からの係数と、漏電パターン格納部117からの係数とを切替えて、誤差算出部111に入力し、セレクタ120(SEL)は、EQL係数部116からの係数と、初期化係数制御部118からの係数とを切替えて、係数EQLRa,EQLCa,EQLRb,EQLCb,EQLRc,EQLCcを漏電同定部33に入力する。更に、漏洩電流模擬回路EQLの制御力については、例えば、3相3線式では、a相の抵抗性漏電パスと容量性漏電パス、更にc相の抵抗性漏電パスと容量性漏電パスがある為、それぞれ漏電パターンに合致した制御力を持たせ、収束の高速化を図っている。
【0073】
図17は、基準電圧発生部32(図9参照)の説明図であり、3相の一次〜n次の基準電圧VGa(1),VGb(1),VGc(1)〜VGa(n),VGb(n),VGc(n)を発生させる為のROMにより実現した場合を示す。一次のa相を基準電圧位相0度とすると、一次の電圧位相は、(4)〜(6)式に示すものとなり、n次の電圧位相は(7)〜(9)式に示すものとなる。
【数1】
本発明では、基準電圧の振幅の大きさは1.0としてある。これは、一般的に波形が歪むと高調波を発生するが、この高調波は次数に応じてレベルが1/nに減少することが知られている(数学的にも証明可能)。一方、後述するEQL部では、容量性漏洩電流は、周波数に比例(次数に比例)して増大していくが、抵抗性漏洩電流は、次数に反比例して減少していく。これらを考慮し、基準電圧発生部32では、半径1.0のベクトル電圧を基準電圧として出力する。一般に、n次高調波は、時間軸波形がどの程度歪みを受けているかで決定され、最悪状態の歪みでは、基本波を基準として1/nに低下することになるが、最悪でない場合には、数10dB減衰した形で順次低下する現象となる。この場合、高調波は1/nよりゆっくりした減衰カーブで、基本波を除いた形で現れる。従って、より正確な漏電検出をしようとした場合、基本波を除く高調波のパワーが、基本波のパワーと比較してどの程度減少しているかを算出し、この算出度合いに応じて、図17の基準電圧発生部からのn次高調波の基準電圧VGa(1),VGb(1),VGc(1)〜VGa(n),VGb(n),VGc(n)に、周波数特性上の補正を行うこともできる。但し、この差は微々たるものなので、通常は省略しても問題はない。
【0074】
図18は、漏電同定部33(図9参照)のEQL(漏洩電流模擬回路)部の説明図であり、前述の基準電圧発生部32からの一次〜n次の基準電圧VGa(1),VGb(1),VGc(1)〜VGa(n),VGb(n),VGc(n)を入力し、電流パラメータEQLRa(1),EQLRb(1),EQLRc(1)〜EQLCa(n),EQLCb(n),EQLCc(n)を複素乗算し、加算(Σ)して、最終的な所望のEQL(1)〜EQL(n)出力を得る。但し、ここで、n次高調波の次数が増大すると、容量性漏電に関しては、周波数に比例して増大する。一方、抵抗性漏電に関しては、周波数による変化はなく一定、更に、一般に高調波信号は次数に応じて1/nに低減していくため、EQLRa(n)に関しては、係数に1/nを乗算して出力計算を行う。容量性漏洩電流に関しては、特に何もしない。こうすることで、より実際的な漏電システム同定が可能となる。
【0075】
n次高調波の電圧源をV、各相と対地間に存在する負荷のインピーダンスをZ、ZCTに流れる電流をIとすると、I=V/Zとなる。一方、負荷インピーダンスZは、各相と対地間に存在している容量性負荷と、抵抗性負荷との並列接続であるが、周波数をω、容量をC、抵抗をrとすると、容量性負荷に流れる電流Icは、
Ic=V/(1/jωC)=jωCV ・・・(10)
又抵抗性負荷に流れる電流Irは、
Ir=V/r ・・・(11)
となる。従って、最終的にZCTに流れる電流Iは、
I=V(1/r+jωC) ・・・(12)
となる。実際には、電圧源Vがn次高調波基準電圧源である為、又各相(a/b/c相)が存在する為、これら全ての合成ベクトルとなる。
【0076】
抽出目標である抵抗性漏洩電流を得る為には、取り込んだ零相電流成分から、抵抗性漏洩電流成分と容量性漏洩電流成分とに分離して、抵抗性漏洩電流成分を測定する必要がある。又、容量性漏洩電流は、抵抗性漏洩電流の90度進んだ位相である。
【0077】
実際に漏電システムの中で構築される容量性負荷及び抵抗性負荷は、システム同定の容易さの観点から、インピーダンスではなく、アドミッタンスで定義する。アドミッタンスのベクトルと基準となるn次高調波基準電圧源との乗算を行い、合成することで、ZCTから入力された零相電流を推定する。
【0078】
然しながら、上記で推定した零相電流は、あくまでも基準電圧発生部32からのn次高調波基準電圧を基にしている。一方、実際にZCTに接続された漏電システムの基準電圧位相及び振幅は、上記の基準位相及び振幅とは異なるものであり、この振幅差/位相差を補正する必要がある。この為、漏電システム内に位相正規化回路/振幅補正回路を設け、最終的なシステム同定を行う。
【0079】
図19は、漏電同定部33のEQL(漏洩電流模擬回路)正規化部131及びAMP(n)部132の説明図であり、133〜134は乗算器、136は二乗回路、137は除算回路及び平方根回路、138,139は加算器、140は乗算器、141は遅延回路(T)、142,143はリミッタ(LM)、144は除算回路を示す。EQL正規化部131は、LPFnの正規化同様、EQLnの複素共役演算により、半径1.0のベクトルに正規化した信号を求め、EQLn出力に乗算することで、EQLN(n)を出力する。
【0080】
又AMP(n)部132は、各EQLNnの出力が基準値であるLPFAnと一致するように補正を行う。これは、基準電圧発生源から半径1.0で回転するベクトル値として出力しており、EQL部でn次高調波の次数nが大きくなるほど1/nに低下すべく高調波のパワー減衰を考慮しているが、実際問題、このパワー減衰が想定パワー減衰よりも小となった場合に、この補正を行うものである。この為、通常のAGC回路と同様の補正回路となっている。なお、乗算器133に除算回路144の出力Aを入力して、EQL(n)に乗算する構成を、複数段設けて、粗調整と微調整とを行う構成とすることも可能である。又は、n次高調波の歪み度合いに応じて、基本波と基本波以外のパワー比が大きく異なってくること、並びに、基本波以外のパワー値は、一括制御しても特に問題はないこと等から、AMP(1)を独立させ、AMP(2)〜AMP(n)を一括して共通制御することも可能である。
【0081】
図20は、誤差抽出部4(図9参照)の説明図であり、基準値抽出部23のLPF正規化部(図14参照)からのLPF正規化出力(n)(基本パターン)と、AMP(n)部132(図19参照)からの出力AMP(n)(出力パターン)との差分を求めて、漏電同定部33のEQL補正1(図9参照)に入力する。この誤差抽出部4からの誤差抽出出力(n)が最小となるように、システム同定を行う。この場合の基本アルゴリズムとして、最小二乗法を適用することができる。なお、(n)は、一次〜n次の1〜nを示す。
【0082】
図21は、漏電同定部33(図9参照)のEQL補正1,SEL3/PN発生,EQL補正2として示す補正手段の説明図であり、EQL(漏洩電流模擬回路)補正部151と選択部152とEQL(漏洩電流模擬回路)補正部153とのそれぞれ要部を示す。なお、3相のa相、b相、c相対応の構成を有するものであり、a相対応の構成のみを示し、EQL補正部153から、EQLRa,EQLCaを出力しているが、b相及びc相対応のEQLRb,EQLCb,EQLRc,EQLCcを出力するものである。又a相対応にCNTRa,CNTCaを入力しているが、b相及びc相対応にCNTRb,CNTCb,CNTRc,CNTCcを入力する構成を有するものである。又154は複素共役演算部、155,156は乗算器、157は選択部、158は選択パターン発生部、159は加算器(Σ)、160は乗算器、161は加算器、162はリミッタ(LM)、163は遅延回路(T)を示す。
【0083】
LPFn出力(n次高調波信号)は、線スペクトラムであり、抽出後は固定パターンとなる。一般に、システム同定は、基準値と、推定値との誤差が最小となるように、具体的には、エラーの相関がなくなるように、システム同定を行うのが一般的である。然し、LPFn信号(n次高調波信号)を用いる場合には、固定パターンとなる為、極めて、基準信号そのものに相関性が高い。従って、システム同定を行う場合には、これらの信号を無相関にしてやる必要がある。具体的には、各次数のエラーの内、n次のエラーをランダムに選択可能な選択回路を設ける。これにより、基準となるLPFn(n次高調波信号)のスペクトラムはランダムとなり、無相関となる。従って、安定したシステム同定が可能となる。その為に、選択回路157と選択パターン発生部158とを設けて、各相のn次高調波対応の誤差分をランダム的に選択する構成とする。
【0084】
即ち、選択部157は、選択パターン発生部158からのランダム的な選択信号に従ってn次高調波対応に誤差分を選択出力して、EQL補正部153の加算器159に入力する。或いは、総てのスイッチを固定パターン的に選択して、EQL補正部153の加算器159に入力して加算することもできる。それにより、基準信号に対して、無相関な信号とすることができる。従って、選択パターン発生部158は、ランダム的なパターンの選択信号を出力する構成或いは所定の固定的なパターンの選択信号を出力する構成とするものである。
【0085】
又前述のEQL部に、基準電圧発生部32の出力信号が入力され、システム同定した容量性漏洩電流ベクトルと抵抗性抵抗漏洩電流ベクトルとがそれぞれ乗算され、合成の推定n次高調波信号EQL(1)〜EQL(n)が出力される。EQLの等化係数パラメータとして、各相(PH=a,b,c)毎に、
EQL(PH)=EQLR(PH)+jEQLC(PH) ・・・(13)
と表すことができる。
【0086】
又前述のEQL補正の手段は、モデム等に適用されている自動等化技術を応用することができる。即ち、基準値と推定値のエラー信号を位相正規化信号の複素共役で演算し、更に振幅補正の逆数を乗算し、或る一定の制御力を乗算した後、抵抗性成分に関しては、過去の抵抗性成分に、エラーと基準電圧の複素共役を乗算(基準電圧とエラーの相関をなくすように作用)し、抵抗性成分について、最小二乗法を用いてシステム同定補正していくものである。
【0087】
又容量性成分については、
【数2】
に示すものとなる。又抵抗性成分については、基準電圧発生部32からの基準電圧の次数に応じて1/nに低下する為,EQL部(図18参照)に示すように、係数のEQLRa,EQLRb,EQLRcを、1/nの定数を乗算して対応する。容量性成分については、次数の増加に伴う振幅の低下に対して、インピーダンスの低下により相殺されるので、そのままとする。
【0088】
EQLの詳細補正アルゴリズムを次の(15)〜(17)式を基に説明する。
【数3】
【0089】
EQL出力は位相正規化、AMPn回路による振幅補正を行った後、誤差抽出回路に最終出力している為、補正回路ではこの逆を実施する。即ち、誤差抽出部4からのエラー信号に、EQL補正部151の乗算器155により、AMPI(n)(AMP(n)の逆数値)を乗算し、次に、乗算器156により、CJE(n)(CJEの*の*)を乗算し、複素共役逆回転させ、エラーを合成し制御力を乗算してタップ係数補正を実施する。又CNTRa,CNTCaは各種漏電パターンのタップ係数補正の制御力である。
【0090】
タップ係数を補正する際に、例えば、3相3線式ではEQLRa,EQLCa,EQLRc,EQLCcが最終的なタップ係数となる。補正の次数も例えば、一次,三次,五次,七次のみとすれば、これら全ての相関エラーを合成してタップ係数を補正するか、それとも個々の細かい単位で補正を行うことが考えられるが、収束精度の確保と収束時間の確保との相反する要求ポイントとなっている。この為、このエラー合成を最適化することにより、収束速度の改善や精度改善を行うことが可能となる。
【0091】
又選択回路157の選択制御を行う選択パターン発生部158は、前述のように、PNパターン発生又は固定パターン発生の機能を有し、PNパターン発生は、例えば、15ビットを1周期とした擬似ランダム信号によるランダムパターンとすることができる。このランダムパターンはM系列等で発生が容易である。その場合、1をスイッチon,0をスイッチoffとすると、1111(例えば、一次,三次,五次,七次の順)は、全てのスイッチをonとして、エラーを合成してタップ更新を行うものであり、1000(例えば、一次,三次,五次,七次の順)であれば、一次のエラーパスのみ使用してタップ補正を行うものである。漏電同定システムでは相間の相関が高いため、エラー補正の制御力に関しても相関性が大なる制御力となる。これらの制御力の最適値はシミュレーションで求め、先に説明した辞書参照部31の辞書(ROM)に格納しておくことができる。
【0092】
前述のように、ZCTから出力される漏電波形は単一トーン波形の集合体であり、極めて相関性が大なる信号である。このような信号のシステム同定を行う場合には、どこかでランダマイズする回路が必要であり、スペクトラムをフラットにする為にも必要である。このように、スペクトラムをフラットにすることで、システム同定の安定性も高まり高速な収束が可能となる。又、最初の引き込み時には平均的な高速引き込みが可能となるように、固定パターン補正(例えば全n次エラー合成)でもよい。
【0093】
図22は、EQL係数収束特性説明図であり、(A),(B)の縦軸はEQL係数,横軸は補正回数を示し、又(A)は、a相とc相とに容量性漏電があり、且つc相に抵抗性漏電がある場合、(B)は、単相で抵抗性と容量性の両方に漏電ある場合を示している。何れの場合も、約6回程度の補正回数で収束していることが判る。なお、辞書参照部31に保持されている漏電パターンを利用したことにより、EQL係数は、図22の(A)に於いては、Ra及びCaは、0からではなく、約1から出発し、又図22の(B)に於いては、Rcは、約0.5から出発して収束の高速化が可能であることを示している。
【0094】
図23は,Igr判定/タイマ監視部34(図9参照)の説明図であり、171はIGR算出部、172はIGR判定部、173はタイマ監視部、174は設定部、181,182,188,189は乗算器、184は加算器、185,186は二乗回路、187は加算器、190,191は加算器、192,193は連続時間監視部を示す。なお、設定部174は、図9に於ける各種設定/表示制御部5の機能の一部を示す。
【0095】
I0検出部25からの漏電電流の有無を示す検出信号I0DECが無しを示す0の場合、乗算器189の出力信号は0となり、IGR判定部172に於ける判定は行われないことになる。即ち、前述のように、誤動作を防止することができる。又検出信号I0DECが1で,漏電電流有りを示す場合、漏電同定部33のEQL補正部153からの補正された係数EQLRa,EQLRb,EQLRcがIGR算出部171に入力され、それらの位相が異なることから、それらをベクトル合成し、二乗回路185,186によりパワーとして、加算器187により加算してIgr成分を求める。又LPFn正規化回路に於いて合成パワーを正規化しているので、これを元に戻す為に、LPF正規化部(図14参照)からのSYNLPFPを乗算器188に於いて乗算して、元のレベルに戻し、乗算器189を介してIGR判定部172に入力する。
【0096】
IGR判定部172は、設定部174からの注意閾値を加算器190に、警戒閾値を加算器191に入力し、IGR算出部171の出力信号のレベル判定を行う。閾値を超えている場合、タイマ監視部173の連続時間監視部192,193により連続時間の監視を行う。設定部174から設定する時限としては、例えば、10秒とし、連続時間がこの設定した時間を超えると、注意信号又は警戒信号を送出する。この場合の設定時限としては、電力供給システムの構成等に従って、更に長い時限とすることも可能である。
【0097】
図34に、n次高調波成分の合成波形説明図であり、n次高調波成分が大なる場合と小なる場合との漏電波形例を示している。3相3線式で、容量性漏洩電流がa相,c相の両方で発生し、且つ抵抗性漏洩電流もa相,c相の両方で発生しており、一方は、n次高調波成分が極めて大で、大きく波形が歪んでいる場合を示し、他方は、n次高調波成分が比較的小さく、波形はあまり歪んでいない場合を示している。この一方の波形と他方の波形とを比較すると、両者は大きく相違する波形となっているが、抵抗性漏洩電流については同じ値の場合を示している。又前述の図6は、実フィールドでの実測波形であるが、n次高調波のレベルは、基本波からすると、約18dB程度低下した波形となっている。
【0098】
図32は、五次高調波を正規化した時の三次及び七次高調波の振幅分布説明図であり、例えば、五次の高調波のレベルを1.0に正規化した場合に於いて、三次と七次とのパワー値を二次元グラフで示すもので、想定される各種の漏電パターンをプロットしたものであるが、漏電パターンにより、三次と七次との振幅座標位置が特定できることを示している。前述の図34に示す一方と他方との波形についてのシミュレーションも同一の結果が得られた。n次高調波のパワーであるが、漏電の量が同じでも、合成パワー値は、漏電システム毎で大きく異なっている。然しながら、パワーを正規化した切り口で見ると、同一の劣化パターンとなっている。従って、安定した漏電検出を行う為には、何らかの正規化手段が有効であることが判る。
【0099】
図33は、三次、五次、七次高調波パワーを正規化した振幅分布説明図であり、基本波を除くn次高調波の合成パワーが1.0になるように正規化し、三次、五次、七次のパワーのパターンを示し、図7と同レベルで各種漏電パターンのパワー値を示す。このようなパターンを、基本パラメータとして辞書に格納することもできる。
【0100】
図30は、基本波と基本波以外のパワー値が大きく変動していることに着目して、基本波を除くパワー値を参照し、このパワー値が1.0となるように、LPF(n)を正規化して、LPFN(n)を得る構成を示す。漏電同定部では、LPF正規化部と同一の処理を必要としているので、図31に示す構成による処理が行われる。
【0101】
図30に於いて,LPF(1)に関して、複素共役演算処理を施して、位相を正規化した後、そのままLPFN(1)として出力し、又Igrの正確なレベル判定を実施する為に、LPF(1)のパワー値を代表するSYNLPFPを出力し、図23に示すIgr判定/タイマ監視部のIGR検出部171に入力する。又基本波以外のLPF(n)は、LPF(1)と同様に位相を正規化するが、同時にパワーを基本波以外のn次高調波のパワーの合成値が1.0となるようにして正規化する。即ち、合成PWRに於ける基本波LPL(1)を除く高調波LPF(k)〜LPF(n)の二乗値を合成部Σで合成した値aを、1/√aとして、基本波以外のLPF(n)の位相正規化出力に乗算して、パワーの正規化を行ってLPFN(n)として出力する。漏電同定部では、このLPFN(n)を用いて同定を行う。
【0102】
図31は、EQL正規化部及びAMPn部の説明図であり、図30と同様な処理を実施しており、EQL(n)は、位相に無関係となるように、位相が正規化された後、基本波を除く合成パワー値が1.0となるように振幅補正されて出力される。又同時に、振幅逆補正の為の補正信号AMPI(n)(ループゲインの一定化を目的)を出力する。EQL(1)は、位相正規化され、そのリアルパートReをEQLN(1)として出力する。同時にそのパワー値を求め、逆数演算して、SYNEQLPの出力信号を得る。EQL出力は合成パワー値が1.0として誤差抽出部4に入力され、個々で、誤差がゼロとなるように係数が補正され、漏電システム同定を行う。この同定した結果で、基本波(一次高調波)の出力を計算し、所望の抵抗性漏洩電流Igrを得ることができる。具体的には、図23に示す構成により求める。
【0103】
又ZCTに相当するものとして、単相2線又は3相3線を同一方向に束ねて、コモンモード電流を検出し、その検出したコモンモード電流を、前述の漏洩電流検出手段により、前述の実施例と同様の処理により、抵抗性漏洩電流を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の原理説明図である。
【図2】警報システムの説明図である。
【図3】ZCTの接続説明図である。
【図4】漏電検出システムの説明図である。
【図5】単相の漏洩電流のシミュレーション波形説明図である。
【図6】漏洩電流スペクトラムの説明図である。
【図7】スペクトラムのパターン説明図である。
【図8】本発明の実施例の説明図である。
【図9】本発明の実施例の詳細なブロック図である。
【図10】キャリア発生部及び復調部の説明図である。
【図11】ローパスフィルタの説明図である。
【図12】I0検出回路の説明図である。
【図13】複素共役回路と周波数変換部との説明図である。
【図14】LPF正規化部の説明図である。
【図15】自己相関演算結果の説明図である。
【図16】辞書参照部の説明図である。
【図17】基準電圧発生部の説明図である。
【図18】EQL部の説明図である。
【図19】EQL正規化部及びAMP(n)部の説明図である。
【図20】誤差抽出部の説明図である。
【図21】補正手段の説明図である。
【図22】EQL係数収束特性説明図である。
【図23】Igr判定/タイマ監視部の説明図である。
【図24】ΔΔ結線の説明図である。
【図25】YY結線の説明図である。
【図26】YY結線(中性点引き出し)の説明図である。
【図27】YΔ結線の説明図である。
【図28】ΔY結線の説明図である。
【図29】VV結線の説明図である。
【図30】LPF正規化部の説明図である。
【図31】EQL正規化部及びAMPn部の説明図である。
【図32】五次高調波を正規化した時の三次及び七次高調波の振幅分布説明図である。
【図33】三次、五次、七次高調波パワーを正規化した振幅分布説明図である。
【図34】n次高調波成分の合成波形説明図である。
【符号の説明】
【0105】
1 ZCT部
2 基本パラメータ抽出部
3 システム同定回路部
4 誤差抽出部
5 各種設定/表示制御部
21 フィルタ部
22 データ取込み部
23 基準値抽出部
24 周波数情報抽出部
25 I0検出部
31 辞書参照部
32 基準電圧発生部
33 漏電同定部
34 Igr判定/タイマ監視部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZCTからの信号を処理して抵抗性漏洩電流を検出する漏洩電流検出装置に於いて、
接地線に流れる電流を検出するZCTからの信号を入力し、該信号の周波数情報を抽出して漏電システムの同定に必要な基本パラメータを抽出する基本パラメータ抽出手段と、
前記基本パラメータと出力パラメータとの誤差分を抽出する誤差抽出手段と、
該誤差抽出手段により抽出した誤差分を零に近づけるように前記出力パラメータを補正処理して漏電経路を含む漏電システムを同定し、抵抗性漏洩電流を推定検出するシステム同定回路手段と
を備えたことを特徴とする漏洩電流検出装置。
【請求項2】
前記基本パラメータ抽出手段は、前記ZCTからの信号の周波数情報を抽出し、該周波数情報に従って前記ZCTからの信号を復調してベースバンドのn次高調波ベクトル信号を生成し、基本波を除くn次高調波ベクトル信号を位相正規化する手段と、該手段により位相正規化された前記n次高調波ベクトル信号のパワーを含む基本パターンを抽出して、前記システム同定手段に入力する構成を有することを特徴とする請求項1記載の漏洩電流検出装置。
【請求項3】
前記基本パラメータ抽出手段の位相正規化する前記手段は、前記n次高調波ベクトル信号の位相正規化と、該n次高調波ベクトル信号の合成パワーを所定値になるように制御処理する手段とを含む構成を有することを特徴とする請求項1又は2記載の漏洩電流検出装置。
【請求項4】
前記システム同定手段は、n次高調波信号を出力する基準電圧発生部と、該基準電圧発生部からの基準電圧を入力して、前記漏電システムの同定による出力パラメータを前記誤差抽出手段に入力し、前記基本パラメータとの誤差分が最小となるように前記出力パラメータの補正処理を行う漏電同定部とを有することを特徴とする請求項1記載の漏洩電流検出装置。
【請求項5】
前記システム同定手段は、複数の漏電パターンを示すパラメータを保持した辞書参照部と、該辞書参照部からの前記漏電パターンを示すパラメータと前記基本パラメータ抽出手段からの基本パラメータとの誤差が最小となる前記漏電パターンを示すパラメータを、前記漏電同定部からの前記出力パラメータの初期パラメータとして設定する構成を有することを特徴とする請求項1又は4記載の漏洩電流検出装置。
【請求項6】
前記辞書参照部は、予め格納した前記漏電パターンを示すパラメータと共に、前記漏電同定部により同定収束したパラメータを格納する構成を有することを特徴とする請求項5記載の漏洩電流検出装置。
【請求項7】
前記システム同定手段の前記漏電同定部は、前記誤差抽出手段による誤差分を前記n次高調波対応に補正処理する補正手段と、該補正手段により補正された前記誤差分と前記基準電圧発生部からのn次高調波信号とを入力する漏電模擬回路と、該漏電模擬回路からの信号を正規化した出力パターンを前記誤差抽出部に入力する漏電模擬回路正規化部とを含む構成を有することを特徴とする請求項1又は4記載の漏洩電流検出装置。
【請求項8】
前記システム同定手段の前記漏電同定部は、抵抗性漏電係数にn次高調波信号の次数に従って減少する係数を乗算し、容量性漏電係数に定数1を乗算する構成を含むことを特徴とする請求項1又は4記載の漏洩電流検出装置。
【請求項9】
前記システム同定手段の前記漏電同定部は、前記誤差抽出手段による誤差分のn次高調波成分をランダム的に又は固定パターン的に選択して相関性を最小とする補正手段を有することを特徴とする請求項1又は4記載の漏洩電流検出装置。
【請求項10】
ZCTからの信号を処理して抵抗性漏洩電流を検出する漏洩電流検出方法に於いて、
接地線に流れる電流を検出するZCTからの信号を入力し、該信号の周波数情報を抽出し、該周波数情報を基に漏電システムの同定に必要な基本パラメータを抽出し、
該基本パラメータと出力パラメータとの誤差分が最小となるように前記出力パラメータの補正処理を行って漏電経路を含む漏電システムの同定を行い、該漏電システムの同定収束により、抵抗性漏洩電流を検出する過程を含む
ことを特徴とする漏洩電流検出方法。
【請求項11】
前記ZCTからの信号を基準周波数により復調して複素共役演算によりベクトル信号とし、該ベクトル信号を変換処理して前記ZCTからの信号の周波数情報を求め、該周波数情報に従って前記ZCTからの信号を復調してn次高調波信号成分を求め、該n次高調波信号成分を正規化して前記基本パラメータとする過程を含むことを特徴とする請求項10記載の漏洩電流検出方法。
【請求項12】
基準電圧発生部からのn次高調波信号に係数を乗算し、且つ補正処理を行った前記出力パラメータと、前記基本パラメータとの誤差分を抽出し、該誤差分が最小となるように前記出力パラメータの前記補正処理を行って、前記漏電システムの同定を行う過程を含むことを特徴とする請求項10記載の漏洩電流検出方法。
【請求項13】
辞書参照部からの複数の漏電パターンを示すパラメータを、前記基準電圧発生部からのn次高調波信号に乗算する係数の初期値として、前記漏電システムの同定を行う過程を含むことを特徴とする請求項10又は12記載の漏洩電流検出方法。
【請求項14】
前記基本パラメータと前記出力パラメータとの誤差分のn次高調波成分について、ランダム的に選択して合成して相関性を最小とする補正処理を行う過程を含むことを特徴とする請求項10乃至13の何れか1項記載の漏洩電流検出方法。
【請求項1】
ZCTからの信号を処理して抵抗性漏洩電流を検出する漏洩電流検出装置に於いて、
接地線に流れる電流を検出するZCTからの信号を入力し、該信号の周波数情報を抽出して漏電システムの同定に必要な基本パラメータを抽出する基本パラメータ抽出手段と、
前記基本パラメータと出力パラメータとの誤差分を抽出する誤差抽出手段と、
該誤差抽出手段により抽出した誤差分を零に近づけるように前記出力パラメータを補正処理して漏電経路を含む漏電システムを同定し、抵抗性漏洩電流を推定検出するシステム同定回路手段と
を備えたことを特徴とする漏洩電流検出装置。
【請求項2】
前記基本パラメータ抽出手段は、前記ZCTからの信号の周波数情報を抽出し、該周波数情報に従って前記ZCTからの信号を復調してベースバンドのn次高調波ベクトル信号を生成し、基本波を除くn次高調波ベクトル信号を位相正規化する手段と、該手段により位相正規化された前記n次高調波ベクトル信号のパワーを含む基本パターンを抽出して、前記システム同定手段に入力する構成を有することを特徴とする請求項1記載の漏洩電流検出装置。
【請求項3】
前記基本パラメータ抽出手段の位相正規化する前記手段は、前記n次高調波ベクトル信号の位相正規化と、該n次高調波ベクトル信号の合成パワーを所定値になるように制御処理する手段とを含む構成を有することを特徴とする請求項1又は2記載の漏洩電流検出装置。
【請求項4】
前記システム同定手段は、n次高調波信号を出力する基準電圧発生部と、該基準電圧発生部からの基準電圧を入力して、前記漏電システムの同定による出力パラメータを前記誤差抽出手段に入力し、前記基本パラメータとの誤差分が最小となるように前記出力パラメータの補正処理を行う漏電同定部とを有することを特徴とする請求項1記載の漏洩電流検出装置。
【請求項5】
前記システム同定手段は、複数の漏電パターンを示すパラメータを保持した辞書参照部と、該辞書参照部からの前記漏電パターンを示すパラメータと前記基本パラメータ抽出手段からの基本パラメータとの誤差が最小となる前記漏電パターンを示すパラメータを、前記漏電同定部からの前記出力パラメータの初期パラメータとして設定する構成を有することを特徴とする請求項1又は4記載の漏洩電流検出装置。
【請求項6】
前記辞書参照部は、予め格納した前記漏電パターンを示すパラメータと共に、前記漏電同定部により同定収束したパラメータを格納する構成を有することを特徴とする請求項5記載の漏洩電流検出装置。
【請求項7】
前記システム同定手段の前記漏電同定部は、前記誤差抽出手段による誤差分を前記n次高調波対応に補正処理する補正手段と、該補正手段により補正された前記誤差分と前記基準電圧発生部からのn次高調波信号とを入力する漏電模擬回路と、該漏電模擬回路からの信号を正規化した出力パターンを前記誤差抽出部に入力する漏電模擬回路正規化部とを含む構成を有することを特徴とする請求項1又は4記載の漏洩電流検出装置。
【請求項8】
前記システム同定手段の前記漏電同定部は、抵抗性漏電係数にn次高調波信号の次数に従って減少する係数を乗算し、容量性漏電係数に定数1を乗算する構成を含むことを特徴とする請求項1又は4記載の漏洩電流検出装置。
【請求項9】
前記システム同定手段の前記漏電同定部は、前記誤差抽出手段による誤差分のn次高調波成分をランダム的に又は固定パターン的に選択して相関性を最小とする補正手段を有することを特徴とする請求項1又は4記載の漏洩電流検出装置。
【請求項10】
ZCTからの信号を処理して抵抗性漏洩電流を検出する漏洩電流検出方法に於いて、
接地線に流れる電流を検出するZCTからの信号を入力し、該信号の周波数情報を抽出し、該周波数情報を基に漏電システムの同定に必要な基本パラメータを抽出し、
該基本パラメータと出力パラメータとの誤差分が最小となるように前記出力パラメータの補正処理を行って漏電経路を含む漏電システムの同定を行い、該漏電システムの同定収束により、抵抗性漏洩電流を検出する過程を含む
ことを特徴とする漏洩電流検出方法。
【請求項11】
前記ZCTからの信号を基準周波数により復調して複素共役演算によりベクトル信号とし、該ベクトル信号を変換処理して前記ZCTからの信号の周波数情報を求め、該周波数情報に従って前記ZCTからの信号を復調してn次高調波信号成分を求め、該n次高調波信号成分を正規化して前記基本パラメータとする過程を含むことを特徴とする請求項10記載の漏洩電流検出方法。
【請求項12】
基準電圧発生部からのn次高調波信号に係数を乗算し、且つ補正処理を行った前記出力パラメータと、前記基本パラメータとの誤差分を抽出し、該誤差分が最小となるように前記出力パラメータの前記補正処理を行って、前記漏電システムの同定を行う過程を含むことを特徴とする請求項10記載の漏洩電流検出方法。
【請求項13】
辞書参照部からの複数の漏電パターンを示すパラメータを、前記基準電圧発生部からのn次高調波信号に乗算する係数の初期値として、前記漏電システムの同定を行う過程を含むことを特徴とする請求項10又は12記載の漏洩電流検出方法。
【請求項14】
前記基本パラメータと前記出力パラメータとの誤差分のn次高調波成分について、ランダム的に選択して合成して相関性を最小とする補正処理を行う過程を含むことを特徴とする請求項10乃至13の何れか1項記載の漏洩電流検出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【公開番号】特開2006−10432(P2006−10432A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−186185(P2004−186185)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(301022703)株式会社ネットインデックス (16)
【出願人】(300055096)株式会社にちほシンクタンク (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(301022703)株式会社ネットインデックス (16)
【出願人】(300055096)株式会社にちほシンクタンク (1)
【Fターム(参考)】
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